(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/01 129
(21)【出願番号】P 2019221940
(22)【出願日】2019-12-09
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】塩原 裕規
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-185852(JP,A)
【文献】特開2007-118450(JP,A)
【文献】特開2003-285431(JP,A)
【文献】特開2012-101366(JP,A)
【文献】特開2019-130511(JP,A)
【文献】特開2007-216418(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0154495(US,A1)
【文献】特開2019-001115(JP,A)
【文献】特開2014-185319(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1827373(CN,A)
【文献】特開2014-025602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の照射により硬化する液体を媒体に対して噴射可能な液体噴射部と、
前記液体が噴射された前記媒体に対して光を照射可能な照射部と、
前記液体噴射部が前記液体を噴射する場合に前記液体噴射部と前記媒体との間に形成さ
れる噴射領域、および前記照射部が光を照射する場合に前記照射部と前記媒体との間に形
成される照射領域における酸素濃度を大気の酸素濃度より低下可能な酸素濃度低下機構と
、を備え
、
前記酸素濃度低下機構は、減圧領域を減圧可能な減圧ポンプと、前記減圧領域と前記噴
射領域および前記照射領域とを区画する壁面の少なくとも一部に設けられた酸素透過膜と
、を有すること、
を特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記液体噴射部に供給される前記液体を脱気可能な脱気機構をさらに備えること、
を特徴とする請求項
1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記液体噴射部をメンテナンスするメンテナンス機構をさらに備え、メンテナンス時に
前記酸素濃度低下機構の駆動を停止すること、
を特徴とする
請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基材の表面にUV硬化性インクを噴射する画像形成部と、画像形成部の搬送方向の下流に配置されて基材に対して活性エネルギー線を照射する照射部と、搬送方向において画像形成部と照射部との間に配置されて基材に対して搬送方向の下流に不活性ガスを噴出させる噴出ノズルを有する不活性ガス供給部とを備えた液体噴射装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の液体噴射装置は、画像形成部が基材にUV硬化性インクを供給する領域から不活性ガスを噴出させる噴出ノズルが設けられた領域に搬送されるまでにUV硬化性インク中の酸素濃度が上昇し、UV硬化性インクの硬化性が低下するおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
液体噴射装置は、光の照射により硬化する液体を媒体に対して噴射可能な液体噴射部と、前記液体が噴射された前記媒体に対して光を照射可能な照射部と、前記液体噴射部が前記液体を噴射する場合に前記液体噴射部と前記媒体との間に形成される噴射領域、および前記照射部が光を照射する場合に前記照射部と前記媒体との間に形成される照射領域における酸素濃度を大気の酸素濃度より低下可能な酸素濃度低下機構と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態1に係る液体噴射装置の全体構成を示す斜視図。
【
図2】液体噴射装置の液体供給機構および印字部の構成を示す概念図。
【
図3】実施形態2に係る液体噴射装置の液体供給機構および印字部の構成を示す概念図。
【
