(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】延焼防止材、積層体、組電池及び自動車
(51)【国際特許分類】
A62C 2/00 20060101AFI20231211BHJP
C09K 21/02 20060101ALI20231211BHJP
B32B 18/00 20060101ALI20231211BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20231211BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20231211BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20231211BHJP
H01M 10/6555 20140101ALI20231211BHJP
【FI】
A62C2/00 A
C09K21/02
B32B18/00 C
B32B5/28 101
H01M10/625
H01M10/658
H01M10/6555
(21)【出願番号】P 2022209809
(22)【出願日】2022-12-27
【審査請求日】2023-05-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大雅
(72)【発明者】
【氏名】水田 航平
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-164094(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106189875(CN,A)
【文献】特開2001-226657(JP,A)
【文献】特開2018-100318(JP,A)
【文献】特開平3-59283(JP,A)
【文献】特開平7-144977(JP,A)
【文献】特開2011-88803(JP,A)
【文献】特開2010-228960(JP,A)
【文献】特表2006-519942(JP,A)
【文献】実開昭60-83732(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C08J 9/00- 9/42
C09K 21/00- 21/14
H01M 10/52- 10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層構成の延焼防止材であって、
無機繊維基材と、前記無機繊維基材に含浸された、SiO
2/Na
2Oモル比が3.1未満のケイ酸ナトリウム
と、を含む層Aと、
無機繊維を含み、多孔質構造を有する層Bと、を少なくとも備え、
前記層Aが、100~300℃の温度範囲で吸熱する層であり、前記層Aを100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率が15.0質量%以上であ
り、
前記無機繊維基材が有機バインダーを含む、延焼防止材。
【請求項2】
前記無機繊維基材を構成する無機繊維が、シリカ及びアルミナからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項
1に記載の延焼防止材。
【請求項3】
前記有機バインダーが、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂を含む、請求項
1に記載の延焼防止材。
【請求項4】
前記無機繊維基材が湿式抄造シートである、請求項
1に記載の延焼防止材。
【請求項5】
前記ケイ酸ナトリウムの含有量が、前記層Aの全質量を基準として、60質量%以上である、請求項1に記載の延焼防止材。
【請求項6】
前記層Aの厚さが0.2~3.0mmである、請求項1に記載の延焼防止材。
【請求項7】
総厚が5.0mm以下であり、見かけ密度が1.0g/cm
3以下である、請求項1に記載の延焼防止材。
【請求項8】
第一層、第二層及び第三層がこの順で並ぶ多層構成を有し、
前記第一層及び前記第三層が前記層Bであり、
前記第二層が前記層Aである、請求項1に記載の延焼防止材。
【請求項9】
2以上のセルと、前記セルを収容するパッケージと、を備える組電池の、前記セル間、及び/又は、前記セルと前記パッケージとの間に配置して用いられる、請求項1~
8のいずれか一項に記載の延焼防止材。
【請求項10】
2以上のセルと、
前記セルを収容するパッケージと、
前記セル間、及び/又は、前記セルと前記パッケージとの間に配置された、請求項1~
8のいずれか一項に記載の延焼防止材と、を備える、組電池。
【請求項11】
請求項
10に記載の組電池を搭載した自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、延焼防止材、積層体、組電池及び自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の電動化の普及に伴い、自動車用の組電池及びこれに用いられるセルの開発が進められている。自動車用の組電池の中でも、特に高エネルギー密度を特徴とするリチウムイオン電池(LiB)セルを用いた組電池では、熱暴走等の異常が発生するリスクがあることから、セルの安全性を高めるための技術の開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1では、リチウムイオン電池の内部短絡等による急激な温度上昇と熱逸走状態を回避することを目的として用いられる、吸熱シートが提案されている。また、特許文献2では、熱逸走状態の発生に起因する連鎖反応を抑える技術として、隣接する二次電池の間に断熱性プラスチック製の熱暴走防止壁を設け、熱暴走が他の二次電池の熱暴走を誘発することを防止する構造について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-53196号公報
