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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】低転移UV―LED硬化性インク製剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/101 20140101AFI20231211BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20231211BHJP
   C09D 11/40 20140101ALI20231211BHJP
【FI】
C09D11/101
C09D11/38
C09D11/40
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2021559926
(86)(22)【出願日】2020-04-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-27
(86)【国際出願番号】 US2020027212
(87)【国際公開番号】W WO2020210316
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-11-16
(31)【優先権主張番号】62/830,791
(32)【優先日】2019-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514100751
【氏名又は名称】エイブリィ・デニソン・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】AVERY DENNISON CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セン,ラダ
(72)【発明者】
【氏名】ガーロック,マイケル・ピィ
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-185319(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143929(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109575688(CN,A)
【文献】特開2013-227445(JP,A)
【文献】特開2012-111848(JP,A)
【文献】国際公開第2018/146258(WO,A1)
【文献】特開2018-177959(JP,A)
【文献】特開2017-113944(JP,A)
【文献】特表2020-507656(JP,A)
【文献】特開2013-001810(JP,A)
【文献】特開2014-070104(JP,A)
【文献】国際公開第2017/086224(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0167301(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03156461(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/101
C09D 11/38
C09D 11/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1つ以上の光硬化性又は光重合性モノマー、オリゴマー、ポリマー、又はそれらの組み合わせを含むマトリックスと、
(b)1つ以上の液体形態のポリマージフェニル(2,4,6―トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(TPOL)光開始剤と、
(c)1つ以上の顔料と、を含み、
上記マトリックスは、1つ以上の鎖延長剤を含み、
上記鎖延長剤は、1つ以上の二官能性アクリレートポリマー又は共重合体を含み、
上記1つ以上の二官能性アクリレートポリマー又は共重合体は、1,6-ヘキサンエトキシレートジアクリレートを含む、光硬化性インク組成物。
【請求項2】
上記マトリックスは、1つ以上の多官能性架橋剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
上記多官能性架橋剤は、1つ以上の三官能性アクリレートポリマー又は共重合体を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項4】
上記1つ以上の三官能性アクリレートポリマー又は共重合体は、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレートを含む、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
