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特許7399837電気車向け電力供給システムおよび電力供給設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】電気車向け電力供給システムおよび電力供給設備
(51)【国際特許分類】
   B60M 3/00 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
B60M3/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020180615
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071575
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮田 博昭
(72)【発明者】
【氏名】今家 和宏
(72)【発明者】
【氏名】柳田 純一
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-093011(JP,A)
【文献】特開平06-284514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と、第1の電力線と、第2の電力線を有し、
前記電源からの高電圧側の出力が、前記第1の電力線と、前記第2の電力線の各々の高電圧側に分岐供給され、
前記電源からの低電圧側の出力が、前記第1の電力線と、前記第2の電力線の各々の低電圧側に分岐供給され、
前記第1の電力線と、前記第2の電力線は、その遠端で接続され、
前記第1の電力線あるいは前記第2の電力線により電気車に電力を供給する電気車向け電力供給システムであって、
前記第1の電力線と、前記第2の電力線は傾斜部に設置され、前記電源から、前記遠端での接続部の間に、相互に接続するバイパス線を有し、
下り線を走行する電気車は抑速に際し発電する抑速ブレーキあるいは回生ブレーキを有し、発電した電力を前記バイパス線を通して上り線を走行する電気車へ供給することを特徴とする電気車向け電力供給システム。
【請求項2】
前記バイパス線の本数が、低電圧側より高電圧側で多く形成されていることを特徴とす
る請求項1記載の電気車向け電力供給システム。
【請求項3】
前記電源が交流であり、前記第1の電力線と前記第2の電力線は架空線として形成され、かつ前記バイパス線の本数が、低電圧側と高電圧側で等しいことを特徴とする請求項1記載の電気車向け電力供給システム。
【請求項4】
電源と、第1の電力線と、第2の電力線を有し、
前記電源からの高電圧側の出力が、前記第1の電力線と、前記第2の電力線の各々の高電圧側に分岐供給され、
前記電源からの低電圧側の出力が、前記第1の電力線と、前記第2の電力線の各々の低電圧側に分岐供給され、
前記第1の電力線と、前記第2の電力線は、その遠端で接続され、
前記第1の電力線あるいは前記第2の電力線により電気車に電力を供給する電力供給設備であって、
前記第1の電力線と、前記第2の電力線は傾斜部に設置され、前記電源から、前記遠端での接続部の間に、相互に接続するバイパス線を有し、
下り線を走行する電気車は抑速に際し発電する抑速ブレーキあるいは回生ブレーキを有し、発電した電力を前記バイパス線を通して上り線を走行している電気車へ供給することを特徴とする電力供給設備。
【請求項5】
前記バイパス線の本数が、低電圧側より高電圧側で多く形成されていることを特徴とす
る請求項記載の電力供給設備。
【請求項6】
前記電源が交流であり、前記第1の電力線と前記第2の電力線は架空線として形成され、かつ前記バイパス線の本数が、低電圧側と高電圧側で等しいことを特徴とする請求項記載の電力供給設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気車向け電力供給システムおよび電力供給設備に関する。
【背景技術】
【0002】
架空電力線より電力供給を受け動力車を駆動する輸送手段が現在広く用いられている。電車、路面電車、トロリーバス等が中心であったが、近年では特許文献1に開示されるように、ダンプトラックにも適用されるに至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-17315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
