IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーエプソン株式会社の特許一覧

特許7400413インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置
<>
  • 特許-インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置 図1
  • 特許-インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置 図2
  • 特許-インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置 図3
  • 特許-インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置 図4
  • 特許-インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20231212BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231212BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20231212BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M5/00 120
B41M5/00 132
B41J2/01 125
B41J2/01 501
C09D11/30
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019216582
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021084391
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】浅川 裕太
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-176900(JP,A)
【文献】特開2017-043701(JP,A)
【文献】特開2017-105134(JP,A)
【文献】特開2017-088846(JP,A)
【文献】特開2018-080313(JP,A)
【文献】特開2018-127536(JP,A)
【文献】特開2005-111809(JP,A)
【文献】特開2020-019843(JP,A)
【文献】特開2019-064087(JP,A)
【文献】特開2014-091772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系インク組成物を、インクジェットヘッドから吐出させて記録媒体に付着させるインク付着工程と、
前記記録媒体を搬送方向に搬送する工程と、
前記インク付着工程後に、前記記録媒体を加熱する加熱工程と、
を備え、
前記水系インク組成物は、樹脂粒子と、ワックスと、を含有し、
前記樹脂粒子の体積平均粒子径Aが90.0nm以上であり、
前記ワックスの体積平均粒子径Bが150.0nm以上であり、
前記樹脂粒子の体積平均粒子径Aと前記ワックスの体積平均粒子径Bとの比(B/A)が、1.0以上であり、
前記インク付着工程を、プラテンに支持された前記記録媒体に行い、
前記加熱工程を、前記プラテンよりも前記搬送方向の下流側で、赤外線の照射により行う、インクジェット記録方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記樹脂粒子の体積平均粒子径Aが、150.0nm以上300.0nm以下であり、
前記ワックスの体積平均粒子径Bが、150.0nm以上300.0nm以下である、インクジェット記録方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記比(B/A)が、1.0以上2.5以下である、インクジェット記録方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記樹脂粒子のガラス転移温度が、60.0℃以上90.0℃以下である、インクジェット記録方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
前記ワックスの融点が、105.0℃以上140.0℃以下である、インクジェット記録方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項において、
前記加熱工程における前記記録媒体の表面温度が、前記樹脂粒子のガラス転移温度以上であり、前記ワックスの融点未満である、インクジェット記録方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項において、
前記ワックスが、ポリオレフィンワックスである、インクジェット記録方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項において、
前記加熱工程が、送風機構により記録媒体の周囲の空気を移動させる工程をさらに備える、インクジェット記録方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか一項において、
前記樹脂粒子の材質が、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂から選択される、インクジェット記録方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか一項において、
前記樹脂粒子の、インクの総質量に対する含有量が、0.5質量%以上15.0質量%以下であり、
前記ワックスの、インクの総質量に対する含有量が、0.1質量%以上2.0質量%以下である、インクジェット記録方法。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか一項において、
前記加熱工程において、前記記録媒体のある部分の表面温度が80.0℃以上となる期間が20.0秒以上120.0秒以下である、インクジェット記録方法。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか一項において、
凝集剤を含有する処理液を記録媒体に付着する工程をさらに備える、インクジェット記録方法。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか一項において、
前記ワックスが、ノニオン分散型ワックスである、インクジェット記録方法。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか一項において、
前記水系インク組成物が、標準沸点が180.0℃以上280.0以下の有機溶剤を、20.0質量%以上35.0質量%以下含む、インクジェット記録方法。
【請求項15】
請求項1ないし請求項14のいずれか一項において、
前記ワックスの体積平均粒子径Bが、200.0nm以上である、インクジェット記録方法。
【請求項16】
請求項1ないし請求項15のいずれか一項において、
前記水系インク組成物が、さらに色材を含有する、インクジェット記録方法。
【請求項17】
請求項1ないし請求項15のいずれか一項において、
前記加熱工程における前記記録媒体の表面温度が、60℃以上である、インクジェット記録方法。
【請求項18】
請求項1ないし請求項17のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法を行う、記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置のインクジェットヘッドのノズルから微小なインク滴を吐出させて、記録媒体上に画像を記録するインクジェット記録方法が知られており、サイン印刷分野、高速ラベル印刷分野での使用も検討されている。そして、インク低吸収性の記録媒体(例えば、アート紙やコート紙)又はインク非吸収性の記録媒体(例えば、プラスチックフィルム)に対して画像の記録を行う場合、インクとして、地球環境面及び人体への安全性等の観点から、樹脂エマルジョンを含有する水系レジンインク組成物(以下単に「水系インク組成物」又は「水系インク」ということがある。)の使用が検討されている。
【0003】
水系インクでは、記録物の耐擦性向上のために、定着樹脂としての樹脂微粒子に加えて、ワックスを含有させる技術が知られている。例えば、特許文献1には、ポリオレフィンワックスと、樹脂分散体と、水と、界面活性剤と、を含有する水系インクであって、界面活性剤の含有量と、樹脂分散体の樹脂及びポリオレフィンワックスの合計の含有量が特定の範囲に設計された水系インクが開示されている。また、特許文献1には、水系インクにおける界面活性剤の量を調節することで定着性、耐擦性及び画質が良好となる旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-162341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発明者の検討の結果、水系インクで得られる画像の耐擦性には、配合される樹脂粒子やワックス粒子の粒子径が関与することが分かってきた。
【0006】
しかし、樹脂粒子やワックス粒子の粒子径を調節しても、優れた耐擦性及びインクジェットヘッドのノズルの目詰まり回復性を両立させる点において、未だ十分ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、
水系インク組成物を、インクジェットヘッドから吐出させて記録媒体に付着させるインク付着工程と、
前記インク付着工程後に、前記記録媒体を加熱する加熱工程と、
を備え、
前記水系インク組成物は、樹脂粒子と、ワックスと、を含有し、
前記樹脂粒子の体積平均粒子径Aが90.0nm以上であり、
前記樹脂粒子の体積平均粒子径Aと前記ワックスの体積平均粒子径Bとの比(B/A)が、0.7以上であり、
前記加熱工程を、赤外線の照射により行う。
【0008】
(2)上記態様(1)において、
前記樹脂粒子の体積平均粒子径Aが、150.0nm以上300.0nm以下であり、
前記ワックスの体積平均粒子径Bが60.0nm以上300.0nm以下であってもよ
い。
【0009】
(3)上記態様(1)又は(2)において、
前記比(B/A)が、0.7以上2.5以下であってもよい。
【0010】
(4)上記態様(1)ないし(3)のいずれかにおいて、
前記樹脂粒子のガラス転移温度が、60.0℃以上90.0℃以下であってもよい。
【0011】
(5)上記態様(1)ないし(5)のいずれかにおいて、
前記ワックスの融点が、105.0℃以上140.0℃以下であってもよい。
【0012】
(6)上記態様(1)ないし(5)のいずれかにおいて、
前記加熱工程における前記記録媒体の表面温度が、前記樹脂粒子のガラス転移温度以上であり、前記ワックスの融点未満であってもよい。
【0013】
(7)上記態様(1)ないし(6)のいずれかにおいて、
前記ワックスが、ポリオレフィンワックスであってもよい。
【0014】
(8)上記態様(1)ないし(7)のいずれかにおいて、
前記加熱工程が、送風機構により記録媒体の周囲の空気を移動させる工程をさらに備えてもよい。
【0015】
(9)上記態様(1)ないし(8)のいずれかにおいて、
前記樹脂粒子の材質が、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂から選択されてもよい。
【0016】
(10)上記態様(1)ないし(9)のいずれかにおいて、
前記樹脂粒子の、インクの総質量に対する含有量が、0.5質量%以上15.0質量%以下であり、
前記ワックスの、インクの総質量に対する含有量が、0.1質量%以上2.0質量%以下であってもよい。
【0017】
(11)上記態様(1)ないし(10)のいずれかにおいて、
前記加熱工程において、前記記録媒体のある部分の表面温度が80.0℃以上となる期間が20.0秒以上120.0秒以下であってもよい。
【0018】
(12)上記態様(1)ないし(11)のいずれかにおいて、
凝集剤を含有する処理液を記録媒体に付着する工程をさらに備えてもよい。
【0019】
(13)上記態様(1)ないし(12)のいずれかにおいて、
前記ワックスが、ノニオン分散型ワックス又はノニオン性乳化剤により分散されたワックスであってもよい。
【0020】
(14)上記態様(1)ないし(13)のいずれかにおいて、
前記水系インク組成物が、標準沸点が180.0℃以上280.0以下の有機溶剤を、20.0質量%以上35.0質量%以下含んでもよい。
【0021】
(15)本発明に係るインクジェット記録装置の一態様は、
上記態様(1)ないし(14)のいずれかのインクジェット記録方法を行う。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態のインクジェット記録装置の一例の概略図。
図2】実施形態のインクジェット記録装置の一例のキャリッジ周辺の概略図。
図3】赤外線ヒーターの断面の模式図。
図4】実施形態のインクジェット記録装置の一例のブロック図。
図5】ライン型の記録装置の一部分を模式的に示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0024】
1.インクジェット記録方法
本実施形態のインクジェット記録方法は、水系インク組成物を、インクジェットヘッドから吐出させて記録媒体に付着させるインク付着工程と、インク付着工程後に、記録媒体を加熱する加熱工程と、を備える。
【0025】
1.1.インク付着工程
水系インク組成物を、インクジェットヘッドから吐出させて記録媒体に付着させる。以下まず、水系インク組成物、インクジェットヘッド及び記録媒体について述べる。
【0026】
1.1.1.水系インク組成物
