(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】選択的レーザー焼結を使用して三次元物体を製造するための付加製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/153 20170101AFI20231211BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20231211BHJP
B29C 64/343 20170101ALI20231211BHJP
B29C 64/357 20170101ALI20231211BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231211BHJP
B33Y 40/10 20200101ALI20231211BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20231211BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20231211BHJP
【FI】
B29C64/153
B29C64/314
B29C64/343
B29C64/357
B33Y10/00
B33Y40/10
B33Y70/00
B33Y80/00
(21)【出願番号】P 2021524480
(86)(22)【出願日】2019-11-12
(86)【国際出願番号】 EP2019081082
(87)【国際公開番号】W WO2020099444
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-12
(32)【優先日】2018-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ルイス, シャンタル
(72)【発明者】
【氏名】ウォード, クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】スワンソン, クレイグ
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-039631(JP,A)
【文献】特開2012-251148(JP,A)
【文献】特開2010-189610(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108606860(CN,A)
【文献】特開2016-160436(JP,A)
【文献】特開2017-149947(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0217838(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元(3D)物体を製造するための方法であって、
a)誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定されたとき、30ppm
超のリン含有量を有する少なくとも1つのポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含む、少なくとも部分的にリサイクルされた粉末材料(M)の連続層を堆積させる工程と、
b)後続の層の堆積前に各層を選択的に焼結する工程と
を含
み、
PEKKは、PEKKを、リン酸二水素ナトリウム(NaH
2
PO
4
)、リン酸水素二ナトリウム(Na
2
HPO
4
)、リン酸二水素カリウム(KH
2
PO
4
)及びリン酸水素二カリウム(K
2
HPO
4
)又はこれらの混合物の少なくとも1つの溶液と接触させる工程を伴う合成方法によって得られる、方法。
【請求項2】
三次元(3D)物体を製造するための方法であって、
a)誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定されたとき、30ppm超のリン含有量を有する少なくとも1つのポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含む、少なくとも部分的にリサイクルされた粉末材料(M)の連続層を堆積させる工程と、
b)後続の層の堆積前に各層を選択的に焼結する工程と
を含み、
PEKKは、残留酸性度試験によって測定されたとき、≦9μeq/
gの残留酸性度を有する
、方法。
【請求項3】
三次元(3D)物体を製造するための方法であって、
a)誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定されたとき、30ppm超のリン含有量を有する少なくとも1つのポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含む、少なくとも部分的にリサイクルされた粉末材料(M)の連続層を堆積させる工程と、
b)後続の層の堆積前に各層を選択的に焼結する工程と
を含み、
PEKKは、残留塩基性度試験によって測定されたとき、≦20μeq/
gの残留塩基性度を有する
、方法。
【請求項4】
三次元(3D)物体を製造するための方法であって、
a)誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定されたとき、30ppm超のリン含有量を有する少なくとも1つのポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含む、少なくとも部分的にリサイクルされた粉末材料(M)の連続層を堆積させる工程と、
b)後続の層の堆積前に各層を選択的に焼結する工程と
を含み、
PEKKポリマーは、10℃/分の加熱速度を用いて窒素下で30℃から800℃まで加熱する、ASTM D3850に従った熱重量分析によって測定されたとき、少なくとも500
℃のTd(1%)を有する
、方法。
【請求項5】
三次元(3D)物体を製造するための方法であって、
a)誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定されたとき、30ppm超のリン含有量を有する少なくとも1つのポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含む、少なくとも部分的にリサイクルされた粉末材料(M)の連続層を堆積させる工程と、
b)後続の層の堆積前に各層を選択的に焼結する工程と
を含み、
PEKKは、50/50~70/30の範囲の繰り返し単位の比(R
P
)/(R
M
)を有する、方法。
【請求項6】
三次元(3D)物体を製造するための方法であって、
a)誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定されたとき、30ppm超のリン含有量を有する少なくとも1つのポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含む、少なくとも部分的にリサイクルされた粉末材料(M)の連続層を堆積させる工程と、
b)後続の層の堆積前に各層を選択的に焼結する工程と
を含み、
リサイクルされた粉末材料(M)は、≦90%のΔMFIを有し、ここで、
ΔMFI=100(MFI
t0
-MFI
t1
)/MFI
t0
(式中、
MFIは、340℃において8.4kgの重量でASTM D1238によって測定されるメルトフローインデックスであり、
MFI
t0
は、260℃の温度に744時間暴露される前のMFIであり、
MFI
t1
は、260℃の温度に744時間暴露された後のMFIである)
である、方法。
【請求項7】
三次元(3D)物体を製造するための方法であって、
a)誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定されたとき、30ppm超のリン含有量を有する少なくとも1つのポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含む、少なくとも部分的にリサイクルされた粉末材料(M)の連続層を堆積させる工程と、
b)後続の層の堆積前に各層を選択的に焼結する工程と
を含み、
PEKKポリマーは、
工程a/ルイス酸の非存在下又はモノマーの総重量に基づいて2重量%未満の量のルイス酸の存在下において、溶媒中で重縮合反応によってPEKKポリマーを調製する工程と、
工程b/粗いPEKK粉末を得るために塩及び溶媒を抽出する工程と、
工程c/摩砕する工程と、
工程d/粉末をPEKKポリマーのガラス転移温度(Tg)~PEKKポリマーの溶融温度(Tm)の範囲の温度(Ta)に暴露する工程であって、Tg及びTmの両方は、ASTM D3418による示差走査熱量測定(DSC)を使用して測定される、工程と
を含む調製方法によって得られたものである、方法。
【請求項8】
三次元(3D)物体を製造するための方法であって、
