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特許7399904正極およびこれを備える非水電解液二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】正極およびこれを備える非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20231211BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231211BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231211BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20231211BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20231211BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M10/0566
H01M10/0525
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021059556
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022156054
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 慎也
(72)【発明者】
【氏名】辻子 曜
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-251047(JP,A)
【文献】国際公開第2021/012768(WO,A1)
【文献】特表2012-528466(JP,A)
【文献】特開2005-174631(JP,A)
【文献】特開2003-142082(JP,A)
【文献】特表2018-500720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
H01M 10/00 -10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、前記正極集電体上に支持された正極活物質層とを備える正極であって、
前記正極活物質層は、正極活物質と、界面活性剤と、を含有し、
前記正極活物質は、リチウム以外の金属原子に対するニッケルの含有量が70モル%以上であるリチウム複合酸化物を含み、
前記正極活物質層は、前記正極活物質と前記界面活性剤との合計に対する前記界面活性剤の質量割合が異なる2以上の層を含む複層構造を有し、
前記複層構造が含む層はそれぞれ、バインダとしてポリフッ化ビニリデンを含有し、
前記複層構造が含む層のうちの前記界面活性剤の質量割合が大きい層における、前記界面活性剤の前記質量割合が、1.0質量%以上10質量%以下であり、
前記複層構造が含む層のうちの前記界面活性剤の質量割合が小さい層における、前記界面活性剤の前記質量割合が、0.2質量%以上0.5質量%以下である、
正極。
【請求項2】
前記界面活性剤の質量割合が小さい層の厚みに対する前記界面活性剤の前記質量割合が大きい層の厚みの比が、0.1以上0.5以下である、請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記界面活性剤の質量割合が大きい層における、前記界面活性剤の前記質量割合が、1.0質量%以上5.0質量%以下である、請求項1または2に記載の正極。
【請求項4】
前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である、請求項1~のいずれか1項に記載の正極。
【請求項5】
前記界面活性剤の質量割合が大きい層において、前記界面活性剤による前記正極活物質の被覆率が、5%以上50%以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の正極。
【請求項6】
前記界面活性剤の質量割合が大きい層が、単粒子状の正極活物質を含有し、
前記単粒子状の正極活物質の粒子は、1個の単粒子から、または10個以下の単粒子が凝集して構成され、
前記単粒子は、単一の結晶核の成長によって生成した粒子であり、
前記単粒子の最大径は、0.5μm以上である、
請求項1~のいずれか1項に記載の正極。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の正極と、
負極と、
非水電解液と、
を備える非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極に関する。本発明はまた、当該正極を備える非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
非水電解液二次電池の正極は、一般的に、正極活物質を含有する正極活物質層が、正極集電体上に支持された構成を有する。従来より、正極活物質層に界面活性剤を含有させることにより、正極活物質層の非水電解液に対する濡れ性を向上させて、非水電解液の正極活物質層への含浸性を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2009-526349号公報
【文献】特開2008-21415号公報
【文献】特開2015-201309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、正極活物質層に界面活性剤を含有させる技術において、正極活物質としてニッケル(Ni)含有量の高いリチウム複合酸化物を用いた場合には、高電圧下において界面活性剤が分解してガスが発生するという問題があることを新たに見出した。
【0006】
