(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20231212BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20231212BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20231212BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41J2/01 123
B41J2/01 125
B41J2/01 501
B41J2/01 401
B41J2/01 305
B41M5/00 132
B41M5/00 120
C09D11/30
(21)【出願番号】P 2019222733
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】浅川 裕太
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-162841(JP,A)
【文献】特開2019-156995(JP,A)
【文献】特開2019-064087(JP,A)
【文献】特開2014-162108(JP,A)
【文献】特開2018-165314(JP,A)
【文献】特開2016-176016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録装置を用いて行うインクジェット記録方法であって、
凝集剤を含む処理液を、記録媒体に付着させる処理液付着工程と、
色材を含む水系インク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して前記記録媒体に付着させるインク付着工程と、
を備え、
前記インクジェット記録装置は、
前記記録媒体を支持する記録媒体支持部と、
前記記録媒体支持部を加熱する加熱機構と、
を備え、
前記インク付着工程は、前記記録媒体支持部によって、支持され加熱された前記記録媒体に対して行われ、
前記インク付着工程において、前記記録媒体支持部に支持され前記インクジェットヘッドと対向する位置にある前記記録媒体の表面の最高温度が、28.0℃以上45.0℃以下に前記記録媒体が加熱され、
前記水系インク組成物は、純水に対して前記水系インク組成物を0.1質量%混合した混合液の最大ピーク波長における吸光度Bに対する、前記処理液に対して前記水系インク組成物を0.1質量%混合した混合液の前記波長における吸光度Aの比(A/B)が、0.5以上0.95以下であり、
前記記録媒体支持部は、前記記録媒体を支持する支持面が平坦であ
り、前記支持面に吸引孔が形成されており、前記支持面の前記記録媒体を支持し前記インクジェットヘッドと対向する部分の面積の90.0%以上の領域で前記支持面が前記記録媒体に接し、
前記凝集剤は、マグネシウム塩である多価金属塩を含む、インクジェット記録方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記インク付着工程が、前記記録媒体に対し複数回の、主走査及び副走査を行うことにより行われる、インクジェット記録方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記インク付着工程において、前記記録媒体支持部に支持され前記インクジェットヘッドと対向する位置にある部分の前記記録媒体の表面温度の面内分布における温度差が、8.0℃以下である、インクジェット記録方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記加熱機構は、前記記録媒体支持部を、前記支持面に対して反対側から加熱する、インクジェット記録方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
前記水系インク組成物の平均ゼータ電位が、-65.0mV以上-50.0mV以下である、インクジェット記録方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項において、
前記記録媒体の搬送方向に直交する方向の幅が、0.5m以上である、インクジェット記録方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項において、
前記記録媒体の搬送方向に直交する方向における、前記記録媒体支持部の幅が、前記記録媒体の搬送方向に直交する方向の幅よりも大きい、インクジェット記録方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項において、
前記記録媒体支持部の前記支持面を構成する部材の厚さが、2.0mm以上10.0mm以下である、インクジェット記録方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか一項において、
前記インク付着工程において、前記水系インク組成物が付着した記録媒体に、送風機構により送風する送風工程を備える、インクジェット記録方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記記録媒体に送風する風速が、1.0m/秒以上である、インクジェット記録方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10において、
前記記録媒体に送風する風温が、45.0℃以下である、インクジェット記録方法。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか一項において、
前記比(A/B)が、0.7以上0.9以下である、インクジェット記録方法。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか一項において、
前記記録媒体の厚さが、40.0μm以上である、インクジェット記録方法。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか一項において、
前記水系インク組成物が、標準沸点が280.0℃超の有機溶剤を、1.0質量%を超えて含まない、インクジェット記録方法。
【請求項15】
請求項1ないし請求項14のいずれか一項において、
前記支持面の、前記記録媒体を支持し、前記インクジェットヘッドと対向する部分の面積の、
95.0%以上の領域で、前記支持面が前記記録媒体に接する、インクジェット記録方法。
【請求項16】
請求項1ないし請求項15のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法を行う、記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置のインクジェットヘッドのノズルから微小なインク滴を吐出させて、記録媒体上に画像を記録するインクジェット記録方法が知られており、サイン印刷分野、高速ラベル印刷分野での使用も検討されている。そして、インク低吸収性の記録媒体(例えば、アート紙やコート紙)又はインク非吸収性の記録媒体(例えば、プラスチックフィルム)に対して画像の記録を行う場合、インクとして、地球環境面及び人体への安全性等の観点から、樹脂エマルジョンを含有する水系レジンインク組成物(以下単に「水系インク組成物」又は「水系インク」ということがある。)の使用が検討されている。
【0003】
例えば、例えば、水系インク組成物に含まれる成分を凝集させる作用を有する反応液を使用することにより、水系インク組成物を早期に固定して優れた画質を得ることが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発明者の検討の結果、反応液に接触した際に反応性が高すぎる水系インク組成物の場合、反応液ミストがインクジェットヘッドのノズルに飛来したり、記録媒体がノズルに接触したときに、水系インク組成物の吐出不良を生じたり、記録物の耐擦性や光沢感が低下する傾向があった。
【0006】
しかし、この点を考慮し、反応性をやや低めにした水系インク組成物を用いても、同色の画像を形成したにもかかわらず、記録媒体上の領域ごとに色が異なる、いわゆる面内色差の現象が生じ、ノズルの目詰まり回復性が良好でかつ面内色差も抑制できる点で、未だ不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、
インクジェット記録装置を用いて行うインクジェット記録方法であって、
凝集剤を含む処理液を、記録媒体に付着させる処理液付着工程と、
色材を含む水系インク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して前記記録媒体に付着させるインク付着工程と、
を備え、
前記インクジェット記録装置は、
前記記録媒体を支持する記録媒体支持部と、
前記記録媒体支持部を加熱する加熱機構と、
を備え、
前記インク付着工程は、前記記録媒体支持部によって、支持され加熱された前記記録媒体に対して行われ、
前記インク付着工程において、前記記録媒体支持部に支持され前記インクジェットヘッドと対向する位置にある前記記録媒体の表面の最高温度が、28.0℃以上45.0℃以下に前記記録媒体が加熱され、
前記水系インク組成物は、純水に対して前記水系インク組成物を0.1質量%混合した混合液の最大ピーク波長における吸光度Bに対する、前記処理液に対して前記水系インク組成物を0.1質量%混合した混合液の前記波長における吸光度Aの比(A/B)が、0.5以上0.95以下であり、
前記記録媒体支持部は、前記記録媒体を支持する支持面が平坦である、インクジェット記録方法。
【0008】
(2)上記態様(1)において、
前記インク付着工程が、前記記録媒体に対し複数回の、主走査及び副走査を行うことにより行われてもよい。
【0009】
(3)上記態様(1)又は(2)において、
前記インク付着工程において、前記記録媒体支持部に支持され前記インクジェットヘッドと対向する位置にある部分の前記記録媒体の表面温度の面内分布における温度差が、8.0℃以下であってもよい。
【0010】
(4)上記態様(1)ないし(3)のいずれかにおいて、
前記記録媒体支持部の前記支持面に対して反対側から前記加熱機構により前記記録媒体支持部を加熱してもよい。
【0011】
(5)上記態様(1)ないし(4)のいずれかにおいて、
前記水系インク組成物における前記色材の平均ゼータ電位が、-65.0mV以上-50.0mV以下であってもよい。
【0012】
(6)上記態様(1)ないし(5)のいずれかにおいて、
前記記録媒体の搬送方向に直交する方向の幅が、0.5m以上であってもよい。
【0013】
(7)上記態様(1)ないし(6)のいずれかにおいて、
前記記録媒体の搬送方向に直交する方向における、前記記録媒体支持部の幅が、前記記録媒体の搬送方向に直交する方向の幅よりも大きくてもよい。
【0014】
(8)上記態様(1)ないし(7)のいずれかにおいて、
前記記録媒体支持部の前記支持面を構成する部材の厚さが、2.0mm以上10.0mm以下であってもよい。
【0015】
(9)上記態様(1)ないし(8)のいずれかにおいて、
前記インク付着工程において、前記水系インク組成物が付着した記録媒体に、送風機構により送風する送風工程を備えてもよい。
【0016】
(10)上記態様(9)において、
前記記録媒体に送風する風速が、1.0m/秒以上であってもよい。
【0017】
(11)上記態様(9)又は(10)において、
前記記録媒体に送風する風温が、45.0℃以下であってもよい。
【0018】
(12)上記態様(1)ないし(11)のいずれかにおいて、
前記比(A/B)が、0.7以上0.9以下であってもよい。
【0019】
(13)上記態様(1)ないし(2)のいずれかにおいて、
前記記録媒体の厚さが、40.0μm以上であってもよい。
【0020】
(14)上記態様(1)ないし(13)のいずれかにおいて、
前記水系インク組成物が、標準沸点が280.0℃超の有機溶剤を、1.0質量%を超えて含まなくてもよい。
【0021】
(15)上記態様(1)ないし(14)のいずれかにおいて、
前記支持面の、前記記録媒体を支持し前記インクジェットヘッドと対向する部分の面積の、90.0%以上の領域で、前記支持面が前記記録媒体に接してもよい。
【0022】
(16)本発明に係る記録装置の一態様は、
上記態様(1)ないし(15)のいずれかのインクジェット記録方法を行う。
【0023】
(17)本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、
インクジェット記録装置を用いて行うインクジェット記録方法であって、
凝集剤を含む処理液を、記録媒体に付着させる処理液付着工程と、
色材を含む水系インク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して前記記録媒体に付着させるインク付着工程と、
を備え、
前記インクジェット記録装置は、
前記記録媒体を支持する記録媒体支持部と、
前記記録媒体支持部を加熱する加熱機構と、
を備え、
前記インク付着工程は、前記記録媒体支持部によって加熱され支持された前記記録媒体に対して行われ、
前記記録媒体支持部は、前記記録媒体を支持する支持面が平坦であり、
前記水系インク組成物は、前記処理液に対して前記水系インク組成物を0.1質量%混合した混合液の380.0nm以上680nm以下の範囲の最大ピーク波長における吸光度Aの、純水に対して前記水系インク組成物を0.1質量%混合した混合液の前記最大ピーク波長における吸光度Bに対する比(A/B)が、0.5以上0.95以下であり、
前記インク付着工程において、前記記録媒体支持部に支持され前記インクジェットヘッドと対向する位置にある前記記録媒体の表面の最高温度が、28.0℃以上45.0℃以下に前記記録媒体が加熱される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施形態のインクジェット記録装置の一例の概略図。
【
図2】実施形態のインクジェット記録装置の一例のキャリッジ周辺の概略図。
【
図3】実施形態のインクジェット記録装置の一例のブロック図。
【
図4】ライン型の記録装置の一部分を模式的に示す概略断面図。
【
図5】支持面が平坦な記録媒体支持部の一例を模式的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0026】
1.インクジェット記録方法
本発明の一形態のインクジェット記録方法は、インクジェット記録装置を用いて行うインクジェット記録方法であって、凝集剤を含む処理液を、記録媒体に付着させる処理液付着工程と、色材を含む水系インク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して前記記録媒体に付着させるインク付着工程と、を備える。以下順に説明する。
