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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】熱電変換材料および熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/856 20230101AFI20231212BHJP
   H10K 85/20 20230101ALI20231212BHJP
   H10N 10/855 20230101ALI20231212BHJP
   H10K 85/00 20230101ALI20231212BHJP
【FI】
H10N10/856
H10K85/20
H10N10/855
H10K85/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019231641
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021100064
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石 智文
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/003642(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/133029(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021908(WO,A1)
【文献】特開2016-096242(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129877(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/147126(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/856
H10K 10/00
H10K 85/20
H10N 10/855
H10K 85/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ(A)に有機半導体(B)が内包されたカーボンナノチューブからなり、前記有機半導体(B)が、10-アルキルフェノチアジン、アルキルチオキサントンおよび4,4-ビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、導電率が、500S/cm以上8000S/cm以下である熱電変換材料。
【請求項2】
下記式を満たす請求項1記載の熱電変換材料。
式 0eV≦|(有機半導体(B)のHOMO)-(カーボンナノチューブ(A)のHOMO)|≦1.64eV
[ただし、HOMOは最高被占軌道のエネルギー準位を表す。]
【請求項3】
カーボンナノチューブ(A)のHOMOが、有機半導体(B)のHOMOよりも大きい請求項2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
有機半導体(B)の内包率が、カーボンナノチューブ(A)の全量に対して5質量%以上400質量%以下である請求項1~3いずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項5】
請求項1~いずれか1項に記載の熱電変換材料を含んでなる熱電変換膜と、電極とを有し、該熱電変換膜及び該電極が互いに電気的に接続されている熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料および熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換できる熱電変換材料は、熱電発電素子やペルチェ素子のような熱電変換素子に用いられている。熱電変換素子は、熱を電力に変換する素子であり、半導体や金属の組合せによって構成される。代表的な熱電変換素子としては、p型半導体単独、n型半導体単独、又はp型半導体とn型半導体との組合せ、に分類される。熱電変換素子では、半導体の両端に温度差が生じるように熱を加えると起電力が生じるゼーベック効果を利用する。より大きな電位差を得るために、熱電変換素子では、一般的に、材料としてp型半導体とn型半導体とを組合せて使用する。
【0003】
また、熱電変換素子は、多数の素子を板状、又は円筒状に組合せてなる熱電モジュールとして使用される。熱エネルギーを直接電力に変換することが出来、例えば、体温で作動する腕時計、地上用発電及び人工衛星用発電における電源として利用できる。熱電変換素子の性能は、熱電変換材料の性能、及びモジュールの耐久性等に依存する。
【0004】
非特許文献1に記載されているとおり、熱電変換材料の性能を表す指標として、無次元熱電性能指数(ZT)が用いられる。また、熱電変換材料の性能を表す指標として、パワーファクターPF(=S2・σ)を用いる場合もある。
上記無次元熱電性能指数「ZT」は、下式(1)により表される。
ZT=(S2・σ・T)/κ ・・・式(1)
ここで、Sはゼーベック係数(V/K)、σは導電率(S・m)、Tは絶対温度(K)、及びκは熱伝導率(W/(m・K))である。熱伝導率κは下式(2)で表される。
κ=α・ρ・C ・・・式(2)
ここで、αは熱拡散率(m2/s)、ρは密度(kg/m3)、及びCは比熱容量(J/(kg・K))である。
つまり、熱電変換の性能(以下、熱電特性とも称す)を向上させるには、ゼーベック係数又は導電率を向上させ、その一方で熱伝導率を低下させることが重要である。
【0005】
代表的な熱電変換材料として、例えば、常温から500Kまではビスマス・テルル系(Bi-Te系)、常温から800Kまでは鉛・テルル系(Pb-Te系)、及び常温から1000Kまではシリコン・ゲルマニウム系(Si-Ge系)等の無機材料が使用されている。
【0006】
しかし、これらの無機材料を含む熱電変換材料は、しばしば希少元素を含み高コストであるか、又は有害物質を含む場合がある。また、無機材料は加工性に乏しいため、製造工程が複雑となる。そのため、無機材料を含む熱電変換材料については、製造エネルギー及び製造コストが高くなり、汎用化が困難である。さらに、無機材料は剛直であるため、平面ではない形状にも設置可能な、フルキシブル性を有する熱電変換素子を形成することは困難である。
【0007】
これに対し、従来の無機材料に代えて、有機材料を用いた熱電変換素子に関する検討が進められている。有機材料は、優れた成形性を有し、かつ無機材料よりも優れた可撓性を有するため、それ自身が分解しない温度範囲での汎用性が高い。また、印刷技術等を容易に活用できるため、製造エネルギーや製造コストの面でも無機材料より有利である。
【0008】
例えば、特許文献1には、ポルフィリン骨格とアルキル基を含む置換基とが結合した、高いゼーベック係数を示す熱電変換材料が記載されている。しかしながら、特許文献1の発明では、導電率が10-8~10-7S/cmと低く、熱電変換素子として実用的な値を得ることはできていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2015/129877号
【非特許文献】
【0010】
【文献】梶川武信著「熱電変換技術ハンドブック(初版)」エヌ・ティー・エス出版、p.19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、ゼーベック係数と導電率との両立を達成し、高いパワーファクターを示す熱電変換材料を提供することを課題とする。また、当該材料を用いて、優れた熱電性能を発揮する熱電変換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、カーボンナノチューブ(A)に有機半導体(B)が内包されたカーボンナノチューブからなり、導電率が、500S/cm以上8000S/cm以下である熱電変換材料に関する。
