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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】張力調整装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 23/20 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
B66B23/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022100383
(22)【出願日】2022-06-22
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上村 晃正
(72)【発明者】
【氏名】首藤 正志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】本間 正葵
(72)【発明者】
【氏名】川西 洋司
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直也
(72)【発明者】
【氏名】宮川 祥一
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-160086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 23/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客を搬送する乗客コンベアに設けた無端状の移動手すりに配置され、前記移動手すりの張力を調整する張力調整装置であって、
躯体に固定した軸部材と、
中央部を前記軸部材に遊嵌してあり、前記軸部材の周方向に揺動自在な基板と、
前記移動手すりの移動方向に間隔を空けて設けられ、前記移動手すりに当接する一対の手すり当接部と、
前記一対の手すり当接部を支持すると共に前記基板に対して上下方向に移動可能な可動部と、
前記可動部を下方に向けて所定の範囲の付勢力で付勢する一対の付勢部材と、を備え、
前記移動手すりの運転中に、前記一対の手すり当接部が前記移動手すりから受ける力の不釣合が生じようとすると、釣り合う位置に前記基板が前記軸部材を中心に揺動することで、各手すり当接部が前記移動手すりに均等な付勢力を作用する、
張力調整装置。
【請求項2】
前記軸部材は、円柱部材であり、
前記基板は、前記軸部材の外周面に沿って揺動する、
請求項1に記載の張力調整装置。
【請求項3】
前記基板に設けた被係止部と前記可動部に設けた係止部とを有し、前記係止部が前記被係止部に係止することで前記可動部の上下動を制限するロック機構を更に備え、
前記可動部は、前記基板側に向けて揺動自在な揺動軸を有し、
前記ロック機構は、前記一対の手すり当接部が前記移動手すりから所定の範囲の付勢力を超える上向きの張力を受けたときに、前記可動部が前記揺動軸を中心として前記基板側に向けて揺動し、前記係止部が前記被係止部に係止することで前記可動部の上下動が制限される、
請求項1に記載の張力調整装置。
【請求項4】
前記揺動軸の上下方向の移動に対して所定の摩擦力を付与する第1摩擦部材と、前記揺動軸の揺動に対しては前記第1摩擦部材の摩擦力よりも小さい摩擦力を付与する第2摩擦部材と、を備える、
請求項3に記載の張力調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、移動手すりの張力を調整する張力調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エスカレータやオートロード等のような乗客コンベアにおいて、移動手すりの張力を調整する張力調整装置が公知である。
かかる張力調整装置では、移動手すりに常時押圧力を付与して張力を付与し、所定の張力範囲を超えると報知するものがある。そして、所定の張力範囲を超えた場合には、張力調整装置を設定しなおすようなメンテナンスをしている。
