(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】構造物の防水工法
(51)【国際特許分類】
E04D 7/00 20060101AFI20231212BHJP
E04D 11/02 20060101ALI20231212BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
E04D7/00 F
E04D11/02 Z
E04G23/02 E
(21)【出願番号】P 2019230267
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2022-10-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年10月17日 株式会社建築技術発行 建築技術 2019年11月号 No.838、第130-131頁にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 昌朗
(72)【発明者】
【氏名】青木 実
(72)【発明者】
【氏名】林 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】塩坂 英之
(72)【発明者】
【氏名】関 恵之介
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-113249(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106968403(CN,A)
【文献】特開2002-161643(JP,A)
【文献】特開2008-069563(JP,A)
【文献】特開2015-063807(JP,A)
【文献】特開2008-303541(JP,A)
【文献】特開2017-057668(JP,A)
【文献】特開2001-032365(JP,A)
【文献】中国実用新案第204898840(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 5/00-12/00
E04B 1/62- 1/99
E04F 15/00-15/22
E04G 23/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の施工面にウレタン樹脂を吹付けることによって仮設防水層を形成し、
前記仮設防水層の
上に水勾配を持つモルタル層を形成し、
前記モルタル層の上に前記ウレタン樹脂より高強度の材料を用いて本設防水層を形成する、
構造物の防水工法。
【請求項2】
前記仮設防水層の形成前に、前記構造物の前記施工面に設けられている既存防水層を撤去する、請求項1に記載の構造物の防水工法。
【請求項3】
前記本設防水層は、前記仮設防水層の上にアスファルトルーフィングを貼付けることによって形成される、請求項1又は2に記載の構造物の防水工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の防水工法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、構造物の施工面に防水層を形成する際には、防水層の形成が完了するまでの間、施工面の上方に設置した仮設の屋根等によって、施工面への浸水及び施工面からの漏水を抑制する必要がある。例えば特許文献1には、雨水が施工部位へ浸入することを防止するために、施工現場の上空を覆う仮設屋根を構築して養生を行う旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、仮設の屋根を施工面の上方に設置するだけでは、施工面に吹き込む雨水を完全に遮断することは困難である。また、仮設の屋根を構築する場合には、屋根を支持する柱等をアンカーによって構造物に固定する必要があり、このアンカーの打設部分から漏水する虞がある。このため、施工面の防水性向上の観点から改善の余地があった。
【0005】
本発明は上記事実に鑑み、仮設の屋根等を構築することなく施工面からの漏水を防ぐことができる構造物の防水工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の構造物の防水工法は、構造物の施工面にウレタン樹脂を吹付けることによって仮設防水層を形成し、前記仮設防水層の形成後に、前記ウレタン樹脂より高強度の材料を用いて本設防水層を形成する。
【0007】
上記構成によれば、構造物の施工面に仮設防水層を形成することで、本設防水層の形成が完了するまでの間、仮設の屋根等を構築することなく施工面を防水することができ、施工面からの漏水を防ぐことができる。
【0008】
また、施工面にウレタン樹脂を吹付けることによって仮設防水層を形成するため、施工面にウレタン樹脂を塗装する構成と比較して、仮設防水層を短時間で形成することができる。さらに、防水シートを敷設する構成と比較して、施工面の防水性を高めることができ、アスファルトルーフィングを貼付ける構成と比較して、火気作業が必要ないため、施工性を高めることができる。
【0009】
請求項2に記載の構造物の防水工法は、請求項1に記載の構造物の防水工法であって、前記仮設防水層の形成前に、前記構造物の前記施工面に設けられている既存防水層を撤去する。
【0010】
