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特許7399872CNS転移の治療に使用するためのナザルチニブ
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  • 特許-CNS転移の治療に使用するためのナザルチニブ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】CNS転移の治療に使用するためのナザルチニブ
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/55 20060101AFI20231211BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231211BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20231211BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
A61K31/55
A61P25/00
A61P35/04
A61P43/00 121
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020556794
(86)(22)【出願日】2019-04-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 IB2019053177
(87)【国際公開番号】W WO2019202527
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】62/659,425
(32)【優先日】2018-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/678,651
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100181168
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智裕
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】タン,ダニエル シャオ-ウェン
(72)【発明者】
【氏名】ムーディー,スーザン
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/185333(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/085482(WO,A1)
【文献】Oncotarget,2017年12月22日,(2018) Vol. 9, No. 4,pp. 5459-5472
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/55
A61P 25/00
A61P 35/04
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における転移の治療のための、ナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩である化合物を含む医薬組成物であって、前記転移は、中枢神経系(CNS)転移、脳転移及び軟膜転移から選択され、前記転移は、GFR変異(エキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換)を有する非小細胞肺癌(NSCLC)である一次病変の結果である、医薬組成物。
【請求項2】
ナザルチニブは、そのメシル酸塩の形態である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記患者は、局所進行性又は転移性非小細胞肺癌(NSCLC)を有する患者である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記NSCLCは、EGFR活性化変異を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記EGFR活性化変異は、L858R変異である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記EGFR活性化変異は、ex19del変異である、請求項4又は5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記患者は、進行して脳転移、CNS転移及び/又は軟膜転移を発症しているNSCLC患者である、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記患者の無増悪生存期間(PFS)は、エルロチニブ又はゲフィチニブによる処置後に得られるPFSに対して改善される、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記患者の全生存期間(OS)は、エルロチニブ又はゲフィチニブによる処置後に得られるOSに対して改善される、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記患者の全奏効率(ORR)は、エルロチニブ又はゲフィチニブによる処置後に得られるORRに対して改善される、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
CNS又は脳における無増悪期間(TPP)は、エルロチニブ、ゲフィチニブ又はオシメルチニブ投与/処置によるCNS又は脳におけるTPPと比較して増加する、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
CNS又は脳ORRは、エルロチニブ、ゲフィチニブ又はオシメルチニブ処置によるCNS ORRと比較して増加する、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
CNS又は脳奏効期間(DoR)は、エルロチニブ、ゲフィチニブ又はオシメルチニブ処置によるCNS又は脳DoRと比較して増加する、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
ナザルチニブは、単剤療法として使用される、請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
転移性非小細胞肺癌(NSCLC)を有する患者の第1選択治療において、脳転移を含む中枢神経系(CNS)転移を治療するためのナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物であって、前記癌は、EGFR変異(エキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換)を有する、医薬組成物。
【請求項16】
ナザルチニブが、単剤療法(NSCLCの治療のための単剤)又はNSCLCの治療のための併用療法の一部として使用される、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
ナザルチニブが、約50~約200mgの範囲から選択される計用量で毎日投与され、請求項1~16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
NSCLCを有する患者を治療するための、治療有効量のナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物であって、前記医薬組成物がエキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換EGFR変異を有すると事前に判定された患者に選択的に投与され、
前記患者は、中枢神経系(CNS)転移、脳転移及び軟膜転移から選択される転移を有する患者である、医薬組成物。
【請求項19】
NSCLCを有する患者を治療する方法に使用するための、治療有効量のナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物であって、前記方法は、
(a)前記患者がエキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換EGFR変異を有することを判定するか又は判定しているステップと;
(b)前記患者に治療有効量のナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物を投与するステップと
を含み、
前記患者は、中枢神経系(CNS)転移、脳転移及び軟膜転移から選択される転移を有する患者である、医薬組成物。
【請求項20】
NSCLCを有する患者を治療する方法に使用するための、治療有効量のナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物であって、前記方法は、患者を、前記患者がエキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換EGFR変異を有すると事前に判定されたことに基づいて治療のために選択するステップと、前記患者に治療有効量のナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物を投与するステップとを含み、
前記患者は、中枢神経系(CNS)転移、脳転移及び軟膜転移から選択される転移を有する患者である、医薬組成物。
【請求項21】
前記治療有効量は、約50~約200mgの範囲から選択され、請求項18~20のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
患者における転移の治療のための、ナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩である化合物を含む医薬組成物であって、前記転移は、中枢神経系(CNS)転移、脳転移及び軟膜転移から選択され、前記転移は、非小細胞肺癌(NSCLC)である一次病変の結果であり前記患者は、EGFR変異(エキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換)を有するNSCLCを有すると事前に判定されている、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中枢神経系(CNS)転移、脳転移及び軟膜転移から選択される転移の治療又は予防に使用するためのナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩、好ましくはそのメシル酸塩を提供する。特に、本発明は、これらの使用であって、転移は、非小細胞肺癌(NSCLC)、特にEGFR変異(エキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換)を有するNSCLCなどの一次病変の結果である、これらの使用を提供する。本発明は、局所進行性又は進行性NSCLCを含む、EGFR変異(エキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換)を有するNSCLCに罹患した患者の第1選択治療に特に有用であり得る。
【背景技術】
【0002】
肺癌は、世界的に最も一般的であり且つ致死性の高い癌であり、非小細胞肺癌(NSCLC)が肺癌患者の約85%を占める。欧米諸国では、10~15%の非小細胞肺癌(NSCLC)患者が腫瘍に上皮成長因子受容体(EGFR)変異を発現し、アジア諸国では30~40%もの高い比率が報告されている。主要な発癌性EGFR変異(L858R及びex19del)は、EGFR変異NSCLCの約85%を占める。
【0003】
