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  • 特許-機能材料インク 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】機能材料インク
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20231212BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20231212BHJP
   H01B 3/00 20060101ALI20231212BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20231212BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20231212BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231212BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01G4/30 514
H01G4/30 517
H01B1/20 A
H01B3/00 A
C09D11/30
C09D11/52
B41J2/01 501
B41M5/00 116
B41M5/00 120
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019146212
(22)【出願日】2019-08-08
(65)【公開番号】P2021024992
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-05-31
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085143
【弁理士】
【氏名又は名称】小柴 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】大原 隆志
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-178086(JP,A)
【文献】国際公開第98/008235(WO,A1)
【文献】特開2008-066568(JP,A)
【文献】特開2010-132736(JP,A)
【文献】特開2012-140480(JP,A)
【文献】特開2015-172103(JP,A)
【文献】特開2009-283627(JP,A)
【文献】特開2013-042104(JP,A)
【文献】国際公開第2013/172213(WO,A1)
【文献】特開2015-060652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
B41M 5/00-5/52
H01B 1/00-1/24
H01G 4/00-4/40
H01G 13/00-13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層型セラミック電子部品における非導電層を3次元インクジェット印刷法により形成するために用いられる機能材料インクであって、
機能材料、分散剤、溶剤、樹脂および可塑剤を含み、
前記機能材料として、無機材料粉末を含み、
前記分散剤として、ポリカルボン酸系共重合体を含み、
前記溶剤として、メトキシブタノール、エチレングリコール、および1,3-ブタンジオールから選ばれる少なくとも1種を含み、
前記樹脂として、セルロース樹脂、アクリル樹脂、およびポリビニルブチラール樹脂から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記無機材料粉末は、CaZrO、Al、およびBaTiOから選ばれる少なくとも1種を含むセラミック粉末であり
前記セラミック粉末の沈降速度を低くするため、前記セラミック粉末、前記溶剤、前記分散剤、前記樹脂および前記可塑剤は、これらの合計を100質量部としたとき、
セラミック粉末 10.39 ~25.35質量部
溶剤 88.91 ~72.36質量部
分散剤 0.16 ~ 0.39質量部
樹脂 0.49 ~ 1.79質量部
可塑剤 0.05 ~ 0.11質量部
となる質量比を有する、
機能材料インク。
【請求項2】
積層型セラミック電子部品における導体層を3次元インクジェット印刷法により形成するために用いられる機能材料インクであって、
機能材料、分散剤、溶剤および樹脂を含み、
前記機能材料として、金属粉末を含み、
前記分散剤として、ポリカルボン酸系共重合体を含み、
前記溶剤として、メトキシブタノール、エチレングリコール、および1,3-ブタンジオールから選ばれる少なくとも1種を含み、
