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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】シート状電波吸収体
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20231211BHJP
   G01R 29/10 20060101ALI20231211BHJP
   H01Q 17/00 20060101ALI20231211BHJP
   H01Q 15/14 20060101ALI20231211BHJP
   B32B 9/00 20060101ALN20231211BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H05K9/00 Q
G01R29/10 Z
G01R29/10 E
H01Q17/00
H01Q15/14 B
B32B9/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022167077
(22)【出願日】2022-10-18
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164013
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 隆一
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓未
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-314284(JP,A)
【文献】特開2022-80991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
G01R 29/10
H01Q 17/00
H01Q 15/14
B32B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
76GHzから81GHzの周波数帯域における電磁波の反射減衰量が-10dB以上でミリ波を吸収するシート状電波吸収体であって、
第1誘電体層と、
前記第1誘電体層の一方の面上に、あらかじめ設定された導体幅と配列ピッチとからなる形状で配列されてなる正方形状導体部と、
第2誘電体層と、
前記第1誘電体層の他方の面と前記第2誘電体層との間に配置された第3誘電体層とを含み、
前記第1誘電体層および前記第3誘電体層の比誘電率、誘電正接および厚みは、前記第2誘電体層の比誘電率、誘電正接および厚みよりもそれぞれ小さく、
前記第3誘電体層の厚みは、前記第1誘電体層の厚みより小さいことを特徴とするシート状電波吸収体。
【請求項2】
前記第3誘電体層は接着性を有する材料からなることを特徴とする請求項1に記載のシート状電波吸収体。
【請求項3】
前記第3誘電体層の比誘電率は前記第1誘電体層の比誘電率とは異なることを特徴とする請求項1に記載のシート状電波吸収体。
【請求項4】
前記第2誘電体層の比誘電率、誘電正接および厚みは、それぞれ11以上、0.15以上、および、0.78mm以上であることを特徴とする請求項1に記載のシート状電波吸収体。
【請求項5】
76GHzから81GHzの周波数帯域における電磁波の反射減衰量が-10dB以上であるミリ波を吸収するシート状電波吸収体の製造方法であって、
一方の面の全面に導体層が形成された第1誘電体層に対して、あらかじめ設定された導体幅と配列ピッチとからなる形状で配列されてなる正方形状導体部を形成する工程と、
第2誘電体層を準備する工程と、
接着性を有する材料を用いて、前記第1誘電体層の他方の面と前記第2誘電体層との間を接着して第3誘電体層を形成する工程とを含み、
前記第1誘電体層および前記第3誘電体層の比誘電率、誘電正接および厚みは、前記第2誘電体層の比誘電率、誘電正接および厚みよりもそれぞれ小さく、
前記第3誘電体層の厚みは、前記第1誘電体層の厚みより小さくしたことを特徴とするシート状電波吸収体の製造方法。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれか1項に記載のシート状電波吸収体と、
77GHz帯または79GHz帯の電磁波を放射する電子回路を含む電子回路部と、
前記電子回路部を電磁シールドするために、前記電子回路部の前記電子回路を少なくとも覆うように設けられたシールドカバーとを含み、
前記シート状電波吸収体は、前記シールドカバーと前記電子回路部との間に配置されたことを特徴とする電子機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波帯域に好適な電波吸収体に関し、特に自動車等のミリ波レーダにおけるノイズを抑制するための電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
通信技術の高度化に伴い高周波化の進展に加えて、近年は自動車の自動運転支援システム(ADAS)の普及も進んでいる。ADASにはミリ波レーダが使われている。これは、直進性が強く大気や壁による減衰が大きいので他のミリ波システムへの干渉が少ない、回路やアンテナ設計の小型化が可能、広帯域幅による高距離分解能・高角度分解能・天候等の環境変化に強い、などの特徴を有していることによる。
【0003】
ミリ波レーダは、自動車の前方監視用レーダとして長距離を検知するために77GHz帯(76~77GHz)が具体的に実装されている。さらに、79GHz帯(77~81GHz)レーダは帯域幅が4GHzと超広帯域であり、高い分解能を持つので中短距離の計測も可能となり、歩行者や自転車などの小さな対象物の分離・抽出性能が向上し、早期発見が可能となり、安全に運転するための支援システムの性能向上に大きく寄与する。
【0004】
