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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/22 20060101AFI20231212BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B60C9/22 C
B60C9/22 B
B60C9/00 B
B60C9/00 C
B60C9/00 D
B60C9/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019136593
(22)【出願日】2019-07-25
(65)【公開番号】P2021020490
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前川 奈津希
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 益任
(72)【発明者】
【氏名】紀田 擁軍
(72)【発明者】
【氏名】繆 冬
(72)【発明者】
【氏名】岡部 昇
(72)【発明者】
【氏名】栗原 駿
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-116644(JP,A)
【文献】特開2005-075291(JP,A)
【文献】特開2004-306725(JP,A)
【文献】特開2019-107948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/00
B60C 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド、一対のサイドウォール、一対のビード、カーカス及びバンドを備えており、
それぞれのサイドウォールが、上記トレッドの端から半径方向略内向きに延びており、
それぞれのビードが、上記サイドウォールよりも軸方向内側に位置しており、
上記カーカスが、上記トレッド及び上記サイドウォールの内側に沿って一方のビードと他方のビードとの間に架け渡されており、
上記バンドが上記カーカスと上記トレッドとの間に位置し、かつこのバンドに上記トレッドが積層されており、
上記バンドが、引張り弾性率Mが6000MPa以上であるコードと、このコードを覆うトッピングゴムとを含んでおり、
上記コードと上記トレッドとの間の距離Lが0.15mm以上であり、
上記距離L(mm)と上記コードの引張り弾性率M(MPa)との比(L/M)が、1.3×10-5以上である空気入りタイヤ。
【請求項2】
上記コードが、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維及びレーヨン繊維からなる群から選択された1種又は2種以上の繊維からなる請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
トレッド、一対のサイドウォール、一対のビード、カーカス及びバンドを備えており、
それぞれのサイドウォールが、上記トレッドの端から半径方向略内向きに延びており、
それぞれのビードが、上記サイドウォールよりも軸方向内側に位置しており、
上記カーカスが、上記トレッド及び上記サイドウォールの内側に沿って一方のビードと他方のビードとの間に架け渡されており、
上記バンドが上記カーカスと上記トレッドとの間に位置し、かつこのバンドに上記トレッドが積層されており、
上記バンドが、引張り弾性率Mが6000MPa以上であるコードと、このコードを覆うトッピングゴムとを含んでおり、
上記コードと上記トレッドとの間の距離Lが0.05mmより大きく、
上記距離L(mm)と上記コードの引張り弾性率M(MPa)との比(L/M)が、1.3×10 -5 以上であり、
上記コードがポリエチレンテレフタレート繊維からなる空気入りタイヤ。
【請求項4】
トレッド、一対のサイドウォール、一対のビード、カーカス及びバンドを備えており、
それぞれのサイドウォールが、上記トレッドの端から半径方向略内向きに延びており、
それぞれのビードが、上記サイドウォールよりも軸方向内側に位置しており、
上記カーカスが、上記トレッド及び上記サイドウォールの内側に沿って一方のビードと他方のビードとの間に架け渡されており、
上記バンドが上記カーカスと上記トレッドとの間に位置し、かつこのバンドに上記トレッドが積層されており、
上記バンドが、ポリエチレンテレフタレート繊維からなるコードと、このコードを覆うトッピングゴムとを含んでおり、
上記コードと上記トレッドとの間の距離Lが0.05mmより大きく、
上記距離L(mm)と上記コードの引張り弾性率M(MPa)との比(L/M)が、1.3×10-5以上である空気入りタイヤ。
【請求項5】
上記距離Lが0.15mm以上である請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。詳細には、本発明は、バンドを有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な空気入りタイヤは、トレッドとベルトとの間に、バンドを有している。このバンドは、コードとトッピングゴムとを有している。このコードは、実質的に周方向に巻かれている。このコードは、ベルトを拘束する。高速走行時には、ベルトに遠心力が働く。バンドのコードがベルトを拘束するので、このベルトに遠心力がかかっても、リフティングが生じない。このタイヤは、耐久性に優れる。バンドはさらに、タイヤの静寂性、操縦安定性等にも寄与しうる。バンドを有するタイヤが、特開2008-49880公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-49880公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
