(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】紫外線吸収性眼用レンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/04 20060101AFI20231211BHJP
C08F 20/02 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
G02C7/04
C08F20/02
(21)【出願番号】P 2021527059
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(86)【国際出願番号】 AU2019051356
(87)【国際公開番号】W WO2020118361
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-08-19
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】000131245
【氏名又は名称】株式会社シード
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆郎
(72)【発明者】
【氏名】山崎 佳子
(72)【発明者】
【氏名】バスキ,ジョアン セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ヒューズ,ティモシー チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】マクドナルド,ジェームズ マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ケンピネン,キモ ペッテリ
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0242274(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0242275(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0082019(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0141293(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0095235(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0063567(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0120939(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0043066(US,A1)
【文献】特開平11-292938(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103374097(CN,A)
【文献】特開2018-66997(JP,A)
【文献】特表2017-531074(JP,A)
【文献】特表2017-512879(JP,A)
【文献】特開2016-109830(JP,A)
【文献】特表2013-504682(JP,A)
【文献】特表2012-513998(JP,A)
【文献】特表2010-526077(JP,A)
【文献】特表2002-514662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/02
G02C 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
U-L-Py(I)
の重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を含むハイドロゲルポリマーを含む眼用レンズであって、
式中:
Uは、
式(IV):
【化1】
の構造を有し、
式中、
R
2
は、H及びC
1
~C
5
アルキルから選択され;
R
4
は、リンカー(L)への結合点を表し、
R
3
は、H、ハロ、CF
3
から選択される;又は、
式(V):
【化2】
の構造を有し、
式中、
R
5a
、R
5b
及びR
5c
は、それぞれ独立して、H、ハロ、ヒドロキシル、C
1
~C
6
アルキル、C
1
~C
6
アルコキシ、カルボキシレート、スルホネート、C
6
~C
10
アリール、及び置換アリールの基からなる群から選択され、
R
6
及びR
7
は、それぞれ独立して、H及びOHから選択されるが、但し、R
6
及びR
7
は同一ではなく、
R
8
は、H及びスルホネートから選択され、かつ
R
9
は、リンカー(L)への結合点である、紫外線吸収性部分であり;
Lは、
式(Z1)、(Z2)、(Z3)、(Z4)、(Z5)、(Z6)、(Z7)及び(Z8):
【化3】
から選択される部分を含み、
式中、
【化4】
は、式(I)の重合性紫外線吸収剤の残りの部位を表す、親水性非ポリアルキレングリコールリンカーであり;かつ
Pyは、
アクリレート部位、アクリルアミド部位、メタクリレート部位及びメタクリルアミド部位から選択される、エチレン性不飽和重合性部分である、
前記眼用レンズ。
【請求項2】
ハイドロゲルポリマーは、少なくとも2つの異なる重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を含み、重合性紫外線吸収剤の少なくとも1つは、式(I)の重合性紫外線吸収剤である、請求項
1に記載の眼用レンズ。
【請求項3】
ハイドロゲルポリマーは、モノマー単位の総重量に基づいて、約0.1~約10wt%の重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を含む、請求項
2に記載の眼用レンズ。
【請求項4】
式(I)の重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基に加えて、ハイドロゲルポリマーは、アクリロイルモノマー、メタクリロイルモノマー、及びそれらの組み合わせから選択されるエチレン性不飽和モノマーに由来する重合残基を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の眼用レンズ。
【請求項5】
ハイドロゲルポリマーは、エチレン性不飽和架橋剤に由来する重合残基を含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の眼用レンズ。
【請求項6】
コンタクトレンズ又は眼内レンズである、請求項1~
5のいずれか一項に記載の眼用レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線吸収性眼用レンズに関する。特に、本発明は、紫外線を吸収することができる重合性親水性非ポリアルキレングリコール紫外線吸収剤を含んで形成されたハイドロゲルポリマーからなる紫外線吸収性眼用レンズに関する。
【0002】
コンタクトレンズや眼内レンズなどの眼用レンズは、特定の視力障害を改善するために眼内または眼上に配置される眼科用デバイスである。
【0003】
具体的に、コンタクトレンズとは、薄い形状のフィルムを角膜上に装着して視力を矯正するものである。コンタクトレンズの素材にはハードタイプとソフトタイプとがあり、後者が主に用いられている。コンタクトレンズの快適性(柔らかさ、濡れ性など)や安全性(酸素透過性の向上)の改善により、眼鏡を超える普及となっている。また、眼内レンズ(IOL:Intraocular lenses)は、白内障手術で水晶体を摘出した際に、水晶体の代わりに眼内に移植するための人工レンズである。
【0004】
コンタクトレンズは、含水率や酸素透過性の度合いによって大別される。最初に開発され、現在も販売されているコンタクトレンズは、(メタ)アクリレート系のハイドロゲルタイプのレンズである。これらのレンズは一般的に酸素透過性が低く、形状はハードタイプとソフトタイプが存在する。ハードレンズは、含水率が比較的低く、かつ支持されない状態で自身の形状を維持するもので、ポリメチルメタクリレート(PMMA)や、酢酸セルロースブチレート(CAB)などの透明な光学特性を持つポリマーで作られている。ソフトレンズは、一般的に親水性や含水率が高く、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)などの親水性モノマーを使用して製造することができる。
【0005】
1990年代には、シリコーンハイドロゲルレンズが開発された。これらのレンズは、一般的に、高い酸素透過性と低い含水率を示す。シリコーンハイドロゲルレンズには、ポリシロキサン(シリコーン樹脂)、フルオロポリマー、及びフルオロシロキサンなどがある。シリコーンハイドロゲルは、角膜への酸素供給量を増加することができるため、一晩中安全に装用することができ、日常的に装用しても一晩中で装用しても、低酸素症をほぼ解消することができる。現在、シリコーンハイドロゲルレンズは、処方されるレンズの半分以上を占めている。
【0006】
シリコーンハイドロゲルは、酸素透過性を向上させることができる一方で、様々なシロキサン成分が含まれているため、一般的に、非シリコーンハイドロゲルに比べて疎水性が高い。そのため、シリコーンに触れることによる、予期せぬ不快感や乾燥感、場合によっては、表面の重度の沈着、コンタクトレンズ誘発性乳頭結膜炎(CLPC)、結膜の炎症、角膜の着色などが起こるという報告も存在している。それにもかかわらず、1日使い捨てレンズの装用者の間では、HEMA系ハイドロゲルとシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの双方に依然として需要がある。ハイドロゲルレンズは、シリコーン系のレンズと比較して安定性が高いことから、眼内レンズとしても引き続き有用である。
【0007】
紫外線による害への意識の高まりに応えて、紫外光から眼のいくらかの保護を提供する眼用レンズが開発されている。紫外線暴露は、急性的・慢性的に関わらず、角膜に損傷を与え、白内障、雪眼炎、加齢性黄斑変性症(AMD)などの疾患を引き起こす可能性がある。当初、眼用レンズに組み込まれた紫外線吸収剤は、数十年に渡り、紫外線による劣化に対して汎用ポリマーを安定化するために使用されてきた化合物であった。このような化合物は、通常、ベースポリマーに混ぜ込むだけでの方法でレンズに組み込まれていた。
【0008】
コンタクトレンズに使用される、いくつかの公知の紫外線吸収性化合物は、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、およびトリアジン系に属する。各系は、各々特有の紫外線吸収特性を有する。例えば、ベンゾフェノン系とトリアジン系は、ベンゾトリアゾール系よりも短波長側のUV-B領域でより強く吸収を示す傾向があり、2-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]エチルメタクリレートまたはHB7(CAS:96478-09-0)は、コンタクトレンズ産業において重合性紫外線吸収剤として広く使用されている。
【0009】
しかしながら、紫外線吸収剤を単純にベースポリマーに混ぜ込むだけでの方法で用いた場合、ポリマーの使用時に吸収剤がポリマー内部から浸出するという問題が生じる。そのため、ベースポリマーに対し共有結合することができる重合性紫外線吸収剤が好ましく用いられる場合が多い。
【0010】
多数の重合性紫外線吸収性化合物が開示されている。例えば、新しいクラスのスチレン系ベンゾトリアゾールは、ソフトコンタクトレンズに有用であるとして米国特許第5637726号に開示されている。重合性基を含むベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤の他の誘導体もまた、日本公開特許第2002/521705号、国際公開第2006/096422号、米国特許第7915322号、米国特許第7803359号、米国特許第8043607号、中国特許第103374097号、および欧州特許第1077952号などに開示されている。例えば、国際公開第2006/096422号には、2-[3’-t-ブチル-5’-(メタクリロキシプロピル)-2’-ヒドロキシフェニル]-5-クロロベンゾトリアゾール系紫外線吸収性モノマーを用いた高分子量の親水性ポリマーの形成が開示されている。
【0011】
紫外線吸収剤を配合したコンタクトレンズは、紫外線防止効果のレベルに応じてクラスIとクラスIIに分類される。米国国家規格協会(ANSI)では、UVR-Aを90%、UVR-Bを99%吸収するコンタクトレンズをクラスIに、UVR-Aを70%、UVR-Bを95%吸収するコンタクトレンズをクラスIIに分類している。国際標準化機構(ISO)は、UVR-Aを>90%、UVR-Bを>99%吸収するコンタクトレンズをクラスIに、UVR-Aを>50%、UVR-Bを>95%吸収するコンタクトレンズをクラスIIに分類している。
【0012】
しかしながら、クラスI、およびクラスIIのハイドロゲルベースのコンタクトレンズを形成するには、いくつかの課題を有している。一つ目の課題として、多くの紫外線吸収剤が疎水性であることが挙げられる。紫外線吸収剤が疎水性であることにより、ハイドロゲルを形成するモノマーとの相溶性が限られており、所望の紫外線吸収基準を満たす紫外線吸収性ハイドロゲルの眼用レンズの合成が困難になる可能性がある。また、ハイドロゲルポリマーに紫外線吸収剤を使用すると、ハイドロゲルの含水率や光学的透明性などの特性が損なわれる可能性がある。場合によっては、紫外線吸収剤は、ハイドロゲルの耐久性や柔軟性、および滅菌形態に対する安定性にも悪影響を及ぼす可能性がある。さらに、ベンゾトリアゾール系化合物を使用する場合、眼用レンズが目標とする紫外線吸収基準を満たすためには、高濃度の紫外線吸収性化合物が必要となるため、UVA領域の上限や、可視光領域の光を大量に吸収してしい、その結果、レンズが好ましくない黄色味を帯びてしまうことがある。また、眼用レンズに大量の紫外線吸収剤を使用した場合、装用中に過剰な紫外線吸収剤が眼に浸出する危険も有している。
【0013】
米国特許第4963160号において、Hungらは、UV吸紫外線吸収スペクトルの異なる2種類の紫外線吸収剤をトリアジン誘導体に組み込み、次いでこれをポリマーコンタクトレンズ表面に塗布しコーティングすることで、前記の課題の一部を解決することを提案している。
【0014】
また、p-アミノ安息香酸とベンゾトリアゾール、p-アミノ安息香酸とベンゾフェノンなどの紫外線吸収性化合物の組み合わせを含む紫外線吸収剤についても、当該先行文献に開示されている。しかしながら、これらの紫外線吸収性化合物を眼用レンズにおいて使用する場合、紫外線吸収性化合物をモル比1対1(1:1)でしか使用できないため、眼用レンズの紫外線吸収スペクトルを最適化することができず、一定の制限がある。
【0015】
国際公開第2009/021097号には、シリコーン含有コンタクトレンズ、特に眼内レンズに有用な新規の紫外線吸収剤が開示されており、眼内レンズにおいて特に有用な特性である紫外線と青色光の両方を吸収する能力が有することが開示されている。
【0016】
また、ハイドロゲル材料に配合するために、ポリエチレングリコール(PEG)リンカーを介してメタクリレートなどの重合性基に結合する紫外線吸収性部位を有するモノマーが、中国特許第103374097号に開示されている。しかしながら、PEG含有の紫外線吸収モノマーを用いて形成されたハイドロゲルレンズの含水率および紫外線吸収性は、場合によっては許容される業界基準を下回ることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】米国特許第5637726号
【文献】日本公開特許第2002/521705号
【文献】国際公開第2006/096422号
【文献】米国特許第7915322号
【文献】米国特許第7803359号
【文献】米国特許第8043607号
【文献】中国特許第103374097号
【文献】欧州特許第1077952号
【文献】米国特許第4963160号
【文献】国際公開第2009/021097号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、先行技術の1つ又は複数の課題を改善または克服し、少なくともハイドロゲル材料として許容できる規格を満たしながら、紫外線を効果的に吸収することができる紫外線吸収性ハイドロゲル眼用レンズを提供することを目的とする。
【0019】
文献、行為(act)、材料、装置、記事などの考察は、本発明の文脈を提供する目的でのみ本明細書に含まれる。これらの事項のいずれかまたは全てが、本出願の各請求項の優先日よりも前の時点において、先行技術の基礎の一部を形成するものではなく、または本発明に関連する分野の一般的な知識であったことを示唆または表明するものではない。
【0020】
本発明は、一般的に、眼上又は眼内で使用するための紫外線吸収性眼用レンズに関するものである。本発明は、ハイドロゲル材料としての許容できる特性を保持しつつ、効果的な紫外線吸収性を有するハイドロゲル眼用レンズを提供することを目的とするものである。
【0021】
第1の態様では、本発明は、式(I):
U-L-Py(I)
の重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を含むハイドロゲルポリマーを含む眼用レンズを提供し、
式中:
Uは、紫外線吸収性部分であり;
Lは、アニオン性、双性イオン性、又は糖の部分を含む親水性非ポリアルキレングリコールリンカーであり;かつ
Pyは、エチレン性不飽和重合性部分である
【0022】
第1の態様における眼用レンズの実施態様において、親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、少なくとも4個の炭素原子を含む。
【0023】
第1の態様における眼用レンズの実施態様において、親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、カルボキシレート、スルホネート、サルフェート、ホスフェート、ホスホネート、アンモニウム、及びそれらの組み合わせから選択される構造を含む。
【0024】
第1の態様における眼用レンズの実施態様において、親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、及び(IIe):
【化1】
から選択される部位を含み、
式中、R
1は、それぞれの出現部位において独立して、H及びC
1~C
4アルキルから選択され、
【化2】
は、式(I)の重合性紫外線吸収剤の残りの部位を表す。
【0025】
第1の態様における眼用レンズの実施態様において、親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)及び(IIId):
