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特許7400093二次電池の回復制御方法、二次電池の回復制御システム、及び車両制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】二次電池の回復制御方法、二次電池の回復制御システム、及び車両制御システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/42 20060101AFI20231211BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20231211BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Y
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022523733
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(86)【国際出願番号】 IB2020000503
(87)【国際公開番号】W WO2021234424
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】広渡 杏奈
(72)【発明者】
【氏名】小高 敏和
(72)【発明者】
【氏名】青谷 幸一郎
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-9679(JP,A)
【文献】特開2010-238484(JP,A)
【文献】特開2008-97940(JP,A)
【文献】特開2012-212513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、固体電解質と、少なくともリチウム金属又はリチウム合金を含有した負極活物質を含む負極とを有し、外部から拘束されている二次電池の回復制御方法において、
前記二次電池のセル抵抗を測定し、
前記二次電池の充放電深度、前記二次電池のセル温度、及び前記二次電池に加わる圧力から、前記二次電池を回復可能な抵抗の上限値を示す回復限界抵抗値を算出し、
前記セル抵抗の抵抗値が前記回復限界抵抗値以下である場合に、前記二次電池の充放電を禁止して前記二次電池を回復させる回復制御を実行する回復制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の回復制御方法において、
前記充放電深度、前記セル温度、及び前記二次電池に加わる圧力のうち少なくとも1つのパラメータから、前記二次電池の回復に必要な必要回復時間を算出し、
前記必要回復時間が所定時間より長い場合には、前記必要回復時間が短くなるように、前記二次電池を充電する充電パラメータ、及び/又は、前記回復制御を実行する実行パラメータを設定する回復制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の回復制御方法において、
前記回復制御は、前記負極のクリープ変形が生じる圧力以上の圧力を前記二次電池に加える加圧制御を含む回復制御方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の回復制御方法において、
前記回復制御は、前記セル温度を前記二次電池の現在の温度より高める温度制御を含む回復制御方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の回復制御方法において、
前記回復制御を開始する時の前記二次電池の充電深度を所定の充電深度以上にする回復制御方法。
【請求項6】
請求項1記載の回復制御方法において、
前記充放電深度、前記セル温度、及び前記二次電池に加わる圧力のうち少なくとも1つのパラメータから、前記二次電池の回復に必要な必要回復時間を算出し、
算出された前記必要回復時間の長さに応じて、前記二次電池の充電時間を算出し、
前記回復制御前に前記充電時間で前記二次電池を充電する回復制御方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の回復制御方法において、
前記回復制御により前記二次電池を回復させた後に、前記二次電池を充放電する回復制御方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の回復制御方法において、
前記セル抵抗の抵抗値が前記回復限界抵抗値より高い場合には、前記回復限界抵抗値が高くなるように、前記二次電池の充電深度、前記セル温度、及び前記二次電池に加わる圧力のうち複数のパラメータを高くする回復制御方法。
【請求項9】
正極活物質を含む正極と、固体電解質と、リチウム金属又はリチウム合金を含有した負極活物質を含む負極とを有し、外部から拘束されている二次電池と、
前記二次電池のセル抵抗を測定する測定器と、
前記二次電池を回復させる回復制御を実行するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
前記二次電池の充放電深度、前記二次電池のセル温度、及び前記二次電池に加わる圧力から、前記二次電池を回復可能な抵抗の上限値を示す回復限界抵抗値を算出し、
前記セル抵抗の抵抗値が前記回復限界抵抗値以下である場合に、前記二次電池の充放電を禁止して前記回復制御を実行する回復制御システム。
【請求項10】
請求項9記載の回復制御システムを含み、前記二次電池を動力源とする車両を制御する車両制御システムにおいて、
前記コントローラは、前記車両の停車時に前記回復制御を実行する車両制御システム。
【請求項11】
請求項10記載の車両制御システムにおいて、
前記コントローラは、
前記セル抵抗の抵抗値と、前記回復限界抵抗値に応じて設定される抵抗閾値とを比較し、
前記セル抵抗の抵抗値が前記抵抗閾値より高い場合には、前記車両のドライバーに前記車両の停止を推奨するための通知を行う車両制御システム。
【請求項12】
請求項9記載の回復制御システムを含み、エンジンと、前記二次電池に接続されたモータとを有するハイブリッド車両を制御する車両制御システムにおいて、
前記コントローラは、
前記エンジンのみで走行する走行モード中に、前記二次電池の充放電を禁止して前記回復制御を実行する車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の回復制御方法、二次電池の回復制御システム、及び車両制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、リチウム二次電池の状態を検出する状態検出方法が知られている(特許文献1)。特許文献1記載の状態検出方法では、電池をSOC10%以下まで放電し、放電された電池のインピーダンスを測定し、インピーダンスの実部及び虚部を平面座標にプロットすることで得られるインピーダンス円から反応抵抗値を算出する。そして、算出された反応抵抗値が、予め定められた閾値を超えた場合に、電池に劣化が生じていると判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-212513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池において、充放電させた場合に、負極活物質として用いられるリチウム金属又はリチウム合金の溶解析出反応時に、リチウム金属又はリチウム合金と固体電解質の間の界面部分に、空隙(以下、「ボイド」と称する)が発生する場合がある。そして、ボイドが発生すると、ボイド部分が固体電解質との非接触部分となることから、反応面積が低下し、二次電池の抵抗上昇に伴い電圧が上昇する原因となる。
【0005】
しかしながら、上記の従来技術の方法は、全固体リチウム二次電池の抵抗が高くなったことを検出できるが、ボイドを起因とした抵抗上昇を抑制する方法については開示されておらず、ボイドを起因として抵抗が上昇した場合に、二次電池の性能を回復できないという問題がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、ボイドを起因として二次電池の抵抗が上昇した場合に、二次電池の性能を回復できる回復制御方法、回復制御システム、及び車両制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、二次電池の充放電深度、二次電池のセル温度、及び二次電池に加わる圧力から、二次電池を回復可能な抵抗の上限値を示す回復限界抵抗値を算出し、セル抵抗の抵抗値が回復限界抵抗値以下である場合に、二次電池の充放電を禁止して二次電池を回復させる回復制御を実行することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ボイドを起因として二次電池の抵抗が上昇した場合に、二次電池の抵抗上昇を抑制し、二次電池の性能を回復できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態に係る二次電池の回復制御システムを示すブロック図である。