EGFR変異陽性患者は、第1選択治療としてEFGR阻害剤が投与される。しかし、ほとんどの患者は、概して10~14ヶ月以内に獲得耐性を形成する。エルロチニブ、ゲフィチニブ及びイコチニブなどの第1世代の可逆的EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)(第1世代TKIとも呼ばれる)で処置された一次EGFR変異を有するNSCLC患者の最大50%に二次「ゲートキーパ」T790M突然変異が発生する。
【0004】
この耐性の機構を解消するために、第2世代EGFR TKI(アファチニブ及びダコミチニブなど)が開発されている。これらは、EGFR ATP部位でシステイン797に共有結合する不可逆的薬剤である。第2世代EGFR TKIは、前臨床モデルにおいて、活性化[L858R、ex19del]及び獲得T790M変異の両方に効力を有する。しかしながら、それらの臨床的有効性は、場合により付随して起こる野生型(WT)EGFR阻害に起因する重度の有害作用のため、制限されることが証明されている。第2世代阻害剤に対する耐性もまもなく形成され、第1及び第2世代TKIを受けるほぼ全ての患者は、約9~13ヶ月後に第1又は第2世代TKIのいずれに対しても耐性となる。
【0005】
これにより、第3世代EGFR TKI、例えばナザルチニブ(EGF816)、ロシレチニブ、ASP8273及びオシメルチニブ(Tagrisso(登録商標))が開発されるに到った。第3世代EGFR TKIは、WT EGFRを残し、且つ活性化EGFR変異[L858R、ex19del]及び獲得T790M変異について比較的同等の阻害効力を有する。オシメルチニブは、疾患がEGFR TKI療法中又は療法後に進行した進行性EGFR T790M+ NSCLCを有する患者の治療のために米国で近年承認された。オシメルチニブは、ある程度の野生型EGFR阻害を示す。
【0006】
EGFR変異腫瘍を有する患者は、二次脳転移の成長のため、TKI治療中に進行することが多い(Porta et al.Eur Respir J 2011;37:624-31)。加えて、CNS転移及び脳転移は、進行性NSCLCの患者に共通している。NSCLCを有する患者の30%超は、同時性又は異時性脳転移の成長のため、確立されたEGFR-TKIによる処置中に疾患の進行を経験する(Ballard et al.2016,Clin Cancer Res.2016,22(20):5130-5140)。さらに、EGFR変異NSCLCを有する患者には、経時的に脳転移発生率の累増がみられる(Rangachari et al.Lung Cancer 2015;88:108-11)。NSCLCからのCNS転移及び脳転移のための治療としては、外科的切除、定位放射線手術及び全脳放射線治療(WRBT)が挙げられる。多くの患者は、脳病変進行ではなく全身転移により死亡するが、クオリティオブライフは、直接及び認知機能を低下させる全脳放射線治療(WBRT)による両方でかなり悪化する(Li at al.Int J Radiat Oncol Biol Phys 2008;71:64-70)。従って、ベースライン脳転移患者を含め、EGFR-変異NSCLCを有する患者に有効且つ持続的な応答をもたらすと同時に、中枢神経系の悪性腫瘍及び脳病変の両方に対して効力が改善された新規のEGFR-チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)が臨床的に必要とされている。NSCLCに罹患している患者、特に脳転移を発症するリスクがある患者に良好なクオリティオブライフを提供することも求められる。
【0007】
ナザルチニブは、以下の式I
【化1】

の化合物であり、これは、化学名:(R,E)-N-(7-クロロ-1-(1-(4-ジメチルアミノ)ブト-2-エノイル)アゼパン-3-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)-2-メチルイソニコチンアミドを有する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
ナザルチニブは、前臨床モデルにおける脳へのその分布が最小であったにもかかわらず、NSCLCを有する患者の処置に際して良好な脳透過と共に臨床有効性を示したことが明らかにされている。そのため、ナザルチニブで処置された患者は、安定した病態を達成すると共に、エルロチニブ又はゲフィチニブなどの標準治療薬で処置した場合よりも進行が緩徐になり得る。従って、ナザルチニブは、NSCLCに罹患した患者に関する臨床的有益性を有し得る。本発明は、NSCLC、例えば局所進行性又は転移性NSCLCを有する患者のための改善された治療法を提供し、患者は、治療未経験者又はそれ以外であり得、その腫瘍は、EGFR活性化変異(L858R又はex19del)を有する。本治療法は、NSCLCに罹患した患者における中枢神経系(CNS)転移、脳転移及び軟膜転移の予防にも有用であり得る。
【0009】
従って、本発明は、以下を提供する:
- NSCLCを有する患者を治療する方法であって、エキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換EGFR変異を有すると事前に判定された患者に治療有効量のナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩を選択的に投与するステップを含む方法;
- NSCLCを有する患者を治療する方法であって、(a)患者がエキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換EGFR変異を有することを判定するか又は判定しているステップと;(b)前記患者に治療有効量のナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩を投与するステップとを含む方法;
- NSCLCを有する患者を治療する方法であって、患者を、患者がエキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換EGFR変異を有すると事前に判定されたことに基づいて治療のために選択するステップと、前記患者に治療有効量のナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩を投与するステップとを含む方法。
【0010】
患者は、NSCLCを有する患者であり、その癌は、中枢神経系(CNS)転移、脳転移及び軟膜転移から選択される転移に進行している。転移は、好ましくは、脳転移である。
【0011】
従って、本発明は、CNS転移、脳転移及び/又は軟膜転移の治療又は予防に使用するための、ナザルチニブ若しくはその薬学的に許容される塩、好ましくはそのメシル酸塩又はそうした化合物を含む医薬組成物を提供する。一実施形態では、CNS、脳転移又は軟膜転移は、局所進行性又は転移性NSCLCに罹患した患者に存在する。好ましい実施形態では、患者は、転移性NSCLCを有し、任意選択で、NSCLCは、EGFR変異(エキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換変異)を有する。こうした患者は、CNS転移、脳転移及び/又は軟膜転移に進行している可能性もある。
【0012】
本発明は、患者における転移の治療又は予防に使用するための、ナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩である化合物を提供し、ここで、転移は、中枢神経系(CNS)転移、脳転移及び軟膜転移から選択され、任意選択で、転移は、非小細胞肺癌(NSCLC)などの一次病変の結果であり、特に、患者は、EGFR変異(エキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換)を有するNSCLCを有すると事前に判定されている。
【0013】
本発明は、NSCLCの治療又は予防に使用するためのナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩を提供し、ここで、患者は、転移に罹患しており、その転移は、中枢神経系(CNS)転移、脳転移及び軟膜転移から選択され、患者は、EGFR変異(エキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換)を有するNSCLCを有すると事前に判定されている。
【0014】
本発明は、患者におけるEGFR活性化変異(例えば、L858R又はex19del)を有するNSCLC、任意選択で局所進行性又は転移性NSCLCの治療に使用するための、ナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩、好ましくはメシル酸塩を提供し、ここで、
(a)患者の無増悪生存期間(PFS)は、例えば、エルロチニブ又はゲフィチニブによる処置後に得られるPFSに対して改善されるか;又は
(b)患者の全生存期間(OS)は、例えば、エルロチニブ、エルロチニブ又はゲフィチニブによる処置後に得られるOSに対して改善されるか;又は
(c)患者の全奏効率(ORR)は、例えば、エルロチニブ、エルロチニブ又はゲフィチニブによる処置後に得られるORRに対して改善されるか;又は
(d)CNS又は脳における無増悪期間(TPS)は、増加するか;又は
(e)CNS ORR又は脳ORRは、増加するか;又は
(f)CNS奏効期間(DoR)又は脳DoRは、増加し;
(a)~(f)の特徴の任意の組み合わせを含む。
【0015】
本明細書に開示する通り、ナザルチニブは、前述した効果(a)~(f)からなる群から選択される治療効果及びそれらの任意の組み合わせを提供し得る。
【0016】
1つの好ましい実施形態では、ナザルチニブは、EGFR変異NSCLCの治療のための単剤療法として使用される。別の好ましい実施形態では、ナザルチニブは、例えば、脳転移を有する患者を含む、進行性EFGR変異NSCLCを有する治療未経験患者のための、EGFR変異NSCLCの治療のための併用療法の一部として使用される。
【0017】
特に、単剤としてのナザルチニブは、
・NSCLCに罹患した患者、例えばEGFR活性化変異を有する治療未経験の局所進行性又は転移性NSCLCを有する患者に対する長期にわたる利益の提供;
・ベースライン時にCNS疾患又は脳病変を有する患者について、改訂RECIST1.1に従い、中央神経放射線科医BIRCにより決定される通り、CNS又は脳における無増悪期間、CNS又は脳におけるORR及びCNS又は脳におけるDoRの増加の提供;
・特にエルロチニブ又はゲフィチニブと比較した、患者の疾患関連症状を含む患者報告アウトカム(PRO)及び健康関連クオリティオブライフ(HRQoL)の改善、例えばエルロチニブ又はゲフィチニブと比較した安全性及び耐容性プロフィールの改善;又は
前述した利益の任意の組み合わせ
において有用であり得る。
【0018】
別の実施形態では、ナザルチニブは、別の抗腫瘍薬と組み合わせて使用される。
【0019】
従って、本発明の目的は、癌、特に非小細胞肺癌(NSCLC)、より具体的にはEGFR変異NSCLCの治療を改善するための治療法を提供することである。とりわけ、本発明の目標は、CNS転移、特に脳転移の発生又は進行を予防するか又は遅延させる安全且つ耐容性の治療である。ナザルチニブは、本明細書に記載されるように、EGFR変異NSCLCを有する患者において安全プロフィールが許容可能であると共に耐容性であることが判明し、ベースライン時にCNS疾患を有する患者について、改訂RECIST1.1に従い、中央神経放射線科医BIRCにより決定される通り、CNSでの無増悪期間、CNS又は脳における脳ORR及びCNS又は脳におけるDoRを増加させた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第I相試験デザインを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