a)誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定されたとき、30ppm超のリン含有量を有する少なくとも1つのポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含む、少なくとも部分的にリサイクルされた粉末材料(M)の連続層を堆積させる工程と、
b)後続の層の堆積前に各層を選択的に焼結する工程と
を含み、
粉末材料(M)は、少なくとも0.30の嵩密度ρBを有する、方法。
【請求項9】
三次元(3D)物体を製造するための方法であって、
a)誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定されたとき、30ppm超のリン含有量を有する少なくとも1つのポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含む、少なくとも部分的にリサイクルされた粉末材料(M)の連続層を堆積させる工程と、
b)後続の層の堆積前に各層を選択的に焼結する工程と
を含み、
粉末材料(M)は、工程b)前に、温度Tp(℃):
Tp<Tm-5、
に加熱され、ここで、Tm(℃)は、ASTM D3418による示差走査熱量測定(DSC)による第1の加熱走査で測定されるPEKKポリマーの溶融温度である、方法。
【請求項10】
PEKKは、少なくとも1つの繰り返し単位(R
M)及び少なくとも1つの繰り返し単位(R
P)を含み、繰り返し単位(R
M)は、式(I):
によって表され、及び繰り返し単位(R
P)は、式(II):
によって表わされ、
式中、
- 各R
1及びR
2は、それぞれの場合において、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び第四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、及び
- 各i及びjは、それぞれの場合において、0~4の範囲の独立して選択される整数であ
る、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
粉末材料(M)は、イソプロパノール中のレーザー散乱によって測定されたとき、30~80μ
mに含まれるd
50値を有する、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
粉末材料(M)は、25℃の浸漬温度において、ISO 9277によって測定されたとき、0.1~5m
2/
gの範囲のBET表面積を有する、請求項1~
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
粉末材料(M)は、50/50~100/
0の範囲である、リサイクルされた粉末/リサイクルされていない粉末の比を含む、請求項1~
12のいずれか一項に記載の
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年11月13日に出願された米国仮特許出願第62/760271号及び2019年1月15日に出願された欧州特許出願公開第19151955.2号に対する優先権を主張するものであり、これらの出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、少なくとも1つのポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)ポリマーを含む、少なくとも部分的にリサイクルされた粉末ポリマー材料(M)を使用して三次元(3D)物体を製造するための付加製造(AM)方法、特にこの粉末ポリマー材料(M)からレーザー焼結によって得ることができる3D物体に関する。
【背景技術】
【0003】
付加製造システムは、コンピュータ支援設計(CAD)モデリングソフトウェアで作成されたデジタル設計図から3D物体を印刷又は他に構築するために用いられる。利用可能な付加製造技術の1つである選択的レーザー焼結(「SLS」)は、レーザーからの電磁放射線を使用して粉末材料を融合させて塊にする。レーザーは、粉末床の表面上において、物体のデジタル設計図から生成された断面を走査することによって粉末材料を選択的に融合させる。断面が走査された後、粉末床は、1層の厚さだけ下げられ、材料の新しい層が適用され、粉末床が再走査される。前の焼結層との接着性だけでなく、最上部の粉末層中でのポリマー粒子の局所的に完全な合体が必要である。このプロセスは、物体が完成するまで繰り返される。
【0004】
SLSプリンターの粉末床において、粉末材料は、一般に、樹脂の融点(Tm)に近い処理温度に予熱される。半結晶性ポリマーについて、結晶化(Tc)は、少なくともいくつかの焼結層についてできるだけ長く印刷中に抑止されるべきである。そのため、処理温度は、「焼結ウィンドウ」とも呼ばれる、半結晶性ポリマーの溶融温度(Tm)と結晶化温度(Tc)との間で厳密に調整されなければならない。粉末の予熱は、レーザーが未融合粉末の層の選択された領域の温度を融点まで上昇させることをより容易にする。レーザーは、インプットによって指定される場所においてのみ粉末の融合を引き起こす。レーザーエネルギー曝露は、典型的には、使用中のポリマーに基づいて且つポリマー劣化を回避するために選択される。
【0005】
プロセスが完了したとき、未融合粉末は、3D物体から除去され、リサイクルして後続のSLSプロセスに再利用することができる。
【0006】
レーザー焼結による物品の製造は、特定の物品又は部品について、長い時間、16時間超を要し得る。これは、粉末材料が長期間SLSプリンターの粉末床中で高温にかけられることを意味する(熱老化と呼ばれる)。これは、ポリマー材料がもはやリサイクル可能ではないように、ポリマー材料に不可逆的に影響を及ぼし得る。熱老化のためにポリマーの化学的性質が変わるのみならず、その靱性などのポリマー材料のその機械的特性も変化する。ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)などのいくつかの半結晶性ポリマーにとって、処理温度は、あまりにも高く、SLS加工性及びリサイクリングに悪影響を及ぼす劣化及び/又は架橋を引き起こす。SLSプロセスのポテンシャルは、そのため、このプロセスのために最適化された限定数の材料に制限される。
【0007】
国際公開第2019/002620A1号パンフレット(Solvay Specialty Polymers USA)は、PEKKポリマーが少なくとも500℃のTd(1%)を有する、150μm未満のd0.9値を有するPEKKポリマー粉末及び3D物体を製造するための方法におけるこのような粉末の使用に関する。
【0008】
国際公開第2013/085947号パンフレット(Oxford Performance Materials)は、電磁放射を使用する粉末の選択的焼結により、粉末から三次元物体を製造するためのプロセスであって、粉末は、リサイクルされたPAEK、例えばリサイクルされたPEKKを含む、プロセスに関する。本発明者らは、いくつかの実験を実施し、特定のPEKKポリマーのみが実際に新しい3D印刷プロセスサイクル中にリサイクルされ得ることを実証する。
【0009】
中国特許出願公開第108686860A号明細書は、パーソナライズされた3D印刷椎体間固定ケージ及びその作成方法に関する。実施例2によれば、PEKKとリン酸マグネシウムとのブレンドを使用して、選択的レーザー焼結法を使用して腰椎固定ケージが作成された。本発明者らは、このようなブレンドが、低い機械的特性を示し、且つ熱老化後に流動性を示さないことを実証する。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、三次元(3D)物体を製造するための付加製造(AM)方法に関する。本方法は、a)誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定されたとき、30ppm超、好ましくは50ppm超、より好ましくは100ppm超のリン含有量を有する少なくとも1つのポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含む、少なくとも部分的にリサイクルされた粉末材料(M)の連続層を堆積させる工程と、b)後続の層の堆積前に各層を選択的に焼結する工程とを含む。
【0011】
そのような製造方法によって得ることができる3D物体又は物品は、様々な最終用途において使用することができる。特に、埋込式装置、医療装置、歯科補綴物、ブラケット及び宇宙産業における複雑な形状部品並びに自動車工業におけるボンネット下部品を挙げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、三次元(3D)物体を製造するための付加製造(AM)方法に関する。本方法は、少なくとも1つのポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)ポリマーを含む、少なくとも部分的にリサイクルされた粉末ポリマー材料(M)の連続層を堆積させる第1の工程を含む。本発明の方法は、後続の層の堆積前に各層を選択的に焼結する工程も含む。