前記樹脂として、セルロース樹脂、アクリル樹脂、およびポリビニルブチラール樹脂から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記金属粉末は、Ni、Cu、およびAgから選ばれる少なくとも1種を含む粉末であり、
前記金属粉末の沈降速度を低くするため、前記金属粉末、前記溶剤、前記分散剤および前記樹脂は、これらの合計を100質量部としたとき、
金属粉 17.95 ~39.05質量部
溶剤 81.42 ~51.29質量部
分散剤 0.22 ~ 0.47質量部
樹脂 0.41 ~ 9.19質量部
となる質量比を有する、
機能材料インク。
【請求項3】
前記セルロース樹脂は、水系セルロース樹脂を含む、請求項1または2に記載の機能材料インク。
【請求項4】
前記水系セルロース樹脂は、ヒドロキシプロピルセルロースを含む、請求項に記載の機能材料インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セラミック粉末または金属粉末などの無機材料粉末を機能材料として含む機能材料インクに関するもので、特に、インクジェット印刷法において好適に用いられる機能材料インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板などの積層型セラミック電子部品を製造するにあたって、たとえば、積層される非導電層を形成する工程、ならびに積層された非導電層の隣り合うものの間の界面または非導電層の主面に沿って導体または半導体層を形成する工程が実施される。このような非導電層および導体または半導体層を形成するための方法として、インクジェット印刷法が注目されている。インクジェット印刷法は、たとえばスクリーン印刷法の場合とは異なり、印刷版を用いないため、少量多品種の生産に対して迅速に対応することができ、また、複雑なパターンの印刷膜の形成に適している。
【0003】
インクジェット印刷法で用いられる機能材料インクは、たとえばスクリーン印刷法において用いている導電性ペーストのような機能材料インクの場合とは異なる物性が要求される。より具体的には、インクジェット印刷法では、安定して同じ厚みの印刷膜を形成できるようにするため、機能材料インクは、そこに機能材料として含まれるセラミック粉末または金属粉末などの無機材料粉末の沈降速度が十分に低いことが要求される。
【0004】
上記要求を満たすため、たとえば国際公開第2013/172213号(特許文献1)では、無機材料粉末粒子の粒径を小さくするとともに、粘度を高めるため、樹脂を比較的多く含ませた、インクジェット用インクが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/172213号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
積層型セラミック電子部品を製造するにあたっては、焼成工程を経なければならない。焼成工程は、インクジェット用インクに含まれていた樹脂を、熱分解または燃焼させることによって除去する脱脂工程を伴う。すなわち、樹脂は、製品としての積層型セラミック電子部品にとって必要なものではない。
【0007】
上述した特許文献1に記載のインクのように樹脂を比較的多く含むインクを用いて、積層型セラミック電子部品を製造しようとする場合、脱脂工程に比較的長時間費やすため、エネルギーコストを上昇させるという問題に遭遇する。また、脱脂工程によって樹脂が除去された後には、積層型セラミック電子部品の内部に欠陥となり得る空孔が残されることがあるが、インクに樹脂が比較的多く含まれる場合には、欠陥となり得る空孔が生じる可能性が高くなる。
【0008】
そこで、この発明の目的は、樹脂量が少なくても、機能材料として含まれるセラミック粉末または金属粉末などの無機材料粉末の沈降速度を十分に低くすることができる、機能材料インクを提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、第1の局面では、積層型セラミック電子部品における非導電層を3次元インクジェット印刷法により形成するために用いられる機能材料インクに向けられ、第2の局面では、積層型セラミック電子部品における導体層を3次元インクジェット印刷法により形成するために用いられる機能材料インクに向けられる。
この発明の第1の局面に係る機能材料インクは、機能材料、分散剤、溶剤樹脂および可塑剤を含み、上記機能材料として、無機材料粉末を含み、上記分散剤として、ポリカルボン酸系共重合体を含み、溶剤として、メトキシブタノール、エチレングリコール、および1,3-ブタンジオールから選ばれる少なくとも1種を含み、樹脂として、セルロース樹脂、アクリル樹脂、およびポリビニルブチラール樹脂から選ばれる少なくとも1種を含む。