【化3】
から選択される構造を有し、
式中:
R
1は、それぞれの出現部位において独立して、H及びC
1~C
4アルキルから選択され;
Zは、存在しないか、又はヘテロ原子であり;
Uは、紫外線吸収性部分であり;かつ
Pyは、エチレン性不飽和重合性部分である。
【0026】
第1の態様における眼用レンズの実施態様において、親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、糖構造を含む。糖構造は、環状又は非環状の態様であり得る。一実施態様において、(L)は、フラノース、ピラノース、及びアミノ糖から選択される環状糖構造を含む。特定の実施態様においては、親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、グルコピラノース構造又はグルコサミン構造を含む。
【0027】
第1の態様における眼用レンズの実施態様において、親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、式(Xa)及び(Xb):
【化4】
から選択される構造を有し、
式(Xa)及び(Xb)中、
R
1aは、それぞれの出現にて、独立して、H及びC
1~C
4アルキルから選択され;
Zは、存在しないか、又はヘテロ原子であり;
Uは、紫外線吸収性部分であり;かつ
Pyは、エチレン性不飽和重合性部分である。
【0028】
第1の態様における眼用レンズの実施態様において、重合性紫外線吸収剤の紫外線吸収性部位は、UV-A及び/又はUV-Bの領域の放射線を吸収することができる。
【0029】
第1の態様における眼用レンズのいくつかの実施態様において、重合性紫外線吸収剤の紫外線吸収性部位(U)は、ベンゾトリアゾール構造又はベンゾフェノン構造である。
【0030】
第1の態様における眼用レンズのいくつかの実施態様において、重合性紫外線吸収剤の紫外線吸収性部位(U)は、式(IV):
【化5】
の構造を有し、
式中、
R
2は、H及びC
1~C
5アルキルから選択され;
R
3又はR
4は、リンカー(L)への結合点を表し、
かつ、式中、
R
3がリンカー(L)への結合点である場合、R
4は、H、アルキル及びアルコキシか
ら選択され;又は
R
4がリンカー(L)への結合点である場合、R
3は、H、ハロ、CF
3から選択され
る。
【0031】
第1の態様における眼用レンズのいくつかの実施態様において、重合性紫外線吸収剤の紫外線吸収性部位(U)は、式(V):
【化6】
の構造を有し、
式中、
R
5a、R
5b及びR
5cは、それぞれ独立して、H、ハロ、ヒドロキシル、C
1~C
6アルキル、C
1~C
6アルコキシ、カルボキシレート、スルホネート、C
6~C
10アリール、及び置換アリールの基からなる群から選択され;
R
6及びR
7は、それぞれ独立して、H及びOHから選択されるが、但し、R
6及びR
7は同一ではなく;
R
8は、H及びスルホネートから選択され;かつ
R
9は、リンカー(L)への結合点である。
【0032】
第1の態様における眼用レンズのいくつかの実施態様において、重合性紫外線吸収剤は、アリル、ビニル、アクリロイル、メタクリロイル、及びスチレニルから選択されるエチレン性不飽和重合性構造を含む。
【0033】
第1の態様における眼用レンズのいくつかの実施態様において、ハイドロゲルポリマーは、少なくとも2つの異なる重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を含み、重合性紫外線吸収剤の少なくとも1つは、式(I)の重合性紫外線吸収剤である。
【0034】
第1の態様における眼用レンズのいくつかの実施態様において、ハイドロゲルポリマーは、ポリマー中のモノマー単位の総重量に基づいて、約1.0~約10wt%の2つ以上の重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を含み、紫外線吸収剤の少なくとも1つは、式(I)の重合性紫外線吸収剤である。
【0035】
第1の態様における眼用レンズのいくつかの実施態様において、ハイドロゲルポリマーは、アクリロイルモノマー、メタクリロイルモノマー、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマーに由来する重合残基を含む。
【0036】
第1の態様における眼用レンズのいくつかの実施態様において、ハイドロゲルポリマーは、エチレン性不飽和架橋剤に由来する重合残基を含む。
【0037】
本発明において、眼用レンズは、コンタクトレンズ又は眼内レンズであり得る。
【0038】
本明細書および特許請求の範囲では、文脈上別段の定めがない限り、「comprise」という単語、及び「comprises」や「comprising」などの変化形は、記載された整数または工程、或いは、整数または工程の群を含むことを意味するが、他の整数または工程、或いは、整数または工程の群を除外することを意味するものでないことを理解されたい。
【0039】
本発明の実施態様を、非限定的な図面を参照して以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、糖リンカー、アニオン性リンカー、及び双性イオン性リンカーと、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾールの紫外線吸収部位を有する紫外線吸収剤を用いて形成したハイドロゲルサンプルの紫外線吸収性能及び含水率の変化(ブランクに対するΔWC%)の結果を、紫外線吸収剤を用いないブランクのハイドロゲルサンプルと比較して示したグラフである。
【
図2】
図2は、糖リンカー、アニオン性リンカー、及び双性イオン性リンカーと、ベンゾフェノンの紫外線吸収部位を有する紫外線吸収剤を用いて形成したハイドロゲルサンプルの紫外線吸収性能及び含水率の変化(ブランクに対するΔWC%)の結果を、紫外線吸収剤を用いないブランクのハイドロゲルサンプルと比較して示したグラフである。
【
図3】
図3は、糖リンカー、アニオン性リンカー、双性イオン性リンカーと、いずれかの紫外線吸収部位(ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾールHB-7、又は、ベンゾフェノンBP-15)を有する重合性紫外線吸収剤を用いて形成したハイドロゲルサンプルの平均可視光(400~500nm)透過率の変化(ブランクに対するΔT%)の結果を示したグラフである。
【
図4】
図4は、アニオン性リンカーを有する重合性紫外線吸収剤(HB7-Cys-MA)を異なる濃度で使用し、他の紫外線吸収剤(HB7又はBP15-Cys-MA)と混合して形成したハイドロゲルサンプルの紫外線吸収性能及び含水率の変化(ブランクに対するΔWC%)の結果を示したグラフである。
【
図5】
図5は、アニオン性リンカーを有する重合性紫外線吸収剤(HB7-Cys-MA)を異なる濃度で使用し、他の紫外線吸収剤(HB7又はBP15-Cys-MA)と混合して形成したハイドロゲルサンプルの平均可視光(400~500nm)透過率の変化(ブランクに対するΔT%)を、紫外線吸収剤を用いないブランクのハイドロゲルサンプルと比較して示したグラフである。
【
図6】
図6は、アニオン性リンカーを有する重合性紫外線吸収剤(HB7-Cys-MA)を異なる濃度で使用して形成したイオン性ハイドロゲルサンプルの紫外線吸収性能及び含水率の変化(ブランクに対するΔWC%)の結果を示したグラフである。
【
図7】
図7は、アニオン性リンカーを有する重合性紫外線吸収剤(HB7-Cys-MA)1.0%及び2.0%と、市販の重合性紫外線吸収剤0.5%及び1.0%とを用いて形成したイオン性ハイドロゲルサンプルの紫外線吸収性能及び含水率の変化(ブランクに対するΔWC%)の結果を示したグラフである。
【
図8】
図8は、ヒドロキシエチルメタクリレート中0.04mMの濃度のアニオン性リンカーを有する紫外線吸収剤(HB7-Cys-MA、HBE-Glu-MA、HBA-Lys-MA)の透過率を、ブランクサンプル(紫外線吸収剤なし)と比較して示したグラフである。
【
図9】
図9は、工業的に使用されている紫外線吸収剤(HB7)、HB7とは異なる市販の紫外線吸収剤(BP15)とHB7の混合物(いずれも親水性非ポリアルキレングリコールリンカーを有さない)、PEGリンカーを有する紫外線吸収剤(HB7-PEGMA、BP15-PEGMA)及びカチオン性リンカーを有する紫外線吸収剤(HB7-DMAEMA)を、本発明で使用されるのと同等の濃度で使用して形成した比較例のハイドロゲルサンプル(本発明ではない)の紫外線吸収性能及び含水率の変化(ブランクに対するΔWC%)の結果を示したグラフである。
【
図10】
図10は、工業的に使用されている紫外線吸収剤(HB7)、異なる市販の紫外線吸収剤(BP15)(いずれも親水性非ポリアルキレングリコールリンカーを有さない)、PEGリンカーを有する紫外線吸収剤(HB7-PEGMA、BP15-PEGMA)及びカチオン性リンカーを有する紫外線吸収剤(HB7-DMAEMA)を、本発明で使用されるのと同等の濃度で使用して形成した比較例のハイドロゲルサンプル(本発明ではない)の平均可視光(400~500nm)透過率の変化(ブランクに対するΔT%)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
詳細な説明
本明細書では、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、単数形のみを指定するように明示的に記載されていない限り、単数形と複数形との両方を示す。
【0042】
「約」という用語、および一般的な範囲の使用は、「約」という用語で修飾されているか否かにかかわらず、包含される数が本明細書に記載されるとおりの正確な数に限定されないことを意味し、本発明の範囲から逸脱せずに、引用された範囲内に実質的に含まれる範囲を参照することを意図することを意味している。本明細書で使用される「約」は、当業者であれば理解できるものであり、使用される文脈によってある程度変化するものである。使用されている文脈を考慮しても当業者には明らかでない用語の使用がある場合、「約」は、特定の用語の±10%までを意味する。
【0043】
本明細書で使用される全てのパーセンテージ(%)は、特に明記しない限り、重量パーセンテージ(w/w又はw/v)である。
【0044】
本明細書で使用されるポリマー分子量は、特に明記しない限り、数平均分子量(Mn)である。
【0045】
本明細書では、「親水性」という用語は、化合物、分子、基、または部位が水に対して親和性を有し、したがって水性媒体に適合し、水性媒体に可溶であり得ることを意味する。好ましい水性媒体は、水性溶媒(水又は水を含む溶媒など)または水溶液(緩衝塩溶液など)が挙げられる。いくつかの実施態様では、親水性化合物、分子、基、または部位は、25℃の水100gあたり少なくとも10gの水への溶解性を有していてもよい。
【0046】
本発明は、一般的に、眼上又は眼内で使用するための紫外線吸収性眼用レンズに関するものであり、ハイドロゲル材料として許容される特性を保持しつつ、効果的な紫外線吸収性をも有するハイドロゲル眼用レンズを提供しようとするものである。
【0047】
本発明に関連して形成される眼用レンズは、対象の眼上又は眼内に配置することを意図した眼科用デバイスである。眼用レンズの例として、コンタクトレンズ、眼内レンズなどが挙げられる。
【0048】
一態様では、本発明は、式(I):
U-L-Py(I)
の重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を含むハイドロゲルポリマーを含む眼用レンズを提供し、
式中:
Uは、紫外線吸収性部分であり;
Lは、アニオン性、双性イオン性、又は糖の部分を含む親水性非ポリアルキレングリコールリンカーであり;かつ
Pyは、エチレン性不飽和重合性部分である。
【0049】
式(I)の紫外線吸収剤を重合することにより、眼用レンズの用途に適した特性を持つハイドロゲルが得られることが見出された。特に、このような紫外線吸収剤に由来するハイドロゲルを含む眼用レンズは、驚くべきことに、高い含水率/保持力及び、紫外線吸収特性を有することが見出された。このような特性を得るためには、理論にとらわれず、リンカー(L)の態様が重要な役割を果たしていると考えられる。
【0050】
ハイドロゲルは、水溶液によって膨潤し、ポリマーマトリックス内部に水溶液を保持する能力を有するポリマーの一種として定義される。膨潤した状態のポリマーは、水溶液に溶解しないように架橋されたポリマー鎖の三次元ネットワークを持つゲルとして存在する。ハイドロゲルには、親水性ポリマーとシリコーンポリマーのような2種類以上のポリマーの相互侵入ネットワーク構造よりなる、シリコーンハイドロゲルも含まれる。ハイドロゲルは、水溶液を含有することにより、一般的に生物学的環境に適合していることから、コンタクトレンズや眼内レンズなど、被験者の眼に装着することを目的とした眼用レンズの製造に使用することができる。
【0051】
便宜上、ハイドロゲルのネットワークポリマー成分は、本明細書では「ハイドロゲルポリマー」と呼ばれることもある。
【0052】
ハイドロゲルポリマーは、有効量の式(I)で示される重合性紫外線吸収剤を、少なくとも1つの適切なコモノマーと重合することにより形成することができる。これにより、式(I)の重合性紫外線吸収剤が、少なくとも1つのコモノマーとともに、ポリマー中の重合残基として共有結合により組み込まれる。コモノマーと式(I)の紫外線吸収剤をハイドロゲルポリマー中の重合残基として組み込むことにより、効果的な紫外線吸収性を有する眼用レンズを形成することが可能となる。
【0053】
本明細書に記載のハイドロゲルポリマーは、少なくとも1つの式(I)の重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を含む。式(I)の重合性紫外線吸収剤は、眼用レンズに紫外線吸収特性を付与するために、単独で、または少なくとも1つの他の重合性紫外線吸収剤と組み合わせて使用することができる。式(I)の紫外線吸収剤と組み合わせて使用することができる他の重合性紫外線吸収剤は、本明細書に記載されている。
【0054】
式(I)の紫外線吸収剤は、親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)を介して、エチレン性不飽和重合性部位に結合した紫外線吸収性部位を有するモノマーである。
【0055】
式(I)のリンカー(L)が「非ポリアルキレングリコールリンカー」であるとは、ポリアルキレングリコール(C2~C4ポリアルキレングリコールなど、例えばポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコール)に由来する、またはポリアルキレングリコールから構成される部位を含まないことを意味する。例えば、非ポリアルキレンリンカーは、-(C2H4O)n-、-(CH(CH3)CH2O)n-、又は-(CH2CH(CH3)O)n-の構造を有する部位を含んでおらず、ここで、nは、2~10の範囲の整数である。
【0056】
親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、紫外線吸収剤の紫外背塩吸収性部位(U)とエチレン性不飽和重合性部位(Py)との間に配置され、紫外線吸収性部位とエチレン性不飽和重合性部位とが互いに共有結合することに作用する。
【0057】
式(I)の紫外線吸収剤に含まれる非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、親水性であることが重要である。親水性リンカーの存在は、紫外線吸収剤、および紫外線吸収剤を含むポリマー材料の水性環境との相溶性を改善するのに役立つと考えられるからである。一般的に使用されている紫外線吸収剤は疎水性であるが、分子内に親水性の非ポリアルキレングリコールリンカーを導入することで、得られるハイドロゲルにも親水性を付与することとなるため、光学的透明性や含水率などのベースのハイドロゲルの特性が、ハイドロゲルポリマーへ紫外線吸収剤の組み込んだことで、許容できないほどの変化が生じないようにすることができる。また、親水性であることは、重合性紫外線吸収剤が、ハイドロゲルを形成する他の成分と十分に適合することにすることにも役立つ。
【0058】
いくつかの実施態様では、非ポリアルキレングリコールリンカーの親水性は、非ポリアルキレングリコールリンカーを含む紫外線吸収剤の、水又は水を含む溶液(例えば、水性モノマー溶液)などの水性液体への溶解性を評価することによって決定することができる。例えば、場合によっては、(親水性リンカーを持たず、一般的に疎水性であると考えられている)2-[3-(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]エチルメタクリレート(HB-7)及び2-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレート(BP15)などの市販の紫外線吸収剤の量と比較して、より多くの式(I)の紫外線吸収剤を水性液体に溶解できることが見出された。水性液体に式(I)の紫外線吸収剤をより多量に溶かすことができるということは、紫外線吸収剤のリンカー部位が親水性であることを示し、分子の親水性にも影響を与え得ることを示すものである。
【0059】
ハイドロゲルのポリマー成分は、式(I)の重合性紫外線吸収剤の重合残基を含み、式中、Lは、アニオン性、双性イオン性、又は糖の部分を含む親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)である。
【0060】
理論的に制限されることを望むものではないが、このようなリンカー(L)の使用は、ハイドロゲルの他の成分(ハイドロゲルの水性液体成分中の塩など)や眼用レンズとの静電的相互作用を促進するのに好ましいと考えられる。したがって、結果として得られるハイドロゲルが水を引き付け/保持するのを助け、ハイドロゲル材料の眼内環境への適合性を高めると考えられる。
【0061】
当業者であれば、アニオン性部位は負の電荷を有し、双性イオン性部位は負と正の両方の電荷を有することを理解できるであろう。
【0062】
本明細書において、非ポリアルキレンリンカーにおける「正」または「負」の電荷についての言及は、その部位がそれぞれ正または負の電荷を有する官能基を含むことを意味することを意図している。もちろん、官能基は、最初は非荷電状態であって、その後、電荷を帯びた状態に変化してもよい。したがって、荷電部位はもともと電荷を帯びていてもよいし、例えば求電子試薬の添加または除去によって荷電状態に変換することが可能であってもよい。
【0063】
