IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日本印刷株式会社の特許一覧

特許7400224光学用転写シート及びそれを用いた位相差板の製造方法
<>
  • 特許-光学用転写シート及びそれを用いた位相差板の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】光学用転写シート及びそれを用いた位相差板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20231212BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20231212BHJP
【FI】
G02B5/30
B32B7/023
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019113027
(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公開番号】P2020204738
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 裕之
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-211524(JP,A)
【文献】国際公開第2015/022980(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0266821(US,A1)
【文献】特開2016-028284(JP,A)
【文献】特開2016-009079(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0231486(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0059300(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B32B 7/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にラビング処理されない配向膜及び位相差層をこの順に有してなり、前記配向膜が、下記(2)の含有量が、前記配向膜の全固形分の20~50質量%である配向膜用インキを硬化してなるものである、光学用転写シート。
(2)下記式(a1)又は(a2)に示す単位を分子中に含む単官能(メタ)アクリル系化合物
【化1】
【請求項2】
前記配向膜が、さらに、多官能(メタ)アクリレート系化合物の硬化物を含む、請求項1に記載の光学用転写シート。
【請求項3】
前記位相差層がポジティブC層である、請求項1又は2に記載の光学用転写シート。
【請求項4】
前記基材が延伸プラスチックフィルムである、請求項1~の何れか1項に記載の光学用転写シート。
【請求項5】
下記(A1)~(A2)の工程を有する、位相差板の製造方法。
(A1)請求項1~の何れか1項に記載の光学用転写シートの位相差層側の面と、被着体とを、接着剤層を介して積層してなる積層体Aを得る工程。
(A2)積層体Aから基材を剥離し、被着体、接着剤層、位相差層及び配向膜をこの順に有する位相差板を得る工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用転写シート及びそれを用いた位相差板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置及び有機EL表示装置等の画像表示装置は、視認性を改善することなどを目的として、λ/4位相差板、λ/2位相差板及びポジティブCプレート等の位相差板が用いられている。
【0003】
位相差板は、所望の基材上に配向膜を形成し、次いで、該配向膜上に、λ/4位相差層、λ/2位相差層及びポジティブC層等の位相差層を形成して製造するのが一般的である。
しかし、所望の基材が配向膜の塗布適性に劣るものであったり、耐熱性に劣るものであったりする場合がある。このような場合には、転写用の基材上に配向膜及び位相差層を順次形成してなる光学用の転写シートを作製し、該転写シートの転写層(位相差層及び配向膜)を所望の基材に転写する手段が採用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-180218号公報(請求項2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光学用の転写シートは、転写時の転写層(配向膜及び位相差層)の離型性を考慮して、転写用の基材と配向膜との密着性が低い傾向にある。しかし、転写用の基材と配向膜との密着性が低い場合、製造過程において、転写層(配向膜及び位相差層)が剥がれて欠陥が生じ、ひいては位相差板の製造歩留まりが低下するという問題があった。
【0006】
転写用の基材と配向膜との密着性を上げる手段として、配向膜中に密着性を上げる材料を添加する手段が考えられる。しかし、配向膜中に密着性を上げる材料を添加した場合、配向膜の位相差層を配向させる性能が低下したり、密着力が過度に上昇して転写用の基材から転写層(配向膜及び位相差層)が剥離しにくくなったりする問題があった。
【0007】
本発明は、製造過程において転写層が剥がれず、かつ、転写時に転写層が剥離しにくくならない程度に基材と転写層とが密着してなる特性(以下、該特性のことを「転写性が良好」などと称する場合がある。)を備え、さらには、位相差層の配向性の低下を抑制し得る、光学用の転写シートを提供することを課題とする。また、本発明は、歩留まりが良好な位相差板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]を提供する。
