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特許7400383地盤固さ推定システム及び地盤固さ推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】地盤固さ推定システム及び地盤固さ推定方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/00 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
E02D1/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019208868
(22)【出願日】2019-11-19
(65)【公開番号】P2021080737
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】萩原 由訓
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157346(JP,A)
【文献】特開2013-124443(JP,A)
【文献】特開2006-009319(JP,A)
【文献】特開2006-348515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00-3/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に孔を掘削するときに取得可能な複数の計測値を記録した計測情報記憶部と、
前記地盤のせん断波速度に応じた固さ指標値を記録した地盤調査情報記憶部と、
前記計測値を説明変数とし、前記固さ指標値を目的変数とした多変量解析式を記憶する多変量解析式記憶部と、
制御部とを備え、前記固さ指標値を推定するシステムであって、
前記制御部は、
前記計測情報記憶部に記録された各計測値と、前記地盤調査情報記憶部に記録された前記固さ指標値とを、説明変数及び目的変数とした多変量解析を行なうことにより多変量解析式を算出して、前記多変量解析式記憶部に記録し、
評価対象の孔を掘削したときの計測値を取得した場合、これら計測値と前記多変量解析式とを用いて、前記評価対象の孔が掘削された地盤における前記固さ指標値を推定することを特徴とする地盤固さ推定システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記説明変数として、積分電流値の対数値、深度、掘削速度、注水量、3方向における所定周波数における振動の少なくとも複数を用いることを特徴とする請求項1に記載の地盤固さ推定システム。
【請求項3】
地盤に孔を掘削するときに取得可能な複数の計測値を記録した計測情報記憶部と、
前記地盤のせん断波速度に応じた固さ指標値を記録した地盤調査情報記憶部と、
前記計測値を説明変数とし、前記固さ指標値を目的変数とした多変量解析式を記憶する多変量解析式記憶部と、
制御部とを備え、前記固さ指標値を推定する方法であって、
前記制御部は、
前記計測情報記憶部に記録された各計測値と、前記地盤調査情報記憶部に記録された前記固さ指標値とを、説明変数及び目的変数とした多変量解析を行なうことにより多変量解析式を算出して、前記多変量解析式記憶部に記録し、
評価対象の孔を掘削したときの計測値を取得した場合、これら計測値と前記多変量解析式とを用いて、前記評価対象の孔が掘削された地盤における前記固さ指標値を推定することを特徴とする地盤固さ推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の固さを推定する地盤固さ推定システム及び地盤固さ推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
杭孔が杭の支持層に到達したか否かを判定する支持層判定方法が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。この支持層判定方法においては、削孔管理システムの制御部は、各グラフの深度に対応させて、判定基準情報の柱状図及び深度-N値グラフを出力し、削孔時間帯における削孔深度を、深度-経過時間グラフに追加し、削孔深度に関連付けた積分電流値、上下方向及び水平方向の振動特性値を、それぞれ、各グラフに追加して表示する。
【0003】
ところで、特許文献1で用いるN値は、土質によって固さが異なる。
図8(a)、(b)は、それぞれ砂及び粘土の場合のN値と地盤の固さとの関係を示している。例えば、N値が「10」の地盤であっても、砂の場合には「緩い~中位の固さ」と判断され、粘土の場合には「硬い」と判断される。
