(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】解繊方法および繊維体成形方法
(51)【国際特許分類】
D21B 1/08 20060101AFI20231212BHJP
D04H 1/736 20120101ALI20231212BHJP
D21B 1/02 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
D21B1/08
D04H1/736
D21B1/02
(21)【出願番号】P 2019212097
(22)【出願日】2019-11-25
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】青山 哲也
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-001938(JP,A)
【文献】特開2008-121138(JP,A)
【文献】特開平07-119060(JP,A)
【文献】特開2004-019023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/08
D04H 1/736
D21B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と、下記式(1)で表される化合物と、
カチオン性界面活性剤と、を含む材料を用意する工程と、
前記材料を解繊する工程と、
を含む、解繊方法。
RO(EO)m(PO)nH ・・・(1)
式中、Rは、炭素数6以上22以下のアルキル基またはアルケニル基、もしくは、炭素
数4以上20以下のアルキル基を有するアルキルアリール基であり、Eはエチレン基であ
り、Pはプロピレン基であり、mおよびnは平均付加モル数であり、mは0以上20以下
の範囲の数であり、nは1以上10以下の範囲の数であり、(EO)m(PO)nはブロ
ック付加である。
【請求項2】
請求項1において、
Rの炭素数は、8以上16以下である、解繊方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記材料を用意する工程では、前記化合物が前記繊維に対して2.5質量%以上16.
5質量%以下含まれた前記材料を用意する、解繊方法。
【請求項4】
繊維を含む原料に、下記式(1)で表される化合物を付与する工程と、
前記化合物が付与された前記原料を解繊して解繊物を形成する工程と、
前記解繊物に結合材を付与する工程と、
前記結合材が付与された前記解繊物を堆積する工程と、
堆積された前記解繊物を加熱する工程と、
を含む、繊維体成形方法。
RO(EO)m(PO)nH ・・・(1)
式中、Rは、炭素数6以上22以下のアルキル基またはアルケニル基、もしくは、炭素
数4以上20以下のアルキル基を有するアルキルアリール基であり、Eはエチレン基であ
り、Pはプロピレン基であり、mおよびnは平均付加モル数であり、mは0以上20以下
の範囲の数であり、nは1以上10以下の範囲の数であり、(EO)m(PO)nはブロ
ック付加である。
【請求項5】
請求項
4において、
Rの炭素数は、8以上16以下である、繊維体成形方法。
【請求項6】
請求項
4または5において、
前記化合物を付与する工程では、前記繊維に対して2.5質量%以上16.5質量%以
下の前記化合物を付与する、繊維体成形方法。
【請求項7】
請求項
4ないし6のいずれか1項において、
前記解繊物を形成する工程の前に、前記原料にカチオン性界面活性剤を付与する工程を
含む、繊維体成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解繊方法、繊維体成形方法、および解繊装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小型化、省エネルギーのために、水を極力利用しない乾式による繊維体成形装置が提案されている。このような繊維体成形装置では、乾式の解繊装置を用いて、繊維を含む原料を解繊する。
【0003】
例えば特許文献1には、セルロース原料と、シリコーン系界面活性剤と、を混合し、機械的に解繊することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような乾式の解繊装置で繊維を含む原料を解繊するには、繊維と繊維との間の水素結合を切断するために、大きなエネルギーが必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る解繊方法の一態様は、
繊維と、下記式(1)で表される化合物と、を含む材料を用意する工程と、
