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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
F01L1/356 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019133100
(22)【出願日】2019-07-18
(65)【公開番号】P2021017833
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】佐野 創
(72)【発明者】
【氏名】大竹 智晴
(72)【発明者】
【氏名】彌永 英臣
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/092390(WO,A1)
【文献】特開2016-017417(JP,A)
【文献】国際公開第2015/064572(WO,A1)
【文献】特開2012-189050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/34- 1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸芯を中心に内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体、
前記回転軸芯と同軸芯、かつ、前記駆動側回転体の内側に配置され、前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体、及び、
前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の相対回転位相を設定する位相調節機構、を備え、
前記位相調節機構は、
前記回転軸芯と同軸芯で前記従動側回転体に設けられた出力ギヤ、
前記回転軸芯と平行姿勢の偏心軸芯で回転し、前記駆動側回転体に連結される入力ギヤ、
前記入力ギヤを内周側から支持し、前記入力ギヤを回転させる筒状の偏心部材、
前記従動側回転体の内周と前記偏心部材の外周との間に配置される第一軸受、
前記回転軸芯に沿う方向で前記第一軸受に対して前記カムシャフトより遠い側で前記入力ギヤの内周と前記偏心部材の外周との間に配置される第二軸受、及び、
前記偏心部材の外周側と前記第二軸受の内周側との間において、前記偏心部材の周方向に沿い配置され、前記入力ギヤの一部を前記出力ギヤの一部に噛み合わせるように前記入力ギヤに付勢力を作用させる弾性部材、を含み、
前記偏心部材の回転で前記偏心軸芯を公転させて前記出力ギヤと前記入力ギヤとの噛み合い位置を変化させるように構成されており、
前記偏心部材は、前記周方向に沿い外周面に形成された一つの第一凹部を有し、
前記弾性部材は、前記周方向に沿って組み合わされた一対のバネ部材で構成されており、一対の前記バネ部材はそれぞれ、
前記第一凹部の底面で支持される被支持部、
前記被支持部に支持されており、前記付勢力を生ずる弾性変形部、及び、
前記弾性変形部に支持されており、前記入力ギヤに前記付勢力を作用させる付勢部、を有しており、
前記弾性変形部が前記付勢力を生ずる際には、一対の前記バネ部材のそれぞれの前記被支持部が前記周方向における異なる箇所で前記第一凹部に支持される弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記弾性部材は、前記偏心軸芯の軸方向において異なり、当該軸方向から視て重複する二箇所で前記入力ギヤに前記付勢力を作用させる請求項1に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項3】
前記弾性変形部は、
前記被支持部に一端を支持された湾曲部と、
前記湾曲部の他端に支持された直線部と、を有し、
前記被支持部と前記直線部とは、前記偏心部材の径方向視で少なくとも一部が重複する請求項1又は2に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項4】
前記偏心部材は、前記第一凹部の前記底面のうち前記偏心軸芯の軸方向から視た一方側の端部と他方側の端部に前記湾曲部の湾曲形状に沿って形成された第二凹部を有し、
前記第一凹部は前記被支持部を収容し、
前記第二凹部は、前記湾曲部の一部を収容する請求項3に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項5】
それぞれの前記被支持部は、前記偏心軸芯の軸方向視で少なくとも一部が重複する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁開閉時期制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関においてクランク軸からのトルク伝達によりカム軸が開閉する動弁のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置(弁開閉時期制御装置の一例)が記載されている。このバルブタイミング調整装置は、第一内歯車部を形成された第一回転体、第一内歯車部と同軸上に第二内歯車部を形成された第二回転体(本願の出力ギヤに相当)、第一及び第二内歯車部に対し偏心する第一外歯車部を形成し、この第一歯車部が偏心側で第一内歯車部と噛合しつつ遊星運動する第一遊星歯車、第一及び第二内歯車部に対し第一外歯車部と反対側へ偏心する第二外歯車部を形成し、この第二歯車部が偏心側で第二内歯車部と噛合しつつ遊星運動する第二遊星歯車(本願の入力ギヤに相当)、第一及び第二内歯車部に対し第一外歯車部と同一側へ偏心する外周面を有し、当該外周面により第一遊星歯車を同軸支持する遊星キャリア、及び、当該外周面に保持され、第二遊星歯車を第二外歯車部の偏心側へ付勢し且つ遊星キャリアを当該外周面の偏心側へ付勢する弾性部材、を備えている。
【0003】