【0004】
そこで、土質に関係なく地盤の固さを一律に評価するために、せん断波速度を用いる場合もある。せん断波速度の測定は難しいため、N値や土質を用いて、せん断波速度を算出する式が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。この文献においては、深度、N値、土質分類に応じた年代係数及び土質係数を算出式に代入して、せん断波速度(以下、このせん断波速度を「換算せん断波速度」と呼ぶ。)を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-112011号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】太田裕・後藤典俊:「横波速度を推定するための実験式とその物理的背景」、物理探鉱、第31巻第1号、昭和53年2月、pp.8~16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、換算せん断波速度を算出に用いるN値や土質分類を取得するためには、ボーリング調査を行なう必要がある。このボーリング調査には、手間が掛かるため、様々な場所でせん断波速度を効率的に把握することは難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する地盤固さ推定システムは、地盤に孔を掘削するときに取得可能な複数の計測値を記録した計測情報記憶部と、前記地盤の固さを示す固さ指標値を記録した地盤調査情報記憶部と、前記計測値を説明変数とし、前記固さ指標値を目的変数とした多変量解析式を記憶する多変量解析式記憶部と、制御部とを備え、地盤の固さ指標値を推定するシステムであって、前記制御部は、前記計測情報記憶部に記録された各計測値と、前記地盤調査情報記憶部に記録された固さ指標値とを、説明変数及び目的変数とした多変量解析を行なうことにより多変量解析式を算出して、前記多変量解析式記憶部に記録し、評価対象の孔を掘削したときの計測値を取得した場合、これら計測値と前記多変量解析式とを用いて、前記評価対象の孔が掘削された地盤における固さ指標値を推定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、地盤の固さを効率的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態における杭孔を掘削する掘削装置の概略正面図。
図2】実施形態における地盤の固さを推定する地盤固さ推定システムの構成を示す構成図。
図3】実施形態のハードウェア構成の説明図。
図4】実施形態におけるデータ記憶部のデータ構成を説明する図であって、(a)は地盤調査データ記憶部、(b)は掘削計測データ記憶部。
図5】実施形態における地盤の固さを推定する処理の処理手順を説明する流れ図。
図6】実施形態における重回帰式の算出処理の処理手順を説明する流れ図。
図7】実施形態において算出した重回帰式を用いて推定した値と、近傍の位置でボーリング調査により算出したせん断速度値とを比較した図であり、(a)は第1箇所、(b)は(a)とは異なる第2箇所。
図8】変更例において地盤の固さを3段階で評価する説明図であって、(a)は砂の場合のN値と固さ指標値との関係、(b)は粘土の場合のN値と固さ指標値との関係を示す。
図9】変更例において固さを3段階で評価するときのデータの対応付けを説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図1図7を用いて、地盤固さ推定システム及び地盤固さ推定方法を具体化した一実施形態を説明する。本実施形態では、建物の杭を設置する杭孔を掘削する地盤の固さを推定する。ここで、固さを推定する地盤には、岩盤も含まれる。
【0012】
図1には、杭孔h0を掘削する掘削装置としての掘削機10を示している。掘削機10は、ベースマシン11、マスト14、及びオーガマシン16を備えている。ベースマシン11は、クローラ12を含む下部走行体と、操作室13を含む上部旋回体とを備えている。
【0013】
マスト14は、ベースマシン11に立設されている。マスト14内には、深度・速度計計測用のワイヤが設けられている。マスト14には、昇降可能にオーガマシン16が取り付けられている。オーガマシン16は、ボックス内に収容された駆動モータと、この駆動モータで回転駆動される掘削ロッド17とを備えている。掘削ロッド17の先端(下端)には、掘削ヘッド18が取り付けられている。掘削ヘッド18は、揺動する一対(2つ)の掘削腕の先端に掘削刃が形成されている。なお、掘削ヘッド18の昇降は、操作室13の操作者により制御される。
