(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】ペプチドのレアアース種の回収能のシミュレーション方法及びレアアース種回収剤
(51)【国際特許分類】
G16C 20/30 20190101AFI20231212BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20231212BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20231212BHJP
C22B 59/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G16C20/30
C07K7/06 ZNA
C07K7/08
C22B59/00
(21)【出願番号】P 2019057163
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】畠中 孝彰
(72)【発明者】
【氏名】石田 亘広
【審査官】松野 広一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-100721(JP,A)
【文献】特開2015-172163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16C 10/00-99/00
C07K 7/06
C07K 7/08
C22B 59/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドのレアアース種回収能のシミュレーション方法であって、
前記ペプチドと回収対象としてのレアアース種のレアアースイオンとの間で分子エネルギーが極小化された錯体モデルの双極子モーメント(DM)を算出するDMモジュールを用いて前記DMを算出すること、
前記錯体モデルの最低空軌道(LUMO)が前記錯体モデルの金属中心上に局在するのか又は局在しないのかを算出するLUMOモジュールを用いて、前記LUMOが前記錯体モデルの金属中心上に局在するのか又は局在しないのかを算出すること、及び
前記錯体モデルの凝集エネルギー(CE)を算出するCEモジュールを用いて前記CEを算出すること、
を備え、
以下の[A]又は[B]が成立するとき、前記ペプチドの前記レアアース種回収能を肯定する、方法。
[A]以下の(a)~(c)のいずれかが充足されるとき
(a)前記DMが0.001debye以上30debye以下である
(b)前記LUMOが前記錯体モデルの金属中心上に局在する
(c)前記CEが1.0MJ/m
3
以上5.0MJ/m
3
以下である
[B]以下の式で表される収率ポイントが30以上である
収率ポイント=1/[DM/6.53]×[LUMO]×[CE/3.49]×100
(ただし、LUMOは、前記錯体モデルの金属中心上に局在するとき、1.1であり、前記錯体モデルの金属中心上に局在しないとき、0.6である。)
【請求項2】
前記[A]に関し、
前記(a)~(c)が、以下のとおりである、請求項1に記載の方法。
(a)前記DMが0.01debye以上30debye以下である
(b)前記LUMOは前記錯体モデルの金属中心上に局在する
(c)前記CEが1.5MJ/m
3
以上3.5MJ/m
3
以下である
【請求項3】
前記[A]に関し、
前記(a)~(c)のすべてが充足されるとき、前記ペプチドの前記レアアース種回収能を肯定する、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記[B]に関し、
前記収率ポイントが50以上である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記DMモジュールと、前記LUMOモジュールと、前記CEモジュールと、を備える前記レアアース種回収能のシミュレーションシステムを用いる、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
さらに、前記シミュレーションシステムは、前記[A]又は前記[B]が成立するかどうかを判定する判定モジュールを備える、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ペプチドは、アミノ酸残基数が8個以上20個以下であり、酸性アミノ酸残基を3個以上備える、請求項1~
6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ペプチドは、環状化ペプチドである、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ペプチドのレアアース種回収能のシミュレーションシステムであって、
前記ペプチドと回収対象としてのレアアース種のレアアースイオンとの間で分子エネルギーが極小化された錯体モデルの双極子モーメント(DM)を算出するDMモジュールと、
前記錯体モデルの最低空軌道(LUMO)が前記錯体モデルの金属中心上に局在するのか又は局在しないのかを算出するLUMOモジュールと、
前記錯体モデルの凝集エネルギー(CE)を算出するCEモジュールと、
前記DMモジュールによって算出された前記DMと、前記LUMOモジュールによって算出された前記LUMOの前記錯体モデルの金属中心上に対する局在性又は非局在性と、前記CEモジュールによって算出された前記CEと、に基づいて、前記ペプチドのレアアース種回収能を判定する判定モジュールと、
を備え、
前記判定モジュールは、以下の[A]又は[B]が成立するとき、前記ペプチドの前記レアアース種回収能を肯定する、システム。
