IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中国科学院分子細胞科学卓越創新中心の特許一覧

特許7399955インビトロで肝細胞を増殖・培養する方法及び応用
<>
  • 特許-インビトロで肝細胞を増殖・培養する方法及び応用 図1
  • 特許-インビトロで肝細胞を増殖・培養する方法及び応用 図2
  • 特許-インビトロで肝細胞を増殖・培養する方法及び応用 図3
  • 特許-インビトロで肝細胞を増殖・培養する方法及び応用 図4
  • 特許-インビトロで肝細胞を増殖・培養する方法及び応用 図5
  • 特許-インビトロで肝細胞を増殖・培養する方法及び応用 図6
  • 特許-インビトロで肝細胞を増殖・培養する方法及び応用 図7
  • 特許-インビトロで肝細胞を増殖・培養する方法及び応用 図8
  • 特許-インビトロで肝細胞を増殖・培養する方法及び応用 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】インビトロで肝細胞を増殖・培養する方法及び応用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20231211BHJP
   A61K 35/407 20150101ALI20231211BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20231211BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20231211BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
A61K35/407
A61P1/16
C12Q1/02
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021517873
(86)(22)【出願日】2019-08-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-08
(86)【国際出願番号】 CN2019100511
(87)【国際公開番号】W WO2020063161
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-04-05
(31)【優先権主張番号】201811156216.1
(32)【優先日】2018-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520304664
【氏名又は名称】中国科学院分子細胞科学卓越創新中心
【氏名又は名称原語表記】CENTER FOR EXCELLENCE IN MOLECULAR CELL SCIENCE, CHINESE ACADEMY OF SCIENCE
【住所又は居所原語表記】Building 35, 320 Yue Yang Road, Xuhui District Shanghai 200031 China
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】恵 利健
(72)【発明者】
【氏名】張 魯狄
(72)【発明者】
【氏名】張 坤
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/079714(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0198254(US,A1)
【文献】国際公開第2018/221904(WO,A2)
【文献】特開2017-104057(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0191030(US,A1)
【文献】特表2012-529901(JP,A)
【文献】国際公開第2017/048193(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/043666(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/200340(WO,A1)
【文献】Delphine Garnier et al.,Expansion of human primary hepatocytes in vitro through their amplification as liver progenitors in a 3D organoid system,SCIENTIFIC REPORTS,2018年05月29日,Vol.8, Article number 8222,pp.1-10
【文献】V Iansante et al.,Human hepatocyte transplantation for liver disease: current status and future perspectives,Pediatric RESEARCH,2018年01月,Vol.83, No.1,pp.232-240
【文献】Lay Teng Ang et al.,A Roadmap for Human Liver Differentiation from Pluripotent Stem Cells,Cell Reports,2018年02月20日,Vol.22,pp.2190-2205
【文献】Takeshi Katsuda et al.,Conversion of Terminally Committed Hepatocytes to Culturable Bipotent Progenitor Cells with Regenerative Capacity,Cell Stem Cell,2017年,Vol.20,pp.41-55
【文献】SULEIMAN, S. A. and STEVENS, J. B.,THE EFFECT OF OXYGEN TENSION ON RAT HEPATOCYTES IN SHORT-TERM CULTURE,IN VITRO CELLULAR & DEVELOPMENTAL BIOLOGY,1987年,Vol.23, No.5,pp.332-338
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞を、Wntシグナル経路アクティベーターを含有する細胞培養培地で培養し、インビトロで増殖することを含むことを特徴とするインビトロで肝細胞を増殖する方法であって、
前記細胞培養培地は、成分として、Wntシグナル経路アクティベーター、N-アセチル-システイン、ニコチンアミド、FGF10、EGF、HGF、[Leu15]-ガストリンI、A 83-01、Y-27632、および血清を含有し、
前記Wntシグナル経路アクティベーターは、Wnt3a タンパク質またはCHIRであり、
前記成分の濃度は、
Wnt3a タンパク質 30~70 ng/ml、
CHIR 0.05~2 μM、
N-アセチル-システイン 0.5~2 mM、
ニコチンアミド 5~20 mM、
FGF10 1~4 ng/ml、
EGF 30~70 ng/ml、
HGF 15~40 ng/ml、
[Leu15]-ガストリンI 5~20 mM、
A 83-01 3~7 μM、
Y-27632 5~20 μM、
血清 0.5~2 %、
であることを特徴とする、インビトロで肝細胞を増殖する方法。
【請求項2】
前記細胞培養培地は、DMEM、MEM、又はRPMIから選ばれる培地を基礎培地とする、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記DMEMは、Advanced DMEM/F12およびDMEM/F12から選ばれることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1で増殖された肝細胞を成熟肝細胞に誘導する方法であって、
前記細胞培養培地にフォルスコリン、デキサメタゾン、オンコスタチンMを
フォルスコリン 3~7 μM、
デキサメタゾン 5~20 μM、
オンコスタチンM 10~30 ng/ml、
の濃度で添加することを特徴とする方法。
【請求項5】
前記細胞培養培地においてフォルスコリン、デキサメタゾン、オンコスタチンMは、
フォルスコリン 4~6 μM、
デキサメタゾン 7~15 μM、
オンコスタチンM 15~25 ng/ml、
の濃度であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記成分の濃度が、
Wnt3a タンパク質 40~60 ng/ml、
CHIR 0.07~1.5 μM、
N-アセチル-システイン 0.7~1.5 mM、
ニコチンアミド 7~15 mM、
FGF10 2~3 ng/ml、
EGF 40~60 ng/ml、
HGF 20~30 ng/ml、
[Leu15]-ガストリンI 7~15 mM、
A 83-01 4~6 μM、
Y-27632 7~15 μM、
血清 0.7~1.5 %、
であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、増殖した肝細胞を継代培養する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記継代培養は低酸素状態で行われ、前記低酸素状態は、体積比で0~15%の酸素を含む、ことを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記低酸素状態は、体積比で10%未満の酸素を含む、ことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記低酸素状態は、体積比で6%未満の酸素を含む、ことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記培養は、3次元培養である、ことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
上記の肝細胞は、ヒト肝細胞であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~3および6~12のいずれか一つの方法で得られた肝細胞培養物又は当該肝細胞培養物から単離・精製された成熟肝細胞と肝前駆細胞の間にある中間状態細胞である肝細胞。
【請求項14】
請求項13に記載の肝細胞培養物又は単離・精製された成熟肝細胞と肝前駆細胞の間にある中間状態細胞である肝細胞の使用であって、
臓の再生を促進する薬物の調製における使用;または
肝臓疾患を予防、緩和又は治療する薬物組成物又はキットの調製における使用;または
インビトロモデルとして、肝臓に関連する疾患又は薬物に対する研究における使用;または
生体内の細胞移植の組成物の調製における使用;または
Albuminタンパク質の産生における使用。
【請求項15】
前記肝臓に関連する疾患又は薬物的研究は、薬物の送達、薬物の代謝、肝臓の形成、肝臓の再生に対する研究;或いは肝毒性試験、肝細胞毒性物質のスクリーニング、肝細胞機能を調節する物質のスクリーニングであることを特徴とする請求項14に記載の使用。
【請求項16】
請求項13に記載の肝細胞培養物又は単離・精製された肝細胞;及び薬学的に許容される担体;を含むことを特徴とする薬物組成物。
【請求項17】
請求項13に記載の肝細胞培養物又は単離・精製された肝細胞を含む;又は請求項16に記載された薬物組成物を含む;ことを特徴とするキット。
【請求項18】
培養培地が、成分として、Wntシグナル経路アクティベーター、N-アセチル-システイン、ニコチンアミド、FGF10、EGF、HGF、[Leu15]-ガストリンI、A 83-01、Y-27632、および血清を含有し、
前記Wntシグナル経路アクティベーターは、Wnt3a タンパク質またはCHIRであり、前記成分の濃度は、
Wnt3a タンパク質 30~70 ng/ml、
CHIR 0.05~2 μM、
N-アセチル-システイン 0.5~2 mM、
ニコチンアミド 5~20 mM、
FGF10 1~4 ng/ml、
EGF 30~70 ng/ml、
HGF 15~40 ng/ml、
[Leu15]-ガストリンI 5~20 mM、
A 83-01 3~7 μM、
Y-27632 5~20 μM、
血清 0.5~2 %、
であることを特徴とする、インビトロで肝細胞を増殖するための培養培地。
【請求項19】
請求項18に記載のインビトロで肝細胞を増殖する培養培地、及び、フォルスコリン、デキサメタゾン、オンコスタチンMを含む、インビトロでの肝細胞の増殖、および、肝細胞の成熟を誘導する培養培地であって、前記フォルスコリン、デキサメタゾン、オンコスタチンMは、
フォルスコリン 3~7 μM、
デキサメタゾン 5~20 μM、
オンコスタチンM 10~30 ng/ml、
の濃度であることを特徴とする、インビトロで肝細胞を増殖、および、肝細胞の成熟を誘導する培養培地。
【請求項20】
前記培養培地が含む成分が、基礎培地に存在し、前記基礎培地は、DMEM、MEM、又は、RPMIから選ばれることを特徴とする請求項18に記載の培養培地。
【請求項21】
前記DMEMは、Advanced DMEM/F12およびDMEM/F12から選ばれることを特徴とする、請求項20に記載の培養培地。
【請求項22】
前記培養培地における成分の濃度は、
Wnt3a タンパク質 40~60 ng/ml、
CHIR 0.07~1.5 μM、
N-アセチル-システイン 0.7~1.5 mM、
ニコチンアミド 7~15 mM、
FGF10 2~3 ng/ml、
EGF 40~60 ng/ml、
HGF 20~30 ng/ml、
[Leu15]-ガストリンI 7~15 mM、
A 83-01 4~6 μM、
Y-27632 7~15 μM、
血清 0.7~1.5 %
であることを特徴とする請求項18に記載された培養培地。
【請求項23】
インビトロで肝細胞を増殖するとともに、肝細胞の成熟を誘導することを特徴とする請求項18~22のいずれか一つの培養培地の使用。
【請求項24】
請求項18~22のいずれか一つの培養培地を含むことを特徴とするインビトロで肝細胞を増殖するとともに肝細胞の成熟を誘導するキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野に属し、より具体的には、インビトロで肝細胞を増殖・培養する方法、ならびに代謝分析および細胞移植における増殖した肝細胞の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、体内で最も機能的で複雑な実質臓器の一つとして、その主な機能には、炭水化物と脂質のバランスを調節することと、外因性物質の代謝と生体内変化、胆汁の生成と排泄、ビタミンの貯蔵、分泌タンパク質の合成、凝固物質の生成と除去に関与することを含み、特異性および非特異性の免疫において重要な役割を果たしている。ヒトの代謝の中心として、肝臓は、さまざまな生理学的および病理学的プロセスにおいて重要な役割を果たしているので、多くの疾患も肝臓に影響を与える。現在、末期肝臓疾患に対して、最も効果的な治療法は肝移植であるが、ドナーの肝源が不足し、治療費が高いため、その臨床応用は大きく制限されている。近年、研究者らは肝細胞移植を使用して全肝移植を置き換えることを試みており、その有効性は臨床および動物モデルで検証されている。しかし、肝細胞移植の治療は、肝統合能力を備えたヒト肝細胞の欠如によって依然として制限されている。また、ヒト肝臓指向性病原体の宿主特異性および種間の肝臓代謝酵素の大きな違いのために、ヒト肝細胞を免疫不全動物に移植して得られたヒト化肝臓の動物は、肝感染症の研究および薬剤開発の分野で広く使用されている。したがって、高効率の肝臓再生(再増殖)能力を有するヒト肝細胞は、肝臓疾患の治療および肝臓ヒト化動物の構築において大きな需要および応用価値を有する。
【0003】
細胞の不死化とは、インビトロで培養された細胞が、自発的または外部要因の影響を受けて、増殖と老化の危機から脱出し、無期限に増殖する能力を有する過程を指す。肝細胞の自発的な不死化の可能性は非常に低く、肝細胞の不死化は通常、遺伝子トランスフェクションなどの技術によって達成される。しかし、インビトロで不死化した肝細胞株の肝機能は初代肝細胞よりもはるかに低く、肝臓で大量に再生(再増殖)できることを証明する実験がない。さらに、一部の不死化細胞が、体内で腫瘍形成のリスクもある。
【0004】
当業者はまた、少量のヒト肝細胞の増殖を促進するために小分子化合物と組み合わせた共培養の技術を採用して、このような培養技術の利点は、肝細胞機能の維持にあるが、増殖の倍数は小さいことと、増殖したヒト肝細胞が肝臓に統合する能力を持っていることを証明する移植実験もないことは、細胞移植療法における当該技術の適用を制限しています。
【0005】
当業者はまた、ヒト肝胆管由来の前駆細胞を培養するためにオルガノイド法を採用しているが、このような培養で得られた持続可能的に増殖する肝オルガノイドの肝機能は、誘導後でも、ヒト初代肝細胞の肝機能よりはるかに劣っており、インビボで移植統合の効率は非常に低い。
【0006】
当業者はまた、マウス肝細胞の肝前駆細胞へのインビトロ脱分化を行っており、このような培養技術の利点は、インビトロでの肝細胞の大規模な増殖することができ、かつ移植後に、肝臓を効率的に再生する能力が達成できる。しかしながら、この技術はインビトロでヒト肝細胞の増殖を促進することはできない。
つまり、研究者が、ヒト肝細胞培養と肝臓再生の新しいメカニズムに多くの進歩を遂げたが、現在、ヒト肝細胞を遺伝子編集なしに増殖させ続け、体内で効率的に再増殖の能力を持たせることは不可能だ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的としては、インビトロで肝細胞を増殖・培養する方法と応用を提供することである。
【0008】
本発明の第一の態様には、インビトロで肝細胞(初代肝細胞を含む)を増殖する方法を提供し、肝細胞を、Wntシグナル経路アクティベーターを含有する細胞培地で培養し、インビトロで増殖することを含む。
【0009】
