(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】芯鞘型複合繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 8/14 20060101AFI20231212BHJP
C08G 63/668 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
D01F8/14 D
C08G63/668
(21)【出願番号】P 2019175463
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡 一平
(72)【発明者】
【氏名】田中 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】長尾 優志
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-188919(JP,A)
【文献】特開2004-137418(JP,A)
【文献】特開2003-082555(JP,A)
【文献】特開2018-204157(JP,A)
【文献】特開平08-260248(JP,A)
【文献】特開昭63-190017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00- 8/18
D03D 1/00-27/18
D04B 1/00- 1/28
21/00-21/20
C08G63/00-64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点が0~30℃、かつ結晶融解熱量が0~12J/gの範囲であり、数平均分子量1000~20000のポリエチレングリコールを組成物全体に対して0~12.5重量%の範囲で含有するポリエステル組成物を芯成分Aと
して、熱可塑性ポリマーで結晶性を有する
ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートを主成分として50%以上含む鞘成分Bからなる芯鞘型複合繊維であり、繊維横断面において芯成分Aが表面に露出している部分を1~8箇所有しており、繊維横断面の外周の長さRと、芯成分Aの表面露出部分1~8箇所のうち最も大きい露出部の長さrの比(r/R)が0.005~0.100である芯鞘型複合繊維であり、かつ50℃で1週間静置したのちに30℃のイオン交換水中に1時間浸漬した際に容積が
160~1350%増加する芯鞘型複合繊維。
【請求項2】
繊維横断面において芯成分Aが表面に露出している部分が1箇所であることを特徴とする請求項1に記載の芯鞘型複合繊維。
【請求項3】
芯成分Aが、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールの重縮合反応により得られるポリエステル組成物であり、金属スルホネート基含有イソフタル酸成分を全酸成分に対して7.0~15.0モル%共重合され
たポリエステル組成物である請求項1
または2に記載の芯鞘型複合繊維。
【請求項4】
芯成分Aが、テレフタル酸成分を全酸成分に対して5.0~30.0モル%、およびイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸の一種以上から選択されるジカルボン酸成分が全酸成分に対して合計で60.0~85.0モル%共重合されたポリエステル組成物である請求項
3に記載の芯鞘型複合繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリマーからなり、吸水能力に優れた芯鞘型複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数のポリマーを組み合わせることで多機能化が可能な複合繊維は、衣料用途のみならずおむつ用途やフェイスマスク用途等幅広く利用されており、産業上の価値は極めて高い。これら用途に求められる要求特性は高度化しており、その特性の1つとして繊維を構成するポリマー内部への優れた吸水能力が挙げられる。
【0003】