このバルブタイミング調整装置における、遊星キャリアの外周面のうちカム軸側の軸方向端部を含む部分には、それぞれ弾性部材を個別に保持する保持孔(本願の第一凹部に相当)が、遊星キャリアの周方向における異なる二箇所に開口している。これら二つの弾性部材は、それぞれ断面が概ねV字状を呈する金属製の板バネであり、対応する保持孔と第二遊星歯車の中心孔との間に挟持されている。二つの弾性部材は、内周側から第二遊星歯車を遊星運動可能に支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-189050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような弁開閉時期制御装置では、二つの第一凹部にそれぞれ弾性部材を保持しているため、それぞれの弾性部材における入力ギヤに作用させる付勢力のバランス調整が難しい。付勢力のバランス調整が適切に行われなければ、入力ギヤと出力ギヤとのバックラッシュが拡大し、異音を生じてしまう。そこで、容易に静音化可能な弁開閉時期制御装置の提供が望まれる。
【0006】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、容易に静音化可能な弁開閉時期制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成は、回転軸芯を中心に内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体、前記回転軸芯と同軸芯、かつ、前記駆動側回転体の内側に配置され、前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体、及び、前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の相対回転位相を設定する位相調節機構、を備え、前記位相調節機構は、前記回転軸芯と同軸芯で前記従動側回転体に設けられた出力ギヤ、前記回転軸芯と平行姿勢の偏心軸芯で回転し、前記駆動側回転体に連結される入力ギヤ、前記入力ギヤを内周側から支持し、前記入力ギヤを回転させる筒状の偏心部材、前記従動側回転体の内周と前記偏心部材の外周との間に配置される第一軸受、前記回転軸芯に沿う方向で前記第一軸受に対して前記カムシャフトより遠い側で前記入力ギヤの内周と前記偏心部材の外周との間に配置される第二軸受、及び、前記偏心部材の外周側と前記第二軸受の内周側との間において、前記偏心部材の周方向に沿い配置され、前記入力ギヤの一部を前記出力ギヤの一部に噛み合わせるように前記入力ギヤに付勢力を作用させる弾性部材、を含み、前記偏心部材の回転で前記偏心軸芯を公転させて前記出力ギヤと前記入力ギヤとの噛み合い位置を変化させるように構成されており、前記偏心部材は、前記周方向に沿い外周面に形成された一つの第一凹部を有し、前記弾性部材は、前記周方向に沿って組み合わされた一対のバネ部材で構成されており、一対の前記バネ部材はそれぞれ、前記第一凹部の底面で支持される被支持部、前記被支持部に支持されており、前記付勢力を生ずる弾性変形部、及び、前記弾性変形部に支持されており、前記入力ギヤに前記付勢力を作用させる付勢部、を有しており、前記弾性部材が前記付勢力を生ずる際には、一対の前記バネ部材のそれぞれの前記被支持部が前記周方向における異なる箇所で前記第一凹部に支持される点にある。
【0008】
上記構成によれば、一つの第一凹部に弾性部材を収容し、かつ、その第一凹部の底面で被支持部を保持しているため、弾性部材が安定保持される。そのため、弾性部材が入力ギヤに作用させる付勢力のバランスが乱れにくい。これにより、入力ギヤと出力ギヤとのバックラッシュの拡大を防止し、弁開閉時期制御装置を静音化できる。
【0009】
上記構成によれば、二つのバネ部材により付勢力を生じさせることができる。この場合、双方のバネ部材は一つの第一凹部で支持されるため、一対のバネ部材が一体の弾性部材として入力ギヤに作用させる付勢力のバランスが乱れにくい。すなわち、それぞれのバネ部材の付勢力のバラつきを抑制し、一体の弾性部材として入力ギヤに作用させる付勢力のバランス調整を容易にすることができる。さらに、弾性部材が入力ギヤに付勢力を作用させる際には、弾性部材が偏心部材の周方向における異なる二箇所で支持されるため、弾性部材は、付勢力に対する反力をこれら二箇所に分散させて受けることができる。これにより、弾性部材の弾性力の調整、すなわち、入力ギヤに作用させる付勢力のバランス調整を容易にすることができる。そのため弁開閉時期制御装置を静音化できる。なお、付勢力のバランス調整とは、弁開閉時期制御装置の組み立て時における、初期値としての付勢力の調整、使用時(可動時)の付勢力のバラつきの調整(抑制)、及び、使用に伴う劣化や変動の調整(抑制)の意味合いを包含する。
【0010】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の更なる特徴構成は、前記弾性部材は、前記偏心軸芯の軸方向において異なり、当該軸方向から重複する二箇所で前記入力ギヤに前記付勢力を作用させる点にある。
【0011】
上記構成によれば、弾性部材が偏心部材の軸方向において異なる(軸方向の前後)二箇所で入力ギヤを付勢するため、弾性部材は、付勢力をこれら二箇所に分散することができる。これにより、弾性部材の弾性力の調整、すなわち、入力ギヤに作用させる付勢力のバランス調整を容易にすることができる。そのため弁開閉時期制御装置を静音化できる。
【0012】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の更なる特徴構成は、前記弾性変形部は、前記被支持部に一端を支持された湾曲部と、前記湾曲部の他端に支持された直線部と、を有し、前記被支持部と前記直線部とは、前記偏心部材の径方向視で少なくとも一部が重複する点にある。
【0013】
上記構成によれば、湾曲部である弾性変形部を径方向に弾性変形させて付勢力を生じさせることができる。
【0014】
上記構成によれば、湾曲部が付勢力に対する反力によりU字形状の底部分の曲率半径が小さくなるように変形し、また、U字形状の底部分が偏心部材に近接する向きに移動した場合、例えば上述の第二凹部が第一凹部に形成されていれば、U字形状の底部分の一部が第二凹部に収容可能である。これにより湾曲部全体の変形が許容され、特に湾曲部の一部の局所的な変形が防止されるため、弾性部材の耐久性が向上する。
【0015】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の更なる特徴構成は、前記偏心部材は、前記第一凹部の前記底面のうち前記偏心軸芯の軸方向から視た一方側の端部と他方側の端部に前記湾曲部の湾曲形状に沿って形成された第二凹部を有し、前記第一凹部は前記被支持部を収容し、前記第二凹部は、前記湾曲部の一部を収容する点にある。
