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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/06 20060101AFI20231211BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20231211BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20231211BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20231211BHJP
【FI】
G02C7/06
G02C7/02
G02C7/00
G02B1/14
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021567260
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2020046452
(87)【国際公開番号】W WO2021131825
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-01-28
(31)【優先権主張番号】P 2019237936
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】石崎 貴子
(72)【発明者】
【氏名】河野 重利
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-179136(JP,A)
【文献】特開2019-174727(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03640712(EP,A1)
【文献】特開2020-106712(JP,A)
【文献】国際公開第2020/079105(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/06
G02C 7/02
G02C 7/00
G02B 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近視進行抑制効果を奏する眼鏡レンズであって、
レンズ基材の表面における基材ベース部から突出する複数の基材突出部を有するレンズ基材と、該複数の基材突出部を覆うように設けられた被膜と、を備え、最表面に複数の凹凸を有し、
前記基材ベース部および前記基材ベース部に前記被膜が設けられてなる被膜ベース部は、装用者の処方度数を実現可能な形状の部分であり、
全基材突出部のうち50%を超える数の基材突出部αの高さは0.5~2μmであり、
前記被膜ベース部における前記被膜の膜厚は2.0~5.0μmであり、
前記基材突出部αに前記被膜が設けられてなる被膜凸部α´における前記被膜の膜厚は2.0~5.0μmであり、
前記基材突出部αの根元に設けられる前記被膜の膜厚の最小値は、前記被膜ベース部における前記被膜の膜厚の0.40~1.20倍であり、
前記被膜凸部α´の中心を含むレンズ断面での、((被膜の厚さの最大値-被膜凸部の頂点における被膜の厚さ)で表される差分値の最小値)/((被膜の厚さの最大値-被膜凸部の頂点における被膜の厚さ)で表される差分値の最大値)が0.10~0.60であり、
前記基材突出部αの屈折力は2.50~6.50Dであり、
前記被膜凸部α´のデフォーカスパワーは2.50~6.50Dである、眼鏡レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、近視等の屈折異常の進行を抑制する眼鏡レンズが記載されている。具体的には、眼鏡レンズの物体側の面である凸面に対し、例えば、直径1mm程度の球形状の微小凸部(本明細書における基材突出部)を形成している。眼鏡レンズでは、通常、物体側の面から入射した光束を眼球側の面から出射させ、装用者の網膜上にて焦点を結ばせる。その一方、上記の微小凸部を通過した光束は、装用者の網膜よりも物体側寄り(手前側)の位置にて焦点を結ばせる。その結果、近視の進行が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国出願公開第2017/0131567号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の眼鏡レンズにおいて微小凸部が設けられた面(物体側の面である凸面)に対して被膜を設ける場合、被膜は、微小凸部を有する面を覆う。
【0005】
被膜が無い状態ならば、微小凸部によって、所定の位置Aよりも物体側寄りの位置にて光束が収束する。しかしながら、レンズ基材の上に被膜が形成されている場合、微小凸部すなわち基材ベース部から突出する基材突出部の周囲における、被膜(すなわち眼鏡レンズ)の最表面形状は、レンズ基材における基材ベース部と基材突出部との境界近傍(以降、単に「境界近傍」とも称する。)の形状から乖離する。この乖離が、該境界近傍に入射した光束を迷光化させる原因となる。
【0006】
本発明の一実施例は、近視抑制効果の一助となるレンズ基材上の基材突出部を覆うように被膜を設けた場合であっても迷光の発生を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。本発明者は、被膜の形成方法に着目した。被膜の形成方法として、最初に、従来から存在するスピンコート法に着目した。スピンコート法を採用すれば、基材ベース部と基材突出部との境界近傍上での被膜の厚さは均一化する。この厚さの均一化が迷光の抑制に寄与すると推察した。しかしながら、従来のスピンコート法では、迷光の発生を抑制することができなかった(従来にないスピンコート法だと可能になるがその点は後述する)。
【0008】
そこで、本発明者は、視点を変え、被膜の形成方法として、スピンコート法に比べて被膜の厚さ制御が困難であり厚さが不均一になりがちなディップ法(浸漬法)に着目した。ディップ法を採用した結果、予想外なことに、迷光の発生を抑制することができた。
【0009】
この知見を基に更に鋭意検討を加えた結果、近視進行を抑制可能な眼鏡レンズであるという前提において、被膜の形成方法にかかわらず、各基材突出部の周囲に亘り被膜の厚さを偏在化させることにより、迷光の発生を抑制可能となるという知見が得られた。
【0010】
詳しく言うと、近視進行を抑制可能な眼鏡レンズである以上、各基材突出部の周囲において被膜の厚さが大きい部分、すなわちレンズ基材における基材ベース部と基材突出部との境界近傍の形状からの乖離度が大きい部分があったとしても、眼鏡レンズの最表面には最低限凹凸が存在し、特許文献1に示すように基材突出部に起因する近視進行抑制効果は発揮される。
【0011】
本発明者が最初に着目したスピンコート法だと、乖離度が大きい部分が各基材突出部の周囲に亘り等しく存在する。その一方、本発明の一態様だと、各基材突出部の周囲において被膜の厚さが小さい部分、すなわちレンズ基材における基材ベース部と基材突出部との境界近傍の形状からの乖離度が小さい部分が存在する。この乖離度が小さい部分が存在することが、従来のスピンコート法にて得られる眼鏡レンズとの大きな違いである。
【0012】
本発明の一態様では、基材ベース部と基材突出部との境界近傍において被膜の形状の乖離度が大きい部分があったとしてもそれはあくまで一部に過ぎない。しかも、例えばディップ法を採用する場合、乖離度が大きい部分は、従来のスピンコート法により得られる乖離度と同等である。そして、本発明の一態様ならば、他の一部に乖離度が小さい部分が存在するため、従来のスピンコート法にて得られる眼鏡レンズに比べ、迷光の発生が抑制される。上記本発明の課題は、正確には、レンズ基材に対して従来のスピンコート法を適用する場合に比べ、迷光の発生が抑制されるようにすることにある。
【0013】
ディップ法を採用する場合、被膜の厚さの偏在化は、被膜用液が自重により流れ落ちる際に、基材突出部の周囲に亘り、速やかに流れ落ちる箇所と滞留しやすい箇所とが存在する。これにより、基材突出部の周囲に亘って境界近傍の形状からの乖離度の大小の差が生じる。ディップ法にかかわらず、後述の他の手法を用いても本発明の一態様を実現しても、乖離度の大小の差を生じさせることが可能であり、ひいては従来のスピンコート法にて得られる眼鏡レンズに比べ、迷光の発生が抑制される。
【0014】
本発明は、以上の知見を基に案出されたものである。
本発明の第1の態様は、
レンズ基材の表面における基材ベース部から突出する複数の基材突出部を有するレンズ基材と、該複数の基材突出部を覆うように設けられた被膜と、を備え、最表面に複数の凹凸を有する眼鏡レンズであって、
各基材突出部の周囲に亘り被膜の厚さが偏在化している、眼鏡レンズである。
【0015】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
各基材突出部を平面視した時に、各基材突出部の周囲において所定方向に存在する領域および該所定方向の逆方向に存在する領域では被膜が薄く、それら以外の方向の領域内に被膜が厚い部分が存在する。
【0016】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の態様であって、
全被膜凸部のうち50%を超える数の被膜凸部において、
被膜凸部の根元に対し、0~360度の回転角を横軸、被膜の厚さを縦軸としたプロットにおいて、被膜の厚さが最小値となる角度を回転角0度としたとき、
最小値より大きい値且つ極小値となる膜厚は、回転角が165~195度の根元の膜厚である。
【0017】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれか一つの態様に記載の態様であって、
全被膜凸部のうち50%を超える数の被膜凸部において、
