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特許7400438酵素発電デバイス用電極、および酵素発電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】酵素発電デバイス用電極、および酵素発電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20231212BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20231212BHJP
   H01M 8/16 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01M4/86 H
H01M4/96 B
H01M8/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019228723
(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公開番号】P2021096991
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寛人
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-166086(JP,A)
【文献】特開2016-038988(JP,A)
【文献】特開2019-029074(JP,A)
【文献】特開2008-243380(JP,A)
【文献】国際公開第2016/182018(WO,A1)
【文献】特開2009-158466(JP,A)
【文献】特開2013-254724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/96
H01M 8/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材及び樹脂材料を含有する酵素発電デバイス用電極であって、該電極の親水度が0.15~1.00である酵素発電デバイス用電極。
【請求項2】
樹脂材料が、水溶性樹脂を含む請求項1記載の酵素発電デバイス用電極。
【請求項3】
水溶性樹脂が、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性樹脂を含む請求項2記載の酵素発電デバイス用電極
【請求項4】
導電材が、導電性炭素材料を含む請求項1~3いずれか記載の酵素発電デバイス用電極。
【請求項5】
導電性炭素材料が、カーボンブラック、グラフェン系炭素材料、カーボンナノチューブ、及び黒鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の導電性炭素材料を含む請求項4記載の酵素発電デバイス用電極。
【請求項6】
導電性炭素材料が、酸化処理された導電性炭素材料を含む、請求項4または5記載の酵素発電デバイス用電極。
【請求項7】
さらに、酸化還元酵素を含有する請求項1~6いずれか記載の酵素発電デバイス用電極。
【請求項8】
請求項1~7いずれか記載の酵素発電デバイス用電極を具備する酵素発電デバイス。
【請求項9】
燃料及び/またはセンシング対象物が、グルコース、乳酸、及びフルクトースからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項8記載の酵素発電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素発電デバイス用電極、および酵素発電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、開発が進められている酵素発電デバイスは、糖やアルコール、有機酸等の有機物を燃料にして、酵素反応により生成した電子の有する電気エネルギーを利用する発電型デバイスである。
近年では、酵素発電デバイスから取り出した電気エネルギーを電源として使う以外にも、酵素が持つ基質選択性を利用し、糖やアルコール等の有機物をセンシングするための自己発電型センサーとして利用する方法も提案されている。自己発電型センサーは発電と有機物センシング機能を併せ持つため、電源フリーによる小型軽量化、低コスト化が可能となることに加え、酵素による微小量検知や高い基質選択性に由来する高いセンシング精度が特長となる。そのため、生体向けのウェアラブルデバイスやインプラントデバイス等に使われるセンサー用電源としての利用が期待されている。
他方、酵素発電デバイスにおいては、負極及び正極に酸化還元酵素を含み、多種多様な有機物と空気中の酸素を燃料として発電するエネルギーシステムであり、常温作動、豊富な有機エネルギー源、環境・生体への高い安全性等、複数の利点がある一方、出力安定性、寿命、コスト等に関する課題もある。
【0003】
上記課題の解決に向け、これまでに様々な対策が取られてきた。例えば、発電性能向上に向け、多孔性カーボンを用いたポーラス型酵素燃料電池(特許文献1)や、水に不溶な親水性バインダーを用いた電極を作製し、酵素液の染みこみを改善させる方法(特許文献2)、また、酵素の寿命向上に向け、電解質の酸性基との接触による酵素の失活を緩和するために電極と電解質膜との間に保護膜を備える方法(特許文献3)、光硬化性樹脂を用いて酵素の溶出を抑制する方法(特許文献4)などが報告されている。しかし、性能や安定性が低い、用途が限定される等いずれも十分とは言えず、現状において発電性能に関する課題が解消されているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-181889号公報