上記マトリックスは、1つ以上の反応性希釈剤を含む、請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
上記1つ以上の反応性希釈剤は、1つ以上の単官能性アクリレートポリマー又は共重合体を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
上記マトリックスは、上記マトリックスの表面硬化を改善又は向上させるための1つ以上のモノマー、オリゴマー、ポリマー、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
上記マトリックスの表面硬化を改善又は向上させるための1つ以上のモノマー、オリゴマー、ポリマー、又はそれらの組み合わせは、アミン変性ポリエーテルアクリレートを含む、請求項に記載の組成物。
【請求項9】
上記マトリックスは、マトリックスに柔軟性、伸長性及び/又は伸縮性を提供する1つ以上のモノマーを含む、請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
上記1つ以上のモノマーは、ウレタンアクリレートを含む、請求項に記載の組成物。
【請求項11】
上記TPOLは、線状ポリマーである、請求項1~10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
上記線状ポリマーは、アルキレンオキシドポリマー又は共重合体である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
上記アルキレンポリマー又は共重合体は、ポリエチレンオキシドホモポリマー又は共重合体である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
上記ポリエチレンオキシドポリマーは、ポリエチレンオキシドホモポリマーである、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
上記TPOLは、分岐ポリマーである、請求項1~14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
上記分岐ポリマーは、分岐アルキレンオキシドポリマー又は共重合体である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
上記分岐アルキレンポリマー又は共重合体は、分岐ポリエチレンオキシドホモポリマー又は共重合体である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記分岐ポリエチレンオキシドポリマーは、分岐ポリエチレンオキシドホモポリマーである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
1つ以上の非ポリマージフェニル(2,4,6―トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(TPO)光開始剤をさらに含む、請求項1~18のいずれかに記載の組成物。
【請求項20】
可塑剤をさらに含む、請求項1~19のいずれかに記載の組成物。
【請求項21】
上記インク組成物は、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、ブラックインク組成物、ライトマゼンタインク組成物、ホワイトインク組成物、ライトシアンインク組成物、又はそれらの組み合わせである、請求項1~20のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】
上記顔料は、ピグメントブルー1、ピグメントブルー15、ピグメントブルー15:1、ピグメントブルー15:3、ピグメントブルー15:4、ピグメントブルー15:6、ピグメントブルー16、ピグメントブルー17―1、ピグメントブルー22、ピグメントブルー22、ピグメントブルー27、ピグメントブルー28、ピグメントブルー29、ピグメントブルー36、及びピグメントブルー60のうちの少なくとも1つである、請求項1~21のいずれかに記載の組成物。
【請求項23】
上記顔料は、ピグメントレッド3、ピグメントレッド5、ピグメントレッド8、ピグメントレッド9、ピグメントレッド9:8、ピグメントレッド19、ピグメントレッド22、ピグメントレッド31、ピグメントレッド38、ピグメントレッド43、ピグメントレッド48:1、ピグメントレッド48:2、ピグメントレッド48:3、ピグメントレッド48:4、ピグメントレッド48:5、ピグメントレッド49:1、ピグメントレッド53:1、ピグメントレッド57:1、ピグメントレッド57:2、ピグメントレッド58:4、ピグメントレッド63:1、ピグメントレッド81、ピグメントレッド81:1、ピグメントレッド81:2、ピグメントレッド81:3、ピグメントレッド81:4、ピグメントレッド88、ピグメントレッド