無機材料粉末は、CaZrO、Al、およびBaTiOから選ばれる少なくとも1種を含むセラミック粉末である。
セラミック粉末の沈降速度を低くするため、セラミック粉末、溶剤、分散剤、樹脂および可塑剤は、これらの合計を100質量部としたとき、
セラミック粉末 10.39 ~25.35質量部
溶剤 88.91 ~72.36質量部
分散剤 0.16 ~ 0.39質量部
樹脂 0.49 ~ 1.79質量部
可塑剤 0.05 ~ 0.11質量部
となる質量比を有することを特徴としている。
この発明の第2の局面に係る機能材料インクは、機能材料、分散剤、溶剤および樹脂を含み、上記機能材料として、金属粉末を含み、上記分散剤として、ポリカルボン酸系共重合体を含み、溶剤として、メトキシブタノール、エチレングリコール、および1,3-ブタンジオールから選ばれる少なくとも1種を含み、樹脂として、セルロース樹脂、アクリル樹脂、およびポリビニルブチラール樹脂から選ばれる少なくとも1種を含む。
金属粉末は、Ni、Cu、およびAgから選ばれる少なくとも1種を含む粉末である。
金属粉末の沈降速度を低くするため、金属粉末、溶剤、分散剤および樹脂は、これらの合計を100質量部としたとき、
金属粉末 17.95 ~39.05質量部
溶剤 81.42 ~51.29質量部
分散剤 0.22 ~ 0.47質量部
樹脂 0.41 ~ 9.19質量部
となる質量比を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、機能材料、分散剤、溶剤および樹脂を含む機能材料インクにおいて、上述したように、メトキシブタノール、エチレングリコール、および1,3-ブタンジオールから選ばれる少なくとも1種を含む溶剤と、セルロース樹脂、アクリル樹脂、およびポリビニルブチラール樹脂から選ばれる少なくとも1種を含む樹脂と、の組み合わせを採用することにより、樹脂量が少なくても、機能材料として含まれるセラミック粉末または金属粉末などの無機材料粉末の沈降速度を十分に低くすることができる。
【0011】
したがって、この発明に係る機能材料インクをインクジェット印刷法に適用すれば、円滑かつ安定な印刷が可能となる。また、この発明に係る機能材料インクを用いて製造された積層型セラミック電子部品において、欠陥を生じにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明に係る機能材料インクを用いて製造される積層型セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1を示す断面図である。
図2図1に示した積層セラミックコンデンサ1を製造する途中で作製される構造物10の一部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1を参照して、この発明に係る機能材料インクを用いて製造される積層型セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1について説明する。
【0014】
積層セラミックコンデンサ1は、積層された複数の非導電層としてのセラミック層2からなる積層構造を有するセラミック素体3と、セラミック層2間の複数の界面に沿ってそれぞれ形成された各々複数の導体層としての第1および第2の内部電極4および5とを備えている。積層セラミックコンデンサ1にあっては、セラミック層2は、誘電体セラミックから構成される。第1の内部電極4と第2の内部電極5とは、静電容量を形成するように、セラミック層2を介して互いに対向しており、また、積層方向に見て交互に配置される。
【0015】
セラミック素体3の一方の端面上には、第1の内部電極4に電気的に接続されるように導体層としての第1の外部電極6が形成され、他方の端面上には、第2の内部電極5に電気的に接続されるように導体層としての第2の外部電極7が形成される。
【0016】
上述した積層セラミックコンデンサ1を製造するため、図2に一部示すような構造物10が作製される。構造物10は、セラミック層2となるべきセラミックグリーンシート11を備える。なお、積層セラミックコンデンサ1を量産するにあたって実際に用意されるセラミックグリーンシートは、後で実施されるカット工程により、複数個の積層セラミックコンデンサ1を取り出すことができる寸法を有するものであるが、図2には、説明の便宜上、1個の積層セラミックコンデンサ1のための寸法を持つセラミックグリーンシート11が図示されている。
【0017】
セラミックグリーンシート11の一方主面上には、内部電極4または5となる内部電極用印刷膜12が形成される。内部電極用印刷膜12は、所定の厚みを有していて、そのため、セラミックグリーンシート11上に、この厚みによる段差を生じさせている。
