(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 15/00 20060101AFI20231212BHJP
B60C 13/02 20060101ALI20231212BHJP
B60C 13/00 20060101ALI20231212BHJP
B60C 15/06 20060101ALI20231212BHJP
B60C 17/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B60C15/00 M
B60C13/02
B60C13/00 D
B60C15/06 C
B60C15/06 B
B60C17/00 B
(21)【出願番号】P 2019128226
(22)【出願日】2019-07-10
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2018132269
(32)【優先日】2018-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 恵二
(72)【発明者】
【氏名】児玉 健司
(72)【発明者】
【氏名】宇治川 数馬
(72)【発明者】
【氏名】上山 聖高
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-247007(JP,A)
【文献】特開2010-083318(JP,A)
【文献】特開2006-137247(JP,A)
【文献】特開平11-157310(JP,A)
【文献】特開2017-136966(JP,A)
【文献】特開2008-279998(JP,A)
【文献】特開平11-310015(JP,A)
【文献】特開2015-174526(JP,A)
【文献】特開2017-071359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に延びるコアを有する一対のビードと、一方のビードと他方とのビードの間を架け渡すカーカスと、軸方向において前記カーカスの内側に位置する
一対のサイド補強層と、を備えるタイヤであって、
前記タイヤの外面が、路面と接触するトレッド面と、前記タイヤが組み込まれるリムのシートと接触するシート接触面と、前記トレッド面と前記シート接触面との間を架け渡すサイド面とを備え、
前記サイド面が、前記タイヤを前記リムに組み込むことにより当該リムのフランジに接触するフランジ接触面と、当該フランジ接触面の径方向外側に位置し、当該フランジと対向するフランジ対向面とを備え、
前記フランジ対向面が、軸方向外向きに拡径状となる面で構成され、
前記タイヤが、前記リムに組み込まれた状態において、径方向において当該リムの外側に位置し、軸方向において外向きに突出するリムガードを備え、
前記タイヤの回転軸を含む平面に沿った、当該タイヤの断面において、
前記リムガードがその頂部から内向きに裾野が拡がる形状を有し、
前記リムガードの外面が、前記頂部から径方向内側に広がる前記ビード側の面を有し、
前記リムガードの前記頂部から径方向内側に広がる前記ビード側の面が、前記フランジ対向面であり、
前記タイヤの断面において、前記フランジ対向面の形状が円弧で表され、
前記リムガードの頂部が前記フランジ対向面の外端であり、前記フランジ対向面の外端が、前記フランジ対向面の形状を表す円弧の一方の端であり、前記円弧の他方の端が前記フランジ対向面の内端であり、
前記円弧の半径が11.0mm以上20.0mm以下であ
り、
ビードベースラインから前記フランジの径方向外端までの径方向距離の90%の距離に相当するフランジ上の位置を通る、前記フランジ対向面の法線に沿って計測される、前記フランジ対向面と前記フランジとの間隔が、2.6mm以上6.0mm以下である、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記円弧の半径が、12.0mm以上18.0mm以下である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
ビードベースラインから前記フランジ対向面の内端までの径方向距離が、11.0mm以上20.0mm以下である、
請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
ビードベースラインから前記フランジ対向面の内端までの径方向距離が、12.0mm以上18.0mm以下である、
請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記トレッド面を有するトレッドと、前記カーカスの軸方向外側において、前記トレッドの端から前記カーカスに沿って径方向内向きに延びる一対のサイドウォールと、前記サイドウォールの径方向内側に位置する一対のクリンチと、を備え、
前記クリンチが、前記タイヤが前記リムに組み込まれた状態において、前記フランジと前記カーカスとの間に位置する内側クリンチと、前記内側クリンチの径方向外側に位置する外側クリンチとを備え、
前記内側クリンチの複素弾性率に対する前記外側クリンチの複素弾性率の比が0.5以上0.9以下であり、
ビードベースラインから前記内側クリンチの径方向外端までの径方向距離が12.0mm以上15.0mm以下である、請求項1から
4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記タイヤの断面において、前記内側クリンチと前記外側クリンチとの境界が軸方向に延びる、又は前記境界の内端が径方向においてその外端よりも内側に位置するように、当該境界が軸方向に対して傾斜し、
前記境界が軸方向に対してなす角度が30°以下である、
請求項5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記ビードが、前記コアの径方向外側に位置するエイペックスを備え、
前記タイヤの断面において、前記エイペックスの前記コアとの接触面の幅が7.0mm以上9.0mm以下であり、
ビードベースラインから径方向外側に17.5mm離れた位置における前記エイペックスの幅が4.5mm以上6.0mm以下である、請求項1から
6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記カーカスが、第一カーカスプライと、当該第一カーカスプライの外側に位置する第二カーカスプライとを備え、
前記第一カーカスプライ及び前記第二カーカスプライのそれぞれが、前記コアの周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返され、
径方向において、前記第二カーカスプライの端が前記第一カーカスプライの端よりも内側に位置し、
ビードベースラインから前記第一カーカスプライの端までの径方向距離が断面高さの40%以上80%以下である、請求項1から
7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。詳細には、本発明は、サイド補強タイプのランフラットタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ランフラットタイヤとしての空気入りタイヤは、サイドウォールの内側にサイド補強層を備える。サイド補強層は架橋ゴムからなる。パンクによって内圧が低下した状態、すなわちパンク状態において、このサイド補強層は荷重を支持する。
【0003】
路面にあるポットホール等の段差をタイヤが通過する際、タイヤには大きな衝撃力が加えられる。タイヤは路面とリムのフランジとに挟まれ、タイヤのサイドウォールからクリンチに至る部分が大きく変形する。カーカスに含まれるコードに大きな張力が作用し、張力の程度によってはコードが切断することがある。このようなコードの切断を伴う損傷は、ピンチカットと称される。
【0004】
図5は、タイヤ2が路面DとリムRのフランジFとに挟まれた際のタイヤ2の変形状態を示す。この
図5に示されるように、サイド補強層4の部分とビード6の部分とでカーカス8は湾曲する。サイド補強層4の部分ではカーカス8は外向きに凸な形状を有し、ビード6の部分ではカーカス8は内向きに凸な形状を有する。
【0005】
有限要素法(Finite Element Method;FEM)を用いた解析により、ランフラットタイヤの場合、ビード6の内側面10に沿って延びるカーカス8(詳細には、カーカス8に含まれるコード)に、大きな張力が作用することが確認されている。つまり、ランフラットタイヤの場合、ビード6の内側面10に沿って延びるカーカス8において、ピンチカットが発生することが懸念される。