また、移動手すりに付与する押圧力が小さすぎると、移動手すりにたるみが生じて、屈曲が生じたり、移動手すりを案内する案内レールと擦れて、激しく摩耗するという不都合がある。
更に、上述した押圧力は、一対の手すり当接部から付与される。そのため、経時変化等により移動手すりの長さが変化したときに、一方の手すり当接部から付与される押圧力と、他方の手すり当接部から付与される押圧力とが異なる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-8388号公報
【文献】実開昭63-180688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような事情から、最適な押圧力を長期間維持し続けることができる張力調整装置が望まれている。
そこで、最適な押圧力を長期間維持し続けることができる張力調整装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る張力調整装置は、乗客を搬送する乗客コンベアに設けた無端状の移動手すりに配置され、前記移動手すりの張力を調整する張力調整装置であって、躯体に固定した軸部材と、中央部を前記軸部材に遊嵌してあり、前記軸部材の周方向に揺動自在な基板と、前記移動手すりに当接する一対の手すり当接部と、前記一対の手すり当接部を支持すると共に前記基板に対して上下方向に移動可能な可動部と、前記可動部を下方に向けて所定の範囲の付勢力で付勢する一対の付勢部材と、を備え、前記一対の手すり当接部が前記移動手すりから受ける力の不釣合が生じようとすると、釣り合う位置に前記軸部材を中心に揺動することで、各手すり当接部が前記移動手すりに均等な付勢力を作用する、張力調整装置である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、一実施形態にかかる乗客コンベアにおいて、移動手すりの駆動装置全体を概略的に示す図である。
図2図2は、上記実施形態にかかる張力調整装置の正面図である。
図3図3は、上記実施形態にかかる張力調整装置の図であり、(a)は側面図であり、(b)は図2に示すA-A断面図である。
図4図4は、上記実施形態にかかる張力調整装置におけるロック機構が制限された状態を示す側面図である。
図5図5は、上記実施形態にかかる張力調整装置における力の関係を説明する側面図である。
図6図6は、上記実施形態にかかる張力調整装置の正面図であって、移動手すりから各手すり当接部への力に不釣合が生じようとする場合の作用を説明する図である。
図7図7は、比較例に係る張力調整装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図1図6を参照して、実施形態に係る張力調整装置を備える乗客コンベアについて説明する。
乗客コンベアは、エスカレータであり、例えば、建物の上階と下階との間に傾斜して配置されている。
図1に示すように、移動手すり駆動装置1では、無端状の移動手すり3が乗客コンベアのステップ(図示せず)の移動と同期して循環駆動されている。
【0008】
移動手すり駆動装置1において、移動手すり3は、駆動装置5aに巻き掛けられ、駆動プーリ5bと押し付けローラ5cにより挟まれている。駆動プーリ5bを所定の方向に回転させることで、駆動プーリ5bと移動手すり3の間の摩擦力で移動手すり3は走行する。
移動手すり3は、横断面がC字形状となっており、ゴム製の本体と、本体に一体に設けられた帆布を備えており、本体には、鋼材製の芯線が埋め込まれている。乗客が移動手すり3を持つことができるようにC字形状の開口部が下を向いて移動手すり3が走行する部分を往路側と称している。また、移動手すり3が反転し、開口部が上を向いて移動手すり3が走行する部分を帰路側と称している。
移動手すり3は、案内レール(図示せず)に沿って駆動される。図1では、X部から図の反時計回りにY部までの往路側に、案内レールが設置されている。
