(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】無機化合物スラリー用バインダー、当該バインダーを含む組成物、およびこれを用いたグリーンシート
(51)【国際特許分類】
C04B 35/634 20060101AFI20231212BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20231212BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20231212BHJP
C08F 261/12 20060101ALI20231212BHJP
H01G 4/30 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
C04B35/634
B28B1/30 101
C08F2/44 C
C08F261/12
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
H01G4/30 517
H01G4/30 311Z
(21)【出願番号】P 2019202972
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ-メカニックス カンパニーリミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】武田 隆信
(72)【発明者】
【氏名】石川 和孝
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-139549(JP,A)
【文献】特開2003-104779(JP,A)
【文献】特開平09-142940(JP,A)
【文献】特開2003-335808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/634
B28B 1/30
C08F 2/44
C08F 261/12
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ポリマー(A)と、
前記第1ポリマー(A)とは独立して重合し、前記第1ポリマー(A)とともに相互侵入高分子網目構造を形成することができる第1モノマー(C)と、
溶剤(E)と、を含む、
無機化合物スラリー用バインダー
と、
無機化合物(G)と、を含み、
前記無機化合物(G)が導電粉末である、スラリー組成物。
【請求項2】
前記第1モノマー(C)は、複数種類のモノマーを含む、請求項1に記載のスラリー
組成物。
【請求項3】
前記第1ポリマー(A)および前記第1モノマー(C)に由来する構造は、水素結合を形成する、請求項1または2に記載のスラリー
組成物。
【請求項4】
可塑剤(F)をさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のスラリー
組成物。
【請求項5】
前記第1ポリマー(A)100重量部に対して、前記第1モノマー(C)を1重量部以上90重量部以下含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のスラリー
組成物。
【請求項6】
前記第1ポリマー(A)が、ポリビニルアルコール、エチルセルロースおよびアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のスラリー
組成物。
【請求項7】
前記第1モノマー(C)に由来する構造が、アクリル系樹脂、ポリアクリルアミドおよびウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のスラリー
組成物。
【請求項8】
前記第1モノマー(C)が、アクリルアミドモノマー、イソシアヌレート含有アクリルモノマーおよびトリシクロデカノール含有アクリルモノマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のスラリー
組成物。
【請求項9】
前記第1モノマー(C)の重合反応を開始する開始剤(D)をさらに含み、
前記開始剤(D)が、熱重合開始剤またはUV重合開始剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のスラリー
組成物。
【請求項10】
前記導電粉末100重量部に対して、前記溶剤(E)を5重量部以上600重量部以下含む、請求項1
から9のいずれか一項に記載のスラリー組成物。
【請求項11】
前記導電粉末100重量部に対して、前記第1ポリマー(A)および前記第1モノマー(C)をあわせて1重量部以上100重量部以下含む、請求項1
から10のいずれか一項に記載のスラリー組成物。
【請求項12】
請求項
1から1
1のいずれか一項に記載のスラリー組成物を含む、導電ペースト。
【請求項13】
請求項
1から1
1のいずれか一項に記載のスラリー組成物を基材上に塗布するステップと、
前記基材を加熱して乾燥させるステップとを含む、
グリーンシートの製造方法。
【請求項14】
動的粘弾性測定(Dynamic Mechanical Analysis)の損失正接(tanδ)ピークとして測定されるガラス転移点が45℃以上85℃以下である、請求項1
3に記載のグリーンシートの製造方法。
【請求項15】
溶剤(E)に、第1ポリマー(A)および第1モノマー(C)を加えて無機化合物スラリー用バインダーを得るステップと、
前記無機化合物スラリー用バインダーに開始剤(D)および無機化合物(G)を加えてスラリー組成物を得るステップと、