前記材料を解繊する工程と、
を含む。
RO(EO)m(PO)nH ・・・(1)
式中、Rは、炭素数6以上22以下のアルキル基またはアルケニル基、もしくは、炭素数4以上20以下のアルキル基を有するアルキルアリール基であり、Eはエチレン基であり、Pはプロピレン基であり、mおよびnは平均付加モル数であり、mは0以上20以下の範囲の数であり、nは1以上10以下の範囲の数であり、(EO)m(PO)nはブロック付加である。
【0007】
前記解繊方法の一態様において、
Rの炭素数は、8以上16以下であってもよい。
【0008】
前記解繊方法の一態様において、
前記材料を用意する工程では、前記化合物が前記繊維に対して2.5質量%以上16.5質量%以下含まれた前記材料を用意してもよい。
【0009】
前記解繊方法の一態様において、
前記材料は、カチオン性界面活性剤を含んでもよい。
【0010】
本発明に係る繊維体成形方法の一態様は、
繊維を含む原料に、下記式(1)で表される化合物を付与する工程と、
前記化合物が付与された前記原料を解繊して解繊物を形成する工程と、
前記解繊物に結合材を付与する工程と、
前記結合材が付与された前記解繊物を堆積する工程と、
堆積された前記解繊物を加熱する工程と、
を含む。
RO(EO)m(PO)nH ・・・(1)
式中、Rは、炭素数6以上22以下のアルキル基またはアルケニル基、もしくは、炭素数4以上20以下のアルキル基を有するアルキルアリール基であり、Eはエチレン基であり、Pはプロピレン基であり、mおよびnは平均付加モル数であり、mは0以上20以下の範囲の数であり、nは1以上10以下の範囲の数であり、(EO)m(PO)nはブロック付加である。
【0011】
前記繊維体成形方法の一態様において、
Rの炭素数は、8以上16以下であってもよい。
【0012】
前記繊維体成形方法の一態様において、
前記化合物を付与する工程では、前記繊維に対して2.5質量%以上16.5質量%以下の前記化合物を付与してもよい。
【0013】
前記繊維体成形方法の一態様において、
前記解繊物を形成する工程の前に、前記原料にカチオン性界面活性剤を付与する工程を含んでもよい。
【0014】
本発明に係る解繊装置の一態様は、
繊維を含む原料に、下記式(1)で表される化合物を付与する付与部と、
前記化合物が付与された前記原料を解繊する解繊部と、
を含む。
RO(EO)m(PO)nH ・・・(1)
式中、Rは、炭素数6以上22以下のアルキル基またはアルケニル基、もしくは、炭素数4以上20以下のアルキル基を有するアルキルアリール基であり、Eはエチレン基であり、Pはプロピレン基であり、mおよびnは平均付加モル数であり、mは0以上20以下の範囲の数であり、nは1以上10以下の範囲の数であり、(EO)m(PO)nはブロック付加である。
【0015】
前記解繊装置の一態様において、
Rの炭素数は、8以上16以下であってもよい。
【0016】
前記解繊装置の一態様において、
前記付与部は、前記繊維に対して2.5質量%以上16.5質量%以下の前記化合物を付与してもよい。
【0017】
前記解繊装置の一態様において、
前記原料にカチオン性界面活性剤を付与する付与部を含み、
前記解繊部は、前記化合物および前記カチオン性界面活性剤が付与された前記原料を解繊してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る解繊装置を模式的に示す図。
【
図2】本実施形態に係る解繊方法を説明するためのフローチャート。
【
図3】本実施形態に係る繊維体成形装置を模式的に示す図。
【
図4】本実施形態に係る繊維体成形方法を説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0020】
1. 解繊装置
まず、本実施形態に係る解繊装置について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る解繊装置30を模式的に示す図である。
【0021】
解繊装置30には、
図1に示すように、例えば、供給部10から解繊の対象となる原料が供給される。供給部10は、解繊装置30に原料を供給する。供給部10は、例えば、解繊装置30に原料を連続的に投入するための自動投入部である。供給部10によって供給される原料は、例えば、古紙やパルプシートなどの繊維を含むものである。
【0022】
解繊装置30は、
図1に示すように、例えば、付与部11と、粗砕部12と、解繊部20と、を含む。以下、順に説明する。
【0023】
1.1. 付与部
付与部11は、供給部10から供給された繊維を含む原料に、下記式(1)で表される化合物を付与する。
【0024】