一つの好ましい例では、上記の細胞培地は、さらに、以下から選べられる組分を含む:N-アセチル-システイン、ニコチンアミド、FGF10、EGF、HGF、[Leu15]-gastrin I、A 83-01、Y-27632の細胞培地。
もう一つの好ましい例では、上記のWntシグナル経路アクティベーターは、以下から選べられるアクティベーターを含む:Wnt3a タンパク質、Wnt3a馴化培地、CHIR、又はそれらの組み合わせ。
【0010】
もう一つの好ましい例では、上記の細胞培地には、さらに、以下から選べられる細胞成長添加剤を含む:N2添加物、B27添加物;又は、血清も含む。
もう一つの好ましい例では、上記の細胞培地には、以下から選べられる培地を基礎培地とする:DMEM、MEM、RPMI(例えばRPMI1640)、Neuronal basal又はFischers;好ましくに、上記のDMEMは、Advanced DMEM/F12、DMEM/F12から選べられる。
【0011】
もう一つの好ましい例では、上記の方法は、さらに以下の内容を含む:増殖された肝細胞を成熟肝細胞に誘導する;上記の細胞培地にフォルスコリン、デキサメタゾン、オンコスタチンMを添加する。
【0012】
もう一つの好ましい例では、細胞培地における上記の組分の濃度は:
[組1]
【0013】
もう一つの好ましい例では、上記のWnt3aタンパク質、Wnt3a馴化培地、CHIRからの一つを選べられてもよく、或いはそれらの組み合わせを選べられてもよい。
もう一つの好ましい例では、上記のN2添加物の使用量は、1Xである。
もう一つの好ましい例では、上記のB27添加物の使用量は、1Xである。
【0014】
もう一つの好ましい例では、上記の方法は、以下の内容も含む:増殖した肝細胞を継代培養する;好ましくに、低酸素状態で継代培養を行い、上記の低酸素とは、体積比で、0~15%の酸素含有量を指す;好ましくに、酸素含有量は、10%より低いであり、より好ましくに、酸素含有量は、6%より低いであり、例えば1%、2%、3%、4%である;好ましくに、上記の培養は、三次元の条件での培養である。
【0015】
もう一つの好ましい例では、上記の肝細胞は、ヒト肝細胞であり、ヒト初代肝細胞を含む。
【0016】
本発明のもう一つには、前記のいずれか一つの方法で得られた肝細胞培養物又は当該肝細胞培養物から単離・精製された肝細胞を提供する。
一つの好ましい例では、上記の肝細胞は、成熟肝細胞および肝前駆細胞との間にある中間状態細胞である。
【0017】
もう一つの好ましい例では、上記の肝細胞は、成熟肝細胞である;好ましくに、それが、成熟肝細胞に特有の典型的な多角形と二重の核を有し、その肝前駆体遺伝子(例えばSOX9、CK19或CK7)は、低いレベルに発現し、薬物と尿素の代謝に関与するキー遺伝子は、高いレベルに発現し、CYP2B6と尿素の代謝能力が増加する。
【0018】
本発明のもう一つには、上記の肝細胞培養物または単離・精製された肝細胞の用途を提供し、当該用途は:肝臓の再生を促進する薬物の調製における用途;肝臓疾患(肝臓の損傷、肝臓がん、肝硬変などを含む)を予防、緩和又は治療する薬物組成物又はキットの調製における用途;インビトロモデルとして、肝臓に関連する疾患又は薬物に対する研究における用途;生体内の細胞移植の組成物の調製における用途;或いはAlbuminタンパク質の産生における用途。
【0019】
一つの好ましい例では、上記の肝臓に関連する疾患又は薬物的研究は、薬物の送達、薬物の代謝、肝臓の形成、肝臓の再生に対する研究;或いは肝毒性試験、肝細胞毒性物質のスクリーニング、肝細胞機能を調節する物質のスクリーニングである。
本発明のもう一つには、薬物組成物を提供し、ただし、上記の肝細胞培養物又は単離・精製された肝細胞;及び薬学的に許容される担体を含む。
【0020】
本発明のもう一つには、キットを提供し、ただし、上記の肝細胞培養物又は単離・精製された肝細胞を含む;或いは上記の薬物組成物を含む。
【0021】
本発明のもう一つには、インビトロで肝細胞を増殖するための培地を提供し、Wntシグナル経路アクティベーター、N-アセチル-システイン、ニコチンアミド、FGF10、EGF、HGF、[Leu15]-ガストリン I、A 83-01、Y-27632の細胞培地を含む;ただし、上記のWntシグナル経路アクティベーターは、Wnt3aタンパク質、Wnt3a馴化培地、CHIR、又はそれらの組み合わせから選べられる。
【0022】
一つの好ましい例では、上記の培地は、さらに以下の組分を含む:N2添加物、B27添加物、血清。
【0023】
本発明のもう一つには、インビトロで肝細胞を増殖すると肝細胞の成熟を誘導するための培地を提供し、上記のインビトロで肝細胞を増殖する培地、及びフォルスコリン、デキサメタゾン、オンコスタチンMを含む。
【0024】
一つの好ましい例では、上記のWntシグナル経路アクティベーター、N-アセチル-システイン、ニコチンアミド、FGF10、EGF、HGF、[Leu15]-ガストリン I、A 83-01、Y-27632の細胞培地。
【0025】
もう一つの好ましい例では、上記のWntシグナル経路アクティベーターは、Wnt3aタンパク質、Wnt3a馴化培地、CHIR、又はそれらの組み合わせから選べられる。
【0026】
もう一つの好ましい例では、上記の培地には、さらにN2添加物、B27添加物、血清、フォルスコリン、デキサメタゾン、オンコスタチンMを含む。
【0027】
もう一つの好ましい例では、各組分は、有効量のものである。
【0028】
もう一つの好ましい例では、上記の細胞培地には、上記の組分は、基礎培地に存在し、上記の基礎培地は、DMEM、MEM、RPMI(如RPMI1640)、Neuronal basal又はFischersから選べられる;好ましくに、上記のDMEMは、Advanced DMEM/F12、DMEM/F12から選べられる。
【0029】
本発明のもう一つには、前記のいずれか一つの培地の用途を提供し、インビトロで肝細胞を増殖すると肝細胞の成熟に誘導することにおける用途である。
本発明のもう一つには、インビトロで肝細胞を増殖すると肝細胞の成熟を誘導するためのキットを提供し、ただし、前記のいずれか一つの培地を含む。
本文に開示された内容に基づき、当業者にとって、本発明の他の面は自明なものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】HM培地と低酸素の組み合わせでの培養が、インビトロで、長期間にわたってヒト肝細胞の増殖を促進できる。 A、HM培地に、インビトロでヒト肝細胞を5日培養の定期的な写真記録。スケールバー、200um。 B、HM培地に、インビトロでヒト肝細胞を5日培養し、IncuCyte FLRで定期的な細胞融合分析を行った。 C、インビトロでヒト肝細胞を培養する3日目に、Brdu及びKi67細胞免疫蛍光染色で、細胞の増殖を分析した。マウス肝細胞培地YACを、陰性コントロールとする。スケールバー、100um。 D、インビトロでヒト肝細胞を通常の酸素で培養する2世代目と5世代目である場合と、低酸素(1世代目から低酸素である)で培養する6世代目である場合に、SA-β-gal染色で細胞老化の状況を分析した。 E、低酸素(1世代目から低酸素である)と通常の酸素の状況で、インビトロで異なる代数の肝細胞を増殖する細胞の数を統計した。 F、低酸素(1世代目から低酸素である)の培養で、インビトロで異なるドナー(ドナーコード名:JFC、TVR、DVA、EYP、QIE、XJL、TLY)由来の肝細胞を増殖する細胞の数を統計した。
図2】HM培地の組分として、Wnt3aは、肝細胞の増殖を促進するために必要なものである。 A、Wnt3a馴化培地を含むHM培地、Wnt3a馴化培地を去除したHM培地、Wnt3a馴化培地の代わりにWnt3a精製タンパク質を使用して配置したHM培地と、Wnt3a馴化培地の代わりにCHIRを使用して配置したHM培地で、ヒト肝細胞を培養した6日後の細胞状態写真。 B、Wnt3a馴化培地を含むHM培地、Wnt3a馴化培地を去除したHM培地、Wnt3a馴化培地の代わりにWnt3a精製タンパク質を使用して配置したHM培地と、Wnt3a馴化培地の代わりにCHIRを使用して配置したHM培地で、ヒト肝細胞を培養した6日後の増殖倍数。
図3】増殖したヒト肝細胞が、一部の成熟肝細胞の機能を維持している。 A、異なる代数に増殖したヒト肝細胞(ProliHH)における肝細胞遺伝子発現。データは、初代ヒト肝細胞(PHH)の発現量を1とし、正規化された。P1~P4は、1世代目~4世代目を表す。 B、ProliHHに対して、ALBとAAT免疫蛍光共局在染色を行った。スケールバー、100um。 C、ProliHH、PHH、hiHepとhiPSC-Hepの全ゲノム遺伝子発現プロファイルに対して、主成分及びクラスター分析を行った。 D、遺伝子セット濃縮分析(GSEA)より、PHHに対してProliHHが濃縮している遺伝子経路を特定した。 E、ELISA法より、異なる世代のProliHHのヒトアルブミンの分泌量を分析した。 F、過ヨウ素酸シッフ染色とオイルレッド染色を使用して、4世代目ProliHHのグリコーゲン貯蔵能と脂肪滴蓄積能を特定した。