【0013】
本発明の3D物体を製造するための方法は、ポリマー材料の主要要素として、PEKKポリマーを含む、少なくとも部分的にリサイクルされた粉末ポリマー材料(M)を用いる。粉末ポリマー材料(M)は、球形などの規則的な形状又はペレット若しくは粗い粉末の摩砕/粉砕によって得られる複雑な形状を有することができる。
【0014】
「少なくとも部分的にリサイクルされた」について、粉末ポリマー材料(M)は、リサイクルされた粉末材料、即ち既に3Dプリンターの処理温度に暴露されている材料を含むことが理解されるべきである。いくつかの実施形態では、粉末ポリマー材料(M)は、材料(M)の総重量に基づいて少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%又は少なくとも98重量%のリサイクルされた粉末材料を含む。プリンターの処理温度は、材料(M)が焼結前に例えばSLSプリンターの粉末床において加熱される温度である。
【0015】
本発明によれば、PEEKは、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定されたとき、30ppm超のリン含有量を有する。驚くべきことに、このようなリン含有量を示すPEKKポリマーを含む粉末材料は、新しい3D物体の製造において、未焼結材料のリサイクル及びその再利用を可能にすることが判明した。本発明者らは、PEKKポリマーが30ppm超のリン含有量を有する場合、その流動性又はメルトフローインデックス(340℃において8.4kgの重量でASTM D1238に従って測定されるMFI)に不可逆的に影響を与えることなく、且つ印刷された物品の最終的な特性に影響を与えることなく、新しいSLS3D印刷サイクルで再利用できるようにする一連の特性を保持することを実証し、これは、従来技術のPEKK粉末材料に当てはまらない。国際公開第2013/085947号パンフレット(Oxford Performance Materials)は、リサイクルされたPAEK、例えばリサイクルされたPEKKに使用について記載している。この文献において、印刷部分の破断点伸びは、PEKKのリサイクルに比べて減少し、印刷条件(285℃~300℃)を維持するためにプリンターベッドの温度を上げる必要がある。本発明者らは、いくつかの実験を実施し、特定のPEKKポリマーのみが実際に新しい3D印刷プロセスサイクル中に効果的にリサイクルされ得ることを実証する。特に、30ppm超のリン含有量を有するPEKKポリマーのみが加熱後も特性を保持し、それによりリサイクルに好適となる。
【0016】
したがって、本発明は、3D物体を製造するための、30ppm超のリン含有量のPEKKを含む、少なくとも部分的にリサイクルされた粉末ポリマー材料(M)の使用に関する。
【0017】
本明細書で記載される粉末ポリマー材料(M)は、処理温度への長期暴露によって有意に影響を受けず、新しい未処理のポリマー材料に匹敵する一連の特性を示す。これは、使用された粉末を、得られる印刷物品の外観及び機械的性能(とりわけポリマー材料の予期される性能、例えばPEKKの引張り特性)に影響を与えることなく、付加製造、例えばレーザー焼結3D印刷プロセスでの再利用に完全に適したものにする。
【0018】
更に、粉末ポリマー材料(M)は、固有の処理ウィンドウを示し、それにより、材料が、本発明のプロセスを介して、得られる印刷物品にレーザー焼結されると、重要な機械的特性は、安定性を維持する。これらの重要な機械的特性は、印刷された物品の他の属性に有益な影響を与えるために印刷パラメータをシフトさせることができるにもかかわらず、安定性を維持する。
【0019】
本発明のプロセスでは、粉末ポリマー材料(M)は、典型的には、260~320℃の範囲である処理温度(Tp)、好ましくはTm-5(式中、Tmは、DSCによる第1の加熱走査におけるPEKKポリマーの溶融温度(Tm(℃))である)よりも低い温度(Tp)において、(例えば、粉末の電磁放射線を用いて)粉末層の選択されたエリアの焼結前に例えばSLSプリンターの粉末床において好ましくは加熱される。有利には、本発明のポリマー粉末材料は、リサイクルできるだけでなく、例えば焼結前にSLSプリンターの粉末床において数回のリサイクルにわたって同じ温度で加熱することもできることが注目されている。換言すれば、本発明によるリサイクルされた粉末材料が使用される場合、プリンター床の温度を上昇させる必要がない。
【0020】
SLS 3Dプリンターは、例えば、EOS Corporationから商標名EOSINT(登録商標)Pで入手できる。
【0021】
本出願では、
- いずれの記載も、特定の実施形態に関連して記載されているとしても、本発明の他の実施形態に適用可能であり、且つそれらと交換可能であり、
- 要素又は成分が、列挙された要素又は成分のリストに含まれ、且つ/又はリストから選択されると言われる場合、本明細書で明示的に企図される関連する実施形態において、要素又は成分は、別の列挙された要素若しくは成分のいずれか1つでもあり得るか、又は明示的に列挙された要素若しくは成分の任意の2つ以上からなる群からも選択され得、要素又は成分のリストに列挙されたいかなる要素又は成分も、このようなリストから省略され得ることが理解されるべきであり、及び
- 端点による数値範囲の本明細書でのいずれの列挙も、列挙された範囲内に包含される全ての数並びに範囲の端点及び均等物を含む。
【0022】
粉末ポリマー材料(M)
本発明の方法で用いられる粉末ポリマー材料(M)は、以下に詳述されるように、少なくとも1つのPEKKポリマーを含む。
【0023】
本発明の粉末ポリマー材料(M)は、ときに流動助剤とも呼ばれる流動剤を更に含み得る。この流動剤は、例えば、親水性であり得る。親水性流動助剤の例は、シリカ、アルミナ及び酸化チタンからなる群からとりわけ選択される無機顔料である。ヒュームドシリカを挙げることができる。
【0024】
ヒュームドシリカは、商標名Aerosil(登録商標)(Evonik)及びCab-O-Sil(登録商標)(Cabot)で市販されている。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、粉末ポリマー材料(M)は、0.01~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.25~1重量%の流動剤、例えばヒュームドシリカを含む。
【0026】
これらのシリカは、ナノメートルの一次粒子(ヒュームドシリカについて典型的には5~50nm)で構成される。これらの一次粒子は、結合すると凝集体を形成する。流動剤としての使用において、シリカは、様々な形態(基本粒子及び凝集体)で見出される。
【0027】
本発明の粉末ポリマー材料(M)は、潤滑剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、顔料、加工助剤、染料、充填材、ナノ充填材又は電磁気吸収剤などの1つ又はいくつかの添加剤を更に含み得る。これらの任意選択的な添加剤の例は、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、シリカ又は硫化亜鉛、ガラス繊維、炭素繊維である。
【0028】
本発明の粉末ポリマー材料(M)は、ハロゲン難燃剤及びハロゲンを含まない難燃剤などの難燃剤を更に含み得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、本発明の粉末ポリマー材料(M)は、本質的にPEKKポリマー、好ましくはリサイクルされたPEKKポリマーを含む。
【0030】
ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)
本明細書で用いられるPEKKポリマーは、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定されたとき、30ppm超、好ましくは50ppm超、より好ましくは100ppm超、最も好ましくは200ppm超又は更により好ましくは300ppm超のリン含有量を有するようなものである。
【0031】
PEKKポリマーは、好ましくは、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定されたとき、3000ppm未満、好ましくは2000ppm未満、より好ましく1000ppm未満のリン含有量を有する。
【0032】
本明細書で記載されるPEKKは、少なくとも1つの繰り返し単位(R
M)及び少なくとも1つの繰り返し単位(R
P)を含み、繰り返し単位(R
M)は、式(M):
によって表され、及び繰り返し単位(R
P)は、式(P):
(式中、
- 各R
1及びR
2は、それぞれの場合において、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び第四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、及び
