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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/183 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
B62D1/183
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019139012
(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2021020583
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健
(72)【発明者】
【氏名】野沢 康行
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-077354(JP,A)
【文献】特開2007-153201(JP,A)
【文献】特開平01-195173(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0111960(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0260761(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵を行うためのステアリング装置であって、
操作を行うための操作部材と、
前記操作部材を、運転者による操作のための位置である通常位置と、前記通常位置よりも前方の格納領域との間で移動させる第一移動機構部と、
前記第一移動機構部を制御する制御部とを備え、
前記格納領域は、前記車両の運転席の前方に配置された車両部材の開口部の内方に位置し、
前記制御部は、前記操作部材の前記格納領域への退避を行う場合、前記第一移動機構部を制御することで、前記操作部材を第一速度で前方に移動させ、前記操作部材と前記車両部材との距離が所定の距離以下になった場合、前記第一速度よりも小さい第二速度で前記操作部材を前方に移動させる、
ステアリング装置。
【請求項2】
さらに、前記操作部材の、前記車両の上下方向の位置を変更させるように前記操作部材を移動させる第二移動機構部を備え、
前記制御部は、前記操作部材の前記格納領域への退避の開始時に、前記第一移動機構部及び前記第二移動機構部を制御することで、前記操作部材の前方への移動と、前記操作部材の上方への移動とを同時に行う初期動作を実行する、
請求項1記載のステアリング装置。
【請求項3】
さらに、前記操作部材の、前記車両の上下方向の位置を変更させるように前記操作部材を移動させる第二移動機構部を備え、
前記制御部は、前記操作部材の前記格納領域への退避の開始時に、前記第一移動機構部及び前記第二移動機構部を制御することで、前記操作部材の上方への移動の後に、前記操作部材の前方への移動を開始する初期動作を実行する、
請求項1記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記初期動作において、前記第一移動機構部を制御することで、前記第二速度よりも大きく、かつ、前記第一速度よりも小さな第三速度で、前記操作部材を前方に移動させ、前記初期動作の終了後に、前記操作部材の移動速度を前記第一速度に変更する、
請求項2または3記載のステアリング装置。
【請求項5】
さらに、前記車両の幅方向に延びる回転軸を中心に、前記操作部材を回転させる回転機構部を備え、
前記制御部は、前記初期動作において、さらに前記回転機構部を制御することで、前記操作部材を、前記操作部材の下端部が上方へ向かうように回転させる、
請求項2~4のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記操作部材の前記格納領域への退避を行う場合、前記操作部材が前記格納領域内の所定の位置に到達したとき、前記第二移動機構部を制御することで、前記操作部材を、前記格納領域内において上方に移動させる、
請求項2~5のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項7】
さらに、前記車両の幅方向に延びる回転軸を中心に、前記操作部材を回転させる回転機構部を備え、
前記制御部は、前記操作部材の前記格納領域への退避の開始時に、前記第一移動機構部及び前記回転機構部を制御することで、前記操作部材の前方への移動と、前記操作部材の回転とを同時に行う初期動作を実行する、
請求項1記載のステアリング装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記格納領域に退避された前記操作部材の前記通常位置への進出を行う場合、前記通常位置に向けた移動を開始した後の前記操作部材が所定の位置に到達したとき、前記第一移動機構部を制御することで移動速度を落とし、かつ、前記第二移動機構部を制御することで、前記操作部材を上方に移動させる、
請求項2~6のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記格納領域に退避された前記操作部材の前記通常位置への進出を行う場合において、前記運転者の指示により前記進出を行う場合、前記運転者の指示によらずに前記進出を行う場合よりも大きい移動速度で前記操作部材を移動させる、
請求項1~8のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイール等の操作部材を移動させることで運転者の前方空間を広げることのできるステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動運転においてシステムが責任をもつ自動運転レベル3以上の状態では、運転者は、車両の操作に責任を持つ必要がないため、ステアリングホイールを持つ必要がなくなる。従って自動運転時にステアリングホイールが移動し運転者の前方の空間が広く確保されれば運転者の快適性を高めることが出来る。例えば特許文献1には、ステアリングホイールをインストルメントパネルの手前の位置まで退避させるステアリングコラムが開示されている。このステアリングコラムでは、車両の衝突等の緊急時には、ステアリングホイールを通常位置まで戻して、エネルギー吸収機構を動作可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2016/0362126号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のステアリングコラムのように、ステアリングホイールを、運転者が操作する場合の位置である通常位置と所定の格納領域との間で移動させる場合、運転者とステアリングホイールとの干渉の問題を考慮する必要がある。例えば、ステアリングホイールをダッシュボードの手前まで退避させる際に、ステアリングホイールとダッシュボードとの間に運転者の指等が挟まれる可能性がある。
【0005】
すなわち、ステアリングホイールの出退が可能な機構を有するステアリング装置では、運転者の快適性の向上と運転者の安全性の確保との両立を図るために、ステアリングホイールをどのように移動させるべきかが課題となる。例えば、ステアリングホイールを格納領域まで退避させる場合、運転者の前方の空間を即座に広げるという観点からは、できるだけ速い速度でかつ直線的に移動させることが好ましい。その一方で、運転者とステアリングホイールとの干渉の可能性を考慮すると、ステアリングホイールはゆっくりと移動することが好ましい。つまり、ステアリングホイールの移動に起因する各種の事情を考慮すると、ステアリングホイールをどのように移動させるかの決定は容易ではない。