図4】増殖したヒト肝細胞は、成熟肝細胞と肝前駆細胞この両者の中間状態にある。 A、RNAシーケンス結果に基づき、ProliHH及びPHHにおける肝前駆細胞の特徴遺伝子の発現を分析した。 B、ProliHHに対して、ALB、CK19、CK7とSOX9免疫蛍光共局在染色を行った。スケールバー、100um。 C.ベン図で、PHHに対して、ProliHHとLPCの発現がアップレギュレートされている(アップレギュレーション倍数>=3)遺伝子の数と共通部分を分析した。 D、クラスターで、PHH、ProliHHとLPCにおけるLPCが濃縮している遺伝子の発現を分析した。 E、遺伝子セット濃縮分析(GSEA)より、LPC濃縮遺伝子セットIとIIにおける濃縮したシグナル経路を特定した。 F、ProliHH、PHH、hiHepとhiPSC-Hepの全ゲノム遺伝子発現プロファイルに対して、主成分及びクラスター分析を行った。
図5】インビトロで、増殖したヒト肝細胞は、成熟肝細胞に誘導することができる。 A、インビトロでProliHHの成熟誘導のフローチャート。ProliHHを、まずHMで増殖・培養し、そしてHIMと3D培養条件との組み合わせで、インビトロで、肝向け成熟を誘導した。 B、インビトロで成熟誘導されないProliHHと、インビトロで3D成熟誘導されたProliHHの肝臓オルガノイドの代表的な図。黒い矢印は二核細胞を示す。スケールバー、100um。 C、インビトロで肝向け成熟誘導10日後に、ProliHHの肝細胞遺伝子発現。データは、初代ヒト肝細胞(PHH)の発現量を1とし、正規化された。 D、インビトロで肝向け成熟誘導10日後に、ProliHHの肝前駆体細胞遺伝子発現。データは、HMで培養されたProliHHの発現量を1とし、正規化処理された。 E、インビトロで誘導成熟したProliHHのCYP2B6代謝活性に対して、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析によって、ヒドロキシブプロピオン(hydroxybupropion)代謝産物を検測した。PHHを、陽性コントロールにする。 F、インビトロで成熟誘導した後に、ProliHHの尿素代謝能を検測した。
図6】HIMが肝細胞の成熟を促進する要因の特定。増殖した肝細胞ProliHHを、3D培養条件において肝臓オルガノイドを形成し、それぞれに、HMとHIMで培養した。定量PCRで肝細胞のキー代謝遺伝子CYP3A4及び肝前体遺伝子SOX9、EPCAM、CD133、CK19、CK7の発現を検測した。
図7】インビトロで、増殖したヒト肝細胞は、成熟肝細胞に誘導することができる。 A、移植されない細胞と移植したProliHHとPHHのFRGマウスのKaplan-Meier生存曲線。 B、ProliHH(n=4)とPHH(n=6)を移植したFRGマウスの体重変化曲線。 C、細胞を移植せずに死にかけている(n=3)、ProliHH(n=3)及びPHH(n=4)を移植して生き残るFRGマウス血清におけるALT、ASTとTBILレベル。 D、ELISAで、ProliHH(n=4)及びPHH(n=5)を移植したFRG血清におけるヒトアルブミン分泌量の動的変化を検測した。 E、ProliHH(n=4)及びPHH(n=5)を移植して4ヶ月生き残るマウス血清におけるヒトアルブミンの分泌量。 F、ProliHH及びPHHを移植して4ヶ月生き残るマウスの肝臓Fah免疫組織化学染色。 G、Fah免疫組織化学染色で、ProliHH及びPHHの、FRG肝臓における再増殖効率を定量的に分析した。
図8】増殖したヒト肝細胞を体内に移植し、肝機能が完全に成熟した。 A、体内で再増殖したProliHHに対して、Fah、ALB、HNF4a、CK19とCK7免疫蛍光共局在染色を行った。 B、Fah、CYP3A4とGS免疫蛍光共局在染色で、肝臓代謝遺伝子の局所的な発現を分析した。 C、成熟の肝細胞機能遺伝子、例えばI、IIフェーズ代謝酵素と、トランスポーターが、インビトロのPHH、ProliHHと、体内で再増殖したPHH、ProliHHにおける発現を比較した。 D、インビトロのPHH、ProliHHと、体内で再増殖したPHH、ProliHHとの全ゲノム発現プロファイルの類似性分析。 E、ProliHHを移植したFRGマウスに対して、ヒト特異性CYP2D6の薬物代謝能を分析した。コントロールとするFRGマウス(n=3)と、ProliHH(n=3)を移植したFRGマウスに対して、2mg/kg DEB注射の0-2時間後に、血清におけるDEBと4-OH DEB濃度を検測した。
図9】増殖されたヒト肝細胞には、体内で腫瘍形成リスクがない。2x10のProliHH(n=8)と肝臓がん細胞株Snu-398(n=6)を、重症免疫不全症のNOD-SCIDマウスの皮下鼠径部に注射し、2ヶ月後に腫瘍形成を観察した。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明者らは、再生におけるヒト肝細胞の可塑性に基づいて、ヒト肝細胞を成熟肝細胞と肝前駆細胞との間の増殖性中間状態細胞に再プログラミングするための培養システムを確立し、そして、動物におけるその肝臓再生能を検証し、遂に、肝臓再生能を持つヒト肝細胞の欠如の問題を解決した。本発明の方法は、外来遺伝子を肝細胞に導入する必要がなく、従来の培養で肝細胞の増殖を実現でき、得られた肝細胞を継代することができる上に、それはまた、機能的なヒト肝成熟細胞を得るために成熟・培養し続けることができる。さらに、この方法は、簡単な培養条件、低コスト、安全性および安定性を備える。
【0032】
本発明に使用されるように、用語「含む」または「有する」は、「含む」、「主に~構成する」、「基本的に~からなる」および「からなる」を含む。
特に明記しない限り、本発明に培養されるものは、肝細胞、特に初代肝細胞、より特にヒト肝細胞、ヒト初代肝細胞である。
【0033】
培養方法
本発明は、インビトロで肝細胞を増殖する方法を開示する:肝細胞を、本発明の「肝細胞培地(インビトロ増殖培地)」に培養し、多量の成熟肝細胞と肝前駆細胞の間にある中間状態細胞を得る。本発明の一部の実施形態において、それが、肝前駆細胞に関連するマーカーとするタンパク質SOX9、CK19とCK7を発現することは見られ、そのALB、HNF4A、TTR又はCYP3A4発現レベルは、初代肝細胞より低く、そのCYP1A2、CAR、C3又はUGT1A1発現レベルは、初代肝細胞に近い或いはこれより高い。これらの細胞を、さらに肝成熟細胞に誘導することができる。
【0034】
上記のインビトロで肝細胞を増殖する方法が、肝細胞を、Wntシグナル経路アクティベーターを含有する細胞培地で培養し、インビトロで増殖することを含む。上記のWntシグナル経路アクティベーターは、以下から選べられるアクティベーターを含む:Wnt3a タンパク質、Wnt3a馴化培地、CHIR、又はそれらの組み合わせ。上記のWntシグナル経路アクティベーターは、本発明の方法における肝心な要因である。本発明者の実験結果によって、培地にWntシグナル経路アクティベーターを含まないと、優れた増殖を得られない。
【0035】
本発明の好ましい方式として、上記の細胞培地は、さらに、以下から選べられる組分を含む:N-アセチル-システイン、ニコチンアミド、FGF10、EGF、HGF、[Leu15]-gastrin I、A 83-01、Y-27632の細胞培地、N2添加物、B27添加物、血清。最も好ましい方式において、上記の細胞培地は、すべての上記の組分を含む。
【0036】
本発明の好ましい方式として、上記の方法は、さらに以下の内容を含む:増殖された肝細胞を成熟肝細胞に誘導し、本発明の「肝細胞誘導培地(肝向け成熟培地)」で培養することを含む;上記のインビトロ増殖培地と比較して、上記の肝向け成熟培地にForskolin、デキサメタゾン、オンコスタチンMを添加する。本発明の一部の実施形態において、上記の肝細胞が、成熟肝細胞に特有の典型的な多角形と二重の核を有し、その肝前駆体遺伝子(例えばSOX9、CK19或CK7)は、低いレベルに発現し、薬物と尿素の代謝に関与するキー遺伝子は、高いレベルに発現し、CYP2B6と尿素の代謝能力が増加することは見られる。
【0037】
本発明者らは、研究において、低酸素処理が、本発明で培養された肝細胞の継代回数を増加させるのに有益であることを予期せず発見した。したがって、本発明の好ましい方式において、低酸素状態で継代培養を行い、上記の低酸素とは、体積比で、0~15%の酸素含有量を指す;好ましくに、酸素含有量は、10%未満であり、より好ましくに、酸素含有量は、6%未満である。
【0038】
本発明の培養方法及び培地を採用する際に、二次元又は三次元培養システムで培養しても良い。本発明の好ましい方式として、上記の培養は、三次元での培養である。
【0039】
本発明の方法で得られた成熟肝細胞は、凍結され、蘇生され、継代され、そして培養において長期間維持され得る。さらに、本発明において、出発株として使用される肝細胞(初代肝細胞)は、確立された初代肝細胞であり得るか、または生物から単離され得ることも理解されるべきである。
