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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20231212BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20231212BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B41J2/14 501
B41J2/18
B41J2/14 603
B41J2/14 607
B41J2/01 401
B41J2/14 605
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019097534
(22)【出願日】2019-05-24
(65)【公開番号】P2020192683
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-05-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】片山 寛
(72)【発明者】
【氏名】小出 祥平
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 啓太
(72)【発明者】
【氏名】平井 啓太
【審査官】山本 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-086375(JP,A)
【文献】特開平10-278307(JP,A)
【文献】特開2004-275956(JP,A)
【文献】特開2019-010760(JP,A)
【文献】特開2019-055493(JP,A)
【文献】特開2008-254196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体が流通し、互いに並設された第1マニホールド及び第2マニホールドと、
前記第1マニホールドと前記第2マニホールドとの間を接続する複数の個別流路と、
前記液体を貯留するタンクと、
前記タンクと前記第1マニホールドとを接続する供給流路と、
前記タンクと前記第2マニホールドとを接続する帰還流路と、
前記タンク内の前記液体が、前記供給流路、前記第1マニホールド、前記個別流路、前記第2マニホールド、及び前記帰還流路、を順に経るよう、前記液体に圧力を付与するポンプと、を備え、
前記個別流路は、
前記第1マニホールドと接続されて前記液体に圧力を付与する第1圧力室と、
前記第2マニホールドと接続されて前記液体に圧力を付与する第2圧力室と、
前記第1圧力室と接続された第1ディセンダと、
前記第2圧力室と接続された第2ディセンダと、
前記第1ディセンダと前記第2ディセンダとを接続する連結路と、を有し、
前記連結路には、前記液体の流通方向に離隔して配置され、且つ、形状が異なる複数のノズルが連結され、
前記複数のノズルは、前記連結路の前記流通方向の上流側に配置された吐出口径が小さい小径ノズルと、前記連結路の前記小径ノズルよりも前記流通方向の下流側に配置された吐出口径が大きい大径ノズルとを含み、
前記大径ノズルの開口方向から見て、前記連結路の長手方向中央が、前記大径ノズルの吐出口内に位置している、液体吐出装置。
【請求項2】
内部に液体が流通し、互いに並設された第1マニホールド及び第2マニホールドと、
前記第1マニホールドと前記第2マニホールドとの間を接続する複数の個別流路と、
前記液体を貯留するタンクと、
前記タンクと前記第1マニホールドとを接続する供給流路と、
前記タンクと前記第2マニホールドとを接続する帰還流路と、
前記タンク内の前記液体が、前記供給流路、前記第1マニホールド、前記個別流路、前記第2マニホールド、及び前記帰還流路、を順に経るよう、前記液体に圧力を付与するポンプと、を備え、
前記個別流路は、
前記第1マニホールドと接続されて前記液体に圧力を付与する第1圧力室と、
前記第2マニホールドと接続されて前記液体に圧力を付与する第2圧力室と、
前記第1圧力室と接続された第1ディセンダと、
前記第2圧力室と接続された第2ディセンダと、
前記第1ディセンダと前記第2ディセンダとを接続する連結路と、を有し、
前記連結路には、前記液体の流通方向に離隔して配置され、且つ、形状が異なる複数のノズルが連結され、