過酷な条件でタイヤが使用されると、バンドのコードとトレッドとの間に局部的な剥離が生じる。剥離が生じたタイヤは、もはや使用に耐えない。剥離が生じにくいタイヤが、望まれている。
【0005】
本発明の目的は、耐久性に優れた空気入りタイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る空気入りタイヤは、トレッド、一対のサイドウォール、一対のビード、カーカス及びバンドを有する。それぞれのサイドウォールは、トレッドの端から半径方向略内向きに延びる。それぞれのビードは、サイドウォールよりも軸方向内側に位置する。カーカスは、トレッド及び上記サイドウォールの内側に沿って、一方のビードと他方のビードとの間に架け渡されている。バンドは、カーカスとトレッドとの間に位置し、かつこのバンドにトレッドが積層されている。バンドは、有機繊維からなるコードと、このコードを覆うトッピングゴムとを含んでいる。このコードとトレッドとの間の距離Lは、0.05mmより大きい。
【0007】
好ましくは、バンドのコードは、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維及びレーヨン繊維からなる群から選択された1種又は2種以上の繊維からなる。好ましくは、このコードは、ポリエチレンテレフタレート繊維からなる。
【0008】
好ましくは、距離Lは、0.15mm以上である。
【0009】
好ましくは、距離L(mm)と、バンドのコードの引張り弾性率M(MPa)との比(L/M)は、1.3×10-5以上である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る空気入りタイヤでは、バンドのコードとトレッドとの間の剥離が生じにくい。このタイヤは、耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
図2図2は、図1のタイヤのバンドのためのリボンの一部が示された斜視図である。
図3図3は、図1のタイヤの一部が示された拡大図である。
図4図4は、図3のタイヤの一部が示された拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0013】
図1には、空気入りタイヤ2が示されている。図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面CLに対して対称である。
【0014】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のウイング6、一対のサイドウォール8、一対のクリンチ10、一対のビード12、カーカス14、ベルト16、バンド18、インナーライナー20及び一対のチェーファー22を有している。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。このタイヤ2は、乗用車に装着される。
【0015】
トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド4は、路面と接地するトレッド面24を形成する。トレッド4には、溝26が刻まれている。この溝26により、トレッドパターンが形成されている。トレッド4は、ベース層28とキャップ層30とを有している。キャップ層30は、ベース層28の半径方向外側に位置している。キャップ層30は、ベース層28に積層されている。ベース層28は、接着性に優れた架橋ゴムからなる。ベース層28の典型的な基材ゴムは、天然ゴムである。キャップ層30は、耐摩耗性、耐熱性及びグリップ性に優れた架橋ゴムからなる。トレッド4が、アンダートレッド層を有してもよい。アンダートレッド層は、ベース層28とバンド18との間に位置しうる。
【0016】
ベース層28の複素弾性率E1は、1MPa以上15MPa以下が好ましく、2MPa以上8MPa以下が特に好ましい。複素弾性率E1は、「JIS K 6394」の規定に準拠して測定される。測定条件は、以下の通りである。
粘弾性スペクトロメーター:岩本製作所の「VESF-3」
初期歪み:10%
動歪み:±1%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:70℃
【0017】
それぞれのサイドウォール8は、トレッド4の端から半径方向略内向きに延びている。このサイドウォール8の半径方向外側端は、トレッド4と接合されている。このサイドウォール8の半径方向内側端は、クリンチ10と接合されている。このサイドウォール8は、耐カット性及び耐候性に優れた架橋ゴムからなる。このサイドウォール8は、カーカス14の損傷を防止する。
【0018】
それぞれのクリンチ10は、サイドウォール8の半径方向略内側に位置している。クリンチ10は、軸方向において、ビード12及びカーカス14よりも外側に位置している。クリンチ10は、耐摩耗性に優れた架橋ゴムからなる。クリンチ10は、タイヤ2が装着されるであろうリムのフランジと、当接する。
【0019】
それぞれのビード12は、クリンチ10の軸方向内側に位置している。ビード12は、コア32と、このコア32から半径方向外向きに延びるエイペックス34とを備えている。コア32はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。エイペックス34は、半径方向外向きに先細りである。エイペックス34は、高硬度な架橋ゴムからなる。
【0020】
カーカス14は、両側のビード12の間に架け渡されており、トレッド4及びサイドウォール8に沿っている。カーカス14は、コア32の周りにて、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この折り返しにより、カーカス14には、主部36と折り返し部38とが形成されている。