104、ピグメントレッド108、ピグメントレッド112、ピグメントレッド122、ピグメントレッド123、ピグメントレッドピグメントレッド144、ピグメントレッド146、ピグメントレッド149、ピグメントレッド166、ピグメントレッド168、ピグメントレッド169、ピグメントレッド170、ピグメントレッド177、ピグメントレッド178、ピグメントレッド179、ピグメントレッド184、ピグメントレッド185、ピグメントレッド207、ピグメントレッド208、ピグメントレッド216、ピグメントレッド224、ピグメントレッド226、ピグメントレッド257、ピグメントバイオレット3、ピグメントバイオレット19、ピグメントバイオレット23、ピグメントバイオレット29、ピグメントバイオレット30、ピグメントバイオレット37、ピグメントバイオレット50、ピグメントバイオレット88、ピグメントオレンジ13、ピグメントオレンジ16、ピグメントオレンジ20、又はピグメントオレンジ36のうちの少なくとも1つである、請求項1~22のいずれかに記載の組成物。
【請求項24】
上記顔料は、ピグメントイエロー55、ピグメントイエロー74、ピグメントイエロー79、ピグメントイエロー93、ピグメントイエロー110、ピグメントイエロー120、ピグメントイエロー128、ピグメントイエロー138C、ピグメントイエロー139、ピグメントイエロー150、ピグメントイエロー151、ピグメントイエロー155、ピグメントイエロー156、ピグメントイエロー175、ピグメントイエロー180、ピグメントイエロー185、及びピグメントイエロー213のうちの少なくとも1つである、請求項1~23のいずれかに記載の組成物。
【請求項25】
上記顔料は、ピグメントブラック6、ピグメントブラック7、ピグメントブラック9、ランプ又はベジタブルブラック、ボーン又はアイボリーブラック、及びファーネス又はチャネルブラックのうちの少なくとも1つである、請求項1~24のいずれかに記載の組成物。
【請求項26】
少なくともイエローインク組成物と、マゼンタインク組成物と、シアンインク組成物と、ブラックインク組成物と、を含むインクセットであって、
上記インク組成物のうちの少なくとも1つは、請求項1~25のいずれかに記載のインク組成物を含む、インクセット。
【請求項27】
上記インク組成物のうちの少なくとも2つは、請求項1~25のいずれかに記載のインク組成物を含む、請求項26に記載のインクセット。
【請求項28】
上記インク組成物のうちの少なくとも3つは、請求項1~25のいずれかに記載のインク組成物を含む、請求項26に記載のインクセット。
【請求項29】
上記イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物の各々は、請求項1~25のいずれかに記載のインク組成物を含む、請求項26に記載のインクセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対する相互参照)
本出願は、2019年4月8日に出願された米国仮出願番号62/830,791の利益を主張し、これは、その全体が本明細書に参照として含まれる。
【0002】
本発明は、UV―LED硬化性インク製剤の分野において、特に低転移UV―LED硬化性インク製剤、その製造方法及び使用方法が本明細書に記載されている。
【背景技術】
【0003】
インクのUV―LED硬化は、無黄変(non―yellowing)(白色インクの場合)の完全に硬化した低転移インクフィルムを得るために、特定の光開始剤を必要とする。これは、この用途のために唯一商業的に実行可能な光開始剤であるジフェニル(2,4,6―トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(TPO)が低分子量によりインクからラベル及び/又はラベルが貼られた基材(例えば、パッケージ)へ転移できるため、達成し難い場合がある。これは、TPOが公知の皮膚感作性物質であるため、小売業者や顧客等が手作業で取り扱うパッケージでは問題となり得る。さらに、特に食品及び医薬品のラベル/パッケージに関する規制は、食品若しくは医薬品の品質又はそのような製品を使用する消費者の健康に悪影響を与え得る成分の転移に関して厳しい基準を有する。
【0004】
光開始剤として効果的且つ費用効果の高いやり方で用いられ得る、低転移且つ皮膚感作性が小さい又は全くないインク製剤の必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
