(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】焼結磁石および焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20231212BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20231212BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20231212BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20231212BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20231212BHJP
C22C 28/00 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F41/02 G
B22F3/00 F
B22F3/24 K
C22C38/00 303D
C22C28/00 A
(21)【出願番号】P 2019184005
(22)【出願日】2019-10-04
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河原 崇範
(72)【発明者】
【氏名】辻 隆之
(72)【発明者】
【氏名】宇根 康裕
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-169621(JP,A)
【文献】特開2011-199183(JP,A)
【文献】特開2019-009421(JP,A)
【文献】特開平06-108104(JP,A)
【文献】国際公開第2015/020181(WO,A1)
【文献】特開2018-133578(JP,A)
【文献】特開2003-031409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
B22F 10/00-12/90
C22C 1/04- 1/05
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 33/02
C22C 35/00-45/10
H01F 1/00- 1/117
H01F 1/40- 1/42
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素Rを希土類元素、元素TをFeまたはFeの一部をCoで置換したものとして、R
12T
14B化合物よりなる主相と、
粒界三重点に存在し、重希土類元素を含む希土類元素と、Cuと、前記元素Tとを含有する粒界相と、を有
する焼結磁石であって、
前記粒界相全体として、希土類元素の含有量が55質量%以上、重希土類元素の含有量が1.0質量%以上、Cuの含有量が1.5質量%以上であり、
質量%を単位として、前記粒界相全体としてのCuの含有量を[Cu]、前記元素Tの含有量を[T]として、[Cu]/[T]が0.05以上であり、
Cuを8質量%以上含有するCuリッチ領域が、前記粒界相のうち9体積%以上を占めており、
前記焼結磁石全体としてのOおよびCの含有量が、それぞれ1000質量ppm以下であることを特徴とする焼結磁石。
【請求項2】
重希土類元素として、Dy,Tb,Hoの少なくとも1種を含有し、
前記焼結磁石全体としての重希土類元素の含有量が、10質量%未満であることを特徴とする請求項
1に記載の焼結磁石。
【請求項3】
R-T-B系合金粉末を焼結した基材に、重希土類元素とCuとを含有する改質材を接触させることで、前記改質材中の重希土類元素およびCuを前記基材の粒界に拡散させ、請求項1
または2に記載の焼結磁石を製造することを特徴とする焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記改質材は、重希土類元素とCuに加え、Alを含有する合金であることを特徴とする請求項
3に記載の焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記基材は、前記R-T-B系合金粉末を、不活性雰囲気中で成形および焼結して製造されることを特徴とする請求項
3または
4に記載のR-T-B系磁石の製造方法。
【請求項6】
前記基材における希土類含有量は、30質量%以下である、請求項3から5のいずれか1項に記載のR-T-B系磁石の製造方法。
【請求項7】
R-T-B系合金粉末を焼結した基材に、重希土類元素とCuとを含有する改質材を接触させることで、前記改質材中の重希土類元素およびCuを前記基材の粒界に拡散させて製造される、請求項1または2に記載の焼結磁石。
【請求項8】
