(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】ブレーキ制御システム
(51)【国際特許分類】
B60T 8/00 20060101AFI20231212BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20231212BHJP
B60T 8/1761 20060101ALI20231212BHJP
F16D 65/54 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
B60T7/12 C
B60T8/1761
F16D65/54 M
(21)【出願番号】P 2019238764
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】西澤 浩光
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-149088(JP,A)
【文献】特開平08-207725(JP,A)
【文献】特開2011-105250(JP,A)
【文献】特開2018-062273(JP,A)
【文献】特開2018-171940(JP,A)
【文献】特開2001-124120(JP,A)
【文献】特開2003-231459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/00
B60T 7/12
B60T 8/1761
F16D 65/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制動のために互いに対して押し付け可能に構成されるドラム及びシューを有するドラムブレーキと、
前記ドラム及び前記シューを相対的に移動させるように前記ドラムブレーキに付加されるブレーキ液圧を調節可能とするように構成される液圧ユニットと、
前記シューの温度を取得可能に構成されるシュー温度取得部と
を備え、
前記液圧ユニットは、前記車両に設けられるブレーキペダルの踏込力の上昇率が所定の上昇率閾値以上であり、かつ前記ブレーキペダルの踏込量が所定の踏込量閾値以上であるときに、前記ブレーキ液圧を、前記ドラムブレーキに付加されている初期値から、前記車両の制動をアシストするために設定された第1アシスト設定値に増加させるように調節するブレーキアシスト制御を実行可能に構成される、ブレーキ制御システムであって、
前記ドラムブレーキが、前記ドラム及び前記シュー間の所望のクリアランスを維持するために前記ドラム及び前記シューの相対位置を調節可能とするように構成されたアジャスタを有し、
前記液圧ユニットは、前記シュー温度取得部によって取得される前記シューの温度の取得値が所定の温度閾値以上であるときに、前記第1アシスト設定値を第2アシスト設定値に変更するように構成されており、
前記第2アシスト設定値は、前記初期値よりも大きく、かつ前記第1アシスト設定値よりも小さくなっている、ブレーキ制御システム。
【請求項2】
前記車両の障害物への衝突までに掛かる衝突予測時間を算出可能に構成される衝突予測時間算出部を備え、
前記液圧ユニットは、前記衝突が予測されたときに、前記ブレーキ液圧を、前記衝突の被害を軽減するために、前記衝突予測時間算出部によって算出された前記衝突予測時間の算出値に応じて設定される第1AEB設定値に増加させるように調節する衝突被害軽減ブレーキ制御を実行可能に構成され、
前記液圧ユニットは、前記シューの温度の取得値が前記所定の温度閾値以上であるときに、前記第1AEB設定値を第2AEB設定値に変更するように構成されており、
前記第2AEB設定値は、前記第1AEB設定値よりも小さくなっている、請求項1に記載のブレーキ制御システム。
【請求項3】
前記車両の車輪のスリップ量を取得可能に構成されるスリップ量取得部を備え、
前記液圧ユニットは、前記スリップ量取得部により取得されるスリップ量の取得値が所定の第1スリップ量閾値以上であるときに、前記車輪のロックを防止するように前記ブレーキ液圧を調節する車輪ロック防止制御を実行可能に構成され、