- 各i及びjは、それぞれの場合において、0~4の範囲の独立して選択される整数である)
によって表される。
【0033】
一実施形態によれば、R1及びR2は、上記の式(M)及び(P)の各々の位置において、1つ以上のヘテロ原子、スルホン酸及びスルホネート基、ホスホン酸及びホスホネート基、アミン及び四級アンモニウム基を任意選択的に含むC1~C12部位からなる群から独立して選択される。
【0034】
別の実施形態によれば、i及びjは、各R
1及びR
2基についてゼロである。換言すれば、繰り返し単位(R
P)及び(R
M)は、両方とも置換されていない。本実施形態によれば、繰り返し単位(R
M)及び(R
P)は、それぞれ式(M’)及び(P’):
によって表される。
【0035】
別の実施形態によれば、PEKKポリマーは、少なくとも1つの繰り返し単位(RM)、少なくとも1つの繰り返し単位(RP)並びに少なくとも50モル%の式(M)、(P)、(M’)及び/又は(P’)の繰り返し単位(RP)及び(RM)を含み、モル%は、ポリマー中の総モル数に基づく。
【0036】
本開示の一実施形態によれば、PEKK中の繰り返し単位の少なくとも55モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも99モル%又は全ては、式(M)、(P)、(M’)及び/又は(P’)の繰り返し単位(RP)及び(RM)であり、モル%は、ポリマー中の総モル数に基づく。
【0037】
PEKKは、好ましくは、50/50~70/30、より好ましくは53/47~67/33又は55/45~65/35の範囲の繰り返し単位の比(RP)/(RM)を有する。
【0038】
PEKKは、1つ又は2つの溶融温度Tm(℃)を有し得る。溶融温度は、ASTM D3418による示差走査熱量測定(DSC)による第1の加熱走査で測定される。明瞭さのために、本出願において、PEKKポリマーの溶融温度を参照するとき、PEKKが2つのTm温度を有する場合、実際には最高のTmを参照する。
【0039】
本発明の一実施形態では、本発明の粉末ポリマー材料(M)は、揮発分が少ないため、粉末が長期間、粉末床で高温に留まらなければならないレーザー焼結系付加製造システムを使用する3D物体の製造などの用途に好適である。揮発分は、使用前の本発明の粉末に存在する揮発物質の量として定義される。この量は、オフゲージング、即ち粉末を使用するときにこれらの揮発物質が徐々に放出されることを制限するためにできるだけ少なくする必要がある。例えば、特に粉末の焼結前に数時間かかる場合がある加熱など、SLSプリンターの粉末床で粉末を加熱するとき、オフゲージングが発生する場合がある。
【0040】
本発明の粉末中の揮発分は、これにより、ASTM D3850法に従って熱重量分析(TGA)を使用して評価される。一定量の揮発性物質(例えば、1重量%又は2重量%)が試料を離れる温度Tdは、10℃/分の加熱速度を用いて窒素下で試料を30℃から800℃まで徐々に加熱することによって決定される。温度Td(1%)は、1重量%での熱分解温度とも呼ばれる。本発明によれば、SLSプリンターの粉末床で粉末を加熱するときに発生する揮発物質の量を制限するために、Td(1%)は、可能な限り高いべきである。
【0041】
本発明の一実施形態では、PEKKポリマーは、10℃/分の加熱速度を用いて窒素下で30℃から800℃まで加熱する、ASTM D3850に従った熱重量分析で測定されたとき、少なくとも500℃、好ましくは少なくとも505℃、より好ましくは少なくとも510℃のTd(1%)を有する。これは、10℃/分の加熱速度を用いて窒素下で30℃から800℃まで加熱する、ASTM D3850に従って測定されたとき、500℃以上の温度に加熱した後、粉末が初期重量の99重量%以上を保持することを意味する。
【0042】
本発明の一実施形態では、PEKKポリマーは、10℃/分の加熱速度を用いて窒素下で30℃から800℃まで加熱する、ASTM D3850に従った熱重量分析で測定されたとき、800℃未満、好ましくは700℃未満のTd(1%)を有する。
【0043】
PEKKポリマーの合成
PEKKポリマーの合成は、文献に記載されており、典型的には、PEKKポリマーを得るために溶媒中でモノマーを重縮合する工程及び溶媒及び塩を抽出する工程を含む。
【0044】
本発明の好ましい実施形態では、モノマーの重縮合は、ルイス酸の非存在下で起こるか、又はモノマーの総重量に基づいて2重量%未満、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満の量のルイス酸の存在下で起こる。
【0045】
本発明に関連して、ルイス酸は、BF3、AlCl3、FeCl3、CF3SO3H及びCH3SO3Hからなる群から選択されるものとして定義され得る。
【0046】
好ましい実施形態では、PEKKポリマーの合成は、
工程a)溶媒中、ルイス酸の非存在下又はモノマーの総重量に基づいて2重量%未満、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満の量のルイス酸の存在下において、以下のモノマー(P-OH)、(M-OH)、(P-F)及び/又は(M-F):
(式中、
- R
3、R
4、R
5及びR
6は、それぞれの場合において、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、
- p、q、r及びsは、それぞれの場合において、0~4の範囲の独立して選択される整数である)
を重縮合する工程であって、
(P-OH)及び(M-OH)のモル対(P-F)及び(M-F)のモルのモル比は、
であり、
好ましくは、モル比は、≧対0.985、≧対0.990又は≧対0.995であり、
好ましくは、モル比は、≦対1.015、≦対1.010又は≦対1.005であるようなものである、工程、
工程b)粉末を得るために溶媒及び塩を抽出する工程
を含む。
【0047】
上記の方法は、揮発分が少ないPEKK粉末を製造する。一実施形態によれば、PEKKポリマーは、10℃/分の加熱速度を用いて窒素下で30℃から800℃まで加熱する、ASTM D3850に従った熱重量分析で測定されたとき、少なくとも500℃、好ましくは505℃、より好ましくは510℃のTd(1%)を有する。
【0048】
一実施形態では、R3、R4、R5及びR6は、上記の式(P-OH)、(P-F)、(M-OH)及び(M-F)の各々の位置において、1つ以上のヘテロ原子、スルホン酸及びスルホネート基、ホスホン酸及びホスホネート基、アミン及び四級アンモニウム基を任意選択的に含むC1~C12部位からなる群から独立して選択される。
【0049】
上述のように、30ppm超のリン含有量を有するPEKKポリマーを含む粉末材料は、3D物体を製造するための新しいプロセスにおいて、未焼結材料のリサイクル及びその再利用を可能にすることが見出された。合成アプローチは、PEKKを、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)及びリン酸水素二カリウム(K2HPO4)又はこれらの混合物の少なくとも1つの溶液と接触させる工程、好ましくはPEKKをそれらで洗浄する工程を伴う。好ましくは、PEKKを、溶液、例えばNaH2PO4及びNa2HPO4の両方を含む水溶液と接触させる(例えば、それらで洗浄する)。本明細書で用いられる溶液で使用されるリン酸塩は、例えば、無水物、一水和物、二水和物又は七水和物であり得る。
【0050】
本発明のPEKKは、好ましくは、30ppm超のリン含有量(これは、PEKKをアルカリ金属リン酸塩の溶液と接触させる(例えば、それで洗浄する)工程によって得られる)を有する。実際に、本発明者らは、PEKKをアルカリ金属リン酸塩の溶液と接触させる(例えば、それで洗浄する)工程によって得られる、リン含有量を有するPEKK粉末に基づく同じ成形品と比較して、PEKKポリマーをアルカリ土類金属リン酸塩粉末とブレンドすると、不均一な粉末になり、即ちリン酸塩に富む相の凝集体を含むPEKK粉末が成形品の機械的性能の低下につながることを実証する。
【0051】
溶液中のNaH2PO4の濃度は、特に限定されないが、PEKKポリマーが30ppm超のリン含有量を示すのに十分でなければならない。溶液中のNaH2PO4の量は、好ましくは、PEKKポリマーに付着したリン原子の予想される最小量30ppmにマッチするように選択される。溶液中のNaH2PO4の濃度は、好ましくは、少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.03重量%、最も好ましくは少なくとも0.05重量%、最も好ましくは少なくとも0.10重量%である。溶液中のNaH2PO4の濃度は、好ましくは、最大で0.35重量%、より好ましくは最大で0.30重量%、最も好ましくは最大で0.25重量%、最も好ましくは最大で0.20重量%である。溶液中のNa2HPO4の濃度は、好ましくは、少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.03重量%、最も好ましくは少なくとも0.05重量%、最も好ましくは少なくとも0.10重量%である。溶液中のNa2HPO4の濃度は、好ましくは、最大で0.35重量%、より好ましくは最大で0.30重量%、最も好ましくは最大で0.25重量%、最も好ましくは最大で0.20重量%である。