【0014】
また、掘削機10には、掘削ヘッド18に掘削水を供給する掘削水供給装置(図示せず)が連結されている。この掘削水の水量は、掘削状況に応じて、操作室13の操作者により調整される。
【0015】
図2に示すように、掘削機10の掘削状態や掘削条件を計測する各計測器(21~24)は、地盤固さ推定システム30に接続される。本実施形態では、削孔深度計測器21、流量計測器22、電流計測器23、振動計測器24に接続される。各計測器(21~24)は、常時、測定を行ない、測定値を地盤固さ推定システム30に送信する。
【0016】
削孔深度計測器21は、マスト14内のワイヤの繰り出し量を測定し、掘削ヘッド18の位置に応じた削孔深度(深さ)を測定する。この場合、削孔深度計測器21は、時間に関連付けて削孔深度を測定する。
【0017】
流量計測器22は、掘削水供給装置から供給した掘削水の注入流量(注水量)を測定する。この場合、流量計測器22は、時間に関連付けて注水量を測定する。
電流計測器23は、オーガマシン16の駆動モータの負荷電流を測定する。この場合、電流計測器23は、時間に関連付けて電流値を測定する。
【0018】
振動計測器24は、取付場所における振動を測定する。本実施形態では、振動計測器24は、マスト14に取り付けられ、ベースマシン11の前後方向、左右方向及び上下方向の3方向の振動特性を測定する。この場合、振動計測器24は、時間に関連付けて振動特性を測定する。なお、振動計測器24は、マスト14以外、例えば、操作室13等に取り付けてもよい。
【0019】
(ハードウェア構成)
図3を用いて、地盤固さ推定システム30を構成する情報処理装置H10のハードウェア構成を説明する。情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶部H14、プロセッサH15を備える。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアにより実現することも可能である。
【0020】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインタフェースであり、例えばネットワークインタフェースカードや無線インタフェース等である。
【0021】
入力装置H12は、地盤固さを推定する作業員等からの入力を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボード等である。表示装置H13は、各種情報を表示するディスプレイ等である。
【0022】
記憶部H14は、地盤固さ推定システム30の各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する記憶装置である。記憶部H14の一例としては、ROM、RAM、ハードディスク等がある。
【0023】
プロセッサH15は、記憶部H14に記憶されるプログラムやデータを用いて、地盤固さ推定システム30における各処理を制御する。プロセッサH15の一例としては、例えばCPUやMPU等がある。このプロセッサH15は、ROM等に記憶されるプログラムをRAMに展開して、地盤固さ推定のための各種プロセスを実行する。
【0024】
プロセッサH15は、自身が実行するすべての処理についてソフトウェア処理を行なうものに限られない。例えば、プロセッサH15は、自身が実行する処理の少なくとも一部についてハードウェア処理を行なう専用のハードウェア回路(例えば、特定用途向け集積回路:ASIC)を備えてもよい。すなわち、プロセッサH15は、(1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、(2)各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する1つ以上の専用のハードウェア回路、或いは(3)それらの組み合わせ、を含む回路(circuitry)として構成し得る。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0025】
(地盤固さ推定システム30)
図2の地盤固さ推定システム30は、掘削時の各計測値から、地盤の固さを示す固さ指標値を推定するコンピュータシステムである。地盤固さ推定システム30は、制御部31、地盤調査情報記憶部としての地盤調査データ記憶部32、計測情報記憶部としての掘削計測データ記憶部33及び多変量解析式記憶部としての重回帰式記憶部34を備える。
