(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 7/24 20060101AFI20231212BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20231212BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20231212BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20231212BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20231212BHJP
B60W 10/184 20120101ALI20231212BHJP
【FI】
B60L7/24 D
B60T8/17 C
B60W10/00 120
B60W10/08
B60W10/184
(21)【出願番号】P 2019232830
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】久保田 隼人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和晃
(72)【発明者】
【氏名】高橋 憲一郎
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-127721(JP,A)
【文献】特開2004-352112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
B60T 8/17
B60W 10/00-20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に付与する回生制動力の要求値である要求回生制動力に応じた前記回生制動力を発生させる回生装置と、前記車両に付与する摩擦制動力の要求値である要求摩擦制動力に応じた前記摩擦制動力を発生させる摩擦制動装置と、を備える車両に適用され、
前記摩擦制動装置は、前記車両の車輪又は前記車輪と一体に回転する回転体に摩擦材を押し付けて前記摩擦制動力を発生させるものであり、
前記要求摩擦制動力に対する前記摩擦制動力の割合を効き効率として導出する効き効率導出部と、
前記車両に付与する制動力である総制動力を前記摩擦制動力と共に達成する前記回生制動力である第1要求回生制動力に対する前記要求回生制動力としての第2要求回生制動力の割合を前記効き効率に近づけるべく、前記総制動力の要求値である要求総制動力又は前記第1要求回生制動力と前記効き効率とを基に、前記第2要求回生制動力を設定する設定部と、を備え
、
前記効き効率導出部は、湿度、外気温及び前記摩擦材の温度のうちの少なくとも1つを基に前記効き効率を導出する
車両の制動制御装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記要求総制動力が制動操作に基づいて設定されていることを条件に、前記第2要求回生制動力を設定する
請求項
1に記載の車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回生制動力と摩擦制動力とを協調制御する車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の摩擦制動力を調整する摩擦制動装置と、車両の回生制動力を調整する回生装置とを備える車両に適用される制動制御装置の一例が記載されている。この制動制御装置では、運転者によって制動操作が行われると、その制動操作量に応じた要求制動力が演算され、回生装置の作動に伴う車両の回生制動力が要求制動力未満であるか否かが判定される。そして、回生制動力が要求制動力未満であるときには、要求制動力から回生制動力を減じた差に応じて要求摩擦制動力が導出され、この要求摩擦制動力を基に摩擦制動装置の作動が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回生制動力を車両に付与する場合、要求制動力を基に要求回生制動力が導出される。そして、要求回生制動力に基づいて回生装置が作動される。回生装置の作動に伴う回生制動力の大きさは、外気温や湿度などの車両の走行環境にほとんど左右されない。つまり、車両の回生制動力と要求回生制動力との間に乖離が生じにくい。