【0016】
上記構成によれば、第二凹部に湾曲部を収容できるため湾曲部の曲率半径を大きくすることができる。これにより湾曲部全体の変形が許容され、かつ、湾曲部全体の緩やかな変形で、弾性部材は十分な荷重を受け止めることができる。これにより湾曲部の局所的な変形が防止されるため、弾性部材の耐久性が向上する。したがって、弾性部材の劣化や破損による付勢力のバランスの乱れを防止して弁開閉時期制御装置を静音化できる。
【0019】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の更なる特徴構成は、それぞれの前記被支持部は、前記偏心軸芯の軸方向視で少なくとも一部が重複する点にある。
【0020】
上記構成によれば、軸方向における異なる二箇所の位置、かつ、周方向における同じ二箇所の位置で入力ギヤを付勢することができる。これにより、偏心部材の周方向において弾性部材をコンパクトにできる。また、周方向における付勢力のバラつきを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】弁開閉時期制御装置の断面図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3図1のIII-III線断面図である。
図4図1のIV-IV線断面図である。
図5】弁開閉時期制御装置の分解斜視図である。
図6】第一凹部、第二凹部、及び一対のバネ部材周囲の部分拡大断面図である。
図7】一対のバネ部材の斜視図である。
図8】フロントプレートの凸部周囲の部分拡大断面図である。
図9】フロントプレートと第二軸受近傍の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
〔基本構成〕
図1に示すように、本実施形態に係る弁開閉時期制御装置100は、内燃機関としてのエンジンEのクランクシャフト1と同期回転する駆動側回転体A、吸気バルブ2B(弁の一例)を開閉する吸気カムシャフト2(カムシャフトの一例)、回転軸芯Xを中心にして吸気カムシャフト2と一体回転する従動側回転体B、及び、位相制御モータM(電動アクチュエータの一例)の駆動力により駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定する位相調節機構Cを備えている。
【0024】
エンジンEは、シリンダブロックに形成された複数のシリンダ3にピストン4を収容し、そのピストン4をコネクティングロッド5によりクランクシャフト1に連結した4サイクル型に構成されている。このエンジンEのクランクシャフト1の出力スプロケット1Sと、駆動側回転体Aの駆動スプロケット11Sとに亘ってタイミングチェーン6(タイミングベルト等でも良い)が巻回されている。
【0025】
これによりエンジンEの稼働時には弁開閉時期制御装置100の全体が回転軸芯Xを中心に回転する。また、位相制御モータMの駆動力により位相調節機構Cを作動させ駆動側回転体Aに対して従動側回転体Bを回転方向と同方向又は逆方向に変位可能となる。この位相調節機構Cでの変位により駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定し、吸気カムシャフト2のカム部2Aによる吸気バルブ2Bの開閉時期(開閉タイミング)の制御が実現する。
【0026】
なお、従動側回転体Bが駆動側回転体Aの回転方向と同方向に変位する作動を進角作動と称し、この進角作動により吸気圧縮比が増大する。また、従動側回転体Bが駆動側回転体Aと逆方向に変位する作動(進角作動とは逆方向への作動)を遅角作動と称し、この遅角作動により吸気圧縮比が低減する。
【0027】
〔弁開閉時期制御装置〕
図1に示すように、駆動側回転体Aは、外周に駆動スプロケット11Sが形成されたアウタケース11と、フロントプレート12と、を複数の締結ボルト13で締結して構成されている。アウタケース11は、底部に開口を有する有底筒状型である。
【0028】
図1から図4に示すように、アウタケース11の内部空間に従動側回転体Bとしての中間部材20(図2等参照)と、ハイポトロコイド型のギヤ減速機構を有した位相調節機構C(図3等参照)とが収容されている。また、位相調節機構Cは、位相変化を駆動側回転体A及び従動側回転体Bに反映するオルダム継手Cx(図4等参照)を備えている。
【0029】
従動側回転体Bを構成する中間部材20は、回転軸芯Xに直交する姿勢で吸気カムシャフト2に連結する支持壁部21と、回転軸芯Xを中心とする筒状で吸気カムシャフト2から離間する方向に突出する筒状壁部22とが一体形成されている。
【0030】
この中間部材20は、筒状壁部22の外面がアウタケース11の内面に接触する状態で相対回転自在に嵌め込まれ、支持壁部21の中央の貫通孔に挿通する連結ボルト23により吸気カムシャフト2の端部に固定される。このように固定された状態で筒状壁部22の外側(吸気カムシャフト2より遠い側)の端部がフロントプレート12より内側に位置するように構成されている。
【0031】
図1図5に示すように、筒状壁部22の外周側には溝部22aが全周にわたって形成されている。溝部22aにより筒状壁部22の外面とアウタケース11の内面との間においてオイルの保持性が向上する。これにより、筒状壁部22とアウタケース11との摩擦力が低減されて、中間部材20がアウタケース11に対し滑らかに回転するようになる。
【0032】
図1に示すように、位相制御モータM(電動モータ)は、その出力軸Maを回転軸芯Xと同軸芯上に配置するように支持フレーム7によりエンジンEに支持されている。位相制御モータMの出力軸Maには回転軸芯Xに対して直交する姿勢の一対の係合ピン8が形成されている。
【0033】
〔位相調節機構〕
図1図5に示すように、位相調節機構Cは、中間部材20と、中間部材20の筒状壁部22の内周面に形成される出力ギヤ25と、偏心部材26と、弾性部材Sと、第一軸受28と、第二軸受29と、入力ギヤ30と、固定リング31と、リング状のスペーサ32と、オルダム継手Cxとを備えて構成されている。なお、第一軸受28と第二軸受29とにはボールベアリングが使用されるが、ブッシュを用いることも可能である。
【0034】