【0027】
1.1.記録媒体
本実施形態のインクジェット記録方法に用いる記録媒体は、特に限定されない。しかし本実施形態のインクジェット記録方法による効果がより顕著となることから、低吸収性又は非吸収性記録媒体を用いることがより好ましい。
【0028】
低吸収性又は非吸収性記録媒体とは、インクを全く吸収しない、又はほとんど吸収しない性質を有する記録媒体を指す。低吸収性又は非吸収性記録媒体とは、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2以下である記録媒体」を指す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙-液体吸収性試験方法-ブリストー法」に述べられている。これに対して、液体吸収性の記録媒体とは、液体非吸収性及び液体低吸収性に該当しない記録媒体のことを示す。なお、本明細書では、液体非吸収性、液体低吸収性及び液体吸収性を、単に非吸収性、低吸収性及び吸収性と称することがある。
【0029】
このような低吸収性又は非吸収性の性質を備える記録媒体としては、インク吸収性を有するインク受容層を記録面に備えない記録媒体や、インク吸収性の小さいコート層を記録面に備える記録媒体が挙げられる。
【0030】
液体非吸収性の記録媒体としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアセタール、及びそれらの2種以上のブレンド組成物等の高分子のフィルムやプレート、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース等のフィルムやプレート、鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属の箔やプレート、又はそれら金属を蒸着したプレートやフィルム、ステンレスや真鋳等の合金の箔やプレート、ガラス板等が挙げられる。
【0031】
液体低吸収性の記録媒体としては、表面に液体を受容するための塗工層(受容層)が設けられた記録媒体が挙げられ、例えば、上記のフィルムやプレートの表面に、親水性ポリマー等が塗工されたもの、シリカ、チタン等の粒子がバインダー(例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の親水性高分子)とともに塗工されたものが挙げられる。また、液体低吸収性の記録媒体としては、基材が紙であるものとして、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙が挙げられる。
【0032】
液体吸収性の記録媒体としては、普通紙やインクジェット専用紙などの紙、インク受容層を有するシート、布帛などが挙げられる。
【0033】
記録媒体は、無色透明、半透明、着色透明、有彩色不透明、無彩色不透明等であってもよい。また記録媒体は、それ自体が着色されていたり、半透明や透明であってもよい。また、記録媒体は袋状になっていてもシート状になっていても、いずれでもよい。また、記録媒体にあらかじめコロナ処理、プライマー処理などの表面処理を行ってもよく、これら表面処理によって記録媒体からの画像の定着性を改善することができる場合がある。
【0034】
本実施形態で使用する記録媒体の平面的な大きさは特に限定されない。インクジェット記録装置に用いた場合の搬送方向に直交する方向の幅についても特に限定されないが、比較的大判のインクジェット記録装置に好適で、その場合には、好ましくは0.5m以上、より好ましくは0.7m以上である。
【0035】
また、記録媒体の厚さも特に限定されないが、インクジェット記録装置における記録媒体の搬送性をより良好にする観点から、好ましくは40.0μm以上、より好ましくは70.0μm以上、さらに好ましくは80.0μm以上である。一方、上限は限るものではないが、300μm以下が好ましく、200μm以下がさらに好ましく、100μm以下がよりこのましく、80μm以下が特に好ましい。
【0036】
1.2.処理液付着工程
本実施形態のインクジェット記録方法は、凝集剤を含有する処理液を記録媒体に付着する工程を備える。
【0037】
1.2.1.処理液
処理液は、凝集剤を含む。
【0038】
1.2.1.1.凝集剤
処理液は、水系インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する。凝集剤は、水系インク組成物に含まれる色材、水系インク組成物に含まれ得る樹脂粒子などの成分と反応することで、色材や樹脂粒子を凝集させる作用を有する。ただし、凝集剤による色材や樹脂粒子の凝集の程度は凝集剤、色材、樹脂粒子のそれぞれの種類によって異なり、凝集剤、色材の分散剤、それらの種類や濃度、色材や樹脂粒子の表面処理等により調節することができる。凝集剤は、例えば、色材の発色を高めること、樹脂粒子の定着性を高めること、及び/又は、水系インク組成物の記録媒体上における粘度を高めること等の作用を有する。
【0039】
凝集剤としては、特に限定されるものではないが、金属塩、酸、カチオン性化合物等が挙げられ、カチオン性化合物としては、カチオン性樹脂(カチオン性ポリマー)、カチオン性界面活性剤等を用いることができる。これらの中でも、金属塩としては多価金属塩が好ましい。カチオン性化合物としてはカチオン性樹脂が好ましい。酸としては、有機酸、無機酸があげられ、有機酸が好ましい。そのため、凝集剤としては、カチオン性樹脂、有機酸、及び多価金属塩から選ばれることが、得られる画質、耐擦性等が特に優れる点で好ましい。
【0040】
金属塩としては好ましくは多価金属塩であるが、多価金属塩以外の金属塩も使用可能である。これらの凝集剤の中でも、インクに含まれる成分との反応性に優れるという点から、金属塩、及び有機酸から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。また、カチオン性化合物の中でも、処理液に対して溶解しやすいという点から、カチオン性樹脂を用いることが好ましい。また、凝集剤は複数種を併用することも可能である。
【0041】
多価金属塩とは、2価以上の金属イオンとアニオンから構成される化合物である。2価以上の金属イオンとしては、例えば、カルシウム、マグネシウム、銅、ニッケル、亜鉛、バリウム、アルミニウム、チタン、ストロンチウム、クロム、コバルト、鉄等のイオンが挙げられる。これらの多価金属塩を構成する金属イオンの中でも、インクの成分の凝集性に優れているという点から、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンの少なくとも一方であることが好ましい。
【0042】
多価金属塩を構成するアニオンとしては、無機イオン又は有機イオンである。すなわち、本発明における多価金属塩とは、無機イオン又は有機イオンと多価金属とからなるものである。このような無機イオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン等が挙げられる。有機イオンとしては有機酸イオンが挙げられ、例えばカルボン酸イオンが挙げられる。
【0043】
なお、多価金属化合物はイオン性の多価金属塩であることが好ましく、特に、上記多価金属塩がマグネシウム塩、カルシウム塩である場合、処理液の安定性がより良好となる。また、多価金属の対イオンとしては、無機酸イオン、有機酸イオンのいずれでもよい。
【0044】
上記の多価金属塩の具体例としては、重質炭酸カルシウム及び軽質炭酸カルシウムといった炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、水酸化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、塩化バリウム、炭酸亜鉛、硫化亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、硝酸銅、プロピオン酸カルシウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸アルミニウム等が挙げられる。これらの多価金属塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。なお、これらの金属塩は、原料形態において水和水を有していてもよい。
【0045】
多価金属塩以外の金属塩としてはナトリウム塩、カリウム塩などの一価の金属塩が挙げられ、例えば硫酸ナトリウム、硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0046】
有機酸としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等が好適に挙げられる。有機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機酸または無機酸の塩で金属塩であるものは上記の金属塩に含める。
【0047】
無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。無機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
カチオン性樹脂(カチオン性ポリマー)としては、例えば、カチオン性のウレタン系樹脂、カチオン性のオレフィン系樹脂、カチオン性のアミン系樹脂、カチオン性界面活性剤等が挙げられる。カチオン性ポリマーは好ましくは水溶性である。
【0049】
カチオン性のウレタン系樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、ハイドラン CP-7010、CP-7020、CP-7030、CP-7040、CP-7050、CP-7060、CP-7610(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、スーパーフレックス 600、610、620、630、640、650(商品名、第一工業製薬株式会社製)、ウレタンエマルジョン WBR-2120C、WBR-2122C(商品名、大成ファインケミカル株式会社製)等を用いることができる。
【0050】
カチオン性のオレフィン樹脂は、エチレン、プロピレン等のオレフィンを構造骨格に有するものであり、公知のものを適宜選択して用いることができる。また、カチオン性のオレフィン樹脂は、水や有機溶媒等を含む溶媒に分散させたエマルジョン状態であってもよい。カチオン性のオレフィン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、アローベースCB-1200、CD-1200(商品名、ユニチカ株式会社製)等が挙げられる。
【0051】
カチオン性のアミン系樹脂(カチオン性ポリマー)としては、構造中にアミノ基を有するものであればよく、公知のものを適宜選択して用いることができる。例えば、ポリアミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリルアミン樹脂などが挙げられる。ポリアミン樹脂は樹脂の主骨格中にアミノ基を有する樹脂である。ポリアミド樹脂は樹脂の主骨格中にアミド基を有する樹脂である。ポリアリルアミン樹脂は樹脂の主骨格中にアリル基に由来する構造を有する樹脂である。
【0052】
また、カチオン性のポリアミン系樹脂としては、センカ株式会社製のユニセンスKHE103L(ヘキサメチレンジアミン/エピクロルヒドリン樹脂、1%水溶液のpH約5.0、粘度20~50(mPa・s)、固形分濃度50質量%の水溶液)、ユニセンスKHE104L(ジメチルアミン/エピクロルヒドリン樹脂、1%水溶液のpH約7.0、粘度1~10(mPa・s)、固形分濃度20質量%の水溶液)などを挙げることができる。さらにカチオン性のポリアミン系樹脂の市販品の具体例としては、FL-14(商品名、SNF社製)、アラフィックス100、251S、255、255LOX(商品名、荒川化学社製)、DK-6810、6853、6885;WS-4010、4011、4020、4024、4027、4030(商品名、星光PMC社製)、パピオゲンP-105(商品名、センカ社製)、スミレーズレジン650(30)、675A、6615、SLX-1(商品名、田岡化学工業社製)、カチオマスター(登録商標)PD-1、7、30、A、PDT-2、PE-10、PE-30、DT-EH、EPA-SK01、TMHMDA-E(商品名、四日市合成社製)、ジェットフィックス36N、38A、5052(商品名、里田化工社製)が挙げられる。
【0053】
ポリアリルアミン樹脂は、例えば、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアリルアミンアミド硫酸塩、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン塩酸塩・ジメチルアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン・ジメチルアリルアミンコポリマー、ポリジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミンアミド硫酸塩、ポリメチルジアリルアミン酢酸塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト・二酸化硫黄コポリマー、メチルジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミドコポリマー等を挙げることができる。
【0054】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、第1級、第2級、及び第3級アミン塩型化合物、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、脂肪族アミン塩、ベンザルコニウム塩、第4級アンモニウム塩、第4級アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、オニウム塩、イミダゾリニウム塩等があげられる。具体的には、例えば、ラウリルアミン、ヤシアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩等、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、ジメチルエチルラウリルアンモニウムエチル硫酸塩、ジメチルエチルオクチルアンモニウムエチル硫酸塩、トリメチルラウリルアンモニウム塩酸塩、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミン、デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0055】
