(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】非水性インクジェット用インク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/36 20140101AFI20231212BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20231212BHJP
C09D 11/324 20140101ALI20231212BHJP
【FI】
C09D11/36
C09D11/322
C09D11/324
(21)【出願番号】P 2019197475
(22)【出願日】2019-10-30
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】中島 興範
(72)【発明者】
【氏名】青木 克之
(72)【発明者】
【氏名】三宅 遼平
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 光紀
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-23298(JP,A)
【文献】特開2017-31272(JP,A)
【文献】国際公開第2015/20128(WO,A1)
【文献】特開2018-95688(JP,A)
【文献】国際公開第2007/72804(WO,A1)
【文献】特開2016-155909(JP,A)
【文献】特開2017-218472(JP,A)
【文献】特開2016-160419(JP,A)
【文献】特開2013-189566(JP,A)
【文献】特開2008-248008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11/00-11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂、有機着色顔料及び/又はカーボンブラック、アルミナ、顔料分散剤、有機溶剤を含有し、
前記有機溶剤が、プロピレンカーボネート、ジエチレングリコールジアルキルエーテル及びジプロピレングリコールアルキルエーテルアセテートであり、
有機着色顔料及びカーボンブラックの合計100質量部に対して、アルミナを5~30質量部含有する非水性インクジェット用インク組成物。
【請求項2】
前記ジエチレングリコールジアルキルエーテルが、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル及び/又はジエチレングリコールジエチルエーテルである請求項1に記載の非水性インクジェット用インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷面が主として塩化ビニル系重合体やエチレン-酢酸ビニル系共重合体からなる大判の看板広告などを製造するのに適した非水性インクジェット用インク組成物、及びそれを用いて得られる印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の看板広告では、鮮やかで洗練されたデザインのロゴや模様の他に、商品の外観や人物の顔といった写真調のものが増加している。さらに看板のサイズも、見る者により強いインパクトを与えるために、大判のものが非常に多く見受けられるようになっている。従来、看板広告を製作する方法として、ロゴの場合には着色シートを文字の形に切り抜いて貼り付けたり、写真調とする場合には各種印刷機を利用することが一般的であった。そのために、製作に多くの時間と手間を要し、また、印刷機等の大掛かりな設備が必要になる問題があった。
そこで、鮮明な画像の看板をより簡単に製作するために、パーソナルコンピュータ上で創作したデザインを直接基材に印刷できるインクジェット方式を利用する試みが行なわれている。
【0003】
インクジェット方式は、印刷用基材として利用できる材料の幅が広く、紙、ポリマー、金属、その他の硬質・軟質いずれの材料のシートにも手軽に印刷可能であるという特徴がある。とりわけ、屋外に設置される看板広告では、軽量で強度や耐久性に優れ、雨にも強く、さらに安価といった性能が要求されることから、それらの特性を有するポリマーシートに簡単に印刷できることは、非常に大きな利点となる。
それに加えて、最近では、印刷幅が2,000mm以上の超ワイドフォーマットのインクジェットプリンターも登場し、これまで貼り合わせで対応してきた大判の印刷物が、一挙に印刷可能となるなど、ますます簡単に看板の製作ができるようになっている。
一般に、看板広告に用いられるポリマーシートとしてはターポリンがよく利用される。なお、ターポリンはポリエステルやポリアミドを芯材として、表裏にポリ塩化ビニルやエチレン-酢酸ビニル系共重合体等のビニル系重合体を積層した複合シートである。
【0004】
