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特許7400412液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの駆動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの駆動方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/015 20060101AFI20231212BHJP
   B41J 2/045 20060101ALI20231212BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/045
B41J2/14 305
B41J2/14 607
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019216452
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021084388
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】清水 稔弘
(72)【発明者】
【氏名】角 浩二
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-150948(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043074(WO,A1)
【文献】特開2011-031403(JP,A)
【文献】特開2017-119439(JP,A)
【文献】特開2001-328259(JP,A)
【文献】特開2011-056913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルに連通する圧力室が形成された流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に
形成された振動板と、前記振動板の前記流路形成基板とは反対面側に形成された第1電極
、圧電体層、及び、第2電極を有する圧電アクチュエーターと、を具備する液体噴射ヘッ
ドと、
前記圧電アクチュエーターを駆動する駆動信号を供給する駆動手段と、
を具備する液体噴射装置であって、
前記圧電アクチュエーターは、前記第1電極と前記第2電極とにより前記圧電体層が挟
まれた能動部を備え、
前記能動部は、前記第1電極と前記圧電体層と前記第2電極との積層方向からの平面視
において、前記圧力室に対向する領域の中央部以外の領域である縁部から前記圧力室より
も外側まで延設され、
前記駆動信号は、前記圧電体層に電界を印加しない前記圧力室の基準容積から前記圧力
室を収縮させる収縮要素と、前記収縮要素によって収縮した前記圧力室を膨張させる膨張
要素と、前記膨張要素の後、前記膨張要素によって膨張した前記圧力室を前記基準容積ま
で収縮させる第2の収縮要素と、前記第2の収縮要素の後、前記圧力室を前記基準容積で
一定時間維持する基準容積維持要素と、前記圧力室を前記基準容積から収縮させる第3の
収縮要素と、を具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
ノズルに連通する圧力室が形成された流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に
形成された振動板と、前記振動板の前記流路形成基板とは反対面側に形成された第1電極
、圧電体層、及び、第2電極を有する圧電アクチュエーターと、を具備する液体噴射ヘッ
ドと、
前記圧電アクチュエーターを駆動する駆動信号を供給する駆動手段と、
を具備する液体噴射装置であって、
前記圧電アクチュエーターは、前記第1電極と前記第2電極とにより前記圧電体層が挟
まれた能動部を備え、
前記能動部は、前記第1電極と前記圧電体層と前記第2電極との積層方向からの平面視
において、前記圧力室に対向する領域の中央部以外の領域である縁部から前記圧力室より
も外側まで延設され、
前記駆動信号は、前記圧電体層に電界を印加しない前記圧力室の基準容積から前記圧力
室を収縮させる収縮要素と、前記収縮要素によって収縮した前記圧力室を膨張させる膨張
要素と、を具備し、
1画素に液滴を吐出する前記駆動信号を示す駆動波形において、複数の前記収縮要素及
び前記膨張要素を入力する際の前記収縮要素で前記圧電アクチュエーターに印加される電
位の絶対値は、一つの前記収縮要素及び前記膨張要素を入力する際の前記収縮要素で前記
圧電アクチュエーターに印加される電位の絶対値よりも大きいことを特徴とする液体噴射
装置。
【請求項3】
前記収縮要素は、前記膨張要素とは反対の電界を前記圧電体層に印加するものであるこ
とを特徴とする請求項1または2記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記収縮要素の電位は、待機状態で常に印加されていることを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記収縮要素によって前記圧電アクチュエーターに印加される電位の絶対値は、ゼロよ
り大きく、前記圧電体層の抗電界となる電位の絶対値以下であることを特徴とする請求項
1~の何れか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記圧電アクチュエーターに電位を印加しない場合の前記圧電体層内部に残留する分極
又は双極子の向きは、前記第1電極から前記第2電極に向かう方向であり、
前記収縮要素では、前記第2電極の電位をプラスにし、
前記膨張要素では、前記第2電極の電位をマイナスにすることを特徴とする請求項1~
の何れか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記圧電アクチュエーターに電位を印加しない場合の前記圧電体層内部に残留する分極
又は双極子の向きは、前記第2電極から前記第1電極に向かう方向であり、
前記収縮要素では、前記第2電極の電位をマイナスにし、
前記膨張要素では、前記第2電極の電位をプラスにすることを特徴とする請求項1~
の何れか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
前記収縮要素では、前記圧電アクチュエーターは、前記圧力室側に凸状に変形した状態
であることを特徴とする請求項1~7の何れか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項9】
ノズルに連通する圧力室が形成された流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に
形成された振動板と、前記振動板の前記流路形成基板とは反対面側に形成された第1電極
、圧電体層、及び、第2電極を有する圧電アクチュエーターと、を具備し、
前記圧電アクチュエーターは、前記第1電極と前記第2電極とにより前記圧電体層が挟
まれた能動部を備え、
前記能動部は、前記第1電極と前記圧電体層と前記第2電極との積層方向からの平面視
において、前記圧力室に対向する領域の中央部以外の領域である縁部から前記圧力室より
も外側まで延設された液体噴射ヘッドの駆動方法であって、
前記圧電体層に電界を印加しない前記圧力室の基準容積から前記圧力室を収縮させる収
縮要素と、前記収縮要素によって収縮した前記圧力室を膨張させる膨張要素と、前記膨張
要素の後、前記膨張要素によって膨張した前記圧力室を前記基準容積まで収縮させる第2
の収縮要素と、前記第2の収縮要素の後、前記圧力室を前記基準容積で一定時間維持する
基準容積維持要素と、前記圧力室を前記基準容積から収縮させる第3の収縮要素と、を具
備する駆動信号で前記圧電アクチュエーターを駆動することを特徴とする液体噴射ヘッド
の駆動方法。
【請求項10】
ノズルに連通する圧力室が形成された流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に
形成された振動板と、前記振動板の前記流路形成基板とは反対面側に形成された第1電極
、圧電体層、及び、第2電極を有する圧電アクチュエーターと、を具備し、
前記圧電アクチュエーターは、前記第1電極と前記第2電極とにより前記圧電体層が挟
まれた能動部を備え、
前記能動部は、前記第1電極と前記圧電体層と前記第2電極との積層方向からの平面視
において、前記圧力室に対向する領域の中央部以外の領域である縁部から前記圧力室より
も外側まで延設された液体噴射ヘッドの駆動方法であって、
前記圧電体層に電界を印加しない前記圧力室の基準容積から前記圧力室を収縮させる収
縮要素と、前記収縮要素によって収縮した前記圧力室を膨張させる膨張要素と、を具備す
る駆動信号で前記圧電アクチュエーターを駆動し、
1画素に液滴を吐出する前記駆動信号を示す駆動波形において、複数の前記収縮要素及
び前記膨張要素を入力する際の前記収縮要素で前記圧電アクチュエーターに印加される電
位の絶対値は、一つの前記収縮要素及び前記膨張要素を入力する際の前記収縮要素で前記
圧電アクチュエーターに印加される電位の絶対値よりも大きいことを特徴とする液体噴射
ヘッドの駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置に用いられる液体噴射ヘッドは、圧力室が形成された流路形成基板に振動板を設け、振動板に圧電アクチュエーターを設けたものが知られている。圧電アクチュエーターは、振動板側から第1の電極、圧電体層、及び第2の電極を積層することで形成されたものが知られている。
【0003】
圧電アクチュエーターの一形態として、振動板の圧力室に対向する領域(以下、可動領域)の縁部に圧電アクチュエーターの能動部を設け、可動領域の中央部には能動部を設けないようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。すなわち、圧電アクチュエーターは、平面視において、縁部に重なるように環状の能動部が振動板上に設けられており、中央部には能動部が設けられずに振動板が露出した構成となっている。
【0004】
このような環状の圧電アクチュエーターでは、吐出前の初期撓みとして振動板が圧力室とは反対側に凸状に撓んだ状態から、駆動信号を供給することによって圧力室側が凹状とした後、圧力室側に凸状に変形させることで、ノズルからインク滴等の液滴を吐出するようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-56913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、振動板の初期撓みを圧力室側に凸状となるように撓ませるには、振動板を構成する部材に圧縮応力を内在する部材を導入する、及び、振動板を構成する部材に圧力室に相対向する領域において梁形状ではないパターニングされた引っ張り応力を内在する部材を配置する、の何れか一方又は両方を実施する必要がある。
【0007】
上記のように、振動板を構成する部材に圧縮応力を内在する部材を導入したとしても、必ずしも初期撓みが圧力室側に凸状となるように変形するとは言えず、振動板の初期撓みの制御が困難であるという問題がある。
【0008】