動作原理としては、シンセサイザーでミリ波の信号を生成し、TXアンテナから電波を送信する。この電波が対象物により反射し、戻ってきた電波をRXアンテナで受信する。この信号を計算に使用するIF信号に変換して、対象物との距離などに変換する。短波長のため高い精度で検出でき、最小で0.1mm単位の動きを検出することが可能なほか、電波の波長に依存する無線アンテナの長さにおいても、ミリ波は非常に短波長のためアンテナを小型化できる。
【0005】
自動運転の中核となるミリ波レーダについては、正常な動作を確保するための技術も開発され始めてきている。例えば、ミリ波レーダ筐体内のMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)や トランジスタで増幅された入力および出力信号が筐体内で結合してしまうことが生じたり、マイクロストリップラインを流れる信号にスプリアス(不要輻射)が生じることがあり、この電磁波がノイズとしてセンサに影響を与える、所謂自家中毒に陥ることがある。
この対策として、この周波数に効果がある電磁波吸収シートが開発されている。
【0006】
例えば、ミリ波または準ミリ波を吸収する電波吸収体であって、導電性材料を含有し、射出成形で形成された吸収層と、この吸収層の一方の主面に形成された反射層と、吸収層の他方の主面の少なくとも一部の領域に形成された複数の導電性パッチとを備え、吸収層は3.9以上、6.3以下の比誘電率を有し、かつ上記領域における複数の導電性パッチの面積占有率が90%以下とした構成の電波吸収体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、同一平面上に配設された多数個のアンテナ素子を有する反射層の一面または両面に低誘電率のスペーサ層を重ね合わせた電磁波遮蔽材、あるいは、同一平面上に配設された多数個のアンテナ素子を有する複数の反射層を低誘電率のスペーサ層を介して積層し、両外面側の上記反射層にそれぞれスペーサ層を重ね合わせた電磁波遮蔽材が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
また、導体からなる全面導体層と、1層又は多層の誘電体からなる第1誘電体層と、複数の導体パターンからなるパターン層とを順次積層した構造を有し、パターン層における各パターンは隣接する他のパターンに対して大きさと形状とのうちの少なくとも一方が異なる構成とした電波吸収体が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
また、スマートフォン等の携帯電子機器のノイズ対策として、内蔵回路を外部ノイズから保護すると共に機器内で発生するノイズの不要輻射を防止するため、ノイズ発生源を磁気抑制シートで覆うために、格子状のスリットが形成された金属箔と、この金属箔の一方の主面に形成された磁性膜とを備え、金属箔はスリットによって互いに絶縁分離された複数のブロックに分割されている磁気抑制シートが開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2021-163792号公報
【文献】特開2008-41687号公報
【文献】特開2006-73924号公報
【文献】特開2015-220260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載の発明は、吸収層が導電性材料を含有したポリプロピレンの射出成形により形成され、反射層は吸収層の一方の主面の全面に形成したニッケルメッキ等の金属層からなり、反射層の他方の主面には互いに孤立して設けられた金属等からなる導電性パッチが形成された構成からなる。このような構成とすることで、70~90GHzの周波数帯域で反射減衰量が-10dBとなる部分が1GHz以上存在することを実現しているが、79GHz帯域は帯域幅が4GHzと広帯域であり、このような広帯域でも実現できるかどうかについては開示も示唆もない。
【0012】
特許文献2に記載の発明の電磁波遮蔽材は、壁面や天井面等に付設して特定周波数の電磁波を遮蔽するシールドルームを実現することを目的としており、無線LANに用いる2.45GHzと5.2GHzを対象としたものである。この文献には70GHz以上の周波数帯域における電磁波遮蔽や電波吸収の構造に関しては開示も示唆もない。
【0013】
特許文献3に記載の発明は、ETCシステムにおける通信障害を防止することを目的としており、ETCシステムの料金所の天井やゲートの側壁面に設置して不要電波を吸収するものであり、70GHz以上の周波数帯域でも同様に電波吸収をするかどうかについては開示も示唆もない。
【0014】
特許文献4に記載の発明は、金属箔をスリットにより分割することで電気的接続を断ち切り、ショート発生を防止することが目的であり、金属箔をそれぞれ分離した構成とすることで特定周波数帯域を減衰させることを目的としたものではない。
【0015】
本発明は、自動車等のミリ波レーダに搭載してより信頼性の高いミリ波レーダ装置を実現するために、77GHz帯域および79GHz帯域、すなわち76~81GHZの周波数範囲で反射減衰量が-10dB以下を実現するシート状電波吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記従来の課題を解決するために本発明のシート状電波吸収体は、76GHzから81GHzの周波数帯域における電磁波の反射減衰量が-10dB以上でミリ波を吸収するものであって、第1誘電体層と、この第1誘電体層の一方の面上に、あらかじめ設定された導体幅と配列ピッチとからなる形状で配列されてなる正方形状導体部と、第2誘電体層と、第1誘電体層の他方の面と第2誘電体層との間に配置された第3誘電体層とを含み、第1誘電体層および第3誘電体層の比誘電率、誘電正接および厚みは、第2誘電体層の比誘電率、誘電正接および厚みよりもそれぞれ小さく、第3誘電体層の厚みは第1誘電体層の厚みより小さいことを特徴とする。
【0017】
なお、以下では、「76GHzから81GHzの周波数帯域における電磁波の反射減衰量が-10dB以上」という表現について簡略化するために、「本発明目標域」とよぶ場合がある。
【0018】