一態様では、本発明は、CNS転移、脳転移及び軟膜転移から選択される転移の治療又は予防に使用するための、ナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物に関する。
【0022】
一実施形態では、ナザルチニブは、そのメシル酸塩形態である。
【0023】
好ましい実施形態では、CNS又は軟膜転移は、局所進行性又は転移性NSCLCを有する患者に存在する。
【0024】
一実施形態では、腫瘍は、EGFR活性化変異、好ましくはL858R変異及び/又はex19del変異を有する。
【0025】
一実施形態では、患者は、進行してCNS転移及び/又は軟膜転移を発症しているEGFR T790M変異陽性NSCLC患者である。
【0026】
別の態様では、本発明は、患者におけるEGFR活性化変異(例えば、L858R変異及又はex19del)を有するNSCLC、任意選択で局所進行性又は転移性NSCLCの治療に使用するためのナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩、好ましくはそのメシル酸塩を提供し、ここで、
(a)患者の無増悪生存期間(PFS)は、例えば、エルロチニブ又はゲフィチニブによる処置後に得られるPFSに対して改善される。PFSは、固形癌効果判定基準(RECIST 1.1)に従い、中央盲検独立判定委員会(BIRC)を使用して測定することができるか、
(b)患者の全生存期間(OS)は、例えば、エルロチニブ又はゲフィチニブによる処置後に得られるOSに対して改善されるか、又は例えばエルロチニブ又はゲフィチニブによる処置後に得られるPFSと同等であるか、又は
(c)患者の全奏効率(ORR、中央BRICにより測定)は、エルロチニブ又はゲフィチニブによる処置後に得られるORRに対して改善されるか、又はエルロチニブ又はゲフィチニブによる処置後に得られるORRと同等であるか、又は
(d)中枢神経系(CNS)における無増悪期間は、(例えば、標準治療薬、エルロチニブ、ゲフィチニブ又はオシメルチニブによる処置後と比較して)増加するか、又は
(e)例えば、改訂RECIST 1.1により、ベースライン評価時、脳に測定可能な疾患を有する脳転移を有する患者において、CNS ORRは、増加する(CNS ORRは、中央神経放射線科医BIRCにより測定され得る)か、又は
(f)CNS奏効期間(DoR)は、増加する(例えば、中央神経放射線科医BIRCにより;例えば、改訂RECIST 1.1により、ベースライン時に脳に測定可能な疾患を有する脳転移を有する患者のCNS DoR)。
【0027】
本明細書に開示されるように、単剤としてのナザルチニブは、上述の効果(a)~(f)からなる群から選択される治療利益及びそれらの任意の組み合わせを提供し得る。加えて、ナザルチニブは、ゲフィチニブ、エルロチニブ又はオシメルチニブ処置による治療と比較して副作用がより少ない改善された治療オプションを提供し得る。
【0028】
一実施形態では、ナザルチニブは、単剤療法として使用される。別の実施形態では、ナザルチニブは、別の抗腫瘍薬と組み合わせて使用される。
【0029】
ナザルチニブ
ナザルチニブ及び薬学的に許容される塩は、国際公開第2013/184757号パンフレットに記載されている。
【0030】
ナザルチニブは、コード名「EGF816」によっても知られている。本明細書で使用されるように、「ナザルチニブ」又は「EGF816」という用語は、別に記載されているか又は文脈から明らかに矛盾しない限り、式(I)の化合物又は薬学的に許容される塩を指す。
【0031】
ナザルチニブは、野生型(WT)EGFRを温存しながら、活性化及び獲得耐性変異体(L858R、ex19del及びT790M)を選択的に阻害する、皮成長因子受容体(EGFR)の標的化共有結合不可逆的阻害剤である(Jia et al,Cancer Res October 1,2014 74;1734)。ナザルチニブは、臨床的に関連する有効濃度において、WT EGFR阻害を示すことなくEGFR変異(L858R、ex19del及びT790M)癌モデル(インビトロ及びインビボ)に有意な効果を呈示した。複数の異種移植モデルに用量依存性抗腫瘍効果が認められ、ナザルチニブは、耐容性が良好であり、有効用量で体重の減少が観察されなかった。
【0032】
ナザルチニブは、T790Mを有する進行性非小細胞肺癌(NSCLC)に罹患した患者の臨床試験において持続的な抗腫瘍活性を示すことが判明した(Tan et al,Journal of Clinical Oncology 34,no.15_suppl(May 2016))。
【0033】
ナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物は、国際公開第2013/184757号パンフレットに記載されており、この文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。ナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩は、カプセル又は錠剤の形態で経口医薬組成物として投与され得る。ナザルチニブの薬学的に許容される塩は、そのメシル酸塩及び塩酸塩を含む。好ましくは、薬学的に許容される塩は、メシル酸塩である。
【0034】
ナザルチニブは、治療未経験の患者、即ち以前にNSCLC、例えば進行性NSCLCのためのいずれの治療も受けていない患者に特に有用であり得ると考えられる。「治療未経験の」患者は、化学療法、生物学的療法、免疫療法又は任意の治験中の治療を含め、高度なセッティングでの任意の全身抗腫瘍療法によるいずれの治療も未経験の患者を含む。この用語は、事前にネオアジュバント又はアジュバント全身療法を受け、ネオアジュバント又はアジュバント全身療法の終了から12ヶ月を超えた後のいずれか遅い時点で再発が発生した患者も表す。これらの患者は、第3世代EGFR TKI未経験の患者も含むことが考慮される。
【0035】
従って、本発明は、EGFR変異NSCLC(例えば、エキソン19欠失又はL858R変異NSCLC)を含む非小細胞肺癌の第1選択治療に使用するための、本明細書に記載される化合物及び組成物も提供する。
【0036】
本発明は、非小細胞肺癌の第1選択治療のための薬剤の製造のためのナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩も提供する。
【0037】
本明細書に提供される使用、医薬組成物及び治療レジメンから利益を受ける可能性がある患者には、前処置された患者、例えば第1世代EGFR TKI及び/又は第2世代EGFR TKIによる事前の処置を受けた患者も含まれる。
【0038】
本発明から利益を受け得る患者には、HBV及びHCV感染についてプレスクリーニングを受け、そうした感染がないことが判明した患者又は抗ウイルス剤処置による同時治療を処方された患者も含まれる。例えば、HBsAg陽性又はHBV-DNA陽性のいずれかである患者は、ナザルチニブの初回投与の少なくとも1週間前に抗ウイルス療法(例えば、エンテカビル又はテノホビル)を受け、ナザルチニブの最後の投与から少なくとも4週間抗ウイルス療法を継続し得る。
【0039】
腫瘍量(「腫瘍負荷」とも呼ばれる)は、癌細胞の数、腫瘍のサイズ又は身体内の癌の量を指す。癌に罹患した対象は、1つ又は複数の薬剤による治療中に進行しているか、それに対してもはや応答しないか、又は患者が罹患している癌が進行した、即ち腫瘍量が増大したとき、1つ又は複数の薬剤に不耐容性であると定義される。こうしたNSCLC又は腫瘍などの癌の進行は、新たな腫瘍の検出、又は転移の検出、又は腫瘍収縮の停止によって呈示され得る。癌の進行及び腫瘍量増加又は減少の評価は、当業者に周知の方法によりモニターすることができる。例えば、進行は、癌の視覚検査、例えばX線、CTスキャン若しくはMRIを用いて又は腫瘍バイオマーカ検出によりモニターすることができる。癌の増殖増大は、癌の進行を示し得る。腫瘍量の評価は、ベースラインからの標的病変の直径和の変化率により決定することができる。腫瘍量の減少又は増加を測定する腫瘍量評価は、通常、様々な間隔、例えば少なくとも1、2、3ヶ月、好ましくは1ヶ月の間隔をあけて行われる連続的評価で実施され得る。
【0040】
腫瘍評価及び腫瘍量の評価は、RECIST基準(Therasse et al 2000),New Guidelines to Evaluate the Response to Treatment in Solid Tumors,Journal of National Cancer Institute,Vol.92;205-16及び改訂RECISTガイドライン(version 1.1)(Eisenhauer et al 2009)European Journal of Cancer;45:228-247に基づいて実施することができる。
【0041】
本明細書に開示される医薬組成物は、非小細胞肺癌(NSCLC)の治療に特に有用である。NSCLCの最も一般的なタイプは、扁平上皮癌、大細胞癌及び肺腺癌である。NSCLCのあまり一般的ではないタイプとしては、多形性、カルチノイド腫瘍、唾液腺肉腫及び分類不能肉腫が挙げられる。NSCLC、特に肺腺癌は、EGFRの異常な活性化、とりわけEGFRの増幅又はEGFRの体細胞変異を特徴とし得る。
【0042】
このように、治療しようとする肺癌は、EGFR変異NSCLCを含む。ナザルチニブ又はナザルチニブ若しくはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物は、進行性EGFR変異NSCLCの治療に有用であり得る。進行性NSCLCは、局所進行性又は転移性NSCLCのいずれかを有する患者を指す。局所進行性NSCLCは、手術を含む根治的集学的療法に適さないステージIIIBのNSCLCを指す。転移性NSCLCは、ステージIVのNSCLCを指す。
【0043】
EGFR変異状態は、当技術分野で入手可能なテスト、例えばQIAGEN therascreen(登録商標)EGFRテスト又は他のFDA承認テストにより決定することができる。therascreen EGFR RGQ PCRキットは、EGFR癌遺伝子中の特定の変異を検出するためのFDA承認の定性的リアルタイムPCRアッセイである。EGFR変異のエビデンスは、既存のローカルデータ及び腫瘍サンプルの検査から取得することができる。EGFR変異状態は、任意の入手可能な腫瘍組織から決定され得る。
【0044】
ナザルチニブは、EGFR L858R突然変異、EGFRエキソン19欠失又はその両方を有するNSCLCを治療する上で特に有用であり得る。治療しようとするNSCLCは、さらなるEGFR T790M変異も含み得、これは、デノボ変異又は後天性変異のいずれでもあり得る。
【0045】
一実施形態では、EGFR T790M変異は、デノボ変異である。本明細書では、「デノボ変異」という用語は、EGFR阻害剤による任意の処置の開始前にヒトにおいて検出可能であるか又は検出される遺伝子中の改変を指す。デノボ変異は、通常、遺伝物質のコピー工程中のエラー又は細胞分裂中のエラーによって起こった変異であり、例えば、デノボ突然変異は、一方の親の生殖細胞(卵若しくは精子)若しくは受精卵自体の変異又は体細胞に生じる変異から起こり得る。
【0046】
「デノボ」T790M変異は、EGFRを阻害することがわかっているいずれの治療法による処置も以前に受けたことがないNSCLC患者におけるEGFR T790M突然変異の存在として定義される。
【0047】
別の態様では、本発明は、ナザルチニブと、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物に関する。
