IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-解析装置、解析システム及び解析方法 図1
  • 特許-解析装置、解析システム及び解析方法 図2
  • 特許-解析装置、解析システム及び解析方法 図3
  • 特許-解析装置、解析システム及び解析方法 図4
  • 特許-解析装置、解析システム及び解析方法 図5
  • 特許-解析装置、解析システム及び解析方法 図6
  • 特許-解析装置、解析システム及び解析方法 図7
  • 特許-解析装置、解析システム及び解析方法 図8
  • 特許-解析装置、解析システム及び解析方法 図9
  • 特許-解析装置、解析システム及び解析方法 図10
  • 特許-解析装置、解析システム及び解析方法 図11
  • 特許-解析装置、解析システム及び解析方法 図12
  • 特許-解析装置、解析システム及び解析方法 図13
  • 特許-解析装置、解析システム及び解析方法 図14
  • 特許-解析装置、解析システム及び解析方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】解析装置、解析システム及び解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20231212BHJP
   G01H 13/00 20060101ALI20231212BHJP
   G01N 29/12 20060101ALI20231212BHJP
   G01N 29/46 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H13/00
G01N29/12
G01N29/46
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019157996
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021036217
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/163562(WO,A1)
【文献】特開2015-001455(JP,A)
【文献】特開2007-057252(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03121586(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-13/045
G01M 99/00
G01H 1/00-17/00
G01N 29/00-29/52
G01N 3/00- 3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の剛性及び前記構造物の疲労度の時系列情報を取得する情報取得部と、
前記構造物の剛性の変化量と疲労度の変化量との比に基づく評価値と前記構造物の疲労度に基づいて定められる評価値の基準範囲とを比較することにより、前記構造物の健全性を解析する解析部と
を備え
前記解析部は、前記構造物の疲労度の増加に伴って前記評価値と前記基準範囲との乖離が拡大している場合に、前記構造物の健全性を低く判定する
解析装置。
【請求項2】
前記構造物の剛性は、前記構造物のバネ定数である
請求項1記載の解析装置。
【請求項3】
前記構造物の疲労度は、前記構造物の累積疲労損傷度である
請求項1又は2に記載の解析装置。
【請求項4】
前構造物の振動の時系列の測定データを取得する測定データ取得部
をさらに備え
前記情報取得部は、
前記振動の時系列の測定データに基づいて、前記構造物の振動の卓越周波数を特定する卓越周波数特定部と、
前記卓越周波数特定部により特定された卓越周波数に基づいて、前記構造物の剛性の時系列情報を取得する剛性取得部と
を備える請求項1又は2に記載の解析装置。
【請求項5】
前記振動の時系列の測定データは、前記構造物に設けられた加速度センサにより測定された加速度データである
請求項に記載の解析装置。
【請求項6】
前記測定データ取得部は、前記構造物に生じる応力を示す時系列の測定データを取得し、
前記情報取得部は、
前記応力を示す時系列の測定データに基づいて、前記構造物の疲労度の時系列情報を取得する疲労度取得部
を備える請求項又はに記載の解析装置。
【請求項7】
請求項1からのいずれか一項に記載の解析装置と、
前記構造物の振動を測定して前記振動の時系列の測定データを生成するセンサと、