前記スラリー組成物を基材上に塗布するステップと、
前記基材を加熱して乾燥させると同時に前記第1ポリマー(A)とともに相互侵入高分子網目構造を形成する第2ポリマー(B)を形成するステップとを含む、
グリーンシートの製造方法。
【請求項16】
請求項1
2に記載の導電ペーストを乾燥させた層を、グリーンシートの少なくとも一方の面に配置した、塗工シート。
【請求項17】
請求項1
3から
15のいずれか一項に記載のグリーンシートの製造方法を含み、導電ペーストを乾燥させた層をグリーンシートの少なくとも一方の面に配置した、塗工シートの製造方法。
【請求項18】
第1ポリマー(A)と、
前記第1ポリマー(A)と相互侵入高分子網目構造を形成する、第2ポリマー(B)と、
溶剤(E)と、
無機化合物(G)と、を含
み、
前記無機化合物(G)が導電粉末である、グリーンシート。
【請求項19】
前記第1ポリマー(A)および前記第2ポリマー(B)は、水素結合を形成する、請求項
18に記載のグリーンシート。
【請求項20】
可塑剤(F)をさらに含む、請求項
18または
19に記載のグリーンシート。
【請求項21】
前記第1ポリマー(A)が、ポリビニルアルコール、エチルセルロースおよびアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項
18から2
0のいずれか一項に記載のグリーンシート。
【請求項22】
前記第2ポリマー(B)が、アクリル系樹脂、ポリアクリルアミドおよびウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項
18から2
1のいずれか一項に記載のグリーンシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機化合物スラリー用バインダー、当該バインダーを含む組成物、およびこれを用いたグリーンシートに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミック電子部品を小型化し高容量化するために、グリーンシートや導電ペースト層を薄くする必要がある。しかし、従来のバインダー用樹脂を用いた場合、グリーンシート等を薄くすると強度が弱くなる。このため、製造工程で欠陥が生じやすい。そのため、グリーンシート等を積層したときの接着性、伸び、および強度を同時に改善することが求められている。
【0003】
一般に、樹脂の強度を改善する方法として、ポリマー架橋を行う方法がある。従来はバインダーとして、1種類の架橋によって構成される樹脂が用いられてきた。しかし、強度の向上、伸び、および接着性はトレードオフの関係にあった。例えば、バインダー樹脂に直接架橋を行うと、強度が向上するかわりに、伸び、および積層したときの接着性が低下する。
【0004】
グリーンシート用樹脂については、現在までにいくつか知られている。例えば、特許文献1および2に記載の発明等が挙げられる。しかし、樹脂の強度、伸び、および接着性をすべて満足する無機化合物スラリー用バインダーは、これまでに得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2013-035608号公報
【文献】国際公開2014-084273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無機化合物をよく分散させ、樹脂の接着性や伸びを確保したまま、強度を改善することができる無機化合物スラリー用バインダー、当該バインダーを含む組成物、およびこれを用いたグリーンシート等を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、第1ポリマー(A)と、前記第1ポリマー(A)とは独立して重合し、前記第1ポリマー(A)とともに相互侵入高分子網目構造を形成することができる第1モノマー(C)と、溶剤(E)と、を含む、無機化合物スラリー用バインダーが得られる。
【0008】
また、本発明の第2の態様においては、溶剤(E)に、第1ポリマー(A)および第1モノマー(C)を加えて無機化合物スラリー用バインダーを得るステップと、前記無機化合物スラリー用バインダーに開始剤(D)および無機化合物(G)を加えてスラリー組成物を得るステップと、前記スラリー組成物を基材上に塗布するステップと、前記基材を加熱して乾燥させると同時に前記第1ポリマー(A)とともに相互侵入高分子網目構造を形成する第2ポリマー(B)を形成するステップとを含む、グリーンシートの製造方法が得られる。
【0009】
また、本発明の第3の態様においては、第1ポリマー(A)と、前記第1ポリマー(A)と相互侵入高分子網目構造を形成する、第2ポリマー(B)と、溶剤(E)と、無機化合物(G)と、を含む、グリーンシートが得られる。
【0010】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴のすべてを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせのすべてが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
(I)スラリー組成物について。
本願発明に係るスラリー組成物は、無機化合物(G)、および無機化合物スラリー用バインダーとを有する。無機化合物スラリー用バインダーは、第1ポリマー(A)、第1モノマー(C)、溶剤(E)、並びに任意の構成成分として、可塑剤(F)、分散剤、および/または開始剤(D)を有する。本願発明に係るスラリー組成物を加熱して乾燥させることにより、グリーンシートを得ることができる。