【0013】
また、本発明は、下記式を満たす上記熱電変換材料に関する。
式 0eV≦|(有機半導体(B)のHOMO)-(カーボンナノチューブ(A)のHOMO)|≦1.64eV
[ただし、HOMOは最高被占軌道のエネルギー準位を表す。]
【0014】
また、本発明は、カーボンナノチューブ(A)のHOMOが、有機半導体(B)のHOMOよりも大きい上記熱電変換材料に関する。
【0015】
また、本発明は、有機半導体(B)の内包率が、カーボンナノチューブ(A)の全量に対して5質量%以上400質量%以下である上記熱電変換材料に関する。
【0016】
また、本発明は、有機半導体(B)が、フタロシアニン骨格、ペリレン骨格、ピロロピロール骨格、チアゾロチアゾール骨格、オキサゾロチアゾール骨格、オキサゾロオキサゾール骨格、ベンゾビスチアゾール骨格、ベンゾビスオキサゾール骨格、チアゾロベンゾオキサゾール骨格、フェノチアジン骨格、チオキサントン骨格およびベンゾフェノン骨格からなる群から選ばれた一種以上の骨格を有する化合物を含む上記熱電変換材料に関する。
【0017】
また、本発明は、上記熱電変換材料を含んでなる熱電変換膜と、電極とを有し、該熱電変換膜及び該電極が互いに電気的に接続されている熱電変換素子に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、ゼーベック係数と導電率との両立を達成する熱電変換材料を提供することができる。また、当該材料を用いて、優れた熱電性能を発揮する熱電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態である熱電変換素子の一例の構造を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態である熱電変換素子の起電力の測定方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。尚、本明細書での説明において、カーボンナノチューブ(A)に有機半導体(B)が内包されたカーボンナノチューブを「内包カーボンナノチューブ」と略記することがある。
【0021】
<熱電変換材料>
本発明の熱電変換材料は、有機半導体が内包されたカーボンナノチューブを特徴とする。一般的に有機半導体とカーボンナノチューブを混合することで熱電性能を向上させる例は知られているが、有機半導体が増えるとカーボンナノチューブ同士のパスが有機半導体によって阻害されるため、導電率が低下してしまう恐れがある。一方、有機半導体が少ないと、ゼーベック係数が低下してしまう恐れがある。有機半導体をカーボンナノチューブに内包させ、カーボンナノチューブの導電パスを確保することで、高いゼーベック係数と導電率とを両立し、優れた熱電性能を発揮することができる。
【0022】
<カーボンナノチューブ(A)>
カーボンナノチューブ(A)は、導電率向上に寄与するものである。カーボンナノチューブ(A)の含有量を増やすことで導電率を向上させることができる。
【0023】
ゼーベック係数と導電率との両立の観点で、特に好ましくは単層カーボンナノチューブである。
【0024】
カーボンナノチューブ(A)としては、昭和電工社製のVGCF等の気相法炭素繊維、名城ナノカーボン社製のEC1.5,EC1.5-P、OCSiAl社製のTUBALL、ゼオンナノテクノロジー社製のZEONANO等の単層カーボンナノチューブ、CNano社製のFloTube9000、FloTube7000、FloTube2000、Nanocyl社製のNC7000、Knano社製の100T、200Pが挙げられる。これらは特に限定されず、単独、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0025】
<内包カーボンナノチューブの製造方法>
以下に内包カーボンナノチューブの製造方法の一例を示す。まず、 カーボンナノチューブ(A)を大気下、400℃から600℃で焼成し、カーボンナノチューブ末端を開口させる。得られたカーボンナノチューブと有機半導体を有機溶媒に溶解または分散させ、これを窒素下で5時間還流し、ろ過する。得られた粉末を溶解または分散させた有機溶媒で洗浄し、乾燥することで内包カーボンナノチューブを得る。ただし、有機半導体が内包される方法であれば、製造方法は問わない。
【0026】
上記方法で用いられる有機溶媒としては、有機半導体が溶解または分散するものであればよく、還流する温度が有機半導体の分解温度を超えなければよい。有機半導体の分解温度は、示差熱-熱重量同時分析(TG-DTA)により測定することができる。
【0027】
有機半導体を内包しているかは透過電子顕微鏡(TEM)により確認することができる。有機半導体の内包率は、式(4)に示すように、配合した有機半導体の重量Xから、内包カーボンナノチューブ合成後の洗浄した有機溶媒中に残った有機半導体の重量Yを差し引いた量のカーボンナノチューブZに対する割合とした。
式(4) 内包率(%)=(X-Y)/Z×100
【0028】
<有機半導体(B)>
有機半導体(B)は、公知の有機半導体から選択することができるが、下記式(3)を満たすものであることが好ましい。
式(3)
0eV≦|(有機半導体(B)のHOMO)-(カーボンナノチューブ(A)のHOMO)|≦1.64eV
[ただし、HOMOは最高被占軌道のエネルギー準位を表す。]
【0029】
熱電変換のメカニズムは以下のように考えられる。
熱励起をした有機半導体(B)内に、キャリア(電子または正孔)が生じ、そのキャリアがカーボンナノチューブ(A)へと移動し、カーボンナノチューブ(A)内での電位差が生じ電流が流れる。よって、カーボンナノチューブ(A)と有機半導体(B)とが数式(1)を満たすことで、有機半導体(B)とカーボンナノチューブ(A)とのHOMOの値が近くなり、有機半導体(B)からカーボンナノチューブ(A)へと効率的にキャリア移動が起こる。これにより、カーボンナノチューブ(A)内での電位差が大きくなり、ゼーベック係数が向上する。
また、カーボンナノチューブ(A)のHOMOが、有機半導体(B)のHOMOよりもエネルギー準位が高い場合、より効率的に有機半導体(B)からカーボンナノチューブ(A)へのキャリア移動が起こるため、カーボンナノチューブ(A)のHOMOが、有機半導体(B)のHOMOよりもエネルギー準位が高いことが好ましい。
【0030】
また、キャリア移動の効率は、カーボンナノチューブ(A)と有機半導体(B)との間の分子間距離が関係し、より分子間距離が近い即ち両者の親和性が優れている方が好ましい。カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と略記することがある)に対しては、π平面との相互作用が強い、芳香環、複素環又は、酸性官能基が含まれている化合物が好ましい。
【0031】
前述したように、有機半導体(B)は熱励起することでキャリアを発生させる役割を担う。よって、熱励起のしやすい材料、つまり、バンドギャップ(HOMO-LUMO間のエネルギー差)が小さいものが好ましい。有機半導体(B)のバンドギャップは、2.5eV以下が好ましく、より好ましくは1.5eV以下であり、特に好ましくは1.0eV以下である。
【0032】
また、有機半導体(B)は、熱電変換材料中でゼーベック係数の向上に寄与する。有機半導体(B)の内包率を上げることでゼーベック係数を向上させることができ、有機半導体(B)の内包率は、前記カーボンナノチューブ(A)の全量に対して5質量%以上400質量%以下が好ましい。また、分散性が向上することから、より好ましくは5質量%以上200質量%以下である。
