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特許7399885内胚葉細胞から肝臓系統の細胞集団を作り出すためのプロセス、及び、それを含む細胞組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】内胚葉細胞から肝臓系統の細胞集団を作り出すためのプロセス、及び、それを含む細胞組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20231211BHJP
【FI】
C12N5/071
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020564836
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 CA2019050705
(87)【国際公開番号】W WO2019222853
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】62/676,582
(32)【優先日】2018-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519185052
【氏名又は名称】バロリゼーション-エイチエスジェイ リミテッド パートナーシップ
【氏名又は名称原語表記】VALORISATION-HSJ, LIMITED PARTNERSHIP
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181847
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】マッシミリアーノ パガネッリ
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア ラッジ
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-534269(JP,A)
【文献】国際公開第2017/048193(WO,A1)
【文献】Stem Cells,2016年,Vol.34,pp.2635-2647
【文献】Stem Cell Reports,2018年03月13日,Vol.10,pp.780-793
【文献】bioRxiv,2017年,doi: https://doi.org/10.1101/174698
【文献】Gastroentertology,2010年,Vol.138,pp.2233-2245
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内胚葉細胞から後方前腸細胞を作り出すプロセスであって、前記プロセスは、前記内胚葉細胞を、インスリンを含まない第1の培養培地と接触させることを含み、かつ、前記内胚葉細胞を前記後方前腸細胞に分化させることを許容する条件下で第1の添加剤セットを含み、前記第1の添加剤セットは、インスリンを含んでおらず、かつ:
●骨形態形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の活性化因子であるBMP4
●線維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達経路の活性化因子であるbFGF
●Wntシグナル伝達経路の阻害因子であるIWP2;及び
●形質転換成長因子β(TGFβ)シグナル伝達経路の阻害因子であるA83-01、を含む、または、それらからなる、前記プロセス。
【請求項2】
前記後方前腸細胞から肝前駆細胞を作り出すこと、及び、肝前駆細胞から肝細胞様細胞を作り出すことをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記第1の培養培地は、血清を含む、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記内胚葉細胞は、SOX17、GATA4、FOXA2、CXCR4、または、EOMESの内の少なくとも1つを発現する、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記内胚葉細胞は、c-Kitを発現することができない、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項6】
前記後方前腸細胞は、SOX2、FOXA1、FOXA2、HNF4a、AFP、または、アルブミンの内の少なくとも1つを発現する、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項7】
請求項1または2に記載のプロセスによって取得した後方前腸細胞の集団であって、
前記後方前腸細胞がFOXA1、GATA4、FOXA2、HNF4a、HHEXおよび、PROX1遺伝子を発現する、後方前腸細胞の集団
【請求項8】
請求項1に記載の第1の添加剤セットを含み、かつ、インスリンシグナル伝達経路の活
性化因子を含まない第1の培養培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年5月25日に出願した米国仮出願第62/676582号の優先権を主張するものであり、その出願の全内容を、本明細書の一部を構成するものとして援用する。
【背景技術】
【0002】
生存能力を備えており、かつ、機能的な肝細胞様細胞を高収率で取得すること、とりわけ、そのような細胞を、人工多能性幹細胞などの多能性幹細胞から分化させて取得することが困難であることは証明されている。再現性のある方法で、均質な細胞集団を取得することが困難であることも証明されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、特に、治療薬、及び/または、潜在的治療薬などの分子の代謝を可能ならしめる生物学的活性を示す肝細胞系統由来の細胞の提供が待望されている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、培養の間に特定の添加剤を提供または除外することによって、多能性細胞を、生存能力を備えており、かつ、機能的である肝細胞様細胞に分化させるプロセスに関する。このプロセスは、多能性細胞(または、結果として生じる分化細胞)を中胚葉系統へ分化することを促さず、また、一部の実施形態では、それを許容せずに、多能性細胞を内胚葉系統に分化させるプロセスでもある。このプロセスは、内胚葉への分化を促すために、Wnt経路(Nodal発現を許容する)、及び、TGFβ経路の活性化を含む。内胚葉の前後パターンの最初の移行は、胚体内胚葉の後端でのWnt、FGF、及び、BMPシグナル伝達の組み合わせで開始する。TGFβ経路の阻害、ならびに、FGF及びBMPシグナル伝達の使用と相まって、前方内胚葉におけるWnt経路の初期抑制は、Hex(肝臓(及び、膵臓)の発達に必要である)の発現を可能にする。Wntシグナル伝達の最初の抑制の直後に、肝臓の成長のための同じ経路が活性化を受ける。分化を促すための肝間葉、及び、内皮細胞由来のFGF、BMP、Wnt、及び、HGF経路を含む継続的なシグナル伝達。肝細胞様細胞への成熟には、サイトカイン、糖質コルチコイド、HGF、及び、Wntが有用である。OSMなどのサイトカインは、分極した上皮への形態学的成熟を誘導する。
【0005】
第1の態様では、本開示は、内胚葉細胞から後方前腸細胞を作り出すプロセスを提供する。このプロセスは、内胚葉細胞を、インスリンを含まない第1の培養培地と接触させること、及び、内胚葉細胞から後方前腸細胞への分化を許容する条件下で第1の添加剤セットを含む、ことを含む。第1の添加剤セットは、インスリンを含んでおらず、かつ、骨形態形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の活性化因子;線維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達経路の活性化因子;Wntシグナル伝達経路の阻害因子;及び、形質転換成長因子β(TGFβ)シグナル伝達経路の阻害因子を含む、または、本質的にそれらからなる。ある実施形態では、第1の培養培地は、血清を含む。別の実施形態では、BMPシグナル伝達経路の活性化因子は、BMP受容体アゴニスト、例えば、BMP4である。別の実施形態では、FGFシグナル伝達経路の活性化因子は、FGF受容体アゴニスト、例えば、塩基性FGFである。さらなる実施形態では、Wntシグナル伝達経路の阻害因子は、Porcupine、例えば、IWP2の生物学的活性を阻害することができる。さらに別の実施形態では、TGFβシグナル伝達経路の阻害因子は、ALK4、ALK5、または、ALK7の内の少なくとも1つ、例えば、A83-01の生物学的活性を阻害することができる。ある実施形態では、内胚葉細胞は、SOX17、GATA4、FOXA2、CXCR4、または、EOMESの内の少なくとも1つを発現し、及び/または、c-Kitを実質的に発現しない。本開示に関連して使用する後方前腸細胞の細胞集団は、細胞の3%未満が、c-Kitマーカーに対して陽性であると、「c-Kitを、実質的に発現することができない」。したがって、後方前腸細胞に由来する細胞は、それらの内胚葉起源が故に、c-Kitを実質的に発現することもできない。別の実施形態では、後方前腸細胞は、SOX2、FOXA1、FOXA2、HNF4a、AFP、または、アルブミンの内の少なくとも1つを発現する。本開示は、本明細書に記載したプロセスによって取得可能である、または、取得した後方前腸細胞の集団も提供する。
【0006】
第2の態様では、本開示は、後腸前腸細胞から肝前駆細胞を作り出すためのプロセスを提供する。このプロセスは、後方前腸細胞から肝前駆細胞への分化を許容する条件下で、後方前腸細胞を、第2の添加剤セットを含む第2の培養培地と接触させることを含み、第2の添加剤セットは:インスリンシグナル伝達経路の活性化因子;骨形態形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の活性化因子;線維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達経路の活性化因子;肝細胞成長因子(HGF)シグナル伝達経路の活性化因子;及び、Wntシグナル伝達経路の活性化因子を含む、または、本質的にそれらからなる。ある実施形態では、第2の培養培地は、血清を含む。別の実施形態では、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子は、インスリン受容体アゴニスト、例えば、インスリンである。別の実施形態では、BMPシグナル伝達経路の活性化因子は、BMP受容体アゴニスト、例えば、BMP4である。さらなる実施形態では、FGFシグナル伝達経路の活性化因子は、FGF受容体アゴニスト、例えば、塩基性FGFである。さらに別の実施形態では、HGFシグナル伝達の活性化因子は、HGF受容体アゴニスト、例えば、HGFである。さらに別の実施形態では、Wntシグナル伝達経路の活性化因子は、GSK3、例えば、CHIR99021の生物学的活性を阻害することができる。ある実施形態では、後方前腸細胞は、SOX2、FOXA1、FOXA2、HNF4a、AFP、または、アルブミンの内の少なくとも1つを発現する。別の実施形態では、肝細胞前駆細胞は、α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、サイトケラチン7(CK7)、サイトケラチン19(CK19)、SOX9、PDX1、PROX1、または、HNF4aの内の少なくとも1つを発現する。本開示はまた、本明細書に記載したプロセスによって取得可能である、または、取得した肝細胞前駆細胞の集団を提供する。
【0007】
第3の態様によれば、本開示は、肝前駆細胞から肝細胞様細胞を作り出すためのプロセスを提供する。このプロセスは、(i)肝細胞系統の細胞を取得する条件下で、肝前駆細胞を、第3の添加剤セットを含む第3の培養培地と接触させる、(ii)未成熟肝細胞様細胞を取得する条件下で、肝細胞系統の細胞を、第4の添加剤セットを含む第4の培養培地と接触させる、及び、(iii)成熟肝細胞様細胞を取得する条件下で、未成熟肝細胞様細胞を、サイトカインを含まず、かつ、第5の添加剤セットを含む第5の培養培地と接触させる、ことを含む。第3の添加剤セットは、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子、骨形態形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の活性化因子、線維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達経路の活性化因子、肝細胞増殖因子(HGF)シグナル伝達経路の活性化因子、Wntシグナル伝達経路の活性化因子、形質転換成長因子β(TGFβ)シグナル伝達経路の阻害因子、サイトカイン、及び、糖質コルチコイドを含む、または、本質的にそれらからなる。第4の添加剤セットは、サイトカイン、及び、糖質コルチコイドを含む、または、本質的にそれらからなる。第5の添加剤セットは、サイトカインを含まず、かつ、糖質コルチコイドを含む、または、本質的にそれからなる。ある実施形態では、第4、第5、及び/または、第6の培養培地は、血清を含む。別の実施形態では、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子は、インスリン受容体アゴニスト、例えば、インスリンである。さらなる実施形態では、BMPシグナル伝達経路の活性化因子は、BMP受容体アゴニスト、例えば、BMP4である。さらに別の実施形態では、FGFシグナル伝達経路の活性化因子は、FGF受容体アゴニスト、例えば、塩基性FGFである。さらに別の実施形態では、HGFシグナル伝達経路の活性化因子は、HGF受容体アゴニスト、例えば、HGFである。なおも別の実施形態では、Wntシグナル伝達経路の活性化因子は、GSK3、例えば、CHIR99021の生物学的活性を阻害することができる。さらに別の実施形態では、TGFβシグナル伝達経路の阻害因子は、ALK4、ALK5、または、ALK7の内の少なくとも1つ、例えば、A83-01の生物学的活性を阻害することができる。別の実施形態では、サイトカインは、オンコスタチンM(OSM)である。別の実施形態では、糖質コルチコイドは、デキサメタゾンである。さらに別の実施形態では、肝前駆細胞は、α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、サイトケラチン7(CK7)、サイトケラチン19(CK19)、SOX9、PDX1、PROX1、または、HNF4aの内の少なくとも1つを発現する。さらに別の実施形態では、未成熟肝細胞様細胞、及び/または、成熟肝細胞様細胞は、α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、ASGR1、HNF4a、または、SOX9の内の少なくとも1つを発現する。ある実施形態では、成熟肝細胞様細胞は、検出可能なCyp3A4活性を有しており、検出可能なレベルのアルブミン、及び/または、尿素を発現する。本開示は、本明細書に記載したプロセスによって取得可能である、または、取得した肝細胞様細胞の集団も提供する。
【0008】
第4の態様によれば、本開示は、内胚葉細胞から肝前駆細胞を作り出すためのプロセスを提供する。このプロセスは、(a)本明細書に記載したプロセスを実行して、後方前腸細胞を取得する、または、本明細書に記載した後方前腸細胞の集団を提供する;及び、(b)後方前腸細胞を、本明細書に記載したプロセスに供して、肝前駆細胞を取得する、ことを含む、または、本質的にそれらからなる。本開示は、本明細書に記載したプロセスによって取得可能である、または、取得した肝前駆細胞の集団も提供する。
【0009】
第5の態様によれば、本開示は、肝前駆細胞から肝細胞様細胞を作り出すためのプロセスを提供する。このプロセスは、(a)本明細書に記載したプロセスを実行して、肝前駆細胞を取得する、または、本明細書に記載した肝前駆細胞の集団を提供する;及び、(b)肝前駆細胞を、本明細書に記載したプロセスに供して、肝細胞様細胞を取得する、ことを含む、または、本質的にそれらからなる。本開示は、本明細書に記載したプロセスによって取得可能である、または、取得した肝細胞様細胞の集団も提供する。
【0010】
第6の態様によれば、本開示は、内胚葉細胞から肝細胞様細胞を作り出すためのプロセスを提供する。このプロセスは:(a)本明細書に記載したプロセスを任意に実行して、後方前腸細胞を取得する、または、本明細書に記載した後前腸細胞の集団を任意に提供する;(b)後方前腸細胞を、本明細書に記載したプロセスに供して、肝前駆細胞を取得する、または、本明細書に記載した肝前駆細胞の集団を提供する;及び、(c)肝前駆細胞を本明細書に記載したプロセスに供して、肝細胞様細胞を取得する、ことを含む、または、本質的にそれらからなる。本開示は、本明細書に記載したプロセスによって取得可能である、または、取得した肝細胞様細胞の集団も提供する。
【0011】
第7の態様によれば、本開示は、被包化肝臓組織を作り出すためのプロセスを提供する。このプロセスは、(a)本明細書に記載した肝細胞様細胞の集団を提供する;(b)懸濁液において、肝細胞、間葉細胞、及び、任意の内皮細胞を組み合わせ、そして、培養して、(i)肝細胞様細胞、及び/または、胆管上皮細胞で少なくとも部分的に覆われており、かつ、間葉細胞、及び、任意の内皮細胞を含む細胞コア、(ii)球状の形態、及び、(iii)約50~約500μmの相対直径を含む、少なくとも1つの肝臓オルガノイドを取得する;及び、(c)少なくとも1つの前記肝臓オルガノイドを、第1の生体適合性架橋ポリマーで少なくとも一部を覆う、ことを含む。ある実施形態では、内胚葉細胞と肝細胞様細胞は、培養前に、1:0.2~7の比率で組み合わせる。別の実施形態では、肝細胞と内皮細胞は、培養前に、1:0.2~1の比率で組み合わせる。さらに別の実施形態では、肝細胞、内胚葉細胞、及び、内皮細胞の内の少なくとも1つは、多能性幹細胞などの多能性細胞を分化して取得する。ある実施形態では、内皮細胞は、内皮前駆細胞である。さらなる実施形態では、このプロセスは、少なくとも1つの肝臓オルガノイドを、例えば、架橋ポリマーが、ポリ(エチレングリコール)グリコール(PEG)を含む、第1の生体適合性架橋ポリマーで実質的に覆うことを含む。別の実施形態では、このプロセスは、第2の生体適合性架橋ポリマーで、第1の生体適合性架橋ポリマーの少なくとも一部を覆うこと、及び、一部の実施形態では、実質的に覆うことをさらに含む。ある実施形態では、第1の生体適合性架橋ポリマー、及び/または、第2の生体適合性架橋ポリマーは、少なくとも一部が生分解性である。さらに別の実施形態では、第2の生体適合性架橋ポリマーは、ポリ(エチレン)グリコール(PEG)を含む。本開示は、本明細書に記載したプロセスによって取得可能である、または、取得した被包化肝臓組織も提供する。
【0012】
第8の態様によれば、本開示は、添加剤セット、ならびに、それを含む培地を提供する。ある実施形態では、本開示は、本明細書に記載した第1の添加剤セット、ならびに、第1の添加剤セットを含み、かつ、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子を含まない第1の培養培地を提供する。ある実施形態では、第1の培養培地は、内胚葉細胞、及び/または、後方前腸細胞をさらに含む。別の実施形態では、本開示は、本明細書に記載した第2の添加剤セット、ならびに、第2の添加剤セットを含む第2の培養培地を提供する。ある実施形態では、第2の培養培地は、後方前腸細胞、及び/または、肝前駆細胞を含む。さらに別の実施形態では、本開示は、本明細書に記載した第3の添加剤セット、ならびに、第3の添加剤セットを含む第3の培養培地を提供する。なおも別の実施形態では、本開示は、本明細書に記載した第4の添加剤セット、ならびに、第4の添加剤セットを含む第4の培養培地を提供する。さらに別の実施形態では、本開示は、本明細書に記載した第5の添加剤セット、ならびに、サイトカインを含まない第5の添加剤セットを含む第5の培養培地を提供する。本開示は、後方前腸細胞、肝前駆細胞、または、肝細胞様細胞を作り出すためのキットも提供する。キットは、本明細書に記載した少なくとも1つの添加剤セット、及び/または、本明細書に記載した少なくとも1つの培地;及び、後方前腸細胞、肝前駆細胞、または、肝細胞様細胞を作り出すための(例えば、本明細書に記載したプロセスを実行するための)説明書を含む。一部の実施形態では、キットは、内胚葉細胞、後方前腸細胞、及び/または、肝前駆細胞をさらに含む。
【0013】
本発明の要旨の概略は上記した通りであり、次に、添付した例示目的の図面を参照しながら、その好適な実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】A及びBは、内胚葉特異的遺伝子の発現を示す。(A)RT-qPCRで測定した、未分化iPSC(iPSC-淡灰色の棒)と比較した、iPSC由来内胚葉細胞(DE-暗灰色の棒)での内胚葉特異的遺伝子(FOXA2、SOX17、CXCR4、EOMES、GATA4)のアップレギュレーション。結果を、試験した様々な遺伝子での対数倍数変化として示す。データは、平均±標準偏差である。DEはN=6、iPSCはN=3。p<0,05**p<0,01。(B)内胚葉へのiPSC分化の間の内胚葉特異的遺伝子(EOMES、FOXA2、SOX17)発現に関するRT-qPCRを用いた経時的分析。結果を、試験した様々な遺伝子での対数倍数変化として示す(X軸で識別)。データは、平均±標準偏差である。すべての時点で、N=3である。**p<0,01***p<0,001****p<0,0001。
図2図2は、FoxA2、Cxcr4、Sox17、Brachyury、及び、c-Kitマーカーに関する、iPSC由来内胚葉細胞の代表的なフローサイトメトリー分析を示す。細胞の85%超が、FoxA2、Cxcr4、及び、Sox17に対してトリプル陽性を示している;細胞の90%が、brachyuryに対して陽性を示している;細胞の1%未満が、c-Kitに対して陽性を示しており、このことは、中胚葉細胞が存在しないことを示す。データは、平均±標準偏差である。n=4。
図3図3は、iPSC由来の内胚葉細胞(下方のパネル)と、未分化のiPSC(上方のパネル)における内胚葉マーカーSox17、FoxA2、及び、Cxcr4の代表的な免疫蛍光分析を示す。挿入図は、核(DAPI)染色を示す(スケールバー200μm)。
図4】iPSC由来の腹側後方前腸細胞での後方前腸特異的遺伝子の発現の増大を示しており、これにより、肝前駆細胞が生じる。結果を、iPSC由来の内胚葉細胞(DE-暗灰色の棒)、及び、iPSC由来の後方前腸細胞(PFG-淡灰色の棒)でのこれらの遺伝子(FOXA2、SOX2、FOXA1、HNF4α、AFP、及び、アルブミン(ALB))のmRNA発現の倍数変化として示す。データは、平均±標準偏差である。DEはn=3、PFGはN=6である。p<0,05**p<0,01***p<0,001。
図5】A~Dは、免疫蛍光法で測定した、iPSC由来肝前駆細胞での肝臓特異的マーカー(A AFP、B アルブミン、C CK19及びCK7、D EpCAM)の発現を示す(スケールバー200μM)。
図6】多能性マーカーTRA1-60、及び、Nanogの未分化iPSC(iPSC-白色の棒)と比較した、iPSC由来肝前駆細胞(HB-灰色の棒)の代表的なフローサイトメトリー分析を示す。データは、平均±標準偏差である。n=3。
図7】iPSC由来後部前腸細胞(PFG-淡灰色の棒)との比較で、RT-qPCRで決定した、iPSC由来肝前駆細胞(HB-黒色の棒)での肝芽細胞及び肝細胞特異的遺伝子(アルブミン(ALB)、AFP、CK19、CK7、PDX1、SOX9、PROX1、HNF4α、HHEX)の発現を示す。結果を、試験した様々な遺伝子の対数倍率変化として示す(X軸で識別)。データは、平均±標準偏差である。HBはn=8、PFGはn=3である。**p<0.01。
図8図8は、肝前駆細胞へのiPSC分化の間における細胞増殖の時間経過を示しており、細胞収量の有意な増加を示す。データは、平均±標準偏差である。未分化iPSC(iPSC)はn=6、iPSC由来の内胚葉細胞(DE)はn=3、iPSC由来の肝前駆細胞(HB)はn=6である。**p<0.01。
図9A】iPSC由来の肝細胞様細胞の特徴を例示している。光学顕微鏡で測定した、28日目のiPSC由来肝細胞様細胞(HLC)の典型的な態様(スケールバー、上方のパネルでは1,000μm、下方のパネルでは200μm)。
図9B】iPSC由来の肝細胞様細胞の特徴を例示している。免疫蛍光法で決定した、iPSC由来の肝様細胞での肝特異的マーカー(B1 AFP、B2 アルブミン、B3及びB4 CK19)の発現(スケールバー、上方及び左下のパネルでは200μm、右下のパネルでは100μm)。
図10】A及びBは、アルブミン発現の均一性の大きさ(ゲート細胞の98.5%)を示す、アルブミンを発現するiPSC由来肝細胞様細胞(HLC)の(A)典型的なフローサイトメトリーの結果、及び、(B)関連分析を提供する。データは、平均±標準偏差である。n=4。
図11】新たに単離した胎児肝細胞(FPHH-淡灰色の棒)との比較で、RT-qPCRで決定した、iPSC由来肝細胞様細胞(HLC-暗灰色の棒)での肝特異的遺伝子(HNF4α、AFP、アルブミン(ALB)、SOX9、ASGPR)の発現を提供する。結果を、試験した様々な遺伝子の対数倍数変化として示す(X軸で識別)。データは、平均±標準偏差である。FPHHはn=6、HLCはN=10である。**p<0.01;ns=有意でない。