【0013】
[無機化合物(G)]
無機化合物(G)は、無機化合物スラリー用バインダーと混合され、加熱処理されることで得られたグリーンシートに強度を与える役割を有する。無機化合物(G)は、セラミック粉体、または導電粉末であってよい。セラミック粉体は、金属酸化物、金属炭酸塩、複合酸化物等であってよい。例えば、セラミック粉体は、酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、チタン酸カルシウム、またはチタン酸バリウム等であってよい。導電粉末は、金属酸化物等であってよい。例えば、導電粉末は、酸化チタン、酸化スズ、ニッケル、銀、銅、パラジウム等であってよい。
【0014】
[無機化合物スラリー用バインダー]
無機化合物スラリー用バインダーは、上記無機化合物(G)を分散させる役割を有する。無機化合物スラリー用バインダーは、無機化合物(G)100重量部に対して、150重量部以上400重量部以下含んでもよい。例えば、無機化合物(G)100重量部に対して、無機化合物スラリー用バインダーが150重量部未満の場合、塗布工程での粘度が高くなるため、塗工精度と効率の低下といった問題が生じる。例えば、無機化合物(G)100重量部に対して、無機化合物スラリー用バインダーが400重量部超過の場合、塗布工程での粘度が低いためにキャリアフィルム上でのハジキの問題が生じる。
【0015】
第1ポリマー(A)は、無機化合物スラリー用バインダーの主成分であり、バインダー樹脂に接着性および伸びを与える役割を有する。第1ポリマー(A)は、ポリビニルアルコール、エチルセルロースおよびアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。例えば、第1ポリマー(A)は、ブチラル樹脂であってよいが、これに限らない。一例として、第1ポリマー(A)は、ポリビニルブチラル樹脂であってよい。
【0016】
第1ポリマー(A)は、無機化合物スラリー用バインダー100重量部中、10重量部以上30重量部以下含んでもよい。第1ポリマー(A)の分子量は、80000以上1500000以下であってよい。第1ポリマー(A)がポリビニルブチラル樹脂の場合、ポリビニルブチラルの重合時の仕込み量から算出される計算分子量は、80000以上150000以下であってよい。例えば、無機化合物(G)100重量部に対して、無機化合物スラリー用バインダーが10重量部未満の場合、無機化合物が微細化されると無機化合物表面が十分に樹脂で覆われないことによる欠陥の発生という問題が生じる。例えば、無機化合物(G)100重量部に対して、無機化合物スラリー用バインダーが30重量部超過の場合、仮焼き時に無機化合物粒子間に欠陥が発生するという問題が生じる。
【0017】
第1モノマー(C)は、重合することで第2ポリマー(B)を形成する。つまり、第2ポリマー(B)は、第1モノマー(C)に由来する構造を有してもよい。例えば、第1モノマー(C)は第1ポリマー(A)とは独立して重合する。これにより、第1ポリマー(A)とともに相互侵入高分子網目構造を形成する第2ポリマー(B)を形成してよい。第2ポリマー(B)は、バインダー樹脂に強度を与える役割を有する。
【0018】
第1モノマー(C)は、第1ポリマー(A)との間で水素結合を形成する官能基を有することが好ましい。第1モノマー(C)は、網目構造を形成するうえで、3官能以上の官能基を有するモノマーであることが好ましい。これにより、第1モノマー(C)に由来する構造、または第2ポリマー(B)は、第1ポリマー(A)と水素結合を形成してよい。第1モノマー(C)は、アクリルアミドモノマー、イソシアヌレート含有アクリルモノマーおよびトリシクロデカノール含有アクリルモノマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
【0019】
例えば、第1モノマー(C)は、N,N'-メチレンビスアクリルアミドであってよい。例えば、第1モノマー(C)は、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートであってよい。例えば、第1モノマー(C)は、トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレートであってよい。また、第1モノマー(C)は、第1ポリマー(A)と反応しない。これに代えて、第1モノマー(C)は、第1ポリマー(A)と部分的に反応してもよい。また、第1モノマー(C)は、第1モノマー(C)どうしが数分子から十数分子重合したオリゴマーを含んでいてもよい。
【0020】
また、第1モノマー(C)は、複数種類のモノマーを含んでもよい。例えば、第1モノマー(C)は、N,N'-メチレンビスアクリルアミド、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、およびトリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレートのうちの2つ以上を含んでもよい。
【0021】