これらの凝集剤は、複数種を使用してもよい。また、これらの凝集剤のうち、多価金属塩、有機酸、カチオン性樹脂の少なくとも一種を選択すれば、凝集作用がより良好であるので、より高画質な(特に発色性の良好な)画像を形成することができる。
【0056】
処理液における、凝集剤の合計の含有量は、例えば、処理液の全質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下であり、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。なお、凝集剤が溶液や分散体で共有される場合においても、固形分の含有量として上記範囲であることが好ましい。凝集剤の含有量が1質量%以上であれば、凝集剤が水系インク組成物に含まれる成分を凝集させる能力が十分得られる。また、凝集剤の含有量が20質量%以下であることで、処理液中での凝集剤の溶解性や分散性がより良好になり、処理液の保存安定性等を向上できる。
【0057】
処理液に含まれる有機溶剤の疎水性が高い場合であっても、処理液中における凝集剤の溶解性が良好になるという点から、凝集剤には、25℃の水100gに対する溶解度が、1g以上であるものを使用することが好ましく、3g以上80g以下にあるものを使用することがより好ましい。
【0058】
1.2.1.2.その他の成分
処理液は、機能を損なわない限り、凝集剤の他に、有機溶剤、界面活性剤、添加剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防黴剤等の成分を含有してもよい。
【0059】
(水)
処理液は、水を含有してもよい。水は、乾燥により蒸発飛散する成分である。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。また、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、処理液を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を抑制できるので好適である。
【0060】
処理液は、水を主溶媒として含み水を40質量%以上含有する、いわゆる水系の組成物としてもよく、好ましい。このようにすれば処理液は、臭気が抑えられ、かつ、その組成の40質量%以上、好ましくは50質量%以上が水であるので環境にも良いという利点が得られる。
【0061】
(有機溶剤)
本実施形態に係る処理液は、有機溶剤を含んでもよい。有機溶媒を含むことにより、例えば、記録物の乾燥性を高めることや、画像の堅牢性を高めることができる場合がある。また、有機溶剤を含むことで、処理液の吐出安定性を向上できる。有機溶剤は水溶性の有機溶剤であることが好ましい。
【0062】
また、有機溶剤の機能の一つとしては、記録媒体に対する処理液の濡れ性を向上させることや、処理液の保湿性を高めることが挙げられる。また、処理液の表面張力を下げ、インクジェットヘッドから吐出する場合に液滴としてノズルから分離して飛翔しやすくさせ、記録媒体での濡れ性を向上させインク滴の広がりを優れたものにできる。
【0063】
有機溶剤としては、エステル類、アルキレングリコールエーテル類、環状エステル類、含窒素溶剤、多価アルコール等を挙げることができる。含窒素溶剤としては環状アミド類、非環状アミド類などを挙げることができる。非環状アミド類としてはアルコキシアルキルアミド類などが挙げられる。
【0064】
エステル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メトキシブチルアセテート、等のグリコールモノアセテート類、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールアセテートプロピオネート、エチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールアセテートプロピオネート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、プロピレングリコールアセテートプロピオネート、プロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールアセテートプロピオネート、等のグリコールジエステル類が挙げられる。
【0065】
環状エステル類としては、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、β-ヘキサノラクトン、γ-ヘキサノラクトン、δ-ヘキサノラクトン、β-ヘプタノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、δ-ヘプタノラクトン、ε-ヘプタノラクトン、γ-オクタノラクトン、δ-オクタノラクトン、ε-オクタノラクトン、δ-ノナラクトン、ε-ノナラクトン、ε-デカノラクトン等の環状エステル類(ラクトン類)、並びに、それらのカルボニル基に隣接するメチレン基の水素が炭素数1~4のアルキル基によって置換された化合物を挙げることができる。
【0066】
含窒素溶剤としては、例えば、非環状アミド類、環状アミド類などを上げることができる。非環状アミド類としては、アルコキシアルキルアミド類を挙げることができる。
【0067】
アルコキシアルキルアミド類としては、例えば、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、等を例示することができる。
【0068】
また、非環状アミド類として、下記一般式(1)で表される化合物であるアルコキシアルキルアミド類を用いることも好ましい。
【0069】
R1-O-CH2CH2-(C=O)-NR2R3 ・・・(1)
【0070】
上記式(1)中、R1は、炭素数1以上4以下のアルキル基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立にメチル基又はエチル基を示す。「炭素数1以上4以下のアルキル基」は、直鎖状又は分岐状のアルキル基であることができ、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基であることができる。上記式(1)で表される化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0071】
環状アミド類としては、ラクタム類が挙げられ、例えば、2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン、1-プロピル-2-ピロリドン、1-ブチル-2-ピロリドン、等のピロリドン類などが挙げられる。これらは後述する樹脂粒子の皮膜化を促進させる点で好ましく、特に2-ピロリドンがより好ましい。
【0072】
アルキレングリコールエーテル類としては、アルキレングリコールのモノエーテル又はジエーテルであればよく、アルキルエーテルが好ましい。具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、及び、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等のアルキレングリコールジアルキルエーテル類が挙げられる。
【0073】
アルキレングリコールエーテル類を構成するアルキレングリコールは、炭素数2~8が好ましく、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましく、2又は3が特に好ましい。アルキレングリコールエーテル類を構成するアルキレングリコールは、アルキレングリコールが分子間で水酸基同士が縮合したものでもよい。アルキレングリコールの縮合数は、1~4が好ましく、1~3がより好ましく、2又は3がさらに好ましい。
【0074】
アルキレングリコールエーテル類を構成するエーテルは、アルキルエーテルが好ましく、炭素数1~4のアルキルのエーテルが好ましく、炭素数2~4のアルキルのエーテルがより好ましい。
【0075】
アルキレングリコールエーテル類は、浸透性に優れインクの記録媒体での濡れ性に優れることで画質が優れる点で好ましい。この点で、特に、モノエーテルが好ましい。
【0076】
多価アルコールとしては、1,2-アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール(別名:プロパン-1,2-ジオール)、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール等のアルカンジオール類)、1,2-アルカンジオールを除く多価アルコール(ポリオール類)(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール(別名:1,3-ブチレングリコール)、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン等)等が挙げられる。
【0077】
多価アルコール類は、アルカンジオール類とポリオール類に分けることができる。
【0078】
アルカンジオール類は、炭素数5以上のアルカンのジオールである。アルカンの炭素数は好ましくは5~15であり、より好ましくは6~10であり、更に好ましくは6~8である。好ましくは1,2-アルカンジオールである。
【0079】
ポリオール類は、炭素数4以下のアルカンのポリオールか、炭素数4以下のアルカンのポリオールの水酸基同士の分子間縮合物か、である。アルカンの炭素数は好ましくは2~3である。ポリオール類の分子中の水酸基数は2以上であり、好ましくは5以下であり、より好ましくは3以下である。ポリオール類が上記の分子間縮合物である場合、分子間縮合数は2以上であり、好ましくは4以下であり、より好ましくは3以下である。多価アルコール類は、1種単独か又は2種以上を混合して使用することができる。
【0080】
アルカンジオール類及びポリオール類は、主に浸透溶剤及び/又は保湿溶剤として機能することができる。しかし、アルカンジオール類は浸透溶剤としての性質が強い傾向があり、ポリオール類は保湿溶剤としての性質が強い傾向がある。
【0081】
アルカンジオール類は、浸透溶剤としての性質が強く、インクの記録媒体での濡れ性に優れることでインクの広がりが優れ、画質が優れる点で好ましい。
【0082】
ポリオール類は、特に親水性が高く、保湿性を特に高めることができ、耐目詰まり性が特に優れる。特に、標準沸点が280.0℃以下のポリオール類を用いることで、乾燥性も良く、記録物の堅牢性も良い。
【0083】
処理液は、上記例示した有機溶剤を一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上の場合は、有機溶剤の含有量は、それらの合計の含有量である。
【0084】
処理液の有機溶剤の含有量は、処理液の総量に対し、2.0質量%以上が好ましい。また、40.0質量%以下が好ましい。さらには、5.0~30.0質量%が好ましく、10.0~25.0質量%がより好ましい。
【0085】
また、有機溶剤は、標準沸点が160~280℃のものが好ましい。処理液は、標準沸点が280℃超のものが、処理液の総量に対して2.0質量%を超えて含まないことが好ましく、1.0質量%を超えて含まないことがより好ましく、0.5質量%を超えて含まないことがさらに好ましく、0.0質量%でもよい。
【0086】
(界面活性剤)
処理液は、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤は、処理液の表面張力を低下させ記録媒体や下地との濡れ性を向上させる機能を備える。界面活性剤の中でも、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0087】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、エア・プロダクツ&ケミカルズ社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(以上全て商品名、日信化学工業社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル社製)が挙げられる。
【0088】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学工業社製)が挙げられる。
【0089】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK-3440(商品名、ビックケミー・ジャパン社製)、サーフロンS-241、S-242、S-243(以上商品名、AGCセイミケミカル社製)、フタージェント215M(商品名、ネオス社製)等が挙げられる。
【0090】
処理液に界面活性剤を含有させる場合には、複数種を含有させてもよい。水系インク組成物に界面活性剤を含有させる場合の含有量は、全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上2.0質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以上1.5質量%以下、より好ましくは、0.3質量%以上1.0質量%以下である。
【0091】
ここで界面活性剤として例示した化合物は、いずれも上述の有機溶剤ではないものとして扱う。
【0092】
(pH調整剤)
本実施形態の処理液は、pH調整剤を含有してもよい。pH調整剤を含有することにより、例えば、インク流路を形成する部材からの不純物の溶出を抑制したり、促進したりすることができ、インク流路の洗浄性を調節することができる。pH調整剤としては、例えば、尿素類、アミン類、モルホリン類、ピペラジン類、トリエタノールアミン等のアミノアルコール類、を例示できる。尿素類としては、尿素、エチレン尿素、テトラメチル尿素、チオ尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等、及び、ベタイン類(トリメチルグリシン、トリエチルグリシン、トリプロピルグリシン、トリイソプロピルグリシン、N,N,N-トリメチルアラニン、N,N,N-トリエチルアラニン、N,N,N-トリイソプロピルアラニン、N,N,N-トリメチルメチルアラニン、カルニチン、アセチルカルニチン等)等が挙げられる。アミン類としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