【0021】
図示されていないが、カーカス14は、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、75°から90°である。換言すれば、このカーカス14はラジアル構造を有する。コードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。カーカス14が、2以上の層を有してもよい。
【0022】
ベルト16は、トレッド4の半径方向内側に位置している。ベルト16は、カーカス14と積層されている。ベルト16は、カーカス14を補強する。ベルト16は、内側層40及び外側層42からなる。図1から明らかなように、軸方向において、内側層40の幅は外側層42の幅よりも若干大きい。図示されていないが、内側層40及び外側層42のそれぞれは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードは、赤道面に対して傾斜している。傾斜角度の一般的な絶対値は、10°以上35°以下である。内側層40のコードの赤道面に対する傾斜方向は、外側層42のコードの赤道面に対する傾斜方向とは逆である。コードの好ましい材質は、スチールである。コードに、有機繊維が用いられてもよい。ベルト16の軸方向幅は、タイヤ2の最大幅の0.7倍以上が好ましい。ベルト16が、3以上の層を有してもよい。
【0023】
バンド18は、ベルト16の半径方向外側に位置している。軸方向において、バンド18の幅はベルト16の幅よりも大きい。バンド18は、ベルト16の全体を覆っている。
【0024】
ベルト16及びバンド18は、補強層を構成している。バンド18のみから、補強層が構成されてもよい。
【0025】
インナーライナー20は、カーカス14の内側に位置している。インナーライナー20は、カーカス14の内面に接合されている。インナーライナー20は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー20の典型的な基材ゴムは、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。インナーライナー20は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0026】
それぞれのチェーファー22は、ビード12の近傍に位置している。タイヤ2がリムに組み込まれると、このチェーファー22がリムに当接する。この当接により、ビード12の近傍が保護される。図示されていないが、チェーファー22は、布とこの布に含浸したゴムとからなる。
【0027】
図2は、図1のタイヤ2のバンド18のためのリボン44の一部が示された斜視図である。リボン44は、トッピングゴム46と2本のコード48とを含んでいる。このリボン44がベルト16の上に螺旋状に巻かれることで、バンド18が成形される。リボン44が螺旋状なので、コード48も螺旋状である。このバンド18は、いわゆるジョイントレス構造を有する。コード48は、実質的に周方向に延びている。このコード48によりベルト16が拘束されるので、ベルト16のリフティングが抑制される。リボン44が、3本以上のコード48を有してもよい。
【0028】
前述のようにコード48は螺旋状に巻かれるので、厳密にはコード48は周方向に対して若干傾斜している。コード48と周方向とのなす角度の絶対値は、5.0°以下である。本発明では、周方向に対する角度の絶対値が5.0°以下である方向は、「実質的な周方向」とされる。コード48と周方向とのなす角度の絶対値は、2.0°以下が好ましい。
【0029】
図3は、図1のタイヤ2の一部が示された拡大図である。図3には、ベース層28とバンド18とが示されている。前述されたリボン44の螺旋巻きにより、コード48とこのコード48を覆うトッピングゴム46とからなるバンド18が形成される。ベース層28とバンド18とは、直接に積層されている。
【0030】
トッピングゴム46は、ゴム組成物が架橋されることで得られる。ゴム組成物の基材ゴムとして、ポリイソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)及びアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)のような共役ジエン系重合体;並びにエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)及びハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)のような非ジエン系重合体が挙げられる。2種以上のゴムが、併用されてもよい。機械的強度、耐リバージョン、耐熱性及び耐亀裂成長性に優れるとの理由から、ポリイソプレン系ゴム及びSBRが好ましい。
【0031】
ポリイソプレン系ゴムとして、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)及び改質天然ゴムが挙げられる。NRには、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)及び高純度天然ゴム(HPNR)が含まれる。改質天然ゴムとして、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)及びグラフト化天然ゴムが挙げられる。NRの具体例として、SIR20、RSS♯3、TSR20等の、工業的に汎用されているゴムが挙げられる。好ましいポリイソプレン系ゴムは、NR及びIRである。破断伸び及び破断強度に優れるとの理由から、NRが特に好ましい。