低転移を示す、マトリックス又はバインダーシステムと、1つ以上の着色剤と、1つ以上の光開始剤と、を含むUV―LEDインク組成組成物が本明細書に記載されている。一部の実施形態において、マトリックス又はバインダーシステムは、1つ以上のUV―LEDソースを使用して硬化する。一部の実施形態において、マトリックス又はバインダーシステムは、UV―LEDソースへの曝露の際に重合、架橋及び/又は硬化する1つ以上の材料を含む。一部の実施形態において、1つ以上の材料は、フリーラジカルプロセスによって重合及び/又は架橋される。これにより、インク組成物は、有機溶媒を含まないことになる。重合及び/又は架橋後、インクは硬化する。本明細書に記載のUV―LEDインク組成物は、ブラックインクを含む様々なインクを硬化するのにより適しており、そのインスタントオン/インスタントオフ機能により生産性を改善/増加させ、熱をほぼ又は全く生成しない。そのような組成物は、環境上の利益を有するだけではなく、硬化プロセスがオゾンを生成せず、プレスを取り囲む排気が少なくて済む。
【0006】
一部の実施形態において、マトリックスは、1つ以上の鎖延長剤、1つ以上の多官能性架橋剤若しくはモノマー、1つ以上の反応性希釈剤、及び表面硬化を改善するための1つ以上の材料のうちの1つ以上を含む。又、マトリックスは、インク組成物マトリックスに柔軟性、伸長性及び/又は伸縮性を提供又は生成する1つ以上の材料又はモノマーを含み得る。マトリックスは、これに限定されないが、可塑剤、界面活性剤、流動制御添加剤等を含む1つ以上の添加剤と、1つ以上の着色剤と(例えば、顔料及び/又は染料)、を含み得る。
【0007】
本明細書に記載の組成物は、低転移を示す1つ以上の光開始剤を含む。一部の実施形態において、光開始剤は、ポリマーTPOLと呼ばれるポリマージフェニル(2,4,6―トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドである。TPOとTPOLは、化学構造が同一であるが、TPOは開始剤の乾燥形態であり、TPOLは液体形態である。「ポリマーTPOL」という用語は、TPOLの転移を減少させるために、1つ以上の材料に共有結合又は非共有結合したジフェニル(2,4,6―トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(TPOL)の1つ以上の分子を指す。一部の実施形態において、TPOLは、1つ以上のオリゴマー、ポリマー(例えば、線状、分岐若しくは星型ポリマー)、デンドリマー、又はそれらの組み合わせに共有結合又は非共有結合する。一部の実施形態において、TPOLは、少なくとも1,000、2,000、3,000、4,000、5,000、7,500、10,500、12,000、又は15,000ダルトンの分子量を有するポリマーに共有結合する。
【0008】
一部の実施形態において、TPOLは、ライナーポリマーに共有結合する(例えば、ポリマー末端に結合するか、又はポリマー鎖上の複数の位置にグラフト化されたTPO)。他の実施形態において、TPOは、分岐ポリマー、星型ポリマー、又はデンドリマーに共有結合する。一部の実施形態において、線状又は分岐ポリマーは、ポリエチレンオキシド(PEO)ホモポリマー又は共重合体である。一部の実施形態において、分岐ポリマーは、三官能性コア分子をPEOで官能化し、次にPEO鎖の末端をTPOで官能化することによって形成される。一部の実施形態において、インク組成物は、非オリゴマー又は非ポリマーTPOLをさらに含む。
【0009】
上記の例に示しているように、ポリマーTPOLの使用は、(ポリマーに結合又は会合しない)遊離TPOLを含む製剤と比較して残留TPOLの量を減少させる。一部の実施形態において、ポリマーTPOLの使用は、残留TPOLの量を少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、125%、150%、175%、200%、又はそれ以上減少させる。一部の実施形態において、ポリマーTPOLの使用は、TPOLの残留量を300、275、250、225、200、175、150、125、100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、又は5ppm未満になるようにする。
【0010】
I.インク組成物
UV―LED硬化性インク組成物が本明細書に記載されている。UV LEDは、代案的なUV硬化システムである。一部の実施形態において、上記システムは、固体装置に基づくか、又はそれを含む。このプロセスは、一般に、最大帯域幅が40nmの狭い波長帯域(例えば、グラフィックアートの場合は375nm又は395nm)を用いる。ランプは、特殊な用途向けに特定の波長出力を有するように設計できる。UV―LEDランプは、従来のUVランプと比較して大幅に高い出力を提供する。例えば、UV―LEDランプは、従来のUVランプの場合、1,648mW/cmであるのに比べて最大16,000mW/cmを生成できる。
【0011】
UV―LEDプロセスは、IR放射を含まず、最小限の熱伝達を生成する。UV―LEDソースは、よりコンパクト且つ低電圧で、インスタントオン/インスタントオフ(シャッター又は冷却オフ期間は不要)、動作寿命全体にわたる一貫した出力を提供し、オゾン又は揮発性有機化合物を生成せず(排気の必要性を排除)、従来のUV及び/又は溶媒ベースのプロセスと比較してより効率的である。