前記複数のノズルは、前記連結路の前記流通方向の上流側に配置された吐出口径が大きい大径ノズルと、前記連結路の前記大径ノズルよりも前記流通方向の下流側に配置された吐出口径が小さい小径ノズルとを含み、
前記小径ノズルの開口方向から見て、前記連結路の長手方向中央が、前記小径ノズルの吐出口内に位置している、液体吐出装置。
【請求項3】
前記複数の個別流路の各々において、前記第1圧力室と前記第2圧力室とに個別に対応して設けられ、前記第1圧力室内及び前記第2圧力室内の前記液体に圧力を付与する複数のアクチュエータと、
前記複数のアクチュエータを個別に制御する制御部と、を更に備え、
前記制御部は、前記第1圧力室と前記第2圧力室とにおいて前記アクチュエータにより前記液体に付与した前記圧力が、前記複数のノズルに含まれる特定の1のノズル内の前記液体に同時に及ぶように、前記アクチュエータを制御する、請求項1または2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記小径ノズルにより吐出可能な前記液体の粘度の上限値が、前記大径ノズルにより吐出可能な前記液体の粘度の下限値よりも大きい、請求項1~3のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を吐出する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置として、例えば特許文献1に開示されるように、並設された長尺状の供給マニホールド及び帰還マニホールドと、これらの各マニホールドを接続する複数の個別流路とを備えるものが知られている。
【0003】
例えば、個別流路は、供給マニホールドから供給される液体に圧力を付与する供給側圧力室と、供給側圧力室から供給される液体を流通させ且つノズルが連結されたディセンダと、ディセンダを通過した液体に圧力を付与する帰還側圧力室とを有する。
【0004】
この液体吐出装置では、装置外に設けられたポンプから、供給マニホールドに正圧が付与され且つ帰還マニホールドに負圧が付与されることにより、内部の流路を供給マニホールドから帰還マニホールドに向けて液体が循環する。その状態で各圧力室内の液体に正圧が付与されることにより、循環中の液体の一部がノズルから吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-254196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液体吐出装置内の液体の粘度は、例えば液体の種類、成分濃度、装置外の気温、及び、ノズルからの液体の吐出頻度等の要因により変化する。液体の粘度が変動すると、ノズルから液体を安定して吐出することが困難になるおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、供給マニホールド及び帰還マニホールドと、各マニホールドを接続し且つノズルが連結された複数の個別流路とを備える液体吐出装置において、液体の粘度が変動しても、ノズルから液体を安定して吐出可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る液体吐出装置は、内部に液体が流通し、互いに並設された第1マニホールド及び第2マニホールド前記第1マニホールドと前記第2マニホールドとの間を接続する複数の個別流路と、を備え、前記個別流路は、前記第1マニホールドと接続されて前記液体に圧力を付与する第1圧力室と、前記第2マニホールドと接続されて前記液体に圧力を付与する第2圧力室と、前記第1圧力室と接続された第1ディセンダと、前記第2圧力室と接続された第2ディセンダと、前記第1ディセンダと前記第2ディセンダとを接続する連結路と、を有し、前記連結路には、前記液体の流通方向に離隔して配置され、且つ、形状が異なる複数のノズルが連結されている。
【0009】
上記構成によれば、形状が異なる複数のノズルが連結路に液体の流通方向に離隔して配置されているので、液体の粘度に応じて液体を吐出すべきノズルを選択し、第1圧力室と第2圧力室とにより液体に圧力を付与することで、選択したノズルから液体を安定して吐出させることができる。これにより、液体の粘度が変動しても、ノズルから液体を安定して吐出できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、供給マニホールド及び帰還マニホールドと、各マニホールドを接続し且つノズルが連結された複数の個別流路とを備える液体吐出装置において、液体の粘度が変動しても、ノズルから液体を安定して吐出できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係るプリンタの概略構成図である。