被膜凸部の根元に対し、0~360度の回転角を横軸、被膜の厚さを縦軸としたプロットにおいて、被膜の厚さが最小値となる角度を回転角0度としたとき、
最大値且つ極大値となる膜厚は、回転角が50~110度の根元の膜厚、または、250~310度の根元の膜厚であり、且つ、最大値より小さい値且つ極大値となる膜厚は、最大値が存在しなかった方の回転角の範囲に存在する。
【0018】
本発明の第5の態様は、第1~第4のいずれか一つの態様に記載の態様であって、
全基材突出部のうち50%を超える数の基材突出部の周囲に亘る(回転角0~360度)被膜の厚さの最大値にて最小値を除した値(最小値/最大値)は0.10~0.99である。
【0019】
本発明の第6の態様は、第1~第5のいずれか一つの態様に記載の態様であって、
全被膜凸部のうち50%を超える数の被膜凸部の中心を含むレンズ断面での、((被膜の厚さの最大値-被膜凸部の頂点における被膜の厚さ)で表される差分値の最小値)/((被膜の厚さの最大値-被膜凸部の頂点における被膜の厚さ)で表される差分値の最大値)が、0.90以下である。
【0020】
本発明の第7の態様は、第1~第6のいずれか一つの態様に記載の態様であって、
全基材突出部のうち50%を超える数の基材突出部の根元に設けられる膜厚の最小値は、被膜ベース部の膜厚の0.01~2.00倍である。
【0021】
本発明の第8の態様は、第1~第7のいずれか一つの態様に記載の態様であって、
全被膜凸部のうち50%を超える数の被膜凸部のデフォーカスパワーは2.50~6.50Dである。
【0022】
本発明の第9の態様は、第1~第8のいずれか一つの態様に記載の態様であって、
全基材突出部のうち50%を超える数の基材突出部の屈折力は2.50~6.50Dである。
【0023】
本発明の第10の態様は、第1~第9のいずれかの態様に記載の態様であって、
全被膜凸部のうち50%を超える数の被膜凸部の被膜の厚さは0.5~6.0μmである。
【0024】
本発明の第11の態様は、第1~第10のいずれか一つの態様に記載の態様であって、
前記眼鏡レンズは近視進行を抑制可能である。
【0025】
本発明の他の態様は以下の通りである。
【0026】
迷光率を0%超え(または0%以上、さらには2%以上)且つ20%以下と設定しても構わない。また、迷光率を減らすのが好ましいことから、30%以下或いは20%以下と設定するのが好ましく、15%以下(更に好適には未満)と設定するのがより好ましく、10%以下(好適には未満)と設定するのが更に好ましい。
【0027】
本明細書における「迷光率」は、一つの被膜凸部(ひいては基材突出部)を中心としてその被膜凸部から最短距離にある別の被膜凸部を丸ごと含む(例えば直径4.0mmの)円形領域を最小単位とし、上記最小単位に対して測定して得られた結果である。
【0028】
本明細書における眼鏡レンズには上記最小単位は複数存在する。該眼鏡レンズの少なくとも一つの上記最小単位において、迷光率が上記数値範囲を満たせば、本発明の効果は奏される。好適な順に、複数の上記最小単位のうち50%を超える数、80%以上、90%以上、95%以上の数の最小単位が上記迷光率の規定を満たすのが好ましい。
【0029】
以下の規定においては、全被膜凸部のうち50%を超える数の被膜凸部(または全基材突出部のうち50%を超える数の基材突出部)が以下の規定を満たすのが好ましい。更に好適なのは、好適な順に80%以上、90%以上、95%以上、99%以上とする。
【0030】
基材突出部の高さは、例えば0.1~10μmとしてもよく、0.5~2μm(基材突出部の屈折力2.50~6.50Dに相当)であってもよい。基材突出部の屈折力の上限は5.50Dまたは5.00Dであってもよく、下限は3.00Dであってもよい。
【0031】
被膜の膜厚は、例えば0.1~100μm(好ましくは0.5~6.0μm、さらに好ましくは1.0~5.0μm)の範囲としてもよい。上記膜厚の範囲は被膜ベース部の膜厚に適用してもよい。
【0032】
被膜凸部の根元に対し、0~360度の回転角を横軸、被膜の厚さを縦軸としたプロットに着目する。該プロットにおいて、被膜の厚さが最小値(好適には且つ極小値)となる角度を回転角0度としてもよい。
【0033】
その場合、最小値より大きい値且つ極小値となる膜厚は、回転角が165~195度の根元の膜厚であるのが好ましい。
【0034】
最大値且つ極大値となる膜厚は、回転角が50~110(好適には60~100)度の根元の膜厚、または、250~310(好適には260~300)度の根元の膜厚であるのが好ましい。そして、最大値より小さい値且つ極大値となる膜厚は、最大値が存在しなかった方の回転角の範囲に存在するのが好ましい。
【0035】
基材突出部の周囲に亘る(回転角0~360度)被膜の厚さの最大値にて最小値を除した値(最小値/最大値)は0.10~0.99が好ましい。下限の値は、0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90、或いは0.92であってもよい。上限の値は、0.98、0.97のいずれかであってもよい。
【0036】
被膜凸部の中心を含むレンズ断面での、((被膜の厚さの最大値-被膜凸部の頂点における被膜の厚さ)で表される差分値の最小値)/((被膜の厚さの最大値-被膜凸部の頂点における被膜の厚さ)で表される差分値の最大値)(以降、式1)が、0.90(或いは0.85、0.80、0.75、0.60)以下であるのが好ましい。下限には限定は無いが、例えば0.10、0.20、0.30、0.40または0.50が挙げられる。
【0037】
基材突出部の根元に設けられる膜厚の最小値は、被膜ベース部の膜厚の0.01~2.00倍であるのが好ましい。下限の値は、0.10、0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90、または1.05であってもよい。上限の値は、1.90、1.80、1.70、1.60、1.50、1.40、1.30、1.20であってもよい。
【0038】
被膜凸部の高さは、基材突出部と同様、例えば0.1~10μmとしてもよく、0.5~2μmが好ましい。被膜凸部のデフォーカスパワーも、基材突出部と同様、基材突出部の屈折力2.50~6.50Dであってもよい。デフォーカスパワーの上限は5.50Dまたは5.00Dであってもよく、下限は3.00Dであってもよい。
【発明の効果】
【0039】
本発明の一実施例によれば、近視抑制効果の一助となるレンズ基材上の基材突出部を覆うように被膜を設けた場合であっても迷光の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1(a)は、直径3mmの基材突出部を1つだけ設けたレンズ基材を被膜用液に浸漬後に引き上げたときの被膜用液の流束を光学顕微鏡にて調べた結果を示す写真であり、図1(b)は、該基材突出部を左右に2つ並べたレンズ基材を被膜用液に浸漬後に引き上げたときの被膜用液の流束を光学顕微鏡にて調べた結果を示す写真である。
図2図2は、本発明の一態様による眼鏡レンズの検査方法の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、光線が集光する位置を特定する方法を説明するための図(その1)である。
図4図4は、光線が集光する位置を特定する方法を説明するための図(その2)である。
図5図5は、光線が集光する位置を特定する方法を説明するための図(その3)である。
図6図6は、光線が集光する位置を特定する方法を示すフローチャートである。
図7図7は、実施例1の眼鏡レンズにおける任意の一つの基材突出部の周囲(根元)(0~360度)の上に設けられた被膜の厚さのプロットであり、縦軸は被膜の厚さ、横軸はゼロ時からの回転角度である。
図8図8は、実際の眼鏡レンズの被膜突出部(すなわち被膜凸部)と仮想部分球面形状を示す、一例としての概略断面図である。実線が実際の眼鏡レンズの被膜突出部を示し、破線が仮想部分球面形状を示し、一点鎖線が実際の眼鏡レンズの被膜ベース部分を示し、横線ハッチ部分が、仮想部分球面形状と、実際の被膜突出部の形状との間のレンズ厚さ方向での差を示す。
図9図9は、基材突出部の面屈折力から基材ベース部の面屈折力を差し引いた値(デフォーカス値)(横軸)と、集光位置の逆数から算出されるデフォーカスパワー(縦軸)との相関式を示すプロットである。
図10図10(a)は、平面視において、各被膜凸部の中心が正三角形の頂点となるよう各々独立した離散配置(ハニカム構造の頂点に各被膜凸部の中心が配置)を採用した場合の図であり、図10(b)は、平面視において、各被膜凸部が一列に配置された構造を採用した場合の図である。
図11図11は、実施例4における、レンズ中心に向かって水平左方且つレンズ中心から8番目に近い被膜凸部の上下断面、および該被膜凸部の左右(水平)断面における、高さのプロットである。
図12図12は、実施例5の被膜凸部の根元において、レンズ断面の平面視での回転角度(横軸)ごとに、被膜の厚さ(縦軸)を表したプロットである。
図13図13(a)は、実施例5において、左右(水平)方向のレンズ断面での被膜の厚さを表したプロットである。図13(b)は、実施例5において、上下方向のレンズ断面での被膜の厚さを表したプロットである。
図14図14は、実施例6における、基材突出部、レンズ中心のY方向の直上且つレンズ中心から最も近い被膜凸部の上下断面、および該被膜凸部の左右(水平)断面における、高さのプロットである。
図15図15は、実施例7の被膜凸部の根元において、レンズ断面の平面視での回転角度(横軸)ごとに、被膜の厚さ(縦軸)を表したプロットである。
図16図16(a)は、実施例7において、左右(水平)方向のレンズ断面での被膜の厚さを表したプロットである。図16(b)は、実施例7において、上下方向のレンズ断面での被膜の厚さを表したプロットである。