【0026】
制御部31は、制御手段(CPU、RAM、ROM等)を備え、後述する処理(計測値管理段階、算出段階、推定段階等の各処理)を行なう。そのために、メモリに記憶された地盤固さ推定プログラムを実行することにより、制御部31は、計測値管理部311、算出部312及び推定部313として機能する。
【0027】
計測値管理部311は、ボーリング調査で取得した地質調査結果を地盤調査データ記憶部32に記録する。
【0028】
更に、この計測値管理部311は、各計測器(21~24)から取得した時間毎の測定値をメモリに蓄積し、深さ毎の計測値を掘削計測データ記憶部33に記録する。具体的には、計測値管理部311は、実際に掘り進んだ時間帯(削孔時間帯)における削孔深度、注水量、電流値及び振動特性を取得する。掘削ヘッド18は、固い地層等においては、掘り下げる直前に一旦、引き揚げられることがある。このため、掘削ヘッド18の実際の削孔深度は、経過時間に従って削孔深度が単調に増加するとは限らない。そこで、計測値管理部311は、掘削ヘッド18の引き揚げや停止の期間を全体の作業時間から削除し、削孔のために実質的に用いられた削孔時間帯の計測値を特定する。計測値管理部311は、特定した削孔時間帯における測定値を対応付けることにより、深さ(開始深度、終了深度)と、これに関連付けて、削孔速度、注水量、積分電流値及び振動特性を特定する。
【0029】
更に、計測値管理部311は、振動計測器24で計測した3方向の振動特性について周波数分析を行なうことにより、分析周波数毎の振動の大きさ(振幅値)を特定する。本実施形態では、分析周波数として、1/3オクターブバンド分析の周波数(1Hz~80Hz)の20区間の周波数を用いる。この周波数は、1Hz、1.25Hz、1.6Hz、2Hz、2.5Hz、3.15Hz、4Hz、5Hz、6.3Hz、8Hz、10Hz、12.5Hz、16Hz、20Hz、25Hz、31.5Hz、40Hz、50Hz、63Hz、80Hzである。
【0030】
算出部312は、多変量解析を行なって、重回帰式を算出する処理を実行する。具体的には、算出部312は、地盤調査データ記憶部32から取得したデータを用いて、地盤の固さを示す目的変数を算出する。
【0031】
ここで、目的変数として換算せん断波速度を用いるため、算出部312は、この換算せん断波速度を算出する式を記憶している。この換算せん断波速度算出式として、例えば、N値、深さ、年代係数及び土質係数を用いて算出する太田後藤による提案式を用いる。この提案式は、図5の式(1)で示される。年代係数は、地質の年代を示す係数であって、例えば、新しい地質は「1.0」、古い地質は「1.306」を用いる。また、土質係数は、土質分類に関連付けられた係数であって、例えば、粘土は「1.0」、砂は「1.085」を用いる。本実施形態では、算出部312は、土質分類に対応する土質係数の土質対応テーブルを記憶している。
【0032】
更に、この算出部312は、地盤の固さを示す目的変数を、掘削時に取得した複数の計測値を説明変数とした重回帰式を算出して、重回帰式記憶部34に記憶する。本実施形態では、算出部312は、重回帰のモデル式を記憶している。このモデル式は、図5に示す式(2)であって、[目的変数y]=回帰係数a1×[説明変数X1]+回帰係数a2×[説明変数X2]+…+回帰係数am×[説明変数Xm]+[切片b]である。更に、算出部312は、影響が小さい説明変数を削除するために回帰係数の基準p値に関するデータを保持している。本実施形態では、基準p値として「0.05」を用いる。
推定部313は、杭孔を新たに掘削したときに取得した計測値を、重回帰式記憶部34に記憶した重回帰式に代入して、掘削した杭孔の地盤の固さを推定する。
【0033】
図4(a)に示すように、地盤調査データ記憶部32には、ボーリング調査結果によって取得した地盤調査データが記録される。地盤調査データは、現場識別子、調査位置座標、深さに関連付けて、N値、土質分類、年代係数及び換算せん断波速度が記録される。
【0034】
現場識別子データ領域には、ボーリング調査を行なった現場を特定するための識別子に関するデータが記録される。
調査位置座標データ領域には、この現場においてボーリング調査を行なった位置の座標に関するデータが記録される。
【0035】
深さデータ領域には、このボーリング調査位置においてN値や土質を特定する深さに関するデータが記録される。本実施形態では、例えば、0.1m単位で記録され、深さの範囲(終了深度と開始深度)が記録される。
【0036】