[A]以下の(a)~(c)のいずれかが充足されるとき
(a)前記DMが0.001debye以上30debye以下である
(b)前記LUMOが前記錯体モデルの金属中心上に局在する
(c)前記CEが1.0MJ/m
3
以上5.0MJ/m
3
以下である
[B]以下の式で表される収率ポイントが30以上である
収率ポイント=1/[DM/6.53]×[LUMO]×[CE/3.49]×100
(ただし、LUMOは、前記錯体モデルの金属中心上に局在するとき、1.1であり、前記錯体モデルの金属中心上に局在しないとき、0.6である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、ペプチドのレアアース種の回収能のシミュレーション方法及びレアアース種回収剤に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、レアアース種を認識して水酸化物などとして沈殿するペプチドが見出されている(特許文献1~3、非特許文献1)。また、レアアースイオンを認識して錯体を形成するペプチドも報告されている(非特許文献2、特許文献4)。また、レアアースイオンを認識して錯形成する低分子化合物も報告されている(非特許文献3~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-88846号公報
【文献】特表2017-512249号公報
【文献】特開2016-117664号公報
【文献】特開2014-51449号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Nat. Commun., Vol. 8, 15670-15679 (2017)
【文献】Angew. Chem. Int. .Ed., 43, 3682 (2004)
【文献】Inorg. Chem., 28, 2638(1989)
【文献】Inorg. Chim. Acta, 288, 7 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで特許文献1~4及び非特許文献1~4に開示されたペプチドは、レアアース種を認識して沈殿形成するペプチド(特許文献1~3、非特許文献1)又はレアアース種を認識して錯体を形成するペプチド(特許文献4、非特許文献1~3)となっている。
【0006】
例えば、特許文献1~3及び非特許文献1に開示されるペプチドは、ファージディスプレイ法などを利用したライブラリに対して、特定のレアアース種に対する沈殿形成能を指標としてスクリーニングして得られたものである。
【0007】
また、特許文献4及び非特許文献2に開示されるペプチドは、細胞内カルシウム結合に関与する公知のタンパク質の構造単位がレアアースに結合することを見出したことに基づくものである。すなわち、このペプチドは、研究者らにより偶然見出されたレアアース錯体形成能に基づくものである。
【0008】
このように、ペプチドについては、レアアース種に対する沈殿形成能に基づくスクリーニング方法があるが、錯体形成能を指標としてスクリーニングすることができていない。また、アミノ酸配列は、10残基程度であって、天然アミノ酸を構成アミノ酸としても、極めて多数の配列が存在し、これらについて実験的に沈殿形成能や錯体形成能などを検証することは、事実上不可能である。
【0009】
また、ペプチドは、分子の柔軟性が高いため、分子認識分野で一般的に用いられる設計指針である錯体安定性や環/イオンサイズによる設計も困難であると考えられた。
【0010】
このように、これまでのところ、ペプチドの錯体形成能や沈殿形成能をシミュレーションする方法がなかった。
【0011】
本明細書は、以上の状況に鑑み、レアアース種に対する錯体形成能及び沈殿形成能などの捕捉能をそのアミノ酸配列に基づいてシミュレーションする方法及びパラメータによって規定されるレアアース種回収剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、レアアース種を錯体形成ないし沈殿形成して捕捉し回収できるペプチドの錯体形成能や沈殿形成能のシミュレーションの実現について種々検討した。そこで、レアアース種を認識して沈殿を形成する過程を、錯形成反応と凝集反応との二段階であると推測し、錯形成能については、レアアース種との錯形成能の高いクラウンエーテルを参照して、双極子モーメント(DM)及び最低空軌道(LUMO)に着目した。また、沈殿形成については、レアアース種との沈殿形成能の高いポリスチレンを参照して、その錯体の凝集エネルギー(CE)に着目した。
【0013】
本発明者らは、これらのパラメータ、すなわち、双極子モーメント(DM)、最低空軌道(LUMO)及び凝集エネルギー(CE)を利用して、ペプチドのアミノ酸配列からレアアース種の回収能をシミュレーションすることを試み、これに成功した。本明細書は、こうした知見に基づき、以下の手段を提供する。
【0014】
[1]ペプチドのレアアース種の回収能のシミュレーション方法であって、
前記ペプチドと回収しようとする前記レアアース種のレアアースイオンとの錯体モデルの双極子モーメント(DM)、前記錯体モデルの最低空軌道(LUMO)は前記錯体の金属中心上の局在又は非局在、及び前記錯体モデルの凝集エネルギー(CE)に基づいて前記ペプチドの前記レアアース種回収能をシミュレーションする、方法。
[2]以下の(a)~(c);
(a)前記DMが0.001debye以上30debye以下である、
(b)前記LUMOが前記錯体モデルの金属中心上に局在する、及び