前記水系インク組成物は、樹脂粒子と、ワックスと、水と、を含有する。
【0027】
1.1.1.1.樹脂粒子
本実施形態に係る水系インク組成物は、樹脂粒子を含有する。樹脂粒子は、記録媒体に付着させた水系インク組成物の成分の密着性や耐擦過性を向上させる、いわゆる定着用樹脂としての機能を有している。
【0028】
このような樹脂粒子としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、フルオレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、エチレン酢酸ビニル系樹脂等からなる樹脂粒子が挙げられる。これらの樹脂粒子は、エマルジョン形態で取り扱われることが多いが、粉体の性状であってもよい。また、樹脂粒子は1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
ウレタン系樹脂とは、ウレタン結合を有する樹脂の総称である。ウレタン系樹脂には、ウレタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂等を使用してもよい。ウレタン系樹脂としては、市販品を用いてもよく、例えば、スーパーフレックス 210、460、460s、840、E-4000(商品名、第一工業製薬株式会社製)、レザミン D-1060、D-2020、D-4080、D-4200、D-6300、D-6455(商品名、大日精化工業株式会社製)、タケラック WS-6020、WS-6021、W-512-A-6(商品名、三井化学ポリウレタン株式会社製)、サンキュアー2710(商品名、LUBRIZOL社製)、パーマリンUA-150(商品名、三洋化成工業社製)などの市販品の中から選択して用いてもよい。
【0030】
アクリル系樹脂は、少なくとも(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなど
のアクリル系単量体を1成分として重合して得られる重合体の総称であって、例えば、アクリル系単量体から得られる樹脂や、アクリル系単量体とこれ以外の単量体との共重合体などが挙げられる。例えばアクリル系単量体とビニル系単量体との共重合体であるアクリル-ビニル系樹脂などが挙げられる。さらに例えば、スチレンなどのビニル系単量体との共重合体が挙げられる。アクリル系単量体としてはアクリルアミド、アクリロニトリル等も使用可能である。
【0031】
アクリル系樹脂を原料とする樹脂エマルジョンには、市販品を用いてもよく、例えばFK-854、モビニール952B、718A(商品名、ジャパンコーティングレジン社製)、NipolLX852、LX874(商品名、日本ゼオン社製)、ポリゾールAT860(商品名、昭和電工株式会社製)、ボンコートAN-1190S、YG-651、AC-501、AN-1170、4001(商品名、DIC社製)等の中から選択して用いてもよい。
【0032】
なお、本明細書において、アクリル系樹脂は、上述のようにスチレンアクリル系樹脂であってもよい。また、本明細書において、(メタ)アクリルとの表記は、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味する。
【0033】
スチレンアクリル系樹脂は、スチレン単量体とアクリル系単量体とから得られる共重合体であり、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、等が挙げられる。スチレンアクリル系樹脂には、市販品を用いても良く、例えば、ジョンクリル62J、7100、390、711、511、7001、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(商品名、BASF社製)、モビニール966A、975N(商品名、ジャパンコーティングレジン社製)などが挙げられる。
【0034】
塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体であってもよい。エステル系樹脂としては、アクリル酸エステルを単量体として含む重合体を挙げることができ、例えば、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体等を例示できる。
【0035】
ポリオレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンを構造骨格に有するものであり、公知のものを適宜選択して用いることができる。オレフィン系樹脂としては、市販品を用いることができ、例えばアローベースCB-1200、CD-1200(商品名、ユニチカ株式会社製)等から選択して用いてもよい。
【0036】
樹脂粒子は、エマルジョンの形態で供給されてもよく、そのような樹脂エマルジョンの市販品の例としては、マイクロジェルE-1002、E-5002(商品名、日本ペイント社製、スチレンアクリル系樹脂エマルジョン)、ボンコートAN-1190S、YG-651、AC-501、AN-1170、4001、5454(商品名、DIC社製、スチレンアクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールAM-710、AM-920、AM-2300、AP-4735、AT-860、PSASE-4210E(アクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールAP-7020(スチレンアクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールSH-502(酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ポリゾールAD-13、AD-2、AD-10、AD-96、AD-17、AD-70(エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ポリゾールPSASE-6010(エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)(以上商品名、昭和電工社製)、ポリゾールSAE1014(商品名、日本ゼオン社製
、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン)、サイビノールSK-200(商品名、サイデン化学社製、アクリル系樹脂エマルジョン)、AE-120A(商品名、JSR社製、アクリル系樹脂エマルジョン)、AE373D(商品名、イーテック社製、カルボキシ変性スチレンアクリル系樹脂エマルジョン)、セイカダイン1900W(商品名、大日精化工業社製、エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2682(アクリル系樹脂エマルジョン)、ビニブラン2886(酢酸ビニル・アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン5202(酢酸アクリル樹脂エマルジョン)(以上商品名、日信化学工業社製)、ビニブラン700、2586(商品名、日信化学工業社製)、エリーテルKA-5071S、KT-8803、KT-9204、KT-8701、KT-8904、KT-0507(商品名、ユニチカ社製、ポリエステル樹脂エマルジョン)、ハイテックSN-2002(商品名、東邦化学社製、ポリエステル樹脂エマルジョン)、タケラックW-6020、W-635、W-6061、W-605、W-635、W-6021(商品名、三井化学ポリウレタン社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、スーパーフレックス870、800、150、420、460、470、610、620、700(商品名、第一工業製薬社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、パーマリンUA-150(商品名、三洋化成工業株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、サンキュアー2710(商品名、日本ルーブリゾール社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、NeoRez R-9660、R-9637、R-940(商品名、楠本化成株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、アデカボンタイター HUX-380,290K(商品名、株式会社ADEKA製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、モビニール966A、モビニール7320(商品名、ジャパンコーティングレジン社製)、ジョンクリル7100、390、711、511、7001、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(以上商品名、BASF社製)、NKバインダーR-5HN(商品名、新中村化学工業株式会社製)、ハイドランWLS-210(商品名、DIC株式会社製、非架橋性ポリウレタン)、ジョンクリル7610(商品名、BASF社製)等から選択して用いてもよい。
【0037】
また、樹脂粒子の材質としては、これらのうち、密着性や耐擦性がより優れる点で、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂から選択されることがより好ましい。さらに、樹脂粒子として、ウレタン系樹脂やアクリル系樹脂の樹脂粒子が含まれると、記録媒体に付着させた水系インク組成物の成分の密着性や耐擦過性をさらに高めることができ好ましい。
【0038】
水系インク組成物における樹脂粒子の含有量は、水系インク組成物の全質量に対して、固形分として、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上15.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上15.0質量%以下、よりさらに好ましくは2.0質量%以上10.0質量%以下、である。
【0039】
本実施形態の水系インク組成物に含まれる樹脂粒子の体積基準の平均粒子径(D50)(以下、体積平均粒子径ともいう)は、90.0nm以上である。樹脂粒子の体積平均粒子径が90.0nm以上であることにより、インクジェットヘッドのノズル内において、水系インク組成物中の樹脂粒子が互いに溶着することが抑えられ、インクジェットヘッドの目詰まりを低減することができる。このような観点から、樹脂粒子の体積平均粒子径は、100.0nm以上がより好ましく、150.0nm以上がさらに好ましく、180.0nm以上がよりさらに好ましい。また、記録媒体上で二次加熱により溶融、変形して良好な塗膜を形成できる観点で、樹脂粒子の体積平均粒子径の上限は、好ましくは300nm以下、さらには250.0nm以下、より好ましくは220.0nm以下である。さらに好ましくは150nm以下である。
【0040】
樹脂粒子や後述するワックスの体積平均粒子径は、例えば、これらを分散する工程において、用いる乳化剤の添加量や種類によって調整することができる。また樹脂やワックスを乳化重合して得る場合は、乳化重合の際に用いる乳化剤の種類や添加量によって調整することができる。乳化重合の場合、重合により乳化(分散)も同時に行われる。乳化重合時に用いる乳化剤の添加量や種類で分散の具合が異なり平均粒子径が調整できる。また、重合工程や分散工程における。攪拌速度、温度、冷却速度、圧力、などの分散条件を調整して、調整することもできる。また、また得られた分散液に濾過を行い、フィルターのサイズを調整することで調整することもできる。こうして所望の体積平均粒子径を有する樹脂粒子やワックスを得ればよい。
【0041】
樹脂粒子及び後述のワックスの体積平均粒子径は、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。粒度分布測定装置としては、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、「マイクロトラックUPA」日機装株式会社製)が挙げられる。
【0042】
樹脂粒子を構成する樹脂のガラス転移温度は、記録媒体で膜化しやすく密着性が優れることで耐擦性がより優れる点で、100℃未満が好ましい。また、50℃以上100℃未満が好ましく、60.0℃以上90.0℃以下であることがより好ましい。樹脂粒子を構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)や、ワックスの融点は、示差走査熱量分析(DSC)等を用いた定法により確認できる。
【0043】
樹脂粒子のガラス転移点は、樹脂を重合する際の、用いる単量体モノマーの種類やそれらの組成比を調整することで、調整することができる。
【0044】
樹脂粒子を構成する樹脂は、重量平均分子量として、1万以上が好ましく、より好ましくは3万以上、さらに好ましくは5万以上を有する。分子量の上限は限るものではないが、例えば好ましくは15万以下であり、10万以下である。
【0045】
1.1.1.2.ワックス
本実施形態の水系インク組成物は、ワックスを含む。ワックスとしては、例えばカルナバワックス、キャンデリワックス、みつろう、ライスワックス、ラノリン等の植物・動物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス;カーボンワックス、ヘキストワックス、ポリオレフィンワックス、ステアリン酸アミド等の合成ワックス類、α-オレフィン・無水マレイン酸共重合体等の天然・合成ワックスエマルジョンや配合ワックス等を単独あるいは複数種を混合して用いることができる。これらの中でも、画像の耐擦性を高める効果により優れるという観点から、ポリオレフィンワックス(特に、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス)を用いることが好ましい。
