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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】溶接方法及び溶接システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20231212BHJP
   B23K 26/346 20140101ALI20231212BHJP
【FI】
B23K20/12 330
B23K26/346
B23K20/12 360
B23K20/12 368
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019131206
(22)【出願日】2019-07-16
(65)【公開番号】P2021013954
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】中井 正規
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克典
(72)【発明者】
【氏名】森脇 幹文
(72)【発明者】
【氏名】山口 紘次朗
(72)【発明者】
【氏名】市原 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】氏平 直樹
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-058040(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0231595(US,A1)
【文献】国際公開第2017/022184(WO,A1)
【文献】特開2005-329463(JP,A)
【文献】特開2019-034313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00 - 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の融点を有する第1の材料からなる第1の部材と第2の融点を有する第2の材料からなる第2の部材とを溶接する溶接方法であって、
前記第1の部材と前記第2の部材を突き合せた状態で、前記第1の部材において前記第2の部材に隣接する第1の領域と、前記第2の部材において前記第1の部材に隣接する第2の領域とにそれぞれ第1のレーザと第2のレーザを照射して、前記第1の材料と前記第2の材料をそれぞれ軟化させる加熱工程と、
前記加熱工程で軟化された前記第1の材料を撹拌し、前記加熱工程で軟化された前記第2の材料に混合して、金属間化合物を生成する撹拌工程と、を含み、
前記第1の部材における前記第1のレーザの照射領域は、斜めに開先加工された斜面で形成されており、
前記第2の部材の端部は、対向方向に直交する垂直面で構成されていることを特徴とする、溶接方法。
【請求項2】
前記攪拌工程は、軟化された前記第1の材料にのみ工具を挿入し、工具挿入方向の軸を中心に前記工具を回転することを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記第1の部材は第1の円筒部材からなり、
前記第2の部材は第2の円筒部材からなり、
前記第1の円筒部材と前記第2の円筒部材はそれらの中心軸を同一直線上に整列して同軸上に配置され、
前記第1の円筒部材の端面と前記第2の円筒部材の端面が突き合わされ、
前記加熱工程と前記撹拌工程において、前記第1の円筒部材と前記第2の円筒部材が同一方向に又は逆方向に回転されることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記第1の円筒部材と前記第2の円筒部材が同一速度又は異なる速度で回転されることを特徴とする請求項3に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記第1の部材は直線状の第1の端面を有し、
前記第2の部材は直線状の第2の端面を有し、
前記第1の端面と前記第2の端面が突き合わされることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記第1の材料の前記第1の融点が前記第2の材料の前記第2の融点と同じであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の溶接方法。