前記液圧ユニットは、前記シューの温度の取得値が前記所定の温度閾値以上であるときに、前記第1スリップ量閾値を第2スリップ量閾値に変更するように構成されており、
前記第2スリップ量閾値は前記第1スリップ量閾値よりも小さくなっている、請求項1又は2に記載のブレーキ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキに付加されるブレーキ液圧を調節可能とするように構成される液圧ユニットを有するブレーキ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、制動のために互いに対して押し付け可能であるドラム及びシューを有するドラムブレーキが搭載されることがある。このような車両には、ドラム及びシューを相対的に移動させるようにドラムブレーキに付加されるブレーキ液圧を調節する液圧ユニットもまた搭載される。液圧ユニットはまた、車両の走行状態を適切にするようにブレーキ液圧を調節できるようになっている。
【0003】
液圧ユニットの一例としては、運転者のブレーキ操作とは別個に駆動輪のスリップ状態に応じて圧力付加手段によって駆動輪の車輪速を抑制するように制動装置のブレーキ液圧を制御するブレーキ液圧制御手段が挙げられる。このようなブレーキ液圧制御手段を有する車両用駆動力制御装置においては、駆動輪のスリップ発生時にて制動装置のブレーキがフェードに近い場合に、ブレーキ制御の使用頻度を減少させるか又はブレーキ制御の使用を中止し、かつエンジン出力制御の使用頻度を増加する制御が行われることがある。(例えば、特許文献1を参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ドラムブレーキを用いた制動時において、所望の制動力をもたらすためにドラム及びシューが互いに押し付けられる一方で、かかる制動時以外においては、ドラム及びシューの接触を防ぐようにドラム及びシュー間にクリアランスがもたらされるようになっている。かかるクリアランスは、ドラムブレーキを用いた車両の制動時に、ドラム及びシューの相対的な移動量に応じて所望の制動力を発生させることができるように設定される。
【0006】
しかしながら、ドラムブレーキを長期間に渡って使用すると、ドラム及びシューの摩耗等に起因してドラム及びシュー間のクリアランスが増加する。この場合、所望のクリアランスが得られずに、その結果、ドラムブレーキの制動力が低下するおそれがある。そのため、ドラムブレーキには、典型的には、所望のクリアランスを維持するためにドラム及びシューの相対位置を調節するアジャスタが設けられている。
【0007】
例えば、ドラム及びシュー間のクリアランスが増加した場合、アジャスタは、クリアランスの増加分を吸収するためにドラム及びシューを互いに接近させるようにドラム及びシューの相対位置を自動的に調節する。一旦、アジャスタによってドラム及びシューの相対位置が自動的に調節されると、ドラム及びシューの相対位置を調節前に戻すためには、整備工場等のような環境下で、手作業によってアジャスタを調節することが必要となる。
【0008】
しかしながら、高温下でドラムが熱膨張した状態でドラムブレーキに高いブレーキ液圧が付加される状況では、所望のクリアランスがもたらされているにも関わらず、アジャスタが、ドラム及びシューを互いに接近させるようにドラム及びシューの相対位置を変更する不適切な調節が行われるおそれがある。上述した液圧ユニットの一例においてもまた、ブレーキのフェードの発生時近辺にて、アジャスタの不適切な調節が行われるおそれがある。
【0009】
このようなアジャスタの不適切な調節は、ドラムブレーキの引きずりを発生させるおそれがある。ドラムブレーキの引きずりは、ドラム及びシューの摩耗等による劣化を早めるおそれがある。ドラムブレーキの引きずりを解消するためには、上述のように手作業によってアジャスタを調節する煩わしい作業が必要になる。
【0010】