ポリマー内部への優れた吸水能力を有する素材として、ポリアクリル酸ナトリウムがよく知られているが、繊維として用いるには溶液紡糸や後架橋処理が必要であるため成形コストが非常に高く、繊維製品としての展開は難しい。また、溶融紡糸が不可能であることから、ナイロンやポリエステル樹脂等との複合繊維を得ることもできない(特許文献1)。そこで、溶融紡糸によって得られ、かつ、ポリマー内部への吸水が可能な複合繊維として、多量のポリアルキレングリコール化合物を共重合したポリブチレンテレフタレートを部分的に使用した複合繊維が提案されている(特許文献2、3)。
【0004】
しかし、特許文献2、3に記載の複合繊維は、おむつやフェイスマスクなどの用途に用いるには繊維を構成するポリマー内部への吸水能力が不十分であるという問題が判明した。すなわち、これら複合繊維を構成するポリマー内部への、30℃の水中における1時間の吸水量は複合繊維1gあたり0.4g未満であり、その際の容積増加率は50%未満であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-80234号公報
【文献】特開2003-253100号公報
【文献】特開2004-137418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、熱可塑性ポリマーからなり、かつ、複合繊維を構成するポリマー内部への優れた吸水能力、具体的には30℃の水中における1時間の吸水量が複合繊維1gあたり0.4g以上を示す複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、熱可塑性ポリマーである芯成分Aと熱可塑性ポリマーで結晶性を有する鞘成分Bからなる芯鞘型複合繊維であり、繊維横断面において芯成分Aが表面に露出している部分を1~8箇所有しており、繊維横断面の外周の長さRと、芯成分Aの表面露出部分1~8箇所のうち最も大きい露出部の長さrの比(r/R)が0.005~0.100である芯鞘型複合繊維であり、かつ50℃で1週間静置したのちに30℃のイオン交換水中に1時間浸漬した際に容積が50~1350%増加する芯鞘型複合繊維により解決される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造工程が簡便で低コストである溶融紡糸によって、室温下で極めて優れたポリマー内部への吸水能力を示す複合繊維が得られる。このような複合繊維は、おむつやフェイスマスク、保冷剤、冷却シートなどの保水、冷却を目的とした製品に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)~(g)は、本発明の芯鞘型複合繊維における繊維横断面形状を模式的に例示する繊維横断面図であり、(a)~(g)はそれぞれ好適な例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の芯鞘型複合繊維は、熱可塑性ポリマーである芯成分Aと熱可塑性ポリマーで結晶性を有する鞘成分Bからなる芯鞘型複合繊維である。溶融紡糸によって複合繊維を得るため、芯鞘両成分が熱可塑性ポリマーであることは必須である。
【0011】
本発明の芯鞘型複合繊維に含まれる芯成分Aに好適な、熱可塑性と室温での吸水能力を両立したポリマーとしては、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールの重縮合反応により得られるポリエステル組成物であって、窒素下または真空下50℃で1週間静置したのちに示差走査熱量測定によって求められるガラス転移点が0~30℃、かつ結晶融解熱量が0~12J/gの範囲にあるポリエステル組成物を挙げることができる。以下、本発明の芯鞘型複合繊維の芯成分Aに好適な共重合ポリエステル組成物について詳述する。
【0012】
芯成分Aの原料として用いることのできるジカルボン酸としては、テレフタル酸やイソフタル酸に代表される芳香族ジカルボン酸化合物、アジピン酸やセバシン酸に代表される脂肪族ジカルボン酸化合物、シクロヘキサンジカルボン酸に代表される脂環式ジカルボン酸化合物が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、重縮合反応性に優れる点から、芳香族ジカルボン酸を用いることが好ましく、テレフタル酸やイソフタル酸を主として用いることがより好ましい。エステル形成性誘導体としては、上記ジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステルなどのアルキルエステル、それらの酸塩化物や酸臭化物などの酸ハロゲン化物、さらには酸無水物などが挙げられる。例えば、重縮合反応性に優れる点から、メチルエステルやエチルエステルなどのアルキルエステルが好ましく、メチルエステルが特に好ましい。ジカルボン酸成分としては、これらのうち1種類の化合物種を使用しても良く、2種類以上を組み合わせても良い。