【0005】
摩擦制動力を車両に付与する場合、車輪と一体回転する回転体に摩擦材を押し付ける力が、要求摩擦制動力が大きいほど大きくなるように、摩擦制動装置が作動される。車輪と一体回転する回転体に摩擦材を押し付ける力を、押圧力という。
【0006】
ここで、摩擦材の摩擦係数は、摩擦材の温度、及び、摩擦材の摩耗度合いなどによって変わる。そして、押圧力が同じであっても摩擦係数が異なると、車両の摩擦制動力が変わる。つまり、摩擦材の摩擦係数が変わると、摩擦制動の効きが変わり、車両の摩擦制動力と要求摩擦制動力との乖離量が変わりうる。
【0007】
摩擦制動力及び回生制動力のうちの一方の制動力を増大させる状態から他方の制動力を増大させる状態に移行する場合について考える。この場合、制動操作量に応じて導出される要求制動力の増大速度が一定であっても、摩擦制動の効きによっては一方の制動力の増大速度と他方の制動力の増大速度との間にずれが生じることがある。当該ずれが大きいと、車両の減速度が途中で変化するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための車両の制動制御装置は、車両に付与する回生制動力の要求値である要求回生制動力に応じた前記回生制動力を発生させる回生装置と、前記車両に付与する摩擦制動力の要求値である要求摩擦制動力に応じた前記摩擦制動力を発生させる摩擦制動装置と、を備える車両に適用される。この制動制御装置は、前記要求摩擦制動力に対する前記摩擦制動力の割合を効き効率として導出する効き効率導出部と、前記車両に付与する制動力である総制動力を前記摩擦制動力と共に達成する前記回生制動力である第1要求回生制動力に対する前記要求回生制動力としての第2要求回生制動力の割合を前記効き効率に近づけるべく、前記総制動力の要求値である要求総制動力又は前記第1要求回生制動力と前記効き効率とを基に、前記第2要求回生制動力を設定する設定部と、を備える。
【0009】
上記構成によれば、要求摩擦制動力に対する摩擦制動力の割合が小さいほど、効き効率として小さい値が導出される。そして、要求総制動力又は第1要求回生制動力と、効き効率とに基づいて第2要求回生制動力が設定されると、第2要求回生制動力を基に回生装置が制御される。これにより、第2要求回生制動力に応じた回生制動力が車両に付与される。このように回生制動力を、効き効率を考慮した大きさとすることにより、回生制動力及び摩擦制動力の何れか一方の制動力を増大させる状態から他方の制動力を増大させる状態に移行させる場合、一方の制動力の増大速度と他方の制動力の増大速度とのずれの発生を抑制できる。したがって、摩擦制動力及び回生制動力のうちの一方を増大させる状態から他方を増大させる状態に移行した際における車両の減速度の変化を抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】車両の制動制御装置の一実施形態である制御装置を備える車両の一部を示す概略構成図。
【
図2】同制御装置の効き効率導出部によって実行される処理ルーチンを説明するフローチャート。
【
図5】摩擦材推定温度と摩擦材用係数との関係を示すマップ。
【
図6】同制御装置の回生制動制御部が実行する処理ルーチンを説明するフローチャート。
【
図7】(a)~(c)は、制動操作が開始された際のタイミングチャート。
【
図8】(a)~(c)は、制動操作が開始された際の効き効率αを加味した場合のタイミングチャート。
【
図9】(a)~(c)は、すり替え制御時におけるタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、車両の制動制御装置の一実施形態を
図1~
図9に従って説明する。
図1には、制動制御装置の一例である制御装置50を備える車両の一部が図示されている。車両の制動機構20は、ホイールシリンダ21内の液圧であるWC圧Pwcが高いほど、車輪11と一体回転する回転体22に摩擦材23を押し付ける力である押圧力PFが大きくなるように構成されている。このように制動機構20においてWC圧Pwcが高いほど、押圧力PFが大きくなるため、車両の摩擦制動力BPFが大きくなる。なお、回転体22としては、ディスクロータを挙げることができる。この場合の制動機構20は、ディスクブレーキともいう。
【0012】
車両は、駆動装置30と、摩擦制動装置40と、駆動装置30及び摩擦制動装置40を制御する制御装置50とを備えている。