【0006】
本発明は、本願発明者らが上記課題に新たに着目することによってなされたものであり、運転者の前方空間を広げることができ、かつ、運転者の安全性を向上させることができるステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るステアリング装置は、車両の操舵を行うためのステアリング装置であって、操作を行うための操作部材と、前記操作部材を、運転者による操作のための位置である通常位置と、前記通常位置よりも前方の格納領域との間で移動させる第一移動機構部と、前記第一移動機構部を制御する制御部とを備え、前記格納領域は、前記車両の運転席の前方に配置された車両部材の開口部の内方に位置し、前記制御部は、前記操作部材の前記格納領域への退避を行う場合、前記操作部材を第一速度で前方に移動させ、前記操作部材と前記車両部材との距離が所定の距離以下になった場合、前記第一速度よりも小さい第二速度で前記操作部材を前方に移動させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、運転者の前方空間を広げることができ、かつ、運転者の安全性を向上させることができるステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係るステアリング装置の外観を示す斜視図である。
図2】実施の形態に係るステアリング装置の機能構成を示すブロック図である。
図3】実施の形態に係る操作部材の退避動作の一例を示す図である。
図4】実施の形態に係る操作部材とダッシュボードに設けられた開口部との大小関係を示す図である。
図5】実施の形態に係るステアリング装置における操作部材の退避動作の概要を示すフロー図である。
図6】実施の形態の変形例1に係る操作部材の退避動作の一部を示す図である。
図7】実施の形態の変形例2に係る操作部材の退避動作の一部を示す図である。
図8】実施の形態に係る操作部材の進出動作の一例を示す図である。
図9】実施の形態に係る操作部材の進出動作における速度制御の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るステアリング装置の実施の形態及びその変形例について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態及び変形例は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態及び変形例で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ及びステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態及び変形例における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0011】
また、図面は、本発明を示すために適宜強調、省略、または比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状、位置関係、及び比率とは異なる場合がある。さらに、以下の実施の形態において、平行及び直交などの、相対的な方向または姿勢を示す表現が用いられる場合があるが、これらの表現は、厳密には、その方向または姿勢ではない場合も含む。例えば、2つの方向が平行である、とは、当該2つの方向が完全に平行であることを意味するだけでなく、実質的に平行であること、すなわち、例えば数%程度の差異を含むことも意味する。
【0012】
(実施の形態)
[1.ステアリング装置の構成]
図1は、実施の形態に係るステアリング装置100の外観を示す斜視図である。図2は、実施の形態に係るステアリング装置100の機能構成を示すブロック図である。
【0013】
本実施の形態に係るステアリング装置100は、例えば手動運転と自動運転とを切り替えることができる自動車、バス、トラック、建機、または農機などの車両に搭載される装置である。
【0014】
ステアリング装置100は、図1に示すように、操作部材110と、操作部材110を支持する支持部材115と、エアバッグ収容部120と、回転機構部130とを備えている。本実施の形態では、操作部材110は、例えばステアリングホイールと呼ばれる環状の部材である。より具体的には、操作部材110は、ステアリングホイールにおけるリムに相当する部材であり、支持部材115は、ステアリングホイールにおけるスポークに相当する部材である。
【0015】
操作部材110は、運転者の操作によりステアリング軸Aa(車両の前後方向に延びる仮想軸、本実施の形態ではX軸に平行)を中心に回転し、その回転量等に基づいて、車両の1以上のタイヤが転舵される。具体的には、ステアリング装置100は、いわゆるステアバイワイヤと言われるシステムに組み込まれる装置であり、操作部材110とタイヤとは機械的には接続されていない。ステアリング装置100から出力される、操作部材110の操舵角等を示す情報に基づいて、転舵用モータが1以上のタイヤを駆動する。
【0016】
また、操作部材110は、例えば転舵輪が直進状態となる中立状態において、回転機構部130の、車両の幅方向(本実施の形態ではY軸方向)の両側から延設された支持部材115に支持されており、操作部材110のステアリング軸Aaまわりの回転に伴って、回転機構部130もステアリング軸Aaまわりに回転する。また、本実施の形態では、回転機構部130の運転者側(X軸プラス側)にエアバッグ収容部120が固定されており、操作部材110を運転者側から見た場合、操作部材110の中央部分にエアバッグ収容部120が位置する。エアバッグ収容部120にはエアバッグ200が展開可能に収容されており、エアバッグ200は、例えば車両の衝突時にエアバッグ収容部120を押し破って展開する。具体的には、エアバッグ200は、車両に搭載されたエアバッグ制御部210(図2参照)の指示に応じて動作する。エアバッグ制御部210は、例えば、車両が何等かの物体に衝突した場合、エアバッグ200に展開の指示を行う。エアバッグ制御部210は、例えば、加速度センサ250から受け取った車両の加速度情報に基づき、エアバッグ200を展開させるか否かを判断する。例えば、車両が何等かの物体に衝突した場合など、加速度に閾値以上の急速な変化があった場合、エアバッグ制御部210は、エアバッグ200に展開の指示を行い、エアバッグ200は、インフレータを作動させることで展開する。つまり、エアバッグ200は瞬時に膨らむ。
【0017】
回転機構部130は、車両の幅方向に延びる回転軸Abを中心に、支持部材115をエアバッグ収容部120に対して回転させる装置である。回転機構部130は、支持部材115を回転させるための回転用モータ131等を備えている。なお、本実施の形態において、1つの支持部材115についての説明は、回転機構部130に接続された一対の支持部材115の両方に適用される。例えば、「支持部材115を回転させる」という場合、回転機構部130に接続された一対の支持部材115を一体的に回転させることを意味する。また、操作部材110は一対の支持部材115で支持されている必要はなく、少なくとも1つの支持部材115で支持されていればよい。
【0018】
回転機構部130の駆動力により支持部材115が回転軸Abまわりに回転することで、支持部材115に支持された操作部材110も、回転軸Abを中心として回転し、これにより、回転機構部130に固定されたエアバッグ収容部120に対して回転する。操作部材110の回転は、操作部材110の出退動作(格納領域からの進出、及び、格納領域への退避)に伴って行われる。
【0019】