【文献】特許第4958409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の吸熱シートは、断熱性及び延焼防止性が必ずしも充分とはいえない。また、特許文献2の熱暴走防止壁は、二次電池と熱伝導筒とが一体的に成形されており、複雑な独自構成を有している上、プラスチック製防止壁自体への延焼については考慮されていない。
【0006】
そこで、本開示の一側面は、優れた断熱性と充分な延焼防止性とを有する延焼防止材を提供することを目的とする。また本開示の他の側面は、上記延焼防止材として使用可能な積層体を提供することを目的とする。また本開示の他の側面は、上記延焼防止材を用いた組電池、及び、該組電池を備える自動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のいくつかの側面は、以下に示す[1]~[14]を提供する。
【0008】
[1]
多層構成の延焼防止材であって、
SiO2/Na2Oモル比が3.1未満のケイ酸ナトリウムを含む層Aと、
無機繊維を含み、多孔質構造を有する層Bと、を少なくとも備え、
前記層Aが、100~300℃の温度範囲で吸熱する層であり、前記層Aを100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率が15.0質量%以上である、延焼防止材。
【0009】
[2]
前記層Aが、無機繊維基材と、前記無機繊維基材に含浸された前記ケイ酸ナトリウムと、を含む層である、上記[1]に記載の延焼防止材。
【0010】
[3]
前記無機繊維基材を構成する無機繊維が、シリカ及びアルミナからなる群より選択される少なくとも一種を含む、上記[2]に記載の延焼防止材。
【0011】
[4]
前記無機繊維基材が有機バインダーを含む、上記[2]又は[3]に記載の延焼防止材。
【0012】
[5]
前記有機バインダーが、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂を含む、上記[4]に記載の延焼防止材。
【0013】
[6]
前記無機繊維基材が湿式抄造シートである、上記[2]~[5]のいずれかに記載の延焼防止材。
【0014】
[7]
前記ケイ酸ナトリウムの含有量が、前記層Aの全質量を基準として、60質量%以上である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の延焼防止材。
【0015】
[8]
前記層Aの厚さが0.2~3.0mmである、上記[1]~[7]のいずれかに記載の延焼防止材。
【0016】
[9]
総厚が5.0mm以下であり、見かけ密度が1.0g/cm3以下である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の延焼防止材。
【0017】
[10]
第一層、第二層及び第三層がこの順で並ぶ多層構成を有し、
前記第一層及び前記第三層が前記層Bであり、
前記第二層が前記層Aである、上記[1]~[9]のいずれかに記載の延焼防止材。
【0018】
[11]
2以上のセルと、前記セルを収容するパッケージと、を備える組電池の、前記セル間、及び/又は、前記セルと前記パッケージとの間に配置して用いられる、上記[1]~[10]のいずれかに記載の延焼防止材。
【0019】
[12]
2以上のセルと、
前記セルを収容するパッケージと、
前記セル間、及び/又は、前記セルと前記パッケージとの間に配置された、上記[1]~[10]のいずれかに記載の延焼防止材と、を備える、組電池。
【0020】
[13]
[12]に記載の組電池を搭載した自動車。
【0021】
[14]
SiO2/Na2Oモル比が3.1未満のケイ酸ナトリウムを含む層Aと、
無機繊維を含み、多孔質構造を有する層Bと、を少なくとも備え、
前記層Aが、100~300℃の温度範囲で吸熱する層であり、前記層Aを100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率が15.0質量%以上である、積層体。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、優れた断熱性と充分な延焼防止性とを有する延焼防止材を提供することができる。本開示によればまた、上記延焼防止材として使用可能な積層体を提供することもできる。本開示によればまた、上記延焼防止材を用いた組電池、及び、該組電池を備える自動車を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、一実施形態の延焼防止材の層Aを示す模式断面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態の延焼防止材を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、具体的に明示する場合を除き、「~」の前後に記載される数値の単位は同じである。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0025】
以下、場合により図面を参照しつつ、本開示の実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0026】
本開示の一実施形態は、多層構成の延焼防止材であって、SiO2/Na2Oモル比が3.1未満のケイ酸ナトリウム(以下、「低SiO2ケイ酸ナトリウム」ともいう。)を含む層Aと、無機繊維を含み、多孔質構造を有する層Bと、を少なくとも備え、層Aが、100~300℃の温度範囲で吸熱する層であり、層Aを100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率が15.0質量%以上である、延焼防止材に関する。
【0027】
上記特徴を備える延焼防止材は、優れた断熱性と充分な延焼防止性とを有する。延焼防止材の断熱性は、延焼防止材の熱伝導率によって評価できる。また、延焼防止材の延焼防止性は、延焼防止材を積層方向の一方端から650℃で120秒間加熱したときの、延焼防止材の他端の表面温度(120秒経過時の表面温度)によって評価できる。
【0028】