図17図17(a)は、実施例8における、レンズ中心のY方向の直上且つレンズ中心から2番目に近い被膜凸部の上下断面、および該被膜凸部の左右(水平)断面における、高さのプロットである。 図17(b)は、実施例8における、レンズ中心のY方向の直上且つレンズ中心から6番目に近い被膜凸部の上下断面、および該被膜凸部の左右(水平)断面における、高さのプロットである。 図17(c)は、実施例8における、レンズ中心に向かって水平左方且つレンズ中心から2番目に近い被膜凸部の上下断面、および該被膜凸部の左右(水平)断面における、高さのプロットである。 図17(d)は、実施例8における、レンズ中心のY方向の直下且つレンズ中心から2番目に近い被膜凸部の上下断面、および該被膜凸部の左右(水平)断面における、高さのプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態について述べる。以下における図面に基づく説明は例示であって、本発明は例示された態様に限定されるものではない。
【0042】
本明細書で挙げる眼鏡レンズは、物体側の面と眼球側の面とを有する。「物体側の面」とは、眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に物体側に位置する表面であり、「眼球側の面」とは、その反対、すなわち眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に眼球側に位置する表面である。この関係は、眼鏡レンズの基礎となるレンズ基材においても当てはまる。つまり、レンズ基材も物体側の面と眼球側の面とを有する。
【0043】
本明細書においては、眼鏡レンズを正面視したときの左右(水平)方向をX方向、上下方向をY方向、レンズ厚さ方向且つ光軸方向をZ方向とする。
【0044】
本明細書においては、眼鏡レンズを装用した状態において天地の天の方向をY方向の上方(眼鏡レンズ中心から見てゼロ時方向、回転角0度)、その逆の方向をY方向の下方(6時方向、回転角180度)という。天地方向は、装用者が正面視した際の眼鏡レンズの光軸方向(Z方向)に垂直な方向であり、垂直方向ともいう。X方向は水平方向であり、Y方向、Z方向に垂直な方向である。
【0045】
なお、レンズ中心は、眼鏡レンズの光学中心または幾何中心を指す。本明細書では光学中心と幾何中心とが略一致する場合を例示する。
【0046】
<眼鏡レンズの製造方法>
本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造方法は、以下の通りである。
「レンズ基材の表面における基材ベース部から突出する複数の基材突出部を有するレンズ基材と、該複数の基材突出部を覆うように設けられた被膜と、を備え、最表面に複数の凹凸を有する眼鏡レンズの製造方法であって、
レンズ基材を被膜用液に浸漬後に引き上げて被膜用液が自重により流動中または流動後、レンズ基材上の被膜用液を乾燥させることにより被膜を形成する、眼鏡レンズの製造方法。」
【0047】
レンズ基材としては、基材ベース部と、基材ベース部から突出する複数の基材突出部とを有していれば限定は無い。
基材ベース部とは、装用者の処方度数を実現可能な形状の部分である。
基材突出部とは、特許文献1の微小凸部に該当する部分である。本発明の一態様に係る眼鏡レンズは近視進行抑制可能である。ひいては、レンズ基材自体が近視進行抑制可能である。特許文献1の微小凸部と同様、本発明の一態様に係る複数の基材突出部は、レンズ基材の物体側の面および眼球側の面の少なくともいずれかに形成されればよく、この状況を「レンズ基材の表面における基材ベース部から突出」という。本明細書においては、レンズ基材の物体側の面のみに複数の基材突出部を設けた場合を主に例示する。

特許文献1の図10に記載のように、眼鏡レンズの中央部に基材突出部を形成してもよいし、特許文献1の図1に記載のように、眼鏡レンズの中央部に基材突出部を形成しなくてもよい。
【0048】
なお、レンズ基材としては、プラスチックレンズ基材またはガラスレンズ基材そのものである場合を本明細書では主に例示する。その一方、該レンズ基材に下地膜等の他物質が積層されているものであってもよい。他物質が積層されたものがレンズ基材である場合、該レンズ基材には複数の基材突出部に起因する凹凸が存在する状態であり、複数の基材突出部は、他物質が積層されていたとしても近視進行抑制効果をもたらし得るものを指す。
【0049】
本発明の一態様においては、レンズ基材上に被膜を形成する。被膜が形成されるのは、少なくとも複数の基材突出部の上であればよいが、ディップ法を採用する関係上、レンズ基材の両面に形成するのが好ましい。
【0050】
本明細書におけるディップ法は、レンズ基材の最下端から被膜用液に浸漬させ、最後には最上端を浸漬させ、レンズ基材全体を被膜用液に浸漬させ、引き上げの際はその逆に垂直方向の上方に向けて引き上げる場合を主に例示する。その一方、レンズ基材を上下方向からある程度水平方向に向けて傾けた状態で被膜用液に浸漬させた後にその状態で引き上げてもよい。いずれにせよ、レンズ基材上の被膜用液には自重が働き、レンズ基材を伝って下方に流動する。
【0051】
被膜用液としては、レンズ基材を被膜用液に浸漬後に引き上げて被膜用液が自重により流動中または流動後、レンズ基材上の被膜用液を乾燥させることにより被膜を形成可能なものであれば限定は無い。
【0052】
被膜用液の揮発度が比較的高い場合、レンズ基材を被膜用液に浸漬後に引き上げて被膜用液が自重により流動している最中に乾燥が完了する。その一方、被膜用液の揮発度が比較的低い場合、被膜用液が自重により流動している最中には乾燥が完了せず、引き上げ後、改めて被膜用液を乾燥させ、被膜を形成する。
【0053】
被膜用液の揮発度如何にかかわらず、レンズ基材を被膜用液に浸漬後に引き上げて被膜用液が自重により多かれ少なかれ流動するということは、被膜用液がレンズ基材を伝って下方に流動することを意味する。この流動により、[課題を解決するための手段]にて述べたように、各基材突出部の周囲に亘り被膜の厚さを偏在化させられる。
【0054】
図1(a)は、直径3mmの基材突出部を1つだけ設けたレンズ基材を被膜用液に浸漬後に引き上げたときの被膜用液の流束を光学顕微鏡にて調べた結果を示す写真であり、図1(b)は、該基材突出部を左右に2つ並べたレンズ基材を被膜用液に浸漬後に引き上げたときの被膜用液の流束を光学顕微鏡にて調べた結果を示す写真である。
【0055】
図1(a)が示すように、基材突出部の周囲における上方部分(回転角0度近傍)および下方部分(回転角180度近傍)においては被膜用液の流束は比較的小さい。この状態で被膜用液を乾燥させた場合、基材突出部の周囲における上方部分および下方部分では被膜が比較的薄くなる。
【0056】
その一方、同じく図1(a)が示すように、基材突出部の周囲における上方部分および下方部分以外の部分においては被膜用液の流束は比較的大きい。この状態で被膜用液を乾燥させた場合、基材突出部の周囲における上方部分および下方部分以外の部分では被膜が比較的厚くなる。この傾向は、基材突出部を2つ設けた図1(b)でも同様に見られる。
【0057】
図1(a)に示すように、基材突出部を1つだけ設けた場合においても基材突出部の周囲に亘る被膜の厚さの偏在化が生じる。そのため、図1(b)に示すように、基材突出部を複数設けた場合においても、後掲の実施例の項目にて示すように、当然、被膜の厚さの偏在化が生じる。この結果は、本発明の一態様の手法を採用することにより、基材突出部の数にかかわらず、被膜の厚さの偏在化が生じることを意味する。
【0058】
また、レンズ基材の種類(プラスチック、ガラス)や形状(基材突出部の大きさや数)、被膜用液の特性(種類、粘度、濃度、揮発度)、ディップ法の諸条件(被膜用液の温度、レンズ基材の引き上げ速度とそれに伴う被膜膜厚)を変更しても、基材突出部を有するレンズ基材に対してディップ法を採用する限り、自重による被膜用液の流動は生じ、ひいては、被膜の厚さの偏在化が生じる。このことは、本発明者の鋭意検討により確かめられている。
【0059】
以上の本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造方法により、近視抑制効果の一助となるレンズ基材上の基材突出部を覆うように被膜を設けた場合であっても迷光の発生を抑制するとともに生産性が良好になる。
【0060】
レンズ基材、基材突出部、被膜、被膜用液、ディップ法の諸条件の具体例(好適例)、および迷光率の測定方法について、以下に述べる。
【0061】
[レンズ基材]
基材突出部のサイズおよびレンズ基材の表面における複数の基材突出部の配置の態様は、特に限定されるものではない。物体側の面から入射した光束を眼球側の面から出射させ、網膜よりも物体側(前方)に収束させる作用を主に担えれば、基材突出部には限定は無い。例えば、基材突出部の外部からの視認性、基材突出部によるデザイン性付与、基材突出部による屈折力調整等の観点から決定できる。
【0062】
上記のように基材突出部のサイズには限定は無く、基材突出部の根元に形成される被膜の厚さの偏在化をもたらす大きさまたは形状であればよい。例えば、後掲の実施例1および図1(b)に示すように平面視円形であってもよいし、三次元形状としては球面であってもよい。図1(a)に示すように平面視楕円形状であってもよいし、三次元形状としてはトーリック形状であってもよい。これは、被膜凸部の形状についても当てはまる。
【0063】
図10(a)は、平面視において、各被膜凸部の中心が正三角形の頂点となるよう各々独立した離散配置(ハニカム構造の頂点に各被膜凸部の中心が配置)を採用した場合の図であり、図10(b)は、平面視において、各被膜凸部が一列に配置された構造を採用した場合の図である。点線は、迷光率の測定の際に使用する任意の円形領域である(詳しくは後述)。