前記構造物に生じる応力を示す情報を測定して前記応力を示す時系列の測定データを生成するセンサと
を備える解析システム。
【請求項8】
構造物の剛性及び前記構造物の疲労度の時系列情報を取得する段階と、
前記構造物の剛性の変化量と疲労度の変化量との比に基づく評価値と前記構造物の疲労度に基づいて定められる評価値の基準範囲とを比較することにより、前記構造物の健全性を解析する段階と
を備え
前記構造物の健全性を解析する段階は、前記構造物の疲労度の増加に伴って前記評価値と前記基準範囲との乖離が拡大している場合に、前記構造物の健全性を低く判定する
解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析装置、解析システム及び解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、構造物の変位振幅の計測結果に基づいて構造物の疲労診断を行う技術が開示されている。
特許文献1 特開2002-296252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
構造物の剛性は、例えば錆びの発生や劣化等だけでなく、疲労によっても低下し得る。そのため、構造物の剛性又は構造物の疲労度のみから構造物の健全性を高精度に判定することは容易でない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の態様において、解析装置が提供される。解析装置は、構造物の剛性及び構造物の疲労度の時系列情報を取得する情報取得部を備える。解析装置は、構造物の剛性の変化量と疲労度の変化量との比に基づいて、構造物の健全性を解析する解析部を備える。
【0005】
解析部は、構造物の剛性の変化量と疲労度の変化量との比に基づく評価値と、予め定められた評価値の基準範囲とを比較することにより、構造物の健全性を判定してよい。
【0006】
解析部は、評価値と、構造物の疲労度に基づいて定められる評価値の基準範囲とを比較することにより、構造物の健全性を判定してよい。
【0007】
解析部は、構造物の疲労度の増加に伴って評価値と基準範囲との乖離が拡大している場合に、構造物の健全性を低く判定してよい。
【0008】
構造物の剛性は、構造物のバネ定数であってよい。
【0009】
構造物の疲労度は、構造物の累積疲労損傷度であってよい。
【0010】
解析装置は、前構造物の振動の時系列の測定データを取得する測定データ取得部を備えてよい。情報取得部は、振動の時系列の測定データに基づいて、構造物の振動の卓越周波数を特定する卓越周波数特定部を備えてよい。情報取得部は、卓越周波数特定部により特定された卓越周波数に基づいて、構造物の剛性の時系列情報を取得する剛性取得部を備えてよい。
【0011】
振動の時系列の測定データは、構造物に設けられた加速度センサにより測定された加速度データであってよい。
【0012】
測定データ取得部は、構造物に生じる応力を示す時系列の測定データを取得してよい。情報取得部は、応力を示す時系列の測定データに基づいて、構造物の疲労度の時系列情報を取得する疲労度取得部を備えてよい。
【0013】
第2の態様において、解析システムが提供される。解析システムは、上記の解析装置を備える。解析システムは、構造物の振動を測定して振動の時系列の測定データを生成するセンサを備える。解析システムは、構造物に生じる応力を示す情報を測定して応力を示す時系列の測定データを生成するセンサを備える。
【0014】
第3の態様において、解析方法が提供される。解析方法は、構造物の剛性及び構造物の疲労度の時系列情報を取得する段階を備える。解析方法は、構造物の剛性の変化量と疲労度の変化量との比に基づいて、構造物の健全性を解析する段階を備える。
【0015】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】モニタリングシステム10の全体構成を概略的に示す。
図2】解析装置100のブロック構成の一例を概略的に示す。
図3】バネ定数及び疲労度の変化の態様を示すグラフである。
図4】疲労試験で得られるデータの一例を示す。
図5】疲労試験により得られる物体のS-N曲線を示す。
図6】物体に一定応力を繰り返し負荷した回数とバネ定数との関係を示す。
図7】健全度評価値の疲労度への依存性を示す。
図8】異なる応力における健全度評価値の疲労度依存性を示す。
図9】健全度評価値の基準範囲の一例を示す。
図10】健全であると判定される場合の健全度評価値の経時変化を示す。