図12】A~Cは、初代ヒト肝細胞(PHH)、ヒト肝癌細胞株(HepG2)、未分化iPSC(iPSC)、iPSC由来内胚葉細胞(DE)、iPSC由来腹側後方前腸細胞(PFG)、iPSC由来肝前駆細胞(HB)、及び、iPSC由来肝細胞様細胞(HLC)の肝臓特異的機能を示す。(A)CyP3A4活性の比較。結果は、試験した条件に応じた活性(RLU/1×10個の細胞)として示す。データは、平均±標準偏差である。PHHはn=10、HepG2及びiPSCはn=3、HLCはN=6である。p<0.05。(B)アルブミン合成の比較。データは、平均±標準偏差である。iPSC、DE、PFG、及び、HBはn=3、HLCはn=6、PHHはn=10である。**p<0.01。(C)尿素の比較。データは、平均±標準偏差である。HepG2はn=3、HLCはn=6、PHHはn=10である。
図13図13は、標準的な分化プロトコルで得た、iPSC由来の肝細胞様細胞(HLC-A、黒色の棒)との比較で、RT-qPCRで決定した、iPSC由来の肝細胞様細胞(HLC-B、灰色の棒)での肝特異的遺伝子(HNF4α、AFP、アルブミン(ALB)、ASGR1、TAT)の発現を提供する。結果を、試験した様々な遺伝子での対数倍率変化として示す(X軸で識別)。データは、平均±標準偏差である。HLC-Aはn=8、HLC-Bはn=4である。p<0,05***p<0,001****p<0,0001。
図14】A~Cは、iPSC由来の肝細胞様細胞(HLC-A、黒色の棒)、iPSC由来の肝細胞様細胞(HLC-B、灰色の棒)の特徴を比較している。(A)CyP3A4活性の比較。結果を、試験した条件に応じた活性(RLU/1×10個の細胞)として示す。データは、平均±標準偏差である。HLC-AはN=4、HLC-BはN=6である。**p<0.01。(B)アルブミン合成の比較。データは、平均(μg/1×10個の細胞/24時間)±標準偏差である。HLC-AはN=4、HLC-BはN=6である。**p<0.01。(C)分化終了時の細胞の収量:新規の分化プロトコル(淡灰色の棒)では、プロセス開始時の未分化iPSC(白色の棒)の量と比較して、細胞数の有意な増加が認められるが、標準的な分化プロトコル(黒色の棒)では減量が認められる。データは、平均±標準偏差である。HLC-Aはn=3、HLC-Bはn=4である。p<0.05。
図15】Seahorseで酸素消費率(OCR)を測定して、ベースライン(淡灰色の棒)、及び、異なる用量のアミオダロン(2、4、8、16μM-暗灰色の棒)、及び、アセトアミノフェン(2、4、8mM-黒色の棒)を与えた後のiPSC由来肝細胞様細胞(HLC)でのミトコンドリア機能の主要パラメーターを評価している。データは、平均±標準偏差である。n=6。p<0,05**p<0,01***p<0,001****p<0,0001。
【発明を実施するための形態】
【0015】
細胞、及び、それを含む組成物を作り出すためのプロセス
本発明によれば、内胚葉細胞を、有能な肝細胞系統の細胞(例えば、後方前腸細胞、肝前駆細胞、及び/または、肝細胞)に分化させるプロセスを提供する。肝細胞系統の細胞は、肝細胞に分化することができる細胞、または、肝細胞である細胞とし得る。本開示のプロセスは、一部の実施形態では、それらが、大量の肝細胞系統の細胞、及び/または、生物学的にさらに強力な細胞の生産を可能にするので、有利である。
【0016】
ある実施形態では、このプロセスを使用して、内胚葉細胞から様々な細胞集団を作り出すことができる。本開示で使用する「内胚葉細胞」とは、内胚葉由来の細胞の特徴を有する細胞のことを指す。発生学の分野で公知の通り、内胚葉とは、3つの主要な胚葉の最も内側の層のことである。内胚葉の細胞は、一般的には平坦であり、また、胃腸管、呼吸器、肝臓、膵臓、内分泌器、及び、泌尿器の細胞の大半を発生させる役割を担っている。内胚葉細胞は、当業者であれば、当該技術分野で公知の様々な技術を使用して同定し得る。例えば、内胚葉細胞は、次の遺伝子:SOX17、GATA4、FOXA2、CXCRA、及び/または、EOMESの内の少なくとも1つ、または、それらのあらゆる組み合わせ、または、それらがコードするポリペプチドの存在または非存在、ならびに、発現レベルを決定して、同定をすることができる。特定の実施形態では、内胚葉細胞は、次の遺伝子:SOX17、GATA4、FOXA2、CXCRA、及び/または、EOMESの内の少なくとも2つ、または、それらのあらゆる組み合わせ、または、それらがコードするポリペプチドを発現する。さらに別の実施形態では、内胚葉細胞は、次の遺伝子:SOX17、GATA4、FOXA2、CXCRA、及び/または、EOMESの内の少なくとも3つ、または、それらのあらゆる組み合わせ、または、それらがコードするポリペプチドの発現を検出し、及び、任意に測定をして、同定をすることができる。なおも別の実施形態では、内胚葉細胞は、次の遺伝子:SOX17、GATA4、FOXA2、CXCRA、及び/または、EOMESの少なくとも4つ、または、それらのあらゆる組み合わせの発現を検出し、及び、任意に測定をして、同定をすることができる。さらに別の実施形態では、内胚葉細胞は、次の遺伝子(または、それらに関連するポリペプチド):SOX17、GATA4、FOXA2、CXCRA、及び/または、EOMESの発現を検出し、及び、任意に測定をして、同定をすることができる。一部の実施形態では、内胚葉細胞に発現をさせ、そして、次の遺伝子:SOX2、SOX17、GATA4、FOXA2、CXCRA、及び/または、EOMES、または、それらがコードするポリペプチドの発現レベルを、(未分化の)幹細胞での同じ遺伝子/ポリペプチドの発現のレベルと比較して、同定をすることができる。特定の実施形態では、内胚葉細胞は、未分化多能性(幹)細胞での対応するレベルと比較して、SOX17、GATA4、FOXA2、CXCR4、及び/または、EOMES遺伝子、または、それらがコードするポリペプチドを強く発現する。
【0017】
内胚葉細胞は、あらゆる起源のものとすることができ、特に、哺乳動物に由来し得るものであり、そして、一部の実施形態では、ヒトに由来し得る。
【0018】
内胚葉細胞は、内胚葉細胞に分化した多能性細胞(例えば、胚性幹細胞、または、多能性幹細胞)から取得できる。一部の実施形態では、内胚葉細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)を分化させて取得することができる。多能性(幹)細胞は、あらゆる起源、特に、哺乳動物に由来し得るものであり、そして、一部の実施形態では、ヒトに由来し得る。多能性(幹)細胞を内胚葉細胞に分化させる一部の実施形態では、多能性(幹)細胞は、Nodal/Activinシグナル伝達経路を活性化することができる化合物、例えば、Activin AなどのNodal/Activin受容体アゴニストと接触させることができる。一部のさらなる実施形態では、多能性(幹)細胞は、Wntシグナル伝達経路の活性化因子、例えば、Wnt受容体アゴニスト、または、GSK3の生物学的活性を阻害することができる化合物、例えば、CHIR99021と接触させることもできる。
【0019】
多能性(幹)細胞は、内胚葉細胞に分化する前に、APELA/ELABELAシグナル伝達経路の1つ以上の活性化因子、例えば、APELA/ELABELAポリペプチドなどのAPELA/ELABELA受容体のアゴニスト、または、その自己複製、及び/または、多能性を誘導、最適化、及び、維持するための機能的フラグメント(米国特許第9,309,314号に記載のものなど)と接触させることができる。
【0020】
本開示は、内胚葉細胞から後方前腸細胞を作り出すための第1のプロセスを提供する。このプロセスは、1つ以上の内胚葉細胞を、内胚葉細胞から後方前腸細胞への分化を許容する条件下で、第1の添加剤セットを含む第1の培養培地と接触させる、ことを含む。第1のプロセスは、培養細胞を、例えば、インスリンなどのインスリンシグナル伝達経路の活性化因子と接触させることは含まない。本開示で使用する「後方前腸細胞」とは、後方前腸の細胞の生物学的特徴を有する細胞のことを指す。発生学の分野で公知の通り、後方前腸とは、その後に肝臓を形成する内胚葉での領域のことである。したがって、後方前腸の細胞は、肝臓、膵臓、胃、及び、小腸の一部へとさらに分化することができる。当業者であれば、当該技術分野で公知の様々な技術を使用して、後方前腸細胞の同定をすることができる。例えば、後方前腸細胞は、次の遺伝子:SOX2、FOXA1、FOXA2、HNF4a、AFPのあらゆる組み合わせの内の少なくとも1つ、及び/または、アルブミン、または、それらがコードするポリペプチドの存在または非存在、ならびに、発現レベルを決定して、同定をすることができる。特定の実施形態では、後方前腸細胞は、次の遺伝子:SOX2、FOXA1、FOXA2、HNF4a、AFPのあらゆる組み合わせの内の少なくとも2つ、及び/または、アルブミン、または、それらがコードするポリペプチドを発現する。さらに別の実施形態では、後方前腸細胞は、次の遺伝子:SOX2、FOXA1、FOXA2、HNF4a、AFPのあらゆる組み合わせの内の少なくとも3つ、及び/または、アルブミン、または、それらがコードするポリペプチドを発現する。なおも別の実施形態では、後方前腸細胞は、次の遺伝子:SOX2、FOXA1、FOXA2、HNF4a、AFPのあらゆる組み合わせの内の少なくとも4つ、及び/または、アルブミン、または、それらがコードするポリペプチドを発現する。なおも別の実施形態では、後方前腸細胞は、次の遺伝子:SOX2、FOXA1、FOXA2、HNF4a、AFPのあらゆる組み合わせの内の少なくとも5つ、及び/または、アルブミン、または、それらがコードするポリペプチドを発現する。なおも別の実施形態では、後方前腸細胞は、次の遺伝子:SOX2、FOXA1、FOXA2、HNF4a、AFP、及び/または、アルブミン、または、それらがコードするポリペプチドを発現する。なおも別の実施形態では、後方前腸細胞は、次の遺伝子(または、それらに対応するポリペプチド):SOX2、FOXA1、FOXA2、HNF4a、AFP、及び/または、アルブミンの発現を検出し、及び、任意に測定をして、同定をすることができる。一部の実施形態では、後方前腸細胞に発現をさせ、そして、次の遺伝子:SOX2、FOXA1、FOXA2、HNF4a、AFP、及び/または、アルブミン、または、それらがコードするポリペプチドの発現レベルを、(未分化の)幹細胞、または、内胚葉細胞での同じ遺伝子/ポリペプチドの発現のレベルと比較して、同定をすることができる。特定の実施形態では、後方前腸細胞は、多能性(幹)細胞、または、内胚葉細胞での対応するレベルと比較して、SOX2、FOXA1、FOXA2、HNF4a、AFP、及び/または、アルブミン遺伝子、または、それらがコードするポリペプチドを強く発現する。さらなる実施形態では、後方前腸細胞は、内胚葉細胞での対応するレベルと比較して、高レベルで、SOX2遺伝子、または、それがコードするポリペプチドを発現する。さらなる実施形態では、後方前腸細胞は、内胚葉細胞での対応するレベルと比較して、FOXA1遺伝子、または、それがコードするポリペプチドを強く発現する。さらなる実施形態では、後方前腸細胞は、内胚葉細胞での対応するレベルと比較して、FOXA2遺伝子、または、それがコードするポリペプチドを強く発現する。さらなる実施形態では、後方前腸細胞は、内胚葉細胞での対応するレベルと比較して、HNF4a遺伝子、または、それがコードするポリペプチドを強く発現する。さらなる実施形態では、後方前腸細胞は、内胚葉細胞での対応するレベルと比較して、AFP遺伝子、または、それがコードするポリペプチドを強く発現する。さらなる実施形態では、後方前腸細胞は、内胚葉細胞での対応するレベルと比較して、ALB遺伝子、または、それがコードするアルブミンポリペプチドを強く発現する。
【0021】
後方前腸細胞は、あらゆる起源のものとすることができ、特に、哺乳動物に由来し得るものであり、そして、一部の実施形態では、ヒトに由来し得る。
【0022】
第1のプロセスで使用する第1の培養培地を、無血清(例えば、血清を補充していない)とすることができる。別の実施形態では、第1のプロセスで使用する第1の培養培地は、血清を含むことができ、同血清を、KnockOut Serum Replacement(商標)(ThermoFisherScientific)とし得る。ある実施形態では、第1の培養培地は、約0.1~約5%(v/v)の血清を含む。さらに別の実施形態では、第1の培養培地は、少なくとも約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5%以上の血清を含む。別の実施形態では、第1の培養培地は、約5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2%以下の血清を含む。なおも別の実施形態では、第1の培養培地は、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、または、4.5%と、約5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、または、0.2%との間の血清を含む。ある実施形態では、第1の培養培地は、約1%の血清を含む。
【0023】
第1の培養培地は、第1の添加剤セットを含んでおり、同セットは、骨形態形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の活性化因子;線維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達経路の活性化因子;Wntシグナル伝達経路の阻害因子;及び、形質転換成長因子β(TGFβ)シグナル伝達経路の阻害因子を含む、または、本質的にそれらからなる。第1の添加剤セットは、インスリンなどのインスリンシグナル伝達経路の活性化因子を含まない。本開示の関連で使用する表現「第1の培養培地は、本質的に第1の添加剤セットからなる」とは、内胚葉細胞から後方前腸細胞への分化において非必須のさらなる添加剤を含むが、分化を促すことはできる第1の培養培地のことを指す。これらのさらなる添加剤として、例えば、レチノイン酸、ビタミン類、及び、ミネラルがあるが、これらに限定されない。
【0024】
第1の培養培地は、骨形態形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の活性化因子を含む。成長の過程で、BMPシグナル伝達経路の活性化因子は、通常、心臓の中胚葉から提供され、そして、内胚葉細胞から後方前腸細胞への分化を促す。本開示の関連で使用する「BMPシグナル伝達経路の活性化因子」とは、BMPと、その同族受容体(例えば、BMPR1、及び/または、BMPR2)との結合に関連するシグナル伝達経路を活性化することができる化合物のことを指す。シグナル伝達BMP受容体は、SMAD及びMAPキナーゼ経路を介して発生し、そして、BMP標的遺伝子の転写を行う。この化合物は、(BMPR1、または、BMPR2に特異的であるか、または、両方の受容体に結合し、そして、活性化することができる)BMP受容体のアゴニスト、BMPシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの活性化因子、及び/または、BMPシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの阻害因子のいずれかとし得る。公知のBMPとして、BMP1、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7、BMP8a、BMP8b、BMP9、BMP10、BMP11、及び、BMP15があるが、これらに限定されない。ある実施形態では、活性化因子は、DM3189である。別の実施形態では、活性化因子は、BMP4(組換え形態、または、精製した形態で提供し得る)である。BMP4は、形質転換成長因子-β(TGF-β)ファミリーのメンバーであり、BMPR1、及び、BMPR2として公知の2つの異なるタイプのセリン-スレオニンキナーゼ受容体に結合する。BMP4を、BMPシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、BMP4は、第1の培養培地で、少なくとも約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または、それを超えるng/mLの濃度で提供することができる。BMP4を、BMPシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、BMP4は、第1の培養培地で、少なくとも約30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、または、それ未満のng/mLに満たない濃度で提供することができる。BMP4を、BMPシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、BMP4は、第1の培養培地で、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、または、29と、約30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、または、11ng/mLとの間の濃度で提供することができる。一部の特定の実施形態では、BMP4は、約20ng/mLの濃度で第1の培養培地に提供し得る。
【0025】
第1の培養培地は、線維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達経路の活性化因子も含む。成長の過程で、FGFシグナル伝達経路の活性化因子は、通常、心臓の中胚葉から提供され、そして、内胚葉細胞から後方前腸細胞への分化を促す。本開示の関連で使用する「FGFシグナル伝達経路の活性化因子」とは、FGFと、その同族受容体(例えば、FGFR1、FGFR2、FGFR3、及び/または、FGFR4)との結合に関連するシグナル伝達経路を活性化することができる化合物のことを指す。この化合物は、(FGFR1、FGFR2、FGFR3、及び/または、FGFR4に特異的であるか、または、複数の受容体に結合し、そして、活性化することができる)FGF受容体のアゴニスト、FGFシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの活性化因子、及び/または、FGFシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの阻害因子のいずれかとし得る。公知のFGFとして、FGF1、FGF2、FGF3、FGF4、FGF5、FGF6、FGF7、FGF8a、FGF8b、FGF9、FGF10、FGF11、FGF12、FGF13、FGF14、FGF15/19、FGF16、FGF17、FGF18、FGF20、FGF21、FGF22、及び、FGF23があるが、これらに限定されない。ある実施形態では、活性化因子は、塩基性FGFまたはFGF2(組換え形態、または、精製した形態で提供し得る)である。FGF2は、FGFR2(別名、CD332)、及び、FGFR3として公知の2つの異なるタイプの受容体に結合する。塩基性FGFを、FGFシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、塩基性FGFは、第1の培養培地で、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または、それを超えるng/mLの濃度で提供することができる。塩基性FGFを、FGFシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、塩基性FGFは、第1の培養培地で、少なくとも約20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または、それ未満のng/mLに満たない濃度で提供することができる。塩基性FGFを、FGFシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、塩基性FGFは、第1の培養培地で、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、または、19と、約20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2ng/mLとの間の濃度で提供することができる。一部の特定の実施形態では、塩基性FGFを、約5ng/mLの濃度で第1の培養培地に提供し得る。
【0026】
第1の培養培地は、Wntシグナル伝達経路の阻害因子をさらに含む。Wntシグナル伝達経路の阻害因子の存在は、TGFβシグナル伝達経路の阻害因子と組み合わせることで、肝臓の発生に必要なポリペプチドをコードするHEX及びPROX1遺伝子の発現において有利に作用する。本開示の関連で使用する「Wntシグナル伝達経路の阻害因子」とは、Wntタンパク質リガンドと、その同族Frizzle受容体(例えば、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、または、FZD10)との結合に関連するシグナル伝達経路を阻害することができる化合物のことを指す。Frizzled受容体のファミリーは、Gタンパク質共役型受容体タンパク質である。この化合物は、(FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、または、FZD10のいずれかに特異的であるか、または、複数の受容体に結合し、そして、阻害することができる)Frizzled受容体のアンタゴニスト、Wntシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの阻害因子、及び/または、Wntシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの活性化因子のいずれかとし得る。公知のWntタンパク質として、WNT1、WNT2、WNT2B、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、及び、WNT16があるが、これらに限定されない。ある実施形態では、阻害因子は、1つ以上のFrizzled受容体の生物学的活性を阻害することができる。別の実施形態では、阻害因子は、Porcupineタンパク質の生物学的活性を阻害することができる。例えば、Porcupineタンパク質の生物学的活性を阻害することができる阻害因子を、IWP2とし得る。IWP2を、Wntシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、IWP2は、第1の培養培地で、少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5μM、または、それを超える濃度で提供することができる。IWP2を、Wntシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、IWP2は、第1の培養培地で、10、9.5、9、8.5、8、7.5、7、6.5、6、5.5、5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2μM、または、それに満たない濃度で提供することができる。IWP2を、Wntシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、IWP2は、第1の培養培地で、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、または、9.5と、約10、9.5、9、8.5、8、7.5、7、6.5、6、5.5、5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、または、0.2μMとの間の濃度で提供することができる。IWP2を、Wntシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、IWP2を、約4μMの濃度で第1の培養培地に提供し得る。
【0027】
第1の培養培地は、形質転換成長因子β(TGFβ)シグナル伝達経路の阻害因子をさらに含む。TGFβシグナル伝達経路の阻害因子の存在は、Wntシグナル伝達経路の阻害因子と組み合わせることで、肝臓の発生に必要なポリペプチドをコードするHEX及びPROX1遺伝子の発現において有利に作用する。本開示の関連で使用する「TGFβシグナル伝達経路の阻害因子」とは、TGFβと、その同族受容体との結合に関連するシグナル伝達経路を阻害することができる化合物のことを指す。TGFβ受容体のファミリーは、SMADタンパク質を介してシグナル伝達を媒介する。この化合物は、TGFβ受容体のアンタゴニスト、TGFβシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの阻害因子、及び/または、TGFβシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの活性化因子のいずれかとし得る。公知のTGFβタンパク質として、TGFB1、TGFB2、TGFB3、及び、TGFB4があるが、これらに限定されない。ある実施形態では、阻害因子は、ALK4、ALK5、または、ALK7ポリペプチドの内の少なくとも1つの生物学的活性を阻害することができる。一部の実施形態では、阻害因子は、ALK4、ALK5、及び、ALK7ポリペプチドの生物学的活性を阻害することができる。例えば、ALK4、ALK5、及び、ALK7ポリペプチドの生物学的活性を阻害することができる阻害因子を、A83-01とすることができる。あるいは、または、組み合わせで、SB431542、及び/または、LY364947を、阻害因子とすることができる。A83-01を、TGFβシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、A83-01は、第1の培養培地で、少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.5、3、3.5、4、4.5μM、または、それを超える濃度で提供することができる。A83-01を、TGFβシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、A83-01は、第1の培養培地で、5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2μM、または、それに満たない濃度で提供することができる。A83-01を、TGFβシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、A83-01は、第1の培養培地で、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.5、3、3.5、4、または、4.5と、約5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2μMとの間の濃度で提供することができる。A83-01を、TGFβシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、A83-01を、約1μMの濃度で第1の培養培地に提供し得る。