【0046】
ワックスとしては市販品をそのまま利用することもでき、例えば、ノプコートPEM-17(商品名、サンノプコ株式会社製)、ケミパールW4005(商品名、三井化学株式会社製)、AQUACER515、539、593(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0047】
記録方法における加熱工程において、ワックスが溶融しすぎて、その性能が低下することを抑制するという観点から、ワックスの融点は、100.0℃以上180.0℃以下が好ましく、より好ましくは105.0℃以上140℃以下、さらに好ましくは110.0℃以上135.0℃以下である。
【0048】
また、ワックスの融点は、上述した樹脂粒子のガラス転移温度よりも高いことが好ましい。これにより、記録媒体上での二次加熱の温度を、ワックスの融点及び樹脂粒子のガラス転移温度の間の温度に設定することで、樹脂粒子を適切に膜化するとともにワックスを溶融させすぎないという効果が得られる。ワックスを溶融させすぎるないほうが、ワックスが皮膜化し難い点で好ましい。ワックスの融点及び樹脂粒子のガラス転移温度の差は、例えば、20.0℃以上、好ましくは40℃以上、さらには50.0℃以上、より好ましくは80.0℃以上である。一方、差の上限は、限るものではないが、例えば90℃以下が好ましく、70℃以下が好ましく、60℃以下が好ましく、50℃以下が好ましい。
【0049】
ワックスの融点は、上述の樹脂粒子のガラス転移点の調整と同様に。ワックスを重合して得る際に、用いる単量体モノマーの種類や組成比を調整して、調整することができる。また、ワックスの重量平均分子量を調整して、調整することもできる。
【0050】
ワックスは、エマルジョンあるいはサスペンションの形態で供給されてもよい。ワックスの含有量は、水系インク組成物の全質量に対して、固形分換算で0.05質量%以上5.0質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上5.0質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上2.0質量%以下である。ワックスの含有量が上記範囲内にあると、記録された画像の耐擦性を良好に発揮できる。
【0051】
本実施形態の水系インク組成物に含まれるワックスの体積平均粒子径(D50)は、60.0nm以上が好ましい。ワックスの体積平均粒子径が60.0nm以上であることにより、得られる画像の耐擦性を十分に得ることができる。このような観点から、ワックスの体積平均粒子径は、80.0nm以上がより好ましく、150.0nm以上がさらに好ましく、200.0nm以上がよりさらに好ましい。また、インクジェットヘッドの目詰まりを低減できる観点から、ワックスの体積平均粒子径の上限は、例えば、300nm以下、さらには240.0nm以下、より好ましくは200.0nm以下である。
【0052】
ワックスは、重量平均分子量として、好ましくは1万未満の分子量を有し、より好ましくは8千以下、さらには6千以下、よりさらには4千以下の、数千程度の分子量を有する。分子量の下限は、好ましくは千以上である。樹脂とワックスの区別の方法として上記の分子量により区別するとしてもよい。
【0053】
ワックスは、ノニオン分散型ワックス、アニオン分散型ワックス、カチオン分散型ワックスなどを用いることができる。ノニオン分散型ワックスは、ノニオン性乳化剤を用いてワックスを分散させたものや、ワックス自身がノニオン性であり乳化剤を用いずに自己分散しているワックスである。ワックス分散液を調製した際に、該分散液がノニオン性であるワックスである。
【0054】
アニオン分散型ワックスは、アニオン性乳化剤を用いてワックスを分散させたものや、ワックス自身がアニオン性であり乳化剤を用いずに自己分散しているワックスである。ワックス分散液を調製した際に、該分散液がアニオン性であるワックスである。
【0055】
カチオン分散型ワックスは、カチオン性乳化剤を用いてワックスを分散させたものや、ワックス自身がカチオン性であり乳化剤を用いずに自己分散しているワックスである。ワックス分散液を調製した際に、該分散液がカチオン性であるワックスである。
【0056】
このうち、アニオン分散型ワックス、ニオン分散型ワックスが、インクの保存安定性などが優れ好ましい。また、処理液を用いる場合の記録物耐擦性がより優れる点でノニオン分散型ワックスが好ましい。
【0057】
1.1.1.3.樹脂粒子とワックスの粒子径
本実施形態の水系インク組成物において、樹脂粒子の体積平均粒子径Aと、ワックスの体積平均粒子径Bとの比(B/A)は、0.7以上である。さらには、0.9以上がこのましく、1.0以上がより好ましく、1.5以上がさらに好ましい。当該比の上限は、例えば、5.0以下、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2.0以下である。
【0058】
また、樹脂粒子の体積平均粒子径Aが、150.0nm以上300.0nm以下であり、かつ、ワックスの体積平均粒子径Bが60.0nm以上300.0nm以下となるように設計することがさらに好ましい。特に、比(B/A)が、0.7以上2.5以下である場合に、樹脂粒子及びワックスの体積平均粒子径が上記範囲とすることが好ましい。
【0059】
1.1.1.4.水
水系インク組成物は、水を含有する。水は、水系インク組成物の主となる媒体であり、乾燥により蒸発飛散する成分である。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。また、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、インクを長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を抑制できるので好適である。
【0060】
水系インク組成物は、水を主溶媒として含み、水を45質量%以上含有する組成物である。いわゆる水系インクである。水系インクは、臭気も抑えられており、かつ、その組成の45質量%以上が水であるので環境にも良いという利点がある。
【0061】
1.1.1.5.その他の成分
本実施形態の水系インク組成物は、以下の成分を含んでもよい。
(有機溶剤)
本実施形態に係る水系インク組成物は、有機溶剤を含んでもよい。有機溶媒を含むことにより、例えば、記録物の乾燥性を高めることや、画像の堅牢性を高めることができる場合がある。また、有機溶剤を含むことで、水系インク組成物の吐出安定性を向上できる。有機溶剤は水溶性の有機溶剤であることが好ましい。
【0062】
また、有機溶剤の機能の一つとしては、記録媒体に対する水系インク組成物の濡れ性を向上させることや、水系インク組成物の保湿性を高めることが挙げられる。また、水系インク組成物の表面張力を下げ、インクジェットヘッドから吐出する場合に液滴としてノズルから分離して飛翔しやすくさせ、記録媒体での濡れ性を向上させインク滴の広がりを優れたものにできる。
【0063】
有機溶剤としては、エステル類、アルキレングリコールエーテル類、環状エステル類、含窒素溶剤、多価アルコール等を挙げることができる。含窒素溶剤としては環状アミド類、非環状アミド類などを挙げることができる。非環状アミド類としてはアルコキシアルキルアミド類などが挙げられる。
【0064】
エステル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メトキシブチルアセテート、等のグリコールモノアセテート類、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールアセテ
ートプロピオネート、エチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールアセテートプロピオネート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、プロピレングリコールアセテートプロピオネート、プロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールアセテートプロピオネート、等のグリコールジエステル類が挙げられる。
【0065】
環状エステル類としては、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、β-ヘキサノラクトン、γ-ヘキサノラクトン、δ-ヘキサノラクトン、β-ヘプタノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、δ-ヘプタノラクトン、ε-ヘプタノラクトン、γ-オクタノラクトン、δ-オクタノラクトン、ε-オクタノラクトン、δ-ノナラクトン、ε-ノナラクトン、ε-デカノラクトン等の環状エステル類(ラクトン類)、並びに、それらのカルボニル基に隣接するメチレン基の水素が炭素数1~4のアルキル基によって置換された化合物を挙げることができる。
【0066】
含窒素溶剤としては、例えば、非環状アミド類、環状アミド類などを上げることができる。非環状アミド類としては、アルコキシアルキルアミド類を挙げることができる。
【0067】
アルコキシアルキルアミド類としては、例えば、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、等を例示することができる。
【0068】
また、非環状アミド類として、下記一般式(1)で表される化合物であるアルコキシアルキルアミド類を用いることも好ましい。
【0069】
-O-CHCH-(C=O)-NR ・・・(1)
【0070】
上記式(1)中、Rは、炭素数1以上4以下のアルキル基を示し、R及びRは、それぞれ独立にメチル基又はエチル基を示す。「炭素数1以上4以下のアルキル基」は、直鎖状又は分岐状のアルキル基であることができ、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基であることができる。上記式(1)で表される化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0071】
環状アミド類としては、ラクタム類が挙げられ、例えば、2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン、1-プロピル-2-ピロリドン、1-ブチル-2-ピロリドン、等のピロリドン類などが挙げられる。これらは後述する樹脂粒子の皮膜化を促進させる点で好ましく、特に2-ピロリドンがより好ましい。
【0072】
アルキレングリコールエーテル類としては、アルキレングリコールのモノエーテル又はジエーテルであればよく、アルキルエーテルが好ましい。具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、及び、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等のアルキレングリコールジアルキルエーテル類が挙げられる。
【0073】
アルキレングリコールエーテル類を構成するアルキレングリコールは、炭素数2~8が好ましく、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましく、2又は3が特に好ましい。アルキレングリコールエーテル類を構成するアルキレングリコールは、アルキレングリコールが分子間で水酸基同士が縮合したものでもよい。アルキレングリコールの縮合数は、1~4が好ましく、1~3がより好ましく、2又は3がさらに好ましい。
【0074】
アルキレングリコールエーテル類を構成するエーテルは、アルキルエーテルが好ましく、炭素数1~4のアルキルのエーテルが好ましく、炭素数2~4のアルキルのエーテルがより好ましい。
【0075】
アルキレングリコールエーテル類は、浸透性に優れインクの記録媒体での濡れ性に優れることで画質が優れる点で好ましい。この点で、特に、モノエーテルが好ましい。
【0076】
多価アルコールとしては、1,2-アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール(別名:プロパン-1,2-ジオール)、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール等のアルカンジオール類)、1,2-アルカンジオールを除く多価アルコール(ポリオール類)(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール(別名:1,3-ブチレングリコール)、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メ
チル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン等)等が挙げられる。
【0077】
多価アルコール類は、アルカンジオール類とポリオール類に分けることができる。
【0078】
アルカンジオール類は、炭素数5以上のアルカンのジオールである。アルカンの炭素数は好ましくは5~15であり、より好ましくは6~10であり、更に好ましくは6~8である。好ましくは1,2-アルカンジオールである。
【0079】
ポリオール類は、炭素数4以下のアルカンのポリオールか、炭素数4以下のアルカンのポリオールの水酸基同士の分子間縮合物か、である。アルカンの炭素数は好ましくは2~3である。ポリオール類の分子中の水酸基数は2以上であり、好ましくは5以下であり、より好ましくは3以下である。ポリオール類が上記の分子間縮合物である場合、分子間縮合数は2以上であり、好ましくは4以下であり、より好ましくは3以下である。多価アルコール類は、1種単独か又は2種以上を混合して使用することができる。
【0080】
アルカンジオール類及びポリオール類は、主に浸透溶剤及び/又は保湿溶剤として機能することができる。しかし、アルカンジオール類は浸透溶剤としての性質が強い傾向があり、ポリオール類は保湿溶剤としての性質が強い傾向がある。