図11】健全であると判定される場合の健全度評価値の他の経時変化を示す。
図12】健全でないと判定される場合の健全度評価値の経時変化を示す。
図13】加速度の測定データを周波数解析する手法を概念的に示す。
図14】FFT(Wi)のアンサンブル平均により得られた周波数スペクトルを示す。
図15】解析装置100が実行する解析方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0018】
図1は、モニタリングシステム10の全体構成を概略的に示す。モニタリングシステム10は、道路情報板80に関する物理量を測定して、測定した物理量に基づいて、道路情報板80を解析する。例えば、モニタリングシステム10は、道路情報板80の構造性能や安全性等の健全性を解析する。道路情報板80は、構造物の一例である。
【0019】
モニタリングシステム10は、構造物の健全性を解析するシステムの一例である。モニタリングシステム10は、少なくともバネ定数の変化量に基づいて、構造物の健全性を解析する。道路情報板80のバネ定数は、道路情報板80の形状の変化によって変化し得る。例えば、道路情報板80の劣化や、道路情報板80を構成するボルト等の機械要素の不良、道路情報板80に加えられた外力による損傷等が生じることにより、道路情報板80の形状が変化することによって、バネ定数が変化する。また、道路情報板80のバネ定数は、道路情報板80の疲労によっても変化し得る。
【0020】
モニタリングシステム10は、道路情報板80の振動及び道路情報板80に生じた歪みを連続的又は断続的に測定する。モニタリングシステム10は、測定された歪みに基づいて、道路情報板80の累積疲労損傷度を算出する。また、モニタリングシステム10は、測定された振動の卓越周波数に基づいて、道路情報板80のバネ定数を算出する。モニタリングシステム10は、道路情報板80のバネ定数の変化量と累積疲労損傷度の変化量とに基づいて道路情報板80の健全性を判定する。これにより、疲労により生じるバネ定数の変化を考慮して、道路情報板80の健全性を判定することができる。
【0021】
道路情報板80は、支柱81と、支柱82と、ベースプレート83と、表示プレート84とを備える。道路情報板80は、高速道路や都市道路等の道路の路肩に、片持ち式で設置される。ベースプレート83は、コンクリート等の基礎に、アンカーボルト等で固定される。支柱81はベースプレート83に固定される。支柱81は、地面から鉛直上方に延びる。支柱82は、支柱81から、鉛直方向とは略直交する方向に延伸する。表示プレート84は、支柱82に固定される。表示プレート84は、交通状況、道路状況、トンネル等の情報を表示する。
【0022】
モニタリングシステム10は、加速度センサ40と、歪センサ50と、収集装置90と、送信機110と、解析装置100とを備える。
【0023】
道路情報板80は、道路情報板80の近傍を車両が通過するときの振動が地面を通じて道路情報板80に伝わったり、道路情報板80が風等の外力を受けたりすることによって、振動する。加速度センサ40は、道路情報板80の振動を検出するセンサの一例である。加速度センサ40は、例えば表示プレート84に設けられ、表示プレート84の加速度を測定する。
【0024】
加速度センサ40は、例えば、MEMS型加速度センサである。加速度センサ40は、静電容量式の加速度センサである。加速度センサ40はそれぞれ、3軸加速度センサであってよい。加速度センサ40により生成されたアナログの加速度信号は、デジタルの加速度データに変換されて、無線通信又は有線通信により収集装置90に送信される。
【0025】
歪センサ50は、道路情報板80の応力集中部に設けられる。例えば、歪センサ50は、支柱81におけるベースプレート83との接続部の近傍に設けられる。歪センサ50により生成されたアナログの歪信号は、デジタルの歪データに変換されて、無線通信又は有線通信により収集装置90に送信される。
【0026】
収集装置90は、加速度センサ40及び歪センサ50により測定された時系列の測定データを、有線又は無線通信により取得する。送信機110は、収集した測定データを、通信ネットワーク190を通じて解析装置100に送信する。通信ネットワーク190は、有線通信又は無線通信の伝送路を含み得る。通信ネットワーク190は、インターネット、P2Pネットワーク、専用回線、VPN、電力線通信回線、携帯電話回線等を含む通信網を含んでよい。
【0027】