正電荷の場合、官能基は、第四級アンモニウム官能基または部位のような固有の電荷を有していてもよいし、官能基自体は非荷電であっても、例えば、pHに依存して第三級アンモニウムカチオンを形成したり、第三級アミン基を四級化するなどしてカチオンを形成することにより帯電していてもよい。
【0064】
負の電荷の場合、官能基は、例えば、負の電荷をもたらす有機酸塩から構成されていてもよいし、官能基自体は非荷電であっても、例えば、pHに依存した酸性プロトンの除去によってアニオンを形成するように帯電可能な酸性部位から構成されていてもよい。
【0065】
一組の実施態様では、親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、カルボキシレート、スルホネート、サルフェート、ホスフェート、ホスホネート、及びアンモニウム、並びにそれらの組み合わせから選択される荷電部分を含む。いくつかの実施態様の荷電部分は、好ましくは、親水性リンカー構造における大きな荷電基の一部である。
【0066】
一組の実施態様では、親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、アニオン性部分を含む。そのようなアニオン性部分は、カルボキシレート、スルホネート、サルフェート、ホスフェート、及びホスホネートの部分から選択され得る。
【0067】
別の一つの実施態様では、親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、双性イオン性部位を含む。双性イオン性部位は、負と正の両方の電荷を有するもので、例えば、カチオン性のアンモニウム部位分と、アニオン性のカルボキシレート、スルホネート、サルフェート、ホスフェートまたはホスホネート部位との組み合わせなどが挙げられる。双性イオン性部位の例としては、カルボキシベタイン、スルホベタイン、ホスホリルコリンなどの部位が挙げられる。
【0068】
一つの実施態様では、親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、少なくとも4個の炭素原子からなる。いくつかの実施態様では、非ポリアルキレングリコールリンカーは、少なくとも5個、少なくとも6個、または少なくとも7個の炭素原子からなる。リンカーは、好ましくは脂肪族部位であることができ、直鎖状または環状であってもよい。いくつかの実施態様では、非ポリアルキレングリコールリンカーの構造の一部を形成する1つまたは複数のヘテロ原子があってもよい。ヘテロ原子の例としては、窒素(N)、酸素(O)および硫黄(S)のヘテロ原子が挙げられる。理論によって限定されることを望むものではないが、リンカー(L)が少なくとも4つの炭素原子からなることによって、リンカーと紫外線吸収部位との間の有害な干渉を最小限にすると考えられる。リンカーが少なくとも4つの炭素原子からなることによって、紫外線吸収部位の紫外線吸収特性を最大化できることが見出されている。
【0069】
いくつかの実施態様では、式(I)の重合性紫外線吸収剤の親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、及び(IIe):
【化7】
から選択される荷電部位を含み得る。
【0070】
式(I)の重合性紫外線吸収剤の親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)はまた、式(IIf)、(IIg)、(IIh)及び(IIi):
【化8】
から選択される荷電部位を含み得る。
【0071】
特に、上記式の(IId)及び(IIe)において、R
1は、それぞれの出現部位において独立して、H及びC
1~C
4アルキルから選択される。好ましいC
1~C
4アルキルは、メチルである。
【化9】
は、式(I)の重合性紫外線吸収剤の残りの部位を表す。
【0072】
式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(IIf)、(IIg)、(IIh)及び(IIi)で示されるような荷電部位は、アミノ酸、アミン(第一級、第二級、第三級アミンを含む)、環状リン酸塩化合物などの適切な前駆体化合物から誘導され得る。
【0073】
いくつかの実施態様では、荷電部位は、アミノ酸に由来するものであってもよい。具体的なアミノ酸として、システイン、アスパラギン酸、およびリジンが挙げられる。アミノ酸は、式(IIa)、(IIb)および(IIc)の荷電部位を形成するのに有効である。
【0074】
本発明の眼用レンズの特定の実施態様では、ハイドロゲルは、式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、及び(IIId):
【化10】
から選択される構造を有する親水性非ポリアルキレングリコールリンカーを含む重合性紫外線吸収剤の重合残基を含むポリマー成分を有し得、
式中:
R
1は、それぞれの出現にて、独立して、H及びC
1~C
4アルキルから選択され;
Zは、存在しないか、又はヘテロ原子であり;
Uは、UV吸収性部分であり;かつ
Pyは、エチレン性不飽和重合性部分である。
【0075】
ハイドロゲルはまた、式(IIIe)、(IIIf)、及び(IIIg):
【化11】
から選択される構造を有する親水性非ポリアルキレングリコールリンカーを含む重合性紫外線吸収剤の重合残基を含むポリマー成分を有し得、
式中:
R
1は、それぞれの出現にて、独立して、H及びC
1~C
4アルキルから選択され;
Zは、存在しないか、又はヘテロ原子であり;
Uは、UV吸収性部分であり;かつ
Pyは、エチレン性不飽和重合性部分である。
【0076】
式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)、(IIIe)、(IIIf)、及び(IIIg)で上記に示されるとおり、Zは存在しなくてもよいし、又はヘテロ原子であってもよい。Z基の種類は、リンカー(L)と紫外線吸収性部分(U)を連結するための特定の結合様式に合わせて選択することができる。
【0077】
式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)、(IIIe)、(IIIf)及び(IIIg)のいくつかの実施態様では、Zは存在しない。そのような実施態様では、紫外線吸収性部分(U)は、式(IIIa)~(IIIg)において、エステルの酸素原子に結合している、炭素原子βに直接結合している。
【0078】
式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)、(IIIe)、(IIIf)及び(IIIg)のいくつかの実施態様では、Zを有し、ZはO、N、S及びPからなる群から選択されるヘテロ原子である。一実施態様では、Zは、酸素(O)である。
【0079】
式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)、(IIIe)、(IIIf)及び(IIIg)のそれぞれにおいて、基R1、Z、U及びPyは、それぞれの出現部位において、独立して選択することができる。
【0080】
いくつかの実施態様では、式(IIId)において、各出現時の基R1は、HおよびC1~C4アルキルから独立して選択される。C1~C4アルキルの例は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチルおよびt-ブチルである。好ましいC1~C4アルキルはメチルである。
【0081】
一組の実施態様では、重合性紫外線吸収剤は、好ましくは、式(IIIa)、(IIIb)又は(IIIc)のアニオン性リンカーを含み得る。
【0082】
一組の実施態様では、本発明の眼用レンズは、Lが糖部位を含む親水性非ポリアルキレングリコールリンカーである式(I)の重合性紫外線吸収剤の重合残基を含むポリマー成分を有するハイドロゲルを含む。
【0083】
親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)が糖部位を含む場合、そのような部分は、直鎖状(非環状)又は環状の態様であり得る。糖部位はまた、単糖又は多糖、例えば、二糖であり得る。
【0084】
一態様では、親水性の非ポリアルキレングリコールリンカーは、フラノース、ピラノースまたはアミノ糖部位などの環状糖部位からなる。当業者であれば、フラノース、ピラノースおよびアミノ糖部位が5員または6員の環構造を有することを理解するであろう。具体的な実施態様では、親水性の非ポリアルキレングリコールリンカーは、グルコピラノース、ガラクトピラノース、マンノピラノースまたはグルコサミン部位を含んでいてもよい。
【0085】
いくつかの実施態様では、ハイドロゲルのポリマー成分は、式(X):
【化12】
の部位を有する親水性非ポリアルキレングリコールリンカーを含む重合性紫外線吸収剤の重合残基を含み得、
式中:
Pyは、エチレン性不飽和重合性部分であり;かつ
R
10及びR
11は、OH及び式(XI):
【化13】
の基から選択されるが、但し、R
10及びR
11のうちの1つは、式(XI)の基であり:
(XI)では:
【化14】
は、この6員環への結合点を表し;
Yは、ヘテロ原子であり;
R
1aは、H及びC
1~C
4アルキルから選択され;
Zは、存在しないか、又はヘテロ原子(好ましくはO)であり;
Uは、紫外線吸収性部分である。
【0086】
式(X)の一実施態様では、R10は、OHであり、R11は、基(XI)である。
【0087】
式(X)の別の実施態様では、R10は、基(XI)であり、R11は、OHである。
【0088】
式(XI)の基では、Yは、ヘテロ原子であり得る。一つの好ましい例として、Yは、O、S及びNR1aから選択され、R1aは、H及びC1~C4アルキルから選択される。
【0089】
本明細書に記載の基について選択することができるC1~C4アルキルの例は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル及びt-ブチルである。
【0090】
式(X)及び(XI)について、基Z、U及びPyは、本明細書で定義されるとおりであ
る。
【0091】
いくつかの特定の実施態様では、ハイドロゲルのポリマー成分は、式(Xa)又は(Xb):
【化15】
【0092】
式(X)、(Xa)及び(Xb)に示されるとおり、Zは、存在しなくてもよいし、又はヘテロ原子であってもよい。Z基の種類は、リンカー(L)と紫外線吸収性部分(U)を連結するための特定の結合様式に合わせて選択することができる。
【0093】
式(X)、(Xa)及び(Xb)のリンカーのいくつかの実施態様では、Zは存在しない。そのような実施態様では、紫外線吸収性部位(U)は、式(Xa)及び(Xb)のエステルの酸素原子に結合している、炭素原子βに直接結合している。
【0094】
式(X)、(Xa)及び(Xb)のリンカーのいくつかの実施態様では、Zを有し、ZはO、N、S及びPからなる群から選択されるヘテロ原子である。一実施態様では、Zは、酸素(O)である。
【0095】
式(X)、(Xa)及び(Xb)のリンカーのいくつかの実施態様では、R1aは、C1~C4のアルキルであり得る。例示的なC1~C4のアルキルは、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル及びt-ブチルから選択され得る。好ましいC1~C4のアルキルは、メチルである。複数のR1aが存在する場合、それぞれのR1a基は、それぞれの出現部位において、独立して選択することができる。
【0096】
また、式(I)の重合性紫外線吸収剤は、紫外線吸収性部位(U)を含む。紫外線吸収性部位は、本発明の眼用レンズに紫外線吸収性を付与するために、紫外線領域の放射線を吸収することができる。具体的には、紫外線は10~400nmの波長である。
【0097】
本発明の眼用レンズが効果的な紫外線吸収性を有するためには、紫外線吸収部位が、UV-Aおよび/またはUV-B範囲の放射線を吸収することができるものから選択されることが有用である。当業者であれば、UV-B範囲の放射線は、約280~315nmの範囲の波長を有し、一方、UV-A範囲の放射線は、約315~380nmの範囲の波長を有することを理解するであろう。
【0098】
いくつかの実施態様では、紫外線吸収部位は、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、アボベンゾン、ベンジリデン、アゾベンゼン、サリチル酸塩、アントラニレート、クロロアニリン、シアノジフェニル、ベンズイミダゾール、オキサニリド、フェニルベンゾチアゾール、およびベンゾチアゾールからなる群から選択されるクラスに属してもよい。
【0099】
特定の実施態様では、紫外線吸収部位(U)は、ベンゾトリアゾールおよびベンゾフェノンから選択されるクラスに属する。このような実施態様では、紫外線吸収部位(U)は、したがって、ベンゾトリアゾール部位またはベンゾフェノン部位であってもよい。好ましいベンゾトリアゾール部位として、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール部位であってもよい。
【0100】
いくつかの実施態様では、重合性紫外線吸収剤は、式(IV):
【化16】
の構造を有する紫外線吸収性部分を含み得、
式中、
R
2は、H及びC
1~C
5アルキルから選択され;
R
3又はR
4は、リンカー(L)への結合点を表し、
かつ、式中:
R
3がリンカー(L)への結合点である場合、R
4は、H、アルキル及びアルコキシから選択され;かつ
R
4がリンカー(L)への結合点である場合、R
3は、H、ハロ(好ましくはクロロ)及びCF
3から選択される。
【0101】
式(IV)の紫外線吸収部位は、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール部位と考えてよい。
【0102】
親水性非ポリアルキレングリコールリンカーは、式(IV)の紫外線吸収性部位に、この部位のベンゾチアゾール環又はヒドロキシフェニル環のいずれかでの結合を介して結合されることが理解されるであろう。
【0103】
一組の実施態様では、リンカー(L)は、式(IV)の紫外線吸収性部位に、ベンゾチアゾール環での結合を介して結合されている。そのような実施態様では、R3は、リンカー(L)に連結されている。そのような実施態様では、R4は、H、アルキル及びアルコキシからなる群から選択することができる。
【0104】
式(IV)の紫外線吸収性部位に結合される親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、本明細書に記載されるリンカーのいずれか1つから選択される。具体的には、リンカーは、本明細書に記載されるとおり、式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)、(IIIe)、(IIIf)、(IIIg)、(Xa)及び(Xb)からなる群から選択される。
【0105】
一実施態様では、眼用レンズは、式(IVa):
【化17】
の重合性紫外線吸収剤の重合残基を含むポリマー成分を有するハイドロゲルを含み得、
式中、
R
2は、H及びC
1~C
5アルキルから選択され;
R
4は、H、アルキル及びアルコキシから選択され;
Lは、アニオン性、双性イオン性、又は糖部位を含む親水性非ポリアルキレングリコールリンカーであり;かつ
Pyは、エチレン性不飽和重合性部分である。
【0106】
式(IV)又は(IVa)の一態様では、R4は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、及びアリルなどのC1~C4のアルキルである。
【0107】
式(IV)又は(IVa)の一態様では、R4は、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、i-プロポキシ、n-ブトキシ、i-ブトキシ及びt-ブトキシなどのC1~C4のアルコキシである。
【0108】
別の組の実施態様では、リンカー(L)は、ヒドロキシフェニル環での結合を介して式(IV)の紫外線吸収性部位に結合されている。そのような実施態様では、R4は、リンカー(L)に連結されている。そのような実施態様では、R3は、H、ハロ(例えば、ブロモ、クロロ、フルオロ、ヨード)、及びCF3からなる群から選択することができる。
【0109】
別の実施態様では、眼用レンズは、式(IVb):
【化18】
の重合性紫外線吸収剤の重合残基を含むポリマー成分を有するハイドロゲルを含み得、
式中、
R
2は、H及びC
1~C
5アルキルから選択され;
R
3は、H、ハロ、CF
3から選択され;
Lは、アニオン性、双性イオン性、又は糖部位を含む親水性非ポリアルキレングリコールリンカーであり;かつ
Pyは、エチレン性不飽和重合性部分である。
【0110】
式(IVb)の一態様では、R2は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、及びアリルなどのC1~C4アルキルである。
【0111】
式(IVa)又は(IVb)の紫外線吸収剤では、リンカー(L)は、本明細書に記載されるとおり、式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)、(IIIe)、(IIIf)、(IIIg)、(Xa)及び(Xb)のものから選択される。一つの好ましい態様において、そのようなリンカーの中のZ基は、酸素ヘテロ原子(O)である。したがって、式(IVa)又は(IVb)の紫外線吸収性部位とリンカー(L)は、Oヘテロ原子を介して互いに結合される。
【0112】
いくつかの他の実施態様では、重合性紫外線吸収剤は、式(V):
【化19】
の構造を有する紫外線吸収性部分を含み得、
式中、
R
5a、R
5b及びR
5cは、それぞれ独立して、H、ハロ(例えば、ブロモ、クロロ、フルオロ又はヨード)、ヒドロキシル、カルボキシレート、スルホネート、C
1~C
6アルキル、C
1~C
6アルコキシ、C
6~C
10アリール、及び置換アリールの基から選択され;
R
6及びR
7は、それぞれ独立して、H及びOHから選択されるが、但し、R
6及びR
7は、同一ではなく;
R
8は、H及びスルホネートから選択され;かつ
R
9は、リンカー(L)への結合点である。
【0113】
式(V)の紫外線吸収性部位は、ベンゾフェノン部位であり得る。
【0114】
式(V)に示されるとおり、親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、R9での結合を介して紫外線吸収性部位に結合することができる。
【0115】
特定の実施態様では、眼用レンズは、式(Va):
【化20】
の重合性紫外線吸収剤の重合残基を含むポリマー成分を有するハイドロゲルを含み得、
式中、
R
5a、R
5b及びR
5cは、それぞれ独立して、H、ハロ(例えば、ブロモ、クロロ、フルオロ又はヨード)、ヒドロキシル、カルボキシレート、スルホネート、C
1~C