【0081】
アルカンジオール類は、浸透溶剤としての性質が強く、インクの記録媒体での濡れ性に優れることでインクの広がりが優れ、画質が優れる点で好ましい。
【0082】
ポリオール類は、特に親水性が高く、保湿性を特に高めることができ、耐目詰まり性が特に優れる。特に、標準沸点が280.0℃以下のポリオール類を用いることで、乾燥性も良く、記録物の堅牢性も良い。
【0083】
水系インク組成物は、上記例示した有機溶剤を一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上の場合は、有機溶剤の含有量は、それらの合計の含有量である。
【0084】
水系インク組成物は、有機溶剤の合計の含有量が、水系インク組成物全量に対し、40.0質量%以下が好ましく、35.0質量%以下がより好ましい。一方、下限は、10.0質量%以上が好ましく、20.0質量%以上がより好ましく、25.0質量%以上がさらに好ましい。
【0085】
さらに、水系インク組成物が含む有機溶剤は、標準沸点が280.0℃以下のものが好ましく、150.0℃以上280.0℃以下のものがより好ましく、170.0℃以上280.0℃以下のものがよりさらに好ましく、180.0℃以上280.0℃以下のものがさらに好ましく、190.0℃以上270.0℃以下のものがさらに好ましく、200.0℃以上250.0℃以下のものがことさらに好ましい。
【0086】
また、水系インク組成物は、標準沸点が180.0℃以上280.0以下の有機溶剤を、20.0質量%以上35.0質量%以下、好ましくは25.0質量%以上30.0質量%以下含むことがさらに好ましい。
【0087】
また、標準沸点が280.0℃を超える有機溶剤の含有量は、水系インク組成物全量に対して、2.0質量%以下が好ましく、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下であり、さらには含有しないこと、つまり0.0質量%でもよい。
これにより、記録媒体に付着させた水系インク組成物の乾燥性が良好になり、記録媒体に対する密着性を向上できる。
【0088】
なお標準沸点が280.0℃超の有機溶剤としては、例えば、グリセリン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0089】
(色材)
水系インク組成物は、色材を含んでもよい。色材としては、顔料、染料のいずれも用いることができ、カーボンブラック、チタンホワイトを含む無機顔料、有機顔料、油溶染料、酸性染料、直接染料、反応性染料、塩基性染料、分散染料、昇華型染料等を用いることができる。本実施形態の水系インク組成物では、色材が分散樹脂により分散されていてもよい。
【0090】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ等を用いることができる。
【0091】
有機顔料としては、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料又はアゾ系顔料等を例示できる。
【0092】
水系インク組成物に用いられる有機顔料の具体例としては下記のものが挙げられる。
【0093】
シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60等;C.I.バットブルー4、60等が挙げられ、好ましくは、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、及び60からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0094】
マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントレッド122、202、及び209、C.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物、又は固溶体を例示できる。
【0095】
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14C、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、119、110、114、128、129、138、150、151、154、155、180、185、等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントイエロー74、109、110、128、及び138からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0096】
これ以外の色の顔料も使用可能である。例えば、オレンジ顔料、グリーン顔料などがあげられる。
【0097】
上記例示した顔料は、好適な顔料の例であり、これらによって本発明が限定されるものではない。これらの顔料は一種又は二種以上の混合物として用いてよいし、染料と併用しても構わない。
【0098】
また、顔料は、水溶性樹脂、水分散性樹脂、界面活性剤等から選ばれる分散剤を用いて分散して用いてもよく、あるいはオゾン、次亜塩素酸、発煙硫酸等により、顔料表面を酸化、あるいはスルホン化して自己分散顔料として分散して用いてもよい。
【0099】
本実施形態のインクにおいて、顔料を分散樹脂により分散させる場合には、顔料と分散樹脂との比率は10:1~1:10が好ましく、4:1~1:3がより好ましい。また、分散時の顔料の体積平均粒子径は、動的光散乱法で計測した場合の最大粒径が500nm未満で平均粒径が300nm以下であり、より好ましくは平均粒径が200nm以下である。
【0100】
水系インク組成物に用い得る染料としては、水溶解系として酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料、水分散系として分散染料、油溶染料、昇華型染料等を挙げることができる。
【0101】
上記例示した染料は、好適な色材の例であり、これらによって本発明が限定されるものではない。これらの染料は一種又は二種以上の混合物として用いてよいし、顔料と併用しても構わない。
【0102】
色材の含有量は、用途に応じて適宜調整することができるが、好ましくは0.10質量%以上20.0質量%以下であり、より好ましくは0.20質量%以上15.0質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以上10.0質量%以下である。
【0103】
色材に顔料を採用する場合の顔料粒子の体積平均粒子径は、10.0nm以上200.0nm以下が好ましく、30.0nm以上200.0nm以下がより好ましく、50.0nm以上150.0nm以下がさらに好ましく、70.0nm以上120.0nm以下が特に好ましい。
【0104】
(界面活性剤)
水系インク組成物は、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤は、水系インク組成物の表面張力を低下させ記録媒体や下地との濡れ性を向上させる機能を備える。界面活性剤の中でも、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0105】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、エア・プロダクツ&ケミカルズ社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(以上全て商品名、日信化学工業社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル社製)が挙げられる。
【0106】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-3
54L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学工業社製)が挙げられる。
【0107】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK-3440(商品名、ビックケミー・ジャパン社製)、サーフロンS-241、S-242、S-243(以上商品名、AGCセイミケミカル社製)、フタージェント215M(商品名、ネオス社製)等が挙げられる。
【0108】
水系インク組成物に界面活性剤を含有させる場合には、複数種を含有させてもよい。水系インク組成物に界面活性剤を含有させる場合の含有量は、全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上2.0質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以上1.5質量%以下、より好ましくは、0.3質量%以上1.0質量%以下である。
【0109】
ここで界面活性剤として例示した化合物は、いずれも上述の有機溶剤ではないものとして扱う。
【0110】
(pH調整剤)
本実施形態の水系インク組成物は、pH調整剤を含有してもよい。pH調整剤を含有することにより、例えば、インク流路を形成する部材からの不純物の溶出を抑制したり、促進したりすることができ、水系インク組成物の洗浄性を調節することができる。pH調整剤としては、例えば、尿素類、アミン類、モルホリン類、ピペラジン類、トリエタノールアミン等のアミノアルコール類、を例示できる。尿素類としては、尿素、エチレン尿素、テトラメチル尿素、チオ尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等、及び、ベタイン類(トリメチルグリシン、トリエチルグリシン、トリプロピルグリシン、トリイソプロピルグリシン、N,N,N-トリメチルアラニン、N,N,N-トリエチルアラニン、N,N,N-トリイソプロピルアラニン、N,N,N-トリメチルメチルアラニン、カルニチン、アセチルカルニチン等)等が挙げられる。アミン類としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
【0111】
ここでpH調整剤として例示した化合物は、いずれも上述の有機溶剤ではないものとして扱う。例えば、トリエタノールアミンは常温のとき液体で、標準沸点が208℃程度であるが、これは上述の有機溶剤としては扱わない。
【0112】
(防かび剤、防腐剤)
本実施形態の水系インク組成物は、防腐剤を含有してもよい。
【0113】
防腐剤を含有することにより、カビや細菌の増殖を抑制することができ、インク組成物の保存性がより良好となる。これにより、例えば、水系インク組成物を、長期的にプリンターを使用せず保守する際のメンテナンス液として使用しやすくなる。防腐剤の好ましい例としては、プロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL-2、プロキセルIB、又はプロキセルTNなどを挙げることができる。
【0114】
(その他)
水系インク組成物は、必要に応じて、キレート剤、防錆剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤及び水溶性樹脂など、種々の添加剤を含有してもよい。
【0115】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)や、エチレンジアミンのニトリロトリ酢酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、又はメタリン酸塩等が挙げられる。
【0116】
1.1.1.6.水系インク組成物の物性等
水系インク組成物は、記録媒体にインクジェット法により付着される(インク付着工程)。そのため、水系インク組成物の粘度は、20℃において、1.5mPa・s以上15.0mPa・s以下とすることが好ましく、1.5mPa・s以上7.0mPa・s以下とすることがより好ましく、1.5mPa・s以上5.5mPa・s以下とすることがより好ましい。水系インク組成物は、インクジェットヘッドから吐出されて記録媒体に付着されるので、所定の画像を効率的に記録媒体に形成することが容易である。
【0117】
本実施形態のインクジェット記録方法で使用する水系インク組成物は、記録媒体への濡れ拡がり性を適切なものとする観点から、25.0℃における表面張力は、40.0mN/m以下、好ましくは38.0mN/m以下、より好ましくは35.0mN/m以下、さらに好ましくは30.0mN/m以下であることが好ましい。
【0118】
1.1.1.7.水系インク組成物の製造方法
本実施形態の水系インク組成物の製造方法は特に制限されないが、例えば、上述の各インク成分を、任意な順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより製造することができる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。
【0119】
1.1.2.インクジェットヘッド
本実施形態のインクジェット記録方法のインク付着工程では、上述の水系インク組成物をインクジェットヘッドから吐出させて記録媒体に付着させる。
【0120】
インクジェットヘッドとしては、特に限定されないが、圧電素子を用いて記録を行う方法を採用したもの、インクジェットヘッドに配設された発熱抵抗素子のヒーター等による熱エネルギーを用いて記録を行うもの等があるが、いずれのインクジェットヘッドも採用できる。
【0121】
また水系インク組成物を記録媒体に付着させる工程に用いるインクジェットヘッドは、水系インク組成物を循環させる循環流路を備えるものでもよく、備えないものでもよい。
【0122】
1.1.3.記録媒体