また、第1モノマー(C)は、第1ポリマー(A)100重量部に対して、1重量部以上90重量部以下含むものであってもよい。第1モノマー(C)の当量は、50以上500以下であってよい。例えば、第1ポリマー(A)100重量部に対して、第1モノマー(C)が1重量部未満、または当量が50未満の場合、ポリマー中でモノマーがネットワークを形成できない問題が生じる。例えば、第1ポリマー(A)100重量部に対して、第1モノマー(C)が90重量部超過、または当量が500超過の場合、ネットワークの密度が高くなりすぎて、伸びや靱性が損なわれるという問題が生じる。
【0022】
第1モノマー(C)に由来する構造、または第2ポリマー(B)は、アクリル系樹脂、ポリアクリルアミドおよびウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。第1ポリマー(A)および第2ポリマー(B)は、互いに水素結合を形成してよい。第1ポリマー(A)および第2ポリマー(B)が水素結合を形成することで、相互侵入高分子網目構造が安定化し、樹脂の強度をさらに増加させる効果がある。
【0023】
例えば、第1ポリマー(A)がポリビニルブチラルであり、第2ポリマー(B)がアクリル系樹脂であるとき、ポリビニルブチラールの水酸基の水素原子と、アクリル系樹脂のカルボニル基の酸素原子とが水素結合を形成してもよい。また、第1モノマー(C)が複数種類のモノマーを含む場合、2種類以上の第2ポリマー(B)が第1ポリマー(A)と相互侵入高分子網目構造を形成してもよい。
【0024】
第2ポリマー(B)は、第1ポリマー(A)100重量部に対して、0.5重量部以上90重量部以下含んでもよい。第2ポリマー(B)の重合度は、3以上10000以下であってよい。
【0025】
ここで、スラリー組成物において、セラミック粉体100重量部に対して、第1ポリマー(A)および第1モノマー(C)をあわせて1重量部以上55重量部以下含んでもよい。スラリー組成物において、導電粉末100重量部に対して、第1ポリマー(A)および第1モノマー(C)をあわせて1重量部以上100重量部以下含んでもよい。例えば、セラミック粉体100重量部に対して、第1ポリマー(A)および第1モノマー(C)が1重量部未満の場合、粉体表面に十分均一にポリマーが接することができないために欠陥の問題が生じる。例えば、セラミック粉体100重量部に対して、第1ポリマー(A)および第1モノマー(C)が55重量部超過の場合、粉体同士の距離のばらつきが大きくなるため、脱バインダー工程後の膜において均一性不良の問題が生じる。
【0026】
溶剤(E)の種類は、特に制限されない。例えば、溶剤(E)は、有機溶媒であってよい。溶剤(E)として、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;エチレングリコール誘導体;プロピレングリコール誘導体;エステル類;ベンジルエチルエーテル、ジヘキシルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;1,3-ブチレングリコールジアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテート、1,4-ブタンジオールジアセテート等のジアセテート類;シクロヘキサノールアセテート、3-メトキシブチルアセテート、乳酸エチルアセテート、トリアセチン、ジヒドロターピニルアセテート等のアセテート類;N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類であってもよい。好ましくは、溶剤(E)として、ターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、または1,2,5,6-テトラヒドロベンジルアルコールであってもよい。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いることができる。または、これらの有機溶媒は、2種類以上を混合して用いることができる。例えば、溶剤(E)は、トルエンとエタノールとの混合溶媒であってもよい。
【0027】
例えば、溶剤(E)は、セラミック粉体100重量部に対して、2重量部以上200重量部以下含んでもよい。例えば、溶剤(E)は、導電粉末100重量部に対して、5重量部以上600重量部以下含んでもよい。
【0028】
可塑剤(F)は、樹脂に可塑性や柔軟性を与える役割を有する。可塑剤(F)の種類は特に制限されない。例えば、可塑剤(F)は、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブトキシエチル、テレフタル酸ジオクチル、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ2-エチルヘキシル)、エポキシ化脂肪酸エステル、その他エステル系可塑剤、エーテル系可塑剤であってよい。可塑剤(F)は、第1ポリマー(A)100重量部に対して、2重量部以上20重量部以下含むものであってよい。
【0029】
分散剤は、スラリー中の無機化合物の凝集を防ぎ、分散性を向上させる役割を有する。分散剤の種類は、特に制限されない。分散剤として、ビックケミー社のDISPERBYK-103を用いてもよい。分散剤は、無機化合物(G)100重量部に対して、0.5重量部以上5重量部以下含むものであってよい。
【0030】
開始剤(D)は、熱または紫外線によりラジカルを発生させ、第1モノマー(C)の重合を開始させる役割を有する。開始剤(D)は、熱重合開始剤またはUV重合開始剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。例えば、開始剤(D)は、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、イルガキュア184、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキシド等であってよいが、これに限らない。開始剤(D)は、第1モノマー(C)10重量部に対して、0.05重量部以上0.25重量部以下含むものであってよい。