【文献】国際公開第2013/065581号
【文献】特開2015-109188号公報
【文献】特許第5181576号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、酵素発電デバイスを構成する酵素発電デバイス用電極を提供することである。本発明の酵素発電デバイス用電極を用いることにより、発電性能に優れた酵素発電デバイスを提供可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、導電材及び樹脂材料を少なくとも含有し、電極の親水度が0.15~1.0である酵素発電デバイス用電極において、上記課題が解決することを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、導電材及び樹脂材料を少なくとも含有し、電極の親水度が0.15~1.0である酵素発電デバイス用電極に関する。
【0008】
また本発明は、樹脂材料が、水溶性樹脂を含む前記酵素発電デバイス用電極に関する。
【0009】
また本発明は、水溶性樹脂が、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性樹脂を含む前記酵素発電デバイス用電極に関する。
【0010】
また本発明は、導電材が、導電性炭素材料を含む前記酵素発電デバイス用電極に関する。
【0011】
また本発明は、導電性炭素材料が、カーボンブラック、グラフェン系炭素材料、カーボンナノチューブ、及び黒鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の導電性炭素材料を含む前記酵素発電デバイス用電極に関する。
【0012】
また本発明は、導電性炭素材料が、酸化処理された導電性炭素材料を含む前記酵素発電デバイス用電極に関する。
【0013】
また本発明は、さらに、酸化還元酵素を含有する前記酵素発電デバイス用電極に関する。
【0014】
また本発明は、前記酵素発電デバイス用電極を具備する酵素発電デバイスに関する。
【0015】
また本発明は、燃料及び/またはセンシング対象物が、グルコース、乳酸、及びフルクトースからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む前記酵素発電デバイスに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の目的は、酵素発電デバイスを構成する酵素発電デバイス用電極、およびそれを用いた酵素発電デバイスを提供することである。本発明の酵素発電デバイス用電極を用いることにより、それを具備する発電性能の優れた酵素発電デバイスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、詳細に本発明について説明する。尚、本明細書では、「樹脂」を「重合体」ということがある。又、「酵素発電デバイス用電極」を、単に「電極」ということがある。又、「酵素発電デバイス用電極組成物」を、単に「組成物」ということがある。
【0018】
<酵素発電デバイス用電極>
酵素発電デバイス用電極は、導電材と樹脂材料とを少なくとも含む。本発明の酵素発電デバイス用電極は後述する酵素発電デバイス用電極組成物を導電性支持体(カーボンペーパーや後述する導電層など)やセパレータ等の基材などに直接塗布し乾燥させたり、転写基材などに前記組成物を塗布し乾燥することにより形成された塗膜を前記導電性支持体やセパレータ等に転写したりして作製される。
上記組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0019】
本発明の酵素発電デバイス用電極は必要により酵素やメディエータを含んでいても良い。酵素やメディエータを担持する方法は、後述する酵素発電デバイス用電極組成物に酵素やメディエータを含ませても良いし、塗布後乾燥した塗膜に後から担持を行っても良い。後から行う場合では、酵素やメディエータを溶解させた液を上記塗膜に浸漬等させた後、乾燥させて担持する方法等が使用できる。
酵素発電デバイス用電極は、酵素を含む酵素発電デバイス用電極組成物から作製した塗膜をそのまま使用したり、酵素を含む酵素発電デバイス用電極組成物から作製した塗膜に更に酵素を担持して使用したり、酵素を含まない酵素発電デバイス用電極組成物から作製した塗膜に酵素を担持して使用したり、酵素を含まない酵素発電デバイス用電極組成物から作製した塗膜をそのまま使用したりして、後述する酵素発電デバイス用負極や酵素発電デバイス用正極として使用される。
【0020】
本発明の酵素発電デバイス用電極においては、電極中で酵素の酸化還元反応が生じる。酵素反応に必要な電子やイオン、燃料などが効率的に運ばれることで反応が進行する。そのため、本発明の酵素発電デバイス用電極においては、比表面積が大きく、導電性が高い方が好ましい。比表面積が大きいほど、電子やプロトン、燃料・酸素などとの反応場が多くなり好ましい。また、導電性が高いほど、電極中における酸化還元反応に必要な電子を酵素やメディエータに供給できるため、電流の増加に繋がりやすく、好ましい。
【0021】
