(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】車両位置推定システム、車両位置推定方法及び車両位置推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01C 21/28 20060101AFI20231212BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20231212BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20231212BHJP
G08G 1/14 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G01C21/28
G08G1/00 X
G08G1/16 A
G08G1/14 A
(21)【出願番号】P 2019094114
(22)【出願日】2019-05-17
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】日与川 豊治
(72)【発明者】
【氏名】田中 優
【審査官】西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-109815(JP,A)
【文献】特開2015-111386(JP,A)
【文献】特開2019-018848(JP,A)
【文献】特開2018-124787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/00-21/36、23/00-25/00
G08G 1/00-99/00
B60W 10/00-10/30、30/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象車両の位置を推定する車両位置推定システムであって、
駐車場の地表面に設けられた帯状標示を除く識別標示である地物の位置情報を含む地物情報が格納され
ると共に前記対象車両に備えられた地物情報記憶部から当該地物情報を取得する地物情報取得部と、
前記対象車両に搭載された周辺検知センサにより検知された前記対象車両の周辺情報を取得する周辺情報取得部と、
前記周辺情報中に含まれる前記地物の認識処理を行う認識部と、
衛星測位システム信号を受信し、当該衛星測位システム信号に基づいて前記対象車両の位置を推定する第1推定部と、
前記認識部による前記地物の認識処理結果と前記地物情報とに基づいて前記対象車両の位置を推定する第2推定部と、を備え、
前記周辺検知センサは、カメラであり、前記周辺情報は前記カメラによって撮影された撮影画像であり、
前記認識部は、画像処理によって前記撮影画像に含まれる前記地物の認識処理を行い、前記対象車両の自車位置である基準点を原点とするローカル座標系における当該地物の座標を検出し、
前記地物情報取得部は、前記地物情報として、前記駐車場における基準座標系における当該地物の位置を示す地物絶対位置情報を取得し、
前記第2推定部は、
前記ローカル座標系の原点の前記基準座標系における座標に基づいて、前記ローカル座標系における当該地物の座標を前記基準座標系における仮絶対位置に設定し、
当該仮絶対位置と、当該地物の前記地物絶対位置情報とが一致するように前記ローカル座標系の原点である前記自車位置の前記基準点を移動させて前記対象車両の位置を推定し、
前記対象車両が
前記駐車場内において設定された走行経路に沿って設定された目的地まで自動走行する自動走行モードによる走行を開始した場合、前記第2推定部の推定結果を優先して用いる、車両位置推定システム。
【請求項2】
前記第1推定部と前記第2推定部との何れの推定結果を用いるかを選択する選択部を備え、前記自動走行モードであって、前記第1推定部による推定結果と前記第2推定部による推定結果との双方が得られている場合、前記選択部は、前記第2推定部の推定結果を用いる、請求項1に記載の車両位置推定システム。
【請求項3】
前記対象車両は、前記自動走行モードの起動指示と終了指示とを受け付ける自動走行モード受付部を備え、
前記自動走行モード受付部が前記起動指示を受け付けた後、前記終了指示を受け付けるまで、又は、前記目的地に到達するまでは、前記対象車両が前記自動走行モードであると判定する、請求項1又は2に記載の車両位置推定システム。
【請求項4】
前記対象車両が前記自動走行モードによる走行を開始した後、最初に前記第2推定部による推定結果が得られるまでは、前記第1推定部による推定結果を用い、前記第2推定部による推定結果が得られた後は、前記目的地に到達するまで、前記第1推定部による推定結果と前記第2推定部による推定結果との内の前記第2推定部による推定結果のみを用いる、請求項1から3の何れか一項に記載の車両位置推定システム。
【請求項5】
前記対象車両が前記自動走行モードによる走行を開始した後、予め規定された規定時間以上、前記第2推定部からの推定結果が得られない場合には、前記第1推定部による推定結果を用いる、請求項1から4の何れか一項に記載の車両位置推定システム。
【請求項6】
対象車両の位置を推定する車両位置推定方法であって、
駐車場の地表面に設けられた帯状標示を除く識別標示である地物の位置情報を含む地物情報が格納され
ると共に前記対象車両に備えられた地物情報記憶部から当該地物情報を取得する地物情報取得ステップと、
前記対象車両に搭載された周辺検知センサにより検知された前記対象車両の周辺情報を取得する周辺情報取得ステップと、
前記周辺情報中に含まれる前記地物の認識処理を行う認識ステップと、
衛星測位システム信号を受信し、当該衛星測位システム信号に基づいて前記対象車両の位置を推定する第1推定ステップと、
前記認識ステップによる前記地物の認識処理結果と前記地物情報とに基づいて前記対象車両の位置を推定する第2推定ステップと、を備え、
前記周辺検知センサは、カメラであり、前記周辺情報は前記カメラによって撮影された撮影画像であり、
前記認識ステップでは、画像処理によって前記撮影画像に含まれる前記地物の認識処理を行い、前記対象車両の自車位置である基準点を原点とするローカル座標系における当該地物の座標を検出し、
前記地物情報取得ステップでは、前記地物情報として、前記駐車場における基準座標系における当該地物の位置を示す地物絶対位置情報を取得し、
前記第2推定ステップでは、
前記ローカル座標系の原点の前記基準座標系における座標に基づいて、前記ローカル座標系における当該地物の座標を前記基準座標系における仮絶対位置に設定し、
当該仮絶対位置と、当該地物の前記地物絶対位置情報とが一致するように前記ローカル座標系の原点である前記自車位置の前記基準点を移動させて前記対象車両の位置を推定し、
前記対象車両が駐車場内において設定された走行経路に沿って設定された目的地まで自動走行する自動走行モードによる走行を開始した場合、前記第2推定ステップの推定結果を優先して用いる、車両位置推定方法。
【請求項7】
対象車両の位置を推定する車両位置推定プログラムであって、
駐車場の地表面に設けられた帯状標示を除く識別標示である地物の位置情報を含む地物情報が格納され
ると共に前記対象車両に備えられた地物情報記憶部から当該地物情報を取得する地物情報取得機能と、
前記対象車両に搭載された周辺検知センサにより検知された前記対象車両の周辺情報を取得する周辺情報取得機能と、
前記周辺情報中に含まれる前記地物の認識処理を行う認識機能と、
