(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】エレクトリックギターのボディ構造体及びエレクトリックギター
(51)【国際特許分類】
G10D 1/08 20060101AFI20231212BHJP
G10D 3/02 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G10D1/08 100
G10D3/02
(21)【出願番号】P 2019213848
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100206391
【氏名又は名称】柏野 由布子
(72)【発明者】
【氏名】石坂 健太
(72)【発明者】
【氏名】松田 秀人
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-127935(JP,A)
【文献】特開2005-352308(JP,A)
【文献】米国特許第06011205(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 1/08
G10D 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトリックギターのボディ構造体であって、
木材部を含むボディを備え、
前記ボディの厚さ方向から見て、前記木材部の木目方向が前記エレクトリックギターのネックの長手方向に対して傾斜して
おり、
前記ボディは、その幅方向の中心をとおって前記長手方向に延びる直線に対して非対称形状に形成され、
前記木目方向は、前記厚さ方向から見て前記ボディの長さが最も長くなる方向に延びているエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項2】
エレクトリックギターのボディ構造体であって、
木材部を含むボディを備え、
前記ボディの厚さ方向から見て、前記木材部の木目方向が前記エレクトリックギターのネックの長手方向に対して傾斜して
おり、
前記木材部は、厚さが異なる複数の木材層を有し、
少なくとも厚みが最も大きい前記木材層の木目方向が、前記長手方向に対して傾斜しているエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項3】
前記ボディは、その幅方向の中心を通って前記長手方向に延びる直線に対して非対称形状に形成され、
前記木目方向は、前記厚さ方向から見て前記ボディの長さが最も長くなる方向に延びている請求項2に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項4】
前記ボディは凸部を有し、
前記木目方向は、前記凸部の突出方向に延びている請求項1
から請求項3のいずれか一項に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項5】
前記ボディは、その幅方向の中心を通って前記長手方向に延びる直線の一方側に位置する第一凸部と、前記直線の他方側に位置する第二凸部と、を有し、
前記木目方向は、前記第一凸部の突出方向に延びている請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項6】
前記第一凸部の突出長さは、前記第二凸部の突出長さよりも長い請求項
5に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項7】
前記第一凸部の突出長さは、前記第二凸部の突出長さと互いに同じである、
請求項5に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項8】
前記第一凸部と前記第二凸部は前記ボディの幅方向において互いに離れるようにそれぞれ突出している、
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項9】
前記ボディは、木材以外の材料からなる素材部を備え、
前記木材部と前記素材部は、前記ボディの厚さ方向に重なっている、
請求項1に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項10】
少なくとも厚みが最も大きい前記木材層の木目方向と、厚みが最も小さい前記木材層の木目方向が異なっている、
請求項2に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項11】
ネックと、請求項1から請求項
10のいずれか一項に記載のボディ構造体と、を備えるエレクトリックギター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトリックギターのボディ構造体及びエレクトリックギターに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、木材からなるボディを備えるエレクトリックギターが開示されている。特許文献1のエレクトリックギターでは、ボディの木目方向がエレクトリックギターのネックの長手方向に一致している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2005/0284281号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エレクトリックギターでは、弦の振動がボディにも伝達されることでボディも振動する。エレクトリックギターが良好な音響特性を得るためには、ボディ全体がバランスよく振動することが好ましい。しかしながら、ボディの形状が非対称形状(例えばネックの長手方向に直交するボディの幅方向において非対称な形状)でありながら、ボディの木目方向が特許文献1のようにネックの長手方向に一致していると、ボディの一部分だけが大きく振動してしまう。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、非対称形状のボディであっても、ボディ全体をバランスよく振動させることができるエレクトリックギターのボディ構造体及びこれを備えるエレクトリックギターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様は、エレクトリックギターのボディ構造体であって、木材部を含むボディを備え、前記ボディの厚さ方向から見て、前記木材部の木目方向が前記エレクトリックギターのネックの長手方向に対して傾斜しており、前記ボディは、その幅方向の中心をとおって前記長手方向に延びる直線に対して非対称形状に形成され、前記木目方向は、前記厚さ方向から見て前記ボディの長さが最も長くなる方向に延びているエレクトリックギターのボディ構造体である。