自動車などで使用されるミリ波レーダとしては、77GHz(76~77GHz)帯と79GHz(77~81GHz)帯とがあり、それぞれの帯域幅は1GHzと4GHzである。本発明は両方の帯域で使用できるシート状電波吸収体を得るために、76GHz~81GHzの周波数範囲で反射減衰量が-10dBを実現することを目的としている。
【0019】
上記構成とすることにより、本発明目標域をクリアーするシート状の電波吸収体を得ることができる。この結果、例えば、77GHz帯あるいは79GHz帯を用いるミリ波レーダの電子機器内部の自己干渉を抑制でき、電子機器の安定な作動を実現できる。
【0020】
なお、本発明でいう正方形状導体部の正方形状とは、全面に形成された導体層をエッチング加工やレーザ加工するときに生じる加工誤差を許容するものであり、例えば正方形状のそれぞれの導体幅について、それぞれ5%程度の形成誤差を許容することとする。
【0021】
上記構成において、第3誘電体層は接着性を有する材料からなるものであってもよい。これにより、第1誘電体層上に形成した導体層に対してあらかじめ設定した形状の正方形状導体部を、例えばフォトリソプロセスとエッチングプロセスを用いて加工し、その後第2誘電体層とを接着してシート状電波吸収体を作製することができる。
【0022】
また、上記構成において、第3誘電体層の比誘電率は第1誘電体層の比誘電率とは異なることとしてもよい。本発明は第3誘電体層を挿入することにより、反射減衰ピーク値を大きく、かつ広帯域にできることを見出したことで、本発明目標域を達成することができたものである。したがって、第3誘電体層の比誘電率は第1誘電体層の比誘電率とは異なることが望ましい。ただし、第3誘電体層の比誘電率が、第1誘電体層の比誘電率と異なることが必須ではない。
【0023】
上記構成において、第2誘電体層の比誘電率、誘電正接および厚みは、それぞれ11以上、0.15以上、および、0.77mm以上であってもよい。本発明は、高誘電材料からなる第2誘電体層が電磁波の吸収帯域幅を広げる役割を有しており、このためには比誘電率、誘電正接および厚みを上記に設定することが好ましい。これにより、第1誘電体層は、第2誘電体層よりも小さな比誘電率、誘電正接および厚みとし、正方形状導体部の導体幅と配列ピッチとを適正に設定することで、主に周波数調整を担わせることができる。
【0024】
つぎに、本発明のシート状電波吸収体の製造方法は、76GHzから81GHzの周波数帯域における電磁波の反射減衰量が-10dB以上でミリ波を吸収するシート状電波吸収体の製造方法であって、一方の面の全面に導体層が形成された第1誘電体層に対して、あらかじめ設定された導体幅と配列ピッチとからなる形状で配列されてなる正方形状導体部を形成する工程と、第2誘電体層を準備する工程と、接着性を有する材料を用いて第1誘電体層の他方の面と第2誘電体層との間を接着して第3誘電体層を形成する工程とを含み、第1誘電体層および第3誘電体層の比誘電率、誘電正接および厚みは、第2誘電体層の比誘電率、誘電正接および厚みよりもそれぞれ小さく、第3誘電体層の厚みは第1誘電体層の厚みより小さくしたことを特徴とする。
【0025】
このような製造方法とすることにより、正方形状導体部が形成された第1誘電体層と、第2誘電体層とは、それぞれ別々に準備することができる。その後、第1誘電体層と第2誘電体層とを、接着性を有する第3誘電体層により接着することで、本発明のシート状電波吸収体を製造することができる。これにより、正方形状導体部の作製工程が容易となる。また、第1誘電体層と第2誘電体層とのそれぞれの比誘電率や厚みなどをあらかじめ求めておき、その結果をもとに第1誘電体層と第2誘電体層との適切な組み合わせを選択して接着することもでき、より確実に本発明目標域を達成することができる。
【0026】
なお、接着性を有し、第2誘電体層の比誘電率よりも小さな比誘電率を有する材料としては、粘度の高い液状物を塗布して硬化させるものでもよいし、あらかじめシート状にしたものでもよい。
【0027】
つぎに、本発明の電子機器は、上記記載のシート状電波吸収体と、77GHz帯または79GHz帯の電磁波を放射する電子回路を含む電子回路部と、電子回路部を電磁シールドするために電子回路部の電子回路を少なくとも覆うように設けられたシールドカバーとを含み、シート状電波吸収体はシールドカバーと電子回路部との間に配置されたことを特徴とする。この構成とすることにより、電子機器の電子回路部から放射される電磁波による自己干渉を効率よく抑制し、安定な作動を実現することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の電磁波吸収シートは、77GHz帯または79GHz帯で使用する電子機器、例えばミリ波レーダ装置の電子回路部内での自己干渉を抑制でき、ミリ波レーダの小型化、高信頼性を実現できるという大きな効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】第1の実施の形態に係るシート状電波吸収体の平面図である。
図2】同実施の形態に係るシート状電波吸収体の一部拡大斜視図である。
図3】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、実際に作製したシート状電波吸収体の実測結果と、FDTD法により解析を行った結果とを示す図であり、Aは解析結果であり、Bは具体的な測定結果である。
図4】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、第2誘電体層の比誘電率をパラメータとして反射減衰量と周波数の関係を求めた結果である。
図5】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、比誘電率が8~25までについて、反射減衰量が-10dBとなる周波数範囲を示した結果である。
図6】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、第2誘電体層の誘電正接をパラメータとしたときの反射減衰量と周波数との関係を求めた結果である。