本発明における酵素発電デバイス用電極は、水を吸着質としたBET比表面積(BETH2O)と窒素を吸着質とした比表面積(BETN2)の比(BETH2O/BETN2)で示される表面親水度の範囲が0.15~1.0であると電極中におけるイオンや燃料の伝達に有利となり好ましい。親水度が0.15以上あると電極中におけるイオンや燃料の伝達に有利となり、効率的に酵素反応が進行しやすくなる一方、1.0を超過すると電解液等に対する電極表面の親和性が過度に高くなることで、担持されている材料(酵素やメディエータ、樹脂など)が電解液等に溶出しやすくなる恐れがある。
親水度は、より好ましくは、0.2~0.9、更に好ましくは、0.2~0.7である。
【0022】
本発明における酵素発電デバイス用電極の親水度を制御する手段として、下記が挙げられる。親水度の向上には、電極への親水化処理として、加熱による酸化処理や、プラズマ処理、UV-オゾン処理、親水材料の表面コートなどが挙げられ、電極用組成物への親水化処理として、親水性の高い水溶性樹脂や界面活性剤などの添加、表面処理した導電材の使用などが挙げられる。これらを単独、または2種以上の方法を併せて使用してもよい。また、親水度の低減には、電極へのフッ素系などの撥水材料の表面コートや添加などが挙げられる。
【0023】
<導電材>
次に、導電材について説明する。導電材は電極での電子伝導性を高め酸化還元反応を進めやすくするために含有される。ここでは主に導電性炭素材料を挙げるが、これに限るものではない。本発明に用いる導電材である導電性炭素材料としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではないが、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック)、活性炭、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、グラフェン系炭素材料(グラフェン、グラフェンナノプレートレットなど)、ナノポーラスカーボン、炭素繊維等を単独、もしくは2種類以上併せて使用することができる。上記の中でも、カーボンブラック、グラフェン系炭素材料、カーボンナノチューブ、黒鉛は導電性や比表面積などが高く、上記酸化還元反応を進めるのに有利となるため好ましい。
【0024】
カーボンブラックとしては、気体もしくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどの各種のものを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
【0025】
用いるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、カーボンブラック粒子どうしの接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となると共に、酵素の炭素表面への担持量が増加するため有効である。具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、20m/g以上、1500m/g以下、好ましくは50m/g以上、1500m/g以下、更に好ましくは100m/g以上、1500m/g以下のものを使用することが望ましい。
【0026】
導電性炭素材料は、親水性を高めるため表面に酸化処理を施したものを使用してもよい。酸化処理の方法としては、例えば、空気やオゾン、酸化窒素などに気相酸化処理や、酸化力のある酸や過酸化水素、過マンガン酸カリウムなどの化学酸化処理などが挙げられる。
【0027】
市販の導電性炭素材料としては、例えば、
ケッチェンブラックEC-300J、EC-600JD、ライオナイトEC-200L等のライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製ケッチェンブラック;
トーカブラック#4300、#4400、#4500、及び#5500等の東海カーボン社製ファーネスブラック;
プリンテックスL等のデグサ社製ファーネスブラック;
Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、975 ULTRA、PUER BLACK100、115、及び205等のコロンビヤン社製ファーネスブラック;
#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、MA14、MA77、MA7、及びMA100等の三菱化学社製カーボンブラック;
MONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、及びBlackPearls2000等のキャボット社製ファーネスブラック;
Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、及びSuperP-Li等のTIMCAL社製ファーネスブラック;
デンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のデンカ社製アセチレンブラック;
VGCF、VGCF-H、VGCF-X等の昭和電工社製カーボンナノチューブ;
名城ナノカーボン社製カーボンナノチューブ;
xGnP-C-300、xGnP-C-500、xGnP-C-750、xGnP-M-5、xGnP-M-15、xGnP-M-25、xGnP-H-5、xGnP-H-15、及びxGnP-H-25等のXGSciences社製グラフェンナノプレートレット;
Easy-N社製ナノポーラスカーボン;
カイノール炭素繊維、カイノール活性炭繊維などの群栄化学工業社製炭素繊維;
クノーベルMHグレード、クノーベルMJ(4)150グレード、クノーベルMJ(4)030グレード、及びクノーベルMJ(4)010グレード等の東洋炭素社製クノーベル;