図2図2は、リチウム金属のクリープ変形を説明するための概念図である。
図3図3は、判定閾値(Rth)、回復限界抵抗値(Rlim)、Δセル抵抗(ΔR)、セル抵抗の初期値(R)、及びセル抵抗の現在値(R)の関係を説明するためのグラフである。
図4図4は、リチウム金属を加圧した時間に対するリチウム金属のクリープ量の特性を示すグラフである。
図5図5は、本実施形態に係る二次電池の回復制御システムにおいて実行される回復制御処理のフローチャートである。
図6図6は、本実施形態に係る二次電池の回復制御システムにおいて、回復制御の実行パラメータと回復時間との関係を示すグラフである。
図7図7は、本実施形態に係る二次電池において、リチウム金属の厚み、回復制御の実行時間、及びリチウム金属のクリープ量の相関性を示すグラフである。
図8図8は、本実施形態に係る二次電池において、二次電池に加わる圧力、回復制御の実行時間、及びクリープ量の相関性を示すグラフである。
図9図9は、本実施形態に係る二次電池において、セル温度と回復時間との相関性を示すグラフである。
図10図10は、本実施形態に係る二次電池において、充電時間、充電深度、及び回復時間の相関性を示すグラフである。
図11図11は、実施例の評価結果を説明するための図であって、充電時間と電圧との特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本実施形態に係る二次電池の回復制御システムの構成を示す図である。本実施形態に係る二次電池の回復制御システムは、全固体リチウム二次電池内にボイドが発生した場合に、そのボイドを潰して界面の接触性を向上させて、電池性能を回復させるためのシステムである。図1に示すように、回復制御システム10は、二次電池20、電圧センサ30、温度センサ40、電圧電流調整部50、電流センサ60、ヒータ70、インピーダンス測定器80、及びコントローラ90を備えている。図1に示す回復制御システム10は、外部電源100の電力で二次電池20を充電する、又は、二次電池20を放電するためのシステムであり、二次電池20の充放電を禁止している間に二次電池20を回復させる。
【0011】
二次電池(電池セル)20は、全固体リチウム二次電池であり、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層を含む正極21と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含有する負極活物質層を含む負極22と、正極活物質層および負極活物質層との間に介在する固体電解質23と、を有する発電要素を備える。二次電池20は、発電要素の他に、電極タブ24a、24bと、発電要素を収容する外装部材25、及び、セル拘束部材26を有している。
【0012】
正極21は、少なくとも1層の正極層を有しており、正極層は、正極側集電体、および当該正極側集電体の一部の主面に形成された正極活物質層で形成されている。正極側集電体は、電極タブ24aに接合されており、たとえば、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔、銅チタン箔、または、ステンレス箔等の電気化学的に安定した金属箔で構成することができる。正極側集電体には、金属としては、ニッケル、鉄、銅などが用いられてもよい。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。
【0013】
正極側集電体には、金属の代わりに、導電性を有する樹脂を用いてもよい。導電性を有する樹脂は、非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーを添加された樹脂で構成することができる。非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等、優れた耐電位性を有した材料が用いられる。導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、およびSbからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物が挙げられる。
【0014】
正極層を構成する正極活物質層としては、特に制限されないが、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、Li(Ni-Mn-Co)O等の層状岩塩型活物質、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型活物質、LiFeSiO、LiMnSiO等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の酸化物活物質としては、例えば、LiTi12が挙げられる。リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が好ましく用いられ、さらに好ましくはLi(Ni-Mn-Co)Oおよびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)が用いられる。NMC複合酸化物は、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、Pなどが挙げられる。
【0015】
正極活物質層には、硫黄系正極活物質が用いられてもよい。硫黄系正極活物質としては、有機硫黄化合物または無機硫黄化合物の粒子または薄膜が挙げられ、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であればよい。有機硫黄化合物としては、ジスルフィド化合物、硫黄変性ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。無機硫黄化合物としては、硫黄(S)、S-カーボンコンポジット、TiS、TiS、TiS、NiS、NiS、CuS、FeS、LiS、MoS、MoS等が挙げられる
【0016】
なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよい。正極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されない。正極活物質層は、必要に応じて、固体電解質、導電助剤、バインダの少なくとも1つをさらに含有してもよい。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられ、後述する固体電解質23を構成可能な固体電解質として例示されたものなどを用いることができる。
【0017】
導電助剤としては、特に限定されないが、その形状が、粒子状または繊維状であるものであることが好ましい。導電助剤が粒子状である場合、粒子の形状は特に限定されず、粉末状、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状等、いずれの形状であっても構わない。
【0018】
導電助剤が粒子状である場合の平均粒子径(一次粒子径)は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましい。
【0019】
バインダとしては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を含む)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子;テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂;ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム;エポキシ樹脂;等が挙げられる。中でも、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。
【0020】
負極22は、少なくとも1層の負極層を有しており、負極層は、負極側集電体と、当該負極側集電体の一部の主面に形成された負極活物質層で形成されている。負極側集電体は、電極タブ24bに接合されており、例えば、ニッケル箔、銅箔、ステンレス箔、または、鉄箔等の電気化学的に安定した金属箔である。
【0021】
負極活物質層は、少なくともLiを含む金属活物質が挙げられる。金属活物質として、Liを含有する金属が用いられる。このような金属活物質は、Liを含有する活物質であれば特に限定されず、Li金属のほか、Li含有合金が挙げられる。
【0022】
リチウム合金としては、たとえば、リチウムと、金(Au),マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、及びビスマス(Bi)から選択される少なくとも1種の金属との合金が挙げられる。また、リチウム合金としては、リチウムと、上述した金属のうち2種以上の金属との合金であってもよい。リチウム合金の具体例としては、例えば、リチウム-金合金(Li-Au)、リチウム-マグネシウム合金(Li-Mg)、リチウム-アルミニウム合金(Li-Al)、リチウム-カルシウム合金(Li-Ca)、リチウム-亜鉛合金(Li-Zn),リチウム-スズ合金(Li-Sn)、リチウム-ビスマス合金(Li-Bi)などが挙げられる。