上記実情を鑑みると、ブレーキ制御システムにおいては、アジャスタによるドラム及びシュー間のクリアランスの調節を適切に行うことが望まれる。言い換えれば、ブレーキ制御システムにおいては、アジャスタによるドラム及びシュー間のクリアランスの不適切な調節を防ぐことが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
課題を解決するために、一態様に係るブレーキ制御システムは、車両の制動のために互いに対して押し付け可能に構成されるドラム及びシューを有するドラムブレーキと、前記ドラム及び前記シューを相対的に移動させるように前記ドラムブレーキに付加されるブレーキ液圧を調節可能とするように構成される液圧ユニットと、前記シューの温度を取得可能に構成されるシュー温度取得部とを備え、前記液圧ユニットは、前記車両に設けられるブレーキペダルの踏込力の上昇率が所定の上昇率閾値以上であり、かつ前記ブレーキペダルの踏込量が所定の踏込量閾値以上であるときに、前記ブレーキ液圧を、前記ドラムブレーキに付加されている初期値から、前記車両の制動をアシストするために設定された第1アシスト設定値に増加させるように調節するブレーキアシスト制御を実行可能に構成される、ブレーキ制御システムであって、前記ドラムブレーキが、前記ドラム及び前記シュー間の所望のクリアランスを維持するために前記ドラム及び前記シューの相対位置を調節可能とするように構成されたアジャスタを有し、前記液圧ユニットは、前記シュー温度取得部によって取得される前記シューの温度の取得値が所定の温度閾値以上であるときに、前記第1アシスト設定値を第2アシスト設定値に変更するように構成されており、前記第2アシスト設定値は、前記初期値よりも大きく、かつ前記第1アシスト設定値よりも小さくなっている。
【発明の効果】
【0012】
一態様に係るブレーキ制御システムにおいては、アジャスタによるドラム及びシュー間のクリアランスの調節を適切に行うことができる。言い換えれば、一態様に係るブレーキ制御システムにおいては、アジャスタによるドラム及びシュー間のクリアランスの不適切な調節を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るブレーキ制御システムを含む車両を模式的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係るブレーキ制御システムのドラムブレーキを、分解した状態で概略的に示す分解斜視図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係るドラムブレーキのアジャスタの一部を概略的に示す正面図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係るブレーキ制御システムにおいて、車輪ロック防止制御としてABSの制御を実行する場合のスリップ量閾値と、走行速度との関係を示すマップである。
【
図5】
図5は、一実施形態に係るブレーキ制御システムにおいて、車輪ロック防止制御としてEBDの制御を実行する場合のスリップ量閾値と、走行速度との関係を示すマップである。
【
図6】
図6は、一実施形態に係るブレーキ制御システムにおける制御方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一実施形態に係るブレーキ制御システムを、それを搭載した車両と共に以下に説明する。なお、本実施形態に係るブレーキ制御システムを搭載した車両は、自動車となっている。しかしながら、かかる車両は、自動車以外の車両とすることもできる。
【0015】
「ブレーキ制御システム及び車両の概略」
図1~
図3を参照すると、本実施形態に係るブレーキ制御システム10及び車両1は、概略的には次のように構成される。
図1及び
図2に示すように、ブレーキ制御システム10はドラムブレーキ20を有する。
図2に示すように、ドラムブレーキ20は、車両1の制動のために互いに対して押し付け可能に構成されるドラム21及びシュー22を有する。
図2及び
図3に示すように、ドラムブレーキ20はまた、ドラム21及びシュー22間の所望のクリアランスを維持するためにドラム21及びシュー22の相対位置を調節可能とするように構成されたアジャスタ23を有する。