図4】実施形態3に係る液体噴射装置の液体供給機構および印字部の構成を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1.実施形態1
図1および
図2を参照して、実施形態1に係わる液体噴射装置10について説明をする。以下、液体噴射装置10の全体構成、液体供給機構2、印字部70、およびメンテナンス機構91を順に説明する。本実施形態で説明する液体噴射装置10は、用紙などの媒体Mに光の照射により硬化する液体を噴射することによって印刷を行うシリアル印刷方式のインクジェットプリンターである。以下の説明では、光の照射により硬化する液体を「UV硬化性インク」または単に「液体」という。
【0008】
1-1.液体噴射装置の全体構成
以降の説明においては、液体噴射装置10が水平面上に置かれているものとして、重力が作用する鉛直方向をZ軸で示し、鉛直方向に対して垂直な水平面に沿う方向をX軸、およびY軸で示す。X軸、Y軸、およびZ軸は、互いに直交する。各軸を示した矢印は、先端側を「プラス側」、基端側を「マイナス側」とする。以下の説明では、X軸に沿う方向を幅方向、Y軸に沿う方向を奥行方向ともいう。液体噴射装置10におけるZ軸のプラス側を下面側または下側ともいい、Z軸のマイナス側を上面側または上側ともいう。
【0009】
図1に示すように、液体噴射装置10は、一対の脚部11、筐体12、繰出部13、案内部14、巻取部15、テンション付与機構16および操作パネル17を備える。筐体12は、一対の脚部11の上部に接合されている。繰出部13は、ロール状に巻き重ねられた媒体Mを、筐体12の内部に向けて繰り出す。案内部14は、筐体12から排出された媒体Mを、巻取部15に向けて案内する。
【0010】
巻取部15は、案内部14に案内された媒体Mを、ロール状に巻き取る。テンション付与機構16は、巻取部15に巻き取られる媒体Mにテンションを付与する。操作パネル17は、液体噴射装置10に実行させる各種の処理条件などを入力する。
【0011】
液体噴射装置10は、メインタンク20を備える。メインタンク20は、筐体12の外部に位置する。メインタンク20は、液体を収容する液体収容部18と、液体収容部18を保持するホルダー19とを備える。液体収容部18は、液体の一例であるインクを収容するインクカートリッジである。ホルダー19は、液体収容部18を着脱可能に保持する。
【0012】
液体噴射装置10は、液体噴射装置10の動作を制御する制御部100を備える。制御部100は、例えば、CPUとメモリーとを備える。CPUは、液体噴射装置10の各部の動作を制御するための演算処理装置である。メモリーは、CPUが実行するプログラムを格納する領域、およびプログラムを実行するための作業領域を備えたRAMやEPROMなどの記憶素子である。制御部100は、メモリーに記憶されたプログラムをCPUが実行することによって、液体噴射装置10の動作を制御する。
【0013】
1-2.液体供給機構
図2に示すように、液体噴射装置10は、液体供給機構2、および液体噴射部としてのプリントヘッド80を備える。液体供給機構2は、サブタンク30、循環経路31などを有する。
【0014】
サブタンク30は、メインタンク20から供給された液体を一時的に貯留する。本実施形態におけるサブタンク30は、開放式のサブタンク30である。サブタンク30の内部での液面の高さは、サブタンク30の液位である。
【0015】
プリントヘッド80は、Y軸に沿って並ぶ複数のノズル81と、複数のノズル81が形成されたノズル面80aとを備え、ノズル81から液体を噴射する。ノズル面80aと、サブタンク30の液位との間での鉛直方向の距離は、水頭差ΔHである。
【0016】
循環経路31は、液体を循環させるための流路である。循環経路31を循環する液体は、サブタンク30からプリントヘッド80に供給されて、プリントヘッド80からサブタンク30に戻る。
【0017】
メインタンク20とサブタンク30とは、補給流路21によって接続されている。補給流路21は、メインタンク20からサブタンク30に液体を補給するための流路である。補給流路21の上流端は、メインタンク20に接続されている。補給流路21の下流端は、サブタンク30に接続されている。
【0018】