【0006】
ランフラットタイヤにおけるピンチカットの発生を防止するために、エイペックスの部分の剛性をコントロールして、コードに作用する張力を低減させることが検討されている(例えば、特許文献1)。
【0007】
特許文献1では、ピンチカットの発生を防止するために、エイペックスの軸方向内側において、サイド補強層とカーカスとの間にフィラーを設け、コードに作用する張力の緩和が試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ピンチカットの発生を防止するために、前述の特許文献1のようにフィラーを追加すること以外に、高いモジュラスを有するコードの採用、カーカスを構成するカーカスプライの枚数増加、ゴム部材の厚肉化等の手法が検討されている。
【0010】
しかしいずれの手法も剛性を向上させるため、乗り心地が低下する恐れがある。質量が増加し、転がり抵抗が増大する恐れもある。しかも剛性向上によるアプローチでは、期待したほどの効果は得られていない。
【0011】
パンク状態での走行、すなわちランフラット走行における耐久性の向上が図られ、パンク状態においてタイヤは、十分な距離を走行できる。そこで、ランフラット走行の耐久性については多少の犠牲を払いながらも必要な耐久性を確保することを前提に、乗り心地の低下や質量の増加を抑えながら、ピンチカットの発生を防止できる技術の確立が求められている。
【0012】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、ピンチカットの発生が抑えられた、空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ピンチカットの発生を抑える技術について鋭意検討したところ、タイヤをリムに組み込んだ状態において、タイヤとリムのフランジとの距離を確保して、ビードの部分を撓みやすくすれば、カーカス全体に張力が作用し、エイペックスの部分に集中していた応力が低減されることを見出し、本発明を完成するに至っている。
【0014】
本発明に係る空気入りタイヤは、周方向に延びるコアを有する一対のビードと、一方のビードと他方とのビードの間を架け渡すカーカスと、軸方向において前記カーカスの内側に位置するサイド補強層とを備えるタイヤであって、
路面と接触するトレッド面と、前記タイヤが組み込まれるリムのシートと接触するシート接触面と、前記トレッド面と前記シート接触面との間を架け渡すサイド面とを備える。
前記サイド面は、前記タイヤを前記リムに組み込むことにより当該リムのフランジに接触するフランジ接触面と、当該フランジ接触面の径方向外側に位置し、当該フランジと対向するフランジ対向面とを備える。前記フランジ対向面は、軸方向外向きに拡径状となる面で構成される。前記タイヤの回転軸を含む平面に沿った、当該タイヤの断面において、前記フランジ対向面の形状が円弧で表され、前記円弧の半径は11.0mm以上20.0mm以下である。
【0015】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、前記円弧の半径は12.0mm以上18.0mm以下である。
【0016】
好ましくは、この空気入りタイヤは、前記リムに組み込まれた状態において、径方向において当該リムの外側に位置し、軸方向において外向きに突出するリムガードを備える。
前記タイヤの断面において、前記リムガードはその頂部からテーパー状に拡がる形状を有し、前記リムガードの前記ビード側の面が前記フランジ対向面である。
【0017】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、ビードベースラインから前記フランジ対向面の内端までの径方向距離は11.0mm以上20.0mm以下である。
【0018】
より好ましくは、この空気入りタイヤでは、ビードベースラインから前記フランジ対向面の内端までの径方向距離は12.0mm以上18.0mm以下である。
【0019】
好ましくは、この空気入りタイヤは、前記トレッド面を有するトレッドと、前記カーカスの軸方向外側において、前記トレッドの端から前記カーカスに沿って径方向内向きに延びる一対のサイドウォールと、前記サイドウォールの径方向内側に位置する一対のクリンチと、を備える。
前記クリンチは、前記タイヤが前記リムに組み込まれた状態において、前記フランジと前記カーカスとの間に位置する内側クリンチと、前記内側クリンチの径方向外側に位置する外側クリンチとを備える。前記内側クリンチの複素弾性率に対する前記外側クリンチの複素弾性率の比は0.5以上0.9以下である。ビードベースラインから前記内側クリンチの径方向外端までの径方向距離は12.0mm以上15.0mm以下である。
【0020】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、前記タイヤの断面において、前記内側クリンチと前記外側クリンチとの境界は軸方向に延びる、又は前記境界の内端が径方向においてその外端よりも内側に位置するように、当該境界は軸方向に対して傾斜する。前記境界が軸方向に対してなす角度は、30°以下である。
【0021】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、前記ビードは前記コアの径方向外側に位置するエイペックスを備える。前記タイヤの断面において、前記エイペックスの前記コアとの接触面の幅は7.0mm以上9.0mm以下であり、ビードベースラインから径方向外側に17.5mm離れた位置における前記エイペックスの幅は4.5mm以上6.0mm以下である。
【0022】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、前記カーカスは、第一カーカスプライと、当該第一カーカスプライの外側に位置する第二カーカスプライとを備える。前記第一カーカスプライ及び前記第二カーカスプライのそれぞれは、前記コアの周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される。径方向において、前記第二カーカスプライの端は前記第一カーカスプライの端よりも内側に位置する。ビードベースラインから前記第一カーカスプライの端までの径方向距離は断面高さの40%以上80%以下である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の空気入りタイヤでは、サイド面がリムのフランジと対向するフランジ対向面を有する。このフランジ対向面は、軸方向外向きに拡径状となる面で構成される。タイヤの回転軸を含む平面に沿った、このタイヤの断面において、フランジ対向面の形状は円弧で表され、この円弧の半径は11.0mm以上20.0mm以下である。
【0024】
このタイヤをリムに組み込んだ状態において、タイヤとリムのフランジとの間には十分な間隔が確保される。このタイヤでは、ビードの部分が全体として撓みやすい。段差の通過の際に、路面とリムのフランジとに挟まれ、タイヤのサイドウォールからクリンチに至る部分が大きく変形した場合、カーカス全体に張力が作用する。従来のタイヤにおいては、ビードの内側面に沿って延びるカーカスにピンチカットの発生が懸念されたが、このタイヤでは、このカーカスに作用する応力が低減される。このタイヤでは、ピンチカットの発生が抑えられる。
【0025】
このタイヤでは、ピンチカットの発生を抑えるために、従来のタイヤのように、フィラーの追加等をする必要がない。このタイヤでは、質量の増加が抑えられる。しかもビードの部分の剛性が適切に維持されるので、乗り心地の低下も抑えられる。
【0026】
本発明によれば、ピンチカットの発生が抑えられた、空気入りタイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の他の実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
【
図4】
図4は、本発明のさらに他の実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
【
図5】
図5は、ピンチカットの発生を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤ12の一部を示す。このタイヤ12は、乗用車に装着される。
【0030】
図1は、タイヤ12の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ12の断面の一部を示す。この
図1において、左右方向はタイヤ12の軸方向であり、上下方向はタイヤ12の径方向である。この