図7】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、第2誘電体層の厚みをパラメータとして反射減衰量と周波数との関係を求めた結果である。
図8】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、反射減衰量が-10dBとなる周波数範囲と第2誘電体層の厚みとの関係を求めた結果である。
図9】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、第3誘電体層の有無による反射減衰量と周波数との関係を求めた結果である。
図10】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、第3誘電体層の比誘電率をパラメータとして反射減衰量と周波数の関係を求めた結果である。
図11】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、反射減衰量が-10dBとなる周波数範囲と第3誘電体層の厚みとの関係を求めた結果である。
図12】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、第1誘電体層の比誘電率をパラメータとして反射減衰量と周波数との関係を求めた結果である。
図13】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、反射減衰量が-10dBとなる周波数範囲と第1誘電体層の比誘電率との関係を求めた結果である。
図14】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、第1誘電体層の誘電正接をパラメータとしたときの反射減衰量と周波数との関係を求めた結果である。
図15】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、第1誘電体層の厚みと反射減衰量が-10dBとなる周波数範囲との関係を求めた結果である。
図16】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、正方形状導体部の導体幅をパラメータとして反射減衰量と周波数との関係を求めた結果である。
図17】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、反射減衰量が-10dBとなる周波数範囲と導体幅との関係を求めた結果である。
図18】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、反射減衰量が-10dBとなる周波数範囲と配列ピッチとの関係を求めた結果である。
図19】同実施の形態に係るシート状電波吸収体において、第1誘電体層の比誘電率を小さくした場合に、正方形状導体部の導体幅を変化させることにより本発明目標域をクリアーできるかどうかを検討した結果である。
図20】本発明の第2の実施の形態に係る電子機器において、第1の実施の形態に係るシート状電波吸収体を電子回路ユニットに取り付ける前と取り付けた後の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1の実施の形態)
【0031】
本発明の第1の実施の形態に係るシート状電波吸収体について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施の形態に係るシート状電波吸収体5の平面図である。図2は、同実施の形態に係るシート状電波吸収体5の一部拡大斜視図である。なお、斜視図においては、正方形状導体部4の厚みと形状だけでなく、第1誘電体層1、第2誘電体層2および第3誘電体層3のそれぞれの厚みは、分かりやすくするために誇張して示している。
【0032】
以下、図1図2とを用いて本実施の形態に係るシート状電波吸収体5の構成を説明する。本実施の形態に係るシート状電波吸収体5は、76GHzから81GHzの周波数帯域における電磁波の反射減衰量が-10dB以上でミリ波を吸収するものであって、第1誘電体層1と、この第1誘電体層1の一方の面上に、あらかじめ設定された導体幅Lと配列ピッチPとからなる形状で配列されてなる正方形状導体部4と、第2誘電体層2と、第1誘電体層1の他方の面と第2誘電体層2との間に配置された第3誘電体層3とを含み、第1誘電体層1および第3誘電体層3の比誘電率ε、ε、誘電正接tanδ、tanδおよび厚みt、tは、第2誘電体層2の比誘電率ε、誘電正接tanδおよび厚みtよりもそれぞれ小さく、第3誘電体層3の厚みtは第1誘電体層1の厚みtより小さく設定されている。
【0033】
本実施の形態では、さらに第3誘電体層3は接着性を有する材料からなり、かつ、第3誘電体層3の比誘電率εは第1誘電体層1の比誘電率εとは異なるようにしている。このような構成とすることにより、77GHz帯または79GHz帯で作動する電子機器のどちらの場合であっても、その電子機器が放射する不要電磁波を本発明のシート状電波吸収体5が吸収するので誤作動を防止できる。
【0034】
つぎに、本実施の形態に係るシート状電波吸収体5の製造方法について説明する。本実施の形態では、一方の面の全面に導体層が形成された第1誘電体層1に対して、あらかじめ設定された導体幅Lと配列ピッチPとからなる形状で配列されてなる正方形状導体部を形成する工程と、第2誘電体層2を準備する工程と、接着性を有する材料を用いて第1誘電体層1の他方の面と第2誘電体層2との間を接着して第3誘電体層3を形成する工程とを含み、第1誘電体層1および第3誘電体層3の比誘電率ε、ε、誘電正接tanδ、tanδおよび厚みt1、tは、第2誘電体層2の比誘電率ε、誘電正接tanδおよび厚みtよりもそれぞれ小さく、第3誘電体層3の厚みtは第1誘電体層1の厚みtより小さくしたことを特徴とする。
【0035】
