IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-熱電変換材料および熱電変換素子 図1
  • 特許-熱電変換材料および熱電変換素子 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】熱電変換材料および熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/856 20230101AFI20231212BHJP
   C08G 73/06 20060101ALI20231212BHJP
   H10K 85/00 20230101ALI20231212BHJP
   H10K 85/10 20230101ALI20231212BHJP
【FI】
H10N10/856
C08G73/06
H10K85/00
H10K85/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019213169
(22)【出願日】2019-11-26
(65)【公開番号】P2021086876
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉内 啓輔
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-042085(JP,A)
【文献】特開2015-035599(JP,A)
【文献】特開2016-042508(JP,A)
【文献】国際公開第2015/005340(WO,A1)
【文献】特開2008-166339(JP,A)
【文献】特開2015-072954(JP,A)
【文献】特開2014-033189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/856
C08G 73/06
H10K 10/00
H10K 85/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料、金属材料及び導電性高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種の導電材料(A)並びに有機高分子化合物(B)を含有し、
前記有機高分子化合物(B)は、非共役高分子であり、ピロロピロール骨格を有する単量体の繰り返し単位を有し、質量平均分子量が10,000~200,000であり、
前記ピロロピロール骨格を有する単量体の繰り返し単位が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する、熱電変換材料。(但し、前記導電材料(A)は、前記有機高分子化合物(B)を除く)
一般式(1)
【化1】
[一般式(1)中、Xは、アルキレン基、オキシアルキレン基、チオアルキレン基およびこれらの基同士が結合した基からなる群より選ばれる2価の連結基を表し、Y 1 およびY 2 は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、又はジシアノメチレン基を表し、R 1 および
2 は、それぞれ独立に、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換の
複素環基を表す。]
【請求項2】
前記導電材料(A)が、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック、グラフェンナノプレート及びグラフェンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
前記導電材料(A)が、カーボンナノチューブである、請求項に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
請求項1~いずれか1項に記載の熱電変換材料からなる熱電変換膜と、電極とを有し、前記熱電変換膜及び前記電極が電気的に接続されている熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料及び該材料を用いた熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換できる熱電変換材料は、熱電発電素子やペルチェ素子のような熱電変換素子に用いられている。熱電変換素子は、熱を電力に変換する素子であり、半導体や金属の組合せによって構成される。代表的な熱電変換素子としては、p型半導体単独、n型半導体単独、又はp型半導体とn型半導体との組合せ、に分類される。熱電変換素子では、半導体の両端に温度差が生じるように熱を加えると起電力が生じるゼーベック効果を利用する。より大きな電位差を得るために、熱電変換素子では、一般的に、材料としてp型半導体とn型半導体とを組合せて使用する。
【0003】
また、熱電変換素子は、多数の素子を板状、又は円筒状に組合せてなる熱電モジュールとして使用される。熱エネルギーを直接電力に変換することが出来、例えば、体温で作動する腕時計、地上用発電及び人工衛星用発電における電源として利用できる。熱電変換素子の性能は、熱電変換材料の性能、及びモジュールの耐久性等に依存する。
【0004】
非特許文献1に記載されているとおり、熱電変換材料の性能を表す指標として、無次元熱電性能指数(ZT)が用いられる。また、熱電変換材料の性能を表す指標として、パワーファクターPF(=S2・σ)を用いる場合もある。
上記無次元熱電性能指数「ZT」は、下式(1)により表される。
ZT=(S2・σ・T)/κ ・・・式(1)
ここで、Sはゼーベック係数(V/K)、σは導電率(S・m)、Tは絶対温度(K)、及びκは熱伝導率(W/(m・K))である。熱伝導率κは下式(2)で表される。
κ=α・ρ・C ・・・式(2)
ここで、αは熱拡散率(m2/s)、ρは密度(kg/m3)、及びCは比熱容量(J/(kg・K))である。
つまり、熱電変換の性能(以下、熱電特性とも称す)を向上させるには、ゼーベック係数又は導電率を向上させ、その一方で熱伝導率を低下させることが重要である。
【0005】