上記構成によれば、既存防水層を撤去した後に新設の仮設防水層を形成し、その後、本設防水層を形成することで、仮設の屋根等を構築することなく構造物の既存防水層を改修することができる。
【0011】
請求項3に記載の構造物の防水工法は、請求項1又は2に記載の構造物の防水工法であって、前記本設防水層は、前記仮設防水層の上にアスファルトルーフィングを貼付けることによって形成される。
【0012】
上記構成によれば、ウレタン樹脂を吹付けることによって形成された仮設防水層の上に、ウレタン樹脂より高強度のアスファルトルーフィングを貼付けることによって本設防水層を形成する。これにより、施工面に形成された防水層の防水性及び耐久性を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る構造物の防水工法によれば、仮設の屋根等を構築することなく施工面からの漏水を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態の一例に係る構造物の防水工法を用いて形成された防水層を示す部分立断面図である。
【
図2】(A)~(D)は実施形態の一例に係る構造物の防水工法の施工手順(その1)を示す部分立断面図である。
【
図3】(A)~(C)は実施形態の一例に係る構造物の防水工法の施工手順(その2)を示す部分立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の一例に係る構造物の防水工法について、
図1~
図3を用いて説明する。なお、図中において、矢印Xは水平方向を指し、矢印Yは鉛直方向を指す。
【0016】
(防水層の構成)
まず、本実施形態に係る構造物の防水工法を用いて形成された防水層10について説明する。
【0017】
図1に示すように、防水層10は、例えば構造物としての既存建物12の施工面12Aに形成されている。なお、本実施形態では、既存建物12の施工面12Aは、一例として水平方向に延びる屋上の床面とされている。しかし、施工面12Aは屋上の床面に限らず、既存建物12の側壁面や屋根面、ベランダの床面等であってもよい。
【0018】
防水層10は、仮設防水層14と、モルタル層16と、本設防水層18と、断熱層20と、によって構成されている。防水層10を構成する各層は、既存建物12の施工面12A上において、互いに鉛直方向に積層されている。
【0019】
仮設防水層14は、既存建物12の施工面12Aに形成されている。仮設防水層14は、施工面12Aにウレタン樹脂を吹付けることによって構成されており、特に、吹付け後30分程度で強度が発現する超速硬化ウレタン樹脂によって構成されている。
【0020】
仮設防水層14の上面には、本設防水層18の下地となるモルタル層16が形成されている。モルタル層16は、モルタルによって構成されており、上面が水平方向に対して傾斜している。これにより、モルタル層16の上面に水勾配が形成されている。なお、水勾配は、一例として1/80~1/150となっている。
【0021】
モルタル層16の上面には、本設防水層18が形成されている。本設防水層18は、仮設防水層14を構成するウレタン樹脂より高強度の材料によって構成されており、本実施形態では、一例として複数層(例えば2層)に積層されたアスファルトルーフィングによって構成されている。
【0022】
本設防水層18の上面には、断熱層20が形成されている。断熱層20は、例えばポリスチレンフォーム等の断熱材によって構成されている。なお、本設防水層18及び断熱層20は、モルタル層16の上面に沿って形成されており、水平方向に対して傾斜している。
【0023】
さらに、防水層10の上方、すなわち断熱層20の上方には、ウッドデッキ22が構築されている。ウッドデッキ22は、傾斜した断熱層20の上面に立設された複数の束柱22Aと、束柱22Aによって支持されて水平方向に延びる床部22Bと、によって構成されている。すなわち、ウッドデッキ22の床部22Bは、防水層10(断熱層20の上面)に対して離間して配置されており、これにより、既存建物12の屋上が乾式二重床となっている。
【0024】
(施工手順)
次に、本実施形態の構造物の防水工法の施工手順について説明する。なお、以下の構造物の防水工法では、既存建物12の既存防水層24を改修する場合の施工手順について説明する。
【0025】
図2(A)に示すように、既存建物12の施工面12Aの上面には、一例としてアスファルトルーフィングによって構成された既存防水層24が形成されている。また、既存防水層24の上面には、既存防水層24を保護するシンダーコンクリート26が打設されている。
【0026】
本実施形態では、まず、シンダーコンクリート26を斫り、既存防水層24を撤去することにより、
図2(B)に示すように、既存建物12の施工面12Aを露出させる。そして、既存建物12の施工面12Aの乾燥養生後に、図示しないウレタンプライマーを塗布する。
【0027】
次に、
図2(C)に示すように、既存建物12の施工面12Aの上面に、仮設防水層14を形成する。具体的には、2液型の超速硬化ウレタン樹脂の主材と硬化剤とを、吹付ける直前で混合攪拌し、図示しない高圧噴射装置を用いて施工面12Aに高圧で吹付ける。なお、図示を省略するが、本実施形態では、超速硬化ウレタン樹脂を施工面12Aに複数回(例えば2回)吹付けることにより、仮設防水層14を複数層(例えば2層)形成する。
【0028】
次に、仮設防水層14の上面に、図示しない珪砂を散布した後、