6アルキル、C
1~C
6アルコキシ、C
6~C
10アリール、及び置換アリールの基から選択され;
R
6及びR
7は、それぞれ独立して、H及びOHから選択されるが、但し、R
6及びR
7は、同一ではなく;
R
8は、H及びスルホネートから選択され;かつ
Lは、アニオン性、双性イオン性、又は糖部位を含む親水性非ポリアルキレングリコールリンカーであり;かつ
Pyは、エチレン性不飽和重合性部分である。
【0116】
式(Va)の紫外線吸収剤のいくつかの実施態様では、リンカー(L)は、本明細書に記載されるとおり、式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)、(IIIe)、(IIIf)、(IIIg)、(Xa)及び(Xb)から選択され、リンカーの中の基Zは、酸素ヘテロ原子(O)である。したがって、リンカー(L)と紫外線吸収性部位は、Oヘテロ原子を介して互いに結合される。
【0117】
親水性非ポリアルキレングリコールリンカー(L)および紫外線吸収部位(U)に加えて、式(I)の重合性紫外線吸収剤は、一般的に末端部位であるエチレン性不飽和重合性部位(Py)を含む。エチレン性不飽和重合性部位は、重合性紫外線吸収剤が適切な重合条件下で他のモノマーと共有結合で反応し、ポリマーの形成を促進することを可能にする。重合条件の例としては、フリーラジカル重合が挙げられる。
【0118】
エチレン性不飽和重合性部位は、フリーラジカル重合を介して反応を受けるのに適した任意の部位から選択することができる。
【0119】
一組の実施態様では、式(I)の重合性紫外線吸収剤におけるエチレン性不飽和重合性部位(Py)は、アリル、ビニル、アクリロイル、メタクリロイル、及びスチレニルからなる群から選択することができる。
【0120】
本明細書に記載の重合性アクリロイル部位は、アクリレート部位又はアクリルアミド部位であってもよい。同様に、本明細書に記載の重合性メタクリロイル部位は、メタクリレート部位又はメタクリルアミド部位であり得る。
【0121】
本明細書に記載の眼用レンズを形成するために好ましい式(I)の重合性紫外線吸収剤のいくつかの特定の例をスキーム1に示す。
【0122】
スキーム1。式(I)の重合性紫外線吸収剤の例
【化21】
【0123】
本発明の眼用レンズは、2種類以上の重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を含むポリマー成分を有するハイドロゲルを含んでいてもよい。そのような実施態様では、ハイドロゲルポリマーは、式(I)の少なくとも1つの重合性紫外線吸収剤および少なくとも1つの他の重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を含んでいてもよく、これらは組み合わせてハイドロゲル中に存在する。
【0124】
少なくとも1つの他の重合性紫外線吸収剤は、異なる化学構造を有する式(I)の他の重合性紫外線吸収剤であってもよく、例えば、異なる紫外線吸収性部位及び/又は異なる非ポリアルキレングリコールリンカーなどが挙げられる。
【0125】
あるいは、少なくとも1つの他の重合性紫外線吸収剤は、式(I)の重合性紫外線吸収剤と組み合わせて使用される、従来の、既知、又は市販の重合性紫外線吸収剤であってもよい。
【0126】
したがって、本発明の眼用レンズのいくつかの実施態様では、ハイドロゲルポリマーは、互いに異なる少なくとも2つの重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を含み、重合性紫外線吸収剤のうちの少なくとも1つは、式(I)の重合性紫外線吸収剤である。
【0127】
いくつかの実施態様では、本発明の眼用レンズは、式(I)で示される、互いに異なる少なくとも2つの重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を含むポリマーを有するハイドロゲルを含み得る。例えば、ハイドロゲルのポリマー成分は、ベンゾトリアゾール構造の紫外戦吸収性部位を有する第1の重合性紫外線吸収剤、及びベンゾフェノン構造の紫外線吸収性部位を有する第2の重合性紫外線吸収剤の重合残基を含み得る。ハイドロゲルポリマーに2つ以上の異なる紫外線吸収剤を組み込むことは、特にUV-A及びUV-Bの領域について、眼用レンズの紫外線吸収性を調整及び最適化することを可能にするために効果的である。
【0128】
いくつかの実施態様において、本発明の眼用レンズは、式(I)で示される少なくとも1つの重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基と、式(I)ではない少なくとも1つの他の重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を含むポリマー成分を有するハイドロゲルを含むことができる。そのような実施態様では、少なくとも1つの他の重合性紫外線吸収剤は、既知の市販の紫外線吸収剤であってもよい。紫外線吸収性眼用レンズのためのハイドロゲルポリマーを形成するために、式(I)の紫外線吸収剤と組み合わせて使用することができる市販の重合性紫外線吸収剤の例として、2-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]エチルメタクリレート(HB7)(CAS:96478-09-0)及び2-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレート(BP15)(CAS:16432-81-8)が挙げられる。
【0129】
本発明の眼用レンズのためのハイドロゲルポリマーは、有効量の式(I)の重合性紫外線吸収剤を、任意に少なくとも1つの他の重合性紫外線吸収剤と組み合わせることができる。
【0130】
一般的に、ハイドロゲルのポリマー成分に組み込まれる重合性紫外線吸収剤の総量は、本発明の眼用レンズが効果的なレベルの紫外線吸収性を有することを可能にするのに十分な量を指す。効果的なレベルの紫外線吸収とは、いくつかの実施態様における本発明の眼用レンズが少なくともISOクラスIIの規格を満たすことを意味する。したがって、ISOクラスIIの規格は、最小レベルの眼用レンズの紫外線吸収性能を表すことができる。いくつかの実施態様では、眼用レンズは、ISOクラスIIの規格を超えることが可能である。いくつかの実施態様では、本発明の眼用レンズは、紫外線吸収レンズのISOクラスIの規格を満たすことができる。眼用レンズは、目視で確認できる程度の黄色味がレンズに付与されることなく、ISOクラスIまたはクラスIIの規格を満たすことが望まれる。
【0131】
いくつかの実施態様において、本発明の眼用レンズは、UV-A領域において10パーセント未満の平均UV透過率、及びUV-B範囲において1.0パーセント未満の平均紫外線透過率を有する。
【0132】
使用される重合性紫外線吸収剤の総量は、ポリマーベース、眼用レンズの厚さ、含水率及び固形分率、並びに所望の紫外線吸収性に依存する。
【0133】
眼用レンズに配合する重合性紫外線吸収剤の有用な量は、望ましいレベルの紫外線吸収性能を付与するように選択することができる。アクリレートおよびメタクリレートベースのハイドロゲルポリマーを主成分とするコンタクトレンズおよび眼内レンズの場合、ハイドロゲルは、いくつかの実施態様において、1つ以上の重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を約0.01~25wt%、好ましくは約0.1~10wt%含むことができる。
【0134】
一実施態様では、式(I)の重合性紫外線吸収剤は、眼用レンズに紫外線吸収性を与えるためにそれ自体で使用される。そのような実施態様では、ハイドロゲルポリマーは、ハイドロゲルポリマー中のモノマー単位の総重量に基づいて、式(I)の重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を、約0.01~25wt%、好ましくは約0.1~10wt%含む。
【0135】
他の実施態様では、2つ以上の異なる重合性紫外線吸収剤の組み合わせを使用することにより、眼用レンズに紫外線吸収性を付与することができる。2つ以上の異なる重合性紫外線吸収剤がハイドロゲルポリマーに組み込まれる場合、紫外線吸収剤に由来する重合残基の総量は、ポリマー中のモノマー成分の総重量に基づいて、約0.01~25wt%であり、好ましくは約0.1~10wt%の範囲である。本明細書に記載されるとおり、ハイドロゲルポリマーの重合残基の少なくとも一部が式(I)の紫外線吸収剤に由来するように、組み合わせの重合性紫外線吸収剤の少なくとも1つが式(I)の重合性紫外線吸収剤であることが本発明の要件である。
【0136】
一つの態様では、本発明の眼用レンズのハイドロゲルは、約0.0006~0.0042ミリモルの1つ又は複数の重合性紫外線吸収剤を含む。
【0137】
2つ以上の異なる重合性紫外線吸収剤の組み合わせを、ハイドロゲルポリマーに組み込む場合、組み合わせ中の式(I)の重合性紫外線吸収剤の相対量を所望の濃度範囲内で調整することで、ハイドロゲルポリマー中に異なる紫外線吸収剤を異なる比率で存在させることができる。
【0138】
別の態様では、本発明はまた、式(I):
U-L-Py(I)
の重合性紫外線吸収剤を提供する。
式中:
Uは、紫外線吸収性部分であり;
Lは、アニオン性、双性イオン性、又は糖の部分を含む親水性非ポリアルキレングリコールリンカーであり;かつ
Pyは、エチレン性不飽和重合性部分である。
【0139】
式(I)の重合性紫外線吸収剤における、U、L及びPyについて、本明細書に記載されている。
【0140】
式(I)の重合性紫外線吸収剤は、当技術分野で知られている化学合成の手順及び技術を用いて合成することができる。
【0141】
式(I)の重合性紫外線吸収剤は親水性であることから、ハイドロゲルポリマーを形成することに適した他のモノマーと適合性があることに特徴を有する。したがって、式(I)の重合性紫外線吸収剤をそれらの他のモノマーと混合することで、本質的に均質なモノマー組成物を形成することができる。例えば、式(I)の重合性紫外線吸収剤は、他のハイドロゲルを形成し得るモノマーに溶解することが分かっている。均質なモノマー組成物は、モノマー成分の明らかな沈殿または相分離を発生しない。式(I)の重合性紫外線吸収剤の親水性という特徴は、ハイドロゲルポリマーの物理的および/または化学的特性に許容できない変化を生じさせないことに加え、所望のレベルの紫外線吸収性を付与するのに十分な量の紫外線吸収剤をハイドロゲルポリマーに組み込むことができることにも役立つ。これにより、眼用レンズの安定性、快適性、外観および/または光学的透明性が、消費者または業界の許容できる要件を満たすことを保証することができる。
【0142】
本発明の眼用レンズでは、重合性紫外線吸収剤は、眼用レンズを形成するために使用されるハイドロゲルのポリマー成分に共有結合により組み込まれている。これにより、紫外線吸収剤がレンズ材料から溶出するのを防ぐことができる。溶出した場合、毒性の問題が生じたり、紫外線遮断機能が失われたりする可能性があるため、このような安定性は、眼用レンズ、特に眼内レンズ(IOL)のような埋め込み型の眼用レンズにとって重要である。
【0143】
ハイドロゲルポリマーを形成するために、式(I)の重合性紫外線吸収剤は、一般的に、1つ又は複数のコモノマーと重合させる。一般的に、前記コモノマーは、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含むエチレン性不飽和モノマーである。
【0144】
いくつかの実施態様において、2つ以上のコモノマーの混合物を、式(I)の重合性紫外線吸収剤と重合させる。例えば、紫外線吸収剤は、モノエチレン性不飽和モノマー及び架橋剤と重合されてもよい。
【0145】
別の態様では、本発明は、(i)少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマー、及び(ii)式(I):
U-L-Py(I)
の重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を含むハイドロゲルポリマーを提供する。
式中:
Uは、紫外線吸収性部分であり;
Lは、アニオン性、双性イオン性、又は糖の部分を含む親水性非ポリアルキレングリコールリンカーであり;かつ
Pyは、エチレン性不飽和重合性部分である。
【0146】
式(I)の重合性紫外線吸収剤における、U、L及びPyについては、本明細書に記載されている。
【0147】
式(I)の重合性紫外線吸収剤と反応させるためのエチレン性不飽和モノマーは、眼用レンズのハイドロゲル材料を形成するのに適した従来のモノマーから選択することが好ましい。そのようなモノマーは、単一のエチレン性不飽和部位から構成されていてもよく、一般的には単官能である。
【0148】
いくつかの実施態様では、式(I)の重合性紫外線吸収剤及び、少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマーは、更なるコモノマーであるエチレン性不飽和架橋剤と重合され得る。エチレン性不飽和架橋剤としては、眼用レンズのハイドロゲル材料の形成に適した従来のものが使用できる。
【0149】
本発明に記載される架橋剤は、ハイドロゲルのポリマーネットワークの形成反応を促進するために、一般的に、末端に少なくとも2つのエチレン性不飽和部位を有することが好ましい。いくつかの実施態様においては、架橋剤が末端に少なくとも3つのエチレン性不飽和部位を有していてもよい。架橋剤は多官能性であることから、得られるハイドロゲルポリマーは、エチレン性不飽和架橋剤に由来する重合残基を含んでいてもよい。
【0150】
式(I)の紫外線吸収剤と共重合するエチレン性不飽和モノマー及び架橋剤の種類、及びそれらのそれぞれの量は、形成される眼用レンズの種類に基づいて選択することができる。
【0151】
いくつかの実施態様では、本発明の眼用レンズに適したハイドロゲルは、約40~80%(w/w)のポリマーを含むことができる。すなわち、ハイドロゲルの約40~80%はポリマー(固形分)成分であり、残りは、一般的にハイドロゲルのポリマー成分を水和する液体成分(例えば、水)である。例えば、HEMAハイドロゲルの場合、約42wt%が固体成分であり、その残りは、水などの液体成分となる。さらに、シリコーンハイドロゲルの場合、60~80wt%が固体成分であり、その残りは、水などの液体成分となる。
【0152】
ハイドロゲルポリマー成分自体は、一般的に、式(I)の少なくとも1つの重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基を含み、これらは、1つ又は複数のコモノマーに由来する重合残基と共にハイドロゲルポリマーに存在する。いくつかの実施態様では、ハイドロゲルポリマー(固形分)成分は、ポリマー中のモノマー単位の総重量に基づいて、約20~90wt%の1つ又は複数のコモノマーに由来する重合残基を含んでいてもよい。
【0153】
式(I)の紫外線吸収剤と重合されるコモノマーとして、エチレン性不飽和コモノマー並びに架橋剤が挙げられる。
【0154】
ハイドロゲルポリマー成分は、ポリマー中のモノマー単位の総重量に基づいて、1つ又は複数のエチレン性不飽和コモノマー及び架橋剤に由来する重合残基を約20wt%~約90wt%含んでいてもよい。一実施態様では、ハイドロゲルポリマーは、ポリマー中のモノマー単位の総重量に基づいて、1つ又は複数のエチレン性不飽和コモノマーに由来する重合残基及び架橋剤に由来する重合残基を約40wt%~約80wt%で含んでいる。
【0155】
式(I)の重合性紫外線吸収剤に由来する重合残基は、ハイドロゲルポリマー中のモノマー単位の総量に基づき、ハイドロゲルポリマーの約0.01~25wt%、好ましくは0.1~10wt%を有してもよい。
【0156】
式(I)の重合性紫外線吸収剤及びコモノマーは、得られるハイドロゲルポリマー中の重合残基となるために、適切な重合条件下で共有結合的に反応することができる。当業者は、眼用レンズに有用なハイドロゲルポリマーを形成するのに適した重合の技術及び条件を選択することができ、ハイドロゲルポリマーを形成するためのプロセスの例を以下に記載する。
【0157】
多数のエチレン性不飽和モノマーを式(I)の紫外線吸収剤と重合して、ハイドロゲルポリマーを形成することができる。いくつかの実施態様では、式(I)の紫外線吸収剤は、親水性エチレン性不飽和コモノマーと重合されることが好ましい。
【0158】
一態様では、式(I)の紫外線吸収剤は、アクリロイルモノマー、メタクリロイルモノマー、ビニルモノマー、シリコーン含有モノマー、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるエチレン性不飽和モノマーと重合することができる。
【0159】
式(I)の紫外線吸収剤及び少なくとも1つのエチレン性不飽和コモノマーを重合することによって形成されるハイドロゲルポリマーは、ポリマーを形成するために使用されるモノマーの性質に応じてアクリル又はシリコーンのハイドロゲルポリマーであり得る。
【0160】
式(I)の重合性紫外線吸収剤と共重合して、紫外線吸収性眼用レンズのためのハイドロゲルポリマーを生成することができる代表的なエチレン性不飽和モノマーには、以下を含むが、これらに限定されない:
(a)アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド及びメタクリルアミドなどのアクリロイル及びメタクリロイルモノマー、並びにそれらのエステル及びアミドの誘導体;
(b)シリコーン置換アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル。
(c)フッ素化アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル、及び
(d)ビニルピロリドン、ビニルシラン、ビニルスルホン、ビニルアルコール又はエステルなどのビニル又はビニリデンの化合物。
【0161】