本実施の形態に係るステアリング装置100はさらに、図1に示すように、回転機構部130の前側(X軸マイナス側)に配置されたスイッチ保持部140及び反力発生装置150を備える。スイッチ保持部140は、ウインカーを差動させるスイッチ等を保持する部材であり、図示しないウインカーレバー等と接続される。
【0020】
反力発生装置150は、運転者が操作部材110を操作して操舵する際に、運転者の力に反するトルクを操作部材110に付与する装置であり、反力を発生する反力モータ151等を有する。この反力発生装置150は、タイヤと操作部材とが機械的に接続されている従来の車両において、運転中に操舵部材に生じる力などを反力として再現する装置である。つまり、本実施の形態では、一端が回転機構部130に固定され、かつ、スイッチ保持部140に挿し通された軸体であって、ステアリング軸Aaまわりに回転する軸体の他端が、反力発生装置150と接続されている。反力発生装置150は、この軸体を介して操作部材110に反力を付与する。また、反力発生装置150は、操作部材110のステアリング軸Aa周りの回転位置を制御する。
【0021】
ステアリング装置100はさらに、上述の、操作部材110、支持部材115、エアバッグ収容部120、回転機構部130、スイッチ保持部140、及び反力発生装置150を含むステアリング機構部101の位置及び姿勢を変化させる機構を有している。これにより、操作部材110の、運転者との間の距離の変更、及び、運転者に対する傾きの変更が可能である。
【0022】
具体的には、ステアリング装置100は、図1に示すようにスライド機構部170を備える。スライド機構部170は、第一移動機構部の一例である。スライド機構部170は、操作部材110を、運転者による操作のための位置である通常位置と、通常位置よりも前方の格納領域との間で移動させることができる。具体的には、スライド機構部170は、操作部材110を含むステアリング機構部101を前後方向に移動させることで、操作部材110を前後方向に移動させる。
【0023】
本実施の形態において、ステアリング機構部101は、可動体162を介して基礎ガイド161に支持されており、可動体162は基礎ガイド161に摺動可能に保持されている。基礎ガイド161は、例えば図示しないブラケットを介して車両に固定される。基礎ガイド161には、図1に示すようにスライド駆動軸173が固定されており、スライド機構部170が有するスライド用モータ172の駆動力によりスライド用モータ172を含む本体がスライド駆動軸173に沿って移動する。これにより、スライド機構部170の本体に接続された可動体162が、基礎ガイド161に沿って前後方向に移動する。その結果、操作部材110等を含むステアリング機構部101が前後方向に移動する。
【0024】
また、ステアリング装置100は、図1に示すように、ステアリング機構部101の傾きを変化させるチルト機構部180を備えている。なお、図1では、チルト機構部180を明示するために、チルト機構部180をステアリング機構部101から下方に離して図示している。チルト機構部180は、第二移動機構部の一例であり、操作部材110の、車両における上下方向の位置を変更させるように操作部材110を移動させる。具体的には、チルト機構部180は、チルト用モータ181の駆動力により、ステアリング機構部101を下方から上限位置まで押し上げることができ、また、押し上げたステアリング機構部101を下限位置まで戻すことができる。本実施の形態では、ステアリング機構部101は、可動体162に、チルト軸Acまわりの回動が可能な状態で支持されており、チルト機構部180の昇降駆動により、チルト軸Acまわりの傾き角を変化させる。これにより、ステアリング機構部101の運転者側に位置する操作部材110、エアバッグ収容部120、及び回転機構部130の、車両の上下方向の位置が変化する。なお、図1に示すチルト軸Acの位置は例示であり、チルト軸Acは、図1に示す位置よりも前方(X軸マイナス側)に位置していてもよい。
【0025】
以上説明した、回転機構部130、反力発生装置150、スライド機構部170、及び、チルト機構部180は、ステアリング装置100が備える制御部190(図2参照)によって制御される。これにより、スライド機構部170及びチルト機構部180が、ステアリング機構部101の位置及び姿勢を変化させる動作を行う。これらの動作は、操作部材110の前後方向の位置及び高さ(傾き)の、運転者の好みに応じた調整の際に実行される。また、回転機構部130は、支持部材115を回転させることで操作部材110を回転軸Abまわりに回転させる動作を行う。反力発生装置150、スライド機構部170、チルト機構部180及び回転機構部130による上記の動作は、操作部材110が、ダッシュボード内の格納領域に対する出退を行う場合に実行される。制御部190は回転機構部130、スライド機構部170及びチルト機構部180のそれぞれから取得する情報を用いることで、操作部材110の、車両における位置及び姿勢等を随時認識することができる。
【0026】
なお、操作部材110の出退は、運転者からの指示によって行われる場合と、運転者からの指示によらずに行われる場合がある。具体的には、ステアリング装置100が搭載された車両には、運転者の指示を受け付けるスイッチ、ボタンまたはタッチパネル等の電装品に加え、各種のセンサ及び無線通信機能等を有する自動運転システム(図示せず)が備えられている。これにより、ステアリング装置100は、運転者の指示に応じて操作部材110の出退を行うことができ、さらに、自動運転システムと連携しながら操作部材110の出退を行うことができる。また、車両には、運転席における運転者の存否、ドアの開閉、車両の加速度等、各種の車両状態を検出するセンサが備えられてもよい。この場合、ステアリング装置100は、センサにより検出された車両状態に応じて、操作部材110の出退を行ってもよい。
【0027】
例えば、運転者が車両を停止させた状態で、ボタンの押下または発話による音声入力など所定の操作を行った場合、制御部190は、運転者からの指示に従って、通常位置にある操作部材110を格納領域に退避させることができる。また、例えば、自動運転システムによる車両の走行中に、自動運転レベルが、運転者による監視が必要なレベルから運転者による監視が不要なレベルに変更されたことを制御部190が検知した場合、制御部190は、運転者からの指示によらずに、通常位置にある操作部材110を格納領域に退避させることができる。また、自動運転システムによる車両の走行中に、自動運転レベルが、運転者による監視が不要なレベルから運転者による監視が必要なレベルに変更されたことを制御部190が検知した場合、制御部190は、運転者からの指示によらずに、格納領域にある操作部材110を通常位置に向けて進出動作させることができる。これらの場合において、運転者からの指示によらない出退動作が許可されていないときは、自動的に操作部材110を出退させないこともできる。例えば、運転者による監視が必要なレベルとは自動運転レベル2以下のレベルであり、運転者による監視が不要なレベルとは自動運転レベル3以上のレベルである。
【0028】
なお、自動運転レベル2は、自動運転システムが運転に関わる操作を部分的に行うことが許可されたレベルである。自動運転レベル3は、限定条件下で自動運転システムが運転に関わる全ての操作を行うことが許可されたレベルである。自動運転レベル3では、緊急時には運転者による監視及び操作が必要である。この場合、緊急時に運転者が操作部材110を操作できるように、操作部材110を通常位置(または、通常位置よりも前方であって、運転者が操作部材110を操作可能な位置)に出しておく必要がある。なお、自動運転レベル4は、自動運転システムが運転に関わる全ての操作を行うことが許可され、かつ、緊急時の対応も自動運転システムが行うことができるレベルである。この場合、運転者は、操作部材110を操作する必要がないため、操作部材110を格納領域に退避させることが許可される。