[1]基材上に配向膜及び位相差層をこの順に有してなり、前記配向膜が下記(1)又は(2)を含む、光学用転写シート。
(1)チオール系化合物
(2)芳香環又は下記式(a)に示す単位を分子中に含む単官能(メタ)アクリル系化合物
【化1】

[2]前記配向膜が、さらに、多官能(メタ)アクリレート系化合物の硬化物を含む、[1]に記載の光学用転写シート。
[3]前記配向膜が前記(1)を含み、前記(1)の含有量が、前記配向膜の全固形分の10~35質量%である、[1]又は[2]に記載の光学用転写シート。
[4]前記配向膜が前記(2)を含み、前記(2)の含有量が、前記配向膜の全固形分の20~50質量%である、[1]又は[2]に記載の光学用転写シート。
[5]前記位相差層がポジティブC層である、[1]~[4]の何れかに記載の光学用転写シート。
[6]前記基材が延伸プラスチックフィルムである、[1]~[5]の何れかに記載の光学用転写シート。
[7]下記(A1)~(A2)の工程を有する、位相差板の製造方法。
(A1)請求項1~6の何れか1項に記載の光学用転写シートの位相差層側の面と、被着体とを、接着剤層を介して積層してなる積層体Aを得る工程。
(A2)積層体Aから基材を剥離し、被着体、接着剤層、位相差層及び配向膜をこの順に有する位相差板を得る工程。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光学用転写シートは、転写性が良好であり、位相差層の配向性の低下を抑制することができる。また、本発明の位相差板の製造方法は、歩留まりを良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の光学用転写シートの一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。
[光学用転写シート]
本発明の光学用転写シートは、基材上に配向膜及び位相差層をこの順に有してなり、前記配向膜が下記(1)又は(2)を含むものである。
(1)チオール系化合物
(2)芳香環又は下記式(a)に示す単位を分子中に含む単官能(メタ)アクリル系化合物
【化2】
【0012】
本明細書において、「(メタ)アクリル系化合物」とは、メタクリロイル基(HC=C(CH)-C(=O)-)又はアクリロイル基(HC=CH-C(=O)-)を含む化合物を意味し、「単官能(メタ)アクリル系化合物」とは、メタクリロイル基又はアクリロイル基を1つ含む化合物を意味する。また、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、メタクリレート又はアクリレートを意味する。
【0013】
図1は、本発明の光学用転写シート100の実施の形態を示す模式断面図である。図1の光学用転写シート100は、基材10上に、配向膜21及び位相差層22をこの順に有している。図1の光学用転写シート100において、配向膜21及び位相差層22は、基材10から剥離可能な転写層20である。
【0014】
<基材>
基材は転写時の作業性の観点からプラスチックフィルムが好ましい。
プラスチックフィルムを構成するポリマーとしては、セルロースアシレート、ポリカーボネート系ポリマー、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体の如きポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー及びエポキシ系ポリマー等が挙げられる。
【0015】
また、基材は延伸プラスチックフィルムであることが好ましい。延伸プラスチックフィルムは、その機械的強度の高さから、転写層の形成及び剥離等の一連の工程において優れた耐久性を示す一方、配向膜との密着性が弱い傾向があるという弱点を備える。しかし、本発明の光学用転写シートは配向膜が特定の構成であるため、延伸プラスチックフィルムの弱点を補うことができる。このため、基材を延伸プラスチックフィルムとすることにより、一連の工程における耐久性を良好にして歩留まりを良好にしつつ、転写性も良好にすることができる点で好適である。
延伸プラスチックフィルムの中でも、物理的強度、作業適性及びコスト等に優れる二軸延伸ポリエステルフィルムが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムがより好ましい。
【0016】
基材は易接着処理がなされていないものが好ましい。易接着処理された基材は、配向膜と過度に密着して転写層を剥離しにくくする傾向があり、また、位相差層の配向性を低下する傾向がある。
【0017】
基材の厚みは、通常25~150μm程度であり、好ましくは30~125μm、より好ましくは40~100μmである。
【0018】
<配向膜>
配向膜は下記(1)又は(2)を含むことを要する。
(1)チオール系化合物
(2)芳香環又は下記式(a)に示す単位を分子中に含む単官能(メタ)アクリル系化合物
【化3】
【0019】
上記(1)及び(2)の中では、密着性を向上しやすい(1)のチオール系化合物が好ましい。
【0020】
<<チオール系化合物>>
チオール化合物は、R-SHで表される単位(Rは有機基)を一つ以上有する化合物である。本明細書において、R-SHで表される単位を一つ有する化合物を単官能チオール化合物、該単位を二つ以上有する化合物を多官能チオール化合物と称する。
【0021】
チオール化合物は、配向膜に柔軟性を付与し、一連の工程時の基材の変形に対する追従性に優れることから、基材と配向膜との密着性を向上し得ると考えられる。