また、振動板を構成する部材に梁形状ではないパターニングされた引っ張り応力を内在する部材を配置しても、圧電アクチュエーターに電界を印加した際に発生する変位によって、さらに引っ張り応力が増大するため、破壊し易いという問題がある。
【0009】
また、吐出される液滴の重量を増大させるために、圧力室の幅を広げると、振動板への応力が増大し、より割れやすくなってしまうという問題がある。
【0010】
なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録装置に限定されず、インク以外の液体を噴射する液体噴射装置においても同様に存在する。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑み、圧電アクチュエーターの変位量を向上して圧力室の配置密度を向上することができる液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の態様は、ノズルに連通する圧力室が形成された流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に形成された振動板と、前記振動板の前記流路形成基板とは反対面側に形成された第1電極、圧電体層、及び、第2電極を有する圧電アクチュエーターと、を具備する液体噴射ヘッドと、前記圧電アクチュエーターを駆動する駆動信号を供給する駆動手段と、を具備する液体噴射装置であって、前記圧電アクチュエーターは、前記第1電極と前記第2電極とにより前記圧電体層が挟まれた能動部を備え、前記能動部は、前記第1電極と前記圧電体層と前記第2電極との積層方向からの平面視において、前記圧力室に対向する領域の中央部以外の領域である縁部から前記圧力室よりも外側まで延設され、前記駆動信号は、前記圧電体層に電界を印加しない前記圧力室の基準容積から前記圧力室を収縮させる収縮要素と、前記収縮要素によって収縮した前記圧力室を膨張させる膨張要素と、を具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
【0013】
また、本発明の他の態様は、ノズルに連通する圧力室が形成された流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に形成された振動板と、前記振動板の前記流路形成基板とは反対面側に形成された第1電極、圧電体層、及び、第2電極を有する圧電アクチュエーターと、を具備し、前記圧電アクチュエーターは、前記第1電極と前記第2電極とにより前記圧電体層が挟まれた能動部を備え、前記能動部は、前記第1電極と前記圧電体層と前記第2電極との積層方向からの平面視において、前記圧力室に対向する領域の中央部以外の領域である縁部から前記圧力室よりも外側まで延設された液体噴射ヘッドの駆動方法であって、前記圧電体層に電界を印加しない前記圧力室の基準容積から前記圧力室を収縮させる収縮要素と、前記収縮要素によって収縮した前記圧力室を膨張させる膨張要素と、を具備する駆動信号で前記圧電アクチュエーターを駆動することを特徴とする液体噴射ヘッドの駆動方法にある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態1に係る記録装置の概略構成を示す図である。
図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図である。
図3】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
図4】実施形態1に係る圧電アクチュエーターの平面図である。
図5】実施形態1に係る記録ヘッドの要部を拡大した断面図である。
図6】実施形態1に係る記録装置の電気的構成を示すブロック図である。
図7】実施形態1に係る駆動信号を示す駆動波形である。
図8】実施形態1に係る振動板の変形状態を模式的に表した断面図である。
図9】実施形態1に係る圧電体層の変位量と電界との関係を示すグラフである。
図10】実施形態2に係る駆動信号を示す駆動波形である。
図11】実施形態2に係る駆動信号の変形例を示す駆動波形である。
図12】実施形態2に係る駆動信号の変形例を示す駆動波形である。
図13】実施形態3に係る駆動信号を示す駆動波形である。
図14】他の実施形態に係る駆動信号を示す駆動波形である。
図15】他の実施形態に係る駆動信号を示す駆動波形である。
図16】他の実施形態に係る駆動信号を示す駆動波形である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本発明の一態様を示すものであって、本発明の範囲内で任意に変更可能である。各図において同じ符号を付したものは、同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。また、各図においてX、Y、Zは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向をX方向、Y方向、及びZ方向とする。各図の矢印が向かう方向を正(+)方向、矢印の反対方向を負(-)方向として説明する。また、Z方向は、鉛直方向を示し、+Z方向は鉛直下向き、-Z方向は鉛直上向きを示す。
【0016】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置Iは、液体噴射ヘッドの一例としてインクをインク滴として噴射するインクジェット式記録ヘッド1(以下、単に記録ヘッド1とも言う)を具備する。記録ヘッド1は、キャリッジ3に搭載され、キャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向であるY方向に移動可能に設けられている。また、キャリッジ3には、液体貯留手段を構成するインクカートリッジ2が着脱可能に設けられている。
【0018】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッド1を搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿ってY方向に往復移動される。一方、装置本体4には搬送手段としての搬送ローラー8が設けられており、インクが着弾される紙などの被噴射媒体である記録シートSが搬送ローラー8によりX方向に搬送されるようになっている。
【0019】
また、インクジェット式記録装置Iは、当該インクジェット式記録装置I全般の制御を行う制御装置200を具備する。制御装置200については詳しくは後述する。
【0020】
このようなインクジェット式記録装置Iでは、記録ヘッド1に対して記録シートSを+X方向に搬送し、キャリッジ3を記録シートSに対してY方向に往復移動させながら、記録ヘッド1からインク滴を吐出させることで記録シートSの略全面に亘ってインク滴の着弾、所謂、印刷が実行される。
【0021】
ここで、このようなインクジェット式記録装置Iに搭載される本実施形態の記録ヘッド1について図2図5を参照して説明する。なお、図2は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの平面図である。図3は、図2のA-A′線断面図である。図4は、圧電アクチュエーターの要部を拡大した平面図である。図5は、図4のB-B′線断面図である。
【0022】
図示するように、記録ヘッド1は、流路ユニット100、圧電アクチュエーター300を備えている。本実施形態の流路ユニット100は、流路形成基板10、共通液室基板30、ノズルプレート20、及びコンプライアンス基板40を具備する。
【0023】
流路形成基板10は、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板からなる。
【0024】
流路形成基板10には、複数の圧力室12がX方向に沿って並設されている。複数の圧力室12は、Y方向の位置が同じ位置となるように、X方向に沿った直線上に配置されている。もちろん、圧力室12の配置は特にこれに限定されず、例えば、X方向に並設された圧力室12において、1つ置きにY方向にずれた位置に配置した、所謂、千鳥配置としてもよい。
【0025】
また、本実施形態の圧力室12は、Z方向から平面視した形状、すなわち、Z方向の開口形状は、Y方向が長手方向となる長方形状を基本として、長手方向の両端部を半円形状とした、所謂、角丸長方形状(別名、トラック形状とも言う)となっている。つまり、圧力室12は、Z方向から平面視した際に、Y方向が長手方向となり、X方向が短手方向となる長尺形状を有する。このように圧力室12を長尺形状とすることで、複数の圧力室12を短手方向に併設した際に、圧力室12の容積を確保しつつ、小型化を図ることができる。
【0026】
もちろん、Z方向から平面視したときの圧力室12の形状は、特にこれに限定されず、例えば、正方形状、長方形状、多角形状、平行四辺形状、扇形形状、円形状、長穴形状であってもよい。ちなみに、長穴形状とは、楕円形状や、楕円形状に似た形状、例えば、角丸長方形状、鶏卵形状、長円形状等のことである。
【0027】
また、流路形成基板10の+Z側の面には、共通液室基板30とノズルプレート20とが順次積層されている。
【0028】
共通液室基板30は、各圧力室12に連通した共通液室35が形成された基板であり、流路形成基板10の+Z側の面に設けられている。共通液室35は、複数の圧力室12に亘ってX方向に連続する大きさで設けられている。また、共通液室35は、Z方向から平面視した際に、圧力室12のY方向の端部に重なる位置に配置されている。このような共通液室35は、共通液室基板30の+Z側の面に開口して設けられている。
【0029】
また、共通液室基板30には、圧力室12のY方向の一端部に連通する第1流路31が複数形成されている。第1流路31は、圧力室12の各々に独立して設けられている。この第1流路31は、共通液室35と圧力室12とをZ方向に連通して、共通液室35内のインクを圧力室12に供給する。
【0030】
また、共通液室基板30には、圧力室12とノズル21とを連通する第2流路32が複数形成されている。第2流路32は、圧力室12とノズル21とを接続する流路であり、共通液室基板30をZ方向に貫通して設けられている。
【0031】
このような共通液室基板30は、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、ステンレス基板等の金属基板などを用いることができる。なお、共通液室基板30は、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましい。このように流路形成基板10と共通液室基板30とを熱膨張率が略同一の材料を用いることで、熱膨張率の違いによって熱により反りが発生するのを低減することができる。
【0032】
ノズルプレート20は、共通液室基板30の流路形成基板10とは反対側、すなわち、+Z側の面に設けられている。
【0033】
ノズルプレート20には、+Z方向に向かってインクを噴射するノズル21が複数形成されている。本実施形態では、図2に示すように、複数のノズル21は、X方向に沿った直線上に配置されている。すなわち、複数のノズル21は、Y方向の位置が同じ位置となるように配置されている。もちろん、ノズル21の配置は特にこれに限定されず、例えば、X方向に並設されたノズル21において、1つ置きにY方向にずれた位置に配置した、所謂、千鳥配置としてもよい。
【0034】
このようなノズルプレート20としては、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、ステンレス基板等の金属基板、ポリイミド樹脂のような有機物などを用いることができる。