【0040】
培地
本発明者が、インビトロで肝細胞を増殖する培地を提供する。上記の培地は、「インビトロ増殖培地」と「肝向け成熟培地」を含む。
【0041】
上記のインビトロ増殖培地は、Wntシグナル経路アクティベーターを含む上に、さらに以下から選べられる組分も含む:N-アセチル-システイン、ニコチンアミド、FGF10、EGF、HGF、[Leu15]-ガストリン I、A 83-01、Y-27632、N2添加物、B27添加物、血清。これにより、肝細胞が十分に増殖する。
【0042】
上記の肝向け成熟培地は、上記のインビトロ増殖培地を基礎とする上に、フォルスコリン、デキサメタゾン、オンコスタチンMを添加してなるものである。
【0043】
本発明の実施例に挙げられた具体的なWntシグナル経路アクティベーターを除き、他の活性化できるWntシグナル経路のアクティベーターも同じ技術効果を達成できるので、本発明に含まれることを理解されるべきである。好ましくは、上記のWntシグナル経路アクティベーターは、以下から選べられるアクティベーターを含む:Wnt3a タンパク質、Wnt3a馴化培地、CHIR、又はそれらの組み合わせである。
【0044】
同様に、上記に具体的に挙げられた組分の類似体、同種機能性タンパク質(例えば、成長因子の同種機能性タンパク質)または化合物、同じ標的を誘導する同等化合物、類似体、誘導体、および/またはそれらの塩、水和物または前駆体は、上記の組分を置き換えることに用いられ、同じ技術的効果を達成することもできる。これらの類似体、同種機能性タンパク質または化合物も、本発明に含まれる。化合物の類似物は、化合物の異性体、ラセミートを含むが、それらに限定されない。化合物は、一つと以上の非対称センターを有する。したがって、これらの化合物は、ラセミート混合物、単独のエナンチオマー、単独のジアステレオマー、ジアステレオマー混合物、シスまたはトランス異性体として存在してもよい。上記の「塩」は、(1)塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などのような無機酸と形成した塩;(2)酢酸、蓚酸、コハク酸、酒石酸、メタンスルホン酸、マレイン酸、アルギニンなどのような有機酸と形成した塩を含むが、これらに限定されない。他の塩は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属(例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、又はマグネシウム)と形成した塩などを含む。「化合物の前駆体」とは、適切な方法によって投与または処理されたあとに、当該化合物の前駆体が、培地において、上記のいずれ一つの化合物に転換できる化合物の一つであり、又は上記の化合物のいずれ一つの化合物が組成する塩又は溶液を指す。
【0045】
本発明の好ましい方式として、上記の培地には、細胞培養の細菌汚染、特にグラム陽性菌と陰性菌の汚染を予防するために使用される組分も添加される。好ましくに、ペニシリン(例えば1%;ただし、百分含有量は、プラスマイナス50%の差を有しても良い;好ましくに、プラスマイナス30%の差を有しても良い;より好ましくに、プラスマイナス20%、例えば10%、5%の差を有しても良い)を添加する。
【0046】
上記の基礎細胞培地は、DMEM/F12、MEM、DMEM、RPMI1640、Neuronal basal又はFischersなどであっても良くが、これらに限定されない。理解すべきことは、当業者は、上記の基礎細胞培地の調製又は購入方式を熟知するから、基礎細胞培地は、本発明に挙げられたものに限定されない。
【0047】
本発明は、さらに、キットを提供し、その中に、本発明に記載された「インビトロ増殖培地」又は「肝向け成熟培地」を含む。好ましくに、上記のキットには、ユーザーマニュアルを含み、そして、当業者は研究または臨床で使用するのに便利である。
【0048】
培養された肝細胞及び組成物
本発明の新しい発見によって、本発明に記載された方法で得られる肝細胞培養物、又は当該肝細胞培養物から単離・精製された肝細胞(成熟肝細胞と肝前駆細胞の間にある中間状態細胞を含む)、或さらに誘導してなる成熟肝細胞を提供する。
【0049】
細胞培養物から細胞を濃縮又は単離・精製する方法は、当業者に熟知され、例えば、肝細胞の類上皮形態に基づき濃縮しても良い;或いは、肝細胞において発現された特別なタンパク質(例えばAlbuminなど)又は分子マーカーに基づき、選択、収集しても良い(例えば、特異性抗体又は配体を使用する)。なお、非上皮形態の他の細胞を除去(例えば、消化、溶解)することで肝細胞を濃縮するでも可能な方法である。代替の実施形態として、フローサイトメトリーを使用して、肝細胞の表面上の分子マーカーを介して細胞を単離・精製することができる。
【0050】
本発明で培養された肝細胞は多くの用途を有する。例えば:肝臓の再生を促進する組成物(薬物組成物)の調製における用途;肝臓の損傷(末期肝疾患、肝硬変、アルコール性肝、糖尿病、肥満、急性肝不全、肝炎、肝線維症、肝がん、肝代謝性疾患または肝不全による肝障害を含むが、これらに限定されない)を治療する組成物(薬物組成物)の調製における用途;インビトロモデルとして、肝臓に関連する疾患又は薬物に対する研究(例えば薬物の送達、薬物の代謝、肝臓の形成、肝臓の再生に対する研究、或いは肝毒性試験、肝細胞毒性物質のスクリーニング、肝細胞機能を調節する物質のスクリーニング)における用途;或いはAlbuminタンパク質の産生における用途、を含むが、これらに限定されない。
【0051】
本発明で培養された肝細胞は、肝毒物学研究に使用することができ、肝疾患を治療するための細胞移植、バイオ人工肝構築、新薬肝毒性検出、薬効評価、薬標的同定にも使用することができる;生物学、医学および薬局の基礎研究および臨床応用に、十分な肝細胞源または肝細胞モデルを提供することができる;その誘導・分化プロセスはまた、ヒト肝細胞の発育・分化プロセスのための最良の研究プラットフォームを提供することができ、その応用の見通しは非常に広い。
【0052】
必要があれば、本発明で培養された肝細胞は、さらに遺伝子工学組換えに応用し、組換え細胞を形成してもよく、例えば、細胞にさらなる機能や特徴を与えるために、外来遺伝子発現カセットを細胞に導入しても良く、或いは、細胞のゲノムに対して遺伝子ノックアウトや遺伝子編集を行っても良い。
【0053】
本発明は、さらに組成物(薬物)を提供し、上記の組成物は、有効量の上記の肝細胞(例えば1×10-1×1012個;好ましくに1×10-1×1010個);及び薬学的に許容される担体を含有する。それが、有効量の上記の肝細胞及び薬学的に許容される担体を含有する。上記の組成物は、動物に対する目に見える毒性および副作用を有さない。
【0054】
上記の「有効量」とは、人及び/又は動物に、機能できる又は活性を有する、かつ人及び/又は動物に許容される量である。上記の「薬学的に許容される担体」とは、治療剤の投薬に用いられる担体を指し、各種な賦形剤と希釈剤を含む。当該用語が、それ自体が必須の有効成分ではないが、投与後に過度に毒性がないいくつかの医薬品担体を指す。適当な担体は、当業者に熟知される。組成物には、薬学的に許容される担体が、液体、例えば水、塩水、バッファを含んでも良い。さらに、これらの担体はまた、補助物質、例えば充填剤、潤滑剤、流動促進剤、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質などを含んでも良い。上記の担体には、さらに細胞トランスフェクション剤を含んでも良い。
【0055】
本発明は、さらに肝臓の再生を促進する方法を提供し、上記の方法は、治療が必要な対象に、有効量の本発明で培養された肝細胞を投与することを含む。
上記の組成物を投薬に使用される場合、通常に、1×10-1×1010個細胞/kg体重、好ましくは1×10-1×10個細胞/kg体重は適切であり、臨床医の診断および患者の症状の重症度に依存する。
【0056】
本発明は、さらにキットを提供し、その中に、本発明で培養された肝細胞を含有し、或いは当該肝細胞の組成物を含有する。好ましくは、上記のキットには、ユーザーマニュアルを含み、そして、当業者は研究または臨床で使用するのに便利である。
【0057】
以下、具体的な実施例を参照して、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の単なる例示であることが理解されるべく。以下の実施例における特定の条件を特定しない実験方法は、通常に、J.Sambrookら、Guide to Molecular Cloning、Third Edition、Science Press、2002に記載された通常条件に従って実施され、或いはメーカーが推奨する条件に従って実施される。
【0058】
材料と方法
1、実験材料
1.1 肝細胞培地
肝細胞培地(インビトロ増殖培地、HM)の配合及び来源は、表1に示された。ただし、各配合の作業濃度は、培地中の最終濃度である。
【表1】