(c)前記CEが1.0MJ/m3以上5.0MJ/m3以下である、
を充足するときに、レアアース種回収能を肯定する、請求項1に記載の方法。
[3]前記(a)~(c)は、
(a)前記DMが0.01debye以上30debye以下;
(b)前記LUMOは前記錯体モデルの金属中心上に局在し、
(c)前記CEが1.5MJ/m3以上3.5MJ/m3以下である、[2]に記載の方法。
[4]以下の式で表される収率ポイントが50以上のとき、レアアース種回収能を肯定する、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
収率ポイント=1/[DM/6.53]×[LUMO]×[CE/3.49]×100
(ただし、DMは、ペプチドと回収しようとするレアアースイオンとの錯体モデルの双極子モーメントであり、LUMOは、前記錯体モデルの金属中心上に局在するとき、1.1であり、前記錯体モデルの金属中心上に局在しないとき、0.6であり、CEは、前記錯体の凝集エネルギーである。)
[5]前記ペプチドは、アミノ酸残基数が8個以上20個以下であり、酸性アミノ酸残基を3個以上備える、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]ペプチドのレアアース種の回収能のシミュレーションシステムであって、
前記ペプチドと回収対象としての前記レアアース種のレアアースイオンとの錯体モデルの双極子モーメント(DM)を算出するDMモジュールと、
前記錯体モデルの最低空軌道(LUMO)が、前記錯体モデルの金属中心上に局在又は非局在するかを算出するLUMOモジュールと、
前記錯体モデルの凝集エネルギー(CE)を算出するCEモジュールと、
を備える、システム。
[7]ペプチドであって、
前記ペプチドと回収しようとするレアアースイオンとの錯体モデルの双極子モーメント(DM)が0.001debye以上30debye以下;
前記錯体モデルの最低空軌道(LUMO)が前記錯体モデルの金属中心上に局在し、
前記錯体モデルの凝集エネルギー(CE)が1.0MJ/m3以上5.0MJ/m3以下である、ペプチドを含む、レアアース種回収剤。
[8]ペプチドであって、以下の式で表される収率ポイントが50以上であるペプチドを含む、レアアース種回収剤。
収率ポイント=1/[DM/6.53]×[LUMO]×[CE/3.49]×100
(ただし、DMは、ペプチドと回収しようとするレアアースイオンとの錯体モデルの双極子モーメントであり、LUMOは、前記錯体モデルの金属中心上に局在するとき、1.1であり、前記錯体モデルの金属中心上に局在しないとき、0.6であり、CEは、前記錯体の凝集エネルギーである。)
[9]前記ペプチドは、アミノ酸残基数が8個以上20個以下であり、酸性アミノ酸残基を3個以上備えるペプチド領域を含む、[7]又は[8]に記載の回収剤。
[10]前記ペプチドは、環状化が意図されるペプチドである、[7]~[9]のいずれかに記載の回収剤。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ペプチドのレアアース種回収能のシミュレーションのフローの一例を示す図である。
【
図2】ペプチドのレアアース種回収能のシミュレーションシステムの一例を示す図である。
【
図3】実施例におけるペプチドについての各種パラメータ及び収率ポイントとレアアース種回収能の実測結果を示す図である。
【
図4】ペプチド4-Lu(ルテニウム)錯体モデルのDM、CE及びLUMOについて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書の開示は、ペプチドのレアアース種の回収能のシミュレーション方法及びシステム並びにレアアース種回収剤等に関する。本明細書に開示されるシミュレーション方法(以下、単に、本方法ともいう。)は、ペプチドと回収対象である前記レアアース種のイオンとの錯体モデルの双極子モーメント(DM)、前記錯体モデルの最低空軌道(LUMO)は前記レアアースイオンの金属中心上における存在又は非存在、及び前記錯体モデルの凝集エネルギー(CE)に基づいて前記ペプチドの前記レアアース種回収能を高精度に予測することができる。ペプチドと回収しようとするレアアースイオンとの錯体モデルのDM及びCEが一定範囲内であり、LUMOの金属中心上における存在/非存在を取得することで、そのペプチドのレアアース種に対する沈殿形成能などのレアアース種回収能を高精度に予測することができる。
【0017】
すなわち、本方法によれば、ペプチドのアミノ酸配列と回収対象であるレアアース種のイオンとの錯体モデルを構築し、当該錯体モデルのDM及びLUMOの局在性から錯体形成能を、CEから沈殿形成能を、それぞれ推測でき、これらの組合せにより、全体としてレアアース種に対する沈殿形成能(回収能)を高精度に予測できる。
【0018】
また、これらのパラメータに基づいて特定計算式に基づく収率ポイントを取得することで、これらのパラメータを組みあわせて簡易に高精度にレアアース種回収能を予測することができる。
【0019】
さらに、こうしたパラメータ又は収率ポイントで規定されるペプチドは、高い確率でレアアース種回収能を発揮できるため、ペプチド回収剤として有用である。
【0020】
以下、本明細書の開示に関する種々の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。
【0021】
(ペプチドのレアアース種の回収能のシミュレーション方法)