そこで本発明は、Ni含有量の高いリチウム複合酸化物と界面活性剤とを含有する正極活物質層を備える正極であって、正極活物質層への非水電解液の含浸性に優れ、かつ高電圧下でのガス発生が抑制された正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される正極は、正極集電体と、前記正極集電体上に支持された正極活物質層とを備える。前記正極活物質層は、正極活物質と、界面活性剤と、を含有する。前記正極活物質は、リチウム以外の金属原子に対するニッケルの含有量が70モル%以上であるリチウム複合酸化物を含む。前記正極活物質層は、前記正極活物質と前記界面活性剤との合計に対する前記界面活性剤の質量割合が異なる2以上の層を含む複層構造を有する。前記複層構造が含む層のうちの前記界面活性剤の質量割合が大きい層における、前記界面活性剤の前記質量割合が、1.0質量%以上10質量%以下である。このような構成によれば、Ni含有量の高いリチウム複合酸化物と界面活性剤とを含有する正極活物質層を備える正極であって、正極活物質層への非水電解液の含浸性に優れ、かつ高電圧下でのガス発生が抑制された正極を提供することができる。
【0008】
ここに開示される正極の好ましい一態様においては、前記複層構造が含む層のうちの前記界面活性剤の質量割合が小さい層における、前記界面活性剤の前記質量割合が、0.5質量%以下である。このような構成によれば、ガス発生をより抑制することができる。
【0009】
ここに開示される正極の好ましい一態様においては、前記界面活性剤の質量割合が小さい層の厚みに対する前記界面活性剤の前記質量割合が大きい層の厚みの比が、0.1以上0.5以下である。このような構成によれば、ガス発生をより抑制することができる。
【0010】
ここに開示される正極の好ましい一態様においては、前記界面活性剤の質量割合が大きい層における、前記界面活性剤の前記質量割合が、1.0質量%以上5.0質量%以下である。このような構成によれば、ガス発生をより抑制することができる。
【0011】
ここに開示される正極の好ましい一態様においては、前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である。このような構成によれば、ガス発生をより抑制することができる。
【0012】
ここに開示される正極の好ましい一態様においては、前記界面活性剤の質量割合が大きい層において、前記界面活性剤による前記正極活物質の被覆率が、5%以上50%以下である。このような構成によれば、ガス発生をより抑制することができる。
【0013】
ここに開示される正極の好ましい一態様においては、前記界面活性剤の質量割合が大きい層が、単粒子状の正極活物質を含有する。このような構成によれば、正極活物質層への非水電解液の含浸性がより高くなる。
【0014】
別の側面から、ここに開示される非水電解液二次電池は、上記の正極と、負極と、非水電解液と、を備える。このような構成によれば、正極活物質層への非水電解液の含浸性に優れ、かつ高電圧下でのガス発生が抑制された非水電解液二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係る正極の構造を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る正極の構造を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の第3実施形態に係る正極の構造を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の内部構造を模式的に示す断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の捲回電極体の構成を示す模式分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。なお、本明細書において言及していない事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0017】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスをいい、いわゆる蓄電池、および電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0018】
〔第1実施形態〕
図1に、ここに開示される正極の一例としての第1実施形態を示す。第1実施形態に係る正極50は、図示されるように、正極集電体52と、正極集電体52上に支持された正極活物質層54とを備える。図示例では、正極活物質層54は、正極集電体52の両面上に設けられているが、片面上に設けられていてもよい。正極活物質層54は、好ましくは正極集電体52の両面上に設けられる。
【0019】
正極50は、図示例のように、少なくとも一端部に、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した、正極活物質層非形成部分52aを有していてもよい。正極活物質層非形成部分52aは、集電部(特に、集電タブ)として機能する。
【0020】
正極集電体52としては、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属製のシートまたは箔状体を用いることができ、好適にはアルミニウム箔が用いられる。正極集電体52としてアルミニウム箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0021】
正極活物質層54は、図示されるように、正極集電体52側に位置する層54Aと、表層部側に位置する層54Bとを備える複層構造を有している。なお、層54Aと層54Bは、一方の正極活物質層54のみ示しているが、第1実施形態においては、両方の正極活物質層54が有している。しかしながら、一方の正極活物質層54のみが、層54Aと層54Bを含む複層構造を有していてもよい。
【0022】
正極活物質層54は(すなわち、層54Aおよび層54Bはそれぞれ)、リチウム以外の金属原子に対するニッケルの含有量が70モル%以上であるリチウム複合酸化物(以下、「高Ni含有リチウム複合酸化物」ともいう)を、正極活物質として含有する。
【0023】
高Ni含有リチウム複合酸化物の種類は、リチウム以外の金属原子に対するNi含有量が70モル%以上である限り特に限定されない。高Ni含有リチウム複合酸化物は、好ましくは、層状岩塩型の結晶構造を有する。このようなリチウム複合酸化物の例としては、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物等が挙げられる。
【0024】