補給流路21には、供給開閉弁22と供給ポンプ23とが、メインタンク20からサブタンク30に向けて、この順に配置されている。供給開閉弁22は、例えば、電磁操作弁であって、補給流路21を開閉する。供給ポンプ23は、メインタンク20に収容された液体をサブタンク30に向けて流す。
【0019】
サブタンク30は、液位センサー35を備える。液位センサー35は、サブタンク30の液位を検出する。液位センサー35は、サブタンク30の液位が第1液位L1以上であるか否かを判断する。液位センサー35は、サブタンク30の液位が第1液位L1よりも高い第2液位L2以上であるか否かを判断する。
【0020】
供給開閉弁22と供給ポンプ23とは、メインタンク20からサブタンク30への液体の補給、および、液体補給の停止を行なう。サブタンク30の液位が第1液位L1未満であるとき、供給開閉弁22と供給ポンプ23とは、液体補給を開始する。サブタンク30の液位が第2液位L2以上であるとき、供給開閉弁22と供給ポンプ23とは、液体補給を停止する。これにより、サブタンク30の液位は、第1液位L1と第2液位L2との間に保たれる。
【0021】
なお、プリントヘッド80が液体を消費したときに、供給開閉弁22と供給ポンプ23とは、液体補給を行なってもよい。また、供給開閉弁22と供給ポンプ23とは、プリントヘッド80の内部での液体の圧力が所定の範囲に保たれるように、液体補給を行ってもよい。こうした液体補給によれば、循環経路31で液体を循環させつつも、ノズル81での圧力を適正な範囲に保つことができる。すなわち、ノズル81に形成される気液界面であるメニスカスが壊れない状態で、循環経路31で液体を循環させることができる。
【0022】
サブタンク30は、液体噴射装置10が印刷を行うときに、サブタンク30の内部を大気に開放する。サブタンク30での大気開放は、サブタンク30の内部での圧力である内圧を調整する。サブタンク30での内圧の調整は、ノズル81に形成されたメニスカスが壊れないように行われる。サブタンク30での内圧は、例えば、大気圧に対して-3500Pa以上-1000Pa以下である。サブタンク30での内圧の調整は、ノズル81のメニスカスを安定させることができる。
【0023】
なお、サブタンク30での内圧の調整は、水頭差ΔHに基づいて行われてもよい。供給開閉弁22と供給ポンプ23とは、例えば、水頭差ΔHが190mmになるように、サブタンク30の液位を調整する。
【0024】
サブタンク30は、エア流路37を通じて、加圧モジュール36に接続されている。エア流路37は、サブタンク30の内部に給気する、または、サブタンク30の内部を排気する。加圧モジュール36は、サブタンク30に収容された液体を、エア流路37を通じた給気によって加圧し、また、エア流路37を通じた排気によって減圧する。
【0025】
加圧モジュール36は、例えば、加圧クリーニングに用いられる。加圧クリーニングは、ノズル81に供給される液体を加圧して、ノズル81から液体を強制的に排出させる。加圧クリーニングは、液体に含まれる気泡などの異物を、プリントヘッド80の内部から排出する。加圧モジュール36は、加圧クリーニングを行うときに、ノズル81のメニスカスが壊れるように、サブタンク30での内圧を高める。
【0026】
加圧モジュール36は、例えば、液体噴射装置10が印刷を行うときに、サブタンク30での内圧の調整に用いられてもよい。加圧モジュール36は、ノズル81のメニスカスが壊れないように、サブタンク30の内圧を、例えば、大気圧に対して-2400Pa以上-1900Pa以下とする。加圧モジュール36によるサブタンク30での内圧の調整でも、ノズル81のメニスカスを安定させることはできる。
【0027】
循環経路31は、液体供給路32と液体排出路33とを備える。
液体供給路32は、サブタンク30からプリントヘッド80に向けて液体を供給する。液体供給路32の上流端は、サブタンク30に接続されている。液体供給路32の下流端は、プリントヘッド80に接続されている。
【0028】
液体排出路33は、プリントヘッド80に供給された液体の一部分をサブタンク30に向けて戻す。すなわち、プリントヘッド80に供給された液体のうち、プリントヘッド80のノズル81から噴射されなかった液体は、液体排出路33を通してサブタンク30に戻る。液体排出路33の上流端は、プリントヘッド80に接続されている。液体排出路33の下流端は、サブタンク30に接続されている。