【0023】
なお、負極活物質層としては、リチウム合金を含有するものである場合には、その構成は、特に限定されないが、たとえば、リチウム合金を構成するリチウム以外の金属を「Me」とした場合に、次の(1)~(3)のいずれかの態様とすることができる。
(1)リチウム合金のみからなる単一の層からなるもの(すなわち、Li-Me層)
(2)リチウム金属からなる層と、リチウム合金からなる層とを備えるもの(すなわち、Li層/Li-Me層)
(3)リチウム金属からなる層と、リチウム合金からなる層と、リチウム以外の金属からなる層とを備えるもの(すなわち、Li層/Li-Me層/Me層)
上記(2)の態様においては、リチウム合金からなる層(Li-Me層)を固体電解質23側の層(固体電解質23との界面を形成する層)とすることが望ましく、また、上記(3)の態様においては、リチウム以外の金属からなる層(Me層)を固体電解質23側の層(固体電解質23との界面を形成する層)とすることが望ましい。リチウム金属を含むリチウム金属層と、リチウム金属とは異なる金属を含む層(中間層)とする場合には、中間層は、リチウム金属層と固体電解質の間の層であり、リチウム金属のうち少なくとも一部と、中間層を形成する金属のうち少なくとも一部とが、合金化することが望ましい。
【0024】
例えば、負極を、上記(3)の態様、すなわち、リチウム金属からなる層と、リチウム合金からなる層と、リチウム以外の金属からなる層とを備える態様(すなわち、Li層/Li-Me層/Me層)とする場合には、リチウム金属と、リチウム以外の金属とを積層することで、これらの界面部分を合金化し、これにより、これらの界面にリチウム合金からなる層を形成することができる。なお、リチウム金属と、リチウム以外の金属とを積層する方法としては、特に限定されないが、リチウム金属からなる層の上に、リチウム以外の金属を真空蒸着などにより蒸着させることにより、リチウム金属からなる層の上に、リチウム以外の金属からなる層を形成しつつ、これらの界面を合金化させる方法が挙げられる。あるいは、リチウム以外の金属からなる層上に、リチウム金属を真空蒸着などにより蒸着させ、リチウム以外の金属からなる層の上に、リチウム金属からなる層を形成しつつ、これらの界面を合金化させる方法などが挙げられる。
【0025】
発電要素の固体電解質23は、上述した正極21と負極22との短絡を防止するものであり、上述した正極活物質層と負極活物質層との間に介在する層である。固体電解質23としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質、高分子固体電解質などが挙げられるが、硫化物固体電解質であることが好ましい。
【0026】
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS、LiPS、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiO、LiS-P-LiOLiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-ZmSn(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LixMOy(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「LiS-P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
【0027】
硫化物固体電解質は、例えば、LiPS骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよい。LiPS骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS、LiPSが挙げられる。また、Li骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、硫化物固体電解質は、P元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましく、硫化物固体電解質は、LiS-Pを主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含有していてもよい。
【0028】
また、硫化物固体電解質がLiS-P系である場合、LiSおよびPの割合は、モル比で、LiS:P=50:50~100:0の範囲内であることが好ましく、なかでもLiS:P=70:30~80:20であることが好ましい。また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4S/cm以上であることがより好ましい。なお、固体電解質23のイオン伝導度の値は、交流インピーダンス法により測定することができる。
【0029】
酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等が挙げられる。NASICON型構造を有する化合物の一例としては、一般式Li1+xAlGe2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlTi2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等が挙げられる。また、酸化物固体電解質の他の例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.5 TiO)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.30.46)、LiLaZrO(例えば、LiLaZr12)等が挙げられる。
【0030】
固体電解質23は、上述した電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。バインダとしては、特に限定されないが、例えば、上述したものを用いることができる。
【0031】
固体電解質の含有量は、例えば、10~100質量%の範囲内であることが好ましく、50~100質量%の範囲内であることがより好ましく、90~100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0032】
そして、図1に示すように、正極21と負極22は、固体電解質23を介して積層されている。なお、正極21及び負極22は単層に限らず、複数の層でもよく、複数の層を積層する場合には、正極層と負極層の間に固体電解質23の層を介在させつつ、正極層と負極層を交互に積層すればよい。
【0033】
電極タブ24a、24bは、二次電池20の外部と電気的に接続するための部材であって、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔、銅箔、または、ニッケル箔等を用いることができる。
【0034】
以上のように構成されている発電要素は、外装部材25に収容されて封止されている。外装部材25は、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂フィルムや、アルミニウムなどの金属箔の両面をポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂でラミネートした、樹脂-金属薄膜ラミネート材など、柔軟性を有する材料で形成されており、上側の外装部材25および下側の外装部材25を熱融着することにより、電極タブ24aおよび電極タブ24bを外部に導出させた状態で、発電要素が封止されることとなる。
【0035】
セル拘束部材26は、二次電池2の上下面から面圧を加え、二次電池20を拘束する。セル拘束部材26は、例えば板バネなどの弾性体などで構成されている。二次電池20は、充放電中、セル拘束部材26により積層方向の圧力を受ける。後述するように、本実施形態では、二次電池20は、二次電池20の回復制御中も、セル拘束部材26により積層方向の圧力を受ける。
【0036】
電圧センサ30は、二次電池20の入出力電圧を検出するためのセンサであり、二次電池20の正極と負極との間のセル電圧(端子間電圧)を検出する。電圧センサ30の接続位置は特に制限されず、二次電池20に接続される回路内において正極と負極との間のセル電圧を検出できる位置であればよい。
【0037】
温度センサ40は、二次電池20の外表面温度(セル温度)を検出する。温度センサ4は、例えば、二次電池20のケース(外装体、筐体)の表面などに取り付けられる。
【0038】