【0028】
第1の培養培地は、分化が起こるまで、少なくとも1日以上、内胚葉細胞、及び、後方前腸細胞と接触させておく。第1の培養培地を、培養細胞と2日以上接触させることを意図している場合、培地は、毎日交換することができる。本開示のプロセスの一部の実施形態では、第1の培養培地を、少なくとも1、2、3、4、または、それ以上の日数の間、培養細胞と接触させておく。別の実施形態では、第1の培養培地を、5、4、3、2、または、それ未満の日数の間、培養細胞と接触させておく。さらに別の実施形態では、第1の培養培地を、少なくとも1、2、3、4、または、それ以上の日数、そして、5、4、3、2、または、それ未満の日数の間、培養細胞と接触させておく。なおも別の実施形態では、第1の培養培地を、約1日~5日の間、培養細胞と接触させておく。
【0029】
内胚葉細胞を含む第1の培養培地を使用すると、内胚葉細胞を後方前腸細胞に分化させることができる。したがって、本開示は、本明細書に記載したプロセスで得た後方前腸細胞の集団を提供する。本開示の後方前腸細胞の集団において、細胞の大部分が、後方前腸細胞であると考えられており、そして、一部の実施形態では、一部の内胚葉細胞を含むことができる。
【0030】
本開示は、後方前腸細胞から、肝前駆細胞(本明細書では肝芽細胞とも称する)を作り出すための第2のプロセスを提供する。このプロセスは、後方前腸細胞の1つ以上を、後方前腸細胞から後方前腸細胞への分化を許容する条件下で、第2の添加剤セットを含む第2の培養培地と接触させる、ことを含む。第2のプロセスで使用する後方前腸細胞は、第1のプロセスを実行して取得することができる。
【0031】
本開示で使用する「肝前駆細胞」または「肝芽細胞」とは、胆管細胞、及び、肝細胞のいずれかで分化することができる二能性前駆細胞のことを指す。当業者であれば、当該技術分野で公知の様々な技術を使用して、肝前駆細胞の同定をすることができる。例えば、肝前駆細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、サイトケラチン7(CK7)、サイトケラチン19(CK19)、SOX9、PDX1、PROX1、EpCAM、HHEX遺伝子、及び/または、HNF4aの内の少なくとも1つ、または、それらのあらゆる組み合わせ、及び/または、それらがコードするポリペプチドの存在または非存在、ならびに、発現レベルを決定して、同定をすることができる。特定の実施形態では、肝前駆細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、サイトケラチン7(CK7)、サイトケラチン19(CK19)、SOX9、PDX1、PROX1、EpCAM、HHEX、または、HNF4aの内の少なくとも1つ、または、それらのあらゆる組み合わせ、または、それらがコードするポリペプチドを発現する。さらに別の実施形態では、肝前駆細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、サイトケラチン7(CK7)、サイトケラチン19(CK19)、SOX9、PDX1、PROX1、EpCAM、HHEX、または、HNF4aの内の少なくとも1つ、または、それらがコードするポリペプチドを発現する。なおも別の実施形態では、肝前駆細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、サイトケラチン7(CK7)、サイトケラチン19(CK19)、SOX9、PDX1、PROX1、EpCAM、HHEX、及び/または、HNF4aのあらゆる組み合わせの内の少なくとも2つ、または、それらがコードするポリペプチドを発現する。なおも別の実施形態では、肝前駆細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、サイトケラチン7(CK7)、サイトケラチン19(CK19)、SOX9、PDX1、PROX1、EpCAM、HHEX、及び/または、HNF4aのあらゆる組み合わせの内の少なくとも3つ、または、それらがコードするポリペプチドを発現する。なおも別の実施形態では、肝前駆細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、サイトケラチン7(CK7)、サイトケラチン19(CK19)、SOX9、PDX1、PROX1、EpCAM、HHEX、及び/または、HNF4aのあらゆる組み合わせの内の少なくとも4つ、または、それらがコードするポリペプチドを発現する。なおも別の実施形態では、肝前駆細胞は、次の遺伝子 α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、サイトケラチン7(CK7)、サイトケラチン19(CK19)、SOX9、PDX1、PROX1、EpCAM、HHEX、及び/または、HNF4aのあらゆる組み合わせの内の少なくとも5つを発現する。なおも別の実施形態では、肝前駆細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、サイトケラチン7(CK7)、サイトケラチン19(CK19)、SOX9、PDX1、PROX1、EpCAM、HHEX、及び/または、HNF4aのあらゆる組み合わせがコードする少なくとも6つ以上のポリペプチドを発現する。なおも別の実施形態では、肝前駆細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、サイトケラチン7(CK7)、サイトケラチン19(CK19)、SOX9、PDX1、PROX1、EpCAM、HHEX、及び/または、HNF4aのあらゆる組み合わせがコードする少なくとも7つ以上のポリペプチドを発現する。なおも別の実施形態では、肝前駆細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、サイトケラチン7(CK7)、サイトケラチン19(CK19)、SOX9、PDX1、PROX1、EpCAM、HHEX、及び/または、HNF4aのあらゆる組み合わせがコードする少なくとも8つ以上のポリペプチドを発現する。なおも別の実施形態では、肝前駆細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、サイトケラチン7(CK7)、サイトケラチン19(CK19)、SOX9、PDX1、PROX1、EpCAM、HHEX、及び/または、HNF4aのあらゆる組み合わせがコードする少なくとも9つ以上のポリペプチドを発現する。なおも別の実施形態では、肝前駆細胞は、次の遺伝子(または、それらがコードするポリペプチド):α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、サイトケラチン7(CK7)、サイトケラチン19(CK19)、SOX9、PDX1、PROX1、EpCAM、HHEX、及び/または、HNF4aを発現する。一部の実施形態では、肝前駆細胞に発現をさせ、そして、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、サイトケラチン7(CK7)、サイトケラチン19(CK19)、SOX9、PDX1、PROX1、及び/または、HNF4a、または、それらがコードするポリペプチドの発現レベルを、後方前腸細胞での同じ遺伝子/ポリペプチドの発現レベルと比較して、同定をすることができる。ある実施形態では、肝前駆細胞は、後方前腸細胞と実質的に同量のアルブミンを発現する。ある実施形態では、肝前駆細胞は、後方前腸細胞と実質的に同量のAFPを発現する。ある実施形態では、肝前駆細胞は、後方前腸細胞よりもCK19遺伝子を強く発現する。ある実施形態では、肝前駆細胞は、後方前腸細胞よりもCK7遺伝子を強く発現する。ある実施形態では、肝前駆細胞は、後方前腸細胞よりもPDX1遺伝子を強く発現する。ある実施形態では、肝前駆細胞は、後方前腸細胞よりもSOX9遺伝子を強く発現する。ある実施形態では、肝前駆細胞は、後方前腸細胞よりもPROX1遺伝子を強く発現する。ある実施形態では、肝前駆細胞は、HHEX遺伝子を発現するが、後方前腸細胞よりも弱い。ある実施形態では、肝前駆細胞は、未分化多能性細胞(iPSCなど)と比較して、TRA-1-60、及び/または、Nanog遺伝子を実質的に発現せず、または、これらの遺伝子を非常に低レベルで発現する。
【0032】
肝前駆細胞は、あらゆる起源のものとすることができ、特に、哺乳動物に由来し得るものであり、そして、一部の実施形態では、ヒトに由来し得る。
【0033】
第2のプロセスで使用する第2の培養培地を、無血清(例えば、血清を補充していない)とすることができる。別の実施形態では、第2のプロセスで使用する第2の培養培地は、血清を含むことができ、同血清を、KnockOut Serum Replacement(商標)(ThermoFisherScientific)とし得る。ある実施形態では、第2の培養培地は、約0.1~約5%(v/v)の血清を含む。さらに別の実施形態では、第2の培養培地は、少なくとも約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5%以上の血清を含む。別の実施形態では、第2の培養培地は、約5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2%以下の血清を含む。なおも別の実施形態では、第2の培養培地は、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、または、4.5%と、約5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、または、0.2%との間の血清を含む。ある実施形態では、第2の培養培地は、約2%の血清を含む。
【0034】
第2の培養培地は、第2の添加剤セットを含んでおり、同セットは、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子、骨形態形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の活性化因子、線維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達経路の活性化因子、肝細胞成長因子(HGF)シグナル伝達経路の活性化因子、及び、Wntシグナル伝達経路の活性化因子を含む、または、本質的にそれらからなる。本開示の関連で使用する表現「第2の培養培地は、本質的に第2の添加剤セットからなる」とは、後方前腸細胞から肝前駆細胞への分化において非必須のさらなる添加剤を含むが、分化を促すことはできる第2の培養培地のことを指す。これらのさらなる添加剤として、例えば、B27サプリメント、レチノイン酸、ビタミン類、及び、ミネラルがあるが、これらに限定されない。
【0035】
第2の培養培地は、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子も含む。本開示の関連で使用する「インスリンシグナル伝達経路の活性化因子」とは、インスリンと、その同族受容体(チロシンキナーゼ受容体)との結合に関連するシグナル伝達経路を活性化することができる化合物のことを指す。この化合物は、インスリン受容体(インスリン、IGF-I、または、IGF-II)のアゴニスト、インスリンシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの活性化因子、及び/または、インスリンシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの阻害因子のいずれかとし得る。ある実施形態では、活性化因子は、(組換え形態、または、精製した形態で提供し得る)インスリンである。インスリンを、インスリンシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、インスリンは、第2の培養培地で、少なくとも約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または、それを超えるng/mLで提供し得る。インスリンを、インスリンシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、インスリンは、第2の培養培地で、約100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、または、それ未満のng/mLに満たない濃度で提供することができる。インスリンを、インスリンシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、インスリンは、第2の培養培地で、約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、または、95と、約100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、または、5との間の濃度で提供することができる。一部の特定の実施形態では、インスリンは、第2の培養培地で、約10mg/mlの濃度で提供することができる。さらに別の実施形態では、インスリンは、B27サプリメントの形態、HBM/HCM Bulletkit(商標)、及び/または、初代肝細胞(PHH)サプリメントの形態で提供する。
【0036】
第2の培養培地は、骨形態形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の活性化因子を含む。成長の過程で、BMPシグナル伝達経路の活性化因子は、通常、心臓の中胚葉から提供され、そして、内胚葉細胞から後方前腸細胞への分化を促す。本開示の関連で使用する「BMPシグナル伝達経路の活性化因子」とは、BMPと、その同族受容体(例えば、BMPR1、及び/または、BMPR2)との結合に関連するシグナル伝達経路を活性化することができる化合物のことを指す。シグナル伝達BMP受容体は、SMAD及びMAPキナーゼ経路を介して発生し、そして、BMP標的遺伝子の転写を行う。この化合物は、(BMPR1、または、BMPR2に特異的であるか、または、両方の受容体に結合し、そして、活性化することができる)BMP受容体のアゴニスト、BMPシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの活性化因子、及び/または、BMPシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの阻害因子のいずれかとし得る。公知のBMPとして、BMP1、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7、BMP8a、BMP8b、BMP9、BMP10、BMP11、及び、BMP15があるが、これらに限定されない。ある実施形態では、活性化因子は、DM3189である。別の実施形態では、活性化因子は、BMP4(組換え形態、または、精製した形態で提供し得る)である。BMP4は、形質転換成長因子-β(TGF-β)ファミリーのメンバーであり、BMPR1、及び、BMPR2として公知の2つの異なるタイプのセリン-スレオニンキナーゼ受容体に結合する。BMP4を、BMPシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、BMP4は、第2の培養培地で、少なくとも約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または、それを超えるng/mLの濃度で提供することができる。BMP4を、BMPシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、BMP4は、第2の培養培地で、少なくとも約30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、または、それ未満のng/mLに満たない濃度で提供することができる。BMP4を、BMPシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、BMP4は、第2の培養培地で、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、または、29と、約30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、または、11ng/mLとの間の濃度で提供することができる。一部の特定の実施形態では、BMP4は、約20ng/mLの濃度で第2の培養培地に提供し得る。さらなる実施形態では、BMP4を、第1、及び、第2の添加剤セットの両方での活性化因子として提供し得る。
【0037】
第2の培養培地は、線維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達経路の活性化因子も含む。成長の過程で、FGFシグナル伝達経路の活性化因子は、通常、心臓の中胚葉から提供され、そして、内胚葉細胞から後方前腸細胞への分化を促す。本開示の関連で使用する「FGFシグナル伝達経路の活性化因子」とは、FGFと、その同族受容体(例えば、FGFR1、FGFR2、FGFR3、及び/または、FGFR4)との結合に関連するシグナル伝達経路を活性化することができる化合物のことを指す。この化合物は、(FGFR1、FGFR2、FGFR3、及び/または、FGFR4に特異的であるか、または、複数の受容体に結合し、そして、活性化することができる)FGF受容体のアゴニスト、FGFシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの活性化因子、及び/または、FGFシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの阻害因子のいずれかとし得る。公知のFGFとして、FGF1、FGF2、FGF3、FGF4、FGF5、FGF6、FGF7、FGF8a、FGF8b、FGF9、FGF10、FGF11、FGF12、FGF13、FGF14、FGF15/19、FGF16、FGF17、FGF18、FGF20、FGF21、FGF22、及び、FGF23があるが、これらに限定されない。ある実施形態では、活性化因子は、塩基性FGFまたはFGF2(組換え形態、または、精製した形態で提供し得る)である。FGF2は、FGFR2(別名、CD332)、及び、FGFR3として公知の2つの異なるタイプの受容体に結合する。塩基性FGFを、FGFシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、塩基性FGFは、第2の培養培地で、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または、それを超えるng/mLの濃度で提供することができる。塩基性FGFを、FGFシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、塩基性FGFは、第2の培養培地で、少なくとも約20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または、それ未満のng/mLに満たない濃度で提供することができる。塩基性FGFを、FGFシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、塩基性FGFは、第2の培養培地で、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、または、19と、約20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2ng/mLとの間の濃度で提供することができる。一部の特定の実施形態では、塩基性FGFを、約10ng/mLの濃度で第2の培養培地に提供し得る。さらなる実施形態では、塩基性FGFは、第2、及び、第2の添加剤セットの両方において活性化因子として提供し得る。
【0038】
第2の培養培地は、肝細胞成長因子(HGF)シグナル伝達経路の活性化因子も含む。成長の過程で、HGFシグナル伝達経路の活性化因子は、内胚葉細胞から肝前駆細胞への分化を促す。本開示の関連で使用する「HGFシグナル伝達経路の活性化因子」とは、HGFと、その同族受容体(例えば、c-Met)との結合に関連するシグナル伝達経路を活性化することができる化合物のことを指す。この化合物は、HGF受容体のアゴニスト、HGFシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの活性化因子、及び/または、HGFシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの阻害因子のいずれかとし得る。ある実施形態では、活性化因子は、HGF(組換え形態、または、精製した形態で提供し得る)である。HGFを、HGFシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、HGFは、第2の培養培地で、少なくとも約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、または、それを超えるng/mLの濃度で提供することができる。HGFを、HGFシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、HGFは、第2の培養培地で、少なくとも約40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、または、それ未満のng/mLに満たない濃度で提供することができる。HGFを、HGFシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、HGFは、第2の培養培地で、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、または、39と、約40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、または、11ng/mLとの間の濃度で提供することができる。一部の特定の実施形態では、HGFを、約20ng/mLの濃度で、第2の培養培地に提供し得る。
【0039】
第2の培養培地は、Wntシグナル伝達経路の活性化因子をさらに含む。一部の実施形態では、(例えば、第1のプロセスで示したようにして)すでに阻害をした場合のみ、後方前腸細胞でのWntシグナル伝達経路を活性化させることが重要である。本開示の関連で使用する「Wntシグナル伝達経路の活性化因子」とは、Wntタンパク質リガンドと、その同族Frizzle受容体(例えば、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、または、FZD10)との結合に関連するシグナル伝達経路を活性化することができる化合物のことを指す。Frizzled受容体のファミリーは、Gタンパク質共役型受容体タンパク質である。この化合物は、(FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、または、FZD10のいずれかに特異的であるか、または、複数の受容体に結合し、そして、活性化することができる)Frizzled受容体のアゴニスト、Wntシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの活性化因子、及び/または、Wntシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの阻害因子のいずれかとし得る。公知のWntタンパク質として、WNT1、WNT2、WNT2B、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、及び、WNT16があるが、これらに限定されない。ある実施形態では、活性化因子は、Wnt3a、SB-216763、及び/または、LY2090314である。ある実施形態では、活性化因子は、GSK3タンパク質の生物学的活性を阻害することができる。例えば、GSK3タンパク質の生物学的活性を阻害することができる活性化因子を、CHIR99021とすることができる。CHIR99021を、Wntシグナル伝達経路の活性化因子として使用する実施形態では、CHIR99021は、第2の培養培地で、少なくとも0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5μM、または、それを超える濃度で提供することができる。CHIR99021を、Wntシグナル伝達経路の活性化因子として使用する実施形態では、CHIR99021は、第2の培養培地で、8、7.5、7、6.5、6、5.5、5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、1、または、それ未満のμMに満たない濃度で提供することができる。CHIR99021を、Wntシグナル伝達経路の活性化因子として使用する実施形態では、CHIR99021は、第2の培養培地で、約0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、または、7.5と、約8、7.5、7、6.5、6、5.5、5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、または、1μMとの間の濃度で提供することができる。CHIR99021を、Wntシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、CHIR99021を、約3μMの濃度で、第2の培養培地に提供し得る。