本実施形態のインクジェット記録方法に用いる記録媒体は、特に限定されないが、低吸収性又は非吸収性記録媒体が好ましい。低吸収性又は非吸収性記録媒体とは、インクを全く吸収しない、又はほとんど吸収しない性質を有する記録媒体を指す。定量的には、本実施形態で使用する記録媒体とは、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m以下である記録媒体」を指す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙-液体吸収性試験方法-ブリストー法」に述べられている。このような非吸収性の性質を備える記録媒体としては、インク吸収性を備えるインク受容層を記録面に備えない記録媒体や、インク吸収性の小さいコート層を記録面に備える記録媒体が挙げられる。
【0123】
非吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、インク吸収層を有していないプラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているものやプラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。ここでいうプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレ
ン、ポリウレタン、ポリオレフィン等があげられる。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。ポリオレフィンは、フィルムの柔軟性に優れ好ましい反面、インクの定着性が得られにくく、であっても優れた堅牢性が得られる点で、本実施形態が特に有用である。
【0124】
本実施形態の水系インク組成物は、低吸収性記録媒体に対して特に有効である。低吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、表面に油性インクを受容するための塗工層が設けられた塗工紙が挙げられる。塗工紙としては、特に限定されないが、例えば、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙が挙げられる。
【0125】
本実施形態の水系インク組成物を用いれば、このようなインク非吸収性又はインク低吸収性の記録媒体に対しても、定着性が良好で耐擦過性が良好な所定の画像を高速に形成することができる。また、このような記録媒体は、インクの溶媒成分を吸収し難く、記録媒体上に残った有機溶剤によって、記録物の耐擦性や定着性などの堅牢性が特に課題となる傾向があるが、本実施形態の水系インク組成物を用いれば、優れた堅牢性が得られ好ましい。
【0126】
また、記録媒体は袋状になっていてもシート状になっていても、いずれでもよい。また、記録媒体にあらかじめコロナ処理、プライマー処理などの表面処理を行ってもよく、これら表面処理によって記録媒体からのインクの剥離性を改善することができる場合がある。
【0127】
1.2.加熱工程
本実施形態のインクジェット記録方法は、上述のインク付着工程後に、記録媒体を加熱する加熱工程を有する。そして、当該加熱工程を、赤外線の照射により行う。
【0128】
1.2.1.赤外線照射
赤外線の照射は、例えば、後述するインクジェット記録装置で例示する加熱手段により行うことができる。加熱手段の態様は特に限定されず、赤外線(IR)が記録媒体の記録面側に到達すればよい。
【0129】
加熱工程で照射される赤外線は、記録媒体及び/又は記録媒体上に形成された画像を加熱することにより、画像に含まれる揮発成分を蒸発させ乾燥させることができる。本明細書では、加熱工程を二次加熱、後乾燥等を呼ぶことがある。
【0130】
赤外線照射により二次加熱することにより、画像の耐擦性を優れたものにできる。赤外線は、水系インク組成物の付着塗膜の内部まで均一にむらなく加熱することができることが要因と考えられる。また、赤外線加熱によれば、熱効率が良く、樹脂粒子を充分に軟化、溶融、又は溶解させながらも記録媒体の加熱による伸縮(以下、「メディアダメージ」「熱ダメージによる変形」ともいう)を抑えることができる。
【0131】
1.2.2.表面温度
加熱工程における記録媒体の表面温度は、樹脂粒子のガラス転移温度以上であり、かつワックスの融点未満であってもよく、好ましい。このようにすれば、水系インク組成物の塗膜中の樹脂粒子を軟化、溶融、又は溶解させ、平滑な膜化して、かつ、ワックスの皮膜化は抑制でき好ましい。
【0132】
なお、記録媒体の表面温度は、例えば赤外線センサー(IRセンサー)を用いることにより測定できる。なお、本明細書では、加熱工程における記録媒体の表面温度というとき、該工程が行われる間における、該工程を受ける部分の記録媒体の表面温度のうちの最高
の温度のことを指す。
【0133】
また、加熱工程において、記録媒体の、ある部分の表面温度が80.0℃以上となる期間が20.0秒以上120.0秒以下となるような加熱の時間で加熱を行ってもよく、好ましい。このようにすれば、水系インク組成物の塗膜の樹脂粒子を十分に軟化させ、かつ、ワックスの皮膜化を抑制することができる。これにより、画像のより良好な定着性と耐擦性を得やすくなる。該時間は、30.0秒以上80.0秒以下がより好ましく、40.0秒以上60.0秒以下がさらに好ましい。なお、上記の「ある部分」は、記録媒体の幅方向の中央のある部分とする。
【0134】
1.2.3.加熱工程の変形
加熱工程は、送風機構により記録媒体の周囲の空気を移動させる工程をさらに含んでもよい。記録媒体の周囲の空気を移動させる際に用いる送風機構は、常温の風を送ってもよいし、温風、熱風を送ってもよい。二次加熱で送風を併用することにより、水系インク組成物の溶媒成分の乾燥効率をさらに高めることができ、さらに好ましい。
【0135】
1.3.処理液付着工程
本実施形態のインクジェット記録方法は、凝集剤を含有する処理液を記録媒体に付着する工程をさらに備えてもよい。
【0136】
1.3.1.処理液
処理液は、凝集剤を含む。
【0137】
1.3.1.1.凝集剤
処理液は、水系インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する。凝集剤は、水系インク組成物に含まれる色材、水系インク組成物に含まれ得る樹脂粒子などの成分と反応することで、色材や樹脂粒子を凝集させる作用を有する。ただし、凝集剤による色材や樹脂粒子の凝集の程度は凝集剤、色材、樹脂粒子のそれぞれの種類によって異なり、調節することができる。また、凝集剤は、水系インク組成物に含まれる色材及び樹脂粒子と反応することで、色材及び樹脂粒子を凝集させることができる。このような凝集により、例えば、色材の発色を高めること、樹脂粒子の定着性を高めること、及び/又は、水系インク組成物の記録媒体上における粘度を高めることができる。
【0138】
凝集剤としては、特に限定されるものではないが、金属塩、酸、カチオン性化合物等が挙げられ、カチオン性化合物としては、カチオン性樹脂(カチオン性ポリマー)、カチオン性界面活性剤等を用いることができる。これらの中でも、金属塩としては多価金属塩が好ましい。カチオン性化合物としてはカチオン性樹脂が好ましい。酸としては有機酸、無機酸があげられ、有機酸が好ましい。そのため、凝集剤としては、カチオン性樹脂、有機酸、及び多価金属塩から選ばれることが、得られる画質、耐擦性等が特に優れる点で好ましい。
【0139】
金属塩としては好ましくは多価金属塩であるが、多価金属塩以外の金属塩も使用可能である。これらの凝集剤の中でも、インクに含まれる成分との反応性に優れるという点から、金属塩、及び有機酸から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。また、カチオン性化合物の中でも、処理液に対して溶解しやすいという点から、カチオン性樹脂を用いることが好ましい。また、凝集剤は複数種を併用することも可能である。
【0140】
多価金属塩とは、2価以上の金属イオンとアニオンから構成される化合物である。2価以上の金属イオンとしては、例えば、カルシウム、マグネシウム、銅、ニッケル、亜鉛、バリウム、アルミニウム、チタン、ストロンチウム、クロム、コバルト、鉄等のイオンが
挙げられる。これらの多価金属塩を構成する金属イオンの中でも、インクの成分の凝集性に優れているという点から、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンの少なくとも一方であることが好ましい。
【0141】
多価金属塩を構成するアニオンとしては、無機イオン又は有機イオンである。すなわち、本発明における多価金属塩とは、無機イオン又は有機イオンと多価金属とからなるものである。このような無機イオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン等が挙げられる。有機イオンとしては有機酸イオンが挙げられ、例えばカルボン酸イオンが挙げられる。
【0142】
なお、多価金属化合物はイオン性の多価金属塩であることが好ましく、特に、上記多価金属塩がマグネシウム塩、カルシウム塩である場合、処理液の安定性がより良好となる。また、多価金属の対イオンとしては、無機酸イオン、有機酸イオンのいずれでもよい。
【0143】
上記の多価金属塩の具体例としては、重質炭酸カルシウム及び軽質炭酸カルシウムといった炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、水酸化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、塩化バリウム、炭酸亜鉛、硫化亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、硝酸銅、プロピオン酸カルシウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸アルミニウム等が挙げられる。これらの多価金属塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。なお、これらの金属塩は、原料形態において水和水を有していてもよい。
【0144】
多価金属塩以外の金属塩としてはナトリウム塩、カリウム塩などの一価の金属塩が挙げられ、例えば硫酸ナトリウム、硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0145】
有機酸としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等が好適に挙げられる。有機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機酸の塩で金属塩であるものは上記の金属塩に含める。
【0146】
無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。無機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0147】
カチオン性樹脂(カチオン性ポリマー)としては、例えば、カチオン性のウレタン系樹脂、カチオン性のオレフィン系樹脂、カチオン性のアミン系樹脂、カチオン性界面活性剤等が挙げられる。カチオン性ポリマーは好ましくは水溶性である。
【0148】
カチオン性のウレタン系樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、ハイドラン CP-7010、CP-7020、CP-7030、CP-7040、CP-7050、CP-7060、CP-7610(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、スーパーフレックス 600、610、620、630、640、650(商品名、第一工業製薬株式会社製)、ウレタンエマルジョン WBR-2120C、WBR-2122C(商品名、大成ファインケミカル株式会社製)等を用いることができる。
【0149】
カチオン性のオレフィン樹脂は、エチレン、プロピレン等のオレフィンを構造骨格に有するものであり、公知のものを適宜選択して用いることができる。また、カチオン性のオレフィン樹脂は、水や有機溶媒等を含む溶媒に分散させたエマルジョン状態であってもよ
い。カチオン性のオレフィン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、アローベースCB-1200、CD-1200(商品名、ユニチカ株式会社製)等が挙げられる。
【0150】
カチオン性のアミン系樹脂(カチオン性ポリマー)としては、構造中にアミノ基を有するものであればよく、公知のものを適宜選択して用いることができる。例えば、ポリアミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリルアミン樹脂などが挙げられる。ポリアミン樹脂は樹脂の主骨格中にアミノ基を有する樹脂である。ポリアミド樹脂は樹脂の主骨格中にアミド基を有する樹脂である。ポリアリルアミン樹脂は樹脂の主骨格中にアリル基に由来する構造を有する樹脂である。
【0151】
また、カチオン性のポリアミン系樹脂としては、センカ株式会社製のユニセンスKHE103L(ヘキサメチレンジアミン/エピクロルヒドリン樹脂、1%水溶液のpH約5.0、粘度20~50(mPa・s)、固形分濃度50質量%の水溶液)、ユニセンスKHE104L(ジメチルアミン/エピクロルヒドリン樹脂、1%水溶液のpH約7.0、粘度1~10(mPa・s)、固形分濃度20質量%の水溶液)などを挙げることができる。さらにカチオン性のポリアミン系樹脂の市販品の具体例としては、FL-14(商品名、SNF社製)、アラフィックス100、251S、255、255LOX(商品名、荒川化学社製)、DK-6810、6853、6885;WS-4010、4011、4020、4024、4027、4030(商品名、星光PMC社製)、パピオゲンP-105(商品名、センカ社製)、スミレーズレジン650(30)、675A、6615、SLX-1(商品名、田岡化学工業社製)、カチオマスター(登録商標)PD-1、7、30、A、PDT-2、PE-10、PE-30、DT-EH、EPA-SK01、TMHMDA-E(商品名、四日市合成社製)、ジェットフィックス36N、38A、5052(商品名、里田化工社製)が挙げられる。