駆動装置30は、モータジェネレータ31を備えている。モータジェネレータ31を電動機として機能させる場合、モータジェネレータ31から出力される駆動力が車輪11に入力される。一方、モータジェネレータ31を発電機として機能させる場合、モータジェネレータ31は、車輪11の回転速度に応じて発電する。これにより、車両に回生制動力BPRを発生させることができる。回生制動力BPRは、モータジェネレータ31の発電量が多いほど大きくなる。すなわち、本実施形態では、モータジェネレータ31が、車両の回生制動力BPRを調整する「回生装置」に相当する。
【0013】
摩擦制動装置40は、ホイールシリンダ21にブレーキ液を供給できるように構成されている。摩擦制動装置40としては、例えば、「特開2019-137203号公報」に開示されている装置を挙げることができる。このような摩擦制動装置40によれば、電気モータなどの電動機の駆動を制御することにより、制動機構20におけるWC圧Pwc、すなわち押圧力PFを調整することができる。つまり、摩擦制動装置40は、WC圧Pwc、すなわち押圧力PFを制御することによって車両の摩擦制動力BPFを調整する。
【0014】
制御装置50には、各種のセンサからの検出信号が入力される。センサとしては、ストロークセンサ101、車輪速度センサ102及び外気温センサ103を挙げることができる。ストロークセンサ101は、ブレーキペダルなどの制動操作部材12の操作量である制動操作量Xを検出し、検出結果に応じた信号を検出信号として出力する。車輪速度センサ102は、車輪11の速度である車輪速度VWを検出し、検出結果に応じた信号を検出信号として出力する。外気温センサ103は、車両の走行環境の温度である外気温TMPaを検出し、検出結果に応じた信号を検出信号として出力する。
【0015】
制御装置50は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
(a)制御装置50は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
(b)制御装置50は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。ASICとは「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAとは「Field Programmable Gate Array」の略記である。
(c)制御装置50は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【0016】
こうした制御装置50は、機能部として、要求制動力導出部51、回生制動制御部52、摩擦制動制御部53、摩擦材温度取得部54及び効き効率導出部55を有している。
車両に付与する制動力を総制動力とした場合、要求制動力導出部51は、制動操作量Xを基に、車両に対する総制動力の要求値である要求制動力BPInを導出する。要求制動力BPInが、総制動力の要求値である「要求総制動力」の一例である。すなわち、要求制動力導出部51は、制動操作量Xが多いほど大きい値を要求制動力BPInとして導出する。
【0017】
回生制動制御部52は、車両制動時においてモータジェネレータ31の発電量を制御する。回生制動制御部52は、要求制動力導出部51によって導出された要求制動力BPInを基に、第1要求回生制動力の一例である要求回生制動力BPRInを導出する。すなわち、回生制動制御部52は、要求制動力BPInと、上限回生制動力BPRLとのうち、小さい方を要求回生制動力BPRInとして導出する。上限回生制動力BPRLは、モータジェネレータ31の発電によって車両に付与できる回生制動力の上限値である。そして、回生制動制御部52は、要求回生制動力BPRInを基に、モータジェネレータ31の発電を制御する。この際の具体的な内容については後述する。
【0018】
摩擦制動制御部53は、摩擦制動装置40を制御することによって、制動機構20のホイールシリンダ21内のWC圧Pwc、すなわち押圧力PFを調整する。すなわち、摩擦制動制御部53は、要求制動力BPInから要求回生制動力BPRInを引いた値を、摩擦制動力の要求値である要求摩擦制動力BPFInとして導出する。そして、摩擦制動制御部53は、要求摩擦制動力BPFInを基に、摩擦制動装置40の作動を制御する。すなわち、摩擦制動制御部53は、要求摩擦制動力BPFInが大きいほどWC圧Pwcが高くなるように、すなわち押圧力PFが大きくなるように摩擦制動装置40を作動させる。なお、所定の要求摩擦制動力BPFInを発生させるときの押圧力PFは、所定の条件が基準値となる基準状態での押圧力PFに対して発生する摩擦制動力BPFの大きさの関係に基づいて設定される。
