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  • 特許-構造物の連結構造及び構造物の設計方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】構造物の連結構造及び構造物の設計方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20231212BHJP
   E04B 1/00 20060101ALI20231212BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20231212BHJP
   E04G 23/02 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
E04H9/02 301
E04H9/02 331Z
E04B1/00 ESW
F16F15/02 L
E04G23/02 J
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019211286
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2021080799
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】飯野 夏輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 庸介
(72)【発明者】
【氏名】前田 周作
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅史
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-252967(JP,A)
【文献】特開2011-102530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00 - 1/36
E04H 9/00 - 9/16
E04G 23/02
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非免震構造物と、
下部構造体、前記下部構造体の上方に配置された免震装置、及び、前記免震装置の上方に配置され前記非免震構造物と構造的に非連結とされた上部構造体を備えた免震構造物と、
前記非免震構造物と前記下部構造体とを連結する連結部材と、
を有し、
前記上部構造体の階数より前記下部構造体の階数が少ない、
構造物の連結構造。
【請求項2】
前記連結部材は剛性部材である、請求項1に記載の構造物の連結構造。
【請求項3】
非免震構造物と、
下部構造体、前記下部構造体の上方に配置された免震装置、及び、前記免震装置の上方に配置され前記非免震構造物と構造的に非連結とされた上部構造体を備えた免震構造物と、
前記非免震構造物と前記下部構造体とを連結する連結部材と、
を有する構造物の連結構造において、
前記連結部材の剛性をパラメータとして入力する工程と、
入力された前記パラメータに基づいて所定の地震波における前記免震構造物及び前記非免震構造物それぞれの応答を算出する工程と、
複数の前記パラメータに基づいて算出された複数の応答から、前記連結部材の剛性を決定する工程と、
を備えた、構造物の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の連結構造及び構造物の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、耐震構造の第1の建物と免震構造の第2の建物とが、接合部材で接合された制震建物が記載されている。この接合部材は、第2の建物の免震層より上部に接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-174513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の制震建物では、第1の建物を第2の建物の免震層より上部で拘束することによって、第1の建物の地震時の応答低減を図っている。しかし、第2の建物における免震層より上部の構造が第1の建物によって拘束されているため、免震装置による免震効果を有効に発揮し難い。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、免震装置による免震効果を有効に発揮できる構造物の連結構造及び構造物の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の構造物の連結構造は、非免震構造物と、下部構造体、前記下部構造体の上方に配置された免震装置、及び、前記免震装置の上方に配置され前記非免震構造物と構造的に非連結とされた上部構造体を備えた免震構造物と、前記非免震構造物と前記下部構造体とを連結する連結部材と、を有し、前記上部構造体の階数より前記下部構造体の階数が少ない。