衛星測位システム信号を受信し、当該衛星測位システム信号に基づいて前記対象車両の位置を推定する第1推定機能と、
前記認識機能による前記地物の認識処理結果と前記地物情報とに基づいて前記対象車両の位置を推定する第2推定機能と、をコンピュータに実現させ、
前記周辺検知センサは、カメラであり、前記周辺情報は前記カメラによって撮影された撮影画像であり、
前記認識機能では、画像処理によって前記撮影画像に含まれる前記地物の認識処理を行い、前記対象車両の自車位置である基準点を原点とするローカル座標系における当該地物の座標を検出し、
前記地物情報取得機能では、前記地物情報として、前記駐車場における基準座標系における当該地物の位置を示す地物絶対位置情報を取得し、
前記第2推定機能では、
前記ローカル座標系の原点の前記基準座標系における座標に基づいて、前記ローカル座標系における当該地物の座標を前記基準座標系における仮絶対位置に設定し、
当該仮絶対位置と、当該地物の前記地物絶対位置情報とが一致するように前記ローカル座標系の原点である前記自車位置の前記基準点を移動させて前記対象車両の位置を推定し、
前記対象車両が駐車場内において設定された走行経路に沿って設定された目的地まで自動走行する自動走行モードによる走行を開始した場合、前記第2推定機能の推定結果を優先して用いる、車両位置推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の周辺の検知情報により車両の位置を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2012-68939号公報には、人工衛星(4)からのGPS(Global Positioning System)信号と同様の疑似信号を生成して、駐車場(2)内において車両(7)を誘導する駐車場案内システム(1)が開示されている(背景技術において括弧内に付す符号は当該公報のもの。)。この駐車場案内システム(1)では、例えば立体駐車場(2)の屋上に人工衛星からのGPS信号を受信する受信アンテナ(10)を備えると共に、駐車場(2)内に、このGPS信号と同様の疑似信号を送信する複数の送信アンテナ(12)を備える。車両(7)は、人口衛星(4)からの電波を受信できないような環境下であっても、送信アンテナ(12)から駐車場(2)内に送信された疑似信号を受信することによって、車両(7)の位置を把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
GPSなどの衛星測位システムによる測位は、複数の人工衛星(送信側)のそれぞれと車両(受信側)との距離の差を利用しているため、測位精度を高くすることが困難な可能性がある。また、駐車場が遮蔽されておらず、車両がGPS信号(衛星測位システム信号)を受信できる場合には、車両がGPS信号と疑似信号との双方を受信することになり、信号が競合する可能性がある。このような競合が生じた場合において、位置推定に用いる信号の切り替わりが生じると、推定位置の連続性が失われたり、精度が低下したりする可能性がある。
【0005】
上記背景に鑑みて、車両位置の推定部を複数備える場合において、これらの競合を回避し、車両の位置を精度よく推定することができる技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた、対象車両の位置を推定する車両位置推定システムは、1つの態様として、
地物の位置情報を含む地物情報を取得する地物情報取得部と、前記対象車両に搭載された周辺検知センサにより検知された前記対象車両の周辺情報を取得する周辺情報取得部と、前記周辺情報中に含まれる前記地物の認識処理を行う認識部と、衛星測位システム信号を受信し、当該衛星測位システム信号に基づいて前記対象車両の位置を推定する第1推定部と、前記認識部による前記地物の認識処理結果と前記地物情報とに基づいて前記対象車両の位置を推定する第2推定部と、を備え、前記対象車両が駐車場内において設定された走行経路に沿って設定された目的地まで自動走行する自動走行モードの場合、前記第2推定部の推定結果を用いる。
【0007】
一般的に、周辺情報に基づく地物の認識処理結果と地物情報とに基づいて対象車両の位置を推定する第2推定部の推定結果は、衛星測位システム信号に基づいて対象車両の位置を推定する第1推定部の推定結果よりも精度が高くなる場合が多い。また、例えば駐車場が屋内にあるような場合等、衛星測位システム信号が届き難い状況では、第1推定部による推定結果の精度が低くなり易い。対象車両が、駐車場内において走行経路に沿って目的地まで自動走行する場合、対象車両の位置は精度良く推定されることが好ましい。本構成によれば、対象車両が自動走行モードで走行する際には、第2推定部による推定結果が用いられる。従って、第1推定部による推定結果と第2推定部による推定結果とが競合することを適切に回避することができる。また、第1推定部による推定結果の精度が低くなり易い場合においても、第2推定部による推定結果が用いられることで、対象車両の位置を比較的高精度に推定することができる。このように、本構成によれば、車両位置の推定部として第1推定部と第2推定部とを備える場合において、これらの競合を回避し、対象車両の位置を精度よく推定することができる。
【0008】
上記、車両位置推定システムの技術的特徴は、車両位置推定方向や車両位置推定プログラムにも適用することができる。以下にその代表的な態様を例示する。例えば、車両位置推定方法は、上述した車両位置推定システムの特徴を備えた各種のステップを有する。また、車両位置推定プログラムは、上述した車両位置推定システムの特徴を備えた各種の機能をコンピュータに実現させる。当然ながらこれらの車両位置推定方法及び車両位置推定プログラムも、上述した車両位置推定システムの作用効果を奏することができる。さらに、車両位置推定システムの好適な態様として、下記の実施形態の説明において例示する種々の付加的特徴も、これら車両位置推定方法や車両位置推定プログラムに組み込むことが可能であり、当該方法及び当該プログラムはそれぞれの付加的特徴に対応する作用効果も奏することができる。
【0009】
1つの好適な態様として、対象車両の位置を推定する車両位置推定方法は、地物の位置情報を含む地物情報を取得する地物情報取得ステップと、前記対象車両に搭載された周辺検知センサにより検知された前記対象車両の周辺情報を取得する周辺情報取得ステップと、前記周辺情報中に含まれる前記地物の認識処理を行う認識ステップと、衛星測位システム信号を受信し、当該衛星測位システム信号に基づいて前記対象車両の位置を推定する第1推定ステップと、前記認識ステップによる前記地物の認識処理結果と前記地物情報とに基づいて前記対象車両の位置を推定する第2推定ステップと、を備え、前記対象車両が駐車場内において設定された走行経路に沿って設定された目的地まで自動走行する自動走行モードの場合、前記第2推定ステップの推定結果を用いる。
【0010】
また、1つの好適な態様として、対象車両の位置を推定する車両位置推定プログラムは、地物の位置情報を含む地物情報を取得する地物情報取得機能と、前記対象車両に搭載された周辺検知センサにより検知された前記対象車両の周辺情報を取得する周辺情報取得機能と、前記周辺情報中に含まれる前記地物の認識処理を行う認識機能と、衛星測位システム信号を受信し、当該衛星測位システム信号に基づいて前記対象車両の位置を推定する第1推定機能と、前記認識機能による前記地物の認識処理結果と前記地物情報とに基づいて前記対象車両の位置を推定する第2推定機能と、をコンピュータに実現させ、前記対象車両が駐車場内において設定された走行経路に沿って設定された目的地まで自動走行する自動走行モードの場合、前記第2推定機能の推定結果を用いる。