電圧電流調整部50は、二次電池20の充電時及び/又は放電時の電池電流及び電池電圧を調整するための回路であって、コントローラ90からの指令に基づき、二次電池20の電流/電圧を調整する。電圧電流調整部50は、外部電源100から出力される電力を二次電池の充電電圧に変換するための電圧変換回路等を有している。
【0039】
電流センサ60は、二次電池20の入出力電流を検出するためのセンサである。電流センサ60は、二次電池20の充電時には電圧電流調整部50から二次電池20へ供給される電流を検出し、放電時には二次電池20から電圧電流調整部50へ供給される電流を検出する。
【0040】
ヒータ70は、二次電池20の温度を高める装置である。ヒータ70は、二次電池20の付近に設置されている。
【0041】
インピーダンス測定器80は、コントローラ90からの制御指令に基づき、所定の周期で、単一の周波数成分からなる交流摂動電流を入力信号として二次電池2へ印加し、当該交流摂動電流に応じた応答電圧を取得することにより、二次電池2の交流インピーダンス(複素インピーダンス)を測定する。インピーダンス測定器80は測定結果をコントローラ90に出力する。
【0042】
コントローラ90は、CPU91及び記憶部92等を有する制御装置である。コントローラ90は、インピーダンス測定器80の測定結果から、二次電池20のセル抵抗を算出し、二次電池20の充放電深度、二次電池20のセル温度、及び二次電池20に加わる拘束力(圧力)から回復限界抵抗値を算出し、検出されたセル抵抗の抵抗値が回復限界抵抗値以下である場合に、二次電池20の充放電を禁止して、二次電池20を回復させる回復制御を実行する。二次電池20の回復限界抵抗値及び回復制御の詳細については後述する。また、コントローラ90は、電圧センサ30により検出された二次電池20の端子間電圧、及び、電流センサ60により検出された二次電池20に流れる充放電電流に基づいて、二次電池20の充放電を制御する。
【0043】
外部電源100は、二次電池20を充電するための電源である。電源には、例えば三相200Vの交流電源が使用される。外部電源100は、単相100V又は単相200Vの交流電源でもよい。また外部電源100は、交流に限らず直流電源でもよい。
【0044】
次いで、本実施形態における二次電池20の充電制御方法と、二次電池20の回復制御方法について説明する。本実施形態においては、以下に説明する、二次電池20の充電制御は、電圧電流調整部50及びコントローラ90で実行される。また、二次電池20の回復制御は、セル拘束部材26、ヒータ70、及びコントローラ90により実行される。二次電池20の回復制御は、二次電池20の充放電の禁止中に、実行される。
【0045】
まず、二次電池20の充電制御について説明する。本実施形態においては、コントローラ90は、二次電池20の充電電圧が所定の上限電圧に達するまで電流を徐々に高めて、二次電池20の充電電流が設定電流に達したら、電流値を一定にする(いわゆる定電流制御;CC充電)。二次電池20の充電中、コントローラ90は、電圧センサ30及び電流センサ60から検出値を取得し、二次電池20に流れている電流及び二次電池20に印加される電圧を管理している。またコントローラ90は、電圧センサ30の検出電圧に基づき、二次電池20の充電深度(SOC)を管理している。本実施形態では、設定電流にて二次電池20の充電を行うことにより、二次電池20のSOCが増加し、二次電池20の電圧が徐々に上昇していく。
【0046】
二次電池20の電圧が上限電圧に達すると、コントローラ90は、上限電圧にて定電圧充電(CV充電)を行う。二次電池20の電圧が上限電圧に維持された状態のまま、二次電池20のSOCの増加に伴い、充電電流が減衰していくこととなる。そして、本実施形態では、充電電流が減衰していき、カットオフ電流値まで低下すると、二次電池20の充電を終了する。本実施形態においては、このようにして二次電池20の充電制御が行われる。なお、充電方法は、上記説明のような、いわゆるCC-CV充電に限らず、他の方式の充電方法でもよい。
【0047】
次いで、二次電池20の回復制御について説明する。本実施形態では、二次電池20の状態を検知するために、まず二次電池20のセル抵抗を測定する。二次電池20のセル抵抗は、いわゆる内部抵抗であって、二次電池20の充放電中に、インピーダンス測定器80の測定結果から算出される。交流インピーダンスの測定方法では、電解質抵抗と反応抵抗を区別して測定することができるため、負極に生じるボイドにより変化しやすい抵抗値を適宜、選択して、セル抵抗を算出すればよい。なお、セル抵抗の算出方法は、交流インピーダンス測定方法に限らず、その他、周知の方法を用いればよい。また、コントローラ90は、インピーダンス測定器80の測定結果を、二次電池20のセル抵抗としてそのまま用いてもよい。
【0048】
二次電池20の充放電サイクルを重ねると、負極活物質としてのリチウム金属又はリチウム合金(なお、以下の説明において、リチウム金属又はリチウム合金を単に「リチウム金属」と称する。)を含む負極にボイドが生じ、反応面積が低下するため、二次電池20のセル抵抗が上昇するという現象が発生する。本実施形態では、このボイドの発生を予測するために、二次電池20のセル抵抗を測定している。
【0049】
二次電池20のようないわゆる全固体電池は、イオン輸送に固体を使用しているため、各材料間の接触を良好にする必要がある。二次電池20を放電又は充電させると、リチウム金属の溶解析出反応時に、物理的又は化学的な不均一性によって、リチウム金属と固体電解質の界面部分にボイドが発生する。つまり、リチウム金属が溶解してイオンとなった部分が窪んでボイドになる。ボイドが発生すると、固体電解質との非接触部分となり、界面部分において、反応面積が低下し、これに起因して、二次電池20のセル抵抗が上がる。そして、抵抗上昇に伴い、二次電池2の電圧の上昇(過電圧)が起こる。
【0050】
下記式(1)に、二次電池2の内部抵抗の算出式を示す。ただし、Rはセル抵抗の抵抗値を、ρは固体電解質の抵抗率を、lは極間距離を、Aは反応面積を示す。
【数1】
【0051】
ボイドが発生すると、負極と固体電解質の界面部分における接触面積が小さくなるため、反応面積(A)が低下する。式(1)に示すように、反応面積Aの低下により、セル抵抗(R)が大きくなる。つまり、セル抵抗の測定により、セル抵抗が上昇していることを検知することで、ボイドの発生を予測できる。
【0052】
本実施形態においては、リチウム金属を含む負極22に対して圧力を加えることで、リチウム金属が形状変化する、いわゆるクリープ現象を起こさせる。リチウム金属の形状が延性変化し、これにより、ボイドが潰され、リチウム金属表面の平滑性が回復することで、界面の接触性が向上する。すなわち、本実施形態では、ボイドの発生を、二次電池2のセル抵抗から検知した上で、リチウム金属のクリープ現象と二次電池2に加わる面圧を利用して、リチウム金属と固体電解質との界面にできたボイドを埋め、セル抵抗を下げている。これにより、二次電池2の電圧上昇を抑制し、二次電池2の性能を回復できる。
【0053】
コントローラ90は、二次電池20を回復可能な抵抗の上限値を示す回復限界抵抗値を算出する。本実施形態では、リチウム金属のクリープ現象を利用して回復制御を行うことから、回復限界抵抗値は、リチウム金属のクリープ量に対応したものとする。図2を参照し、リチウム金属のクリープ量について説明する。図2は、リチウム金属のクリープ量を説明するための概念図である。図2(a)は、クリープ現象が生じる圧力以上の圧力がリチウム金属に加わっていない場合のリチウム金属の状態を示しており、図2(b)は、クリープ現象が生じる圧力以上の圧力がリチウム金属に加わっている場合のリチウム金属の状態を示している。
【0054】
リチウム金属を加圧するとリチウム金属の形状が延性変化する。図2の例では、リチウム金属はz方向を法線方向とした面圧を受けて、リチウム金属はxy方向に広がるように変形している。そして、リチウム金属の変形により、ボイドを埋めるように移動した分のリチウム金属の体積がクリープ量に相当する。クリープ量は、二次電池20に加わる圧力の大きさ、二次電池20の温度、及び、リチウム金属の厚み(膜厚)により決まる。二次電池20に加わる圧力を高くすれば、リチウム金属の変形量も大きくなるため、クリープ量は大きくなる。また、二次電池20の温度を高くすると、リチウム金属は柔らくなるため、クリープ量は大きくなる。また、リチウム金属の厚みが厚いほど、リチウム金属の変形量が大きくなるため、クリープ量は大きくなる。つまり、二次電池20に加わる圧力が高くなるほどクリープ量は大きくなり、二次電池20の温度が高くなるほどクリープ量は大きくなり、リチウム金属の厚みが大きくなるほどクリープ量は大きくなる。
【0055】