【請求項7】
前記第1の材料の前記第1の融点が前記第2の材料の前記第2の融点よりも高いことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の溶接方法。
【請求項8】
前記第1の材料は鉄で、前記第2の材料はアルミニウムであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の溶接方法。
【請求項9】
前記第1の部材と前記第2の部材は共に鉄であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の溶接方法。
【請求項10】
前記第1の部材と前記第2の部材は共にアルミニウムであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の溶接方法。
【請求項11】
前記加熱工程で、前記鉄は、オーステナイト変態が開始する温度まで加熱されることを特徴とする請求項8又は9に記載の溶接方法。
【請求項12】
前記加熱工程で、前記アルミニウムは固溶体になる状態まで加熱されることを特徴とする請求項8又は10に記載の溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法及び溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
機械的強度の低い金属材料から作られた部品は補強を要求されることがある。この要求に応えるために、レーザ溶接が用いられる。レーザ溶接は、機械的強度の低い材料に機械的強度の高い材料を接合することで、補強を行う。金属材料においては、軽量材料として知られるアルミニウムなど、その機能に応じた最適な使用を行うため、機能に応じた材料の選択を実施する必要があり、適材適所の配置を実施することにより自動車軽量化と安全性能を両立させることができる。
【0003】
しかし、材料の組み合わせによっては、脆弱な金属間化合物が接合界面に生成されるおそれがある。この問題に対して、高融点材料にのみ熱量を与え、与える熱量を制御することで、低融点材料のみを溶かすようにして接合させる方法が提案されている(特許文献1参照)。この提案された方法によれば、脆弱な金属間化合物の生成を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-279744号公報
【0005】
ただ、接合させる金属材料が鉄とアルミニウムの場合、一度アルミニウムの溶融が始まると、アルミニウムの溶融は入熱した箇所から周囲へ素早く拡がる。また、図9に示すように、アルミニウムの溶融量が増え、接合界面におけるアルミニウムの濃度が75%付近まで増えると、FeAl又はFeAlなどのアルミニウムを多く含む脆弱な金属間化合物が生成されるおそれがある。この問題は、接合界面の内、アルミニウムに近い領域で起こる。また、脆弱な金属間化合物をより多く含む領域は、機械的強度の劣る部位となり、想定されている荷重で変形してしまうおそれがある。
【0006】
これに対して、接合界面において溶融した鉄とアルミニウムを撹拌すると、接合界面における金属間化合物が均一に分散され、機械的強度が改善される。しかし、鉄の融点に相当する温度でアルミニウムを加熱すると、突沸が起こり、安定して撹拌することが難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、材料の融点よりも低い温度で軟化した材料を撹拌することで、材料を均一に拡散し、より機械的強度の大きい金属間化合物を生成するように、接合界面を制御する溶接方法及び溶接システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、第1の融点を有する第1の材料からなる第1の部材と第2の融点を有する第2の材料からなる第2の部材とを溶接する溶接方法は、
前記第1の部材と前記第2の部材を突き合せた状態で、前記第1の部材において前記第2の部材に隣接する第1の領域と、前記第2の部材において前記第1の部材に隣接する第2の領域とにそれぞれ第1のレーザと第2のレーザを照射して、前記第1の材料と前記第2の材料をそれぞれ軟化させる加熱工程と、
前記加熱工程で軟化された前記第1の材料を撹拌し、前記加熱工程で軟化された前記第2の材料に混合して、金属間化合物を生成する撹拌工程と、を含み、
前記第1の部材における前記第1のレーザの照射領域は、斜めに開先加工された斜面で形成されており、