図1に示すように、中間部材20の筒状壁部22の内周のうち、回転軸芯Xに沿う方向(以下、軸方向と記載する)で内側(支持壁部21に隣接する位置)に回転軸芯Xを中心とする支持面22Sが形成され、支持面22Sより外側(吸気カムシャフト2より遠い側)に回転軸芯Xを中心とする出力ギヤ25が一体的に形成されている。
【0035】
図1図2及び図5に示すように、偏心部材26は筒状である。偏心部材26は、軸方向での内側(吸気カムシャフト2に近い側)に回転軸芯Xを中心とする外周面の円周支持面26Sが形成されている。図1図3及び図5に示すように、偏心部材26は、外側(吸気カムシャフト2より遠い側)に回転軸芯Xに平行となる姿勢で偏心する偏心軸芯Yを中心とする外周面の偏心支持面26Eが形成されている。偏心軸芯Yに沿う方向は軸方向と同一であるため、以下では、偏心軸芯Yに沿う方向についても単に軸方向と記載する。
【0036】
偏心支持面26Eには、図6に示すように、偏心部材26の径方向に沿い、内側に向けて窪む第一凹部70が形成されている。第一凹部70の底面には偏心部材26の周方向における両端に、偏心部材26の径方向軸側に向けて窪む一対の第二凹部79,79が形成されている。本実施形態では、第一凹部70は周方向において対称(図6中において左右対称)である。
【0037】
第二凹部79,79は、それぞれ、第一凹部70における、偏心部材26の周方向におけるそれぞれの端部に形成されている。偏心部材26の径方向における、第二凹部79,79の底面の最大深さは、第一凹部70における偏心部材26の周方向中央付近の底面の深さよりも深い。偏心部材26の周方向における第二凹部79,79のそれぞれの底面から端部に到るまでの面は、後述するバネ部材71の湾曲部73の湾曲形状に沿う形状に形成されている。
【0038】
第一凹部70には、後述するように弾性部材Sが嵌め込まれている。第一凹部70、第二凹部79、及び弾性部材Sの関係については弾性部材Sについての説明と共に後述する。
【0039】
図1図5に示すように、偏心部材26の内周には、位相制御モータM(図1参照)の一対の係合ピン8の各々が係合可能な一対の係合溝26Tが回転軸芯Xと平行姿勢で形成されている。更に、偏心部材26の内側(支持壁部21の側)には径方向に沿う姿勢の複数の第一潤滑油溝26a(図1参照)が形成され、外側(吸気カムシャフト2より遠い側)には径方向に沿う姿勢の複数の第二潤滑油溝26bが形成されている。なお、偏心部材26には、第一潤滑油溝26aと第二潤滑油溝26bとの一方だけ形成しても良い。これら第一潤滑油溝26aと第二潤滑油溝26bの数は任意に設定しても良い。
【0040】
図5に示すように、偏心部材26の外側(吸気カムシャフト2より遠い側)の開口端の内周側には、係合溝26Tの両側部分に内側(吸気カムシャフト2に違い側)に向けて径が小さくなるテーパ部26c(傾斜部分)が形成されている。位相制御モータMの一対の係合ピン8を偏心部材26の係合溝26Tに係合させる際に、テーパ部26cにより係合ピン8が係合溝26Tに案内されるので、位相制御モータMと偏心部材26との係合作業が容易になる。
【0041】
この偏心部材26は、図1図2に示すように円周支持面26Sに第一軸受28を外嵌し、この第一軸受28を筒状壁部22の支持面22Sに嵌め込むことにより、中間部材20に対し回転軸芯Xを中心に回転自在に支持される。また、入力ギヤ30は、図1図3に示すように偏心部材26の偏心支持面26Eに対し第二軸受29を介して偏心軸芯Yを中心に回転自在に支持される。
【0042】
この位相調節機構Cでは、入力ギヤ30の外歯部30Aの歯数が、出力ギヤ25の内歯部25Aの歯数より1歯だけ少なく設定されている。そして、入力ギヤ30の外歯部30Aの一部が出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に噛合する。
【0043】
弾性部材Sは、入力ギヤ30の外歯部30Aの一部を出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に噛み合わせるように、第二軸受29を介して入力ギヤ30に付勢力を作用させる。これにより、入力ギヤ30と出力ギヤ25とのバックラッシュの拡大を防ぎ、異音を防止することができる。またこれにより、入力ギヤ30及び出力ギヤ25の耐久性を向上させることができる。
【0044】
弾性部材Sは、一対のバネ部材71,71を含む。本実施形態では、一対のバネ部材71,71はそれぞれ、同一の形状、かつ、同一の大きさである。
【0045】
バネ部材71は、図7に示すように、バネ板材を曲げ加工などにより、所定の形状に成形したものである。バネ部材71は、被支持部72と、被支持部72に一端を支持された弾性変形部Lとを有する。弾性変形部Lは、被支持部72に一端を支持された湾曲部73と、湾曲部73の他端に一端を支持された付勢片部74のうちの板部分74aとを有する。被支持部72、湾曲部73、及び付勢片部74は、一体のバネ板材であるバネ部材71の一部であり、被支持部72、湾曲部73、及び付勢片部74の区別は本実施形態を説明するための便宜である。
【0046】
被支持部72は、図6に示すように、第一凹部70に嵌り、偏心部材26に支持される、バネ部材71の土台部分である。被支持部72は、第一凹部70の底面に沿うように湾曲した板材である。被支持部72は、後述する湾曲部73の一端と連続し、湾曲部73を支持している。被支持部72は、湾曲部73側から見た他端側に、偏心部材26の周方向において湾曲部に向く方向に切り欠いた切欠部72aを有する。切欠部72aは、本実施形態では、軸方向における一端側に形成されている。
【0047】
湾曲部73は、図6図7に示すように、バネ部材71のうち、バネ板材をU字形状に屈曲した形状の部分である。湾曲部73は、弾性変形することでバネ部材71として付勢力を生ずる主要部分である。上述のごとく、湾曲部73は、一端を被支持部72に支持されている。図6図7には、被支持部72と湾曲部73との境目を境界Qとして示している。境界Qは、後述するように、バネ部材71の支点ないし固定点である。
【0048】