図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ12の周方向である。この
図1において、一点鎖線CLはタイヤ12の赤道面を表す。
【0031】
図1において、タイヤ12はリムRに組み込まれている。このリムRは正規リムである。タイヤ12の内部には空気が充填され、タイヤ12の内圧が正規内圧に調整されている。このタイヤ12には、荷重はかけられていない。
【0032】
本発明においては、タイヤ12をリムR(正規リム)に組み込み、タイヤ12の内圧が正規内圧に調整され、このタイヤ12に荷重がかけられていない状態は、正規状態と称される。本発明では、特に言及がない限り、タイヤ12及びタイヤ12の各部材の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
【0033】
本明細書において正規リムとは、タイヤ12が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0034】
本明細書において正規内圧とは、タイヤ12が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。タイヤ12が乗用車用である場合、特に言及がない限り、正規内圧は180kPaである。
【0035】
本明細書において正規荷重とは、タイヤ12が依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0036】
図1において、軸方向に延びる実線BBLはビードベースラインである。このビードベースラインは、リムR(正規リム)のリム径(JATMA等参照)を規定する線である。
【0037】
このタイヤ12は、トレッド14、一対のサイドウォール16、一対のクリンチ18、一対のビード20、カーカス22、ベルト24、バンド26、一対のサイド補強層28、インナーライナー30及び一対のチェーファー32を備える。
【0038】
トレッド14は、その外面において路面と接触する。トレッド14は、路面と接触するトレッド面34を備える。このタイヤ12では、トレッド14は、ベース部36と、このベース部36の径方向外側に位置するキャップ部38とを備える。このタイヤ12では、キャップ部38がトレッド面34を備える。このタイヤ12では、ベース部36は接着性が考慮された架橋ゴムからなる。キャップ部38は、耐摩耗性やグリップ性能が考慮された架橋ゴムからなる。
【0039】
図1において、両矢印TTは赤道面上におけるトレッド14の厚さである。このタイヤ12では、トレッド14の厚さTTは5mm以上15mm以下の範囲で設定される。
【0040】
サイドウォール16は、軸方向においてカーカス22の外側に位置する。サイドウォール16は、トレッド14の端からカーカス22に沿って径方向内向きに延びる。このタイヤ12では、このサイドウォール16は耐カット性が考慮された架橋ゴムからなる。なお、このタイヤ12では、このサイドウォール16とトレッド14との間にウィング40が配置される。
【0041】
図1において、二点鎖線LSは、ディンプルや突起等の装飾がないと仮定して得られるこのタイヤ12の仮想外面を表す。符号PSは、この仮想外面に基づいて特定される、軸方向においてこのタイヤ12が最大の幅を示す位置である。両矢印TSは、この位置PSにおけるサイドウォール16の軸方向幅(厚さ)である。このタイヤ12では、この軸方向幅TSは2mm以上9mm以下の範囲で設定される。
【0042】
クリンチ18は、サイドウォール16の径方向内側に位置する。
図1に示されるように、クリンチ18の少なくとも一部はリムRのフランジFと接触する。
【0043】
クリンチ18は架橋ゴムからなる。このタイヤ12では、クリンチ18は単一のゴム組成物を加硫することにより得られる。このタイヤ12では、クリンチ18の複素弾性率E*cは30MPa以上60MPa以下の範囲で設定される。
【0044】
本発明において、クリンチ18の複素弾性率E*cは、JIS-K6394の規定に準拠し、粘弾性スペクトロメータを用いて下記の条件にて測定される。
初期歪み=10%
振幅=±2%
周波数=10Hz
変形モード=引張
測定温度=70℃
【0045】
ビード20は、クリンチ18の軸方向内側に位置する。ビード20は、コア42と、このコア42の径方向外側に位置するエイペックス44とを備える。コア42は、周方向に延びる。
図1に示されるように、コア42は矩形状の断面形状を有する。エイペックス44は、コア42から径方向外向きに延びる。
図1に示されたタイヤ12の断面において、エイペックス44は径方向外向きに先細りである。
【0046】
図1において符号PMは、エイペックス44の、コア42との接触面46の、軸方向幅の中心である。両矢印LAは、この幅中心PMからエイペックス44の外端48までの最短距離である。このタイヤ12では、この最短距離LA、すなわち、エイペックス44の長さLAは、25mm以上50mm以下の範囲で適宜設定される。
【0047】
このタイヤ12では、エイペックス44は架橋ゴムからなる。このタイヤ12では、エイペックス44の複素弾性率E*aは50MPa以上100MPa以下の範囲で設定される。エイペックス44は高い剛性を有する。このエイペックス44の複素弾性率E*aは、前述のクリンチ18の複素弾性率E*cと同様にして測定される。
【0048】
カーカス22は、トレッド14、サイドウォール16及びクリンチ18の内側に位置する。カーカス22は、一方のビード20と他方のビード20との間を架け渡す。カーカス22は、少なくとも1枚のカーカスプライ50を含む。このタイヤ12では、カーカス22は1枚のカーカスプライ50からなる。
【0049】
図示されないが、カーカスプライ50は並列された多数のカーカスコードを含む。これらカーカスコードはトッピングゴムで覆われる。それぞれのカーカスコードは、赤道面と交差する。このタイヤ12では、カーカスコードが赤道面に対してなす角度は70°以上90°以下である。このタイヤ12のカーカス22は、ラジアル構造を有する。このタイヤ12では、有機繊維からなるコードがカーカスコードとして用いられる。
【0050】
このタイヤ12では、カーカスプライ50はそれぞれのコア42の周りにて折り返される。このカーカスプライ50は、一方のコア42と他方のコア42とを架け渡す本体部50aと、この本体部50aに連なりそれぞれのコア42の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部50bとを有する。
図1に示されるように、このタイヤ12では、折り返し部50bの端52は本体部50aとベルト24との間に位置する。
【0051】
ベルト24は、トレッド14の径方向内側において、カーカス22と積層される。このタイヤ12では、ベルト24は2枚のベルトプライ54からなる。
【0052】
図示されていないが、それぞれのベルトプライ54は並列された多数のベルトコードを含む。それぞれのベルトコードは、赤道面に対して傾斜する。このベルトコードが赤道面に対してなす角度は10°以上35°以下である。このタイヤ12では、ベルトコードの材質はスチールである。
【0053】
バンド26は、径方向においてトレッド14とベルト24との間に位置する。このタイヤ12では、バンド26はフルバンド26fと一対のエッジバンド26eとを備える。
【0054】
フルバンド26fは、ベルト24全体を覆う。このフルバンド26fは、ジョイントレス構造を有する。図示されないが、フルバンド26fは螺旋状に巻き回されたフルバンドコードを含む。有機繊維からなるコードがフルバンドコードとして用いられる。
【0055】
エッジバンド26eは、径方向においてフルバンド26fの外側から、ベルト24の端の部分を覆う。このエッジバンド26eは、ジョイントレス構造を有する。図示されないが、エッジバンド26eは螺旋状に巻き回されたエッジバンドコードを含む。有機繊維からなるコードがエッジバンドコードとして用いられる。
【0056】
サイド補強層28は、軸方向においてサイドウォール16の内側に位置する。このサイド補強層28は、軸方向においてカーカス22のさらに内側に位置する。
図1に示されるように、サイド補強層28は三日月様の断面形状を有する。
【0057】
サイド補強層28は架橋ゴムからなる。パンクによって内圧が低下した状態、すなわちパンク状態において、このサイド補強層28は荷重を支持する。このため、このタイヤ12を装着した車両はパンク状態においてある程度の距離を走行できる。このタイヤ12は、サイド補強タイプのランフラットタイヤである。