【0029】
なお、上記の制御を行う制御部190は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等の記憶装置、および情報の入出力のためのインタフェース等を備えたコンピュータによって実現される。制御部190は、例えば、記憶装置に格納された所定のプログラムをCPUが実行することで、上位制御部300等から送信される制御信号、及び、センサの検出結果等に応じたステアリング装置100の動作制御を行うことができる。
【0030】
ここで、本実施の形態に係るステアリング装置100では、操作部材110を格納領域に対して出退させる場合において、出退動作の効率性と運転者の安全性とを考慮して、操作部材110の位置または姿勢を変化させる点に一つの特徴を有している。そこで、本実施の形態に係るステアリング装置100における操作部材110の出退動作の具体例について、図3図9を用いて説明する。
【0031】
[2.操作部材の退避動作]
まず、図3図5を用いて、操作部材110の退避動作の一例を説明する。図3は、実施の形態に係る操作部材110の退避動作の一例を示す図である。図4は、実施の形態に係る操作部材110とダッシュボード400に設けられた開口部405との大小関係を示す図である。図5は、実施の形態に係るステアリング装置100における操作部材110の退避動作の概要を示すフロー図である。
【0032】
なお、図3では、運転者の存在領域における操作部材110側の一部が、斜線を付された運転者領域500として表されており、ダッシュボード400は、格納領域410を示すために断面で簡易的に図示されている。図3では、操作部材110、ダッシュボード400及び運転者領域500の位置関係を表すために、これら以外の要素についての図示は省略されている。図3内の矢印は、操作部材110のおおよその移動方向または回転方向を表している。これらの図3についての補足事項は、後述する図6図8にも適用される。さらに、図3では、操作部材110の移動速度の変化が、操作部材110のおおよその位置と対応付けられた折れ線グラフで表されている。操作部材110の出退のための移動は、主としてスライド機構部170によって担われるため、“操作部材110の移動速度”という場合、特に断りのない限り、スライド機構部170が、操作部材110を含むステアリング機構部101(図1参照)を移動させる速度と同じである。
【0033】
本実施の形態では、ステアリング装置100の基礎ガイド161(図1参照)は、ダッシュボード400内で車体に固定されている。ステアリング装置100は、操作部材110を、通常位置と、ダッシュボード400内の格納領域410との間で移動させることができる。ダッシュボード400は、運転席の前方に設けられた車両部材の一例である。ダッシュボード400には、図3に示すように、運転席側の面に開口部405が設けられており、開口部405の内方に、操作部材110が格納(退避)される格納領域410が位置する。
【0034】
このような構成において、ステアリング装置100は、通常位置にある操作部材110を、図3に示すように、操作部材110の位置及び姿勢を変化させながら、格納領域410に退避させる。この退避の際、図4に示すように、開口部405の縦幅Waは、操作部材110の縦幅Wbよりも小さいため、操作部材110は、車両の幅方向に延びる回転軸Ab(図1参照)を中心に回転されて開口部405に挿入されて、格納領域410内に収容される。なお、図4に示す開口部405の形状は一例であり、開口部405の形状に特に限定はない。開口部405は、開口部405に挿入される操作部材110及び回転機構部130等の各部材が通過可能な形状及び大きさを有していればよい。
【0035】
このような、ステアリング装置100における操作部材110の退避動作は、例えば図3に示すようにA1~A6までの6つの区間に分けられる。また、図3に示すように、操作部材110の、スライド機構部170による移動速度も変化する。すなわち、通常位置にある操作部材110は、上下方向の移動及び回転軸Ab(図1参照を)を中心とする回転を伴いながら、滑り込むように開口部405の内部に進入し(A1~A4)、格納領域410内の壁部409に当接する位置で停止する(A5、A6)。
【0036】
上記一連の退避動作には、図5に示される特徴的な動作が含まれている。つまり、操作部材110の退避動作は、操作部材110をダッシュボード400の近傍まで移動させる動作と、操作部材110をダッシュボード400の外形に沿わせて移動させる動作を含んでいる。
【0037】
具体的には、制御部190は、操作部材110の格納領域410への退避を行う場合、スライド機構部170を制御することで、操作部材110を以下のように移動させる。制御部190は、操作部材110を第一速度V1で前方に移動させ(S10)、操作部材110とダッシュボード400との距離が所定の距離L以下になった場合(S20でYes)、第二速度V2(<V1)で操作部材110を前方に移動させる(S30)。本実施の形態では、操作部材110の少なくとも一部が、図3における“前方位置”に到達した場合、操作部材110の移動速度が第一速度V1から第二速度V2に変更される。前方位置は、例えばダッシュボード400から5cm~10cm程度離れた位置である。つまり、所定の距離Lは5cm~10cm程度である。
【0038】
その後、制御部190は、操作部材110がダッシュボード400の近傍に到達した場合(S40でYes)、スライド機構部170及びチルト機構部180を制御することで、操作部材110を、ダッシュボード400の外形に沿うように移動させる前方動作(S50)を実行する。ダッシュボード400の近傍とは、上記の前方位置よりもダッシュボード400に近い位置であり、例えばダッシュボード400から1cm~2cm程度離れた位置である。
【0039】
なお、上記のステップS10~ステップS30の動作は、図3における区間A2の動作に相当し、ステップS40~ステップS50の動作は、図3における区間A3の動作に相当する。
【0040】
このように、本実施の形態では、操作部材110の退避のために操作部材110を前方に移動させる場合、制御部190は、操作部材110がダッシュボード400から所定の距離L内に到達したことをトリガとして操作部材110の移動速度を低下させる。これにより、操作部材110とダッシュボード400との間に、運転者の指等が挟みこまれる可能性が低減する。例えば、操作部材110の退避の開始時に、運転者が操作部材110を持ったままであっても、運転者に、操作部材110から手を離す時間的な余裕が与えられる。また、操作部材110がダッシュボード400に近づいたときに、運転者の指または手などの身体の一部が操作部材110とダッシュボード400との間に存在する場合であっても、操作部材110が低速(第二速度V2)で移動していることで、当該一部にダメージを与える可能性は低い。また、操作部材110が、ダッシュボード400から所定の距離L内に到達するまでは、比較的に早い速度(第一速度V1)で移動させることができるため、運転者の前方の空間を比較的短時間で広げることが可能となる。さらに、操作部材110が、ダッシュボード400から所定の距離L内に到達するまでは、比較的に早い速度(第一速度V1)で移動させることができるため、操作部材110の退避に要する時間の増加が抑制される。
【0041】