N値データ領域には、この深さにおいて計測されたN値に関するデータが記録される。
土質分類データ領域には、この深さにおける土質分類を特定するための識別子に関するデータが記録される。この土質分類と土質対応テーブルとを用いて土質係数を特定することができる。
【0037】
年代係数データ領域には、この深さにおける地盤の年代係数に関するデータが記録される。
換算せん断波速度データ領域には、この深さにおける換算せん断波速度に関するデータが記録される。
【0038】
図4(b)に示すように、掘削計測データ記憶部33には、現場識別子、杭番号、杭座標、深さに関連付けて掘削計測値が記録される。掘削計測値は、杭孔を掘削したときに取得可能な計測値である。本実施形態では、掘削計測値として、積分電流値、掘削速度、注入量、振動に関する値を用いる。更に、深さの終了深度を、掘削計測値として用いる。
【0039】
現場識別子データ領域は、この杭孔を掘削した現場を特定するための識別子に関するデータが記録される。
杭番号データ領域及び杭座標データ領域には、掘削した杭を特定するための番号及び杭の位置座標に関するデータが記録される。この杭座標と、地盤調査データ記憶部32の調査位置座標とを用いて、掘削計測データを、最も近い位置でボーリング調査を行なった地盤調査データと関連付けることができる。
【0040】
深さデータ領域には、この杭孔において取得した計測値の深さに関するデータが記録される。本実施形態では、例えば、0.1m単位で記録され、深さの範囲(終了深度と開始深度)が記録される。
【0041】
積分電流値データ領域、掘削速度データ領域、注水量データ領域には、それぞれ、測定した電流値から算出した積算電流値(積分電流値)、掘削したときの掘削ヘッド18の速度(掘削速度)、掘削水を供給した注入量(注水量)に関するデータが記録される。
【0042】
振動データ領域には、振動の方向(前後、左右、上下の3方向)と振幅の20区間の各中心振動数における振幅とに関するデータが記録される。
重回帰式記憶部34には、重回帰式に関するデータが記録される。ここでは、目的変数と、この目的変数の説明変数とをそれぞれ特定するための識別子と、各説明変数の係数(回帰係数)とが記憶される。
【0043】
(地盤の固さ推定方法)
次に、図5図7を用いて、上述した地盤固さ推定システム30を用いて、地盤の固さ推定方法を説明する。
【0044】
まず、地盤固さ推定システム30の制御部31は、ボーリング調査結果の登録処理を実行する(ステップS1-1)。具体的には、制御部31の計測値管理部311は、入力装置H12を介して、現場を特定する現場識別子、現場においてボーリング調査を行なった調査位置座標を取得し、地盤調査データ記憶部32に記録する。更に、計測値管理部311は、このボーリング調査において深さに応じたN値、土質分類及び年代係数を取得し、地盤調査データ記憶部32に記録する。
【0045】
次に、地盤固さ推定システム30の制御部31は、換算せん断波速度の算出処理を実行する(ステップS1-2)。具体的には、制御部31の算出部312は、地盤調査データ記憶部32のN値、土質分類、深さ、年代係数を取得する。また、算出部312は、土質分類と土質対応テーブルとを用いて、土質係数を特定する。更に、算出部312は、深さ毎に、N値、深さ、年代係数、土質係数を、換算せん断波速度算出式に代入して、換算せん断波速度Vs’を算出し、地盤調査データ記憶部32に記録する。
【0046】
次に、地盤固さ推定システム30の制御部31は、測定値に基づく掘削計測データの記録処理を実行する(ステップS1-3)。具体的には、制御部31の計測値管理部311は、杭孔を掘削した時に各計測器(21~24)によって測定した測定値を取得して、メモリに記憶する。この場合、計測値管理部311は、時間毎の削孔深度において、実際に掘り進んだ時間帯(削孔時間帯)を特定し、この時間帯における削孔深度、注水量、電流値及び振動特性を特定する。そして、計測値管理部311は、特定した削孔深度(深さ)に応じた注水量を特定して、深さに関連付けて注水量を掘削計測データ記憶部33に記録する。また、計測値管理部311は、特定した削孔深度に基づく削孔速度及び積分電流値を削孔深度に関連付けて算出して、掘削計測データ記憶部33に記録する。更に、計測値管理部311は、特定した削孔深度に基づく振動を振動解析することにより、振動方向及び分析周波数における振幅値を特定し、削孔深度に関連付けて、掘削計測データ記憶部33に記録する。
【0047】