図2(D)に示すように、モルタルを塗布することによってモルタル層16を形成する。このとき、モルタル層16内に図示しない補強用のメッシュ筋を配筋するとともに、モルタル層16の上面を水平方向に対して傾斜させる。
【0029】
モルタル層16を構成するモルタルの乾燥後、図示しないアスファルトプライマーを塗布し、アスファルトプライマーを乾燥養生する。そして、
図3(A)に示すように、仮設防水層14の上に、モルタル層16を介してアスファルトルーフィングを複数層(例えば2層)重ねて貼付けることにより、本設防水層18を形成する。
【0030】
その後、溶かしたアスファルトによって断熱材を本設防水層18の上面に接着することにより、
図3(B)に示すように、本設防水層18の上面に断熱層20を形成する。これにより、既存建物12の施工面12Aに新設の防水層10を形成する。
【0031】
また、施工面12Aに防水層10を形成した後、
図3(C)に示すように、断熱層20の上方にウッドデッキ22を敷込む。上記の手順によって既存建物12の既存防水層24を改修することができる。
【0032】
なお、上記の工程は、一例として、既存防水層24の撤去から仮設防水層14の形成までの工程を晴天の日に1日で実施し、それ以降の本設防水層18の形成等の工程を翌日以降に行う。
【0033】
(作用効果)
本実施形態の構造物の防水工法によれば、既存建物12の施工面12Aに仮設防水層14を形成した後で、本設防水層18を形成する。このように、本設防水層18の形成前に仮設防水層14を形成することで、本設防水層18の形成が完了するまでの間、仮設の屋根等を構築することなく施工面12Aを防水することができ、施工面12Aからの漏水を防ぐことができる。
【0034】
また、仮設の屋根等を構築する必要がないため、仮設費を削減することができるとともに、高所での作業を無くすことができ、既存建物12に防水層10を形成する際の施工性を高めることができる。
【0035】
また、本実施形態によれば、施工面12Aにウレタン樹脂、特に超速硬化ウレタン樹脂を吹付けることによって仮設防水層14を形成している。このため、例えば施工面12Aにウレタン樹脂を塗装(手塗り)することによって仮設防水層14を形成する構成と比較して、施工面12Aが大面積の場合であっても、仮設防水層14を短時間で形成することができる。
【0036】
また、例えば施工面12Aに防水シートを敷設することによって仮設防水層14を形成する構成と比較して、仮設防水層14に隙間があくことを抑制することができ、施工面12Aの防水性を高めることができる。さらに、例えば施工面12Aにアスファルトルーフィングを貼付けることによって仮設防水層14を形成する構成と比較して、火気作業が必要ないため、仮設防水層14の施工性を高めることができる。
【0037】
また、本実施形態によれば、仮設防水層14の形成後に、ウレタン樹脂より高強度の材料を用いて本設防水層18を形成している。具体的には、仮設防水層14の上に、モルタル層16を介してアスファルトルーフィングを貼付けることによって本設防水層18を形成している。
【0038】
このため、本設防水層18を構成するアスファルトルーフィングによって施工面12Aを防水することができるとともに、仮設防水層14を保護することができ、施工面12Aに形成された防水層10の防水性及び耐久性を高めることができる。
【0039】
また、本実施形態によれば、仮設防水層14の形成前に、既存建物12の施工面12Aに設けられている既存防水層24を撤去している。このように、既存防水層24を撤去した後で新設の仮設防水層14を形成し、その後、新設の本設防水層18を形成することで、仮設の屋根等を構築することなく既存建物12の既存防水層24を改修することができる。
【0040】
また、本実施形態によれば、既存建物12の施工面12A(防水層10)の上方にウッドデッキ22が設けられることにより、既存建物12の施工面12Aが乾式二重床となっている。これにより、防水層10の上に押さえコンクリート(シンダーコンクリート)を打設する必要がなく、既存建物12の軽量化を図ることができ、既存建物12の耐震性の向上を図ることができる。
【0041】
さらに、水勾配が形成された防水層10(断熱層20)の上方に、水平方向に延びる床部22Bを有するウッドデッキ22が設けられている。このため、既存建物12の施工面12A(屋上の床面)の排水性を高めることができるとともに、ウッドデッキ22の床部22B上を歩行者の通路として利用することができる。
【0042】
(その他の実施形態)
以上、本発明について実施形態の一例を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能である。
【0043】
例えば、上記実施形態では、アスファルトルーフィングを貼付けることによって本設防水層18が形成されていた。しかし、本設防水層18を構成する材料は、少なくとも仮設防水層14を構成するウレタン樹脂より高強度であればよく、アスファルトルーフィングには限らない。
【0044】
また、上記実施形態では、既存建物12の施工面12Aに設けられた既存防水層24を撤去した後で、施工面12Aに仮設防水層14及び本設防水層18を形成していた。しかし、既存防水層が設けられていない新設建物の施工面12Aに仮設防水層14及び本設防水層18を新設してもよい。
【符号の説明】
【0045】
12 既存建物(構造物の一例)
12A 施工面
14 仮設防水層
18 本設防水層
24 既存防水層