【0013】
芯成分Aの原料として用いることのできるアルキレングリコールの種類は特に限定されないが、重縮合反応性に優れる点から、1,4-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、エチレングリコールのいずれか、またはそれらの組み合わせから選択されることが好ましい。
【0014】
芯成分Aが、本発明の芯鞘型複合繊維中で吸水能力を発揮するためには、窒素下または真空下50℃で1週間静置したのちに示差走査熱量測定することで求められるガラス転移点が30℃以下、かつ結晶融解熱量が12J/g以下であることが好ましい。ガラス転移点が一般的な室温近傍であることで、分子運動性が高くなり吸水能力が向上する。なお、芯鞘型複合繊維の保管時の変形を防ぐ点からガラス転移点は0℃以上30℃以下が好ましく、10℃以上30℃以下がより好ましい。また、水を吸収するのはポリマーの非晶部であるため、非晶部が多く、すなわち結晶部が少ないほど吸水能力に優れ芯成分Aとして好ましい。そのため、結晶融解熱量は9J/g以下であることが好ましく、6J/g以下であることがより好ましく、3J/g以下であることさらに好ましく、0J/gであることが最も好ましい。
【0015】
上記の物性をコントロールするため、芯成分Aは重縮合反応させるに際して、以下の共重合がされていてもよい。すなわち、芯成分Aは、金属スルホネート基含有イソフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体が共重合されていてもよい。金属スルホネート基含有イソフタル酸成分が共重合されることでポリマーの親水性が向上し、吸水能力に優れたポリエステル組成物となる。共重合量は吸水能力を向上させる観点から、全酸成分に対して7.0モル%以上であることがより好ましい。一方、金属スルホネート基含有イソフタル酸成分が過剰となると溶融紡糸性が悪化し複合繊維を得る際に糸切れが発生するため、共重合量は15.0モル%以下であることが好ましく、10.0モル%以下であることがより好ましい。
【0016】
また、芯成分Aはポリエチレングリコールを含んでいてもよい。ポリエチレングリコールを含有したポリエステルは分子運動性および親水性に優れ、吸水能力が向上する。含有されたポリエチレングリコールはポリエステル中に共重合されていてもよく、未反応の状態でポリエステル組成物中に存在してもよい。
【0017】
芯成分Aが含有するポリエチレングリコールは、効率的な親水性の向上と溶融紡糸性を両立させる観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される数平均分子量が1000以上であることが好ましく、20000以下であることが好ましい。数平均分子量が1000未満、あるいは20000よりも大きいと溶融紡糸性が悪化し複合繊維を得る際に糸切れが発生する。
【0018】
芯成分Aが含有するポリエチレングリコールが過剰となると、芯鞘型複合繊維の保管時に単繊維間融着が生じるため、含有量は12.5重量%以下であることが好ましい。当然、ポリエチレングリコールを含有していなくてもよい。ここで記載している含有量はNMR測定によって求めることができる。
【0019】
芯成分Aは、テレフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体が共重合されていてもよい。テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、それらのメチルエステル、エチルエステルなどのアルキルエステルが挙げられる。例えば、重縮合反応性に優れる点からメチルエステルを用いることが好ましい。
【0020】
テレフタル酸成分が共重合されることでポリマーの溶融紡糸性が向上する。溶融紡糸性に優れる点から、共重合量は全酸成分に対して5.0モル%以上であることが好ましく、10.0モル%であることがより好ましい。一方、テレフタル酸成分が過剰となると分子鎖同士に強固な分子間力が生じて水中での容積増加が抑制され吸水能力が低下する点から、共重合量は30.0モル%以下であることが好ましく、20.0モル%以下であることがより好ましい。