またクリープ量には上限値がある。例えば、図2(b)に示すリチウム金属の状態が変形の限界の状態とする。図2(b)に示すように、リチウム金属の形状がx方向とy方向に延性変化する。クリープ量は、x方向とy方向に延性変化部分の体積に相当する。クリープ現象により、リチウム金属がボイドを埋めるように移動するため、リチウム金属と固体電解質との接触面積が増加する。この接触面積は、固体電解質抵抗を決める底面積となるため、接触面積の増加により、二次電池20のセル抵抗が低くなる。そして、クリープ量の上限値でリチウム金属が延性変化することで、リチウム金属と固体電解質の界面において、広がった分の接触面積が最大になるときが、二次電池20を回復可能な抵抗(回復制御で低下できる抵抗)の上限値(回復限界抵抗値)となる。つまり、リチウム金属が限界のクリープ量で変形した場合に、回復限界抵抗値は、リチウム金属と固体電解質の界面において広がった分の接触面積から決まる。また、クリープ量は、二次電池20に加わる圧力の大きさ、二次電池20の温度、及びリチウム金属の厚み(膜厚)により決まるため、回復限界抵抗値も、これらの関係から決まる。さらに、二次電池20の充放電に応じて、リチウム金属からリチウムイオンの溶解析出が起こることから、リチウム金属の厚みは、二次電池20の充放電深度と相関性を有している。そのため、二次電池20の回復限界抵抗値は、二次電池20に加わる圧力の大きさ、二次電池20の温度、及び二次電池20の充放電深度から決まる。
【0056】
コントローラ90は、二次電池20に加わる圧力の大きさ、二次電池20のセル温度、及び二次電池20の充放電深度と、回復限界抵抗値との相関性を示すマップ(以下、「回復限界抵抗値マップ」と称する)を、メモリ92に予め格納している。なお、回復限界抵抗値マップで示される相関性は、負極22に使う材料等によって、予め実験的に決まる。回復限界抵抗値は、二次電池20のセル抵抗の初期値を起点として回復可能な抵抗値の上限を示している。コントローラ90は、二次電池2の充放電中、電圧センサ30及び電流センサ60の検出値を用いて、二次電池20の充電深度(SOC)を管理している。二次電池20の充放電中に回復限界抵抗値を算出する場合には、コントローラ90は、管理しているSOCを、回復限界抵抗値を算出するための充放電深度として用いればよい。コントローラ90は、充放電終了時又は充放電終了後に、回復限界抵抗値を算出してもよい。充放電終了時の回復限界抵抗値を算出する際には、必ずしも充放電制御を終了した時点のSOC又は放電状態(DOD)を用いる必要はなく、例えば目標SOCが決まっている場合には、コントローラ90は、目標SOCを、回復限界抵抗値を算出するための充放電深度に用いてもよい。さらに、コントローラ90は、放電終了時の放電深度(DOD)を、回復限界抵抗値を算出するための充放電深度に用いてもよい。なお、充放電深度は、二次電池20の充電中若しくは充電終了時の充電状態(SOC)、又は、二次電池20の放電中若しくは放電終了時の放電状態(DOD)のうち、少なくとも1つの値で示されればよい。
【0057】
コントローラ90は、温度センサ40から二次電池20のセル温度を取得し、回復限界抵抗値を算出する。また、コントローラ90は、セル拘束部材26により二次電池20に加わる圧力(圧力値)を用いて、回復限界抵抗値を算出する。コントローラ90は、回復限界抵抗値マップを参照し、当該マップにおいて、二次電池20の充放電深度、二次電池20のセル温度、及び二次電池20に加わる圧力に対応する回復限界抵抗値を算出する。コントローラ90は、後述する回復制御を実行するか否かを判定するための抵抗閾値を設定する。抵抗閾値は、回復限界抵抗値以下の値であって、例えば、回復限界抵抗値に対して80%又は90%の値に設定される。
【0058】
次に、コントローラ90は、二次電池20のセル抵抗の初期値と現在のセル抵抗との差分から、Δセル抵抗(Δセル抵抗=現在のセル抵抗-セル抵抗の初期値)を算出する。セル抵抗の初期値は、例えば二次電池20の出荷時の抵抗値である。Δセル抵抗は、セル抵抗の初期値からの抵抗の増加分の抵抗値を示している。リチウム金属を含む負極にボイドが発生すると、二次電池20のセル抵抗も上昇するため、Δセル抵抗が上昇する。
【0059】
コントローラ90は、Δセル抵抗と抵抗閾値とを比較し、Δセル抵抗が抵抗閾値以上になった場合に、二次電池20の充放電を禁止する。例えば、コントローラ90は、二次電池20の充放電中、Δセル抵抗を算出する場合には、Δセル抵抗が抵抗閾値以上になった時点で、二次電池20の充放電を中止する。また、コントローラ90は、二次電池20の充放電の終了時にΔセル抵抗及び回復限界抵抗値を算出する場合に、Δセル抵抗が抵抗閾値以上になったときには、次の充放電を行う前に、回復制御を実行する。
【0060】
図3は、判定閾値(Rth)、回復限界抵抗値(Rlim)、Δセル抵抗(ΔR)、セル抵抗の初期値(R)、及びセル抵抗の現在値(R)の関係を説明するためのグラフである。縦軸は抵抗値を示し、横軸は二次電池20の使用時間を示している。二次電池20の使用時間は充放電サイクル数に対応している。なお、二次電池20のセル抵抗は、必ずしも使用時間に比例して増加しないが、図3では、説明を簡単にするために、使用時間に比例して増加するグラフで、二次電池20のセル抵抗を表している。
【0061】
回復限界抵抗値(Rlim)は、二次電池20のセル抵抗初期値(R)を起点として回復可能な抵抗値の上限を示している。すなわち、図3の例では、二次電池20のセル抵抗が、初期値(R)に対して、回復限界抵抗値(Rlim)分、増加するまで、二次電池20を回復できる。そして、判定閾値(Rth)は、初期値(R)を起点とした値であり、回復限界抵抗値(Rlim)より低い値に設定されている。二次電池20は時間tから使用され、二次電池20のセル抵抗は初期値(R)である。使用時間が経過すると、二次電池20のセル抵抗は上昇する。時間(t)の時点で、二次電池20のセル抵抗の現在値はRc1となり、Δセル抵抗はΔR(=Rc1-R)となる。このとき、Δセル抵抗(ΔR)は判定閾値(Rth)より低いため、コントローラ90は回復制御を実行しない。さらに使用時間が経過し、ボイドが発生すると、時間(t)の時点で、二次電池20のセル抵抗の現在値はRc2となり、Δセル抵抗はΔR(=Rc2-R)となる。このとき、Δセル抵抗(ΔR)は判定閾値(Rth)以上になるため、コントローラ90は回復制御を実行する。
【0062】
このように、図3の例では、ボイドを起因としたセル抵抗の上昇を、Δセル抵抗のような、セル抵抗の初期値と現在のセル抵抗の差から検知している。そのため、回復限界抵抗値は、セル抵抗の初期値(R)を起点とした上限値で示されている。すなわち、本実施形態では、Δセル抵抗を、二次電池20のセル抵抗の抵抗値として算出し、算出された抵抗値と判定閾値とを比較している。なお、ボイドを起因としたセル抵抗の上昇は、セル抵抗の大きさから検知してもよい。セル抵抗の大きさは、ゼロを起点とした値で表されるため、回復限界抵抗値も、ゼロを起点とした上限値とすればよい。判定閾値も、ゼロを起点とした閾値となる。そして、二次電池20のセル抵抗の現在値と、判定閾値が比較され、セル抵抗の現在値が判定閾値以上になった場合には、コントローラ90は回復制御を実行する。すなわち、本実施形態では、セル抵抗の現在値を、二次電池20のセル抵抗の抵抗値として算出し、算出された抵抗値と判定閾値とを比較し、比較結果に応じて回復制御を実行してもよい。
【0063】
二次電池20の回復制御は、セル拘束部材26により、二次電池20へ圧力を加えた状態を、所定の回復時間、維持することで実行される。なお、コントローラ90は、二次電池20へ圧力を加えつつ、ヒータ70を調整して二次電池20の温度を高くすることで、二次電池20の回復制御を実行してもよい。回復制御時、リチウム金属のクリープ変形が生じる圧力以上の圧力が、二次電池20に加わるように、コントローラ90はセル拘束部材26を制御する。セル拘束部材26により二次電池20に圧力を加えた状態で、二次電池20は使用されるため、回復制御では、二次電池20の使用時に加わる圧力を、そのまま回復制御用の圧力として加えてもよい。また、コントローラ90は、二次電池20の使用時の圧力よりも高くした圧力を、回復制御用の圧力として加えてもよい。
【0064】
コントローラ90は、二次電池20の充放電深度、二次電池20のセル温度、及び二次電池20に加わる圧力の大きさから、二次電池20の回復に必要な必要回復時間を算出する。必要回復時間は、回復制御により、二次電池20のセル抵抗を回復限界抵抗値分、低下させるために必要な時間である。コントローラ90は、少なくとも必要回復時間の間、回復制御を実行する。つまり、二次電池20の充放電を停止している時間を休止時間とすると、休止時間は必要回復時間以上の時間となる。回復制御では、二次電池20の充放電が禁止され、セル拘束部材26による面圧が二次電池20に加わる。リチウム金属の変形速度は、二次電池20に加わる圧力が高いほど、又は、二次電池20のセル温度が高いほど、速くなる。また、二次電池20の充電深度が高い場合、又は、二次電池20の放電深度が低い場合には、二次電池20の厚みが厚くなり、リチウム金属の変形量が多くなるため、リチウム金属の変形速度が速くなる。そして、必要回復時間は、リチウム金属の変形速度により決まるため、必要回復時間は、二次電池20の充放電深度、二次電池20のセル温度、及び二次電池20に加わる圧力の大きさとの間で相関性を有している。コントローラ90は、二次電池20に加わる圧力の大きさ、二次電池20のセル温度、及び二次電池20の充放電深度と、回復時間との相関性を示すマップ(以下、「必要回復時間マップ」と称する)を、メモリ92に予め格納しており、必要回復時間マップを参照して、必要回復時間を算出する。コントローラ90は、二次電池20の充放電中、又は、二次電池20の充放電終了後に、必要回復時間を算出する。