【0029】
液体供給路32は、各プリントヘッド80の一端部に接続されている。液体排出路33は、プリントヘッド80の一端部とは反対の他端部に接続されている。
【0030】
液体供給路32には、ダイヤフラムポンプ40、加熱部48、脱気機構49、フィルター部50、およびダンパー部60が、サブタンク30からプリントヘッド80に向けて、この順に配置されている。
【0031】
ダイヤフラムポンプ40は、ポンプの一例である。ダイヤフラムポンプ40は、液体供給路32を通じて、プリントヘッド80に液体を供給する。
【0032】
ダイヤフラムポンプ40の少なくとも一部分は、サブタンク30の液位よりも下方に位置することが好ましい。ダイヤフラムポンプ40では、ダイヤフラム室の鉛直方向での中心がサブタンク30の液位よりも下方に位置することがより好ましい。ダイヤフラムポンプ40の吸入口がサブタンク30の液位よりも低い場合には、キャビテーションの発生が抑えられて、ダイヤフラムポンプ40による液体の供給を安定させることができる。
【0033】
加熱部48は、ヒーターおよび温度計を有する温水タンクと、温水循環経路と、温水ポンプと、熱交換器とを備える。温水タンクは、所定の温度範囲に調整された温水を貯留する。温水循環経路は、温水タンクから熱交換器を経て温水タンクに戻る流路である。温水ポンプは、温水を温水循環経路内で循環させる。熱交換器は、温水循環経路を流れる温水と、循環経路31を流れる液体との間で、熱交換を行う。
【0034】
加熱部48は、循環経路31を流れる液体を、所定の温度に加熱する。所定の温度は、プリントヘッド80に供給される液体が、プリントヘッド80からの噴射に適した粘度となる温度であり、例えば、35℃以上40℃以下である。加熱部48は、噴射に適していない高い粘度の液体がプリントヘッド80に供給されることを抑える。
【0035】
脱気機構49は、プリントヘッド80に供給される液体、すなわち、循環経路31を流れる液体を脱気する。脱気機構49は、脱気モジュールと、負圧ポンプとを備える。脱気モジュールは、例えば、複数本の中空糸膜を備えたものである。負圧ポンプが中空糸膜の外側を減圧することによって、中空糸膜内を流れる液体が脱気される。脱気機構49は、気泡を含んだ液体がプリントヘッド80に供給されることを抑える。
【0036】
フィルター部50は、液体供給路32において、プリントヘッド80のノズル面80aよりも鉛直方向での上方に位置する。フィルター部50は、液体供給路32に着脱可能に構成されている。フィルター部50は、液体中の気泡を含む異物を捕集した液体をフィルター部50よりも下流の液体供給路32に流出させる。
【0037】
ダンパー部60は、循環経路31を流れる液体の圧力の変動を抑制する。ダンパー部60は、例えば、ゴム弾性を有する透過膜である。
【0038】
フィルター部50の上流側には、液体供給路32とは別に、脱気通路58が接続されている。脱気通路58は、フィルター部50とサブタンク30とに接続されている。脱気通路58の途中には、排出弁59が配置されている。脱気通路58は、フィルター部50の鉛直方向でのほぼ最上位置に接続されている。
【0039】
排出弁59は、脱気通路58を連通状態と非連通状態とに切り替える。フィルター部50で捕集された気泡は、脱気通路58の排出弁59を開弁することによって、脱気通路58を通じてサブタンク30に排出される。
【0040】
1-3.印字部
液体噴射装置10は、繰出部13から筐体12の内部に繰り出された媒体Mに対して印字を行う印字部70を備える。
印字部70は、上述したプリントヘッド80、キャリッジ71、照射部79、噴射領域72、照射領域73、酸素濃度低下機構としての減圧機構90および、プラテン75を有する。キャリッジ71は、下面側に開放する箱状をなし、後述する酸素透過膜76により密閉される。キャリッジ71は、プリントヘッド80、照射部79、減圧機構90の一部を搭載し、プラテン75の上方に位置する。キャリッジ71は、X軸に沿って設けられるガイド軸74にガイドされ、主走査方向であるX方向に沿って往復移動可能に構成される。照射部79は、第1照射部79a、および第2照射部79bを有する。キャリッジ71には、X軸のプラス側からマイナス側に向かって、第1照射部79a、プリントヘッド80、第2照射部79bの順に搭載される。プラテン75は、往復移動するキャリッジ71と対向する位置に設けられ、媒体Mを下方から支持する。媒体Mは、Y軸のプラス側からマイナス側に向かう搬送方向に搬送される。