付勢片部74は、バネ部材71のうち、第二軸受29を介して入力ギヤ30を付勢する部分である。付勢片部74は、図7に示すように、湾曲部73の他端と連続し、湾曲部73に一端を支持されている。付勢片部74は、平板状(直線状)の板部分74a(直線部の一例)、板部分74aから偏心部材26に近接する向きに屈曲する頂部74b(付勢部の一例)、頂部74bから平板状に延出する先端部74c、及び、板部分74aにおける湾曲部73側の他端側に、偏心部材26の周方向に沿う方向に(頂部74bの側から湾曲部73側に向けて)切り欠いた切欠部74dを有する。切欠部74dは、本実施形態では、軸方向における切欠部72aとは他端側に形成されている。
【0049】
一対のバネ部材71,71は、図6に示すように、互いに逆向きに(偏心部材26の径方向に沿う線対称で)組み合わせて一体の弾性部材Sとして、一つの第一凹部70に嵌め込まれる。この際、一対のバネ部材71,71は、それぞれの湾曲部73,73が離間し、それぞれの付勢片部74,74同士、及びそれぞれの被支持部72,72同士が近接する位置関係となるように第一凹部70に嵌め込まれる。また一対のバネ部材71,71は、それぞれの付勢片部74,74の頂部74b,74bが第二軸受29(入力ギヤ30)に対向する状態で、被支持部72,72を第一凹部70に嵌め込まれる。このように一つの第一凹部70で弾性部材Sを保持しているため、弾性部材Sが入力ギヤ30に作用させる付勢力のバランスが乱れにくい。
【0050】
一対のバネ部材71,71は、第一凹部70に嵌め込まれた状態で、偏心部材26の周方向で、一方のバネ部材71における付勢片部74の先端部74cの先端と、他方のバネ部材71における付勢片部74の切欠部74dの先端とを近接させつつ所定距離だけ離間させている。また、一方のバネ部材71における被支持部72の先端と、他方のバネ部材71における被支持部72の切欠部72aの先端とを近接させつつ所定距離だけ離間させている。このようにそれぞれを所定距離だけ離間させることで、後述するような、湾曲部73,73のU字形状の両辺が近接するような(曲率半径が小さくなるような)弾性変形をしても、一方のバネ部材71における付勢片部74の先端部74cの先端と、他方のバネ部材71における付勢片部74の切欠部74dの先端との衝突、及び、一方のバネ部材71における被支持部72の先端と、他方のバネ部材71における被支持部72の切欠部72aの先端との衝突を回避している。これら衝突の回避により、金属粉などの発生を防止して耐久性を向上し、動作不良を防止することができる。
【0051】
一対のバネ部材71,71が第一凹部70に嵌め込まれた状態で、湾曲部73の一部は第二凹部79に嵌る(収容される)。湾曲部73を収容する第二凹部79が設けられることで、湾曲部73の曲率半径を大きくして湾曲部73の局所的な変形を防止し、耐久性を向上させることができる。
【0052】
一対のバネ部材71,71が第一凹部70に嵌め込まれた状態で、それぞれの頂部74b,74bは軸方向視で重複する。換言すると、それぞれの頂部74b,74bは偏心部材26の径方向において同じ位置であり、かつ、それぞれ軸方向の前後に配置される。この状態で、一対のバネ部材71,71は、異なる二箇所、すなわち頂部74b,74bに付勢力を分散して第二軸受29(入力ギヤ30)を付勢するため、弾性部材Sの弾性力や付勢力のバラつきの調整が容易になる。また、弾性部材Sをコンパクト化できる。
【0053】
一対のバネ部材71,71(弾性部材S)が第一凹部70に嵌め込まれ、頂部74b,74bが第二軸受29(入力ギヤ30)に当接して付勢する状態になると、湾曲部73,73は反力により、そのU字形状の両辺が近接するように(曲げ半径が小さくなるように)全体が弾性変形し、入力ギヤ30から離間する。この際、板部分74a,74aにも反力が作用するので、板部分74a,74aにおける先端部74c(頂部74b)側が、入力ギヤ30から離間するように撓み変形する場合がある。なお、湾曲部73,73及び板部分74a,74aは第二軸受29と、常に離間している。
【0054】
頂部74bが第二軸受29(入力ギヤ30)に当接して付勢する状態で、同じバネ部材71における板部分74aと被支持部72とは軸方向視で少なくとも一部が重複している。これにより、頂部74bからの反力を被支持部72で支持することができる。これに加えて、一方のバネ部材71における板部分74aと他方のバネ部材71における被支持部72とも軸方向視で少なくとも一部が重複している。これにより、一対のバネ部材71,71でバランスよく第二軸受29(入力ギヤ30)を支持することができる。
【0055】
頂部74b,74bが第二軸受29(入力ギヤ30)に当接して付勢する状態で、それぞれのバネ部材71,71の支点(固定点)は、それぞれの境界Q,Q(異なる二箇所の一例)の偏心部材26における周方向前後近傍の領域である。このように、弾性部材Sが、偏心部材26の周方向における異なる二箇所で第一凹部70に支持されることで、付勢力のバラつきを小さくすることができる。すなわち、弾性部材Sは、付勢力に対する反力をこれら二箇所(境界Q,Qの近傍)に分散することができる。これにより、弾性部材Sの弾性力の調整、すなわち、入力ギヤ30に作用させる付勢力のバランス調整を容易にすることができる。なお、本実施形態における支点(固定点)とは、バネ部材71が頂部74bにより第二軸受29(入力ギヤ30)に付勢力を加えた場合に、その反力で偏心部材26を付勢する状態で偏心部材26に当接した状態を維持する部分のことを言う。
【0056】
図1図5に示すように、固定リング31は、偏心部材26の外周に嵌合状態で支持されることにより第二軸受29の抜け止めを行う。
【0057】
〔位相調節機構:オルダム継手〕
図1図4図5に示すように、オルダム継手Cxは、中央の環状部41と、この環状部41から第一方向(図4では左右方向)に沿って径方向外方に突出する一対の外部係合アーム42と、環状部41から第一方向に直交する方向(図4では上下方向)に沿って径方向外方に突出する内部係合アーム43とを一体形成した板状の継手部材40で構成されている。一対の内部係合アーム43の各々には環状部41の開口に連なる係合凹部43aが形成されている。
【0058】
アウタケース11のうち、フロントプレート12が当接する開口縁部にはアウタケース11の内部空間から外部空間に亘り、回転軸芯Xを中心に半径方向に伸びる一対の案内溝部11aが貫通溝状に形成されている。この案内溝部11aの溝幅が外部係合アーム42の幅より僅かに広く設定され、各々の案内溝部11aには一対の排出流路11bが切欠き形成されている。なお、排出流路11bを、フロントプレート12に対して径方向に潤滑油を流すように形成しても良い。