ハイドロゲル形成エチレン性不飽和モノマーの特定の例には、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(2-ヒドロキシエチルアクリレート、及び2-ヒドロキシエチルメタクリレートなど)、N-ビニルピロリドン、アルキル(メタ)アクリレート(メチルアクリレート、メチルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、及びシクロヘキシルメタクリレートなど)、アリール(メタ)アクリレート(ベンジルメタクリレートなど)、アミノアルキル(メタ)アクリレート(2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、及び2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート)、(メタ)アクリルアミド(N,N-ジメチルアクリルアミドなど)、メタクリロキシエチルコハク酸、2-メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、メタクリロイルオキシメチルホスフェート、シリコーン(メタ)アクリレート(トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレートなど)、及び3-(3-メタクリロキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)プロピルビス(トリメチルシロキシル)メチルシラン、グリセリル(メタ)アクリレート、フッ素原子含有(メタ)アクリレート(トリフルオロエチル(メタ)アクリレートなど)、ビニル含有モノマー(ビニルアセテート、ビニルブチレート、N-ビニルピロリドン(NVP)、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニル-N-エチルアセトアミド、N-ビニル-N-エチルホルムアミド、及びN-ビニルホルムアミドなど)、又はそのようなモノマーの組み合わせを含む。他のハイドロゲル形成モノマーを使用してもよい。
【0162】
いくつかの実施態様では、ハイドロゲルポリマーは、アクリル酸、メタクリル酸、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、メタクリルオキシエチルコハク酸、メタクリロイルオキシメチルホスフェート、N,N-ジメチルアクリルアミド、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるエチレン性不飽和モノマーに由来する重合残基を含む。
【0163】
ハイドロゲルポリマーの形成には、多数の架橋剤を使用することができる。適切な架橋剤には、例えば、以下を含み得る:アクリレート及びメタクリレートベースの架橋剤、例えば、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ビス(アクリロキシ)アルキルポリ(ジメチルシロキサン)、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、及びビスメタクリロキシアルキルポリ(ジメチルシロキサン)など;及びビニルベースの架橋剤、例えば、アリルメタクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルスクシネート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジエチレングリコールビス(アリルカルボネート)、トリアリルホスフェート、トリアリルトリメリテート、ジアリルエーテル、N,N-ジアリルメラミン、及びジビニルベンゼンなど。他の架橋剤を使用してもよい。2つ以上の架橋剤の組み合わせもまた使用してもよい。
【0164】
架橋剤は、ハイドロゲルポリマーの少なくとも0.1wt%配合され、残りの成分の特性や濃度、および所望の物理的特性に応じて、最大約20wt%の範囲とすることができる。いくつかの実施態様では、ハイドロゲルポリマーは、約0.1~約10wt%、または約0.2~約5wt%の架橋剤由来の重合残基を含む。
【0165】
一実施態様では、本発明の眼用レンズに適したハイドロゲルを形成するためのモノマー混合物は、以下を含む:
(a)約0.1~約10wt%の、式(I)の重合性紫外線吸収剤;
(b)約10~約99.99wt%の少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマー;及び
(c)約0.2~約5wt%の架橋剤。
【0166】
特定の実施態様において、眼用レンズは、式(I)の重合性紫外線吸収剤、及び1つ又は複数のアクリロイルモノマー及び/又はメタクリロイルモノマーを含むモノマー混合物から形成されるアクリルハイドロゲルを含む。
【0167】
ハイドロゲルを形成するための1つの例示的なモノマー混合物は、以下を含み得る:
(a)約2~6wt%の式(I)の重合性紫外線吸収剤;
(b)約90~約98wt%の2-ヒドロキシエチルメタクリレート;
(c)約2~5wt%のメタクリル酸;及び
(d)約0.2~約1wt%のトリメチロールプロパントリメタクリレート。
【0168】
式(I)の重合性紫外線吸収剤と所望のコモノマーの重合は、適切な重合開始剤を使用することで開始することができる。重合開始剤は、熱開始剤又は光開始剤であり得る。好ましい熱開始剤は、アゾ型又は有機過酸化物型の開始剤であり、約30~90℃の範囲などの比較的低温で重合反応を開始することができる。好ましい開始剤は、アゾイソビスブチロニトリル(AIBN)であるが、他の開始剤を使用してもよい。開始剤は、通常、約1%(w/w)以下の量で配合する。開始剤の総量は、通常、他の成分の量を決定する際に含まれない。
【0169】
重合は、眼用デバイス産業において通常用いられる任意の方法、例えば、熱又はUV光によって行うことができる。重合は、約25℃~140℃、より好ましくは30℃~100℃の範囲の温度で5分~96時間、より好ましくは約1~24時間で実施され得る。さらに、眼用レンズを形成するのに適した既知の金型成形又は鋳造の技術を使用することができる。重合及びレンズ成形のために使用される正しい方法は、選択に関する事柄であり、本発明にとって重要ではない。
【0170】
当業者であれば、ハイドロゲルは一般的に、所望の量の1つまたは複数のハイドロゲル形成モノマーを混合し、その混合物中のモノマーを重合することによって形成されることを理解するだろう。モノマーは、そのままの形で混合してもよいし、溶媒に溶解または分散させて溶液を形成してもよい。適切な溶媒は、エタノールのような有機溶媒、または水のような水性溶媒である。ハイドロゲルの形成に使用される有機溶媒は、ハイドロゲルポリマーが形成された後の洗浄ステップで除去することができる。
【0171】
本発明のハイドロゲルおよび眼用レンズの形成には、既知の方法を採用することができる。例えば、式(I)の重合性紫外線吸収剤および、他のハイドロゲル形成モノマーを、適切な溶媒中で選択された開始剤と混合溶液することができる。次に、得られた混合溶液をレンズ形状の型に導入し、型の中で重合させる。重合は、約40℃から100℃の範囲の温度で、約2時間から6時間かけて行われる。次に、形成されたポリマーを型から取り出し、水性液体で水和させることで、所望の形状のハイドロゲル眼用レンズが得られる。水性の液体は、生理学的に許容される液体であってもよい。モールドは、ハイドロゲルが眼用レンズの形状に製造できるように構成されていることから、重合後のハイドロゲルをさらに成形することは必要ではない場合もある。
【0172】
必要に応じて、当技術分野で知られている他の添加剤または成分を、モノマーの混合物に含めることができる。そのような添加剤または他の成分とし、例えば、希釈剤、安定剤、染料、顔料、抗菌化合物、離型剤などが挙げられる。
【0173】
式(I)の重合性紫外線吸収剤をポリマー成分に有し形成されたハイドロゲルは、コンタクトレンズや眼内レンズなどの眼用レンズの製造に適した親水性と光学特性を有することができる。ハイドロゲルの特性は、ハイドロゲル材料で製造された眼用レンズにも付与することができる。ハイドロゲルは紫外線吸収性を有するため、ハイドロゲルを用いて形成されたコンタクトレンズや眼内レンズもまた、このような紫外線吸収性を有することとなる。
【0174】
式(I)の重合性紫外線吸収剤を含有するポリマー成分を有するハイドロゲルが、眼用レンズの形成に適しているということは、当該ハイドロゲルが、業界基準を満たす紫外線吸収性を達成すると共に、眼用レンズを形成する材料として当該ハイドロゲルが適合するのに役立つ好ましい特性も有していることを意味する。
【0175】
特に、含水率、光学的透明性、および色など、眼用レンズ用途に有用なハイドロゲルの特性は、ハイドロゲルポリマー中に式(I)の重合性紫外線吸収剤が存在する場合においても、許容できないレベルで変化しないことが確認されている。一つの実施態様では、紫外線吸収剤含有ハイドロゲルの含水量、光学的透明性、および色は、紫外線吸収剤を含まないポリマー成分よりなるベースハイドロゲルと比較して、許容範囲内の変動であった。
【0176】
式(I)の重合性紫外線吸収剤を含むポリマー成分を有するハイドロゲル、すなわち、本発明の紫外線吸収性眼用レンズが、工業的に許容可能な特性を有するか否かを確認するために、いくつかの実施態様においては、ハイドロゲルおよび/またはハイドロゲルで形成された眼用レンズの特性をブランクサンプルと比較することが有効である。
【0177】
本明細書において使用される「ブランクサンプル」という用語は、試験用の紫外線吸収剤含有ハイドロゲルの形成において用いられるのと同一のハイドロゲル形成材料から、紫外線吸収剤を除いて形成されたポリマー成分よりなるハイドロゲルを指す。前記のポリマー成分には紫外線吸収剤が含まれないため、ブランクサンプルは、ベースハイドロゲルと見なすことができる。試験サンプルを評価するための対照物として用いるために、ブランクサンプルは、一般的に、試験サンプルのディメンジョン(例えば、面積、直径および/または厚さ)と同等の値を有する必要がある。いくつかの実施態様において、ブランクサンプルは規定された製品規格を有する商業的に許容される製品とすることができる。このように、ブランクサンプルは、紫外線吸収剤含有ハイドロゲル、または紫外線吸収剤含有ハイドロゲルを含む眼用レンズが、所望の製品規格や性能基準を満たす可能性があるか否かを評価する際の比較目的で使用される。
【0178】
本発明の紫外線吸収性眼用レンズの1つの特徴として、約100μmの平均厚みで、可視光領域(400~500nm)において、75%を超える透明性を有することが挙げられる。いくつかの実施態様では、約100μmの平均厚みの本発明の眼用レンズを用いて、400~500nmの平均可視透過率を測定した場合に、少なくとも78%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%の可視光線透過率を有する。高い可視光線透過率(>75%)は光学的透明性の基準となり得るものであり、本発明の眼用レンズにおいては、不透明、または、曇り(haze)の外観は、眼用レンズの特性に悪影響を及ぼすことが考えられるため、発生しないことが好ましい。
【0179】
眼用レンズの可視光透過率は、眼用レンズ自体、または眼用レンズを形成するのに有用なハイドロゲルを、紫外-可視分光法を用い、400~500nmの波長領域における平均光透過率(T%)を測定することによって決定することができる。
【0180】
可視光透過率を評価するために400~500nmの波長領域が選択されているのは、この領域が、ハイドロゲル自体またはハイドロゲルからなる眼用レンズにおける黄色味の存在を示す指標となるからである。黄色味の存在は、ハイドロゲルまたは眼用レンズを、紙のような白いものの表面に置くことによって視覚的に確認することができる。本発明の眼用レンズは、レンズを白い背景を用いて評価したときに、視覚的に識別可能なレベルで黄色に着色されていないことが好ましい。黄色味は、レンズの外観を損ない、その結果、消費者にとって魅力のないものになる可能性があるからである。すなわち、本発明の紫外線吸収眼用レンズが、視覚的に観察可能な黄色の色味を持たないことは、本発明の別の特徴となる。
【0181】
本発明の紫外線吸収性眼用レンズのさらに別の特徴として、眼科業界において許容範囲内の光学的透明性を示すことが挙げられる。光学的透明性は、選択された重合性紫外線吸収剤を含むポリマー成分を有するハイドロゲルの400~500nmにおける平均可視光透過率の測定値(T%Sample)と、同じ試験条件で測定して得られたブランクサンプルの透過率の測定値(T%Blank)とを比較することによって確認することができる。
【0182】
ブランクサンプルの平均可視光透過率(T%
Blank)と、紫外線吸収剤含有サンプルの平均可視光透過率(T%
Sample)との間のT値の差(ΔT%)は、以下の式に従って計算される:
【数1】
【0183】
本発明の紫外線吸収性眼用レンズ、または眼用レンズを形成するのに適した式(I)の紫外線吸収剤を含むポリマー成分を有するハイドロゲルが、ブランクサンプルに対して、許容可能な所定の変動範囲内の光学的透明性を有することが好ましい。すなわち、ブランクサンプルの光学的透明性に対する試験サンプルの光学的透明性(T%)の変化量が、規定された許容範囲内であることを意味する。
【0184】
いくつかの実施形態において、本発明の紫外線吸収性眼用レンズ、または眼用レンズを形成するのに適した式(I)の紫外線吸収剤を含むポリマー成分を有するハイドロゲルは、ブランクサンプルと少なくとも同等の光学的透明度を有する。
【0185】
いくつかの実施形態では、本発明の紫外線吸収性眼用レンズ、または眼用レンズを形成するのに適した式(I)の紫外線吸収剤を含むポリマー成分を有するハイドロゲルは、ブランクサンプルと比較して光学的透明度が低下(減少)していてもよい。
【0186】
本発明の紫外線吸収性眼用レンズ、または式(I)の紫外線吸収剤を含むポリマー成分を有するハイドロゲルが、光学的透明性の低下を示す場合であっても、ブランクに対して20%以下の低下があることが好ましい。これは、眼用レンズやハイドロゲルの可視光透過率の変化(すなわちΔT%)がブランクサンプルに対して>-20%であることを意味している。ブランクサンプルに対して光学的透明度が20%以上低下するハイドロゲルサンプルは、ハイドロゲルが曇っている、または不透明である可能性がある。
【0187】
また、本発明の眼用レンズは、ハイドロゲル材料であることから親水性であり、水によって溶媒和される。眼用レンズの親水性は、平衡含水率(EWC)を測定することによって評価することができ、この平衡含水率は、レンズ材料が水によってどれだけ容易に溶解することができるかの指標となる。EWCは、ハイドロゲルサンプルの湿潤質量(M
wet)および乾燥質量(M
dry)から、以下の式に従って計算することができる。
【数2】
【0188】
いくつかの実施形態において、本発明の眼用レンズは、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、または少なくとも約55%から選択されるEWCを有する。
【0189】
本発明の紫外線吸収性眼用レンズのさらに別の特徴として、眼科産業に受け入れられるレベルの含水率(EWC)を有することが挙げられる。本発明の眼用レンズのEWCは、ブランクサンプルと比較して許容できないレベルで変化しないことが好ましい。1つの好ましい例において、本発明の眼用レンズは、ブランクサンプルのEWCと少なくとも同等であるか、それよりも大きいEWCを有する。いくつかの実施態様では、本発明の眼用レンズは、市販の眼用レンズにより確立されたEWCの規格を少なくとも満たすことができる範囲のEWCを有する。
【0190】
眼用レンズ、又は眼用レンズを形成するのに適したハイドロゲルが、許容範囲内の含水率(EWC)を有するか否かを評価するために、ブランクサンプルの含水率(EWC
Blank)と、選択した重合性紫外線吸収剤を含んで調製した試験用の紫外線吸収剤含有ハイドロゲルサンプルの含水率(EWC
Sample)との間のEWC値の差を求めることが好ましく用いられる。すなわち、ブランクサンプルと試験サンプルとの間のEWCの差(ΔWC%)は、次の式に従って決定することができる:
【数3】
【0191】
本発明の紫外線吸収眼用レンズ、または眼用レンズを形成するのに適した、式(I)の紫外線吸収剤を含むポリマー成分を有するハイドロゲルの平衡含水率(EWC)は、ブランクサンプルに対して、所定の変動範囲内であることが好ましい。すなわち、ブランクサンプルの含水率(WC%)に対する、紫外線吸収剤を含むサンプルの含水率(WC%)の変化は、定義された許容範囲内にあるということを意味する。
【0192】
いくつかの実施態様において、式(I)の紫外線吸収剤を含むポリマー成分を有するハイドロゲル、又は前記ハイドロゲルを含む紫外線吸収性眼用レンズは、ブランクサンプルと比較して、含水率が増加又は減少し得る。
【0193】
一つの実施態様では、本発明の紫外線吸収性眼用レンズ、又は眼用レンズを形成するのに適した式(I)の紫外線吸収剤を含むポリマー成分を有するハイドロゲルは、ブランクサンプルの含水率に対して、10%以内、又は5%以内の含水率の増加又は減少である。これは、本発明の眼用レンズとブランクサンプルとの間の含水率の変化(ΔWC%)が、ブランクサンプルに対して±10%、又は±5%内であるということを意味する。
【0194】
有利なことに、非ポリアルキレングリコールリンカーを有する親水性重合性紫外線吸収剤は、ハイドロゲルのEWCに好ましくない影響を与えることなく、より高濃度の紫外線吸収性部位を有するハイドロゲルポリマーを形成することが可能であることが分かった。
【0195】
本発明の一態様の眼用レンズは、コンタクトレンズであり得る。コンタクトレンズは、親水性レンズであり、本明細書に記載される重合性紫外線吸収剤と共重合するモノマー、又はそれらの組み合わせに応じて、ソフトレンズ又はハードレンズ(すなわち、硬質ガス透過性(RGP))であり得る。
【0196】
コンタクトレンズには、視力障害を矯正するためのレンズ、眼の障害を治療するために使用されるいわゆる「包帯レンズ」、見かけの眼の色を変えるなどの目的で使用される美容レンズを含み得る。
【0197】
本発明の一態様の眼用レンズは、眼内レンズ(IOL)であり得る。IOLは、埋め込み型レンズであり、比較的小さな切開部にフィットすることができる程度に、小さな断面に丸めたり、又は折り畳んだりすることができる任意のデザインであり得る。例えば、IOLは、シングルピース又はマルチピースのデザインとして知られており、光学部位及び固定部位を含み得る。光学部位はレンズとして機能する部位で、固定部位は、光学部位に取り付けられ、光学部位を眼の適切な場所に保持するために用いられる。この光学部位及び固定部位は、同一又は異なる材料のものであり得る。マルチピースの眼内レンズは、光学部位と固定部位とが別々に作られた後に、固定部位が光学部位に取り付けられるもので、固定部位は触覚部位とも呼ばれる。シングルピースの眼内レンズでは、光学部位と固定部位とは、1つの材料で形成される。
【0198】
コンタクトレンズ及び眼内レンズを含む本発明の紫外線吸収性眼用レンズは、1つ又は複数の特徴を有し、これらには以下を含む:
●少なくともISOクラスIIの紫外線吸収の規格を満たす、UV-A及び/又はUV-Bの波長領域における高い紫外線吸収性;
●紫外線吸収剤を含有しないブランクのハイドロゲルベースの眼用レンズの含水量と比較して、含水量の低下又は増加が許容範囲内である(これにより、本発明の眼用レンズは、工業的に許容範囲内のEWCの製品規格を満たすことができる);
●高い光学的透明性(400~500nmの範囲で>75%の可視光透過率);