チオール化合物は、単官能チオール化合物でもよいが、配向膜の強度を良好にする観点から、多官能チオール化合物が好ましい。また、多官能チオール化合物の中でも、3官能チオール化合物又は4官能チオール化合物がより好ましい。
また、上記の効果を発揮しやすくする観点から、配向膜中に含まれる(1)は、チオール系化合物の反応物の形態であることが好ましい。
チオール化合物は、ラジカル重合開始剤の存在下で、ラジカル重合性官能基を有する化合物と下記式(b)の反応(チオール-エン反応)を起こす。チオール-エン反応は重合収縮を抑制できるため、配向膜の歪みを抑制しやすくでき、その結果、基材と配向膜との密着性をより向上しやすくでき、さらには、光学特性を均一化しやすい点で好ましい。
なお、下記の反応は単官能チオール化合物と、一つのラジカル重合性官能基を有する化合物との反応例である。多官能チオール化合物と、二以上のラジカル重合性官能基を有する化合物との反応物はデンドリマー構造を形成しやすいと考えられる。そして、デンドリマー構造を形成した場合、配向膜に柔軟性を付与しやすくなると考えられる。ラジカル重合性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和結合含有基が挙げられる。
【0022】
【化4】

[式中、R及びRは有機基である。]
【0023】
多官能チオール化合物としては、例えば、下記の構造式(1)~(17)で示すものが挙げられる。
【0024】
―多官能チオール化合物の具体例―
【化5】
【0025】
【化6】
【0026】
【化7】
【0027】
配向膜が「(1)チオール系化合物」を含む場合、該チオール系化合物の含有量は、配向膜の全固形分の10~35質量%であることが好ましく、15~30質量%であることがより好ましく、20~25質量%であることがさらに好ましい。該含有量を10質量%以上とすることにより、基材と配向膜との密着性を適度に高めることができる。また、該含有量を35質量%以下とすることにより、配向膜の配向性が低下することを抑制しやすくできるとともに、基材と配向膜との密着性が過度に高まることを抑制できる。
なお、配向膜中において、チオール系化合物が反応物の形態で含まれる場合、チオール系化合物の含有量は、チオール系化合物に由来する単位のみをカウントするものとする。例えば、上記に例示する反応式によって得られたチオール系化合物の反応物の場合、ラジカル重合性官能基を有する化合物に由来する単位を除外してチオール系化合物の含有量をカウントするものとする。
【0028】
<<単官能(メタ)アクリル系化合物>>
芳香環又は上記式(a)に示す単位を分子中に含む単官能(メタ)アクリル系化合物は、芳香環のπ電子の作用又は-CON-単位の分極による作用によって分子間力が向上し、基材と配向膜との密着性を向上し得ると考えられる。また、上記(2)の化合物は単官能化合物であり、配向膜中に歪みを生じさせにくいため、前述した分子間力による密着向上の作用を生じさせやすいと考えられる。
【0029】
芳香環は、Huckel則に従う芳香族性を示す環状構造を意味し、ベンゼン環及びナフタレン環等のベンゼン系芳香環、ピリジン環及びピロール環等の複素系芳香環、及びシクロデカペンタエン環等のアヌレン系芳香環等が挙げられる。これらの中でもベンゼン系芳香環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。
また、芳香環は単官能(メタ)アクリレート系化合物の分子末端に位置することが好ましい。
【0030】
芳香環を分子中に含む単官能(メタ)アクリル系化合物としては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
上記式(a)に示す単位を分子中に含む単官能(メタ)アクリル系化合物は、下記式(a-1)又は(a-2)に示す単位を含むことが好ましい。すなわち、上記式(a)に示す単位を分子中に含む単官能(メタ)アクリル系化合物は、式(a)の一部が、メタクリロイル基又はアクリロイル基を兼ねていることが好ましい。
【化8】
【0032】
上記式(a)に示す単位を分子中に含む単官能(メタ)アクリル系化合物としては、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-アクリロイルモルホリン、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0033】
配向膜が「(2)芳香環又は上記式(a)に示す単位を分子中に含む単官能(メタ)アクリル系化合物」を含む場合、該単官能(メタ)アクリル系化合物の含有量は、配向膜の全固形分の20~50質量%であることが好ましく、25~45質量%であることがより好ましく、30~40質量%であることがさらに好ましい。該含有量を20質量%以上とすることにより、基材と配向膜との密着性を適度に高めることができる。また、該含有量を50質量%以下とすることにより、配向膜の配向性が低下することを抑制しやすくできるとともに、基材と配向膜との密着性が過度に高まることを抑制できる。
なお、配向膜中において、単官能(メタ)アクリル系化合物が反応物の形態で含まれる場合、単官能(メタ)アクリル系化合物の含有量は、単官能(メタ)アクリル系化合物に由来する単位のみをカウントするものとする。例えば、配向膜中に、単官能(メタ)アクリル系化合物と多官能(メタ)アクリレート系化合物との反応物を含む場合、多官能(メタ)アクリレート系化合物に由来する単位を除外して単官能(メタ)アクリル系化合物の含有量をカウントするものとする。なお、本明細書において、多官能(メタ)アクリレート系化合物とは、(メタ)アクリレート単位を2つ以上有する化合物のことをいう。