なお、操作部材110とダッシュボード400との距離の検出、及び、操作部材110の位置の検出の手法に特に限定はない。例えば、制御部190が、スライド機構部170から取得する情報(スライド用モータ172のエンコーダ値など)を用いて、操作部材110とダッシュボード400との距離を検出してもよい。この場合、例えば、制御部190は、スライド機構部170のスライドした距離であるスライド量が所定値を超えたときに、操作部材110とダッシュボード400との距離が所定の距離L以下になったと判断してもよい。所定値は、操作部材110の格納領域410への退避が行われる前の通常位置に応じて設定してもよい。また、例えば、カメラ等のセンサによる操作部材110の検出結果を用いて、操作部材110とダッシュボード400との距離を検出してもよい。また、当該距離または操作部材110の位置の検出(算出)自体は、制御部190が行う必要はない。例えば、上位制御部300が操作部材110の操作部材110とダッシュボード400との距離を算出し、制御部190は、当該距離を示す情報を上位制御部300から取得してもよい。
【0042】
また、制御部190は、操作部材110とダッシュボード400との距離そのものを用いずに、操作部材110のダッシュボード400に対する位置についての判断(図5のS20及びS40)を行ってもよい。例えば制御部190は、スライド機構部170から取得した情報と、予め記憶されている情報との比較によって当該判断を行ってもよい。
【0043】
また、制御部190は、操作部材110がダッシュボード400から所定の距離L内に到達した後に行う前方動作において、操作部材110をダッシュボード400の外形に沿うように移動させる。具体的には、ダッシュボード400の側面視における外形は、例えば図3に示すように、後方(運転席の方向)に向けて突出状に形成されている。例えば、ダッシュボード400の上端側が下端側に比べて後方に向けて突出しており、上端側から下端側に向かうにつれて前方に向かうように形成されている。操作部材110は、その突出状の外形に沿うように移動される。つまり、本実施の形態では、ダッシュボード400の近傍では、立体構造物である操作部材110の上端部110a及び下端部110bができるだけ運転者領域500に向けて突出しない姿勢で、開口部405に向けて移動される。これにより、退避動作の途中の操作部材110が、運転者と干渉する可能性が低減される。
【0044】
このように、本実施の形態に係るステアリング装置100によれば、運転者の前方空間を広げることができ、かつ、運転者の安全性を向上させることができる。
【0045】
上記の動作を含む操作部材110の退避動作について、図3を参照しながらより詳細に説明する。まず、運転者領域500の前方の通常位置にある操作部材110は、区間A1において、運転者の膝の位置に相当する膝領域500aを越えるように移動される。膝領域500aは運転者領域500の一部であって、運転者が運転席に座った場合に、運転者の膝が位置すると推定される領域である。
【0046】
具体的には、制御部190は、スライド機構部170及びチルト機構部180を制御することで、操作部材110の前方への移動と、操作部材110の上方への移動とを同時に行う初期動作を実行する。
【0047】
これにより、操作部材110が前方に移動した場合に操作部材110と干渉しやすい運転者の膝部分を回避する経路で、操作部材110が移動される。その結果、運転者の安全性が向上される。また、スライド機構部170及びチルト機構部180によって、操作部材110の前方への移動と上方への移動とが同時に行われることで、操作部材110は、例えば、最短距離で膝領域500aを回避しながら前方へ移動することができる。このことは、操作部材110の退避動作の効率化に有利である。
【0048】
また、本実施の形態では、初期動作における操作部材110の移動速度は、例えば、上述の第一速度V1と第二速度V2との間の速度である。つまり、制御部190は、初期動作において、スライド機構部170を制御することで、第二速度V2よりも大きく、かつ、第一速度V1よりも小さな第三速度V3で、操作部材110を前方に移動させる。制御部190は、初期動作の終了後に、操作部材110の移動速度を第一速度V1に変更する。
【0049】
この構成によれば、運転者の前方で行われ、かつ、少なくとも、操作部材110の上方への移動を伴う初期動作では、中間的な速度である第三速度V3で前方へ移動させる。これにより、運転者の安全性を確保しながら、効率よく操作部材110を前方に向かわせることができる。また、操作部材110が、おおよそ膝領域500aを越えたと推測される位置(区間A1と区間A2との境界位置)以降では、操作部材110の速度は、より高速な第一速度V1となるため、操作部材110の退避に要する時間の増加は抑制される。なお、制御部190は、操作部材110の移動速度を第三速度V3から第一速度V1に変更する場合、徐々に移動速度が上昇するように操作部材110の移動を制御してもよい。これにより、例えば、操作部材110の移動速度の上昇を運転者に認識させやすくなり、その結果、操作部材110の退避時における、操作部材110と運転者との干渉の可能性がより低減される。
【0050】
また、本実施の形態に係るステアリング装置100では、上記初期動作において、制御部190はさらに、回転機構部130を制御することで、運転者の安全性をより確実に確保するように操作部材110の姿勢を変更することができる。具体的には、制御部190は、初期動作において、さらに回転機構部130を制御することで、操作部材110を、操作部材110の下端部110bが上方へ向かうように回転させる。
【0051】
このように、初期動作において、操作部材110が回転されることで、操作部材110の下端部110bが持ち上げられる。その結果、操作部材110が退避する際に、操作部材110が運転者の膝部分に干渉する可能性が低減される。より詳細には、上端部110aが前方へ倒れる方向(図3における時計回りの方向)に操作部材110が回転されることが好ましい。これにより操作部材110の下端部110bは、回転機構部130に対して相対的に後方に(運転者の膝部分から離れる方向に)移動しながら持ち上げられる。その結果、操作部材110が退避する場合において、操作部材110が運転者の膝部分に干渉する可能性がより小さくなる。また、チルト機構部180による操作部材110の上方への移動量を比較的に小さくした場合であっても、回転機構部130が操作部材110を回転させることで、操作部材110の下端部110bを、膝領域500aの回避に十分な高さ位置まで持ち上げることができる。これにより、操作部材110の、膝領域500aを回避した前方への移動を、より速くかつ安全に行うことができる。
【0052】
上記の初期動作の後、区間A2では、上述のように、制御部190は第一速度V1で操作部材110を移動させる。このとき、初期動作(図3における区間A1)で上端部110aが前方に傾くように回転された操作部材110は、例えば逆回り(下端部110bが前方に向かう方向)に回転されながら、前方位置まで第一速度V1で移動する。つまり、制御部190は、回転機構部130及びスライド機構部170を制御することで、一旦、前方へ倒れるように傾けられた操作部材110を起こしながら前方へ移動させる。
【0053】
その後、操作部材110の一部(例えば上端部110a)が、前方位置に到達した場合、つまり、操作部材110とダッシュボード400との距離が所定の距離L以下となった場合、上述のように、操作部材110の移動速度が減速される。具体的には、制御部190は、スライド機構部170を制御することで、操作部材110の移動速度を第一速度V1から第二速度V2に変更する。
【0054】