FB-100、FB-150、CB-150、CGB-20、CGB-50、LEP、EC300、CMX-60、及びUP-20等の日本黒鉛社製黒鉛等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0028】
<樹脂材料>
樹脂材料は、酵素発電デバイス用電極において親水度を制御する目的や、導電材などの分散、粒子間を結着させる目的(バインダー)などに使用される。親水度を制御するためには、水溶性樹脂の使用が好ましい。水溶性樹脂を使用することで、電極が親水的になり適切な親水度への制御が容易となるためである。
【0029】
<水溶性樹脂>
本発明における水溶性樹脂とは、水に可溶な樹脂であり、酵素発電デバイス用電極において親水度の制御をするためなどに使用される。水溶性樹脂としては、ポリビニル系樹脂やポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系、カルボキシメチルセルロース等のセルロース樹脂、ホルマリン縮合物、シリコン系、及びこれらの複合系ポリマー等が挙げられる。更に、これらの水溶性樹脂は2種類以上を併用してもよい。ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロースなどが好ましい。
【0030】
<バインダー>
本発明におけるバインダーとは、酵素発電デバイス用電極の導電材などの粒子を結着させるために使用されるものである。
バインダーとしては、従来公知のものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、スチレン-ブタジエンゴムやフッ素ゴム等の合成ゴム、ポリアニリンやポリアセチレン等の導電性樹脂等、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、パーフルオロカーボン及びテトラフルオロエチレン等のフッ素原子を含む高分子化合物が挙げられる。又、これらの樹脂の変性物、混合物、又は共重合体でも良い。これらバインダーは、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
【0031】
また、水及び水と相溶可能な溶剤との混合溶剤を使用する場合、一般的に水性エマルションとも呼ばれるバインダーも使用できる。水性エマルションとは、バインダー樹脂が水中で溶解せずに、微粒子の状態で分散されているものである。
【0032】
使用するエマルションは特に限定されないが、(メタ)アクリル系エマルション、ニトリル系エマルション、ウレタン系エマルション、ジエン系エマルション(SBR(スチレンブタジエンゴム)など)、フッ素系エマルション(PVDF(ポリフッ化ビニリデン)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)など)等が挙げられる。
【0033】
<酵素>
本発明における酵素としては、反応により電子を授受できる酵素(酸化還元酵素)であれば特に制限はなく、供給する燃料やコスト、デバイスの種類等に応じて適宜選択される。
酸化還元酵素としては、物質代謝など生体内での多くの酸化還元反応を触媒できる酵素が好ましい。
本発明の酵素発電デバイスに用いる負極においては電子を放出できる酵素であれば良く、糖や有機酸などのオキシダーゼやデヒドロゲナーゼなどが利用できる。中でも、他の酵素に比べ安価で、安定性が高く、人体の血液や尿などの生体試料に含まれるグルコースを燃料にできるグルコースオキシダーゼが好ましい場合がある。その他の酵素としては、汗や血液中の乳酸を使用できる乳酸オキシダーゼや乳酸デヒドゲナーゼ、フルクトースを燃料にできるフルクトースオキシダーゼやフルクトースデヒドゲナーゼ等が挙げられる。
また、本発明の酵素発電デバイスに用いる正極においては、電子を消費できる酵素であれば良く、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどの還元酵素の一種で、分子状酸素の還元を触媒する酸素還元酵素を用いることが出来る。
【0034】
<メディエータ>
酵素の種類によって、電極に直接電子を伝達できる直接電子移動型(DET型)酵素と直接電子を伝達できない酵素が存在する。DET型以外の酵素は、燃料の酸化によって生じた電子を酵素から電極(負極)に伝達するまたは、負極から受け取った電子を電極(正極)から酵素に伝達する役割を担うメディエータと併用することが好ましい。メディエータとしては、電極と電子の授受ができる酸化還元物質であれば特に制限はなく、従来公知のものを使用できる。
メディエータの使用方法としては、電極に担持させる方法や電解液に溶解させて使用する方法等がある。メディエータとしては、テトラチアフルバレン、ハイドロキノンや1,4‐ナフトキノン等のキノン類、フェロセン、フェリシアン化物、オスミウム錯体、及びこれら化合物を修飾したポリマー等が例示できる。分別、廃棄の観点から非金属化合物が好ましい。
【0035】
<導電性支持体>
導電性支持体は、導電性を有する材料であれば特に限定はない。導電性炭素材料からなる導電層やカーボンペーパーや、カーボンフェルト、カーボンクロス、金属箔、金属メッシュ等が使われる。上記導電層は導電性の炭素材料を含むペーストなどを基材に塗工するなどして作製される。
【0036】
<酵素発電デバイス用電極組成物>
酵素発電デバイス用電極組成物は、導電材と樹脂材料と、必要に応じて液状媒体を含み、酵素発電デバイス用電極を作製するために用いられる。