なお、本明細書において「リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物」とは、Li、Ni、Co、Mn、Oを構成元素とする酸化物の他に、それら以外の1種または2種以上の添加的な元素を含んだ酸化物をも包含する用語である。かかる添加的な元素の例としては、Mg、Ba、Sr、Ca、Al、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、K、Fe、Cu、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。また、添加的な元素は、B、C、Si、P等の半金属元素や、S、F、Cl、Br、I等の非金属元素であってもよい。このことは、上記したリチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物等についても同様である。
【0025】
高Ni含有リチウム複合酸化物としては、リチウムイオン二次電池100に種々の有利な特性を付与できることから、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物が好ましい。リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物としては、下式(I)で表される組成を有するものが好ましい。
Li1+xNiCoMn(1-y-z)α2-ββ (I)
【0026】
式(I)中、x、y、z、α、およびβはそれぞれ、-0.3≦x≦0.3、0.7≦y≦0.95、0.02≦z≦0.28、0≦α≦0.1、0≦β≦0.5を満たす。Mは、Al、Zr、B、Mg、Fe、Cu、Zn、Sn、Na、K、Ba、Sr、Ca、W、Mo、Nb、Ti、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。Qは、F、ClおよびBrからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。xは、好ましくは0≦x≦0.3を満たし、より好ましくは0≦x≦0.15を満たし、さらに好ましくは0である。エネルギー密度の観点から、yは、好ましくは0.75≦y≦0.95を満たす。zは、好ましくは0.03≦z≦0.22を満たす。αは、好ましくは0≦α≦0.05を満たし、より好ましくは0である。βは、好ましくは0≦β≦0.1を満たし、より好ましくは0である。
【0027】
正極活物質層54は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、高Ni含有リチウム複合酸化物以外の正極活物質を含有していてもよい。正極活物質は、1種単独で用いてよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。層54Aおよび層54Bが、同じ正極活物質を含有していてもよいし、異なる正極活物質を含有していてもよい。
【0028】
正極活物質の含有量は、特に限定されないが、正極活物質層54中(すなわち、正極活物質の全質量に対し)、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは85質量%以上である。
【0029】
正極活物質の平均粒子径(メジアン径D50)は、特に限定されないが、例えば0.05μm以上25μm以下であり、好ましくは0.5μm以上23μm以下であり、より好ましくは3μm以上22μm以下である。なお、正極活物質の平均粒子径(メジアン径D50)は、例えば、レーザ回折散乱法等により求めることができる。
【0030】
また、正極活物質層54は、界面活性剤を含有する。界面活性剤は、従来より正極活物質層において使用されている公知のものおよびそれと同等以上の特性を有するものを使用してよい。具体的には、界面活性剤として、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
カチオン性界面活性剤の例としては、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム等のモノ/ジ長鎖アルキル型の第4級アンモニウム塩;アルキルアミン塩等が挙げられる。
【0032】
アニオン性界面活性剤の例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルケニルエーテル硫酸塩、アルケニル硫酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸またはそのエステル塩、アルカンスルホン酸塩、飽和脂肪酸塩、不飽和脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルケニルエーテルカルボン酸塩、アミノ酸型界面活性剤、N-アシルアミノ酸型界面活性剤、アルキルリン酸エステルまたはその塩、アルケニルリン酸エステルまたはその塩、アルキルスルホコハク酸塩等が挙げられる。
【0033】
両性界面活性剤の例としては、カルボキシル型両性界面活性剤、スルホベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。
【0034】
非イオン性界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルキルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ショ糖脂肪酸エステル;テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等のポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルアミン;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロックコポリマー;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノミリスチレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタンジステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセロールモノステアレート、グリセロールモノオレエート、ジグリセロールモノオレエート、自己乳化型グリセロールモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