【0048】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、一般に、当業者に周知であるように(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciencesを参照されたい)、安全な(GRAS)溶媒、分散媒、コーティング剤、界面活性剤、抗酸化剤、保存料(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩類、保存料、薬物安定剤、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味料、香味料、染料、緩衝剤(例えば、マレイン酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、酢酸、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなど)及びそれらの組み合わせとして認識されるものを含む。いずれかの通常の担体がナザルチニブと不適合である場合を除いて、医薬組成物又は医薬品におけるその使用が考慮される。
【0049】
ナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物の例は、国際公開第2013/184757号パンフレットに記載されている。
【0050】
投薬
本明細書で引用される投薬又は用量は、他に明確に記述されない限り、製剤中に存在するナザルチニブの量を指し、これは、遊離塩基として計算される。
【0051】
ナザルチニブが単剤療法として又は併用療法の一部として投与される場合、ナザルチニブの用量は、約50~約200mgの範囲、より好ましくは約50~約150mgの範囲から選択され得る。ナザルチニブは、約25、約50、約75、約100又は約150mgで1日1回投与され得る。従って、ナザルチニブは、約50、約75、約100又は約150mgの用量で1日1回;より好ましくは約50、約75又は約100mgで1日1回投与され得る。約50、約75又は約100mgの用量は、効果を失うことなく良好な耐容性を示し得る。好ましい実施形態では、ナザルチニブは、約100mg又は約150mgの用量で1日1回投与され得る。1日に約150mg以下の用量であれば、肝炎再燃が起こらないと予想されている。
【0052】
治療薬又はその治療薬の「有効量」又は「治療有効量」という用語は、本明細書において、治療薬で処置される癌のベースラインで臨床的に観察可能な徴候及び症状に対して観察可能な改善をもたらすのに十分な量を指す。
【0053】
安定した疾患応答の達成の判定は、固形癌効果判定基準(RECIST 1.1)又はWHO基準を使用することにより決定することができる。安定(SD)奏効は、処置を開始してからの標的病変の最小の最長径和(LD)を参照として、標的病変が、部分奏効(PR)とみなすのに十分な収縮又は進行(PD)とみなすのに十分な増大のいずれも示さない奏効として定義され得る。他の奏効基準は、以下のように定義され得る。
・完全奏効(CR):全ての標的病変の消失
・部分奏効(PR):ベースラインLD和を参照として、標的病変のLD和の少なくとも30%の減少。
・進行(PD):処置を開始してから記録された最小LD和を参照として、標的病変のLD和の少なくとも20%の増加又は1つ若しくは複数の新たな病変の出現。
【0054】
従って、単剤療法又は併用療法としてEGFR阻害剤が投与される治療期間は、当業者によって容易に測定することができる。治療期間は、14日、28日又は35日の1、2、3、4、5、6以上のサイクル、好ましくは2又は3サイクルから構成され得る。サイクルは、好ましくは、21日又は28日サイクルである。
【0055】
定義
「薬学的に許容される塩」という用語は、化合物の生物学的効果及び特性を保持し、且つ生物学的又はそれ以外にも概して不適切でない塩を指す。化合物は、アミノ基の存在によって酸付加塩を形成することができる。
【0056】
「1つ(a)」、及び「1つ(an)」、及び「その」並びに本発明の記述に関連して(特に以下の請求項に関連して)同様の指示語は、本明細書に別に示されるか又は文脈から明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の両方を包含すると解釈すべきである。化合物、塩などに複数形が用いられている場合、これは、単一の化合物、塩なども意味すると解釈される。
【0057】
「約」という用語は、所与の値の統計的に許容される変動を指し、典型的には+/-5%又は10%である。これに対し、用語「約」を伴わずに数値が引用される場合、この数値は、当技術分野で統計的に許容されるその数値の変動を含むことが理解されるであろう。
【0058】
「治療する」、「治療すること」及び「治療」という用語は、対象の少なくとも1つの症状を軽減、縮小若しくは緩和するか、又は疾患進行の遅延に影響を与える処置を指すと定義される。例えば、治療は、疾患の1つ若しくは複数の症状の減少又は癌などの疾患の完全な根絶であり得る。本発明の意味では、「治療する」、「治療」及び「改善された治療」という用語は、特にゲフィチニブ及び/又はエルロチニブによる治療と比較してPFSの改善、OS、ORRの改善、CNS又は脳における無増悪期間の増加、CNS又は脳におけるORR及び/又はDoRの増加の1つ又は複数も意味する。
【0059】
本明細書で使用される「対象」又は「患者」という用語は、癌、好ましくは肺癌、例えばNSCLC、とりわけEGFR変異NSCLCに罹患しているヒトを指す。
【0060】
本明細書で使用される場合、患者に関して「選択する」、「選択すること」及び「選択された」は、所定の基準を有する特定の患者に基づいて(それに起因して)、より大きい患者の群から特定の患者が特に選択されることを意味するために使用される。同様に、「選択的に治療する」は、特定の疾患を有する患者に処置を提供することを指し、この場合、その患者は、所定の基準を有する特定の患者に基づいて、より大きい患者の群から特に選択される。同様に、「選択的に投与する」は、所定の基準を有する特定の患者に基づいて(それに起因して)、より大きい患者の群から特に選択された患者に薬剤を投与することを指す。選択する、選択的に治療する及び選択的に投与するとは、患者がより大きい群に属していることのみに基づいて標準治療レジメンを提供するのではなく、患者が、患者の個人的な病歴(例えば、以前の治療介入、例えば生物剤による以前の治療)、生物学(例えば、具体的な遺伝子マーカ)及び/又は徴候(例えば、特定の診断基準を満たしていない)に基づいて個人化治療を提供されることを意味する。本明細書で使用される治療方法に関して、選択することは、特定の基準を有する患者の偶然の治療を指すのではなく、特定の基準を有する患者に基づいて、患者に治療を実施するための意図的な選択を指す。従って、選択的治療/投与は、患者の個人的病歴、疾患の徴候及び/又は生物学とは関係なく、特定の疾患を有する全ての患者に特定の薬剤を送達する標準治療/投与と異なる。
【0061】
「判定する」という用語は、患者からの生体サンプル(例えば、腫瘍転移からのサンプル)中の所与のマーカ、例えばバイオマーカ又は遺伝子変異、例えばT790M、エキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換EGFR変異の存在(又は非存在)を明らかにするためにテスト、処置、実験、アッセイ、解析などを実施する行為を指す。
【0062】
「判定した」という語句は、第三者(例えば、研究室、病院、看護師、医師)に、患者からの生体サンプル(例えば、腫瘍転移からのサンプル)中の所与のマーカ、例えばバイオマーカ又は遺伝子変異、例えばT790M、エキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換EGFR変異の存在(又は非存在)を明らかにするテスト、処置、実験、アッセイ、解析などを実施するか又は結果を提供することを要請する行為を指す。
【0063】
「事前に判定された」という語句は、何らかの関係者(第三者又はその他)により過去に既に識別された所与の患者の状態(例えば、遺伝子状態、患者の特徴、バイオマーカなど)を指す。
【0064】
本明細書で使用される「単剤療法」という用語は、疾患又は状態を治療するための単剤としてのナザルチニブ(遊離塩基として又はその薬学的に許容される塩として)の使用を指す。従って、本明細書で使用される「単剤療法」という用語は、ナザルチニブと別の治療薬との併用を含まない。
【0065】
「併用療法」又は「組み合わせ」などの用語は、治療法又は治療薬を物理的に混合するか、又は同時に投与すること及び/又は同時送達のために製剤化しなければならないことを意味しないが、これらの送達方法は、本明細書に記載の範囲に含まれる。これらの組み合わせに含まれる治療薬は、1つ又は複数の他の別の治療法又は治療薬と同時、その前又はその後に投与することができる。治療薬又は治療プロトコルは、任意の順で投与することができる。一般に、各薬剤は、その薬剤について決定された用量及び/又は時間スケジュールで投与されることになる。さらに、この組み合わせに使用される追加治療薬は、単一の組成物中に一緒に投与され得るか、又は別の組成物中に個別に投与され得ることも理解されるであろう。一般に、組み合わせて使用される追加治療薬は、個別に使用されるレベルを超えないレベルで使用されることが求められる。一部の実施形態では、組み合わせに使用されるレベルは、単剤治療薬として使用されるものより低くなるであろう。
【0066】
PFSは、ランダム化の日から、最初に記録された進行又はあらゆる原因による死亡のいずれか早い方までの時間として定義される。PFSは、通常、RECIST 1.1に従い、局所視点から評価される。
【0067】
局所視点によるPFSは、主要有効性解析と同じ解析慣習により、層別コックス(Cox)モデルを用いて解析することができる。PFS分布は、通常、カプラン・マイヤー法を用いて推定し、各処置群について、カプラン・マイヤー曲線、中央値及び中央値の95%信頼区間を表示することができる。PFSについてのハザード比は、層別コックスモデルを用い、その95%信頼区間に沿って計算することができる。PFSの局所及び中央BICR評価中の一致解析は、処置群別に表示され得る。
【0068】
エルロチニブ、ゲフィチニブ又はオシメルチニブによる処置後に得られるPFSは、それぞれ9~10ヶ月、例えば9.7、9.5ヶ月及び10.2ヶ月となり得る。
【0069】
ORRは、中央BIRC判定により且つRECIST 1.1に従い、CR(完全奏効)又はPR(部分奏効)のBOR(最良全奏効)を有する患者の割合として定義される。ORRは、FASに基づいて且つITT(治療企図)原則に従って計算する。
【0070】
各患者のBORは、以下の規則に従い、一連の全(病変)奏効から決定される:
・CR=進行前に少なくとも4週間の間隔で少なくとも2回のCRの決定。
・PR=進行前に少なくとも4週間の間隔で少なくとも2回のPR(又はより良い)決定(且つCRの条件を満たさない)。
・SD=ランダム化から>6週間後の少なくとも1回のSD(又はより良い)評価(且つCR又はPRの条件を満たさない)。
・PD=ランダム化から≦12週間後の進行(且つCR、PR又はSDの条件を満たさない)。ORR及びその95%信頼区間は、処置群別に表示することができる。
【0071】
確証解析として、治験責任医師の評価を用いて上記の解析を実施し得る。BORの局所及び中央BICR評価間の一致解析は、処置群別に表示され得る。
【0072】
CNS ORR又は脳ORRは、改訂RECIST1.1に従い、中央神経放射線科医BIRCによりベースラインで脳に測定可能な疾患を有する患者にのみ適用される。CNS ORR又は脳ORRは、脳におけるCR又はPRの最良全奏効を有する患者の割合として定義される。
【0073】
DCR(病勢コントロール率)は、CR、PR又はSDの確定された最良全奏効(BOR)を有する患者の割合として定義される。CR、PR及びSDは、改訂RECIST1.1に従い、中央BIRC判定により定義される。DCRは、FASに基づいて且つITT原則に従って計算することができる。DCR及びその95%信頼区間は、処置群別に表示され得る。