●紫外線吸収剤を含有しないブランクのハイドロゲルベースの眼用レンズと比較して、可視光透過率の低下が許容範囲内である(これにより、本発明の眼用レンズは、工業的に許容範囲内の光学的透明性の製品規格を満たすことができる);
●目視できる黄色味がないこと;
●ソフトレンズとしての有用性。
【0199】
上記の利点は、式(I)の紫外線吸収剤を含むポリマー成分を有するハイドロゲルより形成される本発明の眼用レンズが、少なくとも紫外線吸収レンズとして商業的に重要で工業的に許容される多くの性能基準を満たすことを保証するのに役立つ。
【0200】
いくつかの実施態様において、本発明の眼用レンズは、紫外線吸収性のみならず、ブランクサンプルに対して許容可能かつ所定範囲内の含水率及び光学的透明性のレベルを有するものであり、さらに視覚的に識別できるほどの黄色の外観を有さない。
【0201】
以下の実施例を参照して本発明を説明するが、実施例は本発明の例示として提供されるものであり、決して本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0202】
化学物質及び材料:
2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、メタクリル酸(MAA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)、アゾイソブチロニトリル(AIBN)、2-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]エチルメタクリレート(HB-7)、2-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレート(BP15)、1-チオ-β-D-グルコースナトリウム塩、ジメチルフェニルホスフィン、無水メタクリル酸、ピリジン、ジメチルスルホキシド、L-システイン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-ヒドロキシスクシンイミジルメタクリレート、トリエチルアミン(TEA)、2-ブロモアセチルクロリド、トリエチルアミン(TEA)、ジクロロメタン(DCM)、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(DMAEMA)、アセトニトリル、水酸化ナトリウム(NaOH)、塩酸(HCl)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、2-クロロ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、ジエチルエーテル、メタノール、及びエタノール。全ての化学物質はSigma-Aldrich社から購入した。
【0203】
モノマーの親水性の評価
重合性紫外線吸収剤の親水性を、選択した紫外線吸収モノマーを、HEMA42%を含有する水溶液(58%の水)に混合することによって評価した。紫外線吸収性モノマーの沈殿は、モノマーの親水性が十分でないことを示すものであり、光学的透明性が低下した眼用レンズの形成につながる可能性がある。
【0204】
眼用レンズの特性評価
平衡含水率EWC(EWC:Equilibrium Water Content)は、式1に従って、湿潤状態のサンプル質量(M
wet、リントフリーワイプで表面水分を除去)及び乾燥状態のサンプル質量(M
dry、真空オーブンにて40℃で一晩乾燥)から算出した。サンプルの質量は、グラム(g)単位で測定することができる。少なくとも3回の測定の平均値(ave)を、標準偏差(s.d.)と共に記載した。
【数4】
【0205】
比較に用いる、紫外線吸収剤を含有しないブランクサンプルのEWC(EWC
Blank)と、紫外線吸収剤を含有するサンプルのEWC(EWC
Sample)との差(ΔWC%)を以下の式2に従って決定する:
【数5】
【0206】
光学的透明性
ハイドロゲルの光学的透明性又は視覚的外観を目視で評価した。また、変色(黄変)や光学的な曇りの状態を確認するために、文字列上に載置したハイドロゲルの写真を撮影した。また、光学的透明性の評価は、ハイドロゲルまたは眼用レンズの可視光透過率を紫外可視分光法により定量的に評価することでも行った。同一バッチ内で同一濃度の紫外線吸収剤を含む少なくとも5つのハイドロゲルを測定し、平均透過率を求めた。T%は、最低5つのサンプルの400nmから500nmの光透過率の平均値として算出した。
【0207】
比較に用いる、ブランクサンプルのT%(T%
Blank)と紫外線吸収剤含有サンプルのT%
(T%
Sample)との差(ΔT%)は、以下の式3に従って決定する:
【数6】
【0208】
紫外線吸収性
ハイドロゲルがUV-A及びUV-B領域の放射線の吸収性は、石英プレート上でVarianCarey60を用いて記録した、水和ハイドロゲルフィルムの紫外-可視透過スペクトルを測定することによって評価した。
【0209】
UV-A(315~380nm)及びUV-B(280~315nm)の吸収性は、式
4及び式5を使用して、透過スペクトルとは別に計算した:
【数7】
【0210】
黄色味の有無
黄色味の有無は、ハイドロゲルサンプルを白い紙の上において目視観察することにより判断した。ハイドロゲルサンプルの黄色の外観は、可視光透過率の結果で裏付けることができる。サンプルが400nmを超える光を吸収する場合、400~500nmの平均光透過率が低下する。400~500nmの波長範囲で多くの量の光が吸収させることにより、黄色味の存在を示すことができる。
【0211】
ヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール部位を有する重合性紫外線吸収剤
化合物2-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]エチルメタクリレート(HB7)(CAS:96478-09-0)を置換することによって、ヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール紫外線吸収性部位を有する重合性紫外線吸収剤を合成した。
【0212】
ヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール部位及び糖リンカーを有する重合性紫外線吸収剤の合成(HB7-SGlu-MA)
【化22】
【0213】
1-チオ-β-D-グルコースナトリウム塩(CAS:10593-29-0、0.81g、1.2当量、3.09mmol)を、無水ジメチルスルホキシド(DMSO)(5ml)中の2-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]エチルメタクリレート(HB-7、CAS:96478-09-0、1g、3.71mmol)の溶液に添加した。該成分を可溶化した後、ジメチルフェニルホスフィン(DMPP)(0.22mL、0.5当量、1.5mmol)を滴下して加えた。混合物を室温で一晩、磁気的に撹拌した。翌日、中間体HB7-SGluをジエチルエーテル中で直接沈殿させ、遠心分離により濃縮した。反応の成功は、メタクリレートのピーク(6.0、5.6、及び1.85ppm)の消失、及び1.1ppmのα-メチルエステル及び5.1ppmのグリコシドのアノマープロトンの出現によって示された。次いで、中間体HB7-SGluをカラムクロマトグラフィーにより精製し、それにより、ジクロロメタン中の5%のメタノール下で加水分解されたHB7がカラムから溶出し、ジクロロメタン中の15%のメタノール下で生成物を単離した(1.12g、収率:67%)。
【0214】
次の工程では、得られた中間体HB7-SGlu(0.55g、1.02mmol)をピリジン(0.2mL、2.0当量、2.0mmol)の存在下で無水DMSO(20mL)に溶解した。続いて、無水メタクリル酸(CAS:760-93-0、0.19g、1.2当量、1.22mmol)を反応混合物に添加した。6.1及び5.8ppmのメタクリレートのピークの出現は、システイン部分への重合性基の再結合が成功したことを示している。精製のために、反応混合物をジエチルエーテルに添加して粗生成物を沈殿させた。得られた生成物HB7-SGlu-MAをカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン中の15%v/vのメタノール)を使用して精製して、約0.37gのオフホワイトの固体を得た(収率:61%)。ESI-MSでは、610.1875m/z(+Na)の質量を示した。チオグルコースの結合により、この重合性UV吸収剤は、リンカーに糖部分を示すことが可能となった。HB7-SGlu-MAはまた、D2Oに溶解することがわかった。
【0215】
ヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール部位及びアニオン性リンカーを有する重合性紫外線吸収剤の合成(HB7-Cys-MA)
【化23】
【0216】
L-システイン塩酸塩(7.3g、1.5当量、46.4mmol)を、DMSO(60ml)及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(60mL)の混合物中の2-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]エチルメタクリレート又はHB-7(CAS:96478-09-0、10g、30.92mmol)の溶液に添加した。該成分を可溶化した後(L-システインの溶解度を高めるために超音波処理が必要な場合がある)、DMPP又はジメチルフェニルホスフィン(2.2mL、0.5当量、15.46mmol)を滴下して加えた。混合物を室温で一晩、磁気的に撹拌した。翌日、中間体HB7-Cysが溶液から沈殿し、それを真空下でブフナー漏斗を使用して濾過した。濾過プロセス時に沈殿物をジクロロメタンで洗浄した。反応の成功は、メタクリレートのピーク(6.0、5.6、及び1.85ppm)の消失、及び1.1ppmのα-メチルエステルの出現によって示された。次いで、中間体HB7-Cysを再結晶化のために還流下で、エタノール中で加熱し、12gの黄色がかった固体を得た(収率:87%)。
【0217】
得られた中間体HB7-Cys(3g、6.76mmol)を、トリエチルアミン(1.9mL、2.2当量、14.87mmol)の存在下で無水DMSO(20mL)に溶解した。N-ヒドロキシスクシンイミジルメタクリレート又はNHS-MA(CAS:38862-25-8、1.28g、1.2当量、8.12mmol)をDMSO(3mL)に前溶解し、続いて反応混合物に添加した。NHS-MAの代わりに塩化メタクリロイルを使用することも可能であるが、該試薬の反応性が高いため、副反応が起こる可能性がある。5.7、5.36、及び4.4ppmのメタクリルアミドのピークの出現は、システイン部分への重合性基の再結合が成功したことを示している。5.30ppmのメタクリルアミドプロトン(1プロトン)に対する7.84ppmのHB-7からのベンゾトリアゾールプロトン(2プロトン)の統合は、メタクリルアミドリンカーとヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール部分との約1:1のモル濃度の結合を示した。精製のために、反応混合物をDCMで希釈し、続いて水で洗浄した(エマルジョンを破壊するために、ブライン溶液を添加することができる)。有機相をMgSO4で乾燥させ、続いて真空下で溶媒を除去した。得られた生成物HB7-Cys-MAをカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン中の15%v/vのメタノール)を使用して精製して、約1.8gのオフホワイトの固体を得た(収率:51%)。ESI-MSでは、511.1648m/z(-H)及び535.1622m/z(+Na)の質量を示した。システインの結合により、この重合性UV吸収剤は、リンカーにカルボン酸(陰イオン)基を示すことが可能となった。HB7-Cys-MAはまた、塩基性水溶液及びブライン溶液に溶解することがわかった。
【0218】
ヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール部位及び双性イオン性リンカーを有する重合性紫外線吸収剤の合成(HB7-PC-MA)
【化24】
【0219】
10gの2-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]エチルメタクリレート又はHB-7(CAS:96478-09-0、10g、30.92mmol)を2Mの水酸化ナトリウム(NaOH)溶液200mLと混合した。1時間攪拌した後、濃塩酸(HCl)でpHを1に下げた。白色の生成物が沈殿し、それを濾別した。生成物をジクロロメタンに可溶化し、精製のために液体抽出によって水で洗浄した。溶媒を除去した後、加水分解されたHB-7又はHB7-dE(CAS:96549-95-6)を真空下で2日間乾燥した。
【0220】
2-クロロ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン(CAS:6609-64-9、1.01g、7.1mmol)を乾燥テトラヒドロフラン(THF)(20mL)に溶解し、-25℃に冷却した。次いで、トリエチルアミン(0.717g、7.1mmol)をこの冷溶液に添加した。加水分解されたHB7又はHB7-dE(1.63g、6.4mmol)を乾燥THF(15mL)に溶解し、15分間かけてホスホラン溶液に滴下して加えた。残っているHB7-dEをフラスコへ洗い流すために、さらに5mLのテトラヒドロフランを使用した。混合物を-25℃で3時間撹拌し、その後、トリエチルアンモニウム塩を濾別し、THFを真空下で除去して、淡黄色の油を得た。粗生成物HB7-PD(2.55g)を精製せずに次の工程で使用した。
【0221】
次の反応では、粗HB7-PD(2.55g)を乾燥アセトニトリル(20mL)に溶解し、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(DMAEMA)(CAS:2867-47-2、11.1g、10当量)を添加した。この反応物を60℃で48時間撹拌した。アセトニトリルを真空下で除去し、デカンテーションによって過剰のDMAEMAを除去した。この粗物質を最初に高真空下で一晩乾燥させ、続いてエタノール中で一晩撹拌した。この物質を、00DaのMWCOセルロース膜を使用してエタノールに対して透析した。生成物HB7-PC-MA(0.12g)を、溶媒を除去した後に50%の純度で得た(未反応のHB7-PDを不純物として識別した)。1H-NMRでは、4.5、3.85、及び1.85ppmのピークを介して生成物を確認したが、一方で、31P-NMRでは、18~0ppmへのシフトを示した。
【0222】
ヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール部位及び代替のアニオン性リンカーを有する重合性紫外線吸収剤の合成(HBE-Glu-MA)
【化25】
【0223】
d][1,2,3]トリアゾール-2-イル)-4-(2-ヒドロキシエチル)フェノール若しくはHB7-dE(3.18g、12.5mmol)、(S)-5-(tert-ブトキシ)-4-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-5-オキソペンタン酸(8.70g、28.7mmol)、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl、5.50g、28.7mmol)及び4-ジメチルアミノピリジン(DMAP、3.66g、29.9mmol)を添加した。反応物を室温で24時間撹拌し、次いでTHFを除去するために濃縮した。混合物を酢酸エチル(EtOAc)及び水で希釈し、そして分離した。水相を再抽出し(EtOAc)、合わせた有機物を水、0.5MのHCl、飽和NaHCO3溶液及びブラインで洗浄した。次いで、有機層をMgSO4で乾燥し、真空下でガム(9.9g)まで減縮した。このガムを窒素下で無水DMF(100mL)に取り込み、重炭酸アンモニウム(4.93g、62mmol)を添加した。この反応物を室温で18時間撹拌し、その後、それをEtOAc及び水で希釈し、そして分離した。水相を再抽出し(EtOAc)、合わせた有機物を水(2回)及びブラインで洗浄した。次いで、有機層をMgSO4で乾燥し、そして濃縮して白色の固体を得た。固体を再結晶化(MeCN)し、無色の角柱として5-(3-(2H-ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェネチル)1-(tert-ブチル)(tert-ブトキシカルボニル)L-グルタメート又はHBE-Glu(Boc-tBu)を得た(4.85g、72%)。LCMS:tR 4.20分、95.1%、m/z 441.40[(M+H)-Boc]+。結合の成功は、対応する芳香族のピークを伴う4.32ppmのエステルのピーク、及び1.40ppmの保護基のピーク(Boc及びtBu)の出現によって示された。続いて、HBE-Glu(Boc-tBu)(2.00g、3.70mmol)を、窒素下でアセトニトリルとEtOAcとの4:1混合物(80:20mL)に添加し、そしてp-トルエンスルホン酸(PTSA、1.44g、7.59mmol)を添加した。反応物を室温で18時間撹拌し、その後、沈殿物を濾別し、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)で洗浄して白色の固体を得た。白色の固体を飽和NaHCO3溶液とEtOAcとの混合物に取り込み、そして分離した。水相を再抽出し(EtOAc)、合わせた有機物を水(2回)及びブラインで洗浄した。次いで、有機層をMgSO4で乾燥し、濃縮して油(1.6g)(推定上、アミン)を得て、これをさらに精製することなく使用した。LCMS:tR 2.29分、90.15%、m/z 441.42[(M+H)]+。窒素下の無水DMF(50mL)に、メタクリル酸(MAA、342mg、3.95mmol)、N,N-ジイソプロピルアミン(DIPEA、1.50mL、8.62mmol)、EDC・HCl(826mg、4.31mmol)、ヒドロキシベンゾトリアゾール HOBt・20重量%H2O(727mg、4.31mmol)、及び、DMF(20mL)に溶解した前工程の推定上のアミン(1.58g、3.59mmol)を添加した。この反応物を室温で18時間撹拌し、その後、それをEtOAc及び水で希釈し、そして分離した。水相を再抽出し(EtOAc)、合わせた有機物を水(2回)、0.5MのHCl、飽和NaHCO3溶液及びブラインで洗浄した。次いで、有機層をMgSO4で乾燥し濃縮して、白色の固体を得た。この固体をシリカゲルクロマトグラフィー(EtOAc/石油エーテル 20:80)によって精製して、白色の固体(340mg)、推定上、メタクリルアミドtert-ブチルエステル HBE-Glu(tBu)-MAを得て、これをさらに精製することなく使用した。LCMS:tR 3.76分、68.5%、m/z 453.36[(M+H)-t-Bu]+。