希土類含有量が30質量%以下である前記基材より製造される、請求項7に記載の焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R-T-B系焼結磁石、およびそのような焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高保磁力等、高い磁気特性を有する希土類磁石の一種として、R-T-B系焼結磁石が用いられている(Rは希土類元素、TはFeまたはFeの一部をCoで置換したもの)。R-T-B系焼結磁石においては、R-T-B系化合物の結晶粒よりなる主相の粒界三重点に、希土類元素が濃化した粒界相が形成されている。この種の焼結磁石において、粒界相に含有される、希土類元素を含む酸化物、炭化物、窒化物等の不純物の量を低減することで、焼結磁石の磁気特性を特に高めることができる。例えば、焼結磁石を製造する際に、不活性雰囲気中で、材料の成形と焼結を完了するプレスレス法(PLP法)を用いることで、不純物の含有量を効果的に低減することができる。
【0003】
しかし、R-T-B系焼結磁石において、不純物の含有量を低減すると、腐食環境に晒された際に、希土類元素が濃化した粒界相が、外部に溶出しやすくなる。粒界相の溶出が起こると、その箇所を起点として、主相結晶粒が脱離し、焼結磁石の腐食が進行することになる。つまり、不純物の含有量を低減することで、焼結磁石の耐食性が低下しやすくなる。よって、不純物の低減による磁気特性の向上と、耐食性の確保を両立することは、困難である。
【0004】
例えば、特許文献1において、耐食性に優れた希土類磁石として、希土類元素Rを含むR-Fe-B系合金の結晶粒子群を備える希土類磁石であって、希土類磁石の表面部に位置する結晶粒子の粒界三重点に含まれるRリッチ相に、R、Cu、Co及びAlを含む合金が存在し、Rリッチ相におけるCu、Co及びAlの含有率の合計値が13原子%以上である、希土類磁石が開示されている。さらに、結晶粒子におけるCu及びAlの含有率の合計値を2原子%以下とすることで、耐食性のみならず十分な磁気特性が希土類磁石に付与されると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
R-T-B系焼結磁石において、特許文献1に例示されるように、粒界相の組成を制御することで、高い磁気特性を確保しながら、耐食性を高めることができる可能性がある。しかし、一般に、焼結磁石中の粒界相の組成は、均一ではなく、組成の異なる複数の領域が、粒界相として混在している場合が多い。そのような場合に、粒界相全体としての組成を規定するだけでは、十分に焼結磁石の耐食性を高めることができない可能性がある。粒界相の中に、腐食を起こしにくい領域と共存して、腐食を起こしやすい領域が、ある程度の量で存在すれば、それら腐食を起こしやすい箇所が起点となって、焼結磁石の腐食が進行しうるからである。このように、R-T-B系焼結磁石において、高磁気特性と耐食性を両立することは難しい。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、磁気特性に優れ、かつ高い耐食性を示すR-T-B系焼結磁石、およびそのような焼結磁石の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる焼結磁石は、元素Rを希土類元素、元素TをFeまたはFeの一部をCoで置換したものとして、R12T14B化合物よりなる主相と、粒界三重点に存在し、重希土類元素を含む希土類元素と、Cuと、前記元素Tとを含有する粒界相と、を有し、前記粒界相全体としての希土類元素の含有量が、55質量%以上であり、Cuを8質量%以上含有するCuリッチ領域が、前記粒界相のうち9体積%以上を占めている。
【0009】
ここで、前記粒界相全体としてのCuの含有量が、1.5質量%以上であるとよい。また、前記粒界相全体としての重希土類元素の含有量が、1.0質量%以上であるとよい。
【0010】
質量%を単位として、前記粒界相全体としてのCuの含有量を[Cu]、前記元素Tの含有量を[T]として、[Cu]/[T]が0.05以上であるとよい。また、前記焼結磁石全体としてのOおよびCの含有量が、それぞれ1000質量ppm以下であるとよい。
【0011】
重希土類元素として、Dy,Tb,Hoの少なくとも1種を含有し、前記焼結磁石全体としての重希土類元素の含有量が、10質量%未満であるとよい。
【0012】
本発明にかかる焼結磁石の製造方法は、R-T―B系合金粉末を焼結した基材に、重希土類元素とCuとを含有する改質材を接触させることで、前記改質材中の重希土類元素およびCuを前記基材の粒界に拡散させ、上記の焼結磁石を製造する。
【0013】
ここで、前記改質材は、重希土類元素とCuに加え、Alを含有する合金であるとよい。前記基材は、前記R-T-B系合金粉末を、不活性雰囲気中で成形および焼結して製造されるとよい。
【発明の効果】
【0014】
上記発明にかかる焼結磁石は、粒界相のうち9体積%以上を占めて、Cuを8質量%以上含有するCuリッチ領域を含んでいる。Cuリッチ領域は、そのCu濃度の高さにより、腐食を受けにくく、焼結磁石の耐食性の向上に貢献する。そのようなCuリッチ領域が、粒界相全体の9体積%以上を占めていることで、焼結磁石全体としての耐食性を、効果的に高めることができる。一方、粒界相が、重希土類元素を含有していることに加え、粒界相全体としての希土類元素の含有量が、55質量%以上となっていることにより、高保磁力等、高い磁気特性を確保することができる。
【0015】