【0019】
摩擦材温度取得部54は、制動機構20の摩擦材23の温度の推定値を、摩擦材推定温度TMPfとして取得する。例えば、摩擦材温度取得部54は、制動機構20において回転体22に摩擦材23が押し付けられている場合における摩擦材23の温度上昇量を推定する上昇量推定処理と、回転体22から摩擦材23が離間している場合における摩擦材23の温度低下量を推定する低下量推定処理とを実行する。摩擦材温度取得部54は、上昇量推定処理では、例えば、車輪速度VWの減少速度と、WC圧Pwcとを基に、温度上昇量ΔTMPfを推定する。この場合、車輪速度VWの減少速度が高いほど値が大きくなるように温度上昇量ΔTMPfが導出される。また、WC圧Pwcが高いほど大きくなるように温度上昇量ΔTMPfが導出される。そして、回転体22に摩擦材23が押し付けられている場合では、摩擦材温度取得部54は、上昇量推定処理で推定した温度上昇量ΔTMPfを基に、摩擦材推定温度TMPfを導出する。
【0020】
摩擦材温度取得部54は、低下量推定処理では、例えば、摩擦材23が回転体22から離間している状態の継続時間である離間継続時間を基に、温度低下量ΔTMPfaを推定する。この場合、離間継続時間が長いほど大きくなるように温度低下量が導出される。そして、回転体22から摩擦材23が離間している場合では、摩擦材温度取得部54は、低下量推定処理で推定した温度低下量ΔTMPfaを基に、摩擦材推定温度TMPfを導出する。
【0021】
効き効率導出部55は、効き効率αを導出する。すなわち、効き効率導出部55は、要求摩擦制動力BPFInに対する摩擦制動力BPFの割合に応じた値を効き効率αとして導出する。効き効率αの導出処理の具体的な内容については後述する。
【0022】
次に、
図2~
図5を参照し、効き効率導出部55によって実行される効き効率αの導出処理について説明する。
図2に示す処理ルーチンは、運転者による制動操作が開始された場合などのように車両への制動力の付与が要求された場合に実行される。
【0023】
図2に示すように、本処理ルーチンにおいて、はじめのステップS11では、外気温TMPaを基に温度用係数K1が導出される。押圧力PFの大きさに対する摩擦制動力BPFの大きさを摩擦制動の効きとした場合、同じ大きさの押圧力PFを発生させた際に、摩擦制動力BPFが大きいほど、摩擦制動の効きがよいということができる。そして、摩擦制動の効きは、外気温TMPaと相関する。本実施形態で採用される摩擦材23は、例えば外気温TMPaが高いほど摩擦制動の効きが悪化する特性を有している。そこで、摩擦制動の効きのうち、外気温TMPaの影響成分に応じた値が、温度用係数K1となる。温度用係数K1として、「0」よりも大きい値が設定される。
【0024】
図3には、外気温TMPaを基に温度用係数K1を導出するためのマップの一例が記載されている。
図3に示すように、外気温TMPaが基準温度TMPaBと等しい場合、温度用係数K1として「1」が導出される。外気温TMPaが基準温度TMPaBよりも低い場合、温度用係数K1として「1」よりも大きい値が導出される。具体的には、外気温TMPaが基準温度TMPaBよりも低い場合、外気温TMPaが低いほど大きい値が温度用係数K1として導出される。ただし、温度用係数K1は、上限値αmaxを上回ることはない。一方、外気温TMPaが基準温度TMPaBよりも高い場合、温度用係数K1として「1」よりも小さい値が導出される。具体的には、外気温TMPaが基準温度TMPaBよりも高い場合、外気温TMPaが高いほど小さい値が温度用係数K1として導出される。ただし、温度用係数K1は、下限値αminを下回ることはない。
【0025】
図2に戻り、温度用係数K1が導出されると、処理が次のステップS12に移行される。ステップS12において、湿度用係数K2が導出される。摩擦制動の効きは、摩擦材23の周囲の湿度HMと相関する。本実施形態で採用される摩擦材23は、例えば湿度HMが高いほど摩擦制動の効きが悪化する特性を有している。そこで、摩擦制動の効きのうち、湿度HMの影響成分に応じた値が、湿度用係数K2となる。湿度用係数K2として、「0」よりも大きい値が設定される。