【0033】
また、カーボンナノチューブ(A)に均一に内包させるため、有機半導体(B)の分子量または質量平均分子量(Mw)は、小さいほうが好ましく、好ましくは2,000以下であり、より好ましくは1,000以下である。
【0034】
上記の条件を満たす、有機半導体(B)として好ましくは、フタロシアニン骨格、ペリレン骨格、ピロロピロール骨格、チアゾロチアゾール骨格、オキサゾロチアゾール骨格、オキサゾロオキサゾール骨格、ベンゾビスチアゾール骨格、ベンゾビスオキサゾール骨格、チアゾロベンゾオキサゾール骨格、フェノチアジン骨格、チオキサントン骨格又はベンゾフェノン骨格のいずれかを有する化合物であることが好ましい。更に、内包する骨格によってカーボンナノチューブとの相互作用が高くなり、より安定に性能を発現できることから、下記一般式(1)~(4)のいずれかで表される化合物、または3,7-ビス(ジアルキルアミノ)フェノチアジニウムハライド、3,7-ビス(ジアルキルアミノ)-10-アリールオイルフェノチアジン、10-アルキルフェノチアジン、アルキルチオキサントン、4,4-ビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノンがより好ましく、メチレンブルー、ベンゾイルロイコメチレンブルー、10-へキシルフェノチアジン、2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン、ビスジエチルアミノベンゾフェノンであることが特に好ましい。
【0035】
一般式(1)
【化1】
【0036】
[一般式(1)中、R1~R12 は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換の複素環基、又は、置換もしくは未置換のアミノ基であり、R1~R12は、隣り合う2つの基同士で結合して環を形成していても良い。]
【0037】
一般式(2)
【化2】
【0038】
[一般式(2)中、X1~X4は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換の複素環基を表し、Y1及びY2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、又はジシアノメチレン基を表す。]
【0039】
一般式(3)
【化3】
【0040】
[一般式(3)中、Z1及びZ2は、それぞれ独立に、酸素原子もしくは硫黄原子を表し、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換の複素環基、又は、置換もしくは未置換のアミノ基を表す。]
【0041】
一般式(4)
【化4】
【0042】
[一般式(4)中、Z3及びZ4は、それぞれ独立に、酸素原子もしくは硫黄原子を表す。R15~R18は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換の複素環基、又は、置換もしくは未置換のアミノ基を表す。]
【0043】
ここで、一般式(1)~(4)中の置換基R1~R18について説明する。
【0044】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等が挙げられる。
【0045】
置換もしくは未置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ステアリル基といった炭素数1~30の未置換のアルキル基;2-フェニルイソプロピル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、ベンジル基、α-フェノキシベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基、α,α-メチルフェニルベンジル基、α,α-ビス(トリフルオロメチル)ベンジル基、トリフェニルメチル基、α-ベンジルオキシベンジル基等の炭素数1~30の置換アルキル基;又は、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の未置換のシクロアルキル基が挙げられる。
【0046】
置換もしくは未置換のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert-ブトキシ基、オクチルオキシ基、tert-オクチルオキシ基といった炭素数1~20の未置換のアルコキシ基;又は、3,3,3-トリフルオロエトキシ基、ベンジルオキシ基といった炭素数1~20の置換アルコキシ基が挙げられる。
【0047】
置換もしくは未置換のアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、1-ナフチルオキシ基、2-ナフチルオキシ基、9-アンスリルオキシ基といった炭素数6~20の未置換のアリールオキシ基;又は、4-tert-ブチルフェノキシ基、4-ニトロフェノキシ基、3-フルオロフェノキシ基、ペンタフルオロフェノキシ基、3-トリフルオロメチルフェノキシ基等の炭素数6~20の置換アリールオキシ基が挙げられる。
【0048】
置換もしくは未置換のアルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、tert-ブチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基といった炭素数1~20の未置換のアルキルチオ基;又は、1,1,1-テトラフルオロエチルチオ基、べンジルチオ基、トリフルオロメチルチオ基といった炭素数1~20の置換アルキルチオ基等が挙げられる。
【0049】
置換もしくは未置換のアリールチオ基としては、例えば、フェニルチオ基、といった炭素数6~20の未置換のアリールチオ基、又は、2-メチルフェニルチオ基、4-tert-ブチルフェニルチオ基、3-フルオロフェニルチオ基、ペンタフルオロフェニルチオ基、3-トリフルオロメチルフェニルチオ基等の炭素数6~20の置換アリールチオ基が挙げられる。
【0050】
置換もしくは未置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、2,4-キシリル基、p-クメニル基、メシチル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アンスリル基、9-フェナントリル基、1-アセナフチル基、2-アズレニル基、1-ピレニル基、2-トリフェニレル基等の炭素数6~30の未置換のアリール基;又は、p-シアノフェニル基、p-ジフェニルアミノフェニル基、p-スチリルフェニル基、4-[(2-トリル)エテニル]フェニル基、4-[(2,2-ジトリル)エテニル]フェニル基等の炭素数6~30の置換アリール基が挙げられる。
【0051】
置換もしくは未置換の複素環基としては、例えば、2-フリル基、3-フリル基、2-チエニル基、3-チエニル基、1-ピローリル基、2-ピローリル基、3-ピローリル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基、2-ピラジル基、2-オキサゾリル基、3-イソオキサゾリル基、2-チアゾリル基、3-イソチアゾリル基、2-イミダゾリル基、3-ピラゾリル基、2-キノリル基、3-キノリル基、4-キノリル基、5-キノリル基、6-キノリル基、7-キノリル基、8-キノリル基、1-イソキノリル基、2-キノキサリニル基、2-ベンゾフリル基、2-ベンゾチエニル基、N-インドリル基、N-カルバゾリル基、N-アクリジニル基といった炭素数3~20の未置換の芳香族複素環基;又は、2-(5-フェニル)フリル基、2-(5-フェニル)チエニル基、2-(3-シアノ)ピリジル基といった炭素数3~20の置換芳香族複素環基が挙げられる。