図2図1の液体吐出ヘッドの部分的な上面図である。
図3図2のIII-III線矢視断面図である。
図4】第2実施形態に係る液体吐出ヘッドの部分的な断面図である。
図5】第3実施形態に係る液体吐出ヘッドの部分的な断面図である。
図6】第4実施形態に係る液体吐出ヘッドの部分的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して各実施形態を説明する。
【0013】
(第1実施形態)
[プリンタの全体構成]
図1は、第1実施形態に係るプリンタ1の概略構成図である。プリンタ1は、液体吐出装置の一例であって、ここではライン式であるが、これに限定されない。図1に示すように、プリンタ1は、液体吐出ヘッド3、プラテン4、搬送ローラ5,6、配管7、加圧タンクT1、負圧タンクT2、供給タンクT3、エアポンプP1,P2、液体ポンプP3、及び制御部8を備える。プリンタ1が吐出する液体は、一例として、色材成分を含むインクであるが、これに限定されず、所定成分を含むその他の液体であってもよい。
【0014】
液体吐出ヘッド3は、一例としてインクジェットヘッドであり、プラテン4と間隔をおいて配置されている。液体吐出ヘッド3は、液体を吐出する複数のノズル(ノズル31a,31b)、外部から液体が供給される供給口3a、及び外部に液体を排出する排出口3bを有する。
【0015】
供給口3aには、配管7の一端が接続され、排出口3bには、配管7の他端が接続されている。配管7の途中には、供給口3a側から排出口3b側へ向かって、加圧タンクT1、液体ポンプP3、及び負圧タンクT2がこの順序で接続されている。加圧タンクT1には液体が貯留されている。加圧タンクT1には、空気により液体を加圧するエアポンプP1と、液体を加圧タンクT1へ供給する供給タンクT3とが接続されている。エアポンプP1が加圧タンクT1内の空気の圧力を高めることにより、加圧タンクT1に貯留された液体は、加圧されて配管7に供給される。
配管7は、液体吐出ヘッド3に供給される液体が流通する供給流路7aと、液体吐出ヘッド3から吐出される液体が流通する帰還流路7bとを有する。供給流路7aは、タンクT1~T3と、後述する液体吐出ヘッド3の第1マニホールド30aとを接続する。一例として、供給流路7aは、加圧タンクT1に直接的に接続され、負圧タンクT2及び供給タンクT3に間接的に接続されている。帰還流路7bは、タンクT1~T3と、後述する第2マニホールド30bとを接続する。一例として帰還流路7bは、負圧タンクT2に直接的に接続され、加圧タンクT1及び供給タンクT3に間接的に接続されている。
【0016】
負圧タンクT2には、液体が貯留されている。負圧タンクT2には、空気により液体を減圧するエアポンプP2が接続されている。エアポンプP2が負圧タンクT2内の空気を減圧することにより、配管7を流通する液体の一部が、負圧タンクT2内へ吸い上げられる。
【0017】
液体ポンプP3は、配管7のうちのタンクT1,T2の間の部分に配置されている。液体ポンプP3は、負圧タンクT2から加圧タンクT1へ液体を供給する。プリンタ1では、ポンプP1~P3の駆動に伴い、液体が配管7及び液体吐出ヘッド3の各内部を循環する。
【0018】
プラテン4は、液体吐出ヘッド3のノズル31a,31bと対向して配置され、主走査方向と、主走査方向に垂直な所定の搬送(副走査)方向とに延びている。プラテン4には、記録シートMが載置される。搬送ローラ5,6は、搬送方向に記録シートMを搬送する。搬送ローラ5は、液体吐出ヘッド3よりも搬送方向上流側に配置され、搬送ローラ6は、液体吐出ヘッド3よりも搬送方向下流側に配置されている。
【0019】
制御部8は、ポンプP1~P3、ローラ5,6、及び複数のアクチュエータ41(図3参照)を個別に制御する。このように制御部8は、一例として、ポンプP1~P3を制御するポンプ制御部と、アクチュエータ41を制御するアクチュエータ制御部とを兼ねている。なお、ポンプP1~P3とアクチュエータ41とは、別々の制御部により制御されてもよい。
【0020】
制御部8は、演算部と記憶部とを有する。本実施形態の制御部8は、演算部としてCPUを有し、記憶部としてROM及びRAMを有する。制御部8が有するCPU70の個数は、単一又は複数のいずれでもよい。ROMには、CPUがポンプP1~P3とアクチュエータ41とを制御するための制御プログラムが格納されている。