【0064】
上記のように基材突出部の配置の態様には限定は無い。後掲の実施例1および図10(a)に示すように、平面視において、各基材突出部の中心が正三角形の頂点となるよう各々独立した離散配置(ハニカム構造の頂点に各基材突出部の中心が配置)を採用してもよい。
【0065】
後掲の図10(b)に示すように、平面視において、各基材突出部が一列に配置された構造を採用してもよい。更に、各基材突出部が一列に配置されつつ、該列と隣接して別の基材突出部が配列された構造を採用してもよい。その際、一列内での基材突出部間のピッチ(基材突出部の中心間の距離、以降同様。)と、ある列の基材突出部と、該基材突出部隣接する別の列の基材突出部との間のピッチとが異なってもよい。また、一列内での基材突出部同士の間隔と、隣接する列同士の間隔とが異なってもよい。
【0066】
基材突出部の高さは、例えば0.1~10μmとしてもよく、0.5~2μm(基材突出部の屈折力2.50~6.50Dに相当)であってもよい。基材突出部の屈折力の上限は5.50Dまたは5.00Dであってもよく、下限は3.00Dであってもよい。平面視の際(すなわち光軸方向から基材突出部と向かい合って基材突出部を見た際)の基材突出部の表面の曲率半径は、例えば50~250mmRとしてもよい。また、隣り合う基材突出部間の距離(ある基材突出部の端部とこの基材突出部と隣り合う基材突出部の端部との距離)は、例えば基材突出部の半径の値と同じ程度としてもよい。また、複数の基材突出部は、例えばレンズ中心付近にほぼ均一に配置できる。
【0067】
レンズ基材としては、眼鏡レンズに一般的に使用される各種レンズ基材を使用可能である。レンズ基材は、例えばプラスチックレンズ基材またはガラスレンズ基材としてもよい。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材としてもよい。レンズ基材としては、軽量で割れ難いという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)が挙げられる。硬化性組成物は、重合性組成物と称しても構わない。レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の厚さおよび直径は特に限定されるものではないが、例えば、厚さ(中心肉厚)は1~30mm程度としてよく、直径は50~100mm程度としてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.60~1.75程度としてもよい。ただしレンズ基材の屈折率は、この範囲に限定されるものではなく、この範囲内でも、この範囲から上下に離れていてもよい。本発明および本明細書において、屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。レンズ基材は、注型重合等の公知の成形法により成形できる。例えば、複数の凹部が備わった成形面を有する成形型を用い、注型重合によるレンズ基材の成形を行うことにより、少なくとも一方の表面に基材突出部を有するレンズ基材が得られる。
【0068】
[被膜]
レンズ基材の基材突出部を有する表面上に形成される被膜の一態様としては、硬化性化合物を含む硬化性組成物(これまでに述べてきた被膜用液)を硬化して形成される硬化膜が挙げられる。かかる硬化膜は、一般にハードコート膜と呼ばれ、眼鏡レンズの耐久性向上に寄与する。硬化性化合物とは硬化性官能基を有する化合物を意味し、硬化性組成物とは硬化性化合物を一種以上含む組成物を意味する。
【0069】
硬化膜を形成するための硬化性組成物(被膜用液)の一態様としては、硬化性化合物として有機ケイ素化合物を含む硬化性組成物を挙げることができ、有機ケイ素化合物とともに金属酸化物粒子を含む硬化性組成物を挙げることもできる。硬化膜を形成可能な硬化性組成物の一例としては、特開昭63-10640号公報に記載されている硬化性組成物が挙げられる。
【0070】
また、有機ケイ素化合物の一態様としては、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物およびその加水分解物を挙げることもできる。
(R(RSi(OR4-(a+b) ・・・(I)
【0071】
一般式(I)中、Rは、グリシドキシ基、エポキシ基、ビニル基、メタクリルオキシ基、アクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、フェニル基等を有する有機基を表し、Rは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアシル基または炭素数6~10のアリール基を表し、Rは炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、aおよびbはそれぞれ0または1を示す。
【0072】
で表される炭素数1~4のアルキル基は、直鎖または分岐のアルキル基であって、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
で表される炭素数1~4のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、オレイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
で表される炭素数6~10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
で表される炭素数1~6のアルキル基は、直鎖または分岐のアルキル基であって、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
で表される炭素数6~10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
一般式(I)で表される化合物の具体例としては、特開2007-077327号公報の段落0073に記載されている化合物を挙げられる。一般式(I)で表される有機ケイ素化合物は硬化性基を有するため、塗布後に硬化処理を施すことにより、硬化膜としてハードコート膜を形成できる。
【0073】
金属酸化物粒子は、硬化膜の屈折率の調整および硬度向上に寄与し得る。金属酸化物粒子の具体例としては、酸化タングステン(WO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタニウム(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化スズ(SnO)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化アンチモン(Sb)等の粒子が挙げられ、単独または2種以上の金属酸化物粒子を組み合わせて使用可能である。金属酸化物粒子の粒径は、硬化膜の耐擦傷性と光学特性とを両立する観点から、5~30nmの範囲であることが好ましい。硬化性組成物の金属酸化物粒子の含有量は、形成される硬化膜の屈折率および硬度を考慮して適宜設定可能であり、通常、硬化性組成物の固形分あたり5~80質量%程度としてもよい。また、金属酸化物粒子は、硬化膜中での分散性の点から、コロイド粒子であることが好ましい。
【0074】
[ディップ法]
レンズ基材の基材突出部を有する表面上に硬化膜(被膜)を形成するための塗布液の供給は、レンズ基材を被膜用液(硬化性組成物)に浸漬させることにより行われる。これにより、基材突出部の周囲に意図的に液溜まりを生じさせ、基材突出部の周囲に亘って被膜(上記の硬化膜)の膜厚を偏在化させられる。
【0075】
硬化膜は、以下の手法により形成できる。例えば、成分および必要に応じて有機溶媒、界面活性剤(レベリング剤)、硬化剤等の任意成分を混合して調製した硬化性組成物を、レンズ基材の基材突出部を有する表面に浸漬により塗布、または他の膜を介して浸漬により塗布して塗布膜を形成する。この塗布膜に硬化性化合物の種類に応じた硬化処理(例えば加熱および/または光照射)を施す。例えば、硬化処理を揮発により行う場合、硬化性組成物の塗布膜が形成されたレンズ基材を、硬化性組成物が流動性を有する場合は傾けた状態で、50~150℃の雰囲気温度の環境下に30分~3時間程度配置することにより、塗布膜中の硬化性化合物の硬化反応を進行させてもよい。なお、この硬化反応と共に乾燥処理を行ってもよい。
【0076】
レンズ基材の基材突出部を有する表面上に被膜を形成するための硬化性組成物の粘度は適宜設定可能であるが、1~50mPa・sの範囲であることが好ましく、1~40mPa・sの範囲であることがより好ましく、1~20mPa・sの範囲であることが更に好ましい。本発明および本明細書における粘度は、液温25℃での粘度をいうものとする。
【0077】
レンズ基材を浸漬させる際の硬化性組成物の温度は0~30℃がよい。
レンズ基材を浸漬させる際の硬化性組成物を構成する溶媒の沸点は30℃~200℃がよく、好ましくは、60℃~120℃が良い。溶媒の種類に限定は無く、例えばメタノール、トルエン等を使用可能である。
レンズ基材を浸漬させる際の硬化性組成物の濃度は1~50wt%がよい。
レンズ基材を浸漬させる際の浸漬時間は1~300秒がよい。
レンズ基材を浸漬させる際の硬化性組成物の引き上げ速度は10~400mm/minがよい。
【0078】
また、レンズ基材の基材突出部を有する表面上に形成される被膜の一態様としては、一般にプライマー膜と呼ばれ層間の密着性向上に寄与する被膜を挙げることもできる。そのような被膜を形成可能な被膜用液としては、ポリウレタン樹脂等の樹脂成分が溶媒(水、有機溶媒、またはそれらの混合溶媒)中に分散している組成物(以下、「乾燥固化性組成物」と記載する。)を挙げられる。かかる組成物は、溶媒を乾燥除去することにより固化が進行する。乾燥は、風乾、加熱乾燥等の乾燥処理によって行える。なお、この乾燥処理とともに硬化反応を行ってもよい。