【0052】
置換もしくは未置換のアミノ基としては、例えば、未置換のアミノ基(NH2);又は、N-メチルアミノ基、N-エチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基、N,N-ジイソプロピルアミノ基、N,N-ジブチルアミノ基、N-ベンジルアミノ基、N,N-ジベンジルアミノ基、N-フェニルアミノ基、N-フェニル-N-メチルアミノ基、N,N-ジフェニルアミノ基、N,N-ビス(m-トリル)アミノ基、N,N-ビス(p-トリル)アミノ基、N,N-ビス(p-ビフェニリル)アミノ基、ビス[4-(4-メチル)ビフェニリル]アミノ基、N-p-ビフェニリル-N-フェニルアミノ基、N-α-ナフチル-N-フェニルアミノ基、N-β-ナフチル-N-フェニルアミノ基、N-フェナントリル-N-フェニルアミノ基、N,N-ビス(m-フルオロフェニル)アミノ基、N,N-ビス(3-(9-フェニル)カルバゾール)アミノ基、N,N-ビス(p-シアノフェニル)アミノ基、ビス[4-(α,α’-ジメチルベンジル)フェニル]アミノ基等の炭素数1~30の置換アミノ基が挙げられる。
【0053】
材料の性能、実用性の観点で、有機半導体(B)は、前述のとおりバンドギャップが小さく、かつ後述する溶剤等への親和性に優れているものが好ましい。上記観点から、一般式(1)中の置換基R1~R12は、水素原子、シアノ基、ニトロ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換の芳香族複素環基、置換もしくは未置換のアミノ基が好ましく、より好ましくは、水素原子、シアノ基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換の芳香族複素環基、又は置換もしくは未置換のアミノ基であり、特に好ましくは、水素原子、又は置換アミノ基である。
【0054】
中でも、R11が置換もしくは未置換のアミノ基であることが好ましく、より好ましくは、アリール基、又は複素環基、特にカルバゾリル基等の芳香族複素環基等で置換されたアミノ基である。
【0055】
次に、一般式(2)中の置換基X1~X4、Y1及びY2について説明する。
【0056】
置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換の複素環基は、前記一般式(1)で説明したものと同義である。
【0057】
置換基X1、X3は、各々独立に、バンドギャップの低減、カーボンナノチューブ(A)への親和性の観点で、π共役拡張が期待される、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換の複素環基が好ましい。
【0058】
置換基X2及びX4は、各々独立に、溶剤などへの親和性の観点から、水素原子、又は置換もしくは未置換のアルキル基が好ましい。
【0059】
1及びY2は、酸素原子、又は硫黄原子が好ましく、特に好ましくは酸素原子である。
【0060】
一般式(1)~(4)で表される化合物の具体例を下記表1~表38に示すが、これらに限定されるものではない。ただし、表1~表38中、Phはフェニル基を、Tolはp-トリル基を、Meはメチル基を、Etはエチル基を、n-C49はブチル基を、t-Bu、tert-Bu、およびButはtert-ブチル基を、n-C613はヘキシル基を、それぞれ表す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】
【表7】
【0068】
【表8】
【0069】
【表9】
【0070】
【表10】
【0071】
【表11】
【0072】
【表12】
【0073】
【表13】
【0074】
【表14】
【0075】
【表15】
【0076】
【表16】
【0077】
【表17】
【0078】
【表18】
【0079】
【表19】
【0080】
【表20】
【0081】
【表21】
【0082】
【表22】
【0083】
【表23】
【0084】
【表24】
【0085】
【表25】
【0086】
【表26】
【0087】
【表27】
【0088】
【表28】
【0089】
【表29】
【0090】
【表30】
【0091】
【表31】
【0092】
【表32】
【0093】
【表33】
【0094】
【表34】
【0095】
【表35】
【0096】
【表36】
【0097】
【表37】
【0098】
【表38】
【0099】
<その他成分>
本発明の熱電変換材料は、その特性を向上させる観点から、必要に応じて、その他成分を含んでよい。
【0100】
(溶剤)
溶剤は、カーボンナノチューブ(A)と有機半導体(B)の混合媒として使用され、インキ化による塗工性向上が可能となる。使用できる溶剤としては、カーボンナノチューブ(A)と有機半導体(B)とを溶解又は良分散できれば特に限定されず、有機溶剤や水を挙げることができ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリフルオロエタノール及びチオジグリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類、m-クレゾール等のフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1、3-ブチレングリコール、イソボルニルシクロヘキサノール、N-メチルピロリドン等から、必要に応じて適宜選択することができる。カーボンナノチューブ(A)と有機半導体(B)を分散する溶剤としては、N-メチルピロリドン(NMP)が特に好ましい。
【0101】
(助剤)
使用可能な助剤は、特に限定されず、例えば、ラクタム類、糖類、アミノアルコール類、カルボン酸類、酸無水物類、及びイオン性液体が挙げられる。具体例は以下のとおりである。
ラクタム類:ピロリドン、カプロラクタム、N-メチルカプロラクタム、及びN-オクチルピロリドン等。
糖類:ショ糖、グルコース、フルクトース、ラクトース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール等。
アミノアルコール類:ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミン等。 カルボン酸類:2-フランカルボン酸、3-フランカルボン酸、ジクロロ酢酸、及びトリフルオロ酢酸等。
酸無水物類:無水酢酸、無水プロピオン酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、無水安息香酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸(別名:シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物)、無水トリメリット酸、ヘキサヒドロ無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ハイミック酸、ビフェニルテトラカルボン酸無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、及び9,9-フルオレニリデンビス無水フタル酸等。スチレン-無水マレイン酸コポリマー、エチレン-無水マレイン酸コポリマー、イソブチレン-無水マレイン酸コポリマー、アルキルビニルエーテル-無水マレイン酸コポリマー等の、無水マレイン酸と他のビニルモノマーとを共重合したコポリマー等。
【0102】