【0021】
プリンタ1では、制御部8の制御により、記録シートMが搬送ローラ5,6により搬送方向に搬送される際、液体吐出ヘッド3のノズル31a,31bから液体(インク)が吐出される。これにより、記録シートMが印刷される。なおプリンタ1は、種類の異なる液体(例えば色が異なるインク)を吐出する複数の液体吐出ヘッド3を備えていてもよい。
【0022】
[液体吐出ヘッド]
図2は、図1の液体吐出ヘッド3の部分的な上面図である。図3は、図2のIII-III線矢視断面図である。詳細を後述するように、液体吐出ヘッド3は、前記複数のノズルとして、形状の異なるノズル31a,31bを有している。液体吐出ヘッド3は、制御部8により、液体の粘度に応じて、複数のノズルのうちの特定のノズルから液体を吐出可能に構成されている。
【0023】
具体的に液体吐出ヘッド3は、複数のプレート31~40を重ねてなる流路ユニット30と、流路ユニット30に重ねて配置された複数のアクチュエータ41とを有する。
【0024】
プレート31は、複数のプレート31~40のうち、プラテン4に最も近接して配置されるノズルプレートであって、厚み方向に貫通する複数のノズル31a,31bを有する。本実施形態のプレート31には、複数のノズル31aで構成される複数のノズル列Q(Qa)が、搬送方向(図3では左右方向)に間隔をおいて並設されている。ノズル列Qa中の各ノズル31aは、主走査方向(図2では上下方向であり、図3では紙面に垂直な方向)に間隔をおいて配置されている。またプレート31には、複数のノズル31bで構成される複数のノズル列Q(Qb)が、搬送方向に間隔をおいて並設されている。ノズル列Qb中の各ノズル31bは、主走査方向に間隔をおいて配置されている。本実施形態では、ノズル列Qaとノズル列Qbとが、搬送方向に交互に配置されている。
【0025】
流路ユニット30は、第1マニホールド30a、第2マニホールド30b、及び複数の個別流路30cを有する。第1マニホールド30aと第2マニホールド30bは、長尺状であり、内部に液体が流通し、互いに搬送方向に並設されている。一例として、第1マニホールド30aと第2マニホールド30bは、主走査方向に沿って延び、主走査方向の一端側で接続されている。第1マニホールド30aと第2マニホールド30bとの流路断面形状は、本実施形態では同様であり、幅方向寸法が高さ方向寸法よりも大きい矩形状である。
【0026】
個別流路30cは、第1マニホールド30aと第2マニホールド30bとの間を接続している。個別流路30cは、第1絞り30d、第2絞り30e、第1ディセンダ30f、第2ディセンダ30g、連結路30h、第1圧力室30i、及び第2圧力室30jを有する。
【0027】
第1絞り30dは、第1マニホールド30aと接続されている。第1絞り30dは、プレート39の厚み方向に第1マニホールド30aよりもアクチュエータ41側となる位置に配置され、第1マニホールド30aの幅方向内側から外側に向けて(搬送方向に)延びている。一例として、第1絞り30dの上流端は、第1マニホールド30aに接続され、下流端は、第1圧力室30iに接続されている。第1絞り30dの上流端の開口は、プレート37,38により画定されている。第1絞り30dの下流端の開口は、プレート38,39により画定されている。
【0028】
第2絞り30eは、第2マニホールド30bと接続されている。第2絞り30eは、プレート39の厚み方向に第2マニホールド30bよりもアクチュエータ41側となる位置に配置され、第2マニホールド30bの幅方向内側から外側に向けて(搬送方向に)延びている。一例として、第2絞り30eの上流端は、第2圧力室30jに接続され、下流端は、第2マニホールド30bに接続されている。第2絞り30eの上流端の開口は、隣接するプレート38,39により画定されている。第2絞り30eの下流端の開口は、プレート37,38により画定されている。
【0029】
第1ディセンダ30fは、プレート31の厚み方向に延び、第1圧力室30iと接続されている。本実施形態の第1ディセンダ30fは、上流端が第1圧力室30iと接続され、下流端が連結路30hと接続されている。
【0030】
第2ディセンダ30gは、プレート31の厚み方向に延び、第2圧力室30jと接続されている。本実施形態の第2ディセンダ30gは、上流端が連結路30hと接続され、下流端が第2圧力室30jと接続されている。