ここで、粒界相全体としてのCuの含有量が、1.5質量%以上である場合には、粒界相全体としてのCuの含有量を確保することで、焼結磁石の耐食性を効果的に高めることができる。
【0016】
また、粒界相全体としての重希土類元素の含有量が、1.0質量%以上である場合には、重希土類元素の寄与により、保磁力等、焼結磁石の磁気特性を、特に効果的に高めることができる。
【0017】
質量%を単位として、粒界相全体としてのCuの含有量を[Cu]、元素Tの含有量を[T]として、[Cu]/[T]が0.05以上である場合には、粒界相が、FeやCoに対して、Cuを十分な量で含有することにより、粒界相を起点とした焼結磁石の腐食を、特に効果的に抑制することができる。
【0018】
また、焼結磁石全体としてのOおよびCの含有量が、それぞれ1000質量ppm以下である場合には、粒界相における不純物濃度が低くなるため、保磁力等、焼結磁石の磁気特性を、高く維持することができる。一方、粒界相において、不純物濃度が低くても、Cuリッチ領域が所定の体積を占めていることにより、耐食性の低下を抑制することができる。
【0019】
重希土類元素として、Dy,Tb,Hoの少なくとも1種を含有し、焼結磁石全体としての重希土類元素の含有量が、10質量%未満である場合には、重希土類元素として、Dy,Tb,Hoの少なくとも1種を用い、粒界相に高濃度で分布させることで、焼結磁石全体としての重希土類元素の含有量を10質量%未満に抑えても、磁気特性の向上に、高い効果を得ることができる。
【0020】
上記発明にかかる焼結磁石の製造方法においては、基材に、重希土類元素とCuとを含有する改質材を接触させて、改質材中の重希土類元素およびCuを基材の粒界に拡散させる。この工程により、重希土類元素を含む希土類元素とCuが、粒界相に高濃度で分布した焼結磁石を、簡便に製造し、高い磁気特性と耐食性を両立することができる。
【0021】
ここで、改質材が、重希土類元素とCuに加え、Alを含有する合金である場合には、基材の粒界への重希土類元素およびCuの拡散を、効率的に進めることができる。
【0022】
基材が、R-T-B系合金粉末を、不活性雰囲気中で成形および焼結して製造される場合には、PLP法に代表されるように、粒界において、酸化物等の不純物の生成を抑制し、高い磁気特性を有する焼結磁石を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる焼結磁石の組織を示す模式図である。
【
図2】Nd-Cu-Coモデル合金を用いた耐食試験の結果を示す図である。
【
図3】試料1の焼結磁石に対するEPMAによる観察結果を示している。(a)は、CP像に基づいて、粒界相を表示しており、(b)は、Cu濃度分布に基づいて、Cuリッチ領域を表示している。
【
図4】試料3の焼結磁石に対するEPMAによる観察結果を示している。(a)は、CP像に基づいて、粒界相を表示しており、(b)は、Cu濃度分布に基づいて、Cuリッチ領域を表示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の一実施形態にかかる焼結磁石、およびその製造方法について、詳細に説明する。本明細書においては、成分元素の含有量については、特記しないかぎり、質量%および質量ppmを単位として表すものとする。また、特性値は、室温において計測される値とする。
【0025】
[R-T-B系焼結磁石の組成と構造]
本発明の一実施形態にかかる焼結磁石は、R-T-B系焼結磁石として構成されており、
図1に示すように、主相1と、粒界相2とを有している。焼結磁石の組織の大部分は、主相の結晶粒1によって占められている。
【0026】
主相1は、R-T-B系化合物の結晶粒として構成されている。ここで、元素Rは、希土類元素である。元素Tは、FeまたはFeの一部がCoに置換されたものであり、好ましくは、Feの一部がCoに置換されたものである。希土類元素Rの種類は、特に限定されるものではなく、Nd,Pr,Dy,Tb,La,Ceを例示することができる。中でも、比較的安価でありながら高い磁気特性を与える希土類元素として、NdおよびPrを好適に用いることができる。希土類元素Rは、1種のみよりなっても、複数種が含まれてもよい。典型的には、主相結晶粒1は、R2T14B化合物(Nd2Fe14B化合物等)よりなっている。主相1を構成するR-T-B系化合物は、さらに、R,T,Bの各元素に加えて、Al,Ga,Ni等の金属元素を含有していてもよい。主相1は、1種の成分組成を有する結晶粒のみからなっても、2種以上の成分組成を有する結晶粒が混在していてもよい。
【0027】
主相結晶粒1の間の粒界三重点には、粒界相2が形成されている。次に説明するように、粒界相2は、Cuリッチ領域21と、Cu希薄領域22とを含んでいるが、それら両方の領域21,22を含めて、粒界相2は、希土類元素と、元素Tと、Cuとを含む希土類合金よりなっている。粒界相2においては、主相1よりも希土類元素が濃化されており、粒界相2全体としての希土類元素の含有量が、55質量%以上となっている。粒界相2をはじめ、焼結磁石を構成する希土類合金は、一部が、酸化物、炭化物、窒化物等の化合物を形成していてもよいが、焼結磁石全体としてのOおよびCの含有量が、それぞれ1000ppm以下に抑えられていることが好ましい。