このような製造方法とすることで、正方形状導体部4が形成された第1誘電体層1と第2誘電体層2とをそれぞれ別々に準備した後、接着性を有する材料を用いて接着してシート状電波吸収体5を作製することができる。したがって、第2誘電体層2の材料選択の幅を広げることができる。第2誘電体層2の材料として、樹脂材料、種々のフィラーを添加してなる樹脂材料、あるいは酸化チタン磁器などの磁器材料なども用いることができる。
【0036】
ただし、本発明のシート状電波吸収体の製造方法は上記に限定されることはない。例えば、第1誘電体層1、第2誘電体層2および第3誘電体層3が積層されたシート状の基板をあらかじめ作製し、その後第1誘電体層1が露出している面上に真空蒸着やスパッタリングなどの手法で銅膜などを成膜する。そして、製膜した銅膜をフォトリソプロセスとエッチングプロセスを用いて正方形状導体部4を形成する製造方法としてもよい。あるいは、真空蒸着などの方法でなく、銅箔を接着する方法でもよい。銅箔は一般に多く用いられている18μm厚みでもよい。この銅箔を同じようにフォトリソプロセスとエッチングプロセスを用いて正方形状導体部4を形成してもよい。さらに、レーザ加工など、一般に用いられている他の加工方法でもよい。第1誘電体層1、第2誘電体層2および第3誘電体層3を積層する場合、あらかじめ設定した厚みとした後、積層してから加熱・加圧することで一体化させてもよい。
【0037】
以下、本発明のシート状電波吸収体5について、第1誘電体層1の比誘電率ε、誘電正接tanδおよび厚みt、第2誘電体層2の比誘電率ε、誘電正接tanδおよび厚みt、第3誘電体層3の比誘電率εと厚みt、および、正方形状導体部4の導体幅Lと配列ピッチPを変化させたときの反射減衰量の特性を解析した結果について説明する。
【0038】
解析に用いた手法は、有限差分時間領域(Finite Difference Time Domain:FDTD)法である。FDTD法は数値電磁解析法であり、時間領域のMaxwellの方程式を直接差分化する手法であり、簡単に計算ができるという特徴を有する。また、時間領域解法であるので、広帯域の応答が一回の計算で得られ、非線形現象なども取り扱うことができ、多くの分野で広く活用されている。
【0039】
最初に、FDTD法によるシミュレーション結果と実測結果との一致度を求めた。図3は、反射減衰特性と周波数との関係についての実測値と解析値との結果である。実測のために作製したシート状電波吸収体は、第1誘電体層1の比誘電率と厚みがε=4.55、t=0.4mm、第2誘電体層2の比誘電率と厚みがε=16.6、t=1mm、第3誘電体層3の比誘電率と厚みがε=3.0、t=0.085mm、正方形状導体部4の導体幅と配列ピッチがL=0.4mm、P=1mmとした。上記の材料を用いて作製したシート状電波吸収体5を用いて、一般的には自由空間法(Sパラメータ法)という手法で反射減衰量と周波数との関係を求めた。具体的には、自由空間で測定可能であり、電波吸収率も測定可能であるキーコム株式会社のDPS10装置を用いて測定した。
【0040】
図3において、Aは解析結果であり、Bは具体的な測定結果である。図3からわかるように、FDTD法による解析結果であるAと実測結果であるBとは、反射減衰ピークの減衰量が実測結果Bに比べて解析結果Aの方が少し小さいが、ピークの周波数やその他の周波数においてもよい一致を示していることが見いだされた。以下では、FDTD法を使って解析した結果を説明する。なお、以下に説明する解析においては、表1に示す数値を基本として用いた。
【0041】
【表1】

(第2誘電体層)
【0042】
図4は、第2誘電体層2の比誘電率εをパラメータとして反射減衰量と周波数の関係を求めた結果である。本解析においては、表1に示す第2誘電体層2の比誘電率εをパラメータとし、その他の数値は表1に示す値を用いて求めた。図4以降に示す図では、特に説明を付している場合を除き同じ方法を採用している。なお、図4では理解しやすくするために比誘電率εの一部についてのみ表示している。図4からわかるように、比誘電率εが大きくなるに伴い、反射減衰ピークは低周波数側に移動する。また、反射減衰ピークが76GHz~81GHzの周波数帯域に位置するのは、比誘電率εが14程度から18程度の範囲である。
【0043】
図5は、比誘電率εが8~25までについて、反射減衰量が-10dBとなる周波数範囲を示した結果である。例えば、ε=10の場合、反射減衰量が-10dBとなる低周波側の周波数は79.3GHzであり、高周波側の周波数は96.8GHzであり、この周波数範囲では-10dB以上の減衰量を示す。この例の場合、低周波数側の周波数が79.3GHzであるので、本発明目標域をクリアーしない。図5からわかるように、第2誘電体層2の比誘電率εを11以上とすれば、本発明目標域をクリアーする。なお、図5には示していないが、比誘電率εについては26~30までについても解析しており、これらの範囲についても本発明目標域をクリアーすることを確認している。
【0044】
反射減衰量は-10dBあれば電波吸収特性を満たすが、反射減衰量は大きいほうがより好ましいので、上記したように比誘電率εを14~18の範囲に設定すると反射減衰量が-15dB以上となるのでより好ましい。
【0045】
図6は、第2誘電体層2の誘電正接tanδをパラメータとしたときの反射減衰量と周波数との関係を求めた結果である。この場合、第2誘電体層2の比誘電率εは16としているが、本発明目標域をクリアーするためには誘電正接tanδを0.15以上とすることが必要である。
【0046】
図7は、第2誘電体層2の厚みtをパラメータとして反射減衰量と周波数との関係を求めた結果である。厚みtを厚くするほど反射減衰ピークは低周波数側に移動する。図8図7の解析結果をもとに、反射減衰量が-10dBとなる周波数範囲と第2誘電体層2の厚みtとの関係を求めた結果である。図8から推定した結果、本発明目標域をクリアーするためには、第2誘電体層の厚みtは0.77mm以上にすればよい。
【0047】
