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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】型枠装置及び型枠自動設置システム
(51)【国際特許分類】
   E04G 11/22 20060101AFI20231212BHJP
   E04G 3/00 20060101ALI20231212BHJP
   E04G 3/20 20060101ALI20231212BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
E04G11/22 A
E04G11/22 B
E04G3/00 Q
E04G3/20 A
G01C15/00 103A
G01C15/00 102C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019211204
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2021080795
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 親
(72)【発明者】
【氏名】永田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】羽立 征治
(72)【発明者】
【氏名】岡本 邦宏
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-193724(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0041879(US,A1)
【文献】特開2000-314624(JP,A)
【文献】特開2001-020256(JP,A)
【文献】特開平07-269108(JP,A)
【文献】特開2018-104185(JP,A)
【文献】特開2001-159518(JP,A)
【文献】特開平09-119123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G1/00-19/00
25/00-27/00
G01C1/00-1/14
5/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの打設予定領域の側面に対向して配置されるコンクリート型枠と、
該コンクリート型枠を、前記打設予定領域の側面に向けて進退自在にスライド移動させ
る走行機構と、
前記コンクリート型枠に設定した複数の側点の位置を測量する測量手段と、
を備える型枠装置であって、
前記測量手段は、
前記コンクリート型枠に設けた複数のターゲットと、
該ターゲットを視準するトータルステーションと、
間隔を設けて配置した2体のGNSSアンテナよりなる位置検出センサと、
を備えることを特徴とする型枠装置。
【請求項2】
請求項1に記載の型枠装置において、
前記コンクリート型枠は、コンクリート打設面が同一平面を形成する配置で、複数が着脱自在な連結部材を介して連結されていることを特徴とする型枠装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の型枠装置において、
前記走行機構が、既設コンクリートの側面を昇降自在な昇降足場に設置されていることを特徴とする型枠装置。
【請求項4】
コンクリートの打設予定領域の側面に対向して配置されるコンクリート型枠、該コンクリート型枠を、前記打設予定領域の側面に向けて進退自在にスライド移動させる走行機構、及び前記コンクリート型枠に設定した複数の側点の位置を測量する測量手段を備える型枠装置と、
該型枠装置に設けたコンクリート型枠のスライド移動を制御する型枠移動制御装置と、
を備え、
該型枠移動制御装置が、
前記測量手段から取得した測量結果に基づいて、前記コンクリート型枠の位置情報を算定する型枠位置算定部と、
算定した前記位置情報に基づいて、前記コンクリート型枠の建込み基準位置までの移動量を算定する移動量算定部と、
算定された前記移動量に基づいて前記走行機構を走行させ、前記コンクリート型枠をスライド移動させるスライド移動司令部と、
を備えることを特徴とする型枠自動設置システム。
【請求項5】
請求項4に記載の型枠自動設置システムにおいて、
前記型枠移動制御装置と、ネットワーク回線で相互通信可能な情報処理端末を備えることを特徴とする型枠自動設置システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物を構築する際に用いる、型枠装置及び型枠自動設置システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ダム等の大規模なコンクリート構造物を構築する場合、コンクリートの打設領域を複数のブロックに区画し、または複数層に分割して、順次コンクリートを打ち継いでいく方法が知られている。この場合、施工計画の段階であらかじめコンクリート型枠の設置基準位置を規定したうえで、クレーン等の揚重装置を用いて型枠を設置位置近傍まで搬送したのち、現場の作業員の人力により位置調整を行って型枠を建て込んでおり、多大な手間を要していた。
【0003】
このような中、コンクリート型枠の設置作業を簡略化して省人化を図るべく、様々な型枠装置が開発されており、例えば、特許文献1には、既設コンクリートの側面を昇降する作業足場用枠体に型枠部材を設けた型枠装置が開示されている。
【0004】
特許文献1の型枠装置は、作業足場用枠体、型枠部材に加えてさらに、既設コンクリートの側部に固定したアンカー部材に着脱自在に設置するレール部材と、作業足場用枠体をレールに沿って移動させるジャッキとを備え、上下方向に伸縮するジャッキの、上端がこの作業足場用枠体に接続され、下端はレール部材に対して着脱自在に接続されている。
【0005】
そして、型枠部材を既設コンクリートの上方に位置する打設領域に配置するには、まず、ジャッキを伸張して、作業足場用枠体をレールに沿って上方に移動させる。移動後、作業足場用枠体をレールに固定し、また、ジャッキの下端をレール部材から解放したうえで、ジャッキを収縮する。さらに上昇させるには、ジャッキの下端をレール部材に固定するとともに、作業足場用枠体をレールから解放し、再度ジャッキを伸張し、作業足場用枠体をレール部材に沿って上方に移動させる。
【0006】