本方法は、前記ペプチドと回収対象である前記レアアース種のレアアースイオンとの錯体モデルの双極子モーメント(DM)、前記錯体モデルの最低空軌道(LUMO)が前記レアアースイオンの金属中心上における存在又は非存在、及び前記錯体モデルの凝集エネルギー(CE)に基づいて前記ペプチドの前記レアアース種回収能をシミュレーションする。
【0022】
(レアアース種)
本明細書において、レアアース種とは、金属元素であるレアアースのイオン及びレアアースの参加ブルや水酸化物などのレアアースミネラル(鉱物)を包含している。本明細書においてレアアース種回収能は、レアアースミネラルを分散した液やレアアースイオンとして溶解している液などからレアアース水酸化物などの形態によりレアアースをミネラリゼーション(鉱物化)により沈殿形成させる能力をいう。
【0023】
レアアースとしては、例えば、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタノイドのランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)が挙げられる。
【0024】
(ペプチド)
レアアース種の回収能をシミュレートしようとするペプチドは、特に限定するものではないが、レアアース種と相互作用して沈殿形成すことができるペプチド領域を少なくとも備える。ペプチドは、こうしたペプチド領域を2以上備えていてもよい。こうしたペプチドは、天然由来のペプチドと同様、L体アミノ酸残基からなることができる。
【0025】
こうしたペプチド領域は、特に限定するものではなく、例えば、20種の天然アミノ酸残基をアトランダムに人工的に配列したアミノ酸配列からなるものであってもよいし、あるいは一定の規則に従って人工的に配列したアミノ酸配列からなるものであってもよい。さらに、天然由来のアミノ酸配列又はその一部からなるものであってもよい。
【0026】
例えば、かかるペプチド領域としては、既に、一定のレアアース種沈殿形成能がわかっているアミノ酸配列やレアアース種錯体形成能がわかっているアミノ酸配列に由来することができる。本発明者らによれば、レアアース種に対して沈殿形成能を発揮するペプチド領域は、概して、アミノ酸酸残基数が8以上25以下程度であって、酸性アミノ酸残基を2又は3以上備えることがわかっている(特許文献1~3等)。酸性アミノ酸残基としては、例えばアスパラギン酸(D)及びグルタミン酸(E)が挙げられる。また、酸性アミノ酸残基は、2個又は3個以上備えることができる。そのほか、レアアース種沈殿形成能がわかっているアミノ酸配列としては、例えば、イッテルビウム(Yb)やルテチウム(Lu)に対して選択的にレアアース種回収能を発揮するLeu-Ala-Gly-Asp-Val-Ser-Glu-Leu-Asp-Phe-Leu(LAGDVSELDFL、配列番号7)が挙げられる(特開2017-222614号公報)、また、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)及びガドリニウム(Gd)及びスカンジウムなどのライトレアアース種回収能を発揮するPro-Val-Trp-Phe-Ser-Asp-Val-Gly-Asp-Phe-Met-Val(PVWFSDVGDFMV、配列番号8)(特開2016-117663号公報)が挙げられる。また、Leu-Trp-Gly-Asp-Val-Ser-Glu-Leu-Asp-Phe-Leu(LWGDVSELDFL、配列番号9)、Leu-Tyr-Pro-Ser-Trp-Ser-Asp-Tyr-Ala-Phe(LYPSWSDYAF、配列番号10)が挙げられる(以上、特開2016-117664号公報)。
【0027】
その他、こうしたペプチド領域は、特許文献1~3にも開示するように、ファージディスプレイ法により、ある種のレアアースミネラルと相互作用して沈殿形成能を発揮することが新たにわかったアミノ酸配列からなるペプチドであってもよい。
【0028】
レアアース種沈殿形成能及び/又はレアアース種錯体形成能がわかっているアミノ酸配列に由来するペプチド領域としては、こうした既知のアミノ酸配列の1又は複数個のアミノ酸残基を置換、欠失、付加などによって改変したアミノ酸配列からなるペプチド領域が挙げられる。
【0029】
このような既知のアミノ酸配列を改変したアミノ酸配列からなるペプチド領域を有するペプチドを対象としてシミュレートすることで、良好なレアアース種沈殿形成能を発揮するアミノ酸配列を効率的に特定できる。
【0030】
本発明者らによれば、こうしたペプチド領域は、アミノ酸残基数は8以上20以下であり、酸性アミノ酸残基は、2個又は3個以上備え、さらに、当該酸性アミノ酸残基以外は、塩基性アミノ酸残基(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)以外のアミノ酸残基(典型的には、アラニン(A)、グリシン(G)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、プロリン(P)、チロシン(Y)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、トレオニン(T)、システイン(C)、セリン(S)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、トリプトファン(W))であることができる。
【0031】
本発明者らによれば、こうしたペプチド領域のN末端及びC末端には、システイン(C)をそれぞれ備え、還元条件下でS-S結合を形成するように構成されるか、あるいは環状化されていてもよい。また、ペプチド領域のN末端及びC末端のアミノ酸残基が直接ペプチド結合により環状化されていてもよいし、ペプチド領域のN末端及びC末端に別途1個又は2個以上のアミノ酸残基を備え、これらの間での直接ペプチド結合により環状化されていてもよい。