【0028】
粒界相2の希土類合金を構成する希土類元素は、主相1を構成する希土類元素と同様に、特に限定されるものではないが、その一部として、重希土類元素を含んでいる。ここで、重希土類元素とは、一般に認識されるように、Gd~LuおよびYを指す。重希土類元素は、磁気特性の向上に高い効果を示すDy,Tb,Hoの少なくとも1種、特にTbを含むことが好ましい。重希土類元素は、粒界相2に、1種のみ含まれていても、複数種が含まれていてもよい。重希土類元素の含有量は、粒界相2全体における含有量(粒界相2全体に占める粒界相2中の重希土類元素の質量割合)で、1.0質量%以上であることが好ましい。一方、重希土類元素の含有量は、焼結磁石全体として、10質量%未満であることが好ましい。
【0029】
本実施形態にかかる焼結磁石において、粒界相2の少なくとも一部は、Cuリッチ領域21となっている。Cuリッチ領域21は、希土類合金よりなっており、その希土類合金におけるCuの含有量が、8質量%以上となっている。Cuリッチ領域21は、各位置において、Cuの含有量が8質量%以上となっていれば、成分組成の異なる複数の領域を含んでいてもよい。
【0030】
粒界相2は、Cuリッチ領域21のみよりなってもよいが、Cuリッチ領域21と共存して、Cu希薄領域22を有していてもよい。粒界相2をCuリッチ領域21のみより形成できることは、むしろ稀であり、多くの場合、粒界相2は、Cuリッチ領域21とCu希薄領域22の両方を含む。Cu希薄領域22も、Cuリッチ領域21と同様に、希土類合金よりなっているが、Cuリッチ領域21とは異なり、Cuの含有量が、8質量%未満となっている(Cuが不可避的不純物を除いて含有されない形態も含む)。Cu希薄領域22も、各位置において、Cuの含有量が8質量%未満となっていれば、成分組成の異なる複数の領域を含んでいてもよい。
【0031】
本実施形態にかかる焼結磁石においては、粒界相2の全体のうち、Cuリッチ領域21が占める割合が、9体積%以上となっている。粒界相2においてCuリッチ領域21が占める割合は、例えば、EPMA(電子線マイクロアナライザー)を用いて、見積もることができる。試料断面において、反射電子像(CP像)に基づいて粒界相2の面積を見積もるとともに、Cuの濃度分布像から、Cuリッチ領域21の面積を見積もり、それらの面積の比率を、体積比とみなせばよい。
【0032】
[焼結磁石の特性]
本実施形態にかかる焼結磁石においては、主相結晶粒1の間の粒界三重点に、粒界相2が形成されており、その粒界相2は、全体としての希土類元素の含有量が55質量%以上となっており、しかも重希土類元素を含有している。そのため、焼結磁石が、高い保磁力をはじめ、優れた磁気特性を発揮するものとなる。
【0033】
焼結磁石の磁気特性を効果的に高める観点から、粒界相2における希土類元素の含有量は、55質量%以上、好ましくは57質量%以上、さらに好ましくは59質量%以上であるとよい。粒界相2における希土類元素の含有量には、特に上限は設けられないが、希土類元素の含有量が多すぎると、粒界相2においてCu濃度を上昇させにくくなる。そのため、粒界相2における希土類濃度は、80質量%以下に抑えておくことが好ましい。
【0034】
また、焼結磁石の磁気特性を一層高める観点から、重希土類元素の含有量は、粒界相2全体における含有量で、1.0質量%以上、さらには1.2質量%以上であるとよい。粒界相2における重希土類元素の含有量を多くするほど、焼結磁石の磁気特性を高めることができるため、その含有量に上限は特に設けられないが、多量の重希土類元素の含有による材料コストの上昇を抑制する観点等から、重希土類元素の含有量は、焼結磁石全体における含有量で、10質量%未満、さらには2質量%未満に抑えておくことが好ましい。特に、重希土類元素としてDy,Tb,Hoの少なくとも1種を用いる場合には、粒界相2にそれらの重希土類元素を高濃度で分布させることで、磁気特性の向上に非常に高い効果を発揮するので、少量含有させるだけでも、焼結磁石の磁気特性を向上させることができる。なお、後に説明するように、重希土類元素の導入を、改質材の接触による粒界改質工程を経て行う場合には、重希土類元素の濃度は、焼結磁石全体としての表面から内部に向かって減少する分布をとりやすい。
【0035】
粒界相2において、希土類合金の酸化物や炭化物、窒化物等の不純物が含有されると、保磁力等、焼結磁石の磁気特性を低下させるものとなる。それらの不純物はおおむね融点が高いため、後に説明するように、焼結磁石を製造する際に、焼結工程や粒界改質工程、時効工程等での加熱を経ても、液相化しない。よって、それらの工程を経たとしても、焼結磁石の磁気特性を低下させる要因となる。従って、焼結磁石の磁気特性を高める観点から、それらの不純物の含有量は、可及的に少なくすることが好ましい。例えば、焼結磁石全体としてのOおよびCの含有量を、それぞれ1000質量ppm以下に抑えておけば、高い磁気特性を得やすくなる。不純物の含有量は、例えば、後に説明するように、焼結磁石の製造を、PLP法等、不活性雰囲気中で行うことにより、低減することができる。