RO(EO)m(PO)nH ・・・(1)
【0025】
式中、Rは、炭素数6以上22以下のアルキル基またはアルケニル基、もしくは、炭素数4以上20以下のアルキル基を有するアルキルアリール基であり、Eはエチレン基であり、Pはプロピレン基であり、mおよびnは平均付加モル数であり、mは0以上20以下の範囲の数であり、nは1以上10以下の範囲の数であり、(EO)m(PO)nはブロック付加である。
【0026】
式(1)で表される化合物は、ポリオキシアルキレンアルキルエテールであり、以下、式(1)で表される化合物を「POAAE」ともいう。
【0027】
式(1)において、Rの炭素数は、8以上16以下である。炭素数が8以上であれば、POAAEの疎水性を高めることができ、繊維同士間の水素結合の結合力を弱めることができる。そのため、低エネルギーで原料を解繊することができる。炭素数が16以下であれば、POAAEを付与したことによる紙力低減を抑えることができる。また、成形されたシートが油紙になることを抑制することができる。
【0028】
付与部11は、原料に含まれる繊維(乾燥された状態の繊維)に対して、例えば2.5質量%以上16.5質量%以下のPOAAEを付与する。繊維に対してPOAAEを2.5質量%以上付与すれば、低エネルギーで原料を解繊することができる。繊維に対してPOAAEを16.5質量%以上付与すれば、POAAEを付与したことによる紙力低減を抑えることができる。また、成形されたシートが油紙になることを抑制することができる。
【0029】
付与部11は、POAAEを溶媒に溶解または分散させて作製した液体を、原料に付与してもよい。溶媒は、水を含むことが好ましい。溶媒は、水の他、イソプロピルアルコールなどのアルコールを含んでいてもよい。付与部11がPOAAEを含む液体を原料に付与する場合、液体が付与された原料の水分率は、23℃、50%RH(relative humidity)の環境で、13%以下であってもよい。水分率が13%以下であっても、解繊する際に原料にPOAAEが付着していれば、低エネルギーで原料を解繊することができる。
【0030】
付与部11は、原料にカチオン性界面活性剤を付与してもよい。付与部11は、POAAEおよびカチオン性界面活性剤を含む液体を、原料に付与してもよい。原料にカチオン性界面活性剤を付与することにより、紙力の高いシートを成形することができる。
【0031】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、第1級、第2級、および第3級アミン塩型化合物、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、脂肪族アミン塩、ベンザルコニウム塩、第4級アンモニウム塩、第4級アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、オニウム塩、イミダゾリニウム塩などが挙げられる。
【0032】
具体的には、カチオン性界面活性剤としては、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、ラウリルアミン、ヤシアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩等、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、ジメチルエチルラウリルアンモニウムエチル硫酸塩、ジメチルエチルオクチルアンモニウムエチル硫酸塩、トリメチルラウリルアンモニウム塩酸塩、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミン、デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。特に、カチオン性界面活性剤として、塩化ステアリルトリメチルアンモニウムを用いることが好ましい。
【0033】
付与部11がPOAAEおよびカチオン性界面活性剤を含む液体を原料に付与する場合、液体におけるPOAAEの含有量は、例えば、0.1質量%以上10質量%以下、好ましくは1.0質量%以上3.0質量%以下である。
【0034】
付与部11は、POAAEを原料に付与することができれば、特に限定されないが、例えば、ローラー、スプレー、インクジェットヘッドなどである。
【0035】
1.2. 粗砕部
粗砕部12は、供給部10によって供給された原料を、大気中等の気中で裁断して細片にする。細片の形状や大きさは、例えば、数cm角の細片である。図示の例では、粗砕部12は、粗砕刃14を有し、粗砕刃14によって、投入された原料を裁断することができる。粗砕部12としては、例えば、シュレッダーを用いる。粗砕部12によって裁断された原料は、ホッパー1で受けてから管2を介して、解繊部20に移送される。