【0007】
請求項1の構造物の連結構造では、非免震構造物と免震構造物の下部構造体とが連結部材で連結されている。一方、免震構造物の上部構造体は非免震構造物と連結されていない。このため上部構造体は、地震時に非免震構造物によって変位を拘束されない。これにより、免震装置による免震効果を有効に発揮できる。
【0008】
また、免震構造物の下部構造体は、非免震構造物と連結されるため剛性が高くなり揺れが短周期となる。これにより免震装置による上部構造体の応答抑制効果が高くなる。さらに、非免震構造物に作用する層せん断力が、免震構造物の下部構造体へ流れる。このため、非免震構造物に作用する層せん断力を低減できる。
【0009】
請求項2の構造物の連結構造は、請求項1に記載の構造物の連結構造において、前記連結部材は剛性部材である。
【0010】
請求項2の構造物の連結構造では、連結部材が剛性部材とされている。このため、非免震構造物において連結部材で連結された部分の層間変形角が、免震構造物の下部構造体の層間変形角に近づいて、小さくなる。これに対して、例えば連結部材としてオイルダンパー等を設けた場合、オイルダンパーは変位に依存しない粘性部材であるため連結しても非免震構造物と免震構造物の層間変形角は近づきにくい。
【0011】
請求項3の構造物の設計方法は、非免震構造物と、下部構造体、前記下部構造体の上方に配置された免震装置、及び、前記免震装置の上方に配置され前記非免震構造物と構造的に非連結とされた上部構造体を備えた免震構造物と、前記非免震構造物と前記下部構造体とを連結する連結部材と、を有する構造物の連結構造において、前記連結部材の剛性をパラメータとして入力する工程と、入力された前記パラメータに基づいて所定の地震波における前記免震構造物及び前記非免震構造物それぞれの応答を算出する工程と、複数の前記パラメータに基づいて算出された複数の応答から、前記連結部材の剛性を決定する工程と、を備えている。
【0012】
請求項3の構造物の設計方法では、非免震構造物と免震構造物の下部構造体とが連結部材で連結されている。一方、免震構造物の上部構造体は非免震構造物と連結されていない。このため上部構造体は、地震時に非免震構造物によって拘束されない。これにより、免震装置による免震効果を有効に発揮できる。
【0013】
また、免震構造物の下部構造体は、非免震構造物と連結されるため剛性が高くなり揺れが短周期となる。このため免震効果を向上できる。さらに、非免震構造物に作用する層せん断力が、免震構造物の下部構造体へ流れる。このため、非免震構造物に作用する層せん断力を低減できる。
【0014】
またさらに、請求項3の構造物の設計方法では、連結部材の剛性に基づいて、所定の地震波における免震構造物及び非免震構造物それぞれの応答が算出される。そして、複数の応答算出結果から、連結部材の剛性が決定される。このため、免震構造物及び非免震構造物それぞれの応答を最適化できる連結部材の剛性を設定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、免震装置による免震効果を有効に発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る構造物の連結構造の一例を示す模式図である。
図2】(A)は本発明の実施形態に係る構造物の連結構造が適用される前の状態の非免震構造物の一例を示す立面図であり、(B)は非免震構造物と離間して免震構造物を構築した状態を示す立面図であり、(C)は非免震構造物と免震構造物とを連結した状態を示す立面図である。
図3】本発明の実施形態に係る連結部材の軸剛性と、非免震構造物及び免震構造物の層間変形角との関係を示すグラフである。
図4】(A)は本発明の実施形態に係る非免震構造物と免震構造物とを連結した状態及び連結していない状態における、各構造物の各層毎の加速度を示すグラフであり、(B)は各構造物の各層毎の層せん断力を示すグラフであり、(C)は各構造物の各層毎の変位を示すグラフであり、(D)は各構造物の各層毎の層間変形角を示すグラフである。
図5】(A)は本発明の実施形態に係る構造物の連結構造において、免震構造物の下部構造体における複数階と非免震構造物とを連結部材で連結した変形例を示す模式図であり、(B)は免震構造物の下部構造体において互いに離間した複数階と非免震構造物とを連結部材で連結した変形例を示す模式図であり、(C)は異なる地盤面に建つ免震構造物と非免震構造物とを連結部材で連結した変形例を示す模式図である。