これら複合シートに印字するインクジェット用インク組成物としては、有機溶剤(近年は環境に優しい有機溶剤)をベースとした非水性インクジェット用インク組成物が使用されている。非水性インクジェット用インク組成物は、複合シートの表面の素材であるポリ塩化ビニルやエチレン-酢酸ビニル系共重合体等のビニル系重合体に対して、良好な濡れ性、乾燥性、定着性等を有する材料を利用することが必要とされている。
このため、有機溶剤としてアルキレングリコールモノエーテルモノエステルと環状エステルを利用すること(特許文献1参照)、バインダー樹脂としてビニル系重合体、有機溶剤として環境に優しいポリアルキレングリコールジアルキルエーテルを特定量含有する有機溶剤を使用すること(特許文献2参照)、有機溶剤としてジエチレングリコールエチルメチルエーテル及びプロピレンカーボネートを特定量含有すること(特許文献3参照)が公知である。
しかし、近年、印字速度の高速化が要求されるようになっている。
そして、従来の非水性インクジェット用インク組成物(特に環境に優しい有機溶剤を使用した非水性インクジェット用インク組成物)を印字した場合、インク安定性や細字再現性を良好にした上で、さらに、ベタ部の埋まり(以下、「ベタ埋まり」という。)が十分でない、吐出安定性、モタリングの発生および耐擦過性に劣るという問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-200469号公報
【文献】国際公開WO2007/072804号公報
【文献】国際公開WO2015/020128号公報
【文献】特開2017-31272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明により解決しようとする課題は、印刷面がポリ塩化ビニルやエチレン-酢酸ビニル系共重合体等のビニル系重合体等からなる被印刷物に対して、高速印字を行った場合においても、ベタ埋まり、モタリング(mottling)発生防止性に優れ、インキ安定性、吐出安定性及び耐擦過性に優れる非水性インクジェット用インク組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究した結果、有機溶剤として特定の組成とすることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
1.アクリル系樹脂、有機着色顔料及び/又はカーボンブラック、アルミナ、顔料分散剤、有機溶剤を含有し、
前記有機溶剤が、プロピレンカーボネート、ジエチレングリコールジアルキルエーテル及びジプロピレングリコールアルキルエーテルアセテートであり、
有機着色顔料及びカーボンブラックの合計100質量部に対して、アルミナを5~30質量部含有する非水性インクジェット用インク組成物。
2.前記ジエチレングリコールジアルキルエーテルが、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル及び/又はジエチレングリコールジエチルエーテルである1に記載の非水性インクジェット用インク組成物。
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の非水性インクジェット用インク組成物は、アクリル系樹脂、有機着色顔料及び/又はカーボンブラック、アルミナ、顔料分散剤、有機溶剤を含む、特定の組成のものを含有する。
これにより、耐擦過性、細字の筆記性、ベタ埋まり、モタリング発生防止性が良好であって、インクジェット用プリンターのノズルからの吐出安定性が良好である効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(アクリル系樹脂)
本発明の非水性インクジェット用インク組成物に含有されるアクリル系樹脂としては、有機溶剤に可溶な(メタ)アクリレートからなる重合体及びその共重合体などが挙げられる。そのような(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチル、プロピル、またはブチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
一例として、三菱ケミカル社製のBR-60(Tg:75℃)、BR-64(Tg:55℃)、BR-75(Tg:90℃)、BR-77(Tg:80℃)、BR-83(Tg:105℃)、BR-87(Tg:105℃)、BR-88(Tg:105℃)、BR-90(Tg:65℃)、BR-93(Tg:50℃)、BR-95(Tg:80℃)、BR-105(Tg:50℃)、BR-106(Tg:50℃)、BR-107(Tg:50℃)、BR-108(Tg:90℃)、BR-113(Tg:75℃)、BR-115(Tg:50℃)及びBR-116(Tg:50℃)等が挙げられる。
【0010】
非水性インクジェット用インク組成物全量に対するアクリル系樹脂の含有量は、好ましくは1.0~15.0質量%で、より好ましくは2.0~12.0質量%、更に好ましくは5.0~10.0質量%である。