延焼防止材の熱伝導率は、例えば0.15W/mK以下であり、0.13W/mK以下又は0.1W/mK以下とすることもできる。延焼防止材の熱伝導率の下限値は、例えば、0.03W/mKである。延焼防止材の上記熱伝導率は、層A中の低SiO2ケイ酸ナトリウムの量及びSiO2/Na2Oモル比、層Bの種類(例えば層B中の無機材料の種類及び量等)、延焼防止材の層構成などにより調整可能である。延焼防止材の熱伝導率は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0029】
延焼防止材を積層方向の一方端から650℃で120秒間加熱したときの、延焼防止材の他端の表面温度は、例えば、150℃以下であり、140℃以下又は120℃以下とすることもできる。上記表面温度の下限値は、例えば、25℃である。上記表面温度は、実施例の方法で測定することができる。
【0030】
上記延焼防止材は、例えば、組電池に使用できる。組電池とは、例えば、同じ種類の単電池を複数個パックしたものをいう。組電池用の延焼防止材は、例えば、2以上のセルと、該セルを収容するパッケージと、を備える組電池(特にリチウムイオン電池)の、該セル間、及び/又は、該セルと該パッケージとの間に配置して用いられる。
【0031】
延焼防止材は、例えば、2以上のセルを備える組電池に用いられるセパレータである。組電池が上記延焼防止材をセパレータとして備えることにより、平常時にはセル-セル間の熱伝達が抑えられ、異常時には隣接セルへの熱の波及が抑えられる。そのため、例えば、上記延焼防止材を自動車用の組電池に用いると、組電池の安全性を高め、異常時における使用者の退避時間を確保し、被害を最小限に抑えることができる。
【0032】
延焼防止材は、セルが有する安全弁等の凸状突起を覆うように、セルとパッケージとの間に配置される部材であってもよい。この場合、延焼防止材は、パッケージの一部とみなされる場合がある。
【0033】
ところで、自動車用の組電池には、セルの安全性を担保することに加え、航続距離の観点から更なる軽量化も求められている。この点、上記延焼防止材は、層Aを薄膜とした場合であっても高い延焼防止性が得られやすい。そのため、上記延焼防止材によれば、高い延焼防止性を維持しながら、上記軽量化の要求も満たすことが可能である。
【0034】
以下では、まず、延焼防止材を構成する層A及び層Bについて説明する。
【0035】
(層A)
層Aは低SiO2ケイ酸ナトリウムを含む。低SiO2ケイ酸ナトリウムは延焼防止材の延焼防止性の向上に寄与する。低SiO2ケイ酸ナトリウムは、例えば、Na2O・nSiO2・mH2O(nは3.1未満の正の数を示し、mは0又は正の数を示す)で表される。
【0036】
低SiO2ケイ酸ナトリウムのSiO2/Na2Oモル比(上記式中のn)は、より優れた延焼防止性が得られる観点から、2.7以下又は2.3以下であってもよい。低SiO2ケイ酸ナトリウムのSiO2/Na2Oモル比は、延焼防止材の生産性の観点から、1.0以上であってよく、1.5以上又は2.0以上であってもよい。これらの観点から、低SiO2ケイ酸ナトリウムのSiO2/Na2Oモル比は、1.0以上3.1未満、1.5~2.7又は2.0~2.3であってよい。
【0037】
低SiO2ケイ酸ナトリウムの含有量は、より優れた延焼防止性が得られる観点から、層Aの全質量を基準として、60質量%以上であってよく、70質量%以上又は75質量%以上であってもよい。低SiO2ケイ酸ナトリウムの含有量は、より軽量な延焼防止材が得られる観点から、層Aの全質量を基準として、98質量%以下であってよく、95質量%以下又は90質量%以下であってもよい。これらの観点から、低SiO2ケイ酸ナトリウムの含有量は、層Aの全質量を基準として、60~98質量%、70~95質量%又は75~90質量%であってよい。
【0038】
図1は、層Aの一例を示す模式断面図である。
図1中の符号「A」は層Aを示す。
図1に示されるように、層Aは、無機繊維基材1と、該無機繊維基材1に含浸された低SiO
2ケイ酸ナトリウム2と、を含む層であってよい。延焼防止材が配置される箇所によっては、延焼防止材を、設置箇所の形状(例えば凹凸形状)に沿うような形状とすることが求められる場合があるが、
図1に示す層Aを有する延焼防止材は、設置箇所の形状に沿うように所定の形状に加工されたものであり得る。これは、層Aを構成するケイ酸ナトリウムが水溶性を有すること、及び、無機繊維基材が柔軟性を有していることから、層A内の水分量が多い状態では形状加工が可能な柔軟性を有する(すなわち、優れた形状加工性を有する)一方で、乾燥後には乾燥前の形状を保持できる高い強度を有するという、上記延焼防止材の性質によるものである。
【0039】
無機繊維基材は、無機繊維を主成分として構成される基材(例えばシート)であり、無機繊維間には複数の空隙(細孔)が形成されている。すなわち、無機繊維基材は多孔質構造を有する。そのため、無機繊維基材に低SiO2ケイ酸ナトリウムの水溶液を含浸させた後乾燥することにより無機繊維基材の空隙内に低SiO2ケイ酸ナトリウムを充填することができる。
【0040】
本明細書において、無機繊維は、長さが1mm以上であり、アスペクト比(長さ/幅)が100以上である繊維状の物体であり、沈降シリカ等の無機粒子(非繊維状の物体)とは区別される。無機繊維の長さ(繊維長)は、例えば、3~12mmである。無機繊維の幅(繊維径)は、例えば、3~10μmである。無機繊維基材を構成する無機繊維が上記のような繊維長及び繊維径を有する場合、乾燥前の形状加工性に優れる傾向がある。同様の観点から、無機繊維の平均繊維径は、例えば、5~10μmであってよい。ここで、平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡等の顕微鏡観察により測定される値である。
【0041】