【0035】
界面活性剤としては、正極活物質層54への非水電解液の含浸性が特に高くなり、またガス発生量が特に小さくなることから、非イオン性界面活性剤が好ましい。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン系界面活性剤(すなわち、ポリオキシエチレン単位を含有する界面活性剤)が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテルがより好ましい。
【0036】
正極活物質層54内における界面活性剤の存在形態は、特に限定されないが、界面活性剤は、正極活物質を被覆して存在していることが好ましい。このとき、界面活性剤による正極活物質の被覆率が、5%以上50%以下であることが好ましく、10%以上30%以下であることがより好ましい。被覆率は、例えば、界面活性剤で被覆された正極活物質に対して、X線光電子分光法(XPS)による測定を行い、そのスペクトル強度を用いて算出することができる。あるいは、界面活性剤で被覆された正極活物質に対して、電子顕微鏡を用いて元素分布観察を行い、正極活物質の露出面の割合に基づいて被覆率を算出することができる。
【0037】
界面活性剤による正極活物質の被覆は、公知方法(乾式法、湿式法)により行うことができる。乾式法においては、例えば、界面活性剤と正極活物質とを高速撹拌機等を用いて混合することにより、界面活性剤による正極活物質の被覆を行うことができる。湿式法においては、例えば、正極活物質層54を形成するための正極合材スラリーに界面活性剤を添加して混合した後、当該正極合材スラリーを正極集電体52上に塗布し、乾燥することにより、界面活性剤による正極活物質の被覆を行うことができる。
【0038】
正極活物質層54は、正極活物質および界面活性剤以外の成分を含み得る。その例としては、リン酸リチウム(LiPO)、導電材、バインダ等が挙げられる。
【0039】
正極活物質層54中のリン酸リチウムの含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、2質量%以上12質量%以下がより好ましい。
【0040】
導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。正極活物質層54中の導電材の含有量は、特に限定されないが、例えば0.1質量%以上20質量%以下であり、好ましくは1質量%以上15質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上10質量%以下である。
【0041】
バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を使用し得る。正極活物質層54中のバインダの含有量は、特に限定されないが、例えば0.5質量%以上15質量%以下であり、好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以上8質量%以下である。
【0042】
正極活物質層54において、層54Aと層54Bとでは、正極活物質と界面活性剤の合計に対する界面活性剤の質量割合が異なっている(以下、正極活物質と界面活性剤の合計に対する界面活性剤の質量割合を「界面活性剤の質量割合(S)」または単に「質量割合(S)」ともいう)。したがって、一方の層の方が界面活性剤の質量割合(S)が大きい。本実施形態では、層54Bの方が、層A54よりも界面活性剤の質量割合(S)が大きい。界面活性剤の質量割合(S)が大きい層54Bにおける、界面活性剤の質量割合(S)は、1.0質量%以上10質量%以下である。
【0043】
このように、本実施形態においては、正極活物質層54を複層構造とし、界面活性剤を一つの層に多く偏在させている。そして、界面活性剤を偏在させている層の界面活性剤の量を規定している。これにより、正極活物質層54内に非水電解液が浸透する流路となる層を設けて電解液含浸性を高めつつ、正極活物質層54全体として界面活性剤の量を低減して、高電圧下でのガス発生を抑制することができる。
【0044】
ガス発生をより低減する観点から、界面活性剤の質量割合(S)が大きい層54Bにおける、界面活性剤の質量割合(S)は、好ましくは1.0質量%以上5.0質量%以下である。
【0045】
層54Aにおける質量割合(S)は、層54Bの質量割合(S)よりも小さい限り特に限定されない。層54Aにおける質量割合(S)は、層54Bの質量割合(S)の半分以下(すなわち50%以下)であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。層54Aにおける質量割合(S)は、0質量%であってよい。層54Aにおける質量割合(S)は、好ましくは1.0質量%未満であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以下である。
【0046】
なお、界面活性剤の質量割合(S)は、例えば、窒素雰囲気下において熱重量・示差熱同時測定(TG-DTA測定)を行うことにより、求めることができる。
【0047】
界面活性剤の質量割合(S)が小さい層54Aの厚みに対する界面活性剤の質量割合(S)が大きい層54Bの厚みの比(層54B/層54A)は、特に限定されないが、ガス発生をより低減する観点から、好ましくは0.1以上1.0以下であり、より好ましくは0.1以上0.5以下である。
【0048】
正極活物質層54の総厚み(すなわち、複層構造の層54Aおよび層54Bの合計厚み)は、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0049】
一般的に、正極活物質は、一次粒子が凝集した二次粒子の形態にある。しかしながら、界面活性剤の質量割合(S)が大きい層54Bは、単粒子状の正極活物質を含有することが好ましい。このとき、正極活物質層54への非水電解液の含浸性がより高くなる。これは、層54Bにおいて細い網目状の非水電解液の浸透経路が形成され、毛細管現象によって非水電解液の含浸速度が向上するためと考えられる。
【0050】
ここで「単粒子」は、単一の結晶核の成長によって生成した粒子であり、よって結晶粒界を含まない単結晶体の粒子である。粒子が単結晶体であることは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)による電子線回折像の解析によって確認することができる。