【0079】
引き上げ後の乾燥手法としては、加熱乾燥が好ましい。また、引き上げ後の乾燥温度は20~130℃が好ましい。また、引き上げ後の乾燥時間は0~90分が好ましい。乾燥時間0分とは、流動中における被膜用液の乾燥を意味し、わざわざ乾燥工程を行わなくとも溶媒の揮発により被膜用液が固化し、被膜が形成されることを意味する。
【0080】
以上の工程を経て形成される被膜の膜厚は、例えば0.1~100μm(好ましくは0.5~6.0μm、さらに好ましくは1.0~5.0μm)の範囲としてもよい。ただし、被膜の膜厚は、被膜に求められる機能に応じて決定されるものであり、例示した範囲に限定されるものではない。なお、上記膜厚の範囲は被膜ベース部の膜厚に適用してもよい。
【0081】
被膜の上には、更に一層以上の被膜を形成することもできる。そのような被膜の一例としては、反射防止膜、撥水性または親水性の防汚膜、防曇膜等の各種被膜が挙げられる。これら被膜の形成方法については、公知技術を適用できる。
【0082】
[迷光率の測定手法]
迷光光線は、眼鏡レンズの物体側の面から入射して眼球側の面から出射する光線であって、眼鏡レンズ自体によって光線が収束する所定の位置A近傍も通過せず、基材突出部ひいては被膜凸部によって光線が収束する位置B近傍も通過しない光線のことを指す。迷光光線により装用者の視野にボヤケがもたらされる。そのため、眼鏡レンズの物体側の面から入射して眼球側の面から出射する光線における迷光光線の割合(以降、迷光率ともいう。)を減らすのが好ましい。
【0083】
迷光光線が生じる理由の一つは被膜である。被膜凸部の根元において、ベースとなる物体側の面である凸面からの形状の変化が緩やか過ぎると、基材突出部の球形状から離れた形状となり且つ物体側の面である凸面とも離れた形状となる。そうなると、装用者の網膜上(本明細書においては所定の位置A近傍)にも焦点を結ばないし、前記の物体側寄りの位置B近傍にも焦点を結ばないことになる。
【0084】
本明細書における「被膜凸部の根元(周囲ともいう。)」とは、眼鏡レンズの最表面のベース部分と被膜凸部との境界を指す。眼鏡レンズの表面形状という観点から見ると、該境界では、該境界以外の部分に比べ、被膜凸部の中心から被膜ベース部に至るまでに、表面形状が大きく変化する。例えば、曲率変化が大きくなり、場合によっては曲率変化が不連続になる。このように曲率変化が大きく変化する箇所を被膜凸部の根元(境界)とする。この定義は、基材突出部についても適用できる。
【0085】
他の表現で該根元を表す場合、被膜凸部の中心から被膜ベース部に至るまでに、非点収差が急激に増大し始める部分を根元(境界)と呼んでも差し支えない。眼鏡レンズでの断面視での非点収差(断面曲線)は、コヒーレンス相関干渉測定という手法により測定可能である。
【0086】
迷光率の設定には光線追跡計算を使用する。その計算の際には、眼鏡レンズの物体側の面の所定範囲内に均等に入射して被膜を多数の光線が通過する状況(いわゆる眼鏡レンズを装用して外界を見る状況)を想定する。この「所定範囲」とは、物体側の面における光学領域であればよい。この光学領域とは物体側の面およびそれに対向する眼球側の面において装用者ごとに設定された度数を実現する曲面形状を有する部分を指す。
【0087】
ここで迷光率を決定する際の条件を以下に述べる。
図2は、本発明の一態様による眼鏡レンズの検査方法の流れを示すフローチャートである。
【0088】
図2に示すように、まず、ステップ101において、実際の眼鏡レンズの物体側の面(以降、凸面とも称する。)の形状を測定し、凸面の形状を表す曲面データを作成する(形状測定ステップ)。凸面の形状は、例えば、光の干渉を利用して測長を行う非接触三次元顕微鏡により測定する。凸面の三次元形状は、例えば、離散三次元データ(x,y,z)として取得される。
【0089】
次に、ステップ102において、得られた眼鏡レンズの凸面形状を示すデータから曲面データを生成する(曲面データ生成ステップ)。なお、眼鏡レンズの凸面形状を示すデータとして、離散三次元データを用いた場合には、例えば、B-スプライン曲線の集合を生成すればよい。また、測定した離散三次元データにノイズがある場合には、例えば、移動平均処理を行って平均値を用いてもよい。
【0090】
次に、ステップ103において、前記曲面データに基づいて実際の眼鏡レンズのモデルを設定する(モデル設定ステップ)。
【0091】
実際の眼鏡レンズのモデルを設定すると共に、眼球モデルも設定する。眼球モデルは装用者に係る情報(例えば眼軸長や眼の調節量等)を使用すればよい。その際に、フレームに取り付けられた際の眼鏡レンズの傾き(前傾角及びフレームあおり角)を考慮して、眼球モデルに対する眼鏡レンズモデルを配置してもよい。
【0092】
次に、ステップ104において、光線追跡処理により、実際の眼鏡レンズを光線が通過した際に光線が最も収束する位置を特定する(収束位置特定ステップ)。具体的には、実際の眼鏡レンズの曲面データに基づくモデルに対し、無限遠の点光源から出射した光線が通過した後の、光線による輝度分布を表すPSF(Point spread function:点広がり関数)を求める。
【0093】
PSFは点光源から発射した多数の光線を追跡し、任意の面上のスポットの密度を計算することで得られる。そして、複数の任意の面のPSFを比較して、複数の任意の面の内、最も光線が集光する位置(面)を特定する。なお、多数の光線の束の直径は動向径に基づいて設定すればよく、例えば4φとしても良い。
【0094】
ここで、ステップ104において最も光線が集光する位置を特定する方法をより詳細に説明する。図3図5は、光線が集光する位置を特定する方法を説明するための図である。また、図6は、光線が集光する位置を特定する方法を示すフローチャートである。図3において符号30は眼球側の面、符号33は物体側の面、符号36は基材突出部(ひいては眼鏡レンズの最表面における被膜凸部)、符号32は眼球モデル、符号32Aは網膜を指す。
【0095】
まず、図3に示すように、ステップ201において、モデル上での物体側の面(凸面)におけるモデル上での被膜凸部を光線が通過する状況を想定する。その上で、眼球モデルの網膜A上の0mm位置から、所定の距離(例えば、眼球の硝子体の厚みである16mm程度の位置)から網膜まで所定の離間間隔Δd(例えば、0.1mm)間隔で、測定面P1,1~P1,nを設定する。なお、離間間隔Δdは0.2mm間隔としてもよいし、眼軸長の1/50としてもよい。
【0096】
次に、ステップ202において、光線追跡処理を行い、各測定面P1,1~P1,nにおける光線の密度を計算する。光線の密度の計算は、例えば、各測定面に格子状のグリッド(例えば0.1mm×0.1mm)を設定しておき、各グリッドを通過する光線の数を計算すればよい。
【0097】
次に、ステップ203において、凸部に入射した光線が最大密度となる測定面を特定するため、測定面P1,1~P1,nの中で前記の所定の距離から最初の極大密度の測定面P1,iを特定する。計算を省くため、測定面P1から光線の密度の計算を始めて、最初の極大値検出の後、測定面P1における値と最初の極大値との中間値程度まで光線の密度の計算値が低下したところで、本ステップの計算を打ち切ってもよい。
【0098】
次に、図4に示すように、ステップ204において、最大密度の測定面P1,iの前後の離間距離Δd/2の位置に測定面P2,1及び測定面P2,2を設定する。そして、ステップ205において、測定面P2,1及び測定面P2,2における光線の密度を計算する。次に、ステップ206において、測定面P2,1と、測定面P2,2と、測定面P1,iにおける最大密度の測定面を特定する。
【0099】
その後、ステップ207において、離間距離が十分に小さくなるまで、ステップ204~206と同様の工程を繰り返す。すなわち、図5に示すように、直前に最大密度となった測定面(図5ではP2,2)の前後に、直前の離間距離の半分の新たな離間距離(図5ではΔd/4)の位置に新たな測定面(図5ではP3,1及びP3,2)を設定する工程と、新たな測定面の光線の密度を計算する工程と、直前に最大密度となった測定面及び新たな測定面の中で最大となった測定面を特定する工程とを繰り返す。
以上の工程により、光軸方向(レンズ厚さ方向、Z軸)における、光線が集光する位置を特定可能となる。
【0100】
次に、光軸方向に垂直な面上(すなわち特定された前記測定面上)における、光線の収束位置を特定する。この特定には先ほど述べたPSFを使用する。PSFにより、最も光線(前記測定面上では点)が密集した箇所を、前記測定面上における光線の収束位置Bとする。
【0101】
そして、前記測定面上における光線の収束位置Bから例えば半径2.5~20μmの範囲外にある光線数を算出する。本明細書においては収束位置Bから例えば半径2.5~20μm(本明細書では半径5.7μmを採用)の範囲内を前記「位置B近傍」とする。
【0102】
前記範囲外にある光線のうち、眼鏡レンズ自体にて光線が収束する所定の位置Aから例えば半径2.5~20μmの範囲内にある光線(すなわち位置Aにて収束する正常な光線)を差し引く。本明細書においては収束位置Aから例えば半径2.5~20μm(本明細書では半径5.7μmを採用)の範囲内を前記「位置A近傍」とする。
【0103】
差し引かれた後の本数の光線は、眼鏡レンズ自体にて光線が収束する位置A近傍には収束しないし、被膜凸部にて光線が収束する物体側寄りの位置B近傍にも収束しない。このような光線を本明細書では迷光としている。
【0104】
<眼鏡レンズ>
本発明の一態様の手法により得られる眼鏡レンズは以下の通りである。
「レンズ基材の表面における基材ベース部から突出する複数の基材突出部を有するレンズ基材と、該複数の基材突出部を覆うように設けられた被膜と、を備え、最表面に複数の凹凸を有する眼鏡レンズであって、