代表的な熱電変換材料として、例えば、常温から500Kまではビスマス・テルル系(Bi-Te系)、常温から800Kまでは鉛・テルル系(Pb-Te系)、及び常温から1000Kまではシリコン・ゲルマニウム系(Si-Ge系)等の無機材料が使用されている。
【0006】
しかし、これらの無機材料を含む熱電変換材料は、しばしば希少元素を含み高コストであるか、又は有害物質を含む場合がある。また、無機材料は加工性に乏しいため、製造工程が複雑となる。そのため、無機材料を含む熱電変換材料については、製造エネルギー及び製造コストが高くなり、汎用化が困難である。さらに、無機材料は剛直であるため、平面ではない形状にも設置可能な、フルキシブル性を有する熱電変換素子を形成することは困難である。
【0007】
これに対し、従来の無機材料に代えて、有機材料を用いた熱電変換素子に関する検討が進められている。有機材料は、優れた成形性を有し、かつ無機材料よりも優れた可撓性を有するため、それ自身が分解しない温度範囲での汎用性が高い。また、印刷技術等を容易に活用できるため、製造エネルギーや製造コストの面でも無機材料より有利である。
【0008】
特許文献1には、カーボンナノチューブ(CNT)と有機低分子化合物を用いて、熱電変換素子を作成している。しかし材料の強度が不十分であるため、材料の作製中や使用中に割れや基材からの剥がれが発生し、熱電変換性能の低下や歩留まりの低下が懸念される。
特許文献2では、有機色素骨格を高分子分散剤に結合させ、カーボンナノチューブ(CNT)と共に含有させることで、CNT分散性が良く塗布方法に適し、且つ優れた熱起電力を示す熱電材料が記載されている。しかしこの発明では、十分な熱電変換性能は得られず、更なる改良が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-219513号
【文献】国際公開第2015/050113号
【非特許文献】
【0010】
【文献】梶川武信著「熱電変換技術ハンドブック(初版)」エヌ・ティー・エス出版、p.19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、ゼーベック係数と導電性との両立を達成し、高いパワーファクターを示し、高い強度を有する熱電変換材料を提供することである。また、当該材料を用いて、優れた熱電性能を発揮する熱電変換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、炭素材料、金属材料及び導電性高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種の導電材料(A)並びに有機高分子化合物(B)を含有し、上記有機高分子化合物(B)は、非共役高分子であり、ピロロピロール骨格を有する単量体の繰り返し単位を有し、質量平均分子量が10,000~200,000である熱電変換材料に関する。
【0013】
また、本発明は、上記有機高分子化合物(B)が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する上記熱電変換材料に関する。
一般式(1)
【0014】
【化1】
【0015】
[一般式(1)中、Xは、アルキレン基、オキシアルキレン基、チオアルキレン基およびこれらの基同士が結合した基からなる群より選ばれる2価の連結基を表し、Y1およびY2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、又はジシアノメチレン基を表し、R1およびR2は、それぞれ独立に、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換の複素環基を表す。]
【0016】
また、本発明は、上記導電材料(A)が、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック、グラフェンナノプレート及びグラフェンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む上記熱電変換材料に関する。
【0017】
また、本発明は、上記導電材料(A)が、カーボンナノチューブである上記熱電変換材料に関する。
【0018】
また、本発明は、上記熱電変換材料からなる熱電変換膜と、電極とを有し、上記熱電変換膜及び上記電極が電気的に接続されている熱電変換素子に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、ゼーベック係数と導電性との両立を達成し、高い材料強度を有する熱電変換材料を提供することができる。また、当該材料を用いて、優れた熱電性能を発揮する熱電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態である熱電変換素子の一例の構造を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態である熱電変換素子の起電力の測定方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<熱電変換材料>
本発明の熱電変換材料は、導電材料(A)及び有機高分子化合物(B)を含み、有機高分子化合物(B)は、非共役高分子であり、ピロロピロール骨格を有する単量体の繰り返し単位を有し、質量平均分子量が10,000~200,000ことを特徴とする。
このような特定の組み合わせにより、高いゼーベック係数と導電性とを両立し、高い材料強度を有し、優れた熱電性能を発揮することができる。これは、熱励起エネルギーの小さい有機化合物から効率的に導電材料へ正孔(キャリア)が移動し、その正孔が導電材料内を移動することで、高いゼーベック係数と導電率とを達成することによる。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0022】
<導電材料(A)>
導電材料(A)は、導電性向上に寄与するものである。導電材料(A)の含有量を増やすことで導電性を向上させることができる。