【0051】
単粒子は、凝集し難いという性質を有し、単粒子は単独で正極活物質粒子を構成するが、単粒子が凝集して正極活物質粒子を構成する場合もある。しかしながら、単粒子が凝集して正極活物質粒子を構成する場合、凝集している単粒子の数は、2個以上10個以下である。よって、一つの正極活物質粒子は、1個以上10個以下の単粒子から構成されるものであり、正極活物質粒子は、1個以上5個以下の単粒子から構成され得、1個以上3個以下の単粒子から構成され得、1個の単粒子から構成され得る。なお、1個の正極活物質粒子における単粒子の数は、10,000倍から30,000倍の拡大倍率で走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することにより確認することができる。
【0052】
このように単粒子は、複数の結晶粒からなる多結晶粒子や微粒子(一次粒子)が多数(具体的には11個以上)凝集してなる二次粒子とは異なる。単粒子状の正極活物質は、単結晶粒子を得る公知方法(例えば、溶融塩法)に従い、作製することができる。
【0053】
また、単粒子は、通常、二次粒子を構成する一次粒子が単結晶体である場合の一次粒子よりも大きい。このため凝集し難い。単粒子の最大径は、0.5μm以上であってよく、1μm超であってよく、さらには2μm超であってよく、3μm以上7μm以上であってよい。また、単粒子の平均最大径は、3μm以上7μm以上であってよい。なお、単粒子の最大径は、単粒子のSEM画像において、単粒子の輪郭線上の最も離れた2点間の距離として求めることができる。このSEM画像は、単粒子の2次元投影像であってよいし、断面像であってもよい。単粒子の平均最大径は、SEM画像において、任意に選ばれる100個以上の単粒子の最大径の平均値として求めることができる。
【0054】
単粒子の形状は特に限定されず、球状、柱状、板状、不定形状であってよい。
【0055】
ガス発生をより抑制する観点から、正極活物質層全体に含まれる界面活性剤のうち、好ましくは80質量%以上が、より好ましくは90質量%以上が、界面活性剤の質量割合(S)が大きい層54Bに含有される。
【0056】
第1実施形態では、正極活物質層54の表層部側に、界面活性剤の質量割合(S)の大きい層54Aが配置されている。この場合、セパレータと正極活物質層54の外表面との界面から入り込んだ非水電解液が、表層部側の層54Aを流路として、正極活物質層54全体に拡散することができる。よって、正極活物質層54への非水電解液の含浸性が特に高くなる。
【0057】
しかしながら、正極活物質層54の複層構造における、界面活性剤の質量割合(S)の大きい層の配置はこれに限られない。そこで次に、ここに開示される正極の第2実施形態について説明する。
【0058】
〔第2実施形態〕
ここに開示される正極の第2実施形態について図2を用いて説明する。図2に示す正極50’において、正極活物質層54’は、正極集電体52側に位置する層54Cと、表層部側に位置する層54Dとを備える複層構造を有している。
【0059】
第2実施形態においては、正極集電体52側に位置する層54Cの方が、界面活性剤の質量割合(S)が大きく、よって層54Cが第1実施形態の層54Bに対応し、層54Dが第1実施形態の層54Aに対応している。すなわち、第2実施形態は、第1実施形態において界面活性剤の質量割合(S)が大きい層54Bと界面活性剤の質量割合(S)が小さい層54Aの位置が入れ替わった実施形態である。
【0060】
このように、正極活物質層54’の正極集電体52側に、界面活性剤の質量割合(S)の大きい層54Cが配置されている場合、ガスの発生をより抑制することができる。これは、負極に対向する正極活物質層54’の表層部の方が反応負荷が大きいため、高電圧下においては界面活性剤が分解し易く、正極活物質層54’の正極集電体52側に、界面活性剤の質量割合(S)の大きい層54Cが配置される(すなわち、正極活物質層54の表層部側に、界面活性剤の質量割合(S)の小さい層54Dが配置される)ことで、分解する界面活性剤の量を減らすことができるためである。
【0061】
〔第3実施形態〕
ここに開示される正極の正極活物質層は、3層以上の複層構造を有していてもよい。ここに開示される正極の第3実施形態について図3を用いて説明する。図3に示す正極50’ ’において、正極活物質層54’ ’は、正極集電体52側に位置する層54Eと、中央に位置する層54Fと、表層部側に位置する層54Gとを備える複層構造を有している。
【0062】
第3実施形態においては、中央に位置する層54Fにおいて、界面活性剤の質量割合(S)が最も大きくなっており、第1実施形態の層54Bに対応している。一方、正極集電体52側に位置する層54Eと表層部側に位置する層54Gにおける界面活性剤の質量割合(S)は、第1実施形態の層54Aに対応している。
【0063】
図示例のように、正極活物質層54の正極集電体52および外表面とは離れた中間層(図示例では、層54F)において、界面活性剤の質量割合(S)が最も大きい場合には、第2実施形態と同様の理由でガスの発生をより抑制することができる。また、正極集電体54の近傍において界面活性剤の存在量が少なくなるため、正極活物質層54と正極集電体52との間の界面抵抗の増加を抑制することができる。
【0064】
なお、正極活物質層は、3層以上の複層構造を有する場合、「界面活性剤の質量割合(S)が大きい層」は、「界面活性剤の質量割合(S)が最も大きい層」を指す。
【0065】
なお、正極活物質層は、3層以上の複層構造を有している場合、界面活性剤の質量割合(S)の大きい層が、表層部側に位置していてもよいし、正極集電体52側に位置していてもよい。
【0066】
〔別の実施形態〕
ここに開示される正極において、正極活物質層の複層構造の各層内における界面活性剤の分布は、均一でなくてもよい。したがって、正極活物質層の複層構造の各層内で、所定の濃度分布があってもよい。よって例えば、別の実施形態として、正極活物質層の外表面から正極集電体まで、界面活性剤の濃度が減少するように界面活性剤が分布しており、正極活物質層の外表面から厚み33%までの領域(上層)と、正極活物質層の集電体から厚みの67%までの領域(下層)とで、界面活性剤の質量割合が異なり、界面活性剤の質量割合が多い上層において、界面活性剤の質量割合が1.0質量%以上10質量%以下であってよい。