【0031】
第1ディセンダ30fの上流端及び第2ディセンダ30gの下流端の各開口は、プレート38により画定されている。第1ディセンダ30fの下流端及び第2ディセンダ30gの上流端は、プレート34により画定されている。
【0032】
連結路30hは、プレート31の表面に沿って延びている。連結路30hには、液体の流通方向に離隔して配置された複数のノズル(ここではノズル31a,31b)が連結されている。本実施形態の連結路30hには、ノズル31a,31bが液体の流通方向に離隔して配置されている。連結路30hの上流端及び下流端は、プレート33,34により画定されている。
【0033】
ここで連結路30hには、ポンプP1~P3の駆動時であり且つアクチュエータ41の非駆動時に、小径ノズル31aと大径ノズル31bとで挟まれた連結路30hの流通方向の途中に液体の圧力がゼロとなる位置が設けられている。
【0034】
第1圧力室30iは、液体の流通方向における第1絞り30dと第1ディセンダ30fとの間に配置され、第1絞り30dを介して第1マニホールド30aと接続されている。第1圧力室30iは、第1絞り30dから供給される液体に圧力を付与して液体を第1ディセンダ30fに供給する。第1圧力室30iは、第1マニホールド30aの幅方向(搬送方向)に延びている。第1圧力室30iの上端は、厚み方向に弾性変形可能なプレート(振動板)40により画定されている。
【0035】
第2圧力室30jは、液体の流通方向における第2絞り30eと第2ディセンダ30gとの間に配置され、第2絞り30eを介して第2マニホールド30bと接続されている。第2圧力室30jは、第2ディセンダ30gを通過した液体に圧力を付与して液体を第2絞り30eに供給する。第2圧力室30jは、第2マニホールド30bの幅方向(搬送方向)に延びている。第2圧力室30jの上端は、プレート40により画定されている。
【0036】
複数のアクチュエータ41は、複数の個別流路30cの各々において、第1圧力室30iと第2圧力室30jとに個別に対応して設けられ、第1圧力室30i内及び第2圧力室30j内の液体に圧力を付与する。アクチュエータ41は、プレート39のうち圧力室30i,30jと厚み方向に重なる位置に配置されている。
【0037】
アクチュエータ41は、共通電極42、圧電層43、及び個別電極44を有する。共通電極42、圧電層43、及び個別電極44は、プレート39の圧力室30i,30jとは反対側の面に、この順に重ねて配置されている。共通電極42と圧電層43とは、1つのノズル列Qに共通して配置され、個別電極44は、各圧力室30i,30jに個別に対応して配置されている。圧電層43は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を含む圧電材料からなる。
【0038】
共通電極42は、グランド電位に保持されている。個別電極44は、プリンタ1が備える不図示のドライバICに接続されている。各個別電極44の電位は、このドライバICにより個別に、グランド電位又は所定の駆動電位に設定される。圧電層43の共通電極42と個別電極44とに挟まれた各部分は、個別電極44の通電時にはプレート39の厚み方向に分極された活性部として機能する。
【0039】
アクチュエータ41では、ノズル31a,31bから液体を吐出させないとき(待機状態)には、全個別電極44が共通電極42と同様にグランド電位に保持される。またアクチュエータ41では、ノズル31a,31bのうち、特定のノズルから液体を吐出させるときには、この特定のノズルと連通する圧力室30i,30jに対応する個別電極44の電位が、制御部8により所定の駆動電位に切り換えられる。これにより当該アクチュエータ41は、圧力室30i,30j側に突出するように変形する。
【0040】
その結果、圧力室30i,30jの容積が縮小して圧力室30i,30j内の液体の圧力(正圧)が上昇し、特定のノズルから液体が吐出される。液体の吐出後、個別電極44の電位はグランド電位に戻される。これにより当該アクチュエータ41は、変形前の状態に戻る。
【0041】
また制御部8は、全てのノズル31a,31bのうち、液体を吐出しないノズルに対応するアクチュエータ41を、液体に対して後退状態に変形させる。このときアクチュエータ41は、圧力室30i,30j側から退避して窪むように変形する。
【0042】