アクリル系樹脂の合計使用量が1.0質量%未満では基材との定着性が充分でなく、一方15.0質量%を超えると固形分が増え過ぎるため、吐出安定性が低下する。
なお、性能が低下しない範囲内で、上記アクリル系樹脂以外の樹脂、例えば、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系樹脂及びエチレン-酢酸ビニル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-マレイン酸系樹脂、ロジン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、石油樹脂、クマロンインデン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂等を併用することも可能である。
【0011】
(有機着色顔料)
本発明の非水性インクジェット用インク組成物に含有される有機着色顔料としては、従来から非水性インクジェット用インク組成物に使用されている公知の有機着色顔料の中から、選択して使用することが好ましい。
そのような有機着色顔料の具体例としては、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系、イソインドリノン系等の有機顔料が挙げられ、具体的な例をカラーインデックスで示すと、ピグメントブラック7、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、60、ピグメントグリーン7、36、ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、149、168、177、178、179、206、207、209、242、254、255、ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、ピグメントオレンジ36、43、51、55、59、61、71、74等が挙げられる。
本発明のインク組成物中の有機着色顔料の含有量としては、1.0~10.0質量%が好ましい。
【0012】
(カーボンブラック)
本発明のインク組成物で使用できるカーボンブラックとしては、従来からインクジェットで使用されているものがいずれも使用できるが、平均一次粒子径が小さいほど得られる着色画像の耐擦過性および光沢性は向上する傾向にあり、平均一次粒子径で15~40nmが好ましく、20~30nmがより好ましい。
【0013】
カーボンブラックの平均一次粒子径は次のように求めた値を意味する。すなわち、まず、透過型電子顕微鏡(TEM)でカーボンブラックの凝集体の画像を写真撮影したときに、写真上の凝集体の画像同士が重なり合わない程度の濃度とした、カーボンブラックをクロロホルム中に十分に希釈分散させた分散液を調製する。次いで、コロジオン膜付メッシュ上に展開して乾燥し、その状態で写真撮影してTEM写真(引き延ばし後の倍率3万倍)を得る。そして、TEM写真をスキャナーで読み取り、画像信号をデジタル化した後、コンピューターに入力し、画像解析によって各凝集体の面積を求める。さらに、各凝集体の面積と凝集した一次粒子の個数から、一次粒子の平均面積を求め、それと同面積を有する円の直径を算術的に一次粒子の平均粒子径とする。最終的に凝集体の全部あるいは特定の個数における一次粒子の平均粒子径を算術平均して平均一次粒子径とする。
【0014】
本発明においてカーボンブラックを含有させる際の含有量は非水性インクジェット用インク組成物全体に対して1~12質量%であり、好ましくは2~6質量%である。その含有量が1質量%未満であると、得られた画像の濃度が低くなり、6質量%を超えるとインクジェット用インク組成物の吐出安定性が低下することが懸念される。
また、使用するカーボンブラックとしては、比表面積が80~150m2/gが好ましく、100~130m2/gがより好ましい。この範囲であると着色画像の耐擦過性およびベタ埋まり、モタリング発生防止性等の点で特に好ましい。
また、 使用するカーボンブラックとしては、酸性カーボンブラックが好ましく、pHが2.5~4がより好ましい。
上記したカーボンブラックの比表面積はJIS K6217に準拠して測定した窒素吸着比表面積を、pHはJIS K6221に準拠して測定したpH値を指す。
【0015】
本発明で使用するカーボンブラックとしては、三菱カーボンブラックMA7、MA77、MA8、MA11、MA100、MA220等が挙げられる。
【0016】
(アルミナ)
アルミナは顔料として使用できる粉体であり、別の無機顔料表面をアルミナで被覆したものを含まない。表面が親水性のアルミナが好ましく、アルミナ顔料の平均粒子径は10~150nmであり、その形状は球状、扁平状のいずれでも良いが、吐出性を考慮して球状が好ましい。比表面積は70~130m2/gが好ましく、90~110m2/gがより好ましい。
また表面が親水性又は疎水性になるように、表面処理されたものでも良いが、表面処理されていなくても良い。