【0067】
以上のように構成される正極では、正極活物質層への非水電解液の含浸性に優れ、かつガス発生が抑制されている。以上のように構成される正極は、公知方法に従い二次電池の正極に用いることができる。したがって、ここに開示される正極は、好適には二次電池用である。当該二次電池は、全固体電池であってよいが、正極活物質層への非水電解液の浸透性に優れるため、好適には、非水電解液二次電池である。
【0068】
〔非水電解液二次電池〕
そこで、別の側面から、ここに開示される非水電解液二次電池は、上記の正極と、負極と、非水電解液と、を備える。
【0069】
以下、扁平形状の捲回電極体と扁平形状の電池ケースとを有する扁平角型のリチウムイオン二次電池を例にして、ここに開示される非水電解液二次電池の一実施形態について詳細に説明するが、ここに開示される非水電解液二次電池をかかる実施形態に記載されたものに限定することを意図したものではない。
【0070】
図4に示すリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と非水電解液80とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型電池である。電池ケース30には外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。また、電池ケース30には、非水電解液80を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子42は、正極集電板42aと電気的に接続されている。負極端子44は、負極集電板44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質としては、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。なお、図4は、非水電解液80の量を正確に表すものではない。
【0071】
捲回電極体20は、図4および図5に示すように、正極シート50と、負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極シート50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。正極活物質層非形成部分52a(すなわち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)および負極活物質層非形成部分62a(すなわち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)は、捲回電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0072】
正極シート50には、上述の正極が用いられる。
【0073】
一方、負極シート60を構成する負極集電体62としては、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属製のシートまたは箔状体を用いることができ、好適には銅箔が用いられる。負極集電体62として銅箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0074】
負極活物質としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の負極活物質を用いることができ、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。黒鉛は、天然黒鉛であっても人造黒鉛であってもよく、黒鉛が非晶質な炭素材料で被覆された形態の非晶質炭素被覆黒鉛であってもよい。
【0075】
負極活物質層中の負極活物質の含有量は、特に限定されないが、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
【0076】
負極活物質層64は、負極活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。
【0077】
バインダとしては、例えば、スチレンブタジエンラバー(SBR)およびその変性体、アクリロニトリルブタジエンゴムおよびその変性体、アクリルゴムおよびその変性体、フッ素ゴム等を使用し得る。なかでも、SBRが好ましい。負極活物質層64中のバインダの含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.1質量%以上8質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上3質量%以下である。
【0078】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA)等を使用し得る。なかでも、CMCが好ましい。負極活物質層64中の増粘剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.3質量%以上3質量%以下であり、より好ましくは0.4質量%以上2質量%以下である。
【0079】
負極活物質層64の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0080】
セパレータ70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から構成される多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0081】
セパレータ70の厚みは特に限定されないが、例えば5μm以上50μm以下であり、好ましくは10μm以上30μm以下である。
【0082】
非水電解液80は、典型的には、非水溶媒と電解質塩(言い換えると、支持塩)とを含有する。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。なかでも、カーボネート類が好ましく、その具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が挙げられる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0083】