【0074】
確証解析として、治験責任医師の評価を用いて上記の解析を実施し得る。
【0075】
TTR(奏効までの期間)は、ランダム化の日から、最初に記録された奏効(その後、確定しなければならないCR又はPR)までの期間として定義される。CR及びPRは、RECIST1.1に従い、中央BIRC判定の通り、腫瘍効果データに基づいている。FAS(最大の解析対象集団)中の全患者をTTR計算に算入する。確定されたCR又はPRのない患者については、PFS事象(即ち疾患進行又はあらゆる原因による死亡)を有する患者の試験最大追跡期間(即ちLPLV-FPFV)又はPFS事象のない患者の最後の適切な腫瘍評価の日に打ち切られることになる。TTRは、処置群別に列挙し、まとめることができる。TTR分布は、カプラン・マイヤー法を用いて推定される。中央値及び中央値の95%信頼区間は、各処置群について表示することができる。
【0076】
無増悪期間(TTP)は、ランダム化/処置開始の日から、最初に記録された進行又は原因となる癌による死亡として定義される事象の日までの期間である。患者に事象がなかった場合、無増悪期間は、最後の適切な腫瘍評価の日に打ち切られる。CNS又は脳における無増悪期間は、ランダム化の日から、ベースラインで脳に少なくとも1つの測定不能な及び/又は測定可能な疾患を有するFAS患者について、改訂RECIST1.1に従い、中央神経放射線科医BIRCにより評価される通り、最初に記録された脳転移の進行の日までの期間として定義される。
【0077】
CNS又は脳における無増悪期間、CNS ORR、脳ORR、脳DoR及びCNS DoRの解析は、PFS、ORR及びDoRについてそれぞれ上述したのと同じ方法で実施する。層別化は、ランダム化層別因子、即ち人種(アジア系対非アジア系)及びEGFR活性化変異型(L858R対ex19del)に基づき得る。
【0078】
DoR(奏効期間)は、その最良全奏効が、中央BIRC判定による腫瘍効果データに基づき、RECIST1.1に従うCR又はPRである患者にのみ適用される。開始日は、最初に記録された奏効(CR又はPR)の日であり、終了日は、最初に記録された進行又は原因となる癌による死亡のいずれか早い方の日として定義される。進行又は原因となる癌による死亡なしに継続する患者は、その最後の適切な腫瘍評価の日に打ち切られる。DoRは、CR又はPRの確定されたBORを有するFAS中の全患者について処置群別に列挙し、まとめることができる。
【0079】
DoR分布は、カプラン・マイヤー法を用いて推定することができる。中央値及び中央値の95%信頼区間は、各処置群について表示することができる。
【0080】
CNS DoR又は脳DoRは、ベースラインで脳に測定可能な疾患を有し、且つそのCNS又は脳における最良全奏効が、中央神経放射線科医BIRC判定による腫瘍効果データに基づき、改訂RECIST1.1に従うCR又はPRである患者にのみ適用される。開始日は、最初に記録された脳内の奏効(CR又はPR)の日であり、終了日は、最初に記録された脳内の進行の日として定義される。脳内の進行なしに継続する患者は、その最後の適切な腫瘍評価の日に打ち切られる。
【0081】
臨床的有用率(CBR)は、CR若しくはPRの最良全奏効又は最小期間(乳癌試験の場合、デフォルトは、少なくとも24週間である)持続するSD若しくは非CR/非PDの総合病変効果を有する患者の割合である。このエンドポイントは、疾患安定化の期間を考慮に入れて、活性の兆候の尺度となる。
【0082】
PFS2:最新のEMAガイダンス(EMA 2012)は、「PFS2」と呼ばれる、PFS及びOSに対する代替エンドポイント中間物、即ちOSが確実に測定できない場合のOSの代用物を推奨しており、これは、次の選択治療に対する治験治療法の影響を評価する。このエンドポイントの主要目的は、特に再感作物質の長期維持戦略を評価することであり、この場合、「影響の範囲」全体を調べる必要がある。
【0083】
「延長されたPFS」、「遅延されたPFS」、「タンデムPFS」又は「PFSバージョン2.0」と呼ぶことができるPFS2は、ランダム化/処置開始の日から、次の選択治療中に最初に記録された進行又はあらゆる原因による死亡として定義される事象の日までの期間である。このエンドポイントの打ち切り規則は、PFSについて考慮されるものと同じ原則を組み込む。
【0084】
標的病変奏効の決定
完全奏効(CR)は、全ての非節性標的病変の消失として定義される。加えて、標的病変として割り当てられる任意の病的リンパ節は、<10mmまでの短軸の縮小がなければならない。節性病変が標的病変の一部である場合、CRのSODは、ゼロではない可能性がある。
【0085】
部分奏効(PR)は、ベースライン直径和を参照として、全ての標的病変の直径和の少なくとも30%の減少として定義される。
【0086】
進行(PD)は、ベースライン時又はベースライン後に記録された全ての標的病変の最小直径和を参照として、全ての測定された標的病変の直径和の少なくとも20%の増加として定義される。20%の相対増加に加えて、直径和は、少なくとも5mmの絶対増加を示していなければならない。初期CR後、全ての非節性標的病変が依然として存在せず、全ての節性病変が<10mmのサイズであれば、PDを割り当てることはできない。この場合、標的病変奏効は、CRである。
【0087】
安定(SD)は、PR又はCRの条件を満たすのに十分な収縮又はPDの条件を満し得る病変の増大のいずれとしても定義されない。
【0088】
不明(UNK)は、進行が記録されておらず、且つ1つ又は複数の標的病変が評価されなかったか、又はベースライン以外の方法を用いて評価された場合に定義される。例外的状況では、方法の変更によるUNK奏効は、入手可能な情報に基づき、専門家の判断を用いて、治験責任医師又は中央判定者により無効にすることができる。
【0089】
非標的病変奏効の決定
CRは、D=全ての非標的病変の消失として定義される。加えて、非標的病変に割り当てられた全てのリンパ節は、非病的サイズでなければならない(<10mmの短軸)。
【0090】
PDは、既存の非標的病変の明確な進行として定義される。CR、PR又はSDの標的病変を考慮して、非標的病変の変化にのみ基づくPDの割り当ては、例外的であるべきである。こうした状況では、治験責任医師又は中央判定者の意見が優先される。
【0091】
不明(UNK)は、進行が記録されておらず、且つ1つ又は複数の非標的病変が評価されなかったか、又はベースライン以外の方法を用いて評価された場合に定義される。治験責任医師及び/又は中央判定者は、専門家の判断を用いて、可能な限り非UNK奏効を割り当てるべきである(さらなる詳細については、注記セクションを参照されたい)。
【0092】
脳の疾患進行は、新たな脳病変、ベースライン脳非標的病変の悪化又はベースライン脳標的病変の最長径和の≧20%の増加として定義され得る。
【0093】
以下の実施例は、上述した本発明を説明するが、本発明の範囲を限定することを決して意図されない。当業者に周知の他の試験モデルにより、特許請求される本発明の有益な効果を決定することもできる。
【実施例
【0094】
実施例1:EGFR変異NSCLCを有する成人患者におけるナザルチニブ(EGF816)の第I相、多施設、非盲検試験
T790M「ゲートキーパ」変異による第1世代上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)に対する獲得耐性は、非小細胞肺癌(NSCLC)を有する処置患者の50~60%に起こる。野生型EGFRを温存しながら、活性化及びT790M突然変異に対して選択的な第3世代EGFR TKIであるナザルチニブ(EGF816)を、EGFR変異を有する進行性NSCLCを有する患者において評価した。
【0095】
患者は、ステージIIIB/IV EGFR変異NSCLC、≧1の測定可能な病変及び米国東海岸癌臨床試験グループ(Eastern Cooperative Oncology Group)パフォーマンスステータス≦2を有した。EGFR変異状態及び以前の治療に従い、6つの亜群間の適格性について患者をスクリーニングしてから、連続28日投与スケジュールで1日1回(QD)、ナザルチニブ75~350mg(カプセル剤又は錠剤)により経口経路で処置した。第I相パートの主要目的は、最大耐用量及び/又は推奨される第II相用量(RP2D)を決定することであった。
【0096】
2017年8月までに180人の患者を7つの用量レベルのナザルチニブで処置した。ナザルチニブは、EGFR変異NSCLCを有する患者において許容される安全性プロフィールで耐容性であることが判明した。第3世代EGFR TKIによる治療未経験のEGFR T790M陽性腫瘍を有する162人の評価可能な患者に基づき、異なる用量での最良全奏効率は、51%(95%CI:43~59)であり、奏効期間中央値は、11.0ヶ月であった。無増悪生存期間(PFS)中央値は、9.1ヶ月であった(95%CI:7.3~11.1)。ナザルチニブで処置したほとんどの患者に臨床的有用性が経験され、第3世代EGFR TKIに対して治療未経験のEGFR T790M陽性腫瘍を有する患者において、全病勢コントロール率は、89%であった。162人のこうした患者のうち、45人(28%)の患者は、ベースラインで非標的病変として検出可能な脳転移を有し、これらの患者のうちの7人(16%)は、治験処置中に脳病変の消散を示した。これらのデータは、EGFR変異NSCLCを有する患者において、脳内を含め、ナザルチニブの臨床的に重要な抗腫瘍活性を実証している。
【0097】
従って、進行性EGFR変異NSCLCを有する患者が利用できる限られた治療オプションを考慮すると、ナザルチニブは、この状況に有効な治療オプションを提供し得る。
【0098】
方法
試験デザイン
これは、局所進行性/転移性EGFR変異NSCLCを有する患者におけるナザルチニブの第I/II相、多施設、非盲検試験であった。
【0099】
連続28日サイクルの投与スケジュールでナザルチニブを1日1回(QD)経口投与した。第I相パートの開始用量は、カプセル剤中75mgであった。錠剤中のナザルチニブも第I相に導入した。患者は、以下のQD用量群:75mg、100mg、150mg、200mg、225mg、300mg及び350mgにわたって処置した。初期コホートは、1~6人の患者で構成された。
【0100】
統計解析
同じ用量レベルのカプセル又は錠剤で処置した患者を合わせて、安全性及び有効性解析のために単一の処置群にまとめた。最大の解析対象集団(FAS)は、≧1用量の試験薬剤を受けた全ての患者からなる。有効性解析は、ベースライン及びベースライン後の腫瘍評価データを有するか、又はベースライン前からベースライン後の腫瘍評価を中止した全ての患者に対して実施したが、他に注記のない限り、EGFR T790で野生型であった腫瘍を有するか、又は以前に第3世代EGFR TKIを受けたことがある患者を除外した。
【0101】
奏効期間(DoR)及びPFSは、カプラン・マイヤー法を用いて記載した。この試験では、第I相用量漸増パートに参加した180人の患者からのデータを記録する。
【0102】
結果
2017年8月31日のデータカットオフ日に180人の患者が参加し、錠剤又はカプセル剤のいずれかを用い、7つのQD用量レベルでのナザルチニブにより処置を受けた(75mg[n=17]、100mg[n=38]、150mg[n=73]、200mg[n=8]、225mg[n=28]、300mg[n=5]及び350mg[n=11])。
【0103】
推奨される用量
150mgのQD(1日1回)用量レベルは、耐容性が良好であると共に優れた抗腫瘍効果を示し、ORRは、46%であった。これらの観察結果に基づき、推奨される第II相用量(RP2D)として150mgQDが選択された。