【0026】
図4には、湿度HMを基に湿度用係数K2を導出するためのマップの一例が記載されている。
図4に示すように、湿度HMが基準湿度HMBと等しい場合、湿度用係数K2として「1」が導出される。湿度HMが基準湿度HMBよりも低い場合、湿度用係数K2として「1」よりも大きい値が導出される。具体的には、湿度HMが基準湿度HMBよりも低い場合、湿度HMが低いほど大きい値が湿度用係数K2として導出される。ただし、湿度用係数K2は、上限値αmaxを上回ることはない。一方、湿度HMが基準湿度HMBよりも高い場合、湿度用係数K2として「1」よりも小さい値が導出される。具体的には、湿度HMが基準湿度HMBよりも高い場合、湿度HMが高いほど小さい値が湿度用係数K2として導出される。ただし、湿度用係数K2は、下限値αminを下回ることはない。
【0027】
ここで、車両に湿度HMを検出できるセンサが設けられている場合、センサによって検出された湿度HMに応じた値を
図4に示したマップから湿度用係数K2として導出すればよい。また、湿度の推定処理が実施される場合、推定処理によって推定された湿度に応じた値を
図4に示したマップから湿度用係数K2として導出すればよい。また、湿度などの天候情報を車外のサーバから受信できる場合、受信した天候情報によって示される湿度に応じた値を
図4に示したマップから湿度用係数K2として導出すればよい。
【0028】
図2に戻り、湿度用係数K2が導出されると、処理が次のステップS13に移行される。ステップS13において、摩擦材用係数K3が導出される。摩擦制動の効きは、摩擦材23の温度と相関する。そこで、摩擦制動の効きのうち、摩擦材23の温度の影響成分に応じた値が、摩擦材用係数K3となる。摩擦材用係数K3として、「0」よりも大きい値が設定される。
【0029】
図5には、摩擦材推定温度TMPfを基に摩擦材用係数K3を導出するためのマップの一例が記載されている。
図5に示すように、摩擦材推定温度TMPfが高くなるにつれて大きい値が摩擦材用係数K3として導出される。ただし、摩擦材推定温度TMPfがある温度を超えると、摩擦材推定温度TMPfが高くなるにつれて小さい値が摩擦材用係数K3として導出される。ただし、摩擦材用係数K3は、上限値αmaxを上回ったり、下限値αminを下回ったりすることはない。なお、本実施形態で採用される摩擦材23において摩擦材推定温度TMPfが基準摩擦材温度TMpfBであるときに、摩擦材用係数K3として「1」が設定される。
【0030】
図2に戻り、摩擦材用係数K3が導出されると、処理が次のステップS14に移行される。ステップS14において、温度用係数K1と湿度用係数K2と摩擦材用係数K3との積を効率候補値αcとした場合、上限値αmaxと、効率候補値αcと、下限値αminとのうちの中間値が、効き効率αとして導出される。例えば、外気温TMPaが基準温度TMPaBであり、湿度HMが基準湿度HMBであり、摩擦材温度TMpfが基準摩擦材温度TMpfBである状態を基準状態とした場合、基準状態では、温度用係数K1、湿度用係数K2及び摩擦材用係数K3がそれぞれ「1」となる。その結果、効率候補値αcが「1」となる。なお、上限値αmaxは「1」よりも大きく、且つ、下限値αminは「1」よりも小さいため、基準状態である場合、効き効率αが「1」となる。そして、効き効率αが導出されると、本処理ルーチンが終了される。
【0031】
次に、
図6を参照し、車両制動時に回生制動制御部52が実行する処理について説明する。本処理ルーチンは、車両に回生制動力BPRを付与する際には所定の制御サイクル毎に繰り返し実行される。
【0032】
本処理ルーチンにおいて、はじめのステップS21では、要求回生制動力BPRInが導出される。続いて、ステップS22において、所定の禁止条件が成立しているか否かの判定が行われる。例えば、今回の車両制動が緊急制動であると判断できる場合、又は、自動制動時であると判断できる場合には、禁止条件が成立しているとの判定がなされる。
【0033】
禁止条件が成立しているとの判定がなされている場合(S22:YES)、処理が次のステップS23に移行される。ステップS23において、目標回生制動力BPRTrとして要求回生制動力BPRInが設定される。そして、処理が後述するステップS25に移行される。