【0041】
プリントヘッド80は、UV硬化性インクを媒体Mに対して噴射するものである。本実施形態の印字部70には、X軸に沿って並ぶ4つのプリントヘッド80が搭載されている。各プリントヘッド80は、UV硬化性インクを噴射するためのY軸に沿って並ぶ複数のノズル81を備えたノズル面80aを有する。4つのプリントヘッド80は、例えば、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各色に対応する。各プリントヘッド80からのUV硬化性インクの噴射は、制御部100により制御される。なお、印字部70に搭載されるプリントヘッド80の数は、3つ以下や5つ以上であってもよい。
【0042】
照射部79は、UV硬化性インクが噴射された媒体Mに対して光を照射するものである。照射部79は、UV硬化性インクを硬化させる光を媒体Mに向かって照射する光源を有している。光源としては、例えば、LED(Light Emitting Diode)、LD(Laser Diode)、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ等の種々の光源を使用することができる。照射部79のY軸における長さは、各プリントヘッド80に設けられる、Y軸に沿って並ぶ複数のノズル81を網羅する長さに設定されている。実施形態1では、照射部79は2つ設けられている。照射部79は2つ以上設置されていてもよい、例えば、各プリントヘッド80ごとに1つずつ照射部79が設置されていてもよい。キャリッジ71がX軸のプラス側に移動するときは、4つのプリントヘッド80の下流にあたる第2照射部79bが点灯する。逆にキャリッジ71がX軸のマイナス側に移動するときには、4つのプリントヘッド80の下流にあたる第1照射部79aが点灯する。照射部79は、制御部100によって制御される。
【0043】
噴射領域72は、プリントヘッド80がUV硬化性インクを噴射する場合にプリントヘッド80と媒体Mとの間に形成される空間である。また、照射領域73は、照射部79が光を照射する場合に照射部79と媒体Mとの間に形成される空間である。第1照射部79aに対応する空間は第1照射領域73aであり、第2照射部79bに対応する空間は第2照射領域73bである。噴射領域72および、第1、第2照射領域73a,73bの大きさは特に限定されない。噴射領域72および、第1、第2照射領域73a,73bは、キャリッジ71のX方向への移動に伴って媒体M上を移動する。キャリッジ71がX軸のプラス側に移動するときは、噴射領域72がX軸のプラス側に移動した後に、第2照射領域73bが噴射領域72として存在していた場所に移動し、UV硬化性インクを硬化させる。逆に、キャリッジ71がX軸のマイナス側に移動するときは、噴射領域72がX軸のマイナス側に移動した後に、第1照射領域73aが噴射領域72として存在していた場所に移動し、UV硬化性インクを硬化させる。
【0044】
減圧機構90は、噴射領域72および照射領域73の酸素濃度を大気の酸素濃度よりも低下させる機能を有する。減圧機構90は、酸素透過膜76、減圧ポンプ77、および配管78を有する。
【0045】
酸素透過膜76は、酸素のみを選択的に透過可能な膜である。酸素透過膜76は、例えば、酸素の濃度差を駆動力とし、電気的な導電性により特定のイオンのみを透過させる緻密性の膜などを採用することができる。酸素透過膜76は、プリントヘッド80および、照射部79の底面を除くキャリッジ71の下部全体を覆っている。酸素透過膜76とキャリッジ71とで囲われた空間は、減圧領域69である。換言すると、酸素透過膜76は、減圧領域69と噴射領域72および照射領域73とを区画する壁面でもある。なお、本実施形態では、酸素透過膜76が壁面全体をなす構成を示したが、酸素透過膜76が、壁面の少なくとも一部に設けられた構成、詳しくは、少なくともキャリッジ71の移動方向において噴射領域72の上流となる位置に設けられた構成であってもよい。