本発明の他の態様は、エレクトリックギターのボディ構造体であって、木材部を含むボディを備え、前記ボディの厚さ方向から見て、前記木材部の木目方向が前記エレクトリックギターのネックの長手方向に対して傾斜しており、前記木材部は、厚さが異なる複数の木材層を有し、少なくとも厚みが最も大きい前記木材層の木目方向が、前記長手方向に対して傾斜しているエレクトリックギターのボディ構造体である。
【0007】
本発明の第二の態様は、ネックと、前記ボディ構造体と、を備えるエレクトリックギターである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、非対称形状のボディであっても、ボディ全体をバランスよく振動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るエレクトリックギターをボディの前側から見た平面図である。
【
図2】
図1のエレクトリックギターのボディを前側から見た平面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るボディの振動態様の一例を示す図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係るエレクトリックギターにおけるボディを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、
図1~4を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るエレクトリックギター1は、ボディ構造体2と、ネック3と、弦4と、を備える。
ネック3は、ボディ構造体2の端部に接続され、ボディ構造体2から離れる方向(Y軸正方向)に延びる。ネック3の長手方向(Y軸方向)の先端部をなすヘッド5には、弦4の端部を巻き付けるペグ6が設けられている。弦4は、ネック3の長手方向に沿って張られる。
【0011】
ボディ構造体2は、木材からなる木材部を含むボディ10を備える。本実施形態では、ボディ10がボディ構造体2の全体を構成する。また、ボディ10は、木材部のみによって構成されている。ボディ10は、板状に形成されている。ボディ10は、例えば内部に空洞の無いソリッドボディであってもよいし、例えば内部に軽量化用の空洞(チェンバー)を形成したセミソリッドボディであってもよい。
以下の説明では、ボディ10の厚さ方向(Z軸方向)に直交する方向のうちネック3の長手方向を、ボディ10の長手方向(Y軸方向)とする。また、ボディ10の厚さ方向及び長手方向に直交する方向を、ボディ10の幅方向(X軸方向)とする。
【0012】
ボディ10におけるネックとの接続部分は、長手方向におけるボディ10の第一端部に位置する。また、ボディ10におけるネックとの接続部分は、幅方向におけるボディ10の中間に位置する。ボディ10の長手方向の寸法は、ボディ10の幅方向の寸法よりも大きい。
【0013】
ボディ10には、ブリッジ21、電磁ピックアップ22、コントローラなどが取り付けられる。ブリッジ21、電磁ピックアップ22及びコントローラは、ボディ10の厚さ方向に向くボディ10の前側の面10aに露出する。
ブリッジ21には、弦4の一端が留められる。電磁ピックアップ22は、ボディ10の長手方向においてネック3とブリッジ21との間に位置する。コントローラは、電磁ピックアップ22から出力される音響信号のボリュームやトーン等を調整する。コントローラは、三つのボリュームスイッチ23や、有効化する電磁ピックアップ22を切り替えるピックアップセレクター24などを含む。
【0014】
図2に示すように、ボディ10は、その厚さ方向から見て、ボディ10の幅方向の中心を通ってボディ10の長手方向に延びる仮想の直線A1に対して非対称形状に形成されている。直線A1は、例えば幅方向におけるネック3の中心を通る直線であってもよい。ボディ10の非対称形状は、直線A1を基準としてボディ10の幅方向の一方側(以下、「第1方向側」と呼ぶ。)に位置するボディ10の形状と、直線A1を基準としてボディ10の幅方向の他方側(以下、「第2方向側」と呼ぶ。)に位置するボディ10の形状とが、互いに異なる形状であることを意味する。第1方向側は例えばX軸正方向側であり、第2方向側は例えばX軸負方向側である。
以下、非対称であるボディ10の形状についてより具体的に説明する。
【0015】
ボディ10は、二つの凸部11,12(第一凸部11、第二凸部12)を有する。各凸部11,12は、ブリッジ21等を設けたボディ10の主要部分に対し、ボディ10の厚さ方向に直交する方向(XY平面に沿う方向)に突出する。二つの凸部11,12は、いずれも長手方向におけるボディ10の第一端部に位置する。また、二つの凸部11,12は、幅方向におけるボディ10の両端に位置する。すなわち、第一凸部11が第1方向側(直線A1の一方側)に位置し、第二凸部12が第2方向側(直線A1の他方側)に位置する。このように、二つの凸部11,12は、ボディ10の幅方向に互いに間隔をあけて位置する。
【0016】
各凸部11,12の突出方向は、ネック3が延びるボディ10の長手方向に対して傾斜している。具体的に、各凸部11,12は、ボディ10からネック3が延びる方向(Y軸正方向)に向かうにしたがって、ボディ10の幅方向において直線A1から離れる方向に向かうように突出している。すなわち、二つの凸部11,12は、ボディ10の幅方向において互いに離れるようにそれぞれ突出している。