【0031】
(II)製造方法について。
本実施形態のグリーンシートの製造方法については、特に限定されない。例えば、本願発明に係るグリーンシートの製造方法は、以下のステップを含んでよい。
ステップ(1) 溶剤(E)に、第1ポリマー(A)および第1モノマー(C)を加えて無機化合物スラリー用バインダーを得るステップ、
ステップ(2) 無機化合物スラリー用バインダーに開始剤(D)および無機化合物(G)を加えてスラリー組成物を得るステップ、
ステップ(3) スラリー組成物を基材上に塗布するステップ、
ステップ(4) 基材を加熱して乾燥させると同時に前記第1ポリマー(A)とともに相互侵入高分子網目構造を形成する第2ポリマー(B)を形成するステップ。
【0032】
まず、ステップ(1)において、溶剤(E)に、第1ポリマー(A)および第1モノマー(C)を加え、さらに直径1mm以上10mm以下のジルコニアボールを投入してローラー等で60分以上、よく撹拌する。攪拌後にはナノマイザーを用いた分散を行ってもよい。圧力は120MPa以上180MPa以下であってよい。溶剤(E)に第1ポリマー(A)および第1モノマー(C)を溶解させ、無機化合物スラリー用バインダーを得る。ステップ(1)の第1ポリマー(A)、第1モノマー(C)、および溶剤(E)の種類、重量および分子量については、「(I)スラリー組成物について」に記載したものであってよい。ステップ(1)において、溶剤(E)に、可塑剤(F)等の他の成分材料をさらに混合して、無機化合物スラリー用バインダーを得てもよい。溶剤(E)に可塑剤(F)等の他の成分材料をさらに混合するステップは、ステップ(1)以外のステップで実行してもよい。
【0033】
次に、ステップ(2)において、ステップ(1)で得た無機化合物スラリー用バインダーに開始剤(D)および無機化合物(G)を加えて、スラリー組成物を得る。開始剤(D)および無機化合物(G)の種類および重量については、「(I)スラリー組成物について」に記載したものであってよい。グリーンシートを得るためには、無機化合物(G)として、セラミック粉体を加える。セラミック粉体の種類および重量については、「(I)スラリー組成物について」に記載したものであってよい。
【0034】
ステップ(2)において、無機化合物スラリー用バインダーに開始剤(D)および溶媒に分散剤を添加した上で分散処理を施した無機化合物(G)溶液を加えた後、混合してもよい。混合は、ボールミル、ローラー、および/または高圧分散装置を用いてもよい。ボールミルを用いる場合、ボールミルの種類については、特に限定されない。例えば、ボールミルは、直径0.1mm以上10mm以下の多数のジルコニアボールを用いてよい。ボールミルを用いた混合時間は、例えば1時間以上48時間以下、好ましくは1時間以上24時間以下であってよい。ローラーを用いた混合時間は、例えば14時間以上48時間以下、好ましくは10時間以上24時間以下であってよい。高圧分散装置を用いる場合、例えば、圧力は100MPa以上200MPa以下であってよい。
【0035】
ステップ(3)において、ステップ(2)で得られたスラリー組成物をシート状に成形してよい。例えば、スラリー組成物は、ドクターブレード法またはカレンダーロール法を用いて、シート状に成形してよい。基材については、特に制限されない。例えば、基材は、離型処理したものであってよい。例えば、基材は、ポリエステルフィルムであってよい。例えば、基材は、ポリオレフィンであってよい。基材は、単層または同種もしくは異種の2層以上の多層であってもよい。基材に塗布するスラリーの膜厚は、0.5μm以上500μm以下であってよい。開始剤に光開始剤を使用する場合にはさらに紫外線照射を行ってもよい。
【0036】
ステップ(4)において、スラリーを塗布した基材を乾燥処理してグリーンシートを得てよい。乾燥処理の方法については、特に制限されない。乾燥は、熱風乾燥炉を用いてもよい。乾燥処理の温度は、60℃以上100℃以下であってよい。乾燥処理の時間は、2分以上60分以下であってよい。
【0037】
(III)用途について。
無機化合物(G)としてセラミック粉体を含む本実施形態のスラリー組成物を用いたグリーンシートが得られる。当該グリーンシートは、さまざまな電子部品に用いることができる。例えば、本実施形態のグリーンシートは、高温下(例えば150℃以上)で信頼性が要求される電子部品に好適に用いられる。例えば、グリーンシートを誘電体として含むキャパシタとして用いてもよい。例えば、グリーンシートを誘電体として含む多層積層セラミックキャパシタ(MLCC)として用いてもよい。これらの電子部品は、例えば電気自動車のパワーモジュールや積層電池等に用いられ、高い性能と信頼性を実現する。また、本実施形態のスラリー組成物は、シリコンウエハの研磨剤を保持する目的で用いられるものであってよい。
【0038】
また、本実施形態の変形例によれば、無機化合物スラリー用バインダーを用いて導電ペーストが得られる。例えば、無機化合物(G)として、セラミック粉体の代わりに、導電粉末を含んでもよい。これにより、本実施形態のスラリー組成物を用いた導電ペーストが得られる。さらに、当該導電ペーストを乾燥させ、得られた膜をグリーンシートの少なくとも一方の面に配置した塗工シートが得られる。また、一例として、本実施形態のスラリー組成物を基材上に塗布するステップと、基材を加熱して乾燥させるステップとを含む方法でグリーンシートを得る。導電ペーストを乾燥させた層を、得られたグリーンシートの少なくとも一方の面に配置した塗工シートの製造方法が得られる。