【0035】
また、共通液室基板30の共通液室35が開口する+Z側の面には、コンプライアンス基板40が設けられている。このコンプライアンス基板40が、共通液室35の+Z側の開口を封止している。このようなコンプライアンス基板40は、本実施形態では、可撓性を有する薄膜からなる封止膜41と、金属等の硬質の材料からなる固定基板42と、を具備する。固定基板42の共通液室35に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっている。このため、共通液室35の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止された可撓部であるコンプライアンス部49となっている。このように共通液室35の壁面の一部にコンプライアンス部49を設けることで、共通液室35内のインクの圧力変動をコンプライアンス部49が変形することで吸収することができる。
【0036】
このような構成の流路ユニット100には、共通液室35から第1流路31、圧力室12、及び第2流路32を経てノズル21に至るインク流路が形成されている。なお、特に図示しないが、共通液室35には、外部のインク供給手段からインクが供給されるように構成されている。外部のインク供給手段から供給されたインクは、共通液室35に供給される。そして、共通液室35から各第1流路31を経由して、各圧力室12にインクが供給される。圧力室12のインクは、後述する圧電アクチュエーター300によって、第2流路32を経由してノズル21から噴射される。
【0037】
一方、流路形成基板10の共通液室基板30とは反対側である-Z側の面には、振動板50が形成されている。振動板50は、シリコン層や二酸化ケイ素層、窒化ケイ素層、酸化ジルコニウム層などから選択される単一層又は複数層などからなる可撓性の部材である。
【0038】
また、振動板50上には、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とが成膜及びリソグラフィー法によって-Z方向に順次積層されている。これら振動板50と第1電極60と圧電体層70と第2電極80とによって本実施形態の圧電アクチュエーター300が構成されている。本実施形態では、圧電アクチュエーター300が、圧力室12内のインクに圧力変化を生じさせるエネルギー発生素子となっている。ここで圧電アクチュエーター300は、圧電素子とも言い、振動板50、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分を言う。
【0039】
また、圧電アクチュエーター300のうち、第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加した際に、圧電体層70に圧電歪みが生じる部分を能動部310と称する。本実施形態では、詳しくは後述するが、圧力室12毎に能動部310が形成されている。つまり、圧電アクチュエーター300には複数の能動部310が形成されていることになる。そして、一般的には、能動部310の何れか一方の電極を複数の能動部310に共通する共通電極とし、他方の電極を能動部310毎に独立する個別電極として構成する。本実施形態では、第1電極60を共通電極とし、第2電極80を個別電極としているが、これを逆にしてもよい。なお、上述した例では、振動板50及び第1電極60が、振動板として作用するが、もちろんこれに限定されるものではなく、例えば、振動板50を設けずに第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電アクチュエーター300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0040】
ここで、本実施形態では、振動板50のうち、圧力室12に対向する領域を可動領域Cと称する。また、可動領域Cのうち、Z方向からの平面視において、圧力室12の端部である壁面よりも内側であって、圧力室12の中心部を含まない領域を縁部Bと称する。縁部Bには圧電アクチュエーター300が設けられている。さらに、可動領域Cのうち縁部B以外の領域を中央部Aと称する。中央部Aは圧電アクチュエーター300の能動部310が設けられていない。
【0041】
このような振動板50に対して、能動部310は、振動板50の可動領域C(図3参照)の縁部Bに設けられている。さらに、本実施形態では、能動部310は、縁部Bよりも外側、すなわち、圧力室12よりも外側まで延設されている。なお、能動部310は、中央部Aには設けられていない。つまり、圧電アクチュエーター300の能動部310は、圧力室12の外側と縁部Bとに亘って、圧力室12の壁面の境界部分に跨がって連続して設けられている。
【0042】
このような能動部310の平面視における形状は、図4に示すように、圧力室12と略同様の形状を有し、Y方向を長手方向とする環状の角丸長方形状となっている。
【0043】
具体的には、第1電極60は、複数の圧力室12に亘って連続して設けられて、圧電アクチュエーター300の複数の能動部310に共通する共通電極を構成する。第1電極60は、Y方向の幅が、圧力室12のY方向の長さよりも広く、X方向に並設された複数の圧力室12に亘って連続して設けられている。また、第1電極60は、振動板50の中央部Aには設けられておらず、中央部A側の端部は、圧電体層70によって覆われている。もちろん、第1電極60は、振動板50の中央部Aに設けられていてもよい。
【0044】
圧電体層70は、Y方向が所定の幅となるようにX方向に亘って連続して設けられている。圧電体層70のY方向の幅は、圧力室12のY方向の長さよりも広い。このため、圧力室12のY方向では、圧電体層70は、圧力室12の外側まで設けられている。なお、本実施形態では、圧電体層70は、複数の圧力室12に亘って連続して設けるようにしたが、特にこれに限定されず、圧電体層70は、圧力室12毎に、隣り合う圧力室12の画壁上で切り分けて設けられていてもよい。
【0045】
このような圧電体層70は、第1電極60上に形成される分極構造を有する酸化物の圧電材料からなり、例えば、一般式ABOで示されるペロブスカイト型酸化物からなることができる。また、圧電体層70としては、鉛を含む鉛系圧電材料や鉛を含まない非鉛系圧電材料などを用いることができる。
【0046】
圧電体層70は、電位を印加しないときの圧電体層70内部に残留する分極または双極子の向き(以降、合わせて分極方向と称する)は、第1電極60から第2電極80に向かう-Z方向であってもよく、また、第2電極80から第1電極60に向かう+Z方向であってもよい。本実施形態では、圧電体層70の分極方向は、第1電極60から第2電極80に向かう方向、すなわち、-Z方向となっている。
【0047】
第2電極80は、圧力室12毎に切り分けられて、圧電アクチュエーター300の能動部310毎に独立する個別電極を構成する。第2電極80は、Z方向から平面視した際に、環状に形成されている。すなわち、第2電極80は、圧力室12と同様にY方向を長軸とする角丸長方形状の外周形状を有し、その中央部にはその外周形状と略相似形状の開口部が形成されて環状に形成されている。この第2電極80の端部によって能動部310の範囲が規定されている。つまり、第2電極80は、振動板50の可動領域C(図3参照)の縁部Bと、この縁部Bよりも外側、すなわち、圧力室12よりも外側とに設けられており、第2電極80は、中央部Aには設けられていない。このような第2電極80は、膜厚が100nm以下であることが好ましい。このように第2電極80を100nm以下の厚さで設けることで、第2電極80が能動部310の変形を阻害するのを抑制して、能動部310の変位量が低下するのを抑制することができる。なお、第2電極80としては、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)からなる群から選択される少なくとも一つの材料で形成されていることが好ましい。このように第2電極80として、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)からなる群から選択される少なくとも一つの材料を用いることで、第2電極80の電気抵抗値を低下させて電圧降下を抑制することができる。
【0048】
図5に示すように、圧電アクチュエーター300は、保護膜110によって覆われている。保護膜110としては、耐湿性を有する絶縁材料を用いることができる。本実施形態では、保護膜110は、第1電極60上と、圧電体層70の側面と、第2電極80の側面及び上面と、振動板50の中央部Aと、を覆うように連続して設けられている。なお、本実施形態では、保護膜110は、振動板50の中央部Aを覆うようにしたが、特にこれに限定されず、保護膜110は、振動板50の中央部Aの一部又は全部を覆わないように設けてもよい。このように保護膜110を振動板50の中央部Aの一部又は全部を覆わないように設けることで、保護膜110が振動板50の変位を阻害するのを抑制して変位量の低下を抑制することができる。
【0049】
このように圧電体層70の側面を保護膜110で覆うことにより、第1電極60と第2電極80との間で電流がリークするのを抑制して、圧電アクチュエーター300のリーク電流による焼損などの破壊を抑制することができる。また、保護膜110を設けることで、詳しくは後述する引き出し配線であるリード電極90によって第1電極60と第2電極80とが短絡するのを抑制することができる。
【0050】
このような保護膜110の材料としては、耐湿性を有する材料であればよく、無機絶縁材料や有機絶縁材料などを用いることができる。
【0051】
保護膜110として利用できる無機絶縁材料としては、例えば、酸化シリコン(SiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化タンタル(TaO)、酸化アルミニウム(AlO)及び酸化チタン(TiO)から選択される少なくとも一種が挙げられる。保護膜110の無機絶縁材料としては、特に、無機アモルファス材料である酸化アルミニウム(AlO)、例えば、アルミナ(Al)を用いるのが好ましい。なお、無機絶縁材料からなる保護膜110は、例えば、MOD法、ゾル-ゲル法、スパッタリング法、CVD法等により形成することができる。
【0052】
また、保護膜110として利用できる有機絶縁材料としては、例えば、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、珪素系樹脂及びフッ素系樹脂から選択される少なくとも一種が挙げられる。なお、有機絶縁材料からなる保護膜110は、例えば、スピンコーティング法、スプレー法等により形成することができる。
【0053】
この保護膜110上には、圧電アクチュエーター300の各電極から引き出された引き出し配線であるリード電極90が設けられている。リード電極90は、第2電極80から引き出された個別リード電極91と、第1電極60から引き出された共通リード電極92とを具備する。リード電極90は、Pt、Ir、Au、ITO、Cu、Al、Al-Cu、Al-Ndからなる群から選択される少なくとも一つを含む材料を用いるのが好ましい。また、リード電極90は、保護膜110との密着性を向上する密着層を有してもよい。
【0054】