一般に大きな比誘電率を有する材料は同時に誘電正接も大きくなるので、比誘電率εが11以上で、かつ誘電正接tanδが0.15以上の材料としては、例えばカーボン粉末をエポキシ樹脂に添加した樹脂シート、酸化チタン粉末を同じくエポキシ樹脂に添加した樹脂シート、金属粉末をエポキシ樹脂に添加した樹脂シート、あるいはカーボン、酸化チタンおよび金属粉末から選択した2種類以上をエポキシ樹脂に添加した樹脂シートは、比誘電率εと誘電正接tanδとが、それぞれ11以上、0.15以上を満たすことができる。なお、エポキシ樹脂に限定されることはなく、例えば塩化ビニル樹脂、尿素樹脂、ゴムなどを用いてもよい。また、上記構成に限定されず、その他の誘電体材料を用いてもよい。
【0048】
第2誘電体層2については、上記の解析の結果、比誘電率ε、誘電正接tanδおよび厚みtを、それぞれ11以上、0.15以上、0.77mm以上に設定すればよいことがわかった。なお、比誘電率εは30でもよいし、また誘電正接tanδも0.5であってもよいが、このような大きな比誘電率と誘電正接を有する材料は製造しにくい。また、図4からわかるように比誘電率εを14~18の範囲に設定すると反射減衰量が-15dB以上となるので、比誘電率ε2は14~18の範囲で、誘電正接tanδは0.2~0.3の範囲が、第2誘電体層2の製造の容易さを満たし、かつ本発明目標域をクリアーするので好ましい。
(第3誘電体層)
【0049】
図9は、第3誘電体層3の有無による反射減衰量と周波数との関係を求めた結果である。第3誘電体層無しについては、第1誘電体層1の厚みを第3誘電体層3の厚み分増やし、第1誘電体層1と第3誘電体層3との合計の厚みを同じにした。すなわち、第3誘電体層有りの場合、第1誘電体層1の厚みt=0.25mmで、第3誘電体層3の厚みt=0.085mmである。一方、第3誘電体層無しの場合、第1誘電体層1の厚みt=0.335mmとした。その他については、表1に示す値を用いた。図9からわかるように第3誘電体層3を設けた場合、反射減衰ピークがより大きくなり、かつ本発明目標域をクリアーしやすくなることがみいだされ、第3誘電体層3を積層する効果を確認できた。
【0050】
図10は、第3誘電体層3の比誘電率εをパラメータとして反射減衰量と周波数の関係を求めた結果である。比誘電率εを2.0~4.0まで変化させた場合、反射減衰ピークを示す周波数はほぼ変化せず、減衰量が大きくなることが見いだされた。この比誘電率εの範囲で一般に用いられる下記に示す材料の場合、誘電正接tanδは大きくても0.1以下であることから、第2誘電体層2の誘電正接tanδよりも小さい。
【0051】
接着性を有する材料としては、一般に用いられるアクリル系粘着剤からなる粘着シートは比誘電率が3~4である。さらに、例えばアロンマイティ(登録商標)AF-700(東亜合成(株)製)は、両面に剥離シートが設けられており、接着フィルムの厚みは25μmと50μmとが標準であり、熱硬化型の接着剤で、硬化条件は180℃/30分/1~3MPaの熱プレスが好ましいとされている。その比誘電率と誘電正接とは、標準グレードが2.25と0.0017(10GHz)、難燃グレードが2.41と0.0021(10GHz)である。また、同じ東亜合成(株)の接着剤として、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリエチルアクリレート(PEA)やポリブチルアクリレート(PBA)などもあり、それらの比誘電率は、それぞれ3.3、3.7、3.0である。また、東レ(株)のポリイミド系接着フィルムのファルダ(登録商標)は、シート厚みが25~200μmの範囲で選択でき、比誘電率は2.41(20GHz)である。その他、一般に使用されているフィルム状の接着シートであればほとんど使用可能である。また、シート状でなく、液状材料であっても使用できる。
【0052】
図11は、反射減衰量が-10dBとなる周波数範囲と第3誘電体層3の厚みtとの関係を求めた結果である。第3誘電体層3の厚みtは、少なくとも0.14mm以下とすれば目標値をクリアーすることがわかった。下限値は図11から判断すると0.01mmよりもさらに薄くてもよいが、接着性と層構成を確実にするためには、0.01mmより大きくすることが好ましい。この結果から、本発明目標域をクリアーするための第3誘電体層3の厚みの許容範囲は大きいことがわかった。なお、図示してはいないが、第3誘電体層の厚みtが大きくなるに伴い、反射減衰ピークは低周波数側に移動する。以上の結果から、第3誘電体層3については、一般に入手でき、比誘電率εが2.0~4.0の範囲で、市販されている接着性を有する樹脂を用いれば、誘電正接tanδも第2誘電体層2の誘電正接tanδよりも小さくできる。
(第1誘電体層)
【0053】
図12は、第1誘電体層1の比誘電率εをパラメータとして反射減衰量と周波数との関係を求めた結果である。図12らわかるように、比誘電率εが大きくなるにつれて反射減衰ピークは低周波数側に移動する。比誘電率εが4程度~5程度の範囲では、反射減衰ピークが76GHz~81GHzの周波数範囲に位置するようになる。
【0054】
図13は、図12の結果をもとに反射減衰量が-10dBとなる周波数範囲と第1誘電体層の比誘電率ε1との関係を求めた結果である。図13から推定すると、本発明目標域をクリアーするためには、比誘電率εを3.4以上、5.6以下とすることが必要である。なお、反射減衰量は大きいほど電波吸収体としての特性が良好になることから、図12をもとに推定すると比誘電率εは4.1以上、4.9の範囲がより好ましい。
【0055】
図14は、第1誘電体層1の誘電正接tanδをパラメータとしたときの反射減衰量と周波数との関係を求めた結果である。第1誘電体層1の誘電正接tanδは大きいほうが、反射減衰量が大きくなるので好ましいことがわかる。しかし、第1誘電体層1の比誘電率εが3.4以上、5.6以下を満たす材料は、一般的に誘電正接は0.01以下である。このため、第1誘電体層1の誘電正接tanδとしては、0.01以下とすることが好ましい。図12図14の結果から、第1誘電体層1の比誘電率εと誘電正接tanδとは、第2誘電体層2の比誘電率εと誘電正接tanδとよりもそれぞれ小さくすることが要求されることがわかった。
【0056】