電解質塩としては、例えば、LiPF、LiBF、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のリチウム塩を用いることができ、なかでも、LiPFが好ましい。電解質塩の濃度は、特に限定されないが、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。
【0084】
なお、上記非水電解液80は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した成分以外の成分、例えば、オキサラト錯体等の被膜形成剤、ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;増粘剤;等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0085】
以上のように構成されるリチウムイオン二次電池100は、正極活物質層54へ非水電解液80が含浸し易いものとなっている。したがって、リチウムイオン二次電池100の製造の際に、電池ケース30内に注液された非水電解液80が電極体20内へ短時間で浸透するため、生産効率に優れる。また、リチウムイオン二次電池100に充放電を繰り返した際に、活物質の膨張・収縮に伴い、非水電解液80が電極体20から押し出されるが、押し出された非水電解液80が電極体20に戻り易くなっている。よって、リチウムイオン二次電池100は、充放電を繰り返した際に電極体20内で非水電解液80の量が極度に低下することが抑制されており、サイクル特性にも優れている。また、正極50における界面活性剤の分解に起因する高電圧下でのガス発生が抑制されている。
【0086】
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。また、リチウムイオン二次電池100は、小型電力貯蔵装置等の蓄電池として使用することができる。リチウムイオン二次電池100は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0087】
なお、一例として扁平形状の捲回電極体20を備える角形のリチウムイオン二次電池100について説明した。しかしながら、ここに開示されるリチウムイオン二次電池は、積層型電極体(すなわち、複数の正極と、複数の負極とが交互に積層された電極体)を備えるリチウムイオン二次電池として構成することもできる。また、ここに開示される非水電解液二次電池は、円筒形リチウムイオン二次電池、ラミネートケース型リチウムイオン二次電池、コイン型リチウムイオン二次電池等として構成することもできる。
【0088】
また、公知方法に従い、上記の正極を用いて、リチウムイオン二次電池以外の非水電解液二次電池を構築することもできる。
【0089】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0090】
<実施例1>
正極活物質としての二次粒子状のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物(LiNi0.8Co0.1Mn0.1;NCM811)と、界面活性剤としてのポリエチレングリコールジメチルエーテルとを、99:1の質量比で高速撹拌機を用いて混合し、界面活性剤でコーティングされた活物質(以下、「第1活物質」ともいう)を得た。また、正極活物質としての二次粒子状のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物(LiNi0.8Co0.1Mn0.1)と、界面活性剤としてのポリエチレングリコールジメチルエーテル(PEGDME)とを、99.5:0.5の質量比で高速撹拌機を用いて混合し、界面活性剤でコーティングされた活物質(以下、「第2活物質」ともいう)を得た。
【0091】
第1活物質と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、第1活物質:AB:PVDF=97.5:1.5:1.0の質量比で混合し、得られた混合物にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて、第1正極合材スラリーを調製した。また、第2活物質と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、第3活物質:AB:PVDF=97.5:1.5:1.0の質量比で混合し、得られた混合物にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて、第2正極合材スラリーを調製した。
【0092】
アルミニウム箔製の正極集電体の両面に、第2正極合材スラリーを塗布し、乾燥した。次いで、第2正極合材スラリーの乾燥塗膜上に、第1正極合材スラリーを塗布し、乾燥した。このとき、第2正極スラリーの塗布厚みに対する第1正極合材スラリーの塗布厚みの比を0.5とした。その後、圧延ローラーにより塗膜をロールプレスして正極シートを作製した。ロールプレス後の正極活物質層において、第2正極合材スラリーによって形成された層の厚みに対する第1正極合材スラリーによって形成された層の厚みの比は、上記の塗布厚みの比と同じく0.5であった。
【0093】
また、負極活物質としての黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=97.5:1.0:1.5の質量比で、イオン交換水中で混合し、負極活物質層形成用スラリーを調製した。この負極活物質層形成用スラリーを、銅箔上に塗布した。その後、乾燥を行い、所定の厚みにロールプレスして負極シートを作製した。
【0094】
セパレータとしてPP/PE/PEの三層構造を有する多孔性ポリオレフィンシートを用意した。正極シートと、負極シートとをセパレータが介在するようにしつつ重ね合わせ、積層(スタック)型の積層電極体を作製した。
【0095】
電極体に電極端子を取り付け、これをアルミニウムラミネートフィルム製のケースに挿入し、溶着した後、非水電解液を注液した。なお、非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)を、1:1の体積比で含む混合溶媒に、LiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。その後、ラミネートケースを封止することによって、実施例1の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0096】