導電率及び熱電特性の観点から、助剤として、ラクタム類及びアルコール類の少なくとも一方を使用することが好ましい。助剤の含有量は、熱電変換材料の全質量を基準として、0.1~30質量%の範囲が好ましく、1~10質量%の範囲がより好ましく、1~5質量%の範囲がさらに好ましい。助剤の含有量を0.1質量%以上にすることで、導電率及び熱電特性の向上効果を容易に得ることができる。また、助剤の含有量を50質量%以下にした場合、膜物性の低下を抑制することができる。
【0103】
(樹脂)
本発明の熱電変換材料は、成膜性や膜強度の調整等を目的として、導電率及び熱電特性に影響しない範囲で、樹脂を含んでもよい。樹脂は、熱電変換材料の各成分に相溶又は混合分散するものであればよい。熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のいずれを用いても良い。使用可能な樹脂の具体例として、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、アラミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、アクリルアミド樹脂、及びこれらの共重合樹脂等が挙げられるが、限定されない。
【0104】
(分散剤)
分散剤は、カーボンナノチューブを均一に分散させ安定な分散体を調整するために用いるものであり、塗工性、導電率及び熱電特性のさらなる向上が可能となる。分散剤の種類は特に制限されず、熱電変換材料の分散に用いられる従来公知のものを使用することができる。分散剤は、単独又は2種以上を併用して使用してもよい。
【0105】
分散剤としては、酸性分散剤、塩基性分散剤、両性分散剤、非イオン型分散剤等が挙げられる。また、酸性分散剤の酸性官能基としては、カルボン酸基、スルホン酸基及びリン酸基等が挙げられ、塩基性分散剤の極性官能基としては、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基及び4級アンモニウム塩基等が挙げられ、非イオン型分散剤の非イオン性官能基としては、水酸基、アミド基、ケトン基、エポキシ基、及びエステル基等が挙げられる。
【0106】
塩基性分散剤は、市販品として例えば、日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE-9000、11200、13240、13650、13940、16000、17000、18000、20000、22000、24000SC、24000GR、26000、28000、32000、32500、32550、32600、33000、34750、35100、35200、37500、38500、39000、53095、56000、71000、76500、X300等、ビックケミー・ジャパン社製のDISPERBYK-108、109、112、116、130、161、162、163、164、166、167、168、182、183、184、185、2000、2008、2009、2022、2050、2150、2155、2163、2164、9077、101、106、140、142、145、180、2001、2020、2025、2070、9076等、味の素ファインテクノ社製のアジスパーPB821、PB822、PB824、PB881等、BASF社製のEFKA-4015、4020、4046、4047、4050、4055、4080、4300、4330、4400、4401、4402等が挙げられる。
【0107】
酸性分散剤は、市販品としては例えば、日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE-3000、5000、21000、36000、36600、41000、41090、43000、44000、46000、47000、55000等、ビックケミー・ジャパン社製のDISPERBYK-102、110、111、170、171、174、P104、P104S、P105、220S等、味の素ファインテクノ社製のアジスパーPA111等が挙げられる。
【0108】
非イオン型分散剤は、市販品としては例えば、日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE-27000、54000等が挙げられる。
【0109】
分散剤は、低分子又は高分子のいずれでもよく、好ましくは分子量が100以上60,000以下であり、特に好ましくは200以上40,000以下である。
【0110】
分散剤の含有量は、分散性の観点から、好ましくは熱電変換材料の全量に対して5~200質量%であることが好ましく、10~150質量%であることがより好ましく、20~80質量%であることがさらに好ましい。
【0111】
(無機熱電材料から成る微粒子)
本発明の熱電変換材料は、熱電変換性能を高めるために、必要に応じて、無機熱電材料から成る微粒子を含んでもよい。 無機熱電材料の一例として、Bi-(Te、Se)系、Si-Ge系、Mg-Si系、Pb-Te系、GeTe-AgSbTe系、(Co、Ir、Ru)-Sb系、(Ca、Sr、Bi)Co25系等を挙げることができる。より具体的には、Bi2Te3、PbTe、AgSbTe2、GeTe、Sb2Te3、NaCo24、CaCoO3、SrTiO3、ZnO、SiGe、Mg2Si、FeSi2、Ba8Si46、MnSi1.73、ZnSb、Zn4Sb3、GeFe3CoSb12、及びLaFe3CoSb12からなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。このとき、上記無機熱電材料に不純物を加えて極性(p型、n型)や導電率を制御して利用してもよい。無機熱電材料を使用する場合、その使用量は、成膜性や膜強度に影響しない範囲で調整する。
【0112】
<熱電変換素子>
本発明の熱電変換素子は、上記熱電変換材料を用いて構成されることを特徴とする。一実施形態において、熱電変換素子は、上記熱電変換材料を用いて形成された熱電変換膜と、電極とを有し、上記熱電変換膜及び上記電極は互いに電気的に接続されている。熱電変換膜は、導電率及び熱電特性に加えて、耐熱性及び可撓性の点でも優れる。そのため、本実施形態によれば、高品質な熱電変換素子を容易に実現することができる。
【0113】
熱電変換膜は、基材上に熱電変換材料を塗布して得られる膜であってよい。熱電変換材料は優れた成形性を有するため、塗布法によって良好な膜を得ることが容易である。熱電変換膜の形成には、主に湿式製膜法が用いられる。具体的には、スピンコート法、スプレー法、ローラーコート法、グラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法、ロールコート法、カーテンコート法、バーコート法、インクジェット法、ディスペンサー法、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷等の各種手段を用いた方法が挙げられる。塗布する厚み、及び材料の粘度等に応じて、上記方法から適宜選択することができる。
【0114】
熱電変換膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、後述するように、熱電変換膜の厚さ方向又は面方向に温度差を生じ、かつ伝達できるように、一定以上の厚みを有するように形成されることが好ましい。一実施形態において、熱電特性の点から、熱電変換膜の膜厚は、0.1~200μmの範囲が好ましく、1~100μmの範囲が好ましく、1~50μmの範囲がさらに好ましい。
【0115】
また、熱電変換材料を塗布する基材として、ポリエチレン、ポリエチレンテレフテレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、ポリイミド、ボリカーボネート、及びセルローストリアセテート等の材料からなるプラスチックフィルム、又はガラス等を用いることができる。