【0036】
なお、図示の例では、粗砕部12は、POAAEが付与された原料を裁断するが、粗砕部12は、POAAEが付与される前の原料を裁断してもよい。この場合、付与部11は、裁断されて細片となった原料に、POAAEを付与する。
【0037】
1.3. 解繊部
解繊部20は、粗砕部12によって裁断された原料を解繊する。具体的には、解繊部20は、POAAEおよびカチオン性界面活性剤が付与され、粗砕部12によって裁断された原料を解繊する。ここで、「解繊する」とは、複数の繊維が結着されてなる原料を、繊維1本1本に解きほぐすことをいう。解繊部20は、原料に付着した樹脂粒やインク、トナー、にじみ防止剤等の物質を、繊維から分離させる機能をも有する。
【0038】
解繊部20を通過したものを「解繊物」という。「解繊物」には、解きほぐされた解繊物繊維の他に、繊維を解きほぐす際に繊維から分離した樹脂粒や、インク、トナーなどの色剤や、にじみ防止材、紙力増強剤等の添加剤を含んでいる場合もある。解きほぐされた解繊物の形状は、ひも状である。解きほぐされた解繊物は、他の解きほぐされた繊維と絡み合っていない状態、すなわち独立した状態で存在してもよいし、他の解きほぐされた解繊物と絡み合って塊状となった状態、すなわちダマを形成している状態で存在してもよい。
【0039】
解繊部20は、乾式で解繊を行う。ここで、液体中ではなく、大気中等の気中において、解繊等の処理を行うことを乾式と称する。解繊部20としては、例えば、インペラーミルを用いる。解繊部20は、原料を吸引し、解繊物を排出するような気流を発生させる機能を有している。これにより、解繊部20は、自ら発生する気流によって、導入口22から原料を気流と共に吸引し、解繊処理して、解繊物を排出口24へと搬送することができる。解繊部20を通過した解繊物は、管3を介して移送される。
【0040】
1.4. 効果
解繊装置30は、例えば、以下の効果を有する。
【0041】
解繊装置30では、繊維を含む原料にPOAAEを付与する付与部11と、POAAEが付与された原料を解繊する解繊部20と、を含む。そのため、解繊装置30では、POAAEを付与しない場合に比べて、低いエネルギーで原料を解繊することができる(詳細は後述する「5. 実施例および比較例」参照)。POAAEは、繊維間に入り込み繊維間の水素結合を阻害するため、原料の低密度化を図ることができ、これにより、低いエネルギーで原料を解繊することができる。低いエネルギーで原料を解繊することができれば、省エネルギー化および装置の小型化を図ることができる。
【0042】
さらに、解繊装置30では、POAAEを付与しない場合に比べて、繊維を長く残したまま解繊することができる(詳細は後述する「5. 実施例および比較例」参照)。そのため、紙力の高いシートを成形することができる。
【0043】
解繊装置30では、POAAEのRの炭素数は、8以上16以下であってもよい。そのため、解繊装置30では、低いエネルギーで原料を解繊することができ、かつ、POAAEを付与したことによる紙力低減を抑えることができる。
【0044】
解繊装置30では、付与部11は、繊維に対して2.5質量%以上16.5質量%以下のPOAAEを付与してもよい。そのため、解繊装置30では、低いエネルギーで原料を解繊することができ、かつ、POAAEを付与したことによる紙力低減を抑えることができる。
【0045】
解繊装置30では、付与部110は、原料にカチオン性界面活性剤を付与し、解繊部20は、POAAEおよびカチオン性界面活性剤が付与された原料を解繊する。そのため、解繊装置30では、カチオン性界面活性剤を付与しない場合に比べて、紙力の高いシートを成形することができる。
【0046】
2. 解繊方法
次に、本実施形態に係る解繊方法について、図面を参照しながら説明する。
図2は、本実施形態に係る解繊方法を説明するためのフローチャートである。
【0047】
本実施形態に係る解繊方法は、例えば、上述した解繊装置30を用いて行われる。なお、本実施形態に係る解繊方法は、解繊装置30以外の装置を用いて行われてもよい。
【0048】
本実施形態に係る解繊方法は、
図2に示すように、繊維と、POAAEと、を含む材料を用意する材料用意工程(ステップS11)と、材料を解繊する解繊工程(ステップS12)と、を含む。
【0049】
材料用意工程(ステップS11)は、例えば、供給部10および付与部11を用いて行われる。材料用意工程は、POAAEが繊維体して2.5質量%以上16.5質量%以下含まれた材料を用紙してもよい。材料は、さらにカチオン性界面活性剤を含んでいてもよい。