【0018】
他方、セラミックグリーンシート11の主面上の内部電極用印刷膜12が形成されていない領域に、段差吸収用印刷膜13が形成される。段差吸収用印刷膜13は、上述した内部電極用印刷膜12の厚みによる段差を吸収するための非導電層としての段差吸収層となるものである。段差吸収用印刷膜13の形成工程は、内部電極用印刷膜12の形成工程の後に実施されても、前に実施されてもよい。図1では、段差吸収層は、特に図示はされていないが、セラミック素体3内において、内部電極4および5の各々と同一面上に延びるように形成されるものである。
【0019】
また、図2に示した内部電極用印刷膜12が図1に示した第1の内部電極4となるべきものである場合、内部電極用印刷膜12の端縁と接続されるように、第1の外部電極6となるべき外部電極用印刷膜14が、セラミックグリーンシート11と内部電極用印刷膜12または段差吸収用印刷膜13との合計厚みに相当する厚みをもって形成される。同様に、第2の外部電極7となるべき外部電極用印刷膜15が、図示しない第2の内部電極5となるべき内部電極用印刷膜の端縁と接続されるように形成される。
【0020】
上述したセラミックグリーンシート11、内部電極用印刷膜12、段差吸収用印刷膜13ならびに外部電極用印刷膜14および15を備える構造物10の形成には、この発明に係る機能材料インクが用いられる。すなわち、セラミックグリーンシート11、内部電極用印刷膜12、段差吸収用印刷膜13ならびに外部電極用印刷膜14および15のそれぞれに適した組成を有する機能材料インクが用いられる。簡単に言えば、セラミックグリーンシート11および段差吸収用印刷膜13の形成には、機能材料となる無機材料粉末として、セラミック粉末を含む機能材料インクが用いられ、内部電極用印刷膜12ならびに外部電極用印刷膜14および15の形成には、機能材料となる無機材料粉末として金属粉末を含む機能材料インクが用いられる。
【0021】
また、好ましくは、セラミックグリーンシート11、内部電極用印刷膜12、段差吸収用印刷膜13ならびに外部電極用印刷膜14および15の形成を順次実行するため、各々別のインクジェットヘッドを順次作動させる3次元インクジェット印刷法が実施され、3次元インクジェット印刷法が必要回数繰り返されることによって、積層セラミックコンデンサ1となるべきグリーン積層体が得られる。
【0022】
次に、グリーン積層体は、必要に応じて、プレスされ、カットされ、その後、焼成される。この焼成の結果、図1に示した内部電極4および5を内蔵し、かつ外部電極6および7が形成された状態のセラミック素体3を備える、積層セラミックコンデンサ1が完成される。
【0023】
なお、積層セラミックコンデンサ1となるべきグリーン積層体を得るため、3次元インクジェット印刷法ではなく、2次元インクジェット印刷法が用いられてもよい。この場合、セラミックグリーンシート11がドクターブレード法等のシート成形法により成形され、その上に内部電極用印刷膜12および段差吸収用印刷膜13が2次元インクジェット印刷法により形成される。その後、複数のセラミックグリーンシート11が積層されることによって、グリーン積層体が得られる。グリーン積層体は、その後、プレスされ、カットされ、焼成されることによって、内部電極4および5を内蔵するセラミック素体3が得られる。そして、セラミック素体3の端部に外部電極6および7を、たとえば導電性ペーストの塗布および焼付けによって形成することによって、積層セラミックコンデンサ1が完成される。
【0024】
この発明に係る機能材料インクは、前述したように、機能材料、分散剤、溶剤および樹脂を含み、上記機能材料として、無機材料粉末を含み、上記分散剤として、ポリカルボン酸系共重合体を含み、溶剤として、メトキシブタノール、エチレングリコール、および1,3-ブタンジオールから選ばれる少なくとも1種を含み、樹脂として、セルロース樹脂、アクリル樹脂、およびポリビニルブチラール樹脂から選ばれる少なくとも1種を含むことを基本的な特徴としている。
【0025】
上述したような特定的な溶剤と、特定的な樹脂と、の組み合わせを採用することにより、樹脂量が少なくても、機能材料として含まれる無機材料粉末の沈降速度を十分に低くすることができる。
【0026】
特に、樹脂として、セルロース樹脂を含む場合、さらに好ましくは、セルロース樹脂が水系セルロース樹脂を含む場合、上述した効果がより顕著に発揮される。
【0027】
水系セルロース樹脂は、より具体的には、ヒドロキシプロピルセルロースを含むことが好ましい。
【0028】