解析装置100は、加速度センサ40の時系列の測定データを、FFT等のアルゴリズムを用いた周波数解析して、振動の周波数成分を抽出する。解析装置100は、抽出した周波数成分に基づいて、道路情報板80の卓越周波数を特定する。解析装置100は、特定した卓越周波数の変化量に基づいてバネ定数の変化量を算出する。解析装置100は、歪センサ50の時系列の測定データに基づいて道路情報板80に生じた応力を算出し、算出した応力の履歴に基づいて累積疲労損傷度を算出する。
【0028】
解析装置100は、累積疲労損傷度の変化量に対するバネ定数の変化量の比に基づいて、道路情報板80の健全性を判定する。これにより、解析装置100は、疲労により生じるバネ定数の変化を考慮して、道路情報板80の健全性を判定することができる。
【0029】
図2は、解析装置100のブロック構成の一例を概略的に示す。解析装置100は、処理部260と、メモリ270と、通信部290とを備える。処理部260は、測定データ取得部200と、情報取得部210と、解析部220とを備える。情報取得部210は、卓越周波数特定部240と、バネ定数取得部242と、疲労度取得部250とを備える。
【0030】
解析装置100は、コンピュータにより実装されてよい。処理部260は、解析装置100の全体を制御する。処理部260はプロセッサにより実現されてよい。通信部290は、送信機110から送信された加速度センサ40の測定データ及び歪センサ50の測定データを示す情報を受信する。通信部290により受信した情報は、測定データとして処理部260に提供される。
【0031】
メモリ270は不揮発性メモリや揮発性メモリ等の記憶装置である。処理部260は、メモリ270に記憶された情報を用いて、解析装置100の各部を制御する。メモリ270は、処理部260が実行するプログラムを格納する。処理部260は、メモリ270からロードされたプログラムを実行し、プログラムに従って動作することにより、解析装置100の各部を制御する。プログラムは、処理部260によって実行された場合に、処理部260を、測定データ取得部200、情報取得部210及び解析部220を含む、処理部260の各部として機能させる。
【0032】
測定データ取得部200は、前道路情報板80の振動の時系列の測定データを取得する。測定データ取得部200は、道路情報板80に生じる応力を示す時系列の測定データを取得する。振動の時系列の測定データは、卓越周波数道路情報板80に設けられた加速度センサ40により測定された加速度データである。応力を示す時系列の測定データは、例えば、道路情報板80に設けられた歪センサ50により測定された歪みデータである。
【0033】
情報取得部210は、道路情報板80のバネ定数及び道路情報板80の疲労度の時系列情報を取得する。具体的には、情報取得部210は、測定データ取得部200が取得した加速度センサ40の測定データ及び歪センサ50の測定データを取得する。
【0034】
情報取得部210において、卓越周波数特定部240は、振動の時系列の測定データに基づいて、道路情報板80の振動の卓越周波数を特定する。バネ定数取得部242は、卓越周波数特定部240により特定された卓越周波数に基づいて、道路情報板80のバネ定数の時系列情報を取得する。なお、バネ定数は、道路情報板80の剛性の一例である。また、バネ定数は、道路情報板80の静的バネ定数である。
【0035】
疲労度取得部250は、応力を示す時系列の測定データに基づいて、道路情報板80の疲労度の時系列情報を算出する。道路情報板80の疲労度は、例えば、道路情報板80の累積疲労損傷度である。
【0036】
解析部220は、道路情報板80のバネ定数の変化量と疲労度の変化量との比に基づいて、道路情報板80の健全性を解析する。具体的には、解析部220は、バネ定数の変化量と疲労度の変化量との比に基づいて、道路情報板80の健全性を評価するための評価値を算出する。そして、解析部220は、道路情報板80の剛性の変化量と疲労度の変化量との比に基づく評価値と、予め定められた評価値の基準範囲とを比較することにより、道路情報板80の健全性を判定する。より具体的には、解析部220は、評価値と、道路情報板80の疲労度に基づいて定められる評価値の基準範囲とを比較することにより、道路情報板80の健全性を判定する。例えば、解析部220は、評価値が、道路情報板80の疲労度に基づいて定められる評価値の基準範囲外である場合に、道路情報板80の健全性を低く判定してよい。解析部220は、道路情報板80の疲労度の増加に伴って評価値と基準範囲との乖離が拡大している場合に、道路情報板80の健全性を低く判定してよい。
【0037】