操作部材110が前方位置に到達した後、区間A3では、操作部材110は、低速(第二速度V2)でさらにダッシュボード400に近づけられる。その後、上述のように、操作部材110がダッシュボード400の近傍に到達した後に、前方動作において、操作部材110が開口部405に向けて移動する。つまり、操作部材110は、制御部190による制御により、ダッシュボード400の外形に沿うように移動される。
【0055】
具体的には、制御部190は、回転機構部130を制御することで、図3に示すように、操作部材110を、その下端部110bが前方に向く方向(図3における反時計回りの方向)に傾ける。このとき、操作部材110は、スライド機構部170及びチルト機構部180によって、開口部405に近づけられる。すなわち、制御部190はさらに、回転機構部130を制御することで、前方動作において、操作部材110の上端部110aが、ダッシュボード400の外形に沿うように移動させる。
【0056】
つまり、操作部材110は、前方動作において、図3における反時計回りに回転されるため、操作部材110の上端部110aが、運転者領域500の側に突出する可能性がある。そこで、本実施の形態に係る制御部190は、スライド機構部170、チルト機構部180及び回転機構部130を制御することで、操作部材110の上端部110aがダッシュボード400の外形に沿うように、操作部材110を移動させる。これにより、前方動作における、操作部材110の運転者領域500の側への突出量が低減され、その結果、操作部材110が運転者に干渉する可能性が低減される。
【0057】
また、図4に示したように、操作部材110を開口部405に沿わせ、かつ、開口部405の開口方向から見た場合の操作部材110の縦幅Wbは、開口部405の縦幅Wbよりも大きい。制御部190は、操作部材110を開口部405に挿入する場合、スライド機構部170、チルト機構部180及び回転機構部130を制御することで、操作部材110の下端部110bが前方に向くように回転された操作部材110を、下端部110bから開口部405に挿入する。
【0058】
すなわち、上述のように操作部材110の上端部110aがダッシュボード400の外形に沿うように移動される場合、区間A4において、操作部材110は、下端部110bが前方に向くように回転される。この一連の動作の流れの延長として、操作部材110は、下端部110bから開口部405に挿入される。つまり、操作部材110は、無駄のない動作で開口部405から格納領域410に進入する。これにより、操作部材110の退避動作を効率よく行うことができるとともに、開口部405を比較的に小さくすることができる。開口部405を小さくすることで、例えば、ダッシュボード400の強度または剛性の確保が容易になる。または、開口部405を、扉またはシャッター等の開閉機構で塞ぐ場合、開閉機構の構成が容易化される。
【0059】
区間A4において、操作部材110が開口部405に挿入された後、制御部190は、区間A5において、操作部材110の移動速度を上昇させる。具体的には、制御部190は、操作部材110の少なくとも一部が格納領域410内に到達した後であって、チルト機構部180による操作部材110の下方への移動の完了後に、スライド機構部170による操作部材110の前方への移動速度を上昇させる。
【0060】
つまり、操作部材110が格納領域410に到達した場合、操作部材110と運転者との干渉の問題は生じないため、制御部190は、効率優先で操作部材110を高速移動させる。制御部190は、例えば図3に示すように、操作部材110の退避動作における最大の速さである第四速度V4で、操作部材110を移動させる。
【0061】
制御部190はさらに、操作部材110が格納領域410内の所定の位置(図3における区間A5の終端)に到達したとき、チルト機構部180を制御することで、操作部材110を、格納領域410内において上方に移動させる。
【0062】
ここで、操作部材110は、格納領域410において斜め下方に向けて引き込まれるため、運転者の前方の比較的に低い位置を退避位置(退避動作における最終位置)とすることも可能である。しかし、操作部材110が当該退避位置に存在する状態で、車両の衝突事故が発生した場合、運転者の下腿が、ステアリング装置100において固定された状態の操作部材110と衝突する可能性がある。そこで、本実施の形態に係るステアリング装置100では、操作部材110の退避動作における最後の動作として、操作部材110を上方に引き上げる動作が実行される。これにより、操作部材110が退避した状態における操作部材110と運転者の下腿との衝突の可能性が低減される。
【0063】
また、本実施の形態では、操作部材110の退避の完了時点において、操作部材110は、車両における位置が固定された部材に接触した状態で停止される。つまり、制御部190は、操作部材110の一部が、格納領域410を形成する面、または、格納領域410内に固定された部材に接触した状態で、操作部材110の退避を完了させる。例えば図3に示すように、操作部材110は、操作部材110の下端部110bが、格納領域410内の壁部409に接触した状態で停止する。より具体的には、操作部材110は、下端部110bが壁部409に押し当てられた状態で停止される。
【0064】
この構成によれば、例えば、操作部材110が退避した状態で、自動運転システムによって車両が運転されている場合において、操作部材110の振動または移動が抑制される。これにより、例えば操作部材110が、何等かの部材と接触することによる異音の発生または操作部材110の損傷が抑制される。なお、操作部材110が接触する部材の形状または位置に限定はなく、例えば、操作部材110は、ダッシュボード400内の底面に接触した状態で停止してもよい。また、操作部材110が接触する部分にゴム等の柔軟性を有する部材を配置することで、操作部材110を損傷させることなく、当該部分に対してしっかりと押し当てることができる。
【0065】
以上、本実施の形態に係るステアリング装置100における操作部材110の退避動作について説明したが、上記で説明された退避動作は一例であり、その一部が異なる動作に置き換えられてもよい。そこで、操作部材110の退避動作についての変形例を、図6及び図7を用いて説明する。
【0066】
[3.退避動作の変形例1]
図6は、実施の形態の変形例1に係る操作部材110の退避動作の一部を示す図である。具体的には、図6では、変形例1における初期動作の概要が示されている。図6に示すように、変形例1に係る制御部190は、操作部材110の格納領域410への退避の開始時に、スライド機構部170及びチルト機構部180を制御することで、操作部材110の上方への移動の後に、操作部材110の前方への移動を開始する。このように、最初に操作部材110を上方に逃がした後に操作部材110を前方へ移動することでも、膝領域500aを回避しながら操作部材110を前方に移動させることがきる。
【0067】
[4.退避動作の変形例2]
図7は、実施の形態の変形例2に係る操作部材110の退避動作の一部を示す図である。具体的には、図7では、変形例2における初期動作の概要が示されている。図7に示すように、変形例2に係る制御部190は、操作部材110の格納領域410への退避の開始時に、スライド機構部170及び回転機構部130を制御することで、操作部材110の前方への移動と、操作部材110の回転とを同時に行う初期動作を実行する。
【0068】
つまり、操作部材110を退避させる際に、操作部材110の上方への移動を行わず、操作部材110の回転軸Ab(図1参照)を中心とした回転によって、膝領域500aを回避することもできる。この場合、操作部材110の回転方向は、図7における時計回りであってもよく、反時計回りであってもよい。図7に示すように、操作部材110の回転方向が時計回りである場合、例えば、操作部材110の上端部110aを前方に傾けながら(つまり、下端部110bを後方かつ上方に逃がしながら)、操作部材110を前方に移動させることができる。これにより、操作部材110の退避動作を効率よく行うことができる。