【0093】
ここでpH調整剤として例示した化合物は、いずれも上述の有機溶剤ではないものとして扱う。例えば、トリエタノールアミンは常温のとき液体で、標準沸点が208℃程度であるが、これは上述の有機溶剤としては扱わない。
【0094】
(防かび剤、防腐剤)
本実施形態の処理液は、防腐剤を含有してもよい。
【0095】
防腐剤を含有することにより、カビや細菌の増殖を抑制することができ、処理液の保存性がより良好となる。これにより、例えば、処理液を、長期的にプリンターを使用せず保守する際のメンテナンス液として使用しやすくなる。防腐剤の好ましい例としては、プロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL-2、プロキセルIB、又はプロキセルTNなどを挙げることができる。
【0096】
(その他)
処理液は、さらに必要に応じて、キレート剤、防錆剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤及び水溶性樹脂など、種々の添加剤を含有してもよい。
【0097】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)や、エチレンジアミンのニトリロトリ酢酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、又はメタリン酸塩等が挙げられる。
【0098】
1.2.2.処理液の製造方法、物性及び記録媒体へ付着させる方法
本実施形態の記録方法で使用する処理液は、記録媒体への濡れ拡がり性を適切なものとする観点から、25℃における表面張力は、40mN/m以下、好ましくは38mN/m以下、より好ましくは35mN/m以下、さらに好ましくは30mN/m以下であることが好ましい。なお、表面張力の測定は、自動表面張力計CBVP-Z(協和界面科学社製)を用いて、25℃の環境下で白金プレートを組成物で濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0099】
処理液を記録媒体に付着させる方法としては、インクジェット法、塗布による方法、処理液を各種のスプレーを用いて記録媒体に塗布する方法、処理液に記録媒体を浸漬させて塗布する方法、処理液を刷毛等により記録媒体に塗布する方法等の非接触式及び接触式のいずれか又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。
【0100】
処理液は、インクジェット法によって記録媒体に付着されることがより好ましい。その場合には、20℃における粘度を、1.5mPa・s以上15mPa・s以下とすることが好ましく、1.5mPa・s以上7mPa・s以下とすることがより好ましく、1.5mPa・s以上5.5mPa・s以下とすることがより好ましい。処理液がインクジェット法によって記録媒体に付着される場合、所定の処理液付着領域を効率的に記録媒体に形成することが容易である。
【0101】
本実施形態の処理液の製造方法は特に制限されないが、例えば、上述の各成分を、任意な順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより製造することができる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。
【0102】
1.3.インク付着工程
本実施形態のインクジェット記録方法は、色材を含む水系インク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させるインク付着工程を備える。インク付着工程は、記録媒体支持部によって、支持され加熱された記録媒体に対して行われる。そして、インク付着工程において、記録媒体支持部に支持されインクジェットヘッドと対向する位置にある記録媒体の表面の最高温度が、28.0℃以上45.0℃以下に記録媒体が加熱される。記録媒体支持部(プラテン)については後述する。
【0103】
1.3.1.水系インク組成物
水系インク組成物は、前述の水系の組成物であるインク組成物である。水系インク組成物は、色材を含む。
【0104】
1.3.1.1.色材
水系インク組成物は、色材を含む。色材としては、顔料、染料のいずれも用いることができ、カーボンブラック、チタンホワイトを含む無機顔料、有機顔料、油溶染料、酸性染料、直接染料、反応性染料、塩基性染料、分散染料、昇華型染料等を用いることができる。本実施形態の水系インク組成物では、色材が分散樹脂により分散されていてもよい。
【0105】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ等を用いることができる。
【0106】
有機顔料としては、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料又はアゾ系顔料等を例示できる。
【0107】
水系インク組成物に用いられる有機顔料の具体例としては下記のものが挙げられる。
【0108】
シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60等;C.I.バットブルー4、60等が挙げられ、好ましくは、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、及び60からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0109】
マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントレッド122、202、及び209、C.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物、または固溶体を例示できる。
【0110】
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14C、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、119、110、114、128、129、138、150、151、154、155、180、185、等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントイエロー74、109、110、128、及び138からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0111】
これ以外の色の顔料も使用可能である。例えば、オレンジ顔料、グリーン顔料などがあげられる。
【0112】
上記例示した顔料は、好適な顔料の例であり、これらによって本発明が限定されるものではない。これらの顔料は一種又は二種以上の混合物として用いてよいし、染料と併用しても構わない。
【0113】
また、顔料は、水溶性樹脂、水分散性樹脂、界面活性剤等から選ばれる分散剤を用いて分散して用いてもよく、あるいはオゾン、次亜塩素酸、発煙硫酸等により、顔料表面を酸化、あるいはスルホン化して自己分散顔料として分散して用いてもよい。
【0114】
本実施形態のインクにおいて、顔料を分散樹脂により分散させる場合には、顔料と分散樹脂との比率は10:1~1:10が好ましく、4:1~1:3がより好ましい。また、分散時の顔料の体積平均粒子径は、動的光散乱法で計測した場合の最大粒径が500nm未満で平均粒径が300nm以下であり、より好ましくは体積平均粒子径が200nm以下である。
【0115】
水系インク組成物に用い得る染料としては、水溶解系として酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料、水分散系として分散染料、油溶染料、昇華型染料等を挙げることができる。
【0116】
上記例示した染料は、好適な色材の例であり、これらによって本発明が限定されるものではない。これらの染料は一種又は二種以上の混合物として用いてよいし、顔料と併用しても構わない。
【0117】
色材の含有量は、用途に応じて適宜調整することができるが、好ましくは0.10質量%以上20.0質量%以下であり、より好ましくは0.20質量%以上15.0質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以上10.0質量%以下である。
【0118】
色材に顔料を採用する場合の顔料粒子の体積平均粒子径は、10.0nm以上200.0nm以下が好ましく、30.0nm以上200.0nm以下がより好ましく、50.0nm以上150.0nm以下がさらに好ましく、70.0nm以上120.0nm以下が特に好ましい。
【0119】
1.3.1.2.その他の成分
水系インク組成物は、機能を損なわない限り、色材の他に、樹脂粒子、ワックス、有機溶剤、界面活性剤、添加剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防黴剤等の成分を含有してもよい。
【0120】
(樹脂粒子)
本実施形態に係る水系インク組成物は、樹脂粒子を含有してもよい。樹脂粒子は、記録媒体に付着させた水系インク組成物の成分の密着性や耐擦過性を向上させる、いわゆる定着用樹脂としての機能を有している。
【0121】
このような樹脂粒子としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、フルオレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、エチレン酢酸ビニル系樹脂等からなる樹脂粒子が挙げられる。これらの樹脂粒子は、エマルジョン形態で取り扱われることが多いが、粉体の性状であってもよい。また、樹脂粒子は1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0122】
ウレタン系樹脂とは、ウレタン結合を有する樹脂の総称である。ウレタン系樹脂には、ウレタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂等を使用してもよい。ウレタン系樹脂としては、市販品を用いてもよく、例えば、スーパーフレックス 210、460、460s、840、E-4000(商品名、第一工業製薬株式会社製)、レザミン D-1060、D-2020、D-4080、D-4200、D-6300、D-6455(商品名、大日精化工業株式会社製)、タケラック WS-6020、WS-6021、W-512-A-6(商品名、三井化学ポリウレタン株式会社製)、サンキュアー2710(商品名、LUBRIZOL社製)、パーマリンUA-150(商品名、三洋化成工業社製)などの市販品の中から選択して用いてもよい。
【0123】
アクリル系樹脂は、少なくとも(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系単量体を1成分として重合して得られる重合体の総称であって、例えば、アクリル系単量体から得られる樹脂や、アクリル系単量体とこれ以外の単量体との共重合体などが挙げられる。例えばアクリル系単量体とビニル系単量体との共重合体であるアクリル-ビニル系樹脂などが挙げられる。さらに例えば、スチレンなどのビニル系単量体との共重合体が挙げられる。アクリル系単量体としてはアクリルアミド、アクリロニトリル等も使用可能である。
【0124】
アクリル系樹脂を原料とする樹脂エマルジョンには、市販品を用いてもよく、例えばFK-854、モビニール952B、718A(商品名、ジャパンコーティングレジン社製)、NipolLX852、LX874(商品名、日本ゼオン社製)、ポリゾールAT860(商品名、昭和電工株式会社製)、ボンコートAN-1190S、YG-651、AC-501、AN-1170、4001(商品名、DIC社製)等の中から選択して用いてもよい。
【0125】
なお、本明細書において、アクリル系樹脂は、上述のようにスチレンアクリル系樹脂であってもよい。また、本明細書において、(メタ)アクリルとの表記は、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味する。
【0126】
スチレンアクリル系樹脂は、スチレン単量体とアクリル系単量体とから得られる共重合体であり、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、等が挙げられる。スチレンアクリル系樹脂には、市販品を用いても良く、例えば、ジョンクリル62J、7100、390、711、511、7001、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(商品名、BASF社製)、モビニール966A、975N(商品名、ジャパンコーティングレジン社製)などが挙げられる。
【0127】
塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体であってもよい。エステル系樹脂としては、アクリル酸エステルを単量体として含む重合体を挙げることができ、例えば、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体等を例示できる。
【0128】
ポリオレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンを構造骨格に有するものであり、公知のものを適宜選択して用いることができる。オレフィン系樹脂としては、市販品を用いることができ、例えばアローベースCB-1200、CD-1200(商品名、ユニチカ株式会社製)等から選択して用いてもよい。
【0129】