【0016】
図1に示すように、車両1は、ドライバによって踏込操作可能に構成されるブレーキペダル2を有する。車両1はまた4つの車輪3a,3bを有する。各車輪3a,3bは、車両1の走行輪3a,3bである。また、4つの車輪3a,3bのうち2つの車輪3aは、車両後方側にて車両幅方向に互いに間隔を空けるように位置する2つの後輪3aである。4つの車輪3a,3bのうち別の2つの車輪3bは、2つの後輪3aに対して車両後方側にて車両幅方向に互いに間隔を空けるように位置する2つの前輪3bである。しかしながら、車両は、少なくとも3つの車輪を有すればよい。
【0017】
ブレーキ制御システム10は液圧ユニット30を有する。液圧ユニット30は、ドラム21及びシュー22を相対的に移動させるようにドラムブレーキ20に付加されるブレーキ液圧を調節可能とするように構成される。ブレーキ制御システム10はシュー温度取得部40を有する。シュー温度取得部40は、シュー22の温度を取得可能に構成される。
【0018】
液圧ユニット30は、ブレーキアシスト制御を実行可能とするように構成される。ブレーキ制御システム10は、液圧ユニット30に対してブレーキアシスト制御を実行指示可能とするブレーキアシスト制御部50を有する。ブレーキアシスト制御において、液圧ユニット30は、ブレーキペダル2の踏込力の上昇率が所定の上昇率閾値Rs以上であり、かつブレーキペダル2の踏込量が所定の踏込量閾値Fs以上であるときに、ブレーキ液圧を、初期値P0から第1アシスト設定値Pa1に増加させるように調節する。ブレーキ液圧の初期値P0は、ブレーキアシスト制御の開始時又は開始直前にドラムブレーキ20に付加されているブレーキ液圧の値P0である。なお、ブレーキアシスト制御は、ブレーキペダル2が踏まれていない状態で実行されることも多いので、初期値P0は、0MPa(メガパスカル)にも当然なり得る。第1アシスト設定値Pa1は、車両1の制動をアシストするために設定されるブレーキ液圧の値Pa1である。
【0019】
液圧ユニット30はまた、シュー温度取得部40によって取得されるシュー22の温度の取得値Tが所定の温度閾値Ts以上であるときに、第1アシスト設定値Pa1を第2アシスト設定値Pa2に変更するように構成される。第2アシスト設定値Pa2は、初期値P0よりも大きく、かつ第1アシスト設定値Pa1よりも小さくなっている。
【0020】
さらに、本実施形態に係るブレーキ制御システム10及び車両1は、概略的には次のように構成することができる。
図1に示すように、ブレーキ制御システム10は、車両1が障害物に衝突するまでに掛かる衝突予測時間(以下、必要に応じて「TTC」という)を算出可能に構成される衝突予測時間算出部(以下、必要に応じて「TTC算出部」という)61を有する。
【0021】
液圧ユニット30は、衝突被害軽減ブレーキ制御(以下、必要に応じて「AEB制御」という)を実行可能とするように構成される。ブレーキ制御システム10は、TTC算出部61を有する衝突被害軽減ブレーキ制御(以下、「AEB制御部」という)60を含む。AEB制御部60は、液圧ユニット30に対して上記AEB制御を実行指示可能とするように構成される。
【0022】
AEB制御において、液圧ユニット30は、車両1の障害物への衝突が予測されたときに、ブレーキ液圧を、初期値P0から第1AEB設定値Pe1に増加させるように調節する。ブレーキ液圧の初期値P0は、AEB制御の開始時又は開始直前にドラムブレーキ20に付加されているブレーキ液圧の値P0である。第1AEB設定値Pe1は、衝突の被害を軽減するように、TTC算出部61によって算出されたTTCの算出値Cに応じて設定されるブレーキ液圧の値Pe1である。
【0023】
さらに、液圧ユニット30は、シュー22の温度の検出値Tが所定の温度閾値Ts以上であるときに、第1AEB設定値Pe1を第2AEB設定値Pe2に変更するように構成される。第2AEB設定値Pe2は、初期値P0よりも大きく、かつ第1AEB設定値Pe1よりも小さくなっている。
【0024】