【0069】
[5.操作部材の進出動作]
次に図8及び図9を用いて、操作部材110の進出動作の一例を説明する。図8は、実施の形態に係る操作部材110の進出動作の一例を示す図である。図9は、実施の形態に係る操作部材110の進出動作における速度制御の一例を示すフロー図である。
【0070】
図8に示すように、本実施の形態に係るステアリング装置100は、格納領域410に退避された操作部材110を通常位置まで進出させることができる。この進出の際の動作(進出動作)における操作部材110の軌跡の逆をたどると、図3等を用いて説明した操作部材110の退避動作における操作部材110の軌跡に略一致する。つまり、操作部材110の進出動作における操作部材110の位置及び姿勢の遷移と、図3等を用いて説明した操作部材110の進出動作における操作部材110の位置及び姿勢の遷移とは互いに逆の関係となる。
【0071】
すなわち、操作部材110の進出動作は、制御部190による制御の下で、以下のように実行される。格納領域410内の壁部409に当接して停止した状態の操作部材110は、スライド機構部170及びチルト機構部180によって、後方に(開口部405に向けて)移動される。このときの操作部材110は、操作部材110の全体が格納領域410内に位置する間は最高速度で移動する。その後、操作部材110は移動速度を落として、上端部110aから開口部405の外方に進出する。開口部405の外方に進出した操作部材110は、スライド機構部170、チルト機構部180及び回転機構部130によって、ダッシュボード400の外形に沿うように移動される。その後、操作部材110は、スライド機構部170によって、速度を上げて後方に向けて移動し、さらに、運転者領域500の膝領域500aを回避するように、チルト機構部180によって上方に移動される。このとき、上端部110aが前方に向くように傾けられていた操作部材110は、回転機構部130によって上端部110aが後方に移動する方向に回転される。操作部材110が膝領域500aを越えると、スライド機構部170は操作部材110の移動速度を落とし、チルト機構部180は操作部材110を下方に移動させる。その後、操作部材110は通常位置で停止する。このときの通常位置は、操作部材110が退避される直前に設定されていた位置(運転者の好みに応じて調整された位置)であってもよく、操作部材110の進出の際に運転席に座っている運転者の体形等に応じた位置であってもよい。なお、運転者の体形等の情報は、カメラ等のセンサによって随時検出されてもよく、予め記憶装置に記憶されている運転者ごとの属性情報から導かれてもよい。
【0072】
このように操作部材110が進出動作を行う際に、操作部材110の退避動作の際と同じく、運転者の安全性の確保と、操作部材110の効率的な移動との両立を図るように、操作部材110の移動速度が変化される。基本的には、操作部材110の退避動作と同じく、運転者に干渉する可能性が低い場合は、操作部材110の移動速度を大きくし、また、運転者に干渉する可能性が高い場合は、操作部材110の移動速度を小さくする。
【0073】
例えば、本実施の形態において、ステアリング装置100の制御部190は、操作部材110の通常位置への進出動作において、通常位置に向けた移動を開始した後の操作部材110が所定の位置に到達したとき、スライド機構部170を制御することで移動速度を落とし、かつ、チルト機構部180を制御することで、操作部材110を上方に移動させる。本実施の形態では、上記所定の位置は、膝領域500aに近い位置であり、例えば図3における区間A2のいずれかの位置である。
【0074】
つまり、操作部材110の進出動作において、チルト機構部180は、操作部材110が開口部405から後方に進出して膝領域500aに近づいた場合、操作部材110を上方に移動させるように動作する。このとき、操作部材110は、運転者に近い位置まで来ている。従って、制御部190は、スライド機構部170による操作部材110の移動速度を低下させる。このときの移動速度は、例えば、第二速度V2(図1参照)程度である。その後、チルト機構部180は、操作部材110が膝領域500aを越えた後に操作部材110を下方に移動させるように動作し、操作部材110は通常位置に戻される。このときの移動速度も第二速度V2程度である。これにより、仮に操作部材110が運転者と接触した場合であっても、運転者に実質的な害を与える可能性は低い。従って、本実施の形態に係るステアリング装置100によれば、操作部材110の進出動作においても、運転者の安全性が向上される。
【0075】
また、操作部材110の出退は、上述のように、運転者からの指示によって行われる場合と、運転者からの指示によらずに行われる場合とがある。例えば、自動運転システムによる車両の走行中に、自動運転レベルが、運転者による監視が不要なレベルから運転者による監視が必要なレベルに変更になることを事前に制御部190が検知した場合を想定する。この場合、制御部190は、運転者からの指示によらずに、自動運転レベルが、運転者による監視が必要なレベルになる前に、退避されている操作部材110を通常位置に進出させることができる。この場合、操作部材110の進出動作は、運転者からの指示によって開始されたものではないため、運転者が、操作部材110の進出に備えていない場合も考えられる。そこで、本実施の形態に係るステアリング装置100は、操作部材110の進出動作が、運転者の指示によるものか否かで、操作部材110の移動速度を異ならせる制御を行う。つまり、制御部190は、格納領域410に退避された操作部材110の通常位置への進出を行う場合において、運転者の指示により進出を行う場合、運転者の指示によらずに進出を行う場合よりも大きい移動速度で操作部材110を移動させる。
【0076】
具体的には、図9に示すように、制御部190は、操作部材110を進出させる指示(進出指示)を受信し(S100)、その進出指示が運転者の指示である場合(S110でYes)、スライド機構部170を制御することで、移動速度Vaで操作部材110を移動させる(S120)。つまり、運転者が、ボタンの押下等の所定の操作を行うことで、操作部材110の進出指示を制御部190に与えた場合、制御部190は、移動速度Vaで操作部材110を移動させる。例えば、操作部材110がダッシュボード400の外形に沿って移動して運転者の前方に表れてから、膝領域500aに到達するまでの区間において、操作部材110が移動速度Vaで移動する。
【0077】
また、制御部190は、受信した進出指示が運転者の指示ではない場合(S110でNo)、スライド機構部170を制御することで、移動速度Vb(<Va)で操作部材110を移動させる(S121)。進出指示が運転者の指示ではない場合としては、上述のように、進出指示が、自動運転システムの指示である場合の他、例えば、空席であった運転席に運転者が座ったことをカメラ等のセンサを介して制御部190が検出した場合等がある。この移動速度Vbは、移動速度Vaと同じく、操作部材110が運転者の前方に表れてから、膝領域500aに到達するまでの区間における操作部材110の移動速度である。
【0078】
このように、制御部190は、操作部材110の進出動作において、進出指示が運転者の指示ではない場合、操作部材110を運転者にゆっくり近づける。これにより、仮に、運転者が、操作部材110の進出を認識していない場合であっても、運転者に、操作部材110の進出を認識させる期間が比較的に長く与えられる。その結果、移動中の操作部材110と運転者との干渉等が生じる可能性が低減される。