【0017】
(有機着色顔料及び/又はカーボンブラックの含有量とアルミナの配合量)
本発明において、有機着色顔料及びカーボンブラックの合計100質量部に対して、アルミナ顔料を5~30質量部配合することが好ましく、8~25質量部配合することがより好ましく、12~23質量部配合することがさらに好ましく、15~20質量部配合することが最も好ましい。
【0018】
(その他の顔料)
本発明の非水性インクジェット用インク組成物に配合可能な、その他の顔料の具体例としては、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、トリポン、酸化鉄、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカ等が例示できる。
これら顔料は、本発明による効果を毀損しない範囲において、1種もしくは2種以上を混合して用いることができ、その使用量は、非水性インクジェット用インク組成物全量に対して0.5~10.0質量%であり、より好ましくは2.0~7.0質量%である。顔料の使用量が1.0質量%より少ないと着色力が充分でない傾向があり、一方10.0質量%より多くなると粘度が上昇し、インクの流動性が低下する傾向がある。
【0019】
(顔料分散剤)
本発明の非水性インクジェット用インク組成物に含有される顔料分散剤としては、イオン性または非イオン性の界面活性剤や、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の高分子化合物等が使用できる。
中でも高分子化合物であるものが好ましく、例えば、特開2004-083872号公報、国際公開WO2003/076527号公報、国際公開WO2004/000950号公報に記載されているカルボジイミド系化合物、塩基性官能基含有共重合物であるアジスパーPB821、822(味の素ファインテクノ社製)(酸価及びアミン価が共に10~20mgKOH/g)、ソルスパース56000(ルーブリゾール社製)、ソルスパース39000(ルーブリゾール社製)、DISPERBYK(ビックケミー・ジャパン社製)等が好ましい。これら顔料分散剤は1種または2種以上を混合して使用できる。
中でもアミン価が10~40mgKOH/gの塩基性官能基含有共重合物が好ましい。
なお、上記顔料分散剤は、顔料の種類、使用する有機溶剤の種類に応じて適宜選択して
使用する。
【0020】
(有機溶剤)
本発明の非水性インクジェット用インク組成物に含有される有機溶剤は、プロピレンカーボネート、ジエチレングリコールジアルキルエーテル及びジプロピレングリコールアルキルエーテルアセテートである。
更に、ジエチレングリコールジアルキルエーテルは、プロピレンカーボネートの含有量に対してジエチレングリコールジアルキルエーテル/プロピレンカーボネート=1.0~15.0となるように使用されることが好ましく、2.0~13.0がより好ましく、更に好ましくは4.0~10.0、最も好ましくは5.0~8.0である。
ジエチレングリコールジアルキルエーテル及びプロピレンカーボネートをこの範囲で使用することにより、高速印字を行った場合においても、濡れ性、定着性、ベタ埋まりに優れ、且つ吐出安定性にも優れたものになる。
また、好ましくは、ジエチレングリコールジアルキルエーテルを非水性インクジェット用インク組成物中に40.0~80.0質量%、及びプロピレンカーボネートを非水性インクジェット用インク組成物中に1.0~20.0質量%、印刷画質をより向上させる点において更に好ましくは3.0~18.0質量%、特に好ましくは、5.0~15.0質量%を使用できる。
また、非水性インクジェット用インク組成物中にジプロピレングリコールアルキルエーテルアセテートを含有することが必要であり、その含有量としては5.0~20.0質量%、好ましくは8.0~15.0質量%、より好ましくは8.0~13.0質量%、更に好ましくは9.0~12.0質量%である。
【0021】
ジエチレングリコールジアルキルエーテルとしてはジエチレングリコールエチルメチルエーテル及び/又はジエチレングリコールジエチルエーテルを使用することが好ましく、さらに別のジエチレングリコールジアルキルエーテルを併用することができる。
ジプロピレングリコールアルキルエーテルアセテートとしては、好ましくは炭素数6以下のアルキル基であるもの、更に好ましくは炭素数3以下のアルキル基であるもの、より好ましくは炭素数2以下のアルキル基であるものを採用できる。
【0022】
また、乾燥性の調整及びモタリング発生防止性をさらに向上させるために、ジエチレングリコールジアルキルエーテル以外に、引火点50~150℃のアルキレングリコール誘導体を併用することができる。