【0040】
第2の培養培地は、分化を可能ならしめるために、少なくとも1日以上、後方前腸細胞、及び、肝前駆細胞と接触させておく。第2の培養培地を、培養細胞と2日以上接触させることを意図している場合、培地は、毎日交換することができる。本開示のプロセスの一部の実施形態では、第2の培養培地を、少なくとも1、2、3、4、または、それ以上の日数の間、培養細胞と接触させておく。別の実施形態では、第2の培養培地を、5、4、3、2、または、それ未満の日数の間、培養細胞と接触させておく。さらに別の実施形態では、第2の培養培地を、少なくとも1、2、3、4、または、それ以上の日数、そして、5、4、3、2、または、それ未満の日数の間、培養細胞と接触させておく。なおも別の実施形態では、第2の培養培地を、約1日~5日の間、培養細胞と接触させておく。
【0041】
後方前腸細胞を含む第2の培養培地を使用すると、後方前腸細胞を肝前駆細胞に分化させることができる。したがって、本開示は、本明細書に記載したプロセスで得た肝前駆細胞の集団を提供する。本開示の肝前駆細胞の集団において、細胞の大部分が、肝前駆細胞であると考えられており、そして、一部の実施形態では、一部の肝前駆細胞を含むことができる。ある実施形態では、第2のプロセスで得た肝前駆細胞の集団は、肝前駆細胞(例えば、CK19、または、EpCAMの発現を決定して同定をすることができる)を、少なくとも60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または、99%で含む。
【0042】
本開示は、肝前駆細胞から肝細胞様細胞を作り出すための第3のプロセスを提供する。このプロセスは、肝前駆細胞から肝細胞への分化を可能ならしめる条件下で、1つ以上の肝前駆細胞を、第3の添加剤セットを含む(肝前駆細胞から肝細胞系統の細胞への分化を促す)第3の培養培地と接触させ、続いて、第4の添加剤セットを含む(肝細胞系統の細胞から未成熟細胞への分化を促す)第4の培養培地と接触させ、続いて、第5の添加剤セットを含む(未成熟肝細胞から成熟肝細胞への分化を促す)第5の培養培地と接触させる。第3のプロセスで使用する肝前駆細胞は、本明細書に記載したように、第1のプロセス、及び/または、第2のプロセスを実行して取得できる。
【0043】
本開示で使用する「肝細胞様細胞」とは、総じて、肝細胞系統の細胞、未成熟肝細胞様細胞、及び、成熟肝細胞様細胞のことを指す。肝細胞系統の細胞は、胆管細胞に分化することができないが、肝細胞へと分化することはできる。一部の実施形態では、肝細胞様細胞(特に、成熟肝細胞様細胞)は、特定のタンパク質(アルブミン、凝固因子、アルファ-1-アンチトリプシンなど)の生産、アンモニアから尿素への無害化処理、薬物の代謝、グリコーゲンの貯蔵、ビリルビンの抱合、胆汁の合成など、肝臓特異的機能を再現できる細胞である。当業者であれば、当該技術分野で公知の様々な技術を使用して、肝細胞様細胞の同定をすることができる。例えば、肝細胞様細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、ASGR1、ASGPR、HNF4a、または、SOX9の内の少なくとも1つ、または、それらのあらゆる組み合わせ、または、それらがコードするポリペプチドの存在または非存在、ならびに、発現レベルを決定して、同定をすることができる。特定の実施形態では、肝細胞様細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、ASGR1(ASGPR)、HNF4a、及び/または、SOX9の内の少なくとも1つ、または、それらのあらゆる組み合わせ、または、それらがコードするポリペプチドを発現する。特定の実施形態では、肝細胞様細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、ASGR1(ASGPR)、HNF4a、及び/または、SOX9の内の少なくとも2つ、または、それらのあらゆる組み合わせ、または、それらがコードするポリペプチドを発現する。特定の実施形態では、肝細胞様細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、ASGR1(ASGPR)、HNF4a、及び/または、SOX9の内の少なくとも3つ、または、それらのあらゆる組み合わせ、または、それらがコードするポリペプチドを発現する。特定の実施形態では、肝細胞様細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、ASGR1(ASGPR)、HNF4a、及び/または、SOX9の内の少なくとも4つ、または、それらのあらゆる組み合わせ、または、それらがコードするポリペプチドを発現する。特定の実施形態では、肝細胞様細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、ASGR1(ASGPR)、HNF4a、及び/または、SOX9、または、それらがコードするポリペプチドを発現する。さらに別の実施形態では、肝細胞様細胞は、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、ASGR1(ASGPR)、HNF4a、及び/または、SOX9の少なくとも1つ、または、それらのあらゆる組み合わせ、または、それらがコードするポリペプチドの発現を検出し、そして、任意に測定することで、同定をすることができる。なおも別の実施形態では、肝細胞様細胞に発現をさせ、そして、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、ASGR1、HNF4a、及び/または、SOX9の少なくとも1つ、または、それらのあらゆる組み合わせがコードする1つ以上のポリペプチドの発現を検出し、そして、任意に測定することで、同定をすることができる。一部の実施形態では、肝細胞様細胞に発現をさせ、そして、次の遺伝子:α-胎児性タンパク質(AFP)、アルブミン(ALB)、ASGR1、HNF4a、及び/または、SOX9、または、それらがコードするポリペプチドの発現のレベルを、肝細胞(例えば、胎児肝細胞など)での同じ遺伝子/ポリペプチドの発現のレベルと比較をして、同定をすることができる。特定の実施形態では、肝細胞様細胞は、胎児肝細胞での対応するレベルと比較して、SOX9遺伝子、または、それがコードするポリペプチドを強く発現する。特定の実施形態では、肝細胞様細胞は、胎児肝細胞と比較して、実質的に同じレベルで、HNF4a、AFP、ALB、及び、ASGPR遺伝子を発現する。成熟肝細胞様細胞は、例えば、少なくとも10000単位/100万個の細胞という相対活性など、検出可能なレベルのCyP3A4を有することができる。さらに別の実施形態では、成熟肝細胞様細胞は、未成熟肝細胞様細胞よりも強いCyP3A4活性を有することができる。成熟肝細胞様細胞は、例えば、少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12μg/L/10/24時間、または、それを超える検出可能なレベルのアルブミンを生産することができる。成熟肝細胞様細胞は、例えば、少なくとも約10、100、または、1000μg/L/10/24時間、または、それを超える検出可能なレベルのアルブミンを生産することができる。
【0044】
肝細胞様細胞は、あらゆる起源のものとすることができ、特に、哺乳動物に由来し得るものであり、そして、一部の実施形態では、ヒトに由来し得る。
【0045】
第3のプロセスで使用する第3、第4、及び、第5の培養培地を、無血清(例えば、血清を補充していない)とすることができる。別の実施形態では、第3のプロセスで使用する第3、第4、及び、第5の培養培地は、血清を含むことができ、同血清を、KnockOut Serum Replacement(商標)(ThermoFisherScientific)とし得る。ある実施形態では、第3、第4、及び、第5の培養培地は、約0.1~約5%(v/v)の血清を含む。さらに別の実施形態では、第3、第4、及び、第5の培養培地は、少なくとも約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5%以上の血清を含む。別の実施形態では、第3、第4、及び、第5の培養培地は、約5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2%以下の血清を含む。なおも別の実施形態では、第3、第4、及び、第5の培養培地は、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、または、4.5%と、約5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、または、0.2%との間の血清を含む。ある実施形態では、第3の培養培地は、約2%の血清を含む。別の実施形態では、第3の培養培地は、約1%の血清を含む。別の実施形態では、第4の培養培地は、約1%の血清を含む。さらに別の実施形態では、第5の培養培地は、約1%の血清を含む。
【0046】
第3の培養培地は、第3の添加剤セットを含んでおり、同セットは、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子、骨形態形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の活性化因子、線維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達経路の活性化因子、肝細胞成長因子(HGF)シグナル伝達経路の活性化因子、Wntシグナル伝達経路の活性化因子、TGFβシグナル伝達経路の阻害因子、サイトカイン、及び、糖質コルチコイドを含む、または、本質的にそれらからなる。本開示の関連で使用する表現「第3の培養培地は、本質的に第3の添加剤セットからなる」とは、肝細胞前駆細胞の肝細胞様細胞への分化において非必須のさらなる添加剤を含むが、分化を促すことはできる第3の培養培地のことを指す。これらのさらなる添加剤として、例えば、B27サプリメント、初代肝細胞サプリメント(PHH)、HBM/HCM Bulletkit(商標)レチノイン酸、インスリン、ビタミン類、及び、ミネラルがあるが、これらに限定されない。
【0047】
第3の培養培地は、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子も含む。本開示の関連で使用する「インスリンシグナル伝達経路の活性化因子」とは、インスリンと、その同族受容体(チロシンキナーゼ受容体)との結合に関連するシグナル伝達経路を活性化することができる化合物のことを指す。この化合物は、インスリン受容体(インスリン、IGF-I、または、IGF-II)のアゴニスト、インスリンシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの活性化因子、及び/または、インスリンシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの阻害因子のいずれかとし得る。ある実施形態では、活性化因子は、(組換え形態、または、精製した形態で提供し得る)インスリンである。インスリンを、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子として使用する実施形態では、インスリンは、第3の培養培地で、少なくとも約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または、それを超えるng/mLで提供し得る。インスリンを、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子として使用する実施形態では、インスリンは、第3の培養培地で、約100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、または、それ未満のng/mLに満たない濃度で提供することができる。インスリンを、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子として使用する実施形態では、インスリンは、第3の培養培地で、約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、または、95と、約100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、または、5との間の濃度で提供することができる。一部の特定の実施形態では、インスリンは、第3の培養培地で、約10mg/mlの濃度で提供することができる。さらに別の実施形態では、インスリンは、B27サプリメントの形態、HBM/HCM Bulletkit(商標)、及び/または、初代肝細胞(PHH)サプリメントの形態で提供する。
【0048】
第3の培養培地は、骨形態形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の活性化因子を含む。成長の過程で、BMPシグナル伝達経路の活性化因子は、通常、心臓の中胚葉から提供され、そして、内胚葉細胞から後方前腸細胞への分化を促す。本開示の関連で使用する「BMPシグナル伝達経路の活性化因子」とは、BMPと、その同族受容体(例えば、BMPR1、及び/または、BMPR2)との結合に関連するシグナル伝達経路を活性化することができる化合物のことを指す。シグナル伝達BMP受容体は、SMAD及びMAPキナーゼ経路を介して発生し、そして、BMP標的遺伝子の転写を行う。この化合物は、(BMPR1、または、BMPR2に特異的であるか、または、両方の受容体に結合し、そして、活性化することができる)BMP受容体のアゴニスト、BMPシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの活性化因子、及び/または、BMPシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの阻害因子のいずれかとし得る。公知のBMPとして、BMP1、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7、BMP8a、BMP8b、BMP9、BMP10、BMP11、及び、BMP15があるが、これらに限定されない。ある実施形態では、活性化因子は、DM3189である。別の実施形態では、活性化因子は、BMP4(組換え形態、または、精製した形態で提供し得る)である。BMP4は、形質転換成長因子-β(TGF-β)ファミリーのメンバーであり、BMPR1、及び、BMPR2として公知の2つの異なるタイプのセリン-スレオニンキナーゼ受容体に結合する。BMP4を、BMPシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、BMP4は、第3の培養培地で、少なくとも約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または、それを超えるng/mLの濃度で提供することができる。BMP4を、BMPシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、BMP4は、第3の培養培地で、少なくとも約30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、または、それ未満のng/mLに満たない濃度で提供することができる。BMP4を、BMPシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、BMP4は、第3の培養培地で、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、または、29と、約30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、または、11ng/mLとの間の濃度で提供することができる。一部の特定の実施形態では、BMP4は、約20ng/mLの濃度で第3の培養培地に提供し得る。さらなる実施形態では、BMP4は、第1、第2、及び、第3の添加剤セットの両方において活性化因子として提供し得る。
【0049】
第3の培養培地は、線維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達経路の活性化因子も含む。成長の過程で、FGFシグナル伝達経路の活性化因子は、通常、心臓の中胚葉から提供され、そして、内胚葉細胞から後方前腸細胞への分化を促す。本開示の関連で使用する「FGFシグナル伝達経路の活性化因子」とは、FGFと、その同族受容体(例えば、FGFR1、FGFR2、FGFR3、及び/または、FGFR4)との結合に関連するシグナル伝達経路を活性化することができる化合物のことを指す。この化合物は、(FGFR1、FGFR2、FGFR3、及び/または、FGFR4に特異的であるか、または、複数の受容体に結合し、そして、活性化することができる)FGF受容体のアゴニスト、FGFシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの活性化因子、及び/または、FGFシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの阻害因子のいずれかとし得る。公知のFGFとして、FGF1、FGF2、FGF3、FGF4、FGF5、FGF6、FGF7、FGF8a、FGF8b、FGF9、FGF10、FGF11、FGF12、FGF13、FGF14、FGF15/19、FGF16、FGF17、FGF18、FGF20、FGF21、FGF22、及び、FGF23があるが、これらに限定されない。ある実施形態では、活性化因子は、塩基性FGFまたはFGF2(組換え形態、または、精製した形態で提供し得る)である。FGF2は、FGFR2(別名、CD332)、及び、FGFR3として公知の2つの異なるタイプの受容体に結合する。塩基性FGFを、FGFシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、塩基性FGFは、第1の培養培地で、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または、それを超えるng/mLの濃度で提供することができる。塩基性FGFを、FGFシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、塩基性FGFは、第1の培養培地で、少なくとも約20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または、それ未満のng/mLに満たない濃度で提供することができる。塩基性FGFを、FGFシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、塩基性FGFは、第1の培養培地で、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、または、19と、約20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2ng/mLとの間の濃度で提供することができる。一部の特定の実施形態では、塩基性FGFを、約10ng/mLの濃度で第3の培養培地に提供し得る。さらなる実施形態では、塩基性FGFは、第2、及び、第3の添加剤セットの両方において活性化因子として提供し得る。
【0050】
第3の培養培地は、肝細胞成長因子(HGF)シグナル伝達経路の活性化因子も含む。成長の過程で、HGFシグナル伝達経路の活性化因子は、内胚葉細胞から肝細胞系統の細胞への分化を促す。本開示の関連で使用する「HGFシグナル伝達経路の活性化因子」とは、HGFと、その同族受容体(例えば、c-Met)との結合に関連するシグナル伝達経路を活性化することができる化合物のことを指す。この化合物は、HGF受容体のアゴニスト、HGFシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの活性化因子、及び/または、HGFシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの阻害因子のいずれかとし得る。ある実施形態では、活性化因子は、HGF(組換え形態、または、精製した形態で提供し得る)である。HGFを、HGFシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、HGFは、第3の培養培地で、少なくとも約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、または、それを超えるng/mLの濃度で提供することができる。HGFを、HGFシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、HGFは、第3の培養培地で、少なくとも約40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、または、それ未満のng/mLに満たない濃度で提供することができる。HGFを、HGFシグナル伝達経路の活性化因子として提供する実施形態では、HGFは、第3の培養培地で、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、または、39と、約40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、または、11ng/mLとの間の濃度で提供することができる。一部の特定の実施形態では、HGFを、約20ng/mLの濃度で、第3の培養培地に提供し得る。HGFを、第2、及び、第3の添加剤セットでの活性化因子とし得る。
【0051】
第3の培養培地は、Wntシグナル伝達経路の活性化因子をさらに含む。本開示の関連で使用する「Wntシグナル伝達経路の活性化因子」とは、Wntタンパク質リガンドと、その同族Frizzle受容体(例えば、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、または、FZD10)との結合に関連するシグナル伝達経路を活性化することができる化合物のことを指す。Frizzled受容体のファミリーは、Gタンパク質共役型受容体タンパク質である。この化合物は、(FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、または、FZD10のいずれかに特異的であるか、または、複数の受容体に結合し、そして、阻害することができる)Frizzled受容体のアゴニスト、Wntシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの活性化因子、及び/または、Wntシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの阻害因子のいずれかとし得る。公知のWntタンパク質として、WNT1、WNT2、WNT2B、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、及び、WNT16があるが、これらに限定されない。ある実施形態では、活性化因子は、Wnt3a、SB-216763、及び/または、LY2090314である。ある実施形態では、活性化因子は、GSK3タンパク質の生物学的活性を阻害することができる。例えば、GSK3タンパク質の生物学的活性を阻害することができる活性化因子を、CHIR99021とすることができる。CHIR99021を、Wntシグナル伝達経路の活性化因子として使用する実施形態では、CHIR99021は、第3の培養培地で、少なくとも0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5μM、または、それを超える濃度で提供することができる。CHIR99021を、Wntシグナル伝達経路の活性化因子として使用する実施形態では、CHIR99021は、第3の培養培地で、8、7.5、7、6.5、6、5.5、5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、1、または、それ未満のμMに満たない濃度で提供することができる。CHIR99021を、Wntシグナル伝達経路の活性化因子として使用する実施形態では、CHIR99021は、第3の培養培地で、約0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、または、7.5と、約8、7.5、7、6.5、6、5.5、5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、または、1μMとの間の濃度で提供することができる。CHIR99021を、Wntシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、CHIR99021を、約3μMの濃度で、第3の培養培地に提供し得る。ある実施形態では、CHIR99021を、第2、及び、第3の添加剤セットでの活性化因子とし得る。