【0032】
以上説明したように、本方法は、こうしたペプチド領域のみからなるか、ペプチド領域に加えて環状化のためのあるいは環状化を意図しないアミノ酸残基を備えるペプチドについて、シミュレーション対象とすることができる。
【0033】
本方法は、こうしたペプチドとレアアースイオンとの錯体モデルのDM(双極子モーメント)、LUMO(最低空軌道)及びCE(凝集エネルギー)を取得し、利用する。本方法について、
図1に例示する本方法のフローを参照しながら説明する。
【0034】
(錯体モデルの構築)
まず、シミュレーション対象のペプチドとレアアース種とが確定したら、当該ペプチドとそのレアアース種のイオンとの錯体モデルを構築する。かかる錯体モデルは、分子を構成する原子の位置を変化させることによって、分子のエネルギーが極小化された構造体である。分子エネルギーの極小化を、構造の最適化ともいう。
【0035】
このような構造の最適化には、例えば、半経験的分子軌道法、非経験的分子軌道法、密度汎関数法を利用できる。また、分子力学法、半経験的分子軌道法、非経験的分子軌道法又は密度汎関数法を利用したソフトウエアによって立体配座探索することによって構造の最適化を行うことができる。こうした手法の1種又は2種以上を用いることによって、構造が最適化された錯体モデルが生成されることになる。
【0036】
こうした錯体モデルは、例えば、公知の分子軌道法の構造計算ソフトウエアを用いることができる。例えば、Chem3D 15.1、Gaussian、Winmostar等を用いることができる。例えば、Chem3D 15.1に、対象ペプチドのアミノ酸配列及び回収対象であるレアアースイオンを入力し、分子力学法の一つであるMM2(Molecular Mechanics program 2)によって最適化することで、錯体モデルを取得できる。
【0037】
(双極子モーメント(DM)の算出)
DMは、取得した錯体モデルを用いてMOPACなどの双極子モーメントを算出できるソフトウエアを用いて、そのDMを算出する。ソフトウエアは、MOPAC以外にも、公知のソフトウエアは、特に限定するものではなく、例えば、Gaussian、Winmostar等を利用できる。計算に際しては、適宜パラメータを設定できる。なお、MOPACを用いる場合、Type:Minimize(Energy/Geometry)、Method:PM7、Properties:Dipole、追加キーワード:SPARKLEとする他はデフォルト値を用いることができる。
【0038】
(最低空軌道(LUMO)の算出)
LUMOは、取得した錯体モデル又は当該錯体モデルに由来するモデルを用いて、公知のLUMOを計算できるソフトウエアを用いて取得する。例えば、上記錯体モデルを、Chem3Dでmol2形式に変換するなどして、LUMOの取得に適した構造に変換した錯体モデルを用いることもできる。
【0039】
ここで、LUMOを取得するとは、錯体モデルの金属中心上にLUMOが局在するか否かを判定することを含む。このような判定のためには、例えば、第1原理計算に基づく、例えば、Materials Studio 7.0 (MS7.0)DMol3などのソフトウエアを用いて、LUMOが錯体モデルの金属中心上にあるかどうかを判定できる。ソフトウエアは、特に限定するものではなく、MS7.0以外にも、公知のソフトウエア、例えば、基底関数(Functional)GGA-BLYPを備えたソフトウエア等を利用できる。計算に際しては、適宜パラメータを設定できる。なお、MS7.0を用いる場合、Task: Energy, Functional: GGA-BLYP, Smearing 0.1 Ha, Properties: Orbitalsとするほかはデフォルト値を用いることができる。
【0040】
(凝集エネルギー(CE)の算出)
CEは、取得した錯体モデル又は当該錯体モデルに由来するモデルを用いて、公知のCEを計算できるソフトウエアを用いて取得する。例えば、上記錯体モデルを、Chem3Dでmol2形式に変換するなどして、CEの取得に適した構造に変換した錯体モデルを用いることもできる。
【0041】
ここで、CEを算出するには、例えば、MS8.0 Amorphous Cell及びForciteなどのソフトウエアを用いることができる。ソフトウエアは、特に限定するものではなく、これら以外にも、公知のソフトウエア、例えば、基底関数(Functional)GGA-BLYP等を利用できる。計算に際しては、適宜パラメータを設定できる。例えば、MS8.0 Amorphous Cell及びForciteを用いる場合、MM2構造ファイルからAmorphous Cellモジュールで2分子の入ったセルを作製し(Task:Construction, Quality: Ultrafine, Density : 1.5, Loading: 2, Force field: Universal)、それをForciteモジュールの分子動力学計算によりNVT平衡化を行う(Task:Dynamics, Quality:Ultrafine, Ensemble: NVT, Thermostat: velocity scale, Total simulation time: 50 ps, Number of steps: 50000, Frame output every: 50000)。さらに、引き続いてNVE平衡化を行い(Restart,Ensemble: NVE, Frame output every: 5000) 、得られた平衡構造から凝集エネルギーを計算することができる(Task: Cohesive Energy Density, Quality: Ultrafine, include structure in study table)。その他のパラメータ一条件はデフォルトの設定をそのまま使用できる。