【0116】
基材と熱電変換膜との密着性を向上させる目的で、基材表面に様々な処理を行うことができる。具体的には、熱電変換材料の塗布に先立ち、UVオゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理、又は易接着処理を行ってもよい。
【0117】
本発明の実施形態である熱電変換素子は、上記熱電変換材料を用いて構成されることを除き、当技術分野で周知の技術を適用して構成することができる。代表的に、熱電変換素子のより具体的な構成、及びその製造方法について説明する。
【0118】
一実施形態において、熱電変換素子は、熱電変換材料を用いて得た熱電変換膜と、この熱電変換膜と電極的に接続する一対の電極とを有する。ここで、「電気的に接続する」とは、互いに接合しているか、又はワイヤー等の他の構成部材を介して通電できる状態であることを意味する。
【0119】
電極の材料は、金属、合金、及び半導体から選択することができる。一実施形態において、導電率が高いこと、熱電変換膜を構成する本発明による熱電変換材料との接触抵抗が低いことから、金属及び合金が好ましい。具体例として、電極は、金、銀、銅、及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。電極は、銀を含むことがさらに好ましい。
【0120】
電極は、真空蒸着法、電極材料箔や電極材料膜を有するフィルムの熱圧着、電極材料の微粒子を分散したペーストの塗布、等の方法によって形成することができる。プロセスが簡便な観点で、電極材料箔や電極材料膜を有するフィルムの熱圧着、電極材料を分散したペーストの塗布による方法が好ましい。
【0121】
熱電変換素子の構造の具体例は、熱電変換膜と一対の電極との位置関係から、(1)本発明による熱電変換膜の両端に電極が形成されている構造、(2)本発明の熱電変換膜が2つの電極で挟持されている構造に大別される。
例えば、上記(1)の構造を有する熱電変換素子は、基材上に熱電変換膜を形成した後に、その両端にそれぞれ銀ペーストを塗布して第1及び第2の電極を形成することによって得ることができる。このように熱電変換膜の両端に電極が形成された熱電変換素子は、2つの電極間の距離を広くすることが容易である。そのため、2つの電極間で大きな温度差を発生させて、効率良く熱電変換を行うことが容易である。
【0122】
上記(2)の構造を有する熱電変換素子は、例えば、基材上に銀ペーストを塗布して第1の電極を形成し、その上に本発明の熱電変換膜を形成し、さらにその上に銀ペーストを塗工して第2の電極を形成することによって得ることができる。このように2つの電極で本発明の熱電変換膜を挟持する熱電変換素子では、二つの電極間の距離を広くすることは難しい。そのため、2つの電極間に大きな温度差を発生させることは難しいが、熱電変換膜の膜厚を大きくすることによって、温度差を大きくすることが可能である。また、このような構造を有する熱電変換素子は、基材に対して垂直な方向の温度差を利用できることから、発熱体に貼り付ける形態での利用が可能である。そのため、熱源の広い面積の活用が容易となる点で好ましい。
【0123】
熱電変換素子は、直列に接続することで高い電圧を発生させることが可能であり、並列に接続することで大きな電流を発生させることが可能である。また、熱電変換素子は、2つ以上の熱電変換素子を接続したものであってもよい。本発明によれば、熱電変換素子が優れた可撓性を有するため、平面ではない形状を有する熱源に対しても追随して良好に設置することが可能である。
【0124】
複数の熱電変換素子を接続する場合、1つの基材に集積した状態で接続して利用することもできる。このような実施形態において、本発明による熱電変換素子と、n型としての極性を示す熱電材料から成る熱電変換素子との組合せが好ましく、これらを直列に接続することがより好ましい。本実施形態によれば、熱電変換素子を緻密に集積することが容易となる。
【実施例
【0125】
以下、実験例により、本発明をより具体的に説明する。なお、例中、「部」とあるのは「質量部」を、「%」とあるのは「質量%」をそれぞれ意味するものとする。また、NMPは、N-メチルピロリドンを示す。尚、以下の合成例における有機半導体に付された記号は、上記表1~38に記載された記号と同じであることを意味する。
【0126】
<質量平均分子量(Mw)の測定方法>
Mwの測定は東ソー株式会社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「HPC-8020」を用いた。GPCは溶剤(THF;テトラヒドロフラン)に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーである。本発明における測定は、カラムに「LF-604」(昭和電工株式会社製:迅速分析用GPCカラム:6mmID×150mmサイズ)を直列に2本接続して用い、流量0.6ml/分、カラム温度40℃の条件で行い、質量平均分子量(Mw)の決定はポリスチレン換算で行った。
【0127】
<HOMO値、フェルミ準位の測定方法>
カーボンナノチューブ(A)及び有機半導体(B)のHOMO準位(又は、カーボンナノチューブが金属である場合はフェルミ準位)の測定は、単一の各成分をITOガラス基板上に張った導電テープの上に固着させ、測定サンプルとした後、光電子分光法(理研計器社製:AC-2)により測定した。測定値及び測定値から算出した|(有機半導体(B)のHOMO)-(カーボンナノチューブ(A)のHOMO)|の値は、表40に記載した。
【0128】
<有機半導体(B)の合成>
(合成例1:有機半導体(B4))
ニトロベンゼン20ml中に、3-アミノペリレン5.0g、3-ブロモ-9-フェニルカルバゾール15.2g、水酸化ナトリウム1.5g、及び酸化銅1.0gを加え、窒素雰囲気下、200℃にて50時間加熱撹拌した。放冷後、上記混合物を500mlの水で希釈し、トルエンで抽出した。抽出液を濃縮した後、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、有機半導体(B4)7.3gを得た。
【0129】
(合成例2:有機半導体(B30))
ニトロベンゼン20ml中に、3-アミノペリレン5.0g、4-ブロモビフェニル12.3g、水酸化ナトリウム1.5g、及び酸化銅1.0gを加え、窒素雰囲気下、200℃にて50時間加熱撹拌した。放冷後、上記混合物を500mlの水で希釈し、トルエンで抽出した。抽出液を濃縮した後、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、有機半導体(B30)5.6gを得た。
【0130】
(合成例3:有機半導体(B128))
コハク酸ジメチル18.5g、2-シアノチオフェン30g、水素化ナトリウム13.5gをアミルアルコール300gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄することにより、赤褐色固体17.67g得た。その後、得られた固体10g、1-ヨード-2-メチルプロパン26.1g、tert-ブトキシナトリウム10.3gをジメチルアセトアミド300gに溶解し、8時間還流させた。放冷後、上記混合物をメタノール1000mlに入れ、固体を析出させ、ろ集後、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、有機半導体(B128)9.58gを得た。
【0131】
(合成例4:有機半導体(B166))