【0034】
<<配向剤>>
配向膜は、上記(1)及び(2)の他に配向剤を含むことが好ましい。配向剤は位相差層の種類に応じて、汎用の材料を選択して用いることができる。
【0035】
配向剤としては、硬化性樹脂組成物の硬化物を含むことが好ましい。配向剤として硬化性樹脂組成物の硬化物を含むこと(言い換えると、配向膜が硬化性組成物の硬化物を含むこと)により、配向膜の耐擦傷性を良好にすることができる。なお、基材と硬化性樹脂組成物の硬化物との密着性は良くない傾向にあるが、本発明では配向膜に上記(1)又は(2)を含むため、配向膜が硬化性樹脂組成物の硬化物を含んでいても、基材と配向膜との密着性を良好にしやすくできる。
配向剤は、配向膜形成用インキの塗布適性を良好にする観点から、硬化性樹脂組成物の硬化物に加えてレベリング剤を含むことがより好ましい。
配向剤としての硬化性樹脂組成物の硬化物を含む配向膜(好ましくは、配向剤としての硬化性樹脂組成物の硬化物及びレベリング剤を含む配向膜)は、位相差層がポジティブC層である場合に特に好適である。
【0036】
配向膜に含まれる上記(1)及び(2)以外の固形分をその他の固形分と定義した際に、その他の固形分100質量%に対して、配向剤の含有量は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることがよりさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
配向剤として、硬化性樹脂組成物の硬化物及びレベリング剤を含む場合、硬化性樹脂組成物の硬化物100質量%に対するレベリング剤の含有量は、0.01~1質量%であることが好ましく、0.02~0.7質量%であることがより好ましく、0.03~0.5質量%であることがさらに好ましい。
【0037】
-硬化性樹脂組成物-
硬化性樹脂組成物としては、熱硬化性樹脂組成物及び電離放射線硬化性樹脂組成物が挙げられ、耐擦傷性の観点から電離放射線硬化性樹脂組成物が好ましい。
【0038】
熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも熱硬化性樹脂を含む組成物であり、加熱により、硬化する樹脂組成物である。
熱硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂組成物には、これら硬化性樹脂に、必要に応じて硬化剤が添加される。
【0039】
電離放射線硬化性樹脂組成物は、電離放射線硬化性官能基を有する化合物(以下、「電離放射線硬化性化合物」ともいう)を含む組成物である。電離放射線硬化性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和結合基、及びエポキシ基、オキセタニル基等が挙げられる。
電離放射線硬化性化合物としては、エチレン性不飽和結合基を有する化合物が好ましく、エチレン性不飽和結合基を2つ以上有する化合物がより好ましく、中でも、(メタ)アクリレート単位を2つ以上有する、多官能(メタ)アクリレート系化合物が更に好ましい。すなわち、配向膜は、多官能(メタ)アクリレート系化合物の硬化物を含むことが好ましい。
多官能(メタ)アクリレート系化合物としては、モノマー及びオリゴマーのいずれも用いることができる。
なお、電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常、紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線などの電磁波、α線、イオン線などの荷電粒子線も使用可能である。
【0040】
多官能(メタ)アクリレート系化合物のうち、2官能(メタ)アクリレート系モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAテトラエトキシジアクリレート、ビスフェノールAテトラプロポキシジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート等が挙げられる。
3官能以上の(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸変性トリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、上記(メタ)アクリレート系モノマーは、分子骨格の一部を変性しているものでもよく、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、カプロラクトン、イソシアヌル酸、アルキル、環状アルキル、芳香族、ビスフェノール等による変性がなされたものも使用することができる。
【0041】
また、多官能(メタ)アクリレート系オリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等のアクリレート系重合体等が挙げられる。
ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、多価アルコール及び有機ジイソシアネートとヒドロキシ(メタ)アクリレートとの反応によって得られる。
また、好ましいエポキシ(メタ)アクリレートは、3官能以上の芳香族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られる(メタ)アクリレート、2官能以上の芳香族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等と多塩基酸と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られる(メタ)アクリレート、及び2官能以上の芳香族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等とフェノール類と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られる(メタ)アクリレートである。