駆動装置5aの前後(移動手すり3の走行方向の前後、以下同じ)には、駆動下部案内ローラ5dと、駆動上部案内ローラ5eが設置されており、移動手すり3が駆動装置5aに入る際に、急角度で屈曲することなくスムーズに変形するようになっている。移動手すり3の帰路側の下部には、たるみ取り部5fが設けられている。たるみ取り部5fには手すり3の張力を調整する張力調整装置7が設けられ、移動手すり3に、図1の下方向に押圧力を付加することで、移動手すり3に適切な張力を与え、たるみを吸収する。
たるみ取り部5fの前後には、たるみ取り下部案内ローラ5gと、たるみ取り上部案内ローラ5hとが設置されており、移動手すり3がたるみ取り部5fに入る際に、スムーズに変形するようになっている。
詳細については後述するが、本実施形態に係る張力調整装置7は、たるみ取り下部案内ローラ5gとたるみ取り上部案内ローラ5fとの間に設けてある。
尚、二点鎖線6で示しているのは、ステップ(踏み段)の軌道である。
【0009】
次に、本実施形態にかかる張力調整装置7の詳細について説明する。
図2図3(a)、及び図3(b)に示すように、張力調整装置7は、軸部材11と、軸部材11の周方向に揺動自在な基板9と、移動手すり3に当接する一対の手すり当接部13L,13Rと、基板9に対して上下方向に移動可能であり各手すり当接部13L,13Rを支持する可動部15と、基板9に対して可動部15を所定の範囲の押圧力で付勢する一対の付勢部材17L,17Rと、可動部15の移動を制限するロック機構19と、可動部15に設けた揺動軸21,21と、を備えている。
【0010】
軸部材11は、円柱部材である。軸部材11は、正面視円形状であり、一対の連結孔11a,11aを介してボルト24で躯体23(図3(b)参照)に固定してある。連結孔11aは、ボルト24の頭部を収納するための溝が形成されている。連結孔11aは、上下方向の長孔であり、この長孔の範囲内で張力調整装置7を取り付ける位置が調整可能である。
【0011】
基板9は、正面視略四角形の板状であり、中央部9dを軸部材11に遊嵌されている。
基板9には、基板本体9aの上端部に前方(正面側)に向けて突設して、一対の付勢部材17L,17Rの上端を受ける第1上側突設部9bが設けてある。
基板9の基板本体9aの左右には、可動部15の左右に設けた揺動軸21,21を、それぞれ受ける揺動軸受け9c,9cが固定されている。揺動軸受け9cは、断面略L字形状を成す板材であり、L字の一側部25aを基板9の基板本体9aに取り付け、L字の他側部25bを基板9の基板本体9aから正面側に突設している。各他側部25bには、揺動軸21の上下方向の移動を案内する軸案内孔26が形成されている。軸案内孔26(図3(a)参照)は、上下に長い長孔である。
【0012】
手すり当接部13L,13Rは、移動手すり3に当接するローラであり、移動手すり3の移動方向(正面から見て左右方向)に沿って間隔を開けて設けている。
図4に示すように、各手すり当接部13L,13Rは、可動部15の垂直方向に面状に設けた可動部本体15aから正面側に向けて水平に突設部する支持軸27により回転自在に設けられている。
図3(a)に示すように、手すり当接部13L,13Rは、移動手すり3との当接幅W1を有し、当接幅W1の半分の位置が移動手すり3に当接する中央の線(以下、「中央線C2」という)としてある。
【0013】
可動部15には、一対の付勢部材17L,17Rの下端を受ける第2上側突設部15bが設けてあり、左右側にそれぞれ設けた揺動軸支持部材31,31が固定されており、各揺動軸支持部材31には、上述した揺動軸21の基端が固定されている。
揺動軸21は左右方向に突設した棒部材であり、揺動軸受け9c(基板9)の軸案内孔26に挿通されている。揺動軸受け9cには、軸案内孔26が形成された他側部25bに当接する第1摩擦部材53が設けてある。本実施形態において、第1摩擦部材53は、他側部25bに固定されている。第1摩擦部材53は、摩擦係数が金属よりも大きい部材であり、例えば、ゴム等の弾性体である。揺動軸21の先端は軸案内孔26を貫通して揺動軸受け9cから突設してあり、第2摩擦部材55が揺動軸21に螺合する固定具57で固定されている。第2摩擦部材55の材料は、第1摩擦部材53よりも摩擦係数の小さい金属材であり、例えば、座金である。固定具57は、例えば、ナットである。