ここで、個別リード電極91は、Y方向の一端部において保護膜110に設けられたコンタクトホール111を介して第2電極80と接続されている。また、個別リード電極91は、その他端部が流路形成基板10上の第1電極60が形成されていない領域までY方向に沿って延設されている。
【0055】
このような個別リード電極91には、駆動回路120が実装された配線基板121が電気的に接続されている。なお、駆動回路120は、回路基板や半導体集積回路(IC)等からなる。また、配線基板121は、フレキシブル配線基板の1種であるCOF基板からなる。駆動回路120からの駆動信号が個別リード電極91を介して第2電極80に供給される。
【0056】
また、共通リード電極92は、X方向の端部において保護膜110に設けられたコンタクトホール112を介して一端が第1電極60と接続されている。また、共通リード電極92は、その他端部が流路形成基板10上の第1電極60が形成されていない領域までY方向に沿って延設されている。
【0057】
ここで、共通リード電極92は、X方向の端部において保護膜110に設けられたコンタクトホール111を介して一端が第1電極60と接続されている。
【0058】
このような記録ヘッド1では、共通液室35からノズル21に至るまでインクで満たした後、駆動回路120からの駆動信号に従い、圧力室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、振動板50及び圧電アクチュエーター300を撓み変形させることで、圧力室12内の圧力が高まりノズル21からインクが吐出する。
【0059】
また、図1に示すように、インクジェット式記録装置Iは、制御装置200を具備する。ここで、本実施形態の電気的構成について図6を参照して説明する。なお、図6は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録装置Iの電気的構成を示すブロック図である。
【0060】
図6に示すように、インクジェット式記録装置Iは、プリンターコントローラー210と、プリントエンジン220と、を備えている。
【0061】
プリンターコントローラー210は、インクジェット式記録装置Iの全体の制御をする要素であり、本実施形態では、インクジェット式記録装置Iに設けられた制御装置200内に設けられている。
【0062】
プリンターコントローラー210は、外部インターフェース211(以下、外部I/F211と言う)と、RAM212と、ROM213と、制御処理部214と、クロック信号を発生する発振回路215と、駆動信号生成回路216と、電源生成回路217と、内部インターフェース218(以下、内部I/F218と言う)と、を備えている。
【0063】
外部I/F211は、例えば、キャラクタコード、グラフィック関数、イメージデータ等によって構成される印刷データを、ホストコンピューター等の外部装置230から受信する。また、この外部I/F211を通じてビジー信号(BUSY)やアクノレッジ信号(ACK)が、外部装置230に対して出力される。
【0064】
RAM212は、各種データを一時的に記憶するものであり、受信バッファー212A、中間バッファー212B、出力バッファー212C及び図示しないワークメモリーとして機能する。そして、受信バッファー212Aは外部I/F211によって受信された印刷データを一時的に記憶し、中間バッファー212Bは制御処理部214が変換した中間コードデータを記憶し、出力バッファー212Cはドットパターンデータを記憶する。なお、このドットパターンデータは、階調データをデコード(翻訳)することにより得られる印字データによって構成してある。
【0065】
また、ROM213には、各種データ処理を行わせるための制御プログラム(制御ルーチン)の他に、フォントデータ、グラフィック関数等を記憶させてある。
【0066】
制御処理部214は、CPU等を含んで構成されている。この制御処理部214は、受信バッファー212A内の印刷データを読み出すと共に、この印刷データを変換して得た中間コードデータを中間バッファー212Bに記憶させる。また、中間バッファー212Bから読み出した中間コードデータを解析し、ROM213に記憶させているフォントデータ及びグラフィック関数等を参照して、中間コードデータをドットパターンデータに展開する。そして、制御処理部214は、必要な装飾処理を施した後に、この展開したドットパターンデータを出力バッファー212Cに記憶させる。
【0067】
そして、記録ヘッド1に1行分のドットパターンデータが得られたならば、この1行分のドットパターンデータは、内部I/F218を通じて記録ヘッド1に出力される。また、出力バッファー212Cから1行分のドットパターンデータが出力されると、展開済みの中間コードデータは中間バッファー212Bから消去され、次の中間コードデータについての展開処理が行われる。すなわち、内部I/F218は、駆動信号や印刷データに基づいて展開されたドットパターンデータ(別名ビットマップデータとも言う)等をプリントエンジン220に送信する。
【0068】
駆動信号生成回路216は、外部から供給された電源に基づいて記録ヘッド1へ供給するための共通駆動信号COMを生成する。
【0069】
また、電源生成回路217は、外部から供給された電源に基づいて圧電アクチュエーター300の共通電極である第1電極60に供給する詳しくは後述するバイアス電位vbsを生成する。
【0070】
プリントエンジン220は、記録ヘッド1と、紙送り機構221と、キャリッジ機構222とを含んで構成してある。紙送り機構221は、搬送ローラー8とこの搬送ローラー8を駆動する図示しないモーター等から構成してあり、記録シートSを記録ヘッド1の記録動作に連動させて順次送り出す。即ち、この紙送り機構221は、記録シートSをX方向に相対移動させる。キャリッジ機構222は、キャリッジ3と、キャリッジ3をキャリッジ軸5に沿ってY方向に移動させる駆動モーター6やタイミングベルト7とを具備する。
【0071】
記録ヘッド1は、シフトレジスター122、ラッチ回路123、レベルシフター124、スイッチ125を有する駆動回路120と、圧電アクチュエーター300と、を備えている。シフトレジスター122、ラッチ回路123、レベルシフター124、スイッチ125及び圧電アクチュエーター300は、特に図示していないが、それぞれ、記録ヘッド1のノズル21毎に設けられたシフトレジスター素子、ラッチ素子、レベルシフター素子、スイッチ素子、圧電アクチュエーター300から構成してある。これらのシフトレジスター122、ラッチ回路123、レベルシフター124、スイッチ125及び圧電アクチュエーター300は、この順で電気的に接続してある。これらのシフトレジスター122、ラッチ回路123、レベルシフター124及びスイッチ125は、駆動信号生成回路216が発生した共通駆動信号COMから実際に圧電アクチュエーター300に印加される印加パルスを生成する。
【0072】
なお、本実施形態では、プリンターコントローラー210と駆動回路120とが特許請求の範囲の駆動手段に相当する。
【0073】
ここで、駆動信号生成回路216が発生した共通駆動信号を示す駆動波形について説明する。なお、図7は、バイアス電位、共通駆動信号、及び、駆動信号を示す駆動波形である。図8は、駆動信号による振動板の変形状態を示す図であり、図4のB-B′線の断面を模式的に示した図である。
【0074】
図7に示すように、本実施形態の共通駆動信号COMは、発振回路215から発振されるクロック信号により規定される単位周期T毎に駆動信号生成回路216から繰り返し生成される。単位周期Tは、吐出周期T又は記録周期Tとも言い、記録シートSに印刷する画像等の1画素分に対応する。本実施形態では、共通駆動信号COMは、ノズル21からインク滴が吐出されるように圧電アクチュエーター300を駆動する吐出パルスDPを1記録周期T内に有する信号であり、記録周期T毎に繰り返し発生される。
【0075】
そして、印刷中において記録シートSの記録領域に1行分(1ラスター分)のドットパターンを形成するとき、各ノズル21に対応する圧電アクチュエーター300には、共通駆動信号COMの吐出パルスDPが選択的に印加される。すなわち、各ノズル21に対応する圧電アクチュエーター300毎にヘッド制御信号及び共通駆動信号COMから印加パルスを生成し、印加パルスを圧電アクチュエーター300に供給する。
【0076】
このような印加パルスは、圧電アクチュエーター300の能動部310毎の個別電極である第2電極80に供給される。また、圧電アクチュエーター300の複数の能動部310の共通電極である第1電極60には、バイアス電位vbsが供給される。このため、印加パルスによって圧電アクチュエーター300の個別電極である第2電極80に印加される電位は、第1電極60に印加されるバイアス電位vbsを基準電位として表される。
【0077】
図7に示す例では、第1電極60にバイアス電位vbsが供給されることで、第1電極60は約30Vの電位に維持される。
【0078】
第2電極80には、約30Vの最小電位と、約60Vの最大電位とを有する駆動波形で示される吐出パルスDPが供給される。
【0079】
そして、第1電極60の電位を基準とした第2電極80の電位差、すなわち、(第2電極80の電位)-(第1電極60の電位)が圧電体層70の駆動電圧Vとなる。このような駆動電圧Vの時間に伴うプロファイルが、圧電アクチュエーター300に供給される駆動信号250となる。
【0080】
ここで、圧電アクチュエーター300に供給される駆動信号250は、第1収縮維持要素P1と、膨張要素P2と、膨張維持要素P3と、第1収縮要素P4と、基準容積維持要素P5と、第2収縮要素P6と、第2収縮維持要素P7と、を具備する。
【0081】
第1収縮維持要素P1は、圧電アクチュエーター300に第1電位V(ここでは10V)を印加して圧力室12の容積を基準容積から収縮させた状態を維持する。本実施形態では、この第1収縮維持要素P1が、特許請求の範囲に記載の収縮要素に相当する。すなわち、圧力室12を基準容積よりも収縮させる収縮要素とは、圧力室12を基準容積よりも収縮した状態を維持する要素も含むものである。
【0082】
具体的には、第1収縮維持要素P1のように第2電極80にプラス(+)の電位が印加されると、圧電体層70には第2電極80から第1電極60に向かう+Z方向の電界が印加される。圧電体層70は、第1電極60から第2電極80に向かう-Z方向の分極方向であるため、圧電体層70には、分極方向である-Z方向と逆の+Z方向の電界が印加される。このため、圧電体層70は電界方向である-Z方向に縮み、分極方向と直交する方向であるX方向及びY方向を含む面内方向に伸びる。つまり、図9に示す、圧電体層70のS(電界誘起歪み(変位量))-E(電界)の関係を示すバタフライ曲線において、領域Dを利用するように電界Eを印加することで、圧電体層70を電界方向である-Z方向に縮ませて、分極方向と直交する方向であるX方向及びY方向を含む面内方向に伸ばすことができる。
【0083】
そして、圧電アクチュエーター300の能動部310は、圧力室12の外側から縁部Bに亘って設けられているため、圧電体層70がX方向及びY方向を含む面内方向に伸びることで、圧電アクチュエーター300は、圧力室12側に向かって、すなわち、+Z方向に撓み変形する。つまり、第1収縮維持要素P1によって圧電アクチュエーター300が圧力室12の容積を収縮させる方向に変形した状態が維持される。これにより、圧電アクチュエーター300は、圧力室12側である+Z方向に変形した状態が維持される。