【0058】
このタイヤ12では、荷重の支持の観点から、サイド補強層28の複素弾性率E*rは9MPa以上が好ましい。乗り心地の観点から、このサイド補強層28の複素弾性率E*rは14MPa以下が好ましい。なお、このサイド補強層28の複素弾性率E*rは前述のクリンチ18の複素弾性率E*cと同様にして測定される。
【0059】
図1において、両矢印TRは、このタイヤ12が最大の軸方向幅を示す位置PSにおけるサイド補強層28の軸方向幅(厚さ)である。このタイヤ12では、この軸方向幅TRは3mm以上15mm以下の範囲で設定される。
【0060】
インナーライナー30は、カーカス22及びサイド補強層28の内側に位置する。インナーライナー30は、タイヤ12の内面を構成する。このインナーライナー30は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー30は、タイヤ12の内圧を保持する。
【0061】
チェーファー32は、ビード20の径方向内側に位置する。
図1に示されるように、チェーファー32の少なくとも一部はリムRのシートSと接触する。このタイヤ12では、チェーファー32は布とこの布に含浸したゴムとからなる。
【0062】
このタイヤ12では、トレッド14、サイドウォール16、クリンチ18及びチェーファー32はこのタイヤ12の外面56を構成する。この外面56のうち、路面と接触する部分はトレッド面34である。リムRのシートSと接触する部分は、シート接触面58である。トレッド面34とシート接触面58との間の部分は、サイド面60である。この外面56は、トレッド面34と、シート接触面58と、トレッド面34とシート接触面58との間を架け渡すサイド面60とを備える。
【0063】
図2は、
図1に示されたタイヤ12の断面図の一部を示す。この
図2には、このタイヤ12のサイドウォール16からビード20に至る部分が示される。この
図2において、左右方向はタイヤ12の軸方向であり、上下方向はタイヤ12の径方向である。この
図2の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ12の周方向である。
【0064】
前述したように、このタイヤ12はリムRに組み込まれる。これにより、
図2に示されるように、シート接触面58がリムRのシートSと接触する。そしてサイド面60の一部が、リムRのフランジFと接触する。このタイヤ12では、サイド面60のうち、タイヤ12をリムRに組み込むことによりフランジFに接触する部分は、フランジ接触面62である。
【0065】
このタイヤ12では、サイド面60のうち、フランジ接触面62の径方向外側部分は、正規状態においては、フランジFと対向するが、このフランジFとは接触しない。このタイヤ12では、正規状態において、フランジFと対向するが、このフランジFとは接触しない、フランジ接触面62の径方向外側部分は、フランジ対向面64である。つまりこのサイド面60は、フランジ接触面62と、このフランジ接触面62の径方向外側に位置し、フランジFと対向するフランジ対向面64とを備える。
【0066】
図2に示されるように、フランジ対向面64は軸方向外向きに拡径状となる面で構成される。特に、タイヤ12の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ12の断面において、フランジ対向面64の形状は円弧で表される。
図2において、符号Rで示された矢印はこの円弧の半径である。このタイヤ12では、この円弧の半径Rは、11.0mm以上20.0mm以下である。
【0067】
図2において、符号PFはフランジFの径方向外端である。符号PBは、ビードベースラインから外端PFまでの径方向距離の90%の距離に相当するフランジF上の位置である。両矢印Tは、フランジ対向面64とフランジFとの間隔である。この間隔Tは、フランジF上の位置PBを通るフランジ対向面64の法線に沿って計測される。
【0068】
このタイヤ12をリムRに組み込んだ状態、詳細には、正規状態においては、
図2に示されるように、タイヤ12とリムRのフランジFとの間に十分な間隔Tが確保される。具体的には、従来のタイヤにおいて2.3mmであった間隔Tが、このタイヤ12では2.6mm以上6.0mm以下である。このタイヤ12では、タイヤ12とリムRのフランジFとの間に十分な間隔Tが確保されるので、ビード20の部分が全体として撓みやすい。段差の通過の際に、路面とリムRのフランジFとに挟まれ、タイヤ12のサイドウォール16からクリンチ18に至る部分が大きく変形した場合、カーカス22全体に張力が作用する。従来のタイヤにおいては、ビードの内側面に沿って延びるカーカスにピンチカットの発生が懸念された。これに対し、このタイヤ12では、このカーカス22に作用する応力が低減される。このタイヤ12では、ピンチカットの発生が抑えられる。
【0069】
このタイヤ12では、ピンチカットの発生を抑えるために、従来のタイヤのように、フィラーの追加等をする必要がない。このタイヤ12では、質量の増加が抑えられる。しかもビード20の部分の剛性が適切に維持されるので、乗り心地の低下も抑えられる。
【0070】
前述したように、このタイヤ12では、タイヤ12とリムRのフランジFとの間に十分な間隔Tが確保される。このため、このタイヤ12では、この間隔Tが狭い従来のタイヤに比べて、ビード20の部分のボリュームは小さい。このタイヤ12において、フランジ対向面64を含むサイド面60は、タイヤ12の軽量化に寄与する。
【0071】
このタイヤ12では、ビード20の部分が全体として撓みやすいため、パンク状態での走行、すなわちランフラット走行での耐久性が低下する場合があることは否めない。しかしフランジ対向面64が所定の半径Rを有するようにサイド面60が構成され、ビード20の部分の剛性が適切に維持されるので、ランフラット走行の耐久性については多少の犠牲を払いながらも必要な耐久性が確保される。このタイヤ12では、必要なランフラット耐久性を確保しながら、ピンチカットの発生が抑えられる。
【0072】
前述したように、このタイヤ12では、フランジ対向面64の形状を表す円弧の半径Rは、11.0mm以上20.0mm以下である。フランジ対向面64とフランジFとの間隔Tがより十分に確保され、ピンチカットの発生が効果的に抑えられる観点から、この半径Rは12.0mm以上が好ましい。剛性が適切に維持され、必要なランフラット耐久性が確保される観点から、この半径Rは18.0mm以下が好ましい。
【0073】
このタイヤ12は、軸方向外向きに突出するリムガード68を備える。
図1に示されるように、このリムガード68は、サイドウォール16の一部とクリンチ18の一部とにより構成される。このタイヤ12では、このリムガード68がサイドウォール16の一部のみで構成されてもよい。このリムガード68が、クリンチ18の一部のみで構成されてもよい。
【0074】
リムガード68は、このタイヤ12がリムRに組み込まれた状態、詳細には、正規状態において、このリムRの径方向外側に位置する。図示されないが、このリムガード68は周方向に連続して延びる。
【0075】
リムガード68は、このタイヤ12が装着されるリムRのフランジFの損傷を防止する。
図2に示されるように、このタイヤ12の断面において、リムガード68はその頂部70から内向きに
裾野が拡がる形状を有する。フランジFの損傷防止の観点から、このリムガード68の頂部70は、正規状態において、フランジFよりも軸方向外側に位置するように、このリムガード68は構成されるのが好ましい。
【0076】
このタイヤ12では、リムガード68の外面72は、頂部70の内端70aから径方向内側に拡がる、ビード20側の面74と、この頂部70の外端70bから径方向外側に拡がる、トレッド14側の面76とを有する。このタイヤ12では、リムガード68の外面72はサイド面60の一部であり、このリムガード68の外面72のうち、ビード20側の面74がフランジ対向面64である。
【0077】
このタイヤ12では、リムガード68の部分は他の部分に比べて大きなボリュームを有する。このため、タイヤ12においてリムガード68の部分は高い剛性を有する。しかし、このタイヤ12では、リムガード68の外面72のうち、ビード20側の面74がフランジ対向面64であるので、正規状態においては、タイヤ12とリムRのフランジFとの間に十分な間隔Tが確保される。このタイヤ12では、リムガード68が設けられているにも関わらず、ビード20の部分が全体として撓みやすい。段差の通過の際に、路面とリムRのフランジFとに挟まれ、タイヤ12のサイドウォール16からクリンチ18に至る部分が大きく変形しても、このタイヤ12では、ビード20の内側面66に沿って延びるカーカス22に作用する応力が低減される。このタイヤ12では、ピンチカットの発生が抑えられる。