次に、地盤固さ推定システム30の制御部31は、重回帰式の算出処理を実行する(ステップS1-4)。具体的には、制御部31は、地盤の固さ指標値(換算せん断波速度)を目的変数とし、各説明変数の回帰係数を算出する。ここで、説明変数としては、積分電流値の対数値、終了深度、掘削速度、注水量、振動のうち、影響が小さくない説明変数を用いる。振動としては、3方向の20区間の振動数がある。そして、制御部31は、算出した重回帰式の説明変数及び回帰係数を、重回帰式記憶部に記憶する。この重回帰式の算出処理の詳細は後述する。
【0048】
その後、地盤固さ推定システム30の制御部31は、新たに取得した計測値に基づいて杭孔の地盤の固さの推定処理を実行する(ステップS1-5)。具体的には、制御部31の計測値管理部311は、掘削機10を用いて、新たな杭孔を掘削した際に、各計測器(21~24)によって測定した測定値を取得する。そして、計測値管理部311は、ステップS1-3と同様に、実際に掘り進んだ時間帯における削孔深度に応じた注水量、削孔速度、積分電流値、振動方向及び分析周波数における振幅値を、削孔深度(深さ)に関連付けて、掘削計測データ記憶部33に記録する。
【0049】
次に、制御部31の推定部313は、重回帰式記憶部34に記録された重回帰式に用いられる説明変数を掘削計測データ記憶部33から取得する。そして、推定部313は、重回帰式に、取得した注水量、削孔速度、終了深度、積分電流値、振動方向及び分析周波数の振幅値を代入して、換算せん断波速度Vs’を算出する。そして、推定部313は、推定した換算せん断波速度Vs’を、掘削計測データ記憶部33に記録するとともに、表示装置H13に出力する。
【0050】
(重回帰式の算出方法)
次に、図6を用いて、重回帰式算出処理の詳細について説明する。本実施形態では、4か所の異なる現場で20個の孔を掘削したときのデータを用いて、重回帰式を算出する。
【0051】
まず、制御部31は、データの対応付け処理を実行する(ステップS2-1)。具体的には、制御部31の計測値管理部311は、現場識別子が一致する現場の掘削計測データと地盤調査データとを、それぞれ地盤調査データ記憶部32及び掘削計測データ記憶部33から抽出する。そして、計測値管理部311は、杭孔の掘削計測データと、地盤調査データとを、同じ深さ毎に対応付ける。なお、同じ現場で複数のボーリングを行なっている場合には、計測値管理部311は、杭孔位置が最も近いボーリング位置の地盤調査データを用いて、掘削計測データと対応付ける。
【0052】
次に、制御部31は、関係式の設定処理を実行する(ステップS2-2)。具体的には、制御部31の算出部312は、重回帰のモデル式において、対応付けした地盤調査データの換算せん断波速度Vs’を目的変数とし、掘削計測データの各計測値を説明変数とし、説明変数に回帰係数を乗算した関係式を設定する。例えば、図6の式(3)に示す関係式を設定する。ここで、本実施形態では、積分電流値については、対数値を用いる。
【0053】
そして、制御部31は、最もデータを説明できる回帰係数の特定処理を実行する(ステップS2-3)。具体的には、制御部31の算出部312は、最小二乗法等により、各説明変数のそれぞれの回帰係数を算出する。
【0054】
次に、制御部31は、影響の少ない説明変数の削除処理を実行する(ステップS2-4)。具体的には、制御部31の算出部312は、回帰係数のp値が、記憶している基準p値以下の説明変数を削除することにより、地盤固さを算出する重回帰式を特定し、重回帰式記憶部34に記憶する。ここで、特定した重回帰式は、図6において式(4)として示される。
なお、説明変数の選択は、ここで示したp値による方法に限定されるものではなく、影響の少ない説明変数を削除できる方法であればよい。例えば、AIC(赤池情報量規準)を基準にして選択してもよい。
【0055】
本実施形態では、特定した重回帰式の説明変数として、積分電流値の対数、終了深度、注水量を用いる。更に、この説明変数として、左右方向の振動においては、中心周波数が3.15Hz、8Hz、12.5Hz、31.5Hz、40Hz、50Hz、63Hz、80Hzの振動を用いる。また、この説明変数として、上下方向の振動においては、1.6Hz、2.5Hz、8Hz、10Hz、12.5Hz、20Hz、25Hz、31.5Hz、40Hz、50Hz、63Hz、80Hzを用いる。更に、前後の振動においては、1Hz、2Hz、2.5Hz、4Hz、8Hz、12.5Hz、20Hz、50Hzを用いる。
【0056】
(検証)
図7(a),(b)には、重回帰式を用いて推定したせん断波速度Vsと、現場の地盤調査から求めたVs’とを比較して示している。図7(a),(b)は、同じ現場で、異なる2箇所において検証した場合を示している。これらは、それぞれ異なる位置において行なったボーリング調査から換算せん断波速度Vs’を算出し、各ボーリング調査位置の近傍の杭孔の掘削時の計測値データを用いて推定したせん断波速度Vsを算出している。