【0084】
ちなみに、圧電アクチュエーター300が圧力室12側である+Z方向に変形するとは、圧電アクチュエーター300の圧力室12側である+Z側の面が凸状に突出した状態に変形するものも、また、圧力室12側とは反対側である-Z側の面が凸状に突出した状態のままのものも含む。つまり、例えば、圧電アクチュエーター300の初期撓みが、圧力室12とは反対側である-Z側に凸状に突出するように変形している場合には、第1収縮維持要素P1によって圧電アクチュエーター300が-Z側に凸状に突出するように変形したままで、-Z側への突出量が小さくなるように変形したものも含む。第1収縮維持要素P1による圧電アクチュエーター300の姿勢は、圧電アクチュエーター300の初期撓みを決定する振動板50を含む積層膜の特性、すなわち、各膜の内部応力や中立線の位置と、圧電体層70の変位特性に対する第1収縮維持要素P1による第1電位Vの大きさ、すなわち、変位量とによって決定する。
【0085】
本実施形態では、図8中の点線で示すように、圧電アクチュエーター300に電位を印加していない初期撓みでは、圧電アクチュエーター300は、圧力室12とは反対側である-Z側に凸状となるように変形している。また、圧電アクチュエーター300は、第1収縮維持要素P1の第1電位Vが印加されることで、圧力室12側に凸状に変形するものとしている。
【0086】
このように第1収縮維持要素P1を供給することで、圧電アクチュエーター300に電位を印加していない場合の姿勢、所謂、初期撓みがどのような姿勢であっても、圧電アクチュエーター300を確実に圧力室12側である+Z方向に変形した状態を維持することができる。すなわち、圧電アクチュエーター300の初期撓みが、圧電アクチュエーター300が圧力室12側に凸状に変形している場合であっても、また、圧電アクチュエーター300が圧力室12とは反対側に凸状に変形している場合であっても、第1収縮維持要素P1を供給することで、圧電アクチュエーター300を圧力室12側に変形、特に、圧力室12側に凸状となるように変形することができる。ちなみに、圧電アクチュエーター300は、初期撓みが圧力室12側である+Z側に凸状となっていてもよい。ただし、圧電アクチュエーター300は、初期撓みを圧力室12とは反対側である-Z側に凸状とした方が、振動板50を構成する部材として圧縮応力を内在する部材を導入することができる。このように振動板50の内部応力を圧縮応力とすることで、膨張要素P2、膨張維持要素P3、第1収縮要素P4等によって振動板50に引っ張り応力が印加された際に、振動板50の破壊を抑制することができる。
【0087】
なお、誘電材料からなる圧電体層70は、当該圧電体層70に印加する電界を変化させると、抗電界(負極側の抗電界Ec1及び正極側の抗電界Ec2)を境として分極の正負が反転するヒステリシス特性を有する曲線、いわゆる、ヒステリシス曲線が描かれる。このため、第1収縮維持要素P1によって圧電体層70に印加する電界は、負極側の抗電界Ec1よりも大きく、正極側の抗電界Ec2よりも小さいことが好ましい。すなわち、第1収縮維持要素P1によって圧電アクチュエーター300に印加する電位である第1電位Vの絶対値は、ゼロ(0)より大きく、圧電体層70の抗電界(Ec1、Ec2)となる電位、所謂、抗電位Vc(+Vcと-Vcとを合わせてVcと称する)の絶対値以下であることが好ましい(0<|V|≦|Vc|)。本実施形態では、第1電位Vは、プラス(+)の電位であるため、0<V≦+Vcを満たすことが好ましい。このように第1電位Vの絶対値を、圧電体層70の抗電位Vcの絶対値を超えない大きさとすることで、第1収縮維持要素P1によって圧電体層70の分極の反転を行わせずに、第1収縮維持要素P1によって圧電体層70を分極方向である-Z方向に縮ませることができる。
【0088】
膨張要素P2は、圧電アクチュエーター300に第1電位V(10V)から第2電位V(ここでは-20V)まで印加して圧力室12の容積を第1収縮維持要素P1から膨張させる。本実施形態では、この膨張要素P2が、特許請求の範囲に記載の膨張要素に相当する。
【0089】
具体的には、膨張要素P2のように第2電極80にマイナス(-)の電位が印加されると、圧電体層70には第1電極60から第2電極80に向かう-Z方向の電界が印加される。圧電体層70は-Z方向の分極方向であるため、電界方向と分極方向とが一致する。これにより、圧電体層70は電界方向である-Z方向に伸び、分極方向と直交する方向であるX方向及びY方向を含む面内方向に縮む。つまり、図7に示す、圧電体層70のS(電界誘起歪み(変位量))-E(電界)の関係を示すバタフライ曲線において、領域Fを利用するように電界Eを印加することで、圧電体層70を電界方向である-Z方向に伸ばして、分極方向と直交する方向であるX方向及びY方向を含む面内方向に縮ませることができる。
【0090】
そして、圧電体層70がX方向及びY方向を含む面内方向に縮むことで、圧電アクチュエーター300は、圧力室12とは反対側である-Z方向に向かって撓み変形する。本実施形態では、図8に示すように、膨張要素P2によって、圧電アクチュエーター300は、圧力室12とは反対側である-Z側に凸状となるように撓み変形する。もちろん、膨張要素P2によって、圧電アクチュエーター300は、圧力室12側である+Z側に凸状のまま、突出量のみが小さくなるように変形してもよい。
【0091】
このように本実施形態の膨張要素P2によって、圧電アクチュエーター300が圧力室12の容積を膨張させる方向に変形することで、ノズル21内のメニスカスが圧力室12側に引き込まれると共に、圧力室12には共通液室35側からインクが供給される。
【0092】
本実施形態では、膨張要素P2によって、圧電アクチュエーター300には、第1電位V(10V)から第2電位V(-20V)までの30Vの駆動電圧Vが印加されるため、共通液室35から圧力室12に引き込まれるインクの体積を大きくすることができる。つまり、膨張要素P2によって圧力室12を膨張させる前の圧力室12の容積が、圧電アクチュエーター300に電圧が印加されていない基準容積だった場合、膨張要素P2によって圧電アクチュエーター300には、20Vの駆動電圧Vが印加されるに過ぎない。本実施形態では、膨張要素P2によって圧力室12を膨張させる前の圧力室12の容積を、基準容積よりも収縮させておくことで、膨張要素P2によって共通液室35から圧力室12に引き込まれるインクの体積を大きくすることができる。したがって、後の第1収縮要素P4によって圧力室12の容積を急激に収縮させてノズル21からインク滴を吐出させる際に、吐出されるインク滴の重量を増大させることができる。
【0093】
膨張維持要素P3は、圧電アクチュエーター300に第2電位V(ここでは-20V)を印加し続けて、膨張要素P2によって膨張した圧力室12の容積を一定時間維持する。
【0094】
第1収縮要素P4は、圧電アクチュエーター300に第2電位Vからグランド(GND)まで印加して、膨張維持要素P3によって膨張された圧力室12を電位が印加されていない基準容積まで収縮させる。
【0095】
この第1収縮要素P4によって、図8に示すように、圧力室12は膨張維持要素P3で膨張した容積から基準容積まで急激に収縮され、圧力室12内のインクが加圧されてノズル21からインク滴が吐出される。第1収縮要素P4よりも前の膨張要素P2において圧力室12内に引き込まれたインクの体積が大きいことから、第1収縮要素P4によってノズル21から吐出されるインク滴の重量を大きくすることができる。つまり、膨張要素P2によって生じた圧力室12内のインクの圧力変化が大きいため、第1収縮要素P4によって圧力室12内のインクに圧力変化を生じさせた際により大きな圧力変化を圧力室12内で生じさせることができ、吐出されるインク滴の重量を大きくすることができる。
【0096】
基準容積維持要素P5は、圧電アクチュエーター300に電位を印加しない状態を一定時間維持して、基準容積を一定時間維持する。
【0097】
この基準容積維持要素P5によって、圧力室12の基準容積まで収縮された状態は一定時間維持され、この間にインク滴の吐出によって減少した圧力室12内のインク圧力は、その固有振動によって上昇及び下降を繰り返しながら減衰する。
【0098】
第2収縮要素P6は、圧電アクチュエーター300にグランド(GND)から第1電位V(10V)まで印加して、圧力室12の容積を基準容積から収縮させる。
【0099】
第2収縮維持要素P7は、圧電アクチュエーター300に第1電位V(ここでは10V)を印加して圧力室12の容積を基準容積から収縮させた状態を維持する。
【0100】
これら第2収縮要素P6及び第2収縮維持要素P7における第1電位Vの絶対値は、第1収縮維持要素P1と同様に、圧電体層70の抗電界となる電位、所謂、抗電位Vcの絶対値を超えない大きさであることが好ましい(0<|V|≦|Vc|)。
【0101】
なお、第2収縮要素P6は、第1収縮要素P4によって低下した圧力室12内のインク圧力が、基準容積維持要素P5において、固有振動周期によって再び上昇したタイミングに合わせて供給するようにしてもよい。これにより、インク滴を吐出した後のメニスカスの振動を短時間で減衰させることができる。
【0102】
このような駆動信号250では、インク滴を吐出しない待機時である第1収縮維持要素P1及び第2収縮維持要素P7に、第1電位Vが中間電位として印加されているとも言える。
【0103】
以上説明したように、本発明の実施形態1に係る液体噴射装置であるインクジェット式記録装置Iでは、ノズル21に連通する圧力室12が形成された流路形成基板10と、流路形成基板10の一方面側に形成された振動板50と、振動板50の流路形成基板10とは反対面側に形成された第1電極60、圧電体層70、及び、第2電極80を有する圧電アクチュエーター300と、を具備する液体噴射ヘッドであるインクジェット式記録ヘッド1と、圧電アクチュエーター300を駆動する駆動信号250を供給する駆動手段であるプリンターコントローラー210及び駆動回路120と、を具備し、圧電アクチュエーター300は、第1電極60と第2電極80とにより圧電体層70が挟まれた能動部310を備え、能動部310は、第1電極60と圧電体層70と第2電極80との積層方向であるZ方向からの平面視において、圧力室12に対向する領域の中央部A以外の領域である縁部Bから圧力室12よりも外側まで延設され、駆動信号250は、圧電体層70に電界を印加しない圧力室12の基準容積から圧力室12を収縮させる収縮要素である第1収縮維持要素P1と、第1収縮維持要素P1によって収縮した圧力室12を膨張させる膨張要素P2と、を具備する。
【0104】
このように、中央部A以外の縁部Bから圧力室12の外側まで延設された能動部310を有する圧電アクチュエーター300を駆動する駆動信号250として、圧力室12を膨張する膨張要素P2の前に圧力室12を基準容積よりも収縮させる第1収縮維持要素P1を設けることで、膨張要素P2で振動板50を大きく撓み変形させて、圧力室12の容積変化を増大させることができる。したがって、膨張要素P2から圧力室12を収縮させてノズル21から液滴であるインク滴を吐出させる際に、インク滴の重量を増大させることができる。
【0105】