【0021】
さらに、芯成分Aは、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸および/またはそのエステル形成性誘導体が共重合されていてもよい。エステル形成性誘導体としては、これらのメチルエステル、エチルエステルなどのアルキルエステルが挙げられ、例えば、重縮合反応性に優れる点からメチルエステルを用いることが好ましい。これらのジカルボン酸成分は、1種類の化合物種を使用しても良く、2種類以上を組み合わせても良い。
【0022】
これらのジカルボン酸成分が一定の範囲で共重合されると、分子鎖同士の分子間力および結晶性が大きく低下し、水中での容積増加が促進され吸水能力が向上する。吸水能力を向上させる点から、これらのジカルボン酸成分の合計は全酸成分に対して60.0~85.0モル%であることが好ましく、65.0~85.0モル%であることがより好ましく、溶融紡糸性に優れる点から65.0~80.0モル%であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明のポリエステル組成物の物性をコントロールするため、例えば金属スルホネート基含有イソフタル酸成分、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、シクロヘキサンジカルボン酸成分、ナフタレンジカルボン酸成分、アジピン酸成分、セバシン酸成分のうちいずれかの共重合成分、および含有成分であるポリエチレングリコールの組み合わせから2種以上を上記記載の範囲で用いることが好ましい。これら2種以上を組み合わせることによって相乗効果が得られ、芯成分Aひいては芯鞘型複合繊維全体の吸水能力をより向上させることができる。組み合わせとしては、金属スルホネート基含有イソフタル酸成分とポリエチレングリコールを同時に用いることが好ましく例示され、加えてテレフタル酸成分、イソフタル酸成分を用いることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の芯鞘型複合繊維の鞘成分Bに好適なポリマーとしては、220~300℃の範囲で溶融紡糸可能な結晶性を有する熱可塑性ポリマーであることが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ポリプロピレン、ポリ乳酸、およびこれらを主成分として50%以上含むブレンドポリマーや共重合ポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明の芯鞘型複合繊維の鞘成分Bは、繊維表面の大部分または全てを占めるため、熱延伸工程、または仮撚工程において鞘成分Bを起点とした熱変形や単繊維間融着が発生しないよう高い結晶融解熱量を有することが好ましい。具体的には、示差走査熱量測定により求められる結晶融解熱量が20J/g以上であることが好ましく、40J/g以上であることがより好ましい。
【0026】
本発明の芯鞘型複合繊維は、繊維横断面において芯成分が表面に露出している部分を1~8箇所有していることが必須である。芯成分が繊維表層に全く露出していないと、吸水能力を発揮することができない。また、芯成分が表面に露出している部分が8箇所よりも多くなると、露出した芯成分を起点とした熱変形や単繊維間融着が発生する。また、繊維の強度が向上する点、および繊維同士の摩擦が低減して複合繊維を巻き取った後の解舒性が良好となる点で、露出箇所は1~6箇所であることが好ましく、1~3箇所であることがより好ましく、1箇所であることが最も好ましい。
【0027】
本発明の芯鞘型複合繊維は、繊維横断面の外周の長さRと、芯成分の表面露出部分1~8箇所のうち最も大きい露出部の長さrの比(r/R)が0.005~0.100であることが必須である。露出部の比(r/R)が0.005未満では、水中に浸漬した際に芯成分と水の接触面積が複合繊維全体に対して小さくなるため吸水能力を発揮することができない。一方、露出部の比(r/R)が0.100より大きくなると、露出した芯成分を起点とした熱変形や単繊維間融着が発生する。より優れた吸水能力を発揮するため、露出部の比(r/R)は0.030以上であることが好ましく、繊維の強度が向上する点から0.050以下であることが好ましい。繊維横断面の外周の長さR及び芯成分の表面露出部分のうち最も大きい露出部の長さrは、透過型電子顕微鏡によって芯鞘型繊維の横断面を観察して得られた値である。