無機繊維基材を構成する無機繊維は、一種であっても複数種であってもよい。無機繊維基材を構成する無機繊維の構成材料としては、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、炭素、炭化ケイ素(SiC)等が挙げられる。これらの中でも、無機繊維が、シリカ(SiO2)及びアルミナ(Al2O3)からなる群より選択される少なくとも一種を含む場合、より高い断熱性及び延焼防止性が得られる傾向があり、また、乾燥前の形状加工性に優れる傾向がある。このような無機繊維としては、例えば、アルミナシリカ繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、バサルト繊維、ロックウール等が挙げられる。これらの中でも、無機繊維基材が、アルミナシリカ繊維及び/又はシリカ繊維を含む場合、より高い断熱性及び延焼防止性が得られる傾向があり、また、乾燥前の形状加工性により優れる傾向がある。
【0042】
無機繊維の含有量は、より優れた延焼防止性が得られやすくなる観点から、無機繊維基材(例えば後述する湿式抄造シート)の全質量を基準として、60質量%以上であってよく、70質量%以上、80質量%以上又は85質量%以上であってもよい。無機繊維の含有量は、より優れた延焼防止性が得られやすくなる観点から、無機繊維基材の全質量を基準として、100質量%以下であってよく、98質量%以下、95質量%以下又は93質量%以下であってもよい。これらの観点から、無機繊維の含有量は、無機繊維基材の全質量を基準として、60~100質量%、70~98質量%、80~95質量%又は85~93質量%であってよい。
【0043】
無機繊維の含有量は、より優れた延焼防止性が得られやすくなる観点から、層Aの全質量を基準として、1質量%以上であってよく、5質量%以上、8質量%以上又は10質量%以上であってもよい。無機繊維の含有量は、より優れた延焼防止性が得られやすくなる観点及び延焼防止材の生産性の観点から、層Aの全質量を基準として、40質量%以下であってよく、35質量%以下、30質量%以下又は20質量%以下であってもよい。これらの観点から、無機繊維の含有量は、層Aの全質量を基準として、1~40質量%、1~35質量%、5~35質量%、8~30質量%又は10~20質量%であってよい。
【0044】
図示しないが、無機繊維基材は、有機バインダーを更に含んでいてもよい。有機バインダーは、例えば、無機繊維同士を結合する有機材料である。無機繊維基材に含まれる有機バインダーは、一種であっても複数種であってもよい。有機バインダーとしては、例えば室温(例えば25℃)以下のガラス転移点を有する樹脂、水溶性樹脂等を用いることができる。有機バインダーの具体例としては、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂(ビニロン等)、エポキシ樹脂、セルロースミクロフィブリル等のセルロース、ポリ塩化ビニル樹脂などが挙げられる。ここで、アクリル樹脂とは、アクリル酸及びその誘導体(アクリル酸エステル等)、並びに、メタクリル酸及びその誘導体(メタクリル酸エステル等)からなる群より選択される少なくとも一種をモノマー単位として含む重合体である。また、セルロースミクロフィブリルとは、ミクロフィブリル化したセルロース繊維をいう。上記の中でも、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂を用いる場合、より高い断熱性及び延焼防止性が得られる傾向がある。
【0045】
有機バインダーの含有量は、無機繊維基材の全質量を基準として、0質量%以上であってよく、2質量%以上、5質量%以上又は7質量%以上であってもよい。無機繊維の含有量は、より優れた延焼防止性が得られやすくなる観点から、無機繊維基材の全質量を基準として、40質量%以下であってよく、30質量%以下、20質量%以下又は15質量%以下であってもよい。これらの観点から、無機繊維の含有量は、無機繊維基材の全質量を基準として、0~40質量%、2~30質量%、5~20質量%又は7~15質量%であってよい。
【0046】
無機繊維基材としては、例えば、低SiO2ケイ酸ナトリウムの保持性に優れる基材を用いることができる。無機繊維基材は、基材に浸透した低SiO2ケイ酸ナトリウムの保持性に優れる観点では、不織布であってよく、上記保持性により優れる観点では、湿式抄造法により形成されるシート(湿式抄造シート)であってもよい。湿式抄造法では、材料(無機繊維、有機バインダー等)を水に分散させて得られた分散液を抄紙用スクリーンに抄造し、乾燥することにより無機繊維基材(不織布)を製造する。この方法によれば、略均一に分散した空隙を有する無機繊維基材(不織布)を容易に得ることができる。そのため、湿式抄造シートは、略均一に分散した空隙を有する傾向があり、低SiO2ケイ酸ナトリウムの保持性に優れる傾向がある。無機繊維基材の見かけ密度は、例えば1.0g/cm3以下であってよく、0.8g/cm3以下であってもよい。無機繊維基材の見かけ密度は、例えば0.08~0.2g/cm3であってよい。無機繊維基材の目付量は、例えば厚さ1.0mmの場合、100~170g/m2であってよい。
【0047】
無機繊維基材の厚さは、例えば、0.2~3.0mmである。無機繊維基材の厚さは、層Aの厚さと等しくてよい。
【0048】
層Aは、無機繊維基材と、該無機繊維基材中に含まれる成分(低SiO2ケイ酸ナトリウム等)と、からなる層であってよい。層Aは、低SiO2ケイ酸ナトリウムが含浸された複数の繊維基材(例えば低SiO2ケイ酸ナトリウムが含浸された、複数の繊維基材の積層体)で構成されていてもよい。
【0049】
層Aの厚さは、より優れた延焼防止性を確保する観点から、0.2mm以上であってよく、0.5mm以上又は1.0mm以上であってもよい。層Aの厚さは、より軽量な延焼防止材が得られる観点から、3.0mm以下であってよく、2.5mm以下又は2.0mm以下であってもよい。これらの観点から、層Aの厚さは、0.2~3.0mm、0.5~2.5mm又は1.0~2.0mmであってもよい。層Aの厚さは、積層方向における、低SiO2ケイ酸ナトリウムが存在する領域の長さと言い換えることができる。層Aの厚さは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて延焼防止材の断面を観察し、無作為に選択した10カ所で、低SiO2ケイ酸ナトリウムが存在する領域の積層方向における長さを測定し、これらの平均値を層Aの厚さとする方法により測定することができる。層Aが複数存在する場合、各層Aの厚さが上記範囲であってよく、全ての層Aの厚さの合計が上記範囲であってもよい。