また、駆動信号250に第1収縮維持要素P1を設けることで、振動板50の初期撓みを制御する必要がない。したがって、振動板50の初期撓みが圧力室12側に凸状とするため、振動板50を構成する部材に梁形状ではないパターニングされた引っ張り応力を内在する部材を配置する必要がなく、振動板50に引っ張り応力が印加された際に、振動板50の破壊するのを抑制することができる。
【0106】
さらに、駆動信号250によってノズル21から吐出されるインク滴の重量を増大させることができるため、圧力室12のX方向の幅を広げて圧力室12の容積を広げる必要がなく、圧力室12をX方向に広げることによる振動板50の破壊を抑制することができる。また、圧力室12のX方向の幅を広げる必要がないため、圧力室12をX方向に高密度に配置することができ、ノズル21をX方向に高密度に配置して、記録ヘッド1のX方向の小型化及び高精度な印刷を実現することができる。
【0107】
また、本実施形態の液体噴射装置であるインクジェット式記録装置Iでは、収縮要素である第1収縮維持要素P1は、膨張要素P2とは反対の電界を圧電体層70に印加するものであることが好ましい。これによれば、第1収縮維持要素P1は、膨張要素P2とは反対方向の電界を圧電体層70に印加するだけで、容易に圧力室12を基準容積よりも収縮させることができる。
【0108】
また、本実施形態の液体噴射装置であるインクジェット式記録装置Iでは、収縮要素である第1収縮維持要素P1の電位である第1電位Vは、待機状態で常に印加されていることが好ましい。これによれば、圧電アクチュエーター300の中間電位として第1電位Vを印加し続けることができ、駆動信号250を簡略化することができる。
【0109】
また、本実施形態の液体噴射装置であるインクジェット式記録装置Iでは、収縮要素である第1収縮維持要素P1によって圧電アクチュエーター300に印加される電位である第1電位Vの絶対値は、圧電体層70の抗電界となる電位である抗電位の絶対値よりも小さいことが好ましい。これによれば、第1収縮維持要素P1によって圧電体層70の分極の反転を生じさせるのを抑制して、圧電体層70を効率よく変形させることができる。
【0110】
また、本実施形態の液体噴射装置であるインクジェット式記録装置Iでは、圧電アクチュエーター300に電位を印加しない場合の圧電体層内部に残留する分極又は双極子の向きは、第1電極60から第2電極80に向かう-Z方向であり、収縮要素である第1収縮維持要素P1では、第2電極80の電位をプラスにし、膨張要素P2では、第2電極の電位をマイナスにすることが好ましい。これによれば、第1収縮維持要素P1において、第2電極80にプラス電位を印加することで、圧電アクチュエーター300を圧力室12側に変形させて、圧力室12を基準容積よりも収縮させることができる。また、膨張要素P2において、第2電極80にマイナス電位を印加することで、圧電アクチュエーター300を圧力室12とは反対側に変形させて、圧力室12を基準容積よりも膨張させることができる。
【0111】
また、本実施形態の液体噴射装置であるインクジェット式記録装置Iでは、駆動信号250は、膨張要素P2の後、膨張要素P2によって膨張した圧力室12を基準容積まで収縮させる第2の収縮要素である第1収縮要素P4と、第1収縮要素P4の後、圧力室12を前記基準容積で一定時間維持する基準容積維持要素P5と、圧力室12を基準容積から収縮させる第3の収縮要素である第2収縮要素P6と、をさらに具備することが好ましい。これによれば、第1収縮要素P4や基準容積維持要素P5でグランド(GND)電位を用いることで、一定電圧を作り安く、綺麗な波形になり、吐出を安定させることができる。
【0112】
また、本実施形態の液体噴射装置であるインクジェット式記録装置Iにおいて、収縮要素である第1収縮維持要素P1では、圧電アクチュエーター300は、圧力室12側に凸状に変形した状態であることが好ましい。これによれば、第1収縮維持要素P1で、圧電アクチュエーター300を圧力室12側に凸状に変形させることで、インク滴の重量を増大させることができる。
【0113】
また、本実施形態の液体噴射ヘッドである記録ヘッド1の駆動方法では、ノズル21に連通する圧力室12が形成された流路形成基板10と、流路形成基板10の一方面側に形成された振動板50と、振動板50の流路形成基板10とは反対面側に形成された第1電極60、圧電体層70、及び、第2電極80を有する圧電アクチュエーター300と、を具備し、圧電アクチュエーター300は、圧力室12に対向する領域の中央部Aに、第1電極60と第2電極80とにより圧電体層70が挟まれた能動部310が設けられておらず、圧電体層70に電界を印加しない圧力室12の基準容積から圧力室12を収縮させる収縮要素である第1収縮維持要素P1と、第1収縮維持要素P1によって収縮した圧力室12を膨張させる膨張要素P2と、を具備する駆動信号250で圧電アクチュエーター300を駆動する。
【0114】
このように、中央部A以外の縁部Bから圧力室12の外側まで延設された能動部310を有する圧電アクチュエーター300を駆動する駆動信号250として、圧力室12を膨張する膨張要素P2の前に圧力室12を基準容積よりも収縮させる第1収縮維持要素P1を設けることで、膨張要素P2で振動板50を大きく撓み変形させて、圧力室12の容積変化を増大させることができる。したがって、膨張要素P2から圧力室12を収縮させてノズル21から液滴であるインク滴を吐出させる際に、インク滴の重量を増大させることができる。
【0115】
また、駆動信号250に第1収縮維持要素P1を設けることで、振動板50の初期撓みを制御する必要がない。したがって、振動板50の初期撓みが圧力室12側に凸状とするため、振動板50を構成する部材に梁形状ではないパターニングされた引っ張り応力を内在する部材を配置する必要がなく、振動板50に引っ張り応力が印加された際に、振動板50の破壊するのを抑制することができる。
【0116】
さらに、駆動信号250によってノズル21から吐出されるインク滴の重量を増大させることができるため、圧力室12のX方向の幅を広げて圧力室12の容積を広げる必要がなく、圧力室12をX方向に広げることによる振動板50の破壊を抑制することができる。また、圧力室12のX方向の幅を広げる必要がないため、圧力室12をX方向に高密度に配置することができ、ノズル21をX方向に高密度に配置して、記録ヘッド1のX方向の小型化及び高精度な印刷を実現することができる。
【0117】
(実施形態2)
図10は、本発明の実施形態2に係るバイアス電位、共通駆動信号、及び、駆動信号を示す駆動波形である。なお、上述した実施形態と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0118】
図10に示すように、圧電アクチュエーター300に供給される駆動信号251は、第1収縮維持要素P11と、膨張要素P12と、膨張維持要素P13と、収縮要素P14と、第2収縮維持要素P15と、を具備する。
【0119】
第1収縮維持要素P11は、上述した実施形態1の第1収縮維持要素P1と同様に、圧電アクチュエーター300に第1電位V(ここでは10V)を印加して圧力室12の容積を基準容積から収縮させた状態を維持する。本実施形態では、この第1収縮維持要素P11が、特許請求の範囲に記載の収縮要素に相当する。
【0120】
このように第1収縮維持要素P11を供給することで、圧電アクチュエーター300に電位を印加していない場合の姿勢、所謂、初期撓みがどのような姿勢であっても、圧電アクチュエーター300を確実に圧力室12側である+Z方向に変形した状態を維持することができる。
【0121】
また、第1収縮維持要素P11で圧電アクチュエーター300に印加する電位である第1電位Vの絶対値は、上述した実施形態1と同様に、圧電体層70の抗電位Vcの絶対値以下の大きさであることが好ましい(0<|V|≦|Vc|)。このように第1電位Vの絶対値を、圧電体層70の抗電位Vcの絶対値を超えない大きさとすることで、第1収縮維持要素P1によって圧電体層70の分極の反転を行わせずに、第1収縮維持要素P1によって圧電体層70を分極方向である-Z方向に縮ませることができる。
【0122】
膨張要素P12は、上述した実施形態1の膨張要素P2と同様に、圧電アクチュエーター300に第1電位V(10V)から第2電位V(ここでは-20V)まで印加して圧力室12の容積を第1収縮維持要素P11から膨張させる。本実施形態では、この膨張要素P12が、特許請求の範囲に記載の膨張要素に相当する。
【0123】
このように本実施形態の膨張要素P12によって、圧電アクチュエーター300が圧力室12の容積を膨張させる方向に変形することで、ノズル21内のメニスカスが圧力室12側に引き込まれると共に、圧力室12には共通液室35側からインクが供給される。
【0124】
本実施形態では、膨張要素P12によって、圧電アクチュエーター300には、第1電位V(10V)から第2電位V(-20V)までの30Vの駆動電圧Vが印加されるため、共通液室35から圧力室12に引き込まれるインクの体積を大きくすることができる。
【0125】
膨張維持要素P13は、上述した実施形態1の膨張維持要素P3と同様に、圧電アクチュエーター300に第2電位V(ここでは-20V)を一定時間印加し続けて、膨張要素P12によって膨張した圧力室12の容積を一定時間維持する。
【0126】
収縮要素P14は、圧電アクチュエーター300に第2電位V(-20V)から第1電位V(10V)まで印加して、圧力室12を急激に収縮させて、ノズル21からインク滴を吐出させる。この収縮要素P14よりも前の膨張要素P12において圧力室12内に引き込まれたインクの体積が大きいことから、収縮要素P14によってノズル21から吐出されるインク滴の重量を大きくすることができる。
【0127】
また、収縮要素P14では、圧電アクチュエーター300を第2電位Vから第1電位Vまで変形させて圧力室12を収縮させることで、上述した実施形態1の第1収縮要素P4よりも圧電アクチュエーター300に印加する電位を大きくして、圧電アクチュエーター300の変位量を大きくすることができる。したがって、収縮要素P14によってノズル21から吐出されるインク滴の重量を大きくすることができる。
【0128】
第2収縮維持要素P15は、圧電アクチュエーター300に第1電位V(ここでは10V)を印加して圧力室12の容積を基準容積から収縮させた状態を維持する。
【0129】
また、第1電位Vは、0Vより大きく、抗電位Vc以下の電位であり、この範囲の電位が圧電体層70に印加されると圧電体層70の弾性率は高くなる。このため第2収縮維持要素P15におけるインクの残留振動を速やかに制振することができる。したがって、駆動周波数を高める、つまり、1記録周期Tを短くすることができる。
【0130】
この第2収縮維持要素P15における第1電位Vの絶対値は、第1収縮維持要素P11と同様に、圧電体層70の抗電界となる電位、所謂、抗電位の絶対値を超えない大きさであることが好ましい。
【0131】
このような駆動信号251では、インク滴を吐出しない待機時である第1収縮維持要素P11及び第2収縮維持要素P15に、第1電位Vが中間電位として印加されているとも言える。
【0132】
このような本実施形態のインクジェット式記録装置Iであっても、中央部A以外の縁部Bから圧力室12の外側まで延設された能動部310を有する圧電アクチュエーター300を駆動する駆動信号250として、圧力室12を膨張する膨張要素P2の前に圧力室12を基準容積よりも収縮させる第1収縮維持要素P1を設けることで、膨張要素P2で振動板50を大きく撓み変形させて、圧力室12の容積変化を増大させることができる。したがって、膨張要素P2から圧力室12を収縮させてノズル21から液滴であるインク滴を吐出させる際に、インク滴の重量を増大させることができる。