*当該組分は、30% Wnt3a馴化培地又は0.1uM CHIRに代わられても良い。ただし、Wnt3a馴化培地は、2日間の培養後のL-Wnt3a細胞株(HubrechtInstituteのHansClevers研究室から入手)によって生成された細胞上清から採取された。
【0059】
1.2肝細胞誘導培地
肝細胞誘導培地(肝向け成熟培地、HIM)の配合及び来源は、表2に示された。ただし、各配合の作業濃度は、培地中の最終濃度である。
【表2】

*当該組分は、30% Wnt3a馴化培地又は0.1uM CHIR(CHIR99021)に代わられても良い。ただし、Wnt3a馴化培地は、2日間の培養後のL-Wnt3a細胞株(HansClevers研究室から入手)によって生成された細胞上清から採取された。
【0060】
1.3 コントロール培地:培地YAC
[組2]
【0061】
1.4 細胞
異なるロット番号のヒト肝細胞は、米国のCelsis In Vitro Technologies(Blatimore、MD)から購入した。L-Wnt3a細胞株は、Hans Clevers研究室から入手した。Snu-398細胞株は、米国のATCCセルバンクから購入した。
【0062】
1.5動物
Fah-/- Rag2-/-IL2rg-/-(FRG)マウス:フマリルアセトアセターゼ(FAH)ノックアウトマウス(略語:Fah-/-マウス)は、1993年に確立された。Fah-/-マウスは、完全なチロシン代謝をできないので、肝臓にスクシニルを蓄積し、肝臓実質細胞の死をもたらす。NTBCを添加した飲料水で飼育されたFah-/-マウスは、野生型マウスと表現型に明らかな違いはなく、正常な肝機能を有し、正常に発育および繁殖できるが、NTBCの給餌を停止してから4~6週間以内に肝不全で死亡する。Fah-/-マウスは広範囲かつ継続的な肝障害があり、その肝臓微小環境は移植細胞の増殖に特に適し、野生型肝細胞(正常なFAH遺伝子発現を有する)は、脾臓移植を経った後にFah-/-マウスの脾臓をほぼ完全(90%以上)に再構築でき、アクセプターとするマウスは正常な肝機能に戻った。Fah-/-マウスとRag2-/-IL2rg-/-免疫不全マウスとを交配した後、3つの遺伝子ノックアウトを有するFah-/-Rag2-/-IL2rg-/-マウス(FRGマウス)が得られた。FRGマウスは、成熟したT、B細胞、およびNK細胞を欠いて、ヒト肝細胞の移植後、ヒト肝細胞を高度(>90%)に再増殖することができる。
【0063】
2.実験方法
2.1ヒト肝細胞培養
冷凍ヒト肝細胞は、米国のCelsis In Vitro Technologies(Blatimore、MD)から購入した。凍結したヒト肝細胞を10%血清を含むDMEM培地で蘇生し、2×10細胞/cmの密度でI型コラーゲンでコーティングされた培養プレートに植え、培養プレートを37℃、5%CO、5%Oのインキュベーターで培養し、1日培養後に肝細胞培養培地に交換し、3日ごとに細胞培養培地を交換した。細胞培養の6日後、生い茂った細胞をトリプシン処理し、I型コラーゲンでコーティングされた培養プレート上に3×10細胞/cmの密度で再び植え、培養プレートを37℃、5%CO、5%Oのインキュベーターで培養した。
【0064】
2.2増殖肝細胞の肝向け誘導実験
増殖されたヒト肝細胞を培養し、いっぱいになった後、細胞をトリプシン処理し、細胞を肝細胞培養培地に再懸濁し、5×10細胞/ウェルの密度で日本のElplasia会社の非付着24ウェルプレートに植え、1日後、細胞培養培地を肝細胞の肝向け誘導培地に交換し、細胞はゆっくりと凝集して細胞球になった。培地を2日ごとに交換し、細胞誘導の10日後に誘導された細胞を収集した。
【0065】
2.3細胞培養、写真を撮る
凍結したヒト肝細胞を10%血清を含むDMEM培地で蘇生し、2×10細胞/cmの密度でI型コラーゲンをコーティングした6ウェルプレートに植えった。細胞が壁に付着した後、培地を肝細胞培養に変更し、細胞プレートをincuCyte FLR装置の37℃、5%COインキュベーターで培養し、細胞を3日間連続して培養し、同じ視野の細胞を30分ごとに写真を撮った。細胞培養・増殖のビデオはソフトウェアによって生成される。
【0066】
2.4 遺伝子発現の検測
1)Trizol(Invitrogen)またはRNeasy FFPE Kit(Qiagen)試薬を使用して、細胞RNAを抽出した。
2)Trizolで抽出されたRNAから1 ugを取って、RNeasyFFPEキットで抽出されたRNAから、1ugの特定の値またはすべてを取って、M-MLV逆転写酵素(Promega)キットでcDNAを得た。
3)リアルタイム定量PCRにはSYBR Premix Ex Taq(TaKaRa)キットを使用し、遺伝子発現の検出にはABI StepOnePlusリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を使用した。すべてのQ-PCRデータには少なくとも2回の繰り返しがあり、プライマー配列は表3に示された。
【表3】
【0067】
2.5ヒトアルブミンELISA検測
検出にはALBELISAキット(Bethyl Laboratories)を使用した。
【0068】
2.6 尿素検測実験
培養された細胞の尿素分泌能を検出するために、細胞の24時間の細胞培養上清を採取し、Abnova会社製の尿素検出キットを用いて、実験操作過程に従って実験を行った。
【0069】
2.7 PAS染色とオイルレッド染色
細胞のPAS(Periodic Acid-Schiff stain、過ヨウ素酸シッフ染色)染色は、Sigma会社の実験キットに従って使用された。細胞をオイルレッド染色し、細胞から細胞培養液を吸引し、PBSで洗浄した。4%パラホルムアルデヒドを加え、細胞を30分間固定し、パラホルムアルデヒドを除去し、PBSで3回洗浄した。オイルレッドO(Sigma-Aldrich)で10分間染色し、70%エタノール溶液で2回洗浄し、顕微鏡で観察して写真を撮った。
【0070】
2.8 老化に関連するβ-ガラクトシダーゼ染色
細胞老化に関連するβ-ガラクトシダーゼ染色し、細胞プレート内の細胞から細胞培養培地を除去し、PBSで洗浄した。4%パラホルムアルデヒドを加え、細胞を5分間固定し、パラホルムアルデヒドを除去し、PBSで3回洗浄した。β-ガラクトシダーゼ染色キット(Beyotime)の指示に従い、顕微鏡で観察して写真を撮った。
【0071】
2.9 CYP2B6 代謝実験
増殖されたヒト肝細胞のCYP2B6代謝能を検出するために、10日間の肝向け誘導後、細胞と新たに蘇生されたヒト肝細胞を、それぞれに100μmのブプロピオンを含む培地にインキュベートし、インキュベーションの異なる時点での培養上清を採取した。細胞上清をRuideLiver Company会社に送って、質量分析を使用してCYP2B6代謝物の生成を検出した。産物は、市販の標準を使用して標準曲線を描いた。
【0072】
2.10 RNAシーケンスプロセス
実験手順に従って、細胞RNAをTrizol(Invitrogen)試薬で抽出した。Illumina Traseq RNAサンプル前処理キットを使用して、1マイクログラムの総RNAからシーケンスライブラリーを調製した。Illumina HISEQ2000シーケンサーで、シングルエンドリード長100bpで実行した。Tophatを使用して、読み取り数をヒトリファレンスゲノム(HG19)にマッピングした。Cufflinksを使用して、デフォルトのパラメーターを使用し、UCSC遺伝子のFPKMを計算した(100万分の1のフラグメントの100万分の1のエクソンフラグメントのマッピング)。FPKMは、下流の遺伝子分析のためにLog2に変換された。遺伝子発現については、一元配置分散分析を実行し、差異発現遺伝子(DEGS)を特定した。各分析では、P値と変化の倍数を計算する必要がある。Partek Genomics Suite 6.6に基づく選択されたプローブセットの平均リンケージクラスターのユークリッド距離を使用して、分類または遺伝子全体の無差別クラスタリングとヒートマップ生成を行った。
【0073】
2.11シグナル経路の濃縮分析
遺伝子セット濃縮分析(GSEA)は、DEG経路の濃縮に使用された。DEGsリストには、オンラインMSIGDBツールが使用された(http://Studio.Org/gSe/MSigDb/ index.jsp)。GSEA V2デスクトップソフトウェアは、RNASEQの結果から大幅に濃縮された経路を特定することに使用された。
【0074】
2.12 細胞移植Fah-/-Rag2-/-IL2rg-/-マウス
1)細胞移植の6日前に、飲料水中のNTBCの濃度を除去することにより、マウスの肝障害が引き起こされた。
2)マウスの脾臓側を上に向けて、肋骨の1~2cm下の表皮と筋層を切り取った。脾臓に付着している褐色脂肪を見つけ、それを引き出して脾臓を引き出した。脾臓の前端を糸で軽く結紮した。
3)5×10のproliHHまたはヒト初代肝細胞(約100ul)をインスリン針で採取し、結紮位置を超えて脾臓に針を挿入した。注入が完了したら、30~60秒間一時停止し、針を抜いて糸をしっかりと結び、液体が逆流しないようにした。