このような引火点50~150℃のアルキレングリコール誘導体としては、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の(ポリ)エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、テトラプロピレングリコールジエチルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテル等の(ポリ)プロピレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等の(ポリ)プロピレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル等の(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート等の(ポリ)エチレングリコールジエステル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等の(ポリ)エチレングリコールモノエーテルモノエステル等が例示できる。
引火点50~150℃のアルキレングリコール誘導体の内で、まず、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。
引火点50~150℃のアルキレングリコール誘導体の非水性インクジェット用インク組成物中の含有量は、好ましくは、45.0~78.0質量%、特に好ましくは、50.0~75.0質量%である。
また、溶媒全体の引火点を大きく変更しない範囲において、引火点が50~150℃の範囲内ではない、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を併用しても良い。
また、有機溶剤の総量は、全インク組成物中において80.0~98.0質量%を占める量であることが好ましい。上記総量が98.0質量%を超える場合には、得られるインクの印字適性が低下し、一方、総量が80.0質量%未満の場合にはインクの粘度上昇を誘引し、ノズルからのインクの吐出性が低下する傾向があるので好ましくない。
また、沸点が180℃以上の有機溶剤を含有しても良く、含有しなくても良い。さらに溶媒として水を含有しないことが好ましい。
【0023】
(その他成分)
さらに、本発明の非水性インクジェット用インク組成物には、必要に応じて、界面活性剤、可塑剤、表面調整剤、紫外線防止剤、光安定化剤、酸化防止剤等の種々の添加剤を使用することができる。
なお、本発明のインク組成物は紫外線等のエネルギー線硬化型、カラーフィルター用のいずれでもない。
【0024】
(非水性インクジェット用インク組成物の製造)
次に、これらの材料を用いて本発明の非水性インクジェット用インク組成物を製造する方法について説明する。
本発明の非水性インクジェット用インク組成物は、例えば、湿式サーキュレーションミル、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、DCPミル、アジテータ、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー、ナノマイザー、アルティマイザー、ジーナスPY、DeBEE2000等)、パールミル等の分散機を使用して分散混合し、非水性インクジェット用インク組成物の粘度が2~10mPa・sとなるように調整することによって得ることができる。
本発明の非水性インクジェット用インク組成物中における全有機溶剤の含有量は、インク組成物全量から、バインダー樹脂、顔料、顔料分散剤、必要により使用するその他の添加剤の合計量を差し引いた量であるが、インク粘度が前記範囲内になるように適宜変更するのが好ましい。
このようにして得られた本発明の非水性インクジェット用インク組成物は、少なくとも表面層が塩化ビニル系重合体やエチレン-酢酸ビニル系共重合体からなる基材に、インクジェット用プリンターを用いて使用できる。
【0025】
(用途)
本発明の非水性インクジェット用インク組成物は周知の用途に使用することができるが、なかでも特に耐擦過性が要求され、かつ非吸収性材料からなる基材の表面層に対して使用する場合に適している。非吸収性材料としては金属、樹脂、セラミック等があるが、中でも樹脂を基材とする表面層に対して使用すること、さらに、該樹脂として塩化ビニル系重合体またはエチレン-酢酸ビニル系共重合体からなる表面層を対象にして使用することが、ベタ埋まり、ベタ付き等の印刷性等の点において好ましい。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
以下の実施例、比較例で使用した材料は次の通りである。溶剤以外の成分は全て固形分含量である。
表中の顔料、分散剤、樹脂、溶剤及び合計に関する欄の数値の単位は「質量%」である。
<有機顔料>
G01 (レバスクリーンイエローG01 (P.Y.150))(ランクセス社製)
RGT (ファーストゲンスーパーマゼンタRGT)(DIC社製)
D7110F (ヘリオゲンブルーD7110F) (BASFジャパン社製)
<カーボンブラック>
MA7 (カーボンブラックMA7) (三菱ケミカル社製)