図6】本発明の実施形態に係る連結部材として、地震時にせん断力が入力される連結部材を用いた変形例を示す立面図である。
図7】本発明の実施形態に係る連結部材として、地震時に曲げ変形する連結部材を用いた変形例を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る構造物の連結構造及び構造物の設計方法について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0018】
<構造物の連結構造>
本発明の実施形態における構造物の連結構造は、図1に示すように、非免震構造物の一例としての耐震建物20と、免震構造物の一例としての免震建物30と、を連結する構造である。耐震建物20と免震建物30とは、連結部材40で連結されている。
【0019】
図1においては、耐震建物20と免震建物30とを、質点モデル(多質点モデル)で表現している。質点モデルにおいては、建物の1層を1つの質点として表現する。耐震建物20及び免震建物30の階数は特に限定されるものではないが、一例として、耐震建物20は4階建てとされ、免震建物30は7階建てとされている。
【0020】
(耐震建物)
耐震建物20は、免震建物30と離間して構築されている。耐震建物20の下層部22(本実施形態においては1階)は、免震建物30の下層部32と連結部材40を介して連結されている。耐震建物20の上層部24(2階以上の部分)は、免震建物とは構造的に非連結とされている。耐震建物20は、免震建物30と比較して、建物全体としてみたときの剛性が高く、固有周期が短い構造体である。
【0021】
(免震建物)
免震建物30は、下層部32と、免震装置34と、上層部36と、を備えて構成された、所謂中間層免震建物とされている。下層部32は、本発明の下部構造体の一例であり、連結部材40を介して耐震建物20の下層部22と連結されている。免震装置34は、例えば積層ゴム支承を備えて形成され、下層部32の上部に載置されている。上層部36は、本発明の上部構造体の一例であり、免震装置34の上方に配置され、耐震建物20とは構造的に非連結とされている。
【0022】
(連結部材)
連結部材40は、剛性部材によって形成されている。「剛性部材」とは、一例として軸剛性が所定値以上の部材である。「所定値」とは天然積層ゴムの初期剛性であり、本実施形態においては一例として50[ton/cm]とされている。
【0023】
また、連結部材40は、耐震建物20の下層部22に接合され、免震建物30の下層部32に接合されている。
【0024】
なお、連結部材40を形成する剛性部材としては、鋼材を組み合わせることで所望の剛性を備えた部材(ダンパーではない硬い部材)を用いてもよいし、建物の制振装置としての履歴系ダンパーを用いることもできる。さらに剛性部材としては、免震積層ゴム、ブレース材、コイルばね、皿ばね等を用いることもできる。
【0025】
<構造物の連結方法>
図2(A)~(C)には、本実施形態の構造物の連結方法の具体的な一例が示されている。
【0026】
図2(A)に示す耐震建物20は、鉄道駅と商業ビルとの複合施設である。耐震建物20の下層部22は、軌道に跨って構築された駅舎を構成している。また、上層部24は、駅舎と一体化された商業ビルを構成している。
【0027】
図2(B)に示すように、この耐震建物20に隣接して、免震建物30が構築される。本実施形態の構造物の連結方法は、図2(C)に示すように、既存建物である耐震建物20と新築建物である免震建物30とを連結する際に適用される。
【0028】
免震建物30は、鉄道駅とオフィスビルとの複合施設である。免震建物30の下層部32は、軌道に跨って構築された駅舎を構成している。また、上層部36は、駅舎と一体化されたオフィスビルを構成している。
【0029】
既存駅舎である耐震建物20の下層部22は、補強部材22Aによって補強される。この補強部材22Aと、拡張された新築駅舎である免震建物30の下層部32とは、連結部材40を用いて連結される。連結部材40は、下層部22における補強部材22A及び下層部32にそれぞれ接合される。また、既存の商業ビルである耐震建物20の下層部22と、新築されたオフィスビルである免震建物30の上層部36とは、ペデストリアンデッキ22B、36A及び後述するエキスパンションジョイント42を介して歩行者の往来が可能とされる。
【0030】
なお、ペデストリアンデッキ22B、36Aは、それぞれ下層部22、上層部36を形成するスラブのうちのひとつである。または、ペデストリアンデッキ22B、36Aは、それぞれ下層部22、上層部36を形成するスラブと一体的に形成された構造物である。