【0017】
二つの凸部11,12の突出長さは、例えば互いに同じであってよい。本実施形態において、二つの凸部11,12の突出長さは互いに異なる。具体的には、二つの凸部11,12のうち直線A1に対して左側(X軸負方向側)に位置する第一凸部11の突出長さが、右側(X軸正方向側)に位置する第二凸部12の突出長さよりも長い。
これにより、本実施形態のボディ10は、非対称形状に形成されている。
【0018】
また、本実施形態のボディ10では、長手方向におけるボディ10の第二端部側の部位の大きさが、直線A1の両側で互いに異なる。具体的には、ボディ10の第二端部側の部位のうち直線A1に対して右側に位置する部分が、左側に位置する部分よりも大きい。本実施形態のボディ10は、この点にも起因して非対称形状に形成されている。
さらに、本実施形態のボディ10では、その厚さ方向から見て第一凸部11が延びる方向(
図2において矢印D1で示す方向)におけるボディ10の長さが最も長い。
【0019】
ボディ10の木材部の木目方向は、ボディ10の厚さ方向から見て、ボディ10の長手方向(ネック3の長手方向)に対して傾斜している。具体的に、木材部の木目方向は、ボディ10の長さが最も長くなる方向(ボディ10の最長方向)に延びている。また、木材部の木目方向は、突出長さが長い第一凸部11の突出方向に延びている。
図2の矢印D1は、ボディ10の最長方向、第一凸部11の突出方向、及び、木材部の木目方向を示している。
【0020】
以上説明したように、本実施形態のボディ構造体2及びエレクトリックギター1によれば、ボディ10の木材部の木目方向がボディ10の長手方向に対して傾斜している。特に、木材部の木目方向は、ボディ10の最長方向かつ第一凸部11の突出方向に延びている。これにより、ボディ10が非対称形状に形成されていても、ボディ10の一部分だけが大きく振動することを抑制し、ボディ10全体をバランスよく振動させることができる。
以下、この点について
図3,4を参照して説明する。
【0021】
図3,4は、ボディ10の長手方向に延びる直線A1を中心として、ボディ10がねじれるように振動する態様を示している。
図3,4では、グレースケールにおいて、白い部分は振動の変位がより大きいことを示し、黒い部分は振動の変位がより小さいことを示している。
図3は、木材部の木目方向がボディ10の長手方向(Y軸方向)に一致する比較例のボディ10の振動態様を示している。一方、
図4は、木材部の木目方向が、ボディ10の長手方向に対して傾斜するボディ10の最長方向、かつ、第一凸部11の突出方向に延びている本実施形態のボディ10の振動態様を示している。
【0022】
図3に示す比較例のボディ10の振動態様では、突出長さが長い第一凸部11における振動の変位が、第二凸部12における振動の変位よりも大きい。また、ボディ10の長手方向の第二端部のうち、ボディ10の幅方向において直線A1に対して第二凸部12と同じ側に位置する第一部位13(すなわち、ボディ10の最長方向において第一凸部11と反対側に位置する第一部位13)における振動の変位が、ボディ10の幅方向において直線A1に対して第一部位13と反対側に位置する第二部位14における振動の変位よりも大きい。
以上のことから、比較例のボディ10では、第一凸部11及び第一部位13(最長方向におけるボディ10の両端部)だけが大きく振動しやすい。すなわち、比較例のボディ10は、バランスよく振動しない。
【0023】
これに対し、
図4に示す本実施形態のボディ10の振動態様では、
図3に示した比較例と比較して、第一凸部11における振動の変位と第二凸部12における振動の変位との差が小さい。また、
図4に示す本実施形態のボディ10の振動態様では、
図3に示した比較例と比較して、ボディ10の第一部位13における振動の変位と第二部位14における振動の変位との差も小さい。このことは、木材部の木目方向が、第一凸部11の突出方向、かつ、第一凸部11と第一部位13とが並ぶボディ10の最長方向に延びていることで、第一凸部11及び第一部位13の振動が木材部によって抑えられていることに起因する。
以上のことから、本実施形態のボディ10では、ボディ10の一部分(第一凸部11、第一部位13)だけが大きく振動することを抑制し、その結果としてボディ10全体をバランスよく振動させることができる。
【0024】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0025】
本発明において、ボディ10の木材部は、例えば
図5に示すように複数(図示例では二つ)の木材層16,17を有してもよい。複数の木材層16,17は、それぞれ板状に形成されてボディ10の厚さ方向(Z軸方向)に重なる。複数の木材層16,17の厚さは、例えば互いに等しくてもよいし、
図5に示すように異なってもよい。
【0026】
複数の木材層16,17の厚さが異なる場合には、複数の木材層16,17のうち厚みが最も大きい木材層16の木目方向が、上記実施形態のようにボディ10の長手方向に対して傾斜しているとよい。厚みが最も大きい木材層16は、ボディ10の振動特性に最も影響を与える。このため、厚みが最も大きい木材層16の木目方向を上記のように設定することで、ボディ10全体をバランスよく振動させることができる。
【0027】
本発明において、ボディ10は、例えば木材部の他に、木材以外の材料(例えば樹脂材)からなる他の素材部を備えてもよい。この場合、木材部及び他の素材部は、例えばそれぞれ板状に形成されて、ボディ10の厚さ方向に重なってよい。
【0028】
本発明において、ボディ10における凸部の数は、例えば一つでもよいし、三つ以上であってもよい。この場合、一つあるいは三つ以上の凸部は、ボディ10の形状が上記実施形態と同様の非対称形状となるように設けられてよい。また、ボディ10は、例えば凸部を有さなくてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1…エレクトリックギター、2…ボディ構造体、10…ボディ、11…第一凸部、12…第二凸部、A1…直線