【0104】
それ以外のナザルチニブ用量も、前述したように本発明において有用であり得る。
【0105】
論考
この試験では、ナザルチニブは、EGFR T790M変異NSCLCを有する患者において臨床活性を示し、全ての用量レベルでほとんどの患者が臨床的有用性を得た。評価可能な全患者の半数近くが客観的奏効を達成し、DCRは、87%であった。奏効期間中央値は、11.0ヶ月であり、第III相AURA3試験でオシメルチニブにより処置されたEGFR T790MNSCLCを有する患者において報告された9.7ヶ月の奏効期間中央値(Mok et al.N Engl J Med 2017;376:629-40)と同等であった。ナザルチニブによる9.1ヶ月のPFS中央値も、AURA3のオシメルチニブアームにおいて報告された10.1ヶ月のPFS中央値(Mok et al.N Engl J Med 2017;376:629-40)と類似していた。
【0106】
最後の以前の全身療法がEGFR TKIであったか否かにかかわらず、同様の奏効が患者に観察され、これは、観察された効果が、「再治療効果」に依る可能性が低いことを示唆している。EGFR T790Mex19del変異を有する患者における臨床活性は、ORR及びPFSの両方について、EGFR T790ML858R変異を有する患者より高いことがわかったが、後者は、統計的有意性を満たさなかった。ex19del及びL858R変異間のEGFR TKIの活性差は、一貫性がないものの、これまでに報告されている(Zhang et al.PLoS One 2014;9:e107161;Yu et al.Chin J Cancer 2016;35:30,016-0086-2;Lin et al.Eur Respir J 2016;48:PA4837)。検出された他の共存する改変は、ナザルチニブに対する奏効の質とほとんど関連がなかった。
【0107】
AURA3のCNS転移患者におけるオシメルチニブについて有効性が報告されており、PFSのハザード比は、全集団のそれと同等であった(それぞれ0.32[95%CI、0.21~0.49]対0.30[95%CI、0.23~0.41])(Mok et al.N Engl J Med 2017;376:629-40)。ロシレチニブによるCNS活性の欠如は、第I/II相試験からの成熟したデータに報告された確定奏効率の低下に寄与している可能性がある。ロシレチニブは、最初に、以前のEGFR TKI中に進行したEGFR T790M-変異NSCLCを有する患者において59%のORRを示した(Sequist et al.N Engl J Med 2015;372:1700-9)。しかし、後の成熟データの解析は、28~45%という低下した確定奏効率を示した(Sequist et al.N Engl J Med 2016;374;2296-7;Business Wire.Clovis Oncology announces regulatory update for rociletinib NDA filing.November 16,2015:world wide web.businesswire.com/news/home/20151116005513/en/)。これらの著者らは、早期脳転移が、初期奏効を確認することができなかったことに起因し得ると仮定した(Sequist et al.N Engl J Med 2016;374;2296-7)。これに続いて、Clovis Oncologyは、ロシレチニブの臨床開発を中止した(OncLive.Clovis Ends Development of Rociletinib in Lung Cancer.May 06,2016:world wide web://global.onclive.com/web-exclusives/clovis-ends-development-of-rociletinib-in-lung-cancer)。対照的に、この試験においてナザルチニブで処置したEGFR T790MNSCLCを有する患者に、脳のみの進行を経験した者はなく、ベースライン脳病変を有する患者の14%は、ナザルチニブによる処置中にこれらの病変の消散を有した。これらのデータは、ナザルチニブが脳内の病変に対して有意味な抗腫瘍活性を及ぼすことを示唆している。
【0108】
ナザルチニブは、一般に、耐容性が良好であり;ほとんどの薬剤関連有害事象は、低又は中グレードであった。6人の患者が150mgQD以上の用量でDLTを経験した。最も一般的な有害事象は、発疹、下痢及び掻痒であり;オシメルチニブ及びオルムチニブなど、他の第3世代EGFR TKIで観察されるものと類似していた(Mok et al.N Engl J Med 2017;376:629-40;Park et al.J Thorac Oncol 2016;11(4 Suppl):S113,0864(16)30243-X.Epub 2016 Apr 15)。発疹は、薬剤関連であることが疑われる最も一般的な有害事象であった。ナザルチニブによる処置時に発生する発疹は、EGFRwtをターゲティングするEGFR TKIを用いる処置に多くの場合に関連するざ瘡様/膿疱疹と異なる。ナザルチニブ処置時の発疹は、主として低グレードの斑点状丘疹であり、通常、急性且つ自己限定性であり、処置の最初の4~6週間にわたって発生する。このタイプの発疹は、抗アレルギー処置及び/又は投与中断若しくは用量低減に応答し、再発は稀であった。
【0109】
2人の患者は、ナザルチニブ処置によりHBV再活性化を経験し、2人とも225mgQDにより処置を受けていたが、肝不全を引き起こし、1人が死亡した。これらの患者におけるウイルス再活性化の明確な機構は、わかっていないが、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)などのTecファミリー内のキナーゼに対するナザルチニブの阻害効果に関連する可能性がある。ウイルス肝炎再活性化は、他の抗腫瘍治療法に関連して報告されている。この試験において、HBV及びHCVスクリーニング、モニタリング及び管理アルゴリズムの開始後、HBV再活性化のさらなる症例は、報告されなかった。
【0110】
さらに、好ましい安全性プロフィールが観察され、試験した全用量レベルで効果が達成され、野生型に対して変異EGFRへのナザルチニブの選択性も、耐容性が許容可能な他の抗腫瘍剤とナザルチニブの併用を可能にする上で十分な治療ウィンドウが存在することを示している。こうした併用アプローチは、第1及び第3世代EGFR TKIに対して一般に報告されている耐性の機構である、MET増幅などのTKI耐性を解決する必要があるであろう(Sequist et al.Sci Transl Med 2011;3:75ra26;Piotrowska et al.J Clin Oncol 2017;35:(suppl;abstr 9020);Oxnard et al.AACR Annual Meeting 2017;(abstr.4112/22))。MET阻害剤カプマチニブと組み合わせたナザルチニブの個別の試験(第I/II相;NCT02335944)は、EGFR変異NSCLCを有する患者において進行中である。進行性EGFR変異NSCLCを有する患者において治療耐性の出現を阻止するか又は遅延させることを目標にして、さらなる組み合わせも臨床的に探求され得る。
【0111】
ベースラインで脳転移を有する患者における臨床活性
無症候性及び/又は以前処置を受けた安定した脳転移を有する患者は、この試験への参加が許可された。第3世代EGFR TKI治療未経験であるEGFR T790M変異NSCLCを有する162人の患者のうち、46(28%)がベースラインで脳転移を有した。これらの患者のうちの45人(98%)において、脳病変は、非標的病変としてのみ記録された。これらの45人の患者のうちの7人において、処置期間中、脳非標的病変が放射線で検出不能になった(100mg、150mg及び225mgナザルチニブ群において、それぞれ1/9、3/23及び3/9患者)。1人のこうした患者は、EGFR ex19del/T790M NSCLCを有する69歳のアジア系男性患者であり、この患者は、以前にゲフィチニブ及びアファチニブによる処置を受けていた。この患者は、ベースライン時に多数の小さい脳転移があり、これまで脳に対する局所療法を受けたことがなかった。ナザルチニブ処置後、患者は、11.1ヶ月の期間の全部分奏効を達成し、最初のベースライン後評価により、脳転移は、放射線で検出不能となった。
【0112】
29.6ヶ月(全患者)及び29.2ヶ月(ベースライン時に脳転移を有する患者)の中央値追跡期間後、118/全患者162人(73%)及び33/ベースライン時に脳転移を有する患者46人(72%)が疾患の進行を経験した。進行した118人の患者のうち、19人(16%)のみが脳内に転移を経験し、12人(10%)のみが、脳外部での同時進行の記録を伴わずに脳内に転移を経験した(これらの患者のうちの5人は、ベースライン時に脳転移を有した)。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】
【0118】
【表6】
【0119】
【表7】
【0120】
【表8】
【0121】
【表9】
【0122】
【表10】
【0123】
【表11】
【0124】
結論として、これらの結果は、EGFR変異NSCLC患者においてナザルチニブの有望な臨床活性を実証するものである。特に、これらの結果は、とりわけEGFR変異NSCLCに罹患した患者において、ナザルチニブがCNS転移、脳転移及び軟膜転移の治療又は予防に有効である可能性があることを示している。
【0125】
実施例2:以前処置を受けたことがないEGFR変異非小細胞肺癌(NSCLC)の成人患者における単剤ナザルチニブの第II相試験
このナザルチニブの第I/II相試験は、活性化EGFR L858R及び/又はex19del変異を有する進行性EGFR変異NSCLCの治療未経験患者に実施した。
【0126】
45人の患者全員が連続スケジュールで1日1回150mgの推奨第II相経口用量を受けた。中央盲検独立評価(BICR)により評価されるように、RECIST v1.1に従う全奏効率(ORR)を含む抗腫瘍活性を主要目的として使用し、副次目的には、安全性、耐容性及び薬物動態が含まれた。年齢中央値は、64歳であり、試験に参加した患者の60%が女性であり、62%がアジア系であった。58%は、ECOGパフォーマンスステータス1を有し、18人(45%)の患者は、ベースライン時に脳転移を有した。EGFR変異は、患者の56%でex19delであり、40%でL858Rであり、患者の4%は、他のEGFR変異を有した。45人の患者の29人は、ナザルチニブに対する応答を示し、64%のORRを取得した(95%信頼区間[CI]、49%~78%)。1人の患者は、完全奏効を達成した。
【0127】
2018年3月22日のデータカットオフ時、奏効は、29人の応答患者のうちの27人において継続中であった。6ヶ月の奏効率期間率(DoR)は、91%であり、DoR中央値は、推定不能(NE)であり、依然として入手できない。病勢コントロール率は、93%であった。
【0128】
ナザルチニブを用いて、6ヶ月の無増悪生存期間率は、83%(中央値NE)であり、6ヶ月の全生存率は、95%(中央値NE)であった。
【0129】
非標的病変にベースライン脳転移を有する17人の患者の評価により、9人(53%)の患者が脳転移の消散を示したことが明らかにされた。ベースライン脳転移のない27人の患者のうちの1人は、試験中に新たな脳転移を発生した。2018年3月22日のデータカットオフ時、29人の応答患者のうちの27人において、奏効が継続中であった。6ヶ月の奏効率期間(DoR)は、91%であり、DoR中央値は、推定不能(NE)であった。病勢コントロール率は、93%であった。
【0130】
ナザルチニブを用いて、6ヶ月の無増悪生存期間率は、83%(中央値NE)であり、6ヶ月の全生存率は、95%(中央値NE)であった。