各基材突出部の周囲に亘り被膜の厚さが偏在化している、眼鏡レンズ。」
本発明の効果の欄にて述べたように、本発明の一態様の手法により得られる眼鏡レンズは、迷光の発生が抑制されている。
【0105】
本発明の一態様に係る眼鏡レンズは、迷光率が30%以下である。これにより、レンズ基材に対して被膜を形成した後でも近視抑制効果を十分に発揮可能となる。
【0106】
迷光光線が生じる理由の一つが被膜であり、本発明の一態様の眼鏡レンズでは被膜を必須とする点を考慮すると、迷光率を0%超え(または0%以上、さらには2%以上)且つ20%以下と設定しても構わない。また、迷光率を減らすのが好ましいことから、20%以下と設定するのが好ましく、15%以下(更に好適には未満)と設定するのがより好ましく、10%以下(好適には未満)と設定するのが更に好ましい。
【0107】
眼鏡レンズ上の被膜凸部のどの程度の数が迷光率の上記範囲を満たすべきかについては、後掲の実施例の項目の<デフォーカスパワー、迷光率の測定>にて詳述する。
【0108】
以下の規定においては、全被膜凸部のうち50%を超える数の被膜凸部(または全基材突出部のうち50%を超える数の基材突出部)が以下の規定を満たすのが好ましい。更に好適なのは、好適な順に80%以上、90%以上、95%以上、99%以上とし、繰り返しの記載を省略する。
【0109】
また、各基材突出部を平面視した時に、各基材突出部すなわち全ての基材突出部の周囲において所定方向に存在する領域および該所定方向の逆方向に存在する領域では被膜が薄く、それら以外の方向の領域内に被膜が厚い部分が存在するのが好ましい。
【0110】
本明細書においては、先にも述べたように、上下方向に浸漬および引き上げを行うため、レンズ基材上方から下方に向けて被膜用液が流動する例を主に挙げている。そのため、この例だと、上段落における被膜が薄い所定方向の領域とは、各基材突出部の上方(所定方向=基材突出部の幾何中心から見てゼロ時方向、回転角0度)および下方(所定方向の逆方向=基材突出部の幾何中心から見て6時方向、回転角180度)を指す。
そして、上段落における「それら以外の方向」とは、上記の例だと上方および下方以外の方向(すなわち基材突出部の幾何中心から見て回転角0度超え且つ180度未満、180度超え且つ360度未満)を指す。各基材突出部の周囲の領域であって被膜が比較的厚い部分が存在する領域は、より具体的に言うと、基材突出部の幾何中心から見て、所定方向から時計回りに15~145度および215~345度(好適には、80度、280度を中心とした50~110度および250~310度)の領域である。
【0111】
被膜凸部の根元に対し、0~360度の回転角を横軸、被膜の厚さを縦軸としたプロットに着目する。該プロットにおいて、被膜の厚さが最小値(好適には且つ極小値)となる角度を回転角0度とするのがよい。
【0112】
その場合、最小値より大きい値且つ極小値となる膜厚は、回転角が165~195度の根元の膜厚であるのが好ましい。この規定を満たすのが、全被膜凸部のうち50%を超える数、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上の数の被膜凸部であるのが好ましい(以降はこの記載は省略)。
【0113】
最大値且つ極大値となる膜厚は、回転角が50~110(好適には60~100)度の根元の膜厚、または、250~310(好適には260~300)度の根元の膜厚であるのが好ましい。そして、最大値より小さい値且つ極大値となる膜厚は、最大値が存在しなかった方の回転角の範囲に存在するのが好ましい。
つまり、該プロットにおいて少なくとも2つの極大値が存在し、この2つの極大値を示す各回転角は、上記2つの範囲の各々に属するのが好ましい。
【0114】
基材突出部の周囲に亘る被膜の厚さの最大値と最小値の比は大きいほど好ましい。完成品の眼鏡レンズにおいて凹凸が形成されている(特に近視進行抑制効果を奏する)ということは、基材突出部の周囲に亘る被膜の厚さは大きくても基材突出部の形状を完全に消してしまうような厚さではないことを指す。
【0115】
つまり、基材突出部の周囲に亘る被膜の厚さの最大値は、眼鏡レンズが近視進行抑制効果を奏する以上、常識的な値(従来のスピンコート法で基材突出部に被膜を設けた場合の値)となる。
【0116】
その場合、基材突出部の周囲に亘る被膜の厚さの最小値を小さな値に設定できれば、眼鏡レンズの最表面の形状は基材突出部の形状と近似する。これは、被膜の厚さが最小となる部分の迷光率が低くなることを意味する。
【0117】
そのため、一つの基材突出部に対応する眼鏡レンズの最表面部分に係る迷光率は、従来のスピンコート法を採用する場合に比べ、低くなる。
【0118】
後掲の図12(実施例5)、図15(実施例7)に示すように、基材突出部の周囲に亘る(回転角0~360度)被膜の厚さの最大値にて最小値を除した値(最小値/最大値)は0.10~0.99が好ましい。下限の値は、0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90、或いは0.92であってもよい。上限の値は、0.98、0.97のいずれかであってもよい。
【0119】
図12(実施例5)において、上記値(最小値/最大値)は、(2.065/2.123)≒0.97である。
図16(実施例7)において、上記値(最小値/最大値)は、(2.234/2.312)≒0.97である。
【0120】
後掲の図13(実施例5)、図16(実施例7)に示すように、被膜凸部の中心を含むレンズ断面での、((被膜の厚さの最大値-被膜凸部の頂点における被膜の厚さ)で表される差分値の最小値)/((被膜の厚さの最大値-被膜凸部の頂点における被膜の厚さ)で表される差分値の最大値)(以降、式1)が、0.90(或いは0.85、0.80、0.75、0.60)以下であるのが好ましい。下限には限定は無いが、例えば0.10、0.20、0.30、0.40または0.50が挙げられる。上記式1は、基材突出部の根元での膜厚が、根元の周囲に亘って偏在化している度合いを示す指標の一つである。
【0121】
図13(実施例5)において、((被膜の厚さの最大値-被膜凸部の頂点における被膜の厚さ)で表される差分値の最大値)は、図13(a)すなわち左右断面(水平、3時方向-9時方向、以降同様。)での値を採用できる。その際、該値は0.308μmである。
図13(実施例5)において、((被膜の厚さの最大値-被膜凸部の頂点における被膜の厚さ)で表される差分値の最小値)は、図13(b)すなわち上下断面(0時方向-6時方向、以降同様。)での値を採用できる。その際、該値は0.253μmである。
その結果、実施例5では、式1の値は0.82である。
【0122】
図16(実施例7)において、((被膜の厚さの最大値-被膜凸部の頂点における被膜の厚さ)で表される差分値の最大値)は、図16(a)すなわち左右断面(水平、3時方向-9時方向、以降同様。)での値を採用できる。その際、該値は0.123μmである。
図16(実施例7)において、((被膜の厚さの最大値-被膜凸部の頂点における被膜の厚さ)で表される差分値の最小値)は、図13(b)すなわち上下断面(0時方向-6時方向、以降同様。)での値を採用できる。その際、該値は0.065μmである。
その結果、実施例7では、式1の値は0.53である。
【0123】
図13図16において、被膜の厚さの最大値且つ極大値となる箇所は、基材突出部の根元(境界)のZ方向の直上の位置と合致する。図13図16において、被膜凸部の頂点における被膜の厚さとなる箇所は、基材凸部の頂点の直上近傍の位置と合致する。
【0124】
ちなみに、左右断面の場合において基材突出部の根元での膜厚が最大となり、上下断面の場合において基材突出部の根元での膜厚が最小となることは、基材突出部の中心をした回転角と根元の膜厚との関係を示す後掲の図12(実施例5)、図15(実施例7)からも明らかである。
【0125】
その際、基材突出部の根元に設けられる膜厚の最小値は、被膜ベース部の膜厚の0.01~2.00倍であるのが好ましい。下限の値は、0.10、0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90、または1.05であってもよい。上限の値は、1.90、1.80、1.70、1.60、1.50、1.40、1.30、1.20であってもよい。
【0126】
被膜凸部の高さは、基材突出部と同様、例えば0.1~10μmとしてもよく、0.5~2μmが好ましい。被膜凸部のデフォーカスパワーも、基材突出部と同様、基材突出部の屈折力2.50~6.50Dであってもよい。デフォーカスパワーの上限は5.50Dまたは5.00Dであってもよく、下限は3.00Dであってもよい。
【0127】
本明細書における「デフォーカスパワー」は、各デフォーカス領域の屈折力と、各デフォーカス領域以外の部分の屈折力との差を指す。別の言い方をすると、「デフォーカスパワー」とは、デフォーカス領域の所定箇所の最小屈折力と最大屈折力の平均値からベース部分の屈折力を差し引いた差分である。本明細書においては、デフォーカス領域が凸部領域である場合を例示する。
【0128】
本明細書における「屈折力」は、屈折力が最小となる方向aの屈折力と、屈折力が最大となる方向b(方向aに対して垂直方向)の屈折力との平均値である平均屈折力を指す。
【0129】
これまで述べた本発明の一態様は、ディップ法により、被膜の厚さの偏在化を図ってきた。その一方、スピンコート法を採用した場合であっても被膜の厚さの偏在化が図れることを本発明者は知見した。具体的には、スピンコート法を完了する前にレンズ基材を傾け、被膜用液を一方向に流動させることにより、被膜の厚さを偏在化させられる。更に具体的に言うと、スピンコート法を採用し且つ以下に記載の内容以外は後掲の実施例1と同様としたとき、500rpmで3秒のみスピンコートし、その後で1000rpmで3秒のみスピンコートし、その直後にレンズ基材を垂直方向に傾けて1分間放置し、その後、被膜用液の乾燥処理を行うことにより、被膜の厚さを偏在化させられる。それ以外のスピンコートの条件は以下の通りである。