その結果、圧力室30i,30jの容積が拡大して圧力室30i,30j内の液体の圧力が負圧となる。これにより、液体を吐出させたくないノズルから液体が吐出されるのが抑制される。
【0043】
ここで液体吐出ヘッド3の連結路30hには、液体の流通方向に離隔して配置され、且つ、形状が異なる複数のノズルが連結されている。ここで言う「形状が異なる」とは、例えば、ノズルの吐出口径が異なる場合と、ノズルの開口形状が異なる場合とを含む。
【0044】
本実施形態では、この複数のノズルは、吐出口径が異なる2以上のノズルを含む。液体吐出ヘッド3は、この吐出口径が異なる2以上のノズルとして、ノズル31a,31bを有する。ノズル31aは、吐出口径が小さい小径ノズルであり、ノズル31bは、小径ノズル31aよりも吐出口径が大きい大径ノズルである。小径ノズル31aは、連結路30hの流通方向の上流側に配置されている。大径ノズル31bは、連結路30hの小径ノズル31aよりも流通方向の下流側に配置されている。
【0045】
また本実施形態の制御部8は、第1圧力室30iと第2圧力室30jとでアクチュエータ41により液体に付与した圧力が、上記複数のノズルに含まれる特定の1のノズル(ここではノズル31a,31bのうちいずれかのノズル)内の液体に同時に及ぶように、アクチュエータ41を制御する。
【0046】
ここで本実施形態のプリンタ1は、オペレータにより、使用中の液体の状態に応じて、ノズル31a,31bのうちいずれかを、液体の吐出に用いる特定のノズルとして選択するように制御部8が設定されている。
【0047】
上記構成を有する液体吐出ヘッド3では、ポンプP1~P3を駆動することにより、第1マニホールド30a内の液体に正圧が付与され、第2マニホールド30b内の液体に負圧が付与される。これによりポンプP1~P3は、タンクT1~T3内の液体が、供給流路7a、第1マニホールド30a、個別流路30c、第2マニホールド30b、及び帰還流路7bを順に経るよう、液体に圧力を付与する。第2マニホールド30b内を流通した液体は、第1マニホールド30a内に戻されるように循環する。
【0048】
この状態で、特定のアクチュエータ41が駆動されると、このアクチュエータ41に対応する圧力室30i,30j内の液体に正圧が付与される。これにより、第1ディセンダ30f、連結路30h、及び第2ディセンダ30g内の液体に正圧が付与され、ノズル31a,31bのうち、上記特定のアクチュエータ41に対応する特定ノズルから液体が吐出される。この液体により、記録シートMが印刷される。
【0049】
ここで従来、液体吐出装置内の液体の粘度は、例えば液体の種類、成分濃度、装置外の気温、及び、ノズルからの液体の吐出頻度等の要因により変化する。液体の粘度が変動すると、液体吐出装置の駆動中にノズルから液体を安定して吐出することが困難になるおそれがある。これにより、例えば液体がインクである場合、液体吐出装置を用いて、記録シートに適切に印刷処理を行えないおそれがある。
【0050】
これに対して液体吐出ヘッド3では、形状が異なる複数のノズル31a,31bが連結路30hに液体の流通方向に離隔して配置されているので、液体の粘度に応じて液体を吐出すべきノズルを選択し、第1圧力室30iと第2圧力室30jとにより液体に圧力を付与することで、選択したノズルから液体を安定して吐出させることができる。これにより、液体の粘度が変動しても、ノズルから液体を安定して吐出できる。
【0051】
また制御部8は、第1圧力室30iと第2圧力室30jとにおいてアクチュエータ41により液体に付与した圧力が、複数のノズル31a,31bに含まれる特定の1のノズル内の液体に同時に及ぶように、アクチュエータ41を制御する。このようにアクチュエータ41を制御することで、液体の粘度に応じたノズルを選択して、当該ノズルから液体を安定して吐出できる。
【0052】
また液体吐出ヘッド3の複数のノズル31a,31bは、吐出口径が異なる2以上のノズルを含むので、液体の粘度に応じ吐出口径のノズルを選択することにより、広い粘度域の液体を安定して当該ノズルから液体を安定して吐出できる。
【0053】
また液体吐出ヘッド3は、液体を貯留するタンクT1~T3と、タンクT1~T3と第1マニホールド30aとを接続する供給流路7aと、タンクT1~T3と第2マニホールド30bとを接続する帰還流路7bと、タンクT1~T3内の液体が、供給流路7a、第1マニホールド30a、個別流路30c、第2マニホールド30b、及び帰還流路7b、を順に経るよう、液体に圧力を付与するポンプP1~P3とを備える。これにより、個別流路30cにエアが混入した場合でも、循環される液体と共にエアを個別流路30cから除去でき、ノズル31a,31bから液体を安定して吐出できる。