【0050】
層Aは、100~300℃の温度範囲で吸熱する層であり、層Aを100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率は15.0質量%以上である。層Aの吸熱は、層A中の水分(例えばケイ酸ナトリウム中の水分子)が100~300℃の温度範囲で吸熱反応を起こすことにより生じると考えられ、上記層Aの質量減少は、該吸熱反応によって生じると考えられる。したがって、層Aを100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率は、層Aに含まれる水分量及び吸熱量と相関しており、層Aの質量減少率が15.0質量%以上であることで、上記温度範囲の延焼防止材の吸熱量が大きくなり、優れた断熱性と充分な延焼防止性が得られると推察される。なお、層Aの吸熱は、例えば、熱重量-示差熱分析(TG-DTA)測定を行い、100~300℃の温度範囲内の吸熱ピークの有無によって確認することができる。
【0051】
層Aを100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率は、より優れた断熱性及び延焼防止性が得られる観点から、17.0質量%以上、20.0質量%以上、23.0質量%以上又は23.5質量%以上であってもよい。層Aを100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率は、耐水性を向上させる観点から、30.0質量%以下であってよく、28.0質量%以下又は25.0質量%以下であってもよい。これらの観点から、層Aを100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率は、15.0~30.0質量%、17.0~28.0質量%、20.0~25.0質量%、23.0~25.0質量%又は23.5~25.0質量%であってよい。なお、上記質量減少率は、下記式により算出される。
式:質量減少率(質量%)=[層Aの質量減少量]/[層Aの100℃での質量]×100
ここで、層Aの質量減少量とは、層Aの100℃での質量と層Aの300℃での質量の差である。層Aが複数存在する場合、各層Aの質量減少率が上記範囲であってよく、全ての層Aの質量減少率の合計が上記範囲であってもよい。
【0052】
(層B)
層Bは、無機繊維を含み、多孔質構造を有する。層Bの多孔質構造を構成する細孔は、例えば、複数の無機繊維が互いに絡み合うことで無機繊維間に形成された空隙である。延焼防止材がこのような層Bを備えることで、断熱性の向上と、延焼防止材の軽量化を両立することができる。また、上記層Bは、層Aと比較して柔軟性を有する傾向があり、セルの充放電時の膨張収縮に追従して変形しやすい。そのため、層Bがセル側に配置されるような層構成とすることで、セルの充放電時の膨張収縮によるセルへの機械的負荷を低減することもできる。
【0053】
層Bに含まれる無機繊維としては、上述した無機繊維基材を構成する無機繊維として例示したものが挙げられる。層Bに含まれる無機繊維は、一種であっても複数種であってもよい。無機繊維は、より高い延焼防止性が得られる観点では、シリカ(SiO2)及びアルミナ(Al2O3)からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてよく、アルミナシリカ繊維及びシリカ繊維からなる群より選択される少なくとも一種の繊維であってよい。
【0054】
層B中の無機繊維の含有量は、例えば、層Bの全質量を基準として、20~100質量%以上であってよい。層B中の無機繊維の含有量は、層Bの強度を向上させる観点では、層Bの全質量を基準として、70質量%以上、85質量%以上又は90質量%以上であってもよい。無機繊維の含有量は、層Bの密度を抑える観点では、層Bの全質量を基準として、98質量%以下又は95質量%以下であってもよい。これらの観点から、無機繊維の含有量は、層Bの全質量を基準として、70~100質量%、85~98質量%又は90~95質量%であってもよい。
【0055】
層Bは、有機バインダーを更に含んでいてもよい。有機バインダーは、例えば、無機繊維同士を結合している。有機バインダーとしては、上述した無機繊維基材に含まれ得る有機バインダーとして例示したものが挙げられる。層Bに含まれる有機バインダーは、一種であっても複数種であってもよい。有機バインダーの含有量は、高温雰囲気下における発火を抑制する観点から、層Bの全質量を基準として、0~40質量%、2~30質量%、5~20質量%又は7~15質量%であってよい。
【0056】
層Bは、無機粒子を更に含んでいてもよい。無機粒子の構成材料としては、シリカ、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。シリカを含む粒子としては、例えば、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ等が挙げられる。なお、沈降シリカは、湿式法の一種である沈降法で得られる非晶質のシリカ粒子であり、多孔質構造を有する。層Bの強度を高める観点では、層Bは沈降シリカを含まないことが好ましく、無機粒子を含まないことがより好ましい。
【0057】
無機粒子の平均粒子径は、例えば、0.1~100μmである。ここで、無機粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度測定機によって測定される、体積累積粒径D50の値である。無機粒子の平均粒子径は、取り扱い性の観点から、0.5μm以上又は1μm以上であってもよい。無機粒子の平均粒子径は、より均一な分布が得られる観点から、80μm以下又は50μm以下であってもよい。これらの観点から、無機粒子の平均粒子径は、0.5~80μm又は1~50μmであってもよい。
【0058】