【0011】
車両位置推定システム、車両位置推定方法、並びに車両位置推定プログラムのさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】車両位置推定システムが適用される駐車場の一例を示す図
【
図2】自動走行モードの起動及び終了の一例を示すフローチャート
【
図3】車両位置推定システムの構成例を模式的に示すブロック図
【
図4】第1推定部による第1推定処理の一例を示すフローチャート
【
図5】第2推定部による第2推定処理の一例を示すフローチャート
【
図6】認識対象物を含む車両周辺の検知情報を取得する一例を示す図
【
図7】ローカル座標系における認識対象物及び車両の位置関係の一例を示す図
【
図8】基準座標系における車両の位置を補正する一例を示す図
【
図9】選択部による車両の位置の推定結果の選択処理の一例を示すフローチャート
【
図10】認識対象物を含む車両周辺の検知情報を取得する他の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、車両位置推定システム(車両位置推定方法、車両位置推定プログラム)の実施形態を図面に基づいて説明する。車両位置推定システムは、例えば、駐車場において車両の入庫及び出庫を自動で行う自動バレー駐車システム、駐車場における乗員の運転を支援する運転支援システム(駐車支援システム)、乗員に目的地までの経路を案内するナビゲーションシステム等に利用することができる。以下、車両位置推定システム(車両位置推定方法、車両位置推定プログラム)が自動バレー駐車システムに利用される形態を例として説明する。
【0014】
図1は、自動バレー駐車システムが適用される駐車場100の一例を示している。駐車場100には、駐車枠線105によって区画されて車両9の駐車場所となる駐車スペース103と、駐車スペース103へ入庫される入庫対象の車両9から乗員91が降車する降車スペース101と、駐車スペース103から出庫された出庫対象の車両9に乗員91が乗車する乗車スペース102とが設けられている。尚、
図1では、降車スペース101及び乗車スペース102が、それぞれ1つずつ設けられている例を示しているが、降車スペース101及び乗車スペース102のそれぞれが複数設けられていてもよい。また、同じ1つのスペースが、降車スペース101と乗車スペース102とで兼用されるようになっていても良い。また、降車スペース101と乗車スペース102とを固定することなく、複数のスペースが設けられ、適宜、降車スペース101又は乗車スペース102として用いられる形態であってもよい。尚、駐車スペース103及び乗車スペース102は、自動バレー駐車システムにおいて、車両9が自動走行モード(auto)で自動走行する場合の目的地Pに対応する。
【0015】
入庫の際には、降車スペース101において車両9から乗員91が降車した後、入庫指示に応じて、車両9が降車スペース101から空きの駐車スペース103へ自動走行し、当該駐車スペース103において自動的に停車する。これにより、車両9は自動的に駐車スペース103に駐車される(入庫される)。出庫の際には、出庫指示に応じて、車両9が駐車スペース103から乗車スペース102へ自動走行し、当該乗車スペース102において自動的に停車する。これにより、車両9は自動的に駐車スペース103から出庫される。車両9に対する入庫指示および出庫指示は、車両9の乗員91よる端末装置93への操作によって車両9に与えられる。端末装置93は、乗員91が携帯している携帯端末であっても良いし、駐車場100に設置された固定端末であっても良い。
【0016】
図3に示すように、車両9は、自動走行モード(auto)の起動指示と終了指示とを受け付ける走行モード受付部21(自動走行モード受付部)を備えている。車両制御装置50は、走行モード受付部21により起動指示が受け付けられ、自動走行モードの起動指示が有る場合には(#1)、走行モード(mode)を自動走行モード(auto)に設定する(#2)。走行モードが自動走行モードとなった後、車両9の位置Qが目的地Pに一致した場合(#3)、或いは、車両制御装置50は、走行モード受付部21により終了指示が受け付けられ、自動走行モードの終了指示が有る場合には(#4)、走行モードが通常走行モード(normal)に変更される(#5)。即ち、車両制御装置50(後述する選択部13)は、走行モード受付部21が起動指示を受け付けた後、終了指示を受け付けるまで、又は、車両9が目的地Pに到達するまでは、車両9が自動走行モードであると判定する。
【0017】
自動バレー駐車システムにおいては、車両9は、降車スペース101から駐車スペース103までの間、及び駐車スペース103から乗車スペース102までの間において、それぞれ設定された走行経路Rに沿って自動走行する。このような自動走行の実現には、駐車場100の中における車両9の位置を精度良く推定することが望ましい。後述するように、本実施形態では、衛星測位システムを利用した推定と、地物Gの画像認識を利用した推定とが行われる。また、車両9は、後述するように、方位センサ42及び回転センサ43から提供される車両9の挙動情報等に基づく自律制御により、車両9の位置を推定することもできる。
【0018】
図3に示すように、車両位置推定システム10は、車両9を制御する車両制御装置50の1つの機能として構成されている。車両制御装置50は、メモリなどの周辺回路と協働するマイクロコンピュータなどのプロセッサを中核とし、ECU(Electronic Control Unit)として構成されている。メモリにはプログラムや各種パラメータなどが格納され、車両位置推定システム10は、当該プログラムなどのソフトウェアと、プロセッサなどのハードウェアとの協働によって実現される。車両位置推定システム10は、車両9の位置を推定するシステムであり、車両位置推定方法は、車両位置推定システム10を構成するハードウェアやソフトウェアにより車両9の位置を推定する方法であり、車両位置推定プログラムは、車両位置推定システム10を構成するハードウェア(コンピュータ)により実行され、車両位置推定機能を実現させるプログラムである。
【0019】
詳細は後述するが、
図3に示すように、車両位置推定システム10は、周辺情報取得部1と、認識部3と、地物情報取得部5と、第1推定部11と、第2推定部12と、選択部13とを備えている。また、車両制御装置50は、車両位置推定システム10の他、走行制御部20、走行モード受付部21、地物情報記憶部30(データベース:DB)を備えている。また、車両制御装置50(車両位置推定システム10)には、カメラC(周辺検知センサ)、GPS受信機41(衛星測位システム受信機)、方位センサ42、回転センサ43が接続されている。ここでは、衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)として、GPS(Global Positioning System)を例示しているが、GLONASS(Global Navigation Satellite System)、Galileo、準天頂衛星システム(QZSS:Quasi-Zenith Satellite System)等を用いてもよい。また、