【0059】
アウタケース11の開口縁部において、案内溝部11a以外の部位には、周方向に沿い内周側が切り欠かれた一つ以上のポケット部11cが形成されている。ポケット部11cには、駆動側回転体Aの回転による遠心力を受けて外周側に移動する異物が回収される。図5には、4つのポケット部11cが形成されている場合を図示している。
【0060】
また、入力ギヤ30のうちフロントプレート12に対向する端面には一対の係合突起30Tが一体形成されている。この係合突起30Tの係合幅が内部係合アーム43の係合凹部43aの係合幅より僅かに狭く設定されている。
【0061】
このような構成から、継手部材40の一対の外部係合アーム42を、アウタケース11の一対の案内溝部11aに係合させ、継手部材40の一対の内部係合アーム43の係合凹部43aに、入力ギヤ30の一対の係合突起30Tを係合させることによりオルダム継手Cxを機能させることが可能となる。
【0062】
なお、継手部材40がアウタケース11に対して外部係合アーム42が伸びる第一方向(図4で左右方向)に変位可能となり、この継手部材40に対して内部係合アーム43の係合凹部43aの形成方向に沿う第二方向(図4では上下方向)に入力ギヤ30が変位自在となる。
【0063】
図1図5に示すように、スペーサ32は、第二軸受29が軸方向に移動可能な隙間の距離を所定の設定値以下にする。オルダム継手Cx(継手部材40)と第二軸受29との間にスペーサ32が備えられることで、軸方向において第二軸受29の移動は、所定の設定値以下の距離に制限される。これにより、入力ギヤ30の係合突起30Tとフロントプレート12との接触を防止することができる。
【0064】
〔弁開閉時期制御装置の各部の配置〕
組み立て状態の弁開閉時期制御装置100は、図1に示すように吸気カムシャフト2の端部に中間部材20の支持壁部21が連結ボルト23により連結しており、これらは一体回転する。偏心部材26は第一軸受28により中間部材20に対して回転軸芯Xを中心に相対回転自在に支持される。図1図3に示すように、この偏心部材26の偏心支持面26Eに対し第二軸受29を介して入力ギヤ30が支持され、この入力ギヤ30の外歯部30Aの一部が出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に噛み合う。
【0065】
更に、図4に示すようにオルダム継手Cxの外部係合アーム42がアウタケース11の一対の案内溝部11aに係合し、オルダム継手Cxの内部係合アーム43の係合凹部43aに入力ギヤ30の係合突起30Tが係合する。図1に示すようにオルダム継手Cxの継手部材40の外方側にフロントプレート12が配置されるため、継手部材40はフロントプレート12の内面に接触する状態で回転軸芯Xに対して直交する方向に移動可能となる。この配置により、オルダム継手Cxは、第一軸受28及び第二軸受29の双方より外側(吸気カムシャフト2より遠い側)で、フロントプレート12より内側(吸気カムシャフト2に近い側)に配置される。
【0066】
そして、図1から図3に示すように、位相制御モータMの出力軸Maに形成された一対の係合ピン8が、偏心部材26の係合溝26Tに係合する。
【0067】
〔位相調節機構の作動形態〕
図面には示していないが位相制御モータMはECUとして構成される制御装置によって制御される。エンジンEにはクランクシャフト1と吸気カムシャフト2との回転速度(単位時間あたりの回転数)と、各々の回転位相とを検知可能なセンサを備えており、これらのセンサの検知信号が制御装置に入力するように構成されている。
【0068】
制御装置は、エンジンEの稼動時において位相制御モータMを吸気カムシャフト2の回転速度と等しい速度で駆動することで相対回転位相を維持する。これに対して位相制御モータMの回転速度を吸気カムシャフト2の回転速度より低減することにより進角作動が行われ、これとは逆に回転速度が増大することにより遅角作動が行われる。前述したように進角作動により吸気圧縮比が増大し、遅角作動により吸気圧縮比が低減する。
【0069】
位相制御モータMがアウタケース11と等速(吸気カムシャフト2と等速)で回転する場合には、出力ギヤ25の内歯部25Aに対する入力ギヤ30の外歯部30Aの噛み合い位置が変化しないため、駆動側回転体Aに対する従動側回転体Bの相対回転位相は維持される。
【0070】
これに対してアウタケース11の回転速度より高速又は低速で位相制御モータMの出力軸Maを駆動回転することにより、位相調節機構Cでは偏心軸芯Yが回転軸芯Xを中心に公転する。この公転により出力ギヤ25の内歯部25Aに対する入力ギヤ30の外歯部30Aに対する噛み合い位置が出力ギヤ25の内周に沿って変位し、入力ギヤ30と出力ギヤ25との間には回転力が作用する。つまり、出力ギヤ25には回転軸芯Xを中心とする回転力が作用し、入力ギヤ30には偏心軸芯Yを中心に自転させようとする回転力が作用する。
【0071】
前述したように入力ギヤ30は、その係合突起30Tが継手部材40の内部係合アーム43の係合凹部43aに係合するためアウタケース11に対して自転することはなく、回転力が出力ギヤ25に作用する。この回転力の作用により出力ギヤ25と共に中間部材20が、アウタケース11に対し回転軸芯Xを中心に回転する。その結果、駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定し、吸気カムシャフト2による開閉時期の設定を実現する。
【0072】
また、入力ギヤ30の偏心軸芯Yが回転軸芯Xを中心に公転する際には、入力ギヤ30の変位に伴い、オルダム継手Cxの継手部材40は、アウタケース11に対して外部係合アーム42が伸びる方向(第一方向)に変位し、入力ギヤ30は、内部係合アーム43が伸びる方向(第二方向)へ変位する。
【0073】
前述したように入力ギヤ30の外歯部30Aの歯数が、出力ギヤ25の内歯部25Aの歯数より1歯だけ少なく設定されているため、入力ギヤ30の偏心軸芯Yが回転軸芯Xを中心に1回転だけ公転した場合には、1歯分だけ出力ギヤ25が回転することになり大きい減速を実現している。
【0074】
〔位相調節機構の潤滑〕