【0037】
また、酵素発電デバイス用電極組成物は、必要に応じて分散剤やバインダーを含有する。導電材及び液状媒体と、バインダー、分散剤などの割合は、特に限定されるものではなく、広い範囲内で適宜選択され得る。
【0038】
<液状媒体>
本発明に使用する液状媒体としては、特に限定せず使用することができる。中でも水及び水と相溶する水性液状媒体の使用が好ましい。水と相溶する液状媒体としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等が挙げられ、水と相溶する範囲で使用しても良い。アルコール類としては、例えば、沸点80~200℃程度の1価のアルコールないし多価アルコールが利用でき、好ましくは炭素数が4以下のアルコール系溶剤が挙げられる。具体的には、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等が挙げられる。これらの1価のアルコールの中でも、2-プロパノール、1-ブタノール及びt-ブタノールが好ましい。多価アルコールとしては具体的には、プロピレングリコール、エチレングリコール等が好ましく、中でもプロピレングリコールが特に好ましい。液状媒体は水を用いることが好ましく、水と相溶する液状媒体を一部含んでいてもよい。
【0039】
<分散剤>
本発明において使用する分散剤は、導電材などの粒子に対して分散剤として有効に機能し、その凝集を緩和することができる。分散剤は、導電材などの粒子に対して凝集を緩和する効果を得ることができれば特に限定されるものではない。
【0040】
分散剤としては、従来公知のものを使用することができる。例えば樹脂型分散剤であれば、塩基性官能基を有する樹脂、酸性官能基を有する樹脂、塩基性官能基および酸性官能基を有する樹脂並びにノニオン性樹脂からなる群から選ばれる一種以上の樹脂である分散剤を用いることが出来る。
【0041】
塩基性官能基を有する樹脂としては、環状を含むアミノ基およびアミノ基の一部あるいは全て中和した骨格や4級アンモニウム塩を含有し、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノスチレン、ジエチルアミノスチレン等の重合性単量体の単独重合物、または他の重合性単量体との共重合物およびそれらの酸中和物が挙げられる。(メタ)アクリレートとは、メタクリレートまたはアクリレートを意味する。
【0042】
酸性官能基を有する樹脂としては、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基およびそれらを一部あるいは全てを中和した骨格を含有し、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸、けい皮酸等のカルボキシル基を有する重合性単量体や、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸などのスルホ基を有する重合性単量体、モノ(2-アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート等のリン酸基を有する重合性単量体の単独重合物、または他の重合性単量体との共重合物およびそれらのアルカリ中和物が挙げられる。
【0043】
塩基性官能基及び酸性官能基を有する樹脂としては、前記塩基性骨格と前記酸性骨格を共に含有するものを意味し、スチレン-マレイン酸-N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの共重合物などが挙げられる。
【0044】
ノニオン性樹脂は、前記塩基性官能基を有する樹脂、酸性官能基を有する樹脂、塩基性官能基及び酸性官能基を有する樹脂以外の樹脂であり、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0045】
分散剤として水溶性樹脂型分散剤を使用した電極組成物から酵素発電デバイス用電極を作製すると、水に不溶な樹脂型分散剤に比べ電極内部がより親水的になり活性点へのプロトン供給が有利となるため、好ましい。
【0046】
水溶性樹脂型分散剤は、ポリビニル系樹脂やポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系、カルボキシメチルセルロース等のセルロース樹脂、ホルマリン縮合物、シリコン系、及びこれらの複合系ポリマー等が挙げられる。更に、これらの水溶性樹脂型分散剤は2種類以上を併用してもよい。ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロースなどが好ましい。
【0047】
市販の水溶性樹脂型分散剤としては、例えば、DISPERBYK-180、184、187、190、191、192、193、194、199、2010、2012、2015、2096等(ビックケミー社製)、SOLSPERSE20000、27000、40000、41090、44000、46000、47000、64000、65000、66000等(日本ルーブリゾール社製)、フローレンG-700AMP、G-700DMEA、WK-13E、GW-1500、GW-1640等(共栄社化学社製)、Borchi(登録商標)Gen1350、0851、1253、SN95、WNS等(松尾産業社製)、TEGODispers650、651、652、655、660C、715W、740W、750W、752W、755W、760W等(巴工業社製)、ポリビニルピロリドンPVP-K30、K85、K90等(ISPジャパン社製)、エスレックBL-1、BL-2、BL-5、BL-10、BL-1H、BL-2H、BL-S、BM-S、BM-1、BM-2、BM-5、BX-1、BX-5等(積水化学工業社製)、カルボキシメチルセルロースCMC1110、1130、1140、1170、1190、1210、1240、1250等(ダイセル化学工業社製)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