可動部15(揺動軸21)が軸案内孔26に沿って上下方向に移動するとき、摩擦係数の大きい第1摩擦部材53と第2摩擦部材55との間で滑ることで移動し、可動部15が揺動軸21を中心に揺動するとき、摩擦係数の小さい第2摩擦部材55と固定具57との間で滑ることで揺動するように構成されている。言い換えると、摩擦係数の大きい上下方向への移動よりも摩擦係数の小さい揺動を優先して動作するように構成されている。
また、固定具57の締め込み量を管理(調整)することで、上下方向及び揺動方向に対する摩擦力を調整することができる。
【0014】
ここで、可動部15の重心Gについて説明する。
図3(a)及び図3(b)に示すように、可動部15はその側面から見た重心Gの位置は、基板9の基板本体9aよりも正面側にあり、且つ揺動軸21よりも正面側に距離L1の位置に設定されている。可動部15における重心Gの位置及び重量は、例えば、可動部15に図示しない錘を取り付けることで設定されても良い。錘は、予め重量を調整されたものを取り付けても良いし、複数の錘板を用いて重量を調整しても良い。
【0015】
次に、一対の付勢部材17L,17Rについて説明する。
一対の付勢部材17L,17Rは、基板9と可動部15との間に設けてあり、基板9に対して可動部15を下方に向けて付勢するものである。一対の付勢部材17L,17Rは、コイルバネであり、上端を基板9の第1上側突設部9bに下から当接して設けてあり、下端を可動部15に上から当接して設けてある。
図3(a)及び図3(b)に示すように、付勢部材17L,17Rの中心線B1は、本実施形態では、重心Gと略一致する位置に設けてあるが、重心Gよりも正面側に設けても良い。
【0016】
次に、ロック機構19について、説明する。
図2図3(a)、及び図3(b)に示すように、ロック機構19は、可動部15の上方への移動を制限するものであり、基板9に設けた被係止部41と、可動部15に設けた係止部43とで構成されている。
被係止部41は、可動部15の揺動軸21よりも上方に設けた複数の系合凹部41a(図3(a)参照)を有し、系合凹部41aは上下方向に複数列設されている。
係止部43は、金属でできており、本体部43aと先端部43bとを有し、本体部43aは可動部15の第2上側突設部15b(図3(b)参照)に固定してある。先端部43bは、被係止部41に向けて突設している。先端部24bと本体部43aとの間には、接続部43cが設けてあり、先端部43bが被係止部41に係止するようになっている(図4参照)。
尚、図2に示すように、被係止部41には、その上下方向の所定の位置に可動部15の上下方向の移動位置を示す目印51が表示されている。例えば、移動手すり駆動装置1が停止状態のときに、係止部43が目印51の位置にあるときには、移動手すり3が経年劣化等により縮んで張力がメンテナンスを必要とする程高くなっていることが分かる。
目印51は、帯線であるが、矢印、又は「限界位置」や「メンテナンス要」等の文字表示であっても良い。
【0017】
図3(a)に示すように、可動部15は、可動部本体15aの背面側(正面側の反対側)への揺動を制限するストッパ47が設けてある。
ストッパ47は、基板9側の先端47aを基板9の基板本体9aの正面に当接することにより可動部15の下部が基板本体9a側に向けて揺動するのを制限している。また、ストッパ47は、その先端47aが基板9の基板本体9aに当接した状態で基板本体9aの正面を上限に摺動可能である。
【0018】
本実施形態にかかる張力調整装置7の作用について説明する。
まず、各部の力の作用関係について説明する。なお、力の作用をわかりやすくするため、図3(a)及び図3(b)に示す付勢部材17L,17Rの中心線B1と、手すり当接部13L,13Rの中央線C2と、重心Gとは、同一直線上にあるものとする。