【0028】
本発明の芯鞘型複合繊維の繊維横断面の断面形状としては、
図1の(a)~(g)のようなものが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明の芯鞘型複合繊維は、50℃で1週間静置したのちに30℃のイオン交換水中に1時間浸漬した際に容積が50%以上増加することが必須である。ここで、増加の度合いは容積増加率で示すことができ、容積増加率が50%とは、例えば、100m3だった容積が150m3に増加することを意味する。容積増加率が50%以上であることで、複合繊維1gあたり0.4g以上の吸水量を達成できる。さらに優れた吸水能力が発現する点から、容積増加率は70%以上であることが好ましく、130%以上であることがより好ましく、160%以上であることがさらに好ましく、300%以上であることが最も好ましい。一方で、容積増加率が1400%よりも高くなると、水中で芯成分が崩壊および溶解してしまうため、本発明の複合繊維の容積増加率は1350%以下であることが必須であり、タフネスに優れた繊維が得られる点から335%以下が好ましい。
【0030】
本発明の芯鞘型複合繊維は、目的の吸水能力を達成できる範囲において繊維横断面に対する芯成分の面積比率を自由に設定してもよい。優れた吸水能力を容易に発揮させるため、芯成分の面積比率は30%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。また、繊維の強度が向上する点から80%以下が好ましく、70%以下がより好ましい。
【0031】
本発明の芯鞘型複合繊維の単繊維繊度は、特に制限がなく用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、良好な織編物への加工性を示す点から1.0~4.0dtexの範囲であることが好ましい。
【0032】
本発明の芯鞘型複合繊維の伸度は、特に制限がなく用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、耐久性の観点から10~60%であることが好ましい。芯鞘型複合繊維の伸度が10%以上であれば、複合繊維の耐久性が良好となるため好ましい。一方、芯鞘複合繊維の伸度が60%以下であれば、複合繊維の寸法安定性が良好となるため好ましい。
【0033】
本発明の芯鞘型複合繊維のタフネスは、織編物の加工性に優れる点から14以上であることが好ましい。また、作成した織編物が耐久性に優れる点からタフネスは23以上がより好ましい。
【0034】
本発明の芯鞘型複合繊維からなる繊維構造体の形態は特に制限がなく、織物、編物、パイル布帛、不織布や紡績糸、詰め綿などにすることができる。また、本発明の芯鞘型複合繊維からなる繊維構造体は、いかなる織組織または編組織であってもよく、平織、綾織、朱子織あるいはこれらの変化織や、経編、緯編、丸編、レース編あるいはこれらの変化編などが好適に採用できる。
【0035】
本発明の芯鞘型複合繊維は、繊維構造体にする際に交織や交編などによって他の繊維と組み合わせてもよいし、他の繊維との混繊糸とした後に繊維構造体としてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明の芯鞘型複合繊維の測定、評価方法は以下の通りである。
【0037】
A.透過型電子顕微鏡による複合繊維横断面の観察
実施例・比較例によって得られた延伸糸をエポキシ樹脂で包埋し、Reichert製FC・4E型クライオセクショニングシステムで凍結し、ダイヤモンドナイフを具備したReichert-Nissei ultracut N(ウルトラミクロトーム)で切削した。その後、切削面すなわち繊維横断面を、日立製作所製透過型電子顕微鏡(TEM)H-7100FA型を用いて1000倍で観察し、繊維横断面の顕微鏡写真を撮影した。得られた写真から、芯成分の露出箇所数を確認した。
【0038】
B.繊維横断面の外周の長さRと、芯成分の表面露出部分1~8箇所のうち最も大きい露出部の長さrの比(r/R)
上記A.記載の方法で繊維横断面を撮影した後、得られた写真から無作為に単繊維10本を抽出した。画像処理ソフト(三谷商事製WINROOF)を用いて繊維横断面周長Rおよび芯成分Aの繊維表面露出部のうち最も大きい露出部の長さrを測定し、比(r/R)を算出した。
【0039】