【0036】
本実施形態にかかる焼結磁石は、上記のような粒界相2を有することにより、例えば、20kOe以上の保磁力を有するものとできる。保磁力は、23kOe以上であると、さらに好ましい。
【0037】
本実施形態にかかる焼結磁石は、そのように、高い磁気特性を有すると同時に、高い耐食性を有するものとなっている。耐食性の高さは、Cu含有量が8質量%以上であるCuリッチ領域21が、粒界相2の9体積%以上を占めていることによって、もたらされる。
【0038】
後の実施例において、モデル合金を用いた試験によって示すように、R-Cu-T合金が、Cuの含有量が8質量%以上のCuリッチ合金となっていれば、高い耐食性を示すものとなる。上記のように、R-T-B系焼結磁石における腐食は、粒界相2の溶出を契機として起こりやすいため、粒界相2を占める希土類元素RとCu、元素Tを含む合金を、腐食しにくい組成としておくことで、焼結磁石全体としての腐食を、効果的に抑制することができる。つまり、粒界相2に、Cuの含有量が8質量%以上の希土類合金を形成しておけば、焼結磁石の耐食性を高めることができる。Cuリッチ合金は、融点が480℃程度と低く、加熱によって容易に液相化するため、焼結磁石を製造する際に、焼結性を低下させることや、粒界改質後、また時効後の磁気特性を低下させることは、起こりにくい。よって、Cuリッチ合金は、磁気特性を高く保ったまま、耐食性の向上に寄与することができる。
【0039】
ただし、そのように高い耐食性を示すCuリッチ合金を形成するとしても、その量が少なすぎると、耐食性向上の効果を十分に発揮することができない。そこで、Cuの含有量が8質量%以上であるCuリッチ領域21が、粒界相2全体の9体積%以上を占めるようにしておくことで、Cuリッチ合金の耐食性向上の効果により、焼結磁石全体としての耐食性を、効果的に高めることができる。特に、焼結磁石の磁気特性を高める等の目的で、粒界相2における酸化物や炭化物、窒化物等の不純物の含有量を少なく抑えている場合には、多量の不純物の含有を許容する場合と比較して、粒界相2の溶出による腐食が進行しやすくなるが、その場合にも、粒界相2にCuリッチ領域21を形成しておくことで、腐食の進行を効果的に抑制することができる。好ましくは、Cuリッチ領域21の割合は、粒界相2全体の10体積%以上、さらには15体積%以上であるとよい。
【0040】
Cuリッチ領域21が粒界相2に占める割合が、9体積%以上になっていれば、Cuリッチ領域21およびCu希薄領域22の具体的な成分組成は特に限定されるものではないが、焼結磁石全体としての耐食性を効果的に高める観点から、粒界相2全体としてのCuの含有量が、1.5質量%以上、さらには2.0質量%以上、3.0質量%以上であることが好ましい。また、粒界相2全体としてのCuの含有量を[Cu]、元素Tの含有量を[T]として、[Cu]/[T]の比が、0.05以上、さらには0.06以上、0.08以上であることが好ましい。
【0041】
[焼結磁石の製造方法]
次に、上記実施形態にかかる焼結磁石を製造することができる、本発明の一実施形態にかかる焼結磁石の製造方法について説明する。
【0042】
本実施形態にかかる製造方法においては、まず、R-T―B系合金粉末を、所望の形状に成形し、焼結することで、基材を形成する。基材の具体的な製造方法は特に限定されるものではないが、不活性雰囲気中で粉末材料を成形および焼結して、基材を製造することが好ましい。そのような基材の製造方法の例として、プレス工程を伴わずに成形と焼結を完了することができるプレスレス法(PLP法)を挙げることができる。PLP法においては、所望の形状を有するカーボン材等よりなる成形型に、原料粉末を充填する。次いで、成形型全体に磁界を印加し、原料粉末の粒子を配向させる。磁界の印加終了後、雰囲気制御した加熱室で、成形型を所定の焼結温度で加熱し、原料粉末を焼結することで、焼結磁石を得る。磁界中でプレス加工を行って原料粉末を成形した後、焼結を行う従来一般の製法では、プレス加工中に原料粉末と大気との接触を遮断するのは困難であるのに対し、PLP法では、原料粉末の製造から成形型への充填、焼結に至る各工程を、雰囲気制御して行うことができるため、製造される焼結磁石において、O,C,N等、空気由来の成分を含む不純物の含有量を、大幅に低減することができる。焼結後には、さらに、焼結温度よりも低い温度にて、時効処理を施すことが好ましい。
【0043】
基材を構成する原料となるR-T-B系合金粉末としては、おおむね、製造すべき焼結磁石を構成する主相1の組成として、所望される組成を有するものを用いればよい。ただし、重希土類元素は、次に説明する粒界改質処理によって導入し、粒界相2に集中的に分布させることが好ましいので、基材の構成材料としては、含有させる必要はない。また、基材の製造に用いる合金粉末における希土類濃度が高すぎると、粒界相2における希土類濃度が高くなりすぎ、粒界相2にCuを高濃度で含有させにくくなるので、基材における希土類含有量は、31質量%以下、さらには30質量%以下に抑えておくことが好ましい。基材は、1種のみの材料粉末を用いて形成しても、2種以上の材料粉末を用いて形成してもよい。