【0042】
-レベリング剤-
レベリング剤は、基材に対して配向膜形成用インキの塗布適性を良好にする役割を有する。また、位相差層の中でもポジティブC層等のように分子が垂直配向する位相差層は、配向膜の表面エネルギーが低い方が位相差層の配向性を良好にしやすい。このため、配向膜がレベリング剤を含むことにより、ポジティブC層等のように分子が垂直配向する位相差層の配向性を良好にしやすい点で好ましい。
【0043】
レベリング剤は、シリコーン系レベリング剤及びフッ素系レベリング剤等が挙げられ、表面エネルギーを低下しやすいフッ素系レベリング剤が好ましい。
【0044】
配向膜は、例えば、基材上に、配向層形成用インキを塗布、乾燥し、電離放射線照射することにより形成することができる。
配向膜の厚みは、好ましくは100nm~5μmであり、より好ましくは500nm~4μm、さらに好ましくは1.5μm~3.0μmである。
【0045】
<位相差層>
位相差層は、ポジティブA層及びポジティブC層等が挙げられる。
本明細書において、「ポジティブA層」とは、面内における遅相軸方向の屈折率をNx、面内において遅相軸方向と直交する方向の屈折率をNy、厚さ方向の屈折率をNzとしたとき、Nx>Ny≒Nzの関係であるものである。
ポジティブA層は、面内位相差(Re)が、λ/4位相差層又はλ/2位相差層の特性を示すことが好ましい。λ/4位相差層の面内位相差は、好ましくは100~180nm、より好ましくは110~160nm、更に好ましくは110~150nmである。λ/2位相差層の面内位相差は、好ましくは200~300nm、より好ましくは220~280nm、更に好ましくは220~270nmである。
【0046】
また、本明細書において、「ポジティブC層」とは、面内における遅相軸方向の屈折率をNx、面内において遅相軸方向と直交する方向の屈折率をNy、厚さ方向の屈折率をNzとしたとき、Nz>Nx≒Nyの関係であるものである。すなわち、ポジティブC層は面内の屈折率がどの方向でも略同一であり、厚さ方向の屈折率(Nz)が最も大きい特性を示すものである。
ポジティブC層は、面内位相差(Re)が小さいことが好ましく、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下、更に好ましくは5nm以下、より更に好ましくは1nm以下である。
また、ポジティブC層は、厚さ方向の位相差(Rth)が、好ましくは30~150nm、より好ましくは50~100nmである。
【0047】
面内位相差(Re)及び厚さ方向の位相差(Rth)は、Nx、Ny、Nz及び位相差層の厚みd(nm)から、下記式により算出できる。なお、本明細書において、面内位相差(Re)及び厚さ方向の位相差(Rth)は、特に断りのない限り、波長550nmの位相差をいうものとする。
面内位相差(Re)=(Nx-Ny)×d
厚さ方向の位相差(Rth)=((Nx+Ny)/2-Nz)×d
【0048】
位相差層は、正分散性を示すものでもよいし、逆分散性を示すものでもよい。正分散性とは、短波長側ほど透過光における位相差が大きい波長分散特性であり、逆分散性とは、短波長側ほど透過光における位相差が小さい波長分散特性である。
ポジティブA層の場合、波長450nmの面内リタデーション(Re450)と、波長550nmの面内リタデーション(Re550)との関係が、Re450<Re550を示すものが逆分散性である。ポジティブC層の場合、波長450nmの厚さ方向のリタデーション(Rth450)と、波長550nmの厚さ方向のリタデーション(Rth550)との関係が、Rth450<Rth550を示すものが逆分散性である。
【0049】
<<液晶化合物>>
位相層は、位相差層の形成に用いられる汎用の材料(例えば液晶化合物)から形成することができる。
位相差層がポジティブC層の場合、例えば、垂直(ホメオトロピック)配向する液晶化合物を用いればよい。また、該液晶化合物は、スメクチック相またはネマチック相を示すことが好ましく、スメクチック相を示すことがより好ましい。スメクチック相であると液晶分子の重心位置が揃った高秩序のレイヤー構造を取るため、ポジティブC層がホメオトロピック配向を取りやすくすることができる。
【0050】
ポジティブC層等の位相差層を形成する液晶化合物は、分子内に重合性官能基を有する重合性液晶化合物を含むことが好ましい。重合性官能基を有することにより、液晶化合物を重合して固定することが可能になるため、配列安定性に優れ、位相差性の経時変化が生じにくくなる。また、重合性液晶化合物は、分子内に重合性官能基を2つ以上有することがより好ましい。重合性官能基を2つ以上有することにより、液晶化合物の三次元的な配向を、より安定させることができる。
重合性官能基としては、例えば、紫外線、電子線等の電離放射線、あるいは熱の作用によって重合するものを挙げることができる。これら重合性官能基としては、ラジカル重合性官能基が挙げられる。ラジカル重合性官能基の代表例としては、少なくとも1つの付加重合可能なエチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が挙げられ、具体例として、置換基を有する若しくは有さないビニル基、アクリレート基(アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基を包含する総称)等が挙げられる。