ブレーキ制御システム10は、車両1の各車輪3a,3bのスリップ量を取得可能に構成されるスリップ量取得部71を有する。ブレーキ制御システム10は、スリップ量取得部71を有する車輪ロック防止制御部70を含む。車輪ロック防止制御部70は、液圧ユニット30に対して上記車輪ロック防止制御を実行指示可能とするように構成される。液圧ユニット30は、車輪ロック防止制御を実行可能とするように構成される。
【0025】
車輪ロック防止制御において、液圧ユニット30は、スリップ量取得部71により取得されるスリップ量の取得値Kが所定の第1スリップ量閾値Ks1以上であるときに、各車輪3a,3bのロックを防止するようにブレーキ液圧を調節する。液圧ユニット30は、シュー22の温度の検出値Tが所定の温度閾値Ts以上であるときに、第1スリップ量閾値Ks1を第2スリップ量閾値Ks2に変更するように構成されている。第2スリップ量閾値Ks2は、第1スリップ量閾値Ks1よりも小さくなっている。
【0026】
「ブレーキ制御システム及び車両の詳細」
図1を参照すると、本実施形態に係るブレーキ制御システム10及び車両1は、詳細には次のように構成することができる。ブレーキ制御システム10は、液圧ユニット30に対して横滑り防止制御を含むブレーキ制御を実行指示可能とするように構成されるブレーキ制御部80を有する。ブレーキ制御は、ブレーキアシスト制御を含むことができ、この場合、ブレーキ制御部80は、ブレーキアシスト制御部50を含むことができる。
【0027】
ブレーキ制御は、車輪ロック防止制御を含むことができ、この場合、ブレーキ制御部80は、スリップ量取得部71を有する車輪ロック防止制御部70を含むことができる。車輪ロック防止制御は、ブレーキアシスト制御又はAEB制御と同時に実行することができる。ブレーキ制御部80は、シュー温度取得部40と、後述するシュー温度判定部41とを含むことができる。
【0028】
ブレーキアシスト制御部50、AEB制御部60、車輪ロック防止制御部70、及びブレーキ制御部80のそれぞれは、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、入力インターフェース、出力インターフェース等の電子部品と、かかる電子部品を配置した電気回路とを含むように構成することができる。例えば、各種制御にてマップ、計算式等が用いられる場合、マップ、計算式、閾値等は、RAM、ROM、フラッシュメモリ等に格納することができる。
【0029】
ブレーキ制御システム10は、2つの後輪3aをそれぞれ制動可能に構成される2つのドラムブレーキ20を有する。ブレーキ制御システム10は、2つの前輪3bをそれぞれ制動可能に構成される2つのディスクブレーキ90を有する。しかしながら、極めて例外的ではあるが、ブレーキ制御システムは、2つのディスクブレーキの代わりに、2つの前輪をそれぞれ制動可能に構成される2つのドラムブレーキを有することもできる。
【0030】
ブレーキ制御システム10は、ブレーキペダル2の踏込力を取得可能に構成される踏込力取得部11を有する。例えば、踏込力取得部11は、ブレーキペダル2の踏込力を検出可能に構成される圧力センサとすることができる。車両1は、ブレーキペダル2の踏込量を取得可能に構成される踏込量取得部12を有する。例えば、踏込量取得部12は、ブレーキペダル2の位置を検出可能に構成される位置センサと、この位置センサにより検出されるブレーキペダル2の検出位置に基づいてブレーキペダル2の踏込量を算出する踏込量算出部とを有することができる。
【0031】
しかしながら、踏込力取得部及び踏込量取得部は、これらに限定されない。例えば、踏込力取得部は、ブレーキペダルの踏込量の変化に基づいてブレーキペダルの踏込力を算出することができる。例えば、踏込量取得部は、ブレーキペダルの踏込力に基づいてブレーキペダルの踏込量を算出することができる。
【0032】
ブレーキ制御システム10は、車両1の外部の障害物を検出可能に構成される障害物検出部13を有する。障害物検出部13はまた、車両1から障害物までの距離(以下、必要に応じて「障害物距離」という)を検出可能とする。かかる障害物検出部13は、ミリ波レーダとなっている。しかしながら、障害物検出部は、これに限定されない。例えば、障害物検出部は、カメラ、ソナーセンサ、超音波センサ、LiDAR(Light Detection and Ranging)等とすることもできる。