【0133】
また、駆動信号250に第1収縮維持要素P1を設けることで、振動板50の初期撓みを制御する必要がない。したがって、振動板50の初期撓みが圧力室12側に凸状とするため、振動板50を構成する部材に梁形状ではないパターニングされた引っ張り応力を内在する部材を配置する必要がなく、振動板50に引っ張り応力が印加された際に、振動板50の破壊を抑制することができる。
【0134】
さらに、駆動信号250によってノズル21から吐出されるインク滴の重量を増大させることができるため、圧力室12のX方向の幅を広げて圧力室12の容積を広げる必要がなく、圧力室12をX方向に広げることによる振動板50の破壊を抑制することができる。また、圧力室12のX方向の幅を広げる必要がないため、圧力室12をX方向に高密度に配置することができ、ノズル21をX方向に高密度に配置して、記録ヘッド1のX方向の小型化及び高精度な印刷を実現することができる。
【0135】
また、収縮要素P14の後、第2収縮維持要素P15によって圧電体層70を分極方向に縮ませる第1電位Vを印加し続けることで、圧電体層70の弾性率を高くして、インクの残留振動を速やか制振することができる。したがって、駆動周波数を高める、つまり、1記録周期Tを短くすることができる。
【0136】
なお、本実施形態の駆動信号251は、インク滴を吐出した後、第2収縮維持要素P15によって第1電位Vが連続して印加されるようにしたが、特にこれに限定されない。ここで、駆動信号の変形例を図11に示す。
【0137】
図11に示すように、圧電アクチュエーター300に供給される駆動信号252は、第1収縮維持要素P11と、膨張要素P12と、膨張維持要素P13と、収縮要素P14と、第2収縮維持要素P15と、制振要素P16と、基準容積維持要素P17と、第2収縮要素P18と、第3収縮維持要素P19と、を具備する。
【0138】
第1収縮維持要素P11から第2収縮維持要素P15までは上述した図10と同じである。
【0139】
また、制振要素P16は、圧電アクチュエーター300に第1電位Vからグランド(GND)まで印加して、収縮要素P14によって収縮された圧力室12を電位が印加されていない基準容積まで収縮させる。この制振要素P16を印加するタイミング、すなわち、第2収縮維持要素P15の印加時間は、収縮要素P14によって低下した圧力室12内のインク圧力が、第2収縮維持要素P15において、固有振動周期によって再び上昇したタイミングに合わせて供給する。これにより、インク滴を吐出した後のメニスカスの振動を短時間で減衰させることができる。
【0140】
制振要素P16の後は、基準容積維持要素P17によって圧力室12の基準容積は一定時間維持される。
【0141】
その後、第2収縮要素P18によって圧力室12の容積は基準容積から収縮されて、第3収縮維持要素P19によって圧力室12の収縮した容積が一定時間維持される。
【0142】
また、本実施形態では、駆動信号251、252は、1記録周期T内に1つの吐出パルスDPを有するものとしたが、特にこれに限定されない。ここで、本実施形態の駆動信号の変形例を図12に示す。
【0143】
図12に示すように、圧電アクチュエーター300に供給される駆動信号253は、1記録周期T内に、第1吐出パルスDP1と、第2吐出パルスDP2と、第3吐出パルスDP3と、を具備する。
【0144】
第1吐出パルスDP1、第2吐出パルスDP2及び第3吐出パルスDP3のそれぞれは、特に図示していないが、上述した駆動信号251の吐出パルスDPと同様の波形形状であって、最小電圧である第2電圧が異なる波形形状を有する。つまり、第1吐出パルスDP1、第2吐出パルスDP2、及び、第3吐出パルスDP3のそれぞれは、第1収縮維持要素P11と、膨張要素P12と、膨張維持要素P13と、収縮要素P14と、第2収縮維持要素P15と、を有する。
【0145】
第1吐出パルスDP1の最小電位は、第2電位Vである。第2吐出パルスDP2の最小電位である第2電位V2Aは、第1吐出パルスDP1の第2電位Vよりも小さい。また、第3吐出パルスDP3の最小電位である第2電位V2Bは、第2吐出パルスDP2の第2電位V2Aよりも小さい。
【0146】
このような第1吐出パルスDP1、第2吐出パルスDP2及び第3吐出パルスDP3を有する駆動信号253が1記録周期T内に圧電アクチュエーター300に印加されると、記録シートSの1画素において大ドットが形成される。
【0147】
これに対して、図10に示す駆動信号251では、1記録周期T内に1つの吐出パルスDPが圧電アクチュエーター300に印加されるので、駆動信号253に比べて記録シートSの1画素に小ドットが形成される。
【0148】
この駆動信号251と駆動信号253とを使い分けることで、1画素に形成されるドットの大きさを使い分けることができ、高速で高精度な印刷を実現できる。
【0149】
また、大ドットを形成する駆動信号253では、各吐出パルスDP1、DP2、DP3の第1収縮維持要素P11で印加される第3電位Vを、上述した駆動信号251の第1収縮維持要素P11で印加される第1電位Vよりも大きくする。これにより、駆動信号253によって1画素にさらに大きな大ドットを容易に形成することができる。
【0150】
ちなみに、圧電体層70の分極方向が+Z方向の場合、又は、第1電極60が各能動部310の個別電極の場合には、駆動信号253の電位を反転させるため、第3電位Vは、第1電位Vよりも小さくする必要がある。つまり、駆動信号253における収縮要素である第1収縮維持要素P11の第3電位Vは、絶対値が第1電位Vの絶対値よりも小さくなればよい(|V|>|V|)。
【0151】
もちろん、第3電位Vの絶対値は、ゼロ(0)より大きく、圧電体層70の抗電位Vcの絶対値以下の大きさであることが好ましい(0<|V|≦|Vc|)。このように第3電位Vの絶対値を、圧電体層70の抗電位Vcの絶対値を超えない大きさとすることで、駆動信号251においても圧電体層70の分極の反転が生じるのを抑制することができる。
【0152】
また、本実施形態の液体噴射装置であるインクジェット式記録装置Iは、1画素に液滴であるインク滴を吐出する駆動信号251、253を示す駆動波形において、複数の収縮要素及び膨張要素を入力する際の収縮要素で圧電アクチュエーター300に印加される電位である第3電位Vの絶対値は、一つの収縮要素及び膨張要素を入力する際の収縮要素で圧電アクチュエーター300に印加される電位である第1電位Vの絶対値よりも大きいことが好ましい。これにより、第3電位Vを圧電アクチュエーター300に印加する駆動信号253によって、1画素にさらに大ドットを形成することができる。
【0153】
(実施形態3)
図13は、本発明の実施形態3に係るバイアス電位、共通駆動信号、及び、駆動信号を示す駆動波形である。なお、上述した実施形態と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0154】
図13に示すように、圧電アクチュエーター300に供給される駆動信号254は、第1収縮維持要素P21と、第1膨張要素P22と、膨張維持要素P23と、収縮要素P24と、第2収縮維持要素P25と、復帰要素P26と、第3収縮維持要素P27と、を具備する。
【0155】
第1収縮維持要素P21、第1膨張要素P22、膨張維持要素P23のそれぞれは、上述した実施形態1の第1収縮維持要素P1、膨張要素P2、膨張維持要素P3と同じであるため重複する説明は省略する。なお、本実施形態では、第1収縮維持要素P21及び第1膨張要素P22が、それぞれ特許請求の範囲に記載の収縮要素及び膨張要素に相当する。
【0156】
収縮要素P24は、圧電アクチュエーター300に第2電位V(-20V)から上述した実施形態1及び2の第1電位V(10V)よりも大きな第4電位V(ここでは、15V)を印加して、膨張維持要素P23によって膨張された圧力室12を基準容積よりも小さな容積まで収縮させる。
【0157】
この収縮要素P24によって、圧力室12内のインクが加圧されてノズル21からインク滴が吐出される。本実施形態では、収縮要素P24は、圧電アクチュエーター300に第2電位V(-20V)から第1電位V(10V)よりも大きな第4電位V(ここでは、15V)を印加することから、圧電アクチュエーター300を上述した実施形態2よりも大きく変形させて、ノズル21から吐出されるインク滴の重量をさらに大きくすることができる。
【0158】
ちなみに、圧電体層70の分極方向が+Z方向の場合、又は、第1電極60が各能動部310の個別電極の場合には、駆動信号254の電位を反転させるため、第4電位Vは、第1電位Vよりも小さくする必要がある。つまり、駆動信号254における収縮要素P24の第4電位Vは、絶対値が第1電位Vの絶対値よりも大きければよい(|V|>|V|)。
【0159】
なお、第4電位Vの絶対値は、第1電位Vと同様に、ゼロ(0)より大きく、圧電体層70の抗電位Vcの絶対値以下の大きさであることが好ましい(0<|V|≦|Vc|)。このように第1電位Vの絶対値を、圧電体層70の抗電位Vcの絶対値を超えない大きさとすることで、収縮要素P24によって圧電体層70の分極の反転を行わせずに、収縮要素P24によって圧電体層70を分極方向である-Z方向に縮ませることができる。
【0160】
第2収縮維持要素P25は、圧電アクチュエーター300に第4電位V(15V)を一定時間印加し続けて、収縮要素P24によって収縮した圧力室12の容積を一定時間維持する。
【0161】
復帰要素P26は、圧電アクチュエーター300に第4電位V(15V)から第1電位V(10V)まで印加して、圧力室12の容積を第2収縮維持要素P25による圧力室12の収縮した容積よりも大きく、基準容積よりも小さな容積に収縮させる。復帰要素P26は、圧力室12内の圧力が固有振動周期によって再び上昇したタイミングに合わせて供給することで、インク滴を吐出した後のメニスカスの振動を短時間で減衰させることができる。
【0162】
第3収縮維持要素P27は、圧電アクチュエーター300に第1電位V(10V)を印加して圧力室12の容積を基準容積から収縮させた状態を維持する。
【0163】
このような駆動信号254では、インク滴を吐出しない待機時である第1収縮維持要素P21及び第3収縮維持要素P27に、第1電位Vが中間電位として印加されているとも言える。
【0164】
このような本実施形態のインクジェット式記録装置Iであっても、中央部A以外の縁部Bから圧力室12の外側まで延設された能動部310を有する圧電アクチュエーター300を駆動する駆動信号250として、圧力室12を膨張する膨張要素P2の前に圧力室12を基準容積よりも収縮させる第1収縮維持要素P1を設けることで、膨張要素P2で振動板50を大きく撓み変形させて、圧力室12の容積変化を増大させることができる。したがって、膨張要素P2から圧力室12を収縮させてノズル21から液滴であるインク滴を吐出させる際に、インク滴の重量を増大させることができる。
【0165】
また、駆動信号250に第1収縮維持要素P1を設けることで、振動板50の初期撓みを制御する必要がない。したがって、振動板50の初期撓みが圧力室12側に凸状とするため、振動板50を構成する部材に梁形状ではないパターニングされた引っ張り応力を内在する部材を配置する必要がなく、振動板50に引っ張り応力が印加された際に、振動板50の破壊するのを抑制することができる。