【0046】
減圧ポンプ77は、減圧領域69を減圧可能なポンプである。減圧ポンプ77としては、例えば、ダイヤフラムポンプなどを用いることができる。減圧ポンプ77は、複数用いてもよい。減圧ポンプ77の減圧能力は、大気圧力以下に減圧可能であればよい。減圧ポンプ77は、配管78を通して減圧領域69に接続される。配管78は、減圧領域69を構成する酸素透過膜76およびキャリッジ71のうち、キャリッジ71のどの部分に接続されていてもよい。
【0047】
減圧機構90は、次のメカニズムにより酸素濃度を低下させる。減圧ポンプ77の減圧により減圧領域69内の空気の酸素量が、噴射領域72および照射領域73に対して相対的に低下し、減圧領域69内と、噴射領域72および照射領域73との単位体積当たりの酸素量に差が生じる。この酸素量差を駆動力として、噴射領域72および照射領域73の酸素が、酸素透過膜76を通じて減圧領域69に移動する。これにより噴射領域72および照射領域73の酸素濃度が低下する。
【0048】
1-4.メンテナンス機構
液体噴射装置10は、媒体Mへの液体噴射を安定させるため、プリントヘッド80をメンテナンスするメンテナンス機構91を有している。
【0049】
メンテナンス機構91は、フラッシングボックス92と、ワイパー93、キャップ94、およびこれらを一体移動可能に支持する支持部材95とを備えて構成される。ワイパー93が、払拭面93a又は払拭面93bをノズル面80aに当接させた状態でワイピング方向Dwに移動することでワイピングが行われる。キャップ94は、Z軸からの平面視にてプリントヘッド80と重なる位置において、ノズル81を覆うようにノズル面80aに当接することでキャッピングが行われる。また、キャリッジ71は、Z軸からの平面視にて定期的にフラッシングボックス92と重なる位置に移動し、プリントヘッド80からフラッシングボックス92へ液体が噴射される。また、メンテナンス機構91はプラテン75の位置よりX軸で異なる位置に存在する。Z軸方向については同一位置でなくてもよい。また、メンテナンス機構91がプリントヘッド80のメンテナンス動作を行うときやキャリッジ71がメンテナンス機構91の鉛直上方に位置するときには、減圧機構90の駆動を停止してもよい。
【0050】
メンテナンス機構91には、ワイパー93および、キャップ94を駆動させるメンテナンス駆動機構を有する。メンテナンス駆動機構は、ワイパー93およびキャップ94をZ軸に沿って移動させ、ワイパー93をX軸に沿って移動させ、キャップ94をZ軸に沿って昇降させる機能を有する。
【0051】
なお、本実施形態では、脱気機構49が加熱部48とフィルター部50との間も設けられた構成を示したが、脱気機構49がキャリッジ71の内部に設けられた構成であってもよい。キャリッジ71内は、減圧ポンプ77で減圧されているので、脱気機構49を脱気モジュールのみで構成することができる。すなわち、減圧機構90の備える減圧ポンプ77と、脱気機構49の備えていた負圧ポンプと、が共用可能になるので、液体噴射装置10が備えるポンプの数を削減することができる。
【0052】
以上述べたように、本実施形態にかかわる液体噴射装置10によれば、以下の効果を得ることができる。
【0053】
液体噴射装置10は、噴射領域72および照射領域73における酸素濃度を大気の酸素濃度よりも低下させる酸素濃度低下機構を備えている。これにより、UV硬化性インクが噴射される噴射領域72からUV硬化性インクを硬化させる光が照射される照射領域73までの酸素濃度が低下するため、UV硬化性インクの硬化性を向上させることができる。
【0054】
液体噴射装置10は、酸素濃度低下機構として減圧機構90を備えている。減圧機構90は、減圧ポンプ77を用いて減圧領域69の酸素量を低下させ、酸素透過膜76を通して、噴射領域72および照射領域73の酸素を減圧領域69に移動させる。これにより、噴射領域72および照射領域73の酸素濃度を大気の酸素濃度よりも好適に低くすることができる。
【0055】
液体噴射装置10は、プリントヘッド80に供給される液体を脱気する脱気機構49を備えている。これにより、プリントヘッド80から噴射される液体に含まれる気泡、すなわちUV硬化性インク中に溶存する酸素量が低くなるため、UV硬化性インクの硬化性が向上する。