【0078】
この観点から、このタイヤ12が、リムRに組み込まれた状態において、径方向においてリムRの外側に位置し、軸方向において外向きに突出するリムガード68を備え、このタイヤ12の断面において、このリムガード68がその頂部70からテーパー状に拡がる形状を有する場合においては、このリムガード68のビード20側の面74が前述のフランジ対向面64であるのが好ましい。
【0079】
このタイヤ12では、リムガード68のトレッド14側の面76は、リムガード68の頂部70の外端70bから軸方向内向きに拡径状となる面で構成される。このタイヤ12では、その回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ12の断面において、このトレッド14側の面76の形状は円弧で表される。このタイヤ12では、この円弧の大きさは、このトレッド14側の面76の、径方向外側部分の外面形状が考慮され適宜決められる。
【0080】
図2において、符号PRはフランジ対向面64の内端である。このタイヤ12では、この内端PRがフランジ対向面64とフランジ接触面62との境界である。この
図2において、両矢印Lrはビードベースラインからこのフランジ対向面64の内端PRまでの径方向距離である。
【0081】
このタイヤ12では、ビードベースラインからこのフランジ対向面64の内端PRまでの径方向距離Lrは11.0mm以上が好ましく、20.0mm以下が好ましい。この距離Lrが11.0mm以上に設定されることにより、間隔Tが確保される。このタイヤ12では、ビード20の部分が全体として撓みやすいので、ビード20の内側面66に沿って延びるカーカス22への応力の集中が抑えられる。このタイヤ12では、ピンチカットの発生が抑えられる。この観点から、この距離Lrは12.0mm以上がより好ましい。この距離Lrが20.0mm以下に設定されることにより、剛性が適切に維持されるので、必要なランフラット耐久性が確保される。この観点から、この距離Lrは18.0mm以下がより好ましい。
【0082】
図2において、両矢印B1は、エイペックス44の、コア42との接触面46の幅である。この幅B1は、幅中心PMを通り軸方向に延びる仮想線(図示されず)に沿って計測される。この
図2において、符号PAはエイペックス44の外側面上の特定の位置であり、ビードベースラインからこの位置PAまでの径方向距離は17.5mmである。この
図2において、両矢印B2は、この位置PAにおけるエイペックス44の幅である。つまり、この両矢印B2で示されたエイペックス44の幅は、ビードベースラインから径方向外側に17.5mm離れた位置におけるエイペックス44の幅である。このエイペックス44の幅B2は、
図2に示された断面において、位置PAを通る、ビード20(詳細にはエイペックス44)の内側面66の法線に沿って計測される。
【0083】
図2に示されたタイヤ12の断面において、エイペックス44の、コア42との接触面46の幅B1は、7.0mm以上が好ましく、9.0mm以下が好ましい。この接触面46の幅B1が7.0mm以上に設定されることにより、剛性が適切に維持されるので、必要なランフラット耐久性が確保される。この接触面46の幅B1が9.0mm以下に設定されることにより、ビード20の部分が全体として撓みやすいので、ビード20の内側面66に沿って延びるカーカス22への応力の集中が抑えられる。このタイヤ12では、ピンチカットの発生が抑えられる。
【0084】
この
図2に示されたタイヤ12の断面において、ビードベースラインから径方向外側に17.5mm離れた位置におけるエイペックス44の幅B2は4.5mm以上が好ましく、6.0mm以下が好ましい。このタイヤ12では、このエイペックス44の幅B2が4.5mm以上に設定されることにより、剛性が適切に維持されるので、必要なランフラット耐久性が確保される。このエイペックス44の幅B2が6.0mm以下に設定されることにより、ビード20の部分が全体として撓みやすいので、ビード20の内側面66に沿って延びるカーカス22への応力の集中が抑えられる。このタイヤ12では、ピンチカットの発生が抑えられる。
【0085】
図1において、両矢印HAはビードベースラインからこのタイヤ12の赤道までの径方向距離である。この径方向距離HAはこのタイヤ12の断面高さ(JATMA等参照)である。両矢印HFは、ビードベースラインからカーカスプライ50の折り返し部50bの端52までの径方向距離である。
【0086】
前述したように、このタイヤ12のカーカス22は1枚のカーカスプライ50からなる。このタイヤ12では、カーカス22が1枚のカーカスプライ50からなる場合、剛性が維持され、必要なランフラット耐久性が確保される観点から、断面高さHAに対する径方向距離HFの比率は40%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。タイヤ12の軽量化の観点から、この比率は85%以下が好ましい。
【0087】
前述したように、
図1に示されたタイヤ12では、折り返し部50bの端52は本体部50aとベルト24との間に位置する。つまり、このタイヤ12では、折り返し部50bの端52が本体部50aとベルト24とに挟まれるように、カーカス22が構成される。このタイヤ12では、サイド補強層28とともにこの折り返し部50bはパンク状態でのタイヤ12の変形を抑える。この折り返し部50bは、パンク状態における荷重の支持に寄与する。この観点から、カーカス22が1枚のカーカスプライ50からなる場合、折り返し部50bの端52がカーカス22とベルト24とに挟まれるように、カーカス22が構成されるのが好ましい。なお、このタイヤ12では、前述の断面高さHAに対する径方向距離HFの比率が80%以上である場合に、カーカス22は、折り返し部50bの端52がカーカス22とベルト24とに挟まれた状態にある。
【0088】
図3は、本発明の他の実施形態にかかる空気入りタイヤ102の一部を示す。
図3は、タイヤ102の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ102の断面の一部を示す。この
図3において、左右方向はタイヤ102の軸方向であり、上下方向はタイヤ102の径方向である。この
図3の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ102の周方向である。
【0089】
このタイヤ102では、クリンチ104以外は、
図1に示されたタイヤ12の構成と同等の構成を有する。したがって、この
図3において、
図1のタイヤ12の部材と同一の部材には同一符号を付して、その説明は省略する。
【0090】
このタイヤ102においても、
図1に示されたタイヤ12と同様、サイド面60がリムRのフランジFと対向するフランジ対向面64を有する。このフランジ対向面64は、軸方向外向きに拡径状となる面で構成される。タイヤ102の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ102の断面において、フランジ対向面64の形状は円弧で表され、この円弧の半径は11.0mm以上20.0mm以下である。
【0091】
このタイヤ102をリムRに組み込んだ状態において、タイヤ102とリムRのフランジFとの間には十分な間隔が確保される。このタイヤ102では、ビード20の部分が全体として撓みやすい。段差の通過の際に、路面とリムRのフランジFとに挟まれ、タイヤ102のサイドウォール16からクリンチ104に至る部分が大きく変形した場合、カーカス22全体に張力が作用する。従来のタイヤにおいては、ビードの内側面に沿って延びるカーカスにピンチカットの発生が懸念された。これに対し、このタイヤ102では、このカーカス22に作用する応力が低減される。このタイヤ102では、ピンチカットの発生が抑えられる。
【0092】
このタイヤ102ではさらに、クリンチ104が内側クリンチ106と外側クリンチ108とを備える。
図3に示されるように、内側クリンチ106は、このタイヤ102がリムRに組み込まれた状態において、フランジFとカーカス22との間に位置する。外側クリンチ108は、この内側クリンチ106の径方向外側に位置する。
【0093】
このタイヤ102では、内側クリンチ106及び外側クリンチ108はそれぞれ架橋ゴムからなる。特に、このタイヤ102では、外側クリンチ108の複素弾性率E