【0033】
ブレーキ制御システム10は、各車輪3a,3bの回転速度を検出可能に構成される車輪速度センサ14a,14bを有する。具体的には、ブレーキ制御システム10は、各後輪3aの回転速度を検出可能に構成される車輪速度センサ14aと、各前輪3bの回転速度を検出可能に構成される車輪速度センサ14bとを有する。さらに、ブレーキ制御システム10は、車両1の走行速度を取得可能に構成される走行速度取得部15を有する。例えば、走行速度取得部15は、車軸(図示せず)の回転速度に基づいて車両1の走行速度を算出するように構成することができる。しかしながら、走行速度取得部は、車速センサ等とすることもできる。
【0034】
ブレーキ制御システム10は、シュー22の温度の検出値Tが所定の温度閾値Ts以上であるか否かを判定するように構成されるシュー温度判定部41を有する。ブレーキアシスト制御部50、AEB制御部60、及び車輪ロック防止制御部70の少なくとも1つが、シュー温度判定部41を含むことができる。
【0035】
また、ブレーキアシスト制御部50、AEB制御部60、及び車輪ロック防止制御部70以外のブレーキ制御システム10の制御部が、シュー温度判定部41を含むこともできる。ブレーキ制御システム10の各種制御にて用いられるシュー22の温度閾値Tsは、約400℃とすることができる。しかしながら、シューの温度閾値は、これに限定されない。
【0036】
「ドラムブレーキの詳細」
図2~
図3を参照すると、ドラムブレーキ20は詳細には次のように構成することができる。
図2に示すように、ドラムブレーキ20は2つのシュー22を有する。ドラム21は、2つのシュー22を押し付け可能とする内周面21aを有する。内周面21aは略円筒形状に形成される。2つのシュー22は、ドラム21の内周面21aの径方向に互いに間隔を空けて配置される。
【0037】
ドラムブレーキ20は、2つのシュー22を連結するように2つのシュー22に取り付けられ、かつ伸縮可能に構成されるピストン24を有する。ピストン24には、液圧ユニット30からのブレーキ液圧が付加されるようになっている。ドラムブレーキ20は、2つのシュー22を互いに引き寄せ合うように付勢する付勢部材25を有する。言い換えれば、2つのシュー22は付勢部材25によってドラム21の内周面21aから離れるように付勢されている。付勢部材25は、引張バネ等とすることができる。しかしながら、付勢部材は、引張バネに限定されない。
【0038】
2つのシュー22は、液圧ユニット30からピストン24に付加されるブレーキ液圧を調節することによって、2つのシュー22の少なくとも一方をドラム21の内周面21aに押し付けられた状態と、2つのシュー22を内周面21aと所定のクリアランスにて間隔を空けた状態とに変化可能になっている。また、かかるブレーキ液圧を調節することによって、各シュー22をドラム21の内周面21aに押し付ける圧力を変化させることができる。
【0039】
アジャスタ23は、2つのシュー22を連結するように2つのシュー22に取り付けられる。高いブレーキ液圧が液圧ユニット30からドラムブレーキ20に付加されると、アジャスタ23は、2つのシュー22をドラム21の内周面21aに接近させるべく延びるように自動的に調節され、これによって、2つのシュー22及びドラム21の内周面21a間で所望のクリアランスを維持することができる。このようなアジャスタ23の自動調節が一旦行われると、アジャスタ23を自動調節前の状態に戻すためには、アジャスタ23を手作業によって縮めることが必要となる。
【0040】
さらに、
図3を参照すると、一例として、アジャスタ23は次のように構成することができる。アジャスタ23が、その伸縮方向に並んだ第1部材23a及び第2部材23bを有する。第1及び第2部材23a,23bは、引張バネ等の付勢部材23c(