前記第2の部材の端部は、対向方向に直交する垂直面で構成されていることを特徴とする。


【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軟化された第1の材料と第2の材料を攪拌することで、より機械的強度の大きい金属間化合物を生成し、均一に拡散させる溶接方法を提供できる。この方法により形成される部材は優れた靭性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1に係る溶接システムの概略構成を示す正面図である。
図2図1に示す溶接システムのブロック図である。
図3図1に示す溶接システムの概略構成を示す斜視図である。
図4】第1の部材と第2の部材の溶融池を示す断面図である。
図5】実施形態2に係る溶接システムの概略構成を示す斜視図である。
図6】実施形態3に係る溶接システムの概略構成を示す斜視図である。
図7】鉄-炭素の状態図である。
図8】アルミニウム-マグネシウムの状態図である。
図9】鉄-アルミニウムの状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明に係る溶接方法の実施形態を説明する。
【0012】
[溶接システム]
図1は実施形態1に係る溶接方法を実施するための溶接システムの概要を示す。図示する溶接システム10は、溶接対象12を支持する下部構造14と、2つの金属部材からなる溶接対象12にレーザを照射する上部構造16を有する。
【0013】
下部構造14は、建物の床等に固定された基台18と、基台18の上に配置された移動テーブル20と、移動テーブル20の上に配置された支持テーブル22を有する。支持テーブル22は、溶接対象12を支持する水平支持面24を備えている。支持テーブル22はまた、水平支持面24に支持されている溶接対象12を固定するための治具26を備えている。移動テーブル20は、テーブル移動モータ28に連結されており、モータ28の駆動に基づいて、支持テーブル22を水平支持面24に平行で図の左右方向に伸びる方向(x方向)に移動させることができるように構成されている。
【0014】
実施形態では、支持テーブル22は、その内部に冷媒を輸送する空間の冷媒輸送路30が形成されている。冷媒は、空気又は適当な液体のいずれかであってもよい。冷媒輸送路30は冷媒循環路(管路)32を介して冷却器34に接続されている。冷却器34は、冷媒循環路32を介して冷媒輸送路30に冷媒を輸送し、また、冷媒輸送路30から冷媒循環路32を介して冷媒を回収するためのポンプ36と、回収された冷媒を再び冷却する熱交換器38を備えている。
【0015】
上部構造16は、図1の手前側から奥側に向かう方向(y方向)に並んで配置されている2つの加熱装置を有する。加熱装置はそれぞれレーザ加工機40A,40Bを有する。レーザ加工機40A,40Bはそれぞれ加工用レーザ発振器42A,42Bを有する。レーザ発振器42A,42Bから出力されるレーザ44A,44Bは、YAGレーザ、CO2レーザ、その他のレーザのいずれであってもよい。レーザ加工機40Bとそれに関連する構成は図3にのみ示す。
【0016】
上部構造16は、2つの金属部材を含む溶接対象12を摩擦撹拌接合(Frictio Stir Welding)するための撹拌装置46を有する。撹拌装置46は、上方から下方に(z方向に)向かって伸びる棒状の撹拌回転工具48を有する。撹拌回転工具48は、例えば、SKD(合金工具鋼)、ニッケル合金、コバルト合金、タングステンカーバイドで形成されており、z方向に伸びる軸を中心に回転するように工具回転モータ50に連結される。工具回転モータ50は、撹拌回転工具48と共に、z方向に移動できるように、工具移動モータ52に連結されている。したがって、撹拌回転工具48は、上述のレーザ照射により軟化する溶接対象12に上方から挿入され、溶接対象12内において回転するように構成されている。
【0017】
実施形態では、移動テーブル20は、+x方向(図1における右側)に移動するように構成されている。したがって、溶接システム10は、テーブル移動モータ28の駆動に基づいて、レーザ44A,44Bと撹拌回転工具48に対して溶接対象12を図上右側から左側に移動させ、これにより、レーザ44A,44Bの照射位置と撹拌回転工具48の撹拌位置を溶接対象12に対して移動させるように構成されている。
【0018】