【0152】
ポリアリルアミン樹脂は、例えば、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアリルアミンアミド硫酸塩、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン塩酸塩・ジメチルアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン・ジメチルアリルアミンコポリマー、ポリジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミンアミド硫酸塩、ポリメチルジアリルアミン酢酸塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト・二酸化硫黄コポリマー、メチルジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミドコポリマー等を挙げることができる。
【0153】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、第1級、第2級、及び第3級アミン塩型化合物、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、脂肪族アミン塩、ベンザルコニウム塩、第4級アンモニウム塩、第4級アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、オニウム塩、イミダゾリニウム塩等があげられる。具体的には、例えば、ラウリルアミン、ヤシアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩等、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、ジメチルエチルラウリルアンモニウムエチル硫酸塩、ジメチルエチルオクチルアンモニウムエチル硫酸塩、トリメチルラウリルアンモニウム塩酸塩、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミン、デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシ
ルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0154】
これらの凝集剤は、複数種を使用してもよい。また、これらの凝集剤のうち、多価金属塩、有機酸、カチオン性樹脂の少なくとも一種を選択すれば、凝集作用がより良好であるので、より高画質な(特に発色性の良好な)画像を形成することができる。
【0155】
処理液における、凝集剤の合計の含有量は、例えば、処理液の全質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下であり、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。なお、凝集剤が溶液や分散体で共有される場合においても、固形分の含有量として上記範囲であることが好ましい。凝集剤の含有量が1質量%以上であれば、凝集剤が水系インク組成物に含まれる成分を凝集させる能力が十分得られる。また、凝集剤の含有量が30質量%以下であることで、処理液中での凝集剤の溶解性や分散性がより良好になり、処理液の保存安定性等を向上できる。
【0156】
処理液に含まれる有機溶剤の疎水性が高い場合であっても、処理液中における凝集剤の溶解性が良好になるという点から、凝集剤には、25℃の水100gに対する溶解度が、1g以上であるものを使用することが好ましく、3g以上80g以下にあるものを使用することがより好ましい。
【0157】
1.3.1.2.その他の成分
処理液は、機能を損なわない限り、凝集剤の他に、有機溶剤、界面活性剤、水、添加剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防黴剤等の成分を含有してもよい。これらの成分は、上述の水系インク組成物と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0158】
1.3.2.処理液の物性及び記録媒体へ付着させる方法
本実施形態の記録方法で処理液を使用する場合、処理液は、記録媒体への濡れ拡がり性を適切なものとする観点から、25℃における表面張力は、40mN/m以下、好ましくは38mN/m以下、より好ましくは35mN/m以下、さらに好ましくは30mN/m以下であることが好ましい。なお、表面張力の測定は、自動表面張力計CBVP-Z(協和界面科学社製)を用いて、25℃の環境下で白金プレートを組成物で濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0159】
処理液を記録媒体に付着させる方法としては、インクジェット法、塗布による方法、処理液を各種のスプレーを用いて記録媒体に塗布する方法、処理液に記録媒体を浸漬させて塗布する方法、処理液を刷毛等により記録媒体に塗布する方法等の非接触式及び接触式のいずれか又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。
【0160】
処理液は、インクジェット法によって記録媒体に付着されることがより好ましい。その場合には、20℃における粘度を、1.5mPa・s以上15mPa・s以下とすることが好ましく、1.5mPa・s以上7mPa・s以下とすることがより好ましく、1.5mPa・s以上5.5mPa・s以下とすることがより好ましい。処理液がインクジェット法によって記録媒体に付着される場合、所定の処理液付着領域を効率的に記録媒体に形成することが容易である。
【0161】
1.4.作用効果及びメカニズム
本実施形態のインクジェット記録方法によれば、用いる水系インク組成物に含まれる、90.0nm以上の樹脂粒子の体積平均粒子径Aと、ワックスの体積平均粒子径Bとの比(B/A)が、0.7以上であり、加熱工程で赤外線照射を行うことにより、形成される画像の定着性及び耐擦性が良好で、かつ、水系インク組成物の保存安定性を優れたものと
することができる。
【0162】
水系インク組成物に、定着樹脂として用いる樹脂粒子は、二次加熱により溶解して平滑化することが、記録物の耐擦性を得るための条件の1つである。一方、ワックスの粒子は、膜状にならず、粒状又は凹凸形状で画像の表面に残ることで表面に滑り性を付与して、記録画像の耐擦性が良好となると考えられる。
【0163】
他方、樹脂粒子の体積平均粒子径が小さいと、インクジェットヘッドのノズル内において、水系インク組成物中の樹脂粒子が互いに溶着し、インクジェットヘッドの目詰まりを生じるおそれがあった。そのため、本実施形態の記録方法で用いる水系インク組成物では、体積平均粒子径が90.0nm以上と、比較的大きな樹脂粒子を採用することで、目詰まりを低減できると考えられる。
【0164】
ところが、樹脂粒子は二次加熱で十分に溶解し平滑な膜になることで優れた耐擦性を得ることができるが、体積平均粒子径が比較的大きいことにより、赤外線を用いない二次加熱を行うと、十分に軟化、溶融させることが難しく、画像の耐擦性が不十分となることが懸念される。
【0165】
本実施形態のインクジェット記録方法では、赤外線照射により二次加熱するので、画像の耐擦性を十分に得ることができる。また、赤外線は、水系インク組成物の塗膜の内部まで比較的均一にむらなく加熱することができる。そのため、熱効率が良く、樹脂粒子を充分に溶解しながらも、記録媒体の熱ダメージによる変形を低減できる。
【0166】
一方、赤外線照射を用いずに加熱する場合は、塗膜内部までむらなく均一に加熱ができない。そのため、十分に加熱しようとすると、過度に加熱の温度を高くすることなどが必要となる。そのため、塗膜中において、過度に温度の高い部分も生じ、ワックスが溶融して皮膜化するなどが生じてしまう。
【0167】
さらに、本実施形態の記録方法で用いる水系インク組成物には、比較的体積平均粒子径が大きいワックスを用いているので、さらに耐擦性が優れた画像を得ることができる。ワックスの体積平均粒子径は、大きいほうが画像表面の滑り性に有効である。また、ワックスは二次加熱で溶融してしまうと、画像表面に滑り性を付与することができないが、本実施形態のインクジェット記録方法によれば、体積平均粒子径の比較的大きなワックスを用いるので、二次加熱でワックスが皮膜化しにくく有利である。
【0168】
さらに、赤外線の照射が、水系インク組成物の塗膜の上方から照射された場合には、照射のエネルギーが記録媒体に遮られないので、塗膜の加熱効率に優れ、塗膜の内部への加熱も効率よく行うことができる。ここで、ワックスは、比重が小さい傾向があり、水系インク組成物の塗膜においても上部側に濃化しやすい傾向があり、赤外線による加熱作用を受けやすいと考えられるが、ワックスは赤外線に対する透明度(赤外線透過率)が高いので、塗膜の上部だけでなく内部まで均一に加熱できる。そして、塗膜の記録媒体側に濃化した樹脂粒子に効率的に赤外線のエネルギーを到達させることができるので、塗膜上方の粒径の大きなワックスにより熱が遮られて塗膜内部まで熱が十分に届くと考えられる。
【0169】
なお、ワックスの体積平均粒子径が大きすぎると、水系インク組成物の保存中に水系インク組成物の上面に浮きやすくなるので、所定の範囲以下が好ましい。また、樹脂粒子は、ガラス転移温度が低いものを用いるほうが、二次加熱の熱で軟化、溶融しやすくより好ましく、ワックスは、融点が高いものを用いるほうが、二次加熱の熱で皮膜化し難いので好ましい。
【0170】
2.インクジェット記録装置
本実施形態に係るインクジェット記録装置は、上述したインクジェット記録方法を実行することができる。本実施形態に係る水系インク組成物に好適なインクジェット記録装置の例について図面を参照しながら説明する。以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺や相対的な寸法を適宜変更している。
【0171】
図1は、記録装置の一例である、インクジェット記録装置1を模式的に示す概略断面図である。図2は、図1のインクジェット記録装置1のキャリッジ周辺の構成の一例を示す斜視図である。図1、2に示すように、インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2と、ヒーター3と、プラテンヒーター4と、赤外線ヒーター5と、ファン6と、プレヒーター7と、通気ファン8と、キャリッジ9と、プラテン11と、キャリッジ移動機構13と、搬送手段14と、制御部CONTを備える。インクジェット記録装置1は、図2に示す制御部CONTにより、インクジェット記録装置1全体の動作が制御される。
【0172】
インクジェットヘッド2は、処理液と水系インク組成物とをインクジェットヘッド2のノズルから吐出して付着させることにより記録媒体Mに記録を行う構成である。この例では、インクジェットヘッド2は、シリアル式のインクジェットヘッドであり、記録媒体Mに対して相対的に主走査方向に複数回走査してインクと水系インク組成物とを記録媒体Mに付着させる。インクジェットヘッド2は図2に示すキャリッジ9に搭載される。インクジェットヘッド2は、キャリッジ9を記録媒体Mの媒体幅方向に移動させるキャリッジ移動機構13の動作により、記録媒体Mに対して相対的に主走査方向に複数回走査される。媒体幅方向とは、インクジェットヘッド2の主走査方向である。主走査方向への走査を主走査ともいう。
【0173】
またここで、主走査方向は、インクジェットヘッド2を搭載したキャリッジ9の移動する方向である。図1においては、矢印SSで示す記録媒体Mの搬送方向である副走査方向に交差する方向である。図2においては、記録媒体Mの幅方向、つまりS1-S2で表される方向が主走査方向MSであり、T1→T2で表される方向が副走査方向SSである。なお、1回の走査で主走査方向、すなわち、矢印S1又は矢印S2の何れか一方の方向に走査が行われる。そして、インクジェットヘッド2の主走査と、記録媒体Mの搬送である副走査を複数回繰り返し行うことで、記録媒体Mに対して記録する。すなわち、処理液付着工程、水系インク組成物付着工程は、インクジェットヘッド2が主走査方向に移動する複数回の主走査と、記録媒体Mが主走査方向に交差する副走査方向へ移動する複数回の副走査と、により行われる。
【0174】
インクジェットヘッド2に処理液や水系インク組成物を供給するカートリッジ12は、独立した複数のカートリッジを含む。カートリッジ12は、インクジェットヘッド2を搭載したキャリッジ9に対して着脱可能に装着される。複数のカートリッジのそれぞれには異なる種類の水系インク組成物や処理液が充填されており、カートリッジ12から各ノズルに水系インク組成物や処理液が供給される。なお、カートリッジ12はキャリッジ9に装着される例を示しているが、これに限定されず、キャリッジ9以外の場所に設けられ、図示せぬ供給管によって各ノズルに供給される形態でもよい。
【0175】
インクジェットヘッド2の吐出には従来公知の方式を使用することができる。ここでは、圧電素子の振動を利用して液滴を吐出する方式、すなわち、電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成する吐出方式を使用する。
【0176】
インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2からの水系インク組成物を吐出して記録媒体に付着する時に記録媒体Mを乾燥するための乾燥工程(一次加熱)を行う乾燥機構を備えることができる。乾燥は、加熱や送風による乾燥を用いることができる。乾