4)脾臓を腹腔に入れ、筋肉と表皮を縫合し、傷口をアルコール綿で消毒し、ケージに入れた。移植後、体重と死亡状態を毎週記録した。移植細胞がなく、体重が30%減少したマウスを陰性コントロールとして使用した。
5)12週間生存したマウスを処理し、その後の分析のために肝臓と血液のサンプルを収集した。
【0075】
2.13 皮下腫瘍形成実験
1)ProliHHと肝癌細胞株Snu398を消化し、2×10個の細胞を採取し、免疫不全NOD-SCIDマウスの鼠径部に直接注入した。
2)2か月後、マウスの腫瘍形成を観察し、記録のために写真を撮った。
【0076】
2.14統計分析
全文統計分析にはGraphPadPrism5ソフトウェアを使用した。両側ログランク検定を使用して、初代肝細胞移植後のラットの生存曲線を計算した。サンプルの血清学的データ統計は、対応のないスチューデントのT検定を採用した。図に示されているデータは、平均±標準誤差である。* P <0.05を示すものは、著しい違いである。
【実施例1】
【0077】
HM培地と低酸素の組み合わせでの培養が、インビトロで、長期間にわたってヒト肝細胞の増殖を促進できる
【0078】
培地配合のスクリーニング及び最適化より、本発明者が、ヒト肝細胞のインビトロ増殖を促進できる培地を得、HM培地と名付けられた。ヒト肝細胞を1×10細胞/ウェルで、6ウェルプレートにプレーティングし、HM培地を添加して培養した。 生細胞ワークステーションでのリアルタイム観察をすると、ヒト肝細胞が2日目に細胞形態で上皮細胞から間葉への形質転換を経て、2日目から3日目まで細胞が大量に増殖することを示している(図1AおよびB)。3日目に、ki67染色で、細胞の80%が増殖状態にあることを示し、さらに3時間のBrduインキュベーションで、肝細胞の20%が細胞複製を持っていることを示した(図1C)。マウス肝細胞の増殖を誘導できる以前に報告された培地YACでは、ヒト肝細胞が増殖および複製することはめったにない(図1C)。
【0079】
増殖されたヒト肝細胞を、継続的に継代すると、通常の酸素(20%)培養条件下で、肝細胞は5回目の継代で増殖を停止し、細胞の72%がSA-β-galに陽性であり、これは、細胞老化によりヒト肝細胞の増殖が停止することを示している(図1DおよびE)。本発明者らは、肝細胞を低酸素状態(5%(v/v))に置くことにより、肝細胞の老化が著しく阻害され、継代回数が延長されることを予期せず発見した(図1DおよびE)。さらに、7つの異なるドナー肝細胞を低酸素と組み合わせたHM培地に継続的に増殖させることができ、この培養法の普遍性がさらに確認された(図1F)。
【0080】
上記の結果は、HM培地がインビトロでヒト肝細胞の継続的な増殖を促進でき、さらに低酸素治療と組み合わせると、インビトロでこの継続的な増殖を促進することができることを証明している。
【実施例2】
【0081】
HM培地の組分として、Wnt3aは、肝細胞の増殖を促進するために必要なものである
【0082】
HM培地には、さまざまな成長因子と小分子化合物が含まれ、本発明者らは、Wnt3a馴化培地を除去すると、ヒト肝細胞を増殖できないことを発見した(図2AおよびB)。
【0083】
Wnt3a馴化培地の代わりに、50ng/mlのWnt3a精製タンパク質またはWntシグナル経路アクティベーターCHIR(0.1uM)を使用すると、ヒト肝細胞も増殖でき、細胞形態と増殖倍数は類似している(図2A)。
【0084】
上記の結果は、HM培地中のWntシグナル経路アクティベーターは、肝細胞の増殖に必要であるものを証明し、Wntシグナル経路アクティベーターはWnt3a馴化培地、Wntシグナル経路の活性化タンパク質または小分子であっても良いと証明している。
【実施例3】
【0085】
増殖したヒト肝細胞が、一部の成熟肝細胞の機能を維持している
【0086】
HM培地で培養されたヒト肝細胞は、成熟肝細胞遺伝子の発現を維持しており、その発現レベルは、初代ヒト肝細胞(PHH;新たに蘇生した未培養のヒト初代肝細胞)とは異なり、例えば、ALB、HNF4A、TTRとCYP3A4の発現レベルはPHHよりも低かったが、CYP1A2、CAR、C3とUGT1A1の発現レベルはPHHに近いか、それよりも高かった(図3A)。免疫蛍光染色は、さらに、97%より多い増殖されたヒト肝細胞(ProliHH)が成熟肝細胞マーカータンパク質ALBとAATを発現していることを示した(図3B)。ProliHHの肝細胞遺伝子の維持レベルを分析するために、本発明者らは、トランスクリプトームレベルで、PHH、ProliHH、および、胚性幹細胞の分化と線維芽細胞の分化転換に由来する肝細胞様細胞(HLC;胚性幹細胞の分化および線維芽細胞の分化転換に由来する肝細胞)の間の差異を比較した。主成分分析とクラスター分析によって、ProliHHがPHHに近く、HLCから遠いことを示した(図3C)。これは、HLCと比較し、ProliHHが肝細胞遺伝子発現において成熟していることを示している。遺伝子セット濃縮分析(GSEA)によって、HLCと比較し、ProliHHが薬物、胆汁酸、脂肪酸、および尿素代謝シグナル伝達経路の遺伝子の発現に富んでいることを示した(図3D)。肝臓の遺伝子発現と一致し、ProliHHが、高レベルのALBタンパク質分泌、グリコーゲン蓄積、および脂肪滴合成を維持している(図3EおよびF)。
【0087】
上記の結果は、増殖されたヒト肝細胞が、一部の成熟肝細胞の機能を維持していることを証明した。
【実施例4】
【0088】
増殖したヒト肝細胞は、成熟肝細胞と肝前駆細胞この両者の中間状態にある
【0089】
HM培地で培養されたヒト肝細胞が、SOX9、EPCAM、CD44、CD133、CK19、CK7などの肝前駆細胞関連遺伝子の発現を得た(図4A)。免疫蛍光染色は、さらに、97%より多いProliHHが、肝前駆細胞関連遺伝子、例えば、SOX9、EPCAM、CD44、CD133、CK19とCK7を発現していることを示した(図4B)。ProliHHと肝前駆細胞(LPC;ヒト胚性幹細胞のインビトロ分化に由来する肝前駆細胞)との間の類似性を分析するために、本発明者らは、トランスクリプトームレベルで、PHH、ProliHHおよび胚性幹細胞分化に由来するLPCの間の差異を比較した。PHHと比較して、3482個の遺伝子がLPCで高度に発現した(図4C)。それらの中で、1652(47.4%)の遺伝子もProliHHでアップレギュレートされた(図4C)。これは、培養プロセス中に、全トランスクリプトームレベルで、ProliHHが多数の肝前駆細胞濃縮遺伝子の発現を得たことを示唆した。PHH、ProliHH、とLPCの差異遺伝子発現プロファイルの分析により、LPC濃縮遺伝子は3セットに分割できることがわかられた(図4D)。セット1と2の遺伝子にはPHH低発現で、LPC高発現であるが、培養過程で、ProliHHの発現を徐々に増加する。遺伝子セット濃縮分析は、セット1および2の遺伝子が主に幹細胞および細胞周期関連経路で濃縮されていることを示した(図4E)。セット3の遺伝子には、PHH低発現で、LPC高発現であるが、ProliHHは、DLK1、KIT、FOXJ1などの以前に報告された肝前駆体遺伝子のように、培養プロセスで有意にアップレギュレートされない(図4D)。しかし、全トランスクリプトームの分析から、ProliHH発現プロファイルはPHH発現プロファイルに近いが、LPCとは異なることがわかった(図4F)。これらの結果は、ProliHHが培養の過程で多数の肝前駆細胞関連遺伝子を取得したが、肝前駆細胞の完全な発現プロファイルが完全に確立されていないことを示している。
【0090】
したがって、ProliHHは、成熟肝細胞と肝前駆細胞の間の二重表現型(bi-phenotypic)の中間状態にある。
【実施例5】
【0091】
インビトロで、増殖したヒト肝細胞は、成熟肝細胞に誘導することができる
インビトロの増殖には、増殖されたヒト肝細胞は、一部の成熟肝臓遺伝子の発現をダウンレギュレートし、肝前駆体関連遺伝子の発現をアップレギュレートした。それがインビトロで成熟肝細胞に誘導され得るかどうかを試験するために、本発明者らは、ProliHHを三次元培養システムに置き、肝向け成熟培地(HIM)を添加し、10日間培養した(図5A)(通常の酸素)。成熟まで誘導した後、ProliHHは成熟肝細胞に特有の典型的な多角形と二重の核を有する(図5B)。細胞形態の変化に加えて、ALB、TTR、HNF4A、AATなどの肝細胞遺伝子も大幅にアップレギュレートされ、SOX9、CK19、CK7などの肝前駆体遺伝子は大幅にダウンレギュレートされた(図5C)。さらに重要なことは、薬物と尿素の代謝に関与する重要な遺伝子も、成熟まで誘導された後に有意にアップレギュレートされ、それに応じて、CYP2B6と尿素の代謝能も有意に増加した(図5D-F)。
【0092】
上記の結果は、増殖されたヒト肝細胞が、インビトロで肝向け誘導成熟システムにおいて、成熟肝細胞に誘導され得ることを示している。
【実施例6】
【0093】
代謝の成熟を促進し、前駆体遺伝子の発現を阻害する重要な要因
【0094】