【0039】
導電ペーストの調製方法については、無機化合物(G)として、セラミック粉体の代わりに導電粉末を加えることを除いては、「(II)製造方法について」のステップに従って実施してよい。導電ペーストをグリーンシートの少なくとも一方の面に塗布するステップは、「(II)製造方法について」のステップ(5)と同様に実施してよい。乾燥処理の方法については、特に制限されない。乾燥は、熱風乾燥炉を用いてもよい。導電ペーストの乾燥処理は、60℃以上100℃以下であってよい。乾燥処理の時間は、2分以上60分以下であってよい。開始剤に光開始剤を使用する場合にはさらに紫外線照射を行ってもよい。
【0040】
また、本実施形態のグリーンシートは、動的粘弾性測定(Dynamic Mechanical Analysis)の損失正接(tanδ)ピークとして測定されるガラス転移点が45℃以上85℃以下であってよい。一例として、動的粘弾性測定(Dynamic Mechanical Analysis)の損失正接(tanδ)ピークとして測定されるガラス転移点が45℃以上85℃以下である、グリーンシートの製造方法が得られる。
【0041】
動的粘弾性測定の方法は、特に制限されない。例えば、動的粘弾性測定は、市販の任意の動的粘弾性測定装置を用いて測定してよい。
【0042】
(IV)実施例。
以下、本願発明の実施例および比較例について説明する。
【0043】
[実施例1]
(IV-1)バインダー溶液の調製。
トルエン50重量部とエタノール50重量部との混合溶媒に、ポリビニルブチラル(BH-3、積水化学工業社製)を10重量部加え、撹拌してポリビニルブチラルを上記混合溶媒に溶解させ、混合溶液を得た。次に、上記混合溶液に、可塑剤であるG260(積水化学工業社製)を、ポリビニルブチラル100重量部に対して2重量部になるように加え、撹拌してバインダー溶液を調整した。
【0044】
(IV-2)スラリー組成物の調製。
トルエン75重量部とエタノール75重量部との混合溶媒に、セラミック粉体であるチタン酸バリウム(T-BTO-100RK、戸田工業社製、平均粒子径0.1μm)100重量部、および分散剤(DISPERBYK-103、ビックケミー社製)2重量部を加えた。上記溶液をローラー(MMテック社製)で24時間混合し、セラミック粉体の分散液を調整した。
【0045】
次に、セラミック粉体100重量部に対し、ポリビニルブチラルが19重量部になるように、前記セラミック粉体の分散液に前記バインダー溶液を加え、ボールミルで24時間撹拌した。その後、高圧分散装置(ナノマイザー、吉田機械興業社製、200MPa)で分散した。次に、100重量部のポリビニルブチラルに対して、N,N'-メチレンビスアクリルアミドが10重量部になるように、また、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)が0.2重量部になるように加え、ボールミルで12時間撹拌し、スラリー組成物を得た。
【0046】
(IV-3)スラリー組成物の評価(粒度分布測定)。
得られたスラリー組成物の粒度分布を超音波式粒度分布測定装置(DT-100、DISPERSION TECHNOLOGY社製)で測定した。
【0047】
(IV-4)スラリー組成物の評価(粘度測定)。
得られたスラリー組成物の粘度をB型粘度計(VISCOMETER DV-II+PRO、BROOKFIELD社製)を用いて測定した。
【0048】
(IV-5)グリーンシートの製造。
上記(IV-2)で得られたスラリー組成物を、離型処理したポリエステルフィルム上に、乾燥膜厚が1μmになるようにドクターブレードを用いて塗工した。その後、70℃で30分熱風乾燥炉にて乾燥させ、ポリエステルフィルム上にグリーンシートを得た。
【0049】
(IV-6)グリーンシートの評価。
(IV-5)で得られたグリーンシートを金型(スーパーダンベルおよびSD型レバー式試料裁断器、ダンベル社製)で打ち抜き、ISO 37-1A準拠のダンベル試験片を作製した。次に、ダンベル試験片について、引張試験を行った。引張試験は万能試験機(テクスチャアナライザーTA.TXplus、Stable Micro Systems社製)を用いて行った。引張試験によって得られた応力ひずみ線図で、最も低いひずみ領域にみられる変曲点における応力を降伏応力と定義した。
【0050】
積層工程での工程適合性評価のために、ガラス転移点を測定した。(IV-5)で得られたグリーンシートを5mm幅、長さ20mmの短冊形状に裁断し、動的粘弾性測定装置(DMS7100、日立ハイテクサイエンス社製)を用い、昇温速度2℃/分、周波数1Hz、0℃~200℃で測定を行った。昇温中に応力値の測定限界に達した場合は、その時点で測定を終了させた。
【0051】
[実施例2]
(IV-1)バインダー溶液の調製。
実施例1と同様の方法でバインダー溶液の調製を行った。
【0052】
(IV-2)スラリー組成物の調製。
トルエン75重量部とエタノール75重量部との混合溶媒に、セラミック粉体であるチタン酸バリウム(T-BTO-100RK、戸田工業社製、平均粒子径0.1μm)100重量部、および分散剤(DISPERBYK-103、ビックケミー社製)2重量部を加えた。上記溶液をローラー(MMテック社製)で24時間混合し、セラミック粉体の分散液を調整した。