無機粒子の含有量は、層Bの断熱性が高まり、より優れた延焼防止性が得られる観点から、層Bの全質量を基準として、20質量%以上であってよく、25質量%以上又は30質量%以上であってよい。無機粒子の含有量は、より軽量な層Bが得られる観点及び層Bの強度を高める観点から、層Bの全質量を基準として、50質量%以下であってよく、45質量%以下又は40質量%以下であってもよい。これらの観点から、無機粒子の含有量は、層Bの全質量を基準として、20~50質量%、25~45質量%又は30~40質量%であってよい。
【0059】
層Bは、ポリアミジン系高分子等の凝集剤を含んでいてもよい。凝集剤の含有量は、有機成分量を抑制する観点から、層Bの全質量を基準として、0.1~5質量%、0.3~4質量%又は0.5~3質量%であってよい。
【0060】
層Bは、ケイ酸ナトリウム(低SiO2ケイ酸ナトリウム以外のケイ酸ナトリウム)を含んでいてもよく、ケイ酸ナトリウムを含まなくてもよい。層Bに含まれるケイ酸ナトリウムの含有量は、例えば、層Bの全質量を基準として、10質量%以下であり、5質量%以下又は3質量%以下であってもよい。
【0061】
層Bは、例えば、無機繊維を含み、多孔質構造を有する基材(無機繊維基材)で構成されていてよい。この場合、上記説明における「層B」は「層Bを構成する無機繊維基材」といいかえてよい。無機繊維基材は、例えば、無機繊維シートであり、湿式抄造シートであってもよい。湿式抄造シートは、略均一に分散した空隙を有する傾向があるため、湿式抄造シートを用いることで、延焼防止材の製造時に、隣接する層Aからの低SiO2ケイ酸ナトリウムの浸透を防止しやすくなる、層A形成時の乾燥による硬化を促進しやすくなるといった効果が得られる。そのため、層Bが湿式抄造シートで構成される場合、延焼防止性により一層優れる傾向がある。湿式抄造シートは、例えば、上記無機繊維と、有機バインダーと、(任意で無機粒子及び凝集剤と)を水に分散させて得られた分散液を抄紙用スクリーンに抄造し、乾燥することにより得られる湿式抄造シートであってよい。層Bの密度は、例えば0.2~0.5g/cm3であってよい。層Bの目付量は、例えば厚さ1.0mmの場合、100~250g/m2であってよい。
【0062】
層Bの厚さは、より優れた断熱性及び層Aの熱的劣化抑制の観点から、0.2mm以上であってよく、0.5mm以上又は0.8mm以上であってもよい。層Bの厚さは、総厚みを抑える観点から、2.0mm以下であってよく、1.5mm以下又は1.3mm以下であってもよい。これらの観点から、層Bの厚さは、0.2~2.0mm、0.5~1.5mm又は0.8~1.3mmであってよい。
【0063】
以上、層A及び層Bについて説明したが、延焼防止材は、層A及び層Bを備える限り、二層構成であっても、三層以上の構成であってもよい。延焼防止材は、1又は複数の層Aと1又は複数の層Bとからなっていてよく、層A及び層B以外の層を更に備えていてもよい。複数の層Aは互いに同一であっても異なっていてもよい。複数の層Bは互いに同一であっても異なっていてもよい。延焼防止材は、2以上のセルを備える組電池の該セル間に配置して用いられる場合、対称構造を有してよい。
【0064】
延焼防止材は、セルの充放電時の膨張収縮によるセルへの機械的負荷を低減しやすく、層Aの劣化を抑制する観点から、
図2に示すように、層B(第一層11)、層A(第二層12)及び層B(第三層13)がこの順で並ぶ多層構成を有する延焼防止材10であってよい。この場合、第一層11を構成する層Bと第三層13を構成する層Bは、互いに同一であっても異なっていてもよい。上記観点では、最外層(積層方向の一端及び他端に位置する層)の少なくとも一方が層Bであってよく、最外層(積層方向の一端及び他端に位置する層)の両方が層Bであってもよい。
【0065】
延焼防止材は、例えば絶縁性を有する。ここで、絶縁性を有するとは、体積抵抗率測定により測定される電気抵抗率が108Ω・cm以上であることを意味する。
【0066】
延焼防止材は、シート状(例えば平板状)であってよく、所定の形状に加工されていてもよい。所定の形状は、延焼防止材の設置箇所の形状に応じて適宜設定されてよい。所定の形状は、例えば、延焼防止材の設置箇所の形状(延焼防止材と対向配置される部材の表面形状等)に沿う形状であってよい。形状の具体例としては、表面に凹凸を有するシート状、90°以上の角度の曲部を有するシート状等が挙げられる。凹凸の形状(凸部及び凹部の形状)は特に限定されず、断面矩形状、断面V字状、断面U字状等であってよい。所定の形状に加工された延焼防止材は、後述の製造方法によって製造されることで、層分離及び層破断等を有しないものであり得る。延焼防止材が層分離及び層破断を有しないことは、例えば、延焼防止材の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することにより確認できる。
【0067】
所定の形状に加工された延焼防止材は、該形状を保持している。延焼防止材が所定の形状を保持可能であることは、延焼防止材の三点曲げ強度により定量化することができる。具体的には、JIS K 7171にしたがって測定される延焼防止材の三点曲げ強度が0.5MPa以上であると、延焼防止材が所定の形状を保持するために充分な強度を有するといえる。上記三点曲げ強度は、例えば、0.8MPa以上又は1.0MPa以上であってもよい。上記三点曲げ強度は、柔軟性の観点では、5.0MPa以下であってよく、4.0MPa以下又は3.0MPa以下であってもよい。これらの観点から、上記三点曲げ強度は、0.5~5.0MPa、0.8~4.0MPa又は1.0~3.0MPaであってよい。
【0068】
延焼防止材の総厚(積層方向の厚さ)は、延焼防止材のために必要となるスペースを抑える観点から、5.0mm以下であってよく、4.0mm以下又は3.0mm以下であってもよい。延焼防止材の総厚は、より高い延焼防止性が得られる観点から、1.0mm以上であってよく、1.2mm以上又は1.5mm以上であってもよい。これらの観点から、延焼防止材の総厚は、1.0~5.0mmであってよく、1.2~4.0mm又は1.5~3.0mmであってよい。