導電材料(A)は、導電性を持つ炭素材料、金属材料、導電性高分子であれば特に制限されず、例えば、炭素材料としては、黒鉛、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック、グラフェンナノプレート、グラフェン等が挙げられ、金属材料としては、金、銀、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ケイ素、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ゲルマニウム、ガリウム及び白金等の金属粉、並びにZnSe、CdS、InP、GaN、SiC、SiGeこれらの合金、並びにこれらの複合粉が挙げられる。また、核体と、上記核体物質とは異なる物質で被覆した微粒子、具体的には、例えば、銅を核体とし、その表面を銀で被覆した銀コート銅粉等が挙げられる。また、例えば酸化銀、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ルテニウム、ITO(スズドープ酸化インジウム)、AZO(アルミドープ酸化亜鉛)、及びGZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)等の金属酸化物の粉末、並びにこれらの金属酸化物で表面被覆した粉末等が挙げられ、導電性高分子としては、PEDOT/PSS、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン等が挙げられる。使用する導電材料の種類は1種でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
導電材料(A)の形状は特に限定されず、不定形、凝集状、鱗片状、微結晶状、球状、フレーク状、ワイヤー状等を適宜用いることができる。
【0024】
ゼーベック係数と導電率との両立の観点で、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック、グラフェンナノプレート及びグラフェンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、より好ましくはカーボンナノチューブであり、特に好ましくは単層カーボンナノチューブである。
【0025】
導電材料(A)としては、例えば、薄片状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、中越黒鉛工業所社製のBF-3AK、FBF、BF-15AK、CBR、CPB-6S、CPB-3、96L、96L-3、K-3、SC-120、SC-60、HLP、CP-150、SB-1、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。球状天然黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、K-5、AP-2000、AP-6、300F、150Fが挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150、中越黒鉛社製のG-4AK、G-6S、G-3G-150、G-30、G-80、G-50、SMF、EMF、SFF、SFF-80B、SS-100、BSP-15AK、BSP-100AK、WF-15C、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1が挙げられる。市販のカーボンブラックとしては、例えば、東海カーボン社製のトーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、コロンビヤン社製のRaven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA、PUERBLACK100、115、205、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のMONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、TIMCAL社製のEnsaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li等のファーネスブラック)、ライオン社製のEC-300J、EC-600JD等のケッチェンブラック、電気化学工業社製のデンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のアセチレンブラックが挙げられる。市販の導電性炭素繊維やカーボンナノチューブとしては、昭和電工社製のVGCF等の気相法炭素繊維、名城ナノカーボン社製のEC1.5,EC1.5-P、ОCSiAl社製のTUBALL、ゼオンナノテクノロジー社製のZEONANO等の単層カーボンナノチューブ、CNano社製のFloTube9000、FloTube7000、FloTube2000、Nanocyl社製のNC7000、Knano社製の100T、200Pが挙げられる。これらは特に限定されず、単独、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0026】
<有機高分子化合物(B)>
有機高分子化合物(B)は、非共役高分子であり、ピロロピロール骨格を有する単量体の繰り返し単位を有し、質量平均分子量が10,000~200,000を有する。本発明での非共役高分子とは、高分子の主鎖上の炭素-炭素結合において、一重結合と二重結合とが交互に連なる構造が、繰り返し単位間を跨いで有していない高分子を指す。
【0027】
熱電変換のメカニズムは以下のように考えられる。熱励起をした有機高分子化合物(B)内に、キャリア(正孔または電子)が生じ、そのキャリアが導電材料(A)へと移動し、導電材料(A)内での電位差が生じ電流が流れる。つまり、有機高分子化合物(B)及び導電材料(A)間のキャリア移動が効率的になるほど、導電材料(A)内での電位差が大きくなり、ゼーベック係数が向上する。キャリア移動を効率的にする具体的な方法は明確にはわかっていないが、有機高分子化合物(B)と導電材料(A)間の親和性からくる距離の近さ、有機高分子化合物(B)と導電材料(A)間のエネルギー準位の関係、有機高分子化合物(B)の励起状態の長さ(励起寿命)などが影響していると考えられる。本発明の有機高分子化合物(B)はピロロピロール骨格を有しており、これにより、導電材料(A)とのエネルギー準位の差を小さくすることができ、効率的なキャリア移動を実現できると考える。また、ピロロピロール骨格を使用した際、キャリアは正孔になると考えられる。その場合、有機高分子化合物(B)のHOMOは導電材料(A)のHOMO(又は、導電材料が金属である場合はフェルミ準位)よりも深いと、効率的なキャリア移動を実現し熱電変換性能が向上できるため、好ましい。