【0044】
上記のようにして基材が得られると、次に、その基材に対して、粒界改質処理を行う。粒界改質処理においては、基材の表面に、重希土類元素とCuとを含有する改質材を接触させる。その状態で、適宜加熱を行うことで、重希土類元素およびCuが、基材の内部に移行し、粒界に拡散する。その結果として、粒界相2に、重希土類元素およびCuを分布させることができる。
【0045】
改質材としては、製造される焼結磁石の粒界に分布させるべき重希土類元素と、Cuを含むものであれば、どのような合金を用いてもよいが、重希土類元素(RH)とCuに加え、Alを含む合金を用いることが好ましい。RH-Cu-Al合金は、基材中にCuおよび重希土類元素を拡散させやすいとともに、Alは、焼結磁石の粒界相2に拡散しても、焼結磁石の磁気特性や耐食性の向上において、妨げとならないからである。基材の表面への改質材の接触は、改質材を粉体とし、そのままの状態、あるいは溶剤やバインダに分散させた状態で、行えばよい。
【0046】
基材に接触させる改質材の量は、製造される焼結磁石の粒界に分布させるべき重希土類元素やCuの量等に応じて適宜定めればよいが、十分な保磁力を確保する観点から、改質材に含有される重希土類元素が、基材に対して0.7質量%以上となるように、使用する改質材の量を設定することが好ましい。一方、過剰量の重希土類元素の使用を避ける観点から、改質材に含有される重希土類の質量が、基材の質量の10質量%未満に抑えられるように、改質材の使用量を設定することが好ましい。改質処理工程における加熱温度は、重希土類元素およびCuを十分に拡散させられるように定めればよく、例えば、改質材としてTb-Cu-Al合金を用いる場合には、850℃以上とすればよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0048】
[1]Nd-Cu-Coモデル合金の耐食性
まず、R-T-B系焼結磁石において、粒界相の組成と耐食性との関係を評価するための基礎として、Nd-Cu-Coモデル合金を用いて、Cu含有量と耐食性との関係を調査した。
【0049】
(試験方法)
合金1~7として、表1に示した含有量で、Ndと、CuおよびCoを含有するNd-Cu-Co合金試料を作製した。その際、所定の組成比となるように、各原料を配合し、アーク溶解でボタン合金を作製した。
【0050】
得られた各合金試料に対して、断面をEPMAにて観察した。そして、出現相の組成を分析した。
【0051】
さらに、各合金試料に対して、耐食性の評価を行った。評価に際しては、不凍液を模したエチレングリコール水(体積比でエチレングリコール:水=1:1)に合金試料を浸漬して密閉し、120℃の恒温槽内に静置した。所定の時間が経過するごとに、合金試料をエチレングリコール水から取り出し、乾燥させたうえで、質量を測定した。そして、浸漬前の初期状態に対する質量比を算出した。質量比の減少が、8時間より前に確認された合金試料を、耐食性が特に低い「×」とし、8時間以降、192時間より前に確認された合金試料を、耐食性が低い「△」とした。また、質量比の減少が、192時間以降、384時間より前に確認された合金試料を、耐食性が高い「〇」とし、384時間後にも質量比の減少が見られなかった合金試料を、耐食性が特に高い「◎」とした。
【0052】
(試験結果)
図2に、耐食性評価試験における、浸漬時間と試料の質量比の関係を示す。質量比は、初期状態を100%として示している。また、表1に、各合金試料の成分組成と合わせて、出現相の解析結果、および耐食性の評価結果を示す。出現相の解析においては、Nd相、Coリッチ相、Cuリッチ相、共晶相の4種の相が確認された。Nd相は、実質的にNdのみよりなっていた。Coリッチ相は、Co含有量の多いNd-Cu-Co合金よりなっており、おおむね、Nd-4.4Co-7.5Cuなる組成を有していた。Cuリッチ相は、Cu含有量の多いNd-Cu-Co合金よりなっており、おおむね、Nd-3.3Co-24.2Cuなる組成を有していた。共晶相は、Coリッチ合金とCuリッチ合金の共晶よりなっていた。表1では、各相が観察された場合には「〇」、観察されなかった場合には「×」で表示している。「-」で表示している試料については、EPMA分析を行っていない。
【0053】
【0054】
表1の結果によると、合金中のCuの含有量が多くなるほど、耐食性が高くなっている。Cuの含有量が8質量%未満である合金1~4では、十分な耐食性が得られていないのに対し、Cuの含有量が8質量%以上である合金5~7では、高い耐食性が得られている。
図2を見ても、合金1~4(No.1~No.4)と合金5~7(No.5~No.7)では、浸漬時間に対する質量比の挙動に大きな開きがあり、前者の群では、短時間で質量が大きく減少しているのに対し、後者の群では、長い時間が経過した後に、質量比が緩やかに減少するのみとなっている。また、表1によると、合金1,3では、Cuリッチ相および共晶相が観察されていないのに対し、合金5~7では、Cuリッチ相および共晶相が観察されている。
【0055】