図15は、第1誘電体層1の厚みtと反射減衰量が-10dBとなる周波数範囲との関係を求めた結果である。図15から推定すると、第1誘電体層1の厚みtは、0.18~0.3mmの範囲とすることが必要である。
【0057】
このような比誘電率εと、誘電正接tanδ1および厚みtを有する材料としては、配線基板に用いられているガラスエポキシ樹脂(比誘電率:4.5~5.2)、ガラスファイバー混合ポリイミド樹脂(比誘電率:4.84)などだけでなく、シート状に加工できる樹脂材料であれば様々なものを用いることができる。例えば、ガラスファイバー(40%)混合PPS樹脂(比誘電率:3.79)、ポリアセタール(POM)樹脂(比誘電率:3.7~3.8)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂(比誘電率:3~3.5)、ポリアミド(PA)樹脂(比誘電率:4.0~4.9(6:Type)、3.9~4.5(66:Type))、ユリア樹脂(比誘電率:3.4~6.9)、アニリン樹脂(比誘電率:3.4~3.8)、アクリルニトリル樹脂(比誘電率:3.5~4.5)、ガラス・シリコン積層板(比誘電率:3.5~4.5)、シリコン樹脂(比誘電率:3.5~5.0)、ポリメチルアクリレート樹脂(比誘電率:4.0)、フッ素樹脂(比誘電率:4.0~8.0)、エポキシ樹脂(比誘電率:2.5~6.0)、塩化ビニル樹脂(比誘電率:2.8~8.0)、アクリル樹脂(比誘電率:2.7~3.5)、アクリルニトリル樹脂(比誘電率:3.5~4.5)、アニリン樹脂(比誘電率:3.4~3.8)、ABS樹脂(比誘電率:2.4~4.1)、エポキシ樹脂(比誘電率:2.5~6)、塩化ビニル樹脂(比誘電率:2.8~8)、塩化ビニリデン樹脂(比誘電率:3.0~5.0)、シリコンゴム(比誘電率:3.0~3.5)、シリコン樹脂(比誘電率:3.5~5)、ポリエステル樹脂(比誘電率:2.8~8.1)、フッ素樹脂(比誘電率:4.0~8.0)、不飽和ポリエステル樹脂(比誘電率:2.8~5.2)、メラミン樹脂(比誘電率:4.7~10.2)、ユリア樹脂(比誘電率:3.4~6.9)、などを用いることができる。
(正方形状導体部)
【0058】
図16は、正方形状導体部4の導体幅Lをパラメータとして反射減衰量と周波数との関係を求めた結果である。この場合の配列ピッチは表1に示すようにP=1mmである。導体幅Lを大きくすると、反射減衰ピークは低周波数側に移動する。また、図16から推定すると、導体幅Lが0.33~0.42mmの範囲であれば、反射減衰ピークが76GHz~81GHzの周波数範囲に位置するようになり、-15dB程度の減衰量を得ることができる。
【0059】
図17は、反射減衰量が-10dBとなる周波数範囲と導体幅Lとの関係を求めた結果である。導体幅Lを0.46mm以下とすれば、0.1mmでも本発明目標域をクリアーする。しかし、導体幅Lを小さくすると、正方形状導体部4を形成するためのエッチングあるいはレーザ加工のばらつきの影響が大きくなるので0.2mm以上が好ましい。ただし、エッチングあるいはレーザ加工を高精度に行うことができる場合には、0.1mmとしてもよい。
【0060】
図18は、反射減衰量が-10dBとなる周波数範囲と配列ピッチPとの関係を求めた結果である。図18から推定すると、配列ピッチPは、0.77mm以上に設定すれば幅広い範囲で本発明目標域をクリアーする。
(変形例)
【0061】
図12および図13に示すように、表1に示す条件では第1誘電体層1の比誘電率εの許容範囲が小さい。また、図15に示すように第1誘電体層1の厚みtの許容範囲も小さい。ただし、厚みtについては、あらかじめ設定した厚みを有するシートを用いれば精度良く設定できるし、シート状電波吸収体5としては薄くするほうがよいので、0.18~0.3mmの範囲であっても特に支障はない。しかし、例えば市販のエポキシ樹脂は、比誘電率が3.06で誘電正接が0.019(1GHz)、あるいは、比誘電率が2.97で誘電正接が0.005(1GHz)などのように、比誘電率および誘電正接ともに小さな値の材料が多い。このため、低比誘電率の材料でも使用できることが好ましい。そこで、本変形例では、第1誘電体層1の比誘電率εについて、第1の実施の形態の場合に比べて低比誘電率でも本発明目標域を達成できるかどうかを検討した。
【0062】
図19は、第1誘電体層1の比誘電率を小さくした場合に、正方形状導体部4の導体幅Lを変化させることにより本発明目標域をクリアーできるかどうかを検討した結果である。図19(a)は、第1誘電体層1の比誘電率εを2.0、2.5および3.0とした場合の反射減衰量と周波数との関係を求めた結果である。比誘電率εを2.0、2.5および3.0とした以外は表1と同じ数値を用いている。なお、図19(a)の比誘電率ε=3.0については、図12の比誘電率ε=3.0の曲線と同じである。一方、図19(b)は、第1誘電体層1の比誘電率εを2.0、2.5および3.0とし、かつ、正方形状導体部4の導体幅Lを0.6mmとした場合の結果である。その他については表1の数値を用いている。
【0063】
図19(a)からわかるように、導体幅Lを0.4mmに設定した場合には、比誘電率εが3以下では本発明目標域をクリアーしない。これに対して、同じ比誘電率εの場合でも導体幅Lを0.6mmに設定すると本発明目標域をクリアーすることが見出された。この結果から、第1誘電体層1の比誘電率εに合わせて正方形状導体部の導体幅Lと配列ピッチPとを設定すれば、第1誘電体層の比誘電率が3以下であっても目標値をクリアーすることを見出した。
【0064】
比誘電率εが3.0の場合、導体幅Lを0.4mmとしたとき、解析結果から反射減衰ピークは98GHz近辺となるが、導体幅Lを0.6mmとすれば図19に示されるように反射減衰ピークは84.5GHzとなる。図16からわかるように、導体幅Lが大きくなれば、反射減衰ピークは低周波数側に移動する。そこで、本変形例では、例えば比誘電率εが3.0の場合に、導体幅Lを大きくすることで反射減衰ピークを低周波数側に移動させて本発明目標域をクリアーしたものである。
(第2の実施の形態)
【0065】