*sは内側クリンチ106の複素弾性率E
*uよりも小さい。具体的には、内側クリンチ106の複素弾性率E
*uに対する外側クリンチ108の複素弾性率E
*sの比は0.5以上が好ましく、0.9以下が好ましい。なお、この内側クリンチ106の複素弾性率E
*u及び外側クリンチ108の複素弾性率E
*sは、
図1に示されたタイヤ12のクリンチ18の複素弾性率E
*cと同様にして測定される。
【0094】
このタイヤ102では、内側クリンチ106の複素弾性率E*uに対する外側クリンチ108の複素弾性率E*sの比が0.5以上に設定されることにより、剛性が適切に維持され、必要なランフラット耐久性が確保される。この観点から、この比は0.50以上がより好ましい。
【0095】
このタイヤ102では、内側クリンチ106の複素弾性率E*uに対する外側クリンチ108の複素弾性率E*sの比が0.9以下に設定されることにより、ビード20の部分が全体として撓みやすいので、ビード20の内側面66に沿って延びるカーカス22への応力の集中が抑えられる。このタイヤ102では、ピンチカットの発生が抑えられる。この観点から、この比は0.90以下がより好ましく、0.85以下がさらに好ましい。
【0096】
このタイヤ102では、必要なランフラット耐久性が確保され、ピンチカットの発生が抑えられる観点から、好ましくは、内側クリンチ106の複素弾性率E*uは50MPa以上60MPa以下である。このタイヤ102では、より好ましくは、内側クリンチ106の複素弾性率E*uは50MPa以上60MPa以下であり、内側クリンチ106の複素弾性率E*uに対する外側クリンチ108の複素弾性率E*sの比が0.5以上0.9以下である。
【0097】
図3において、符号PCは内側クリンチ106の径方向外端である。両矢印Hbは、ビードベースラインからこの内側クリンチ106の径方向外端PCまでの径方向距離である。この
図3において、符号PDは外側クリンチ108の径方向内端である。このタイヤ102では、外側クリンチ108の径方向内端PDは径方向において内側クリンチ106の径方向外端PCよりも内側に位置する。
【0098】
このタイヤ102では、ビードベースラインから内側クリンチ106の径方向外端PCまでの径方向距離Hbは12.0mm以上が好ましく、15.0mm以下が好ましい。この距離Hbが12.0mm以上に設定されることにより、剛性が適切に維持され、必要なランフラット耐久性が確保される。この距離Hbが15.0mm以下に設定されることにより、ビード20の部分が全体として撓みやすいので、ビード20の内側面66に沿って延びるカーカス22への応力の集中が抑えられる。このタイヤ102では、ピンチカットの発生が抑えられる。
【0099】
図3に示されるように、内側クリンチ106と外側クリンチ108との境界110は軸方向に対して傾斜し、かつ、この境界110の軸方向外端110aは径方向においてこの境界110の軸方向内端110bよりも外側に位置する。このタイヤ102では、この境界110が軸方向に延びるように構成されてもよい。この境界110が軸方向に対して傾斜し、かつ、この境界110の軸方向外端110aが径方向においてこの境界110の軸方向内端110bよりも内側に位置するように構成されてもよい。なお、
図3に示されたタイヤ102においては、境界110の軸方向外端110aは内側クリンチ106の径方向外端PCであり、この境界110の軸方向内端110bは外側クリンチ108の径方向内端PDである。
【0100】
図3において、符号αは内側クリンチ106と外側クリンチ108との境界110が軸方向に対してなす角度である。この角度αは、境界110の傾斜角度である。本発明においては、
図3に示されるように、この境界110の軸方向内端110bが径方向においてその軸方向外端110aよりも内側に位置するように、この境界110が軸方向に対して傾斜する場合、この傾斜角度αは正の数で表される。この境界110の軸方向内端110bが径方向においてその軸方向外端110aよりも外側に位置するように、この境界110が軸方向に対して傾斜する場合、この傾斜角度αは負の数で表される。
【0101】
このタイヤ102では、必要なランフラット耐久性を確保しつつ、ピンチカットの発生を効果的に抑える観点から、このタイヤ102の回転軸を含む平面に沿ったこのタイヤ102の断面において、内側クリンチ106と外側クリンチ108との境界110は軸方向に延びるか、又は、この境界110の軸方向内端110bが径方向においてその軸方向外端110aよりも内側に位置するように、この境界110が軸方向に対して傾斜するのが好ましい。具体的には、境界110の傾斜角度αは0°以上が好ましく、30°以下が好ましい。
【0102】
図4は、本発明のさらに他の実施形態にかかる空気入りタイヤ122の一部を示す。
図4は、タイヤ122の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ122の断面の一部を示す。この
図4において、左右方向はタイヤ122の軸方向であり、上下方向はタイヤ122の径方向である。この
図4の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ122の周方向である。
【0103】
このタイヤ122では、カーカス124以外は、
図1に示されたタイヤ12の構成と同等の構成を有する。したがって、この
図4において、
図1のタイヤ12の部材と同一の部材には同一符号を付して、その説明は省略する。
【0104】
このタイヤ122においても、
図1に示されたタイヤ12と同様、サイド面60がリムRのフランジFと対向するフランジ対向面64を有する。このフランジ対向面64は、軸方向外向きに拡径状となる面で構成される。タイヤ122の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ122の断面において、フランジ対向面64の形状は円弧で表され、この円弧の半径は11.0mm以上20.0mm以下である。
【0105】
このタイヤ122をリムRに組み込んだ状態において、タイヤ122とリムRのフランジFとの間には十分な間隔が確保される。このタイヤ122では、ビード20の部分が全体として撓みやすい。段差の通過の際に、路面とリムRのフランジFとに挟まれ、タイヤ122のサイドウォール16からクリンチ18に至る部分が大きく変形した場合、カーカス124全体に張力が作用する。従来のタイヤにおいては、ビードの内側面に沿って延びるカーカスにピンチカットの発生が懸念された。これに対し、このタイヤ122では、このカーカス124に作用する応力が低減される。このタイヤ122では、ピンチカットの発生が抑えられる。
【0106】
このタイヤ122ではさらに、カーカス124が2枚のカーカスプライ126からなる。このカーカス124を構成する2枚のカーカスプライ126のうち、内側に位置するカーカスプライ126が第一カーカスプライ128であり、外側に位置するカーカスプライ126が第二カーカスプライ130である。
【0107】
図示されていないが、それぞれのカーカスプライ126は、
図1に示されたタイヤ12のカーカスプライ50と同様、並列された多数のカーカスコードを含む。これらカーカスコードはトッピングゴムで覆われる。それぞれのカーカスコードは、赤道面と交差する。このタイヤ122では、カーカスコードが赤道面に対してなす角度は70°以上90°以下である。このタイヤ122のカーカス124は、ラジアル構造を有する。このタイヤ122では、有機繊維からなるコードがカーカスコードとして用いられる。
【0108】
このタイヤ122では、第一カーカスプライ128はそれぞれのコア42の周りにて折り返される。この第一カーカスプライ128は、一方のコア42と他方のコア42とを架け渡す第一本体部128aと、この第一本体部128aに連なりそれぞれのコア42の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の第一折り返し部128bとを有する。
【0109】
このタイヤ122では、第二カーカスプライ130はそれぞれのコア42の周りにて折り返される。この第二カーカスプライ130は、一方のコア42と他方のコア42とを架け渡す第二本体部130aと、この第二本体部130aに連なりそれぞれのコア42の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の第二折り返し部130bとを有する。