燥機構は、伝導式、送風式、放射式などを用いることができる。伝導式は記録媒体に接触する部材から熱を記録媒体に伝導する。例えば図示のプラテンヒーター4などがあげられる。送風式は常温風又は温風を記録媒体に送り水系インク組成物等を乾燥させる。例えば送風ファン8があげられる。放射式は熱を発生する放射線を記録媒体に放射して記録媒体を加熱する。例えばヒーター3を赤外線ヒーターで構成して赤外線を放射することがあげられる。これら乾燥機構は、単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
【0177】
乾燥工程(一次加熱)で記録媒体Mを乾燥する際には、ヒーター3、通気ファン8等を用いることができる。なお、ヒーター3を用いると、インクジェットヘッド2側から赤外線の輻射により放射式で記録媒体Mを加熱することができる。これにより、インクジェットヘッド2も同時に加熱されやすいが、プラテンヒーター4等の記録媒体Mの裏面から加熱される場合と比べて、記録媒体Mの厚さの影響を受けずに昇温することができる。また、温風又は環境と同じ温度の風を記録媒体Mにあてて記録媒体M上のインクや水系インク組成物を乾燥させる各種のファン(例えば通気ファン8)を備えてもよい。
【0178】
プラテンヒーター4は、インクジェットヘッド2によって吐出された水系インク組成物が記録媒体Mに付着された時点から早期に乾燥することができるように、インクジェットヘッド2に対向する位置において記録媒体Mを、プラテン11を介して加熱することができる。プラテンヒーター4は、記録媒体Mを伝導式で加熱可能なものであり、インクジェット記録方法では、必要に応じて用いられ、用いる場合には、記録媒体Mの表面温度が45.0℃以下となるように制御することが好ましい。なお図示しないが、ライン型のインクジェット記録装置においては、プラテンヒーター4は、アンダーヒーターに対応する。乾燥機構を用いた乾燥工程を行わない場合は、乾燥機構を備えなくてもよい。
【0179】
なお、インク付着工程の、記録媒体Mの表面温度の上限は45.0℃以下であることが好ましく、40.0℃以下であることがより好ましく、38.0℃以下であることがさらにより好ましく、35.0℃以下であることが特に好ましい。また、記録媒体Mの表面温度の下限は25.0℃以上であることが好ましく、28.0℃以上であることがより好ましく、30.0℃以上であることがさらに好ましく、32.0℃以上であることが特により好ましい。これによりインクジェットヘッド2内の水系インク組成物の乾燥及び組成変動を抑制でき、インクジェットヘッド2の内壁に対する水系インク組成物や樹脂の溶着が抑制される。また、記録媒体M上で水系インク組成物や水系インク組成物を早期に固定することができ、裏移りを抑制し、画質を向上させることができる。
【0180】
上記の温度は、インク付着工程の、インクジェットヘッドと対向する記録媒体の部分の、表面温度の最高温度とする。また、上記の温度は、インク付着工程において、乾燥機構による乾燥工程を行う場合は、該乾燥工程の温度でもある。
【0181】
本実施形態のインクジェット記録装置1は、インク付着工程後に、記録媒体Mを加熱して、インクを乾燥させ、定着させる加熱工程(二次加熱)を行うことができる加熱手段としての赤外線ヒーター5を備えている。
【0182】
後加熱工程に用いる赤外線ヒーター5は、記録媒体Mに付着された水系インク組成物を乾燥及び固化させる、つまり、二次加熱又は二次乾燥用のヒーターである。赤外線ヒーター5は、後加熱工程に用いることができる。赤外線ヒーター5が、画像が記録された記録媒体Mを加熱することにより、水系インク組成物中に含まれる水分等がより速やかに蒸発飛散して、水系インク組成物中に含まれる樹脂によってインク膜が形成される。このようにして、記録媒体M上においてインク膜が強固に定着又は接着して造膜性が優れたものとなり、優れた高画質な画像が短時間で得られる。フード15は、赤外線ヒーターなどを覆い、記録媒体を保熱するものである。
【0183】
図3は、赤外線ヒーター5の一例の、主走査方向MSに沿う方向からみた断面を示す模式図である。図3に示すように、赤外線ヒーター5は、主走査方向MSに沿って配置された管体52と、管体52内に挿入された発熱体51と、管体52を支持する支持体53とを有している。管体52は、金属材料で構成され、特に鉄で構成されているのが好ましい。なお、管体52の主走査方向MSに沿った全長は、記録媒体Mの主走査方向MSに沿った幅よりも十分に長いことが好ましい。これにより、管体52の下方を通過する記録媒体M上の画像全体に向けて赤外線を確実に照射することができる。
【0184】
発熱体51は、通電により発熱するものであり、例えば、ニクロム線等のような電熱線で構成されている。そして、発熱体51が発熱することにより、管体52が加熱されて、赤外線が照射される。これにより、インク中の水分等の揮発成分を蒸発させることができ、画像を乾燥させることができる。支持体53は、管体52を上側から支持できるように適宜構成され、図示の例では筐体71に支持体53を介して管体52が支持されている。また、図示の例では、記録媒体Mの記録面Maに赤外線が照射され、記録媒体Mの裏面側には記録媒体Mを支持するガイド72が配置されている。
【0185】
前述したヒーター3による加熱とは別に、このような構成の赤外線ヒーター5を設けることにより、ヒーター3にて、乾燥しきれなかった画像中の水分等を確実に蒸発させることができる。
【0186】
管体52が加熱された際の加熱温度は、例えば、300℃以上700℃以下である。また、加熱時の記録媒体Mの表面温度は、例えば、80.0℃以上120.0℃以下となることが好ましい。また、上述したように、記録媒体Mの表面温度が80.0℃以上となる期間が20.0秒以上120.0秒以下となる領域が存在するように、赤外線ヒーター5の出力、記録媒体Mの搬送速度等を制御してもよい。
【0187】
また、記録媒体Mの表面温度の検出は、例えば赤外線センサーを用いることにより可能である。
【0188】
赤外線ヒーター5による記録媒体Mの表面温度の上限は120.0℃以下であることが好ましく、100.0℃以下であることがより好ましく、90.0℃以下であることがさらに好ましい。また、記録媒体Mの表面温度の下限は60.0℃以上であることが好ましく、70.0℃以上であることがより好ましく、80.0℃以上であることがさらに好ましい。温度が前記範囲にあることにより、高画質な画像が短時間で得られる。なおライン型のインクジェット記録装置においては、赤外線ヒーター5は、アフターヒーターに対応し、カーボンヒーター等により構成することができる。
【0189】
インクジェット記録装置1は、ファン6を有していてもよい。ファン6は送風機構であり、記録媒体Mの周囲の空気を移動させることができる。ファン6を用いることにより記録媒体Mに記録された水系インク組成物に対して、加熱工程(赤外線照射)後、又は、加熱工程中に、冷却、追加的な乾燥、追加的な加熱を施すことができる。したがって、ファン6から送風される気体は、常温の気体であっても温風であってもよい。送風の方向は記録媒体の面に対して、面に沿う方向や、面に向かう方向などとすることができる。面に対して沿う方向の場合は、記録媒体の搬送方向に対して反対の方向や、搬送方向と同じ方向とすることができる。
【0190】
また、インクジェット記録装置1は、記録媒体Mに対して水系インク組成物が付着される前に、記録媒体Mを予め加熱するプレヒーター7を備えていてもよい。さらに、インクジェット記録装置1は、記録媒体Mに付着した水系インク組成物や水系インク組成物がよ
り効率的に乾燥するように通気ファン8を備えていてもよい。なおライン型のインクジェット記録装置においても、プレヒーター7を設けてもよい。
【0191】
キャリッジ9の下方には、記録媒体Mを支持するプラテン11と、キャリッジ9を記録媒体Mに対して相対的に移動させるキャリッジ移動機構13と、記録媒体Mを副走査方向に搬送するローラーである搬送手段14を備える。キャリッジ移動機構13と搬送手段14の動作は、制御部CONTにより制御される。
【0192】
図4は、インクジェット記録装置1の機能ブロック図である。制御部CONTは、インクジェット記録装置1の制御を行うための制御ユニットである。インターフェース部101(I/F)は、コンピューター130(COMP)とインクジェット記録装置1との間でデータの送受信を行うためのものである。CPU102は、インクジェット記録装置1全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー103(MEM)は、CPU102のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものである。CPU102は、ユニット制御回路104(UCTRL)により各ユニットを制御する。なお、インクジェット記録装置1内の状況を検出器群121(DS)が監視し、その検出結果に基づいて、制御部CONTは各ユニットを制御する。
【0193】
搬送ユニット111(CONVU)は、インクジェット記録の副走査(搬送)を制御するものであり、具体的には、記録媒体Mの搬送方向及び搬送速度を制御する。具体的には、モーターによって駆動される搬送ローラーの回転方向及び回転速度を制御することによって記録媒体Mの搬送方向及び搬送速度を制御する。
【0194】
キャリッジユニット112(CARU)は、インクジェット記録の主走査(パス)を制御するものであり、具体的には、インクジェットヘッド2を主走査方向に往復移動させるものである。キャリッジユニット112は、インクジェットヘッド2を搭載するキャリッジ9と、キャリッジ9を往復移動させるためのキャリッジ移動機構13とを備える。
【0195】
ヘッドユニット113(HU)は、インクジェットヘッド2のノズルからの水系インク組成物又は水系インク組成物の吐出量を制御するものである。例えば、インクジェットヘッド2のノズルが圧電素子により駆動されるものである場合、各ノズルにおける圧電素子の動作を制御する。ヘッドユニット113により各インク付着のタイミング、水系インク組成物や水系インク組成物のドットサイズ等が制御される。また、キャリッジユニット112及びヘッドユニット113の制御の組合せにより、1走査あたりの水系インク組成物や水系インク組成物の付着量が制御される。
【0196】
乾燥ユニット114(DU)は、ヒーター3、プレヒーター7、プラテンヒーター4、赤外線ヒーター5等の各種ヒーターの温度を制御する。
【0197】
上記のインクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2を搭載するキャリッジ9を主走査方向に移動させる動作と、搬送動作(副走査)とを交互に繰り返す。このとき、制御部CONTは、各パスを行う際に、キャリッジユニット112を制御して、インクジェットヘッド2を主走査方向に移動させるとともに、ヘッドユニット113を制御して、インクジェットヘッド2の所定のノズル孔から水系インク組成物や水系インク組成物の液滴を吐出させ、記録媒体Mに水系インク組成物や水系インク組成物の液滴を付着させる。また、制御部CONTは、搬送ユニット111を制御して、搬送動作の際に所定の搬送量(送り量)にて記録媒体Mを搬送方向に搬送させる。
【0198】
インクジェット記録装置1では、主走査(パス)と副走査(搬送動作)が繰り返されることによって、複数の液滴を付着させた記録領域が徐々に搬送される。そして、アフター
ヒーター5により、記録媒体Mに付着させた液滴を乾燥させて、画像が完成する。その後、完成した記録物は、巻き取り機構によりロール状に巻き取られたり、フラットベット機構で搬送されたりしてもよい。
【0199】
上記では、シリアル型のインクジェットヘッドを搭載し、シリアル型の記録方法を行うシリアル型の記録装置について説明した。一方、インクジェットヘッドは、ライン型ヘッドであってもよい。ライン型の記録装置のインクジェットヘッドは、記録媒体Mの記録幅以上の長さにノズルが配置されたヘッドであり、記録媒体Mに対して1回のパスで水系インク組成物の付着を行う。
【0200】
図5は、ライン型ヘッド(ライン型インクジェットヘッド)を搭載し、ライン型の記録方法を行うライン型の記録装置の一部分を模式的に示す概略断面図である。記録装置の部分200は、水系インク組成物のインクジェットヘッド221を含む水系インク組成物付着手段220、インク組成物のインクジェットヘッド231を含むインク組成物付着手段230、記録媒体Mを搬送する搬送ローラー211を含む記録媒体搬送手段210、記録媒体に加熱工程(二次加熱)を行う後加熱手段240を備える。本実施形態では、後加熱手段240が赤外線ヒーター及び/又はカーボンヒーターにより構成されることで、画像に赤外線を照射することができる。インクジェットヘッド231,221は、図の手前-奥方向である記録媒体Mの幅方向にノズル列が伸びているライン型インクジェットヘッドである。
【0201】
ライン型の記録装置は、記録媒体Mを、図5の矢印方向である搬送方向に搬送させることで、インクジェットヘッド231,221と記録媒体Mの相対的な位置を移動させつつ、水系インク組成物等をインクジェットヘッドから吐出し記録媒体Mへ付着させる。これを走査という。走査を主走査やパスともいう。ライン型記録方法は、搬送される記録媒体Mへ、インクジェットヘッド231,221を用いて水系インク組成物やインク組成物を1回のパスで付着させ記録を行う1パス記録方法である。
【0202】
ライン型の記録装置は、ライン型インクジェットヘッドを備えライン型の記録方法を行うこと以外は、前述のシリアル型のインクジェット記録装置1と同様にすることができる。ライン型の記録装置は、乾燥工程を行う乾燥手段を備えていても良い。例えば、図1のインクジェットヘッド2の上方にある通気ファン8やヒーター3などの乾燥手段を、図5のインクジェットヘッド231,221の上方に備えさせ、図1のインクジェットヘッド2の下方にあるプラテンヒーター4に対応するアンダーヒーターなどの乾燥手段を、図5のインクジェットヘッド231,221の下方に備えてもよい。
【0203】
3.実施例及び比較例