【0166】
さらに、駆動信号250によってノズル21から吐出されるインク滴の重量を増大させることができるため、圧力室12のX方向の幅を広げて圧力室12の容積を広げる必要がなく、圧力室12をX方向に広げることによる振動板50の破壊を抑制することができる。また、圧力室12のX方向の幅を広げる必要がないため、圧力室12をX方向に高密度に配置することができ、ノズル21をX方向に高密度に配置して、記録ヘッド1のX方向の小型化及び高精度な印刷を実現することができる。
【0167】
また、収縮要素P24の後、第2収縮維持要素P25によって圧電体層70を分極方向に縮ませる第4電位Vを印加し続けることで、圧電体層70の弾性率を高くして、インクの残留振動を速やかに制振することができる。したがって、駆動周波数を高める、つまり、1記録周期Tを短くすることができる。
【0168】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0169】
例えば、上述した各実施形態では、圧電体層70の分極または双極子の向き(合わせて分極方向と称する)が第1電極60から第2電極80に向かう-Z方向としたが、特にこれに限定されない。例えば、圧電体層70の分極方向が、第2電極80から第1電極60に向かう+Z方向であってもよい。このように圧電体層70の分極方向が+Z方向の場合には、上述した駆動信号250~254の電位を反転させればよい。例えば、図7の駆動信号250の電位を反転させた駆動信号250Aを図14に示す。また、図10の駆動信号251の電位を反転させた駆動信号251Aを図15に示す。すなわち、図14及び図15に示すように、駆動信号250A、251Aでは、収縮要素である第1収縮維持要素P1、P11では、第1電極60を基準として第2電極80がマイナス(-)となるように第1電位Vが印加される。また、膨張要素P2、P12では、第1電極60を基準として第2電極80がプラス(+)となるように第2電位Vが印加される。
【0170】
以上説明したように、本実施形態の液体噴射装置であるインクジェット式記録装置Iでは、圧電アクチュエーター300に電位を印加しない場合の圧電体層70内部に残留する分極又は双極子の向きは、第2電極80から第1電極60に向かう+Z方向であり、収縮要素である第1収縮維持要素P1、P11では、第2電極80の電位をマイナスにし、膨張要素P2、P12では、第2電極80の電位をプラスにすることが好ましい。これにより、第1収縮維持要素P1、P11において、第2電極80にマイナス電位を印加することで、圧電アクチュエーター300を圧力室12側に変形させて、圧力室12を基準容積よりも収縮させることができる。また、膨張要素P2、P12において、第2電極80にプラス電位を印加することで、圧電アクチュエーター300を圧力室12とは反対側に変形させて、圧力室12を基準容積よりも膨張させることができる。
【0171】
また、上述した各実施形態では、第1電極60を複数の能動部310の共通電極とし、第2電極80を各能動部310の個別電極として、駆動信号250を第2電極80に供給するようにしたが、これに限定されない。例えば、第1電極60を能動部310毎に切り分けて個別電極とし、第2電極80を複数の能動部310に亘って共通する共通電極としてもよい。第1電極60を個別電極とした場合には、圧電体層70の分極方向が第1電極60から第2電極80に向かう-Z方向であっても、第1電極60には、駆動信号250~254の電位を反転させた駆動信号、例えば、図14及び図15に示す駆動信号250A、251Aを供給すればよい。
【0172】
また、上述した各実施形態では、インク滴を吐出する駆動信号250~254が収縮要素と膨張要素とを具備するものとしたが、特にこれに限定されず、インク滴を吐出しない微振動駆動などの駆動信号においても上述した各実施形態と同様に収縮要素と膨張要素とを具備するものを用いるようにしてもよい。
【0173】
また、上述した各実施形態では、駆動回路120から個別電極である第2電極80にプラス(+)の共通駆動信号COMを供給し、共通電極である第1電極60にプラス(+)のバイアス電位vbsを供給することで、第1電極60の電位を基準とした第2電極80の電位差がプラス(+)とマイナス(-)とを有する駆動信号250~254を圧電アクチュエーター300に供給するようにしたが、特にこれに限定されない。例えば、共通電極である第1電極60をグランド(GND)とし、駆動回路120から個別電極である第2電極80に直接、プラス(+)とマイナス(-)とを有する駆動信号250~254を供給するようにしてもよい。ただし、プラス(+)のみを有する駆動信号を供給する駆動回路の方が、プラス(+)とマイナス(-)とを有する駆動信号を供給可能な駆動回路に比べて安価である。したがって、上述した各実施形態のように、プラス(+)の共通駆動信号COMとプラス(+)のバイアス電位vbsとを用いて圧電アクチュエーター300にプラス(+)とマイナス(-)とを有する駆動信号250~254を供給することで、安価な駆動回路120を用いることができ、コストを低減することができる。
【0174】
また、上述した各実施形態の駆動信号250~254では、インク滴を吐出しない待機時、第1電位Vが中間電位として印加されているようにしたが、特にこれに限定されない。ここで、駆動信号の変形例を図16に示す。なお、図16は、他の実施形態に係る駆動信号を示す駆動波形である。
【0175】
図16に示すように、圧電アクチュエーター300に供給される駆動信号255は、第1収縮要素P31と、収縮維持要素P32と、膨張要素P33と、膨張維持要素P34と、第2収縮要素P35と、を具備する。
【0176】
第1収縮要素P31は、圧電アクチュエーター300にグランド(GND)から第1電位V(ここでは10V)を印加して圧力室12を基準容積よりも収縮させる。
【0177】
収縮維持要素P32は、圧力室12の収縮した容積を一定時間維持する。図16に示す例では、収縮維持要素P32又は第1収縮要素P31及び収縮維持要素P32が、特許請求の範囲に記載の収縮要素に相当する。
【0178】
膨張要素P33は、圧電アクチュエーター300に第1電位V(10V)から第2電位V(ここでは-20V)まで印加して圧力室12の容積を収縮維持要素P32から膨張させる。本実施形態では、この膨張要素P33が、特許請求の範囲に記載の膨張要素に相当する。
【0179】
膨張維持要素P34は、圧電アクチュエーター300に第2電位V(ここでは-20V)を印加し続けて、膨張要素P33によって膨張した圧力室12の容積を一定時間維持する。
【0180】
第2収縮要素P35は、圧電アクチュエーター300に第2電位Vからグランド(GND)まで印加して、膨張維持要素P34によって膨張された圧力室12を電位が印加されていない基準容積まで急激に収縮させる。この第2収縮要素P35によって圧力室12内のインクの圧力が高まり、ノズル21からインク滴が吐出される。
【0181】
このような駆動信号255では、中間電位は、グランド(GND)であり、インク滴を吐出するために圧力室12を基準容積よりも膨張させる膨張要素P33の前に、圧力室12を基準容積よりも収縮させる収縮要素である収縮維持要素P32が一時的に供給されればよい。
【0182】
また、上述した例では、インクジェット式記録装置Iは、液体貯留手段であるインクカートリッジ2がキャリッジ3に搭載された構成を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクタンク等の液体貯留手段を装置本体4に固定して、液体貯留手段と記録ヘッド1とをチューブ等の供給管を介して接続してもよい。また、液体貯留手段がインクジェット式記録装置に搭載されていなくてもよい。
【0183】
また、上述したインクジェット式記録装置Iでは、記録ヘッド1がキャリッジ3に搭載されて主走査方向であるY方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、記録ヘッド1が固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向であるX方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0184】
さらに、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種のインクジェット式記録ヘッド等の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0185】
I…インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、1…インクジェット式記録ヘッド、2…インクカートリッジ、3…キャリッジ、4…装置本体、5…キャリッジ軸、6…駆動モーター、7…タイミングベルト、8…搬送ローラー、10…流路形成基板、12…圧力室、20…ノズルプレート、21…ノズル、30…共通液室基板、31…第1流路、32…第2流路、34…第2収縮要素、35…共通液室、40…コンプライアンス基板、41…封止膜、42…固定基板、43…開口部、49…コンプライアンス部、50…振動板、60…第1電極、70…圧電体層、80…第2電極、90…リード電極、91…個別リード電極、92…共通リード電極、100…流路ユニット、110…保護膜、111、112…コンタクトホール、120…駆動回路、121…配線基板、122…シフトレジスター、123…ラッチ回路、124…レベルシフター、125…スイッチ、200…制御装置、210…プリンターコントローラー、211…外部インターフェース、212…RAM、212A…受信バッファー、212B…中間バッファー、212C…出力バッファー、213…ROM、214…制御処理部、215…発振回路、216…駆動信号生成回路、217…電源生成回路、218…内部インターフェース、220…プリントエンジン、221…機構、222…キャリッジ機構、230…外部装置、250、250A、251、251A、252、253、254、255…駆動信号、300…圧電アクチュエーター、310…能動部、A…中央部、B…縁部、C…可動領域、COM…共通駆動信号、DP…吐出パルス、DP1…第1吐出パルス、DP2…第2吐出パルス、DP3…第3吐出パルス、P1…第1収縮維持要素、P2…膨張要素、P3…膨張維持要素、P4…第1収縮要素、P5…基準容積維持要素、P6…第2収縮要素、P7…第2収縮維持要素、P11…第1収縮維持要素、P12…膨張要素、P13…膨張維持要素、P14…収縮要素、P15…第2収縮維持要素、P16…制振要素、P17…基準容積維持要素、P18…第2収縮要素、P19…第3収縮維持要素、P21…第1収縮維持要素、P22…第1膨張要素、P23…膨張維持要素、P24…収縮要素、P25…第2収縮維持要素、P26…復帰要素、P27…第3収縮維持要素、P31…第1収縮要素、P32…収縮維持要素、P33…膨張要素、P34…膨張維持要素、P35…第2収縮要素、S…記録シート、T…単位周期(吐出周期、記録周期)、V…駆動電圧、V…第1電位、V、V2A、V2B…第2電位、V…第3電位、V…第4電位、vbs…バイアス電位、Vc…抗電位
図1
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