【0052】
第3の培養培地は、形質転換成長因子β(TGFβ)シグナル伝達経路の阻害因子をさらに含む。TGFβシグナル伝達経路の阻害因子の存在は、Wntシグナル伝達経路の阻害因子と組み合わせることで、肝臓の発生に必要なポリペプチドをコードするHEX及びPROX1遺伝子の発現において有利に作用する。本開示の関連で使用する「TGFβシグナル伝達経路の阻害因子」とは、TGFβと、その同族受容体との結合に関連するシグナル伝達経路を阻害することができる化合物のことを指す。TGFβ受容体のファミリーは、SMADタンパク質を介してシグナル伝達を媒介する。この化合物は、TGFβ受容体のアンタゴニスト、TGFβシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの阻害因子、及び/または、TGFβシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの活性化因子のいずれかとし得る。公知のTGFβタンパク質として、TGFB1、TGFB2、TGFB3、及び、TGFB4があるが、これらに限定されない。ある実施形態では、阻害因子は、ALK4、ALK5、または、ALK7ポリペプチドの内の少なくとも1つの生物学的活性を阻害することができる。一部の実施形態では、阻害因子は、ALK4、ALK5、及び、ALK7ポリペプチドの生物学的活性を阻害することができる。例えば、ALK4、ALK5、及び、ALK7ポリペプチドの生物学的活性を阻害することができる阻害因子を、A83-01とすることができる。あるいは、または、組み合わせで、SB431542、及び/または、LY364947を阻害因子とすることができる。A83-01を、TGFβシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、A83-01は、第3の培養培地で、少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.5、3、3.5、4、4.5μM、または、それを超える濃度で提供することができる。A83-01を、TGFβシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、A83-01は、第3の培養培地で、5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2μM、または、それに満たない濃度で提供することができる。A83-01を、TGFβシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、A83-01は、第3の培養培地で、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.5、3、3.5、4、または、4.5と、約5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2μMとの間の濃度で提供することができる。A83-01を、TGFβシグナル伝達経路の阻害因子として使用する実施形態では、A83-01を、約1μMの濃度で第2の培養培地に提供し得る。一部の実施形態では、A83-01は、第1、及び、第3の添加剤セットでの阻害因子とし得る。
【0053】
第3の培養培地は、例えば、オンコスタチンM(OSM)などのサイトカインも含む。オンコスタチンMを、サイトカインとして使用する実施形態では、オンコスタチンMは、第3の培養培地で、少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29ng/ml、または、それを超える濃度で存在することができる。オンコスタチンMを、サイトカインとして使用する実施形態では、オンコスタチンMは、第3の培養培地で、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11ng/ml、または、それ未満にも満たない濃度で存在することができる。オンコスタチンMを、サイトカインとして使用する実施形態では、オンコスタチンMは、第3の培養培地で、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、または、29と、約30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、または、11ng/mlとの間の濃度で存在することができる。特定の実施形態では、オンコスタチンMは、約20ng/mlの濃度で第3の培養培地に存在する。
【0054】
第3の培養培地は、例えば、デキサメタゾンなどの糖質コルチコイドをさらに含む。デキサメタゾンを、糖質コルチコイドとして使用する実施形態では、デキサメタゾンは、第3の培養培地で、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14μM、または、それを超える濃度で存在することができる。デキサメタゾンを、糖質コルチコイドとして使用する実施形態では、デキサメタゾンは、第3の培養培地で、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6μM、または、それ未満にも満たない濃度で存在することができる。デキサメタゾンを、糖質コルチコイドとして使用する実施形態では、デキサメタゾンは、第3の培養培地で、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、または、14と、約15、14、13、12、11、10、9、8、7、または、6μMとの間の濃度で存在することができる。特定の実施形態では、デキサメタゾンは、約10μMの濃度で第3の培養培地に存在する。
【0055】
第3の培養培地は、分化を可能ならしめるために、少なくとも1日以上、肝前駆細胞、及び、肝細胞系統の細胞と接触させておく。第3の培養培地を、培養細胞と2日以上接触させることを意図している場合、培地は、毎日交換することができる。本開示のプロセスの一部の実施形態では、第3の培養培地を、少なくとも1、2、3、4、または、それ以上の日数の間、培養細胞と接触させておく。別の実施形態では、第3の培養培地を、5、4、3、2、または、それ未満の日数の間、培養細胞と接触させておく。さらに別の実施形態では、第3の培養培地を、少なくとも1、2、3、4、または、それ以上の日数、そして、5、4、3、2、または、それ未満の日数の間、培養細胞と接触させておく。なおも別の実施形態では、第3の培養培地を、約1日~5日の間、培養細胞と接触させておく。
【0056】
後方前腸細胞を含む第3の培養培地を使用すると、肝前駆細胞を肝細胞系統の細胞に分化させることができる。したがって、本開示は、本明細書に記載したプロセスで得た肝細胞系統の細胞の集団を提供する。本開示の肝細胞系統の細胞の集団において、細胞の大部分が、肝細胞系統の細胞であると考えられており、そして、一部の実施形態では、一部の肝前駆細胞、及び/または、内胚葉細胞を含むことができる。
【0057】
第4の培養培地は、第4の添加剤セットを含んでおり、同セットは、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子、サイトカイン、及び、糖質コルチコイドを含む、または、本質的にそれらからなる。本開示の関連で使用する表現「第4の培養培地は、本質的に第4の添加剤セットからなる」とは、肝細胞系統の未成熟肝細胞様細胞への分化において非必須のさらなる添加剤を含むが、分化を促すことはできる第4の培養培地のことを指す。これらのさらなる添加剤として、例えば、B27サプリメント、初代肝細胞サプリメント(PHH)、HBM/HCM Bulletkit(商標)レチノイン酸、インスリン、ビタミン類、及び、ミネラルがあるが、これらに限定されない。
【0058】
第4の培養培地は、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子も含む。本開示の関連で使用する「インスリンシグナル伝達経路の活性化因子」とは、インスリンと、その同族受容体(チロシンキナーゼ受容体)との結合に関連するシグナル伝達経路を活性化することができる化合物のことを指す。この化合物は、インスリン受容体(インスリン、IGF-I、または、IGF-II)のアゴニスト、インスリンシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの活性化因子、及び/または、インスリンシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの阻害因子のいずれかとし得る。ある実施形態では、活性化因子は、(組換え形態、または、精製した形態で提供し得る)インスリンである。インスリンを、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子として使用する実施形態では、インスリンは、第4の培養培地で、少なくとも約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または、それを超えるng/mLで提供し得る。インスリンを、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子として使用する実施形態では、インスリンは、第4の培養培地で、約100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、または、それ未満のng/mLに満たない濃度で提供することができる。インスリンを、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子として使用する実施形態では、インスリンは、第4の培養培地で、約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、または、95と、約100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、または、5との間の濃度で提供することができる。一部の特定の実施形態では、インスリンは、第4の培養培地で、約10mg/mlの濃度で提供することができる。さらに別の実施形態では、インスリンは、B27サプリメントの形態、HBM/HCM Bulletkit(商標)、及び/または、初代肝細胞(PHH)サプリメントの形態で提供する。
【0059】
第4の培養培地は、例えば、オンコスタチンM(OSM)などのサイトカインも含む。オンコスタチンMを、サイトカインとして使用する実施形態では、オンコスタチンMは、第4の培養培地で、少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29ng/ml、または、それを超える濃度で存在することができる。オンコスタチンMを、サイトカインとして使用する実施形態では、オンコスタチンMは、第4の培養培地で、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11ng/ml、または、それ未満にも満たない濃度で存在することができる。オンコスタチンMを、サイトカインとして使用する実施形態では、オンコスタチンMは、第4の培養培地で、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、または、29と、約30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、または、11ng/mlとの間の濃度で存在することができる。特定の実施形態では、オンコスタチンMは、約20ng/mlの濃度で第4の培養培地に存在する。
【0060】
第4の培養培地は、例えば、デキサメタゾンなどの糖質コルチコイドをさらに含む。デキサメタゾンを、糖質コルチコイドとして使用する実施形態では、デキサメタゾンは、第4の培養培地で、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14μM、または、それを超える濃度で存在することができる。デキサメタゾンを、糖質コルチコイドとして使用する実施形態では、デキサメタゾンは、第4の培養培地で、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6μM、または、それ未満にも満たない濃度で存在することができる。デキサメタゾンを、糖質コルチコイドとして使用する実施形態では、デキサメタゾンは、第4の培養培地で、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、または、14と、約15、14、13、12、11、10、9、8、7、または、6μMとの間の濃度で存在することができる。特定の実施形態では、デキサメタゾンは、約10μMの濃度で第4の培養培地に存在する。
【0061】
第4の培養培地は、分化を可能ならしめるために、少なくとも1日以上、肝細胞系統の細胞、及び、未成熟肝細胞様細胞と接触させておく。第4の培養培地を、培養細胞と2日以上接触させることを意図している場合、培地は、毎日交換することができる。本開示のプロセスの一部の実施形態では、第4の培養培地を、少なくとも1、2、3、4、または、それ以上の日数の間、培養細胞と接触させておく。別の実施形態では、第4の培養培地を、5、4、3、2、または、それ未満の日数の間、培養細胞と接触させておく。さらに別の実施形態では、第4の培養培地を、少なくとも1、2、3、4、または、それ以上の日数、そして、5、4、3、2、または、それ未満の日数の間、培養細胞と接触させておく。なおも別の実施形態では、第4の培養培地を、約1日~5日の間、培養細胞と接触させておく。
【0062】
後方前腸細胞を含む第4の培養培地を使用すると、肝細胞系統の細胞を未成熟肝細胞様細胞に分化させることができる。したがって、本開示は、本明細書に記載したプロセスで得た未成熟肝細胞様細胞の集団を提供する。本開示の未成熟肝細胞様細胞の集団において、細胞の大部分が、未成熟肝細胞様細胞であると考えられており、そして、一部の実施形態では、肝細胞系統の一部の細胞、肝前駆細胞、及び/または、内胚葉細胞を含むことができる。
【0063】
第5の培養培地は、第5の添加剤セットを含んでおり、同セットは、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子、及び、糖質コルチコイドを含む、または、本質的にそれらからなる。本開示の関連で使用する表現「第5の培養培地は、本質的に第5の添加剤セットからなる」とは、未成熟肝細胞様細胞の成熟肝細胞様細胞への分化において非必須のさらなる添加剤を含むが、分化を促すことはできる第5の培養培地のことを指す。これらのさらなる添加剤として、例えば、B27サプリメント、初代肝細胞サプリメント、レチノイン酸、インスリン、ビタミン類、HBM/HCM Bulletkit(商標)、及び、ミネラルがあるが、これらに限定されない。
【0064】
第5の培養培地は、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子も含む。本開示の関連で使用する「インスリンシグナル伝達経路の活性化因子」とは、インスリンと、その同族受容体(チロシンキナーゼ受容体)との結合に関連するシグナル伝達経路を活性化することができる化合物のことを指す。この化合物は、インスリン受容体(インスリン、IGF-I、または、IGF-II)のアゴニスト、インスリンシグナル伝達経路を活性化することが公知のポリペプチドの活性化因子、及び/または、インスリンシグナル伝達経路を阻害することが公知のポリペプチドの阻害因子のいずれかとし得る。ある実施形態では、活性化因子は、(組換え形態、または、精製した形態で提供し得る)インスリンである。インスリンを、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子として使用する実施形態では、インスリンは、第5の培養培地で、少なくとも約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または、それを超えるng/mLで提供し得る。インスリンを、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子として使用する実施形態では、インスリンは、第5の培養培地で、約100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、または、それ未満のng/mLに満たない濃度で提供することができる。インスリンを、インスリンシグナル伝達経路の活性化因子として使用する実施形態では、インスリンは、第5の培養培地で、約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、または、95と、約100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、または、5との間の濃度で提供することができる。一部の特定の実施形態では、インスリンは、第5の培養培地で、約10mg/mlの濃度で提供することができる。さらに別の実施形態では、インスリンは、B27サプリメントの形態、HBM/HCM Bulletkit(商標)、及び/または、初代肝細胞(PHH)サプリメントの形態で提供する。
【0065】
第5の培養培地は、例えば、デキサメタゾンなどの糖質コルチコイドをさらに含む。デキサメタゾンを、糖質コルチコイドとして使用する実施形態では、デキサメタゾンは、第5の培養培地で、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14μM、または、それを超える濃度で存在することができる。デキサメタゾンを、糖質コルチコイドとして使用する実施形態では、デキサメタゾンは、第5の培養培地で、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6μM、または、それ未満にも満たない濃度で存在することができる。デキサメタゾンを、糖質コルチコイドとして使用する実施形態では、デキサメタゾンは、第5の培養培地で、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、または、14と、約15、14、13、12、11、10、9、8、7、または、6μMとの間の濃度で存在することができる。特定の実施形態では、デキサメタゾンは、約10μMの濃度で第5の培養培地に存在する。特定の実施形態では、デキサメタゾンは、約10μMの濃度で第5の培養培地に存在する。
【0066】
第5の培養培地は、分化を可能ならしめるために、少なくとも1日以上、未成熟肝細胞様細胞、及び、成熟肝細胞様細胞と接触させておく。第5の培養培地を、培養細胞と2日以上接触させることを意図している場合、培地は、毎日交換することができる。本開示のプロセスの一部の実施形態では、第5の培養培地を、少なくとも1、2、3、4、または、それ以上の日数の間、培養細胞と接触させておく。別の実施形態では、第5の培養培地を、5、4、3、2、または、それ未満の日数の間、培養細胞と接触させておく。さらに別の実施形態では、第5の培養培地を、少なくとも1、2、3、4、または、それ以上の日数、そして、5、4、3、2、または、それ未満の日数の間、培養細胞と接触させておく。なおも別の実施形態では、第5の培養培地を、約1日~5日の間、培養細胞と接触させておく。
【0067】
後方前腸細胞を含む第5の培養培地を使用すると、未成熟肝細胞様細胞を成熟肝細胞様細胞に分化させることができる。したがって、本開示は、本明細書に記載したプロセスで得た成熟肝細胞様細胞の集団を提供する。本開示の成熟肝細胞様細胞の集団において、細胞の大部分が、成熟肝細胞様細胞であると考えられており、そして、一部の実施形態では、一部の未成熟肝細胞様細胞、肝細胞系統の細胞、肝前駆細胞、及び/または、内胚葉細胞を含むことができる。
【0068】
本明細書に記載した培地は、胆管細胞の形成を促すことができるので、EGFを含める必要性は特にない。
【0069】
本開示は、本明細書に開示したように、第1、第2、及び/または、第3のプロセスの組み合わせを提供する。例えば、第1のプロセスを、第2のプロセスと組み合わせて、内胚葉細胞から肝前駆細胞を作り出すことができる。別の例では、第2のプロセスを、第3のプロセスと組み合わせて、後方前腸細胞から肝細胞様細胞を作り出すことができる。さらなる例では、第1、第2、及び、第3のプロセスを組み合わせて、内胚葉細胞から肝細胞様細胞を作り出すことができる。本明細書に記載したプロセスは、強力な生物学的活性(例えば、高いCyp3A4活性、高いアルブミン発現レベル、及び/または、高い尿素生産レベル)を有する、及び/または、治療薬(または、潜在的な治療薬)を代謝することができる、数多くの肝細胞様細胞、及び/または、肝細胞様細胞を生成する。この特定の実施形態は、後述するように、被包化肝臓組織に取り込ませることを意図した肝細胞様細胞を作り出す上で特に有用である。
【0070】
本開示は、後方前腸細胞、肝前駆細胞、及び/または、肝細胞様細胞を作り出すキットのための構成要素も提供する。概して、キットは、本明細書に記載した少なくとも1つの添加剤セット、または、本明細書に記載した少なくとも1つの培養培地、任意の細胞、ならびに、本明細書に記載したプロセスを実施するための説明書を含む。後方前腸細胞を作り出すためのキットは、例えば、第1の添加剤セット、または、第1の培養培地、任意の内胚葉細胞、ならびに、第1のプロセスを実施するための説明書を含むことができる。肝前駆細胞を作り出すためのキットは、例えば、第2の添加剤セット、または、第2の培養培地、任意の後方前腸細胞、ならびに、第2のプロセスを実施するための説明書を含むことができる。肝細胞様細胞を作り出すためのキットは、例えば、第3の添加剤セットまたは第3の培養培地、第4の添加剤セットまたは第4の培養培地、第5の添加剤セットまたは第5の培養培地、任意の肝前駆細胞、肝細胞系統の細胞、または、未成熟肝細胞様細胞、ならびに、第3のプロセスを実施するための説明書を含むことができる。
【0071】
被包化肝組織
被包化肝組織は、生体適合性架橋ポリマーで少なくとも部分的に被覆した肝臓オルガノイドを、少なくとも1つ(そして、ある実施形態では、複数)含む。本開示との関連で使用する「肝臓オルガノイド」とは、培養した肝細胞、間葉細胞、及び、内皮細胞の混合物のことを指しており、肝細胞は、本明細書に記載したプロセスを使用して取得する。一部の実施形態では、肝臓オルガノイドは、培養した肝細胞、間葉細胞、及び、内皮細胞の混合物を含む。肝臓オルガノイドは、一般的に、球状の形態を有しており、その表面は不規則となり得る。肝臓オルガノイドの相対直径は、約50~約500μmである。肝臓の細胞コアは、肝細胞、間葉細胞、及び、任意の内皮細胞から構成されており、そして、一部の実施形態では、培養の間に、細胞外マトリックス、肝細胞、間葉細胞、及び、任意の内皮細胞から生産、及び、構築する。肝臓オルガノイドは、細胞を懸濁培養して得ることができる。一部の実施形態では、特に、被包化肝組織の培養/分化の前に、肝細胞、例えば、肝実質細胞、及び/または、胆管上皮細胞などで、肝臓オルガノイドの表面を、少なくとも部分的に被覆する(一部の実施形態では、実質的に被覆する)。別の実施形態では、肝細胞は、細胞コア全体に分散する(しかし、必ずしも均一である必要はない)。被包化肝組織に存在するオルガノイドは、第1の生体適合性架橋ポリマーで、少なくとも部分的に被覆する(一部の実施形態では、実質的に被覆する)。
【0072】
被包化前の肝臓オルガノイドは、外来性の細胞外マトリックスを含んでいない。肝臓オルガノイドは、培養した肝細胞、間葉細胞、及び、任意の内皮細胞から実質的に構成されている。さらに、肝臓オルガノイド(第1の生体適合性ポリマーに被包されているもの、または、被包されていないもの)は、肝機能を示し、例えば、肝臓オルガノイドは、アルブミン及び凝固因子を合成すること、CyP3A4活性を示すこと、アンモニアから尿素へと無害化処理すること、ならびに、肝臓特異的な薬物(すなわち、タクロリムス、または、リファンピシン)代謝を行うことができる。
【0073】