【0065】
そして、算出された必要回復時間の間、二次電池20の回復制御が実行されると、セル拘束部材26による面圧がリチウム金属に加わり、クリープ変形が生じる。クリープ変形により、リチウム金属がボイドを埋めるように移動し、ボイドが埋まる。リチウム金属に加圧した状態で時間が経過すると、クリープ量が徐々に大きくなり、リチウム金属がボイドをさらに埋める。
【0066】
図4は、リチウム金属を加圧した時間に対するリチウム金属のクリープ量の特性を示すグラフである。図4に示すように、時間の経過とともに、クリープ量は徐々に大きくなる。クリープ量が大きくなると、ボイドがリチウム金属への加圧により潰れ、ボイド部分の体積が小さくなる。クリープ量の上限値(Lmax)は、回復限界抵抗値の抵抗を回復するために必要となるクリープ量である。図4では、リチウム金属を加圧した時間が、時間tになると、クリープ量は上限値(Lmax)に達し、時間t以降、クリープ量はわずかに上昇するがほぼ一定になる。つまり、リチウム金属への加圧の開始時から時間tまでは、回復が見込まれるが、時間t以降は回復が見込まれない。コントローラ90により算出される回復限界抵抗値は、クリープ量の上限値(Lmax)に対応する。回復制御は、Δセル抵抗が回復限界抵抗値以下である場合に実行されるため、図4に示す範囲では、回復が見込まれる範囲内で、回復制御が実行される。そして、算出された必要回復時間の間、回復制御が実行され、リチウム金属のクリープ量が大きくなると、ボイドが潰れて、リチウム金属と固体電解質の界面における接触性が向上する。これにより、セル抵抗が低くなり、二次電池20の回復が図られる。またΔセル抵抗が回復限界抵抗値以下である状態で、回復制御は実行されるため、二次電池20の可逆性を保ちつつ、二次電池20の回復を図ることができる。
【0067】
次いで、二次電池20の回復制御方法について説明する。図5は、回復制御システムにおける制御処理の手順を示すフローチャートである。
【0068】
コントローラ90は、二次電池20の充電又は放電を開始すると、図5に示す制御処理を実行する。ステップS1において、コントローラ90は、二次電池20に流れる電流が所定のプロファイルと一致するように、電圧電流調整部50を制御することで、二次電池20の充電又は放電を制御する。ステップS2において、コントローラ90は、電圧センサ30、電流センサ60、及び温度センサ40から、二次電池20の検出電圧、検出電流、検出温度(セル温度)を取得する。コントローラ90は、ステップS1及びステップS2の制御処理を繰り返し実行することで、二次電池20の充電又は放電を行う。なお、ステップS1及びステップS2の制御処理を繰り返し実行中に、例えば、二次電池20の充電深度が目標SOCに達した場合など、二次電池20の充放電制御を終了する場合には、図5のステップS1からステップS6までの制御ループを抜けて、コントローラ90は回復制御を実行しない。
【0069】
ステップS3において、コントローラ90は、インピーダンス測定器80の測定値から、二次電池20のセル抵抗を算出する。またコントローラ90は、二次電池20のセル抵抗の初期値と現在の抵抗値との差分をとることで、Δセル抵抗を算出する。
【0070】
ステップS4において、コントローラ90は、回復限界抵抗値マップを参照し、二次電池20の充放電深度、二次電池20のセル温度、及び二次電池20に加わる圧力から、二次電池20の回復限界抵抗値を算出する。二次電池20の充放電深度は、ステップS2の制御処理で取得した二次電池20の検出電圧及び/又は検出電流から算出される。二次電池20のセル温度は、ステップS2の制御処理で取得した温度センサ40の検出値である。ステップS5において、コントローラ90は、回復限界抵抗値に所定の係数を乗ずることで、抵抗閾値(Rth)を設定する。係数は1以下の値であり、例えば0.8から0.9の間に設定される。
【0071】
ステップS6において、コントローラ90は、Δセル抵抗(ΔR)と抵抗閾値(Rth)とを比較し、Δセル抵抗(ΔR)が抵抗閾値(Rth)以上であるか否かを判定する。Δセル抵抗(ΔR)が抵抗閾値(Rth)未満である場合には、コントローラ90は、制御フローをステップS1に戻し、充放電制御を実行する。Δセル抵抗(ΔR)が抵抗閾値(Rth)以上である場合には、コントローラ90は、リチウム金属を含む負極に発生したボイドにより二次電池20のセル抵抗が上昇しており、Δセル抵抗が回復限界抵抗値に近い値まで上昇しているため、回復制御が必要であると判定する。
【0072】
ステップS7において、コントローラ90は、充放電制御を停止する。ステップS8において、コントローラ90は、必要回復時間マップを参照し、二次電池20の充放電深度、二次電池20のセル温度、及び二次電池20に加わる圧力から、回復制御の必要回復時間を算出する。ステップS9において、コントローラ90は、回復制御を実行する。そして、回復制御を開始した時点からの経過時間が必要回復時間に達すると、コントローラ90は回復制御を終了させる。すなわち、回復制御は、Δセル抵抗の抵抗値(ΔR)が抵抗閾値(Rth)に達した時点で実行されるため、コントローラ90は、セル抵抗の抵抗値が回復限界抵抗値以下である場合に、充放電制御を禁止して回復制御を実行する。算出された必要回復時間の間、回復制御が実行されると、二次電池20の性能は回復する。そして、二次電池20を回復させた後に、コントローラ90は、外部からの要求等に応じて、二次電池20を充放電する。
【0073】
また本実施形態において、コントローラ90は、必要回復時間が短くなるように、二次電池20を充電する充電パラメータ、及び/又は、回復制御を実行する実行パラメータを設定した上で、回復制御を実行してもよい。必要回復時間は、二次電池20の充放電深度、二次電池20のセル温度、及び二次電池20に加わる圧力の大きさとの間で相関性を有しているため、これらのパラメータを調整することで、必要回復時間を変えることができる。例えば、回復制御を実行する時に、二次電池20のセル温度が低い場合、又は、セル拘束部材26により二次電池20加わる圧力が低い場合には、リチウム金属の変形速度は遅くなる。そのため、算出された必要回復時間が所定の閾値より長い場合には、コントローラ90は、回復制御を実行する実行パラメータを調整する。実行パラメータは、二次電池20のセル温度、及び二次電池20に加わる圧力のうち少なくとも1つのパラメータで表される。充電パラメータは、二次電池20の充電時間又は充電深度である。
【0074】
図6は、回復制御の実行パラメータ又は充電制御の充電パラメータと必要回復時間との関係を示すグラフである。図6(a)は二次電池20のセル温度と必要回復時間との相関性を示すグラフであり、図6(b)は二次電池20に加わる圧力と必要回復時間との相関性を示すグラフであり、図6(c)は二次電池20の充電深度(又は二次電池20の厚み)と必要回復時間との相関性を示すグラフである。
【0075】
図6(a)~(c)に示すように、二次電池20の温度が高いほど、二次電池20に加わる圧力が高いほど、二次電池20の充電深度が高いほど、必要回復時間が短くなる。図6(a)の例で、セル温度がTの時に、コントローラ90により算出された必要回復時間がtr_Hであるとする。この場合に、算出された必要回復時間(tr_H)が所定の閾値より長いため、コントローラ90は、ヒータ70を制御して、二次電池20のセル温度をTまで高くする。所定の閾値は、予め設定されている時間閾値である。セル温度がTからTに高くなると、必要回復時間は、tr_Hからtr_Lに短くなる。このように、本実施形態において、コントローラ90は、二次電池20のセル温度を現在の温度よりも高める温度制御を回復制御に含めた上で、回復制御を実行する。
【0076】
また、算出された必要回復時間が所定の閾値より長い場合に、コントローラ90は、二次電池20に加わる圧力を現在の圧力よりも高くなるように、セル拘束部材26を制御して、回復制御を実行する。図6(b)に示すように、回復制御を実行する際に、二次電池20に加わる圧力を高くすることで、必要回復時間を短くすることができる。このように、本実施形態において、コントローラ90、二次電池20に加わる圧力を現在の圧力よりも高くする圧力制御を回復制御に含めた上で、回復制御を実行する。なお、二次電池20はセル拘束部材26により圧力を加えた状態で使用されるため、例えば、二次電池20充放電制御時に、二次電池20に加わる圧力よりも、回復制御時の圧力を高くすればよい。
【0077】