【0054】
また液体吐出ヘッド3では、複数のノズルは、連結路30hの流通方向の上流側に配置された吐出口径が小さい小径ノズル31aと、ディセンダ30fの小径ノズル31aよりも流通方向の下流側に配置された吐出口径が大きい大径ノズル31bとを含む。ここでポンプP1~P3の駆動時であり且つアクチュエータ41の非駆動時には、上流側のノズル31aに正圧が及び、下流側のノズル31bに負圧が及ぶ。下流側のノズル31bには、負圧により液面が引き込まれるため、液体が漏れにくい。従って、このように連結路30hの上流側に小径ノズル31aを配置し、下流側に大径ノズル31bを配置することで、意図しない圧力や振動が液体に掛かった場合に、各ノズル31a,31bから液体が漏れ出るのを防止できる。
【0055】
[変形例]
以下、第1実施形態の各変形例について説明する。第1変形例では、小径ノズル31aにより吐出可能な液体の粘度の上限値が、大径ノズル31bにより吐出可能な液体の粘度の下限値よりも大きい。これにより第1変形例では、小径ノズル31aから吐出可能な液体の粘度域と、大径ノズル31bから吐出可能な粘度域とが重なり、前記上限値と前記下限値との間において液体を吐出不可能な粘度域が存在しない。
【0056】
よって第1変形例では、小径ノズル31a及び大径ノズル31bにより吐出可能な液体の粘度域を大幅に拡大でき、広い粘度域で液体を吐出できる。従って、液体吐出ヘッド3の安定した液体吐出性能を得ることができる。
【0057】
また第2変形例では、制御部8は、第1圧力室30iと第2圧力室30jとの体積を増加させるようにアクチュエータ41を制御する第1制御と、第1制御後に第1圧力室30iと第2圧力室30jとの体積を減少させて特定ノズルから液体を吐出させるようにアクチュエータ41を制御する第2制御と、第2制御後に、特定ノズルから液滴が落下する前に、第1圧力室30iと第2圧力室30jとの体積を再び増加させて特定ノズルからの液体の吐出を停止させるようにアクチュエータ41を制御する第3制御を行う。
【0058】
この第2変形例によれば、特定ノズルから吐出される液滴量を調節できるため、例えば、粘度が高い液体を大径ノズル31bから吐出する場合でも、当該ノズル31bから小さな液滴を吐出させ易くすることができる。
【0059】
また第3変形例では、制御部8の記憶部に、ノズルから吐出する液体の情報である液体情報と、ノズルとを関連付けた関連情報を格納するテーブルが記憶されている。制御部8の演算部は、使用中の液体の種類、成分濃度、装置(プリンタ1)外の気温、及び、ノズルからの液体の吐出頻度のうちの少なくとも1つの液体情報を取得する取得ステップと、取得した液体情報がテーブルに記憶された関連情報中の液体情報と合致するか否かを判定する判定ステップと、前記判定した結果、取得ステップで取得した液体情報と合致する液体情報を含む関連情報をテーブル内から選択する選択ステップと、前記選択した関連情報と対応するノズルを選択するノズル選択ステップとを順次行うように構成されている。
【0060】
この場合、取得ステップにおいて、制御部8の演算部は、オペレータから使用中の液体の種類又は成分濃度についての液体情報を取得できる。また取得ステップにおいて、制御部8の演算部は、プリンタ1に設けた温度計により、装置外の気温についての液体情報を取得できる。また取得ステップにおいて、制御部8の演算部は、予めカウントしたノズルからの液体の吐出回数に基づいて、ノズルからの液体の吐出頻度についての液体情報を取得できる。
【0061】
なお流路ユニット30は、液体に不要な圧力が及ぶのを防止するため、第1マニホールド30a及び第2マニホールド30bの各下端を画定するダンパを有していてもよい。この場合、ダンパは、プレート31の厚み方向に往復変位可能に配置される。以下、その他の実施形態について、第1実施形態との差異を中心に説明する。
【0062】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態に係る液体吐出ヘッド103の部分的な断面図である。図4は、図3に対応する。図4に示すように、液体吐出ヘッド103は、液体吐出ヘッド3と共通する構造を有しているが、大径ノズル31bの開口方向(紙面下側)から見て、個別流路30cの連結路30hの長手方向中央が、大径ノズル31bの吐出口内に位置している。