【0012】
A.マトリックス
本明細書に記載のインク組成組成物は、1つ以上の顔料が溶解及び/又は分散されたマトリックス又はバインダーシステムを含む。一部の実施形態において、マトリックス又はバインダーシステムは、1つ以上のUV―LEDソースを用いて硬化する。一部の実施形態において、マトリックス又はバインダーシステムは、UV―LEDソースへの曝露の際に重合、架橋、及び/又は硬化する1つ以上の材料を含む。一部の実施形態において、UV―LEDソースへの曝露の際に重合、架橋及び/又は硬化する1つ以上の材料は、フリーラジカル重合及び/又は架橋を可能にする1つ以上の反応性官能基を含む。一部の実施形態において、上記1つ以上の材料は、モノマー、オリゴマー、及び/又はポリマーを含む1つ以上のアクリレートであり、ここで、モノマー、オリゴマー、又はポリマーは、一つ、二つ、三つ、四つ、又はそれ以上の反応性アクリレート基を含む。このマトリックスを用いることによって、インク組成物は、有機溶媒を含まないことになる。重合及び/又は架橋後、インクが硬化する。UV―LEDインク組成物は、ブラックインクを含む様々なインクを硬化するのにより適しており、そのインスタントオン/インスタントオフ機能により生産性を改善/増加させ、熱をほぼ又は全く生成しない。そのような組成物は、環境上の利益を有するだけではなく、硬化プロセスがオゾンを生成せず、プレスを取り囲む排気が少なくて済む。
【0013】
一部の実施形態において、マトリックスは、1つ以上の鎖延長剤、1つ以上の多官能性架橋剤若しくはモノマー、1つ以上の反応性希釈剤、及び/又は表面硬化を改善するための1つ以上の材料のうちの1つ以上を含む。又、マトリックスは、インク組成物マトリックスに柔軟性、伸長性及び/又は伸縮性を提供又は生成する1つ以上の材料(例えば、モノマー又はオリゴマー)を含み得る。上記に挙げられた様々な種類の材料の非限定的な例を以下に示す。しかしながら、鎖延長剤である分子は又、官能基の数及び/又はマトリックス中の他の材料の有無に応じて多官能性架橋剤であり得、又その逆であり得ることを理解されたい。
【0014】
マトリックスは、これに限定されないが、可塑剤、界面活性剤、流動制御添加剤等を含む1つ以上の添加剤と、1つ以上の着色剤(例えば、顔料及び/又は染料)と、をさらに含み得る。
【0015】
1.鎖延長剤
一部の実施形態において、1つ以上の鎖延長剤は、反応性の高いモノマー、オリゴマー、及び/又はポリマー種を含む。一部の実施形態において、1つ以上の鎖延長剤は、二官能性アクリレートであるか又はそれを含む。一部の実施形態において、二官能性アクリレートは、プロパン、ブタン、ペンタン、又はヘキサンジオール等のジオールジエトキシレートジアクリレートである。一部の実施形態において、二官能性アクリレートは、1,6―ヘキサンジオールジエトキシレートジアクリレートである。例として、M202又はM2010等のM2・・・で始まる分子が挙げられるが、これに限定されない。
【0016】
一部の実施形態において、鎖延長剤は、インク組成物の約5重量%~約60重量%、インク組成物の約5重量%~約55重量%、又はインク組成物の約5重量%~約53重量%の量で存在する。一部の実施形態において、鎖延長剤は、インク組成物の約5重量%~約10重量%の量で存在する。一部の実施形態において、鎖延長剤は、インク組成物の約5重量%又は約6重量%の量で存在する。他の実施形態において、鎖延長剤は、インク組成物の約50重量%~約55重量%又はインク組成物の約53重量%の量で存在する。
【0017】
2.多官能性架橋剤
一部の実施形態において、マトリックス又は結合システムは、1つ以上の多官能性架橋剤を含む。一部の実施形態において、架橋剤は、少なくとも2つの反応性官能基を含む。一部の実施形態において、架橋剤は、2つ超、例えば3つ、4つ、5つ又はそれ以上の反応性官能基を含む。架橋剤は、モノマー、オリゴマー及び/又はポリマーであり得る。一部の実施形態において、架橋剤は、モノマーである。一部の実施形態において、架橋剤は、三官能性モノマーである。一部の実施形態において、架橋剤は、トリアクリレートモノマーである。一部の実施形態において、架橋剤は、トリメチロールプロパントリエトキシレートトリアクリレートであるか又はそれを含む。例として、HD(EO)3DA;TMP(EO)3TA;M3130、M3160、M3190等のM3・・・で始まる分子が挙げられるが、これに限定されない。さらに、これらの材料は、LR3130等の低残留物(高純度)に分類することができる。
【0018】
一部の実施形態において、多官能性架橋剤は、インク組成物の約1重量%~約25重量%、インク組成物の約3重量%~約15重量%、又はインク組成物の約4重量%~約8%重量%の量で存在する。一部の実施形態において、多官能性架橋剤は、インク組成物の約5重量%~約7重量%の量で存在する。一部の実施形態において、多官能性架橋剤は、インク組成物の約6重量%の量で存在する。