【0079】
(他の実施の形態)
以上、本発明に係るステアリング装置について、実施の形態及びその変形例に基づいて説明した。しかしながら、本発明は、上記実施の形態及び変形例に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を上記実施の形態または変形例に施したものも、あるいは、上記説明された複数の構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【0080】
例えば、操作部材110は、図1に示すような円環形状である必要はない。例えば、操作部材110の円環形状における上端部及び下端部の一方を欠いたようなC字状もしくはU字状、または、上端部及び下端部の両方を欠いたH字状であってもよい。この場合であっても、操作部材110を、回転軸Abを中心に回転させることで、操作部材110よりも縦幅が小さな開口部405に操作部材110を挿入することができる。
【0081】
また、スライド機構部170は、可動体162を基礎ガイド161に対して摺動させることで操作部材110を前後方向に移動させているが、可動体162そのものが、操作部材110を前後方向に移動させるテレスコピック構造を有してもよい。例えば可動体162が、基礎ガイド161に対して摺動する第一可動体と、第一可動体に対して摺動する第二可動体であって、ステアリング機構部101に接続された第二可動体とで構成されてもよい。この場合、可動体162は基礎ガイド161に対する摺動が可能であり、かつ、伸縮可能であるため、前後方向のより広い範囲で操作部材110を移動させることができる。また、この場合、スライド機構部170は、第一可動体を基礎ガイド161に対して移動させる第一駆動部と、第二可動体を第一可動体に対して移動させる第二駆動部とを有してもよい。これにより、例えば、操作部材110をより高速に、または、より大きな駆動力で移動させることができる。
【0082】
また、操作部材110の出退の開始前に、音声、ディスプレイでの情報表示、及び発光素子の点滅等のいずれかまたは組み合わせによって、操作部材110の退避または進出が開始されることを運転者に報知してもよい。これにより、操作部材110が移動することに対する運転者への注意喚起がなされ、その結果、移動中の操作部材110と運転者との干渉の発生が抑制される。
【0083】
また、運転者は、操作部材110の出退の通知を受けた後に、ボタンの押下等の所定の操作によって、操作部材110の出退の許可または不許可を制御部190に通知してもよい。例えば、自動運転システムによる車両の運転が可能な状態であることで、操作部材110の退避が許可される場合であっても、運転者の意図により、操作部材110の退避が不許可とされてもよい。この場合、運転者が操作部材110等を操作することで当該車両の運転を行うことができる。
【0084】
また、ダッシュボード400の構造及び形状は、図3に示す構造及び形状である必要はない。例えばダッシュボード400の下面に開口部405が形成されていてもよい。つまり、操作部材110は、ダッシュボダッシュボード400の下面の開放された部分からダッシュボード400の内部の格納領域410に格納されてもよい。この場合、例えば、下面が開放された構造を有する一般的なダッシュボードを、ステアリング装置100とともに車両に備えることができる。すなわち、ダッシュボードが、操作部材110の格納用(退避用)の開口部を備えない場合であっても、当該ダッシュボードを備える車用にステアリング装置100を配置することは可能である。
【0085】
また、ステアリング装置100はエアバッグ200を備えていなくてもよい。つまり、ステアリング装置100は、エアバッグ200及びエアバッグ収容部120を備えているか否かにかかわらず、操作部材110の格納領域410に対する出退を、安全かつ効率よく行うことができる。
【0086】
また、操作部材110が回転機構部130によって回転する際の回転軸Abは、図2では、操作部材110よりも前方に位置しているが、操作部材110の回転軸Abの位置はこれに限定されない。例えば、回転機構部130と操作部材110とを接続する支持部材115は、回転機構部130から車両の幅方向(図2におけるY軸方向)に平行な姿勢であってもよい。この場合、操作部材110は、前後方向において操作部材110と同じ位置にある回転軸Abを中心に回転する。このように、前後方向において、操作部材110と同一または近傍の位置に回転軸Abがある場合、回転軸Abを中心とする比較的に小さい空間領域内で、操作部材110を回転させることができる。
【0087】
また、ステアリング装置100が回転機構部130を有することは必須ではない。つまり、操作部材110の格納領域410に対する出退は、スライド機構部170による前後方向の移動と、チルト機構部180による上下方向の移動との組み合わせによって行われてもよい。なお、ステアリング装置100が回転機構部130を有することは、操作部材110の姿勢の自由度の向上という観点から有利である。つまり、ステアリング装置100が回転機構部130を有することで、例えば、操作部材110をダッシュボード400の外形に沿わせて移動させること、及び、比較的に小さな開口部405に操作部材110を挿入すること等が容易化される。
【0088】
さらに、ステアリング装置100は、チルト機構部180を備えなくてもよい。つまり、操作部材110の格納領域410に対する出退がスライド機構部170による前後方向の移動のみで行われてもよい。この場合であっても、制御部190は、操作部材110を第一速度V1で前方に移動させ、操作部材110とダッシュボード400との距離が所定の距離L以下になった場合、第二速度V2(<V1)で操作部材110を前方に移動させることができる。これにより、上述のように、操作部材110の退避に要する時間の増加を抑制しながら、操作部材110とダッシュボード400との間における運転者の指等の挟み込みを抑制する効果が得られる。
【0089】
また、図3に示されるA1~A6の区間は、操作部材110の退避動作の一例を説明するために便宜的に設定された区間であり、これらの区間の始点または終点で、操作部材110の移動速度または姿勢等が明確に変化する必要はない。また、図3に示される区間の数及び幅も例示であり、これら区間の数及び幅は特定の値に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、運転者の前方空間を広げることができ、かつ、運転者の安全性を向上させることができるステアリング装置として有用である。従って、手動運転が可能であり、かつ自動運転が可能な自動車、バス、トラック、農機、建機など、車輪または無限軌道などを備えた車両に利用可能である。
【符号の説明】
【0091】
100:ステアリング装置、101:ステアリング機構部、110:操作部材、110a:上端部、110b:下端部、115:支持部材、120:エアバッグ収容部、130:回転機構部、131:回転用モータ、140:スイッチ保持部、150:反力発生装置、151:反力モータ、161:基礎ガイド、162:可動体、170:スライド機構部、172:スライド用モータ、173:スライド駆動軸、180:チルト機構部、181:チルト用モータ、190:制御部、200:エアバッグ、300:上位制御部、400:ダッシュボード、405:開口部、409:壁部、410:格納領域、500:運転者領域、500a:膝領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9