本開示の肝臓オルガノイドは、実質的に球状の形態を有しており、かつ、マイクロメートル範囲の相対直径を有する(例えば、その直径は、1mm未満である)。ある実施形態では、肝臓オルガノイドは、その被包化前は、少なくとも約50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、または、490μmの相対直径を有する。なおも別の実施形態では、肝臓オルガノイドは、その被包化前は、約500、490、480、470、460、450、440、430、420、410、400、390、380、370、360、350、340、330、320、310、300、290、280、270、260、250、240、230、220、210、200、190、180、170、160、150、140、130、120、110、100、90、80、70、または、60μm以下の相対直径を有する。別の実施形態では、肝臓オルガノイドは、その被包化前に、少なくとも約50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、または、490μmと、約500、490、480、470、460、450、440、430、420、410、400、390、380、370、360、350、340、330、320、310、300、290、280、270、260、250、240、230、220、210、200、190、180、170、160、150、140、130、120、110、100、90、80、70または60μm以下との間の相対直径を有する。一部の実施形態では、肝臓オルガノイドは、その被包化前に、少なくとも約100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、または、290μmと、約300、290、280、270、260、250、240、230、220、210、200、190、180、170、160、150、140、130、120、110、100、90、80、70、または、60μm以下との間の相対直径を有する。なおも別の実施形態では、被包化前の肝臓オルガノイドは、少なくとも約100μmであり、かつ、約300μm以下の相対直径を有する。例えば、被包化前の肝臓オルガノイドは、少なくとも約150、160、170、180、または、190μmであり、かつ、200、190、180、170、または、160μmよりも小さい相対直径を有する。なおもさらなる実施形態では、被包化前の肝臓オルガノイドは、少なくとも約150μmであり、かつ、約200μm以下の相対直径を有する。肝臓オルガノイドの大きさによって、そこに含まれる細胞は、様々な栄養素や、被包化肝臓組織と接触する生体液/細胞に曝露されることが増える。一部の実施形態では、これにより、宿主の血管系(例えば、被包化肝臓組織を移植した宿主の管脈系)での肝臓オルガノイドの血管形成の必要がなくなり、インビボで生存可能で、かつ、生物学的に活性な状態を保つことができるようになる。
【0074】
肝臓オルガノイドの肝細胞は、オルガノイド全体に分散することができ、一部の実施形態では、それらの一部は、肝臓オルガノイドの細胞コアの表面に位置することができる。肝臓オルガノイドの肝細胞は、例えば、胚体内胚葉、後方前腸細胞、肝細胞系統の細胞、または、肝前駆細胞、または、肝細胞様細胞に由来する細胞とすることができる。肝臓オルガノイドの肝細胞は、肝細胞様細胞、及び/または、胆管上皮細胞とすることができる。肝臓オルガノイドの肝細胞は、単一の細胞型(例えば、胚体内胚葉細胞、後方前腸細胞、肝細胞系統の細胞、肝細胞様細胞、または、胆管上皮細胞)に由来する、あるいは、細胞型の混合物(例えば、次の細胞型:胚体内胚葉細胞、後方前腸細胞、肝細胞系統の細胞、肝細胞様細胞、及び/または、胆管上皮細胞の少なくとも2つの混合物)に由来することができる。肝臓オルガノイドをインビトロで細胞培養する間、または、肝臓オルガノイドをインビボで移植を行うと、肝細胞型(複数可)が変化すること、または、肝細胞が分化することができる。例えば、肝臓オルガノイドの肝細胞は、間葉細胞、及び、任意の内皮細胞と共培養している間、または、インビボで移植を行うと、(胚体内胚葉、後方前腸、または、肝細胞系統の細胞から、肝細胞様細胞または胆管上皮細胞へと)分化することができる。肝臓オルガノイドに肝細胞様細胞が存在するか否かを決定するために、チトクロムP450ファミリー3サブファミリーAメンバー4(CyP3A4)の活性を、当該技術分野で公知の手段で決定することができる。肝臓オルガノイドでの肝細胞様細胞の存在の有無を決定するために、アルブミン、凝固因子、及び、尿素の合成/生産、ならびに、CyP3A4の活性をモニターすることもできる。肝臓オルガノイドでの胚体内胚葉または後方前腸細胞の存在の有無を決定するために、SOX17、FOXA2、CXCR4、GATA4の発現を、当該技術分野で公知の手段で決定することができる。
【0075】
肝臓オルガノイドの間葉細胞を、例えば、異なる起源(骨髄(血液を含む)、臍帯、または、脂肪組織)の間葉系幹細胞/前駆細胞、脂肪細胞、筋細胞、肝星細胞、筋線維芽細胞、及び/または、線維芽細胞とすることができる。肝臓オルガノイドの間葉細胞は、単一の細胞型(例えば、間葉系幹細胞/前駆細胞、脂肪細胞、筋細胞、または、線維芽細胞)に由来するか、または、細胞型の混合物(例えば、次の細胞型:間葉系幹細胞/前駆細胞、脂肪細胞、筋細胞、肝星細胞、筋線維芽細胞、及び/または、線維芽細胞の少なくとも2つの混合物)に由来することができる。肝臓オルガノイドの間葉細胞の型は、肝細胞、及び、任意の内皮細胞との共培養の間、または、インビボで移植を行うと、(間葉系幹細胞/前駆細胞から、線維芽細胞、脂肪細胞、または、筋細胞へと)分化することができる。間葉系幹細胞/前駆細胞は、数ある遺伝子の中でもとりわけ、α平滑筋アクチン(αSMA)、フィブロネクチン、CD90、及び、CD73を発現することが公知である。肝臓オルガノイドにおける間葉細胞の位置または存在を決定するために、数ある中でもとりわけ、間葉系系統に特異的である、または、間葉系系統と関連する、遺伝子またはタンパク質の発現を決定することができる。
【0076】
肝臓オルガノイドの内皮細胞は、存在する場合、例えば、様々な起源の内皮前駆細胞、及び/または、内皮細胞とすることができる。肝臓オルガノイドの内皮細胞は、単一の細胞型(例えば、内皮前駆細胞、または、内皮細胞)に由来する、または、細胞型の混合物(例えば、内皮前駆細胞と内皮細胞との混合物)に由来することができる。肝臓オルガノイドの内皮細胞の型は、内胚葉細胞と間葉細胞とのインビトロでの共培養の間、または、インビボで移植を行うと、(内皮前駆細胞から内皮細胞へと)分化することができる。一部の実施形態では、肝臓オルガノイドの内皮細胞は、管腔の内面に内皮細胞が並ぶ(部分的とすることができる)毛細管または毛細管様形状を組織することができる。
【0077】
上記したように、肝臓オルガノイドの細胞コアは、肝細胞、間葉細胞、及び、任意の内皮細胞からから構成されており、そして、一部の実施形態では、培養の間に細胞が生産及び構築した細胞外マトリックスからなる。肝臓オルガノイドの細胞コアは、壊死細胞/アポトーシス細胞が実質的に少なく(例えば、肝臓オルガノイドの細胞コアは、組織学的に調べると壊死領域を有していない)、この理由は、肝臓オルガノイドを培養する培地から細胞コア全体に栄養分が拡散することができ、これにより、細胞コア内の細胞に栄養分を送達することができ、さらに、細胞コアの細胞の代謝老廃物を肝臓オルガノイドの外部に拡散させることができるためである。肝臓オルガノイド自体(被包化前)は、外因性の細胞外マトリックス、または、合成高分子材料を含んでいない(例えば、それらが存在しない)。一部の実施形態では、肝細胞は、細胞コアの表面に存在することができる。別の実施形態では、肝細胞は、細胞コアの細胞と組み合わせることで、細胞外マトリックス材料(例えば、コラーゲン、及び、フィブロネクチン)を生産及び構築することができ、加えて、一部の実施形態では、基底膜材料も生産及び構築することができる。
【0078】
上記したように、肝細胞は、肝臓オルガノイドの細胞コアの表面を、少なくとも部分的に被覆することができる。本開示との関連において「肝細胞は、細胞コアの表面を少なくとも部分的に被覆する」という表現は、細胞コアの表面の少なくとも約10%、20%、30%、または、40%を、肝細胞が占めることを示す。一部の実施形態では、肝細胞は、細胞コアの表面を実質的に被覆する。本開示との関連において「肝細胞は、細胞コアの表面を実質的に被覆する」という表現は、細胞コアの表面の大部分を、肝細胞が占めることを示し、例えば、細胞コアの表面の少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%を肝細胞が占める。ある実施形態では、肝細胞は、細胞コアの表面を完全に被覆する(例えば、細胞コアの表面の99%超を肝細胞で被覆する)。
【0079】
ある実施形態では、本開示の肝臓オルガノイドは、第1の架橋生体適合性ポリマーで被包する前は、哺乳動物の肝臓で認められるものと比較すると、肝細胞様細胞、及び/または、胆管上皮細胞よりも、間葉細胞(及び、存在する場合には、内皮細胞)の比率が大きい。しかしながら、第1の架橋生体適合性ポリマーで被包した後は、本開示の肝臓オルガノイドは、間葉細胞(及び、存在する場合には、内皮細胞)よりも、肝細胞の比率が大きい。哺乳動物の肝臓の約90%は、肝細胞から構成されていることは公知である。したがって、本開示の一部の実施形態では、肝臓オルガノイドでの肝細胞の比率は、(肝臓オルガノイドの総細胞数と比較した場合)約90%、約85%、約80%、または、約75%未満である。
【0080】
肝臓オルガノイドは、異なる起源の細胞から作り出すことができる。ある実施形態では、肝細胞、間葉細胞、または、内皮細胞の少なくとも1つは、哺乳動物、例えば、ヒトに由来する。別の実施形態では、肝細胞、間葉細胞、または、内皮細胞の少なくとも2つは、哺乳動物、例えば、ヒトに由来する。さらに別の実施形態では、肝細胞、間葉細胞、及び、内皮細胞はすべて、哺乳動物、例えば、ヒトに由来する。肝臓オルガノイド内では、異なる起源に由来する細胞を組み合わせることができる。例えば、間葉細胞及び内皮細胞を、マウス起源またはブタ起源に由来したものとする一方で、肝細胞は、ヒト起源に由来することができる。こうした組み合わせは網羅的なものではなく、当業者であれば、本開示との関連において適切である、さらなる組み合わせを想到することができる。
【0081】
肝臓オルガノイドの細胞は、異なる供給源に由来することができる。例えば、肝臓オルガノイドの細胞は、初代細胞培養、確立した細胞株、または、分化した幹細胞に由来することができる。肝臓オルガノイド内では、異なる供給源に由来する細胞を組み合わせることができる。例えば、肝細胞は、初代細胞培養に由来することができ、間葉細胞は、確立した細胞株に由来することができ、そして、内皮細胞は、分化した細胞株に由来することができる。あるいは、肝臓オルガノイド内では、同一の供給源(例えば、分化した幹細胞)に由来する細胞を組み合わせることもできる。本実施形態では、単一の細胞源(例えば、幹細胞)から被包化肝臓組織を作り出すために細胞を取得できるので、特に有用である。特定の実施形態では、肝臓オルガノイドの細胞は、肝細胞、間葉細胞、及び、任意の内皮細胞に分化した単一の幹細胞集団に由来する。幹細胞集団は、胚性幹細胞、または、人工多能性幹細胞に由来することができる。特定の実施形態では、肝臓オルガノイドの細胞は、肝細胞、間葉細胞、及び、任意の内皮細胞に分化している単一の多能性幹細胞集団に由来する。
【0082】
被包化肝組織で使用可能なポリマー(別名、ポリマーマトリックス)は、肝臓オルガノイド(複数可)の周囲にハイドロゲルを形成する。当該技術分野で周知の通り、ハイドロゲルとは、水が分散媒体である親水性のポリマー鎖のことを指す。ハイドロゲルは、天然または合成のポリマーネットワークから得ることができる。本開示との関連で、ハイドロゲルで被包すると、包埋される肝臓オルガノイドが、ポリマーから漏出することが妨げられるので、肝臓オルガノイドの細胞が、移植時のレシピエントの体内で免疫反応または腫瘍を招くリスクを排除または抑制する。ある実施形態では、肝臓オルガノイドを、それぞれ、個別に被包し、被包化肝臓オルガノイドを、別の実施形態では、ポリマーマトリックスにさらに含める。さらに別の実施形態では、肝臓オルガノイドは、それらを被包するようにポリマーマトリックスに取り込む。
【0083】
本開示との関連において、ポリマーは、対象(例えば、ヒト)に導入したときに毒性を示さない場合に「生体適合性」であると考えられる。本開示との関連において、生体適合性ポリマーは、肝臓オルガノイドの細胞に対して毒性を示さず、または、対象(例えば、ヒト)にインビボ移植したときに毒性を示さないことが好ましい。肝毒性は、例えば、肝細胞様細胞のアポトーシス死の割合(例えば、アポトーシスの増加は、肝毒性を示す)、トランスアミナーゼレベル(例えば、トランスアミナーゼレベルの高まりは、肝毒性を示す)、肝細胞様細胞の肥大(例えば、肥大の増加は、肝毒性を示す)、肝細胞様細胞における微小空胞変性(例えば、変性の増加は、肝毒性を示す)、胆管細胞の死の割合(例えば、胆管細胞の死亡率の高まりは、肝毒性を示す)、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)レベル(例えば、GGTレベルの高まりは、肝毒性を示す)を決定して測定することができる。生体適合性ポリマーとして、炭水化物(ヒアルロン酸(HA)、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、アルギン酸、キトサン、ヘパリン、アガロース、デキストラン、セルロースなどのグリコサミノグリカン、及び/または、それらの誘導体)、タンパク質(コラーゲン、エラスチン、フィブリン、アルブミン、ポリ(アミノ酸)、糖タンパク質、抗体、及び/または、それらの誘導体)、及び/または、合成ポリマー(例えば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、及び/または、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)に基づくもの)があるが、これらに限定されない。生体適合性ポリマーを、単一のポリマー、または、異なるポリマーの混合物(例えば、US2012/0142069に記載されたもの)とすることができる。生体適合性ポリマーの例として、ポリ(エチレン)グリコール、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、フィブリン、多糖材料(キトサン、プロテオグリカン、または、グリコサミノグリカン(GAG)のようなもの)、アルギン酸塩、コラーゲン、チオール化ヘパリン、及び、それらの混合物があるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、生体適合性ポリマーは、直鎖状、分岐鎖状とすることができ、そして、任意に、ペプチド(例えば、RGD)、成長因子、インテグリン、または、薬物を取り込むことができる。
【0084】
一部の実施形態では、ポリマーは、「低免疫原性ポリマー」であり、レシピエントにおいて免疫応答を誘発せず、または、最小限の免疫応答しか誘発しない(すなわち、結果として、このポリマーが、分解、改変、または、機能喪失を被ることはない)。この低免疫原性ポリマーは、細胞の1つ以上の抗原決定基をブロックし、そのような抗原決定基を同種異系対象に導入したときに、その抗原決定基に対する免疫応答を抑制するか、または阻止することさえもできる。
【0085】
本開示の被包化肝組織に存在するポリマーは、好ましくは、架橋可能なものであり、例えば、架橋することができる。ポリマーは、熱的、化学的(例えば、VPMS、RGDなどの1つ以上のペプチドを使用する)、または、pHまたは光の使用(例えば、UV光を使用する光重合)で架橋することができる。一部の実施形態では、架橋は、肝臓オルガノイド(ポリマーマトリックスによる被包の有無にかかわらず)を、ポリマーマトリックス内に分散させた後に実施することができる。
【0086】
本開示のポリマーを、全体的または部分的に生分解性(例えば、生体の代謝によって加水分解されやすい)のものとするか、または、生分解に対して全体的または部分的に抵抗性(例えば、生体の代謝を受けたときの加水分解抵抗性)を示すものとすることができる。生体適合性かつ生分解性のポリマーの例として、ポリ(エチレン-グリコール)-(マレイミド)(PEG-Mal)8-アームがあるが、これに限定されない。生体適合性かつ生分解抵抗性のポリマーの例として、ポリ(エチレン-グリコール)-ビニルスルホン(PEG-VS)があるが、これに限定されない。
【0087】
被包化肝組織は、肝臓オルガノイドを、少なくとも部分的に(一部の事例では、実質的に)被覆する第1の生体適合性架橋ポリマーを含む。第1の生体適合性ポリマーは、肝臓オルガノイドの細胞と物理的に接触する。本開示との関連において、表現「第1の生体適合性架橋ポリマーによって少なくとも部分的に被覆した肝臓オルガノイド(複数可)」とは、肝臓オルガノイドの表面の少なくとも約10%、20%、30%、または、40%を、第1の生体適合性架橋ポリマーが占めることを指す。一部の実施形態では、第1の生体適合性架橋ポリマーは、肝臓オルガノイド(複数可)の表面を実質的に被覆する。本開示との関連において、表現「第1の生体適合性架橋ポリマーによって実質的に被覆した肝臓オルガノイド(複数可)」は、肝臓オルガノイドの表面の大部分を第1の生体適合性架橋ポリマーが占めることを指しており、例えば、オルガノイドの表面の少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%を、第1の生体適合性架橋ポリマーが占める。ある実施形態では、第1の生体適合性架橋ポリマーは、肝臓オルガノイドの表面を完全に被覆する(例えば、肝臓オルガノイドの表面の99%超を、第1の生体適合性架橋ポリマーで被覆する)。
【0088】
一部の実施形態では、被包化肝組織は、第1の生体適合性架橋ポリマーを少なくとも部分的に(一部の事例では、実質的に)被覆する第2の生体適合性架橋ポリマーも含むことができる。第2の生体適合性ポリマーは、第1の生体適合性架橋ポリマーと物理的に接触しており、一部の実施形態では、肝臓オルガノイドの細胞と物理的に接触する。本開示との関連において、表現「第2の生体適合性架橋ポリマーによって少なくとも部分的に被覆した第1の生体適合性架橋ポリマー」とは、第1の生体適合性架橋ポリマーの表面の少なくとも約10%、20%、30%、または、40%を、第2の生体適合性架橋ポリマーが占めることを指す。一部の実施形態では、第2の生体適合性架橋ポリマーは、第1の生体適合性架橋ポリマーの表面を実質的に被覆する。本開示との関連において、表現「第2の生体適合性架橋ポリマーによって実質的に被覆した第1の生体適合性架橋ポリマー」とは、第1の生体適合性架橋ポリマーの表面の大部分を第2の生体適合性架橋ポリマーが占めることを指しており、例えば、第1の生体適合性架橋ポリマーの表面の少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%を、第2の生体適合性架橋ポリマーが占める。ある実施形態では、第2の生体適合性架橋ポリマーは、第1の生体適合性架橋ポリマーの表面を完全に被覆する(例えば、第1の生体適合性架橋ポリマーの表面の99%超を、第2の生体適合性架橋ポリマーで被覆する)。さらに別の実施形態では、第2の生体適合性架橋ポリマーは、肝臓オルガノイド(第1の生体適合性架橋ポリマーで少なくとも部分的に被覆したもの)が散在するマトリックスを形成する。そのような実施形態では、肝臓オルガノイド(第1の生体適合性架橋ポリマーで少なくとも部分的に被覆したもの)は、その周囲に、第2の生体適合性架橋マトリックスを存在させることができ、または、別の肝臓オルガノイド(第1の生体適合性架橋ポリマーで少なくとも部分的に被覆したもの)と物理的に接触させることができる。被包化肝組織は、第2の生体適合性架橋ポリマーを被覆するさらな生体適合性架橋ポリマーを含むことができる。
【0089】
第1の生体適合性架橋ポリマーと第2の生体適合性架橋ポリマーとは、同一であるか、または、異なるものとすることができる。ある実施形態では、第1の生体適合性架橋ポリマーは、少なくとも部分的に(一部の実施形態では、完全に)生分解性のポリマーである。組み合わせて、もしくは、第2の生体適合性架橋ポリマーは、生分解に対して少なくとも部分的に(一部の実施形態では、完全に)抵抗性である。さらに別の実施形態では、第1の生体適合性架橋ポリマーは、生分解性ポリマーであり、第2の生体適合性架橋ポリマーは、生分解に対して抵抗性である。そのような実施形態では、第1の生体適合性架橋ポリマーは、第2の生体適合性架橋ポリマーと比較して、生分解性を高く(例えば、生分解に対する抵抗性を小さく)することができる。
【0090】
一部の実施形態では、第1の生体適合性架橋ポリマーは、複数の肝臓オルガノイドを含む。そのような実施形態では、被包化肝組織は、cm当たり、少なくとも約50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、250、300、350、400、450、または、500の肝臓オルガノイドを含むことができる。さらに別の実施形態では、被包化肝組織は、cm当たり、最大で約500、450、400、350、300、250、200、175、150、125、100、90、80、70、60、または、50の肝臓オルガノイドを含むことができる。なおも別の実施形態では、被包化肝組織は、cm当たり、約50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、250、300、350、400、または、450と、約500、450、400、350、300、250、200、175、150、125、100、90、80、70、または、60との間の数の肝臓オルガノイドを含む。なおも別の実施形態では、被包化肝組織は、cm当たり、約50~500の肝臓オルガノイドを含む。別の実施形態では、被包化肝組織は、cm当たり、少なくとも約250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、または、2500の肝臓オルガノイドを含む。さらに別の実施形態では、被包化肝組織は、cm当たり、最大で約2500、2400、2300、2200、2100、2000、1900、1800、1700、1600、1500、1400、1300、1200、1100、1000、950、900、850、800、750、700、650、600、550、500、450、400、350、300、または、250の肝臓オルガノイドを含む。さらに別の実施形態では、被包化肝組織は、cm当たり、約250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、または、2400と、約2500、2400、2300、2200、2100、2000、1900、1800、1700、1600、1500、1400、1300、1200、1100、1000、950、900、850、800、750、700、650、600、550、500、450、400、350、または、300との間の数の肝臓オルガノイドを含む。さらに別の実施形態では、被包化肝組織は、cm当たり、約250~2500の肝臓オルガノイドを含む。
【0091】
ある実施形態では、被包化肝組織を、培養し、または、インビボで移植すると、肝細胞、間葉細胞、及び、任意の内皮細胞と関連する遺伝子、及び、タンパク質を発現することができる。さらなる実施形態では、被包化肝組織は(インビトロ、または、インビボで)、アルブミンを生産すること、アンモニアから尿素を合成すること、CyP3A4活性を示すこと、及び/または、薬物(タクロリムス、及び/または、リファンピシンなど)を代謝することができる。一部の実施形態では、被包化肝組織は、組織内の肝臓オルガノイドのg当たり、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または、20mgのアルブミンを生産することができる。別の実施形態では、被包化肝組織は、1回以上の凍結融解サイクルで、肝細胞、間葉細胞、及び、任意の内皮細胞と関連する遺伝子、及び、タンパク質を発現すること、アルブミンを生産すること、アンモニアから尿素を合成すること、CyP3A4活性を示すこと、及び/または、薬物(タクロリムス及び/またはリファンピシンなど、肝臓で代謝を受けることが公知のもの)の代謝を行うことができる。一部の実施形態では、被包化肝組織は、凍結した後に、組織内の肝臓オルガノイドのg当たり、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または、20mgのアルブミンを生産することができる。
【0092】
被包化肝組織を作り出すプロセス
被包化肝組織を作り出すプロセスでは、まず、肝臓オルガノイド(複数可)を作り出すことが必要であり、次に、この(これらの)肝臓オルガノイドを、第1の生体適合性架橋ポリマーに(少なくとも部分的に)被包すること(さらに任意に、第2の生体適合性架橋ポリマー、及び、さらなる生体適合性架橋ポリマーに被包すること)が必要である。
【0093】
肝臓オルガノイドは、(i)肝細胞、間葉細胞、及び、任意の内皮細胞を含む細胞コア、(ii)実質的に球状の形態、及び、(iii)約50~約500μmの相対直径を有する肝臓オルガノイドを得るために必要な条件下で、肝細胞、間葉細胞、及び、任意の内皮細胞(すべて上記したもの)を共培養して、作り出すことができる。一部の実施形態では、こうした条件として、肝臓オルガノイドの形成を促すための細胞の懸濁培養(例えば、超低接着条件)がある。
【0094】
被包化肝組織に含めるべき肝細胞は、それらが、本明細書に記載した少なくとも1つのプロセスに供するのであれば、異なる起源(例えば、哺乳動物)、及び、供給源(初代細胞培養、細胞株、分化した幹細胞)から得ることができる。肝細胞は、胚体内胚葉細胞、後方前腸細胞、肝細胞系統の細胞、肝細胞様細胞、及び/または、胆管上皮細胞などの異なる型に由来することができる。単一のオルガノイドに由来する肝細胞は、同一または異なる起源、同一または異なる供給源、及び、同一または異なる型に由来することができる。
【0095】
被包化肝組織に含める間葉細胞は、異なる起源(例えば、哺乳動物)、及び、供給源(初代細胞培養、細胞株、分化した幹細胞)から得ることができる。間葉細胞は、間葉系幹細胞、脂肪細胞、筋細胞、または、線維芽細胞などの異なる型に由来することができる。単一のオルガノイドに由来する間葉細胞は、同一または異なる起源、同一または異なる供給源、及び、同一または異なる型に由来することができる。ある実施形態では、間葉系幹細胞/前駆細胞を使用する。さらに別の実施形態では、間葉系幹細胞/前駆細胞を、分化性の幹細胞(多能性幹細胞など)から得る。さらに別の実施形態では、間葉系幹細胞/前駆細胞は、分化性の多能性幹細胞から(例えば、ノックアウト血清代替物を添加したグルコース高含有DMEMに入れた被覆を施していないプラスチックで多能性幹細胞を培養して)得る。間葉細胞は、新鮮な状態で使用するか、または、肝臓オルガノイドを形成するために使用に供するまで、凍結保存することができる。