【0224】
白色の固体である、この推定上、HBE-Glu(tBu)-MA(200mg、約70%の純度)に、トリフルオロ酢酸(4mL)を添加した。2.5時間後、反応物を濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(EtOAc/石油スピリット 50:50、次いで酢酸/EtOAc 1:99)によって精製して、(S)-5-(3-(2H-ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェネトキシ)-2-メタクリルアミド-5-オキソペンタン酸又はHBE-Glu-MAを白色固体(115mg)として得た。1H-NMRにより、5.77、5.37、4.33、及び1.92ppmの重合性リンカーを有するヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール(芳香族)のピーク(7.0~8.22ppm)を介して生成物を確認した。LCMS:tR 2.93分、99.57%、m/z 453.35[(M+H)]+。
【0225】
ヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール部位及び代替のアニオン性リンカーを有する重合性紫外線吸収剤の合成(HBA-Lys-MA)
【化26】
【0226】
窒素下の無水DMF(30mL)に、3-(3-(2H-ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸又はHBA(3.00g、10.6mmol)、DIPEA(2.21mL、12.7mmol)、EDC・HCl(2.44g、12.7mmol)、HOBt・20重量%H2O(1.72g、12.7mmol)及び無水DMF30mLに溶解したメチル(tert-ブトキシカルボニル)-L-リシネート(3.14g、10.6mmol)を添加した。反応物を室温で18時間撹拌し、その後、それを0.5MのHCl(100mL)でクエンチした。有機物をEtOAcで抽出し(50mLで2回)、飽和NaHCO3溶液(100mL)、水(100mL)及びブライン(100mL)で洗浄した。次いで、有機層をMgSO4で乾燥し、真空下で減縮して、メチルN6-(3-(3-(2H-ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル)プロパノイル)-N2-(tert-ブトキシ-カルボニル)-L-リシネート又はHBA-Lys(Boc-Me)を得た。LCMS:tR 3.18分、95.1%、m/z 426.46[(M+H)]+。結合の成功は、対応する芳香族のピークを伴う3.20ppmのアミドのピーク、及び1.56ppmの保護基のBocのピーク、及び3.70ppmのメチルエステルのピークの出現によって示された。HBA-Lys(Boc-Me)(3.18g、6.05mmol)を、窒素下でジオキサン(12mL)中のMTBE(12mL)と4MのHClとの混合物に添加した。反応物を48時間撹拌し、その後、沈殿物を濾別し、ジエチルエーテル(100mL)で洗浄して、アミン中間体をオフホワイトの粉末(2.75g、98.6%)として得た。LCMS:tR 3.18分、95.1%、m/z 426.46[(M+H)]+。メチルN6-(3-(3-(2H-ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル)プロパノイル)-L-リシネート塩酸塩(2.50g、5.41mmol)を、窒素下で無水DMF(80mL)に添加し、続いてメタクリル酸(512mg、5.95mmol)、DIPEA(3.4mL、19.5mmol)、EDC・HCl(1.24g、6.49mmol)及びHOBt・20重量%H2O(1.10g、6.49mmol)を添加した。反応物を室温で18時間撹拌し、その後、水(100mL)でクエンチした。有機物をEtOAcで抽出し(50mLで2回)、0.5MのHCl(100mL)、飽和NaHCO3溶液(100mL)、水(100mL)及びブライン(100mL)で洗浄した。次いで、有機層をMgSO4で乾燥し、真空下で減縮して、生成物をオフホワイトの粉末として得た。これを窒素下で無水DMF(100mL)に溶解し、重炭酸アンモニウム(1.00g、12.6mmol)を添加し、反応物を18時間撹拌した。反応を水(100mL)でクエンチし、有機物をEtOAcで抽出し(50mLで2回)、0.5MのHCl(100mL)、飽和NaHCO3溶液(100mL)、水(100mL)及びブライン(100mL)で洗浄した。次いで、有機層をMgSO4で乾燥させ、真空下で減縮して、生成物HBA-Ly(Me)-MA(1.75g、65.5%)をオフホワイトの粉末として得た。LCM
S:tR 2.81分、96.2%、m/z 492.38[(M+H)]+。
【0227】
周囲雰囲気下のTHF(15mL)に、メチルN6-(3-(3-(2H-ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル)プロパノイル)-N2-メタクリロイル-L-リシネート又はHBA-Lys(Me)-MA(193mg、0.391mmol)を添加し、続いて2MのLiOH(10mL)を添加した。反応物を室温で18時間撹拌し、その後、1MのHClでpH 5にクエンチした。有機物をEtOAcで抽出し(25mLで2回)、水(50mL)及びブライン(50mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、真空下で固体に減縮した。これを1MのNaOH(25mL)に溶解し、EtOAcで洗浄し(25mLで2回)、1MのHClでpH5に酸性化した。有機物をEtOAcで抽出し(25mLで2回)、0.5MのHCl(50mL)、飽和NaHCO3溶液(50mL)、水(50mL)及びブライン(50mL)で洗浄した。次いで、有機層をMgSO4で乾燥し、真空下で減縮して、生成物をオフホワイトの粉末のHBA-Lys-MA(142mg、76.0%)として得た。1H-NMRにより、5.71、5.36、4.18、3.01、及び1.86ppmの重合性リンカーを有するヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール(芳香族)のピーク(7.08~8.03ppm)を介して生成物を確認した。LCMS:tR 2.54分、95.1%、m/z 480.4[(M+H)]+。
【0228】
ヒドロキシル-ベンゾフェノン部位を有する重合性紫外線吸収剤
化合物2-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレート又はBP15(CAS:16432-81-8)を、親水性非ポリアルキレングリコールリンカーを導入するために誘導体化した。
【0229】
ヒドロキシフェニル-ベンゾフェノン部位及びアニオン性リンカーを有する重合性紫外線吸収剤の合成(BP15-Cys-MA)
【化27】
【0230】
L-システイン塩酸塩(2.26g、1.5当量、14.4mmol)を、DMSO(10ml)とDMF(10mL)との混合物中の2-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレート(BP15、CAS:16432-81-8、3g、9.6mmol)の溶液に添加した。この成分を可溶化した後(L-システインの溶解度を高めるために超音波処理が必要な場合がある)、TEA又はトリエチルアミン(1.2mL、1.0当量、9.6mmol)を滴下して加えた。混合物を室温で一晩、磁気的に撹拌した。翌日、中間体BP15-Cysが溶液から沈殿し、真空下でブフナー漏斗を使用して濾過した。濾過プロセス時に沈殿物をジクロロメタンで洗浄した。反応の成功は、アクリレートのピーク(6.0、6.2、及び6.35ppm)の消失によって示された。
【0231】
次いで、中間体BP15-Cysを再結晶化のために還流下で、エタノール中で加熱して、2gの黄色がかった固体を得た(収率:48%)。得られた中間体BP15-Cys(2g、4.61mmol)を、トリエチルアミン(1.3mL、2.2当量、1.01mmol)の存在下で無水DMSO(15mL)に溶解した。N-ヒドロキシスクシンイミジルメタクリレート又はNHS-MA(CAS:38862-25-8、1.1g、1.3当量、6.00mmol)をDMSO(5mL)に前溶解し、続いて反応混合物に添加した。5.8、5.3、及び4.4ppmのメタクリルアミドのピークの出現は、システイン部分への重合性基の再結合が成功したことを示している。1.9ppmのメタクリルアミドプロトン(3プロトン)に対する6.47ppmのBP15からのベンゾフェノンプロトン(1プロトン)の統合は、約1:1のモル濃度のメタクリルアミドリンカーのベンゾフェノン部分への結合を示した。精製のために、反応混合物をDCMに希釈し、続いて水で洗浄した(エマルジョンを破壊するために、ブライン溶液を添加することができる)。有機相をMgSO4で乾燥し、続いて真空下で溶媒を除去した。得られた生成物BP15-Cys-MAをカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン中の15%v/vのメタノール)を使用して精製して、約0.6gの白色黄色がかった固体(収率:26%)を得た。ESI-MSでは、500.138m/z(-H)及び524.1356m/z(+Na)の質量を示した。
【0232】
ヒドロキシフェニル-ベンゾフェノン部位及び双性イオン性リンカーを有する重合性紫外線吸収剤の合成(BP15-PC-MA)
【化28】
【0233】
10gの2-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレート又はBP15(CAS:16432-81-8、10g、38.7mmol)を、2Mの水酸化ナトリウム(NaOH)溶液200mLと混合した。1時間攪拌した後、濃塩酸(HCl)でpHを1に下げた。白色の生成物が沈殿し、それを濾別した。生成物をジクロロメタンに可溶化し、精製のために液体抽出によって水で洗浄した。溶媒を除去した後、加水分解されたBP15又はBP15-dEを真空下で2日間乾燥した。
【0234】
2-クロロ-2-オキソ-1,3,2-ジオキソホスホラン(CAS:6609-64-9、1.02g、7.1mmol)を乾燥テトラヒドロフラン(20mL)に溶解し、-25℃に冷却した。次いで、トリエチルアミン(0.724g、7.1mmol)をこの冷溶液に添加した。加水分解されたBP15又はBP15-dE(1.85g、7.1mmol)を乾燥テトラヒドロフラン(15mL)に溶解し、15分間かけてホスホラン溶液に滴下して加えた。残っているBP15-dEをフラスコへ洗い流すために、さらに5mLのテトラヒドロフランを使用した。混合物を-25℃で3時間撹拌し、その後、トリエチルアンモニウム塩を濾別し、テトラヒドロフランを真空下で除去して、淡黄色の油を得た。粗生成物(2.65g)を精製せずに次の工程で使用した。
【0235】
この粗BP15-PD(2.65g、7.3mmol)を乾燥アセトニトリル(20mL)に溶解し、DMAEMA(CAS:2867-47-2、11.43g、10当量)を添加した。この反応物を60℃で24時間撹拌した。アセトニトリルを真空下で除去し、デカンテーションによって過剰のDMAEMAを除去した。粗物質をクロロホルムに溶解し、エーテルに沈殿させた。この精製プロセスをさらに2回繰り返した。生成物BP15-PC-MA(0.35g)は、乾燥した後に70%の純度で得られた(未反応のBP15-PDを不純物として識別した)。1H-NMRでは、4.6、4.45、4.0、及び1.9ppmのピークを介して生成物を確認したが、一方で、31P-NMRでは、18~0ppmへのシフトを示した。
【0236】
眼用レンズ用HEMAハイドロゲルの一般的な製造方法:
眼用レンズの製造に適した重合性紫外線吸収剤を配合するハイドロゲルを、以下の手順に従って調製した:
【0237】
装置
214.8mgのモノマー混合物を充填できる容積200μLのポリプロピレン製の型(直径20mm、高さ0.1mm)を使用して、ハイドロゲルを調製した。通常、1バッチごとに10個のハイドロゲルサンプルを形成した(10倍のスケールで合計2148mg)。この型で成形されるハイドロゲルは、通常、平均厚みが200μm未満の平らなサンプルである。
【0238】
モノマー溶液
以下の表1に従ってAIBNを含まないバルクモノマー混合物を調製した。モノマー:HEMA、MAA、及びTMPTMAを0.01g単位で秤量し、マグネットスターラーを使用して混合した(10分)。バルクモノマー混合物は冷蔵庫に保管し、8週間以内に使用した。
【0239】
【0240】
ハイドロゲルの調製
異なる重合性紫外線吸収剤を含むハイドロゲルサンプルを形成するために(表2を参照)、上記で調製したバルクモノマー混合物をバイアルに秤量した後に、所望の紫外線吸収剤を必要量添加した。次いで、紫外線吸収剤を含有するモノマー混合物に重合開始剤であるAIBN(0.5wt%)を添加した。撹拌子を加え、バイアルをセプタム付きのスクリューキャップで密封し、ボルテックスミキサーを使用して溶液を3分間混合した。その後、前記の各モノマー混合物をアルゴンガスでニードルを用いて10分間バブリングすることにより、不要な気体を除去した。必要に応じて、前記の重合性紫外線吸収剤を含有する混合物を穏やかに加熱することで(例えば、45℃)成分を溶解させ、30秒ごとに溶解性を目視で確認した。
【0241】
次いで、電子分配ピペッターを使用して、異なる重合性紫外線吸収剤を有する混合物200mlを各々ポリプロピレン製の型に注入した。上型を嵌合して固定した後に、ファン付きのガスクロマトグラフィーオーブン内で以下の熱条件によりモノマーを重合させた:50°Cで2時間加熱した後、90°Cまで上昇させ2時間保持した。重合後に型を開き、得られたポリマーサンプルを10%エタノールのPBS溶液中に3~4時間浸漬した。次いで、ポリマーサンプルを回収し、PBS溶液中で37℃一晩浸漬することで個別に水和膨潤させた。
【0242】
対照(ブランク)のハイドロゲルサンプルは、ハイドロゲル形成用のモノマー混合物と同一のモノマーを用いるが、紫外線吸収剤を含有しない配合により調製した。
【0243】
【0244】
異なるハイドロゲルの紫外線吸収性及び光学的透明性を評価した。
【0245】
ヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾールの紫外線吸収部位を有する実施例1~3のハイドロゲルの紫外線吸収性に関する結果を
図1に示す。
図1から、UV-A及びUV-Bの範囲におけるHB7-Cys-MA(実施例1)及びHB7-PC-MA(実施例2)を含有する全てのハイドロゲルの紫外線吸収性がISOのクラスIの規格を満たしていることがわかる。
【0246】
ヒドロキシフェニル-ベンゾフェノンの紫外線吸収性部位を有する実施例8~10のハイドロゲルの紫外線吸収性に関する結果を
図2に示す。
図2から、UV-A及びUV-Bの範囲における、BP15-Cys-MA(実施例7)及びBP15-PC-MA(実施例8)を含有する全てのハイドロゲルの紫外線吸収性がISOのクラスIIの規格を満たしていることがわかる。
【0247】
HEMAベースのハイドロゲルの含水率に及ぼす、親水性紫外線吸収剤の影響
得られたハイドロゲルの含水率(EWC)は、このハイドロゲルが眼用レンズへの使用に適しているか否かを確認する上で重要なパラメータである。表2のいくつかの紫外線吸収性ハイドロゲルサンプルのEWCの結果を、ブランクのハイドロゲル/ベース基材に対する含水率の変化(ΔWC%)として、
図1および2にまとめた。
【0248】
ブランクサンプルであるHEMAベースのハイドロゲルの平均EWC値は58.8±1.2%であった(異なる10サンプルより算出した)。±5%の規格に基づいて、このブランクサンプルのハイドロゲルの含水率(EWC)の上下限値は58.8±5%と設定することができる。
【0249】
図1に示すとおり、HB7-Cys-MA(実施例1)、HB7-PC-MA(実施例2)、及びHB7-SGlu-MA(実施例3)を用いて形成されたハイドロゲルのEWC値は、ブランクサンプルのEWCに対し±10%以内の許容範囲内の結果であった。特に、HB7-Cys-MA含有のハイドロゲルは、EWC値が57.7±1.1%(5サンプルの平均値)であり、これはブランクサンプルのEWC値に対するΔWC%が-1.2%の結果であった。
【0250】
図2に示すとおり、BP15-Cys-MA(実施例7)及びBP15-PC-MA(実施例9)を用いて形成されたハイドロゲルは、ブランクサンプルのEWCの±5%以内である許容範囲内のEWC値であった。特に、BP15-Cys-MA含有のハイドロゲル及びBP15-PC-MA含有のハイドロゲルのブランクサンプルのEWC値に対するΔWC%は約-2.0%の結果となった。
【0251】
HEMAベースのハイドロゲルの光学的透明性に対する親水性紫外線吸収剤の影響
調製したハイドロゲルサンプルの光学的透明性を評価したところ、荷電リンカー又は糖リンカーを有する重合性紫外線吸収剤を含み形成されたハイドロゲルは、優れた光学的透明性も有することが示された。
図3及び
図4は、ブランク/ベース材料に対する紫外線吸収性ハイドロゲルサンプルの平均透過率の変化を示す。
【0252】
HEMAベースのブランクハイドロゲルは、400~500nmの範囲内で約98%の平均透過率を示した。
【0253】
図3に示すとおり、HB7-Cys-MA(実施例1)、HB7-PC-MA(実施例2)、及びHB7-SGlu-MA(実施例3)を含んで形成したHEMAベースのハイドロゲルは全て、許容範囲内の数値である優れた光学的透明性及び可視光透過性を示した。特に、HB7-Cys-MAを用いて形成したハイドロゲルは、88.7%の優れた光学的透明性(T%)(又はブランクのT%比-9.4のΔT%)を示した。実施例2の光学的透明性は、HB7-PC-MAの濃度を4.9%にすることにより、予想を超える高い紫外線吸収性(UV-A99%)を示したことから、HB7-PC-MAの濃度を下げることでさらに改善することができる。これらの結果は、親水性の非ポリアルキレンリンカーを有するHB7誘導体モノマーは、ハイドロゲルの光学的透明性に許容できない影響を与えることなく、ブランクサンプルに近い可視光透過率を有する紫外線吸収性ハイドロゲルを製造するのに役立つことを示している。
【0254】
同じ