【0028】
また、上記メカニズムにおけるキャリア移動の効率は、導電材料(A)と有機高分子化合物(B)との接触状態にも影響される。導電材料(A)と多環芳香族等の低分子化合物を接触させることでゼーベック係数などの熱電変換性能を向上させる検討は知られているが、多環芳香族等の低分子化合物は結晶性が高いものも多く、低分子化合物同士で凝集・結晶化してしまい導電材料(A)と効率よく接触できなくなる可能性がある。本発明の有機高分子化合物(B)を用いることで、多環芳香族部位を高分子中に多数持たせることができる。これにより、導電材料(A)への吸着力を向上させ、多環芳香族部位同士の結晶性を低下させることができ、導電材料(A)と効率よく接触させることができると考える。また、有機高分子化合物(B)を用いることで膜の強度を向上できるため、屈曲などの変化に対しても素子の割れや剥がれを抑制できるほか、導電材料(A)と有機高分子化合物(B)との接触状態の変化させづらくなるため、熱電変換特性の変化も抑制させることができる。有機高分子化合物(B)の分子量を10,000以上とすることで、通常の溶剤乾燥条件では非晶状態を取りやすく、導電材料(A)と効率よく接触させることで、熱電変換性能の向上が期待できる。また、分子量が200,000以下とすることで、塗膜中に有機高分子化合物(B)を均一に分布させやすく、高い性能が期待できる。
【0029】
また、有機高分子化合物(B)は、熱電変換材料中でゼーベック係数の向上に寄与する。有機高分子化合物(B)の含有量を増やすことでゼーベック係数を向上させることができるが、有機高分子化合物(B)の含有量を増やすと絶縁性が増して導電性が低下するため、ゼーベック係数と導電率との両立の観点から、有機高分子化合物(B)の含有量は、上記導電材料(A)の全量に対して400質量%以下が好ましく、より好ましくは200質量%以下であり、更に好ましくは3~120質量%であり、特に好ましくは5~100質量%である。
【0030】
上記の条件を満たす、有機高分子化合物(B)として一般式(1)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【0031】
ここで、一般式(1)中のX、R1およびR2について説明する。
【0032】
アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、デシレン基、ドデシレン基などが挙げられる。アルキレン基としては、炭素数2~8のものが好ましい。
【0033】
オキシアルキレン基としては、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシオクチレン基などが挙げられる。オキシアルキレン基としては、炭素数2~8のものが好ましい。
【0034】
チオアルキレン基としては、チオメチレン基、チオエチレン基、チオプロピレン基、チオブチレン基、チオオクチレン基などが挙げられる。チオアルキレン基としては、炭素数2~8のものが好ましい。
【0035】
未置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナントリル基、ピレニル基などの未置換のアリール基が挙げられる。未置換のアリール基として、好ましくはフェニル基もしくはナフチル基が挙げられる。
置換アリール基における置換基としては、水素原子が、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、アミン基、アルデヒド基、カルボキシル基、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、又は、複素環基で置換されたアリール基が挙げられる。置換アリール基としては、炭素数1~8のアルキル基またはハロゲン原子で置換されたアリーレン基が好ましい。
【0036】
未置換の複素環基としては、例えば、フリル基、チエニル基、ピローリル基、ピリジル基、ピラジル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリニル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、アクリジニル基などの複素環基が挙げられる。未置換の複素環基としては、芳香族複素環基が好ましく、また5員環または6員環の複素環基が好ましい。
置換複素環基における置換基としては、 置換アリール基における置換基と同じものが挙げられる。
【0037】
<その他成分>
本発明の熱電変換材料は、その特性を向上させる観点から、必要に応じて、追加の成分を含んでよい。
【0038】
(溶剤)
溶剤は、導電材料(A)と有機高分子化合物(B)とを混合するために使用しても良く、インキ化による塗工性向上が可能とする。使用できる溶剤としては、導電材料(A)と有機高分子化合物(B)とを溶解又は良分散できれば特に限定されず、有機溶剤や水を挙げることができ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1、3-ブチレングリコール、イソボルニルシクロヘキサノール、N-メチルピロリドン等から、必要に応じて適宜選択することができる。 導電材料(A)と有機高分子化合物(B)を分散する溶剤としては、N-メチルピロリドンが特に好ましい。
【0040】
(助剤)
本発明の熱電変換材料は、例えば、以下に例示する助剤を添加することによって、塗工性、導電性、塗膜強度、塗膜密着性、耐候性、耐熱性、及び熱電特性のさらなる向上が可能となる。使用可能な助剤は、特に限定されず、例えば、ラクタム類、アルコール類、アミノアルコール類、カルボン酸類、酸無水物類、及びイオン性液体が挙げられる。具体例は以下のとおりである。
ラクタム類:、ピロリドン、カプロラクタム、N-メチルカプロラクタム、及びN-オクチルピロリドン等。