【0050】
解繊工程(ステップS12)は、例えば、解繊装置30の解繊部20を用いて行われる。
【0051】
本実施形態に係る解繊方法は、上記の工程以外にも、例えば、粗砕部12によって材料を裁断する工程を含んでいてもよい。
【0052】
本実施形態に係る解繊方法では、「1. 解繊装置」で説明したように、低いエネルギーで原料を解繊することができる。
【0053】
さらに、本実施形態に係る解繊方法では、例えば、材料用意工程(ステップS11)を、解繊工程(ステップS12)の直前に逐一行うのではなく、事前にまとめて行うことにより、POAAEが付与された古紙を貯蔵しておくことができる。そして、必要量に応じて、POAAEが付与された古紙を解繊することができる。これにより、作業の自由度の向上、および効率化を図ることができる。
【0054】
3. 繊維体成形装置
次に、本実施形態に係る繊維体成形装置について、図面を参照しながら説明する。
図3は、本実施形態に係る繊維体成形装置100を模式的に示す図である。
【0055】
繊維体成形装置100は、
図3に示すように、例えば、解繊装置30を含む。さらに、繊維体成形装置100は、例えば、選別部40と、第1ウェブ形成部45と、回転体49と、混合部50と、堆積部60と、第2ウェブ形成部70と、シート形成部80と、切断部90と、を含む。
【0056】
選別部40は、解繊装置30により解繊された解繊物を導入口42から導入し、繊維の長さによって選別する。選別部40は、ドラム部41と、ドラム部41を収容するハウジング部43と、を有している。ドラム部41としては、例えば、篩を用いる。ドラム部41は、網を有し、網の目開きの大きさより小さい繊維または粒子、すなわち網を通過する第1選別物と、網の目開きの大きさより大きい繊維や未解繊片やダマ、すなわち網を通過しない第2選別物と、を分けることができる。例えば、第1選別物は、管7を介して、堆積部60に移送される。第2選別物は、排出口44から管8を介して、解繊部20に戻される。具体的には、ドラム部41は、モーターによって回転駆動される円筒の篩である。ドラム部41の網としては、例えば、金網、切れ目が入った金属板を引き延ばしたエキスパンドメタル、金属板にプレス機等で穴を形成したパンチングメタルを用いる。
【0057】
第1ウェブ形成部45は、選別部40を通過した第1選別物を、管7に搬送する。第1ウェブ形成部45は、メッシュベルト46と、張架ローラー47と、サクション機構48と、を含む。
【0058】
サクション機構48は、選別部40の開口を通過して空気中に分散された第1選別物をメッシュベルト46上に吸引することができる。第1選別物は、移動するメッシュベルト46上に堆積し、ウェブVを形成する。メッシュベルト46、張架ローラー47、およびサクション機構48の基本的な構成は、後述する第2ウェブ形成部70のメッシュベルト72、張架ローラー74、およびサクション機構76と同様である。
【0059】
ウェブVは、選別部40および第1ウェブ形成部45を経ることにより、空気を多く含み柔らかくふくらんだ状態に形成される。メッシュベルト46に堆積されたウェブVは、管7へ投入され、堆積部60へと搬送される。
【0060】
回転体49は、ウェブVを切断することができる。図示の例では、回転体49は、基部49aと、基部49aから突出している突部49bと、を有している。突部49bは、例えば、板状の形状を有している。図示の例では、突部49bは4つ設けられ、4つの突部49bが等間隔に設けられている。基部49aが方向Rに回転することにより、突部49bは、基部49aを軸として回転することができる。回転体49によってウェブVを切断することにより、例えば、堆積部60に供給される単位時間当たりの解繊物の量の変動を小さくすることができる。
【0061】
回転体49は、第1ウェブ形成部45の近傍に設けられている。図示の例では、回転体49は、ウェブVの経路において下流側に位置する張架ローラー47aの近傍に設けられている。回転体49は、突部49bがウェブVと接触可能な位置であって、ウェブVが堆積されるメッシュベルト46と接触しない位置に設けられている。これにより、メッシュベルト46が突部49bによって磨耗することを抑制することができる。突部49bとメッシュベルト46との間の最短距離は、例えば、0.05mm以上0.5mm以下である。これは、メッシュベルト46が損傷を受けずにウェブVを切断することが可能な距離である。
【0062】