【0069】
延焼防止材の見かけ密度が低いほど更なる軽量化が可能となる。延焼防止材の見かけ密度は、例えば、1.0g/cm3以下とすることができ、0.8g/cm3以下又は0.7g/cm3以下とすることもできる。延焼防止材の見かけ密度の下限は、例えば、0.2g/cm3である。延焼防止材の見かけ密度は、0.2~1.0g/cm3、0.2~0.8g/cm3又は0.2~0.7g/cm3であってよい。延焼防止材の上記見かけ密度は、層A中の低SiO2ケイ酸ナトリウムの量及びSiO2/Na2Oモル比、層Bの種類(例えば層B中の無機材料の種類及び量等)、延焼防止材の層構成等を変更することで調整可能である。
【0070】
上記観点から、延焼防止材は、総厚が5.0mm以下であり、見かけ密度が1.0g/cm3以下であってよい。
【0071】
以上説明した延焼防止材は、層A上に層Bを形成することにより製造してよく、層B上に層Aを形成することにより製造してもよい。延焼防止材の製造方法の一例は、無機繊維基材に、低SiO2ケイ酸ナトリウム(SiO2/Na2Oモル比が3.1未満であるケイ酸ナトリウム)を含む水溶液を含浸させる工程(a)と、該水溶液が含浸された無機繊維基材上に、無機繊維を含み、多孔質構造を有する基材を配置して該水溶液を含む積層体を得る工程(b)と、該積層体を乾燥させる工程(c)と、を備える。
【0072】
工程(a)では、低SiO2ケイ酸ナトリウムを含む水溶液中に無機繊維基材を浸漬させることで、無機繊維基材に低SiO2ケイ酸ナトリウムを含む水溶液を含浸させてよい。これにより、無機繊維基材と、該無機繊維基材に含浸された水溶液とを含む基材(以下、「水溶液含浸基材」という。)が得られる。無機繊維基材としては、上記実施形態の延焼防止材の層Aを構成する無機繊維基材として説明したものを用いることができる。低SiO2ケイ酸ナトリウムを含む水溶液としては、例えば、JIS K1408に規定される、1号ケイ酸ナトリウム、2号ケイ酸ナトリウム等を使用することができる。無機繊維基材の浸漬条件は、無機繊維基材の種類に応じて適宜調整してよい。
【0073】
工程(b)では、水溶液含浸基材の両方の主面上に、無機繊維を含み、多孔質構造を有する基材(第一の基材及び第二の基材)を配置することにより、水溶液を含む積層体(三層構成の積層体)を得てよい。工程(b)では、例えば、水溶液含浸基材の一方の主面上に、無機繊維を含み、多孔質構造を有する基材を配置することにより二層構成の積層体を得てもよい。無機繊維を含み、多孔質構造を有する基材としては、上記実施形態の延焼防止材の層Bを構成する無機繊維基材として説明したものを用いることができる。
【0074】
工程(b)で得られる積層体は、形状加工が可能な柔軟性を有する。JIS K 7171にしたがって測定される積層体の三点曲げ強度、すなわち、乾燥前の積層体の三点強度は、0.4MPa以下(例えば0.01~0.4MPa)であってよい。
【0075】
工程(c)では、積層体を乾燥させることにより、積層体中の水溶液含浸基材が硬化され、水溶液含浸基材が硬化してなる領域を含む延焼防止材が得られる。工程(c)では、工程(b)で得られた積層体をそのまま乾燥させてもよいし、積層体を所定の形状に加工した後、該積層体(加工後の積層体)を該形状のまま乾燥させてもよい。この方法によれば、水溶液含浸基材の硬化によって加工後の形状が固定され、上記所定の形状を有する延焼防止材が得られる。積層体の加工方法は、積層体を変形させることが可能な方法であればよく、例えば、プレス加工等のように、積層体に圧縮をかける方法であってよい。積層体の乾燥条件は、層Aの硬度を高める観点から、適宜調整してよい。
【0076】
上記方法によれば、低SiO2ケイ酸ナトリウムが、層Bとなる基材(第一の基材及び第二の基材)の表面に接触した状態で硬化するため、層Aと層Bとの接着が強固となる。
【0077】
以上、本開示の一実施形態に係る延焼防止材について説明したが、本開示の延焼防止材は上記実施形態に限定されない。
【0078】
本開示は、他の一実施形態として、2以上のセルと、該セルを収容するパッケージと、該セル間、及び/又は、該セルと該パッケージとの間に配置された、上記実施形態の延焼防止材と、を備える、組電池を提供する。この組電池は、例えば、リチウムイオン電池である。
【0079】
本開示は、他の一実施形態として、上記実施形態の組電池を搭載した自動車を提供する。
【0080】
本開示は、他の一実施形態として、上記実施形態の延焼防止材と同一の構成を備える積層体を提供する。該積層体の用途は、延焼防止材に限定されない。
【実施例】
【0081】
以下、本開示の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
<使用材料>
以下の材料を用意した。
(ケイ酸ナトリウム水溶液)
S1:1号ケイ酸ソーダ(富士化学製)(固形分45質量%、SiO2/Na2Oモル比=2.1)
S2:2号ケイ酸ソーダ(富士化学製)(固形分41質量%、SiO2/Na2Oモル比=2.5)
S3:3号ケイ酸ソーダ(富士化学製)(固形分39質量%、SiO2/Na2Oモル比=3.2)
(無機繊維)
F1:アルミナシリカ繊維(平均繊維径10μm)
F2:ガラス繊維(平均繊維径10μm)
F3:シリカ繊維(平均繊維径10μm)
F4:バサルト繊維(平均繊維径10μm)
(有機バインダー)
B1:ビニロン繊維(平均繊維径5μm)
B2:アクリル樹脂
B3:エポキシ樹脂
【0083】
<実施例1>
(湿式抄造シートAの作製)
アルミナシリカ繊維(上記F1)6.5質量部とビニロン繊維(上記B1)0.7質量部を純水100質量部に加え、特殊機化工業社製ホモミキサーで2時間混合して分散液を得た。この分散液を抄紙用スクリーンに抄造し、ヤンキードライヤーで乾燥することで厚さ1mm、目付量120g/m2の湿式抄造シートA(不織布)を作製した。
【0084】
(湿式抄造シートBの作製)
上記湿式抄造シートAの作製と同様にして、湿式抄造シートB(不織布)を作製した。
【0085】
(延焼防止材の作製)