図5に示すように、一対の付勢部材17L,17Rは、基板9に対して下向きの付勢力F1を可動部15の重心Gに作用する。付勢力F1は、各付勢部材17L,17Rが可動部15に作用する付勢力の合力である。
付勢力F1は、水平方向では揺動軸(揺動支点)21から距離L1だけ離れている。さらに、可動部15が有する自身の質量をmとすると、重心Gには下向きの荷重mgが作用している。したがって、可動部15には、付勢部材17L,17Rの付勢力F1と、自重mgとの合計の下向きの付勢力F1+mgが作用する。
一方、移動手すり3により手すり当接部13L,13Rから可動部15に反力(張力)F2が作用する。反力F2は、各手すり当接部13L,13Rから可動部15に作用する反力の合力である。
Ftは、F1+mgよりもF2が大きくなったときに可動部15の重心Gに作用する上向きの力である。
一方、反力F2が付勢力F1+mgよりも大きい場合、付勢部材17L,17R及び可動部15の自重の下向きの付勢する力F1+mgと手すり当接部13L,13Rが移動手すり3から受ける反力F2との合力Ftは、水平方向では揺動軸21から距離L1だけ離れた位置で作用する上向きの力であり、揺動軸21に対してR1方向の回転モーメント(Ft×L1)として作用する。
【0019】
(移動手すり3が停止又は上昇運転する場合)
図3(a)及び図5に示すように、付勢部材17L,17Rが蓄積する付勢力と可動部15の自重とにより、基板9に対して可動部15を押圧することにより、合力F1+mgで、手すり当接部13L,13Rが移動手すり3に張力を付与する。
ロック機構19では、係止部43は被係止部41から離れた位置にあり、解除状態になっている。したがって、可動部15は上下動自在な状態である。この状態は、図3(a)及び図3(b)に示すように、手すり当接部13L,13Rが略垂直に立っている状態であり、基板9の基板本体9aに対し可動部15に設けたストッパ47が接触し、可動部15は揺動軸21を揺動支点とするそれ以上の反時計回りの回転が抑制されている。
移動手すり3に通常の伸縮がある場合には、手すり当接部13L,13Rとともに可動部15が基板9に対して上方又は下方に移動して、移動手すり3に所定の張力を付与する。可動部15の上下動に対して、揺動軸21は、揺動軸受け9cの軸案内孔26の長孔に沿って上下動する。このとき、揺動軸21は、揺動軸21に固定されている第2摩擦部材55が摩擦係数の大きい第1摩擦部材53との間で滑ることで移動する。
また、詳細については後述するが、図6に示すように、基板9は軸部材11を中心として揺動自在であり、一対の手すり当接部13L,13Rが移動手すり3から受ける力の不釣合が生じようとすると、釣り合う位置に軸部材11を中心に揺動する。これにより、各手すり当接部13L,13Rは移動手すり3に均等な押圧力を付与している。
【0020】
(移動手すり3を下降運転する場合)
図1に示すように、乗客コンベアの移動手すり3を下降運転する場合、乗客コンベアの移動手すり3には、張力調整装置7により、常時荷重を加えて、移動手すり3を所定の範囲の張力に保持している。
この場合、図5に参照されるように、手すり当接部13L,13Rは、移動手すり3から、付勢部材17L,17Rが付与する付勢力と、可動部15の自重との合力F1+mgを超えるF2を受け、可動部15に対して上向きの力Ftを作用するので、揺動軸21が軸案内孔26を上方に移動しようとする。
更に、図5に示すように、力Ftは揺動軸21に対して回転モーメントとして作用するので、揺動軸21は、軸案内孔26を揺動支点として回動しようとする。
このとき、上述したように、第1摩擦部材53と第2摩擦部材55との間での摩擦力よりも第2摩擦部材55と固定具57との間の摩擦力の方が小さいため、可動部15(揺動軸21)の上下方向への移動よりも可動部15の揺動が優先される。これにより、可動部15は揺動軸21を揺動支点として、矢印R1方向に揺動し、図4に示すように、ストッパ47が基板9の基板本体9aから離れ且つ上端側を基板9の基板本体9aに押し付けるように、揺動する。