【0052】
本明細書で使用する場合、PEKKポリマーをリン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)及びリン酸水素二カリウム(K2HPO4)又はこれらの混合物の少なくとも1つの溶液で「洗浄」することは、PEKKポリマーにホスフェート基を実質的に固定することを意味する。「実質的に固定」することは、PEKKポリマーが、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定されたとき、30ppm超、例えば50ppm超、100ppm超、200ppm超又は300ppm超のリン含有量を保持することを意味する。
【0053】
いくつかの実施形態では、PEKKポリマーは、5分~5時間、好ましくは10分~3時間の範囲の時間にわたり、溶液と接触される(例えば、それで洗浄される)。ポリマーを接触させる、例えば洗浄する方法は、当業者に周知であり、例えば以下で定義されるように酸又は塩基を含む溶液でポリマーをスラリー化し、次いで溶液を濾別することを含む。
【0054】
「洗浄」は、ポリマーを溶液と接触させ、次いで溶媒を除去して、溶質をポリマーと接触させることができる「含浸」などから区別されることに留意されたい。同様に、「洗浄」は、安定剤がポリマーと無期限に接触したままであるPEKKポリマーに安定剤を添加することと異なる。洗浄の利点には、容易さ、コストの削減及び酸又は塩基をPEKKポリマーと接触させておく(又は中に分散させる)ことによる可能性のある望ましくない影響の回避が含まれる。最後に、「洗浄」は、高温(例えば、100℃超)又は高圧(例えば、80psig超)を伴う熱水処理からも区別される。これに関して、洗浄は、好ましくは、大気圧又は最大で80psigの圧力において実施される。洗浄は、好ましくは、0~100℃の範囲の温度で実施される。
【0055】
洗浄が実施される時間は、特に限定されないが、好ましくは、洗浄は、ポリマー合成全体の一部として、好ましくはPEKKポリマーの合成の最終工程として実施される。
【0056】
いくつかの実施形態では、洗浄は、単一の洗浄工程からなるが、しかし、洗浄工程の組み合わせにより、PEKKポリマーに付着したリン含有量が最小限になるという上記の結果が得られることを条件として、洗浄は、例えば、各々の工程において異なる酸、塩基又は溶媒での複数の洗浄工程の組み合わせも含み得ることが理解されるべきである。
【0057】
本発明の一実施形態によれば、PEKKは、残留酸性度試験によって測定されたとき、≦9μeq/g、好ましくは8μeq/g、より好ましくは6μeq/gの残留酸性度を有する。
【0058】
本発明の一実施形態によれば、PEKKは、残留酸性度試験によって測定されたとき、>0μeq/g、好ましくは>1μeq/gの残留酸性度を有する。
【0059】
本発明の別の実施形態によれば、PEKKは、残留塩基性度試験によって測定されたとき、≦20μeq/g、好ましくは17μeq/g、より好ましくは15μeq/gの残留塩基性度を有する。
【0060】
本発明の別の実施形態によれば、PEKKは、残留塩基性度試験によって測定されたとき、>0μeq/g、好ましくは>1μeq/gの残留塩基性度を有する。
【0061】
本明細書で使用する場合、「残留酸性度試験」及び「残留塩基性度試験」は、以下の実施例で詳細に記載されるm-クレゾールでの滴定分析を指す。
【0062】
PEKKポリマーをリン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)及びリン酸水素二カリウム(K2HPO4)又はこれらの混合物の少なくとも1つの溶液と接触させる工程に加えて、合成アプローチは、PEKKを接触させる少なくとも1つの工程、好ましくはPEKKを、PEKKポリマーを中和するのに十分な量の酸又は塩基を含む溶液で洗浄する工程も伴い得る。
【0063】
好適な酸及び塩基としては、アルコール、ケトン、アミド、芳香族炭化水素などの有機溶媒中又は溶媒の沸点より低い温度の水中で少なくとも0.1重量%の溶解度を示す任意の有機又は無機の酸又は塩基が挙げられる。好ましくは、溶媒は、最大で250℃、より好ましくは最大で150℃、最も好ましくは最大で100℃の沸点を有する。好ましくは、酸は、3.0~7.5の範囲のpKaを有し、好ましくは、塩基は、-1.0~8.0の範囲のpKbを有する。
【0064】
いくつかの実施形態では、酸は、酢酸、一アルカリ金属クエン酸及びこれらの組み合わせから選択される。
【0065】
いくつかの実施形態では、塩基は、有機アミン、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド、テトラアルキルアンモニウムアセテート、テトラアルキルホスホニウムヒドロキシド、テトラアルキルホスホニウムアセテート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ヒドロキシド、アルカリ金属又はアルカリ土類金属一水素リン酸、アルカリ金属又はアルカリ土類金属リン酸及びこれらの組み合わせから選択される。
【0066】
好ましい溶媒は、水、アルコール、エーテル又はケトンであり、沸点が最大で150℃であるが、少なくとも0.1重量%の酸又は塩基を溶解することができ、PEKKポリマーと不利に反応しない任意の溶媒を使用することができる。好ましくは、溶媒は、水、メタノール、エタノール、プロパノール又はイソプロパノールである。より好ましくは、溶媒は、水、メタノール又はエタノールである。いくつかの実施形態では、2つ以上の溶媒を使用することができる。
【0067】
PEKKポリマーは、粉末の形態で洗浄される。洗浄液との最適な接触を確実にするために、洗浄中のPEKKポリマーの平均粒子サイズd50値は、好ましくは、50μm~2mm、より好ましくは200μm~1mmの範囲である。PEKKポリマー粉末は、25℃の浸漬温度でISO9277によって測定されたとき、0.5m2/g超、好ましくは1.0m2/g超、最も好ましくは2.5m2/g超のBET表面積を有し得る。
【0068】
摩砕
粉末ポリマー材料(M)を製造するための方法は、典型的には、例えばイソプロパノール中のレーザー散乱によって測定されたとき、25~90μm、例えば35~88μm又は45~85μmの範囲のd50値を有する粉末ポリマー材料(M)を得るために、例えば粉末又はペレットの形態のPEKKポリマー又はブレンドされた調合物を摩砕する工程を含む。D50とも呼ばれるd50は、中央径又は粒度分布の中央値として知られ、それは、累積分布での50%における粒径の値である。これは、試料中の粒子の50%がd0.5値よりも大きく、試料中の粒子の50%がd50値よりも小さいことを意味する。D50は、通常、粒子の群の粒径を表すために用いられる。
【0069】
ブレンドされた調合物の粉末又はペレットは、例えば、ピン付きディスクミル、分級器付きジェットミル/流動化ジェットミル、インパクトミルプラス分級器、ピン/ピン-ビーターミル若しくは湿式摩砕ミル又はこれらの装置の組み合わせで摩砕することができる。
【0070】
ブレンドされた調合物のペレットは、摩砕前に材料が脆くなる温度よりも下、例えば摩砕前に25℃よりも下の温度に冷却することができる。
【0071】
摩砕する工程は、冷却を追加して行うこともできる。冷却は、液体窒素又はドライアイスを用いて行うことができる。
【0072】
摩砕された粉末は、好ましくは、空気セパレーター又は分級器で分離して、所定の分画スペクトルを得ることができる。
【0073】
一実施形態では、粉末ポリマー材料(M)の製造方法は、PEKKポリマーのガラス転移温度(Tg)~PEKKポリマーのより低い溶融温度(Tm)(Tg及びTmは、両方ともASTM D3418による示差走査熱量測定法(DSC)を用いて測定される)の範囲の温度(Ta)に粉末を暴露することを含む工程を更に含み得る。温度Taは、PEKKポリマーのTgより少なくとも20℃高く、例えばPEKKポリマーのTgより少なくとも30、40又は50℃高くなるように選択され得る。温度Taは、PEKKポリマーのTmより少なくとも5℃低く、例えばPEKKポリマーのTmより少なくとも10、20又は30℃低くなるように選択され得る。温度Taへの粉末の暴露は、例えば、熱処理によるものであり得、且つオーブン(静的、連続、バッチ、対流)、流動床ヒーターで起こり得る。代わりに、温度Taへの粉末の曝露は、電磁放射線又は粒子放射線での放射によることができる。熱処理は、空気下又は不活性雰囲気下で行うことができる。好ましくは、熱処理は、不活性雰囲気下、より好ましくは2%未満の酸素を含有する雰囲気下で行われる。
【0074】