樹脂粒子は、エマルジョンの形態で供給されてもよく、そのような樹脂エマルジョンの市販品の例としては、マイクロジェルE-1002、E-5002(商品名、日本ペイント社製、スチレンアクリル系樹脂エマルジョン)、ボンコートAN-1190S、YG-651、AC-501、AN-1170、4001、5454(商品名、DIC社製、スチレンアクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールAM-710、AM-920、AM-2300、AP-4735、AT-860、PSASE-4210E(アクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールAP-7020(スチレンアクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールSH-502(酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ポリゾールAD-13、AD-2、AD-10、AD-96、AD-17、AD-70(エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ポリゾールPSASE-6010(エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)(以上商品名、昭和電工社製)、ポリゾールSAE1014(商品名、日本ゼオン社製、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン)、サイビノールSK-200(商品名、サイデン化学社製、アクリル系樹脂エマルジョン)、AE-120A(商品名、JSR社製、アクリル系樹脂エマルジョン)、AE373D(商品名、イーテック社製、カルボキシ変性スチレンアクリル系樹脂エマルジョン)、セイカダイン1900W(商品名、大日精化工業社製、エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2682(アクリル系樹脂エマルジョン)、ビニブラン2886(酢酸ビニル・アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン5202(酢酸アクリル樹脂エマルジョン)(以上商品名、日信化学工業社製)、ビニブラン700、2586(商品名、日信化学工業社製)、エリーテルKA-5071S、KT-8803、KT-9204、KT-8701、KT-8904、KT-0507(商品名、ユニチカ社製、ポリエステル樹脂エマルジョン)、ハイテックSN-2002(商品名、東邦化学社製、ポリエステル樹脂エマルジョン)、タケラックW-6020、W-635、W-6061、W-605、W-635、W-6021(商品名、三井化学ポリウレタン社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、スーパーフレックス870、800、150、420、460、470、610、620、700(商品名、第一工業製薬社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、パーマリンUA-150(商品名、三洋化成工業株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、サンキュアー2710(商品名、日本ルーブリゾール社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、NeoRez R-9660、R-9637、R-940(商品名、楠本化成株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、アデカボンタイター HUX-380,290K(商品名、株式会社ADEKA製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、モビニール966A、モビニール7320(商品名、ジャパンコーティングレジン社製)、ジョンクリル7100、390、711、511、7001、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(以上商品名、BASF社製)、NKバインダーR-5HN(商品名、新中村化学工業株式会社製)、ハイドランWLS-210(商品名、DIC株式会社製、非架橋性ポリウレタン)、ジョンクリル7610(商品名、BASF社製)等から選択して用いてもよい。
【0130】
また、樹脂粒子の材質としては、これらのうち、密着性や耐擦性がより優れる点で、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂から選択されることがより好ましい。さらに、樹脂粒子として、ウレタン系樹脂やアクリル系樹脂の樹脂粒子が含まれると、記録媒体に付着させた水系インク組成物の成分の密着性や耐擦過性をさらに高めることができ好ましい。
【0131】
水系インク組成物に樹脂粒子を添加する場合、その含有量は、水系インク組成物の全質量に対して、固形分として、0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは0.5質量%以上15.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以上15.0質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以上10.0質量%以下である。
【0132】
(ワックス)
本実施形態の水系インク組成物は、ワックスを含んでもよい。ワックスとしては、例えばカルナバワックス、キャンデリワックス、みつろう、ライスワックス、ラノリン等の植物・動物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス;カーボンワックス、ヘキストワックス、ポリオレフィンワックス、ステアリン酸アミド等の合成ワックス類、α-オレフィン・無水マレイン酸共重合体等の天然・合成ワックスエマルジョンや配合ワックス等を単独あるいは複数種を混合して用いることができる。これらの中でも、画像の耐擦性を高める効果により優れるという観点から、ポリオレフィンワックス(特に、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス)を用いることが好ましい。
【0133】
ワックスとしては市販品をそのまま利用することもでき、例えば、ノプコートPEM-17(商品名、サンノプコ株式会社製)、ケミパールW4005(商品名、三井化学株式会社製)、AQUACER515、539、593(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0134】
記録方法における加熱工程において、ワックスが溶融しすぎて、その性能が低下することを抑制するという観点から、ワックスの融点は、100.0℃以上180.0℃以下が好ましく、より好ましくは105.0℃以上140℃以下、さらに好ましくは110.0℃以上135.0℃以下である。
【0135】
ワックスは、エマルジョンあるいはサスペンションの形態で供給されてもよい。ワックスの含有量は、水系インク組成物の全質量に対して、固形分換算で0.05質量%以上5.0質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上5.0質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上2.0質量%以下である。ワックスの含有量が上記範囲内にあると、記録された画像の耐擦性を良好に発揮できる。
【0136】
(その他)
水系インク組成物に用いることのできる水、有機溶剤、界面活性剤、添加剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防黴剤等は、上述した処理液と同様であり、「1.2.1.2.その他の成分」の項の説明における「処理液」を「水系インク組成物」に読み替えることとして説明を省略する。
【0137】
なお、水系インク組成物が含んでもよい有機溶剤については、標準沸点が280.0℃以下のものが好ましく、150.0℃以上280.0℃以下のものがより好ましく、170.0℃以上280.0℃以下のものがよりさらに好ましく、180.0℃以上280.0℃以下のものがさらに好ましく、190.0℃以上270.0℃以下のものがさらに好ましく、200.0℃以上250.0℃以下のものがことさらに好ましい。
【0138】
また、水系インク組成物は、標準沸点が180.0℃以上280.0以下の有機溶剤を、20.0質量%以上35.0質量%以下、好ましくは25.0質量%以上30.0質量%以下含むことがさらに好ましい。
【0139】
また、標準沸点が280.0℃を超える有機溶剤の含有量は、水系インク組成物全量に対して、2.0質量%以下が好ましく、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下(これを超えて含まないこと)であり、さらには含有しないこと、つまり0.0質量%でもよい。これにより、記録媒体に付着させた処理液の乾燥性が良好になり、記録媒体に対する密着性を向上できる。
【0140】
なお標準沸点が280.0℃超の有機溶剤としては、例えば、グリセリン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0141】
1.3.2.水系インク組成物の物性等
水系インク組成物は、記録媒体にインクジェット法により付着される(インク付着工程)。そのため、水系インク組成物の粘度は、20℃において、1.5mPa・s以上15.0mPa・s以下とすることが好ましく、1.5mPa・s以上7.0mPa・s以下とすることがより好ましく、1.5mPa・s以上5.5mPa・s以下とすることがより好ましい。水系インク組成物は、インクジェットヘッドから吐出されて記録媒体に付着されるので、所定の画像を効率的に記録媒体に形成することが容易である。
【0142】
本実施形態のインクジェット記録方法で使用する水系インク組成物は、記録媒体への濡れ拡がり性を適切なものとする観点から、25.0℃における表面張力は、40.0mN/m以下、好ましくは38.0mN/m以下、より好ましくは35.0mN/m以下、さらに好ましくは30.0mN/m以下であることが好ましい。
【0143】
1.3.3.水系インク組成物の製造方法
本実施形態の水系インク組成物の製造方法は特に制限されないが、例えば、上述の各インク成分を、任意な順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより製造することができる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。
【0144】
1.3.4.インク組成物の凝集性
水系インク組成物は、純水に対して水系インク組成物を0.1質量%混合した混合液の380.0nm以上680nm以下の範囲の最大ピーク波長における吸光度Bに対する、上述の処理液に対して水系インク組成物を0.1質量%混合した混合液の前記波長における吸光度Aの、比(A/B)が、0.5以上0.95以下となるように調製される。
【0145】
比(A/B)が、0.5以上0.95以下、特に0.5以上であることにより、処理液のミストがノズル付近の水系インク組成物に接触した場合でも、成分の凝集の程度が抑えられる。これによりノズルの目詰まりが抑制され、仮に目詰まりを生じたとしても目詰まりの回復性を良好にすることができる。
【0146】
また、比(A/B)が、0.95以下であることにより、処理液に接触した場合のインクの反応性が十分であり、優れた画質を得ることができる。
【0147】
一方、比(A/B)が、0.5以上0.95以下、特に0.5以上であることにより、処理液に接触した場合の反応性が緩やかとなるので、画像を形成する際に成分の凝集速度が低下する場合がある。この場合には、記録媒体上で処理液と水系インク組成物が混合した場合に、その乾燥速度が画像の凝集速度に影響するようになってくる。本実施形態では、インク付着工程は、記録媒体支持部(プラテン)によって加熱され支持された記録媒体に対して行われるので、記録媒体がプラテンから受ける熱量により、凝集速度が変化することがある。
【0148】
例えば、記録媒体がプラテン上を通過する際に、例えば、プラテンに凹凸があると、プラテンの凸部を通過した部分の画像と、プラテンの凹部を通過した部分の画像との乾燥速度が異なるため、同じ画像を形成したとしても、凝集度合いが異なってくるので、発色性に差が生じることがある。このような発色性の差を、本明細書では「面内色差」ということがある。面内色差は、特に、大判のインクジェット記録装置を用いる場合に顕著となることが発明者の検討により分かってきた。大判のインクジェット記録装置とは、記録媒体の搬送方向に直交する方向の幅が、0.5m以上である装置を指す。
【0149】
記録媒体の搬送方向に直交する方向の幅(幅方向の幅)は、0.5m以上がこのましく、1.0m以上がより好ましく、1.5m以上がさらに好ましい。上限は限るものではないが5.0m以下が好ましい。
【0150】
また、面内色差は、印刷面内の温度バラツキが大きくなるほど大きくなる。温度が低くてドット乾燥が進行していない状態でインクが混合する場合と温度が高くなって水分蒸発が進み、増粘した状態でインクが混合する場合では色材同士の混ざり方が変わるので、色味が変化して見えることによると考えられる。
【0151】
記録媒体を支持する支持面が平坦ではない場合として、プラテンの支持面に凹凸がある場合がある。この場合、凸部にて支持面が記録媒体に接触し、該部分において、プラテンからの加熱が強くなり、記録媒体の温度が高くなる。一方、支持面の凹部は記録媒体に接触しないので、該部分はプラテンからの加熱が弱くなり記録媒体の温度が低くなる。特に、凹部は、プラテンと記録媒体との距離が一定ではない場合もあり、記録媒体の温度は場所によりバラつきが大きい場合がある。
【0152】
そして、記録媒体の凸部を通過する部分と凹部を通過する部分とで、温度バラつきが大きくなる。これにより、面内色差が発生する。
【0153】
プラテンの支持面に凹凸がある場合としては、例えば、支持面に、記録媒体を断続的に支持する凹凸がある場合があげられる。なお、記録媒体を断続的に支持するための凹凸は、リブともいうことがある。リブを有する支持面としては、例えば特開2009-234105の
図1に記載されたものなどがあげられる。
【0154】
本実施形態のインクジェット記録方法では、記録媒体支持部が、記録媒体を支持する支持面が平坦であるので、水系インク組成物の比(A/B)が、0.5以上0.95以下であっても、面内色差を十分に小さく抑えることができる。
【0155】
ここで、記録媒体支持部の記録媒体を支持する支持面が「平坦である」支持面としては、例えば、支持面に記録媒体を断続的に支持するための凹凸を有さないものがあげられる。本実施形態で用いる支持面は、例えば、リブを有さない支持面があげられる。
【0156】
支持面は、支持面により記録中に記録媒体を支持する部分の、記録中にインクジェットヘッド(インクを吐出する部分)に対向する部分の面積のうち、面積の90.0%以上の領域で、支持面が記録媒体に接するものが好ましい。
【0157】
又は、上記の様な面積の90.0%以上の領域で支持面が記録媒体に接する支持面は、支持面が平坦である支持面である、とすることもできる。平坦である支持面に関してはさらに後述する。
【0158】
比(A/B)は、水系インク組成物と処理液の反応性の大小で調整することができる。反応性が小さいほうが、吸光度の比(A/B)が小さくなる。反応性の大小は、処理液、インクの何れかの反応性を調整すればよい。