これらの結果から、Cuの含有量を8質量%以上とすると、Nd-Cu-Co合金の耐食性が高くなり、長時間のエチレングリコール水への浸漬を経ても、腐食を起こしにくくなることが分かる。また、その耐食性の向上は、Cuリッチ相および共晶相の形成に関係していることが分かる。なお、Nd-Cu-Co合金において、Coの一部または全部をFeに置換しても、ほぼ同様の挙動となることも、確認している。
【0056】
[2]R-T-B系焼結磁石の磁気特性および耐食性
次に、R-T-B系焼結磁石において、粒界相の組成と、保磁力および耐食性との関係について、調べた。
【0057】
(試験方法)
(1)試料の作製
試料1~7に用いる基材として、それぞれ表2に示した金属元素およびBを含有する合金よりなる粉末材料を準備し、PLP法によって焼結体を作製した。焼結に際しては、室温から焼結温度(985~1050℃)まで加熱して、焼結温度に4時間維持した後に、室温まで冷却した。室温から450℃に達するまでは、アルゴンガス雰囲気とし、その後は、真空雰囲気とした。得られた各焼結体は、17mm×17mm×4.5mmの板状の試料片に加工した。そして、試料1~4については、表2に種類と使用量(基材に対するTbの質量比)を示した改質材を用いて、改質処理を行った。改質処理に際しては、試料片の17mm×17mmの2面の両方に、改質材の粉末にシリコーングリースを添加してペースト状にしたものを塗布した。そして、885℃にて15時間の熱処理を行った。その後さらに、時効処理を行った。時効処理としては、試料1~4については、480~520℃で10分間の加熱を行った。一方、試料5~7については、800℃の第一時効温度で30分間加熱した後、520~560℃の第二時効温度まで低下させ、10分間維持した。いずれの試料についても、加熱完了後は、真空中で急冷した。時効処理後に試料表面に残存している改質材の残渣は、研削によって除去した。試料5~7については、粒界改質処理、およびその後の時効処理を行っていない。
【0058】
表2に示すように、試料1~3では、改質材として、TbCuAl合金を用いているが、それらはいずれも、Tbを75.3質量%、Cuを18.8質量%、Alを5.9質量%含有するものである。また、試料4では、改質材として、TbNiAl合金を用いているが、これは、Tbを92質量%、Niを4.3質量%、Alを3.7質量%含有するものである。なお、表2には、用いた粉末材料の成分組成と合わせて、PLP法にて作製した基材に対して、赤外線吸収法によって実測したOおよびCの含有量も、合わせて示している。
【0059】
【0060】
(2)EPMA分析
得られた各試料について、断面のEPMA分析を行った。そして、粒界三重点に形成された粒界相について、全体としての成分組成を評価した。さらに、全粒界相のうち、Cuリッチ領域が占める割合を評価した。Cuリッチ領域の割合の評価に際しては、CP像から、粒界相の総面積を見積もるとともに、Cu密度分布像に基づいて、Cu含有量が8質量%以上となった領域をCuリッチ領域として、その面積を見積もった。そして、粒界相の総面積に対するCuリッチ領域の面積の割合を算出した。
【0061】
(3)保磁力測定
さらに、上記で得られた各試料について、保磁力の測定を行った。保磁力の測定は、パルス励磁型磁気特性測定装置を用いて、磁化曲線を得ることで、行った。
【0062】
(4)耐食性評価
さらに各試料について、耐食性の評価を行った。耐食性の評価は、上記試験[1]と同様に行った。つまり、エチレングリコール水に試料を浸漬して密閉し、120℃の恒温槽内に静置した。その間、所定の時間が経過するごとに、浸漬前の初期状態に対する試料の質量比を計測した。そして、質量比が減少し始める時間を記録した。なお、R-T-B系焼結磁石は、エチレングリコール自体によっては腐食を受けないが、エチレングリコール水中で、エチレングリコールが酸化/分解して生じた有機酸が、焼結磁石を腐食させるため、この耐食性試験においては、それら有機酸による腐食の寄与が観測されることになる。
【0063】
(試験結果)
表3に、EPMA分析によって得られた、粒界相全体としての組成を示す。さらに、表4に、表3の値に基づいて、粒界相全体の組成についてまとめるとともに、粒界相においてCuリッチ領域が占める割合、保磁力の測定結果、耐食性の評価結果を示している。粒界相全体の組成としては、総希土類量(TRE)、総重希土類量(TRH)を、FeとCoの総含有量(つまり元素Tの含有量)とともに示している。また、「Cu/T」として、Cuと元素Tの含有量比[Cu]/[T]を示している。
【0064】
さらに、
図3,4に、代表として、それぞれ試料1,3について、粒界相においてCuリッチ領域が占める割合を評価するのに用いた、CP像(a)、およびCuの密度分布像(b)を示す。いずれも画像の1辺は、32μmに相当する。
【0065】
【0066】
【0067】
まず、上の表2に示した基材の組成を見ると、全ての試料において、PLP法を用いて基材を作製したことに対応して、OおよびCの含有量が、いずれも1000ppm以下に抑えられている。
【0068】