なお、溶剤に関して、メトキシブタノールを用いる場合、これを単独で用いるのではなく、エチレングリコール、および/または1,3-ブタンジオールとの混合溶剤として用いることにより、インクジェット印刷法においてインクの吐出挙動が改善される場合がある。
【0029】
この発明において、無機材料粉末は、セラミック粉末または金属粉末を含む。
【0030】
上記セラミック粉末は、CaZrO 、AおよびBaTi ら選ばれる少なくとも1種を含む粉末である。
【0031】
上記金属粉末は、N、Cu、およびgから選ばれる少なくとも1種を含む粉末である。
【0032】
無機材料粉末がセラミック粉末を含む場合、この発明に係る機能材料インクは、積層型セラミック電子部品における非導電層をインクジェット印刷法により形成するために有利に用いられる。
【0033】
無機材料粉末が金属粉末を含む場合、この発明に係る機能材料インクは、積層型セラミック電子部品における導体または半導体層をインクジェット印刷法により形成するために有利に用いられる。
【0034】
したがって、この発明に係る機能材料インクは、図示しかつ上述した積層セラミックコンデンサに限らず、多層セラミック基板、積層型電池、LCフィルタ、コネクタ、コイルなど、他の積層型セラミック電子部品を製造する際にも用いることができる。
【0036】
無機材料粉末がセラミック粉末を含み、機能材料インクが積層型セラミック電子部品における非導電層をインクジェット印刷法により形成するために用いられる場合、機能材料インクの好ましい組成を質量比で表わすと、
セラミック粉末 10.39 ~25.35質量部
溶剤 88.91 ~72.36質量部
分散剤 0.16 ~ 0.39質量部
樹脂 0.49 ~ 1.79質量部
可塑剤 0.05 ~ 0.11質量部
となる。
可塑剤としては、ジオクチルフタレートが用いられる。
【0037】
他方、無機材料粉末が金属粉末を含み、機能材料インクが積層型セラミック電子部品における導体または半導体層をインクジェット印刷法により形成するために用いられる場合、機能材料インクの好ましい組成を質量比で表わすと、
金属粉末(+共材) 17.95 ~39.05質量部
溶剤 81.42 ~51.29質量部
分散剤 0.22 ~ 0.47質量部
樹脂 0.41 ~ 9.19質量部
となる。無機材料粉末が金属粉末を含む場合、積層型セラミック電子部品における非導電層を形成するためのセラミック粉末と共通する組成を有するセラミック粉末(共材)を無機材料粉末として含むことがある。
【0038】
なお、この発明に係る機能材料インクは、インクジェット印刷法に限らず、他の印刷法にも適用することができる。
【0039】
以下、この発明に基づいて実施した実験例について説明する。
【0040】
[実験例1]
機能材料インクに含まれる無機材料粉末として、金属粉末を用いた。金属粉末として、Ni、Fe、Cu、Al、Ag、W、Au、Sn、Pd、Pt、Mn、Li、およびSiの各粉末のうち、代表して、Ni、Cu、およびAgの各粉末を選択した。なお、無機材料粉末として、Cを用いた試料も参考例として作製した。
【0041】
また、機能材料インクに含まれる樹脂として、水系セルロース樹脂、より具体的には、日本曹達社製セルロース樹脂「ヒドロキシプロピルセルロース」を用いた。
【0042】
機能材料インクを作製するにあたって、無機材料粉末としての上記金属粉末、分散剤としてのポリカルボン酸系共重合体、および溶剤を、ボールミルにて、回転数150rpmで16時間、混合攪拌し、分散剤を無機材料粉末に付着させた。次いで、上記樹脂を添加し、再びボールミルにて、回転数150rpmで4時間、混合攪拌した。次いで、孔径1μmのフィルタにて、1回濾過し、粒径1μmを超える金属粉末および不純物を除去した。次いで、溶剤を再び添加し、ズリ速度1000s-1における粘度が30mPa・s以下となるように粘度調整した。
【0043】
このようにして、試料となる、表1に示す組成を有する実施例1~20および比較例1~16に係る機能材料インクを得た。
【0044】
【表1】
【0045】
表1の組成について、「溶剤」の欄に示されたA~Fは次のとおりである。
【0046】
A:エキネン
B:メトキシブタノール
C:イソプロピルアルコール
D:エタノール
E:1,3-ブタンジオール
F:エチレングリコール
なお、「B+F」は、メトキシブタノールとエチレングリコールとを質量比1:1で混合した混合溶剤であることを示している。
【0048】
他方、表1の特性にある各項目は、次のように評価されたものである。
【0049】
「1000s-1粘度」…アントンパール社製コーン型レオメーター「MCR301」を用い、ズリ速度1000s-1における3秒後の粘度を測定した。コーン型レオメーターにおいて、コーンとしては、径50mm(CP50)のものを用いた。温度条件は、25℃±2℃とした。
【0050】