本発明の第2の実施の形態に係る電子機器について図面を参照しながら詳細に説明する。本実施の形態では、上記のシート状電波吸収体5を、具体的に電子機器に応用した場合について説明する。図20は、第1の実施の形態に係るシート状電波吸収体5を電子回路ユニット10に取り付ける前と取り付けた後の状態を示す模式図である。図20(a)は、電子回路ユニット10の構造を示す断面概略図(取り付け前)である。そして、図20(b)は、電子回路ユニット10のシールドカバー12の内面12aに本発明のシート状電波吸収体5を貼付してなる電子機器15の構造を示す断面概略図(取り付け後)である。このような電子回路部10は、例えば基地局として用いられる送受信回路を有するものである。
【0066】
電子機器15は、電磁波を放射する電子回路11aを含む電子回路部11と、この電子回路部11を電磁シールドするために電子回路部11を覆うように設けられたシールドカバー12と、シート状電波吸収体5とを含み、シート状電波吸収体5は、シールドカバー12と電子回路部11との間に配置されている。本実施の形態では、シールドカバー12の内面12aに貼付されているが、本発明はこれに限定されない。少なくとも電子回路11aを覆うように、その上面に配置すればよい。配置方法も貼付することだけでなく、電子回路11a上にのせるような形態であってもよい。
【0067】
電子回路部11は、電磁波を放射する電子回路11a、例えば送信回路と、例えば受信回路である電子回路11bとが配線基板11c上に実装された構成からなる。シールドカバー12は、電子回路部11全体を覆うように箱型の構造からなり、少なくとも表面は導体材料で形成され、配線基板12のグランド端子(図示せず)に接続されている。すなわち、シールドカバー12は、全体が金属材料からなるものであってもよいし、樹脂材料であってもよい。樹脂材料を用いる場合には、少なくとも一方の表面に導電性材料層を設けるか、あるいは樹脂材料の内部に導電性材料層を設けた構造とすることが好ましい。また、樹脂材料自体が導電性を有するものであってもよい。
【0068】
外部からの電磁ノイズはシールドカバー12により遮蔽されるが、図18(a)に模式的に示すように送信回路である電子回路11aから放射される電磁ノイズはシールドカバー12の内面で反射され、送信回路である電子回路11aや受信回路である電子回路11bに入射し、自己干渉を起こす。この自己干渉により電子回路部11が誤作動を生じる。なお、送信回路である電子回路11aからは送信電波S1が送信され、受信回路11bは例えば基地局からの送信電波S2を受信する。
【0069】
図20(b)は、本発明のシート状電波吸収体5をシールドカバー12の内面12aに貼り付けた場合である。送信回路である電子回路11aから放射された電磁ノイズはシールドカバー12で吸収される。この結果、反射する電磁ノイズを大幅に低減することができ、自己干渉を起こすことがなくなり電子回路部11の誤作動を防ぐことができる。
【0070】
なお、本実施の形態では、送信回路である電子回路11aと受信回路である電子回路11bとを合わせて電子回路部11としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、送信回路である電子回路11aのみの場合であってもよいし、送信回路である電子回路11aと、受信回路である電子回路11b以外の電子回路とを合わせたものであってもよい。
【0071】
本発明のシート状電波吸収体5は、上記の電子機器の自己干渉防止用に限定されるものではない。例えば、自動車のミリ波レーダ装置のミリ波を送受信するレーダ送受信面部を除いて、ミリ波レーダ装置を取り囲むようにシート状電波吸収体を配置してもよい。このように配置することにより、ミリ波レーダ装置から放射されてシート状電波吸収体方向にきた電波を吸収し、レーダ送受信部に入射することを防止でき、誤検知や誤作動を抑制できる。
【0072】
以上のように、本発明のシート状電波吸収体は、第1誘電体層と第2誘電体層との間に接着性を有する第3誘電体層を設け、第1誘電体層の一方の面上に形成した正方形状導体部からなる構成とすることにより、76GHz~81GHzの広い周波数帯域にわたり反射減衰量を-10dB以下とすることができる。さらに、第1誘電体層の面上に正方形状導体部を形成するときに、第1誘電体層の比誘電率に合わせて導体幅と配列ピッチとを決めてエッチング等で形成すれば、本発明目標域をクリアーする構造を作製できる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のシート状電波吸収体は、自動車のミリ波レーダなどに用いられる77GHz帯および79GHz帯の電子機器分野に有用である。
【符号の説明】
【0074】
1 第1誘電体
2 第2誘電体
3 第3誘電体
4 導体部
5 シート状電波吸収体
10 電子回路ユニット
11 電子回路部
11a 電子回路(送信回路)
11b 電子回路(受信回路)
11c 配線基板
12 シールドカバー
12a 内面
15 電子機器

【要約】
【課題】自動車等のミリ波レーダに搭載してより信頼性の高いミリ波レーダ装置を実現するために、77GHz帯域および79GHz帯域、すなわち76~81GHZの周波数範囲で反射減衰量が-10dBを実現するシート状電波吸収体を提供する。
【解決手段】76GHzから81GHzの周波数帯域における電磁波の反射減衰量が-10dB以上であるミリ波を吸収するものであって、第1誘電体層と、この第1誘電体層の一方の面上に、あらかじめ設定された導体幅と配列ピッチとからなる形状で配列されてなる正方形状導体部と、第2誘電体層と、第1誘電体層の他方の面と第2誘電体層との間に配置された第3誘電体層とを含み、第1誘電体層および第3誘電体層の比誘電率、誘電正接および厚みは、第2誘電体層の比誘電率、誘電正接および厚みよりもそれぞれ小さく、第3誘電体層の厚みは第1誘電体層の厚みより小さいことを特徴とする。
【選択図】 図2

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20