上記で説明したように、3D物体を製造するのに使用される粉末材料が、30ppm超のリン含有量を有するPEKKポリマーを含む場合、未焼結材料のリサイクルが可能であることがここで発見された。いくつかの実施形態では、リサイクルされた粉末材料(M)は、≦90%、好ましくは80%、より好ましくは75%のΔMFIを有し、ここで、
ΔMFI=100(MFIt0-MFIt1)/MFIt0
(式中、
MFIは、340℃において8.4kgの重量でASTM D1238によって測定されるメルトフローインデックスであり、
MFIt0は、260℃の温度に744時間暴露される前のMFIであり、
MFIt1は、260℃の温度に744時間暴露された後のMFIである)
である。
【0075】
いくつかの実施形態では、粉末材料(M)は、イソプロパノール中のレーザー散乱によって測定されたとき、30~80μm、好ましくは35~70μm、より好ましくは40~60μmに含まれるd50値を有する。
【0076】
いくつかの実施形態では、粉末材料(M)は、25℃の浸漬温度において、ISO9277によって測定されるとき、0.1~5m2/g、好ましくは0.2~4m2/g、好ましくは0.2~2m2/g、より好ましくは0.2~1m2/gの範囲のBET表面積を有する。
【0077】
いくつかの実施形態では、粉末材料(M)は、少なくとも0.30、好ましくは0.35、より好ましくは0.40の嵩密度ρBを有する。
【0078】
三次元(3D)物体の製造方法
本発明の三次元(3D)物体を製造するための付加製造方法は、
a)誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定されたとき、30ppm超、好ましくは50ppm超、より好ましくは100ppm超、最も好ましくは200ppm超又は更に最も好ましくは300ppm超のリン含有量を有する少なくとも1つのポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含む、少なくとも部分的にリサイクルされた粉末材料(M)の連続層を堆積させる工程と、
b)後続の層の堆積前に各層を選択的に焼結する工程と
を含む。
【0079】
いくつかの実施形態では、粉末ポリマー材料(M)は、50/50~100/0、好ましくは55/45~100/1、より好ましくは60/40~100/1の範囲である、リサイクルされた粉末/リサイクルされていない粉末の比を含む。
【0080】
いくつかの他の実施形態では、粉末ポリマー材料(M)は、本質的に、リサイクルされた粉末を含む。
【0081】
一実施形態によれば、焼結する工程は、高出力エネルギー源、例えば電磁ビーム源などの高出力レーザー源を用いる選択的焼結を含む。
【0082】
いくつかの実施形態では、本発明の3D物体を製造するための方法は、以下の工程a1)~a4):
a1)誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定されたとき、30ppm超、好ましくは50ppm超、より好ましくは100ppm超、最も好ましくは200ppm超又は更に最も好ましくは300ppm超のリン含有量を有する少なくとも1つのポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含む粉末材料(M)を、260~320℃に含まれる温度Tp(℃)、好ましくは、以下:
Tp<Tm-5、
より好ましくは、Tp<Tm-10、
更により好ましくは、Tp<Tm-15
のような温度Tpに加熱する工程であって、ここで、Tm(℃)は、ASTM D3418による示差走査熱量測定(DSC)による第1の加熱走査で測定されるPEKKポリマーの溶融温度である、工程と、
a2)加熱された粉末材料(M)の連続層を堆積させる工程と、
a3)後続の層の堆積前に各層を選択的に焼結する工程と、
a4)工程a1)の加熱された未融合粉末材料を除去し、且つ後続の印刷サイクルでそれをリサイクルする工程と
を更に含む。
【0083】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明の3D物体を製造するためのAM方法は、少なくとも以下の工程:
a1)ICP-OESによって測定されたとき、30ppm超のリン含有量を有する少なくとも1つのポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含む粉末材料(M)を、260~320℃に含まれる温度Tp(℃)に加熱する工程と、
a2)加熱された粉末材料(M)の連続層を堆積させる工程と、
a3)後続の層の堆積前に各層を選択的に焼結する工程と、
a4)工程a1)の加熱された未融合粉末材料を除去する工程と、
b1)工程a4)からの少なくとも部分的にリサイクルされた粉末材料(M)を加熱する工程と、
b2)工程b1)の加熱された粉末材料(M)の連続層を堆積させる工程と、
b3)後続の層の堆積前に各層を選択的に焼結する工程と、
b4)工程b1)の加熱された未融合粉末材料を除去する工程と、
c)任意選択的に、b1)~b4)を繰り返す工程と
を含む。
【0084】
3D物体/物品/部品は、基材、例えば水平基材及び/又は平面基材上に構築することができる。基材は、全ての方向、例えば水平方向又は垂直方向に移動可能であり得る。3D印刷プロセス中、未焼結ポリマー材料の連続層が焼結ポリマー材料の前の層の最上部上に焼結されるために、基材を例えば下げることができる。
【0085】
一実施形態によれば、本プロセスは、支持構造体を製造することを含む工程を更に含む。この実施形態によれば、3D物体/物品/部品は、支持構造体上に構築され、支持構造体及び3D物体/物品/部品は、両方とも同じAM方法を用いて製造される。支持構造体は、複数の状況において有用であり得る。例えば、とりわけこの3D物体/物品/部品が平面でない場合、形状3D物体/物品/部品のゆがみを回避するために、支持構造体は、印刷された又は印刷中の3D物体/物品/部品に十分な支持を提供するのに有用であり得る。これは、印刷された又は印刷中の3D物体/物品/部品を維持するために用いられる温度が粉末の再固化温度より低い場合に特に当てはまる。
【0086】
本製造方法は、通常、プリンターを使用して行われる。プリンターは、両方とも決められた特定の温度に維持される焼結チャンバ及び粉末床を含み得る。
【0087】
印刷される粉末は、260℃~320℃、270℃~310℃又は280℃~300℃の範囲の処理温度(Tp)まで予熱され得る。いくつかの実施形態では、プロセスは、粉末材料(M)が、工程b)前に、温度Tp(℃):
Tp<Tm-5、
好ましくは、Tp<Tm-10、
より好ましくは、Tp<Tm-15
に加熱されるようなものであり、ここで、Tm(℃)は、ASTM D3418による示差走査熱量測定(DSC)による第1の加熱走査で測定されるPEKKポリマーの溶融温度である。粉末の予熱は、レーザーが未融合粉末の層の選択された領域の温度を融点まで上昇させることをより容易にする。レーザーは、インプットによって指定される場所においてのみ粉末の融合を引き起こす。レーザーエネルギー曝露は、典型的には、使用中のポリマーに基づいて且つポリマー劣化を回避するために選択される。
【0088】
本発明によれば、粉末は、処理温度への長期暴露によって有意に影響を受けず、新しい未処理のポリマー材料に匹敵する一連の特性を示す。これは、結果として生じる印刷物品の外観及び機械的性能(とりわけポリマー材料の予期される性能)に影響を与えることなく、使用された粉末をレーザー焼結3D印刷プロセスでの再利用に完全に適したものにする。
【0089】
3D物体及び物品
次いで、少なくとも部分的にリサイクルされた粉末材料(M)を使用するそのような製造方法によって得ることができる3D物体又は物品は、様々な最終用途において使用することができる。特に、埋込式装置、医療装置、歯科補綴物、ブラケット及び宇宙産業における複雑な形状部品並びに自動車工業におけるボンネット下部品を挙げることができる。
【0090】
このような少なくとも部分的にリサイクルされた粉末材料(M)を使用するこのような製造方法によって得ることができる3D物体又は物品は、有利には、実施例で詳細に記載されているように、DSCによる第1の加熱走査で測定されたとき、少なくとも25%、好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも30%の結晶化度を示す。
【0091】
このような少なくとも部分的にリサイクルされた粉末材料(M)を使用するこのような製造方法によって得ることができる3D物体又は物品は、有利には、少なくとも1.20、好ましくは少なくとも1.22、より好ましくは1.24、最も好ましくは1.26の密度を示す。
【0092】
このような少なくとも部分的にリサイクルされた粉末材料(M)を使用するこのような製造方法によって得ることができる3D物体又は物品は、有利には、3つの試験片で0.05インチ/分、室温(即ち23℃)においてASTM法D638に従ってタイプVのASTM引張り試験片で測定されたとき、少なくとも10,000ksi、好ましくは少なくとも10,500ksiの破断点平均面内引張り強度を示す。