増殖された肝細胞を、3D培養条件において、肝臓オルガノイドを形成し、それぞれに、HMとHIMで培養した。定量PCRで肝細胞のキー代謝遺伝子CYP3A4及び肝前体遺伝子SOX9、EPCAM、CD133、CK19、CK7の発現を検測した。
【0095】
肝向け成熟培地(HIM)は、フォルスコリン、DEXとOSMをHM培地に添加してなるものである。増殖された肝細胞を3Dボールで培養した後、HMおよびHIMで培養した。遺伝子発現分析により、図6に示すように、HIMで培養された肝オルガノイドにおけるCYP3A4は、HMで培養された肝オルガノイドよりも有意に高く、CD133、CK19などの肝前駆遺伝子のHIMで培養された肝オルガノイドにおける発現は、より低いことがわかりった。
【0096】
上記の結果は、肝向け成熟培地には、フォルスコリン、DEX、とOSMは、肝細胞の代謝成熟を促進し、前駆体遺伝子の発現を阻害する重要な要因であることを証明した。
【実施例7】
【0097】
増殖されたヒト肝細胞は、細胞の移植で肝臓疾患を治療することができる
【0098】
増殖されたヒト肝細胞は、細胞の移植で肝臓疾患を治療することができることを証明するために、本発明者らが、それをFah-/-Rag2-/-IL2rg-/-(FRG)マウスに移植した。FRGマウスは、ヒトI型高チロシン血症を模倣した免疫不全マウスモデルである。FRGマウスが生き残るためには、飲料水に2-(2-ニトロ-4-トリフルオロメチルベンジルアルコール)-1,3-シクロヘキサンジオン(NTBC)を加える必要がある。NTBCを除去すると、マウスは、4~6週間以内に肝不全で死亡するが、ヒト初代肝細胞はFRGの肝臓に効率的に再増殖し、FRGマウスを肝不全から救うことができる。したがって、FRGマウスは、体内でヒト肝細胞の機能を検証するための優れたモデルである。
【0099】
ProliHHを移植する方法:細胞移植の6日前に、飲料水中のNTBCの濃度を除去することにより、FRGマウスの肝障害が引き起こされた。5x10のヒト初代肝細胞PHHと増殖された肝細胞ProliHHを、脾臓を介してFRGマウスに移植した。
【0100】
細胞を移植されない6匹のFRGマウスの中、5匹は、NTBC水を除去してから7週間後に死亡したが、初代ヒト肝細胞を移植した7匹のマウスの中、5匹は生存でき、マウスの生存率が大幅に向上した(図7A)。さらに重要なことに、ProliHHを移植された14匹のマウスの中、11匹は4ヶ月以上生き残ることができる。ProliHHを移植されたマウスは、移植後最初の4週間で体重が減少したが、その後増加し、安定したまま(図7B)。これは、ProliHHの移植が、FRGマウスの損傷した肝臓の肝機能を回復できることを示している。血清学的検査により、肝機能の回復がさらに確認された。移植されなく、死亡したFRGマウスと比較して、ProliHHの移植後に、ALT、AST、TBILなどの肝機能指標は有意にダウンレギュレートされ、移植されたPHHマウスと同等のレベルに戻った(図7C)。マウス血清中のヒトアルブミンの分泌も、ProliHH移植後に徐々に増加し、移植後4か月で5.8±4.5mg/mlに達した(図7DとE)。当該ヒトアルブミン分泌レベルは、ヒト初代肝細胞を移植されたFRGマウスのレベル(7.3±6.1mg/ml)に達した(図7DおよびE)。4ヶ月生存したマウスの肝臓のFah免疫組織化学的染色は、肝臓におけるProliHHの組み込み比が64±21.8%に達したことを示した(図7FとG)。同時期のPHH移植の組み込み率は70.4±21.5%であり、体内でのProliHHの移植の組み込む能は、PHHと同等であることを示している(図7FとG)。
【0101】
上記の結果は、ProliHHがFRGマウスの肝臓を効率的に再増殖でき、肝障害の治療効果があることを示している。
【実施例8】
【0102】
増殖したヒト肝細胞を体内に移植し、肝機能が完全に成熟した
増殖されたヒト肝細胞ProliHHは、インビトロでの増殖中に、肝前駆体関連遺伝子の発現をアップレギュレートした。それが体内で成熟肝細胞に誘導され得るかどうかを試験するために、本発明者らは、FRGマウスの肝臓に組み込まれたProliHHを分析・同定した。免疫蛍光染色は、ProliHHが体内で成熟肝細胞マーカータンパク質ALB、FAH、HNF4AとCYP3A4を発現したが、肝前駆細胞関連遺伝子CK19およびCK7を発現しなかったことを示した(図8AとB)。qPCR検出にヒト特異的肝臓遺伝子プライマーを使用すると、体内で、フェーズIとフェーズII代謝酵素及びトランスポータータンパク質などの成熟肝細胞遺伝子のProliHHでの発現が、インビトロで培養されたProliHHよりも有意に高かったことが示された(図8C)。全トランスクリプトーム分析によって、体内でのProliHHが、PHHと非常に高い類似性を持っていることを示し(r=0.94)、これは、体内での肝細胞には、ProliHHの遺伝子発現がPHHの遺伝子発現に近いことを示している(図8D)。
【0103】
体内に移植されたProliHHが、成熟した肝細胞代謝機能を有することを証明するために、本発明者らは、移植されたマウスにおけるヒトCYP2D6の特定の薬物代謝を試験した。ヒトCYP2D6の代謝基質として、イソキノリン(DEB)はマウス肝細胞では代謝できなく、ヒト肝細胞のみで代謝され、4-ヒドロキシイソキノリン(4-OH-DEB)になる。DEB薬の胃内投与後に、ProliHHを移植されたFRGマウスでは、代謝産物とする4-OH-DEBが血清中で上昇していることが検出される(図8E)。コントロール群とする移植されないFRGマウスの4-OH-DEBは、常にバックグラウンドレベルだった(図8E)。これは、ProliHHが体内で完全に成熟しており、ヒト特有の薬物代謝能を持つことを示している。
【0104】
上記の結果は、増殖されたヒト肝細胞が、肝臓で多量に再増殖後に、成熟肝細胞に誘導され得ることを示している。
【実施例9】
【0105】
増殖されたヒト肝細胞には、体内で腫瘍形成リスクがない
【0106】
増殖されたヒト肝細胞は、インビトロで培養された後も継続的に増殖する能を持つ。増殖されたProliHHが、体内で腫瘍形成のリスクを有するかどうかを検出するために、本発明者らは、2x10ProliHHと肝癌細胞株Snu-398を重症免疫不全症のNOD-SCIDマウスの皮下に注射した。2か月後、Snu-398を注射した6匹のマウスはすべて腫瘍になったが、ProliHHを注射した8匹のマウスは、いずれも腫瘍を形成していない(図9)。
【0107】
上記の結果は、増殖されたヒト肝細胞が、体内で腫瘍形成のリスクがないことを示している。
【実施例10】
【0108】
HM2~3とHIM2~3によるインビトロでの増殖
【0109】
HM培地の効果を検証するために、本発明者らは、表4と表5に示すように、インビトロ増殖培地HM2~3と肝向け成熟培地HIM2~3を調製した。
【表4】

【表5】
【0110】
ヒト初代肝細胞を出発細胞とし、実施例1のHM培地をHM2に置き換えたことを除いて、実施例1と同じように、通常の酸素培養を行った。その結果、通常の酸素状態では、細胞形態には、ヒト肝細胞は、2日目に上皮細胞間葉移行を起こし、2日目から3日目に細胞が大量に増殖した;かつ、増殖されたヒト肝細胞は、成熟肝細胞と肝前駆細胞の中間状態にある。
【0111】
ヒト初代肝細胞を出発細胞とし、実施例1のHM培地をHM2に置き換えたことと、低酸素状態を7%に置き換えたことを除いて、実施例1と同じように、通常の酸素培養を行った。結果は、低酸素状態下で、ヒト肝細胞が大量に増殖し、増殖されたヒト肝細胞が、成熟肝細胞と肝前駆細胞の中間状態にあり、継代回数が6倍を超える可能性があることを示した。
【0112】
ProliHHを出発細胞とし、実施例5のHIM培地をHIM2に置き換えたことを除いて、実施例5と同じように、培養を行った。結果は、成熟まで誘導された後、ProliHHは、成熟肝細胞に特有の典型的な多角形と二核を持っていることを示した;ALB、TTR、HNF4AとAATなどの肝細胞遺伝子も大幅にアップレギュレートされたが、SOX9、CK19とCK7などの肝前駆遺伝子は大幅にダウンレギュレートされた。
【0113】
ProliHHを出発細胞とし、実施例5のHIM培地をHIM3に置き換えたことを除いて、実施例5と同じように、培養を行った。結果は、成熟まで誘導された後、ProliHHは、成熟肝細胞に特有の典型的な多角形と二核を持っていることを示した;ALB、TTR、HNF4AとAATなどの肝細胞遺伝子も大幅にアップレギュレートされたが、SOX9、CK19とCK7などの肝前駆遺伝子は大幅にダウンレギュレートされた。
【0114】
本出願に言及されている全ての参考文献は、参照として単独に引用されるように、本出願に引用されて、参照になる。理解すべきことは、本発明の上記の開示に基づき、当業者は、本発明を様々な変更または修正を行っても良い、これらの同等の形態も本出願に添付された請求の範囲に規定される範囲内に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
0007399955000001.app