湿式抄造シートAに1号ケイ酸ナトリウム(上記S1)を含浸させた後、該湿式抄造シートAの上下面に、湿式抄造シートBを貼り合わせ、積層体を得た。得られた積層体を30℃で乾燥させることで、層B(湿式抄造シートB)、層A(湿式抄造シートAにケイ酸ナトリウムが含浸されてなる層)及び層B(湿式抄造シートB)がこの順で積層された多層構成の延焼防止材(総厚3mm)を得た。層A中の無機繊維の含有量、層A中のケイ酸ナトリウムの含有量、及び、層B中の無機繊維の含有量を表1に示す。なお、本明細書中の表に示す、層A中の無機繊維の含有量は、湿式抄造シートAの全質量を基準とする含有量であり、層A中のケイ酸ナトリウムの含有量は、層Aの全質量を基準とする含有量であり、層B中の無機繊維の含有量は、層Bの全質量を基準とする含有量である。
【0086】
得られた延焼防止材における層Aの一部を採取し、粉砕することにより測定サンプルを得た。次いで、熱重量-示差熱分析装置(TG-DTA)を用いて上記測定サンプルのDTA測定を行い、10℃/minの速度で室温から300℃まで昇温した際の示差熱曲線を求めた。得られた示差熱曲線において、100℃から300℃までの温度範囲に吸熱ピークが確認された。このことから、層Aが100~300℃の温度範囲で吸熱する層であることを確認した。
【0087】
また、熱重量-示差熱分析装置(TG-DTA)を用いて上記測定サンプルのTGA測定を行い、50℃/minの速度で室温から300℃まで昇温した際の質量変化曲線を求めた。得られた質量変化曲線から、下記式に基づき、100~300℃における質量減少率を算出した。質量減少率は24.0質量%であった。
式:質量減少率(質量%)=([a-b]-[a-c])/[a-b]×100
[式中、aは加熱前の測定サンプルの質量を示し、bは100℃時点での質量変化量を示し、cは300℃時点での質量変化量を示す。]
【0088】
<実施例2~4>
湿式抄造シートAの作製時に、無機繊維の種類を変更したことを除き、実施例1と同様にして、実施例2~4の延焼防止材をそれぞれ作製した。また、得られた延焼防止材における層Aの100~300℃の温度範囲での吸熱の有無、及び、該層Aを100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率を、実施例1と同様の方法で確認した。結果を表1に示す。
【0089】
<実施例5及び6>
湿式抄造シートAの作製時に、ビニロン繊維に代えて表1に示す有機バインダーを用いたことを除き、実施例1と同様にして、実施例5及び6の延焼防止材をそれぞれ作製した。また、得られた延焼防止材における層Aの100~300℃の温度範囲での吸熱の有無、及び、該層Aを100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率を、実施例1と同様の方法で確認した。結果を表1に示す。
【0090】
<比較例1>
層A中のケイ酸ナトリウムの含有量が表1に示す値となるように、湿式抄造シートAの作製時に、ケイ酸ナトリウム水溶液の使用量を変更したことを除き、実施例1と同様にして、比較例1の延焼防止材を作製した。また、得られた延焼防止材における層Aの100~300℃の温度範囲での吸熱の有無、及び、該層Aを100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率を、実施例1と同様の方法で確認した。結果を表1に示す。
【0091】
<実施例7及び比較例2>
湿式抄造シートAの作製時に、1号ケイ酸ソーダに代えて表1に示すケイ酸ナトリウム水溶液を用いたことを除き、実施例1と同様にして、実施例7及び比較例2の延焼防止材をそれぞれ作製した。また、得られた延焼防止材における層Aの100~300℃の温度範囲での吸熱の有無、及び、該層Aを100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率を、実施例1と同様の方法で確認した。結果を表1に示す。
【0092】
<評価>
実施例1~7及び比較例1~2の延焼防止材の軽量性、断熱性及び延焼防止性を以下に示す方法により評価した。結果を表1に示す。
【0093】
[軽量性]
延焼防止材の見かけ密度により軽量性を評価した。見かけ密度は、サンプル(延焼防止材)の寸法と質量より算出した。
【0094】
[断熱性]
延焼防止材の熱伝導率により断熱性を評価した。熱伝導率は以下の方法で測定した。
まず、延焼防止材を200mm×200mmに切り出し測定サンプルとした。次いで、測定サンプルの熱伝導率を、ISO8301に準拠して、熱流計法熱伝導率測定装置FOX-200(英弘精機社製)を用いて、23℃で測定した。
【0095】
[延焼防止性]
650℃に加熱したホットプレート(PA8015:MSAファクトリー社製)上に、延焼防止材と、K熱電対と、アルミブロック(500g)とをこの順で積層配置した。120秒経過後の延焼防止材の裏面温度(ホットプレート側とは反対側の表面温度)を測定し、以下の基準で延焼防止性を評価した。なお、下記の基準で「2」である場合に、延焼防止材が充分な延焼防止性を有すると評価し、「3」である場合に、延焼防止材が優れた延焼防止性を有すると評価した。
3:延焼防止材の裏面温度が150℃以下であった。
2:延焼防止材の裏面温度が150℃より高く、190℃以下であった。
1:延焼防止材の裏面温度が190℃より高かった。
【0096】
【符号の説明】
【0097】
1…無機繊維基材、2…低SiO2ケイ酸ナトリウム、10…延焼防止材、11…第一層(層B)、12…第二層(層A)、13…第三層(層B)。
【要約】
【課題】優れた断熱性と充分な延焼防止性とを有する延焼防止材を提供すること。
【解決手段】多層構成の延焼防止材であって、SiO
2/Na
2Oモル比が3.1未満のケイ酸ナトリウムを含む層Aと、無機繊維を含み、多孔質構造を有する層Bと、を少なくとも備え、層Aが、100~300℃の温度範囲で吸熱する層であり、層Aを100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率が15.0質量%以上である、延焼防止材。
【選択図】
図1