【0093】
参照により本明細書中に組み込まれる任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が、それが用語を不明確にし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【実施例】
【0094】
本開示は、ここで、以下の実施例に関連してより詳細に記載されるが、それらの目的は、例示的であるに過ぎず、本開示の範囲を限定することを意図してない。
【0095】
実施例1.いくつかのPEKKポリマーの熱老化
原材料
Kepstan(登録商標)6002PEKKは、Arkemaから入手した。
【0096】
ジフェニルスルホン(ポリマーグレード)(純度99.8%)は、Proviron社から調達した。
【0097】
炭酸ナトリウム、軽灰は、Solvay S.A.,Franceから調達し、使用前に乾燥させた。その粒径は、そのd90が130μmであるようなものであった。
【0098】
d90<45μmを有する炭酸カリウムは、Armand productsから調達し、使用前に乾燥させた。
【0099】
塩化リチウム(無水粉末)は、Acrosから調達した。
【0100】
NaH2PO4・2H2O及びNa2HPO4は、Sigma-Aldrichから購入した。
【0101】
Cabotから市販されているCab-O-Sil(登録商標)M-5。
【0102】
モノマーの調製
1,4-ビス(4’-フルオロベンゾイル)ベンゼン(1,4-DFDK)及び1,3ビス(4’-フルオロベンゾイル)ベンゼン(1,3-DFDK)は、Gilbらの米国特許第5,300,693号明細書(1992年11月25日に出願、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)の実施例1に従ってフルオロベンゼンのフリーデルクラフツアシル化により調製した。1,4-DFDKの一部は、米国特許第5,300,693号明細書に記載されている通りにクロロベンゼン中での再結晶により精製し、1,4-DFDKの一部は、DMSO/エタノール中での再結晶により精製した。DMSO/エタノール中での再結晶により精製した1,4-DFDKを重合反応における1,4-DFDKとして使用して、以下で記載するPEKKを製造し、クロロベンゼン中で再結晶した1,4-DFDKを1,4-ビス(4’-ヒドロキシベンゾイル)ベンゼン(1,4-BHBB)の前駆体として使用した。
【0103】
1,4-BHBB及び1,3-ビス(4’-ヒドロキシベンゾイル)ベンゼン(1,3-BHBB)を、Hackenbruchらの米国特許第5,250,738号明細書(1992年2月24日出願、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)の実施例1に記載の手順に従い、それぞれ1,4-DFDK及び1,3-DFDKの加水分解により製造した。これらをDMF/エタノール中で再結晶化することにより精製した。
【0104】
nPEKK#1の合成 - ルイス酸なし
撹拌機、N2注入管、反応媒体中に入れられた熱電対を備えるClaisenアダプター並びに凝縮器及びドライアイストラップ付きのDean-Starkトラップを備えた500mLの4口反応フラスコに112.50gのジフェニルスルホン、33.390gの1,3-BHBB、6.372gの1,4-BHBB及び41.172gの1,4-DFDKを導入した。フラスコ内容物を真空下で排気し、次いで高純度窒素(10ppm未満のO2を含有する)で充填した。次いで、反応混合物を一定の窒素パージ(60mL/分)下に置いた。反応混合物を270℃までゆっくり加熱した。270℃で13.725gのNa2CO3及び0.086gのK2CO3を60分にわたって粉末ディスペンサーによって反応混合物に添加した。添加の終了時、反応混合物を1℃/分で320℃まで加熱した。320℃で2分後に1.207gの1,4-DFDKを、反応器において窒素パージを保ちながら反応混合物に添加した。5分後、0.529gの塩化リチウムを反応混合物に添加した。10分後、別の0.402gの1,4-DFDKを反応器に添加し、反応混合物を15分間温度に保った。25gのジフェニルスルホンを反応混合物に更に追加充填し、これを撹拌下で15分間保持した。次いで、反応器内容物を反応器からステンレス鋼受皿に注ぎ込み、冷却した。固形物を砕き、2mmスクリーンを通してアトリッションミルで摩砕した。ジフェニルスルホン及び塩をpH1~12のアセトンと水との混合物から抽出した。最後の洗浄のために、0.67gのNaH2PO4・2H2O及び0.62gのNa2HPO4を1200mLのDI水に溶解した。粉末を次に反応器から取り出し、真空下の120℃で12時間乾燥させ、72gの黄色の粉末を得た。最終PEKKポリマーは、58/42のT/I比を有していた。
【0105】
nPEKK#2の合成 - ルイス酸なし
撹拌機、N2注入管、反応媒体中に入れられた熱電対を備えるClaisenアダプター並びに凝縮器及びドライアイストラップ付きのDean-Starkトラップを備えた500mLの4口反応フラスコに112.50gのジフェニルスルホン、31.800gの1,3-BHBB、7.950gの1,4-BHBB及び40.810gの1,4-DFDKを導入した。フラスコ内容物を真空下で排気し、次いで(10ppm未満のO2を含有する)高純度窒素で満たした。次いで、反応混合物を一定の窒素パージ(60mL/分)下に置いた。
【0106】
反応混合物を220℃までゆっくり加熱した。220℃で13.725gのNa2CO3及び0.121gのK2CO3を60分にわたって粉末ディスペンサーによって反応混合物に添加した。添加の終了時、反応混合物を1℃/分で320℃まで加熱した。320℃で120分後に0.805gの1,4-DFDKを、反応器において窒素パージを保ちながら反応混合物に添加した。5分後、0.529gの塩化リチウムを反応混合物に添加した。10分後、別の0.402gの1,4-DFDKを反応器に添加し、反応混合物を15分間温度に保った。
【0107】
次いで、反応器内容物を反応器からステンレス鋼受皿に注ぎ込み、冷却した。固形物を砕き、2mmスクリーンを通してアトリッションミルで摩砕した。ジフェニルスルホン及び塩をpH1~12のアセトンと水との混合物から抽出した。最後の洗浄のために、1.34gのNaH2PO4・2H2O及び1.24gのNa2HPO4を1200mLのDI水に溶解した。粉末を次に反応器から取り出し、真空下の120℃で12時間乾燥させ、72gの黄色の粉末を得た。最終PEKKポリマーは、60/40のT/I比を有していた。残留酸性度及び塩基性度並びにリン含有量は、最終粉末(表1)及びCE1材料で決定された。
【0108】
分析方法
メルトフローインデックスの決定
メルトフローインデックスは、340℃において3.8kgの重量でASTM D1238に従って決定した。表2で示される8.4kgの重量の最終的なMFIは、得られた値に2.35を掛けることによって得られた。
【0109】
ICP-OESによるモノマー及びPEKKポリマー中の元素不純物の決定
清浄な乾燥した白金るつぼを分析天秤の上に置き、天秤をゼロにした。モノマー/ポリマー試料の半分から3グラムをボートに量り取り、その重量を0.0001gと記録した。試料の入ったるつぼをマッフル炉(Thermo Scientific Thermolyne F6000 Programmable Furnace)に入れた。炉を525℃に徐々に加熱し、その温度で10時間保持して試料を乾式灰化した。灰化後、炉温を室温に冷却し、炉からるつぼを取り出し、フュームフード内に配置した。灰を希塩酸中に溶解させた。ポリエチレン製ピペットを使用して、この溶液を25mLの体積フラスコに移した。るつぼは、約5mLの超純水(R<18MΩcm)を用いて2回すすぎ洗い、定量的移動を実行するために洗浄液を体積フラスコに添加した。超純水をフラスコ内に計25mLとなるまで添加した。フラスコの上部に栓をして、内容物が確実に混ざるまで振とうした。
【0110】
ICP-OES分析は、誘導結合プラズマ発光分光器Perkin-Elmer Optima 8300デュアルビューを使用して実施した。発光分光器は、0.0~10.0mg/Lの検体濃度を備えるNISTトレーサブル多要素混合標準物質の組を使用して較正した。48の検体のそれぞれについて、0.9999より優れた相関係数を備える濃度範囲で線形較正曲線を得た。標準物質は、機器安定性を保証するために10の試料毎の前後に実施した。結果は、3回の実験の平均値として報告した。試料中の元素不純物の濃度は、下記の方程式を用いて計算した:
A=(B*C)/(D)
(式中、
A=試料中の元素の濃度、mg/kg(ppm)であり、
B=ICP-OESによって分析された溶液中の元素、mg/Lであり、
C=ICP-OESによって分析された溶液中の体積、mLであり、
D=この手法で使用した試料のグラムでの重量である)。
【0111】
残留酸性度の決定(「残留酸性度試験」)