上述したテーブル移動モータ28、ポンプ36、レーザ発振器42A,42B、工具回転モータ50、及び工具移動モータ52は、コントローラ54に接続されている。コントローラ54はまた、記憶部56に接続されている(図2参照)。したがって、コントローラ54は、記憶部56に記憶されているプログラム又はデータに基づいて上述の機器を駆動し、所定の溶接加工を行うことができる。具体的に、溶接システム10で行うことができる種々の溶接加工について説明する。
【0019】
[実施形態1]
実施形態1において、溶接対象12は、図3に示すように、y方向に突き合わせた2つの部材、すなわち第1の部材62Aと第2の部材62Bを含む。図面上、第1の部材62Aと第2の部材62Bは共に四角形の板状部材であるが、その組み合わせに限るものではない。
【0020】
実施形態1では、第1の部材62Aは炭素鋼(鉄)で形成されている。第2の部材62Bはアルミマグネシウム合金(アルミニウム)で形成されている。
【0021】
第1の部材62Aと第2の部材62Bは、第1の部材62Aを右、第2の部材62Bを左に配置し、第1の部材62Aの直線状端面(第1の端面)と第2の部材62Bの直線状端面(第2の端面)を突き合せ、突き合せた直線状端面をx方向に沿って配置した状態で、適当な治具26によって固定されている(図1参照)。
【0022】
第1の部材62Aと第2の部材62Bは、突き合せた端面に隣接し且つこれに沿って延在する第1のレーザ照射領域64Aと第2のレーザ照射領域64Bを有する。第1と第2のレーザ照射領域64A,64Bは、レーザ44A,44Bがそれぞれ照射される領域である。
【0023】
溶接時、コントローラ54は記憶部56に記憶されている溶接プログラムを読み出し、そのプログラムにしたがってテーブル移動モータ28、レーザ発振器42A,42B、工具回転モータ50、及び工具移動モータ52を駆動する。これにより、レーザ発振器42A,42Bから出力されたレーザ44A,44Bは、z方向から第1のレーザ照射領域64Aと第2のレーザ照射領域64Bにそれぞれ照射される。レーザ44A,44Bの照射位置66A,66Bは、テーブル移動モータ28の駆動に基づいて第1の部材62Aと第2の部材62Bを含む溶接対象12が+x方向に移動することにより、溶接対象12に対して相対的に-x方向に移動する。
【0024】
レーザ発振器42A,42Bが発するレーザ44A,44Bの光強度は第1の部材62Aと第2の部材62Bの材質に応じて決まり、第1の部材62Aと第2の部材62Bのレーザ照射領域64A,64Bはそれぞれ所定の温度まで加熱される。この温度は、部材を構成している原子が熱的な活性化過程によって拡散することによりそれぞれのレーザ照射領域の材料が軟化する温度である。
【0025】
例えば、第1の部材62Aが鉄(鉄の融点は摂氏1538度である。)の場合、第1の部材62は約摂氏900度まで加熱される。また、第2の部材62Bがアルミニウム(アルミニウムの融点は摂氏660度である。)の場合、第2の部材62Bは約摂氏500度まで加熱される。
【0026】
図7は、第1の部材62Aの材質である炭素鋼の状態図である。炭素鋼は、温度や炭素の比率に応じて、フェライト(α鉄)やオーステナイト(γ鉄)などの形態になることが知られている。フェライトは鉄原子で形成される体心立方格子構造を有している。一方、オーステナイトは鉄原子で形成される面心立方格子構造を有している。オーステナイトにおける鉄原子同士の間隔がフェライトに比べて広いため、他の原子(例えば炭素原子)の侵入が起こり易い。すなわち、オーステナイトに変化した第1の部材62Aは、第2の部材62Bの材質であるアルミマグネシウム合金とも混ざり易い。
【0027】
図7に示す領域72は、炭素鋼がオーステナイトになることを示す。一方、領域74は、フェライトとオーステナイトが混在していることを示す。実施例として、第1の部材62Aの材質である炭素鋼の炭素含有量が約0.2%であるとき、炭素鋼が、加熱されることにより領域74から領域72に移り、オーステナイトに完全に変化する(オーステナイト変態が開始する)温度は約900℃である。したがって、レーザ発振器42Aが発するレーザ44Aの光強度を、この温度に応じて決めることにより、第1の部材62Aは第2の部材62Bと混ざり易くなる。
【0028】