スピンコート後の乾燥手法:加熱
スピンコート後の乾燥温度:110℃
スピンコート後の乾燥時間:90分
【0130】
いずれにせよ、本発明の技術的思想は、最表面に複数の凹凸を有する状態を維持しつつ被膜の厚さを偏在化することである。本発明の技術的思想の着想に至ったきっかけは確かにスピンコート法からの脱却である。但し、それはあくまできっかけであり、上段落に記載のようにスピンコート法であっても、本発明の技術的思想に係る眼鏡レンズを製造可能である。これも、本発明者でなければ見出されなかった知見である。その結果、本発明は、被膜形成手法に限定されるものではない。
【0131】
なお、本明細書における「収束」とは、縦方向および横方向の少なくともいずれかにおいて収束させることを意味する。また、収束箇所は1つでなくともよく、一つの被膜突出部内の箇所に応じて光軸方向に収束箇所が変動してもよい。
【実施例
【0132】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。もちろん本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0133】
<実施例1>
以下のレンズ基材を作製した。なお、レンズ基材に対する他物質による積層は行っていない。処方度数はS(球面度数)は0.00Dとし、C(乱視度数)は0.00Dとした。
レンズ基材の平面視での直径:100mm
レンズ基材の種類:PC(ポリカーボネート)
レンズ基材の屈折率:1.589
レンズ基材のベースカーブ:3.00D
基材突出部の形成面:物体側の面
基材突出部の平面視での形状:正円(直径1mm)
基材突出部の基材ベース部からの高さ:0.8μm(半球且つ球面)
基材突出部の平面視での配置:各基材突出部の中心が正三角形の頂点となるよう各々独立して離散配置(ハニカム構造の頂点に各基材突出部の中心が配置)
基材突出部が形成された範囲:レンズ中心から半径17mmの円内
各基材突出部間のピッチ(基材突出部の中心間の距離):1.5mm
【0134】
このレンズ基材の両面(上下全体)に対し、ディップ法を採用して被膜を形成した。浸漬方向および引き上げ方向は垂直方向とした。被膜用液およびディップ法の諸条件は以下の通りである。
このレンズ基材の両面(上下全体)に対し、ディップ法を採用して被膜を形成した。浸漬方向および引き上げ方向は垂直方向とした。被膜用液およびディップ法の諸条件は以下の通りである。
被膜用液の種類:熱硬化型コーティング剤
被膜用液の温度:10℃
被膜用液の粘度:10mPa・s
被膜用液の溶媒(メタノール)の沸点:64.7℃
浸漬時間:3分
引き上げ速度:60mm/min
引き上げ後の乾燥手法:加熱
引き上げ後の乾燥温度:110℃
引き上げ後の乾燥時間:90分
【0135】
<被膜の厚さの偏在度合いの確認>
実施例1に対し、被膜の厚さの偏在度合いの確認を行った。具体的には、タリサーフ(登録商標)CCI MP HS(アメテック株式会社製)という装置を使用し、被膜の厚さを得た。
【0136】
図7は、実施例1の眼鏡レンズにおける任意の一つの基材突出部の周囲(根元)(0~360度)の上に設けられた被膜の厚さのプロットであり、縦軸は被膜の厚さ、横軸はゼロ時からの回転角度である。
【0137】
図7は、被膜形成後の眼鏡レンズの最表面の突出部(被膜突出部)に対して最適近似させた球面の部分形状(仮想部分球面形状)を想定し、この仮想部分球面形状からのZ軸方向の高さ差分を縦軸の値としている。実際の基材突出部との差分ではないため、図7において比較的厚さが小さい部分はマイナス値となっている。
【0138】
図8は、実際の眼鏡レンズの被膜突出部(すなわち被膜凸部)と仮想部分球面形状を示す、一例としての概略断面図である。実線が実際の眼鏡レンズの被膜突出部を示し、破線が仮想部分球面形状を示し、一点鎖線が実際の眼鏡レンズの被膜ベース部分を示し、横線ハッチ部分が、仮想部分球面形状と、実際の被膜突出部の形状との間のレンズ厚さ方向での差を示す。
【0139】
図8に示すように、図7のプロットの縦軸マイナス値では、仮想部分球面形状よりも高さが低いことを示す。また、縦軸マイナス値が大きいほど、該縦軸マイナス値に該当する周辺部分では被膜の厚さが著しく薄いことを意味する。
【0140】
なお、仮想部分球面形状は、実際の眼鏡レンズの被膜突出部の形状に対して最適近似させた球面の部分形状である。この仮想部分球面形状は、例えば最小二乗法によって得られる。
【0141】
最適近似の一具体的は以下の通りである。被膜突出部の形状に対して球面形状を重ねて配置する。眼鏡レンズの最表面におけるベース部分の形状から起立開始して頂点に向かった後に起立が終了する部分までにおいて、両形状の間のレンズ厚さ方向(光軸方法、Z軸)での差を二乗する。それらの値の合計が最小となるような仮想部分球面形状を設定する。
【0142】
最小二乗法以外の方法としては、被膜突出部の頂点およびその近傍の複数点の位置から仮想部分球面形状を得てもよい。その場合、仮想部分球面形状の頂点を、実際の眼鏡レンズの被膜突出部の頂点と一致させ、前記差を調べてもよい。
【0143】
最表面におけるベース部分の形状からの起立開始部分としては、被膜突出部の形状を曲線化したものを1回微分した曲線において増加に転じた点を起立開始部分としてもよい。また、被膜突出部の平面視中心を通過する断面における非点収差断面曲線のピークの立上り部分を起立開始部分としてもよい。起立終了部分も同様に設定してもよい。
【0144】
スピンコート法を採用した例だと、基材突出部の周囲における被膜の厚さは均一である。その一方、ディップ法を採用した実施例1だと、基材突出部の周囲における被膜の厚さは偏在化していた。
【0145】
<デフォーカスパワー、迷光率の測定>
実施例1に対し、デフォーカスパワーを測定した。デフォーカスパワー(単位:D)は、網膜からどれだけ離れた距離にて光束が集光するかを示す値であり、光線追跡および上述の迷光率の測定手法の一部を利用して測定可能である。
【0146】
また、実施例1に対し、上述の手法を採用して迷光率を測定した。迷光率は、100×(迷光光線数)/(入射した光線数)で表す。
【0147】
なお、デフォーカスパワーおよび迷光率の測定結果は、以下のように得た。基材突出部が形成された範囲(レンズ中心から半径17mmの円内)において、被膜凸部を7個丸ごと含む任意の円形領域を仮想し(図10(a))、該円形領域における値を測定結果として採用した。上述の手法で、眼鏡モデルと眼球モデルを設定し、光線追跡法で、上記該円形領域に多数の光線を入射させて集光位置を特定した。
【0148】
眼球モデルおよびその他の各種条件は以下のとおりである。
・眼軸長:24mm
・眼の調節量:0.0D
・角膜-レンズ頂点間距離(CVD):12.0mm
・角膜頂点から眼球の回転中心までの距離:13.0mm
以降、特記無い限り、上記条件を採用する。但し、本発明は上記各条件に限定されない。
【0149】
例えば、上記例では、図10(a)に示すような、被膜凸部を7個丸ごと含む任意の円形領域を仮想した。その一方、図10(b)に示すような、一列に並んだ被膜凸部を3個丸ごと含む円形領域でもよい。この円形領域は、例えば、一つの被膜凸部(ひいては基材突出部)を中心としてその被膜凸部から最短距離にある別の被膜凸部を丸ごと含む円形領域としてもよい。本明細書では、この円形領域のことを「最小単位」とも呼ぶ。図10(a)だと、該別の被膜凸部が6個存在し、図10(b)だと、該別の被膜凸部が2個存在することになる。
【0150】
なお、この円形領域は、レンズメーター(PSF解析範囲)の直径に相当させてもよい。通常、レンズメーターの直径は4.0mmである。仮に、被膜凸部間(基材突出部間)のピッチがレンズメーターの直径(例えば4.0mm)と同程度だった場合、円形領域に1個の被膜凸部を存在させ、これを最小単位としてもよい。
【0151】
本明細書における「迷光率」は、上記最小単位に対して測定して得られた結果である。つまり、本明細書における「迷光率」は、一つの被膜凸部(ひいては基材突出部)を中心としてその被膜凸部から最短距離にある別の被膜凸部を丸ごと含む(例えば直径4.0mmの)円形領域を最小単位とし、上記最小単位に対して測定して得られた結果である。
【0152】
本明細書における眼鏡レンズには上記最小単位は複数存在する。該眼鏡レンズの少なくとも一つの上記最小単位において、迷光率が上記数値範囲を満たせば、本発明の効果は奏される。好適な順に、複数の上記最小単位のうち50%を超える数、80%以上、90%以上、95%以上の数の最小単位が上記迷光率の規定を満たすのが好ましい。
【0153】
ここでまず複数の設計形状を用いた眼鏡モデルを設定し、[発明を実施するための形態]にて述べた手法により集光位置を調べた。ここでの設計眼鏡モデル(レンズ基材)の凸面は、基材ベース部を球面とし、基材ベース部の曲率半径よりも小さい曲率半径の球面で基材突出部を構成するものである。一定の曲率を有する基材ベース部球面に対し、基材突出部の曲率半径を離散的に変化させて複数の設計形状を設定した。そして、基材突出部の曲率半径による面屈折力[D]から基材ベース部の曲率半径による面屈折力[D]を引いた値をデフォーカス値とした。このデフォーカス値と、実際の上記集光位置の逆数から算出されるデフォーカスパワーとの相関式を、複数の設計形状を用いた眼鏡モデルで行った光線追跡法により得た。
【0154】
図9は、基材突出部の面屈折力から基材ベース部の面屈折力を差し引いた値(デフォーカス値)(横軸)と、集光位置の逆数から算出されるデフォーカスパワー(縦軸)との相関式を示すプロットである。
【0155】