架空電力線からの電力による電気車は、ループ線を除けば往復で分けて運用される形となる。この際、平坦な路線で運用される場合には、上り側の動力車と下り側の電気車で、電力消費の不均衡は起こりづらいものであった。しかし、一方向に連続する勾配のある地域、例えば山岳地域や露天掘り鉱山の斜面等での運用を主とする場合には、電力をモータで消費し電気車のモータを駆動する上り側と、電力を消費せず自重で下る、あるいは電力回生ブレーキ等で電力をむしろ発生させながら運用する下り側とでは、双方に同じ電力を供給したとしても、上り側は電力が不足し、下り側は電力が過剰となる問題がある。
【0005】
本発明は、上述のかかる課題を改善することを目的し、勾配地域での電気車の電力をより効率的にする手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の好ましい一例としては、電源と、第1の電力線と、第2の電力線を有し、
前記電源からの高電圧側の出力が、前記第1の電力線と、前記第2の電力線の各々の高電圧側に分岐供給され、前記電源からの低電圧側の出力が、前記第1の電力線と、前記第2の電力線の各々の低電圧側に分岐供給され、前記第1の電力線と、前記第2の電力線はその遠端で接続され、該第1の電力線あるいは該第2の電力線により電気車に電力を供給するものであり、前記第1の電力線と、第2の電力線は傾斜部に設置され、前記電源から、前記遠端での接続部の間に、相互に接続するバイパス線を有し、下り線を走行する電気車は抑速に際し発電する抑速ブレーキあるいは回生ブレーキを有し、発電した電力を前記バイパス線を通して上り線を走行する電気車へ供給することを特徴とする電気車向け電力供給システムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、勾配地域での電気車の電力を高効率にすることができる。
【0008】
本発明による更なる効果は、以下明細書全体により明らかとなるである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の説明図である。
図2】実施例2の説明図である。
図3】比較例の説明図である。
図4】比較例の模式等価回路図である。
図5】参考例の模式等価回路図である。
図6】実施例1の模式等価回路図である。
図7】実施例1の模式等価回路図に関する説明図である。
図8】実施例1の模式等価回路図に関する別の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を用いて、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0011】
図3は、勾配のある領域で電気車を上下運用している比較例の説明図である。50は勾配を示す。PSは電源であり、外部系統より供給されている場合を含む。電源PSに接続される高電圧側電力線は、上り側の高電圧側電力線1Aと、下り側の高電圧側電力線2Aに分岐し、遠端で再度相互に接続されている。同様に、電源PSに接続される低電圧側電力線は、上り側の低電圧側電力線1Bと、下り側の低電圧側電力線2Bに分岐し、遠端で再度相互に接続されている。
【0012】
M1は上り線の電気車である。上り側の高電圧側電力線1Aからの電力がパンタグラフPT1を経由し電気車の高電圧側入力部より導入され、モータを直接あるいは間接に駆動する。上り線の電気車M1には、高電圧側入力部に対応して低電圧側入力部を有し、上り側の低電圧側電力線1Bに接続される。図3では、金属製の車輪を介して、上り側の低電圧側電力線1Bを構成する金属製のレールに接続される例を示している。
【0013】
M2は下り線の電気車である。下り側の高電圧側電力線2Aからの電力がパンタグラフPT2を経由し電気車の高電圧側入力部より導入さ、モータを直接あるいは間接に駆動する。下り線の電気車M2は、高電圧側入力部に対応して低電圧側入力部を有し、下り側の低電圧側電力線2Bに接続される。図3では、金属製の車輪を介して、下り側の低電圧側電力線2Bを構成する金属製のレールに接続される例を示している。
【0014】
上記説明は、電源PSが直流を供給する場合、また交流を供給する場合、いずれの場合も含む。
【0015】
パンタグラフPT1、パンタグラフPT2は、パンタグラフに限定されず、トロリーポールのような、給電機能が実現しうるものであれば特に限定はしない。
【0016】
ここで、上り線の電気車M1は、上り線であるため、電力線から供給される電力を消費しながらモータを駆動し上ることになる。一方、下り線の電気車M2は下り線であるため、その下降速度を減じるために、抑速ブレーキあるいは電力回生ブレーキのような発電型ブレーキを備えることが望ましい。その場合、下り線の電気車M2のモータは発電機として機能し、その発電した電力をむしろ電力線に還流する形となる。このため、上り線の電気車M1は電力消費をし、下り線の電気車M2は電力供給をする。そのため、上り線と下り線で動力車の電力消費の形態が真逆となる。
【0017】
この場合の電力状況を、図3の模式等価回路図である図4にて説明する。