【0057】
図7(a),(b)から、杭孔の掘削時の計測値データと重回帰式とを用いて推定したせん断波速度Vsは、近傍のボーリング調査から算出した換算せん断波速度Vs’と近似する値を示していることがわかる。
【0058】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、地盤固さ推定システム30の制御部31は、新たに取得した計測値に基づいて杭孔の地盤の固さの推定処理を実行する(ステップS1-5)。これにより、杭孔を掘削したときの計測値から、杭孔における地盤の固さを特定することができるので、孔を形成した箇所の地盤の固さを効率的に評価することができる。
【0059】
(2)本実施形態では、地盤固さ推定システム30の制御部31は、同じ現場で、孔に最も近い場所の地盤調査データを、孔の掘削計測データと対応付けする。これにより、掘削した孔における固さと近似する固さを評価した関係式を生成することができるので、掘削した杭孔におけるN値や土質分類が不明でも、固さを推定することができる。
【0060】
(3)本実施形態では、地盤固さ推定システム30の制御部31は、地盤の固さ指標値として、換算せん断波速度Vs’を算出する。これにより、土質分類に関係なく地盤の固さを一律に評価することができる。
【0061】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態においては、地盤固さ推定システム30の制御部31は、異なる4か所の現場の掘削計測データと地盤調査データとを対応付けして、重回帰式を算出する。重回帰式を算出するためのデータを取得する現場数は4か所に限定されるものではない。例えば、堆積環境が共通する所定エリア(関東や関西等のエリア毎)の現場のデータを用いればよい。また、現場毎に重回帰式を算出するようにしてもよい。
【0062】
・上記実施形態においては、地盤固さ推定システム30の制御部31は、地盤固さ指標値を算出する説明変数として、積分電流値、終了深度、掘削速度、注水量及び振動を用いた。説明変数は、これらに限定されるものではなく、孔を形成するときに測定できる値及びそれから計算される値であればよい。例えば、開始深度、瞬間電流値や掘削加速度等を用いてもよい。また、上記重回帰式として、積分電流値は、対数値を用いたが、積分電流値を、そのまま式に用いてもよい。
・上記実施形態においては、説明変数として振動を用いる場合、1/3オクターブバンド分析の周波数における振幅値を用いた。振動に関する計測値としては、これに限定されず、例えば、他の分析方法(フーリエ解析)による特性値を用いてもよい。
【0063】
・上記実施形態においては、地盤固さ推定システム30の制御部31は、地盤固さ指標値として換算せん断波速度Vs’を推定した。推定する地盤固さ指標値は、これに限られない。
【0064】
例えば、地盤固さ指標値として、先端支持力度を用いてもよい。この先端支持力度は、例えば、木谷好伸、廣瀬智治著「埋込み杭の支持力係数の提案」日本建築学会大会学術講演梗概集、構造I、2018年9月、pp.719-720に記載している下式(5)、(6)を使って、算出できる。
砂の場合 :先端支持力度qp=222×N …(5)
粘土の場合:先端支持力度qp=268×N …(6)
これら式(5)、(6)において「N」は、N値である。
このため、制御部31は、土質分類に応じた先端支持力度の算出式を記憶する。更に、地盤調査データ記憶部32には、換算せん断波速度Vs’の代わりに、先端支持力度を記録する。
【0065】
そして、制御部31は、ボーリング調査結果の登録処理(ステップS1-1)の後、換算せん断波速度Vs’の代わりに、先端支持力度を固さ指標値として算出する。ここで、制御部31は、土質分類に応じた先端支持力度の算出式に、地盤調査データ記憶部32のN値を代入して、先端支持力度を特定する。
そして、制御部31は、データの対応付け処理(ステップS2-1)において、地盤調査データの換算せん断波速度Vs’の代わりに、特定した先端支持力度を掘削計測データと関連付ける。そして、制御部31は、先端支持力度を目的変数として重回帰式を算出する。
【0066】
また、地盤固さ指標値として、3段階の指標値(「1」「2」「3」)を用いてもよい。