また、重合性官能基として、一般的に知られているカチオン重合性官能基を使用してもよく、具体的には、脂環式エーテル基(エポキシ基、オキセタニル基等)、環状アセタール基、環状ラクトン基、環状イミノエーテル基、環状チオエーテル基、スピロオルソエステル基、ビニルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、脂環式エーテル基、ビニルオキシ基が好ましく、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルオキシ基がより好ましい。
【0051】
また、液晶化合物は、末端に重合性官能基を有するものが特に好ましい。このような液晶化合物を用いることにより、例えば、液晶化合物の末端同士が互いに重合して、三次元的に配向した状態にすることができるため、安定性を備え、かつ、光学特性の発現性に優れた位相差層とすることができる。液晶化合物は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0052】
位相差層の形成には棒状液晶化合物を使用してもよい。特に、ポジティブC層の液晶化合物としては棒状液晶化合物が好ましい。
【0053】
棒状液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく例示される。以上のような低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。棒状液晶化合物の配向を重合によって固定することがより好ましい。液晶化合物には活性光線や電子線、熱などによって重合や架橋反応を起こしうる部分構造を有することが好ましく、より好ましくは重合性基を有する。
その部分構造の個数は、好ましくは1~6個、より好ましくは1~3個である。重合性棒状液晶化合物としては、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials,5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開WO95/22586号公報、同95/24455号公報、同97/00600号公報、同98/23580号公報、同98/52905号公報、特開平1-272551号公報、同6-16616号公報、同7-110469号公報、同11-80081号公報、及び特開2001-328973号公報などに記載の化合物を用いることができる。
棒状液晶化合物の具体例としては、下記式(1)~(19)に示す化合物が挙げられる。
【0054】
―棒状液晶化合物の具体例―
【化9】
【0055】
【化10】
【0056】
【化11】
【0057】
また、逆分散性を示す液晶化合物としては、特表2010-537954号公報、特表2010-537955号公報、特表2010-522892号公報、特表2010-522893号公報、及び特表2013-509458号公報等の各公開公報、並びに、特許第5892158号、特許第5979136号、特許第5994777号、及び特許第6015655号等の各特許公報に記載されている化合物が例示される。
【0058】
液晶化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。1種単独の場合、該1種の液晶化合物は重合性液晶化合物であることが好ましい。また、2種以上を組み合わせて用いる場合、少なくとも1種が重合性液晶化合物であることが好ましく、全てが重合性液晶化合物であることがより好ましい。
【0059】
位相差層は、位相差層を構成する成分及び溶剤を含む位相差層形成用インキを配向膜上に塗布、乾燥、硬化等することにより形成することができる。
位相差層形成用インキ中における液晶化合物の含有量としては、特に限定されないが、該インキ中に5質量%以上40質量%以下の割合で含まれていることが好ましく、10質量%以上30質量%以下の割合で含まれていることがより好ましい。液晶化合物の量が5質量%未満であると、作製時に多量に付与する必要があり、製造し難いとともに、多量の溶剤除去が必要となるため、溶剤残存に起因する信頼性の悪化が生じやすい。一方で、40質量%を超えると、その重合性液晶組成物の粘度が高くなりすぎるために、層の作製の作業性が悪くなる。
また、位相差層形成用インキの固形分質量(溶剤を除いた質量)に対する液晶化合物の含有量は、好ましくは75~99.9質量%、より好ましくは80~99質量%、更に好ましくは85~98質量%である。
【0060】
位相差層形成用インキ中には、重合開始剤、レベリング剤及び配向促進剤等を含んでいてもよい。
【0061】
<<重合開始剤>>
配向させた液晶化合物は、重合反応により配向状態を維持して固定することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。これらの中でも、光重合反応が好ましい。光重合開始剤の例には、α-カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書参照)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書参照)、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書参照)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書参照)、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書参照)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60-105667号公報、米国特許第4239850号明細書参照)及びオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書参照が含まれる。