図8は、第2の部材62Bの材質であるアルミマグネシウム合金の状態図である。アルミマグネシウム合金は、温度やマグネシウムの比率に応じて、アルミニウムの固溶体になることが知られている。このとき、他の原子(例えばマグネシウム原子)の侵入が起こり易い。すなわち、アルミニウムの固溶体に変化した第2の部材62Bは、第1の部材62Aの材質である炭素鋼とも混ざり易い。
【0029】
図8に示す領域76は、アルミマグネシウム合金が固溶体になることを示す。実施例として、第2の部材62Bの材質であるアルミマグネシウム合金のマグネシウム含有量が約5.6%であるとき、温度が約300~550℃である限り、アルミマグネシウム合金は固溶体である。したがって、例えばアルミマグネシウム合金の温度が500℃になるように、レーザ発振器42Bが発するレーザ44Bの光強度を決めることにより、第2の部材62Bは第1の部材62Aと混ざり易くなる。
【0030】
第1の部材62Aと第2の部材62Bは、上述の温度までそれぞれ加熱されることにより混ざり易くなる、すなわち軟化した状態になる。
【0031】
この状態で、撹拌装置46の撹拌回転工具48は、工具回転モータ50の駆動に基づいて回転しながら、工具移動モータ52の駆動に基づいて、軟化した第1の部材62Aの第1のレーザ照射領域64Aに上方から挿入される。回転数は、好ましくは約2000rpmである。これにより、軟化した第1の部材62Aが撹拌され、この撹拌された第1の部材62Aが、軟化した隣接する第2の部材62Bと混合されて、第1の部材62Aと第2の部材62Bの境界に図4に示す溶融池78が形成される。
【0032】
上述のように、撹拌回転工具48は第1のレーザ照射領域64Aに挿入されて第1の部材62Aを撹拌する。したがって、第1のレーザ照射領域64Aにおいて軟化した第1の部材62Aに第2のレーザ照射領域64Bにおいて軟化した第2の部材62Bが混じり、鉄原子の割合がアルミニウム原子の割合よりも多い金属間化合物(例えば、図9に示すFeAl、FeAl、FeAlなど)が生成される。当業者に知られているように、FeAl、FeAl、FeAlなどの金属間化合物は、FeAl、FeAlなどの金属間化合物に比べて機械的強度が大きい。また、機械的強度が小さい金属間化合物FeAl、FeAlが一部に生成されたとしても、撹拌回転工具48が溶融池78を撹拌することにより、それらの金属間化合物は均一に分散されるため、接合界面に脆い領域が生じることがない。
【0033】
上述のレーザ溶接中、冷却器34のポンプ36が連続的に駆動され、冷媒が、冷媒循環路32を介して、冷媒輸送路30に供給される(図1参照)。これにより、支持テーブル22を介して溶接対象12がその下面から冷却され、特に第2の部材62Bが過度に加熱されないように制御される。
【0034】
[実施形態2]
図5に示す実施形態2の溶接システム110において、溶接対象の第1の部材と第2の部材は、同一又はほぼ同一の外径を有する略円柱状の第1の部材162Aと第2の部材162Bである。第1の部材162Aと第2の部材162Bの材質はそれぞれ、実施形態1の第1の部材と第2の部材と同じ、炭素鋼とアルミマグネシウム合金である。
【0035】
第1の部材162Aと第2の部材162Bはそれぞれ、中心軸を同一直線上に整列させて端面を合わせた状態で適当な手段によって中心軸の周りを回転可能に支持される。第1の部材162Aと第2の部材162Bはまた、第1のモータ168Aと第2のモータ168Bにそれぞれ連結されており、同一方向に同一速度で、又は同一方向に異なる速度で、若しくは異なる方向に同一速度又は異なる速度で回転するようにしてある。
【0036】
レーザ加工機140A,140Bは、第1の部材162Aと第2の部材162Bの突き合せ面を挟んでその両側に配置されており、レーザ加工機140A,140Bのレーザ発振器142A,142Bから出射されるレーザ144A,144Bがそれぞれ、第1の部材162Aにおいて第2の部材162Bに隣接する領域(第1のレーザ照射領域164A)内の第1のレーザ照射位置166Aと、第2の部材162Bにおいて第1の部材162Aに隣接する領域(第2のレーザ照射領域164B)内の第2のレーザ照射位置166Bとに照射されるように設定されている。
【0037】
撹拌装置146は、撹拌回転工具148と、これに連結された工具回転モータ150を備えており、撹拌回転工具148の先端を第1のレーザ照射領域164Aに対向させた状態で支持されている。撹拌装置146はまた、撹拌回転工具148を第1のレーザ照射領域164Aに向けて進退させる工具移動モータ152を備えている。
【0038】