図8(a)に示すように、砂の場合、「0以上~10未満」、「10以上~30未満」、「30以上」のN値を、それぞれ「1」、「2」、「3」の固さと設定する。更に、図8(b)に示すように、粘土の場合、「0以上~4未満」、「4以上~8未満」、「8以上」のN値を、それぞれ「1」、「2」、「3」の固さと設定する。
【0067】
また、地盤固さ推定システム30の制御部31は、N値と土質分類から、3段階の地盤固さ指標値を特定する対応データを記憶している。更に、地盤調査データ記憶部32には、換算せん断波速度Vs’の代わりに、固さ指標値を記録する。
【0068】
この場合においても、制御部31は、換算せん断波速度Vs’の代わりに、固さ指標値を算出する。ここで、制御部31は、地盤調査データ記憶部32のN値及び土質分類と、対応データとを用いて、固さ指標値を特定する。
そして、制御部31は、データの対応付け処理(ステップS2-1)を実行する。
ここで、図9に示すように、地盤調査データの換算せん断波速度Vs’の代わりに固さを、掘削計測データと関連付ける。そして、制御部31は、固さを目的変数として重回帰式を算出する。
【0069】
更に、多変量解析の手法は、重回帰式を算出する重回帰分析に限られない。例えば、回帰分析の代わりに、ロジスティクス回帰分析を用いてもよい。具体的には、固さが「2」以上になる場合を「1」、「2」未満の場合を「0」と設定して多変量解析式を生成すると、以下の式(7)になる。
23=1/{1+exp[-(a1×x1+a2×x2+…+am×xm+b)]} …(7)
ここで、y23は、目的変数であって、固さが「2」以上になる確率(0≦y23≦1)を示している。
そして、x1、x2、…、xmは、説明変数であって、各計測値を用いる。更に、a1、a2、…、amは、各説明変数に対応する回帰係数であり、bは回帰係数である。
【0070】
次に、固さが「3」以上になる場合を「1」、「3」未満の場合を「0」と設定して回帰式を生成すると、以下の式(5)になる。
3=1/{1+exp[-(α1×x1+α2×x2+…+αm×xm+β)]} …(8)
ここで、y3は、目的変数であって、固さが「3」以上になる確率(0≦y3≦1)を示している。
そして、x1、x2、…、xmは、説明変数であって、各計測値を用いる。更に、α1、α2、αmは、各説明変数に対応する回帰係数であり、βは回帰係数である。
【0071】
ここで、式(7)を用いて、固さが「2」以上にならない確率、すなわち、固さが「2」未満の「1」になる確率は、式(9)で算出される。また、式(8)、(9)を用いて、固さが「2」になる確率(「2」以上で「3」未満になる確率)は、式(10)式で算出される。
【0072】
1=1-y23 …(9)
2=1-y3-y1 …(10)
上記で求めた回帰係数a,b,α,β、回帰式(8)~(10)及び新たに掘削した評価対象の孔の掘削時の計測値から、固さが1~3になる確率(y1,y2,y3)を算出することができる。
【0073】
具体的には、固さの推定値は、確率の重み付けの平均として、以下の式で算出される。
〔固さの推定値〕=y1×1+y2×2+y3×3 …(11)
更に、この式(11)で算出した固さの推定値の代わりに、y1,y2,y3のうち最大値(最大の確率)の固さを、固さの推定値として用いることができる。
【0074】
・上記実施形態において、地盤固さを推定する多変量解析式は、杭孔を形成するときの掘削計測値データを用いて算出した。多変量解析式を算出するために用いる掘削計測値は、杭孔を形成するときの値に限られず、他の孔を形成するときの掘削計測値データを用いてもよい。
【0075】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。
(a)前記制御部は、堆積環境に応じた地盤毎に、前記多変量解析式を算出することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の地盤固さ推定システム。
【符号の説明】
【0076】
h0…杭孔、Vs’…換算せん断波速度、10…掘削機、11…ベースマシン、12…クローラ、13…操作室、14…マスト、16…オーガマシン、17…掘削ロッド、18…掘削ヘッド、20…地盤固さ推定システム、21…削孔深度計測器、22…流量計測器、23…電流計測器、24…振動計測器、30…地盤固さ推定システム、31…制御部、32…地盤調査情報記憶部としての地盤調査データ記憶部、33…計測情報記憶部としての掘削計測データ記憶部、34…多変量解析式記憶部としての重回帰式記憶部、311…計測値管理部、312…算出部、313…推定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9