図1に示すように、吸気カムシャフト2には外部のオイルポンプPからの潤滑油が油路形成部材9を介して供給される潤滑油路15を形成している。中間部材20の支持壁部21のうち、吸気カムシャフト2に当接する面の一部には偏心部材26の内部にオイルを案内する開口部21aが形成されている。
【0075】
前述したように偏心部材26には複数の第一潤滑油溝26aと複数の第二潤滑油溝26bが形成されている(図1図5を参照)。また、フロントプレート12のうち継手部材40と対向する面には、継手部材40の表面との間に径方向に沿って僅かな隙間となる潤滑凹部12aが形成されている。なお、この潤滑凹部12aはフロントプレート12の内周側に形成されているが、フロントプレート12の外周に達する領域に形成されるものでも良く、潤滑凹部12aを省略してフロントプレート12と継手部材40との隙間に潤滑油を供給するように構成しても良い。
【0076】
前述したように案内溝部11aには一対の排出流路11bが形成されている(図4図5を参照)。更に、フロントプレート12の開口12bの開口径を、偏心部材26の内径より充分に大きくすることにより、フロントプレート12の開口縁と偏心部材26の内周との間に段差Gが形成されている。
【0077】
この構成から、オイルポンプPから供給される潤滑油は、吸気カムシャフト2の潤滑油路15から、中間部材20の支持壁部21の開口部21aを介して偏心部材26の内部空間に供給される。このように供給された潤滑油は、遠心力により偏心部材26の第一潤滑油溝26aから第一軸受28に供給され第一軸受28を円滑に作動させる。
【0078】
これと同時に、偏心部材26の内部空間の潤滑油は遠心力により第二潤滑油溝26bから継手部材40に供給されると共に、第二軸受29に供給され、出力ギヤ25の内歯部25Aと入力ギヤ30の外歯部30Aとの間に供給される。
【0079】
また、図1に示すように第二潤滑油溝26bからの潤滑油は、潤滑凹部12aによりフロントプレート12と継手部材40との間に供給されると共に、継手部材40の外部係合アーム42とアウタケース11の案内溝部11aとの間の隙間に供給される。これにより、継手部材40を円滑に作動させる。そして、この継手部材40に供給された潤滑油は、継手部材40の外部係合アーム42とアウタケース11の案内溝部11aとの間の隙間から外部に排出される。
【0080】
特に、フロントプレート12の開口縁と偏心部材26の内周との間に段差Gが形成されているため、エンジンEが停止した場合には偏心部材26の内部空間の潤滑油をフロントプレート12の開口12bから排出し、内部に残留する潤滑油の油量を低減できる。なお、弁開閉時期制御装置100の内部に潤滑油が多く残留する場合には、寒冷の環境でエンジンEを始動した後に、潤滑油の粘性の影響により位相調節機構Cの作動が抑制されることになるが、エンジンEの停止時に潤滑油を排出することにより、このような不都合を解消できる。
【0081】
更に、案内溝部11aに排出流路11bが形成されているため、寒冷の環境で停止状態にあるエンジンEを始動する際には、遠心力によって内部の潤滑油を、排出流路11bを介して迅速に排出できるため、粘性の高い潤滑油を短時間のうちに排出し、潤滑油の粘性の影響を排除して位相調節機構Cの迅速な作動を可能にする。
【0082】
フロントプレート12には、図5図8に示すように、内側(吸気カムシャフト2に近い側)の面に、内側に向けて突出する凸部12cが形成されている。凸部12cは、中間部材20と摺接可能な程度に軽く当接させている。中間部材20は、凸部12cと当接することでフロントプレート12に近づく側への移動を規制される。これにより、オルダム継手Cx(継手部材40)はフロントプレート12と中間部材20との間において所定の間隔が保持された状態で、オルダム継手Cxを円滑(滑らかに)に作動させることができる。
【0083】
〔実施形態の作用・効果〕
この構成では、中間部材20の内部に第一軸受28と第二軸受29とを比較的近接する位置に配置でき、しかも、オルダム継手Cxの継手部材40が板材で構成されるため弁開閉時期制御装置100の軸方向での小型化を実現する。
【0084】
また、偏心部材26を第一軸受28により中間部材20の内周の支持面22Sに支持し、偏心部材26の偏心支持面26Eに第二軸受29を介して入力ギヤ30を支持している。このため弾性部材Sの付勢力が偏心部材26の姿勢を変化させる方向に作用しても偏心部材26の円周支持面26S外面の全周が第一軸受28により中間部材20の内周に抱き込まれるように保持し、偏心部材26と中間部材20との位置関係を維持できる。
【0085】
特に、この構成では、弾性部材Sの付勢力が偏心部材26と中間部材20との間にだけ作用し、外部の部材に作用しないため、例えば、弾性部材Sの付勢力に対する外部の部材の変形や変位を考慮せずに済み、偏心部材26の姿勢維持を一層高い精度で行える。
【0086】
また、偏心部材26の端部に潤滑油を流すための第一潤滑油溝26aと第二潤滑油溝26bとを形成することにより、オルダム継手Cxを円滑に作動させ、第一軸受28と第二軸受29との円滑な作動を行わせ、出力ギヤ25の内歯部25Aと入力ギヤ30の外歯部30Aと噛合を円滑に行わせ、位相制御モータMに作用する負荷を軽減する。このように第一潤滑油溝26aと第二潤滑油溝26bとを形成することで潤滑油が必要な箇所に潤滑油を供給するため潤滑油を無駄にすることがなく潤滑油量の低減も可能となる。
【0087】
特に、オルダム継手Cxを構成する継手部材40とフロントプレート12との間に潤滑油を供給することで、継手部材40の作動を円滑に行わせることになり、位相制御モータMに作用する負荷の一層の軽減が可能となる。
【0088】
位相調節機構Cでは、出力ギヤ25の内歯部25Aと入力ギヤ30の外歯部30Aとの噛合部に強い力が作用するため、この部位で塵埃が発生することもある。しかしながら、潤滑油が流れる方向でこの噛合部より下流側に軸受が配置されていないため、塵埃等の影響を排除して軸受の傷みを抑制することも可能にする。
【0089】
特に、この構成では遠心力により潤滑油を排出できるため、塵埃や異物等の排出を行えるだけでなく、エンジンEの停止時にも潤滑油を積極的に排出するため、内部に塵埃や異物等を内部に残留させることもない。
【0090】
〔別実施形態〕