このように構成された実施形態2において、溶接時、第1のモータ168Aと第2のモータ168Bの駆動に基づいて、第1の部材162Aと第2の部材162Bは、それらの中心軸を中心に同一方向又は異なる方向に回転される。この状態で、レーザ加工機140A,140Bは、第1の部材162Aと第2の部材162Bの第1のレーザ照射領域164Aと第2のレーザ照射領域164Bに第1のレーザ144Aと第2のレーザ144Bをそれぞれ照射し、第1のレーザ照射領域164Aと第2のレーザ照射領域164Bの材料を加熱して軟化させる。この状態で、工具回転モータ150と工具移動モータ152を駆動し、回転する撹拌回転工具148の先端を、軟化した第1のレーザ照射領域164Aの材料に挿入してこれを回転撹拌する。また、第1の部材162Aの材料の回転撹拌に、軟化した第2の部材162Bの材料が引き込まれ、これにより、第1の部材162Aと第2の部材162Bの境界領域において第1の部材162Aの材料に第2の部材162Bの材料が混じり、鉄原子の割合がアルミニウム原子の割合よりも多い金属間化合物(例えば、FeAl、FeAl、FeAlなど)が生成される。
【0039】
このように、実施形態2によれば、第1のレーザ144Aと第2のレーザ144Bは、第1の部材162Aと第2の部材162Bの第1のレーザ照射領域164Aと第2のレーザ照射領域164Bを繰り返し加熱し、この繰り返し加熱された材料が撹拌回転工具148によって撹拌される。そのため、第1の部材162Aと第2の部材162Bが素早くかつ効率良く加熱されて撹拌される。また、第1の部材162Aと第2の部材162Bの回転速度を変えることにより、また、両者を逆方向に回転することによって、軟化した第1の部材162Aと第2の部材162Bが効率良く撹拌される。
【0040】
[実施形態3]
図6に示す実施形態3の溶接システム210は、実施形態1の溶接システムの変形例で、そこでは、第1の部材262Aにおける第1のレーザ照射領域264Aの端部(第2の部材262Bに対向する部分)は斜めに開先加工された斜面280Aで形成されており、第2の部材262Bの端部(第1の部材262Aに対向する端部)は対向方向に直交する垂直面280Bで構成されている。その他の構成は実施形態1と同じである。したがって、実施形態1の装置又は箇所と同じ又は対応する装置又は箇所には、実施形態1の符号に「200」を加えた符号を付して、説明を省略する。
【0041】
このように構成された実施形態3によれば、第1の部材262Aの第1のレーザ照射領域264A(斜面280A)に照射されたレーザ244Aは、第1のレーザ照射領域264A(斜面280A)で反射してこれに対向する第2の部材262Bの第2のレーザ照射領域264B(垂直面280B)に入射されて該第2のレーザ照射領域264Bを加熱する。また、第2のレーザ照射領域264B(垂直面280B)で反射したレーザ244Aは再び第1のレーザ照射領域264A(斜面280A)に入射して該第1のレーザ照射領域264Aを加熱する。したがって、実施形態3によれば、第1のレーザ照射領域264Aと第2のレーザ照射領域264Bが共に効率良く加熱される。したがって、第1の部材の斜面280Aの傾斜角度は、そこに照射されたレーザが第2の部材に向けて反射される角度(例えば、45度)とすることが好ましい。
【0042】
上述した実施形態3は実施形態1に適用し、実施形態1における第1の部材の第1のレーザ照射領域を斜面で形成し、この斜面に第1のレーザを照射してもよい。この場合も、実施形態3と同様の効果が得られる。
【0043】
上述した実施形態1~3では、第1の部材が炭素鋼(鉄)、第2の部材がアルミマグネシウム合金(アルミニウム)であったが、本発明の適用はその組み合わせに限るものでない。例えば、第1の部材と第2の部材が共に鉄又はアルミニウムであってもよく、他の金属であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
10:溶接システム
40A,40B:加熱装置(レーザ加工機)
44A,44B:レーザ
46:撹拌装置
62A:第1の部材
62B:第2の部材
64A:第1のレーザ照射領域
64B:第2のレーザ照射領域
図1
図2
図3
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図7
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図9