このような手順を繰り返し、作業足場用枠体を打設領域近傍の高さまで上昇させたのち、型枠部材を打設領域に向けて移動させて、施工計画であらかじめ規定した設置位置に建て込む。その後、新設コンクリートを打設して硬化養生させたのちに脱型する。こうした作業を、所望の高さに達するまで繰り返し行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-193724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の型枠装置によれば、型枠部材を設けた作業足場用枠体を既設コンクリートの側面に沿って昇降させることができるため、クレーン等の重機を用いて型枠部材の揚重作業を行う必要がなく、省力化を図ることができるとともに作業時間を大幅に短縮できる。ところが、作業足場用枠体の上昇移動により新設コンクリートの打設予定位置近傍の高さまで移動させた型枠部材を、施工計画で規定した設置基準位置に建て込む際の手順が明らかにされていない。
【0009】
また、型枠部材を施工計画で規定した設置位置に建て込む際には一般に、型枠部材の位置出しを行うべく、打設領域に隣接する既設コンクリート上に墨出しを行うが、墨出し作業が発生するが、側面は、急傾斜あるいは垂直に切り立っている場合が多く、作業が煩雑となりやすい。さらに、妻部における打設部材の位置確認作業では、作業員の墜落や転落のリスクが生じやすく、安全性に課題が生じている。
【0010】
加えて、コンクリートを順次打ち継ぐ作業では、型枠部材を設置した際の位置誤差が微細であっても、これが連続すると出来形に多大な影響を及ぼすため、型枠部材の建て込み精度が重要となる。しかし、建込んだのちの型枠部材の位置と施工計画で規定した設置基準位置との整合性確認を、現場でリアルタイムに検証することができない。
【0011】
また、コンクリートを打ち継ぐごとに実施する型枠部材の設置作業は、作業者が複数人に及ぶ場合が想定され、このような場合には作業員の個人差により建込み精度に誤差が生じやすく、安定した建込み精度の確保が困難となっていた。
【0012】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、高い精度を維持しつつ、省力化を図ることの可能な、型枠装置及び型枠自動設置システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる目的を達成するため、本発明の型枠装置は、コンクリートの打設予定領域の側面に対向して配置されるコンクリート型枠と、該コンクリート型枠を、前記打設予定領域の側面に向けて進退自在にスライド移動させる走行機構と、前記コンクリート型枠に設定した複数の側点の位置を測量する測量手段と、を備える型枠装置であって、前記測量手段は、前記コンクリート型枠に設けた複数のターゲットと、該ターゲットを視準するトータルステーションと、間隔を設けて配置した2体のGNSSアンテナよりなる位置検出センサと、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の型枠装置によれば、コンクリート型枠に設定した複数の側点の位置を測量する測量手段と、コンクリート型枠をスライド移動させる走行機構とを備えることから、測量結果に基づいてコンクリート型枠の位置及び姿勢を適宜確認できるとともに、走行機構を用いてコンクリート型枠の建込み作業を行うことができる。
【0015】
これにより、コンクリート型枠の建て込み作業を、測量結果に基づいて位置及び姿勢を確認しつつ行えるため、作業員による個人差の影響を受けることなく安定した高い精度で、コンクリート型枠を建て込むことができる。また、墨出し作業を省略できるとともに、建込み時の人力作業を大幅に削減できるだけでなく、コンクリートの打設予定領域が、既設コンクリート部の上方といった高所であっても、建込み時の高所作業を大幅に削減でき、作業安全性の向上を図ることが可能となる。
【0017】
また、コンクリート型枠の建込み位置が何れの環境にあっても現場状況に応じて、トータルステーションによる測量結果もしくはGNSS測量による測量結果を適宜選択し、これらの測量結果に基づいて、コンクリート型枠の位置や姿勢等の情報を取得することができ、作業効率を大幅に向上することが可能となる。
【0018】
本発明の型枠装置は、前記コンクリート型枠は、コンクリート打設面が同一平面を形成する配置で、複数が着脱自在な連結部材を介して連結されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の型枠装置によれば、複数のコンクリート型枠が連結部材を介して連結されているため、これらを走行機構を介して同時に建て込むことができる。したがって、隣り合うコンクリート型枠を、それぞれ個別に建込む場合と比較して、隣り合うコンクリート型枠どうしで建込み位置の位置ズレを最小限に抑えることができ、建込み精度を向上させつつ、作業時間を短縮化を図ることが可能となる。
【0020】
本発明の型枠装置は、走行機構が、既設コンクリートの側面を昇降自在な昇降足場に設置されていることを特徴とする。
【0021】
本発明の型枠装置によれば、コンクリートの打設予定領域が既設コンクリート部の上方に位置する場合に、コンクリート型枠を、昇降足場を上昇させることにより打設予定領域近傍の高さ位置まで上昇させ、走行機構を用いて打設予定領域に向けてスライド移動させることができる。これにより、コンクリート型枠の建込む際の一連の作業を人力に頼ることなく実施できるため、省人化及び作業時間を短縮化を図ることが可能となる。
【0022】
したがって、コンクリートの打設領域を複数のブロックに区画し、順次コンクリートを打ち継いで構築する大規模なコンクリート構造物を施工する場合にも、コンクリート型枠の建込み精度を向上させつつ、省力化を図ることが可能となる。
【0023】
本発明の型枠自動設置システムは、コンクリートの打設予定領域の側面に対向して配置されるコンクリート型枠、該コンクリート型枠を、前記打設予定領域の側面に向けて進退自在にスライド移動させる走行機構、及び前記コンクリート型枠に設定した複数の側点の位置を測量する測量手段を備える型枠装置と、前記コンクリート型枠のスライド移動を制御する型枠移動制御装置と、を備え、該型枠移動制御装置が、前記測量手段から取得した測量結果に基づいて、前記コンクリート型枠の位置情報を算定する型枠位置算定部と、算定した前記位置情報に基づいて、前記コンクリート型枠の建込み基準位置までの移動量を算定する移動量算定部と、算定された前記移動量に基づいて前記走行機構を走行させ、前記コンクリート型枠をスライド移動させるスライド移動司令部と、を備えることを特徴とする。
【0024】
本発明の型枠自動設置システムによれば、測量手段及び型枠移動制御装置を用いて、コンクリート型枠の、現在位置、向き、姿勢等の位置姿勢情報を把握し、この位置姿勢情報に基づいて建込み基準位置までの移動量を算定し、さらには、移動量に基づいて走行機構を走行させてコンクリート型枠をスライド移動させることができる。したがって、コンクリート型枠の建込み精度を確保しつつ、省人化を図ることが可能となる。