【0096】
被包化肝組織に含める内皮細胞は、存在する場合、異なる起源(例えば、哺乳動物)、及び、供給源(初代細胞培養、細胞株、分化した幹細胞)から取得することができる。内皮細胞は、内皮前駆細胞、及び、内皮細胞などの異なる型に由来することができる。ある実施形態では、内皮前駆細胞を使用する。単一のオルガノイドに由来する内皮細胞は、同一または異なる起源、同一または異なる供給源、及び、同一または異なる型に由来することができる。さらに別の実施形態では、内皮前駆細胞は、分化性の幹細胞(多能性幹細胞など)から得る。さらに別の実施形態では、内皮前駆細胞は、分化性の多能性幹細胞から得る(例えば、BMP4、bFGF、及び/または、VEGFと組み合わせて、CHIR99021、及び/または、Activin Aと共に、多能性幹細胞を培養して得る)。内皮細胞は、新鮮な状態で使用するか、または、肝臓オルガノイドを形成するために使用に供するまで、凍結保存することができる。
【0097】
ある実施形態では、肝臓オルガノイドを、単一の多能性幹細胞集団から調製する。多能性幹細胞は、ウイルス形質導入(例えば、センダイウイルス系を使用するもの)など、当該技術分野で公知の方法を使用して誘導する、または、合成mRNAによる手法を使用して誘導することができる。多能性幹細胞集団は、人工多能性幹細胞(iPSC)の1つ以上のコロニーから得ることができる。同一の多能性幹細胞集団から肝臓オルガノイドを調製する実施形態では、iPSC集団は、少なくとも2つ(及び、一部の実施形態では、少なくとも3つ)の亜集団に分割され、それぞれを、肝細胞、及び、間葉細胞(及び、一部の実施形態では、内皮細胞)を生成するための異なる培養条件に供する。
【0098】
異なる細胞の各々が得られると、こうした細胞を、肝臓オルガノイドを生成するために混合して、懸濁培養する。肝臓オルガノイドの大きさを制御するために、100~1000μmの直径を有するマイクロキャビティを使用する超低接着条件(例えば、懸濁液)で、細胞を培養することができる。一部の実施形態では、cm当たりに、約500μmの直径と深さを有するマイクロキャビティが、複数存在する。一部の実施形態では、当初の肝臓オルガノイドが形成されると、こうした肝臓オルガノイドを、バイオリアクターで、(成長目的で)懸濁培養することができる。ある実施形態では、0.1~0.7の間葉細胞に対して、1の内胚葉細胞の比で、肝細胞と間葉細胞を、培養前に混合する。さらに別の実施形態では、内皮細胞が存在する場合、0.2~1の内皮細胞に対して、1の内胚葉細胞の比で、内皮細胞と内胚葉細胞とを、培養前に混合する。さらに別の実施形態では、肝細胞、間葉細胞、及び、内皮細胞の培養前の比は、1:0.2:0.7である。一部を優先的に増殖させるのであれば、優先的に分化するものがでてくるので、異なる細胞間の比は、培養の間に変わり得るものと理解される。本明細書に記載した肝臓オルガノイドを得るために、その他の比を使用することができる、ことも理解される。肝臓オルガノイドを作り出すプロセスの間に、物理的足場、または、外来性のマトリックス材料(組織培養容器以外)は必要ない。
【0099】
肝臓オルガノイドは、被包化肝組織を作り出すために直接的に使用することができる。ある実施形態では、肝臓オルガノイドは、それを被包化肝組織に導入するまで、凍結保存することができる。
【0100】
被包化肝組織において使用することができるポリマーは、肝臓オルガノイド(複数可)の周囲にハイドロゲルを形成する。当該技術分野で公知の通り、ハイドロゲルは、水が分散媒体である親水性のポリマー鎖のことを指す。ハイドロゲルは、天然または合成のポリマーネットワークから得ることができる。本開示との関連において、ハイドロゲル内に被包すると、包埋した肝臓オルガノイドがポリマーから漏出することが妨げられるので、肝臓オルガノイドの細胞が、移植時のレシピエントの体内で免疫反応または腫瘍を招くリスクを排除または抑制する。
【0101】
本開示との関連において、ポリマーは、肝臓オルガノイドの細胞に対して毒性を示さない場合、または、対象(例えば、ヒト)に導入したときに毒性を示さない場合に「生体適合性」であると考えられる。本開示との関連において、生体適合性ポリマーは、対象(例えば、ヒト)にインビボで移植したときに、肝臓オルガノイドの細胞に対して毒性を示さないことが好ましい。肝毒性は、例えば、肝細胞様細胞のアポトーシス死の割合(例えば、アポトーシスの増加は、肝毒性を示す)、トランスアミナーゼレベル(例えば、トランスアミナーゼレベルの高まりは、肝毒性を示す)、肝細胞様細胞の肥大(例えば、肥大の増加は、肝毒性を示す)、肝細胞様細胞における微小空胞変性(例えば、変性の増加は、肝毒性を示す)、胆管細胞の死の割合(例えば、胆管細胞の死亡率の高まりは、肝毒性を示す)、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)レベル(例えば、GGTレベルの高まりは、肝毒性を示す)を決定して、測定することができる。生体適合性ポリマーとして、炭水化物(ヒアルロン酸(HA)、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、アルギン酸、キトサン、ヘパリン、アガロース、デキストラン、セルロースなどのグリコサミノグリカン、及び/または、それらの誘導体)、タンパク質(コラーゲン、エラスチン、フィブリン、アルブミン、ポリ(アミノ酸)、糖タンパク質、抗体、及び/または、それらの誘導体)、及び/または、合成ポリマー(例えば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、及び/または、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)に基づくもの)があるが、これらに限定されない。生体適合性ポリマーを、単一のポリマー、または、異なるポリマーの混合物(例えば、US2012/0142069に記載されたもの)とすることができる。生体適合性ポリマーの例として、ポリ(エチレン)グリコール、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、フィブリン、多糖材料(キトサン、プロテオグリカン、または、グリコサミノグリカン(GAG)のようなもの)、アルギン酸塩、コラーゲン、チオール化ヘパリン、及び、それらの混合物があるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、生体適合性ポリマーは、直鎖状、分岐鎖状とすることができ、そして、任意に、ペプチド(例えば、RGD)、成長因子、インテグリン、または、薬物を取り込むことができる。
【0102】
一部の実施形態では、ポリマーは、「低免疫原性ポリマー」であり、レシピエントにおいて免疫応答を誘発せず、または、最小限の免疫応答しか誘発しない。この低免疫原性ポリマーは、細胞の1つ以上の抗原決定基をブロックし、そのような抗原決定基が同種異系対象に導入したときに、その抗原決定基に対する免疫応答を抑制するか、または阻止することさえもできる。
【0103】
本開示の被包化肝組織に存在するポリマーは、好ましくは、架橋可能なものであり、例えば、架橋することができる。ポリマーは、熱的、化学的(例えば、VPMS、RGDなどの1つ以上のペプチドを使用する)、または、pHまたは光の使用(例えば、UV光を使用する光重合)で架橋することができる。
【0104】
本開示のポリマーを、生分解性(例えば、生体の代謝によって加水分解されやすい)のものとするか、または、生分解に対して全体的または部分的に抵抗性(例えば、生体の代謝を受けたときの加水分解抵抗性)を示すものとすることができる。生体適合性かつ生分解性のポリマーの例として、ポリ(エチレン-グリコール)-(マレイミド)(PEG-Mal)8-アームがあるが、これに限定されない。生体適合性かつ生分解抵抗性のポリマーの例として、ポリ(エチレン-グリコール)-ビニルスルホン(PEG-VS)があるが、これに限定されない。
【0105】
肝臓オルガノイドを得ると、少なくとも部分的に(一部の実施形態では、実質的に)肝臓オルガノイドを被覆するために、肝臓オルガノイドを、第1の生体適合性架橋可能ポリマーと接触させる。ポリマーは、様々な濃度で使用することができる。ある実施形態では、肝臓オルガノイドとの接触時のポリマーの濃度は、約1%~15%(重量/体積)の間である。ある実施形態では、肝臓オルガノイドとの接触時のポリマーの濃度は、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、または、14%である。なおも別の実施形態では、肝臓オルガノイドとの接触時のポリマーの濃度は、約15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、または、2%以下である。肝臓オルガノイドが、第1のポリマーと接触すると、第1のポリマーは(熱的に、化学的に、または、pHまたは光のいずれかを使用して)架橋される。第1の生体適合性ポリマーの架橋は、ポリマーの異なる分子間、及び/または、ポリマーの同一分子内にさらなる結合(及び、一部の実施形態では、さらなる共有結合)を生成して達成される。一部の実施形態では、第1の生体適合性ポリマーの架橋が、ポリマー分子と肝臓オルガノイドの表面との間に、さらなる結合(及び、一部の実施形態では、さらなる共有結合)を生成する。一部の実施形態では、第1のポリマーは、少なくとも部分的に生分解性である。
【0106】
一部の実施形態では、第1の生体適合性架橋ポリマーで(少なくとも部分的に)被覆または被包している肝臓オルガノイドを、第2の生体適合性架橋可能ポリマーと接触させて、被包化肝組織を、少なくとも部分的に(一部の実施形態では、実質的に)被覆することができる。被包化肝臓オルガノイドが第2のポリマーと接触すると、後者は架橋する(熱的に、化学的に、または、pHまたは光のいずれかを使用して架橋する)。第2の生体適合性ポリマーの架橋は、ポリマーの異なる分子間、及び/または、ポリマーの同一分子内にさらなる結合(及び、一部の実施形態では、さらなる共有結合)を生成して達成される。一部の実施形態では、第2の生体適合性ポリマーの架橋が、ポリマー分子と第1の生体適合性架橋ポリマーとの間に、そして、一部の実施形態では、ポリマー分子と肝臓オルガノイドの表面との間に、さらなる結合(及び、一部の実施形態では、さらなる共有結合)を生成する。一部の実施形態では、第2のポリマーは、生分解に対して少なくとも部分的に抵抗性である。
【0107】
一部の実施形態では、このプロセスは、被包化肝臓オルガノイド(第1の生体適合性架橋ポリマー/第2の生体適合性架橋ポリマーによって少なくとも部分的に被覆したもの)を被覆するために、被包化肝臓オルガノイドを、さらなる生体適合性架橋可能ポリマーと接触させる工程も含む。肝臓オルガノイドがさらなるポリマーと接触すると、後者は架橋する(熱的に、化学的に、または、pHまたは光のいずれかを使用して架橋する)。さらなる生体適合性ポリマーの架橋は、ポリマーの異なる分子間、及び/または、ポリマーの同一分子内にさらなる結合(一部の実施形態では、さらなる共有結合)を生成して達成される。一部の実施形態では、さらなる生体適合性ポリマーの架橋が、ポリマー分子と第2の生体適合性架橋ポリマーとの間に、そして、一部の実施形態では、ポリマー分子と第1の生体適合性架橋ポリマー、及び/または、肝臓オルガノイドの表面との間に、さらなる結合(及び、一部の実施形態では、さらなる共有結合)を生成する。
【0108】
このプロセスは、第1の生体適合性架橋ポリマー内に複数の単分散した肝臓オルガノイドが含まれるようにデザインすることができる。例えば、分化性の単一iPSCから肝前駆細胞、内皮前駆細胞、及び、間葉系前駆細胞を得る。これらの細胞を、混合し、そして、懸濁培養して、肝臓オルガノイドを形成する。一部の実施形態では、肝細胞系統の細胞は、(被包化肝臓組織に肝臓オルガノイドを導入する前に)肝細胞様細胞に分化しており、この肝細胞様細胞は、間葉系及び内皮前駆細胞によって形成した細胞コアを実質的に被覆する。さらなる実施形態では、肝臓オルガノイドは、実質的に球状の形態と、約150μMの相対直径を有する。次に、架橋剤(実施例で示すUV光)を使用して、第1の適合性架橋可能マトリックスで、肝臓オルガノイドを被包することができる。この被包化肝組織を、再生医薬に含ませて、移植可能な肝組織(例えば、5mm~10cmのサイズを有するもの)として使用することができる。あるいは、肝臓オルガノイドを、マルチウェルプレート向けにデザインし、そして、スクリーニングした化合物の代謝または肝毒性を決定するために、医薬品開発において使用することができる。
【0109】
このプロセスは、第1の生体適合性架橋ポリマーで(少なくとも部分的に)個別に被覆した複数の肝臓オルガノイドを提供するようにデザインすることができ、次いで、この複数の肝臓オルガノイドを、第2の生体適合性架橋ポリマーからなるマトリックスに取り込む。そのような実施形態では、まず、第1の生体適合性架橋ポリマーで(少なくとも部分的に)個別に被覆した複数の肝臓オルガノイドが形成され、次いで、この複数の肝臓オルガノイドを、架橋する第2の生体適合性架橋可能ポリマーと接触させる。
【0110】
このプロセスは、第1の適合性架橋ポリマー、及び、任意の第2の適合性架橋ポリマーで被覆した複数の個別(例えば、単分散)の肝臓オルガノイドを提供するようにデザインすることもできる。そのような実施形態では、被包化肝組織は、cm当たり、少なくとも約50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、250、300、350、400、450、または、500の肝臓オルガノイドを含むことができる。さらに別の実施形態では、被包化肝組織は、cm当たり、最大で約500、450、400、350、300、250、200、175、150、125、100、90、80、70、60、または、50の肝臓オルガノイドを含むことができる。なおも別の実施形態では、被包化肝組織は、cm当たり、約50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、250、300、350、400、または、450と、約500、450、400、350、300、250、200、175、150、125、100、90、80、70、または、60との間の肝臓オルガノイドを含む。なおも別の実施形態では、被包化肝組織は、cm当たり、約50~500の肝臓オルガノイドを含む。別の実施形態では、被包化肝組織は、cm当たり、少なくとも約250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、または、2500の肝臓オルガノイドを含む。さらに別の実施形態では、被包化肝組織は、cm当たり、最大で約2500、2400、2300、2200、2100、2000、1900、1800、1700、1600、1500、1400、1300、1200、1100、1000、950、900、850、800、750、700、650、600、550、500、450、400、350、300、または、250の肝臓オルガノイドを含む。さらに別の実施形態では、被包化肝組織は、cm当たり、約250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、または、2400と、約2500、2400、2300、2200、2100、2000、1900、1800、1700、1600、1500、1400、1300、1200、1100、1000、950、900、850、800、750、700、650、600、550、500、450、400、350、または、300との間の肝臓オルガノイドを含む。さらに別の実施形態では、被包化肝組織は、cm当たり、約250~2500の肝臓オルガノイドを含む。
【0111】
ある実施形態では、被包化肝組織は、本明細書に記載した治療方法、及び、スクリーニングにおいて直接的に使用することができ、または、その保管期間を延長するために凍結保存することができる。
【0112】
被包化肝組織の治療的な使用
本明細書に記載した被包化肝組織は、医薬として使用することができる。本明細書に記載した被包化肝組織は、肝臓の生物学的機能の一部を示すので、それを必要とする対象の肝機能を回復または改善するために、インビボまたはエクスビボで使用することができる。肝機能は、例えば、アルブミン、及び、凝固因子(例えば、フィブリノーゲン、プロトロンビン、第V、第VII、第VIII、第IX、第X、第XI、第XIII因子、ならびに、プロテインC、プロテインS、及び、アンチトロンビン)の合成を決定して、評価することができ、一方で、アルブミン、及び/または、凝固因子の合成の増加は、肝機能の回復または改善を示す。肝機能は、国際標準化比、または、INRを測定して、評価することもできる(例えば、INRの減少は、肝機能の回復または改善を示す)。肝機能は、アンモニアから尿素への無毒化を測定して、評価することもできる(例えば、アンモニアレベルの減少、及び/または、尿素レベルの増加は、肝機能の回復または改善を示す)。
【0113】
そのような実施形態では、被包化肝組織は、治療を意図している対象の生体液と接触させることを意図している。そのような実施形態では、被包化肝臓は、対象が必要とする合成タンパク質、及び、代謝物(アルブミン、凝固因子、及び/または、尿素)を生体液に放出し、そして、代謝されるべき毒性物質(アンモニア、非抱合ビリルビン、コレステロール、チロシンなど)を生体液から吸収することさえもできる。被包化肝組織は、肝臓代謝の先天異常において欠損/低下した酵素機能を回復させるために使用することができる。
【0114】
肝機能を回復または改善させるために、肝機能が、ほぼ皆無~皆無にまで低下した対象に対して、被包化肝組織をインビボで移植することができる。したがって、被包化肝組織は、例えば、腹水と接触するように、腹膜腔に移植することができる。あるいは、被包化肝組織は、肝臓液と接触するように、レシピエントの肝臓に移植することができる。さらに別の例では、被包化肝組織は、リンパ液または血液と接触するように、皮下または筋肉内に移植することができる。
【0115】
あるいは、肝機能を回復または改善するために、エクスビボの解毒デバイス(例えば、体外式装置)の細胞成分として、被包化肝組織を使用することができる。そのような実施形態では、タンパク質、及び、代謝物(アルブミン、凝固因子、及び/または、尿素)を供給し、そして、潜在的に毒性物質(アンモニア、非抱合ビリルビン、コレステロール、チロシンなど)を吸収または代謝するために、治療対象の血液、及び/または、腹水を、被包化肝組織とエクスビボで接触させる。
【0116】
被包化肝組織は、様々な対象に使用することができ、これら対象として、肝機能が回復または改善することで恩恵を受けると想定される哺乳動物、特に、ヒトがある。被包化肝組織の細胞は、治療を意図している対象に対して自家、同種異系、または、異種とすることができる。しかしながら、被包化肝組織は、意図しているレシピエントの細胞(特に、免疫細胞)との物理的接触を阻止するようにデザインできるので、意図しているレシピエントによる免疫学的な認識、及び、反応を阻止するために、自家細胞または免疫抑制剤を使用する必要はない。このことは、例えば、1つだけの生体適合性架橋ポリマーを含む被包化肝組織を使用して、または、第1の生体適合性架橋ポリマーと第2の生体適合性架橋ポリマーとの両方を含む被包化肝組織を使用して、及び/または、低免疫原性ポリマーを使用して、実施することができる。
【0117】
一部の実施形態では、被包化肝組織は、外科手術、例えば、腹腔鏡下での手順を使用して操作し、そして、対象に導入するようにデザインすることができる。さらに、肝組織は、生体適合性(及び、一部の実施形態では、低免疫原性)ポリマーに被包されているので、肝機能が回復するか、または、被包化肝組織が、もはや肝機能を改善することができなくなった時点で、対象から被包化肝組織を除去することができる。
【0118】
被包化肝組織は、肝不全の治療に使用することができる。肝不全は、修復を上回る損傷を肝臓の大部分が受けると生じるものであって、このような肝臓は、もはや機能することはない。肝不全の初期症状として、嘔気、食欲不振、疲労、及び、下痢がある。症状が進行すると、黄疸、出血、腹部膨満、精神錯乱、及び、混乱(肝性脳症として公知である)、眠気、ならびに、昏睡といった症状も認めることができる。肝不全には、急性、慢性、または、急性増悪する慢性のものがある。慢性肝不全の最も一般的な原因は、非アルコール性脂肪性肝炎、B型肝炎、C型肝炎、長期のアルコール摂取、肝硬変、ヘモクロマトーシス、及び、栄養障害である。慢性肝不全では、肝細胞移植は、門脈循環を介して実施されることが最も多い。しかしながら、肝硬変に続いて慢性肝不全を発症する症例では、肝類洞の小孔が消失(毛細血管化)してしまうと、門脈循環を介して注入した注入細胞が肝実質に到達して、肝小葉への取り込みが妨げられる。これにより、移植細胞の成熟及び機能が妨げられ、類洞及び門脈の血栓症などの合併症を発症することになる。本明細書に記載した被包化肝組織は、門脈内注射または免疫抑制を必要としないので、何十万人もの肝硬変患者、及び、慢性(または、急性増悪する慢性)肝不全患者、移植に不適な患者でさえも治療し、重篤な合併症(肝性脳症、凝固障害など)を予防または抑制し、生存率を改善することができると考えられる。
【0119】
本明細書に記載した被包化肝組織は、急性肝不全の治療にも使用することができる。急性肝不全の最も一般的な原因は、処方薬、及び、植物由来の生薬に対する反応、または、その過剰摂取、ウイルス感染症(A型肝炎、B型肝炎、及び、C型肝炎を含む)、ならびに、有毒な野生キノコの摂取、自己免疫性肝炎、または、ウィルソン病である。急性肝不全は、急激に発症するものであり、発症までの時間が48時間に満たないこともあるので、予防は困難である。さらに、急性肝不全では、完全に成熟した機能性の肝細胞を対象に移植することが必要になるほどに、肝機能が損なわれる。一部の実施形態では、被包化肝組織は、急性肝不全の症状の治療または軽減に使用することができる。被包化肝組織を、それを必要とする対象に対して移植するか、または、それを必要とする対象の血液を処理するための外部(エクスビボ)解毒装置(体外式の肝機能補助、バイオ人工肝臓装置、または、肝臓透析)に使用する。被包化肝組織内の肝臓オルガノイドの数、及び、病態の重症度に応じて、1つ以上の被包化肝組織を使用して、対象を治療することができる。被包化肝組織(複数可)は、同時使用、または、順次使用することができる。肝不全の症状を治療または軽減するために被包化肝組織を使用すると、治療すべき対象に対して、同種異系の細胞を使用することができる。
【0120】
被包化肝組織は、肝臓代謝の一遺伝子性の先天異常(例えば、クリグラー・ナジャー症候群、家族性高コレステロール血症、尿素サイクル異常症、N-アセチルグルタミン酸合成酵素欠損症、カルバモイルリン酸合成酵素欠損症、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、シトルリン血症、アルギニノコハク酸リアーゼ欠損症、アルギナーゼ欠損症など、高チロシン血症I型など)の症状を、治療または軽減するためにも使用することができる。この実施形態では、被包化肝組織によって、欠如している代謝機能を付与し、症状を軽減し、合併症を予防または抑制し、及び/または、生涯にわたる治療または食事制限を行う必要性を抑制または排除する。
【0121】
被包化肝組織は、免疫抑制を必要とせずに、急性及び慢性の肝不全を治療するための埋込式製品(例えば、被包化肝組織シート)としてデザインすることができる。そのような実施形態では、埋込式組織シートは、cm当たり、約数千個の肝臓オルガノイドを含む。一部の実施形態では、被包化肝組織シートは、所望の埋込部位に対する操作及び固定を容易ならしめる容器(例えば、特注の透過性バッグなど)内に配置することができる。別の実施形態では、操作を容易にするために、埋込式組織シートは、厚さを、少なくとも1mmとし、そして、一部のさらなる実施形態では、幅を、少なくとも5mm~10cmとすることができる。被包化肝組織は、必要とするあらゆる形状または大きさにすることができ、実施中に整形または切断することができる。
【0122】
肝代謝、及び、肝毒性のスクリーニング方法、及び、スクリーニングキット
本明細書に記載した被包化肝組織は、少なくとも一部の肝機能を保持するために、肝臓による作用物質(候補薬物など)の代謝を決定して、新薬の発見と開発を合理化するインビトロモデルとして使用することができる。本明細書に記載した被包化肝組織は、作用物質が奏する肝毒性の有無を決定するためにも使用することができる。全身循環に投与すると、(疑わしい)治療薬(認可済、または、開発中のもの)の大多数が、何らかの様式で肝臓の細胞によって代謝される。一部の実施形態では、作用物質(推定治療薬剤など)に肝毒性(例えば、薬物誘導性の肝毒性)が存在するのであれば、本明細書に記載した被包化肝組織を、肝毒性を決定するために使用することができる。薬物(認可済、及び、治験中のもの)は、肝損傷の重要な原因である。肝損傷を招くと報告されている薬物、毒素、及び、薬草は、900を超えており、すべての劇症肝不全症例の20~40%で薬物が主な原因である。特異体質による薬物反応では、その約75%が、肝移植または死に至る。薬物誘導性の肝損傷は、認可薬物が取り下げられる最も一般的な理由である。作用物質(薬物など)の肝毒性プロファイルを早期に決定することは、新薬の発見と開発を合理化する上で役立つ。
【0123】
本明細書に記載した被包化肝組織は、少なくとも一部の肝機能を実際に示すため、作用物質(化学薬剤、生物学的薬剤、天然薬物の製剤または混合物など)の肝代謝、及び/または、肝毒性を決定するために、インビトロで使用することができる。この方法は、単一の薬剤、または、薬剤の組み合わせの肝代謝を決定するために使用することができる。