以上に説明したように、解析装置100は、疲労により生じるバネ定数の変化を考慮して、道路情報板80の健全性を判定する。これにより、例えば、道路情報板80の疲労度が小さいにもかかわらず道路情報板80のバネ定数が比較的に大きく低下している場合に、道路情報板80の健全性が悪化したと判定することができる。
【0038】
次に、物体の卓越周波数とバネ定数との関係について説明する。物体の質量をm、物体の固有振動の角速度の初期値をω、バネ定数の初期値をkとすると、ω =k/mの関係式が成立する。物体の固有振動数の初期値をfとすると、ω=2πfである。
【0039】
質量mが一定であるとして、バネ定数がkからk+δkに微少変化したことによって、固有振動の角速度がωからω+δωに変化した場合、上記関係式より、2δf/f=δk/kとなる。したがって、振動の固有振動数の変化量δfは、バッテリの変化量δkに比例する。したがって、道路情報板80の固有振動数の変化量を測定することにより、道路情報板80のバネ定数の変化量を測定することができる。
【0040】
ここで、バネ定数kは、物体の材質のヤング率をE、形状因子Iとして、k=E×Iで表すことができる。ヤング率Eは、一般には物体を形成する物質の物性量であるが、物体の加工時に生じる欠陥や熱履歴の他、疲労による欠陥の進展等によっても変化し得る。形状因子Iは、物体の形状から定まる。
【0041】
したがって、バネ定数の変化には、疲労により生じる変化と、物体の形状変化による変化とが含まれる。したがって、道路情報板80のバネ定数が低下したことがわかったとしても、主として疲労によってバネ定数が低下した可能性もあれば、主として道路情報板80の形状変化によって低下した可能性もあることになる。
【0042】
図3は、バネ定数及び疲労度の変化の態様を示すグラフである。図3のグラフの横軸は疲労度であり、縦軸は初期値で規格化したバネ定数である。疲労度は、例えば累積疲労損傷度である。累積疲労損傷度については後述する。
【0043】
図3のA、B及びCは、それぞれ構造物A、B及びCのバネ定数及び疲労度の変化を線で示したものである。ここで、構造物A、B及びCは、同一材料で製造され、初期状態で同一形状を持っていたとする。構造物A、B及びCはそれぞれ、バネ定数が初期値kから一定量δk/kだけ低下している状況にある。構造物A、B及びCの疲労度は、それぞれD、D及びDである。図示されるようにD<D<Dである。
【0044】
ここで、構造物の疲労度のみに注目したとすると、疲労度が最も高い構造物Cのリスクが最も高いと判断される。また、バネ定数のみに注目したとすると、バネ定数の変化量は同一であるので、リスクは同一と判断される。
【0045】
しかし、疲労度の変化量に対するバネ定数の変化量の比に注目すると、構造物A、B及びCのうち、構造物Aは、疲労度の変化量が最も小さいにも関わらず、他の構造物と同じ量だけバネ定数が低下したことが分かる。したがって、例えば構造物B及びCに比べて構造物Aに大きな形状変化が生じたことによって、構造物Aのバネ定数が低下している可能性があることが分かる。このように、疲労度の変化量に対する変化量の比に基づいて構造物を評価することで、構造物の健全性をより適切に判定することができる。
【0046】
図4は、疲労試験で得られるデータの一例を示す。疲労試験では、物体に一定振幅の応力を繰り返し物体に負荷して、破断するまでの応力の繰り返し数を測定する。図4の横軸は一定振幅の応力を加えた回数を示す繰り返し数であり、縦軸は平均歪である。
【0047】
図4に示されるように、弾性変形の範囲内であっても、一定振幅の応力を負荷していくにつれて平均歪が変化していることが分かる。これは物体のヤング率が変化していることを示す。つまり、上述したように、疲労によってバネ定数が変化していることを示す。
【0048】
図5は、疲労試験により得られる物体のS-N曲線を示す。図5の横軸は破断までの応力の繰り返し数であり、縦軸は応力振幅σである。S-N曲線は、jを自然数として、応力振幅σjがNj回発生した場合に破断に至ることを示す。S-N曲線は、異なる応力についてそれぞれ疲労試験を行うことによって、σi及びNiの複数の組を取得することによって得られる。
【0049】
線形累積損傷則によると、過去に応力振幅σiの応力が物体に発生した回数がniであるとき、物体の累積疲労損傷度Dは、D=n/N+n/N+・・・n/N=Σn/Nにより算出される。なお、nは、歪の時系列の測定データから、レインフロー法等の手法により計数される。線形累積損傷則では、累積疲労損傷度Dが1になった場合に疲労破壊に至ると考える。したがって、現在までの疲労蓄積時間をTとし、現在の累積疲労損傷度Dとすると、寿命はT/Dにより算出される。この場合、余寿命は、T/D-Tとなる。