【0031】
ペデストリアンデッキ22B、36Aは、互いに隙間を空けて形成され、構造的に切り離されている。また、この隙間はエキスパンションジョイント42によって塞がれており、ペデストリアンデッキ22B、36Aとの間で歩行者の往来が可能とされている。
【0032】
なお、本発明における「非免震構造物と構造的に非連結とされた上部構造体」とは、ペデストリアンデッキ36Aを備えた上層部36のように、非免震構造物(耐震建物20)と構造的に切り離されているものを指す。また、上部構造体は、非免震構造物に対して、エキスパンションジョイント42のように応力を伝達しない部材を用いて接続されていてもよい。
【0033】
なお、耐震建物20の上層部24及び免震建物30の上層部36は、それぞれ商業ビル及びオフィスビルに限定されるものではない。上層部24、36は、何れも、商業ビル、オフィスビル、住宅、公共施設等、任意の用途に用いることができる。耐震建物20の下層部22及び免震建物30の下層部32についても同様であり、その用途は駅舎に限定されるものではない。
【0034】
また、本実施形態では、耐震建物20の下層部22を補強部材22Aによって補強し、この補強部材22Aと免震建物30の下層部32とを、連結部材40を用いて連結している。この実施形態は、耐震建物20の下層部22(ペデストリアンデッキ22B)と免震建物30の下層部32とのレベル差が大きい場合に適用されるものであるが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0035】
例えば耐震建物20の下層部22に補強部材22Aを設けず、ペデストリアンデッキ22Bと免震建物30の下層部32とを連結部材40を用いて連結してもよい。この場合、連結部材40が傾斜して取り付けられる場合や、エキスパンションジョイント42が傾斜して取り付けられる場合がある。すなわち、連結部材40の耐震建物20に対する連結箇所は、適宜選択することができる。
【0036】
<剛性の決定方法>
図3には、連結部材40の軸剛性[ton/cm]と、耐震建物20及び免震建物30の層間変形角と、の関係がグラフで示されている。層間変形角は、耐震建物20における下層部22、上層部24、免震建物30における下層部32及び上層部36毎に、それぞれ曲線22E、24E、32E、36Eで示されている。
【0037】
曲線22E、24E、32E、36Eで示される層間変形角は図示しないコンピュータを用いて算出される。コンピュータは、例えばCPU(Central Processing Unit:プロセッサ)、一時記憶領域としてのメモリ、不揮発性の記憶部、キーボードとマウス等の入力部、液晶ディスプレイ等の表示部、媒体読み書き装置(R/W)、通信インタフェース(I/F)部及び外部I/F部等を備えている。媒体読み書き装置は、記録媒体に書き込まれている情報の読み出し及び記録媒体への情報の書き込みを行う。
【0038】
層間変形角を求めるためには、まず、設計者がコンピュータに、所定の地震波、耐震建物20及び免震建物30の構造条件、連結部材40の軸剛性等をパラメータとして入力する。
【0039】
次に、コンピュータが、入力されたパラメータに基づいて耐震建物20及び免震建物30それぞれの応答(層間変形角)を算出する。具体的には、コンピュータは記憶部に記憶された「層間変形角計算プログラム」を読み出してメモリに展開し、層間変形角計算プログラムが有するプロセスを順次実行する。これにより、各層間変形角が算出される。
【0040】
そして、コンピュータが、これらの(軸剛性、算出された層間変形角)の組み合わせを平面上に出力することで、図3のグラフが作成される。なお、このグラフに示された曲線22E、24E、32E、36Eは、複数の算出結果を基に作成した近似曲線である。
【0041】
コンピュータによって作成された図3のグラフには、所定の地震波による耐震建物20及び免震建物30の応答特性が、連結部材40の軸剛性を調整することでどのように変化するかが示される。設計者は、このグラフを分析することにより、連結部材40の軸剛性を決定することができる。
【0042】
具体的には、連結部材40の軸剛性を大きくすると、剛性が大きい耐震建物20における下層部22の層間変形角が小さくなる(曲線22E)。一方で、剛性が小さい(耐震建物20と比較して小さい)免震建物30における下層部32の層間変形角が大きくなる(曲線32E)。
【0043】