このように、ロック機構19では、可動部15の上側に設けた係止部43が、基板9の上端に固定した被係止部41の系合凹部41aに嵌り込み、可動部15は係止状態となるので、可動部15の上下移動が制限(ロック)される。
【0021】
図4に示すように、ロック機構19の係止部43が被係止部41に係止した状態では、移動手すり3は上方への移動と時計回りの回転力が生じている。そのため、移動手すり3は基板9側と若干反対の方向に移動しており、移動手すり3からは元の位置に戻ろうとする力が作用するが、その移動手すり3による復元力は上下方向の押圧力に対し十分に小さく、ロック機構19において、係止部43の被係止部41との系合、開放などの動作に対する影響はほとんどない。
【0022】
一方、移動手すり3の下降運転中において、乗客等により移動手すり3を介して張力調整装置7に過負荷が作用した場合、例えば、乗客コンベアに乗客が乗るときや降りるときに、過剰に移動手すり3にしがみついたり、移動手すり3を引張るなどのいたずら等により、移動手すり3に急激な過負荷が作用することがある。
この場合には、ロック機構19では、可動部15の係止部43が、基板9の被係止部41に係止して、可動部15と共に手すり当接部13L,13Rがロック(上下動を制限)されているから、移動手すり3の軌道上にたるみが生じるのを防ぐため、駆動装置5a(図1参照)の前後にたるみが生じない。
【0023】
(移動手すり3を下降運転後に、上昇運転又は停止する場合)
下降運転を終了し、上昇運転に切り替えて上昇運転を再開し又は停止すると、手すり当接部13L,13Rに作用する移動手すり3からの反力F2(図5参照)は低下し、それに伴い手すり当接部13L,13Rは、図3(a)に示すロック解除状態の位置に戻る動作をする。
この場合、移動手すり3からの反力F2(図5参照)がある程度低下した段階で、ロック機構19では、被係止部41に対する係止部43の系合が開放され、可動部15は付勢部材17L,17R及び第1摩擦部材53で再び支持され、移動手すり3の反力F2に見合った位置で釣り合い、ストッパ47で揺動が抑制される位置まで戻る。図3(a)に示すように、可動部15の重心Gは、基板9の基板本体9aからの距離が手すり当接部13L,13Rの幅W1の範囲内にあるように設定しているので、係止部43が被係止部41との系合状態から解放された際に手すり当接部13L,13Rが垂直に立つ状態(ロック解除状態)の位置まで容易に戻ることができるようになる。尚、付勢部材17L,17Rの中心線B1は、重心Gに対し、基板9の基板本体9aからの距離が同じか、それよりも正面側に設置されており、付勢部材17L,17Rが重心Gよりも背面側に設置された場合よりも、付勢部材17L,17Rの付勢力もロック解除状態に戻る力として作用することができる。
【0024】
図3(a)に示すように、ロック解除状態では、可動部15はストッパ47でそれ以上の反時計回りの回転は抑制しており、係止部43と被係止部41との間の隙間は再び所定の値を維持する。環境温度や経年変化により移動手すり3に伸縮が生じた場合、係止部43と被係止部41との系合が開放された状態において、移動手すり3の反力(押圧力)と付勢部材17L,17Rの付勢力が釣り合う位置でロック解除状態に戻る。つまり、環境温度や経年変化に対する伸縮を受けても所定の押圧力が維持される。尚、第2摩擦部材55の第1摩擦部材53との相対的な滑りに対する摩擦力が付勢部材17L,17Rの付勢力に比べて小さいため、上述した移動手すり3の伸縮に応じた可動部15の上下動に対して支障はない。
【0025】
ロック機構19のロック解除状態における基板9の揺動について説明する。
図6に示すように、ロック機構19が解除状態であるときに、張力調整装置7の基板9は軸部材11の周方向に揺動自在である。尚、図6は、張力調整装置7において、基板9が揺動する際の動作及びその際の力関係を説明するための図であり、ロック機構19や揺動軸受け9c等は省略している。
環境温度や経年変化により移動手すり3が伸縮したり、一対の手すり当接部13L,13Rの中心が中央線C1(図1参照)上に位置しない等の場合に、一対の手すり当接部13L,13Rが移動手すり3から受ける力の不釣合が生じようとすると、基板9が軸部材11を中心に釣り合う位置へ揺動する。