「沈降速度」…日本ルフト製「LUMiSizer651」を用い、透過光プロファイルで測定した。測定結果をIntegrationモードで解析し、時間あたりの透過光量に換算した結果を「沈降速度」としている。なお、表1の「沈降速度」の値は、ある測定範囲での変化率を相対的な比較値として示しており、したがって、100%/hを超えても異常ではない。
【0051】
「長期安定性」…機能材料インクを作製後、3か月経過した後に、粘度測定および沈降速度測定を行ない、経時変化の有無を確認した。初期特性から、±10%以上変化しなかったものを「〇」と評価した。
【0052】
「吐出性/印刷性」…ピエゾインクジェット印刷機を用いて、インクの吐出を行ない、主滴からの分離が無く、印刷塗膜に滲みが無いものを「〇」と評価した。
【0053】
なお、上述した表1における組成の表示方法および特性の評価方法は、後述する表2ないし表6においても同様である。
【0054】
表1からわかるように、この発明の範囲内にある実施例1~20に係る試料では、樹脂として、水系セルロース樹脂を用いながら、溶剤として、メトキシブタノール、1-3ブタンジオール、および/またはエチレングリコールを用いているので、「沈降速度」が70.5%/h以下と低く、「長期安定性」および「吐出性/印刷性」について「〇」の評価が得られた。
【0055】
他方、この発明の範囲外にある比較例1~16に係る試料では、樹脂として、水系セルロース樹脂を用いているが、溶剤として、エキネン、イソプロピルアルコール、またはエタノールを用いているので、「沈降速度」が168.1%/h以上と高く、「長期安定性」および「吐出性/印刷性」について「×」の評価となった。
【0056】
なお、表1には示されていないが、樹脂として、水系セルロース樹脂としてのヒドロキシプロピルセルロースではなく、水系ではないセルロース樹脂としてのエチルセルロースを用いた場合、沈降速度が10~20%程度悪化することが確認された。
【0057】
[実験例2]
実験例2では、実験例1と比較して、機能材料インクに含まれる樹脂として、アクリル樹脂を用いた点を除いて、実験例1の場合と同様の手順で、試料となる、表2に示す組成を有する実施例21~40および比較例21~36に係る機能材料インクを得た。なお、アクリル樹脂としては、より具体的には、三菱ケミカル社製アクリル樹脂「ダイヤナール」を用いた。
【0058】
【表2】
【0059】
表2からわかるように、この発明の範囲内にある実施例21~40に係る試料では、樹脂として、アクリル樹脂を用いながら、溶剤として、メトキシブタノール、1,3-ブタンジオール、および/またはエチレングリコールを用いているので、「沈降速度」が77.3%/h以下と低く、「長期安定性」および「吐出性/印刷性」について「〇」の評価が得られた。
【0060】
他方、この発明の範囲外にある比較例21~36に係る試料では、樹脂として、アクリル樹脂を用いているが、溶剤として、エキネン、イソプロピルアルコール、またはエタノールを用いているので、「沈降速度」が185.8%/h以上と高く、「長期安定性」および「吐出性/印刷性」について「×」の評価となった。
【0061】
[実験例3]
実験例3では、実験例1と比較して、機能材料インクに含まれる樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂を用いた点を除いて、実験例1の場合と同様の手順で、試料となる、表3に示す組成を有する実施例41~60および比較例41~56に係る機能材料インクを得た。なお、ポリビニルブチラール樹脂としては、より具体的には、積水化学社製ポリビニルブチラール樹脂「エスレック」を用いた。
【0062】
【表3】
【0063】
表3からわかるように、この発明の範囲内にある実施例41~60に係る試料では、樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂を用いながら、溶剤として、メトキシブタノール、1,3-ブタンジオール、および/またはエチレングリコールを用いているので、「沈降速度」が64.4%/h以下と低く、「長期安定性」および「吐出性/印刷性」について「〇」の評価が得られた。
【0064】
他方、この発明の範囲外にある比較例41~56に係る試料では、樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂を用いているが、溶剤として、エキネン、イソプロピルアルコール、またはエタノールを用いているので、「沈降速度」が172.9%/h以上と高く、「長期安定性」および「吐出性/印刷性」について「×」の評価となった。
【0065】
[実験例4]