【0042】
なお、錯体モデルを一旦取得したら、この錯体モデルについての、DM、LUMO及びCEの取得は、任意の順序で行うこともできるし、同時的に行うこともできる。
【0043】
(レアアース種回収能のシミュレーション)
本方法によれば、錯体モデルのDM、LUMO局在性及びCEについては、総合的に判断することで、対象ペプチドのレアアース種回収能をシミュレーションできる。すなわち、対象ペプチドのレアアース種回収能の有無や程度を予測できる。
【0044】
本方法においては、錯体モデルのDMが低いことが、レアアース種回収能を肯定できる指標となる。例えば、DMが、0.001debye以上30debye以下である。DMがかかる範囲にあることは、レアアースイオンとの錯体形成能を肯定できる指標となる。錯体形成能の高いクラウンエーテルのNaイオン錯体では、そのDMが、0.033debyeと低い傾向があるからであり、本発明者らによる実施例においても確認されているからである。DMは、また例えば、0.01debye以上30debye以下であり、また例えば、0.1debye以上20debye以下、また例えば、1debye以上10debye以下である。
【0045】
本方法においては、錯体モデルのLUMOが、錯体モデルの金属中心上に存在することは、レアアースイオンとの錯体形成能を肯定できる指標となる。錯体形成能の高いクラウンエーテルのNaイオン錯体では、LUMOがNaイオン上に存在するからであり、本発明者らによる実施例においても確認されているからである。
【0046】
本方法においては、錯体モデルのCEが高いことが、レアアース種回収能を肯定できる指標となる。例えば、錯体モデルのCEが、1.0MJ/m3以上5.0MJ/m3以下である。CEがかかる範囲にあることは、レアアース種との沈殿形成能を肯定できる指標となる。沈殿形成能の高いポリスチレンのCEが1.8MJ/m3であることから、CEがこれと同等程度以上であれば、沈殿形成しやすいと考えられるからであり、本発明者らによる実施例においても確認されているからである。CEは、また例えば、1.5MJ/m3以上4.0MJ/m3以下であり、また例えば、1.5MJ/m3以上3.5MJ/m3以下である。
【0047】
本方法においては、錯体モデルのDM、LUMO局在性及びCEを取得することで、対象ペプチドのレアアース種回収能をシミュレーションできるが、例えば、上記した各種条件のうち、DMと、LUMO局在性及びCEのいずれかが上記条件を充足するとき、レアアース種回収能を肯定しやすくなり、さらに、DM、LUMO局在性及びCEの全てが上記条件を充足するとき、レアアース回収能をより肯定しやすくなる。また、これらの場合においては、DM及びCEについては、より限定的な範囲であることが一層レアアース種回収能を肯定しやすくなる。
【0048】
本方法によれば、DMが大きくCEが小さいとき、あるいはDE及びCEが上記した範囲外であり、かつLUMOが錯体モデルの金属中心上に存在しないとき、レアアース種回収能を肯定し難いといえる。すなわち、レアアース種回収能を否定しやすくなる。
【0049】
本方法によれば、以下の式(1)で表される収率ポイント(%)が例えば30以上(また例えば40以上、また例えば50以上、また例えば60以上、また例えば80以上)のとき、レアアース種回収能を肯定し、例えば10未満(また例えば20未満、また例えば30未満)のとき、レアアース回収能を否定することができる。
収率ポイント=1/[DM/6.53]×[LUMO]×[CE/3.49]×100(1)
(ただし、DMは、ペプチドと回収しようとするレアアースイオンとの錯体モデルの双極子モーメントであり、LUMOは、前記錯体が金属原子上にあるとき、1.1であり、錯体モデルの金属中心上に存在しないとき、0.6であり、CEは、錯体モデルの凝集エネルギーである。)
【0050】
本方法は、例えば、
図2に例示するようなペプチドのレアアース種の回収能のシミュレーション装置としても実施可能である。すなわち、錯体モデルのDMを算出する算出部であるDM算出モジュールと、錯体モデルのLUMOが金属中心上にあるかどうかを算出する検出部であるLUMO検出モジュールと、錯体モデルのCEを算出する算出部であるCE算出モジュールと、を備える、シミュレーション装置であってもよい。これらの各モジュールは、概して、コンピュータのCPU、RAM及び外部記憶装置においてプログラムとして格納されうる。
【0051】
また、このシミュレーション装置は、さらに、DM算出モジュールによって算出されたDMと、LUMO検出モジュールによって算出されたLUMO局在性と、CE算出モジュールによって算出されたCEとのそれぞれの数値充足性を、予め保持する充足条件と対比して、レアアース種回収能を判定する判定部である判定モジュールを備えることができる。判定モジュールも、他のモジュールと同様、コンピュータのCPU、RAM及び外部記憶装置においてプログラムとして格納されうる。判定モジュールが備える充足条件は、既述のDM、CE等の範囲、LUMOの局在性である。これらは、プログラムに組み込まれていてもよいし、別途、RAMあるいはROMなどのメモリに記憶されていてもよい。
【0052】