【0159】
処理液の反応性の調整は、凝集剤の含有量や種類で調整すればよい。凝集剤の含有量が多い方が反応性は高くなる。各種の凝集剤の処理液を用意して、インクと混合して吸光度を測定して、凝集剤ごとの吸光度を把握して、所望の反応性を有する凝集剤を選択すればよい。
【0160】
水系インク組成物の反応性は、例えばゼータ電位により調整することができる。ゼータ電位の絶対値が大きいほど反応性は高い傾向がある。つまり、比(A/B)が大きくなる傾向がある。
【0161】
ゼータ電位は、例えば、インクに含む色材を分散するための分散樹脂の酸価、または、分散樹脂を用いていない場合は、色材自身の酸価、を調整することで、調整ができる。または、インクが樹脂粒子を含む場合は、樹脂粒子を乳化剤で分散している場合は、使用する乳化剤の酸価、樹脂粒子を乳化剤を用いずに分散している場合は、樹脂粒子の樹脂の酸価、を調整することにより、調整ができる。
【0162】
これらの酸価を高くするほうがゼータ電位の絶対値は高くなる傾向がある。なお、インクのゼータ電位は、マイナスの値とする場合、調整がしやすく好ましい。
【0163】
なお、ここでいう酸価とは、JIS K 0070:1992に準じて測定された数値であり、樹脂1gを完全に中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg)である。
【0164】
吸光度及び比(A/B)は、例えば以下のように測定できる。純水40gに対して、水系インク組成物を0.04g滴下・撹拌した液体の、380.0nm以上680nm以下の範囲の最大ピーク波長での吸光度(B)を測定する。処理液40gに対して同割合で水系インク組成物を滴下・撹拌した液体の、上記の波長における吸光度(A)を測定する。比(A/B)を得る。吸光度(A)における波長は、吸光度(B)で決めた最大ピーク波長を用いる。測定を3回行い平均値をとる。吸光度は、例えば、日本分光製、紫外可視近赤外分光光度計V-700で測定できる。測定は攪拌後5分静止後に行う。測定試料は、静止後の液面の上方から採取する。
【0165】
最大ピーク波長は、上記波長範囲の分光スぺクトル分析において、山型のスペクトルがある場合は、その頂上の波長である。上記波長範囲に山型のスペクトルが複数ある場合は、最も吸光度が高い頂上の波長である。上記波長範囲に山型のスペクトルが無い場合は、上記波長範囲の吸光度が最大となる波長である。この場合は、最大ピーク波長は、山型のスペクトルではない。このように本実施形態において、最大ピーク波長は、山型のスペクトルに限らず、上記波長範囲において、吸光度が最大となる波長も含む意味である。なお、インクの色によっては、上記波長範囲に山型のスペクトルが無い場合がある。
【0166】
色材の凝集剤に対する凝集力が大きいと、撹拌しても凝集物は再分散しにくい。ランベルト・ベールの法則から、吸光度と顔料濃度は比例すると考えられるので、吸光度(A)が小さいほど、再分散する顔料の濃度が低いと考えられる。
【0167】
比(A/B)は、0.6以上が好ましく、0.7以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましい。上記範囲以上の場合、目詰まり回復性などがより優れ好ましい。一方、該比は、0.9以下が好ましく、0.85以下がより好ましい。上記範囲以下の場合、画質や面内色差低減などがより優れ好ましい。
【0168】
1.3.5.インクのゼータ電位
水系インク組成物の反応性は、上記の通りゼータ電位によって調節してもよい。例えば、水系インク組成物の平均ゼータ電位が、-70.0mV以上-45.0mV以下、好ましくは-65.0mV以上-50.0mV以下とすれば、再分散性と凝集性のバランスが取れ、良好なものとすることができる。これにより比A/Bを上記の範囲としやすく好ましい。
【0169】
インクの平均ゼータ電位を-70mV以上-50mV以下と調節する方法としては、例えば、上述したように行えばよいが、例えば、色材で調整しても良く、好ましい。色材で調整する場合、色材の分散剤の種類を変更し、分散剤のアニオン性基の導入の有無や導入量を調整することがあげられる。導入量が多い方が、インクの平均ゼータ電位のマイナス側において絶対値が大きくなる。これは分散剤の酸価の調整にもあたり、導入量が多い方が酸価は大きくなる。
【0170】
アニオン性基としては、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基等を挙げることができる。これらの複数の基が存在してもよい。分散剤にアニオン性基を導入する方法の一つとして、分散剤を重合する際のモノマーとして、これらのアニオン性基を有するモノマーを使用したり使用量を調整する。カルボキシル基を有するモノマーとしてアクリル酸、メタクリル酸などがあげられる。また、分散剤を重合する際に、アニオン性反応性界面活性剤を用いることでもよい。これを用い重合された分散剤は、アニオン性反応性面活性剤を構成単位として含むことになる。
【0171】
分散剤は、付加重合系モノマーを使った乳化重合や懸濁重合により合成することができる。また、アニオン性反応性界面活性剤が付加重合系モノマーであってもよいし、その他のモノマーであってアニオン性の水溶性基を有する付加重合性モノマーを用いて重合してもよい。
【0172】
重合に用いるモノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、イソブチレン、ブタジエン、スチレン、メチルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩、塩化ビニル、無水マレイン酸、ジビニルベンゼン等の炭素炭素二重結合を有する化合物を用いることができる。
【0173】
また、本実施形態の分散剤にアニオン性反応性界面活性剤を用いる場合には、アニオン性反応性界面活性剤をモノマーとして用いることにより導入される。すなわちアニオン性反応性界面活性剤は、炭素炭素二重結合を含む化合物であり、係る二重結合を利用して、分散剤の構成単位に組み込まれてもよい。
【0174】
水系インク組成物の平均ゼータ電位は、例えば、水系インク組成物を水で1000倍に希釈して、ゼータサイザーナノZS(商品名、マルバーン・パナリティカル社製)にて測定することができる。
【0175】
1.3.6.インクジェットヘッド
本実施形態のインクジェット記録方法のインク付着工程では、上述の水系インク組成物をインクジェットヘッドから吐出させて記録媒体に付着させる。
【0176】
インクジェットヘッドとしては、特に限定されないが、圧電素子を用いて記録を行う方法を採用したもの、インクジェットヘッドに配設された発熱抵抗素子のヒーター等による熱エネルギーを用いて記録を行うもの等があるが、いずれのインクジェットヘッドも採用できる。
【0177】
また水系インク組成物を記録媒体に付着させる工程に用いるインクジェットヘッドは、水系インク組成物を循環させる循環流路を備えるものでもよく、備えないものでもよい。
【0178】
1.3.7.インク付着工程のバリエーション
本実施形態のインクジェット記録方法におけるインク付着工程は、記録媒体に対し複数回の、主走査及び副走査を行うことにより行われてもよい。
【0179】
また、インク付着工程では、記録媒体支持部に支持されインクジェットヘッドと対向する位置にある記録媒体の表面の最高温度が、28.0℃以上45.0℃以下に記録媒体が加熱されるが、かかる最高温度は、30.0℃以上40.0℃以下がより好ましく、32.0℃以上38.0℃以下がさらに好ましい。
【0180】
さらに、インク付着工程において、記録媒体支持部に支持されインクジェットヘッドと対向する位置にある部分の記録媒体の表面温度の面内分布における温度差は、8.0℃以下、より好ましくは6.0℃以下、さらに好ましくは5.0℃以下とすることが好ましい。当該温度差は、例えば、記録媒体支持部の形状、熱源の配置等により調節できる。このようにすれば、より面内色差の小さい画像を形成することができる。
【0181】
なお、記録媒体の表面温度は、例えば赤外線センサー(IRセンサー)を用いることにより測定できる。また、記録媒体の表面温度の分布は、例えば、記録条件における、記録媒体に支持されインクジェットヘッドと対向する部分の、記録面側の、幅方向における両端及び所定間隔で、20か所、温度を測ることにより評価できる。
【0182】
さらに、インク付着工程において、水系インク組成物が付着した記録媒体に、送風機構により送風する送風工程を備えてもよい。すなわち送風機構により記録媒体の周囲の空気を移動させる工程をさらに含んでもよい。このようにすれば、記録媒体支持部に支持されインクジェットヘッドと対向する位置にある場合の記録媒体の表面温度の面内分布における温度差をより小さく抑えることができる。
【0183】
またこの場合、記録媒体の周囲の空気を移動させる際に用いる送風機構は、常温の風を送ってもよいし、温風、熱風を送ってもよい。二次加熱で送風を併用することにより、水系インク組成物の溶媒成分の乾燥速度をさらに高めることができさらに好ましい。送風工程での記録媒体に送風する風速は、0.5m/秒以上が好ましく、1.0m/秒以上がさらに好ましく、1.5m/秒以上がより好ましい。さらには2.0m/秒以上が好ましい。この場合、面内色差低減や画質などがより優れ好ましい。一方、風速は、5.0m/秒以下が好ましく、4.0m/秒以下がより好ましく、3.0m/秒以下がさらに好ましい。この場合、目詰まり回復性などがより優れ好ましい。
【0184】
また、送風工程での記録媒体に送風する風温は、温風でも常温風でも良い。風温は、45.0℃以下であることが好ましく、40.0℃以下であることがさらに好ましい。さらには、30℃以下が好ましく、25℃以下が好ましい。この場合、面内色差低減や画質などがより優れ好ましい。一方、風温は、20℃以上が好ましく、23℃以上がより好ましく、25℃以上がさらに好ましい。この場合、目詰まり回復性などがより優れ好ましい。風速や風温は、記録媒体の記録面から上方向のほぼインクジェットヘッドの位置におけるものとする。
【0185】
2.インクジェット記録装置
本実施形態に係るインクジェット記録装置は、上述したインクジェット記録方法を実行することができる。
【0186】
2.1.インクジェット記録装置の概要
本実施形態に係る水系インク組成物に好適なインクジェット記録装置の一例について図面を参照しながら説明する。以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺や相対的な寸法を適宜変更している。
【0187】
図1は、インクジェット記録装置1を模式的に示す概略断面図である。
図2は、
図1のインクジェット記録装置1のキャリッジ周辺の構成の一例を示す斜視図である。
図1、2に示すように、インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2と、ヒーター3と、プラテンヒーター4と、アフターヒーター5と、ファン6と、プレヒーター7と、通気ファン8と、キャリッジ9と、プラテン11と、キャリッジ移動機構13と、搬送手段14と、制御部CONTを備える。インクジェット記録装置1は、記録媒体支持部としてのプラテン11とプラテン11を加熱するプラテンヒーター4からなる加熱機構とを有している。インクジェット記録装置1は、
図2に示す制御部CONTにより、インクジェット記録装置1全体の動作が制御される。プラテン11が記録媒体支持部の一例であり、プラテンヒーター4が加熱機構の一例である。
【0188】
インクジェットヘッド2は、処理液と水系インク組成物とをインクジェットヘッド2のノズルから吐出して付着させることにより記録媒体Mに記録を行う構成である。この例では、インクジェットヘッド2は、シリアル式のインクジェットヘッドであり、記録媒体Mに対して相対的に主走査方向に複数回走査してインクと水系インク組成物とを記録媒体Mに付着させる。インクジェットヘッド2は
図2に示すキャリッジ9に搭載される。インクジェットヘッド2は、キャリッジ9を記録媒体Mの媒体幅方向に移動させるキャリッジ移動機構13の動作により、記録媒体Mに対して相対的に主走査方向に複数回走査される。媒体幅方向とは、インクジェットヘッド2の主走査方向である。主走査方向への走査を主走査ともいう。
【0189】
またここで、主走査方向は、インクジェットヘッド2を搭載したキャリッジ9の移動する方向である。
図1においては、矢印SSで示す記録媒体Mの搬送方向である副走査方向に交差する方向である。
図2においては、記録媒体Mの幅方向、つまりS1-S2で表される方向が主走査方向MSであり、T1→T2で表される方向が副走査方向SSである。なお、1回の走査で主走査方向、すなわち、矢印S1又は矢印S2の何れか一方の方向に走査が行われる。そして、インクジェットヘッド2の主走査と、記録媒体Mの搬送である副走査を複数回繰り返し行うことで、記録媒体Mに対して記録する。すなわち、処理液付着工程、水系インク組成物付着工程は、インクジェットヘッド2が主走査方向に移動する複数回の主走査と、記録媒体Mが主走査方向に交差する副走査方向へ移動する複数回の副走査と、により行われる。
【0190】
インクジェットヘッド2に処理液や水系インク組成物を供給するカートリッジ12は、独立した複数のカートリッジを含む。カートリッジ12は、インクジェットヘッド2を搭載したキャリッジ9に対して着脱可能に装着される。複数のカートリッジのそれぞれには異なる種類の水系インク組成物や処理液が充填されており、カートリッジ12から各ノズルに水系インク組成物や処理液が供給される。なお、カートリッジ12はキャリッジ9に装着される例を示しているが、これに限定されず、キャリッジ9以外の場所に設けられ、図示せぬ供給管によって各ノズルに供給される形態でもよい。
【0191】
インクジェットヘッド2の吐出には従来公知の方式を使用することができる。ここでは、圧電素子の振動を利用して液滴を吐出する方式、すなわち、電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成する吐出方式を使用する。
【0192】
インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2からの水系インク組成物を吐出して記録媒体に付着する時に記録媒体Mを乾燥するための乾燥工程(一次加熱)を行う乾燥機構を備えることができる。乾燥は、加熱や送風による乾燥を用いることができる。乾燥機構は、伝導式、送風式、放射式などを用いることができる。伝導式は記録媒体に接触する部材から熱を記録媒体に伝導する。例えば図示のプラテンヒーター4などがあげられる。送風式は常温風又は温風を記録媒体に送り水系インク組成物等を乾燥させる。例えば送風ファン8があげられる。放射式は熱を発生する放射線を記録媒体に放射して記録媒体を加熱する。例えばヒーター3をアフターヒーターで構成して赤外線を放射することがあげられる。これら乾燥機構は、単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