【0025】
また、建込んだのちのコンクリート型枠の位置姿勢情報とあらかじめ設定した建て込み基準位置との整合性確認を、現場でリアルタイムに行うことができる。したがって、整合性が確認できない場合には、その場でコンクリート型枠の位置や向きの調整を行うこともでき、より安定した建込み精度を確保することが可能となる。
【0026】
また、コンクリートの打設領域を複数のブロックに区画し、順次コンクリートを打ち継いで構築する大規模なコンクリート構造物の施工に採用すると、打継ぐごとに実施するコンクリート型枠の建込み作業に係る様々な情報を、型枠移動制御装置に集約して一元管理することができる。これにより、先行して構築した既設コンクリート部におけるコンクリート型枠設置時の情報等を参照しながら、これと隣接する打設予定領域にコンクリート型枠を建込むことができ、建込み作業時に不具合の生じる可能性のある部位等を、事前に把握して対応策を講じる等、コンクリート型枠の建込み精度の向上に寄与することが可能となる。
【0027】
本発明の型枠自動設置システムは、前記型枠移動制御装置と、ネットワーク回線で相互通信可能な情報処理端末を備えることを特徴とする。
【0028】
本発明の型枠自動設置システムによれば、現場作業員や施工管理者が、タブレット等の情報処理端末を利用して型枠移動制御装置が一元管理する情報を閲覧することができ、作業に係る情報支援を容易に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、測量手段より取得した測量結果に基づいてコンクリート型枠の位置及び姿勢を確認できるととともに、走行機構によりコンクリート型枠をスライド移動させて建込むことができるから、作業員による人力作業を大幅に削減でき、省力化を図りつつ高い精度でコンクリート型枠を建込むことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施の形態における昇降装置及び型枠装置の側面を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における型枠自動設置システムの概略を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における昇降装置及び型枠装置の平面を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における昇降装置及び型枠装置の背面(コンクリート型枠が3台連結されている事例)を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における打設予定領域の区割りイメージを示す図である。
図6】本発明の実施の形態における型枠移動制御装置の概略を示す図である。
図7】本発明の実施の形態におけるコンクリート型枠の設置方法のフローを示す図である。
図8】本発明の実施の形態におけるコンクリート型枠の設置方法を示す図である(その1)。
図9】本発明の実施の形態におけるコンクリート型枠の設置方法を示す図である(その2)。
図10】本発明の実施の形態におけるコンクリート型枠の設置方法を示す図である(その3)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の型枠装置及び型枠自動設置システムは、コンクリート構造物を構築する際に用いるものであって、特に、コンクリートの打設領域を複数のブロックに区画し順次コンクリートを打ち継いで構築する、ダム等の大規模なコンクリート構造物に適している。
【0032】
以下に、型枠装置及び型枠自動設置システムについて、既設のコンクリート側壁を昇降可能な昇降足場とともに使用する場合を事例に挙げ、その詳細を図1図10を参照しつつ説明するが、これに先立ち、まず昇降足場について説明する。
【0033】
昇降足場90は、図1で示すように、昇降装置91と、作業ステージ92と、枠組足場93と、を備えている。昇降装置91は、長手方向に伸縮自在および、または移動可能な構造を有し、この長手方向が既設コンクリート部Aの側壁に沿うようにして、この壁面に埋設された複数のアンカーボルトEに、着脱自在に設置されている。また、作業ステージ92は、昇降装置91に片持ち梁の状態で設置され、枠組足場93は、作業ステージ92上に設置されている。
【0034】
したがって、昇降装置91が、既設コンクリート部Aの壁面に沿って長手方向の伸縮を繰り返しながら、アンカーボルトEを利用して上昇もしくは下降することにより、作業ステージ92及び枠組足場93は、既設コンクリート部Aの壁面に沿って昇降する。このような構成の昇降足場90において、枠組足場93が、既設コンクリート部Aとの間に空間を設けるようにして、作業ステージ92の先端側に設置され、枠組足場93と既設コンクリート部Aとの間の空間に、型枠装置110が配置されている。
【0035】
≪型枠装置110≫
図1及び図2で示すように、型枠装置110は、コンクリート型枠10と、走行機構20と、測量手段50とを備えている。
【0036】
コンクリート型枠10は、既設コンクリート部Aの上部に設けられたコンクリートの打設予定領域Cと平行となるように対向して配置されており、図3の平面図及び図4の背面図で示すように、表面がコンクリート打設面となる型枠パネル11と、型枠パネル11の背面側に設置される複数の横リブ12と、複数の横リブ12を連結するように、並列に設置される複数の縦リブ13と、を備えている。
【0037】
並列配置された縦リブ13にはその上端部に、図4で示すような、長尺の縦リブ接続材14が設置され、隣り合う縦リブ13どうしが接続されている。そして、縦リブ接続材14の両端部には、複数のコンクリート型枠10を連続して接続配置するための連結部材141が設けられている。
【0038】
例えば、図4では、3台のコンクリート型枠10を連結部材141を介して着脱自在に接続した事例を示している。このとき、コンクリート型枠10どうしは、図3で示すように、型枠パネル11のコンクリート打設面が同一平面を形成するようにして配置されている。また、縦リブ13の下端部各々には、後述する走行機構20の一部を構成するキャスター15が設置されている。
【0039】
走行機構20は、図1で示すように、コンクリート型枠10を打設予定領域Cに向けて前進もしくは後退自在にスライド移動させる機構であり、上記のキャスター15、ガイド部材21、走行レール22、及びトロリー23を備える。
【0040】