【0050】
なお、図5に示すように疲労限度σwを持つ物体には、疲労限度σw以下の一定の応力振幅を加えても、破断に至らないとされる。しかし、例えば変動応力下では、σw以上の応力と組み合わせた負荷がかかること等によって、σw以下の応力が疲労損傷に寄与する場合がある。そこで、修正マイナー則に基づき、S-N曲線において疲労限度σw以上のS-N曲線を疲労限度σw以下まで延長したものを用いて、累積疲労損傷度Dを算出する。図5の破線は、修正マイナー則に基づくS-N曲線を示す。
【0051】
図6は、物体に一定応力を繰り返し負荷した回数とバネ定数との関係を示す。図6の横軸は繰り返し数であり、縦軸は規格化したバネ定数である。上述したように、バネ定数はヤング率に比例する。ヤング率は、疲労試験で得られた平均歪データと物体に負荷した一定応力データとに基づいて算出される。図6の縦軸の値は、算出されたヤング率をヤング率の初期値で規格化することによって得られる。図6に示す関係から、図4等に関連して説明したように、疲労によってバネ定数が変化していることが分かる。
【0052】
図7は、健全度評価値の疲労度への依存性を示す。図7のグラフの横軸は累積疲労損傷度であり、縦軸は健全度評価値である。ここで、健全度評価値は、累積疲労損傷度の変化量に対する、規格化したバネ定数の変化量の比である。累積疲労損傷度の変化量をδDとし、規格化したバネ定数の変化量をδkとすると、健全度評価値はδk/δDから算出される。図7に示す健全度評価値の疲労度依存性は、疲労試験において特定の応力を負荷した場合に得られる平均歪、応力の負荷回数、及び破断までに負荷した回数を示す情報に基づいて、算出される。
【0053】
図8は、異なる応力における健全度評価値の疲労度依存性を示す。図8のグラフの横軸は累積疲労損傷度であり、縦軸は健全度評価値である。図8には、疲労度依存性を示す3本の線が示されている。図8の3本の線は、それぞれ互いに異なる一定応力を負荷した場合の疲労度依存性を示す。図8の疲労度依存性は、疲労試験において異なる応力を負荷した場合に得られる情報に基づいて算出される。
【0054】
ここで、実環境における物体の累積疲労損傷度及び健全度評価値を実測して、ある時点の累積疲労損傷度及び健全度評価値を示す点を、図8のグラフ上にプロットすることができる。累積疲労損傷度及び健全度評価値の実測値を示す点が、下限810と上限820との間の範囲800内にある場合、その物体は健全であると判定してよい。
【0055】
なお、実環境における物体の健全性の判定に用いる場合、物体に加わることが想定される応力の上限値及び下限値や物体を構成する材料のばらつきや、安全係数等を考慮して、物体が健全であると判定するための基準範囲を、範囲800より広い範囲に設定してよい。図9は、健全度評価値の基準範囲の一例を示す。図9の基準範囲900は、図8の範囲800を含む、範囲800より広い範囲である。
【0056】
図10は、健全であると判定される場合の健全度評価値の経時変化を示す。図10の丸印は、複数の時点で実測された累積疲労損傷度及び健全度評価値のデータ点である。図10の矢印は、実測された順番を示す。図10に示されるデータ点のように、累積疲労損傷度及び健全度評価値の実測値が基準範囲900内で推移している場合、その物体は健全であると判定してよい。つまり、その物体は設計寿命を保持していると判定してよい。また、現在までの疲労蓄積期間Tと、現在の累積疲労損傷度Dとに基づいて、余寿命を算出できる。
【0057】
図11は、健全であると判定される場合の健全度評価値の他の経時変化を示す。図11のデータ点で示されるように、累積疲労損傷度及び健全度評価値の実測値が、基準範囲900内に入る方向に推移している場合、その物体は健全であると判定してよい。例えば、基準範囲からの乖離が小さくなる方向に推移している場合、その物体は健全であると判定してよい。また、現在までの疲労蓄積期間Tと、現在の累積疲労損傷度Dとに基づいて、余寿命を算出できる。
【0058】
図12は、健全でないと判定される場合の健全度評価値の経時変化を示す。図12のデータ点で示されるように、基準範囲の下限910からの乖離量は、d1からd2へ、d2からd3へと拡大している。このように、データ点が基準範囲外にあり、かつ、基準範囲の下限910からの乖離量が拡大している場合、その物体は健全でないと判定してよい。同様に、データ点が基準範囲外にあり、かつ、基準範囲の上限920からの乖離量が拡大する方向に推移している場合、その物体は健全でないと判定してよい。