なお、水溶性樹脂型分散剤の質量平均分子量は、炭素触媒(A)の分散性が良好な点から、1000以上、500000未満であり、好ましくは5000以上、400000未満であり、より好ましくは、10000以上、200000未満である。
【0049】
<分散機・混合機>
本発明の組成物を得る際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機、混合機が使用できる。
【0050】
例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントシェーカー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;または、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、分散機としては、分散機からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0051】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、または、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0052】
<酵素発電デバイス用負極>
酵素発電デバイス用負極では、燃料の酸化反応により発生した電子を正極に供給する。
酵素発電デバイス用負極は、酸化酵素を含む本発明の酵素発電デバイス用電極や、酸化酵素を導電性支持体(カーボンペーパーや導電層など)やセパレータ等の基材などに直接塗布した電極などが使用される。
【0053】
<酵素発電デバイス用正極>
本発明の酵素発電デバイス用正極では、負極で発生した電子を受け取り、電極中の還元反応によりこれを消費する。酵素発電デバイス用正極の構造としては、例えば、酸素を電子受容体として使用する酸素還元反応の場合では、反応場となる活性点まで電子及びプロトンの伝導パスや酸素の供給パスが確保されていることが効率的な発電を行う上では好ましい。
酵素発電デバイス用正極は、還元酵素を含む本発明の酵素発電デバイス用電極や、還元酵素を含まない本発明の酵素発電デバイス用電極、還元酵素を導電性支持体(カーボンペーパーや導電層など)やセパレータ等の基材などに直接塗布した電極、還元酵素を含まない酸素還元触媒からなる本発明の酵素発電デバイス用電極などが使用される。
【0054】
<酸素還元触媒>
酸素還元触媒としては、非白金系炭素触媒、貴金属触媒、卑金属酸化物触媒、活性炭、酸素還元酵素などが挙げられる。
【0055】
非白金系炭素触媒とは、(以下、単に炭素触媒ともいう)とは、炭素元素を基本骨格とした炭素材料からなり、それらの構成単位間に物理的・化学的な相互作用(結合)を有し、異種元素、たとえばN、B、Pなどのヘテロ原子を含み、更に場合によって卑金属元素が含まれ酸素還元活性を有する触媒材料である。ここでいう卑金属元素とは、遷移金属元素のうち貴金属元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金)を除く金属元素であり、卑金属元素としては、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、銅、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、およびスズからなる群より選ばれる一種以上を含有することが好ましい。
ヘテロ元素と卑金属元素を含有することは、酸素還元活性を有する上で重要な意味をなす。非白金系炭素触媒は、その触媒活性点として、例えば、炭素材料の基本骨格を構成する炭素の六角網面のエッジ部に導入された窒素原子やその近傍の炭素原子、また触媒表面上に卑金属元素を中心に4個の窒素が平面上に並んだ卑金属-N4構造における窒素原子や卑金属原子などが挙げられる。
非白金系炭素触媒は、1種または2種以上の、炭素材料と、窒素元素および/または前記卑金属元素を含有する化合物とを混合し、熱処理を行い作製された炭素触媒であって、従来公知のものを使用できる。炭素触媒に用いられる炭素材料は、無機材料由来の炭素粒子および/または有機材料を熱処理して得られる炭素粒子であれば特に限定されない。
【0056】
貴金属触媒とは、貴金属を一種以上含む触媒である。これら貴金属触媒は単体でも別の元素や化合物に担持されたものでも良い。
【0057】
卑金属酸化物触媒は、ジルコニウム、タンタル、チタン、ニオブ、バナジウム、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、タングステン、およびモリブデンからなる群より選択された少なくとも1種の卑金属元素を含む酸化物を使用することができ、より好ましくはこれら卑金属元素の炭窒化物や、これら遷移金属元素の炭窒酸化物を使用することができる。
【0058】