【0193】
乾燥工程(一次加熱)で記録媒体Mを乾燥する際には、ヒーター3、通気ファン8等を用いることができる。なお、ヒーター3を用いると、インクジェットヘッド2側から赤外線の輻射により放射式で記録媒体Mを加熱することができる。これにより、インクジェットヘッド2も同時に加熱されやすいが、プラテンヒーター4等の記録媒体Mの裏面から加熱される場合と比べて、記録媒体Mの厚さの影響を受けずに昇温することができる。
【0194】
インクジェット記録装置1は、インク付着工程において、水系インク組成物が付着した記録媒体Mに、送風機構として送風する通気ファン8を備えてもよい。通気ファン8は、温風又は環境と同じ温度の風を記録媒体Mにあてて記録媒体M上の処理液や水系インク組成物を乾燥させることができる。通気ファン8を設ける場合には、例えば、記録媒体に送風する風速は、1.0m/秒以上、好ましくは1.5m/秒以上である。また、記録媒体Mに送風する風温は、45.0℃以下、好ましくは40.0℃以下、より好ましくは35.0℃以下である。
【0195】
プラテンヒーター4は、インクジェットヘッド2によって吐出された水系インク組成物が記録媒体Mに付着された時点から早期に乾燥することができるように、インクジェットヘッド2に対向する位置において記録媒体Mを、プラテン11を介して加熱することができる。プラテンヒーター4は、記録媒体Mを伝導式で加熱可能なものであり、上述のインクジェット記録方法で用いられ、記録媒体Mの表面温度が28.0℃以上45.0℃以下となるように制御される。なお図示しないが、ライン型のインクジェット記録装置においては、プラテンヒーター4は、アンダーヒーターに対応する。
【0196】
なお、インク付着工程の、乾燥機構による乾燥工程による、記録媒体Mの表面温度の上限は45.0℃以下であることが好ましく、40.0℃以下であることがより好ましく、38.0℃以下であることがさらにより好ましく、35.0℃以下であることが特に好ましい。また、記録媒体Mの表面温度の下限は25.0℃以上であることが好ましく、28.0℃以上であることがより好ましく、30.0℃以上であることがさらに好ましく、32.0℃以上であることが特により好ましい。これによりインクジェットヘッド2内の水系インク組成物の乾燥及び組成変動を抑制でき、インクジェットヘッド2の内壁に対する水系インク組成物や樹脂の溶着が抑制される。また、記録媒体M上で水系インク組成物や水系インク組成物を早期に固定することができ、裏移りを抑制し、画質を向上させることができる。
【0197】
本実施形態のインクジェット記録装置1は、インク付着工程後に、記録媒体Mを加熱して、インクを乾燥させ、定着させる加熱工程(二次加熱)を行うことができる加熱手段としてのアフターヒーター5を備えてもよい。
【0198】
後加熱工程に用いるアフターヒーター5は、記録媒体Mに付着された水系インク組成物を乾燥及び固化させる、つまり、二次加熱又は二次乾燥用のヒーターである。アフターヒーター5は、後加熱工程に用いることができる。アフターヒーター5が、画像が記録された記録媒体Mを加熱することにより、水系インク組成物中に含まれる水分等がより速やかに蒸発飛散して、水系インク組成物中に含まれる樹脂によってインク膜が形成される。このようにして、記録媒体M上においてインク膜が強固に定着又は接着して造膜性が優れたものとなり、優れた高画質な画像が短時間で得られる。
【0199】
アフターヒーター5による記録媒体Mの表面温度の上限は120.0℃以下であることが好ましく、100.0℃以下であることがより好ましく、90.0℃以下であることがさらに好ましい。また、記録媒体Mの表面温度の下限は60.0℃以上であることが好ましく、70.0℃以上であることがより好ましく、80.0℃以上であることがさらに好ましい。温度が前記範囲にあることにより、高画質な画像が短時間で得られる。なおライン型のインクジェット記録装置においては、アフターヒーター5は、アフターヒーターに対応し、カーボンヒーター等により構成することができる。
【0200】
インクジェット記録装置1は、ファン6を有していてもよい。ファン6は送風機構であり、記録媒体Mの周囲の空気を移動させることができる。ファン6を用いることにより記録媒体Mに記録された水系インク組成物に対して、加熱工程(赤外線照射)後、又は、加熱工程中に、冷却、追加的な乾燥、追加的な加熱を施すことができる。したがって、ファン6から送風される気体は、常温の気体であっても温風であってもよい。
【0201】
また、インクジェット記録装置1は、記録媒体Mに対して水系インク組成物が付着される前に、記録媒体Mを予め加熱するプレヒーター7を備えていてもよい。さらに、インクジェット記録装置1は、記録媒体Mに付着した水系インク組成物や水系インク組成物がより効率的に乾燥するように通気ファン8を備えていてもよい。なおライン型のインクジェット記録装置においても、プレヒーター7を設けてもよい。
【0202】
キャリッジ9の下方には、記録媒体Mを支持するプラテン11と、キャリッジ9を記録媒体Mに対して相対的に移動させるキャリッジ移動機構13と、記録媒体Mを副走査方向に搬送するローラーである搬送手段14を備える。キャリッジ移動機構13と搬送手段14の動作は、制御部CONTにより制御される。
【0203】
図3は、インクジェット記録装置1の機能ブロック図である。制御部CONTは、インクジェット記録装置1の制御を行うための制御ユニットである。インターフェース部101(I/F)は、コンピューター130(COMP)とインクジェット記録装置1との間でデータの送受信を行うためのものである。CPU102は、インクジェット記録装置1全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー103(MEM)は、CPU102のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものである。CPU102は、ユニット制御回路104(UCTRL)により各ユニットを制御する。なお、インクジェット記録装置1内の状況を検出器群121(DS)が監視し、その検出結果に基づいて、制御部CONTは各ユニットを制御する。
【0204】
搬送ユニット111(CONVU)は、インクジェット記録の副走査(搬送)を制御するものであり、具体的には、記録媒体Mの搬送方向及び搬送速度を制御する。具体的には、モーターによって駆動される搬送ローラーの回転方向及び回転速度を制御することによって記録媒体Mの搬送方向及び搬送速度を制御する。
【0205】
キャリッジユニット112(CARU)は、インクジェット記録の主走査(パス)を制御するものであり、具体的には、インクジェットヘッド2を主走査方向に往復移動させるものである。キャリッジユニット112は、インクジェットヘッド2を搭載するキャリッジ9と、キャリッジ9を往復移動させるためのキャリッジ移動機構13とを備える。
【0206】
ヘッドユニット113(HU)は、インクジェットヘッド2のノズルからの水系インク組成物又は水系インク組成物の吐出量を制御するものである。例えば、インクジェットヘッド2のノズルが圧電素子により駆動されるものである場合、各ノズルにおける圧電素子の動作を制御する。ヘッドユニット113により各インク付着のタイミング、水系インク組成物や水系インク組成物のドットサイズ等が制御される。また、キャリッジユニット112及びヘッドユニット113の制御の組合せにより、1走査あたりの水系インク組成物や水系インク組成物の付着量が制御される。
【0207】
乾燥ユニット114(DU)は、ヒーター3、プレヒーター7、プラテンヒーター4、アフターヒーター5等の各種ヒーターの温度を制御する。
【0208】
上記のインクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2を搭載するキャリッジ9を主走査方向に移動させる動作と、搬送動作(副走査)とを交互に繰り返す。このとき、制御部CONTは、各パスを行う際に、キャリッジユニット112を制御して、インクジェットヘッド2を主走査方向に移動させるとともに、ヘッドユニット113を制御して、インクジェットヘッド2の所定のノズル孔から水系インク組成物や水系インク組成物の液滴を吐出させ、記録媒体Mに水系インク組成物や水系インク組成物の液滴を付着させる。また、制御部CONTは、搬送ユニット111を制御して、搬送動作の際に所定の搬送量(送り量)にて記録媒体Mを搬送方向に搬送させる。
【0209】
インクジェット記録装置1では、主走査(パス)と副走査(搬送動作)が繰り返されることによって、複数の液滴を付着させた記録領域が徐々に搬送される。そして、アフターヒーター5により、記録媒体Mに付着させた液滴を乾燥させて、画像が完成する。その後、完成した記録物は、巻き取り機構によりロール状に巻き取られたり、フラットベット機構で搬送されたりしてもよい。
【0210】
上記では、シリアル型のインクジェットヘッドを搭載し、シリアル型の記録方法を行うシリアル型の記録装置について説明した。一方、インクジェットヘッドは、ライン型ヘッドであってもよい。ライン型の記録装置のインクジェットヘッドは、記録媒体Mの記録幅以上の長さにノズルが配置されたヘッドであり、記録媒体Mに対して1回のパスで水系インク組成物の付着を行う。
【0211】
図4は、ライン型ヘッド(ライン型インクジェットヘッド)を搭載し、ライン型の記録方法を行うライン型の記録装置の一部分を模式的に示す概略断面図である。記録装置の部分200は、水系インク組成物のインクジェットヘッド221を含む水系インク組成物付着手段220、インク組成物のインクジェットヘッド231を含むインク組成物付着手段230、記録媒体Mを搬送する搬送ローラー211を含む記録媒体搬送手段210、記録媒体に加熱工程(二次加熱)を行う後加熱手段240を備える。本実施形態では、後加熱手段240がアフターヒーター及び/又はカーボンヒーターにより構成されることで、画像に赤外線を照射することができる。インクジェットヘッド231,221は、図の手前-奥方向である記録媒体Mの幅方向にノズル列が伸びているライン型インクジェットヘッドである。
【0212】
ライン型の記録装置は、記録媒体Mを、
図5の矢印方向である搬送方向に搬送させることで、インクジェットヘッド231,221と記録媒体Mの相対的な位置を移動させつつ、水系インク組成物等をインクジェットヘッドから吐出し記録媒体Mへ付着させる。これを走査という。走査を主走査やパスともいう。ライン型記録方法は、搬送される記録媒体Mへ、インクジェットヘッド231,221を用いて水系インク組成物やインク組成物を1回のパスで付着させ記録を行う1パス記録方法である。
【0213】
ライン型の記録装置は、ライン型インクジェットヘッドを備えライン型の記録方法を行うこと以外は、前述のシリアル型のインクジェット記録装置1と同様にすることができる。ライン型の記録装置は、乾燥工程を行う乾燥手段を備えていても良い。例えば、
図1のインクジェットヘッド2の上方にある通気ファン8やヒーター3などの乾燥手段を、
図4のインクジェットヘッド231,221の上方に備えさせ、
図1のインクジェットヘッド2の下方にあるプラテンヒーター4に対応するアンダーヒーターなどの乾燥手段を、
図4のインクジェットヘッド231,221の下方に備えてもよい。
【0214】
2.2.記録媒体支持部の詳細
図5は、本実施形態のインクジェット記録装置が備える、支持面が平坦な記録媒体支持部(プラテン)の一例を模式的に示す斜視図である。上記のインクジェット記録装置1の例では、記録媒体支持部であるプラテン11の支持面11aに対して反対側から加熱機構により記録媒体支持部を加熱する態様となっていた。
【0215】
そして、記録媒体支持部であるプラテン11は、
図5に示すように記録媒体Mを支持する支持面11aが平坦となっている。既に述べたが、支持面11aにより記録媒体Mを支持した場合に、支持面11aの、記録中に記録媒体Mを支持する部分であって、記録中にインクジェットヘッドと対向する部分の面積の、90.0%以上の領域で、支持面11aが記録媒体Mに接することが好ましい。ここでインクジェットヘッドは、インクジェットヘッドのインクを吐出するノズルが存在する部分の、記録媒体搬送方向における上流側の端から下流側の端までの部分とする。上記の接する面積の率を接触面積率とし、接しない面積の率を非接触面積率という。
【0216】
接触面積率は、95.0%以上がより好ましく、98.0%以上がさらに好ましく、99.0%以上がよりさらに好ましい。一方、上限は100%以下であり、99.5%以下としてもよく、99.0%以下としても良い。
【0217】
図5の例では、プラテン11の支持面11aには、図示せぬ記録媒体Mを、支持面11aに対して吸引する吸引孔11cが形成されている。吸引孔11cの下には、図示しない、吸引装置が設けられている。吸引孔11cは、必要に応じて設ければよいものであるが、上記の支持面11aの部分における、吸引孔11cの合計の面積は、上記の支持面11aの部分の面積の、10%未満であり、好ましくは7%以下、より好ましくは5%以下である。このようにすれば、プラテン11の支持面11a上に支持された記録媒体Mに広い面積で接することができ、均一性よく記録媒体Mに熱を伝導させることができる。また、記録媒体が支持面から浮くことを抑制できる。
【0218】
平坦な支持面は、例えば前述のとおり支持面に記録媒体を断続的に支持するための凹凸を有さないものであるが、記録媒体の温度ムラが過度に生じない範囲で、記録媒体と接触しない部分を有していてもよい。例えば、吸引孔の他に、支持面を製造する際に生じた、つなぎ目や、隙間などがあげられる。支持面の上記の非接触面積率は、10%未満であり、好ましくは7%未満、より好ましくは5%未満、さらに好ましくは3%未満であり、さらには2%未満であり、さらには1%未満である。非接触面積率が上記範囲以下の場合、色差低減がより優れ好ましい。非接触面積率の下限は、0%以上であり、限るものではないが0.5%以上としてもよい。
【0219】
また支持部の支持面のうち上記の記録媒体Mに接しない部分は、支持面に分散して存在することが好ましく、連続する1つの領域として、主走査方向において、長さが3cm以下が好ましく、2cm以下がより好ましく、1cm以下がさらにこのましく、0.5cm以下が特に好ましい。この場合、接しない部分が細分化され、温度ムラが低減でき、色差低減がより優れ好ましい。一方、下限は限るものではないが0.1cm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。