図6に示すように、本実施形態では、車両9には、前方、後方、左側方、右側方をそれぞれ撮影範囲とする4つのカメラCが搭載されている。しかし、何れか1つ以上のカメラCのみが備えられている構成であってもよい。
【0020】
車両制御装置50は、駐車場100を管理する管制装置200とワイヤレス通信で接続されている。管制装置200は、駐車場管理部201と、データ記憶部202と、経路設定部203とを備えている。駐車場管理部201は、駐車スペース103を撮影する撮影装置(不図示)や駐車スペース103における車両9の有無を検出するセンサ(不図示)などによって、駐車スペース103の空き状況を管理する。また、駐車場管理部201は、入庫指示の対象となっている車両9および出庫指示の対象となっている車両9を特定する情報、例えば各車両9の識別情報や位置情報等を管理する。駐車場管理部201も、マイクロコンピュータなどのプロセッサを中核として構成されている。データ記憶部202は、駐車場100の地図情報、車両9の位置を推定するための認識対象物OTとなるマークM(識別標示)などの地物G(
図6参照)の情報(後述する基準座標系における座標(絶対座標)や種別など)を記憶している。データ記憶部202は、メモリ、ディスク装置等によって構成されている。
【0021】
経路設定部203は、降車スペース101と駐車スペース103との間の走行経路R、及び駐車スペース103と乗車スペース102との間の走行経路Rを設定する。経路設定部203は、入庫指示があった場合には、入庫指示の対象となっている車両9が停まっている降車スペース101から入庫先として指定された駐車スペース103までの走行経路Rを設定する。経路設定部203は、出庫指示があった場合には、出庫指示の対象となっている車両9が駐車している駐車スペース103から乗車スペース102までの走行経路Rを設定する。
【0022】
上述したように、車両制御装置50は、管制装置200とワイヤレス通信する。車両制御装置50は、車両位置推定システム10から提供される車両9の位置情報(自車位置情報)、管制装置200から提供される走行経路Rの情報、方位センサ42及び回転センサ43から提供される車両9の挙動情報等に基づいて、車両9を自律制御する。
【0023】
上述したように、車両位置推定システム10は、ハードウェアとソフトウェアとの協働によって実現される各種の機能部を備えて構成されている。周辺情報取得部1は、車両9に搭載された周辺検知センサにより検知された車両9の周辺情報を取得する。本実施形態では、周辺検知センサがカメラCであり、周辺情報はカメラCによって撮影された撮影画像である。認識部3は、周辺情報中に含まれる認識対象物OTとしての地物Gの認識処理を行う。本実施形態では、周辺情報が撮影画像であり、認識部3による認識処理は、画像認識処理である。
【0024】
地物情報取得部5は、地物Gの位置情報を含む地物情報を取得する。具体的には、地物情報取得部5は、認識対象物OTとなるマークM、駐車枠線105等の地物Gの基準座標系における位置を示す地物絶対位置情報(後述する絶対座標)を取得する。ここで、基準座標系は、駐車場100の全体に設定された座標系でも良いし、特定の地域に設定された座標系でも良いし、地球全体に設定された座標系でも良い。本実施形態では、少なくとも、駐車場100の任意の場所において重複することのない座標値を有する座標系であれば良い。
【0025】
また、本実施形態では、地物情報取得部5は、車両制御装置50に備えられた地物情報記憶部30から、地物絶対位置情報を取得する。地物情報記憶部30には、マークM、駐車枠線105等の地物Gの基準座標系におけるそれぞれの位置を示す複数の地物絶対位置情報(絶対座標)が格納されている。しかし、地物情報取得部5は、管制装置200から地物絶対位置情報を取得してもよい。また、管制装置200と車両制御装置50との通信により、管制装置200のデータ記憶部202から地物情報記憶部30に地物絶対位置情報が取得されて記憶され、地物情報取得部5が地物情報記憶部30から地物絶対位置情報を取得する形態であってもよい。
【0026】
第1推定部11は、
図4に示すような第1推定処理を実行する。第1推定部11は、衛星測位システム信号を受信し(#11)、衛星測位システム信号に基づいて車両9の位置Qの1つである第1位置Qgpsを推定する(#14:第1推定ステップ/機能)。衛星測位システム信号が適切に受信され、第1位置Qgpsが適切に推定された場合、即ち、推定が成功した場合には、当該推定された第1位置Qgpsが出力される(#15,#16)。例えば、マイクロコンピュータに設定された第1位置レジスタ等に、第1位置Qgpsが記憶される。衛星測位システム信号が微弱であった場合など、第1位置Qgpsが適切に推定されなかった場合、即ち、推定が成功しなかった場合には、空データを示す“null”が出力される(#15,#17)。例えば、マイクロコンピュータに設定された第1位置レジスタ等に、“null”が記憶される。
【0027】
第2推定部12は、周辺情報取得部1、認識部3、地物情報取得部5と協働して、
図5に示すような第2推定処理を実行する。第2推定処理では、上述したように、周辺情報取得部1により、車両9に搭載された周辺検知センサにより検知された車両9の周辺情報を取得する処理が実行される(#21:周辺情報取得ステップ/機能)。また、認識部3により、周辺情報中に含まれる地物Gの認識処理が実行される(#22:認識ステップ/機能)。また、地物情報取得部5により、地物Gの位置情報を含む地物情報を取得する処理が実行される(#23:地物情報取得ステップ/機能)。そして、第2推定部12により、認識部3(認識ステップ/機能(#22))による地物Gの認識処理結果と地物情報とに基づいて車両9の位置Qの1つである第2位置Qrcgが推定される(#24:第2推定ステップ/機能)。
【0028】
地物Gが適切に認識され、第2位置Qrcgが適切に推定された場合、即ち、推定が成功した場合には、当該推定された第2位置Qrcgが出力される(#25,#26)。例えば、マイクロコンピュータに設定された第2位置レジスタ等に、第2位置Qrcgが記憶される。地物Gが認識されなかった場合など、第2位置Qrcgが適切に推定されなかった場合、即ち、推定が成功しなかった場合には、空データを示す“null”が出力される(#25,#27)。例えば、マイクロコンピュータに設定された第2位置レジスタ等に、“null”が記憶される。
【0029】
図9を参照して後述するように、選択部13は、第1推定部11と第2推定部12との何れの推定結果を用いるかを選択する(#40:選択ステップ/機能)。つまり、選択部13は、第1推定部11による推定結果である車両9の第1位置Qgpsと、第2推定部12による推定結果である車両9の第2位置Qrcgとの何れの推定結果を、車両9の位置Qとなる推定位置Qestとして用いるかを選択する。詳細は後述するが、車両9が駐車場100内において設定された走行経路Rに沿って設定された目的地Pまで自動走行する自動走行モードであって、第1推定部11による推定結果(Qgps)と第2推定部12による推定結果(Qrcg)との双方が得られた場合、選択部13は、第2推定部12の推定結果(Qrcg)を用いる。
【0030】
上述したように、車両9は、方位センサ42及び回転センサ43から提供される車両9の挙動情報等に基づく自律制御により、車両9の位置を推定することもできる。図示は省略するが、自律制御により車両9の位置を推定する第3推定部を備えているということもできる。そして、この場合には、選択部13は、第1推定部11による推定結果、第2推定部による推定結果、第3推定部による推定結果の内の1つを車両9の位置Qとなる推定位置Qestとして選択する。