【0063】
ここで仮に、連結路30hの長手方向中央よりも流通方向の上流側で、第1圧力室30iと第2圧力室30jとから伝わる圧力が衝突する場合、衝突位置において、第1圧力室30iから伝わる圧力は、第2圧力室30jから伝わる圧力よりも大きくなる。このため、この場合の2つの圧力の衝突による衝撃は比較的弱い。当該衝撃は、2つの圧力が、連結路30hの長手方向中央で衝突した場合に最も強くなる。
【0064】
そこで第2実施形態では、上記のように大径ノズル31bを配置することで、上記2つの圧力の衝突による衝撃が最も強くなる位置に大径ノズル31bを配置している。これにより液体吐出ヘッド103では、大径ノズル31bから液体を効率よく吐出させることができ、対応可能な液体の粘度の下限を拡大できる。また、正圧が及び易い位置に小径ノズル31aを配置することにより、小径ノズル31aから液体を吐出し易くできる。従って、高粘度の液体でも小径ノズル31aから吐出し易くできる。
【0065】
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態に係る液体吐出ヘッド203の部分的な断面図である。図5は、図3に対応する。図5に示すように、液体吐出ヘッド203の複数のノズルは、個別流路30cの連結路30hの流通方向の上流側に配置された吐出口径が大きい大径ノズル31bと、連結路30hの大径ノズル31bよりも流通方向の下流側に配置された吐出口径が小さい小径ノズル31aとを含む。
【0066】
ここで、第1ディセンダ30f中の液体には、上流側から下流側に向けて、大径ノズル31bに近接する方向に正圧が及び易い。従って上記構成によれば、連結路30hの正圧が及び易い位置に大径ノズル31bを配置でき、大径ノズル31bから液体を吐出し易くできる。これにより、高粘度の液体を大径ノズル31bから吐出し易くできる。また、連結路30hの負圧が比較的及び易い位置に小径ノズル31aを配置でき、小径ノズル31a内の液体が外気に触れて乾燥するのを防止できる。
【0067】
(第4実施形態)
図6は、第4実施形態に係る液体吐出ヘッド303の部分的な断面図である。図6は、図3に対応する。図6に示すように、液体吐出ヘッド303は、小径ノズル31aの開口方向(紙面下側)から見て、個別流路30cの連結路30hの長手方向中央が、小径ノズル31aの吐出口内に位置している。
【0068】
上記構成によれば、第3実施形態で奏される効果に加えて、第1圧力室30i及び第2圧力室30jの両方からの圧力が及び易い位置に小径ノズル31aを配置することにより、液体を小径ノズル31aから吐出し易くできる。
【0069】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その構成を変更、追加、又は削除できる。流路ユニット30を構成するプレートの枚数は限定されず、適宜変更可能である。液体吐出装置の方式は、アクチュエータ41(ピエゾ素子)を用いたピエゾ方式に限定されず、例えば、液体を加熱発泡させることによりノズルから吐出するサーマルジェット方式であってもよい。また上記実施形態及び各変形例では、1つの特定ノズルから液体を吐出する場合を例示したが、複数の特定ノズルから同時に液体を吐出してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように本発明は、長尺状の第1マニホールド及び第2マニホールドと、各マニホールドを接続する複数の個別流路とを備える液体吐出装置において、液体の粘度の変動により液体吐出性能が変動するのを防止できる優れた効果を有する。従って、この効果の意義を発揮できる液体吐出装置に本発明を広く適用すると有益である。
【符号の説明】
【0071】
P1,P2 エアポンプ(ポンプ)
T1 加圧タンク(タンク)
T2 負圧タンク(タンク)
T3 供給タンク(タンク)
P3 液体ポンプ(ポンプ)
3,103,203,303 液体吐出ヘッド
7a 供給流路
7b 帰還流路
8 制御部
30a 第1マニホールド
30b 第2マニホールド
30c 個別流路
30f 第1ディセンダ
30g 第2ディセンダ
30h 連結路
30i 第1圧力室
30j 第2圧力室
31a 大径ノズル
31b 小径ノズル
41 アクチュエータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6