ガイド部材21は、コンクリート型枠10の縦リブ13各々に設けられたキャスター15の走行方向を案内するものであり、作業ステージ92上のコンクリート型枠10が配置された空間に、打設予定領域Cと直交して配置されている。
【0041】
本実施の形態では、図4で示すように、ガイド部材21に溝形鋼を採用しているが、これに限定されるものではなく、キャスター15が走行可能な溝部を有する鋼材であれば、いずれを採用してもよい。また、キャスター15もいずれの形状のものを採用してもよく、さらには、ガイド部材21を設けずにキャスター15を作業ステージ92上で直接走行させてもよい。
【0042】
走行レール22は、後述するトロリー23の走行方向を案内するもので、図1で示すように、枠組足場93の上部に片持ち梁状に設置され、先端が打設予定領域Cの上方に位置する程度に張り出している。また、ガイド部材21と同様に打設予定領域Cと直交して平行に延在し、図4で示すように、間隔を設けて複数が並列配置されている。
【0043】
トロリー23は、図1で示すように、ホイスト等の吊持装置24が設けられており、この吊持装置24と縦リブ接続材14とが接続されることにより、コンクリート型枠10はトロリー23に吊持された状態で、作業ステージ92上を打設予定領域Cに向けて前進もしくは後退するようにスライド移動する。コンクリート型枠10の移動量L1(トロリー23の移動量)は、走行レール22に設置されたエンコーダー25で検出することができ、後述する走行機構制御盤30に送信される。
【0044】
なお、走行レール22はいずれの形状でもよく、またトロリー23は、電動式もしくは油圧駆動式等いずれの機構により走行するものであってもよい。さらには、走行レール22及びトロリー23に代えて油圧シリンダ等の伸縮装置を採用するなど、コンクリート型枠10を打設予定領域Cに向けて進退自在にスライド移動させることが可能な装置であれば、いずれを走行機構20に含めてもよい。
【0045】
測量手段50は、コンクリート型枠10の位置、向き及び姿勢等を含む位置姿勢情報を算出することを考慮して設けるものであり、コンクリート型枠10にあらかじめ設定した複数の側点の位置座標を測量するべく設けられている。本実施の形態では、図2で示すように、コンクリート型枠10が、いずれの環境下にあっても、トータルステーションを用いた測量と、GNSS測量の少なくともいずれかの測量を実施できるよう、トータルステーション51と、トータルステーション51で視準する複数のターゲット52と、位置検出センサ53と、を備えている。
【0046】
トータルステーション51は、一般に広く採用されている測量機器であり、ターゲット52を視準もしくは自動追尾して水平角・鉛直角・距離を計測し、これらを三次元座標に換算してターゲット52の三次元的位置を求める。本実施の形態では、トータルステーション51を、施工現場の地盤上に配置し、ターゲット52をコンクリート型枠10に設置している。
【0047】
ターゲット52の配置位置は、トータルステーション51をコンクリート型枠10の背面側に配置できる場合には、例えば、図4で示すように、コンクリート型枠10の背面における4隅と、背面の中ほどであって中心点Oを外した位置の、合計5カ所に設置するとよい。これは、トータルステーション51により視準もしくは自動追尾した少なくとも3箇所のターゲット52の位置座標により、前述したコンクリート型枠10の位置姿勢情報を算出するためである。
【0048】
したがって、3個のターゲット52が、閉合を形成する位置(直線状の列をなさない位置)であれば、型枠パネル11の背面のいずれに設置してもよく、またその数量もいずれでもよい。
【0049】
一方、施工現場の状況により、トータルステーション51をコンクリート型枠10の背面側に配置できないが、側方に配置できる場合には、ターゲット52を、コンクリート型枠10の側端面もしくは上面に、少なくとも2か所以上配置してもよい。この場合には、少なくともコンクリート型枠10の上方と下方に位置する2カ所の隅部近傍に配置し、コンクリート型枠10の上方と下方に位置する2カ所の隅部各々の位置座標を取得する。
【0050】
したがって、図8で示すように、コンクリート型枠10が打設予定領域Cの近傍であって、下端を、既設コンクリートAに当接された位置にある場合は、打設予定領域Cの下方に位置する既設コンクリート部Aを打設した際のコンクリート型枠10の上方に位置する2カ所の隅部各々の位置座標を、打設予定領域Cの近傍に位置するコンクリート型枠10の下方に位置する2カ所の隅部各々の位置座標と見做す。
【0051】
また、図1で示すように、コンクリート型枠10が打設予定領域Cから離間した位置にあって、トロリー23に吊持されている状態にある場合には、上記のとおり、トータルステーション51で視準した少なくとも3つのターゲット52を用いた測量結果に基づいて、コンクリート型枠10の上方及び下方4カ所の隅部各々の位置座標を算出する。
【0052】
これにより、いずれの場合もコンクリート型枠10における4隅各々の位置座標を検出できるから、位置姿勢情報を算出することが可能となる。さらに、トータルステーション51をコンクリート型枠10の背面側及び側方側のいずれの地表面にも設置できない場合には、位置検出センサ53を利用してGNSS測量を行う。
【0053】
位置検出センサ53は、図2及び図4で示すように、型枠パネル11の上端部における両側端に相当する位置に配置されている2台のGNSSアンテナ531、532よりなる。これらは、GNSSを利用して2点間の相対的な位置関係(ベクトル)を求める方法として一般に知られている相対測位を行うべく、2台配置している。
【0054】
このような2台のGNSSアンテナ531、532により、コンクリート型枠10の上方に位置する2カ所の隅部各々の位置座標を取得できる。そして、下方に位置する2カ所の隅部各々の位置座標は、以下のように取得する。図8で示すように、コンクリート型枠10の下端が既設コンクリートAに当接された位置にある場合、既設コンクリート部Aを打設した際のコンクリート型枠10における、上方2カ所の隅部各々の位置座標を、下方2カ所の隅部各々の位置座標と見做す。図1で示すように、コンクリート型枠10が打設予定領域Cから離間した位置にある場合、下端付近のターゲット52を別途視準する等の測量を行って、コンクリート型枠10上の少なくとも1点の位置座標を測量し、下方2カ所の隅部各々の位置座標を算定する。
【0055】
上述する構成の型枠装置110によれば、測量手段50に基づいてコンクリート型枠10の位置姿勢情報を確認しつつ、走行機構20によりコンクリート型枠10をスライド移動させることができる。これにより、現場作業員による人力作業を大幅に削減できるだけでなく、コンクリート型枠10の建込み作業が、既設コンクリート部Aの上方といった高所であっても、高所作業を大幅に削減でき、作業安全性の向上を図ることが可能となる。