【0220】
これにより、水系インク組成物における比(A/B)が、0.5以上0.95以下であって、処理液に接触した場合の反応性が緩やかとなっていても、記録媒体上で処理液と水系インク組成物が混合されてプラテン11上を通過する際に、画像の乾燥速度が記録媒体の部分によって異なることが抑制され、凝集速度にムラを生じにくくなる。したがって同じ色の画像を形成した箇所ごとに、凝集度合いが異なりにくく、発色性に差が生じにくい。すなわち面内色差の小さい画像を形成することができる。
【0221】
なお、このような観点から、記録媒体Mの搬送方向に直交する方向における、プラテン11の幅は、記録媒体Mの搬送方向に直交する方向の幅よりも大きいことが好ましい。また、プラテン11の支持面11aを構成する部材の厚さは、2.0mm以上10.0mm以下が好ましく、3.0mm以上10.0mm以下がより好ましく、5.0mm以上10.0mm以下がさらに好ましい。プラテン11の支持面11aを構成する部材は、プラテン11を構成する部材のうち、プラテンの記録媒体側の最表面の部材であり、支持面を有する部材である。板状の部材である。該部材は、金属製、樹脂製などが用いることができ、伝熱性が優れることから金属性が好ましい。
図5の例では、プラテン11が該部材でもある。金属としては、限るものではないが、鉄、アルミニウム、ステンレス、銅、これらを含む合金などが用いることができる。
【0222】
該部材の厚さが上記範囲以上の場合、該部材の熱容量が大きくなるので、例えば、記録媒体M上の画像の有無による到達温度のバラツキを抑制することがより容易にできる。これなどにより面内色差低減がより優れ好ましい。また、厚さが上記範囲以下の場合、加熱機構によりプラテンを加熱しやすく好ましい。
【0223】
3.実施例及び比較例
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その趣旨を逸脱しない限り種々の変更は可能であり、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお成分量に関して%、部と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0224】
3.1.水系インク組成物及び処理液の調製
表1及び表2に示す材料組成にて、材料組成の異なるC1~C3(水系インク組成物)及びOP1~OP4(処理液)を調製した。各インク及び処理液は、表1及び表2に示す材料を容器中に入れ、マグネチックスターラーにて2時間撹拌混合した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過してゴミや粗大粒子等の不純物を除去することにより調製した。なお、表1、表2中の数値は、全て質量%を示し、純水は組成物の全質量が100質量%となるように添加した。
【0225】
なお、水系インク組成物の調製に用いた色材(シアン顔料分散液)は、事前に以下のように製造した。
【0226】
<分散液A>
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、過硫酸カリウム3g、水30gを入れ、窒素雰囲気下で、80℃で攪拌しながら、メタクリル酸/ブチルアクリレート/スチレン/ヒドロキシエチルアクリレート=25/50/15/10の質量比で混合した混合液40gを4時間で徐々に滴下し、重合させた。重合後、常温まで冷却した。次に、水酸化カリウム7質量部、水23質量部、及びトリエチレングリコール-モノ-n-ブチルエーテル30質量部を、液に投入し、80℃で撹拌しながら加熱して樹脂水溶液Aを得た。樹脂は、重量平均分子量7000、酸価150mgKOH/g)であった。
【0227】
次に、顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)20質量部、樹脂水溶液A10質量部、ジエチレングリコール10質量部、及びイオン交換水60質量部を混合し、ジルコニアビーズミルを用いて分散させて、顔料分散液Aを得た。
【0228】
<分散液B>
同様にして樹脂を調整した。ただし、用いたモノマーは、St-Ac酸共重合体(メタクリル酸/ブチルアクリレート/スチレン/ヒドロキシエチルアクリレート=20/45/20/15の質量比で混合したものを40質量部用いた。重合後、水酸化カリウム5.5質量部、水24.5質量部、及びトリエチレングリコール-モノ-n-ブチルエーテル30質量部を、液に投入し、80℃で撹拌しながら加熱して樹脂水溶液Bを調製した。
樹脂は、重量平均分子量7000、酸価120mgKOH/gであった。
次に、顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)20質量部、樹脂水溶液B10質量部、ジエチレングリコール10質量部、及びイオン交換水60質量部を混合し、ジルコニアビーズミルを用いて分散させて、顔料分散液Bを得た。
【0229】
また表1中、顔料分散液、樹脂、ワックスの欄は、それぞれの固形分濃度から換算した固形分の質量%を記載した。また、表1には、各インクC1~C3を水で1000倍希釈し、ゼータサイザーナノZS(マルバーン製)で測定した平均ゼータ電位を記載した。
【0230】
【0231】
【0232】
表1、表2中の物質は以下の通りである。
・ジョンクリル62J:商品名、BASF社製、スチレンアクリル系樹脂。樹脂粒子。
・AQUACER539:商品名、ビッグケミー・ジャパン社製、ポリエチレン系ワックス
・サーフィノールDF110D:商品名、エア・プロダクツ社製、アセチレンジオール系界面活性剤(消泡剤)
・BYK-348:商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製、シリコーン系界面活性剤
・カチオマスターPD-7:商品名、四日市合成株式会社製、ポリアミン樹脂(エピクロルヒドリン-アミン誘導体樹脂)
【0233】
3.2.評価方法
3.2.1.比(A/B)の測定
各例における比(A/B)は、以下のように測定した。純水40gに対して、水系インク組成物を0.04g滴下・撹拌した液体の、380.0nm以上680nm以下の範囲の最大ピーク波長での吸光度(B)を測定し、処理液40gに対して同割合で水系インク組成物を滴下・撹拌した液体の上記と同じ波長での吸光度(A)を測定し、比(A/B)を求めた。測定回数を3として平均値をとった。吸光度は、日本分光製、紫外可視近赤外分光光度計V-700で測定した。測定は攪拌後5分静止後に行った。測定試料は、静止後の液面の上方から採取した。
【0234】
3.2.2.記録試験
表3、表4に記載の実施例及び比較例につき、同表に記載の処理液、水系インク組成物及び記録媒体種を用いて以下の条件で記録物を作成した。印刷機として、「SC-S40650」(型式、セイコーエプソン株式会社製)に後述するプラテンヒーターとファンを取り付けた改造機(以下、「SC-S40650改造機」ともいう)を用いた。プラテンは、アルミニウム製とし、記録媒体の搬送方向に直交する方向の幅を1.6mとした。また、記録媒体の搬送方向に直交する方向の幅は、1.5mとした。解像度/走査回数は、720×1440dpi/8パス印刷とした。インクジェットヘッドのノズル列は、ノズル密度を360dpiとし、ノズル数を360(個/ノズル列)とした。印刷時のプラテン上の記録媒体の最大温度は、表3、表4に記載した。水系インク組成物及び処理液の付着量は、インク:12mg/inch2、処理液:1.2mg/inch2とした。インク等の付着工程後の記録媒体を、アフターヒーターで90℃で加熱した。
【0235】
表3、表4に用いた記録媒体の種類を記載した。記録媒体は以下の通りである。
・M1:Orajet 3169G-010(製品名、オラフォルジャパン株式会社製、ポリ塩化ビニル、基材厚さ100μm)
・M2:Orajet 3651G-010(製品名、オラフォルジャパン株式会社製、ポリ塩化ビニル、基材厚さ70μm)
【0236】
また、記録条件における、記録媒体のインクジェットヘッドと対向する部分の、記録面側の幅方向の両端及び所定間隔で、20か所、温度を測り、最大温度と最小温度の差を得た。この最大温度及び温度の差(バラツキ)を表3、表4に記載した。温度の測定は、10分以上の連続記録を行い、記録開始から10分後に温度を測定した。
【0237】
また、表3、表4には、記録試験に使用したプラテンの厚さ及び形状を記載した。プラテンの形状の欄において、「フラット」と記載した例では、
図5に示すような、リブの無い支持面とし、支持面が平坦なプラテンとした。支持面の面積の99%以上が記録媒体に接触する形状とした。支持面には吸引孔を備え、吸引孔は直径4mmとした。一方、「リブ有り」と記載した例では、リブを備え、支持面の面積の50%未満が記録媒体に接触する形状のプラテンを用いた。プラテンの支持面を構成する板状部材をアルミニウムで構成し、この厚みを表中の値とした。
【0238】
さらに表3、表4には、ファンによる送風の、プラテン上方のインクジェットヘッドの位置における風温と風速を記載した。
【0239】
3.2.3.面内色差の評価
「SC-S40650改造機」にインクを充填して、ベタパターンを、記録可能な幅方向の全範囲に記録した。幅方向の両端近くまでにわたり等間隔で20点測色を行い、分光測色計(グレタグマクベス社製、型式:Spectrolino)を用い、D65光源として、L*a*b*色差(ΔE*ab)(CIE1976/以下、L*a*b*色差(ΔE*ab)を「色差(ΔE)」という。)を求めた。測色地点間の色差である。以下の基準で評価し、結果を表3、表4に記載した。
AA:ΔEが1.5以下
A: ΔEが1.5より大きく2.0以下
B: ΔEが2.0より大きく2.5以下
C: ΔEが2.5より大きい
【0240】
3.2.4.放置目詰まり回復性の評価
「SC-S40650改造機」にインクを充填して、キャッピングなしの状態で、模擬記録を行った。具体的には各記録条件で記録を行うのと同じ動作を、ヘッドからインクを吐出させずに行った。プリンターを設置した環境は、湿度20%環境下とした。模擬記録を1日間行った。その後クリーニングを行い、回復するノズル数を確認した。なお、1回のクリーニングでは、ノズル列から1gのインクを排出させた。以下の基準で評価して、結果を表3、表4に記載した。
AA:クリーニング2回以内に回復する
A:クリーニング3回以内に回復する
B:クリーニング6回以内に回復する
C:クリーニング6回でも回復しないノズルがある
【0241】
3.2.5.混液目詰まり回復性の評価
「SC-S40650改造機」にインクを充填して、処理液を含ませたベンコットでノズル面を軽くたたくことで、完全にノズル抜けを発生させた。その後、クリーニングを行い、ノズル抜けが回復するかを確認した。なお、1回のクリーニングでは、ノズル列から1gのインクを排出させた。以下の基準で評価して、結果を表3、表4に記載した。
AA:クリーニング2回以内に回復する
A:クリーニング3回以内に回復する
B:クリーニング6回以内に回復する
C:クリーニング6回でも回復しないノズルがある
【0242】
3.2.6.ベタ画質の評価
「SC-S40650改造機」にインクを充填して、幅1.5mの記録媒体(M1又はM2)をセットし、シアンベタパターンを印刷し、印刷物を目視観察した。以下の基準で評価して、結果を表3、表4に記載した。
AA: インクが均一で、濃淡になっているように見える箇所がない
A: インクが濃淡ムラになっている個所が若干あるが気にならない
B: インクが濃淡ムラになっている個所があり、多少気になる
C: インクが濃淡ムラになっている個所がかなりあり、かなり気になる
【0243】
【0244】
【0245】
3.3.評価結果
インクジェット記録装置が平坦な支持面を有する記録媒体支持部と、記録媒体支持部を加熱する加熱機構と、を備え、記録媒体支持部によって加熱され支持された記録媒体に対して水系インク組成物が付着され、水系インク組成物の比(A/B)が0.5以上0.95以下であり、インク付着工程において、記録媒体の表面の最高温度が、28.0℃以上45.0℃以下に加熱された、各実施例では、いずれも面内色差及び目詰まり回復性の両者が良好であった。
【0246】
これに対して、そうではない比較例は、何れも、面内色差及び目詰まり回復性の何れかが劣っていた。以下詳細を記す。
実施例1~5から、比(A/B)が、高い方が目詰まり回復性がより優れ、低い方が面内色差低減や画質がより優れた。
実施例1と6から、プラテン厚さが厚い方が面内色差低減がより優れた。
実施例1と11から、記録媒体が厚い方が面内色差低減や画質がより優れた。
実施例1と、7~9、14から、送風を用いる方が、面内色差低減や画質がより優れた。また、風温や風速が、高い方が面内色差低減や画質がより優れ、低い方が目詰まり回復性がより優れた。
比較例1から、処理液を用いない場合、面内色差低減や画質が劣った。
比較例2から、比(A/B)が0.5未満では、目詰まり回復が劣った。
比較例3から、支持面が平坦ではない場合、面内色差が劣った。なお、比較例4は、比(A/B)が0.5未満であったが、支持面が平坦ではないが、面内色差は劣らなかった。このことから、比(A/B)が0.5以上の場合に、面内色差低減が起こりうると推測する。
比較例5、6から、プラテン上記録媒体温度が、高すぎる場合、目詰まり回復が劣り、低すぎる場合、面内色差低減や画質が劣った。
【0247】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0248】
1…インクジェット記録装置、2…インクジェットヘッド、2a…ノズル面、3…ヒーター、4…プラテンヒーター、5…アフターヒーター、6…ファン、7…プレヒーター、8…通気ファン、9…キャリッジ、11…プラテン、11a…支持面、11c…吸引孔、12…カートリッジ、13…キャリッジ移動機構、14…搬送手段、71…筐体、72…ガイド、101…インターフェース部、102…CPU、103…メモリー、104…ユニット制御回路、111…搬送ユニット、112…キャリッジユニット、113…ヘッドユニット、114…乾燥ユニット、121…検出器群、130…コンピューター、200…ライン型記録装置の部分、210…記録媒体搬送手段、211…搬送ローラー、220…処理液付着手段、221…インクジェットヘッド、230…組成物付着手段、231…インクジェットヘッド、240…後加熱手段、CONT…制御部、MS…主走査方向、SS…副走査方向、M…記録媒体