【0032】
スチレンブタジエンゴム(SBR)として、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)、及び3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン等により変性された変性SBRが挙げられる。高分子量ポリマー成分が多く、破断時伸びに優れるという理由から、E-SBRが好ましい。
【0033】
基材ゴム全量における共役ジエン系重合体の含有量は10質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上が特に好ましい。この含有率が100質量%であってもよい。
【0034】
基材ゴム全量におけるポリイソプレン系ゴムの含有量は10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上が特に好ましい。この含有率は90質量%以下が好ましく、70質量%以下が特に好ましい。含有率が上記範囲内であるトッピングは、コード48との接着性に優れる。
【0035】
好ましくは、トッピングゴム46のゴム組成物は、硫黄を含む。硫黄により、ゴム分子同士が架橋される。硫黄と共に、又は硫黄に代えて、他の架橋剤が用いられてもよい。電子線によって架橋がなされてもよい。
【0036】
好ましくは、トッピングゴム46のゴム組成物は、硫黄と共に加硫促進剤を含む。このゴム組成物は、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤等を、含みうる。
【0037】
ゴム組成物は、補強剤を含む。典型的な補強剤は、カーボンブラックである。カーボンブラックとして、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック及びサーマルブラックが例示される。
【0038】
ゴム組成物が、補強剤として、カーボンブラックに代えて、又はカーボンブラックと共に、シリカを含んでもよい。シリカとして、乾式法シリカ(無水ケイ酸)及び湿式法シリカ(含水ケイ酸)が例示される。
【0039】
トッピングゴム46のゴム組成物が、軟化剤を含んでもよい。好ましい軟化剤として、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル及び芳香族系プロセスオイルが例示される。
【0040】
トッピングゴム46のゴム組成物に、ステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤、ワックス、架橋助剤等が、必要に応じ添加される。
【0041】
トッピングゴム46の複素弾性率E2は、1MPa以上15MPa以下が好ましく、4MPa以上11MPa以下が特に好ましい。このトッピングゴム46は、コード48から隔離しにくい。トッピングゴム46の複素弾性率E2は、「JIS K 6394」の規定に準拠して測定される。測定条件は、以下の通りである。
粘弾性スペクトロメーター:岩本製作所の「VESF-3」
初期歪み:10%
動歪み:±1%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:70℃
【0042】
コード48は、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維及びレーヨン繊維が挙げられる。2以上の有機繊維が併用されてもよい。
【0043】
特に好ましい有機繊維は、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)である。ポリエチレンテレフタレート繊維からなるコード48の弾性率は、大きい。このコード48は、タイヤ2の高速耐久性及び静寂性に寄与しうる。
【0044】
ポリエチレンテレフタレート繊維からなるコード48は、典型的には、2本の下撚りコードが上撚りされることで得られる。下撚りコードとして、
(1)それぞれの繊度が1100デシテックスである2本のマルチフィラメントを撚った下撚りコード(1100デシテックス/2)
(2)それぞれの繊度が1100デシテックスである3本のマルチフィラメントを撚った下撚りコード(1100デシテックス/3)
(3)それぞれの繊度が1670デシテックスである2本のマルチフィラメントを撚った下撚りコード(1670デシテックス/2)
が例示される。
【0045】
バンド18におけるコード48の密度は、30エンズ/5cm以上が好ましい。このバンド18は、ベルト16をよく抑制しうる。この観点から、この密度は、32エンズ/5cm以上がより好ましく、34エンズ/5cm以上が特に好ましい。この密度は、45エンズ/5cm以下が好ましい。密度は、5cmの幅のバンド18の断面に含まれるコード48断面の数である。この数は、コード48の延在方向と垂直な方向において数えられる。
【0046】
図4は、図3のタイヤ2の一部が示された拡大図である。図4には、ベース層28とバンド18とが示されている。図4において符号Rは、コード48とトレッド4とに挟まれたトッピングの、最も薄い領域である。矢印Lは、領域Rの厚みである。換言すれば、矢印Lは、コード48とトレッド4との間の距離である。本実施形態では、コード48とベース層28との間にて、距離Lが測定される。トレッドがアンダートレッドを有するタイヤでは、コード48とアンダートレッドとの間にて、距離Lが測定される。距離Lは、タイヤ2が切断されて得られる試験片の断面において測定される。本発明に係るタイヤ2では、距離Lは0.05mmより大きい。
【0047】