C.繊維横断面中において芯成分ポリマーが占める面積比率
上記A.記載の方法で繊維横断面を撮影した後、得られた写真から無作為に単繊維10本を抽出した。画像処理ソフト(三谷商事製WINROOF)を用いて抽出した全ての単繊維の繊維横断面積、および芯成分Aの面積をそれぞれ算出した。繊維横断面積の平均値と芯成分Aの面積の平均値から、芯成分Aが占める面積比率を下式
面積比率(%)={(芯成分Aの面積の平均値)/(繊維横断面積の平均値)}×100
のとおり算出した。
【0040】
D.総繊度
実施例・比較例によって得られた延伸糸を、温度20℃、湿度65%RHの環境下において、INTEC製電動検尺機を用いて100mかせ取りした。得られたかせの重量を測定し、下記のとおり総繊度(dtex)を算出した。
【0041】
総繊度(dtex)=繊維100mの重量(g)×100
なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を総繊度とした。
【0042】
E.溶融紡糸性
実施例・比較例の条件にて延伸糸を得るに際して溶融紡糸性を次の基準に基づき3段階評価した。
評価A:ワインダーへの巻取30分間で糸切れは生じない。
評価B:ワインダーへの巻取10分間で糸切れが生じない。
評価C:ワインダーへの巻取10分間で糸切れが生じる。
【0043】
F.強度、伸度
実施例・比較例によって得られた延伸糸を試料とし、JIS L1013:2010(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.5.1に準じて算出した。温度20℃、湿度65%RHの環境下において、リエンテック製テンシロンUTM-III-100型を用いて、初期試料長20cm、引張速度20cm/分の条件で引張試験を行った。最大荷重を示す点の応力(cN)を総繊度(dtex)で除して強度(cN/dtex)を算出し、最大荷重を示す点の伸び(L1)と初期試料長(L0)を用いて下式のとおり伸度(%)を算出した。
【0044】
伸度(%)={(L1-L0)/L0}×100
なお、測定は1試料につき10回行い、その平均値を強度および伸度とした。
【0045】
G.タフネス
上記E.記載の方法で算出した強度(cN/dtex)と伸度(%)を用いて下記
タフネス=(強度)×(伸度)1/2
のとおりにタフネスを算出した。
【0046】
H.単繊維間融着および解舒性評価
実施例・比較例によって得られた延伸糸を巻き取ったボビンを温度20℃、湿度65%RHの環境下で1週間静置し、単繊維間融着および解舒性について次の基準に基づき3段階評価した。なお、評価:A、Bを合格とし、単繊維間融着の有無については実施例A.項記載の方法で繊維横断面を観察して確認した。
評価A:単繊維間融着が全くなく、糸間の摩擦抵抗が小さいため張力をかけずに解舒が可能
評価B:単繊維間融着が全くないが、糸間の摩擦抵抗が強く解舒に張力をかける必要がある
評価C:単繊維間融着があり、解舒も困難。
【0047】
I.複合繊維の水中における容積増加率
実施例・比較例によって得られた延伸糸の水中における容積増加率は乾式自動密度計およびピクノメーターを用いて測定した。前処理として、延伸委を50℃、窒素下で1週間静置して結晶状態を安定化させた。前処理を行った延伸糸を0.8g量り取り、乾式密度計を用いて以下の条件で水へ浸漬前の延伸糸の容積:A[m^3]を求めた。
装置:マイクロメリティックス社製乾式自動密度計アキュピック1340T-10CC
充填ガス:He
測定温度:25℃
続いて、前処理した延伸糸2.0gを30℃のイオン交換水200mL中に浸漬し1時間静置した。静置1時間後速やかに延伸糸を取り出し、繊維表面に付着した水を拭き取り、ピクノメーターを用いて以下の条件で浸漬後の延伸糸の容積:B[m^3]を求めた。
装置:SANSYO製ハーバード型ピクノメーター
恒温槽:ヤマト科学製恒温槽BK33
測定温度:25℃
浸漬液:イオン交換水20mL
最後に、延伸糸の浸漬前後における容積増加率を以下のとおり求めた。
容積増加率[%]={(B-A)/A}×100 。
【0048】
J.複合繊維の吸水量測定
前処理として、実施例・比較例によって得られた延伸糸を50℃、窒素下で1週間静置して結晶状態を安定化させた。続いて、前処理した延伸糸およそ2.0gを30℃のイオン交換水200mL中に浸漬し1時間静置した。静置1時間後速やかに延伸糸を取り出し、繊維表面に付着した水を拭き取り、重量:A[g]を測定した。さらに、重量測定後の繊維を105℃に設定した送風乾燥機中で6時間乾燥し、乾燥後重量:B[g]を測定し、以下のとおり延伸糸1g当たりの吸水量[g/g]を算出した。