アルコール類:ショ糖、グルコース、フルクトース、ラクトース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール等。
アミノアルコール類:ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミン等。 カルボン酸類:2-フランカルボン酸、3-フランカルボン酸、ジクロロ酢酸、及びトリフルオロ酢酸等。
酸無水物類:無水酢酸、無水プロピオン酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、無水安息香酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸(別名:シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物)、無水トリメリット酸、ヘキサヒドロ無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ハイミック酸、ビフェニルテトラカルボン酸無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、及び9,9-フルオレニリデンビス無水フタル酸等。スチレン-無水マレイン酸コポリマー、エチレン-無水マレイン酸コポリマー、イソブチレン-無水マレイン酸コポリマー、アルキルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー等の、無水マレイン酸と他のビニルモノマーとを共重合したコポリマー等。
【0041】
導電性及び熱電特性の観点から、助剤として、ラクタム類及びアルコール類の少なくとも一方を使用することが好ましい。助剤の含有量は、熱電変換材料の全質量を基準として、0.1~30質量%の範囲が好ましく、1~10質量%の範囲がより好ましく、1~5質量%の範囲がさらに好ましい。助剤の含有量を0.1質量%以上にすることで、導電性及び熱電特性の向上効果を容易に得ることができる。また、助剤の含有量を50質量%以下にした場合、膜物性の低下を抑制することができる。
【0042】
(樹脂)
本発明の熱電変換材料は、成膜性や膜強度の調整等を目的として、導電性及び熱電特性に影響しない範囲で、樹脂を含んでもよい。
樹脂は、熱電変換材料の各成分に相溶又は混合分散するものであればよい。熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のいずれを用いても良い。使用可能な樹脂の具体例として、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、アラミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、アクリルアミド樹脂、アクリロニトリル樹脂、及びこれらの共重合樹脂等が挙げられる。特に限定するものではないが、一実施形態において、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、及びアクリルアミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0043】
(無機熱電材料から成る微粒子)
本発明の熱電変換材料は、熱電変換性能を高めるために、必要に応じて、無機熱電材料から成る微粒子を含んでもよい。 無機熱電材料の一例として、Bi-(Te、Se)系、Si-Ge系、Mg-Si系、Pb-Te系、GeTe-AgSbTe系、(Co、Ir、Ru)-Sb系、(Ca、Sr、Bi)Co25系等を挙げることができる。より具体的には、Bi2Te3、PbTe、AgSbTe2、GeTe、Sb2Te3、NaCo24、CaCoO3、SrTiO3、ZnO、SiGe、Mg2Si、FeSi2、Ba8Si46、MnSi1.73、ZnSb、Zn4Sb3、GeFe3CoSb12、及びLaFe3CoSb12からなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。このとき、上記無機熱電材料に不純物を加えて極性(p型、n型)や導電率を制御して利用してもよい。無機熱電材料を使用する場合、その使用量は、成膜性や膜強度に影響しない範囲で調整する。
【0044】
熱電変換用分散液の製造方法は、本発明の条件を満たす熱電変換用分散液が得られれば特に限定されず、適宜選択することができる。例えば、熱電変換材料と分散媒と必要に応じてその他成分とを混合した後、分散機や超音波を用いて分散することで得られる。
【0045】
分散機としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、アトライター、ボールミル、ガラスビーズやジルコニアビーズ等を使用したサンドミル、スキャンデックス、アイガーミル、ペイントコンディショナー、ペイントシェイカー等のメディア分散機、コロイドミル等を使用することができる。
【0046】
<熱電変換素子>
本発明の熱電変換素子は、上記熱電変換材料を用いて構成されることを特徴とする。一実施形態において、熱電変換素子は、上記熱電変換材料を用いて形成された熱電変換膜と、電極とを有し、上記熱電変換膜及び上記電極は互いに電気的に接続されている。熱電変換膜は、導電性及び熱電特性に加えて、耐熱性及び可撓性の点でも優れる。そのため、本実施形態によれば、高品質な熱電変換素子を容易に実現することができる。
【0047】
熱電変換膜は、基材上に熱電変換材料を塗布して得られる膜であってよい。熱電変換材料は優れた成形性を有するため、塗布法によって良好な膜を得ることが容易である。熱電変換膜の形成には、主に湿式製膜法が用いられる。具体的には、スピンコート法、スプレー法、ローラーコート法、グラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法、ロールコート法、カーテンコート法、バーコート法、インクジェット法、ディスペンサー法、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷等の各種手段を用いた方法が挙げられる。塗布する厚み、及び材料の粘度等に応じて、上記方法から適宜選択することができる。
【0048】