設計者は、一例として、免震建物30における下層部32の層間変形角が過度に大きくならない範囲で、耐震建物20における下層部22の層間変形角を所望の範囲に低減できる連結部材40の軸剛性を決定する。例えば設計者は50[ton/cm]以上300[ton/cm]未満の範囲内において、下層部22の層間変形角を最小化できる連結部材40の軸剛性として、N(≒120)[ton/cm]を選択する。
【0044】
なお、コンピュータには、「所定の地震波」として、所定の地震によって耐震建物20及び免震建物30が地盤から加えられる加速度を入力する。この加速度としては、例えばS波(主要動)の最大値を入力する。あるいは、経時的に変化する加速度を断続的に入力する。所定の地震波としては、一例として、1995年の阪神淡路大震災の際に神戸海洋気象台で観測された地震波が挙げられる。また別の一例として、2004年の新潟県中越地震の際に小千谷で観測された地震波が挙げられる。これらの地震波は、予めコンピュータの記憶部に記憶されている。設計者は入力装置を用いて、計算に用いる地震波を適宜選択することができる。
【0045】
また、「耐震建物20及び免震建物30の構造条件」とは、地震力に対する耐震建物20及び免震建物30の変形特性を示す諸条件である。具体的には、耐震建物20及び免震建物30における各層の質量や剛性等が挙げられる。なお、構造条件として、これらの建物を構成する柱及び梁の軸剛性、せん断剛性、柱と梁との接合形式等をコンピュータに入力する場合もある。
【0046】
また、コンピュータは、入力されたパラメータに基づいて、上述したように耐震建物20及び免震建物30それぞれの層間変形角を算出できることに加えて、以下に示すようにそれぞれの加速度、層せん断力、変位を算出することもできる。
【0047】
図4(A)には、耐震建物20及び免震建物30における各層の加速度(所定の地震波が加えられた時の加速度)[gal]がプロットされている。黒丸で示された各点は、免震建物30における各層の加速度を示している。また、耐震建物20と連結されていない独立時における各層の加速度(比較例)を示す各点は、破線によって連結して示されている。一方、耐震建物20と連結された連結時(連結部材40の軸剛性は120[ton/cm])における各層の加速度(実施例)を示す各点は、実線によって連結して示されている。
【0048】
同様に、白丸で示された各点は、耐震建物20における各層の加速度を示している。また、免震建物30と連結されていない独立時における各層の加速度(比較例)を示す各点は、破線によって連結して示されている。一方、免震建物30と連結された連結時における各層の加速度(実施例)を示す各点は、実線によって連結して示されている。
【0049】
図4(B)には、耐震建物20及び免震建物30における各層の層せん断力(所定の地震波が加えられた時の層せん断力)[kN]がプロットされている。黒丸、白丸、破線、実線については図4(A)の説明における「加速度」を「層せん断力」に読み替えることで説明される。
【0050】
また、図4(C)には、耐震建物20及び免震建物30における各層の変位(所定の地震波が加えられた時の変位)[cm]がプロットされている。黒丸、白丸、破線、実線については図4(A)の説明における「加速度」を「変位」に読み替えることで説明される。
【0051】
また、図4(D)には、耐震建物20及び免震建物30における各層の層間変形角(所定の地震波が加えられた時の層間変形角)[×(1/1000)rad]がプロットされている。黒丸、白丸、破線、実線については図4(A)の説明における「加速度」を「層間変形角」に読み替えることで説明される。
【0052】
設計者は、「層間変形角」の計算結果だけでなく、図4(A)~(C)に示した「加速度」、「層せん断力」又は「変位」の計算結果を総合的に踏まえて、連結部材40の軸剛性を決定することができる。「加速度」、「層せん断力」及び「変位」を計算するプログラムも、コンピュータの記憶部に記憶されている。
【0053】
<作用・効果>
本実施形態に係る構造物の連結構造では、図1に示すように、耐震建物20の下層部22と免震建物30の下層部32とが連結部材40で連結されている。一方、免震建物30の上層部36は耐震建物20と構造的に連結されていない。このため上層部36は、地震時に耐震建物20によって変位を拘束されない。これにより、免震装置34による免震効果を有効に発揮できる。
【0054】
具体的には、上層部36が耐震建物20と連結されていると、上層部36は、免震建物の長所である長周期化の効果が失われてしまうため、免震装置34があるにも関わらず上層部36は振動し易い。
【0055】
これに対して、上層部36が耐震建物20と連結されていなければ、耐震建物20が揺れても、この揺れの影響を受けない。これにより、地盤の揺れを免震装置34によって有効に抑制することができる。