活性炭とは、やしがらや石油系のピッチなどの難黒鉛化炭素材料を原料として、賦活処理により合成される炭素材料で、一般的に、直径2nm以下の細孔を有し、1000m/g以上の比表面積を有する。活性炭は賦活処理の種類や条件によって、物性が異なるため、使用される条件や用途によって所望の活性炭を合成するのに適した賦活方法が適宜使用される。
【0059】
<酵素発電デバイス>
酵素発電デバイスは、負極、正極の少なくとも一方に酵素を含む発電デバイスであり、酵素反応を利用し、糖やアルコール、有機酸等の多様な有機物を燃料として、負極で発生した電子及びイオンと、正極側の酸素還元反応を利用することにより発電可能な発電デバイスである。又、発電の有無や発電量を検知したり、負極または正極の一方の酸化還元反応で発生した電気信号を検知したりして、燃料となる有機物等を対象としたセンサーとして利用することも可能となる。
更に、酵素反応により発電した電力を用いて、同センサーを駆動させることにより、外部から電力供給不要な電源フリーのセンサー(自己発電型センサー)として利用することが出来る。この自己発電型センサーは酵素発電デバイスの一種に含まれ、酵素発電デバイスの電源用途と共に特に生体向けのウェアラブル、インプラントセンサーとしての活用が期待されている。これら生体向けデバイスとして使用する場合は、血液中の血糖、尿中の尿糖、汗中の糖や乳酸、涙や唾液中の糖等を燃料及び/又はセンシング対象物として利用される。また、生体試料中に燃料として利用できる有機物を含まなくても、予め燃料となる有機物を電池に内蔵することで、水分などの液体成分を利用して発電することもでき、上記液体成分をセンシング対象物としたセンサー(例えば水分センサー)として利用することもできる。
【0060】
<セパレータ>
セパレータとしては、負極と正極を電気的に分離できる(短絡の防止)ものであれば、特に限定されず従来公知の材料を用いる事ができる。具体的には、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ガラス繊維、樹脂不織布、ガラス不織布、フェルト、濾紙、和紙等を用いることができる。
また、液体成分の保持やイオン伝導度を改善させるため、吸水性ポリマーを単独もしくは上記セパレータと複合的に使用しても良い。吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸塩やカルボキシメチルセルロースなどの多糖類からなる親水性のポリマー材料が挙げられる。
【0061】
<燃料>
本発明の酵素発電デバイスで使用できる燃料としては、酵素で分解できる有機物であれば特に限定はされず、D-グルコース等の単糖類、デンプン等の多糖類、エタノール等のアルコール、有機酸などの有機物であれば幅広く利用できる。特に、高い反応性や生体試料に豊富に含まれるなどの理由から、グルコース、乳酸、およびフルクトースなどが好ましく使用できる。
【0062】
<イオン伝導体>
本発明におけるイオン伝導体はアノードとカソードの間でイオンの伝導を行うものである。イオン伝導体の形態はイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。イオン伝導体としては、リン酸塩やナトリウム塩など電解質が溶けている電解液や、固体のポリマー電解質などを使用しても良い。
【0063】
<酵素発電デバイスのセンシング>
本発明の酵素発電デバイスを用いることで、燃料となる有機物のセンシングが可能であり、例えば、各種有機物を対象とした有機物センサー、血液や汗、尿、便、涙、唾液、呼気などの生体試料中の有機物や体液を対象とした生体センサー、果物や食品中の糖等を対象にした食品用センサー、IoTセンサー、大気や河川、土壌など環境中の有機物を対象にした環境センサー、動物や昆虫、植物を対象にした動植物センサー等が挙げられる。中でも生体センサーとしては、例えば、グルコースを対象にした、血液中の糖をセンシングする血糖値センサーや、尿中の糖をセンシングする尿糖値センサーや、乳酸を対象にした、汗中の乳酸値をセンシングする疲労度センサーや熱中症センサーなどが挙げられ、食品用のセンサーとしては、例えば、フルクトースを対象にした果物センサーなどに有用に使用できる。
また、酵素発電デバイスのセンシングに使われるデバイスは、本発明の酵素発電デバイス用電極を正極及び/または負極に使用した二極式や、同電極を負極に使用し参照極と対極を組み合わせた一般的なバイオセンサーの構成のような三極式で使用することができる。
【実施例
【0064】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、実施例および比較例における「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
【0065】
<酵素発電デバイス電極組成物の製造>
[製造例1]
導電性炭素系材料として、カーボンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製:ライオナイトEC-200L)6部、溶剤として水89.8部、更に水性樹脂としてポリビニルピロリドン(富士フィルム和光純薬社製:K-30)3部をサンドミルに入れて分散した。その後、バインダーとしてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)2.4部(固形分50%)を加えミキサーで混合し、酵素発電デバイス用電極組成物(1)を得た。
【0066】
[製造例2~5]
表1に示す配合組成で製造例1と同様の方法で調製し、酵素発電デバイス用電極組成物(2)~(5)を得た。
【0067】
【表1】

導電性炭素材料