熱電変換膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、後述するように、熱電変換膜の厚さ方向又は面方向に温度差を生じ、かつ伝達できるように、一定以上の厚みを有するように形成されることが好ましい。一実施形態において、熱電特性の点から、熱電変換膜の膜厚は、0.1~200μmの範囲が好ましく、1~100μmの範囲が好ましく、1~50μmの範囲がさらに好ましい。
【0049】
また、熱電変換材料を塗布する基材として、ポリエチレン、ポリエチレンテレフテレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、ポリイミド、ボリカーボネート、及びセルローストリアセテート等の材料からなるプラスチックフィルム、又はガラス等を用いることができる。
【0050】
基材と熱電変換膜との密着性を向上させる目的で、基材表面に様々な処理を行うことができる。具体的には、熱電変換材料の塗布に先立ち、UVオゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理、又は易接着処理を行ってもよい。
【0051】
本発明の実施形態である熱電変換素子は、上記熱電変換材料を用いて構成されることを除き、当技術分野で周知の技術を適用して構成することができる。代表的に、熱電変換素子のより具体的な構成、及びその製造方法について説明する。
【0052】
一実施形態において、熱電変換素子は、熱電変換材料を用いて得た熱電変換膜と、この熱電変換膜と電極的に接続する一対の電極とを有する。ここで、「電気的に接続する」とは、互いに接合しているか、又はワイヤー等の他の構成部材を介して通電できる状態であることを意味する。
【0053】
電極の材料は、金属、合金、及び半導体から選択することができる。一実施形態において、導電率が高いこと、熱電変換膜を構成する本発明による熱電変換材料との接触抵抗が低いことから、金属及び合金が好ましい。具体例として、電極は、金、銀、銅、及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。電極は、銀を含むことがさらに好ましい。
【0054】
電極は、真空蒸着法、電極材料箔や電極材料膜を有するフィルムの熱圧着、電極材料の微粒子を分散したペーストの塗布、等の方法によって形成することができる。プロセスが簡便な観点で、電極材料箔や電極材料膜を有するフィルムの熱圧着、電極材料を分散したペーストの塗布による方法が好ましい。
【0055】
熱電変換素子の構造の具体例は、熱電変換膜と一対の電極との位置関係から、(1)本発明による熱電変換膜の両端に電極が形成されている構造、(2)本発明の熱電変換膜が2つの電極で挟持されている構造に大別される。
例えば、上記(1)の構造を有する熱電変換素子は、基材上に熱電変換膜を形成した後に、その両端にそれぞれ銀ペーストを塗布して第1及び第2の電極を形成することによって得ることができる。このように熱電変換膜の両端に電極が形成された熱電変換素子は、2つの電極間の距離を広くすることが容易である。そのため、2つの電極間で大きな温度差を発生させて、効率良く熱電変換を行うことが容易である。
【0056】
上記(2)の構造を有する熱電変換素子は、例えば、基材上に銀ペーストを塗布して第1の電極を形成し、その上に本発明の熱電変換膜を形成し、さらにその上に銀ペーストを塗工して第2の電極を形成することによって得ることができる。このように2つの電極で本発明の熱電変換膜を挟持する熱電変換素子では、二つの電極間の距離を広くすることは難しい。そのため、2つの電極間に大きな温度差を発生させることは難しいが、熱電変換膜の膜厚を大きくすることによって、温度差を大きくすることが可能である。また、このような構造を有する熱電変換素子は、基材に対して垂直な方向の温度差を利用できることから、発熱体に貼り付ける形態での利用が可能である。そのため、熱源の広い面積の活用が容易となる点で好ましい。
【0057】
熱電変換素子は、直列に接続することで高い電圧を発生させることが可能であり、並列に接続することで大きな電流を発生させることが可能である。また、熱電変換素子は、2つ以上の熱電変換素子を接続したものであってもよい。本発明によれば、熱電変換素子が優れた可撓性を有するため、平面ではない形状を有する熱源に対しても追随して良好に設置することが可能である。
【0058】
一実施形態において、本発明の熱電変換素子を他の熱電材料から成る熱電変換素子と組み合わせることも有効である。例えば、無機熱電材料として、Bi-(Te、Se)系、Si-Ge系、Mg-Si系、Pb-Te系、GeTe-AgSbTe系、(Co、Ir、Ru)-Sb系、(Ca、Sr、Bi)Co25系等を挙げることができ、具体的には、Bi2Te3、PbTe、AgSbTe2、GeTe、Sb2Te3、NaCo24、CaCoO3、SrTiO3、ZnO、SiGe、Mg2Si、FeSi2、Ba8Si46、MnSi1.73、ZnSb、Zn4Sb3、GeFe3CoSb12、及びLaFe3CoSb12などからなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。このとき、上記無機熱電材料に、不純物を加えて、極性(p型、n型)や導電率を制御して利用しても良い。その他、有機熱電材料として、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、フラーレン、及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なく1種を使用することができる。これら材料から構成される他の熱電変化素子を組合せる場合、素子のフレキシブル性を損なわない範囲内で、他の熱電変換素子を作製することが好ましい。
【0059】
複数の熱電変換素子を接続する場合、1つの基材に集積した状態で接続して利用することもできる。このような実施形態において、本発明による熱電変換素子と、n型としての極性を示す熱電材料から成る熱電変換素子との組合せが好ましく、これらを直列に接続することがより好ましい。本実施形態によれば、熱電変換素子を緻密に集積することが容易となる。
【実施例
【0060】