【0018】
なお以下の説明では、他図を含め、図3と同一の符号は同等の機能を有する物であるので再度の説明は省略する。
【0019】
図4中の添え字付きの各rは、各電力線での電力線抵抗を示している。
【0020】
v0は電源PS近傍での電圧値、v1は上り線での上り線の電気車M1での電圧値、v2は下り線での下り線の電気車M2の電圧値をそれぞれ示している。上り線の電気車M1はモータ駆動による力行のため、電力の流れはi1、i3のようになり、上り側の高電圧側電力線1Aから上り線の電気車M1に流れる向きとなる。逆に、下り線の電気車M2は、例えば回生ブレーキによる発電となり、電力の流れはi2、i4のようになり、下り側の高電圧側電力線2Aに上り線の電気車M1から流れる向きとなる。
【0021】
このときの電力の状態は、(1)力行する上り線の電気車M1による電力消費によって電力線の系全体のエネルギーが減少する。
【0022】
(2)電力線の系全体のエネルギーの減少は、電力線電圧が低下する側に作用する。
下り線の電気車M2による電力回生によって、電力線の系全体のエネルギーが増加する。
【0023】
(3)このとき電源PSは電力線への電力供給とともに、通過させる電力を調整して、電力線の系全体のエネルギーを調整することで、電力線電圧を一定に維持するよう調整する。
【0024】
(4)しかし、上述の系全体のエネルギーの増減による事象とは別に、上り線の電気車M1に向かって流れる電流と、その電流による電力線上での電圧降下によって、上り線の電気車M1の位置における電力線電圧v1は、電源電圧v0よりも低くなる。
【0025】
等価回路的には、 v1=v0-i1×(r11+r12)<v0
ということを意味する。
【0026】
(5)同様に、下り線の電気車M2から流れる電流と、その電流による電力線上での電圧降下によって下り線の電気車M2の位置における電力線電圧v2は、電源電圧よりも高くなる。
【0027】
等価回路的には、 v2=v0-i2×(r21+r22)>v0
このため、以下のような問題が生じる。
【0028】
(A)上り線の電気車M1にて、電力線電圧v1が低下すると、上り線の電気車M1が速度維持、加速等に用いることができるエネルギーが低減するため、加速度が低下するという問題、また、その結果として速度が低下するという問題が生じる。
【0029】
(B)下り線の電気車M2にて、下り線の電気車M2から電力線への電力供給により電力線電圧が上昇すると、下り線の電気車M2の電圧耐量を超過しうる、あるいはそれを避けるために電源PSから電力線への電圧を予め低下させるという手段もあるが、これは上り線の電気車M1の駆動力を低下させるという別の問題を引き起こす。
【0030】
(C)参考例として、図5に示すように、図3では電源PSが1つであるのに対し、上り線用の第1の電源PS1と、下り線用の第2の電源PS2とに分けて電源PSを構成し、第1の電源PS1の電圧を高く、第2の電源PS2の電圧を低く設定することも考えられる。しかしこの場合も、この場合では電源PSのコストが単純には倍増する。また相互に電圧が異なる状態で、末端で接続される上り側の高電圧側電力線1Aと下り側の高電圧側電力線2Aの間での電流の抑制が新たな課題として生じることになる。
【0031】
そこで本発明では、上り側の線と下り側の線で高電圧側同士、低電圧側同士を、電源PS側の分岐部から末端(遠端)で相互に再接続されるまでの間で接続する、バイパス配線を設けたことを特徴とする。
【0032】
図1は、電気車向け電力供給システムである本実施例の説明図である。図3と異なるのは、上り側の高電圧側電力線1Aと下り側の高電圧側電力線2Aを電気的に接続する高電圧側バイパス配線10A、高電圧側バイパス配線11A、また上り側の低電圧側電力線1Bと下り側の低電圧側電力線2Bを電気的に接続する低電圧側バイパス配線10B、低電圧側バイパス配線11Bを設けた点である。
【0033】
換言すると、複数の電気車走行路の電力線の間を電気的に接続し、電力線の一部を並列回路とすることでインピーダンスを低下させることができるため、電源PSから上り線の電気車M1までの間の電力線上での電圧降下を小さくできる。この結果として、上り線の電気車M1による電力線電圧低下や、下り線の電気車M2による電力線電圧上昇を抑制することができる。
【0034】
さらに換言すれば、上り線の電気車M1による電圧降下を、下り線の電気車M2による電圧上昇により近距離で相補するということもできる。近距離で相補させるため、バイパス線を有さない比較例より電力線抵抗による影響度合いが少なくて済み、相補の効果を向上させることができるものである。
【0035】