【0059】
図13は、加速度の測定データを周波数解析する手法を概念的に示す。グラフ1300は、加速度センサ40により得られた1分間の測定データのグラフである。まず、測定データを特定の時間ウィンドウで区切ることによって、測定データを複数の部分データに分割する。一例として、1分間の測定データWallを6秒毎に区切ることによって、10個の部分データに分割する。図13のWi(iは、1から10の自然数)は、部分データを表す。Wallは、Wi(iは、1から10の自然数)の連結で表される。
【0060】
次に、10個の部分データをそれぞれフーリエ変換することによって、部分データ毎に周波数スペクトルを取得する。例えば、FFTのアルゴリズムを用いて各部分データをフーリエ変換することにより、10個の周波数スペクトルFFT(Wi)(iは、1から10の自然数)を取得する。なお、FFTのアルゴリズムを用いてデータWをフーリエ変換することによって得られた周波数スペクトルを「FFT(W)」と記載する。
【0061】
10個のFFT(Wi)を平均化することにより、1つの周波数スペクトル1320を算出する。このようにして、1分間の測定データから、アンサンブル平均による1つの周波数スペクトルが得られる。図14は、FFT(Wi)のアンサンブル平均により得られた周波数スペクトルを示す。
【0062】
アンサンブル平均によって、バックグランドの大きな強度振幅が抑えられて、周波数構造を比較的に明確に特定することが可能になる。図14の矢印で示されるように、40Hz以下の周波数領域において、周波数成分が最大になるピーク周波数が9つ存在することがわかる。卓越周波数特定部240は、これらのピーク周波数のうち、特定の周波数帯に含まれるピーク周波数を道路情報板80の卓越周波数として特定してよい。バネ定数取得部242は、卓越周波数特定部240により特定した卓越周波数に基づいて、道路情報板80のバネ定数を算出する。
【0063】
図15は、解析装置100が実行する解析方法の手順を示すフローチャートである。図15のフローチャートは、送信機110から測定データを受信する毎に、処理部260が主体となって実行される。
【0064】
S1500において、測定データ取得部200は、送信機110から送信された加速度センサ40及び歪センサ50の測定データを、通信部290を通じて取得する。
【0065】
S1502において、バネ定数取得部242は、道路情報板80のバネ定数を算出する。具体的には、卓越周波数特定部240が、図14に関連して説明した手法を用いて、加速度センサ40の測定データに基づいて道路情報板80の卓越周波数を特定する。そして、バネ定数取得部242は、卓越周波数特定部240により特定した卓越周波数に基づいて、道路情報板80のバネ定数を算出する。
【0066】
S1504において、疲労度取得部250は、道路情報板80の累積疲労損傷比を算出する。疲労度取得部250は、歪センサ50の測定データに基づいて、道路情報板80の累積疲労損傷度を特定する。疲労度取得部250は、上述したようにレインフロー法等の手法を用いて、歪センサ50の測定データに基づいて道路情報板80に加わる応力の発生回数を計数する。疲労度取得部250は、計数した応力の発生回数と道路情報板80のS-N曲線とに基づいて、累積疲労損傷比を算出する。なお、道路情報板80のS-N曲線及び道路情報板80のバネ定数の初期値を示す情報は、予めメモリ270に格納されている。
【0067】
S1506において、解析部220は、健全性を評価するための評価値を算出する。評価値とは、道路情報板80の累積疲労損傷度の変化量に対する、道路情報板80のバネ定数の変化量である。S1508において、解析部220は、S1506において算出した評価値に基づいて、道路情報板80の健全性が低いか否かを判定する。
【0068】
例えば、解析部220は、図3等に関連して説明したように、初期状態からの累積疲労損傷度の増加量に対するバネ定数の低下量の比を評価値として算出し、評価値が低いほど、道路情報板80の健全性が低いと判定してよい。例えば、解析部220は、算出して評価値が予め定められた閾値より大きい場合に、道路情報板80の健全性が低いと判定してよい。
【0069】