【0053】
次に、セラミック粉体100重量部に対し、ポリビニルブチラルが19重量部になるように、前記セラミック粉体の分散液に前記バインダー溶液を加え、ボールミルで24時間撹拌した。その後、高圧分散装置(ナノマイザー、吉田機械興業社製、200MPa)で分散した。次に、100重量部のポリビニルブチラルに対して、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートが4重量部になるように、トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレートが3重量部になるように、また、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)が0.14重量部になるようにそれぞれ加え、ボールミルで12時間撹拌し、スラリー組成物を得た。
【0054】
(IV-5)グリーンシートの製造。
上記(IV-2)で得られたスラリー組成物を、離型処理したポリエステルフィルム上に、乾燥膜厚が1μmになるようにドクターブレードを用いて塗工した。その後、90℃で30分熱風乾燥炉にて乾燥させ、ポリエステルフィルム上にグリーンシートを得た。
【0055】
[実施例3]
(IV-1)バインダー溶液の調製。
実施例1と同様の方法でバインダー溶液の調製を行った。
【0056】
(IV-2)スラリー組成物の調製。
トルエン75重量部とエタノール75重量部との混合溶媒に、セラミック粉体であるチタン酸バリウム(T-BTO-100RK、戸田工業社製、平均粒子径0.1μm)100重量部、および分散剤(DISPERBYK-103、ビックケミー社製)2重量部を加えた。上記溶液をローラー(MMテック社製)で24時間混合し、セラミック粉体の分散液を調整した。
【0057】
次に、セラミック粉体100重量部に対し、ポリビニルブチラルが19重量部になるように、前記セラミック粉体の分散液に前記バインダー溶液を加え、ボールミルで24時間撹拌した。その後、高圧分散装置(ナノマイザー、吉田機械興業社製、200MPa)で分散した。次に、100重量部のポリビニルブチラルに対して、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートが4重量部になるように、トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレートが3重量部になるように、ブロックポリイソシアネート(MF-B60X、旭化成製)が3重量部になるように、複素環系硬化触媒(C003、広栄化学工業社製)が0.15重量部になるように、また、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)が0.14重量部になるようにそれぞれ加え、ボールミルで12時間撹拌し、スラリー組成物を得た。
【0058】
(IV-5)グリーンシートの製造。
実施例1と同様の方法でグリーンシートを製造した。
【0059】
[実施例4]
(IV-1)バインダー溶液の調製。
実施例1と同様の方法でバインダー溶液の調製を行った。
【0060】
(IV-2)スラリー組成物の調製。
トルエン75重量部とエタノール75重量部との混合溶媒に、セラミック粉体であるチタン酸バリウム(T-BTO-100RK、戸田工業社製、平均粒子径0.1μm)100重量部、および分散剤(DISPERBYK-103、ビックケミー社製)2重量部を加えた。上記溶液をローラー(MMテック社製)で24時間混合し、セラミック粉体の分散液を調整した。
【0061】
次に、セラミック粉体100重量部に対し、ポリビニルブチラルが19重量部になるように、前記セラミック粉体の分散液に前記バインダー溶液を加え、ボールミルで24時間撹拌した。その後、高圧分散装置(ナノマイザー、吉田機械興業社製、200MPa)で分散した。次に、100重量部のポリビニルブチラルに対して、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートが4重量部になるように、トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレートが3重量部になるように、また、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキシドが0.14重量部になるようにそれぞれ加え、ボールミルで12時間撹拌し、スラリー組成物を得た。
【0062】
(IV-5)グリーンシートの製造。
実施例1と同様の方法で塗布を行った後、70℃5分熱風乾燥炉にて乾燥させてから366mJ/cm2(ミカサ製、マスクアライナーM-1S型、超高圧水銀ランプ、250W)の条件でUV照射を行い、グリーンシートを得た。
【0063】
[実施例5]
主成分である Cu粉末と、 Cu粉末に対する重量 比が 2wt%で平均粒径が 0. 2 マイクロメーターである Ni粉末と、バインダー、分散剤及び有機溶剤を混合すると共に、ボールミル又はロールミルで分散してペースト状にした。これに有機バインダー100重量部に対してN,N'-メチレンビスアクリルアミドが10重量部になるように、また、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)が0.2重量部になるように加え、ボールミルで12時間撹拌し、ペースト組成物を得た。
【0064】
[比較例1]
(IV-1)バインダー溶液の調製。