【0056】
複数のコンクリート型枠10を走行機構20を介して同時に建て込むことができる。したがって、隣り合うコンクリート型枠10を、それぞれ個別に建込む場合と比較して、隣り合うコンクリート型枠10どうしで建込み位置の位置ズレを最小限に抑えることができ、建込み精度を向上させつつ、作業時間を短縮化を図ることが可能となる。
【0057】
さらには、型枠装置110を昇降足場90に設けることにより、コンクリート型枠10を、昇降足場90を上昇させることにより打設予定領域C近傍の高さ位置まで上昇させ、また、走行機構20を用いて打設予定領域Cに向けてスライド移動させることができる。これにより、コンクリート型枠10を建込む際の一連の作業を人力に頼ることなく実施できるため、省人化及び作業時間を短縮化を図ることが可能となる。
【0058】
したがって、図5で示すように、既設コンクリート部Aの上方に位置する打設予定領域Cを1回の打設範囲に対応する大きさの複数のブロックに区画し、順次コンクリートを打ち継いで構築する大規模なコンクリート構造物Dの施工に採用すると、各ブロックに対するコンクリート型枠10の建込み精度を向上させつつ、施工性を大幅に向上ずることが可能となる。
【0059】
≪型枠自動設置システム100≫
そして、上記の型枠装置110を用いた型枠自動設置システム100は、図2で示すように、型枠装置110に加えて、走行機構制御盤30、型枠移動制御装置40、情報処理端末60、及びクラウドサーバ80、を備えている。
【0060】
走行機構制御盤30は、トロリー23が走行レール22上を走行する際の移動方向及び移動量L1を制御するものであり、走行機構20のエンコーダー25、及び、後述する型枠移動制御装置40に接続されている。これにより、型枠移動制御装置40から指令を受けて、もしくは型枠移動制御装置40を介して後述する情報処理端末60の指令を受けて、トロリー23を走行させることにより、コンクリート型枠10をスライド移動させる。
【0061】
型枠移動制御装置40は、事業所や施工現場の工事事務所等に設置され、コンクリート型枠10の状況を常時監視するだけでなく、走行機構制御盤30に走行指令を発令する装置である。図6で示すように、入力装置41、出力装置42、中央演算処理装置43、ファイル装置44、及びメインメモリ45を備えている。
【0062】
入力装置41は、例えばキーボード、スキャナー、スイッチ等であり、出力装置42は、ディスプレイやプリンター等が挙げられる。中央演算処理装置43は、CPU、GPU、ROM、RAM及びハードウェアインタフェース等を有するコンピュータである。
【0063】
また、ファイル装置44は、半導体メモリ又はハードディスクドライブ等からなる記憶装置であり、詳細は後述するが、少なくとも測量ファイル441、施工計画情報ファイル442、算定式格納ファイル443、移動量情報ファイル444、型枠位置情報ファイル445、施工情報ファイル446等が格納されている。
【0064】
メインメモリ45は、中央演算処理装置43によって実行可能なプログラムやデータを一時的に格納するものであり、詳細は後述するが、少なくも型枠位置算定部451、移動量算定式決定部452、移動量算定部453、スライド移動司令部454、型枠位置検証部455、施工情報取得部456等が備えられている。
【0065】
情報処理端末60は、図2で示すように、型枠移動制御装置40との間で相互データ通信が可能で、かつ、現場作業員や施工管理者等が携帯可能な情報処理装置であり、タブレット端末、ノートパソコンもしくはスマートフォン等のデータ処理機能や通信機能を有する端末装置であれば、いずれを採用することもできる。また、詳細は後述するが、少なくともトロリー23の走行を操作するための手動操作アプリケーションが格納されている。
【0066】
このような構成の型枠自動設置システム100は、走行機構制御盤30と、型枠移動制御装置40及び走行機構20のエンコーダー25とが、有線もしくは無線の専用回線により接続されている。また、型枠移動制御装置40、測量手段50のトータルステーション51及び位置検出センサ53と、情報処理端末60とが、例えば、インターネット等の既存のあらゆる形態のネットワーク回線70を介して接続されている。
【0067】
したがって、事業所や施工現場の工事事務所等に設置される型枠移動制御装置40と、現場作業員や施工管理者等が携帯可能な情報処理端末60は、ネットワーク回線70経由で相互データ通信が可能である。もしくは、型枠自動設置システム100は、クラウドサーバ80を備える構成としてもよい。
【0068】
この場合、型枠移動制御装置40に、インターネット経由で情報をクラウドサーバ80に送受信する機能を備え、ファイル装置44に格納した情報を、クラウドサーバ80に格納する。また、情報処理端末60にも、インターネット経由で情報をクラウドサーバ80に送受信する機能を備える。これにより、型枠移動制御装置40と情報処理端末60はネットワーク回線70を介して、クラウドサーバ80を利用した相互データ通信を行うことができる。
【0069】
こうすると、現場作業員や施工管理者が、情報処理端末60を利用して型枠移動制御装置40が一元管理する情報を閲覧することができ、型枠自動設置システム100を用いてコンクリート型枠10の建込み作業に係る情報支援を容易に行うことが可能となる。
【0070】
上述する構成の型枠自動設置システム100によれば、測量手段50と型枠移動制御装置40を用いて、コンクリート型枠10の位置姿勢情報を把握し、この位置姿勢情報に基づいて建込み基準位置までの移動量L1を算定する。さらには、移動量L1に基づいて走行機構20を走行させてコンクリート型枠10をスライド移動させることができ、コンクリート型枠10の建込み精度を確保しつつ、省人化を図ることが可能となる。
【0071】
また、建込んだのちのコンクリート型枠10の位置姿勢情報とあらかじめ設定した建て込み基準位置との整合性確認を、現場でリアルタイムに行うことができる。したがって、整合性が確認できない場合には、その場でコンクリート型枠10の位置や向きの調整を行うこともでき、より安定した建込み精度を確保することが可能となる。
【0072】
≪コンクリート型枠の自動設置方法≫
そこで、上記の型枠自動設置システム100を用いて型枠装置110のコンクリート型枠10を、施工計画時に規定した建込み基準位置に自動設置する手順を、型枠移動制御装置40の詳細とともに、図7のフロー図を参照しつつ説明する。
【0073】
本実施の形態では、型枠装置110を昇降足場90に設置し、既設コンクリート部Aの上方にある打設予定領域Cにコンクリートを打継いで、新設コンクリート部Bを構築する工程を繰り返す場合を事例に挙げる。