図4に示されるように、このタイヤ122では、第二折り返し部130bの端132は第一折り返し部128bの端134よりも径方向内側に位置する。この第二折り返し部130bの端132は、軸方向において外側から第一折り返し部128bで覆われる。
【0110】
図4において、両矢印HAはこのタイヤ122の断面高さ(JATMA等参照)である。両矢印H1は、ビードベースラインから第一折り返し部128bの端134までの径方向距離である。両矢印H2は、このビードベースラインから第二折り返し部130bの端132までの径方向距離である。
【0111】
このタイヤ122では、ビードベースラインから第一折り返し部128bの端134までの径方向距離H1は断面高さHAの40%以上が好ましく、80%以下が好ましい。距離H1が断面高さHAの40%以上に設定されることにより、剛性が適切に維持され、必要なランフラット耐久性が確保される。距離H1が断面高さHAの80%以下に設定されることにより、ビード20の部分が全体として撓みやすいので、ビード20の内側面66に沿って延びるカーカス124への応力の集中が抑えられる。このタイヤ122では、ピンチカットの発生が抑えられる。
【0112】
このタイヤ122では、ビードベースラインから第二折り返し部130bの端132までの径方向距離H2は断面高さHAの20%以上が好ましく、40%以下が好ましい。距離H2が断面高さHAの20%以上に設定されることにより、剛性が適切に維持され、必要なランフラット耐久性が確保される。距離H2が断面高さHAの40%以下に設定されることにより、ビード20の部分が全体として撓みやすいので、ビード20の内側面66に沿って延びるカーカス124への応力の集中が抑えられる。このタイヤ122では、ピンチカットの発生が抑えられる。
【0113】
図4に示されるように、このタイヤ122では、第一折り返し部128bの端134は、第二本体部130aとベルト24との間に位置する。つまり、このタイヤ122では、第一折り返し部128bの端134が第二本体部130aとベルト24とに挟まれるように、カーカス124は構成される。このタイヤ122では、サイド補強層28とともにこの第一折り返し部128bはパンク状態でのタイヤ122の変形を抑える。この第一折り返し部128bは、パンク状態における荷重の支持に寄与する。この観点から、カーカス124が2枚のカーカスプライ126からなる場合、パンク状態における荷重の支持の観点から、第一折り返し部128bの端134が第二本体部130aとベルト24とに挟まれるように、このカーカス124が構成されてもよい。なお、このタイヤ122では、前述の断面高さHAに対する径方向距離H1の比率が80%以上である場合に、カーカス124は、第一折り返し部128bの端134が第二本体部130aとベルト24とに挟まれた状態にある。
【0114】
このタイヤ122では、
図3に示されたタイヤ102のクリンチ104をクリンチ18に適用することもできる。このタイヤ122では、必要なランフラット耐久性を確保しつつ、ピンチカットの発生がさらに効果的に抑えられる。
【0115】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、ピンチカットの発生が抑えられた、空気入りタイヤが得られる。
【0116】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は前述の実施形態に限定されるものではなく、この技術的範囲には特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【実施例】
【0117】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0118】
[実験1-フランジ対向面]
[実施例1]
図1に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた空気入りタイヤ(タイヤサイズ=245/40RF19)を得た。
【0119】
この実施例1では、フランジ対向面の形状を表す円弧の半径Rは15.0mmに設定された。ビードベースラインからフランジ対向面の内端までの径方向距離Lrは15.0mmであった。フランジ対向面とリムのフランジとの間隔Tは4.7mmであった。
【0120】
この実施例1では、カーカスを構成するカーカスプライの枚数、すなわち、プライ数は1枚であった。最大幅位置におけるサイドウォールの軸方向幅(厚さ)TSは、3mmであった。
【0121】
[比較例1]
半径R及び距離Lrを変えて間隔Tを下記の表1に示された通りとした他は実施例1と同様にして、比較例1のタイヤを得た。この比較例1は従来のタイヤである。
【0122】
[比較例2]
半径R及び距離Lrを変えて間隔Tを下記の表1に示された通りとするとともに、プライ数をこの表1に示された通りとした他は実施例1と同様にして、比較例2のタイヤを得た。この比較例2は従来のタイヤである。この比較例2におけるカーカスでは、第一カーカスプライの端は第二カーカスプライの第二本体部とベルトとの間に挟まれた。第二カーカスプライの端は、エイペックスの外端よりも径方向内側において、第一カーカスプライの第一折り返し部で覆われた。
【0123】
[比較例3]
半径R及び距離Lrを変えて間隔Tを下記の表1に示された通りとするとともに、厚さTSをこの表1に示された通りとした他は実施例1と同様にして、比較例3のタイヤを得た。この比較例3は従来のタイヤである。
【0124】
[実施例2-10]
半径R及び距離Lrを変えて間隔Tを下記の表1及び2に示された通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2-10のタイヤを得た。
【0125】
[質量]
試作タイヤの質量を計測した。その結果が、下記の表1及び2の「質量」の欄に、指数で示されている。数値が小さいほど軽量であることを表す。
【0126】
[ピンチカット]
試作タイヤをリム(サイズ=8.5J)に組み込み、空気を充填しタイヤの内圧を230kPaに調整した。このタイヤを、試験車両の右前輪に装着した。側方に、高さ110mm、幅100mm及び長さ1500mmの断面矩形の鋼鉄製突起を設けた試験路が準備された。バルブコアを抜き取り、タイヤの内部を大気と連通させて、パンク状態をタイヤに再現した。突起の長さ方向に対して15°の角度で車両を進入させ、この突起を乗り越えさせた。車両の進入速度を15km/hから3km/hのステップで逐次上昇させ、ピンチカットが発生したときの速度を得た。その結果が、下記の表1及び2の「ピンチカット」の欄に、指数で示されている。数値が大きいほど、耐ピンチカットの性能に優れ、ピンチカットの発生が抑えられていることを表す。
【0127】
[乗り心地]
試作タイヤをリム(サイズ=8.5J)に組み込み、空気を充填しタイヤの内圧を230kPaに調整した。このタイヤを、試験車両(1名乗車)の全輪に装着して、乾燥アスファルト路面のテストコースを走行した。そのときの乗り心地をドライバーに評価(官能評価)させた。その結果が、下記の表1及び2の「乗り心地」の欄に、指数で示されている。数値が大きいほど、乗り心地に優れることを表す。
【0128】
[ランフラット耐久性]
ドラム試験機を用い、下記の条件で、試作タイヤをランフラット走行させ、タイヤから異音が発生するまでの走行距離が測定された。その結果が、下記の表1及び2の「RF耐久性」の欄に、指数で示されている。数値が大きいほど、ランフラット耐久性に優れることを表す。
リム:8.5J、内圧:0kPa(バルブコア除去)
荷重:4.3kN
速度:80km/h
【0129】
[総合性能]
比較例1を基準にして、各評価項目の差を算出し、これらの合計を求めた。その結果が、下記の表1及び2の「総合性能」の欄に示されている。この数値が大きいほど、好ましい。なお、質量については、数値が小さいほど好ましいので、比較例1の指数から各例の指数を差し引いて、比較例1との差を求めた。ピンチカット、乗り心地及びランフラット耐久性については、数値が大きいほど好ましいので、各例の指数から比較例1の指数を差し引いて、比較例1との差を求めた。
【0130】
【0131】
【0132】
表1及び2に示されるように、実施例は、比較例に比して評価が高い。特に、実施例では、ピンチカットの発生が抑えられるとともに、質量、乗り心地及びランフラット耐久性がバランスよく整えられている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【0133】
[実験2-エイペックス]
[実施例11]
図1に示された基本構成を備え、下記の表3に示された仕様を備えた空気入りタイヤ(タイヤサイズ=245/40RF19)を得た。