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その趣旨を逸脱しない限り種々の変更は可能であり、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお成分量に関して%、部と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0204】
3.1.水系インク組成物及び処理液の調製
表1及び表2に示す材料組成にて、材料組成の異なるインクA~L(水系インク組成物)及び処理液A~Cを調製した。各インク及び処理液は、表1及び表2に示す材料を容器中に入れ、マグネチックスターラーにて2時間撹拌混合した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過してゴミや粗大粒子等の不純物を除去することにより調製した。なお、表1、表2中の数値は、全て質量%を示し、純水は組成物の全質量が100質量%となるように添加した。
【0205】
なお、水系インク組成物の調製に用いた色材(マゼンタ顔料分散液)は、事前に以下のように製造した。スチレンアクリル酸共重合体(メタクリル酸/ブチルアクリレート/スチレン/ヒドロキシエチルアクリレート=25/50/15/10の質量比で共重合したもの:重量平均分子量7000、酸価150mgKOH/g)40質量部を、水酸化カリウム7質量部、水23質量部、及びトリエチレングリコール-モノ-n-ブチルエーテル30質量部を混合した液に投入し、80℃で撹拌しながら加熱して樹脂水溶液を調製した。マゼンタ顔料(C.I.ピグメントレッド122)20質量部、樹脂水溶液10質量部、ジエチレングリコール10質量部、及びイオン交換水60質量部を混合し、ジルコニアビーズミルを用いて分散させて、顔料分散液を得た。
【0206】
また、水系インク組成物の調製に用いたワックス(ワックスエマルション)は、事前に以下のように製造した。
【0207】
融点130℃のポリエチレンワックス30質量部、イオン交換水64重量部、エマルゲン430(商品名、花王株式会社、ポリオキシエチレンオレイルエーテル乳化剤)5重量部、48%水酸化カリウム水溶液1重量部を加え、窒素で置換の後、密封し160℃で1時間高速で攪拌した後90℃に冷却、高圧ホモジナイザーを通過させ水系ワックスエマルション1を得た。体積平均粒子径は200nmであった。
【0208】
これをベースにして、各融点を有するワックスを用い、高圧ホモジナイザーの圧力、冷却速度を調整して、各体積平均粒子径を有するワックス2~5も製造した。ワックス1~4は、ノニオン分散型ワックスであった。なお、ワックス5は、乳化剤を上記のものに代えて、アニオン性乳化剤(ニューコール2320-SN(商品名、日本乳化剤株式会社製))を使用した。ワックス5はアニオン分散型ワックスであった。
【0209】
また、水系インク組成物の調製に用いた樹脂粒子の分散液は、事前に以下のように製造した。
【0210】
スチレン75質量部、アクリル酸0.8質量部、メチルメタクリレート14.2質量部、及びシクロヘキシルメタクリレート10質量部を乳化共重合させることにより、樹脂エマルジョンを得た。乳化重合用界面活性剤としては、ニューコールNT-30(日本乳化剤(株)製)を用い、その使用量は、モノマー全量を100質量部として、2質量部とした。これをベースにして、使用した単量体モノマーの種類や組成比を上記のものから変更して、樹脂粒子分散液である樹脂1を得た。樹脂1のガラス転移温度は80℃、体積平均粒子径は190nmであった。
【0211】
さらに、樹脂1をベースに、単量体モノマーの種類や組成比をさらに変更して、樹脂のガラス転移点(ガラス転移温度)を調整し、乳化重合用界面活性剤の添加量を調整して体積平均粒子径を調整し、樹脂粒子分散液である樹脂2~4を得た。
【0212】
表1中、顔料分散液、樹脂、ワックスの欄は、それぞれの固形分濃度から換算した固形分の質量%を記載した。
【0213】
【表1】
【0214】
【表2】
【0215】
表1、表2中の物質の性質等は以下の通りである。
・樹脂1:ガラス転移温度80℃、体積平均粒子径(D50)190nm
・樹脂2:ガラス転移温度80℃、体積平均粒子径(D50)100nm
・樹脂3:ガラス転移温度60℃、体積平均粒子径(D50)190nm
・樹脂4:ガラス転移温度80℃、体積平均粒子径(D50)50nm
・ワックス1:融点130℃、体積平均粒子径(D50)200nm、密度0.98(g/cm
・ワックス2:融点130℃、体積平均粒子径(D50)80nm、密度0.98(g/cm
・ワックス3:融点130℃、体積平均粒子径(D50)150nm、密度0.98(g/cm
・ワックス4:融点105℃、体積平均粒子径(D50)200nm、密度0.93(g/cm
・ワックス5:融点130℃、体積平均粒子径(D50)200nm、密度0.98(g/cm
・サーフィノールDF110D:商品名、エア・プロダクツ社製、アセチレングリコール系界面活性剤(消泡剤)
・BYK-348:商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製、シリコーン系界面活性剤
・カチオマスターPD-7:商品名、四日市合成株式会社製、ポリアミン樹脂(エピクロルヒドリン-アミン誘導体樹脂)
【0216】
また、上記材料の体積平均粒子径は、各エマルジョンを水で100倍に希釈し、DLS(動的光散乱)粒子径分布測定装置Nanotec WaveII-EX150(マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて粒子径(体積基準)を求めた。樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)(セイコー電子株式会社製、型式「DSC6220」)で測定した。ワックスの融点は、示差走査熱量計(セイコー電子株式会社製、型式「DSC6220」)を使用して、各試料を150℃に昇温後、-30℃まで降温し、再び150℃まで昇温させた(昇降温速度は毎分20℃)。二回目の昇温時のピークから融点を算出した。
【0217】
3.2.評価方法
3.2.1.記録試験
以下の条件で記録物を作成した。印刷機として、「SC-S40650」(型式、セイコーエプソン株式会社製)に二次加熱用の遠赤外線ヒーターとファンを図1、3の様に取り付けた改造機(以下、「SC-S40650改造機」ともいう)を用いた。記録解像度/走査回数は、720×1440dpi/8回とした。表中の印刷温度は、付着工程における記録媒体表面温度である。プラテンヒーターを制御して、表中の温度に調整した。水系インク組成物及び処理液の、ベタパターンにおける付着量は、インク:12mg/inch、処理液:1.2mg/inchとした。二次加熱温度は、赤外線ヒーターを制御して、記録媒体の表面温度を表中の温度に調整した。二次加熱時間については、二次加熱ヒーターの記録媒体の送り方向の長さを調整して変化させ、表中の値にした。該時間は、二次加熱工程において、記録媒体表面のある点が80℃以上である時間である。なお、処理液は記録媒体の送り方向の上流側のインクジェットヘッドを使用し、水系インク組成物は下流側のインクジェットヘッドを使用した。なお、記録媒体表面のある点は、記録媒体の幅方向の中央のある点とした。
【0218】
表3~表5に用いた記録媒体の種類を記載した。記録媒体は以下の通りである。
・M1:Orajet 3169G-010(製品名、オラフォルジャパン株式会社製、ポリ塩化ビニル製フィルム)
・M2:H5469-0295:(製品名、ハイテックス社製、ターポリン)
【0219】
また、表3~表5中、二次加熱方式の欄に記載した「IR」、「IR+風」、「熱風」、「熱伝導」のそれぞれは、以下の通りである。
・IR:遠赤外線ヒーターを用いた。
・IR+風:遠赤外線ヒーター及びファンによる常温風を用いた。風速は3m/sである。
・熱風:ファンから熱風をあてた。熱風の温度は表に記載の通りで、風速は3m/sである。
・熱伝導:記録媒体の下側に、接触式の電熱ヒーターを設置して、これを用いて、記録媒体の下の記録媒体に接触するガイドを介して、記録媒体を加熱した。
【0220】
3.2.2.耐擦性の評価
「SC-S40650改造機」に各例の水系インク組成物、例によっては水系インク組成物及び処理液を充填して、記録媒体にベタパターンを印刷した。印刷後、30分間、室温放置した。ベタパターン部を30×150mmの矩形に切断し、平織布を使用して学振式耐擦試験機(荷重500g)で50回擦った際のインクの剥がれ度合を以下の基準で目視評価し、結果を表3~表5に記載した。
AA:剥がれなし
A:剥がれはないが、平織布に一部転写あり
B:評価面積に対し1割未満の剥がれあり
C:評価面積に対し1割以上5割未満の剥がれあり
D:評価面積に対し5割以上の剥がれあり
【0221】
3.2.3.目詰まり回復性の評価
「SC-S40650改造機」に各例の水系インク組成物、実施例14~実施例17にあっては水系インク組成物及び処理液を充填した。インク組成物用のインクジェットヘッドのノズル面を、水で湿らせたベンコットでノズル面を叩いて意図的にノズルの大部分に不吐出を発生させた。この状態で、35℃15%環境下で、各例ごとの記録条件で3時間連続で、模擬記録を行った。つまり記録をおこなうものの、インクジェットヘッドは、ノ
ズルからインクを吐出させずにキャリッジを走査させる空走を行った。
【0222】
その後、クリーニングを3回行い、最終的に何個のノズルが不吐出かを判定した。1回のクリーニングでは、ノズル列から1gのインクを排出させた。なおノズル列は360個のノズルから構成される。以下の基準で評価して、結果を表3~表5に記載した。上記の不吐出を発生させたノズル数に対する率である。
A:不吐出ノズルなし
B:不吐出ノズル3%未満
C:不吐出ノズルが3%以上5%未満
D:不吐出ノズルが5%以上
【0223】
3.2.4.静置安定性の評価(ワックス浮上性の評価)
アルミ製パック3つに各例の水系インク組成物をそれぞれ各100g入れ、遠心機CF9RX(型式、日立工機株式会社製)にパックを入れ、500rpm、120時間遠心分離を行った。その後、パック内のインクに(1)そのまま、(2)10往復撹拌、(3)30往復撹拌を、それぞれ行った。そして各パックの各水系インク組成物のワックスが分離しているか否かを目視で観察した。なおワックスが分離した場合、ワックスが水系インク組成物の上面に浮いてきて分離して見える。以下の基準で評価して、結果を表3~表5に記載した。
A:そのままでもワックスが分離していない
B:そのままでは分離していたが、10往復撹拌で分離がみられない
C:10往復攪拌でワックス分離していたが、30往復撹拌で分離がみられない
D:30往復撹拌しても分離がみられ回復しない
【0224】
3.2.5.メディアダメージの評価
「SC-S40650改造機」に各例の水系インク組成物、実施例14~実施例17にあっては水系インク組成物及び処理液を充填して、記録媒体にベタパターンを印字した。二次加熱後の印刷物を目視で判定した。
A:熱変形なし
B:熱変形あり
C:熱により著しく変形した
【0225】
【表3】
【0226】
【表4】
【0227】
【表5】

【0228】
3.3.評価結果
水系インク組成物が、樹脂粒子と、ワックスと、を含有し、樹脂粒子の体積平均粒子径Aが90.0nm以上であり、樹脂粒子の体積平均粒子径Aとワックスの体積平均粒子径Bとの比(B/A)が、0.7以上であり、加熱工程を、赤外線の照射により行った実施例は、何れも、耐擦性及び目詰まり回復性の両者が良好であった。
【0229】
これに対し、そうではない比較例は、何れも、耐擦性と目詰まり回復性の何れかが劣っていた。以下詳細を記す。
実施例1と3の比較から、樹脂粒子の平均粒子径が小さい方が耐擦性がより優れ、大きいほうが目詰まり回復性がより優れていた。
実施例1と2の比較や、1と4の比較から、ワックスの平均粒子径が、大きい方が耐擦性がより優れ、小さい方が静置安定性がより優れた。
実施例1と6の比較から、ワックスの融点が高い方が耐擦性や目詰まり回復性がより優れた。
実施例1と13の比較から、加熱工程において赤外線と送風を併用すると耐擦性がより優れていた。
実施例14と17の比較から、処理液付を用いる場合、ワックスがノニオン分散型のほうが耐擦性がより優れていた。
実施例1と18の比較から、二次加熱時間が長い方が、耐擦性がより優れていた。
実施例1と20の比較から、二次加熱温度が高い方が耐擦性がより優れ、低い方が耐メディアダメージがより優れた。
実施例1と21の比較から、印刷温度が低い方が目詰まり回復性がより優れた。
比較例1から、樹脂粒子の体積平均粒子径が90nm未満では目詰まり回復性が劣った。
比較例2から、粒子径の比が0.7未満では、耐擦性が劣った。
比較例3、4から、赤外性を用いない加熱工程では、耐擦性が劣った。
【0230】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0231】
1…インクジェット記録装置、2…インクジェットヘッド、2a…ノズル面、3…ヒーター、4…プラテンヒーター、5…赤外線ヒーター、6…ファン、7…プレヒーター、8…通気ファン、9…キャリッジ、11…プラテン、12…カートリッジ、13…キャリッジ移動機構、14…搬送手段、15…フード、51…発熱体、52…管体、53…支持体、71…筐体、72…ガイド、101…インターフェース部、102…CPU、103…メモリー、104…ユニット制御回路、111…搬送ユニット、112…キャリッジユニット、113…ヘッドユニット、114…乾燥ユニット、121…検出器群、130…コンピューター、200…ライン型記録装置の部分、210…記録媒体搬送手段、211…搬送ローラー、220…処理液付着手段、221…インクジェットヘッド、230…組成物付着手段、231…インクジェットヘッド、240…後加熱手段、CONT…制御部、MS…主走査方向、SS…副走査方向、M…記録媒体
図1
図2
図3
図4
図5