【0031】
尚、第1推定部11による第1推定処理、及び、第2推定部12による第2推定処理は、マイクロコンピュータ等のプロセッサにおいて規定の演算周期で実行される。本実施形態では、第1推定処理は第2推定処理の約10倍の周期で実行される。例えば、第1推定処理の周期が1sの場合、第2推定処理の周期は100msであり、第1推定処理の周期が100msの場合、第2推定処理の周期は10msである。つまり、第1位置Qgps及び第2位置Qrcgは、所定の周期ごとに更新されることになる。
【0032】
但し、車両9は第1推定部11による第1推定処理、及び、第2推定部12による第2推定処理の実行中にも移動している。従って、車両制御装置50は、さらに、方位センサ42及び回転センサ43の検出結果も利用して、車両9の移動に伴って変化する車両9の位置Qを更新する。つまり、車両制御装置50は、選択部13によって選択された推定位置Qestを用い、方位センサ42及び回転センサ43の検出結果を利用して車両9の位置Qを更新しつつ自律制御を行って車両9を自動走行させる。即ち、第1位置Qgps及び第2位置Qrcgの双方が得られない場合には、自律制御によって車両9の位置Qが特定される。
【0033】
ここで、
図6から
図8を参照して、第2推定処理において第2位置Qrcgを推定する原理について説明する。上述したように、本実施形態では、周辺情報取得部1は、車両9に搭載された周辺検知センサとしてのカメラCにより検知された撮影画像を車両9の周辺情報として取得する。例えば、車両9が
図6に示すような位置に存在する場合には、撮影画像には、認識対象物OT(地物G)として、第1認識対象物OT1及び第2認識対象物OT2が含まれる。これらの認識対象物OTは、路面(駐車スペース103)に配置されたマークMである。
【0034】
認識部3は、撮影画像に含まれる認識対象物OT(OT1,OT2)の認識処理を行い、
図7に示すように、ローカル座標系における第1認識対象物OT1及び第2認識対象物OT2の座標を検出する。ローカル座標系は、車両9(対象車両)を基準とし、LX軸(ローカルX軸(ローカル第1軸))とLY軸(ローカルY軸(ローカル第2軸))とを有する二次元直交座標系である。LX軸は、車両9の前後方向に沿った方向である。車両9において自車位置を示す基準点“Q”のローカル座標(LX,LY)は(0,0)である。認識部3は、第1認識対象物OT1のローカル座標(LX
1,LY
1)、及び、第2認識対象物OT2のローカル座標(LX
2,LY
2)を検出する。
【0035】
走行制御部20は、駐車場100における基準座標系での車両9の位置情報(絶対座標)に基づいて、駐車場100に設定された走行経路Rに沿って車両9を走行させる。従って、位置情報取得部7は、基準座標系における自車位置(絶対座標)を取得する。上述したように、基準座標系は、本実施形態では、少なくとも、駐車場100の任意の場所において重複することのない座標値を有する座標系である。
【0036】
以下、認識対象物OT(地物G)として第1認識対象物OT1が認識されている形態を例として説明する。
図7に示すように、車両9の基準点“Q”はローカル座標系の原点であり、ローカル座標(LXq,LYq)の値は(0,0)である。
図8に示すように、車両位置推定システム10は、この基準点“Q”における絶対座標を(WX’q,WY’q)として取得している。ローカル座標(LX
1,LY
1)に位置している第1認識対象物OT1の基準座標系における座標値(絶対座標)は、(WX’q+LX
1,WY’q+LY
1)となる。この座標を仮絶対位置と称する。ここで、上述したように、第1認識対象物OT1の地物絶対位置情報(基準座標系における実際の座標(WXq,WYq))は、地物情報記憶部30に格納されている。
【0037】
図8に示すように、仮絶対位置の座標(WX’q+LX
1,WY’q+LY
1)と、第1認識対象物OT1の実際の座標(WXq,WYq)とが異なる座標である場合には、車両9の絶対座標(WX’q,WY’q)が、実際に車両9が位置する座標値とずれている可能性が高い。そこで、これら2つの座標値、(WX’q+LX
1,WY’q+LY
1)と、(WXq,WYq)とが同じ座標となるように、ローカル座標系を移動させる。つまり、車両9の基準点“Q”を(WXq,WYq)に移動させることで、車両9の絶対座標が補正される。
【0038】
ところで、このように基準座標系において特定されている車両9の座標値が実際の座標値とずれている場合には、上述したように認識対象物OTについても、地物絶対位置情報における座標値と、認識結果に基づく座標値とが異なっている。このため、認識対象物OTとなり得る対象物(地物G)が複数、設けられている場合には、認識した認識対象物OTがどの対象物(地物G)であるかを特定した上で、車両9の絶対座標を補正する必要がある。複数の対象物が認識対象物OTの候補となる場合には、認識対象物OTと車両9との相対関係(ロカール座標系における関係)によって特定される座標(仮絶対位置)と、地物絶対位置情報で規定されている座標との偏差Dが少ない対象物が認識対象物OTとして選択される。
【0039】
例えば、
図8に示すように、地物Gとしての第1マークM1と第2マークM2とが認識対象物OTの候補となる対象物である場合を考える。この場合、仮絶対位置と第2マークM2の位置との偏差D(第2偏差D2)に比べて、仮絶対位置と第1マークM1の位置との偏差D(第1偏差D1)の方が小さいため、第1マークM1が認識対象物OTとして選択され、自車位置が補正される。尚、偏差Dが大きすぎる場合には、認識部3による誤認識の可能性もあるため、何れの対象物も認識対象物OTとして選択しないことが好適である。即ち、基準座標系において仮絶対位置と地物絶対位置情報に示される位置との距離の偏差Dが最小となる地物絶対位置情報を持つ対象物が、認識対象物OTとして選択される。
【0040】
車両9の基準座標系における位置と、実際の位置とずれが大きい場合には、このずれが、複数の対象物が分布する間隔よりも大きくなっている可能性がある。このような場合には、認識対象物OTとは異なる対象物を認識対象物OTとして選択してしまい、車両9の位置の誤差を却って大きくしてしまう可能性がある。従って、当該偏差Dが基準偏差よりも大きい場合には、第1位置Qgpsが推定できていないと判定すると好ましい。
【0041】
ところで、上述したように、選択部13は、第1推定部11により推定された第1位置Qgpsと、第2推定部12により推定された第2位置Qrcgとの何れを車両9の位置Qとなる推定位置Qestとして用いるかを選択する。以下、推定位置Qestを決定する手順について
図9のフローチャートも利用して説明する。
【0042】
選択部13は、第1推定部11により推定された第1位置Qgpsを取得する(#31)と共に、第2推定部12により推定された第2位置Qrcgを取得する(#32)。これら2つのステップ(機能)は、
図9に例示された順序に限らず、逆の順序であってもよい。次に、選択部13は、第2位置Qrcgが“null”であるか否かを判定する(#33)。
図5を参照して上述したように、第2推定部12による位置の推定が成功している場合には、第2位置Qrcgが“null”ではないため、後述するカウンタの値“cnt”が“0”にリセットされる(#34)。一方、第2推定部12による位置の推定が成功していない場合には、第2位置Qrcgが“null”であるため、後述するカウンタの値“cnr”がインクリメントされる(#35)。