【0034】
一方、ステップS22において、禁止条件が成立しているとの判定がなされていない場合(NO)、処理が次のステップS24に移行される。すなわち、今回の車両制動が緊急制動ではなく、且つ、要求制動力BPInが制動操作に基づいて設定されている場合、処理が次のステップS24に移行される。ステップS24において、要求回生制動力BPRInと効き効率αとの積が目標回生制動力BPRTrとして設定される。効き効率αが小さいほど、目標回生制動力BPRTrとして小さい値が設定される。そして、処理が後述するステップS25に移行される。
【0035】
ステップS25において、目標回生制動力BPRTrを基に、モータジェネレータ31の発電量が制御される。すなわち、本実施形態では、効き効率αが小さいほど、要求回生制動力BPRInと回生制動力BPRとの差が大きくなるようにモータジェネレータ31を制御する回生制動補正処理が実行される。回生制動補正処理とは、ステップS24の処理とステップS25の処理とを含む処理である。そして、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0036】
上述したように、要求制動力BPInと第1要求回生制動力の一例である要求回生制動力BPRInとの差が、要求摩擦制動力BPFInとして設定される。そのため、要求回生制動力BPRInは、車両に付与する総制動力を摩擦制動力BPFと共に達成する制動力であるといえる。よって、要求回生制動力BPRInと効き効率αとの積である目標回生制動力BPRTrが、第2要求回生制動力の一例となる。したがって、本実施形態では、回生制動制御部52が、要求回生制動力BPRInに対する目標回生制動力BPRTrの割合を効き効率αに近づけるべく、目標回生制動力BPRTrを設定する「設定部」の一例である。そして、回生装置であるモータジェネレータ31は、目標回生制動力BPRTrに応じた回生制動力BPRを発生させる。また、摩擦制動装置40は、要求摩擦制動力BPFInに応じた摩擦制動力BPFを発生させる。
【0037】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
まず、
図7を参照し、運転者による制動操作が開始された場合について説明する。
図7(a),(b),(c)に示すように、タイミングt11で制動操作が開始されると、制動操作量Xが増大するにつれ、要求制動力BPInが増大される。そして、タイミングt13で制動操作量Xが維持されるようになるため、タイミングt13以降からは要求制動力BPInが保持される。タイミングt11からタイミングt13までの期間内のタイミングt12で、要求回生制動力BPRInが上限回生制動力BPRLと等しくなる。そのため、タイミングt12以降では、要求回生制動力BPRInが保持される。また、タイミングt11からタイミングt12までの期間では、要求摩擦制動力BPFInとして「0」が設定される。タイミングt12からタイミングt13までの期間では要求摩擦制動力BPFInが増大され、タイミングt13以降では要求摩擦制動力BPFInが保持される。
【0038】
ここで、比較例として、効き効率αを加味することなく、目標回生制動力BPRTrを設定する場合、すなわち要求回生制動力BPRInを目標回生制動力BPRTrとして設定する場合について考える。効き効率αが「1」よりも大きい場合、摩擦制動の効きが良いため、摩擦制動力BPFが要求摩擦制動力BPFInよりも大きくなりやすい。その結果、制動操作量Xの増大速度、すなわち要求制動力BPInの増大速度が一定であるにも拘わらず、
図7(b)に二点鎖線で示すようにタイミングt12からの摩擦制動力BPFの増大速度が、タイミングt12までの回生制動力BPRの増大速度よりも高くなる。すなわち、タイミングt12前後で、トータル制動力BPTTLの増大速度が変わる。トータル制動力BPTTLとは、回生制動力BPRと摩擦制動力BPFとの和である。この場合、制動操作量Xの増大速度が一定であるにも拘わらず、車両の減速度が途中で大きくなり、車両の運転者が不快に感じるおそれがある。
【0039】
一方、効き効率αが「1」よりも小さい場合、摩擦制動の効きが良くないため、摩擦制動力BPFが要求摩擦制動力BPFInよりも小さくなりやすい。その結果、制動操作量Xの増大速度、すなわち要求制動力BPInの増大速度が一定であるにも拘わらず、