図3において、BP15-Cys-MA(実施例7)及びBP15-PC-MA(実施例8)を含み形成したHEMAベースのハイドロゲルもまた、許容範囲内の数値である優れた光学的透明性及び可視光透過性を示した。これらの結果は、親水性の非ポリアルキレンリンカーを有するBP15誘導体モノマーも同様に、光学的透明性に対し好適な効果を有すると共に、ブランクサンプルに近い可視光透過率を有する紫外線吸収性ハイドロゲルを製造するのに役立つことを示している。
【0255】
HEMAベースのハイドロゲルに対する親水性紫外線吸収剤の濃度の効果
紫外線吸収剤の濃度がハイドロゲル材料の紫外線吸収性及びEWCに対して、どのような影響を及ぼすかを確認するために、それぞれ異なる濃度(4.4wt%及び5.2wt%)のHB7-Cys-MAを含有するハイドロゲルサンプル(表2の実施例4及び実施例5)の、紫外線吸収性、含水率の変化(ΔWC%)、及び光学的透明性(ΔT%)について評価を行った。結果を
図4、及び
図5に示す。
【0256】
図4に示すとおり、HB7-Cys-MAを4.4wt%および5.2wt%の濃度で含むハイドロゲルの紫外-可視光の吸収性能は同様であった。さらに、EWC測定により、異なるHB7-Cys-MA濃度の各々が許容範囲内のΔWC%を達成できることが示された。より高い濃度(5.2wt%、実施例5)であっても、HB7-Cys-MA含有ハイドロゲルにおいては予想外に高いEWCを有すると共に、許容範囲内のΔWC%であった。さらに、光学的透明性の評価では、HB7-Cys-MA含有ハイドロゲルの光学的透明性は、使用したHB7-Cys-MAの濃度に影響されないことが示された(
図5)。
【0257】
HEMAベースのハイドロゲルにおける紫外線吸収剤の混合物
ハイドロゲル中の紫外線吸収剤の混合物として、HB7-Cys-MAとBP15-Cys-MAをモル比1:2の割合で混合する場合と(表2の実施例9)、HB7-Cys-MAと市販の紫外線吸収剤HB7をモル比3:1の割合で混合する場合(表2の実施例6)を例示した。これらの混合物は、HEMAベースのハイドロゲル中に0.02mmolの総紫外線吸収剤濃度となるように配合したが、これはHB7-Cys-MA/BP15-Cys-MA混合物、及びHB7/HB7-Cys-MA混合物において、それぞれ4.7wt%、4.3wt%の総紫外線吸収剤濃度に相当する。
【0258】
紫外線吸収剤の混合物を用いて形成したHEMAハイドロゲルの紫外線吸収性、ΔWC%及び光学的透明性の結果を同様に
図4及び
図5に示す。HB7-Cys-MAをBP15-Cys-MAと混合することにより(実施例9)、HB7-Cys-MAのみを有するハイドロゲルと比較して、ΔWC%は許容範囲内にとどまり、EWCは大きく変化しなかった。HB7とHB7-Cys-MAを、HB7-Cys-MA/HB7=3:1のモル比でハイドロゲルに組み込んだ場合(実施例6)、ハイドロゲルのEWCは予想外に改善された(ブランクに近い)。HB7-Cys-MA/HB7を含むハイドロゲルでは、高いEWCを維持しながら、クラスIの紫外線吸収性も達成された(
図4)。
【0259】
図5に示すとおり、HB7-Cys-MAとBP15-Cys-MAとの混合物(モル比1:2)又はHB7-Cys-MAとHB7との混合物(モル比3:1)のいずれかを含有するHEMAベースのハイドロゲルは、ブランクに対して許容範囲内のΔT%である高い光学的透明性を示した。これは、親水性のアニオン性リンカーがハイドロゲルの親水性環境に悪影響(すなわち、光学的透明性の低下をもたらす原因となる析出によって)を与えないことを示す結果であった。
【0260】
イオン性ハイドロゲルに対する親水性紫外線吸収剤の効果
ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ジメチルアミノエチルクロリドメタクリレート、メタクリルアミドジメチルアミノプロピルメチルクロリド、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2-メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、及びエチレングリコールジメタクリレートを混合し、イオン性(荷電)ハイドロゲルのモノマー混合液を調製した。得られたイオン性ハイドロゲルコンタクトレンズのモノマー混合液(米国公開特許第2012/0074352号を参照)に、必要な紫外線吸収剤を添加し、次いでAIBNを使用してモノマー混合物を熱硬化させることによりハイドロゲルポリマーを形成した。HEMAベースのハイドロゲルを形成するために、上記のハイドロゲルの調製手順はイオン性ハイドロゲルの調製にも使用された。
【0261】
それぞれ異なる濃度で、HB7-Cys-MA及び/又はHB7を含むイオン性のモノマー混合液を用いて形成した、イオン性ハイドロゲルコンタクトレンズの実施例を表3に示す。コントロールのハイドロゲルサンプル(ブランク)は、イオン性ハイドロゲルコンタクトレンズを形成するのと同一のイオン性モノマー混合液を用いるが、紫外線吸収剤は配合せずに調製した。
【0262】
【0263】
得られたイオン性ハイドロゲルの紫外線吸収性及び含水率の変化(ΔWC%)について評価した。
【0264】
ブランクのHEMAベースのハイドロゲルコンタクトレンズのEWC規格は58±5%であるのに対し、前記イオン性ハイドロゲルコンタクトレンズのブランクサンプルのEWCは53%であった。したがって、試験用イオン性ハイドロゲルサンプルのEWCの設定値を、ブランク材料に対して53±5%とすることとした。
【0265】
図6は、様々な量のHB7-Cys-MAが、得られるイオン性ハイドロゲルコンタクトレンズの紫外線吸収性に及ぼす影響を示している。HB7-Cys-MAの濃度が1.5wt%の場合、コンタクトレンズはクラスIIの紫外線遮断性を有することが確認された。また、紫外線吸収コンタクトレンズとブランクコンタクトレンズのEWC値の差(ΔWC)を
図6に示した(代表として実施例1、および10~16)。最大で3.5w/w%のHB7-Cys-MAをハイドロゲル含む場合のΔWC%は、ブランクに対して1.0%以下に維持された。HB7-Cys-MAの濃度が高くなることにより、ΔWCは増加したが、得られたコンタクトレンズのEWCは、ハイドロゲルコンタクトレンズの設定値である53±5%を満たすものであった。
【0266】
対照的に、イオン性ハイドロゲルのEWCの低減に対して、HB7は著しい影響を及ぼした。
図7に、異なる比率のHB7-Cys-MAとHB7との混合物を含むイオン性ハイドロゲルコンタクトレンズの結果を示す(実施例10、11及び17~20)。HB7の濃度を0~0.5及び1.0w/w%に増加させることにより、HB7-Cys-MAの濃度を1.0~2.0w/w%に倍増する場合と比較して、イオン性ハイドロゲルのEWCに対してより有意な影響を与えた(すなわち、含水率の大幅な減少)。イオン性ハイドロゲルへHB7-Cys-MAを配合することで、クラスIの紫外線吸収性を満たす場合において、これらのハイドロゲルコンタクトレンズの紫外-可視透過率と光学的透明性が向上する結果となった。
【0267】
実施例のハイドロゲルの結果の概要
異なる重合性紫外線吸収剤を含む、様々なHEMA及びイオン性ハイドロゲルの評価から得られた結果の概要を表4に示す。以下の性能基準を満たしているか否かについて、様々なハイドロゲルを評価した:
●含水率の変化(ΔWC%)
○:ブランクに対して±5%内
×:ブランクに対して±5%外
●紫外線吸収性
○:ISOのクラスII以上を満たす(UV-A遮断:>50%、UV-B遮断:>90%)
×:ISOのクラスIIを満たしていない
●400~500nmの平均光透過率の変化(ΔT%)で反映される光学的透明性
○:ブランクに対して20%未満の透明性の低下(ΔT%<-20%)
×:ブランクに対して20%を超える透明性の低下(ΔT%>-20%)
●黄色味又は黄変
○:観察されない
×:観察される
【0268】
【0269】
また、重合性アニオン性リンカーを有するヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾールベース系の紫外線吸収剤の追加例として、HB7-Cys-MAの類似体を合成した。
図8は、HBE-Glu-MA及びHBA-Lys-MAの紫外-可視光透過率を、HEMA中0.04mMの濃度のHB7-Cys-MAと、ブランクサンプル(HEMAのみで紫外線吸収剤なし)と比較したものである。
【0270】
比較例のHEMAハイドロゲル
(i)リンカーなし、又は(ii)ポリアルキレングリコールリンカーを介して、紫外線吸収部位と重合性部位とが結合する構造を有する紫外線吸収剤を用いて、比較例のハイドロゲルサンプルを作製した。比較例のハイドロゲルサンプルは、表2の試験用HEMAハイドロゲルサンプルと同じ方法で調製した。
【0271】
(i)リンカーを有さない紫外線吸収剤を用いた比較例のハイドロゲル
比較例のハイドロゲルサンプルは、工業的に適する基準を有する紫外線吸収剤HB7を単独で、あるいは、他の市販の紫外線吸収剤であるBP15との混合物として調製した。HB7及びBP15の紫外線吸収剤は、モノマー中にリンカーが存在しないように、紫外線吸収性部位は、重合性メタクリレート基に直接結合している。
【0272】
(ii)ポリアルキレングリコールリンカーを有する紫外線吸収剤を含む比較例のハイドロゲル
ポリエチレングリコール(PEG)リンカーを介して、紫外線吸収性部位と重合性メタクリレート基とが結合する構造を有する紫外線吸収剤を用いて、比較例のハイドロゲルサンプルを作製した。PEGをリンカーに有する比較用紫外線吸収剤は、HB7-PEGMA及びBP15-PEGMAと表される。
【0273】
【0274】
BP15-PEGMAは、BP15-dEをω-(p-ニトロフェニルオキシ)-ポリ(エチレングリコール)メタクリレート又はNPF-PEGMAと結合させることによって合成した。精製後、生成物BP15-PEGMAが得られた(スキーム(b))。
【0275】
【0276】
比較例のHEMAベースのハイドロゲルサンプルは、表2の実施例のHEMAハイドロゲルサンプルの調製に使用したのと同一の手順により作製した。比較例のハイドロゲルの調製には、同様の濃度の比較用紫外線吸収剤(モル濃度ベース)を使用した。比較例のハイドロゲルの配合を表5に示す。
【0277】
(iii)カチオン性リンカーを有する紫外線吸収剤を含む比較例のハイドロゲル
以下に示すとおり、HB7-dE又は2-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]エタノールをブロモアセチルブロミドと結合させた後、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート又はDMAEMAを添加することによって、カチオン性又は四級アンモニウムリンカーを有する紫外線吸収剤である、HB7-DMAEMAを合成した(スキーム(c))。
【0278】
【0279】
BP15内のカチオン性リンカーは、加水分解されたBP15(又はBP15-dE)をブロモアセチルクロリドと結合させ、続いてDMAEMAを添加することにより、同様の経路で合成することもできる。
【0280】
【0281】
上記の手順に従って、含水率(EWC)、光学的透明性(T%)、紫外線吸収性、及び黄色味の有無について、比較例のハイドロゲルサンプルを評価した。
【0282】
結果
3%のHB7(CE1)を含有する比較例のハイドロゲル7サンプルの平均EWC値は55.5±1.1%であった(
図9)。この結果は、アニオン性の紫外線吸収剤であるBP15-Cys-MAを含有する本発明のハイドロゲル(実施例8)について得られた測定値よりも低く、CE1よりも高いEWC(56.7±1.0%)であった。また、双性イオン性の紫外線吸収剤であるBP15-PC-MAを用いて形成されたハイドロゲルは、EWCが56.9±0.8%であり、UV-Aの吸収性がより高く、本試験において2番目に良い結果をもたらした。
【0283】
3%のHB7(CE1)を含有する比較例のハイドロゲルサンプルは、ブランクに対するT%が70.5%、又はΔT%が-27.5%(許容範囲外)で示されるとおり、低い可視光透過率であると共に、曇りを示した(
図10)。本発明と比較して、すなわち4.8%のHB7-Cys-MA(実施例1)を配合した場合は、HEMAベースのハイドロゲルのEWC値を有意に改善し、ブランクに対するΔWC%が-1.2%であった(
図1)。また、HB7-Cys-MAを含むHEMAベースのハイドロゲルの光学的透明性は、配合量が最大5.2%の高濃度であっても、ΔT%値が約-6.9%に維持されたが、HB7の場合では維持されなかった(
図3及び
図5)。HB7-Cys-MAとHB7の混合物(モル比3:1)を用いることにより、ブランクに対するΔWC%が-0.7%、ΔT%が-1.2%、かつ、クラスIの紫外線吸収性を有するHEMAベースのハイドロゲルも達成することとなった(
図4及び
図5)。
【0284】
イオン性ハイドロゲルにおいて、3.5%w/wのHB7-Cys-MAを配合することで、クラスIの紫外線吸収を達成したが、一方で、ブランク(ベース材料)の含水率をΔWC%-0.9%とわずかに変化させた(
図6)。対照的に、HB7は、このイオン性ハイドロゲルの含水率の減少に対して極めて大きな影響を及ぼした(実施例17~20)。HB7とHB7-Cys-MAとの混合物をイオン性ハイドロゲルに使用することにより、紫外線吸収剤の濃度がハイドロゲルのEWC値に及ぼす影響を確認することができる(
図7)。HB7の濃度を0.5%増加させるとΔWC%は-0.6%となり、HB7-Cys-MAの濃度を1.0%増加させるとΔWC%が-0.2%となることが確認された。さらに、モノマー混合物中におけるHB7の溶解性を維持することは困難であることから、コンタクトレンズに曇りをもたらすことが多い結果となった。
【0285】
市販の紫外線吸収剤の混合物である3%のHB7/BP15(モル比1:2)を用いた場合(CE2、
図10)と、親水性アニオン性リンカーを有する紫外線吸収剤の混合物である4.7%のHB7-Cys-MA/BP15-Cys-MA(モル比1:2)を用いた場合(
図5)とを比較したところ、本発明の紫外線吸収剤を用いることにより、HEMAベースのハイドロゲルの光学的透明性を大きく改善することが示された(ΔT%が-20.9%であるのに対して、-6.1%)。
【0286】
ポリエチレングリコール(PEG)リンカーを有する重合性紫外線吸収剤を用いて形成される比較例のハイドロゲルサンプルであるCE3、CE4の紫外線吸収性、光学的透明性、及び含水率(EWC)についても、市販の紫外線吸収剤であるHB7のみ(CE1)、あるいはHB7とBP15との混合物(CE2)を用いて形成したハイドロゲルサンプルとの比較により評価を行った。紫外線吸収性及びΔWC%の結果を
図9に示す。
【0287】
BP15-PEGMA(CE4)のエチレングリコール含有率は、HB7-PEGMA(CE3)のエチレングリコール含有率よりも高いが、ハイドロゲルの含水率の増加に対して影響を与えなかった(
図9)。HB7及びHB7/BP15を用いる場合の参考例サンプル(CE1及びCE2)と同様の濃度の場合、5wt%のHB7-PEGMA及び5wt%のBP15-PEGMAサンプルは、ブランクと比較してEWCが著しく低く、かつΔWCが大きい結果となった。
【0288】
光学的透明性の評価においても、3%のHB7を含有するハイドロゲルは、T%が70.5%であり、ブランクに対するΔT%は-27.5%(許容範囲外)であることに反映されるとおり、低い可視光透過率と曇りを示した。さらに、HB7-PEGMA及びBP15-PEGMAを含有するHEMAベースのハイドロゲルは、HB7及びHB7/BP15のサンプルほど良好な結果ではなかった。その結果、HB7-PEGMA及びBP15-PEGMAを含有するハイドロゲルサンプルは不透明であるように見え、全ての比較例のハイドロゲルサンプルは、ブランク/ベース材料に対して-20%より低いΔT%を示した(
図10)。
【0289】
カチオン性リンカーを有する親水性紫外線吸収剤として、HB7-DMAEMAを選択して、HEMAベースのハイドロゲルに組み込んだ(CE5)。
図9に示すとおり、カチオン部位は紫外線吸収剤による紫外線吸収性を明らかに低下させたが、HB7-Cys-MAと同等の性能を得るためには、より高い濃度の化合物を必要とした。しかしながら、4.9%を配合した場合(HB7-Cys-MAと同じモル濃度)、実施例CE5のEWCは予想よりも低い結果となった(ΔWCは-5%よりわずかに低い)。
【0290】
イオン性ハイドロゲルの比較例
比較例のイオン性ハイドロゲルサンプルは、紫外線吸収性部位が重合性メタクリレート基に直接結合し、モノマー中にリンカーを有さない構造である、工業的に適する基準を有する紫外線吸収剤HB7を使用して形成した。比較例のイオン性ハイドロゲルサンプルについても、表3の実施例のイオン性ハイドロゲルサンプルと同じ方法で調製した。比較例のイオン性ハイドロゲルの配合を表6に示す。
【0291】
【0292】
比較例のイオン性ハイドロゲルサンプルについても、上記の手順に従い、含水率(EWC)、光学的透明性(T%)、紫外線吸収性、及び黄色味の有無について評価を行った。
【0293】
カチオン性リンカーを有する紫外線吸収剤HB7-DMAEMAについても、比較のために4.5wt%でイオン性ハイドロゲルに組み込んだ(CE7)。CE6及びHB7-Cys-MA含むイオン性ハイドロゲルと同等の紫外線吸収性は得られず(実施例14~16)、さらに、CE7のサンプルでは、イオン性ハイドロゲル中にHB7-DMAEMAが析出したため、イオン性ハイドロゲルの光学的透明性が低下した。
【0294】
結果
HB7を2.5%配合する場合、クラスIの紫外線吸収性が、ハイドロゲルサンプルによって達成された。しかしながら、ハイドロゲルのEWC及び光学的透明性は著しく低下した。コンタクトレンズの水和及びオートクレーブ処理後に、HB7が析出したことから、HB7はイオン性ハイドロゲルサンプルに溶解していないものと考えられる。
【0295】
ハイドロゲルの試験結果の概要
異なる重合性紫外線吸収剤を含む、様々なHEMA及びイオン性ハイドロゲルの評価から得られた結果の概要を表4に示す。以下の性能基準を満たしているか否かについて、様々なハイドロゲルを評価した:
●含水率の変化(ΔWC%)
○:ブランクに対して±5%内
×:ブランクに対して±5%外
●紫外線吸収性
○:ISOのクラスII以上を満たす(UV-A遮断:>50%、UV-B遮断:>90%)
×:ISOのクラスIIを満たしていない
●400~500nmの平均光透過率の変化(ΔT%)で反映される光学的透明性
○:ブランクに対して20%未満の透明性の低下(ΔT%<-20%)
×:ブランクに対して20%を超える透明性の低下(ΔT%>-20%)
●黄色味又は黄変
○:観察されない
×:観察される
【0296】
【0297】
本明細書に概説されるとおり、本発明の精神から逸脱することなく、様々な他の修正及び/又は変更を行うことができることを理解されたい。