実施例1におけるデフォーカスパワーの測定は、この相関式を用い、実施例1で作製される眼鏡レンズにおいてデフォーカスパワーに相当する値を求めることにより行った。
【0156】
迷光率についても、本発明の一態様にて述べた手法により把握した集光位置のPSFから算出した。
【0157】
実施例1においては、上記デフォーカスパワー測定時に求めた集光位置(光軸方向)における光軸方向に垂直な面上で光線が密集した領域が、7か所あることが想定される。これは、被膜凸部を7個丸ごと含む任意の円形領域を仮想するためである(図10(a))。各測定面に格子状のグリッドを設定しておき、各グリッドを通過する光線の数を計算し、一定以上となるグリッドを調べると、光線が7か所の領域に密集して分布していることが想定される。
【0158】
実施例1においては、このそれぞれの領域の重心位置を複数の収束位置Bとして求め、これら位置B近傍の範囲外の光線から、位置A近傍の光線を差し引いて迷光光線数とした。この迷光光線数から、[発明を実施するための形態]にて述べた手法により、迷光率を算出した。
【0159】
実施例1のデフォーカスパワーは3.73D、迷光率は7.7%であった。実施例1の眼鏡レンズは、迷光率が低く、デフォーカスパワーを十分に確保できていた。
【0160】
<実施例2>
実施例1にて作製した被膜付きレンズ基材に対し、反射防止膜を形成した。反射防止膜の製造条件の詳細は、特開2013-97159号公報の実施例3に記載の通りである。
【0161】
実施例2のデフォーカスパワーは3.73D、迷光率は7.7%であった。実施例2の眼鏡レンズは、実施例1の眼鏡レンズのデフォーカスパワーおよび迷光率と同等の性能を有していた。つまり、本発明の効果が、反射防止膜の形成により損なわれないことが確認できた。
【0162】
<実施例3>
実施例1で用いた被膜用液から金属ゾルの量を減らすとともにメタノールを追加した第2の被膜用液を用意した。実施例1にて作製したレンズ基材を該第2の被膜用液に浸漬させた。それ以外は実施例1と同様とした。
【0163】
実施例3のデフォーカスパワーは3.70D、迷光率は8.1%であった。
実施例3においても、特許文献1に記載の微小凸部の上に従来のスピンコート法にて被膜を形成する場合に比べ、デフォーカスパワーを改善でき且つ迷光率を低下させられた。被膜用液の特性を変化させても、被膜の厚さを変化させても、眼鏡レンズの最表面に凹凸が存在したうえで、基材突出部の周囲における被膜の厚さは偏在化していたためと推察される。
【0164】
<実施例4>
以下の変更点を除き、実施例1と同様の手法で眼鏡レンズを作製した。
・基材突出部が形成された範囲を、レンズ中心から半径17mmの円内(但しレンズ中心から半径3.8mmの円を内接円とする正六角形状の領域は除く)と変更
・基材突出部の中心の屈折力が5.50Dとなるように基材突出部の高さを変更
・被膜ベース部の被膜の厚さが3.0μmとなるように被膜用液の諸条件を変更
【0165】
図11は、実施例4における、レンズ中心に向かって水平左方且つレンズ中心から8番目に近い被膜凸部の上下断面、および該被膜凸部の左右(水平)断面における、高さのプロットである。
【0166】
図11に類するプロットでは、基材突出部および被膜凸部の形状の違いを分かりやすくすべく、便宜上、各頂点の位置を一致させている。実際の膜厚は、被膜ベース部の膜厚を被膜凸部のプロットに上乗せした膜厚である。例えば後掲の図12に類するプロットでは、該上乗せを行った後の値を縦軸に記載している。
【0167】
被膜ベース部の膜厚は、基材突出部が設けられていない箇所の上(レンズ厚さ方向、光軸方向)の膜厚を指定してもよい。レンズの一面全体に基材突出部が設けられている場合、各被膜凸部に対して最も長い距離を確保できる箇所の膜厚を、被膜ベース部の膜厚として指定してもよい。一例としては、ハニカム構造を採用する場合、三角形の各頂点(互いに隣接する3つの被膜凸部の各頂点)間の重心箇所の膜厚を、被膜ベース部の膜厚として指定してもよい。
【0168】
実施例4のデフォーカスパワーは4.74D、迷光率は19.1%であった。また、上下方向においても、左右方向においても、被膜凸部では膜厚の偏在化が生じていた。
【0169】
<実施例5>
実施例4において被膜ベース部の被膜の厚さが3.0μmだったところ、実施例5では被膜ベース部の被膜の厚さを2.0μmとし、実施例4と同様の試験を行った。
【0170】
実施例5では、デフォーカスパワーおよび迷光率の測定と共に、被膜の厚さの偏在度合いの確認も行った。但し、上記実施の形態および実施例1で述べた手法とは異なる手法で確認を行った。以下、説明する。
【0171】
タリサーフ(登録商標)CCI MP HS(アメテック株式会社製)という装置を使用し、実施例5に係るレンズ基材の表面形状Aを得た。そして、該装置を使用し、実施例5に係る眼鏡レンズ(被膜形成後)の表面形状Bを得た。そして、TalyMap(登録商標)(アメテック株式会社製製)というソフトウェアを使用し、表面形状Aでの基材突出部の頂点と、表面形状Bでの被膜凸部の頂点が一致するよう、両形状A,Bを重ね合わせた。これにより、両形状A,Bの差分が得られる。この差分が、少なくとも基材突出部の根元に該当する箇所においては、被膜の厚さに該当するとみなす。そして、被膜凸部の中心を通過する断面を仮想し、被膜凸部を中心とした、レンズ断面の平面視での回転角度ごとに該差分の値を得た。
【0172】
図12は、実施例5の被膜凸部の根元において、レンズ断面の平面視での回転角度(横軸)ごとに、被膜の厚さ(縦軸)を表したプロットである。なお、上方すなわち12時方向を0度とし、回転方向は時計回りとする。
【0173】
なお、本明細書の各実施例に係る基材ベース部と基材突出部との境界は明瞭である。そのため、被膜凸部の根元は、眼鏡レンズの最表面における、該境界のZ方向の直上の部分の円周部分を指定している。
【0174】
図13(a)は、実施例5において、左右(水平)方向のレンズ断面での被膜の厚さを表したプロットである。
図13(b)は、実施例5において、上下方向のレンズ断面での被膜の厚さを表したプロットである。
プロット中の点は、被膜凸部の頂点の位置を示す。
なお、図13に類するプロットの縦軸は測定位置を表すため、縦軸の数値自体は参照せずともよい。その代わり、プロット内での差分値は有効に参照できる。この差分値としては、例えば、最大値(且つ極大値)である縦軸値と、被膜凸部の頂点における縦軸値(或いは最小値である縦軸値)との差分値である。
【0175】
図12図13が示すように、被膜凸部の根元に亘り、膜厚の偏在化が生じることが明らかになった。
【0176】
<実施例6>
以下の変更点を除き、実施例1と同様の手法で眼鏡レンズを作製した。
・基材突出部が形成された範囲を、レンズ中心から半径17mmの円内(但しレンズ中心から半径3.8mmの円を内接円とする正六角形状の領域は除く)と変更
・基材突出部のデフォーカスパワーが3.50Dとなるように基材突出部の高さを変更
・被膜ベース部の被膜の厚さが1.5μmとなるように被膜用液の諸条件を変更
【0177】
図14は、実施例6における、基材突出部、レンズ中心のY方向の直上且つレンズ中心から最も近い被膜凸部の上下断面、および該被膜凸部の左右(水平)断面における、高さのプロットである。
【0178】
実施例6のデフォーカスパワーは3.19D、迷光率は5.5%であった。また、上下方向においても、左右方向においても、被膜凸部では膜厚の偏在化が生じていた。
【0179】
<実施例7>
実施例6において被膜ベース部の被膜の厚さが1.5μmだったところ、実施例7では被膜ベース部の被膜の厚さを2.0μmとし、実施例6と同様の試験を行った。
【0180】
図15は、実施例7の被膜凸部の根元において、レンズ断面の平面視での回転角度(横軸)ごとに、被膜の厚さ(縦軸)を表したプロットである。なお、上方すなわち12時方向を0度とし、回転方向は時計回りとする。
【0181】
なお、本明細書の各実施例に係る基材ベース部と基材突出部との境界は明瞭である。そのため、被膜凸部の根元は、眼鏡レンズの最表面における、該境界のZ方向の直上の部分の円周部分を指定している。
【0182】
図16(a)は、実施例7において、左右(水平)方向のレンズ断面での被膜の厚さを表したプロットである。
図16(b)は、実施例7において、上下方向のレンズ断面での被膜の厚さを表したプロットである。
プロット中の点は、被膜凸部の頂点の位置を示す。
【0183】
図15図16が示すように、被膜凸部の根元に亘り、膜厚の偏在化が生じることが明らかになった。
【0184】
<実施例8>
以下の変更点を除き、実施例1と同様の手法で眼鏡レンズを作製した。
・基材突出部が形成された範囲を、レンズ中心から半径17mmの円内(但しレンズ中心から半径3.8mmの円を内接円とする正六角形状の領域は除く)と変更
【0185】
図17(a)は、実施例8における、レンズ中心のY方向の直上且つレンズ中心から2番目に近い被膜凸部の上下断面、および該被膜凸部の左右(水平)断面における、高さのプロットである。
図17(b)は、実施例8における、レンズ中心のY方向の直上且つレンズ中心から6番目に近い被膜凸部の上下断面、および該被膜凸部の左右(水平)断面における、高さのプロットである。
図17(c)は、実施例8における、レンズ中心に向かって水平左方且つレンズ中心から2番目に近い被膜凸部の上下断面、および該被膜凸部の左右(水平)断面における、高さのプロットである。
図17(d)は、実施例8における、レンズ中心のY方向の直下且つレンズ中心から2番目に近い被膜凸部の上下断面、および該被膜凸部の左右(水平)断面における、高さのプロットである。
【0186】
図17に示すように、眼鏡レンズ上のどの位置の被膜凸部でも膜厚の偏在化が生じることが明らかになった。
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図17