・EC-200L:カーボンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製:ライオナイトEC-200L)
・MA14:酸化カーボンブラック(三菱ケミカル社製:MA14)
水性樹脂
・PVP:ポリビニルピロリドン(富士フィルム和光純薬社製:K-30)
バインダー
・W-168:エマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)
・PVDF:KFポリマー(クレハ社製:#9100)
溶剤
・NMP:N-メチルピロリドン
【0068】
<酵素発電デバイス用電極の作製>
[実施例1]
(酵素発電デバイス電極(1)の作製)
酵素発電デバイス用電極組成物(1)を、ドクターブレードにより、乾燥後の酵素発電デバイス電極の目付け量が2mg/cmとなるように、導電性支持体として炭素繊維からなる東レ社製カーボンペーパー基材上に塗布し、大気雰囲気中95℃、80分間乾燥し、酵素発電デバイス電極(1)を作製した。
【0069】
[実施例2]
(酵素発電デバイス電極(2)の作製)
酵素発電デバイス用電極組成物(1)を酵素発電デバイス用電極組成物(2)に変更した以外は、上記の酵素発電デバイス電極(1)と同様の方法により、酵素発電デバイス電極(2)を作成した。
【0070】
[実施例3]
(酵素発電デバイス電極(3)の作製)
酵素発電デバイス用電極組成物(3)を、ドクターブレードにより、乾燥後の酵素発電デバイス電極の目付け量が2mg/cmとなるように、導電性支持体として炭素繊維からなる東レ社製カーボンペーパー基材上に塗布し、大気雰囲気中95℃、80分間乾燥した後、UV-O3装置により20分処理し、酵素発電デバイス電極(3)を作製した。
【0071】
[実施例4]
(酵素発電デバイス電極(4)の作製)
UV-O3装置による処理時間を40分とした以外は、上記の酵素発電デバイス電極(3)の作製と同様の方法により、酵素発電デバイス電極(4)を作製した。
【0072】
[実施例5]
(酵素発電デバイス電極(5)の作製)
UV-O3装置による処理時間を60分とした以外は、上記の酵素発電デバイス電極(3)の作製と同様の方法により、酵素発電デバイス電極(5)を作製した。
【0073】
[実施例6]
(酵素発電デバイス電極(6)の作製)
UV-O3装置による処理時間を120分とした以外は、上記の酵素発電デバイス電極(3)の作製と同様の方法により、酵素発電デバイス電極(6)を作製した。
【0074】
[比較例1]
酵素発電デバイス用電極組成物(3)を、ドクターブレードにより、乾燥後の酵素発電デバイス電極の目付け量が2mg/cmとなるように、導電性支持体として炭素繊維からなる東レ社製カーボンペーパー基材上に塗布し、大気雰囲気中95℃、80分間乾燥し、酵素発電デバイス電極(7)を作製した。
【0075】
[比較例2]
酵素発電デバイス用電極(7)を、UV-O3装置により180分処理し、酵素発電デバイス電極(8)を作製した。
【0076】
[比較例3]
酵素発電デバイス用電極組成物(4)を、ドクターブレードにより、乾燥後の酵素発電デバイス電極の目付け量が2mg/cmとなるように、導電性支持体として炭素繊維からなる東レ社製カーボンペーパー基材上に塗布し、大気雰囲気中95℃、80分間乾燥し、酵素発電デバイス電極(9)を作製した。
【0077】
[比較例4]
酵素発電デバイス用電極組成物(5)を、ドクターブレードにより、乾燥後の酵素発電デバイス電極の目付け量が2mg/cmとなるように、導電性支持体として炭素繊維からなる東レ社製カーボンペーパー基材上に塗布し、大気雰囲気中120℃、80分間乾燥した後、UV-O3装置により15分処理し、酵素発電デバイス電極(10)を作製した。
【0078】
<酵素発電デバイス用負極の作製>
酵素発電デバイス電極(1)~(10)にテトラチアフルバレンのメタノール溶液を滴下し自然乾燥させた後に、グルコースオキシダーゼ水溶液を滴下し、自然乾燥させ酵素発電デバイス用負極(1)~(10)を作製した。
【0079】
<酵素発電デバイス性能評価>
以下のようにして、酵素発電デバイス用負極の電流性能を評価した。
上記で作製した酵素発電デバイス用負極(1)~(10)を作用極、白金コイル状電極を対極、銀-銀塩化銀電極(Ag/AgCl)を参照極として、1Mのグルコース溶解した電解液(イオン伝導体)である0.5Mリン酸緩衝液(pH7.0)中に入れた。その後、ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、pH7、室温下で-0.2~0.5Vの電位範囲におけるCyclic Voltammetry(CV)測定において、燃料(センシング対象物)となるグルコースの酸化電流曲線から最大電流(mA/cm)を比較した。
電流性能の指標には、比較例1で作製した酵素発電デバイス用負極(7)の最大電流密度を100とした相対値を使用した。
得られた結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
比較例に比べ実施例では酵素発電デバイス用電極において高い電流性能を示した。これは比較例に比べ、電極の親水度が高く電解液の浸透が改善され、燃料やイオンが電極内部まで供給されたためと考えられる。
一方、電極の親水度1.0を超過すると、電解液に対する電極表面の親和性が高くなり過ぎることで、担持されている酵素や水性樹脂が溶出しやすくなり性能が低下したと考えられる。このように電極の親水度が適切な範囲(0.15~1.0)にあると高い電流性能を発現することが明らかとなった。