図2に示す)によってアジャスタ23を縮める方向に付勢されている。
【0041】
アジャスタ23の定常状態においては、付勢部材23cによって第1及び第2部材23a,23bが付勢されながら第1及び第2部材23a,23bの歯が互いに噛み合った状態で、アジャスタ23が一定の長さに維持される。アジャスタ23が延びるように自動的に調節される場合、液圧ユニット30からドラムブレーキ20に付加される高いブレーキ液圧によって付勢部材23cの付勢力に逆らう力が生じ、これによって、アジャスタ23が延びるように第1及び第2部材23a,23bの歯の噛み合い位置がズレる。アジャスタ23が縮まるように手作業によって調節される場合、例えば、マイナスドライバDを用いて付勢部材23cの付勢力に逆らう力を加え、これによって、アジャスタ23を縮めるように第1及び第2部材23a,23bの歯の噛み合い位置をズラす。
【0042】
「液圧ユニットの詳細」
図1を参照すると、液圧ユニット30は詳細には次のように構成することができる。液圧ユニット30は、作動流体をそれに圧力を加えながら各ドラムブレーキ20、特に、そのピストン24に供給可能に構成されるマスターシリンダ31に接続される。液圧ユニット30は、かかるマスターシリンダ31を含むことができる。液圧ユニット30によって、ブレーキ液圧が各ドラムブレーキ20、特に、そのピストン24に付加される。マスターシリンダ31は、ブレーキペダル2、踏込力取得部11、及び踏込量取得部12に接続される。
【0043】
液圧ユニット30は、各ドラムブレーキ20の制動力を調節することができる。液圧ユニット30は、2つの後輪3aに対応する2つのドラムブレーキ20の制動力を格別に調節することができる。液圧ユニット30は、2つの後輪3aに対応する2つのドラムブレーキ20の制動力と、2つの前輪3bに対応する2つのディスクブレーキ90の制動力とを格別に調節することもできる。
【0044】
液圧ユニット30は、ドラムブレーキ20に付加されるブレーキ液圧を検出可能に構成される液圧センサ32を有する。液圧センサ32は、マスターシリンダ31のブレーキ液圧を検出可能に構成することができる。さらに、液圧センサ32は、2つのドラムブレーキ20に付加されるブレーキ液圧を検出するようにマスターシリンダ31のブレーキ液圧を検出可能に構成することができる。液圧ユニット30は、ブレーキアシスト制御部50、AEB制御部60、車輪ロック防止制御部70、又はブレーキ制御部80からの各種実行指示に基づいたブレーキ液圧の各種設定値に従って、各ドラムブレーキ20にブレーキ液圧を付加することができる。さらに、液圧ユニット30は、液圧センサ32によって検出されるマスターシリンダ31のブレーキ液圧の検出値Pを各種設定値に適合させるように、マスターシリンダ31のブレーキ液圧を調節することができる。
【0045】
さらに、液圧ユニット30は車輪ロック防止制御部70を含む。液圧ユニット30はまた、ブレーキアシスト制御部50を含むことができる。液圧ユニット30は、ブレーキ制御部80を含むことができる。液圧ユニット30は、AEB制御部60を含むことができる。
【0046】
「シュー温度取得部の詳細」
図1を参照すると、シュー温度取得部40は詳細には次のように構成することができる。シュー温度取得部40は、各ドラムブレーキ20のシュー22の温度を取得する。シュー温度取得部40は、マスターシリンダ31のブレーキ液圧の検出値P、このドラムブレーキ20に制動される後輪3aの車輪速度の検出値等に基づいて、このドラムブレーキ20のシュー22の温度を推定する。ブレーキ液圧の検出値Pは、液圧センサ32によって検出することができ、かつ車輪速度の検出値は、車輪速度センサ14a,14bによって検出することができる。
【0047】
しかしながら、シュー温度取得部は、これに限定されない。例えば、シュー温度取得部は、各ドラムブレーキのシューの温度を直接測定するシュー温度センサとすることができる。この場合、各ドラムブレーキのシューにシュー温度センサが設置される。
【0048】
「ブレーキアシスト制御部の詳細」