【0062】
重合開始剤の使用量は、位相差層の全固形分に対して0.01~20質量%であることが好ましく、0.5~5質量%であることがより好ましい。
【0063】
<<レベリング剤>>
レベリング剤としては、フッ素系レベリング剤及びシリコーン系レベリング剤が挙げられる。レベリング剤の含有量は、位相差層の全固形分に対して0.01~2.0質量%であることが好ましく、0.1~1.0質量%であることがより好ましい。
【0064】
<<配向促進剤>>
位相差層は、液晶化合物の分子が均一に配向しやすくする観点から配向促進剤を含むことが好ましい。
特に、位相差層がポジティブC層の場合、液晶化合物の分子を均一に垂直配向しやすくする観点から、垂直配向促進剤を含むことが好ましい。垂直配向促進剤としては、ボロン酸化合物および/またはオニウム塩が挙げられる。垂直配向剤は、ポジティブC層の全固形分に対して0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%がより好ましい。
【0065】
位相差層の厚みは、付与する位相差を考慮して適宜調整することができ、通常は0.1~10μm程度である。
【0066】
<その他の層>
光学用転写シートは、上述した基材、配向膜及び位相差層以外の層(その他の層)を有していてもよい。
その他の層としては、帯電防止層、表面保護層、その他の位相差層等が挙げられる。帯電防止層は、基材の配向膜とは反対側に形成することが好ましい。表面保護層、その他の位相差層は、位相差層の配向膜とは反対側に形成することが好ましい。
【0067】
<用途>
本発明の光学用転写シートは、被着体に転写し、液晶表示装置、有機EL表示装置の表示装置用の光学部材として用いることができる。被着体は、表示装置に組み込まれる部材が挙げられ、具体的には、表示素子のガラス基板、偏光板、その他の位相差板、表示装置の表面板等が挙げられる。
【0068】
[位相差板の製造方法]
本発明の位相差板の製造方法は、下記(A1)~(A2)の工程を有するものである。
(A1)上述した本発明の光学用転写シートの位相差層側の面と、被着体とを、接着剤層を介して積層してなる積層体Aを得る工程。
(A2)積層体Aから基材を剥離し、被着体、接着剤層、位相差層及び配向膜をこの順に有する位相差板を得る工程。
【0069】
光学用転写シートがその他の層を有していない場合、工程(A1)で得られる積層体Aは、被着体、接着剤層、位相差層、配向膜及び基材をこの順に有するものとなる。光学用転写シートが、位相差層の配向膜とは反対側にその他の層を有した場合には、工程(A1)で得られる積層体Aは、被着体、接着剤層、その他の層、位相差層、配向膜及び基材をこの順に有するものとなる。
【0070】
工程(A1)で用いる接着剤層は、被着体と光学用転写シートとを強固に接着するものであれば特に制限されず、感圧接着剤層(粘着剤層)であってもよいし、硬化型の接着剤層であってもよい。
【0071】
被着体は、表示装置に組み込まれる部材が挙げられ、具体的には、表示素子のガラス基板、偏光板、その他の位相差板、表示装置の表面板等が挙げられる。
【0072】
工程(A2)の基材の剥離手段は特に限定されない。なお、工程(A2)において、基材を剥離する際の剥離帯電を抑制する観点から、基材の配向膜とは反対側に帯電防止層を有することが好ましい。
【実施例
【0073】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0074】
1.測定、評価
実施例及び比較例で得られた光学用転写シートについて以下の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。また、各測定及び評価時の雰囲気は、温度は23℃±5℃、湿度40~65%とした。また、各測定及び評価の開始前に、光学用転写シートを前記雰囲気に30分以上晒してから測定及び評価を行った。
【0075】
1-1.剥離強度
光学粘着剤層の両面に剥離フィルムが積層されてなる、リンテック社製の光学粘着シートの一方の剥離フィルムを剥離し、ソーダガラス板に貼り合わせた。次いで、前記光学粘着シートの他方の剥離フィルムを剥離し、光学粘着剤層を露出させた。次いで、実施例及び比較例で得られた光学用転写シートの位相差層側の面を、露出した光学粘着剤層に貼り合わせてなる積層体Aを得た。
積層体Aを剥離強度の試験用のサンプルとして、JIS Z0237:2009の180度はく離試験に準拠して、基材と配向膜との界面の剥離強度を測定した。具体的には、積層体Aのソーダガラス板及び2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムをつかみ具で固定し、ソーダガラス板側のつかみ具を固定し、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム側のつかみ具を鉛直方向に30mm/minの速度で引っ張り、引張応力の最大値を各サンプルの剥離強度とした。また、10回の測定値の平均値を各実施例及び比較例の剥離強度とした。測定装置は、テンシロン万能試験機(品番:RTG-1210、エー・アンド・ディー社製)を用いた。
剥離強度が0.175N/50mm以上、かつ、0.300N/50mm以下であれば、製造過程において転写層(配向膜及び位相差層)が剥がれず、かつ、転写時に転写層が剥離しにくくならない程度に基材と転写層とが密着し、転写性が合格レベルであるといえる。なお、剥離強度は0.200N/50mm以上、かつ、0.290N/50mm以下であることが好ましく、0.230N/50mm以上、かつ、0.280N/50mm以下であることがより好ましい。