0.15~0.20gのPEKK試料を滴定容器に量り入れ、8mLのm-クレゾールに溶解した。溶解後、試料を8mLのクロロホルム、50μLの37重量/体積%ホルムアルデヒド水溶液で希釈した。次いで、試料を、2mLのビュレット及びエタノール中の3M LiClで満たされた柔軟なすり合わせダイアフラムを備えたMetrohm複合pH電極(Solvotrode)を有するMetrohm自動滴定装置Titrando809を使用して、メタノール中の標準0.1N KOHで電位差滴定した。滴定溶液の体積に対する滴定装置の読み取り値をプロットし、滴定曲線の変化点で終点を取得した。ブランク溶液は、試料が実行されるたびに同じ条件下で実行した。ブランク値は、試料滴定終点電位と同じmV電極電位を達成するために必要な滴定剤の量から決定した。
【0112】
変数:
V_ブランク - ブランクから等量点に到達するための滴定液の平均量、mL
V_試料 - 試料から等量点に到達するための滴定液の量、mL
W - 試料質量、グラム
N - 滴定の規定度
残留酸性度方程式:
【0113】
残留塩基性度の決定(「残留塩基性度試験」)
0.10~0.15gのPEKK試料を滴定容器に量り入れ、24mLの滴定溶媒(m-クレゾール)に溶解した。次いで、試料を、10mLのビュレット及びエタノール中の3M LiClで満たされた柔軟なすり合わせダイアフラムを備えたMetrohm複合pH電極(Solvotrode)を有するMetrohm自動滴定装置Titrando809を使用して、氷酢酸中の標準0.1N過塩素酸で電位差滴定した。滴定溶液の体積に対する滴定装置の読み取り値をプロットし、滴定曲線の変化点で終点を取得した。それぞれの試料(ブランク溶液を含む)を2回実行し、2つの結果の平均を報告した。
【0114】
変数:
V_ブランク - ブランクから等量点に到達するための滴定液の平均量、mL
V_試料 - 試料から等量点に到達するための滴定液の量、mL
W - 試料質量、グラム
N - 滴定の規定度
残留塩基性度方程式:
【0115】
引張り特性の決定
3つの試験片で0.05インチ/分、室温(即ち23℃)においてASTM法D638に従い、タイプVの引張り試験片を引張り試験に供した。
【0116】
ガラス転移温度及び溶融温度の決定
ガラス転移温度Tg(中点値)及び溶融温度Tmは、ASTM D3418-03、E1356-03、E793-06、E794-06に従って示差走査熱量測定計(DSC)における第2加熱走査で測定した。本発明で使用される手順の詳細を以下に示す:キャリアガスとして窒素(純度99.998%、50mL/分)を用いてTA Instruments DSC Q20を使用した。温度及び熱流量較正は、インジウムを使用して行った。試料サイズは、5~7mgであった。重量は、±0.01mgで記録された。熱サイクルは、
第1の加熱サイクル:20.00℃/分で30.00℃から400.00℃、400.00℃で1分間等温、
第1の冷却サイクル:20.00℃/分で400.00℃から30.00℃、1分間等温、
第2の加熱サイクル:20.00℃/分で30.00℃から400.00℃、400.00℃で1分間等温
であった。
【0117】
溶融温度Tmは、第1又は第2の加熱走査における溶融吸熱のピーク温度として決定した。使用した加熱走査(第1又は第2)を結果に示す。ポリマーが2つの溶融温度を有する場合、高い方のみを提示する。
【0118】
成形又は印刷された試験片の結晶化のレベルの決定
成形又は印刷された試験片の結晶化度は、融解エンタルピーを測定することによって決定される。融解エンタルピーは、ASTM D3418-03、E1356-03、E793-06、E794-06に従い、20℃/分の加熱及び冷却速度を用いて、示差走査熱量計(DSC)において、融解吸熱下の面積から第1の加熱走査における任意の融解発熱下の面積を引いたものとして決定される。それは、Tg超から吸熱の終点を超える温度まで引かれた線形ベースラインにわたる面積として取る。結晶化度は、100%結晶化度が130J/gに対応することを考慮して計算される。
【0119】
PEKKポリマーの特性評価
【0120】
【0121】
PEKK粉末の熱老化
暴露試験のために均一な粒子サイズを確保するため、熱老化用粉末試料(n-PEKK#1)を、1mmスクリーンを使用して、Restch(登録商標)超遠心ミルZM200摩砕機を用いて摩砕した。
【0122】
75gのKepstan(登録商標)6002PEKK(比較)及びnPEKK#1(発明)をアルミローフパンで秤量し、パンを260℃の空気中オーブンに入れ、ファンで744時間加熱した。本老化試験は、SLSプロセスでの複数回のリサイクル時の粉末の安定性を評価することを目的としており、粉末は、約0.5~2.0%の酸素濃度下で融点に近い温度に保たれる。メルトフロー、熱転移及び引張り特性は、老化の前後の試料で測定した。結果を表2及び表3に詳細に記載する。
【0123】
【0124】
引張り試験片の作成
熱老化用引張り試験片を、圧縮成形プロセスを使用して作成した。762mm×762mm×3.2mmのプラークを、次の条件下で25gのポリマーを圧縮成形することによってポリマーから調製した:
343℃で予熱する、
343℃/15分、2000kg-f、
343℃/2分、2700kg-f、
40分かけて30℃まで冷却する、2000kg-f。
【0125】
762mm×762mm×3.2mmの圧縮成形されたプラークをタイプVのASTM引張り試験片に機械加工した。
【0126】
結果
【0127】
【0128】
表2及び表3からの結果は、本発明のnPEKK#1粉末が、比較例1の材料よりも、空気下260℃で粉末の形態ではるかに安定していることを示す。例えば、MFIの変化は、71%未満であるが、Kepstan(登録商標)6002PEKK粉末材料は、熱老化後に全く流動性を示さないことが判明した。
【0129】
本発明のnPEKK#1粉末は、老化後、破断点伸びでKepstan(登録商標)6002PEKK粉末材料の38%と比較して85%を維持した。
【0130】
実施例2.SLS印刷
SLS印刷のための粉末試料をRetsch SR300ローターミルで摩砕した。nPEKK#2(1部)と砕いたドライアイス(2部)とのよく混合されたブレンドを、逆流位置に取り付けられた0.5mm開口のConidurスクリーン及び10,000rpmの速度の標準6ブレードローターを備えたRetschミルの供給ポートにゆっくりと供給した。
【0131】
材料を、樹脂1部とドライアイス2部での砕いたドライアイスとともに、又逆流位置での0.08mmスクリーン及び10,000rpmの標準6ブレードローターを有するRetsch SR300に再ブレンドした。
【0132】
全ての材料が0.08mmの摩砕スクリーンで摩砕されたら、120℃で約16時間真空オーブンにおいて乾燥させた。
【0133】
次いで、粉末を0.5重量%のCab-O-Sil(登録商標)M-5と混合し、回転ドラム式乾燥器(Grievesオーブン)において、280~285℃で窒素下において4~6時間熱処理した。
【0134】
SLS印刷プロセス及び引張り試験片の作成
EOS(登録商標)P800レーザー焼結プリンターを用いて、SLS印刷により引張り試験片を作成した。粉末を、19Wのレーザー出力設定、285℃又は291℃のいずれかの処理温度(Tp)、1.5時間未満の印刷持続時間及び10℃/分未満の冷却速度を使用して焼結して、タイプVのASTM引張り試験片を形成した。
【0135】
結果
結果を表4及び表5に詳細に記載する。
【0136】
【0137】
本データは、(未焼結粉末の100%リサイクルのプロセスで)SLSを介して印刷された引張り棒からの機械的結果を示す。SLSの性質のため、粉末は、表2と同様の別のタイプの熱老化プロセスに供される。データは、PEKK#2粉末が安定であることを示す。材料は、93%の引張り強度を保持し、破断点伸びの損失を示さなかった。
【0138】
【0139】
同様に、本データは、リサイクルされた粉末が繰り返しごとに40重量%の新しい粉末でリフレッシュされることを除いて、SLSプロセスからの機械的結果の詳細も示す。この場合、粉末は、機械的特性を失うことなく更に高い安定性を示す。
【0140】
実施例3.PEKK及びリン酸マグネシウムのブレンド(比較)の熱老化
中国特許出願公開第108606860A号明細書の実施例2を複製し、PEKKのリン酸マグネシウムとのブレンドを調整した。Kepstan(登録商標)6002PEKKを使用した。
【0141】
ブレンドは、実施例1に記載された方法に従って特性評価した。
【0142】
【0143】
【0144】
次いで、ブレンドを、次の定義された熱処理条件:空気中260℃で744時間に暴露した。熱処理の前後にメルトフローインデックスを測定した。結果を表8に示す。中国特許出願公開第108606860号明細書に記載されたブレンドは、熱処理条件下で安定ではなく(MFIの-100%変化)、リン酸マグネシウムとの粉末複合材料が本発明のPEKKと同じ安定性を示さないことを示す。
【0145】