吸水量[g/g]=(A-B)/B
ただし、水中で延伸糸中の芯成分が崩壊して回収困難となった場合は計測不可とした。
【0049】
K.芯成分ポリマーの組成分析
芯成分ポリマーの組成分析は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて実施した。
装置:日本電子株式会社製 AL-400
重溶媒:重水素化HFIP
積算回数:128回
サンプル濃度:測定サンプル50mg/重溶媒1mL 。
【0050】
L.芯成分ポリマーの熱特性分析
芯成分ポリマーのガラス転移点、結晶融解熱量の分析は、示唆走査熱量計を用いて実施した。なお、上記K.項および本L.項記載の方法で芯成分ポリマーを分析するに際して、複合繊維を直接分析してもよく、芯成分と鞘成分の溶解度の差を利用して芯成分のみをクロロホルム中に溶解させメタノール中に再沈殿させることによって単離してから測定してもよい。
装置:TA Instruments社製 Q-2000
昇温速度:16℃/分、-20℃から300℃まで。
【0051】
M.ポリエステルの固有粘度IV
鞘成分がポリエステル組成物である場合、試料をオルソクロロフェノールに溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定することで固有粘度IVを求めた。
【0052】
M.ポリアミドの98%硫酸相対粘度(ηr)
鞘成分がポリアミド組成物である場合、オストワルド粘度計にて下記溶液の25℃での落下秒数を測定し、下式により98%硫酸相対粘度(ηr)を算出した。
(ηr)=T1/T2
T1はポリアミド組成物を1g/100mlとなるように溶解した98%濃硫酸、
T2は98%濃硫酸。
【0053】
[実施例1]
(芯成分Aの調製方法)
ジメチルテレフタル酸(DMT)1.5kg(全酸成分に対して20.0モル%)、ジメチル5-スルホイソフタル酸ナトリウム(SSIA)0.8kg(全酸成分に対して10.0モル%)、イソフタル酸ジメチル(DMI)5.2kg(全酸成分に対して70.0モル%)、1,4-ブタンジオール(BDO)6.2kg、テトラ-n-ブチルチラネートの20重量%BDO溶液(TBT)36.1g、酢酸リチウム2水和物(LAH)50.6gを加え、120~200℃でメタノールを留出しつつエステル交換(EI)反応を行った。180分後、数平均分子量1000のポリエチレングリコール(PEG)を1.0kg(得られる組成物に対して10.0重量%)、[ペンタエリスリトール-テトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオネート)](BASF製“Irganox(登録商標。以下同じ。)1010”)25.0g、TBT36.1gをさらに追加し、245℃で徐々に0.1kPa以下まで減圧し、重合開始180分後、反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、口金からストランド状に押出して水槽冷却し、ペレット状にカッティングを実施して共重合ポリエステル組成物を得た。ポリマー特性を表1に示す。
【0054】
(紡糸方法)
上記ポリエステル組成物を芯成分Aとし、ηr:2.6のナイロン6を鞘成分Bとして用いた。芯成分Aと鞘成分Bを各個別々のプレッシャーメルターで260℃にて溶融させ、紡糸パック、口金に合流、芯鞘型に複合形成させて紡糸口金より吐出させた。芯成分Aと鞘成分Bの吐出重量および使用する紡糸口金は、単繊維横断面中で芯成分Aが1箇所露出し(
図1(a)の形状)、繊維横断面の外周の長さRと、芯成分の表面露出部分1~8箇所のうち最も大きい露出部の長さrの比(r/R)がおよそ0.035、およびフィラメント数:36となるよう決定した。また、紡糸温度は260℃とした。紡糸口金より吐出後、紡出糸条を風温25℃、風速20m/分の冷却風で冷却し、給油装置で油剤を付与して収束させ、1000m/分で回転する第1ゴデットローラーで引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、ワインダーで巻き取った。得られた未延伸糸を、第一ホットローラー30℃、第二ホットローラー130℃とした横型延伸機にて3.0倍となるように延伸し、84dtex-36fの延伸糸を得た。