【0124】
そうしたことを実施するために、被包化肝組織の少なくとも1つの肝臓オルガノイドの少なくとも1つ(及び、一部の実施形態では、2つまたは3つ)の細胞型に対して作用物質を作用せしめるに十分な条件下で、試験混合物が得られるように試験対象の作用物質、または、作用物質の組み合わせを、被包化肝組織との接触に供する。試験混合物は、作用物質と、被包化肝組織とを含む。次に、被包化肝組織の少なくとも1つの肝臓オルガノイドの少なくとも1つ(及び、一部の実施形態では、少なくとも2つまたは3つ)の細胞型、または、試験混合物において、作用物質の少なくとも1つの作用物質関連肝代謝物を決定する。本開示と関連して使用する表現「作用物質関連代謝物」とは、試験する作用物質の加水分解によって形成することができる代謝物のことを指す。
【0125】
あるいは、または、組み合わせて、被包化組織の少なくとも1つの肝臓オルガノイドの少なくとも1つ(及び、一部の実施形態では、少なくとも2つまたは3つ)の細胞型、または、試験混合物において、少なくとも1つの肝臓パラメーターを決定する。決定することができる肝臓パラメーターとして、アルブミン生産、尿素生産、ATP生産、グルタチオン生産、チトクロムP450(CYP)代謝活性、肝臓特異的遺伝子またはタンパク質(例えば、CYP酵素(CyP2C9、CyP3A4、CyP1A1、CyP1A2、CyP2B6、及び/または、CyP2D6)の発現、肝臓毒に対する応答、細胞死(例えば、試験混合物における乳酸脱水素酵素またはトランスアミナーゼの測定によるもの)、細胞のアポトーシス、細胞の壊死、細胞の代謝活性(例えば、生/死アッセイ、カスパーゼ3/7アッセイ、MTTアッセイ、または、WST-1に基づいた試験)、ミトコンドリア機能、及び/または、胆汁酸生産があるが、これらに限定されない。少なくとも1つ(または、複数)の肝臓パラメーターが得られると、対応するコントロールの肝臓パラメーターと、その肝臓パラメーターとを比較する。ある実施形態では、コントロールの肝臓パラメーターを、スクリーニングした作用物質(または、スクリーニングした作用物質の組み合わせの)の非存在下で得る、または、スクリーニングした作用物質(または、スクリーニングした作用物質の組み合わせ)を溶解する媒体の存在下で得ることができる。決定ステップは、被包化肝組織の細胞の全部または一部に対して実施することができる。ある実施形態では、決定ステップを、被包化肝組織の肝細胞様細胞、及び/または、胆管上皮細胞に対して実施する。
【0126】
この方法は、被包化肝組織の肝臓オルガノイドが作用物質を代謝するか否か、及び/または、被包化肝組織の肝臓オルガノイドの細胞に対して作用物質が肝毒性を示すか否か、を決定するための比較も含む。そうしたことを実施するために、測定する作用物質関連肝代謝物と、コントロールの作用物質関連肝代謝物との間で比較をする。例えば、コントロールの作用物質関連代謝物を、インタクトな(例えば、加水分解を受けていない)形態である、その作用物質それ自体とすることができる。コントロールの作用物質関連代謝物とは異なる作用物質関連代謝物の存在が決定されると、次に、肝細胞での作用物質の代謝について決定する。測定する肝臓パラメーターと、コントロールの肝臓パラメーターとの間で比較をすることもできる。例えば、コントロールの肝臓パラメーターは、作用物質の非存在下で取得することができる。コントロールの肝臓パラメーターと肝臓パラメーターとが相違することが決定されると、次に、作用物質が肝毒性を示すか否かについて決定する。
【0127】
ある実施形態では、この方法は、スクリーニングした作用物質(または、スクリーニングした作用物質の組み合わせ)が、肝毒性を示すか否かを決定するために使用する。そのような実施形態では、スクリーニングした作用物質(または、スクリーニングした作用物質の組み合わせ)を接触させることで、被包化肝組織の肝臓オルガノイドの少なくとも1つの細胞(例えば、肝細胞、または、胆管上皮細胞)において毒性を誘導するか否かを決定する。毒性は、例えば、細胞死(例えば、試験混合物での乳酸脱水素酵素またはトランスアミナーゼの測定による)、細胞の代謝実行能(例えば、生/死アッセイ、カスパーゼ3/7アッセイ、MTTアッセイ、または、WST-1に基づいた試験)、ミトコンドリア機能(例えば、ミトコンドリア機能の低下は、肝毒性を示す)、チトクロムP450系の1つ以上の酵素(例えば、CYP2E1など)の活性の調節(例えば、チトクロムP450系の酵素(複数可)の活性増加は、肝毒性を示す)、及び/または、胆汁酸生産の調節(例えば、胆汁酸生産の増加は、肝毒性を示す)を決定して測定することができる。この方法は、スクリーニングした作用物質の毒性結果を、コントロール作用物質(肝毒性を誘導しないことが公知のもの、または、肝毒性を誘導することが公知のもの)の毒性結果と比較することを含む、ことができる。
【0128】
この方法は、異なる代謝活性を有する肝臓オルガノイドを用いて得た被包化肝組織に対してスクリーニングした作用物質(または、複数のスクリーニングした作用物質)を接触させる、ことも含むことができる。例えば、異なるレベルで特定の代謝機能を実施するために、異なる起源、及び、供給源に由来する細胞を使用して肝臓オルガノイドを作り出すことができる(これにより、一般的な集団の個体間で認められる多様性が得られる)。例えば、代謝活性が相違している得られた被包化肝組織は、それらのそれぞれ、及び、すべてに対して比較しながらスクリーニングした作用物質を試験することができるようになるように、単一のプレートの異なるウェルで生成することができる。ある実施形態では、肝臓オルガノイドは、異なる性別、人種、及び/または、遺伝子型に由来することができる。こうした異なる性別、人種、及び/または、遺伝子型に対してスクリーニングした作用物質を試験することで、代謝差異の決定、あるいは、性別、人種、及び/または、遺伝子型の全部または一部のみに肝毒性が存在するか否かの決定が可能となる。ある実施形態では、複数の肝臓オルガノイドの間で、肝臓オルガノイドの間葉系成分、及び/または、内皮成分は同様とすることができるが、肝細胞様細胞、及び、胆管上皮細胞は、異なる性別、人種、及び/または、遺伝子型に由来する。一例として、それぞれの異なる被包化肝組織を、異なるウェルに配置(必要に応じて複数の反復検体として配置)することができ、同一のスクリーニングした作用物質を、それぞれの異なる被包化肝組織と接触させることができる。
【0129】
一部の実施形態では、このスクリーニング方法で使用する被包化肝組織は、第2の生体適合性架橋ポリマー、または、さらなる生体適合性架橋ポリマーを含んでおらず、代わりに、本明細書に記載した肝臓オルガノイド、及び、第1の生体適合性架橋ポリマーから本質的になる。
【0130】
このスクリーニング方法では、個別に被包している肝臓オルガノイド、または、複数の肝臓オルガノイドを含むマトリックスで被包している肝臓オルガノイドを使用することができる。後者の場合、被包化肝組織は、ウェルの底に位置しており、それにより、スクリーニングした作用物質の添加、及び、決定ステップの前での被包化肝組織の洗浄が非常に簡便となる。
【0131】
本開示は、肝代謝または肝毒性を決定するためのキットも提供する。このキットは、本明細書に記載した被包化肝組織と、本明細書に記載した方法を実施するための説明書とを含む。一部の実施形態では、このキットは、組織培養支持体をさらに含み、同支持体は、少なくとも1つのウェルを任意に含むことができる。さらなる実施形態では、被包化肝組織を、少なくとも1つのウェルの底に配置し、必要に応じて、ウェルの表面に(共有結合、または、非共有結合で)付着させることができる。このキットは、肝代謝または肝毒性の測定(例えば、生/死アッセイ、カスパーゼ3/7アッセイ、MTTアッセイ、WST-1アッセイ、及び/または、LDHの測定)を実施するための試薬も含むことができる。
【0132】
以下の実施例を参照することで、本発明は容易に理解できることになるが、同実施例は、本発明を例示するために記載したものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0133】
肝細胞様細胞の生産、及び、特徴決定
肝細胞様細胞(HLC)を、2つの異なるプロトコル:本明細書に記載したプロトコル(プロトコルBと称する)、PCT/CA2017/051404に記載された標準プロトコル(プロトコルAと称する)で得た。そして、HLCを比較した。
【0134】
分化プロトコル(プロトコルB)
iPSC調製(-3~0日目)。分化を開始する3日前に、TrypLEを使用して、単一細胞継代を実施した。iPSCを、ラミニンでコーティングしたプレートに置き、そして、Essential 8 Flex培地で培養した。この培地に、最初の24時間だけ、Revita Cell(商標)(ThermoFisher Scientific)を補充した。培地は、毎日交換した。
【0135】
内胚葉の詳細(1~2日目)。培地DMEM/F-12培地で洗浄した。次に、細胞を、インスリンを含まず、1%ノックアウト血清代替物(KOSR)を含み、100ng/ml Activin A、及び、3μM CHIR99021を補充した、RPMI/B27で、細胞を培養した。37℃で、雰囲気O/5%COにて、2日間、細胞を培養した。培地は、毎日交換した。
【0136】
内胚葉の関与(胚体内胚葉、3~5日目)。インスリンを含まず、1%ノックアウト血清代替物を含み、100ng/ml Activin Aを補充した、RPMI/B27で、細胞を培養した。37℃で、雰囲気O/5%COにて、3日間、細胞を培養した。培地は、毎日交換した。
【0137】
後方前腸(6~10日目)。インスリンを含まず、1%ノックアウト血清代替物を含み、20ng/ml BMP4、5ng/ml bFGF、4μM IWP2、及び、1μM A83-01を補充した、RPMI/B27で、細胞を培養した。37℃で、雰囲気O/5%COにて、5日間、細胞を培養した。培地は、毎日交換した。
【0138】
肝臓の詳細(二能性前駆細胞、11~15日目)。インスリン、2%ノックアウト血清代替物を含み、20ng/ml BMP4、10ng/ml bFGF、20ng/ml HGF、及び、3μM CHIR99021を補充した、RPMI/B27で、細胞を培養した。37℃で、雰囲気O/5%COにて、5日間、細胞を培養した。培地は、毎日交換した。
【0139】
肝成熟1(未成熟肝細胞様細胞、16~20日目:)。1%ノックアウト血清代替物を含み、20ng/ml HGF、3μM CHIR99021、20ng/ml BMP4、10ng/ml bFGF、20ng/ml OSM、10μM デキサメタゾン、及び、1μM A83-01を補充した、HBM/HCM培地(EGF、Lonzaを含まず)で、細胞を培養した。細胞を、37℃で、雰囲気O/5%COにて、5日間培養した。培地は、毎日交換した。HBM/HCM培地の代わりに、インスリン、2%ノックアウト血清代替物を含むRPMI/B27を使用して、同等の結果が得られた(データ示さず)。
【0140】
肝成熟2(未成熟肝細胞様細胞、21~25日目)。1%ノックアウト血清代替物を含み、20ng/ml OSM、10μM デキサメタゾンを補充した、HBM/HCM培地(EGF、Lonzaを含まず)で、細胞を培養した。37℃で、雰囲気O/5%COにて、5日間、細胞を培養した。培地は、毎日交換した。HBM/HCM培地の代わりに、1%ノックアウト血清代替物、及び、Primary Hepatocyte Maintenance Supplement(商標)(ThermoFisherScientific)を補充したWilliam’s E培地を使用して、同等の結果が得られた(データ示さず)。
【0141】
肝成熟3(成熟肝細胞様細胞、25~30日目)。1%ノックアウト血清代替物を含み、10μM デキサメタゾンを補充した、HBM/HCM培地(EGF、Lonzaを含まず)で、細胞を培養した。37℃で、雰囲気O/5%COにて、5日間、細胞を培養した。培地は、1日おきに交換した。HBM/HCM培地の代わりに、1%ノックアウト血清代替物、及び、Primary Hepatocyte Maintenance Supplement(商標)(ThermoFisherScientific)を補充したWilliam’s E培地を使用して、同等の結果が得られた(データ示さず)。
【0142】
表1.本実施例で比較した肝細胞様細胞を取得するための2つのプロトコルの詳細。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】


【0143】
細胞顕微鏡検査。位相差顕微鏡(EVOS FL Cell Imaging System、Thermo Fisher Scientific)を使用して、分化プロセスの最後の生細胞を観察して形態を研究した。
【0144】
細胞計数。TrypLEを使用して培養プレートから細胞を回収し、そして、自動細胞計数器Countess II FL Automated Cell Counter、Thermo Fisher Scientificを使用して計数した。
【0145】
免疫蛍光。細胞を、4%パラホルムアルデヒドに固定し、そして、0.2%Triton X-100で、室温で、5分間、透過処理をした。非特異的部位は、細胞を、(抗体に対応する)3%ブロッキング血清溶液と共に、室温で、30分間、インキュベートしてブロックした。次いで、固定及び透過処理した細胞を、一次抗体溶液(抗体は、PBS-BSAで2%に希釈する)と共に、室温で、1時間、インキュベートした。細胞を、二次標識抗体溶液(蛍光)と共に、室温で、30分間、光から保護をしながらインキュベートした。二次標識抗体とのインキュベーションの最後の15分間に、色素(Pureblue nuclei staining、BioRad)を添加して、核を染色した。次に、細胞を、退色防止試薬(ProLong Gold)で固定した。この手順の翌日に、蛍光を分析した。以下の抗体を使用した:ABCAMの抗ヒトSOX17希釈1:100、ABCAMの抗ヒトFOXA2希釈1:100;ABCAMの抗ヒトCXCR4希釈1:100;DAKOの抗ヒトAFP希釈1:100;DAKOの抗ヒトアルブミン(ALB)希釈1:100;ABCAMの抗ヒトCK19希釈1:100、及び、ABCAMの抗ヒトCK7希釈1:200。
【0146】
FACS分析。それぞれのアッセイチューブに0.5~1×10個の細胞を分注した。100μLの蛍光色素結合一次抗体溶液(膜抗原)で、細胞を、室温で、光から保護をしながら20分間染色した。その後、4%のパラホルムアルデヒドで、細胞を、室温で、10分間固定した。1%のTritonX-100で、細胞の透過処理を行った。100μLの蛍光色素結合抗体溶液(細胞内抗原)で、細胞を染色し、そして、暗所で、室温で、20分間インキュベートした。0.5mLのPBS-BSA1%に細胞を再懸濁させ、4℃で保持し、そして、解析を行った。次の抗体を、FACSに使用した:Per-CP-Cy 5.5抗ヒトSOX17(BD Bioscience)、APC抗ヒトCD184(CXCR4)(BD Bioscience)、PE抗ヒトFOXA2(BD Bioscience)、PE抗ヒトEpCAM(BD Bioscience)、APC抗ヒトアルブミン(R&Dシステム)、FITC抗ヒトTRA1-60(BD Bioscience)、Alexa647抗ヒトNanog(BD Bioscience)、APC抗ヒトBrachyury(Bio-Techne)、及び、PerCP-Cy5.5抗ヒトc-Kit(CD117)(BD Bioscience)。
【0147】
リアルタイムRT-PCR。一本鎖cDNAを合成するための鋳型として、培養した細胞、または、オルガノイドから全RNAを抽出した(Rneasy Plus Mini Kit、Qiagen)。逆転写を実施して、cDNAを得た。PCR反応混合物を調製した後に、プレートにロードした。プレートを密封し、遠心分離した後に、機器にロードした。標準的なTaqMan qPCR反応条件を使用した。遺伝子発現の相対定量を計算するために、比較CT(ΔΔCT)法を使用してデータを解析した。以下のTaqMan遺伝子発現アッセイ(Thermo Fisher scientificより入手)を使用した:Hs1053049_S1 SOX2 Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs00751752_S1 SOX17 Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs00171403_M1 GATA4 Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs002230853_M1 HNF4A Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs00173490_M1 AFP Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs00609411_M1 アルブミン Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs99999905_M1 GAPDH Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs04187555_m1 FOXA1 Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs00242160 ml HHEX Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs00236830 ml PDX1 Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs00232764 ml FOXA2 Taq発現アッセイ、Hs01005019_m1 ASGR1 Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs00173490 AFP Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs00607978 s1 CXCR4 Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs00761767_s1 KRT19 Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs00559840_m1 KRT7 Taqman遺伝子発現アッセイ、及び、Hs00944626_m1 TAT Taqman遺伝子発現アッセイ。
【0148】
Cyp 3A4活性。Promegaの「P450-Glo(商標)Assay」を、製造業者者の指示に従って使用して、Cyp3A4活性を評価した。
【0149】
尿素合成。Gentaurの「Quantichrom urea assay kit」を、製造業者の指示に従って使用して、尿素合成を測定した。
【0150】
アルブミン生産。Abcamの「Albumin human ELISA kit」を、製造業者の指示に従って使用して、アルブミン生産を評価した。
【0151】
ミトコンドリア呼吸分析。Seahorse Bioscience XF96分析器(Seahorse Bioscience Inc.)を使用して、96ウェルプレートで、37℃で、製造業者の指示に若干の修正を加えた指示に従って、ミトコンドリアストレス試験を行った。簡単に説明すると、細胞を、1×10個の細胞/ウェルで播種し、そして、アッセイの24時間前に、異なる用量のアセトアミノフェン(APAP-2、4、8mM)、及び、アミオダロン(AMIO-2、4、8、19μM)で前処理した。試験日に、増殖培地を取り除いて、2回洗浄し、そして、XFアッセイ培地(非緩衝DMEM、d5030 Sigma、25mMグルコース、2mMグルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、pH7.4)と交換し、そして、プレートを、37℃で、1時間、COフリーインキュベーターでインキュベートした。水和カートリッジセンサーに、適切な量のミトコンドリアモジュレーターをロードして、各ウェルの最終濃度を達成した:オリゴマイシン(2μM)、カルボニルシアニドp-トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾン(FCCP)(2μM)、及び、ロテノン/アンチマイシンA(両方とも1μM)。次に、製造業者のプロトコルの記載にされているようにして、OCR値から、基礎呼吸、ATP生産、プロトン漏出、最大呼吸、及び、非ミトコンドリア呼吸のレベルを分析した。
表2.使用する略語。
【0152】
【表2】
【0153】
hiPSCの内胚葉誘導処理を5日間にわたって行ったところ、特定の内胚葉マーカーSOX17、FOXA2、GATA4、CXCR4、及び、EOMESを発現する細胞の均質な単層を得た(図1)。集団の均一性は、フローサイトメトリー分析で確認しており、80%超の細胞が、SOX17、FOXA2、及び、CXCR4に対してトリプル陽性であり、そして、細胞は、c-Kitを発現しない、ことが認められた(図2)。免疫染色によって、ほとんどの細胞が、胚体内胚葉マーカーであるSOX17、FOXA2、及び、CXCR4に対して陽性である、ことが明らかになった(図3-下方のパネル)。iPS細胞の代わりに、ヒト胚性幹細胞(hESC、データ示さず)を分化させても同様の結果が得られた。
【0154】
内胚葉を誘導した後に、細胞を5日間処理して、後方前腸への分化を誘導した。その段階で、通常は心臓の中胚葉から出現するFGF-2やBMP4などのシグナルが認められた。加えて、Wnt/β-カテニン、及び、TGFβシグナル伝達経路が(それぞれ、IWP2、及び、A83-01を使用して)阻害されて、Hex及びProxlの発現が可能になった。図4に示すように、細胞は、前腸特異的マーカーFOXA2、SOX2、FOXA1、HNF4A、AFP、及び、アルブミンの発現を強めた。
【0155】
続いて、FGF-2、及び、BMP4シグナルを維持し、HGFを添加し、そして、肝臓の成長を促すWnt経路を(CHIR99021を使用して)活性化することによって、5日間、肝臓の特異性を誘導した(多角形形態の肝芽細胞)。これらの細胞は、肝特異的マーカーであるAFP、アルブミン、CK19、CK7、及び、EpCAMの発現を示した(図5)。また、iPSC由来の肝前駆細胞集団が、未分化細胞を含んでいないことも確認した(図6)。RT-qPCRは、アルブミン、AFP、AFP、CK19、CK7、PDX1、SOX9、PROX1、HNF4α、及び、HHEXなどの特徴的な肝芽細胞/肝細胞マーカーの発現を示した(図7)。図8に示したように、肝前駆細胞は、内胚葉細胞、または、未分化iPSCと比較して、細胞収量の有意な増加を示した。
【0156】
肝臓への関与をさらに明確にするために、TGFβシグナル伝達を阻害し(胆管細胞を回避するため、A83-01を使用して)、そして、Wnt経路を活性化した(CHIR99021を使用して)。FGF-2、BMP4、HGF、OSM、及び、デキサメタゾンを含んでいた。分化の最終段階では、(出生後、肝臓で造血が起こらなくなったので)OSMを除去し、そして、デキサメタゾンを維持した。
【0157】
分化の過程で、細胞集団は、核に対する細胞質の比率が大きく、多数の液胞及び小胞、ならびに、顕著な核小体を有する肝細胞様細胞の典型的な形態を徐々に獲得した。幾つかの細胞が、二核であることがわかった(図9A)。また、これらの細胞は、AFP、アルブミン、及び、CK19の発現を示した(図9B)。免疫蛍光法は、肝芽細胞期と比較して、アルブミンの発現を示し、発現を増加させ、そして、AFP及びCK19の発現を減少させた(図9B、及び、データ示さず)。フローサイトメトリー分析で評価したところ、大半の細胞(98.5%)が、アルブミン陽性であった(図10)。RT-qPCR分析は、アルブミン、AFP、HNF4a、ASGR1、及び、SOX9などの特定の肝遺伝子の発現が、HLCとFPHHとの間で類似していることを示した(図11)。
【0158】
図12は、プロトコルBで得たHLCを、初代ヒト肝細胞HepG2、未分化iPSC、DE細胞、または、PFG細胞と比較している。これらの結果は、HLC-BとFPHHが、同様のCyP3A4活性(図12A)、及び、尿素生産(図12C)を示すことを明らかにしている。HLC-B細胞は、成人の肝細胞と比較して、同等以下のレベルのアルブミンを生産する(図12B)。
【0159】
プロトコルBで得たHLCは、肝臓マーカーの高発現(図13)、有意に大きなCyP3a4活性(図14A)、アルブミン生産(図14B)、及び、細胞収量(図14C)を示したプロトコルAで得たHLCと比較して、有意の重要性を有する分化を達成する、ことを示した。
【0160】
肝細胞様細胞の(プロトコルBを使用して取得した)代謝機能、ミトコンドリア呼吸能力、及び、ATPに関連する呼吸を、基本条件で、かつ、アセトアミノフェン(APAP)、及び、アミオダロン(AMIO)、肝臓で特異的に代謝する薬剤の用量を増やした後に評価をした(図15)。実施例15に示した結果は、薬物と接触させると、プロトコルBで得たHLCが、それらの呼吸を調節し、したがって、代謝的に活性であることを示している。
【0161】
本発明を、その特定の実施形態に関連して説明してきたが、特許請求の範囲は、実施例に記載した好ましい実施形態によって限定されるものではなく、本明細書全体と整合する最も広範な解釈が与えられるべきである、ことを理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15