また、算出された必要回復時間が所定の閾値より長い場合に、コントローラ90は、二次電池20の充電深度を現在の充電深度よりも高くする。図6(c)に示すように、二次電池20の充電深度を高くすることで、必要回復時間を短くすることができる。コントローラ90は、必要回復時間を算出し、算出された必要回復時間が所定の閾値より長い場合に、回復制御を実行する前に二次電池20の充電制御を実行して二次電池20の充電深度を高くする。そして、二次電池の充電深度を高くした後に、コントローラ90は、充電制御を停止して回復制御を実行する。
【0078】
図7は、リチウム金属の厚み、回復制御の実行時間、及びリチウム金属のクリープ量の相関性を示すグラフである。図7において、横軸は時間を縦軸はクリープ量を示す。またグラフаは、リチウム金属を含む負極の厚みが薄い場合(例えば100μm)の特性を示しており、グラフbはリチウム金属を含む負極の厚みが厚い場合(例えば200μm)の特性を示している。リチウム金属を負極に用いた場合に、負極の膜厚を増やすことでクリープ量を大きくすることができる。充電深度が低い場合には、負極の厚みは薄いため、リチウム金属のクリープ変形による回復効果は小さい。負極の厚みを厚くするためには、充電深度を高くすることが有効的である。図7の例で、グラフаに示すように、負極の厚みが薄い場合に、リチウム金属のクリープ量(L)を得るためには、回復制御の実行時間(tа)が必要となる。一方、充電深度を高くして負極の厚みが厚くなった場合には、グラbに示すように、リチウム金属のクリープ量(L)を得るためには、回復制御の実行時間(t)が必要となり、回復制御の実行時間(t)は、厚みが薄い時の回復制御の実行時間(tа)よりも短くなる。また、図7の例で、二次電池20のセル温度と二次電池20に加わる圧力を同じ条件として、回復制御の実行時間(t)で回復制御を行った場合には、負極の厚みが厚い時のクリープ量(L)は、負極の厚みが薄い時のクリープ量(Lа)と比べて約2倍になる。つまり、リチウム金属を含む負極の厚みを2倍にすると、クリープ量も2倍になる。
【0079】
このように、本実施形態において、コントローラ90は、必要回復時間を短くしたい場合、又は、リチウム金属のクリープ量を大きくして回復限界抵抗値を高くしたい場合には、回復制御を実行する前に二次電池20の充電制御を行うことで、回復制御を開始する時の充電深度を所定の充電深度以上にする。所定の充電深度は、予め設定された充電深度の閾値、あるいは、必要回復時間の短縮又はクリープ量を増加させるための充電制御を実行する直前の充電深度である。これにより、リチウム金属の変形速度を高めて、ボイドを早期に潰し必要回復時間を短縮させることができる。あるいは、リチウム金属のクリープ量を増加させて、回復可能な抵抗値を高めることができる。なお、回復制御を実行する前に、二次電池20の充電深度が目標SOCに達するまで充電する制御を行っている場合には、目標SOCを高めることで、必要回復時間又はリチウム金属のクリープ量を増加させてもよい。
【0080】
また本実施形態では、回復制御において、二次電池20に加わる圧力を制御する際に、コントローラ90は、少なくとも、クリープ変形が生じる圧力以上の圧力を二次電池20に加わるように、セル拘束部材26を制御する。図8は、二次電池20に加わる圧力、回復制御の実行時間、及びクリープ量の相関性を示すグラフである。図8において、横軸は時間を縦軸はクリープ量を示す。またグラフаは低圧の時の特性を示しており、グラフbは高圧の時の特性を示している。なお、二次電池20に加わる圧力が負極のクリープ変形が生じる圧力未満である場合には、クリープ変形が生じないため、クリープ量はゼロ又はゼロに近い値になる。クリープ変形が生じる圧力以上の圧力を二次電池20に加えると、回復制御の実行時間の経過とともに、クリープ量が大きくなる。そして、回復制御の実行時間を同じ時間として、圧力が高いときのクリープ量と、圧力が低いときのクリープ量を比較すると、圧力が高いときのクリープ量が、圧力が低いときのクリープ量より大きくなる。すなわち、圧力が高くなると、単位時間あたりのクリープ量が大きくなる分、必要回復時間も短くすることができる。このように、本実施形態において、コントローラ90は、回復制御を実行する場合には、リチウム金属を含む負極のクリープ変形が生じる圧力以上の圧力を二次電池20に加える。また、コントローラ90は、必要回復時間を短くするために、二次電池20に加える圧力を高くする。これにより、圧力を高めることでリチウム金属の変形速度を高めて、ボイドを早期に潰し必要回復時間を短縮させることができる。
【0081】
また本実施形態では、回復制御において、必要回復時間を短くするために二次電池20のセル温度を高める場合には、負極に含まれるリチウム金属(リチウム合金の場合には、リチウム合金に含まれるリチウム金属)の溶融点(180℃)以下の範囲で、回復制御が実行される。以下の表は、セル温度に対する、リチウム金属箔の硬さを表す。
【表1】
【0082】
表1に示すように、セル温度が高くなると、リチウム金属は柔らかくなる。コントローラ90は、必要回復時間を短くするために二次電池20のセル温度と高くする場合に、二次電池20のセル温度がリチウム金属の溶融点(180℃)以下の範囲で、セル温度が高くなるよう、セル拘束部材26を制御する。これにより、リチウム金属を柔らかくし、リチウム金属の変形速度を高めて、ボイドを早期に潰し必要回復時間を短縮させることができる。
【0083】
また本実施形態において、算出された必要回復時間が所定の閾値より長い場合に、コントローラ90は、二次電池20のセル温度、二次電池20に加わる圧力、及び二次電池20の充電深度のうち、少なくとも2つのパラメータを組み合わせて、各パラメータを高めることで、必要回復時間を短くしてもよい。図9は、二次電池20のセル温度と必要回復時間との相関性を示すグラフである。例えば、二次電池20の充電深度が10%であり、二次電池20のセル温度が25℃であり、算出された必要回復時間が所定の閾値より長かったとする。さらに、二次電池20のセル温度の制御のみで必要回復時間を所定の閾値以下まで短くしようとした場合に、二次電池20のセル温度を180℃まで上げる必要があったとする。負極に含まれるリチウム金属の溶融点は180℃であるため、セル温度を180℃まで上げることは現実的ではない(図9の矢印aに相当)。そのため、コントローラ90は、必要回復時間を短くするために、セル温度を60℃にし(図9の矢印bに相当)、二次電池20の充電深度を現在の3倍にする。これにより、二次電池20を、リチウム金属の溶融点より低い温度に保ちつつ、必要回復時間を短縮させることができる。なお、セル温度と充電深度をそれぞれ高める例を挙げて説明したが、例えば充電深度と二次電池20に加わる圧力をそれぞれ高めることで、必要回復時間を短くしてもよい。
【0084】
また本実施形態において、コントローラ90は、二次電池20のセル温度、二次電池20に加わる圧力、及び二次電池20の充電深度のうち、少なくとも2つのパラメータを組み合わせて、各パラメータを高めることで、回復限界抵抗値を高めてもよい。回復限界抵抗値は、二次電池20に加わる圧力の大きさ、二次電池20のセル温度、及び二次電池20の充放電深度との間で相関性を有しており、圧力が高いほど、セル温度が高いほど、又は、充電深度が高いほど、回復限界抵抗値が高くなる。そのため、複数のパラメータを高めることで、回復限界抵抗値を高めてもよい。そして、回復限界抵抗値が高くなると、リチウム金属のクリープ量が大きくなり、回復制御により回復可能な抵抗値が高くなる。
【0085】
また本実施形態において、コントローラ90は、算出された必要回復時間の長さに応じて、二次電池20の充電時間を算出し、回復制御前に、算出された充電時間で二次電池20を充電してもよい。図10は、二次電池20の充電時間、二次電池20の充電深度、及び必要回復時間の相関性を示すグラフである。横軸は充電時間を示し、実線の縦軸は充電深度を、点線の縦軸は必要回復時間を示す。充電終了時の二次電池20の充電深度を高くする場合には、充電容量を大きくする必要があるため、グラフaに示すように、充電深度が高くなるほど、充電時間は長くなる。なお、充電開始時の充電深度に応じて、グラフaは、図10に示す座標系で縦軸に沿って平行移動する。また充電時間が長い場合には、充電終了後の充電深度は高くなるため、必要回復時間は短くなる。すなわち、グラフbに示すように、充電時間が長いほど、必要回復時間は短くなる。
【0086】
例えば、コントローラ90により算出された必要回復時間の長さが時間(t)である場合には、充電時間は、グラフb上で必要回復時間(t)に対応する時間(t)となる。そして、二次電池20が充電時間(t)で充電した場合に、二次電池20の充電終了後の充電深度、すなわち回復制御開始時の充電深度は、SOCとなる。つまり、算出された必要回復時間で回復制御を実行するために、二次電池20の充電時間は時間(t)となり、二次電池20の目標SOCはSOCとなる。
【0087】
コントローラ90は、必要回復時間、充電時間、及び目標充電深度の相関性を示すマップ(以下、「充電時間/充電深度マップ」と称する。)を格納している。そして、コントローラ90は、回復時間を算出した後に、充電時間/充電深度マップを参照し、充電時間/充電深度マップにおいて、必要回復時間に対応する充電時間及び充電深度を算出する。コントローラ90は、算出された充電時間を、表示装置等を用いてユーザに通知する。これにより、回復制御のために必要な充電時間をユーザに対して提示できる。