(1)上記の実施形態では、位相調節機構Cは、中間部材20と、中間部材20の筒状壁部22の内周面に形成される出力ギヤ25と、偏心部材26と、弾性部材Sと、第一軸受28と、第二軸受29と、入力ギヤ30と、固定リング31と、リング状のスペーサ32と、オルダム継手Cxとを備えて構成されている場合を例示し、スペーサ32は、第二軸受29の軸方向の移動を所定の設定値以下の距離に制限し、入力ギヤ30の係合突起30Tとフロントプレート12との接触を防止することができることを説明した。しかし、入力ギヤ30の係合突起30Tとフロントプレート12との接触防止は上記態様に限られない。
【0091】
例えば、図9に示すように、リング状のスペーサ32に加えて、もしくはリング状のスペーサ32に代えて、軸方向における第二軸受29の内輪29aのフロントプレート12側の側面を外輪29bの側面よりも突出させてもよい。このようにしても、第二軸受29の軸方向の移動を所定の設定値以下の距離に制限し、入力ギヤ30の係合突起30Tとフロントプレート12との接触を防止することができる。図9には、リング状のスペーサ32に代えて、軸方向における第二軸受29の内輪29aのフロントプレート12側の側面を外輪29bの側面よりも突出させた場合を示している。
【0092】
(2)上記実施形態では、弾性部材Sが一対のバネ部材71,71を含み、一対のバネ部材71はそれぞれ、被支持部72、被支持部72に一端を支持された湾曲部73、及び湾曲部73の他端に一端を支持された付勢片部74を有する場合を例示して説明した。しかしながら、弾性部材Sは一対のバネ部材71,71を含む場合に限られない。
【0093】
弾性部材Sは少なくとも、一対の湾曲部73,73を有していればよい。弾性部材Sは、たとえば、被支持部72,72に代えて一体の被支持部を有し、被支持部と湾曲部73,73との境目を境界Q,Qとして支点ないし固定点する場合もある。また、付勢片部74,74に代えて一体の付勢部を有し、頂部74b,74bで第二軸受29(入力ギヤ30)を付勢するかわりに、一体の付勢部の一つの頂部で第二軸受29(入力ギヤ30)を付勢してもよい。
【0094】
(3)上記実施形態では、湾曲部73は、バネ部材71のうち、バネ板材をU字形状に屈曲した形状の部分である場合を例示して説明した。しかし、湾曲部73はバネ板材をU字形状に屈曲したものである場合に限られない。例えば、バネ板材をU字形状に屈曲したものに代えて、湾曲部73としてねじりコイルバネを用いてもよい。この場合も、第二凹部79,79のそれぞれの底面から端部に到るまでの面を、湾曲部73のコイル部分の形状に沿う形状に形成するとよい。
【0095】
(4)上記実施形態では、一対のバネ部材71,71は、第一凹部70に嵌め込まれた状態で、偏心部材26の周方向で、一方のバネ部材71における付勢片部74の先端部74cの先端と、他方のバネ部材71における付勢片部74の切欠部74dの先端とを近接させつつ所定距離だけ離間させている場合を説明した。しかしながら、一方のバネ部材71における付勢片部74の先端部74cの先端と、他方のバネ部材71における付勢片部74の切欠部74dの先端とは、必ずしも近接させつつ所定距離だけ離間させる態様に限られない。
【0096】
その他の態様としては、一対のバネ部材71,71が第一凹部70に嵌め込まれる際、一方のバネ部材71における付勢片部74の先端部74cの先端部を、他方のバネ部材71における付勢片部74の切欠部74dの先端部と偏心部材26の径方向視で重複させる場合がある。たとえば、偏心部材26の径方向において、先端部74cの先端部が切欠部74dの先端部よりも外側(第二軸受29に近接する側)になるように配置してもよい。このようにすることで、一方の切欠部74dの先端を他方の付勢片部74の先端部74cの先端部で径方向において拘束し、第一凹部70に嵌め込まれた状態で安定的に付勢力を維持できると共に、湾曲部73,73のU字形状の両辺が近接するような弾性変形をしても、一方のバネ部材71における付勢片部74の先端部74cの先端と、他方のバネ部材71における付勢片部74の切欠部74dの先端との接触を回避できる。
【0097】
(5)上記実施形態では、一対のバネ部材71,71は、第一凹部70に嵌め込まれた状態で、一方のバネ部材71における被支持部72の先端と、他方のバネ部材71における被支持部72の切欠部72aの先端とを隣接させつつ所定距離だけ離間させている場合を説明した。しかしながら、一方のバネ部材71における被支持部72の先端と、他方のバネ部材71における被支持部72の切欠部72aの先端とは、必ずしも隣接させつつ所定距離だけ離間させる態様に限られない。
【0098】
その他の態様としては、一対のバネ部材71,71が第一凹部70に嵌め込まれる際、一方のバネ部材71における被支持部72の先端を、他方のバネ部材71における被支持部72の切欠部72aの先端と偏心部材26の径方向視で重複させる場合がある。例えば、偏心部材26の径方向において、切欠部72aの先端が被支持部72の先端よりも外側(第二軸受29に近接する側)になるように配置してもよい。このようにすることで、一方の被支持部72の先端を他方の切欠部72aの先端で径方向において拘束し、第一凹部70に嵌め込まれた状態を安定的に維持できると共に、湾曲部73,73のU字形状の両辺が近接するような弾性変形をしても、一方のバネ部材71における被支持部72の先端と、他方のバネ部材71における被支持部72の切欠部72aの先端との接触を回避することができる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、弁開閉時期制御装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 :クランクシャフト
2 :吸気カムシャフト(カムシャフト)
2B :吸気バルブ(弁)
11 :アウタケース
12 :フロントプレート
20 :中間部材
25 :出力ギヤ
26 :偏心部材
28 :第一軸受
29 :第二軸受
30 :入力ギヤ
70 :第一凹部
71 :バネ部材
72 :被支持部
73 :湾曲部
74 :付勢片部
74a :板部分(直線部)
74b :頂部(付勢部)
79 :第二凹部
100 :弁開閉時期制御装置
A :駆動側回転体
B :従動側回転体
C :位相調節機構
L :弾性変形部
Q :境界
S :弾性部材
X :回転軸芯
Y :偏心軸芯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9