【0131】
良好な脳透過を有する有効な第3世代EGFR-TKIのデータポイントである。ナザルチニブは、有望な効果を示し、ベースライン脳転移を有する患者を含め、進行性EGFR変異NSCLCを有する治療未経験患者に持続的な奏効をもたらした。
【0132】
カットオフ日の15週間前に参加した患者に関する予備データ
カットオフ日の15週間前に参加した評価可能な患者に基づく以下のデータセットは、ナザルチニブが、中枢神経系(CNS)転移、脳転移及び軟膜転移である転移の治療又は予防に特に有用であり得ることをさらに示している。
【0133】
ベースライン時の脳転移は、コンピュータ断層撮影(CT)/磁気共鳴画像法(MRI)により評価した。24人(42%)の評価可能な患者のうちの10人は、ベースライン時に脳転移を有した。ナザルチニブは、ベースライン時に脳転移があり、且つ脳転移がない両方の患者に有効であった(下の表を参照されたい)。完全及び/又は部分奏効は、BIRCにより、ベースライン時に脳転移があり、且つ脳転移がない5/10人(ORR50%)及び11/14人(ORR79%)の患者でそれぞれ達成された。DCR(安定、部分奏効及び完全奏効)は、BIRCにより、脳転移がある患者(90%)及び脳転移がない患者(100%)で類似していた。これは、ナザルチニブが脳に透過しており、従って脳腫瘍の治療に有効であることを示唆している。
【0134】
【表12】
【0135】
加えて、EGFR変異(ex19del、G719S/A/C)肺腺癌、AJCCステージIV(脳、骨、肝臓)を有する49歳の女性患者は、最良全奏効としてPRを示した。サイクル5の第1日(試験日113)に実施したベースライン後の脳スキャンは、BIRCによるベースラインと比較して脳病変の完全な正常化を示した。この患者は、これまで脳転移のための処置を受けたことがなく、従って、この結果は、ナザルチニブによるものであり、放射線治療又は他の治療に対する遅延応答ではないことを示唆している。
【0136】
実施例3:EGFR活性化変異を有する局所進行性又は転移性非小細胞肺癌を有する患者における第1選択治療としての治験責任医師の選択(エルロチニブ又はゲフィチニブ)に対する単剤ナザルチニブのランダム化、非盲検、第III相試験
この試験の目的は、治療未経験であり、且つその腫瘍がEGFR活性化変異(L858R又はex19del)を有する局所進行性又は転移性NSCLCを有する患者において、治験責任医師の選択(エルロチニブ又はゲフィチニブ)と比較し、中央BIRCにより決定されるように、PFSにより評価される単剤EGF816の優越性を評価することである。
【0137】
この試験の主要目的は、中央BIRC及び固形癌効果判定基準(RECIST 1.1)に従い、PFSにより測定されるように、治験責任医師の選択(エルロチニブ又はゲフィチニブ)に対して単剤EGF816の効果を比較することである。この試験の重要な副次目的は、治験責任医師の選択(エルロチニブ又はゲフィチニブ)に対して単剤EGF816の全生存期間(OS)を比較することである。他の副次目的は、以下の通りである:
・治験責任医師によって決定される通り、PFSにより、中央BIRCにより決定される通り、ORR、DoR、病勢コントロール率(DCR)及び奏効までの期間(TTR)により、治験責任医師の選択(エルロチニブ又はゲフィチニブ)と比較して単剤EGF816の効果を評価すること。
・EGF816の長期利益を評価すること。
・ベースライン時にCNS疾患を有する患者について、改訂RECIST 1.1に従い、中央神経放射線科医BIRCにより決定される通り、CNSにおける無増悪期間、CNSにおけるORR及びCNSにおけるDoRにより測定されるように、治験責任医師の選択(エルロチニブ又はゲフィチニブ)と比較して中枢神経系(CNS)におけるEGF816の抗腫瘍活性を評価すること。
・単剤EGF816の薬物動態(PK)を特性決定すること。
・治験責任医師の選択(エルロチニブ又はゲフィチニブ)と比較して、患者の疾患関連症状及び健康関連クオリティオブライフ(HRQoL)を含む患者報告アウトカム(PRO)に対する単剤EGF816の影響を評価すること。
・治験責任医師の選択(エルロチニブ又はゲフィチニブ)と比較して単剤EGF816の安全性及び耐容性を評価すること。
【0138】
試験集団は、EGFR活性化変異(L858R又はex19del)を有する局所進行性又は転移性NSCLCを有し、且つ治療未経験である成人患者を含む。
【0139】
患者は、アームA(治験責任医師の選択):何も食べずに摂取されるエルロチニブ150mgQD又は食べ物と一緒に若しくは何も食べずに摂取されるゲフィチニブ250mgQD、或いはアームB:食べ物と一緒に又は何も食べずに摂取されるEFG816 50mgQD、又は75mgQD、又は100mgQD、又は150mgQDのいずれかに1:1の比でランダム化する。
【0140】
背景
第3世代EGFR阻害剤の1つであるオシメルチニブ(Tagrisso(登録商標))は、EGFR-TKI治療中又は治療後に進行した患者において、転移性EGFR T790M変異陽性NSCLCについて適用される(Janne et al.2015,N Engl J Med.,vol.372(18),pp.1689-1699)。
【0141】
オシメルチニブの場合、FLAURA(NCT02296125)試験においてEGFR変異NSCLCの第1選択治療に陽性結果が報告された。治験責任医師は、無増悪生存期間中央値が、標準EGFR-TKIよりもオシメルチニブを用いた方が有意に長かったことを報告した(10.2ヶ月に対して18.9ヶ月;疾患進行又は死亡のHR、0.46;95%信頼区間[CI]、0.37~0.57;P<0.001)。客観的奏効率(ORR)は、2つの群で類似していた:オシメルチニブで80%、標準EGFR-TKIで76%(オッズ比、1.27;95%CI、0.85~1.90;P=0.24)。奏効期間中央値は、オシメルチニブで17.2ヶ月(95%CI、13.8~22.0)であったのに対し、標準EGFR-TKIでは8.5ヶ月(95%CI、7.3~9.8)であった。全生存期間に関するデータは、中間解析の時点で未熟であった(25%成熟)。18ヶ月時点での生存率は、オシメルチニブで83%(95%CI、78~87)であり、標準EGFR-TKIでは71%(95%CI、65~76)であった(死亡のハザード比、0.63;95%CI、0.45~0.88;P=0.007[中間解析では非有意])。あらゆる原因による最も一般的に報告された有害事象(AE)は、発疹又はざ瘡(オシメルチニブ群の場合に58%、標準EGFR-TKI群では78%)、下痢(それぞれ58%及び57%)、皮膚の乾燥(各群で36%)であった。グレード3以上のAEは、標準EGFR-TKIよりもオシメルチニブの方が低頻度であった(45%に対して34%)(Soria et al.2018,N Engl J Med,vol.378(2),pp.113-125)。
【0142】
エルロチニブ(Tarceva(登録商標))は、EGFR TKの経口で有効である強力な選択性阻害剤である。エルロチニブは、その腫瘍がEGFR ex19del又はL858R置換変異を呈示した転移性NSCLCを有する患者の第1選択治療のためにほとんどの国で承認されている。さらなる情報については、エルロチニブ(Tarceva(登録商標))ローカルラベルを参照されたい。
【0143】
EGFR ex19del又はL858R置換突然変異を含有する転移性NSCLCを有する患者の第1選択治療のための単剤としてのエルロチニブの安全性及び有効性は、欧州において実施されたランダム化、非盲検、臨床試験で実証され(EURTAC試験)、その際、174人の患者が1:1にランダム化されて、150mgのエルロチニブを1日1回又は白金製剤との2剤併用化学療法(n=88)を受けた。PFS中央値は、治験責任医師により評価されるように、白金製剤による化学療法の5.2ヶ月と比較してエルロチニブでは9.7ヶ月であり、OSに改善はなかった(Rosell et al.2012,Lancet Oncol.vol.13(3),pp.239-246)。
【0144】
プール解析から、エルロチニブによる最も一般的な有害反応(≧20%)は、発疹(ほとんどの場合、ざ瘡様)、下痢、拒食症、倦怠感、呼吸困難、咳、吐き気及び嘔吐であった。ILDは、患者の1.1%で起こった。
【0145】
ゲフィチニブ(Iressa(登録商標))は、EGFR TKの強力且つ選択的な可逆的阻害剤である。ゲフィチニブは、その腫瘍がEGFR ex19del又はL858R置換変異を有する転移性NSCLCを有する患者の第1選択治療のためにほとんどの国で承認されている。
【0146】
ランダム化第III相一次IPASS試験は、アジアにおいて、過去に低度の喫煙者であり、腺癌の病歴のある進行性(ステージIIIB又はIV)を有する患者について実施された。患者は、1,217人がランダム化(1:1)されて、ゲフィチニブ又はカルボプラチン/パクリタキセルを受けた。EGFR活性化変異を有する患者において、ゲフィチニブは、6.3ヶ月に対して9.5ヶ月という優れたPFS、ORR(47.3%に対して71.2%)を示し、全生存期間は、カルボプラチン/パクリタキセルと比較して有意な差はなかった。
【0147】
ゲフィチニブで処置した2463人の患者の間で最も高頻度で報告された有害な薬物反応(患者の20%超で起こった)は、下痢及び皮膚反応(発疹(ほとんどの場合、ざ瘡様)、ざ瘡、乾燥皮膚及び掻痒)であった。有害な薬物反応は、通常、治療の最初の1ヶ月以内に起こり、一般に可逆的である。約8%の患者が重度の有害薬物反応(グレード3又は4)を示した。患者の約3%は、有害薬物反応のために治療を停止した。ILDは、患者の1.3%に起こり、多くの場合に重度であった(CTCグレード3~4)。致死的転帰を有する症例も報告されている。
【0148】
試験デザインの論理的根拠
これは、EGFR活性化変異(L858R又はex19del)を有する、局所進行性又は転移性NSCLC、ステージIIIB/IIIC(根治的集学的療法に適さない)又はステージIV(Detterbeck et al.2017,Chest,vol.151(1),pp.193-203)の治療未経験患者において、単剤EGF816の有効性及び安全性と治験責任医師の選択(エルロチニブ又はゲフィチニブ)とを比較するためにデザインされた国際、非盲検、多施設、実対照、2アーム、第III相ランダム化試験である。
【0149】
試験の主要目的は、中央BIRC及び固形癌効果判定基準(RECIST 1.1)に従い、PFSにより測定される通り、治験責任医師の選択(エルロチニブ又はゲフィチニブ)と比較して単剤EGF816の効果を評価することである。
【0150】
患者は、2つの処置アーム:
・アームA:150mgQDのエルロチニブ又は250mgQDのゲフィチニブの参照アーム(治験責任医師の選択);
・アームB:50、75、100又は150mgQDのEGF816
の1つに1:1でランダム化される。
【0151】
用量及びレジメン選択の論理的根拠
EGF816の総合的利益/リスク評価は、EGFR活性化変異を有する治療未経験の局所進行性又は転移性NSCLC腫瘍を有する患者の治療に好都合であると考えられる。治験CEGF816X2101の結果に基づき、150mgQDのEGFR用量をRP2Dとして選択した。なぜなら、それは、治験の第I相(用量漸増パート)及び第II相(用量拡大パート)に参加した第2ラインT790M陽性及び第1ラインEGFR変異NSCLC患者において、耐容性が良好であり、且つ抗腫瘍活性を示したためである。治験中止率は、低く、7.5%(n=3)が第II相(用量拡大パート)で中止した(2.5%は、有害事象による)。
【0152】
加えて、治験CEGF816X2101の第I相(用量漸増パート)の有効性データ(確定効果)及び安全性データ(発疹)を用いて、探索的用量曝露-反応解析も実施し、EGF816単剤療法の場合の最適用量として150mgQDを確定した。