【0134】
この実施例11では、エイペックスの、コアとの接触面の幅B1は9.0mmであった。ビードベースラインから径方向外側に17.5mm離れた位置におけるエイペックスの幅B2は、5.5mmであった。
【0135】
なお、この実施例11では、フランジ対向面の形状を表す円弧の半径Rは15.0mmに設定された。ビードベースラインからフランジ対向面の内端までの径方向距離Lrは15.0mmであった。フランジ対向面とリムのフランジとの間隔Tは4.7mmであった。カーカスを構成するカーカスプライの枚数、すなわち、プライ数は1枚であった。最大幅位置におけるサイドウォールの軸方向幅(厚さ)TSは、3mmであった。
【0136】
[比較例4]
半径R及び距離Lrを変えて間隔Tを下記の表3に示される通りとした他は実施例11と同様にして、比較例4のタイヤを得た。この比較例4は従来のタイヤである。
【0137】
[実施例12-15]
幅B2を下記の表3に示される通りとした他は実施例11と同様にして、実施例12-15のタイヤを得た。
【0138】
[実施例16-21]
幅B1及び幅B2を下記の表4に示される通りとした他は実施例11と同様にして、実施例16-21のタイヤを得た。
【0139】
[質量]
試作タイヤの質量を計測した。その結果が、下記の表3及び4の「質量」の欄に、指数で示されている。数値が小さいほど軽量であることを表す。
【0140】
[ピンチカット]
前述の実験1と同様にして、ピンチカット性能に関する指数を得た。その結果が、下記の表3及び4の「ピンチカット」の欄に示されている。数値が大きいほど、耐ピンチカットの性能に優れ、ピンチカットの発生が抑えられていることを表す。
【0141】
[ランフラット耐久性]
前述の実験1と同様にして、ランフラット耐久性に関する指数を得た。その結果が、下記の表3及び4の「RF耐久性」の欄に示されている。数値が大きいほど、ランフラット耐久性に優れることを表す。
【0142】
[総合性能]
比較例4を基準にして、各評価項目の差を算出し、これらの合計を求めた。その結果が、下記の表3及び4の「総合性能」の欄に示されている。この数値が大きいほど、好ましい。なお、質量については、数値が小さいほど好ましいので、比較例4の指数から各例の指数を差し引いて、比較例4との差を求めた。ピンチカット及びランフラット耐久性については、数値が大きいほど好ましいので、各例の指数から比較例4の指数を差し引いて、比較例4との差を求めた。
【0143】
【0144】
【0145】
表3及び4に示されるように、実施例は、比較例に比して評価が高い。特に、実施例では、ピンチカットの発生が抑えられるとともに、質量及びランフラット耐久性がバランスよく整えられている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【0146】
[実験3-クリンチ]
[実施例22]
図3に示された基本構成を備え、下記の表5に示された仕様を備えた空気入りタイヤ(タイヤサイズ=245/40RF19)を得た。
【0147】
この実施例22では、内側クリンチの複素弾性率E*uは60MPaであった。外側クリンチの複素弾性率E*sは30MPaであった。内側クリンチの複素弾性率E*uに対する外側クリンチの複素弾性率E*sの比(E*s/E*u)は0.50であった。ビードベースラインから内側クリンチの径方向外端PCまでの径方向距離Hbは12mmであった。内側クリンチと外側クリンチとの境界の傾斜角度αは30°であった。
【0148】
なお、この実施例22では、フランジ対向面の形状を表す円弧の半径Rは15.0mmに設定された。ビードベースラインからフランジ対向面の内端までの径方向距離Lrは15.0mmであった。フランジ対向面とリムのフランジとの間隔Tは4.7mmであった。カーカスを構成するカーカスプライの枚数、すなわち、プライ数は1枚であった。最大幅位置におけるサイドウォールの軸方向幅(厚さ)TSは、3mmであった。
【0149】
[比較例5]
半径R及び距離Lrを変えて間隔Tを下記の表5に示される通りとするとともに、クリンチを単一のゴム組成物で構成させた他は実施例22と同様にして、比較例5のタイヤを得た。この比較例5は従来のタイヤである。この比較例5では、クリンチの複素弾性率E*cは60MPaであった。
【0150】
[実施例23]
傾斜角度αを下記の表5に示される通りとした他は実施例22と同様にして、実施例23のタイヤを得た。
【0151】
[実施例24]
距離Hb及び傾斜角度αを下記の表5に示される通りとした他は実施例22と同様にして、実施例24のタイヤを得た。
【0152】
[実施例25]
半径R及び距離Lrを変えて間隔Tを下記の表5に示される通りとした他は実施例22と同様にして、実施例25のタイヤを得た。
【0153】
[実施例26]
複素弾性率E*sを変えて比(E*s/E*u)を下記の表5に示された通りとするとともに、距離Hb及び傾斜角度αをこの表5に示される通りとした他は実施例22と同様にして、実施例26のタイヤを得た。
【0154】
[実施例27]
距離Hb及び傾斜角度αを下記の表5に示される通りとした他は実施例22と同様にして、実施例27のタイヤを得た。
【0155】
[実施例28-33]
複素弾性率E*sを変えて比(E*s/E*u)を下記の表6に示された通りとするとともに、傾斜角度αをこの表6に示される通りとした他は実施例22と同様にして、実施例28-33のタイヤを得た。
【0156】
[質量]
試作タイヤの質量を計測した。その結果が、下記の表5及び6の「質量」の欄に、指数で示されている。数値が小さいほど軽量であることを表す。
【0157】
[ピンチカット]
前述の実験1と同様にして、ピンチカット性能に関する指数を得た。その結果が、下記の表5及び6の「ピンチカット」の欄に示されている。数値が大きいほど、耐ピンチカットの性能に優れ、ピンチカットの発生が抑えられていることを表す。
【0158】
[乗り心地]
前述の実験1と同様にして、乗り心地に関する指数を得た。その結果が、下記の表5及び6の「乗り心地」の欄に、指数で示されている。数値が大きいほど、乗り心地に優れることを表す。
【0159】
[ランフラット耐久性]
前述の実験1と同様にして、ランフラット耐久性に関する指数を得た。その結果が、下記の表5及び6の「RF耐久性」の欄に示されている。数値が大きいほど、ランフラット耐久性に優れることを表す。
【0160】
[総合性能]
比較例5を基準にして、各評価項目の差を算出し、これらの合計を求めた。その結果が、下記の表5及び6の「総合性能」の欄に示されている。この数値が大きいほど、好ましい。なお、質量については、数値が小さいほど好ましいので、比較例5の指数から各例の指数を差し引いて、比較例5との差を求めた。ピンチカット、乗り心地及びランフラット耐久性については、数値が大きいほど好ましいので、各例の指数から比較例5の指数を差し引いて、比較例5との差を求めた。
【0161】
【0162】
【0163】
表5及び6に示されるように、実施例は、比較例に比して評価が高い。特に、実施例では、ピンチカットの発生が抑えられるとともに、質量、乗り心地及びランフラット耐久性がバランスよく整えられている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0164】
以上説明されたピンチカットの発生を抑制するための技術は、種々のタイヤにも適用されうる。
【符号の説明】
【0165】
2、12、102、122・・・タイヤ
4、28・・・サイド補強層
6、20・・・ビード
8、22、124・・・カーカス
14・・・トレッド
16・・・サイドウォール
18、104・・・クリンチ
34・・・トレッド面
42・・・コア
44・・・エイペックス
46・・・接触面
48・・・エイペックス44の外端
50、126・・・カーカスプライ
50a・・・本体部
50b・・・折り返し部
52・・・折り返し部50bの端
56・・・タイヤ12の外面
58・・・シート接触面
60・・・サイド面
62・・・フランジ接触面
64・・・フランジ対向面
68・・・リムガード
70・・・頂部
74・・・ビード20側の面
76・・・トレッド14側の面
106・・・内側クリンチ
108・・・外側クリンチ
110・・・境界
110a・・・境界110の軸方向外端
110b・・・境界110の軸方向内端
128・・・第一カーカスプライ
128a・・・第一本体部
128b・・・第一折り返し部
130・・・第二カーカスプライ
130a・・・第二本体部
130b・・・第二折り返し部
132・・・第二折り返し部130bの端
134・・・第一折り返し部128bの端