機能材料インクに含まれる無機材料粉末として、セラミック粉末を用いた。セラミック粉末として、SrTiO、CaZrO、MgO、SiO、Al、Cr、MnO、Y、CaTi、ZrO、SrZrO、BaTiO、BaTi、およびCaOの各粉末のうち、代表して、CaZrO、BaTiO、およびAlの各粉末を選択した。
【0066】
また、機能材料インクに含まれる樹脂として、実験例1の場合と同様、水系セルロース樹脂、より具体的には、日本曹達社製セルロース樹脂「ヒドロキシプロピルセルロース」を用いた。
【0067】
機能材料インクを作製するにあたっては、実験例1の場合と同様の手順で、試料となる、表4に示す組成を有する実施例61~75および比較例61~72に係る機能材料インクを得た。
【0068】
【表4】
【0069】
表4からわかるように、この発明の範囲内にある実施例61~75に係る試料では、樹脂として、水系セルロース樹脂を用いながら、溶剤として、メトキシブタノール、1,3-ブタンジオール、および/またはエチレングリコールを用いているので、「沈降速度」が34.3%/h以下と低く、「長期安定性」および「吐出性/印刷性」について「〇」の評価が得られた。
【0070】
他方、この発明の範囲外にある比較例61~72に係る試料では、樹脂として、水系セルロース樹脂を用いているが、溶剤として、エキネン、イソプロピルアルコール、またはエタノールを用いているので、「沈降速度」が100.1%/h以上と高く、「長期安定性」および「吐出性/印刷性」について「×」の評価となった。
【0071】
なお、表4には示されていないが、実験例4についても、樹脂として、水系セルロース樹脂としてのヒドロキシプロピルセルロースではなく、水系ではないセルロース樹脂としてのエチルセルロースを用いた場合、沈降速度が10~20%程度悪化することが確認された。
【0072】
[実験例5]
実験例5では、実験例4と比較して、機能材料インクに含まれる樹脂として、アクリル樹脂を用いた点を除いて、実験例4の場合と同様の手順で、試料となる、表5に示す組成を有する実施例81~95および比較例81~92に係る機能材料インクを得た。なお、アクリル樹脂としては、より具体的には、実験例2の場合と同様、三菱ケミカル社製アクリル樹脂「ダイヤナール」を用いた。
【0073】
【表5】
【0074】
表5からわかるように、この発明の範囲内にある実施例81~95に係る試料では、樹脂として、アクリル樹脂を用いながら、溶剤として、メトキシブタノール、1,3-ブタンジオール、および/またはエチレングリコールを用いているので、「沈降速度」が33.5%/h以下と低く、「長期安定性」および「吐出性/印刷性」について「〇」の評価が得られた。
【0075】
他方、この発明の範囲外にある比較例81~92に係る試料では、樹脂として、アクリル樹脂を用いているが、溶剤として、エキネン、イソプロピルアルコール、またはエタノールを用いているので、「沈降速度」が120.7%/h以上と高く、「長期安定性」および「吐出性/印刷性」について「×」の評価となった。
【0076】
[実験例6]
実験例6では、実験例4と比較して、機能材料インクに含まれる樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂を用いた点を除いて、実験例4の場合と同様の手順で、試料となる、表6に示す組成を有する実施例101~115および比較例101~112に係る機能材料インクを得た。なお、ポリビニルブチラール樹脂としては、より具体的には、実験例3の場合と同様、積水化学社製ポリビニルブチラール樹脂「エスレック」を用いた。
【0077】
【表6】
【0078】
表6からわかるように、この発明の範囲内にある実施例101~115に係る試料では、樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂を用いながら、溶剤として、メトキシブタノール、1,3-ブタンジオール、および/またはエチレングリコールを用いているので、「沈降速度」が34.7%/h以下と低く、「長期安定性」および「吐出性/印刷性」について「〇」の評価が得られた。
【0079】
他方、この発明の範囲外にある比較例101~112に係る試料では、樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂を用いているが、溶剤として、エキネン、イソプロピルアルコール、またはエタノールを用いているので、「沈降速度」が117.2%/h以上と高く、「長期安定性」および「吐出性/印刷性」について「×」の評価となった。
【符号の説明】
【0080】
1 積層セラミックコンデンサ
2 セラミック層
3 セラミック素体
4,5 内部電極
11 セラミックグリーンシート
12 内部電極用印刷膜
13 段差吸収用印刷膜
14,15 外部電極用印刷膜
図1
図2