【0056】
液体噴射装置10は、プリントヘッド80をメンテナンスするメンテナンス機構91を備えている。メンテナンス動作をするときに、減圧機構90が停止されるため、メンテナンス動作によりメンテナンス機構91に付着した液体が、照射部79の照射による漏れ光により硬化することを低減できる。
【0057】
2.実施形態2
図3を参照して実施形態2に係わる液体噴射装置110について説明をする。なお、実施形態1と同一の構成については、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。本実施形態の液体噴射装置110は、実施形態1で説明した液体噴射装置10と酸素濃度低下機構の構成が異なる。
【0058】
液体噴射装置110は、酸素濃度低下機構として不活性ガス供給機構120を有する。不活性ガスは、例えば、窒素ガスなどである。不活性ガス供給機構120は、噴射領域72および照射領域73に不活性ガスを供給可能に構成される。不活性ガス供給機構120は、不活性ガスの供給源となる不活性ガス発生器125と、不活性ガス供給管132とを有し、不活性ガス供給管132の一端が不活性ガス発生器125に接続される。不活性ガス供給機構120は、噴射領域72においてUV硬化性インクが酸素を吸収することを阻害し、照射領域73において照射領域73の空気の酸素濃度を低下させる。
【0059】
不活性ガス供給管132の他端に形成される噴射口133は、媒体Mの相対移動方向においてプリントヘッド80の上流となる位置に設けられる。具体的には、不活性ガス供給機構120は、X軸に沿って往復移動するキャリッジ71の移動方向における上流側に設けられる。不活性ガス供給管132は、キャリッジ71の内部又は外部に設置される。本実施形態の不活性ガス供給管132は、第1噴射口133aを有する第1不活性ガス供給管132aと、第2噴射口133bを有する第2不活性ガス供給管132bとで構成される。第1噴射口133aは、第1照射部79aとプリントヘッド80との間に設けられ、第2噴射口133bは、第2照射部79bとプリントヘッド80との間に設けられる。キャリッジ71がX軸のプラス側に移動する場合は、第1噴射口133aから不活性ガスが噴出される。キャリッジ71がX軸のマイナス側に移動する場合は、第2噴射口133bから不活性ガスが噴出される。不活性ガス供給機構120は制御部100により制御される。なお、キャリッジ71の移動方向に関わらず、第1噴射口133a、第2噴射口133bから同時に不活性ガスを噴射させる不活性ガス供給機構120であってもよい。
また、メンテナンス機構91がプリントヘッド80のメンテナンス動作を行うときやキャリッジ71がメンテナンス機構91の鉛直上方に位置するときには、不活性ガス供給機構120の駆動を停止してもよい。
【0060】
以上述べたように、本実施形態に係る液体噴射装置110によれば以下の効果を得ることができる。
【0061】
液体噴射装置10は、酸素濃度低下機構として不活性ガス供給機構120を備えている。不活性ガス供給機構120は、噴射領域72および照射領域73に不活性ガスを供給する。これにより、噴射領域72および照射領域73の酸素濃度を大気の酸素濃度よりも好適に低くすることができる。
【0062】
3.実施形態3
図4を参照して実施形態3に係わる液体噴射装置210について説明をする。実施形態1と同一の構成については、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。本実施形態の液体噴射装置210はライン印刷方式のインクジェットプリンターである。
【0063】
液体噴射装置210は、繰出部13から筐体12の内部に繰り出された媒体Mに対して印字を行う印字部270を備える。
印字部270は、プリントヘッド280、照射部279、噴射領域272、照射領域273、酸素濃度低下機構としての減圧機構290および不活性ガス供給機構220、媒体搬送ローラー230を有する。プリントヘッド280、照射部279は、下面側に開放する箱状をなす収納ボックス271に収納される。照射部279は、Y軸のプラス側からマイナス側に向かって搬送される媒体Mの搬送方向においてプリントヘッド280よりも下流側に設けられる。収納ボックス271は、媒体Mの幅よりも長い長方形であり、筐体12の内部に固定されている。