【0056】
また、免震建物30の下層部32は、耐震建物20の下層部22と連結されるため剛性が高くなり揺れが短周期となる。このため、免震装置34による上層部36の応答抑制効果が高くなる。さらに、耐震建物20に作用する層せん断力が、免震建物30の下層部32へ流れる。このため、図4(B)に示すように、耐震建物20に作用する層せん断力を低減できる。
【0057】
また、本実施形態に係る構造物の連結構造では、連結部材40が剛性部材とされている。このため、図3及び図4(D)に示すように、耐震建物20における下層部22の層間変形角が、免震建物30における下層部32の層間変形角に近づいて、小さくなる。これに対して、例えば連結部材としてオイルダンパー等を設けた場合、オイルダンパーは変位に依存しない粘性部材であるため連結しても耐震建物20と免震建物30の層間変形角は近づきにくい。
【0058】
また、本実施形態に係る構造物の設計方法では、図3を用いて説明したように、連結部材40の剛性(軸剛性)に基づいて、所定の地震波における免震建物30及び耐震建物20それぞれの応答(層間変形角)が算出される。そして、複数の応答算出結果から、連結部材40の剛性が決定される。このため、免震建物30及び耐震建物20それぞれの応答を最適化できる連結部材40の剛性を設定することができる。
【0059】
<その他の実施形態>
本実施形態においては連結部材40を形成する剛性部材を「軸剛性」が所定値以上の部材として説明しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば剛性部材は「せん断剛性」や「曲げ剛性」が所定値以上の部材としてもよい。
【0060】
せん断剛性が所定値以上の剛性部材は、例えば図6に示す連結部材44のように、地震時にせん断力が入力される連結部材として用いられる。また、曲げ剛性が所定値以上の剛性部材は、例えば図7に示す連結部材46のように、地震時に曲げ変形する連結部材として用いられる。この連結部材46は、免震建物30及び耐震建物20との連結部が略水平に形成されており(水平部)、それぞれの水平部の間が湾曲して形成されている(湾曲部)。これにより地震時には、免震建物30及び耐震建物20にはそれぞれ軸力(略水平方向の力)が入力される一方、連結部材46の湾曲部が曲げ変形して地震力に抵抗する。
【0061】
また、本実施形態においては連結部材40として剛性部材を用いているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば剛性部材に代えて、オイルダンパー等を用いてもよい。このような場合においても、「層間変形角」、「加速度」、「層せん断力」、「変位」等の計算結果に基づいて、適切なダンパー量を決定することができる。
【0062】
また、本実施形態の構造物の連結構造を適用することができる非免震構造物は、耐震建物20に限定されない。例えば制振建物としてもよい。非免震構造物として制振建物を適用しても、当該制振建物の応答を低減することができる。
【0063】
また、本実施形態において、免震建物30及び耐震建物20はそれぞれ1階部分だけが連結部材40によって連結されているものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば図5(A)に示す免震建物30は中間層免震の構造物とされ、免震装置34は免震建物30の3階と4階との間に設けられている。このように、免震装置34の下方の下層部32が複数層で形成されている場合、これらの層のうち2層以上と耐震建物20とを、連結部材40で連結してもよい。
【0064】
また、免震建物30の下層部32のうちの2層以上と耐震建物20とを連結する場合、これらの連結階は必ずしも上下方向に隣接する必要はない。例えば図5(B)に示すように、上下方向に離間した階を連結階とすることができる。
【0065】
また、本実施形態において、連結部材40によって連結される免震建物30及び耐震建物20はそれぞれ等しい地盤面に建つ建物とされているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば図5(C)に示すように、異なる地盤面に建つ免震建物30及び耐震建物20を連結部材40によって連結してもよい。このように、本発明は様々な態様で実施できる。
【符号の説明】
【0066】
20 耐震建物(非免震構造物)
32 下層部(下部構造体)
34 免震装置
36 上層部(上部構造体)
40 連結部材
44 連結部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7