トルエン50重量部とエタノール50質量部の混合溶媒に、ポリビニルブチラル(BH-3、積水化学工業社製)を10重量部加え、撹拌してポリビニルブチラルを上記混合溶媒に溶解させた。次に、上記溶液に、可塑剤であるG260(積水化学工業社製)を、ポリビニルブチラル100重量部に対して10重量部になるように加え、撹拌してバインダー溶液を調整した。
【0065】
(IV-2)スラリー組成物の調製。
トルエン75重量部とエタノール75重量部との混合溶媒に、セラミック粉体であるチタン酸バリウム(T-BTO-100RK、戸田工業社製、平均粒子径0.1μm)100重量部、および分散剤(DISPERBYK-103、ビックケミー社製)2重量部を加えた。上記溶液をローラー(MMテック社製)で24時間混合し、セラミック粉体の分散液を調整した。
【0066】
次に、セラミック粉体100重量部に対し、ポリビニルブチラルが19重量部になるように、前記セラミック粉体の分散液に前記バインダー溶液を加え、ボールミルで24時間撹拌した。その後、高圧分散装置(ナノマイザー、吉田機械興業社製、200MPa)で分散し、スラリー組成物を得た。
【0067】
(IV-5)グリーンシートの製造。
上記(IV-2)で得られたスラリー組成物を、離型処理したポリエステルフィルム上に、乾燥膜厚が1μmになるようにドクターブレードを用いて塗工した。その後、80℃で2分熱風乾燥炉にて乾燥させ、ポリエステルフィルム上にグリーンシートを得た。
【0068】
[比較例2]
(IV-1)ウレタン架橋ポリビニルブチラルの重合。
還流冷却器を連結したコック付き水分定量受器、温度計、および攪拌器を備えたセパラブルフラスコに、BH-3Zポリマー(積水化学社製PVB)50g、N-メチル-2-ピロリドン 650g、トルエン200gを加え、室温(25℃)で3時間溶解させた。このPVB溶液にフェニルイソシアネート31.2gを加え、室温にて15時間反応させ、さらにオイルバスを用いて内温が80℃になるまで加熱し、追加2時間反応を行った。反応の停止はメタノール12.6gを添加して行った。このようにして得られた反応溶液を水7Lに添加し、再沈殿およびろ過を行い、得られた白色固体を、減圧下、80℃で10時間乾燥させることにより、65.5gの高分子化合物‐1(ウレタン架橋PVB)を得た。
高分子化合物‐1の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(日本分光株式会社製、LC-2000Plus、カラムは昭和電工株式会社製KF-603×1本、KF-606×1本)で測定したところ、ポリスチレン換算で、重量平均分子量(Mw)が320000、数平均分子量(Mn)が16400、Mw/Mn=19.5であった。
【0069】
(IV-2)バインダー溶液の調製。
トルエン50重量部とエタノール50質量部の混合溶媒に、ウレタン架橋ポリビニルブチラルを10重量部加え、撹拌してウレタン架橋ポリビニルブチラルを溶媒に溶解させた。次に、上記溶液に、可塑剤であるG260(積水化学工業社製)を、ポリビニルブチラル100重量部に対して10重量部になるように加え、撹拌してバインダー溶液を調整した。
【0070】
(IV-3)スラリー組成物の調製。
比較例1と同様の方法でスラリー組成物を調整した。
【0071】
(IV-5)グリーンシートの製造。
比較例1と同様の方法でグリーンシートを作製した。
【0072】
[比較例2]
主成分である Cu粉末と、 Cu粉末に対する重量 比が 2wt%で平均粒径が 0. 2 マイクロメーターである Ni粉末と、バインダー、分散剤及び有機溶剤を混合すると共に、ボールミル又はロールミルで分散してペースト組成物を得た。得られたペーストについても比較例1と同様の方法でグリーンシートを作製した。
【0073】
本願発明の実施例および比較例のグリーンシートの実験結果を表1にまとめた。
【表1】
【0074】
実施例1から3のグリーンシートは、比較例1および2のグリーンシートに比べて、無機化合物の分散安定性、伸び、および積層時の接着性といった工程適合性を損なわず、従来のスラリー製造プロセスに大きな変更を加えることなく、グリーンシートの強度を改善した点で優れた効果を有している。また、実施例1~3のグリーンシートのガラス転移点は60℃以上64℃以下であり、加温した際にタックが出るため、常温での取り扱いにも都合がよい。本願発明により、従来よりも更に薄膜のグリーンシートを作製することが可能となった。
【0075】
一方、比較例1のグリーンシートは、第2ポリマー(B)を含まないため、実施例1から3のグリーンシートに比べて、強度の面で劣っている。また、比較例2のグリーンシートは、第1ポリマー(A)として、ポリビニルブチラルの代わりにウレタン架橋ポリビニルブチラルを用い、第2ポリマー(B)を含まないため、ガラス転移点の温度が高く、実施例1から3のグリーンシートに比べて、取扱いの面で劣っている。
【0076】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0077】
特許請求の範囲、および明細書おいて示した方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先だって」等と明示してない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、および明細書のステップに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。