以下、実験例により、本発明をより具体的に説明する。なお、例中、「部」とあるのは「質量部」を、「%」とあるのは「質量%」をそれぞれ意味するものとする。また、「NMP」とはN-メチルピロリドンを示す。
【0061】
<質量平均分子量(Mw)の測定方法>
Mwの測定は、装置として東ソー社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「HPC-8020」を用いた。カラムに「LF-604」(昭和電工社製:迅速分析用GPCカラム:6mmID×150mmサイズ)を直列に2本接続し、流量0.6ml/分、カラム温度40℃の条件で行い、外部標準物質として分子量既知のポリスチレンによりMwを決定した。
【0062】
<HOMO値、フェルミ準位の測定方法>
導電材料(A)及び有機高分子化合物(B)のHOMO準位(又は、導電材料が金属である場合はフェルミ準位)の測定は、単一の各成分をITOガラス基板上に張った導電テープの上に固着させ、測定サンプルとした後、光電子分光法(測定装置:理研計器社製AC-3)により測定した。測定値は表9に記載した。
【0063】
<有機高分子化合物(B)の合成>
(合成例1:有機高分子化合物(B))
反応(1):コハク酸ジメチル125mmol(18.27g)、ベンゾニトリル312.5mmol(32.23g)、水素化ナトリウム312.5mmol(12.49g)をアミルアルコール300gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄することにより、赤褐色固体の中間体ピロロピロール18.21g得た。
反応(2):得られた中間体ピロロピロール50mmol(14.42g)、1,4-ジブロモブタン50mmol(10.8g)、tert-ブトキシナトリウム200mmol(19.22g)をジメチルアセトアミド150gに溶解し、8時間還流させた。放冷後、上記混合物をメタノール1000mlに入れ、固体を析出させ、ろ集し、合成例に示す構造を有するMw187000の有機高分子化合物(B)9.58gを得た。
【0064】
(合成例2~19)
合成例1において使用したベンゾニトリルおよび1,4-ジブロモブタンを、表1~4に示す原料にそれぞれ変更した以外は、合成例1と同様の方法によって、それぞれ合成例2~19に示す有機高分子化合物(B)を合成した。尚、原料の配合比は、合成例1と同じモル比とした。尚、表中、「n」は一般式(1)に相当する繰り返し単位の数を表し、「Oc」はオクチル基を表す。
【0065】
(合成例20:有機高分子化合物(B))
合成例1の有機高分子化合物(B)10g、ローソン試薬60gをキシレン200gに加え、120℃で8時間加熱した。反応液を減圧乾燥し、得られた固体をシリカゲルカラムで精製することにより、合成例20の有機高分子化合物(B)を4.32g得た。
【0066】
(合成例21~38)
合成例20において使用した合成例1の有機高分子化合物(B)を、合成例2~19の有機高分子化合物(B)にそれぞれ変更した以外は、合成例20と同様の方法によって、それぞれ合成例21~38に示す有機高分子化合物(B)を合成した。尚、原料の配合比は、合成例20と同じ質量比とした。
【0067】
(合成例39:有機高分子化合物(B))
合成例1の有機高分子化合物(B)10g、マロノニトリル5g、酸化アルミニウム30gをクロロホルム200gに加え、4時間撹拌した。反応液を減圧乾燥し、得られた固体をシリカゲルカラムで精製することにより、合成例39の有機高分子化合物(B)を6.31g得た。
【0068】
(合成例40~57)
合成例39において使用した合成例1の有機高分子化合物(B)を、合成例2~19の有機高分子化合物(B)にそれぞれ変更した以外は、合成例39と同様の方法によって、それぞれ合成例40~57に示す有機高分子化合物(B)を合成した。尚、原料の配合比は、合成例39と同じ質量比とした。
【0069】
(合成例58:有機高分子化合物(B))
合成例1において使用した反応(2):1,4-ジブロモブタン50mmol(10.8g)を、1,4-ジブロモブタン50mmol(10.8g)とヨードメタン0.16mmol(23.6mg)に変更した以外は、合成例1と同様の方法によって、合成例1に示す構造を有するMw151000の有機高分子化合物(B)を合成した。
【0070】
(合成例59:有機高分子化合物(B))
合成例1において使用した反応(2):1,4-ジブロモブタン50mmol(10.8g)を、1,4-ジブロモブタン50mmol(10.8g)とヨードメタン0.25mmol(35.5mg)に変更した以外は、合成例1と同様の方法によって、合成例1に示す構造を有するMw125000の有機高分子化合物(B)を合成した。
【0071】
(合成例60:有機高分子化合物(B))
合成例1において使用した反応(2):1,4-ジブロモブタン50mmol(10.8g)を、1,4-ジブロモブタン50mmol(10.8g)とヨードメタン0.33mmol(47.3mg)に変更した以外は、合成例1と同様の方法によって、合成例1に示す構造を有するMw89000の有機高分子化合物(B)を合成した。
【0072】
(合成例61:有機高分子化合物(B))
合成例1において使用した反応(2):1,4-ジブロモブタン50mmol(10.8g)を、1,4-ジブロモブタン50mmol(10.8g)とヨードメタン2.0mmol(283.9mg)に変更した以外は、合成例1と同様の方法によって、合成例1に示す構造を有するMw21000の有機高分子化合物(B)を合成した。
【0073】
(合成例62)
国際公開第2015/050113号の段落0074及び0075を参考にして、質量平均分子量(Mw)が約21,000の下記構造で表される側鎖にペリレンカルボジイミド骨格を導入したアクリルポリマーを得た。
【0074】
【化2】
【0075】
<熱電変換材料の製造>
[実施例1]
(熱電変換材料の分散液1)
TUBALL(楠本化成社製単層カーボンナノチューブ)0.4部、合成例1の有機高分子化合物0.4部、NMP79.2部をそれぞれ秤量して混合した。更にジルコニアビーズ(φ1.25mm)を140部加え、スキャンデックスで2時間振とう後、ろ過してジルコニアビーズを取り除き、熱電変換材料の分散液1を得た。
【0076】
.