【0055】
(評価)
得られた延伸糸を用いて各種繊維特性の評価を実施した。各種評価結果を表1に示す。
【0056】
繊維横断面中における芯成分Aの形状、および複合繊維の水中における容積増加率は本発明の範囲を満たすものであり、吸水量は0.4g/g以上を示した。また、糸物性および解舒性ともに優れるものであった。
【0057】
[実施例2~4]
実施例1における芯成分Aの露出箇所数を表1に記載の数値に変更した以外は実施例1と同様に実施し、芯鞘型複合繊維を得た。なお、実施例2は
図1(d)、実施例3は
図1(e)、実施例4は
図1(g)の断面形状である。各種評価結果を表1に示す。
【0058】
[実施例5~7]
実施例1におけるr/Rを表1に記載の数値に変更した以外は実施例1と同様に実施し、芯鞘型複合繊維を得た。各種評価結果を表1に示す。
【0059】
[実施例8~10]
実施例1における芯成分Aの面積比率を表1に記載の数値に変更した以外は実施例1と同様に実施し、芯鞘型複合繊維を得た。各種評価結果を表1に示す。
【0060】
[実施例11]
実施例1におけるフィラメント数を表1に記載の数に変更した以外は実施例1と同様に実施し、芯鞘型複合繊維を得た。各種評価結果を表1に示す。
【0061】
[実施例12、13]
実施例1における鞘成分BをIV:0.66のポリエチレンテレフタレート、あるいはSSIA成分を1.5モル%と重量平均分子量1000のポリエチレングリコール2.0重量%を共重合したカチオン染料可染型ポリエチレンテレフタレートに変更した以外は実施例1と同様に実施し、芯鞘型複合繊維を得た。各種評価結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
[実施例14~15]
実施例1における芯成分Aを表2に記載のとおり変更した以外は実施例1と同様に実施し、芯鞘型複合繊維を得た。各種評価結果を表2に示す。
【0064】
[実施例16~20]
実施例1における芯成分Aを表2に記載のとおり変更し、芯成分Aの露出箇所数を表1に記載の数値に変更した以外は実施例1と同様に実施し、芯鞘型複合繊維を得た。なお、全て
図1(g)の断面形状である。各種評価結果を表2に示す。
【0065】
[実施例21~27]
実施例1における芯成分Aを表2に記載のとおり変更した以外は実施例1と同様に実施し、芯鞘型複合繊維を得た。各種評価結果を表2に示す。
【0066】
【0067】
[比較例1、2]
実施例1における芯成分Aの露出箇所数を表3に記載の数値に変更した以外は実施例1と同様に実施し、芯鞘型複合繊維を得た。なお、比較例1は開口部を有さず芯成分が円形な芯鞘繊維である。比較例2は、
図1(a)に示した開口部形状を合計10箇所有する断面形状である。各種評価結果を表3に示す。
【0068】
比較例1は、芯成分Aの露出箇所数が0となったために水中における容積増加率が不足しており、吸水能力に劣るものとなった。
【0069】
比較例2は、芯成分Aの露出箇所数が10となったために露出した芯成分を起点とした単繊維間融着が発生した。
【0070】
[比較例3、4]
実施例1におけるr/Rを表3に記載の数値に変更した以外は実施例1と同様に実施し、芯鞘型複合繊維を得た。各種評価結果を表3に示す。
【0071】
比較例3は、r/Rが0.005未満となったために水中における容積増加率が不足しており、吸水能力に劣るものとなった。
【0072】
比較例4は、r/Rが0.100より大きくなったために露出した芯成分を起点とした単繊維間融着が発生した。
【0073】
[比較例5~10]
実施例1における芯成分Aを表3に記載のとおり変更し、芯成分Aの露出箇所数を表3に記載の数値に変更した以外は実施例1と同様に実施し、芯鞘型複合繊維を得た。なお、全て
図1(g)の断面形状である。各種評価結果を表3に示す。
【0074】
比較例5~7、9~10は、芯成分Aに適用するポリマーが不適切であったために水中における容積増加率が不足しており、吸水能力に劣るものとなった。
【0075】
一方、比較例8は、芯成分Aに適用するポリマーが不適切であったために水中における容積増加率が過剰となり、吸水時に芯成分が崩壊して繊維形態を維持することができなかった。
【0076】
【符号の説明】
【0077】
A:芯成分
B:鞘成分
r:芯成分Aの露出部の長さ(最長箇所)