【0043】
次に、車両9の走行モード(mode)が、自動走行モード(auto)であるか否かが判定される(#41)。車両9の走行モードが、自動走行モードの場合には、カウンタの値(cnt)が予め規定された規定値“N”以下であるか否かが判定される(#42)。カウンタの値が規定値“N”以下の場合には、次に第2位置Qrcgが“null”であるか否かが判定される(#43)。第2位置Qrcgが“null”ではない場合には、推定位置Qestとして、第2位置Qrcgが選択される(#52)。第2位置Qrcgが“null”の場合には、推定位置Qestとして、第1位置Qgpsが選択される(#51)。即ち、第1推定部11による推定結果(第1位置Qgps)と第2推定部12による推定結果(第2位置Qrcg)との双方が得られた場合、選択部13は、第2推定部12の推定結果(第2位置Qrcg)を用いる。尚、第1位置Qgps及び第2位置Qrcgの双方が“null”である場合(双方の推定結果が得られなかった場合)には、例えば、現在の推定位置Qestが維持される(#53)。そして、上述したように、方位センサ42及び回転センサ43の検出結果を利用した自律制御によって車両9の位置Qが特定される。
【0044】
通常、第2推定部12により推定される第2位置Qrcgは、第1推定部11により推定される第1位置Qgpsよりも精度が高い。また、例えば、駐車場100が建造物の内部などに設置されている場合、人工衛星からの信号を車両9が受信できなかったり、受信できてもその感度が低くなって測位の精度が低くなったりする可能性がある。本実施形態によれば、車両9が自動走行モードの場合に、第2推定部12による第2位置Qrcgが優先して用いられるので、安定した測位が可能である。
図9のステップ#41において車両9の走行モードが自動走行モードであると判定されると、ステップ#43及びステップ#44との関係から明らかなように、第2位置Qrcgが優先して用いられる。そして、
図2を参照して上述したように、選択部13は、走行モード受付部21が起動指示を受け付けた後、終了指示を受け付けるまで、又は、車両9が目的地Pに到達するまでは、車両9が自動走行モードであると判定する。従って、車両9が駐車場100内において設定された走行経路Rに沿って設定された目的地Pまで自動走行する自動走行モードであって、第1位置Qgpsと第2位置Qrcgとの双方が得られた場合、選択部13は、第2位置Qrcgを用いることができる。
図9に例示したステップ#40(ステップ#41~ステップ#44)、特にステップ#43は、選択ステップ/機能に相当する。
【0045】
尚、車両9が自動走行モードによる走行を開始しても、近傍に認識可能な地物Gが存在しない場合など、直ぐに第2位置Qrcgが推定されない場合がある。この場合は、第1位置Qgpsが用いられると好適である。第2位置Qrcgが推定されない場合、
図5を参照して上述したように、第2位置Qrcgは“null”であるから、走行モードが自動走行モードであっても、ステップ#43及びステップ#44を経て、推定位置Qestとして、第1位置Qgpsが選択される。また、
図1に例示するように、例えば入庫の際に自動走行を開始する地点は、駐車場100の入り口に近く、屋外に近い降車スペース101であるから、第1位置Qgpsが適切に推定される可能性は高い。出庫の際に自動走行を開始する地点の近傍には、複数の駐車スペース103が有り、それぞれの駐車スペース103には
図6に例示するように、認識可能な地物Gが存在する可能性が高い。従って、自動走行モードの開始時に衛星測位システム信号が届きにくい出庫の際には自動走行モードの開始時から第2位置Qrcgが推定されている可能性が高い。
【0046】
例えば、車両9が自動走行モードによる走行を開始した後、最初に第2推定部12による推定結果が得られるまでは、第1推定部11による推定結果(第1位置Qgps)を用い、第2推定部12による推定結果(第2位置Qrcg)が得られた後は、目的地Pに到達するまで、第1推定部11による推定結果(Qgps)と第2推定部12による推定結果(Qrcg)との内の第2推定部12による推定結果(Qrcg)のみを用いるように構成されていてもよい。
図9に例示したフローチャートでは、車両9が自動走行モードによる走行を開始し、第2推定部12による推定結果(第2位置Qrcg)が得られた後でも、第2位置Qrcgが推定できなかった場合を考慮して、ステップ#44を設けている。しかし、第2位置Qrcgが得られた後、車両9が目的地Pに到達するまで、第2位置Qrcgのみを用いる構成は、ステップ#44を省略することで容易に実現することができる。或いは、ステップ#44をステップ#43の“No”分岐の後に移動させることによって、実現されてもよい。
【0047】
ところで、認識部3に不具合が生じる、認識可能な地物Gが存在しない経路を走行中である、地物Gが不鮮明であって地物Gの認識精度が低下するなどが生じた場合には、第2位置Qrcgが一定時間以上推定できなくなる可能性がある。従って、選択部13が第2推定部12の推定結果(第2位置Qrcg)を用いる選択を行った後、予め規定された規定時間以上、第2推定部12からの推定結果(Qrcg)が得られない場合には、選択部13は、第1推定部11による推定結果(第1位置Qgps)を用いると好適である。当然ながら、第1位置Qgpsも得られない場合には、上述したように自律制御によって車両9の位置Qが特定されると好適である。
【0048】
尚、
図9に示すように、第2位置Qrcgが“null”であるか否かを判定することによって、適切な推定結果を選択することは可能であるから、必ずしもこのような規定時間に基づくタイムアウト処理を行わなくてもよい。
【0049】
ステップ#34、ステップ#35、ステップ#42において例示したカウンタは、第2推定部12からの推定結果(第2位置Qrcg)が得られない規定時間を計測している。
図5を参照して上述したように、第2推定処理では、周期的に第2位置Qrcgを推定している。また、
図9を参照して説明した、推定位置Qestを決定する一連の処理も周期的に実行されている。従って、ステップ#33において第2位置Qrcgが連続して“null”であると判定された回数によって、第2推定部12からの推定結果(第2位置Qrcg)が得られない時間を計測することができる。つまり、推定位置Qestを決定する一連の処理の1回の実行時間に規定値“N”を乗じた時間が、規定時間に対応する。第2位置Qrcgが連続して“null”であると判定されると、カウンタの値“cnt”が増加していく(ステップ#35)。カウンタの値“cnt”が規定値“N”を超えると、規定時間以上、第2推定部12からの推定結果(第2位置Qrcg)が得られなかったと判定することができる(ステップ#42)。
【0050】
例えば、
図9において、ステップ#44をステップ#43の“No”分岐の後に移動させることによって、第2位置Qrcgが得られた後、車両9が目的地Pに到達するまで、第2位置Qrcgのみを用いる構成を実現することができると上述した。この構成の場合、ステップ#42において、規定時間以上、第2推定部12からの推定結果(第2位置Qrcg)が得られなかったと判定された場合には、第1位置Qgpsが選択されることになる。
【0051】
尚、