【0064】
本実施形態の印字部270には、Y軸に沿って並ぶ4つのプリントヘッド280が搭載されている。各プリントヘッド280は、UV硬化性インクを噴射するためのX軸に沿って並ぶ複数のノズル281を備えたノズル面280aを有する。各プリントヘッド280のX軸に沿う長さは、媒体Mの幅よりも長い。媒体搬送ローラー230は、プリントヘッド280と対向する位置に設けられ、媒体MをY軸のプラス側からマイナス側に向かう搬送方向に搬送させる。
【0065】
噴射領域272は、プリントヘッド280がUV硬化性インクを噴射する場合にプリントヘッド280と媒体Mとの間に形成される空間である。また、照射領域273は、照射部279が光を照射する場合に照射部279と媒体Mとの間に形成される空間である。噴射領域272に位置していた媒体Mは、媒体Mの搬送と共に照射領域273に移動する。
【0066】
減圧機構290は、噴射領域272および照射領域273の酸素濃度を大気の酸素濃度よりも低下させる機能を有する。減圧機構290は、酸素透過膜276、減圧ポンプ77、および配管78を有する。
【0067】
酸素透過膜276は、プリントヘッド280および照射部279の底面を除く収納ボックス271の下部全体を覆っている。酸素透過膜276と収納ボックス271とで囲われた空間は、減圧領域269である。
減圧ポンプ77は、減圧領域269を減圧可能なポンプである。減圧ポンプ77は、配管78を通して減圧領域269に接続される。減圧機構290が、減圧領域269を減圧させることにより、噴射領域272および照射領域273の酸素が、酸素透過膜276を通じて減圧領域269に移動する。これにより噴射領域272および照射領域273の酸素濃度が低下する。
【0068】
不活性ガス供給機構220は、噴射領域272および照射領域273に不活性ガスを供給可能に構成される。不活性ガス供給機構220は、不活性ガス発生器125と、不活性ガス供給管231とを有し、不活性ガス供給管231の一端が不活性ガス発生器125に接続される。不活性ガス供給管231の他端に形成される噴射口233は、媒体Mの搬送方向においてプリントヘッド280の上流となる位置に設けられる。不活性ガス供給管231は、収納ボックス271よりも搬送方向の上流側に、例えば45度傾けた状態で設けられる。
【0069】
不活性ガス供給機構220は、噴射領域272および照射領域273に不活性ガスを供給し、噴射領域272および照射領域273の酸素濃度を低下させる。不活性ガス供給機構220は、媒体Mの周辺に存在する空気の噴射領域272および、照射領域273への流入を防ぐエアカーテンとしても機能する。
【0070】
なお、本実施形態では、不活性ガス供給機構220の噴射口233が収納ボックス271の上流に1つ設けられた構成を示したが、複数の噴射口233がX軸に沿って設けられた構成であってもよい。また、本実施形態では、照射部279が4つのプリントヘッド280の下流に1つ設けられた構成を示したが、各プリントヘッド280の各々の下流に照射部279が設けられた構成であってもよい。さらに、照射部279は複数の光源をX軸に沿って設けた構成であってもよい。
また、メンテナンス機構91がプリントヘッド80のメンテナンス動作を行うときやキャリッジ71がメンテナンス機構91の鉛直上方に位置するときには、減圧機構290および不活性ガス供給機構220の駆動を停止してもよい。
【0071】
以上述べたように、本実施形態に係る液体噴射装置210によれば、以下の効果を得ることができる。
【0072】
液体噴射装置210は、酸素濃度低下機構として、減圧機構290および不活性ガス供給機構220の両方を有しているため、噴射領域272および照射領域273の酸素濃度を効果的に低下させることができる。
【符号の説明】
【0073】
10,110,210…液体噴射装置、49…脱気機構、69,269…減圧領域、72,272…噴射領域、73,273…照射領域、76,276…酸素透過膜、77…減圧ポンプ、79,279…照射部、80,280…液体噴射部としてのプリントヘッド、80a,280a…ノズル面、90…酸素濃度低下機構としての減圧機構、91…メンテナンス機構、120,220…不活性ガス供給機構、M…媒体。