図7(b)に一点鎖線で示すようにタイミングt12からの摩擦制動力BPFの増大速度が、タイミングt12までの回生制動力BPRの増大速度よりも低くなる。すなわち、タイミングt12前後で、トータル制動力BPTTLの増大速度が変わる。この場合、制動操作量Xの増大速度が一定であるにも拘わらず、車両の減速度が途中で小さくなり、車両の運転者が不快に感じるおそれがある。
【0040】
これに対し、
図8(a),(b),(c)に示すように、本実施形態では、効き効率αを考慮して目標回生制動力BPRTrが設定される。すなわち、要求回生制動力BPRInと効き効率αとの積が目標回生制動力BPRTrとして設定される。この場合、タイミングt11からタイミングt12までの回生制動力BPRの増大速度と、タイミングt12からの摩擦制動力BPFの増大速度とのずれを抑制できる。これにより、制動操作量Xの増大速度が一定である場合、トータル制動力BPTTLの増大途中で車両の減速度が変化することを抑制できる。これにより、制動操作量Xを増大させている運転者が不快に感じにくくなる。
【0041】
なお、本実施形態では、摩擦制動の効きに関係する外気温TMPaを考慮して効き効率αが導出される。そのため、この効き効率αを用いて目標回生制動力BPRTrを設定することにより、回生制動力BPRを増大させる際の車両の減速度と、摩擦制動力BPFを増大させる際の車両の減速度とのずれの抑制効果を高めることができる。
【0042】
また、本実施形態では、摩擦制動の効きに関係する湿度HMを考慮して効き効率αが導出される。そのため、この効き効率αを用いて目標回生制動力BPRTrを設定することにより、回生制動力BPRを増大させる際の車両の減速度と、摩擦制動力BPFを増大させる際の車両の減速度とのずれの抑制効果を高めることができる。
【0043】
また、本実施形態では、摩擦制動の効きに関係する摩擦材推定温度TMPfを考慮して効き効率αが導出される。そのため、この効き効率αを用いて目標回生制動力BPRTrを設定することにより、回生制動力BPRを増大させる際の車両の減速度と、摩擦制動力BPFを増大させる際の車両の減速度とのずれの抑制効果を高めることができる。
【0044】
回生制動力BPRを調整するモータジェネレータ31の応答速度は、摩擦制動力BPFを調整する摩擦制動装置40の応答速度よりも高い。このように応答速度の高いモータジェネレータ31の制御を効き効率αを考慮して行うことにより、回生制動力BPRを増大させる際の車両の減速度と、摩擦制動力BPFを増大させる際の車両の減速度とのずれの抑制効果をより高めることができる。
【0045】
次に、
図9を参照し、回生制動力BPRを摩擦制動力BPFにすり替える際について説明する。
図9(a),(b),(c)に示すように、制動操作量Xが保持されているために要求制動力BPInが保持されている状況下においてタイミングt21ですり替え制御が開始される。すると、目標回生制動力BPRTrが減少され、タイミングt22で目標回生制動力BPRTrとして「0」が設定される、すなわち回生制動力BPRが「0」となる。また、目標回生制動力BPRTrの減少が開始されると、要求摩擦制動力BPFInの増大が開始される。そして、目標回生制動力BPRTrとして「0」が設定されると、要求摩擦制動力BPFInが保持されるようになる。すなわち、すり替え制御が終了される。
【0046】
ここで、比較例として、効き効率αを加味することなく、目標回生制動力BPRTrを設定する場合、すなわち要求回生制動力BPRInを目標回生制動力BPRTrとして設定する場合について考える。効き効率αが「1」よりも大きい場合、すり替え制御では、回生制動力BPRの減少速度よりも摩擦制動力BPFの増大速度が高くなってしまう。この場合、要求制動力BPInが一定であるにも拘わらず、
図9(b)に二点鎖線で示すようにタイミングt21からトータル制動力BPTTLが大きくなる。その結果、制動操作量Xが一定であるにも拘わらず、すり替え制御中に車両の減速度が大きくなり、車両の運転者が不快に感じるおそれがある。
【0047】
一方、効き効率αが「1」よりも小さい場合、要求制動力BPInが一定であるにも拘わらず、
図9(b)に一点鎖線で示すようにタイミングt21からトータル制動力BPTTLが小さくなる。この場合、制動操作量Xが一定であるにも拘わらず、すり替え制御中に車両の減速度が小さくなり、車両の運転者が不快に感じるおそれがある。
【0048】