【0076】
1-2.配向性
1-1で作製した積層体Aから2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離し、ソーダガラス板、光学粘着剤層、位相差層及び配向膜をこの順に有する、配向性の評価用サンプルを得た。
次いで、20000cd/mの輝度のバックライト上に、2枚の偏光板をクロスニコルに配置し、さらに、前記2枚の偏光板の間に前記評価用サンプルを配置した。この状態で前記評価用サンプルを回転させ、黒さの変化を目視で観察した。その結果、黒さに顕著な変化が観察されないものを「A」、黒さに顕著な変化が観察されたものを「C」とした。
【0077】
2.光学用転写シートの作製
[実施例1]
厚み38μmの易接着処理がされていない2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製、商品名:コスモシャインA4100)上に、下記処方の配向膜形成用インキ1を塗布、乾燥し、紫外線照射により硬化して、厚み2μmの配向膜を形成した。
次いで、配向膜上に、下記処方の位相差層形成用インキ1を塗布、乾燥し、紫外線照射により硬化して、厚み1μmの位相差層(ポジティブC層)を形成し、実施例1の光学用転写シートを得た。
【0078】
<配向膜形成用インキ1>
・多官能(メタ)アクリレート系化合物の混合物 75質量部
(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:トリメチロールプロパントリアクリレート:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート=30:30:25:15)
・4官能チオール化合物 25質量部
(ペンタエリスリトールの3-メルカプトブタン酸エステル)
(CAS番号:31775-89-0)
・開始剤 5質量部
(IGM Resins B.V.社、商品名:Irgacure907)
・フッ素系レベリング剤 0.1質量部
(ネオス社製、商品名:フタージェント602A)
・MEK:MIBK=4:1の混合溶剤 適量
【0079】
<位相差層形成用インキ1>
・棒状液晶化合物の混合物 100質量部
(上記式(1)に示す棒状液晶化合物:上記式(18)に示す棒状液晶化合物:上記式(19)に示す棒状液晶化合物=30:25:40)
・開始剤 5質量部
(IGM Resins B.V.社、商品名:Omnirad 907)
・フッ素系レベリング剤 0.3質量部
(DIC社製、商品名:メガファックF554)
・MEK:シクロヘキサノン=6:4の混合溶剤 適量
【0080】
[実施例2]
配向膜形成用インキ1を下記の配向膜形成用インキ2に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の光学用転写シートを得た。
【0081】
・多官能(メタ)アクリレート系化合物の混合物 65質量部
(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:トリメチロールプロパントリアクリレート:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート=30:30:25:15)
・式(a)に示す単位を分子中に含む単官能(メタ)アクリル系化合物 35質量部
(ジエチルアクリルアミド)
・開始剤 5質量部
(IGM Resins B.V.社、商品名:Omnirad 907)
・フッ素系レベリング剤 0.1質量部
(ネオス社製、商品名:フタージェント602A)
・MEK:MIBK=4:1の混合溶剤 適量
【0082】
[実施例3]
配向膜形成用インキ1を下記の配向膜形成用インキ3に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の光学用転写シートを得た。
【0083】
<配向膜形成用インキ3>
・多官能(メタ)アクリレート系化合物の混合物 65質量部
(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:トリメチロールプロパントリアクリレート:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート=30:30:25:15)
・芳香環を分子中に含む単官能(メタ)アクリル系化合物 35質量部
(ベンジルメタクリレート)
・開始剤 5質量部
(IGM Resins B.V.社、商品名:Omnirad 907)
・フッ素系レベリング剤 0.1質量部
(ネオス社製、商品名:フタージェント602A)
・MEK:MIBK=4:1の混合溶剤 適量
【0084】
[比較例1]
配向膜形成用インキ1に代えて、配向膜形成用インキ1から4官能チオール化合物を除いてなる配向膜形成用インキ4を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1の光学用転写シートを得た。
【0085】
【表1】
【0086】
表1の結果から明らかなように、配向膜が「(1)チオール系化合物」又は「(2)芳香環又は上記式(a)に示す単位を分子中に含む単官能(メタ)アクリル系化合物」を含む実施例1~3の光学用転写シートは、適切な剥離強度を有して転写性が良好であり、位相差層の配向性の低下を抑制できることが確認できる。
【符号の説明】
【0087】
10:基材
20:転写層
21:配向膜
22:位相差層
100:光学用転写シート
図1