【0074】
<前処理>
施工計画の段階であらかじめ、コンクリートを打ち継ぐ毎に設置するコンクリート型枠10の位置座標を算出し、これをコンクリート型枠10を建込む際の建込み基準位置として規定するとともに、建込み基準位置に対して許容可能な許容誤差を算定しておく。
【0075】
これら建込み基準位置と許容誤差に係る基準位置情報は、図5で示すように、打設予定領域Cを1回の打設範囲に相当する大きさで区画した複数のブロックごとに算出し、各ブロックに付与した打設領域番号(例えば、C11、C12・・、C21、C22・・)と関連付けしておく。
【0076】
そのうえで、図6で示すような、型枠移動制御装置40を構成するファイル装置44の施工計画情報ファイル442に格納しておく。なお、施工計画情報ファイル442には、コンクリート型枠10の寸法(高さ及び長さ)等の緒元情報や、その他必要な情報を格納しておくとよい。ファイル装置44の算定式格納ファイル443には、コンクリート型枠10を建込み基準位置に建て込むための移動量L1を算定する移動量算定式と、移動量算定式に必要なパラメータ情報を格納しておく。
【0077】
<コンクリート型枠の移動前位置情報P1を算定:STEP1>
図1で示すように、昇降装置91により昇降足場90を上昇させ、コンクリート型枠10をコンクリートの打設予定領域Cと対向する高さ位置に配置したのち、測量手段50を用いてコンクリート型枠10の測量を行う。
【0078】
トータルステーション51をコンクリート型枠10の背面側に据え付けることができ、かつ3点以上のターゲット52を視準もしくは追尾できた場合には、これらのターゲット52の位置座標を測量情報として、ネットワーク回線70を介して、入力装置41から型枠移動制御装置40に入力し、打設領域番号とともにファイル装置44の測量ファイル441に格納する。
【0079】
3点以上のターゲット52の位置座標が測量情報として入力されると、中央演算処理装置43がメインメモリ45に格納されている型枠位置算定部451の指令を受け、コンクリート型枠10をスライド移動させる前の位置姿勢情報(現在位置、向き及び姿勢)である移動前位置情報P1を算定し、打設領域番号とともにファイル装置44の型枠位置情報ファイル445に格納する。
【0080】
なお、トータルステーション51をコンクリート型枠10の背面側に据え付けることができない場合は、前述のとおり、トータルステーション51を側方に配置し、コンクリート型枠10の側端面もしくは上面の少なくとも2か所以上に配置したターゲット52を使用して測量情報を得る。もしくは、2台のGNSSアンテナ531、532により取得した位置座標と、他の測量手段により取得したコンクリート型枠10上の少なくとも1点の位置座標に基づいて、コンクリート型枠10に係る測量情報を取得し、入力装置41から型枠移動制御装置40に入力する。
【0081】
<コンクリート型枠の移動量L1を算定:STEP2>
コンクリート型枠10の移動前位置情報P1が算定されると、中央演算処理装置43がメインメモリ45に格納されている移動量算定式決定部452の指令を受け、ファイル装置44の算定式格納ファイル443に格納された移動量算定式とパラメータ情報を、ネットワーク回線70を介して情報処理端末60に出力する。また、コンクリート型枠10の移動前位置情報P1、及び施工計画情報ファイル442に格納され、移動前位置情報P1に付与された打設領域番号に対応する建込み基準位置も併せて、情報処理端末60に出力する。
【0082】
施工管理者は、情報処理端末60に出力された、移動前位置情報P1及び建込み基準位置を参照しつつ、現場状況やトロリー23の性能等を勘案し、情報処理端末60にパラメータの最適値を入力する。入力された最適値は、ネットワーク回線70を介して入力装置41から型枠移動制御装置40に入力され、ファイル装置44の算定式格納ファイル443に格納される。
【0083】
パラメータの最適値が入力されたところで、中央演算処理装置43がメインメモリ45に格納された移動量算定部453の指令を受け、各情報(移動前位置情報P1、建込み基準位置、移動量算定式、パラメータの最適値等)に基づいて、コンクリート型枠10の移動量L1を算定する。算定した移動量L1は、打設領域番号とともにファイル装置44の移動量情報ファイル444に格納されるとともに、ネットワーク回線70を介して情報処理端末60に出力する。
【0084】
<コンクリート型枠をスライド移動:STEP3>
施工管理者は、移動量L1を確認したうえで、情報処理端末60に、走行機構20のトロリー23を走行させるための指令情報を入力する。入力された指令情報は、ネットワーク回線70を介して入力装置41から型枠移動制御装置40に入力される。すると、中央演算処理装置43がメインメモリ45に格納されたスライド移動司令部454の指令を受け、算定された移動量L1を、出力装置42介して走行機構制御盤30に入力する。
【0085】
走行機構制御盤30は、移動量L1が入力されるとトロリー23を稼働させ、走行レール22上を入力された移動量L1だけ打設予定領域Cに向けて移動させる。これにより、コンクリート型枠10は、図8で示すように、打設予定領域Cに向けてスライド移動する。このとき、コンクリート型枠10の下端部が、打設予定領域Cの下方に位置する既設コンクリート部Aに当接していることを確認し、確認できない場合はトロリー23を操作して、下端部が既設コンクリート部Aに当接するまでコンクリート型枠10をスライド移動させる。
【0086】
<コンクリート型枠の建込み位置の検証:STEP4>
図8で示すように、コンクリート型枠10のスライド移動が終了したところで、測量手段50を用いてコンクリート型枠10の測量を行う。測量情報の取得方法は、<STEP1>と同様であり、取得した測量情報は、入力装置41から型枠移動制御装置40に入力され、ファイル装置44の測量ファイル441に格納される。
【0087】
測量情報が型枠移動制御装置40に入力されると、中央演算処理装置43がメインメモリ45に格納されている型枠位置算定部451の指令を受け、コンクリート型枠10をスライド移動させた後の位置姿勢情報(現在位置、向き及び姿勢)である建込み位置情報P2を算定し、打設領域番号とともにファイル装置44の型枠位置情報ファイル445に格納する。
【0088】
なお、測量情報が、GNSS測量により取得した2体のGNSSアンテナ531、532各々の位置座標、もしくは、コンクリート型枠10の両側端面に設置した2点のターゲット52をトータルステーション51で視準もしくは追尾して取得した位置座標であった場合は、以下のとおりである。
【0089】