【0088】
なお、コントローラ90は、二次電池20の充電中に必要回復時間を算出する場合には、二次電池20の充電中、上記充電時間/充電深度マップを用いた算出方法により、必要回復時間に対応する充電時間及び充電深度をそれぞれ算出し、二次電池20の充電時間が算出された充電時間となり、充電後の充電深度が算出された充電深度になるように、充電制御のプロファイルを更新してもよい。
【0089】
以上のとおり、本実施形態では、二次電池20のセル抵抗を算出し、二次電池20の充放電深度、二次電池20のセル温度、及び二次電池20に加わる圧力から、二次電池20を回復可能な抵抗の上限値を示す回復限界抵抗値を算出し、セル抵抗の抵抗値が回復限界抵抗値以下である場合に、二次電池の充放電を禁止して二次電池を回復させる回復制御を実行する。これにより、リチウム金属のクリープ変形によって、リチウムと固体電解質界面にできたボイドをうめ、抵抗を下げることができる。その結果として、二次電池20の性能を回復できる。
【0090】
また本実施形態では、充放電深度、セル温度、及び圧力のうち少なくとも1つのパラメータから、二次電池20の回復に必要な必要回復時間を算出し、必要回復時間が所定時間より長い場合には、必要回復時間が短くなるように、二次電池20を充電する充電パラメータ、及び/又は、回復制御を実行する実行パラメータを設定する。充電パラメータは、充電時間、及び/又は、充電深度である。回復制御の実行パラメータは、セル拘束部材26で制御される二次電池20への圧力、及び/又は、ヒータ70で制御される二次電池20のセル温度である。これにより、必要回復時間を短くして、二次電池20の回復を早めることができる。
【0091】
また本実施形態では、回復制御は、負極のクリープ変形が生じる圧力以上の圧力を二次電池20に加える加圧制御を含む。これにより、チウム金属のクリープ変形によって、リチウムと固体電解質界面にできたボイドをうめ、抵抗を下げることができる。
【0092】
また本実施形態では、回復制御は、セル温度を二次電池の現在の温度より高める温度制御を含む。これにより、リチウム金属の変形速度を速めることで、必要回復時間を短くし、二次電池20の回復を早めることができる。
【0093】
また本実施形態では、回復制御を開始する時の二次電池20の充電深度を所定の充電深度以上にする。これにより、リチウム金属の厚みが厚くなることで、リチウム金属の変形速度が高くなるため、ボイドを早期につぶし必要回復時間を短くすることができる。
【0094】
また本実施形態では、充放電深度、セル温度、及び圧力のうち少なくとも1つのパラメータから、二次電池20の回復に必要な必要回復時間を算出し、算出された必要回復時間の長さに応じて二次電池20の充電時間を算出し、回復制御前に算出された充電時間で二次電池20を充電する。これにより、回復効果を得るために必要な充電時間を算出できる。
【0095】
また本実施形態では、回復制御により二次電池20を回復させた後に、二次電池20を充放電する。これにより、二次電池20の上昇したセル抵抗を回復制御で低くした後に、通常の充放電制御を実行できる。その結果として、二次電池20の性能寿命を伸ばすことができる。
【0096】
また本実施形態では、セル抵抗の抵抗値が回復限界抵抗値より高い場合には、回復限界抵抗値が高くなるように、充電深度、セル温度、及び圧力のうち複数のパラメータを高くする。これにより、回復制御を行う際に、二次電池20に負荷をかけないように、最適なパラメータを選択できる。その結果として、二次電池20の劣化を防ぎつつ、二次電池20の性能を回復できる。
【0097】
また、本実施形態に係る二次電池の回復制御システムを、車両制御システムに設けてもよい。以下、本実施形態に係る二次電池の回復制御システムを含む車両制御システムについて説明する。車両制御システムは、二次電池20を動力源とするシステムである。車両制御システムは、例えば、モータのみを駆動源とする電気自動車、モータ及びエンジンを有するハイブリッド車両等の車両の駆動用のシステムとして用いられる。コントローラ90は、例えば車両の走行中など、二次電池20の充放電中に、二次電池20のΔセル抵抗(ΔR)と回復限界抵抗値を算出する。また、コントローラ90は、二次電池20のΔセル抵抗(ΔR)と抵抗閾値(Rth)を比較する。Δセル抵抗(ΔR)が抵抗閾値(Rth)以上である場合には、二次電池20のΔセル抵抗が回復限界抵抗値に近い値まで上昇しており、回復制御が必要であると判定する。コントローラ90は、二次電池20の充放電を禁止させるために、二次電池20の現在の状態、又は、二次電池20の充放電をしていない状態で回復制御が必要であることを、例えば車載ディスプレイに表示させることで、ドライバーに車両の停止を推奨するための通知を行う。そして、コントローラ90は、車両の停車時、二次電池20の充放電が行われていない状態で、回復制御を実行する。回復制御は、二次電池20のΔセル抵抗(ΔR)が回復限界抵抗値以下の状態で実行されるため、二次電池20の可逆性を保ちつつ、二次電池20の回復を図ることができる。
【0098】
また、例えば、プラグインハイブリッド車両等、車両外部からの電源を用いて二次電池20を充電できる場合には、車両の走行中でも、回復制御を実行できる。例えば、車両の走行中に、回復制御が必要であると判定した場合には、コントローラ90は、車両の走行モードを、エンジンのみで走行する走行モードに切り替える。走行モードの切り替えにより、車両の走行を維持しつつ、二次電池20の使用を制限できる。そして、コントローラ90は、エンジンのみで走行する走行モード中に、二次電池20の充放電を禁止して前記回復制御を実行する。これにより、二次電池20の回復を図ることができる。
【0099】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例
【0100】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0101】
<試作品(実施例)の作製>
LiSとPを含む原料組成物をメノウ乳鉢で混合させた混合物を、ボールミルで380rpm、40時間、粉砕して、重量比(75:25)とするLiSとPを含んだ粉末を作製した。さらにメノウ乳鉢で粉砕した上で、100mg秤量して、深さ700μmの型にいれて、360MPaのコールドプレスで仮成型し、360MPa、190で1時間、ホットプレスで加圧成形し、打ち抜いて、固体電解質となるペレット(LPSペレット)を作製した。固体電解質の径は10mm、リチウム層の径は5mmとした。そして、ペレットにリチウム金属を乗せセルを作成した。これらの工程を経て製造されたセルに対して、板状の金属タブを接着させて、試作品たるリチウム対称セルを作製した。
【0102】
<充電条件>
上記にて得られた、実施例の試作品について、拘束部材(バネ)で拘束することで1.0MPaの加圧をかけつつ、充電電流密度を0.5mA/cm、充電容量を0.1mAh/cmとして充電した。充電後、試作品の電気化学的インピーダンス分光法(EIS)測定の測定結果から、抵抗を計測し、ボイド発生による抵抗増加(過電圧)が確認できるまで、充放電サイクルを繰り返し行った。
<回復条件>
ボイド発生による抵抗増加を確認した後の試作品について、1.0MPaの加圧をかけた状態で、6時間休止させた。
<電気化学測定>
上記充電条件で試作品を充電中、充放電測定とEIS測定を行った。図11は、測定結果を示すグラフであって、試作品の充電中に、ボイド発生による抵抗増加が確認された時の電圧特性(グラフa)と、上記回復条件で回復させた後の試作品を、上記充電条件で充電した時の電圧特性(グラフb)を示す。
<実施例の評価>
試作品の抵抗は、ボイド発生により、初期抵抗(50Ω)に対して約15倍(730Ω)ほど上昇したが、上記回復条件下で休止させることで、試作品の抵抗は、初期抵抗(50Ω)に対して約1.2倍(60Ω)まで低下したことが確認できた。また、図11に示すように、休止前の試作品(グラフa)では、充電中に、ボイド発生により過電圧が上昇していることが確認できる。一方、休止後の試作品(グラフb)は、ボイド発生により過電圧が上昇する前の電圧値と、ほぼ同じ値で一定に推移していることが確認できる。つまり、実施例では、上記回復条件の下、休止させることで、電池性能が回復したことが確認できた。
【符号の説明】
【0103】
10…回復制御システム
20…二次電池
21…正極
22…負極
23…固体電解質
24a、24b…電極タブ
25…外装部材
26…セル拘束部材
30…電圧センサ
40…温度センサ
50…電圧電流調整部
60…電流センサ
70…ヒータ
80…インピーダンス測定器
90…コントローラ
91…CPU
92…メモリ
100…外部電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11