[実施例2~68および比較例1~2]
(分散液2~70)
分散液を構成する材料の種類と配合量を表9に示す材料に変更した以外は、分散液1と同様にして、熱電変換材料の分散液2~70をそれぞれ得た。
【0077】
<熱電変換材料の評価>
得られた分散液1~70、シート状基材である厚さ50μmのポリイミドフィルム上にアプリケータを用いて塗布した後、130℃で30分間加熱乾燥して、ポリイミドフィルム上に、膜厚5μmの熱電変換膜を有する積層体を得た。
得られた熱電変換膜(以下、塗膜ともいう)を有する積層体について、以下のとおり導電性、ゼーベック係数、パワーファクター(PF)、及び屈曲耐性を評価した。結果を表9に示す。
【0078】
(導電率)
得られた積層体を2.5cm×5cmに切り取り、JIS-K7194に準じて、ロレスタGX MCP-T700(三菱化学アナリテック社製)を用いて4端子法で導電率を測定した。
【0079】
(ゼーベック係数)
得られた積層体を3mm×10mmに切り取り、アドバンス理工株式会社製のZEM-3LWを用いて、80℃におけるゼーベック係数(μW/K)を測定した。
【0080】
(パワーファクター(PF))
得られた導電率及びゼーベック係数を用いて、80℃におけるPF(=S2・σ)を算出し、以下の基準に従って評価した。
◎:PFが20μW/(mK2)以上である(非常に良好)
○:PFが10μW/(mK2)以上、20μW/(mK2)未満である(良好)
△:PFが2.5μW/(mK2)以上、10μW/(mK2)未満である(実用可能)
×:PFが2.5μW/(mK2)未満である(実用不可)
【0081】
<屈曲性試験>
熱電変換材料の塗膜の強度、プロセス適正を評価するため屈曲性試験を実施した。折り曲げ前後での導電率を評価することで、折り曲げによる剥がれや割れ、導電材料(A)と有機高分子化合物(B)との吸着状態の変化などへの耐性に関する材料の強度を評価することができる。
屈曲性試験は、耐屈曲性試験器(コーティングテスター社製、円筒型マンドレル法)で直径20mmの心棒を用いて行った。ポリイミドフィルムが下側になるように装置にセットし、1回/10秒の速度で5回折り曲げを行った。導電パターン部分の試験前と5回折り曲げ後の積層体の導電率を測定し、その変化率を算出した。変化率は下記の計算式で行った。
変化率=(折り曲げ前の導電率-折り曲げ後の導電率)/折り曲げ前の導電率×100
・評価基準
◎:変化率が10%未満(優れている)
○:変化率が10%以上20%未満(良好)
△:変化率が20%以上25%未満(実用上問題ない)
×:変化率が25%以上(実用不可)
【0082】
表1の略語は以下のとおりである。
SWCNT:ОCSiAl社製単層カーボンナノチューブ「TUBALL」
GNP:XGSciences社製グラフェンナノプレートレット「xGNP-M-5」
KB:ライオン社製 ケッチェンブラック 「EC-300J」
黒鉛:日本黒鉛社製 黒鉛「CPB」
MWCNT:Knano社製 多層カーボンナノチューブ「100P」
PEDOT/PSS:Heraeus社製 「Clevios PH1000」
【0083】
表9が示すように、本発明の熱電変換素子は、比較例1、2に比べて優れた熱電特性と優れた屈曲性を示し、熱電変換素子として優れたプロセス適性を有していることが示された。
【0084】
<熱電変換素子の製造>
[実施例]
(熱電変換素子1)
50μmのポリイミドフィルム上に、実施例1で調製した熱電変換材料の分散液1を塗布し、5mm×30mmの形状を有する熱電変換膜を、それぞれ10mm間隔に5つ作製した(図1の符号2を参照)。次いで、各熱電変換膜がそれぞれ直列に接続されるように、銀ペーストを用いて、5mm×33mmの形状を有する銀回路を4つ作製し(図1の符号3を参照)、熱電変換素子1を得た。上記銀ペーストとしては、トーヨーケム株式会社製のREXALPHA RA FS 074を使用した。
【0085】
[実施例69~実施例136、比較例3~4]
(熱電変換素子2~70)
熱電変換素子1で使用した熱電変換材料の分散液を表10に示す分散液に変更した以外は、熱電変換素子1と同様にして、熱電変換素子2~70を得た。
【0086】
<熱電変換素子の評価>
得られた熱電変換素子について、以下のようにして起電力を評価した。結果を表2に示す。
【0087】
(起電力の測定)
各熱電変換素子について、熱電変換膜及び銀回路が内側になるように(図2に示すA-A’線に沿うように)折り曲げ、その状態のまま、100℃に加熱したホットプレート上に設置した。なお、折り曲げの程度は、図2のB-B’間の距離が10mmになるようにそれぞれ調整した。上記のように折り曲げたサンプルをホットプレート上に設置して10分後の塗膜間の起電力について電圧計を用いて測定した。測定は、室温下(20℃)で実施した。以下の基準に従い、測定値から熱電特性について評価した。
◎:起電力が1mV以上である(良好)
〇:起電力が500μV以上、1mV未満である(実用可能)
×:起電力が500μV未満である(不良)
【0088】
表10に示すように、本発明の熱電変換素子は、比較例3,4に比べて優れた熱電特性を有していた。以上のことから、本願発明の実施形態によれば、ゼーベック係数及び導電性に優れ、高いPFを示す、優れた熱電特性を有する熱電変換材料を実現することができ、高効率の熱電変換素子を実現できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の実施形態である導電性組成物は、導電性及びゼーベック係数を両立し、熱電特性にも優れるため、上記材料を使用して、高性能の熱電変換素子を提供することができる。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
【表6】
【0096】
【表7】
【0097】
【表8】
【0098】
【表9】
【0099】
【表10】
【符号の説明】
【0100】
1:基材
2:熱電変換膜
3:回路
10:熱電変換素子の試験サンプル
20:ホットプレート
図1
図2