【0019】
3.反応性希釈剤
一部の実施形態において、マトリックス又は結合システムは、1つ以上の反応性希釈剤を含む。本明細書で用いられる「反応性希釈剤」は、硬化プロセスの間にインク組成物の粘度を減少させる分子を指す。一部の実施形態において、1つ以上の反応性希釈剤は、単官能性モノマー、オリゴマー、及び/又はポリマーである。他の実施形態において、1つ以上の反応性希釈剤は、二官能性モノマー、オリゴマー、及び/又はポリマーである。一部の実施形態において、二官能性の反応性希釈剤中の2つの反応性官能基は、同じ官能基又は異なる官能基である。異なる官能基は、異なるプロセス、例えば、フリーラジカル及びカチオン性又はアニオン性重合による硬化を可能にし得る。一部の実施形態において、1つ以上の反応性希釈剤は、単官能性及び二官能性の反応性希釈剤の組み合わせである。一部の実施形態において、単官能性の反応性希釈剤は、単官能性アクリレートである。一部の実施形態において、単官能性アクリレートは、環状トリメチロールプロポイルアクリレートである。一部の実施形態において、二官能性の反応性希釈剤は、ジビニル、ジアクリレート、又は混合ビニルアクリレートである。例として、M122等のM1・・・で始まる単官能性アクリレートが挙げられるが、これに限定されない。
【0020】
一部の実施形態において、単官能性の反応性希釈剤は、インク組成物の約10重量%~約40重量%、インク組成物の約15重量%~約35重量%、又はインク組成物の約20重量%~約30重量%の量で存在する。一部の実施形態において、多官能性架橋剤は、インク組成物の約25重量%~約30重量%の量で存在する。一部の実施形態において、多官能性架橋剤は、インク組成物の約25重量%~約27重量%の量で存在する。一部の実施形態において、二官能性の反応性希釈剤は、約10%~約15%、約11%~約14%、約12%~約14%の量で存在する。
【0021】
4.表面硬化剤
一部の実施形態において、マトリックス又は結合システムは、1つ以上の表面硬化剤を含む。本明細書で用いられる「表面硬化剤」は、インク組成物の表面硬化を改善する分子を意味する。一部の実施形態において、表面硬化剤は、官能化ポリエーテルアクリレートオリゴマーである。一部の実施形態において、表面硬化剤は、アミン変性ポリエーテルアクリレートオリゴマーである。
【0022】
一部の実施形態において、表面硬化剤は、インク組成物の約1重量%~約10重量%、インク組成物の約1重量%~約8重量%、又はインク組成物の約2重量%~約6%重量%の量で存在する。一部の実施形態において、表面硬化剤は、インク組成物の約3重量%~約5重量%の量で存在する。一部の実施形態において、表面硬化剤は、インク組成物の約4重量%~約5重量%の量で存在する。
【0023】
5.柔軟性誘導物質
一部の実施形態において、マトリックス又は結合システムは、1つ以上の柔軟性誘導物質を含む。一部の実施形態において、1つ以上の柔軟性誘導物質は、マトリックス又は結合システムに柔軟性、伸長性及び/又は伸縮性を提供する。一部の実施形態において、物質は、モノマー、オリゴマー、及び/又はポリマーである。一部の実施形態において、物質はモノマーである。一部の実施形態において、モノマーはウレタンアクリレートである。例として、CN991が挙げられるが、これに限定されない。
【0024】
一部の実施形態において、柔軟性誘導物質は、インク組成物の約25重量%~約55重量%、インク組成物の約30重量%~約50重量%、又はインク組成物の約33重量%~約49重量%の量で存在する。一部の実施形態において、表面硬化剤は、インク組成物の約33重量%~約35重量%の量で存在する。一部の実施形態において、表面硬化剤は、インク組成物の約48重量%~約50重量%の量で存在する。
【0025】
6.界面活性剤
一部の実施形態において、マトリックス又は結合システムは、1つ以上の界面活性剤を含む。一部の実施形態において、マトリックス又は結合システムは、界面活性剤の混合物を含む。一部の実施形態において、界面活性剤混合物は、基材上へのインク組成物の噴射及び/又は拡散/浸透特性を改善する。
【0026】
一部の実施形態において、界面活性剤は、インク組成物の約1重量%~約5重量%、インク組成物の約1重量%~約4重量%、又はインク組成物の約2重量%~約3重量%の量で存在する。
【0027】
B.光開始剤