コハク酸ジメチル18.5g、2-シアノフラン28.5g、水素化ナトリウム13.5gをアミルアルコール300gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄して、有機半導体(B166)15.67g得た。
【0132】
(合成例5:有機半導体(B187))
コハク酸ジイソプロピル20.2g、ジ(p-トリル)アミノベンゾニトリル59.6g、tert-ブトキシカリウム22.4gをtert-ペンチルアルコール150gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄することにより、赤色固体36.8g得た。この赤色固体34gをニトロベンゼン340gに懸濁させた後、p-トルエンスルホン酸エチル75g及び炭酸カリウム41.4gを添加した。200℃まで加熱昇温し、この温度において窒素雰囲気下に3時間攪拌を行った。その後室温まで冷却し、析出物をろ過した後メタノールで洗浄した。次に1700gの水中に懸濁させ、80~90℃で30分間攪拌した後、ろ過、水洗、乾燥して有機半導体(B187)27.6gを得た。
【0133】
(合成例6:有機半導体(B192))
コハク酸ジメチル18.4g、4-トリフルオロメチルベンゾニトリル53.1g、ナトリウムブトキシド25.3gをアミルアルコール200gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄して、有機半導体(B192)を21.2g得た。
【0134】
(合成例7:有機半導体(B0))
2-(2-アミノフェニル)ベンズイミダゾール(Aldrich社製試薬)21.00gを脱水ピリジン190gに室温にて溶解し、この溶液に2,4,6-トリメチルベンゾイルクロライド19.24gを数回に分けて加え、室温を保持しながら2 時間撹拌した。得られた溶液を氷水1000g に注ぎ、塩酸を添加してpHを3 に調整してから析出物をろ別し、水洗した後、100℃ で減圧乾燥した。得られた固体にアセトニトリル400mlを加え、沸点にて1時間リスラリーした。得られたスラリー中の固体をろ別し、冷アセトニトリルで洗浄した後、100℃ で減圧乾燥することにより、有機半導体(B0)を21.59g 得た。
【0135】
有機半導体(B0)
【化5】
【0136】
(合成例10:有機半導体(B248))
コハク酸ジメチル10.0g、1-ナフトニトリル28.1g、ナトリウムブトキシド15.8gをアミルアルコール200gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄して、有機半導体(B248)を14.5g得た。
【0137】
(合成例11:有機半導体(B242))
コハク酸ジメチル10.0g、2-シアノピリジン17.1g、ナトリウムブトキシド15.8gをアミルアルコール200gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄して、有機半導体(B242)を21.2g得た。
【0138】
(合成例12:有機半導体(B254))
コハク酸ジメチル20.0g、4-(ジメチルアミノ)ベンゾニトリル48.0g、水素化ナトリウム31.6gをアミルアルコール400gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄することにより、紫色固体13.9g得た。その後、得られた固体10g、ヨードエタン17.2g、ナトリウムブトキシド10.3gをジメチルアセトアミド300gに溶解し、8時間還流させた。放冷後、上記混合物をメタノール1000mlに入れ、固体を析出させ、ろ集後、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、有機半導体(B254)9.46gを得た。
【0139】
(合成例13:有機半導体(B250))
コハク酸ジメチル10.0g、4-ブロモベンゾニトリル29.9g、水素化ナトリウム15.8gをアミルアルコール200gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄することにより、赤色固体16.1g得た。その後、得られた固体10g、1-チアントレニルボロン酸29.1g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.65gをキシレン100gに溶解し窒素で置換、6時間還流させた。放冷後、反応液から溶剤を揮発させたのち、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、有機半導体(B250)4.53gを得た。
【0140】
(合成例14:有機半導体(B257))
ルベアン酸10.0g、ベンズアルデヒド24.7g、フェノール100gを混合し、160℃で6時間加熱した。冷却した後、反応液を1000gのメタノールに加え、析出した沈殿物をろ集、メタノールで洗浄することで有機半導体(B257)を17.4g得た。
【0141】
(合成例15:有機半導体(B277))
ルベアン酸10.0g、3-ホルミル-N-エチルカルバゾール52.0g、フェノール100gを混合し、160℃で6時間加熱した。冷却した後、反応液を1000gのメタノールに加え、析出した沈殿物をろ集、メタノールで洗浄することで有機半導体(B277)を22.5g得た。
【0142】
(合成例16:有機半導体(B351))
2,5-ジアミノ-1,4-ベンゼンジチオール二塩酸塩10.0g、4-ブチルベンゾイルクロリド40.1g、テトラヒドロフラン50gとN-メチル-2-ピロリドン50gをフラスコに加え、48時間還流した。放冷後、水酸化ナトリウム水溶液を加え反応系を中和、析出した固体をろ集し、有機半導体(B351)8.2gを得た。
【0143】
(合成例17:有機半導体(B339))
2,5-ジアミノヒドロキノンニ塩酸塩10.0g、チオフェン-2-カルボニルクロリド34.4g、ポリリン酸33.3gとテトラヒドロフラン100gをフラスコに加え、25時間還流した。放冷後、水酸化ナトリウム水溶液を加え反応系を中和、析出した固体をろ集し、有機半導体(B339)8.0gを得た。
【0144】
<側鎖に有機色素を導入したポリマーの合成>
(合成例8:樹脂1)
国際公開第2015/050113号の段落[0074]及び[0075]を参考にして、質量平均分子量(Mw)が約21,000の、下記構造で表される側鎖にペリレン骨格導入したアクリルポリマーである樹脂1を得た。
【0145】
樹脂1
【化6】
【0146】
<樹脂成分の合成>
(合成例9:樹脂2)
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に、テレフタル酸とアジピン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールとから得られるポリエステルポリオール((株)クラレ製「クラレポリオールP-2011」、Mn=2,011)455.5部、ジメチロールブタン酸16.5部、イソホロンジイソシアネート105.2部、トルエン140部を仕込み、窒素雰囲気下90℃3時間反応させ、これにトルエン360部を加えてイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液を得た。次に、イソホロンジアミン19.9部、ジ-n-ブチルアミン0.63部、2-プロパノール294.5部、トルエン335.5部を混合したものに、得られたイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液969.5部を添加し、50℃で3時間続いて70℃2時間反応後、100℃の真空乾燥を行い、質量平均分子量(Mw)=61,000の、ウレタンウレア樹脂である樹脂1を得た。
【0147】
(合成例10:樹脂3)