混合部50は、選別部40を通過した第1選別物と、樹脂を含む添加物と、を混合する。混合部50は、添加物を供給する添加物供給部52と、第1選別物と添加物とを搬送する管54と、ブロアー56と、を有している。図示の例では、添加物は、添加物供給部52からホッパー9を介して管54に供給される。管54は、管7と連続している。
【0063】
混合部50では、ブロアー56によって気流を発生させ、管54中において、第1選別物と添加物とを混合させながら、搬送することができる。なお、第1選別物と添加物とを混合させる機構は、特に限定されず、高速回転する羽根により攪拌するものであってもよいし、V型ミキサーのように容器の回転を利用するものであってもよい。
【0064】
添加物供給部52としては、
図3に示すようなスクリューフィーダーや、図示せぬディスクフィーダーなどを用いる。添加物供給部52から供給される添加物は、複数の繊維を結着させるための結合材としての樹脂を含む。樹脂が供給された時点では、複数の繊維は結着されていない。樹脂は、シート形成部80を通過する際に溶融して、複数の繊維を結着させる。
【0065】
添加物供給部52から供給される樹脂は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂であり、例えば、AS(Acrylonitrile Styrene)樹脂、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、などである。これらの樹脂は、単独または適宜混合して用いてもよい。添加物供給部52から供給される添加物は、繊維状であってもよく、粉末状であってもよい。
【0066】
なお、添加物供給部52から供給される結合材は、セルロース誘導体や加工デンプンなどの水溶性樹脂であってもよいし、ゼラチン、寒天であってもよい。
【0067】
また、添加物供給部52から供給される添加物には、繊維を結着させる樹脂の他、製造されるシートの種類に応じて、繊維を着色するための着色剤や、繊維の凝集や樹脂の凝集を抑制するための凝集抑制剤 、繊維等を燃えにくくするための難燃剤が含まれていてもよい。混合部50を通過した混合物は、管54を介して、堆積部60に移送される。
【0068】
堆積部60は、混合部50を通過した混合物を導入口62から導入し、絡み合った解繊物をほぐして、空気中で分散させながら降らせる。さらに、堆積部60は、添加物供給部52から供給される添加物の樹脂が繊維状である場合、絡み合った樹脂をほぐす。これにより、堆積部60は、第2ウェブ形成部70に、混合物を均一性よく堆積させることができる。
【0069】
堆積部60は、ドラム部61と、ドラム部61を収容するハウジング部63と、を有している。ドラム部61としては、回転する円筒の篩を用いる。ドラム部61は、網を有し、混合部50を通過した混合物に含まれる、網の目開きの大きさより小さい繊維または粒子を降らせる。ドラム部61の構成は、例えば、ドラム部41の構成と同じである。
【0070】
なお、ドラム部61の「篩」は、特定の対象物を選別する機能を有していなくてもよい。すなわち、ドラム部61として用いられる「篩」とは、網を備えたもの、という意味であり、ドラム部61は、ドラム部61に導入された混合物の全てを降らしてもよい。
【0071】
第2ウェブ形成部70は、堆積部60を通過した通過物を堆積して、ウェブWを形成する。第2ウェブ形成部70は、例えば、メッシュベルト72と、張架ローラー74と、サクション機構76と、を有している。
【0072】
メッシュベルト72は、移動しながら、堆積部60の開口を通過した通過物を堆積する。メッシュベルト72は、張架ローラー74によって張架され、通過物を通しにくく空気を通す構成となっている。メッシュベルト72は、張架ローラー74が自転することによって移動する。メッシュベルト72が連続的に移動しながら、堆積部60を通過した通過物が連続的に降り積もることにより、メッシュベルト72上にウェブWが形成される。
【0073】
サクション機構76は、メッシュベルト72の下方に設けられている。サクション機構76は、下方に向く気流を発生させることができる。サクション機構76によって、堆積部60により空気中に分散された混合物をメッシュベルト72上に吸引することができる。これにより、堆積部60からの排出速度を大きくすることができる。さらに、サクション機構76によって、混合物の落下経路にダウンフローを形成することができ、落下中に解繊物や添加物が絡み合うことを防ぐことができる。
【0074】
以上のように、堆積部60および第2ウェブ形成部70を経ることにより、空気を多く含み柔らかくふくらんだ状態のウェブWが形成される。メッシュベルト72に堆積されたウェブWは、シート形成部80へと搬送される。
【0075】