一部の実施形態において、インク組成物は、1つ以上の光開始剤を含む。一部の実施形態において、1つ以上の光開始剤は、TPO(本明細書では「ポリマーTPOL」とも呼ばれる)の転移を減少させるために、1つ以上の材料に共有結合又は非共有結合したジフェニル(2,4,6―トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(TPOL)である。一部の実施形態において、TPOLは、1つ以上のオリゴマー、ポリマー(例えば、線状、分岐状若しくは星型ポリマー)、デンドリマー、又はそれらの組み合わせに共有結合又は非共有結合する。一部の実施形態において、TPOLは、上記のように、TPOL分子をオリゴマー又はポリマーに共有結合又は非共有結合させるために、1つ以上の官能基を導入するように改質される。一部の実施形態において、ポリマーTPOLは、IGM resinsから入手可能な商標名Omnipol TPとして販売されている。
【0028】
一部の実施形態において、TPOLは、少なくとも1,000、2,000、3,000、4,000、5,000、7,500、10,500、12,000、又は15,000ダルトンの分子量を有するポリマーに共有結合する。一部の実施形態において、TPOLは、ライナーポリマーに共有結合する(例えば、TPOLは、ポリマー末端に結合するか、又はポリマー鎖上の複数の位置にグラフト化される)。他の実施形態において、TPOLは、分岐ポリマー、星型ポリマー、及び/又はデンドリマーに共有結合する。一部の実施形態において、線状又は分岐ポリマーは、ポリエチレンオキシド(PEO)ホモポリマー又は共重合体である。一部の実施形態において、分岐ポリマーは、三官能性コア分子をPEOで官能化し、次にPEO鎖の末端をTPOで官能化することによって形成される。一部の実施形態において、インク組成物は、非オリゴマー若しくは非ポリマーTPOL又はTPOをさらに含む。
【0029】
一部の実施形態において、ポリマーTPOLは、インク組成物の約2重量%~約15重量%、インク組成物の約3重量%~約10重量%、又はインク組成物の約4重量%~約10重量%の量で存在する。一部の実施形態において、ポリマーTPOLは、インク組成物の約5重量%又は約10重量%の量で存在する。
【0030】
一部の実施形態において、非ポリマーTPOLは、インク組成物の約2重量%~約15重量%、インク組成物の約3重量%~約10重量%、又はインク組成物の約4重量%~約10重量%の量で存在する。一部の実施形態において、非ポリマーTPOLは、インク組成物の約5重量%又は約10重量%の量で存在する。
【0031】
例に示しているように、ポリマーTPOLの使用は、(ポリマーに結合又は会合しない)遊離TPOLを含む製剤と比較して残留TPOLの量を減少させる。一部の実施形態において、ポリマーTPOLの使用は、残留TPOLの量を少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、125%、150%、175%、200%、又はそれ以上減少させる。一部の実施形態において、ポリマーTPOLの使用は、TPOLの残留量を300、275、250、225、200、175、150、125、100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、又は5ppm未満になるようにする。
【0032】
C.着色剤
一部の実施形態において、インク組成物は、染料、顔料、又はそれらの組み合わせ等の1つ以上の着色剤を含む。顔料は、最終インク組成物の所望の色に応じて選択し得る。一部の態様において、特にインク組成物がインクセットの一部として供給又は用いられる場合、顔料は、インクセット内の別個のインク組成物に用いられる他の顔料を補完するために選択され得る。
【0033】
一部の態様において、インク組成物は、シアンインク組成物である。例示的な顔料として、ピグメントブルー1、ピグメントブルー15、ピグメントブルー15:1、ピグメントブルー15:3、ピグメントブルー15:4、ピグメントブルー15:6、ピグメントブルー16、ピグメントブルー17―1、ピグメントブルー22、ピグメントブルー27、ピグメントブルー28、ピグメントブルー29、ピグメントブルー36、ピグメントブルー60が挙げられるが、これに限定されない。「ピグメントブルー」は、フタロシアニンブルーと呼ばれることもある。
【0034】
一部の態様において、インク組成物は、マゼンタインク組成物である。例示的な顔料として、ピグメントレッド3、ピグメントレッド5、ピグメントレッド8、ピグメントレッド9、ピグメントレッド9:8、ピグメントレッド19、ピグメントレッド22、ピグメントレッド31、ピグメントレッド38、ピグメントレッド43、ピグメントレッド48:1、ピグメントレッド48:2、ピグメントレッド48:3、ピグメントレッド48:4、ピグメントレッド48:5、ピグメントレッド49:1、ピグメントレッド53:1、ピグメントレッド57:1、ピグメントレッド57:2、ピグメントレッド58:4、ピグメントレッド63:1、ピグメントレッド81、ピグメントレッド81:1、ピグメントレッド81:2、ピグメントレッド81:3、ピグメントレッド81:4、ピグメントレッド88、ピグメントレッド104、ピグメントレッド108、ピグメントレッド112、ピグメントレッド122、ピグメントレッド123、ピグメントレッド144、ピグメントレッド146、ピグメントレッド149、ピグメントレッド166、ピグメントレッド168、ピグメントレッド169、ピグメントレッド170、ピグメントレッド177、ピグメントレッド178、ピグメントレッド179、ピグメントレッド184、ピグメントレッド185、ピグメントレッド207、ピグメントレッド208、ピグメントレッド216、ピグメントレッド224、ピグメントレッド226、ピグメントレッド257、ピグメントバイオレット3、ピグメントバイオレット19、ピグメントバイオレット23、ピグメントバイオレット29、ピグメントバイオレット30、ピグメントバイオレット37、ピグメントバイオレット50、ピグメントバイオレット88、又はピグメントオレンジ13、ピグメントオレンジ16、ピグメントオレンジ20、ピグメントオレンジ36が挙げられるが、これに限定されない。
【0035】
一部の態様において、インク組成物は、イエローインク組成物である。例示的な顔料として、ピグメントイエロー55、ピグメントイエロー74、ピグメントイエロー79、ピグメントイエロー93、ピグメントイエロー110、ピグメントイエロー120、ピグメントイエロー128、ピグメントイエロー138C、ピグメントイエロー139、ピグメントイエロー150、ピグメントイエロー151、ピグメントイエロー155、ピグメントイエロー156、ピグメントイエロー175、ピグメントイエロー180、ピグメントイエロー185、及びピグメントイエロー213が挙げられるが、これに限定されない。好ましい実施形態において、顔料は、ピグメントイエロー151を含む。
【0036】
一部の態様において、インク組成物は、ブラックインク組成物である。例示的な顔料として、ピグメントブラック6、ピグメントブラック7、ピグメントブラック9、ランプ又はベジタブルブラック、ボーン又はアイボリーブラック、及びファーネス又はチャネルブラックが挙げられるが、これに限定されない。
【0037】
一部の態様において、インク組成物は、ライトシアンインク組成物である。例示的な顔料として、上記に挙げたものが挙げられる。
【0038】
一部の態様において、インク組成物は、ライトマゼンタインク組成物である。例示的な顔料として、上記に挙げたものが挙げられる。
【0039】
ダークグレー、ライトグレー、グリーン、オレンジ、レッド、ホワイト、ブルー等のさらなる着色インク組成物は、以下に説明するインクセットに含まれるように配合することができる。一部の態様において、そのような組成物は、異なる顔料を有することを除いて、上記組成物と類似する構成を有し得る。他の態様において、組成物は、上記のものとは異なり得る。特定の態様において、考慮されるインクセットには、ホワイトインク組成物が含まれない。
【0040】
以下の組成を有する組成物を製造することができる。
【0041】
【表1】
【0042】
II.用途
本明細書に記載のインク組成物は、様々な用途に用いられ得る。例示的な用途として、感圧ラベル、ラップアラウンド、インモールドラベル、ヨーグルトの蓋、サシェ/ポーチ、シュリンクスリーブ、及びフレキシブルパッケージが挙げられるが、これに限定されない。
【0043】
実施例
実施例1:TPOとポリマーTPOLとを含むホワイトインクの比較
以下の組成を含むホワイトインク製剤を製造した。
【0044】
【表2】
【0045】
ポリカーボネート基材上のモノマー及びTPOの残留量をガスクロマトグラフィー質量分析法(GC―MS)で分析し、インク重量のみに基づいてppmで表した。結果を以下に示す。
【表3】
【0046】
実施例2.モノマーTPOとポリマーTPOLとを含むシアンインクの比較
以下の組成を含むシアンインク製剤を調製した。
【0047】
【表4】
【0048】
ポリエステル織物及びポリエステル/綿織物上のモノマー及びTPOの残留量をガスクロマトグラフィー質量分析法(GC―MS)で分析し、インク重量のみに基づいてppmで表した。結果を以下に示す。
【0049】
【表5】
【0050】
実施例3.モノマーTPOとTPOLポリマーとを含むイエローインクの比較
以下の組成を含むイエローインク製剤を製造した。
【0051】
【表6】
【0052】
ポリエステル織物及びポリエステル/綿織物上のモノマー及びTPOの残留量をガスクロマトグラフィー質量分析法(GC―MS)で分析し、インク重量のみに基づいてppmで表した。結果を以下に示す。
【0053】
【表7】
【0054】
実施例4.モノマーTPOとTPOLポリマーとを含むマゼンタインクの比較
以下の組成を含むマゼンタインク製剤を製造した。
【0055】
【表8】
【0056】
ポリエステル織物及びポリエステル/綿織物上のモノマー及びTPOの残留量をガスクロマトグラフィー質量分析法(GC―MS)で分析し、インク重量のみに基づいてppmで表した。結果を以下に示す。
【0057】
【表9】