また、解析部220は、図9から図12等に関連して説明したように、算出した健全度評価値が、累積疲労損傷度から定まる基準値の範囲外にある場合に、道路情報板80の健全性が低いと判定してよい。また、解析部220は、算出した健全度評価値が基準値の範囲外にあり、かつ、累積疲労損傷度の増加に伴って健全度評価値と基準範囲との乖離が拡大している場合に、道路情報板80の健全性が低いと判定してよい。
【0070】
解析部220は、S1508において健全性が低いと判定した場合、S1510において、処理部260は、健全性が低くなっている可能性があることを道路の管理者に通知して、本フローチャートの処理を終了する。一方、解析部220は、S1508において健全性が低くないと判定した場合、本フローチャートの処理を終了する。
【0071】
以上に説明したように、解析装置100によれば、疲労により生じるバネ定数の変化を考慮して、道路情報板80の健全性を判定することができる。なお、本実施形態によれば、「累積疲労損傷度の変化量に対するバネ定数の変化量の比」が、健全性の評価値として用いられる。評価値は、その「累積疲労損傷度の変化量に対するバネ定数の変化量の比」そのものに限られない。「『比』に基づいて構造物の健全性を解析する」ことは、例えば、「比」をパラメータとして持つ様々な評価値を用いて構造物の健全性を解析することを含む。例えば、「『比』に基づいて構造物の健全性を解析する」ことは、「比」の逆数、「比」の累乗根又は「比」を少なくとも1つの変数とする任意の関数を用いて算出される評価値を用いて構造物の健全性を解析することを含む。
【0072】
本実施形態では、道路情報板80の累積疲労損傷度を測定するためのセンサとして、歪センサ50が用いられる。しかし、他の実施形態では、歪センサ50に代えて、道路情報板80の応力集中部にかかる応力を推定できる任意のセンサを用いることができる。例えば、歪センサ50に代えて、支柱81の頂部に加速度センサ又は変位センサを設けて、支柱81の頂部に設けた加速度センサ又は変位センサにより測定された加速度又は変位と、加速度又は変位と応力との関係を示す予め定められた情報とに基づいて、累積疲労損傷度を測定してもよい。
【0073】
本実施形態では、解析装置100が、送信機110から通信ネットワーク190を通じて受信した測定データに基づいて、道路情報板80の健全性を解析する。他の実施形態では、収集装置90が道路情報板80のバネ定数及び疲労度の少なくとも一方の情報を取得してよい。この場合、解析装置100は、収集装置90取得した情報を、通信ネットワーク190を通じて受信して、道路情報板80の健全性を解析してよい。このように、収集装置90は、解析装置100の少なくとも一部の機能を備えてよい。収集装置90は、解析装置100の全ての機能を備えてもよい。
【0074】
道路情報板80は、解析装置100による解析対象となる構造物の一例である。解析装置100による解析対象となる構造物としては、鉄塔、電信柱、電力柱、架線柱、照明塔、広告塔、標識塔、信号機、電波塔、橋梁、トンネル、建築物、ガードレール、空港の管制塔、飛行場灯台、鉄道信号機、鉄道橋、クレーン、ダム、堤防、溝渠等を含んでよい。道路情報板80は、工作物以外の構造物、例えば土構造物等であってよい。また、解析装置100の解析対象は構造物に限られない。解析装置100の解析対象は、構造物や機械等の部品等であってよい。解析装置100の解析対象は、任意の剛体であってよい。
【0075】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0076】
特許請求の範囲、明細書、及び図面中において示した装置、システム、プログラム、及び方法における動作、手順、ステップ、及び段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、及び図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0077】
10 モニタリングシステム
100 解析装置
40 加速度センサ
50 歪センサ
80 道路情報板
81、82 支柱
83 ベースプレート
84 表示プレート
90 収集装置
100 解析装置
110 送信機
190 通信ネットワーク
200 測定データ取得部
210 情報取得部
220 解析部
240 卓越周波数特定部
242 バネ定数取得部
250 疲労度取得部
260 処理部
270 メモリ
290 通信部
800 範囲、810 下限、820 上限
900 基準範囲、910 下限、920 上限
1300 グラフ、1320 周波数スペクトル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15