これに対し、本実施形態では、効き効率αを考慮して目標回生制動力BPRTrが設定される。すなわち、要求回生制動力BPRInと効き効率αとの積が目標回生制動力BPRTrとして設定される。その結果、すり替え制御では、回生制動力BPRの減少速度と摩擦制動力BPFの増大速度との乖離を抑制できる。すなわち、
図9(b)に破線で示すようにタイミングt21からのトータル制動力BPTTLの変化を抑制できる。したがって、すり替え制御中に車両の減速度が変化することを抑制できる。これにより、運転者が不快に感じにくくなる。
【0049】
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・自動制動時であっても、緊急制動ではないのであれば、回生制動補正処理を実施するようにしてもよい。
【0050】
・上記実施形態では、温度用係数K1を導出するためのマップとして、
図3に示したように外気温TMPaが低いほど温度用係数K1を大きくするマップを採用している。しかし、これは温度用係数K1を導出するためのマップの一例である。当該マップとして、摩擦材23の特性に合わせたものであれば、
図3に示したマップとは異なるマップを採用してもよい。
【0051】
・上記実施形態では、湿度用係数K2を導出するためのマップとして、
図4に示したように湿度HMが低いほど湿度用係数K2を大きくするマップを採用している。しかし、これは湿度用係数K2を導出するためのマップの一例である。当該マップとして、摩擦材23の特性に合わせたものであれば、
図4に示したマップとは異なるマップを採用してもよい。例えば湿度HMが低いほど摩擦制動の効きが悪化する特性を有するものを摩擦材23として採用する場合、湿度HMが高いほど湿度用係数K2が大きくなるようなマップを、湿度用係数K2を導出するためのマップとして採用することが好ましい。
【0052】
・上記実施形態では、摩擦材用係数K3を導出するためのマップとして、
図5に示したマップを採用している。しかし、これは摩擦材用係数K3を導出するためのマップの一例である。当該マップとして、摩擦材23の特性に合わせたものであれば、
図5に示したマップとは異なるマップを採用してもよい。
【0053】
・摩擦材推定温度TMPfを考慮して効き効率αを導出するのであれば、効き効率αの導出に際して外気温TMPa及び湿度HMの少なくとも一方を考慮しなくてもよい。
・外気温TMPaを考慮して効き効率αを導出するのであれば、効き効率αの導出に際して摩擦材推定温度TMPf及び湿度HMの少なくとも一方を考慮しなくてもよい。
【0054】
・湿度HMを考慮して効き効率αを導出するのであれば、効き効率αの導出に際して摩擦材推定温度TMPf及び外気温TMPaの少なくとも一方を考慮しなくてもよい。
・降水量が多いほど湿度が高いと推測できる。そのため、湿度と相関するパラメータとして車載のワイパの操作速度を取得し、当該操作速度を基に湿度用係数K2を導出するようにしてもよい。この場合、ワイパの操作速度が高いときには、操作速度が低いときよりも高い湿度を想定し、想定した湿度に応じた値を湿度用係数K2として導出するとよい。
【0055】
・上記実施形態では、
図6のステップS24において、第1要求回生制動力である要求回生制動力BPRInと効き効率αとを基に、第2要求回生制動力である目標回生制動力BPRTrを設定しているが、これ以外の手法で目標回生制動力BPRTrを設定してもよい。例えば、要求総制動力である要求制動力BPInと効き効率αとを基に、目標回生制動力BPRTrを設定してもよい。この場合、要求制動力BPInから要求摩擦制動力BPFInを引いた値と、効き効率αとの積を、目標回生制動力BPRTrとしてもよい。
【0056】
・制動機構としては、ドラムブレーキのように車輪11に摩擦材を押し付けることによって摩擦制動力を発生させるものを採用してもよい。
・摩擦制動装置は、車輪と一体回転する回転体又は車輪に摩擦材を押し付ける力である押圧力PFを調整できるものであれば、任意の構成であってもよい。例えば、摩擦制動装置は、ブレーキ液を用いずに、上記押圧力PFを調整できる電動制動装置であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
11…車輪
22…回転体
23…摩擦材
31…モータジェネレータ
40…摩擦制動装置
50…制御装置
52…回生制動制御部
55…効き効率導出部