具体的には、張力調整装置7が二点鎖線DLで示す状態のときに、上述した理由(経年変化等)によって移動手すり3が縮み、左側の手すり当接部13Lが移動手すり3から受ける力F2Lよりも右側の手すり当接部13Rが移動手すり3から受ける力F2Rが大きくなる不釣合が生じようとしたときに、基板9は矢印R2の向きに揺動する。これにより、揺動した後の左側の手すり当接部13Lの中心13aは、揺動する前の左側の手すり当接部13Lの中心13a(二点鎖線で記載)よりも低い位置に移動し、揺動した後の右側の手すり当接部13Rの中心13aは、揺動する前の右側の手すり当接部13Rの中心13a(二点鎖線で記載)よりも高い位置に移動する。
上記のように基板9が揺動することにより、移動手すり3が各手すり当接部13L,13Rに付与する力を調整し、各手すり当接部13L,13Rは、移動手すり3に均等な付勢力F1L,F1Rを作用する。言い換えると、基板9が揺動することにより、付勢力F1Lと付勢力F1Rとは、常に同じ大きさに維持される。
これに対して、図7に示す比較例に係る張力調整装置7では、移動手すり3が縮み、各手すり当接部13L,13Rが移動手すりから受ける力に不釣合が生じようとしたとき、基板9は揺動しない。このとき、可動部15のみ角度αだけ傾く。そのため、右側の付勢部材17Rが左側の付勢部材17Lよりも縮み、右側の手すり当接部13Rが移動手すり3に付与する付勢力F1Rの方が、左側の手すり当接部13Lが移動手すり3に付与する付勢力F1Lよりも大きくなる。つまり、比較例に係る張力調整装置7では、移動手すり3の伸縮に対応して、一対の手すり当接部13L,13Rが移動手すり3に付与する付勢力を均等に保つことはできない。
尚、本実施形態に係る張力調整装置7において上述した理由(経年変化等)によって移動手すり3が伸びる場合、つまり、右側の手すり当接部13Rが移動手すり3から受ける力よりも左側の手すり当接部13Lが移動手すり3から受ける力が大きくなる不釣合が生じようとしたときに、基板9は矢印R2と反対の向きに揺動する。これにより、各手すり当接部13L,13Rは、移動手すり3に均等な付勢力F1L,F1Rを作用する。
ここで、図1に示すように、たるみ取り下部案内ローラ5gとたるみ取り上部案内ローラ5hとの中間を通り、たるみ取り下部案内ローラ5gとたるみ取り上部案内ローラ5hとを結ぶ直線に直交する垂線を中央線C1とする。比較例に係る張力調整装置7では、基板9を揺動させて各手すり当接部13L,13Rが付与する付勢力F1R,F2Rを同じにすることができないため、左側の手すり当接部13Lと右側の手すり当接部13Rとの中間が、中央線C1に位置するように張力調整装置7を設置しなければならなかった。これに対して、本実施形態に係る張力調整装置7では、一対の手すり当接部13L,13Rが移動手すり3から受ける力の不釣合が生じようとすると、釣り合う位置に軸部材11を中心に揺動する。これにより、均一な付勢力F1R,F2Rを移動手すり3に付与することができるため、本実施形態に係る張力調整装置7は、たるみ取り下部案内ローラ5gとたるみ取り上部案内ローラ5fとの間のいずれの位置においても設置可能である。
【0026】
また、図1において、移動手すり3を上昇運転する場合、往路側で移動手すり3に急激な過負荷が作用した場合、張力調整装置7では移動手すり3には、緩む方向の力が作用するから、手すり当接部13L,13R(図2及び図3(a)参照)に作用する反力は負の反力(F2と反対方向又は0の力)となり、揺動軸21に回転モーメントは作用しないから、ロック機構19は作用しない。尚、この場合には、駆動上部案内ローラ5eで著しいたるみ(図1に示す破線参照)が生じることがないので、問題ない。
【0027】
本実施形態の効果について説明する。
図2及び図6に示すように、上記のように構成された本実施形態に係る張力調整装置7によれば、張力調整装置7は、軸部材11と、軸部材11の周方向に揺動自在な基板9と、一対の手すり当接部13L,13Rと、基板9に対して上下動自在な可動部15と、一対の付勢部材17L,17Rとを備えている。