<実施例2,3,5,6および比較例1,2>
第1活物質作製時の正極活物質および界面活性剤の合計に対する界面活性剤の質量割合(質量%)、および第2活物質作製時の正極活物質および界面活性剤の合計に対する界面活性剤の質量割合(質量%)を、表1に示す値に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2,3,5,6および比較例1,2の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0097】
<実施例4>
第1正極合材スラリーを塗布した後第2正極合材スラリーを塗布した以外は実施例3と同様にして、実施例4の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0098】
<比較例3>
正極活物質としての二次粒子状のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物(LiNi0.8Co0.1Mn0.1)と、界面活性剤としてのポリエチレングリコールジメチルエーテルとを、90:10の質量比で高速撹拌機を用いて混合し、界面活性剤でコーティングされた活物質(第1活物質)を得た。これを用いて実施例1と同様にして第1正極合材スラリーを調製した。この第1正極合材スラリーのみを用いて、実施例1と同様にして正極を作製した。このとき正極活物質層の厚みが実施例1と同じとなるように、第1正極合材スラリーの塗布厚みを調整した。この正極を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例3の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0099】
<参考例1>
正極活物質として二次粒子状のLiNi0.8Co0.1Mn0.1(NCM811)に代えて二次粒子状のLiNi0.6Co0.2Mn0.2(NCM622)を用いた以外は比較例3と同様にして、参考例1の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0100】
<比較例4>
正極活物質と界面活性剤との質量比を99.8:0.2に変更した以外は比較例3と同様にして、比較例4の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0101】
<実施例7~9>
第1正極合材スラリーおよび第2正極合材スラリーの塗布厚みを変化させ、第2正極合材スラリーによって形成された層の厚みに対する第1正極合材スラリーによって形成された層の厚みの比を表1に示す値に変更した以外は実施例5と同様にして、実施例7~9の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0102】
<実施例10,11>
第1正極合材スラリーに用いられる第1活物質の界面活性剤による被覆率を表1に示す値に変更した以外は実施例5と同様にして、実施例10,11の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0103】
<実施例12>
界面活性剤を、塩化アルキルトリメチルアンモニウム(ATMAC)に変更した以外は実施例5と同様にして、実施例12の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0104】
<実施例13>
正極活物質として二次粒子状のLiNi0.8Co0.1Mn0.1に代えて単粒子状のLiNi0.8Co0.1Mn0.1を用いた以外は実施例5と同様にして、実施例13の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0105】
<ガス発生量評価>
各評価用リチウムイオン二次電池の体積を、フロリナートを溶媒としたアルキメデス法により求めた。この体積を初期体積とした。次いで、25℃の環境下で、各評価用リチウムイオン二次電池を4.3Vまで充電させ、45℃環境下で5日間静置させた。その後、各評価用リチウムイオン二次電池の体積を、フロリナートを溶媒としたアルキメデス法により求めた。充電後の体積と初期体積との差(mL)を求め、これをガス発生量とした。結果を表1に示す。
【0106】
<電解液含浸性評価>
上記各試験例で作製した正極を5cm×20cmの寸法に裁断して正極サンプルを作製した。この正極の下部3cmを、上記各試験例で用いた非水電解液に垂直に浸し、電解液が正極活物質層に浸透する速度(cm/h)を測定した。なお、電解液が正極活物質層に浸透する様子は、電解液が浸透した際の正極活物質層の色の変化より把握した。結果を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
まず、比較例3と参考例1との比較より、高電圧下でのガス発生の問題は、リチウム複合酸化物中のNiの含有量が高い(特に70モル%以上である)場合に起こる特有の問題であることがわかる。そして、各実施例と各比較例との比較より、正極活物質層が、正極活物質と界面活性剤との合計に対する界面活性剤の質量割合が異なる2以上の層を含む複層構造を有し、複層構造が含む層のうちの界面活性剤の質量割合が大きい層における、界面活性剤の質量割合が、1.0質量%以上10質量%以下である場合に、正極活物質層への非水電解液の含浸性に優れ、かつガス発生が抑制されていることがわかる。
【0109】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0110】
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
52a 正極活物質層非形成部分
54 正極活物質層
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
62a 負極活物質層非形成部分
64 負極活物質層
70 セパレータシート(セパレータ)
80 非水電解液
100 リチウムイオン二次電池
図1
図2
図3
図4
図5