図9において破線で示す手順は、走行モードが自動走行モードではない場合(例えば、通常モード(normal)の場合)における推定位置Qestの選択を例示している。ここでは、駐車場100外の場合を想定して、第1位置Qgpsを優先して用いる形態を例示している。しかし、この形態に限らず、第1位置Qgpsのみを用いる形態であってもよい。また、第1位置Qgpsと第2位置Qrcgとが協調し、地物Gに基づいて推定された第2位置Qrcgによって第1位置Qgpsを補正して推定位置Qestとするような構成であってもよい。
【0052】
また、
図9に例示したフローチャートでは種々の条件を考慮した形態を例示したが、走行モードに基づいて、単純に第1位置Qgpsと、第2位置Qrcgを用いる優先順位を入れ替えるような形態としてもよい。つまり、走行モードが自動走行モードの場合には、先に第2位置Qrcgが推定されているか否か(“null”でないかどうか)が判定され、走行モードが通常モードの場合には、先に第1位置Qgpsが推定されているか否か(“null”でないかどうか)が判定されるような形態であってもよい。また、走行モードが自動走行モードであり、第2位置Qrcgが推定されている場合には、
図4に例示した第1推定部11による推定処理を停止させる構成であってもよい。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の車両位置推定システム10(車両位置推定方法、車両位置推定プログラム)によれば、車両位置の推定部を複数備える場合において、これらの競合を回避し、車両の位置を精度よく推定することができる。
【0054】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。
【0055】
(1)上記においては、認識対象物OTとしての地物Gとして、路面に設置されたマークMを例示して説明した。しかし、このようなマークMが設置されていなくても、
図10に例示するように、地物Gとしての駐車枠線105の端点105Tを認識対象物OTとしてもよい。駐車枠線105の端点は、公知のエッジ抽出等を用いた検出が容易であり、適切に検出することが可能である。また、図示は省略するが、地表面に設置された地物Gとしての横断歩道や停止線等の各種の平面的な地物(帯状標示)を認識対象物OTとしてもよい。即ち、認識部3の認識対象となる地物Gは、駐車場100の地表面に設けられたマークM(識別標示)及び帯状標示(駐車枠線105など)の少なくとも一方を含むと好適である。また、認識対象物OTは、これらのように地表面に設置された平面的な地物に限らず、例えばガードレール、フェンス、案内標識などの立体的な地物Gであってもよい。
【0056】
(2)上記の実施形態では、検知情報を提供する検知装置が、可視光を利用したカメラC(撮影装置)である例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、検知装置としては、赤外線や紫外線等の不可視光、各種波長の電磁波、音波などを利用したセンサであってよい。例えば検知装置として、車両9の周辺の所定範囲に探査波を送信するミリ波レーダー、ソナー、LIDAR(Light Detection and Ranging/Laser Imaging Detection and Ranging)等の各種のセンサを用いることができる。検知装置としてカメラC以外のセンサが用いられる場合にも、周辺情報取得部1は、当該センサの検知対象についての車両9の周辺の検知情報を取得する。この場合、検知情報中に含まれる認識対象物OTは、当該センサにより検知可能な対象物とされる。
【0057】
(3)尚、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0058】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した車両位置推定システム(10)、車両位置推定方法、車両位置推定プログラムの概要について簡単に説明する。
【0059】
1つの態様として、対象車両(9)の位置(Q)を推定する車両位置推定システム(10)は、地物(G)の位置情報を含む地物情報を取得する地物情報取得部(5)と、前記対象車両(9)に搭載された周辺検知センサ(C)により検知された前記対象車両(9)の周辺情報を取得する周辺情報取得部(1)と、前記周辺情報中に含まれる前記地物(G)の認識処理を行う認識部(3)と、衛星測位システム信号を受信し、当該衛星測位システム信号に基づいて前記対象車両(9)の位置(Qgps)を推定する第1推定部(11)と、前記認識部(3)による前記地物(G)の認識処理結果と前記地物情報とに基づいて前記対象車両(9)の位置(Qrcg)を推定する第2推定部(12)と、を備え、前記対象車両(9)が駐車場(100)内において設定された走行経路(R)に沿って設定された目的地(P)まで自動走行する自動走行モード(auto)の場合、前記第2推定部(12)の推定結果を用いる。
【0060】
一般的に、周辺情報に基づく地物(G)の認識処理結果と地物情報とに基づいて対象車両(9)の位置を推定する第2推定部(12)の推定結果は、衛星測位システム信号に基づいて対象車両(9)の位置を推定する第1推定部(11)の推定結果よりも精度が高くなる場合が多い。また、例えば駐車場(100)が屋内にあるような場合等、衛星測位システム信号が届き難い状況では、第1推定部(11)による推定結果の精度が低くなり易い。対象車両(9)が、駐車場(100)内において走行経路(R)に沿って目的地(P)まで自動走行する場合、対象車両(9)の位置は精度良く推定されることが好ましい。本構成によれば、対象車両(9)が自動走行モードで走行する際には、第2推定部(12)による推定結果が用いられる。従って、第1推定部(11)による推定結果と第2推定部(12)による推定結果とが競合することを適切に回避することができる。また、第1推定部(11)による推定結果の精度が低くなり易い場合においても、第2推定部(12)による推定結果が用いられることで、対象車両(9)の位置を比較的高精度に推定することができる。このように、本構成によれば、車両位置の推定部として第1推定部(11)と第2推定部(12)とを備える場合において、これらの競合を回避し、対象車両(9)の位置を精度よく推定することができる。
【0061】
上述した、車両位置推定システム(10)の技術的特徴は、車両位置推定方向や車両位置推定プログラムにも適用することができる。以下にその代表的な態様を例示する。例えば、車両位置推定方法は、上述した車両位置推定システム(10)の特徴を備えた各種のステップを有する。また、車両位置推定プログラムは、上述した車両位置推定システム(10)の特徴を備えた各種の機能をコンピュータに実現させる。当然ながらこれらの車両位置推定方法及び車両位置推定プログラムも、上述した車両位置推定システムの作用効果を奏することができる。さらに、車両位置推定システム(10)の好適な態様として、下記に例示する種々の付加的特徴も、これら車両位置推定方法や車両位置推定プログラムに組み込むことが可能であり、当該方法及び当該プログラムはそれぞれの付加的特徴に対応する作用効果も奏することができる。
【0062】