判定モジュールは、さらに、既述の収率ポイントを算出できるように構成されていてもよい。すなわち、収率ポイントの算出式に従って収率ポイントを出力可能になっていてもよい。算出式は、プログラムに組み込まれていてもよいし、別途、RAMあるいはROMなどのメモリに記憶されていてもよい。
【0053】
シミュレーション装置は、さらに、DM、LUMO及びCEを算出するための錯体モデルを構築する構築部である錯体モデル構築モジュールを備えていてもよい。かかるモジュールは、DM算出モジュール、LUMO算出モジュール及びCE算出モジュールのそれぞれに備えていてもよいし、共通して一つの錯体モデル構築モジュールを備えるようにしてもよい。
【0054】
こうしたシミュレーション装置は、装置としてだけではなく、シミュレーションシステムとしても構築できる。すなわち、上記モジュールの1又は2以上を別個の装置として備えていたり、同1又は2以上を、クラウド上に備えていてもよい。同様に、DMの充足条件や回収率算出式を、クラウド上に備えていてもよい。
【0055】
シミュレーション装置及びシミュレーションシステムは、いずれも、錯体モデルのCM、LUMO局在性、CE、収率ポイントやこれらに基づく画像等を、ディスプレイ等に表示したりする出力モジュールを備えることができる。
【0056】
(レアアース種回収剤)
本明細書に開示されるレアアース種回収剤(以下、単に、本回収剤ともいう。)は、ペプチドであって、前記ペプチドと回収しようとするレアアースイオンとの錯体モデルのDMが0.001debye以上30debye以下、また例えば;0.01debye以上30debye以下
錯体モデルのLUMOが前記錯体モデルの金属中心上に存在し;及び
錯体モデルのCEが1.0MJ/m3以上5.0MJ/m3以下であり、また例えば1.5MJ/m3以上3.5MJ/m3以下である、ペプチドを含むことができる。かかるペプチドは、レアアース種回収能を発揮できる。
【0057】
ペプチドは、また例えば、既述の式(1)により計算される収率ポイントが50以上であるペプチドであってもよい。
【0058】
ペプチドは、既述のペプチド領域を備えることができ、また例えば、既述のとおりの環状化が意図されるペプチドである。
【実施例】
【0059】
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0060】
本実施例では、以下の表1に示す配列のペプチド(1~6:配列番号1~6)について、同表に示すレアアースイオンとの錯体モデルを構築し、その後、双極子モーメント(DM)、最低空軌道(LUMO)局在及び凝集エネルギー(CE)を以下の方法で算出し、さらに、式(1)に基づいて収率ポイント(%)を算出した。これらの結果も併せて表1に示す。
収率ポイント=1/[DM/6.53]×[LUMO]×[CE/3.49]×100 (1)
【0061】
【表1】
*ただし、N末端及びC末端に付与したシステイン残基で環状化されている。
【0062】
(各種パラメータの算出及び収率ポイントの算出)
表1に示す各ペプチドとレアアースイオンとの錯体モデルは、Chem3D15.1でMM2により最適化した安定構造体として構築した。なお、Chem3D MM2及びMOPACの計算にはDellPrecision T7910 (CPU: Xeon E5-2630 v3 (2.40 GHz), RAM: 32GB, OS: Windows 7 Pro SP1)を使用した。また、Material Studioの計算は、ワークステーション(CPU: Xeon ES-2690 (SandyBridge/ 8 core/ 2. 90 GHz) x2,Ram: 64GB, InfiniBand :-FDR-56 Gbps, OS: RHEL6.1)の環境で行った。
【0063】
(双極子モーメントの算出)
各種錯体モデルについて、DMをMOPACP M7を用いて、以下のパラメータを用いる以外は、デフォルト値を用いて実行した。
Type: Minimize(Energy/Geometry)
Method: PM7
Properties: Dipole
追加キーワード:SPARKLE
【0064】
(最低空軌道の局在の算出)
各種錯体モデルについて、LUMOの局在をMaterials Studio (MS) 7.0 DMol3モジュールを用いて、以下のパラメータを用いる以外はデフォルト値を用いて算出した。なお、錯体モデルは、Chem3Dでmol2形式に変換したものを使用した。なお、Dyイオン錯体モデルについては、Spin-uninterestedを適用した。
Task: Energy
Functional: GGA-BLYP, Smearing 0.1 Ha
Properties: Orbitals
【0065】
(凝集エネルギーの算出)
凝集エネルギーをMS8.0 Amorphous Cell及びForciteモジュールを用い、MM2最適化錯体モデルを、Chem3Dでmol2形式に変換したものを使用し、以下に示すパラメータ以外は、デフォルト値を用いて算出した。
【0066】
まず、MM2構造ファイルからAmorphousCellモジュールで2分子の入ったセルを以下のパラメータで作製した。
Task: Construction
Quality: Ultrafine
Density: 1.5
Loading: 2
Force field: Universal
【0067】
このセルを、Forciteモジュールの分子動力学計算により以下のパラメータを用いてNVT平衡化を行った。
Task: Dynamics
Quality: Ultrafine
Ensemble: NVT
Thermostat: velocity scale