<その他顔料>
バリファイン20(硫酸バリウム)(堺化学工業社製)
バリファイン40(硫酸バリウム)(堺化学工業社製)
<アルミナ>
アエロキサイドAluC(日本アエロジル社製、平均一次粒子径80nm、比表面積100m2/g)
<顔料分散剤>
PB822:アジスパーPB822(味の素ファインテクノ社製)
ソルスパース56000(ルーブリゾール社製)
ソルスパース39000(ルーブリゾール社製)
<樹脂>
BR-87:ダイヤナールBR-87(三菱ケミカル社製、ガラス転移温度105℃、質量平均分子量25,000)(アクリル系樹脂)
【0027】
(実施例1~5及び比較例1~4)
<非水性インクジェット用インク組成物の製造>
表1の配合(各材料の配合比率は質量%である)に従い、各材料を撹拌混合して実施例1~5及び比較例1~4の非水性インクジェット用インク組成物を得た。
【0028】
<印刷方法>
市販のインクジェット用プリンターに実施例1~5及び比較例1~4の非水性インクジェット用インク組成物を装填し、ポリ塩化ビニルシートに高速印字モードにてベタ印刷を行い、実施例1~5及び比較例1~4の印刷物を得た。
これらの印刷物について下記の特性を測定・評価した。
下記評価において、A、Bは実用レベルといえる評価に含まれ、C、Dは未だ実用レベルとはいえない評価に含まれる。
【0029】
(粘度)
実施例1~5、比較例1~4の各非水性インクジェット用インク組成物の25℃における粘度を、粘度計(東機産業社製 RE100L型)を用いて測定した。
【0030】
(耐擦過性)
実施例1~5及び比較例1~4の各非水性インクジェット用インク組成物を用いてポリ塩化ビニルシート(商品名:MD5、MEAMARK社製)に高速印字モードでベタ印刷を行い、学振型摩擦度試験機(大栄科学精器製作所社製)を用いて、晒し布で500g×100回塗膜を擦ったときの塗膜の取られ具合を目視で観察し、以下の基準で評価した。
A:塗膜の取られ無し
B:塗膜の表面に傷がある
C:塗膜の一部取られが見られる
D:塗膜の明らかな取られが見られる
【0031】
(細字再現性)
実施例1~5及び比較例1~4の非水性インクジェット用インク組成物を用いてポリ塩化ビニルシート(商品名:MD5、MEAMARK社製)に高速印字モードでベタ印刷を行い、細字について、文字の鮮明さの程度(文字の滲み、文字のつぶれ)について目視にて評価した。
評価基準
A:滲み、つぶれが無く鮮明
B:滲み、つぶれはあるが判読は可能
C:滲み、つぶれがあり判読が困難
【0032】
(ベタ埋まり性)
実施例1~5、比較例1~4の各非水性インクジェット用インク組成物を用いてポリ塩化ビニルシート(商品名:MPI1000シリーズ、Avery Dennison社製)に高速印字モードでベタ印刷を行い、ベタ部の埋まりについて、画像に白抜けがあるかどうか、つまりベタ埋まりが良好かについて目視にて評価した。
評価基準
A:白抜けがない
B:白抜けが少しある
C:白抜けが多い
【0033】
(モタリング発生防止性)
実施例1~5、比較例1~4の各非水性インクジェット用インク組成物を用いてポリ塩化ビニルシート(商品名:MPI1000シリーズ、Avery Dennison社製)に標準モードで混色(赤、青、緑)のベタ印刷を行い、画像についてモタリング(まだら模様)の発生の有無について目視で評価した。
評価基準
A:モタリングがない
B:モタリングが少しある
C:モタリングが多い
【0034】
(インク安定性)
実施例1~5、比較例1~4の各非水性インクジェット用インク組成物をガラス製スクリュー瓶で保管。60℃温度条件下で7日間静置した際の、沈降物の有無について目視で評価した。
評価基準
A:沈降物は見られない
B:3日後に沈降物が見られる
C:1日後に沈降物が見られる
【0035】
(吐出安定性)
実施例1~5、比較例1~4の各非水性インクジェット用インク組成物を用いてポリ塩化ビニルシート(商品名:MPI1000シリーズ、Avery Dennison社製)に印刷を行い、印刷されない部分が発生する枚数で評価した。
評価基準
A:印刷されない部分が71枚目以降に発生するか、印刷されない部分が100枚目までは発生しない
B:印刷されない部分が51枚目~70枚目で発生する
C:印刷されない部分が31枚目~50枚目で発生する
D:印刷されない部分が30枚目までに発生する
【0036】
【0037】
本発明に沿った例である実施例1~4によれば、耐擦過性、細字の筆記性、ベタ埋まり性、モタリング発生防止性、インク安定性及び吐出安定性に優れていた。特に実施例1、3~5は、分散剤の含有量が適切であるために、これらの評価が全てAであった。実施例2は耐擦過性のみBであった。これに対して、アルミナ顔料を含有しない比較例1によれば、耐擦過性が悪化した。アルミナ顔料に代えて硫酸バリウムを配合した比較例2及び3によれば、耐擦過性とインク安定性が悪化した。分散剤の含有量が多い比較例4によれば、インク安定性が悪化した。