【0153】
全体として、第I相(用量漸増)及び第II相(用量拡大)からの有効性及び安全性データ並びに用量/曝露-反応解析に基づき、この第III相試験のための用量として150mgQDを選択したが、この用量は、EGFR活性化変異を有する治療未経験の局所進行性又は転移性NSCLCを有する患者に好ましい利益/リスク比を提供するはずである。
【0154】
結論として、ナザルチニブは、150mgQDの用量において、前処置及び治療未経験のいずれの状況においても安全性が制御しやすく、進行性EGFR変異NSCLCを有する患者において有効であり、150mgQDは、フロントラインEGFR変異NSCLにおいて実施されるこの第III相試験で使用される用量である。
【0155】
方法
試験デザインの説明
これは、EGFR活性化変異(L858R又はex19del)を有する、局所進行性又は転移性NSCLC、ステージIIIB/IIIC(手術を含む根治的集学的療法に適さない)又はステージIVの治療未経験成人患者において、治験責任医師の選択(エルロチニブ又はゲフィチニブ)と比較されるEGF816の有効性及び安全性の評価のための非盲検、多施設、実対照、2アーム、第III相ランダム化試験である。
【0156】
患者は、
・アームA(治験責任医師の選択):何も食べずに摂取されるエルロチニブ150mgQD又は食べ物と一緒に若しくは何も食べずに摂取されるゲフィチニブ250mgQD、又は
・アームB:食べ物と一緒に又は何も食べずに摂取されるEFG816 50、75、100又は150mgQD
のいずれかに1:1の比でランダム化される。
【0157】
一方の処置アームから他方への移動が可能である。アームA(治験責任医師の選択)内において、治験期間中、他方の薬剤(エルロチニブ又はゲフィチニブ)への変更は認められない。
【0158】
治験は、以下の期間を含む。
・分子プレスクリーニング期間
・スクリーニング期間(主要なインフォームドコンセント用紙(ICF)の署名から、ランダム化の最大28日前まで)
・進行性疾患、許容不可能な毒性又は他のあらゆる理由による試験処置の中止までの処置期間
・安定性追跡期間(試験薬剤の最後の投与から30日後)
・同意の取り消し、進行性疾患、妊娠、新規の抗腫瘍療法の開始、追跡不能、スポンサーによる治験の停止又は死亡以外の理由で試験処置を中止する患者の処置後の追跡
・PFS2を含む生存フォローアップ
【0159】
参加基準
この治験への参加に適格な患者は、以下の基準を全て満たさなければならない。
- あらゆるスクリーニング手順前に取得される書面によるインフォームドコンセント
- EGFR活性化変異(L858R又はex19del)が記録された局所進行性又は転移性、ステージIIIB/IIIC又はステージIV NSCLCの病歴
- EGFR変異状態の遡及的解析を可能にするための腫瘍組織サンプルの提出
- 高度セッティングでのいずれかの全身抗腫瘍療法による治療を以前受けていないこと
- 以前の治療に関連するあらゆる毒性からの回復
- RECIST 1.1による少なくとも1つの測定可能な病変の存在
- 米国東海岸癌臨床試験グループ(ECOG)パフォーマンス≦1
- スクリーニング外来時に下記の臨床検査値を満たすこと:
・絶対好中球数≧1.5×109/L
・血小板≧75×109/L
・ヘモグロビン(Hgb)≧9g/dL
・Cockcroft-Gault式を用いて、クレアチニンクリアランス≧45mL/min
・総ビリルビン≦1.5×ULN
・アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)≦3.0×ULN、肝転移患者を除くが、AST≦5.0×ULNの場合に限り参加が可能
・アラニントランスアミナーゼ(ALT)≦3.0×ULN、肝転移患者を除くが、AST≦5.0×ULNの場合に限り参加が可能
【0160】
除外基準
- EGFR-TKIによる以前の治療
- 既知T790M陽性改変。L858R又はex19del以外のいずれか他の既知EGFR活性化変異。その腫瘍がL858R又はex19del EGFR変異と同時に他のEGFR変異を有する患者は適格である。
- 症候性脳転移
- 間質性肺疾患又は間質性肺炎
- 治験責任医師の判断において、安全性に対する懸念、臨床試験手順との適合性又は試験結果の解釈を原因とする治験中の患者の状態であり得るいずれかの医学的状態
- 過去3年以内に診断及び/又は治療が必要であったNSCLC以外の悪性疾患の存在又は病歴
- 臨床的に有意な眼科学的異常の存在
- あらゆるグレードの水疱症及び剥脱性皮膚障害
- 血小板減少症を伴う細血管障害性溶血性貧血の存在又は病歴
- ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染の検査結果が陽性の既知病歴
- 心臓又は心再分極異常
- 大手術:試験処置開始の≦4週間前であるか又はそうした手術の副作用から回復していない者
- 錠剤又はカプセル剤を飲み込むことができないか又はそれを嫌がる者
- 妊娠しているか又は看病中のいずれかである女性患者
- 妊娠の可能性があり、試験プロトコルで規定される極めて有効な避妊方法の使用を拒むか又は使用することができない女性
- 薬剤の摂取期間中及び試験処置の最後の投与から3ヶ月間性交時にコンドームを使用する場合を除いて性的に活動的な男性。
【0161】
投薬レジメン
EGF816、エルロチニブ又はゲフィチニブは、連続投薬スケジュールで1日1回経口投与される。完全な処置サイクルは、21日の毎日投与と規定される(表8)。
【0162】
【表13】
【0163】
【表14】

本発明は次の実施態様を含む。
[1]
患者における転移の治療又は予防に使用するための、ナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩である化合物であって、前記転移は、中枢神経系(CNS)転移、脳転移及び軟膜転移から選択され、任意選択で、前記転移は、非小細胞肺癌(NSCLC)、特にEGFR変異(エキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換)を有するNSCLCなどの一次病変の結果である、化合物。
[2]
ナザルチニブは、そのメシル酸塩の形態である、上記[1]に記載の使用のための化合物。
[3]
前記患者は、局所進行性又は転移性非小細胞肺癌(NSCLC)を有する患者である、上記[1]又は[2]に記載の使用のための化合物。
[4]
前記NSCLCは、EGFR活性化変異を有する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の使用のための化合物。
[5]
前記EGFR活性化変異は、L858R変異である、上記[4]に記載の使用のための化合物。
[6]
前記EGFR活性化変異は、ex19del変異である、上記[4]又は[5]に記載の使用のための化合物。
[7]
前記患者は、進行して脳転移、CNS転移及び/又は軟膜転移を発症しているNSCLC患者である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の使用のための化合物。
[8]
前記患者の無増悪生存期間(PFS)は、例えば、エルロチニブ又はゲフィチニブによる処置後に得られるPFSに対して改善される、上記[1]~[7]のいずれかに記載の使用のための化合物。
[9]
前記患者の全生存期間(OS)は、例えば、エルロチニブ又はゲフィチニブによる処置後に得られるOSに対して改善される、上記[1]~[8]のいずれかに記載の使用のための化合物。
[10]
前記患者の全奏効率(ORR)は、例えば、エルロチニブ又はゲフィチニブによる処置後に得られるORRに対して改善される、上記[1]~[9]のいずれかに記載の使用のための化合物。
[11]
CNS又は脳における無増悪期間(TPP)は、例えば、エルロチニブ、ゲフィチニブ又はオシメルチニブ投与/処置によるCNS又は脳におけるTPPと比較して増加する、上記[1]~[10]のいずれかに記載の使用のための化合物。
[12]
CNS又は脳ORRは、例えば、エルロチニブ、ゲフィチニブ又はオシメルチニブ処置によるCNS ORRと比較して増加する、上記[1]~[11]のいずれかに記載の使用のための化合物。
[13]
CNS又は脳奏効期間(DoR)は、例えば、エルロチニブ、ゲフィチニブ又はオシメルチニブ処置によるCNS又は脳DoRと比較して増加する、上記[1]~[12]のいずれかに記載の使用のための化合物。
[14]
ナザルチニブは、単剤療法として使用される、上記[1]~[13]のいずれかに記載の使用のための化合物。
[15]
転移性非小細胞肺癌(NSCLC)を有する患者の第1選択治療において、脳転移を含む中枢神経系(CNS)転移の治療又は予防に使用するためのナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩であって、前記癌は、EGFR変異(例えば、エキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換)を有する、ナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩。
[16]
単剤療法(NSCLCの治療のための単剤)又はNSCLCの治療のための併用療法の一部として使用される、上記[15]に記載の使用のためのナザルチニブ。
[17]
約50~約200mgの範囲から選択される(例えば、約150mgの)合計用量で毎日投与され、好ましくは1日1回投与される、上記[1]~[16]のいずれかに記載の使用のためのナザルチニブ。
[18]
NSCLCを有する患者を治療する方法であって、エキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換EGFR変異を有すると事前に判定された患者に治療有効量のナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩を選択的に投与するステップを含む方法。
[19]
NSCLCを有する患者を治療する方法であって、
(a)前記患者がエキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換EGFR変異を有することを判定するか又は判定しているステップと;
(b)前記患者に治療有効量のナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩を投与するステップと
を含む方法。
[20]
NSCLCを有する患者を治療する方法であって、患者を、前記患者がエキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換EGFR変異を有すると事前に判定されたことに基づいて治療のために選択するステップと、前記患者に治療有効量のナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩を投与するステップとを含む方法。
[21]
前記患者は、中枢神経系(CNS)転移、脳転移及び軟膜転移から選択される転移を有する患者である、上記[18]~[20]のいずれかに記載の方法。
[22]
前記治療有効量は、約50~約200mgの範囲から選択され(例えば、約150mgであり)、好ましくは1日1回投与される、上記[18]~[21]のいずれかに記載の方法。
[23]
患者における転移の治療又は予防に使用するための、ナザルチニブ又はその薬学的に許容される塩である化合物であって、前記転移は、中枢神経系(CNS)転移、脳転移及び軟膜転移から選択され、任意選択で、前記転移は、非小細胞肺癌(NSCLC)などの一次病変の結果であり、特に、前記患者は、EGFR変異(エキソン19欠失又はエキソン21(L858R)置換)を有するNSCLCを有すると事前に判定されている、化合物。

図1