撹拌機、水分定量受器を付けた還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた4口フラスコに、炭素数36の多塩基酸化合物としてプリポール1009(クローダジャパン株式会社製、酸価194mgKOH/g)を70.78部、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物として5-ヒドロキシイソフタル酸(スガイ化学社製、以下「5-HIPA」ともいう)を5.24部、炭素数36のポリアミン化合物としてプリアミン1074(クローダジャパン株式会社製、酸価210KOHmg/g)を82.84部、トルエンを4.74部仕込み、撹拌しながら、温度を220℃まで昇温し、水を留去しながら脱水反応を続けた。1時間ごとにサンプリングを行い質量平均分子量が50000になったことを確認し、冷却後、Mw50432を有するフェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂である樹脂2を得た。
【0148】
<内包カーボンナノチューブの合成>
<熱電変換材料の製造>
[実施例1]
(内包CNT1の製造)
Knano社製多層カーボンナノチューブ「100P」を大気下400℃60分焼成し、得られた粉末を10部と有機半導体(B4)100部をキシレン100部に分散させ、5時間還流した。これをろ過し、キシレンで洗浄した後、ろ液と残渣に分けた。残渣を乾燥することで本発明の熱電変換材料である内包CNT1を得た。有機半導体がカーボンナノチューブに内包されているか否かの確認はTEM像により行った。ろ液を乾燥して得られた有機半導体(B4)の量は90部であったため、カーボンナノチューブに対する内包率は100%である。
【0149】
[実施例2~49]
表39に示す材料の種類と配合量に変更した以外は、実施例1と同様にして、内包CNT2~49を合成した。
【0150】
【表39】
【0151】
表39中に記載した材料とその略語は以下のとおりである。
CNT1:Knano社製 多層カーボンナノチューブ「100P」
CNT2:OCSiAl社製単層カーボンナノチューブ「TUBALL」
CNT3:名城ナノカーボン社製単層カーボンナノチューブ「EC1.5-P」
【0152】
<熱電変換材料の製造>
[実施例50]
(分散液1)
内包カーボンナノチューブ(内包CNT1)0.4部、NMP79.2部をそれぞれ秤量して混合した。更にジルコニアビーズを加え、スキャンデックスで振とう後、ろ過してジルコニアビーズを取り除き、熱電変換材料の分散液1を得た。
【0153】
[実施例51~100]
(分散液2~51)
表40に示す材料の種類と配合量に変更した以外は、分散液1と同様にして、熱電変換材料の分散液2~51を得た。尚、表40中、数値は特に断りのない限り「部」を表す。
【0154】
[比較例1]
(分散液52)
CNT1を0.4部、樹脂1を0.4部、NMPを79.2部、それぞれ秤量して混合した。更にジルコニアビーズを加え、スキャンデックスで振とう後、ろ過してジルコニアビーズを取り除き、熱電変換材料の分散液1を得た。
【0155】
<熱電変換材料の評価>
得られた分散液1~52を、シート状基材である厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にアプリケータを用いて塗布した後、120℃で30分間加熱乾燥して、膜厚5μmの熱電変換膜を有する積層体を得た。得られた熱電変換膜(以下、塗膜ともいう)を有する積層体について、以下のとおり導電率、ゼーベック係数、及びパワーファクター(PF)を評価した。結果を表40に示す。
【0156】
(導電率)
得られた積層体を2.5cm×5cmに切り取り、JIS-K7194に準じて、ロレスタGX MCP-T700(三菱化学アナリテック社製)を用いて4端子法で導電率を測定した。ガラス基材の積層体はガラスカッターを用いてカットした。
【0157】
(ゼーベック係数)
得られた積層体を3mm×10mmに切り取り、アドバンス理工株式会社製のZEM-3LWを用いて、80℃におけるゼーベック係数(μW/K)を測定した。得られたゼーベック係数は比較例1を基準とした時の倍数で評価した。
【0158】
(パワーファクター(PF))
得られた導電率及びゼーベック係数を用いて、80℃におけるPF(=S2・σ)を算出し、比較例1に対する相対値で以下の基準に従って評価した。
◎:PFが70倍以上である(非常に良好)
○:PFが30倍以上、70倍未満である(良好)
△:PFが1倍を超え、30倍未満である(実用可能)
×:PFが1倍以下である(実用不可)
【0159】
【表40】
【0160】
表40が示すように、本発明の熱電変換材料は、導電率とゼーベック係数とを両立し、高いPFを示した。高い導電率を持つ単層カーボンナノチューブを用いた場合に、PFに優れ、特に、単層カーボンナノチューブとΔHOMOが小さい有機半導体(B)とを組み合わせた場合に、より高いPFを示した。
一方、有機半導体(B)を内包していない比較例1は、カーボンナノチューブの導電パスを阻害するために導電率の低下を招き、低いPFを示した。
【0161】
<熱電変換素子の製造>
[実施例101]
(熱電変換素子1)
50μmのPETフィルム上に、実施例50で調製した熱電変換材料の分散液1を塗布し、5mm×30mmの形状を有する熱電変換膜を、それぞれ10mm間隔に5つ作製した(図1の符号2を参照)。次いで、各熱電変換膜がそれぞれ直列に接続されるように、銀ペーストを用いて、5mm×33mmの形状を有する銀回路を4つ作製し(図1の符号3を参照)、熱電変換素子1を得た。上記銀ペーストとしては、トーヨーケム株式会社製のREXALPHA RA FS 074を使用した。
【0162】
[実施例102~151、比較例2]
(熱電変換素子2~52)
熱電変換素子1で使用した熱電変換材料の分散液を表41に示す分散液に変更した以外は、熱電変換素子1と同様にして、熱電変換素子2~52を得た。
【0163】
<熱電変換素子の評価>
得られた熱電変換素子について、以下のようにして起電力を評価した。結果を表41に示す。
【0164】
(起電力の測定)
各熱電変換素子について、熱電変換膜及び銀回路が内側になるように(図2に示すA-A’線に沿うように)折り曲げ、その状態のまま、100℃に加熱したホットプレート上に設置した。なお、折り曲げの程度は、図2のB-B’間の距離が10mmになるようにそれぞれ調整した。上記のように折り曲げたサンプルをホットプレート上に設置して10分後の塗膜間の起電力について電圧計を用いて測定した。測定は、室温下(20℃)で実施した。以下の基準に従い、測定値から熱電特性について評価した。
◎:起電力が1mV以上である(良好)
〇:起電力が500μV以上、1mV未満である(実用可能)
×:起電力が500μV未満である(不良)
【0165】
【表41】
【0166】
表41が示すように、本発明の熱電変換素子は、比較例2に比べて優れた熱電特性を有していた。以上のことから、本願発明の実施形態によれば、ゼーベック係数及び導電率に優れ、高いPFを示す、優れた熱電特性を有する熱電変換材料を実現することができ、高効率の熱電変換素子を実現できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明の実施形態である導電性組成物は、導電率及びゼーベック係数を両立し、熱電特性にも優れるため、上記材料を使用して、高性能の熱電変換素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0168】
1:基材(ペットフィルム)
2:熱電変換膜
3:回路
10:熱電変換素子の試験サンプル
20:ホットプレート
図1
図2