この効果は、複数の電気車走行路の電力線間の電気的接続を介して、電力を電気車間で直接融通する、すなわち、抑速もしくは制動する電気車から回生される電力を、力行する電気車で消費することよって、電源から電力線間接続点までの間の電力線に流れる電流が低減することができ、電源から電気車までの間の電力線上での電圧降下を小さくすると言うことができる。この結果として、力行する電気車における電力線電圧低下や、抑速もしくは制動する電気車における電力線電圧上昇を抑制することができる。
【0036】
図1では、バイパス線は高電圧側、低電圧側各2本の例を図示しているが、1本の場合を排除するものではない。
【0037】
また図1では、バイパス線は高電圧側、低電圧側各2本の例を図示しているが、3本以上の場合を排除するものではない。電力線の延在長などに応じ、適宜設計すべき事項であるためである。
【0038】
また図1では、バイパス線は高電圧側、低電圧側で同じ本数の例を図示しているが、低電圧側の電位が安定的な環境にある場合、低電圧側のバイパス線の本数は、高電圧側のバイパス線の本数より少なくても良い。
【0039】
また、低電圧側の安定度次第では、バイパス線は高電圧側にのみ設ける例も本発明は含むものである。
【0040】
また図1では電気車は上り線、下り線各1両となっているが、電気車は各複数台、あるいは上り線と下り線でアンバランスな台数であっても良い。そのような実使用を念頭にするほど、本発明の重要性と優位性は増大するものである。
【0041】
図6は、図1の場合の模式等価回路図であり、図3の場合の図4に対応する図である。
【0042】
図7は、バイパス線を設けた図6の際に、上り線の電気車M1と下り線の電気車M2間でのバイパス線を介した電力のやり取りを示した説明図である。図中の太い破線が、電力のやりとりを示す。下り線の電気車M2で発生した回生電力が、高電圧側の電力線同士を接続したバイパス線によって、上り線の電気車M1側に供給される様子が示されている。低電圧側も同様である。
【0043】
図8は、図6でのバイパス線を介した別の電力の流れを示す図である。下り線の電気車M2からの回生電力は、電源PSに戻る前に、上り側の電力線の電力線抵抗でも消費されるルートが示されている。これは、上り線の電気車M1の台数が、下り線の電気車M2の台数より少ないような状態、あるいは一時的に上り線の電気車M1が存在しないような状態でも、バイパス線による並列化の効果が得られることを理解できる。
【0044】
また電源PSが交流の場合、高電圧側と低電圧側の表記は、交流の位相に応じ入れ替わることになるため、図1での高電圧側の構成と、低電圧側の構成を、同じに近づけることが望ましい。
【0045】
本実施例によれば、勾配地域での電気車の電力を高効率にすることができる。
【実施例2】
【0046】
図2は、電気車向け電力供給システムである実施例2の説明図である。図1との違いは、上り側の低電圧側電力線1Bや下り側の低電圧側電力線2Bがレールでは無く架空電力線として構成されていることである。RD1、RD2は路面を示す。図2では、上り側の高電圧側電力線1Aからの電力は第1の導電ポールを介し上り線の電気車M1に供給され、そして第2の導電ポールを介して上り側の低電圧側電力線1Bへと流れることになる。同様に、下り側の高電圧側電力線2Aからの電力は、別の第1の導電ポールを介し下り線の電気車M2に供給され、そして別の第2の導電ポールを介して下り側の低電圧側電力線2Bへと流れることになる。
【0047】
本実施例は、電気トラックのような用途に好適である。また傾斜が急で、ゴムタイヤ駆動用のような非金属による車輪を具備する場合、図1の代わりに図2の構成を用いることになる。ただし、図2の場合でも、図1の場合と等価回路的には同じであり、実施例1での各種説明および開示された思想は、実施例2でもそのまま援用されるものである。
【0048】
また電源PSが交流の場合、図2の構成では、高電圧側の構成と、低電圧側の構成を同条件にできるため、特に交流が電力線に供給される場合は本構成が好適である。
【0049】
本実施例によれば、上り側の低電圧側電力線1Bや下り側の低電圧側電力線2Bがレールでは無く架空電力線として構成されている電気車向け電力供給システムにおいて、電気車の電力を高効率にすることができる。
【0050】
上記した実施例は、電気車向け電力供給システムとして説明しているが、電力供給設備としても適用できる。
【符号の説明】
【0051】
1A 上り側の高電圧側電力線
2A 下り側の高電圧側電力線
1B 上り側の低電圧側電力線
2B 下り側の低電圧側電力線
PT1、PT2 パンタグラフ
M1 上り線の電気車
M2 下り線の電気車
10A、11A 高電圧側バイパス配線
10B、11B 低電圧側バイパス配線
50 勾配
PS 電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8