基板9は、ロック解除状態において、一対の手すり当接部13L,13Rが移動手すり3から受ける力の不釣合が生じようとすると、釣り合う位置に軸部材11を中心に揺動することで、各手すり当接部13L,13Rが移動手すり3に均等な付勢力を作用する。これにより、経年変化等によって移動手すり3が伸縮しても、左側の手すり当接部13Lが移動手すり3に付与する力F1Lと、右側の手すり当接部13Rが移動手すり3に付与する力F2Lとを、長期間に亘って同じ大きさに保つことができる。
【0028】
軸部材11は、円柱部材である。これにより、軸部材11に汎用品を用いることができる。また、軸部材11を製造する場合、容易に製造することができる。
【0029】
図2及び図3(b)に示すように、張力調整装置7は、係止部43と被係止部41とを有するロック機構19を備え、可動部15は、基板9側に向けて揺動可能な揺動軸21を有している。
図5に示すように、可動部15は、下降運転時において、一対の手すり当接部13L,13Rが移動手すり3から所定の範囲の付勢力(mg+F1)を超える上向きの力F2を受けると、揺動軸21を中心として基板9側に向けて揺動する。このとき、ロック機構19において係止部43が被係止部41に係止し、可動部15の上下動は制限される。
これにより、可動部15が所定以上に移動することによる張力調整装置7の損傷や、駆動上部案内ローラ5e付近で生じるたるみ(図1に示す破線参照)による移動手すり3の損傷を防止できる。
【0030】
図2及び図3(a)に示すように、張力調整装置7は、揺動軸21の上下方向の移動に対して所定の摩擦力を付与する第1摩擦部材53と、揺動軸21の揺動に対しては第1摩擦部材53の摩擦力よりも小さい摩擦力を付与する第2摩擦部材55とを備えている。
可動部15は、大きい摩擦力を付与する第1摩擦部材53によって上下動を抑制されるため、上下動に優先して揺動する。これにより、下降運転時において、係止部43は、安定的に被係止部41に係止できる。
【0031】
本発明の実施形態を説明したが、実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0032】
例えば、軸部材11は、基板9が揺動可能な外周面を有していれば良く、躯体23(図3(b)参照)と接合によって固定されても良い。また、軸部材11における躯体23側の面からこれと反対側の面までの長さ(高さ)は、基板9を遊嵌可能な長さを有していれば良く、例えば、基板9(基板本体9a)の厚みと同じでも良い。
【符号の説明】
【0033】
1…移動手すり駆動装置、3…移動手すり、7…張力調整装置、9…基板、11…軸部材、13L,13R…手すり当接部、15…可動部、17L,17R…付勢部材、19…ロック機構、21…揺動軸、23…躯体、41…被係止部、43…係止部、47…ストッパ、53…第1摩擦部材、55…第2摩擦部材、F1…付勢力、F2…反力、G…重心、W1…手すり当接部材と移動手すりとの当接幅。
【要約】
【課題】最適な押圧力を長期間維持し続けることができる張力調整装置を提供する。
【解決手段】乗客を搬送する乗客コンベアに設けた無端状の移動手すりに配置され、前記移動手すりの張力を調整する張力調整装置であって、躯体に固定した軸部材と、中央部を前記軸部材に遊嵌してあり、前記軸部材の周方向に揺動自在な基板と、前記移動手すりに当接する一対の手すり当接部と、前記一対の手すり当接部を支持すると共に前記基板に対して上下方向に移動可能な可動部と、前記可動部を下方に向けて所定の範囲の付勢力で付勢する一対の付勢部材と、を備え、前記一対の手すり当接部が前記移動手すりから受ける力の不釣合が生じようとすると、釣り合う位置に前記軸部材を中心に揺動することで、各手すり当接部が前記移動手すりに均等な付勢力を作用する、張力調整装置。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7