中央演算処理装置43がメインメモリ45に格納されている型枠位置算定部451の指令を受け、前述したように、2点の位置座標と、ファイル装置44の型枠位置情報ファイル445に格納され、現在コンクリート型枠10の建込み作業を行っている区画の直下の打設領域番号が付与された建込み位置情報P2を取得する。そして、直下の打設番号が付与された建込み位置情報P2から、直下の既設コンクリート部Aを構築した際に使用したコンクリート型枠10の上方に位置する2点の隅部各々の位置座標を抽出する。
【0090】
この2点の位置座標を、現在、建込み位置情報P2を算出しようとするコンクリート型枠10の下方に位置する2点の隅部各々の位置座標と見做す。そのうえで、これら4点の位置座標を用いて、コンクリート型枠10の建込み位置情報P2を算定し、打設領域番号とともにファイル装置44の型枠位置情報ファイル445に格納する。
【0091】
コンクリート型枠10の建込み位置情報P2が算定されると、中央演算処理装置43がメインメモリ45に格納されている型枠位置検証部455の指令を受け、ファイル装置44の施工計画情報ファイル442に格納されている、対応する打設領域番号が付与された建込み基準位置と許容誤差を参照し、まず、建込み位置情報P2と建込み基準位置とに基づいて建込み誤差量L2を算定する。
【0092】
次に、建込み誤差量L2と許容誤差とを比較し、据え付けたコンクリート型枠10について、位置調整が必要か否かの判定情報を、建込み誤差量L2及び許容誤差とともに出力装置42に出力するとともに、ネットワーク回線70を介して情報処理端末60にも出力する。建込み誤差量L2は、打設領域番号とともにファイル装置44の移動量情報ファイル444にも格納される。
【0093】
施工管理者は、建込み誤差量L2、許容誤差、及び位置調整が必要か否かの判定情報に基づいて、情報処理端末60に、位置調整開始の指令情報もしくは、建込み作業終了の指令情報を入力する。入力された指令情報は、ネットワーク回線70を介して入力装置41から型枠移動制御装置40に入力される。
【0094】
<コンクリート型枠の位置調整:STEP5>
位置調整開始の指令情報が入力されると、中央演算処理装置43がメインメモリ45に格納されたスライド移動司令部454の指令を受け、算定された建込み誤差量L2を、出力装置42介して走行機構制御盤30に入力する。
【0095】
建込み誤差量L2が入力されると、走行機構制御盤30はトロリー23を稼働させ、走行レール22上を入力された建込み誤差量L2だけ、前進もしくは後進させる。これにより、コンクリート型枠10は、打設予定領域Cに対して後進もしくは前進する方向に、スライド移動する。
【0096】
なお、コンクリート型枠10の位置調整は、施工管理者が、情報処理端末60にあらかじめ格納されたトロリー23を手動操作するための手動操作アプリケーションを起動させ、手動操作を行ってもよい。具体的には、所定の操作により手動操作アプリケーションを起動させると、ディスプレイに操作画面が出力される。
【0097】
そこで、施工管理者は、情報処理端末60に出力された、建込み誤差量L2、許容誤差、及び位置調整が必要か否かの判定情報や、現場状況やトロリー23の性能等を勘案し、操作画面に従ってトロリー23を走行させるための操作を行う。施工管理者による操作情報(トロリー23の移動量や移動方向等の情報入力)は、ネットワーク回線70を介して入力装置41から型枠移動制御装置40に入力される。
【0098】
施工管理者による操作情報が入力されると、型枠移動制御装置40は、中央演算処理装置43がメインメモリ45に格納されているスライド移動司令部454の指令を受け、施工者による操作情報を、出力装置42を介して走行機構制御盤30に入力する。すると、走行機構制御盤30はトロリー23を稼働させ、走行レール22上を入力された操作情報に対応して移動させ、コンクリート型枠10をスライド移動させる。
【0099】
<コンクリート型枠の調整後位置の検証:STEP6>
コンクリート型枠10の位置調整が終了したところで、測量手段50を用いてコンクリート型枠10の測量を行う。測量情報の取得方法は、<STEP1>と同様であり、取得した測量情報は、入力装置41から型枠移動制御装置40に入力され、ファイル装置44の測量ファイル441に格納される。
【0100】
測量情報が型枠移動制御装置40に入力されると、中央演算処理装置43がメインメモリ45に格納されている型枠位置算定部451の指令を受け、コンクリート型枠10を位置調整したのちの位置姿勢情報(現在位置、向き及び姿勢)である調整後位置情報P3を算定し、打設領域番号とともにファイル装置44の型枠位置情報ファイル445に格納する。
【0101】
なお、測量情報が、GNSS測量により取得した2体のGNSSアンテナ531、532各々の位置座標、もしくは、コンクリート型枠10の両側端面に設置した2点のターゲット52をトータルステーション51で視準もしくは追尾して取得した位置座標であった場合は、<STEP4>と同様の方法で調整後位置情報P3を算定する。
【0102】
こののち、中央演算処理装置43がメインメモリ45に格納されている型枠位置検証部455の指令を受け、ファイル装置44の施工計画情報ファイル442に格納されている、対応する打設領域番号が付与された建込み基準位置と許容誤差を参照し、まず、調整後位置情報P3と建込み基準位置とに基づいて調整後誤差量L3を算定する。
【0103】
次に、調整後誤差量L3と許容誤差とを比較し、建込んだコンクリート型枠10について、再度の位置調整が必要か否かの判定情報を、調整後誤差量L3及び許容誤差とともに出力装置42に出力するとともに、ネットワーク回線70を介して情報処理端末60にも出力する。調整後誤差量L3は、打設領域番号とともにファイル装置44の移動量情報ファイル444にも格納される
【0104】
施工管理者は、調整後誤差量L3、許容誤差、及び位置調整が必要か否かの判定情報に基づいて、情報処理端末60に、位置調整開始の指令情報もしくは、建込み作業終了の指令情報を入力する。入力された指令情報は、ネットワーク回線70を介して入力装置41から型枠移動制御装置40に入力される。
【0105】
位置調整を行っても許容誤差を満足せず、位置調整開始の指令情報が入力された場合には、<STEP5>に戻って、トロリー23を稼働させ、走行レール22上を入力された調整後誤差量L3だけ前進もしくは後進させて、コンクリート型枠10をスライド移動させる作業を繰り返す。調整後誤差量L3が許容誤差に収まったところで、コンクリート型枠10の固定作業を行って、建込み作業を終了する。
【0106】
<新設コンクリート部を構築:STEP7>