そして、表3の粒界相の組成を見ると、いずれの試料においても、表2の基材全体の組成と比較して、Ndをはじめとする希土類元素の濃度が高くなっており、粒界相において、希土類元素の濃化が起こっていることが確認される。さらに、Tbを含有する改質材を用いて粒界改質を行った試料1~4においては、粒界相において、Tbが検出されている。また、試料1~3において、試料1と、試料2および3を比較すると、改質材として用いたTbの量が多くなっている試料2および3の方が、試料1よりも、粒界相におけるTbの含有量も多くなっている。これらより、重希土類元素を含む改質材を用いて改質処理を行うことで、粒界に重希土類元素が拡散していることが、確認される。
【0069】
表4の結果によると、重希土類元素を含む改質材を用いて改質処理を行っていない試料5~7では、いずれも、保磁力が20kOe以下となっているのに対し、改質処理を行っており、Tbを含有する粒界相が形成されている試料1~4では、いずれも、保磁力が20kOe以上となっている。さらに、試料1~3において、粒界相におけるTbの含有量が多くなるほど、保磁力が大きくなっている。これらより、粒界相に、重希土類元素を高濃度で分布させることで、焼結磁石の保磁力を向上させられることが、確認される。
【0070】
さらに、表4によると、粒界改質処理を行っていない試料5~7、および粒界改質処理にTb-Ni-Al合金を用いている試料4では、耐食性評価において、100時間以下の短時間で、腐食による質量減少が開始しているのに対し、Tb-Cu-Al合金を用いて粒界改質処理を行っている試料1~3では、耐食性評価において、腐食による質量減少が開始するまでの時間が、100時間を超えている。特に、試料2,3では、3000時間を経過しても、質量減少が観測されておらず、極めて高い耐食性を有するものとなっている。
【0071】
ここで、粒界相に占めるCuリッチ領域の割合に着目する。まず、
図3,4のEPMA分析によって得られた画像を見ると、いずれにおいても、(a)のCP像で、矢印A1で表示するグレーの島状の領域が、粒界三重点に存在する粒界相に相当する(カラー画像では赤色で表示されている)。一方、(b)のCu濃度の分布像で、矢印A2で表示するグレーの領域が、Cu含有量が8質量%以上となったCuリッチ領域に相当する(カラー画像では赤色で表示されている)。
図3の試料1および
図4の試料3のいずれにおいても、(a)で観測される粒界相の一部を占めて、(b)でCuリッチ領域が形成されていることが分かる。しかし、
図3の試料1では、Cuリッチ領域は、数が少なく、1つ1つの領域の面積も狭いのに対し、
図4の試料3では、Cuリッチ領域の数が多くなっており、1つ1つの領域の面積も大きくなっている。このように、試料3においては、試料1よりも、粒界相全体においてCuリッチ領域が占める面積の割合が、明らかに大きくなっている。
【0072】
そのようなCuリッチ領域が占める面積についての対比は、表4において、他の試料も含めて、粒界相全体に占めるCuリッチ領域の割合を定量的に見積もった結果により、さらに明確に示されており、耐食性の評価結果との関係を考察することができる。表4において、高い耐食性が観測された試料2,3において、他の試料よりも、粒界相におけるCuリッチ領域の割合が、顕著に大きくなっており、9体積%以上となっている。このことから、Cuを8質量%以上含有するCuリッチ領域の割合が、粒界相全体の9体積%以上となっている場合に、焼結磁石において、高い耐食性が得られると言える。モデル合金を用いた上記の試験[1]で、Nd-Cu-Co合金が、8質量%以上のCuを含有する場合に、高い耐食性が得られることが確認されており、R-T-B系焼結磁石の組織中に散在する粒界相においても、Cuの含有量が8質量%以上となったCuリッチ領域が形成されることにより、焼結磁石の耐食性の向上に寄与すると考えられる。ただし、そのようなCuリッチ領域が、焼結磁石の耐食性の向上に有効に寄与するためには、Cuリッチ領域が、粒界相において、ある程度の大きな体積を占めている必要があり、耐食性の向上に必要なCuリッチ領域の割合が、粒界相全体の9体積%となっている。
【0073】
以上より、R-T-B系焼結磁石において、粒界相に、重希土類元素を含む希土類元素を55質量%以上含有させるとともに、Cuの含有量が8質量%以上であるCuリッチ領域が、粒界相全体の9体積%以上を占めるようにすることで、高い磁気特性と耐食性を両立できることが明らかになった。なお、試料2,3では、Cuリッチ領域が粒界相全体の9体積%以上を占めることに加え、粒界相におけるCuの含有量が1.5%以上となるとともに、Cu/T比が0.05以上となっている。これらのことも、粒界相の耐食性の向上に寄与している可能性がある。
【0074】
Tb-Ni-Al合金を用いて粒界改質処理を行った試料4では、Tb-Cu-Al合金を用いて粒界改質処理を行った場合とは異なり、耐食性向上の効果が見られない。これは、Tb-Ni-Al合金中のNiは、粒界改質処理を経ても、粒界相に導入されにくいためであると考えられる。
【0075】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 主相(結晶粒)
2 粒界相
21 Cuリッチ領域
22 Cu希薄領域