Total simulation time: 50ps
Number of steps: 50000
Frame output every: 50000
【0068】
引き続いて以下のパラメータを用いてNVE平衡化を行った。
Restart, Ensemble: NVE
Frame output every: 5000
【0069】
得られた平衡構造から以下のパラメータを用いて凝集エネルギーを計算した。
Task: Cohesive Energy Density
Quality: Ultrafine, include structure in study table
【実施例2】
【0070】
本実施例では、表1に示す各種ペプチドにつき、以下の方法で各種レアアースイオンの回収実験を行い、単離収率(%)を求めた。
【0071】
表1に示す各ペプチド(HCI塩)を、300μMとなるように、62.5mM MES緩衝液(pH6.1)60mlに加え、超音波スターラー(日本精機製作所USS-1、35W)を使用して溶解させた。この300μM溶液(pH6.1MES緩衝液)20mlに、各レアアースイオンの終濃度3mMとなるように硝酸ランタンLa(N03)3(Aldrich)、硝酸ジスプロシウムDy(N03)3、硝酸ルテチウムLu(N03)3(以上、和光純薬工業株式会社)に添加して、12時間以上の一定時間室温で静置した。その後、生成した沈殿を遠心分離(12000rpm、2分間)して、採取し、風乾後、真空下6時間乾燥し、重量を測定した。なお、62.5mM MES緩衝液(pH6.1)は、MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid, 2-モルホリノエタンスルホン酸)(同仁化学研究所株式会社)を用いて、同仁化学研究所のホームページ (http://www.dojindo.co.jp/technicaI/protocol/good%20buffer.pdf)に記載の手順により調製した。
【0072】
さらに、沈殿のエレクトロプレーイオン化-質量分析(ESI-MS)による組成決定を行ったところ、ペプチドとレアアースイオンの1:1錯体であった。当該組成に基づいて単離収率(%)を算出した。単離収率(%)についても併せて表1に示す。また、各ペプチドについて算出された収率ポイントと実測値としての単離収率(%)とを対比を
図3に示す。また、ペプチド4についての、DM(双極子モーメント)、CE(凝集エネルギー)及びLUMO(最低空軌道)局在の計算結果に基づく概念図を
図4に示す。
【0073】
表1及び
図1に示すように、収率ポイント(%)と単離収率(%)とを対比すると、一致しない錯体があるものの、収率ポイント(%)が高いと単離収率(%)も高く、収率ポイントが低ければ単離収率(%)も低いという傾向が明らかに観察された。
【0074】
例えば、ペプチド4のLu錯体モデルは、収率ポイント96%、単離収率99%であった。この錯体モデルは、双極子モーメントが比較的小さく(7.504)、LUMOも金属中心上に局在し、凝集エネルギーが比較的大きく(0.6862)、LUMOも金属中心上に局在しており、収率ポイントが高くなった。
図4(a)に示すように、この錯体モデルの双極子モーメントが小さいのは、アミノ酸配列において酸性アミノ酸残基が分散して存在するため金属周りの骨格歪みが比較的少ないためと考えられた。また、
図4(b)に示すように、この錯体においては、2分子が密に凝集していた。さらに、
図4(c)に示すように、金属中心上にLUMOが局在していた。このような錯体は、レアアースイオンと錯体を形成しやすくしかも凝集傾向にあるためことが収率ポイントに反映され、同時に単離収率(%)が大きくなったことがわかる。
【0075】
また例えば、ペプチド3のLa錯体モデルは、収率ポイント19%、単離収率41%であった。この錯体モデルについては、双極子モーメントが比較的小さく(7.523)、LUMOも金属中心上に局在しているが、凝集エネルギーが非常に小さいため(0.6862)、収率ポイントが小さくなった。この錯体は、これらのパラメータに対応して単離収率も中程度であったことがわかる。
【0076】
また例えば、ペプチド1、2の錯体モデルについては、収率ポイントも低く、単離収率も低かった。これらのペプチドの錯体モデルは、いずれも、双極子モーメントが大きく、凝集エネルギーが小さく、LUMOは金属中心上に局在していないため、収率ポイントが低かった。これらのパラメータに対応して単離収率も低くなったことがわかる。
【0077】
また例えば、これらの結果から、錯体モデルの双極子モーメントが0.001debye以上30debye以下であり、より好ましくは、0.01debye以上30debye以下、さらに好ましくは、1debye以上15debye以下であることがレアアース種回収能を肯定できる傾向があることがわかった。
【0078】
また、錯体モデルの最低空軌道が錯体モデルの金属中心上に局在することが、レアアース種回収能を肯定できる傾向があることもわかった。さらに、錯体モデルの凝集エネルギー(CE)が1.0MJ/m3以上5.0MJ/m3以下、より好ましくは、1.5MJ/m3以上3.5MJ/m3以下であることが、レアアース種回収能を肯定できる傾向があることがわかった。
【0079】
以上のように、ペプチドとレアアースイオンとの錯体モデルを構築し、その錯体モデルについての双極子モーメント、凝集エネルギー及び最低空軌道の金属中心局在性をパラメータとすることで、そのペプチドのレアアース種回収能を予測できることがわかった。
【配列表フリーテキスト】
【0080】
配列番号1~10:人工ペプチド
【配列表】