なお、図示の例では、ウェブWを調湿する調湿部78が設けられている。調湿部78は、ウェブWに対して水や水蒸気を添加して、ウェブWと水との量比を調節することができる。
【0076】
シート形成部80は、メッシュベルト72に堆積したウェブWを加圧加熱してシートSを成形する。シート形成部80では、ウェブWにおいて混ぜ合された解繊物および添加物の混合物に、熱を加えることにより、混合物中の複数の繊維を、互いに添加物を介して結着することができる。
【0077】
シート形成部80は、ウェブWを加圧する加圧部82と、加圧部82により加圧されたウェブWを加熱する加熱部84と、を備えている。加圧部82は、一対のカレンダーローラー85で構成され、ウェブWに対して圧力を加える。ウェブWは、加圧されることによりその厚さが小さくなり、ウェブWのかさ密度が高められる。加熱部84としては、例えば、加熱ローラー、熱プレス成形機、ホットプレート、温風ブロワー、赤外線加熱器、フラッシュ定着器を用いる。図示の例では、加熱部84は、一対の加熱ローラー86を備えている。加熱部84を加熱ローラー86として構成することにより、加熱部84を板状のプレス装置として構成する場合に比べて、ウェブWを連続的に搬送しながらシートSを成形することができる。カレンダーローラー85と加熱ローラー86は、例えば、それらの回転軸が平行になるように配置される。ここで、カレンダーローラー85は、加熱ローラー86によってウェブWに印加される圧力よりも高い圧力をウェブWに印加することができる。なお、カレンダーローラー85や加熱ローラー86の数は、特に限定されない。
【0078】
切断部90は、シート形成部80によって成形されたシートSを切断する。図示の例では、切断部90は、シートSの搬送方向と交差する方向にシートSを切断する第1切断部92と、搬送方向に平行な方向にシートSを切断する第2切断部94と、を有している。第2切断部94は、例えば、第1切断部92を通過したシートSを切断する。
【0079】
以上により、所定のサイズの単票のシートSが成形される。切断された単票のシートSは、排出部96へと排出される。
【0080】
繊維体成形装置100は、解繊装置30を含む。そのため、繊維体成形装置100では、低いエネルギーで原料を解繊することができる。
【0081】
4. 繊維体成形方法
次に、本実施形態に係る繊維体成形方法について、図面を参照しながら説明する。
図4は、本実施形態に係る繊維体成形方法を説明するためのフローチャートである。
【0082】
本実施形態に係る繊維体成形方法は、例えば、上述した繊維体成形装置100を用いて行われる。なお、本実施形態に係る繊維体成形方法は、繊維体成形装置100以外の装置を用いて行われてもよい。
【0083】
本実施形態に係る繊維体成形方法は、
図4に示すように、繊維を含む原料にPOAAEを付与するPOAAE付与工程(ステップS21)と、POAAEが付与された原料を解繊して解繊物を形成する解繊工程(ステップS22)と、解繊物に結合材を付与する結合材付与工程(ステップS23)と、結合材が付与された解繊物を堆積する堆積工程(ステップS24)と、堆積された解繊物を加熱する加熱工程(ステップS25)と、を含む。
【0084】
POAAE付与工程(ステップS21)は、例えば、繊維体成形装置100の付与部11を用いて行われる。
【0085】
解繊工程(ステップS22)は、例えば、繊維体成形装置100の解繊部20を用いて行われる。
【0086】
結合材付与工程(ステップS23)は、例えば、繊維体成形装置100の添加物供給部52を用いて行われる。
【0087】
堆積工程(ステップS24)は、例えば、繊維体成形装置100の堆積部60を用いて行われる。
【0088】
加熱工程(ステップS25)は、例えば、繊維体成形装置100の加熱部84を用いて行われる。
【0089】
本実施形態に係る繊維体成形方法は、解繊工程(ステップS22)の前に、原料にカチオン性界面活性剤を付与する工程を含んでもよい。原料にカチオン性界面活性剤を付与する工程は、POAAE付与工程(ステップS21)の前後どちらでもよいし、POAAEとカチオン性界面活性剤とを同時に付与してもよい。
【0090】
また、本実施形態に係る繊維体成形方法は、上記の工程以外にも、例えば、加圧部82によってウェブWを加圧する工程など、上述の「3. 繊維体成形装置」で説明した工程を含んでいてもよい。
【0091】
本実施形態に係る繊維体成形方法では、「1. 解繊装置」で説明したように、低いエネルギーで原料を解繊することができる。
【0092】
5. 実施例および比較例
5.1. 液体の作製
液体1~8を作製した。
図5は、液体1~8の成分を示す表である。
図5の数値は、質量%を表している。