1つの好適な態様として、対象車両(9)の位置(Q)を推定する車両位置推定方法は、地物(G)の位置情報を含む地物情報を取得する地物情報取得ステップ(#23)と、前記対象車両(9)に搭載された周辺検知センサ(C)により検知された前記対象車両(9)の周辺情報を取得する周辺情報取得ステップ(#21)と、前記周辺情報中に含まれる前記地物(G)の認識処理を行う認識ステップ(#22)と、衛星測位システム信号を受信し、当該衛星測位システム信号に基づいて前記対象車両(9)の位置(Qgps)を推定する第1推定ステップ(#14)と、前記認識ステップ(#22)による前記地物(G)の認識処理結果と前記地物情報とに基づいて前記対象車両(9)の位置(Qrcg)を推定する第2推定ステップ(#24)と、を備え、前記対象車両(9)が駐車場(100)内において設定された走行経路(R)に沿って設定された目的地(P)まで自動走行する自動走行モード(auto)の場合、前記第2推定ステップ(#24)の推定結果を用いる。
【0063】
また、1つの好適な態様として、対象車両(9)の位置(Q)を推定する車両位置推定プログラムは、地物(G)の位置情報を含む地物情報を取得する地物情報取得機能(#23)と、前記対象車両(9)に搭載された周辺検知センサ(C)により検知された前記対象車両(9)の周辺情報を取得する周辺情報取得機能(#21)と、前記周辺情報中に含まれる前記地物(G)の認識処理を行う認識機能(#22)と、衛星測位システム信号を受信し、当該衛星測位システム信号に基づいて前記対象車両(9)の位置(Qgps)を推定する第1推定機能(#14)と、前記認識機能による前記地物(G)の認識処理結果と前記地物情報とに基づいて前記対象車両(9)の位置(Qrcg)を推定する第2推定機能(#24)と、をコンピュータに実現させ、前記対象車両(9)が駐車場(100)内において設定された走行経路(R)に沿って設定された目的地(P)まで自動走行する自動走行モード(auto)の場合、前記第2推定機能(#24)の推定結果を用いる。
【0064】
また、車両位置推定システム(10)は、前記第1推定部(11)と前記第2推定部(12)との何れの推定結果を用いるかを選択する選択部(13)を備え、前記自動走行モード(auto)であって、前記第1推定部(11)による推定結果と前記第2推定部(12)による推定結果との双方が得られている場合、前記選択部(13)は、前記第2推定部(12)の推定結果を用いると好適である。
【0065】
本構成によれば、対象車両(9)が自動走行モードで走行する際に、第1推定部(11)による推定結果と第2推定部(12)による推定結果との双方が得られた場合には、選択部(13)によって第2推定部(12)による推定結果が用いられる。従って、第1推定部(11)による推定結果と第2推定部(12)による推定結果とが競合することを適切に回避することができる。
【0066】
また、前記対象車両(9)は、前記自動走行モード(auto)の起動指示と終了指示とを受け付ける自動走行モード受付部(21)を備え、車両位置推定システム(10)は、前記自動走行モード受付部(21)が前記起動指示を受け付けた後、前記終了指示を受け付けるまで、又は、前記目的地(P)に到達するまでは、前記対象車両(9)が前記自動走行モード(auto)であると判定すると好適である。
【0067】
終了指示が受け付けられた場合、自動走行モード(auto)は終了し、車両(9)は停止する。また、対象車両(9)が目的地(P)に到達した場合も自動走行モード(auto)は終了し、対象車両(9)は停止する。自動走行モード(auto)の起動指示が受け付けられた後、対象車両(9)が停止するまでの間、一時停止等を除いて、対象車両(9)は自動走行モードで走行を継続する。対象車両(9)が走行を継続する間は、対象車両(9)の位置が精度良く推定されることが好ましい。従って、車両位置推定システム(10)は、上記のように自動走行モード(auto)であることを判定すると好適である。
【0068】
また、前記対象車両(9)が前記自動走行モード(auto)による走行を開始した後、最初に前記第2推定部(12)による推定結果が得られるまでは、前記第1推定部(11)による推定結果を用い、前記第2推定部(12)による推定結果が得られた後は、前記目的地(P)に到達するまで、前記第1推定部(11)による推定結果と前記第2推定部(12)による推定結果との内の前記第2推定部(12)による推定結果のみを用いると好適である。
【0069】
対象車両(9)が自動走行モードによる走行を開始しても、近傍に認識可能な地物(G)が存在しない場合など、直ぐに第2推定部(12)による推定結果が得られない場合がある。従って、本構成のように、第2推定部(12)による推定結果が得られるまでは、第1推定部(11)による推定結果が用いられると好適である。一方、駐車場(100)における自動走行が開始されると、走行経路(R)に沿って存在する地物(G)を認識できる可能性が高い。そこで、第2推定部(12)による推定結果が得られた後は、目的地(P)に到達するまで、第2推定部(12)による推定結果のみが用いられると精度よく、走行経路(R)に沿った自動走行ができる。
【0070】
また、前記対象車両(9)が前記自動走行モード(auto)による走行を開始した後、予め規定された規定時間以上、前記第2推定部(12)からの推定結果が得られない場合には、前記第1推定部(11)による推定結果を用いると好適である。
【0071】
第2推定部(12)からの推定結果が得られない場合、走行経路(R)に沿った自動走行中の位置の精度が低下する可能性がある。従って、規定時間以上、第2推定部(12)からの推定結果が得られない場合には、車両(9)が自動走行モード(auto)であっても、第1推定部(11)による推定結果を用いて対象車両(9)の位置(Q)を推定すると好適である。
【0072】
また、前記認識部(3)の認識対象となる前記地物(G)は、前記駐車場(100)の地表面に設けられた識別標示(M)及び帯状標示(105)の少なくとも一方を含むと好適である。
【0073】
このような識別標示(M)は、駐車場(100)の構造や、駐車場(100)に設定される走行経路(R)に応じて適切に配置することができる。従って、このような識別標示(M)を地物(G)とすることによって、適切に第2推定部(12)により対象車両(9)の位置(Qrcg)を推定することができる。また、そのような識別標示(M)を配置することができない場合でも、例えば駐車枠線(105)や、停止線、横断歩道などの帯状標示(105)を地物(G)とすることができる。帯状標示(105)は、エッジ検出などによって比較的低い演算負荷で精度良く検出することができる。従って、帯状標示(105)を地物(G)とすることによって、適切に第2推定部(12)により対象車両(9)の位置(Qrcg)を推定することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 :周辺情報取得部
3 :認識部
5 :地物情報取得部
7 :位置情報取得部
9 :車両
10 :車両位置推定システム
11 :第1推定部
12 :第2推定部
13 :選択部
21 :走行モード受付部(自動走行モード受付部)
100 :駐車場
105 :駐車枠線(帯状標示)
C :カメラ(周辺検知センサ)
G :地物
M :マーク(識別標示)
P :目的地
Q :位置(対象車両の位置)
Qest :推定位置(対象車両の位置)
Qgps :第1位置、第1推定部による推定結果
Qrcg :第2位置、第2推定部による推定結果
R :走行経路
#21 :周辺情報取得ステップ/機能
#22 :認識ステップ/機能
#23 :地物情報取得ステップ/機能
#14 :第1推定ステップ/機能
#24 :第2推定ステップ/機能
#40 :選択ステップ/機能