コード48の弾性率とトッピングゴム46の弾性率との相違に起因して、コード48とトッピングゴム46との界面には、応力が集中する。トッピングゴム46の弾性率とベース層28の弾性率との相違に起因して、トッピングゴム46とベース層28との界面には、応力が集中する。コード48とトッピングゴム46との界面と、トッピングゴム46とベース層28との界面とが近い場合、領域Rに過大の応力が集中し、領域Rのトッピングゴム46が、コード48から剥離する。本発明に係るタイヤ2では、距離Lが0.05mmより大きいので、応力が分散される。このタイヤ2では、トッピングゴム46の、コード48からの剥離が、抑制される。このタイヤ2は、耐久性に優れる。
【0048】
耐久性の観点から、距離Lは0.15mm以上がより好ましく、0.7mm以上が特に好ましい。タイヤ2の軽量の観点から、距離Lは2.0mm以下が好ましく、1.5mm以下が特に好ましい。
【0049】
距離L(mm)とコード48の引張り弾性率M(MPa)との比(L/M)は、1.3×10-5以上が好ましい。比(L/M)がこの範囲内であるタイヤ2では、コード48の弾性率とトッピングゴム46の弾性率との相違に起因する応力集中が大きい場合でも、トッピングゴム46の、コード48からの剥離が抑制されうる。この観点から、比(L/M)は3.0×10-5以上がより好ましく、4.0×10-5以上が特に好ましい。比(L/M)は1.0×10-3以下が好ましい。
【0050】
コード48の引張り弾性率Mは、3000MPa以上が好ましい。引張り弾性率Mがこの範囲内であるコード48は、タイヤ2の高速耐久性及び静寂性に寄与しうる。この観点から、引張り弾性率Mは6000MPa以上がより好ましく、9000MPa以上が特に好ましい。引張り弾性率Mは、15000MPa以下が好ましい。
【0051】
引張り弾性率Mは、「JIS L 1017」に規定された一定荷重時伸び率の試験により測定される。この測定で得られたグラフにおいて、原点と一定荷重時伸び率とを直線で結び、この直線の傾きに基づき弾性率Mが算出される。測定は、23℃の温度下でなされる。
【0052】
このタイヤ2の製造では、複数のゴム部材がアッセンブリーされて、ローカバー(未加硫タイヤ)が得られる。このローカバーが、モールドに投入される。ローカバーの外面は、モールドのキャビティ面と当接する。ローカバーの内面は、ブラダー又は中子に当接する。ローカバーは、モールド内で加圧及び加熱される。加圧及び加熱により、ローカバーのゴム組成物が流動する。加熱によりゴムが架橋反応を起こし、タイヤ2が得られる。
【0053】
本発明では、特に言及がある場合を除き、タイヤ2の各部材の寸法及び角度は、タイヤ2が正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ2に空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤ2には荷重がかけられない。本明細書において正規リムとは、タイヤ2が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。本明細書において正規内圧とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITSAT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。乗用車用タイヤ2の場合は、内圧が180kPaの状態で、寸法及び角度が測定される。
【実施例
【0054】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0055】
[実施例1]
図1に示された構造を有する空気入りタイヤを製作した。このタイヤのサイズは、225/45R17である。このタイヤでは、ベース層の複素弾性率E1は3.0MPaであり、バンドのトッピングゴムの複素弾性率E2は6.0MPaであった。バンドのコードは、ポリエチレンテレフタレート繊維からなる。このコードの引張り弾性率Mは、7900MPaであった。距離Lは、0.15mmであった。
【0056】
[実施例2-4及び比較例1]
距離Lを下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2-4及び比較例1の空気入りタイヤを得た。
【0057】
[実施例5-8及び比較例2]
ナイロン繊維からなるコードをバンドに用い、かつ距離Lを下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例5-8及び比較例2の空気入りタイヤを得た。
【0058】
[接着力の評価]
周方向長さが150mmであり、幅方向長さが25mmである試験片を、タイヤから採取した。この試験片の、ベース層とバンドとの間に切れ込みを形成し、部分的にベース層とバンドとを分離した。切れ込みによって分かれたベース層側及びバンド側のそれぞれを、引張試験機のパラレルチャックにて挟んだ。バンド側を引張速度50mm/minにて周方向に引張って、剥離抗力(N/25mm)を測定した。この結果が、指数として、下記の表1及び2に示されている。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
表1及び2に示されるように、各実施例のタイヤは、接着力に優れる。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る空気入りタイヤは、種々の車両に装着されうる。
【符号の説明】
【0063】
2・・・空気入りタイヤ
4・・・トレッド
6・・・ウイング
8・・・サイドウォール
10・・・クリンチ
12・・・ビード
14・・・カーカス
16・・・ベルト
18・・・バンド
20・・・インナーライナー
22・・・チェーファー
28・・・ベース層
30・・・キャップ層
44・・・リボン
46・・・トッピングゴム
48・・・バンドのコード
図1
図2
図3
図4