【0093】
「POAAE1」は、Rが炭素数12~14のアルキル基であり、m=0、n=5である。「POAAE2」は、Rが炭素数6のアルキル基であり、m=10、n=1である。「POAAE3」は、Rが炭素数16のアルキル基であり、m=22、n=10である。「POAAE4」は、Rが炭素数22のアルキルアリール基であり、m=16、n=3である。「POAAE5」は、Rが炭素数8のアルキルケニル基であり、m=6、n=22である。
【0094】
また、
図5において、「オルフィンE1010」は、日信化学工業株式会社製のアセチレン系界面活性剤である。「BYK349」は、ビックケミー・ジャパン株式会社製のポリエーテル変性シロキサンである。「リポカードT30」は、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の塩化ステアリルトリメチルアンモニウムである。「IPA」は、イソプロピルアルコールである。
【0095】
5.2. 解繊物の作製
三菱製紙株式会社製の再生紙「G80」(坪量64g/cm2)を原料とし、セイコーエプソン株式会社製のインクジェットプリンター「EW-M770T」を用いて液体1~8を塗布した。次に、液体1~8が塗布された原料10gを、ラボネクト株式会社の「HighSpeedMill HS-15」(回転数30000rpm)で解繊して解繊物を作製した。
【0096】
図6は、解繊条件を示す表である。なお、
図6において、比較例5および参考例は、液体1~8を塗布していない。また、
図6において、「液体質量」は、原料A4サイズの質量を100とした場合の液体1~8の質量である。「付与物質量」は、原料の質量を100とした場合の、POAAE、オルフィンE1010、またはBYK340の質量である。「原料含水率」は、液体1~8を塗布した原料を、105℃で3時間乾燥させ、その後、一晩放置したものを、株式会社エー・アンド・デイ社製の「MX50」で測定した値である。
【0097】
5.3. 評価
上記のようにして作製した解繊物の解繊状態を評価した。具体的には、目開き1mmの篩を通過した解繊物の量から解繊率を計算した。評価結果を
図6に示す。解繊率は、以下のようにして計算した。
【0098】
解繊率「%」=篩を通過した解繊物の質量/篩にかけた解繊物の全量×100
【0099】
解繊状態の評価基準は、以下のとおりである。
A:解繊率95%以上
B:解繊率80%以上95%未満
C:解繊率80%未満
【0100】
さらに、解繊物の平均繊維長を測定した。具体的には、L&W社製の「Fiber Tester CODE912」を用いて、「ISO 16065-2:2007」に基づいて、解繊物の平均繊維長を測定した。測定結果を
図6に示す。なお、
図6では、参考例として、水によって原料を離解させた場合の平均繊維長も示している。
【0101】
図6に示すように、POAAEを塗布した実施例1~9は、POAAEを塗布していない比較例1~5に比べて、解繊状態が良好だった。これにより、原料にPOAAEを付与することによって、低いエネルギーで解繊できることがわかった。
【0102】
さらに、POAAEを塗布した実施例1~9は、POAAEを塗布していない比較例1~5に比べて、平均繊維長が長かった。これにより、原料にPOAAEを付与することによって、平均繊維長を長くできることがわかった。さらに、リポカードT30を塗布した実施例5は、他の実施例に比べて、平均繊維長を長くできることがわかった。
【0103】
本発明は、本願に記載の特徴や効果を有する範囲で一部の構成を省略したり、各実施形態や変形例を組み合わせたりしてもよい。
【0104】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0105】
1…ホッパー、2,3,7,8…管、9…ホッパー、10…供給部、11…付与部、12…粗砕部、14…粗砕刃、20…解繊部、22…導入口、24…排出口、30…解繊装置、40…選別部、41…ドラム部、42…導入口、43…ハウジング部、44…排出口、45…第1ウェブ形成部、46…メッシュベルト、47,47a…張架ローラー、48…サクション機構、49…回転体、49a…基部、49b…突部、50…混合部、52…添加物供給部、54…管、56…ブロアー、60…堆積部、61…ドラム部、62…導入口、63…ハウジング部、70…第2ウェブ形成部、72…メッシュベルト、74…張架ローラー、76…サクション機構、78…調湿部、80…シート形成部、82…加圧部、84…加熱部、85…カレンダーローラー、86…加熱ローラー、90…切断部、92…第1切断部、94…第2切断部、96…排出部、100…繊維体成形装置