こののち、図9で示すように、コンクリート型枠10が建込まれた打設予定領域Cに対して、必要に応じて配筋作業等をしたのちにコンクリートを打設して硬化させ、所望の圧縮強度が発現されるまで養生する。この新設コンクリート部Bの上方に、コンクリートをさらに打継ぐ場合には、コンクリートを硬化・養生させている間に、昇降足場90を上昇させるための準備作業を実施しておく。
【0107】
所定の養生期間が経過したところで、図10で示すように、トロリー23を走行レール22上で後進させて、コンクリート型枠10の開枠を行う。コンクリート型枠10の開枠作業は、施工管理者が情報処理端末60において、前述した手動操作アプリケーションを起動させて操作画面を出力させたのち、操作画面に従ってトロリー23を後進させるための操作を行う。施工管理者による操作情報は、ネットワーク回線70を介して入力装置41から型枠移動制御装置40に入力される。
【0108】
施工管理者による操作情報が入力されると、型枠移動制御装置40は、中央演算処理装置43がメインメモリ45に格納されているスライド移動司令部454の指令を受け、施工者による操作情報を、出力装置42を介して走行機構制御盤30に入力する。すると、走行機構制御盤30はトロリー23を稼働させ、走行レール22上を後進させることにより、コンクリート型枠10が開枠される。
【0109】
こののち、<STEP1>に戻って、構築した新設コンクリート部Bを既設コンクリート部Aとして、昇降装置91を作動させて昇降足場90を既設コンクリート部Aの壁面に沿って上昇させる。そして、<STEP2>~<STEP7>にしたがってコンクリート型枠10の建込み作業を行い、コンクリートを打継ぐ作業を、コンクリート構造物Dが所望の高さに到達するまで繰り返す。
【0110】
コンクリート構造物Dが所望の高さに到達した場合には、昇降装置91を作動させて昇降足場90を既設コンクリート部Aの壁面に沿って下降させ、作業を終了する。
【0111】
なお、上述する昇降足場90の上昇、コンクリート型枠31の建込み、及び打設予定領域Cへのコンクリートの打設に係る各作業時の段階で得られる情報のうち、測量ファイル441、施工計画情報ファイル442、算定式格納ファイル443、移動量情報ファイル444、型枠位置情報ファイル445に格納していない、その他の各種施工情報データを、例えば、施工管理者が情報処理端末60に適宜入力しておくとよい。
【0112】
これらその他の施工情報データは、適宜のタイミングでネットワーク回線70を介して入力装置41から型枠移動制御装置40に入力される。施工情報データが入力されると、型枠移動制御装置40は、中央演算処理装置43がメインメモリ45に格納されている施工情報取得部456の指令を受け、施工情報データを必要に応じて適宜変換し、ファイル装置44の施工情報ファイル446に格納する。
【0113】
そして、これらの情報は、図5で示すような、複数のブロックごとに得られるから、各ブロックに付与した打設領域番号を関連付けておく。すると、コンクリート構造物Dを構築する際に得られる施工情報を、型枠移動制御装置40に集約して一元管理することができる。
【0114】
これにより、先行して構築した既設コンクリート部Aにおけるコンクリート型枠10の設置時の情報等を参照しながら、これと隣接する打設予定領域Cにコンクリート型枠10を建込むことができる。また、建込み作業時に不具合の生じる可能性のある部位等を、事前に把握して対応策を講じる等、コンクリート型枠10の建込み精度の向上に寄与することが可能となる。
【0115】
上記のとおり、本発明の型枠装置110及び型枠自動設置システム100によれば、測量手段50及び型枠移動制御装置40を用いて、コンクリート型枠10の、現在位置、向き、姿勢等の位置姿勢情報を把握し、この位置姿勢情報に基づいて建込み基準位置までの移動量L1を算定する。さらには、移動量L1に基づいて走行機構20を走行させてコンクリート型枠10をスライド移動させることができ、コンクリート型枠10の建込み精度を確保しつつ、省人化を図ることが可能となる。
【0116】
本発明の型枠装置110及び型枠自動設置システム100は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0117】
例えば、本実施の形態では、型枠自動設置システム100を、既設コンクリート部Aに沿って昇降する昇降足場90に搭載したが、必ずしもこれに限定するものではなく、地表面上を移動するステージ足場等に搭載してもよい。
【0118】
また、型枠自動設置システム100により建込むコンクリート型枠10は、1体でもよいし、例えば図4で示すように、3体のコンクリート型枠10であってもよい。この場合には、前述したように、3体のコンクリート型枠10を連結部材141を介して着脱自在に連結することにより、走行機構20のトロリー23により同時にスライド移動させることができる。
【0119】
このとき、3体のコンクリート型枠10各々を吊持するトロリー23どうしは、同期させるとよい。また、コンクリート型枠10を移動量L1だけスライド移動させて建て込んだのち、<STEP5>~<STEP6>のような位置調整を行う必要がある場合、連結部材141を取り外してコンクリート型枠10を1体ずつ、位置調整することも可能である。
【0120】
また、コンクリート型枠10の姿勢や傾きを人力で微調整したい場合には、走行機構20のガイド部材21にキャスター15を固定することの可能な固定具を準備しておくとよい。こうすると、ガイド部材21に固定されたキャスター15を支点にして、コンクリート型枠10の微調整を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0121】
100 型枠自動設置システム
110 型枠装置
10 コンクリート型枠
11 型枠パネル
12 横リブ
13 縦リブ
14 縦リブ接続材
141 連結部材
15 キャスター
20 走行機構
21 ガイド部材
22 走行レール
23 トロリー
24 吊持装置
25 エンコーダー
30 走行機構制御盤
40 型枠移動制御装置
41 入力装置
42 出力装置
43 中央演算処理装置
44 ファイル装置
45 メインメモリ
50 測量手段
51 トータルステーション
52 ターゲット
53 位置検出センサ
531 GNSSアンテナ
532 GNSSアンテナ
54 GNSS衛星
60 情報処理端末
70 ネットワーク回線
80 クラウドサーバ
90 昇降足場
91 昇降装置
92 作業ステージ
93 枠組足場

A 既設コンクリート部
B 新設コンクリート部
C 打設領域
D コンクリート構造物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10