図1を参照すると、ブレーキアシスト制御部50は詳細には次のように構成することができる。ブレーキアシスト制御部50は、踏込力取得部11により取得されたブレーキペダル2の踏込力の検出値を監視し、かつ踏込力の検出値が単位時間当たりに変化する量である踏込力上昇率を算出可能とする。
【0049】
ブレーキアシスト制御部50は、このように算出された踏込力上昇率の算出値Rが所定の上昇率閾値Rs以上であるかを判定可能とする。また、ブレーキアシスト制御部50は、踏込量取得部12によって取得されたブレーキペダル2の踏込量の取得値Fが所定の踏込量閾値Fs以上であるかを判定可能とする。例えば、上昇率閾値Rsは、約50MPa/sec(秒)~約200MPa/secの範囲内とすることができる。踏込量閾値Fsは、約1.5MPa~約4.0MPaの範囲内とすることができる。しかしながら、上昇率閾値及び踏込量閾値は、これらに限定されない。
【0050】
ブレーキ液圧の初期値P0は、ブレーキアシスト制御の開始時又は開始直前に、液圧センサ32によって検出されるマスターシリンダ31のブレーキ液圧の初期検出値P0とすることができる。ブレーキアシスト制御部50は、マスターシリンダ31のブレーキ液圧の第1アシスト設定値Pa1を設定することができる。
【0051】
ブレーキアシスト制御にて設定される第2アシスト設定値Pa2は、マスターシリンダ31のブレーキ液圧の初期値P0よりも大きく、かつ全制動時におけるマスターシリンダ31のブレーキ液圧の全制動値(又は最大値)Pfよりも小さくなっている。第2アシスト設定値Pa2は、マスターシリンダ31のブレーキ液圧の初期値P0よりも大きくなり、かつ各ドラムブレーキ20におけるドラム21及びシュー22間のクリアランスがそのアジャスタ23によって不適切に調節されること(以下、必要に応じて、「アジャスタ23の不適切なクリアランス調節」という)を防止するように、予め定められたマップ、計算式等を用いて設定することができる。
【0052】
「AEB制御部の詳細」
図1を参照すると、AEB制御部60は詳細には次のように構成することができる。AEB制御部60のTTC算出部61は、障害物検出部13によって車両1の外部の障害物が検出されたときに、障害物検出部13によって検出された障害物距離の検出値、走行速度取得部15によって取得された走行速度の取得値等に基づいてTTCを算出する。AEB制御部60は、TTC算出部61によって算出されたTTCの算出値C、走行速度の取得値等に基づいて、車両1の障害物への衝突が予測されたか否かを判定する。
【0053】
ブレーキ液圧の初期値P0は、AEB制御の開始時又は開始直前に、液圧センサ32によって検出されるマスターシリンダ31のブレーキ液圧の初期検出値P0である。ブレーキ液圧の第1AEB設定値Pe1は、衝突の被害を軽減するように、TTCの算出値C、走行速度の取得値等に基づいて設定されるマスターシリンダ31のブレーキ液圧の値Peである。特に、第1AEB設定値Pe1は、車両1が障害物の手前で停止することができるように設定することができる。
【0054】
AEB制御部60にて設定される第2AEB設定値Pe2は、マスターシリンダ31のブレーキ液圧の初期値P0よりも大きく、かつマスターシリンダ31のブレーキ液圧の全制動値Pfよりも小さくなっている。第2AEB設定値Pe2は、マスターシリンダ31のブレーキ液圧の初期値P0よりも大きくなり、衝突の被害を軽減可能とし、かつ各ドラムブレーキ20におけるアジャスタ23の不適切なクリアランス調節を防止するように、予め定められたマップ、計算式等を用いて設定することができる。
【0055】
AEB制御部60はまた、第1AEB設定値Pe1がマスターシリンダ31のブレーキ液圧の全制動値Pfに対して約90%以上であり、かつ少なくとも1つのドラムブレーキ20におけるシュー22の温度の検出値Tが所定の温度閾値Ts以上であるときに、このドラムブレーキ20の第1AEB設定値Pe1を第2AEB設定値Pe2に変更するように構成することもできる。
【0056】
「車輪ロック防止制御部の詳細」
図1を参照すると、車輪ロック防止制御部70は詳細には次のように構成することができる。車輪ロック防止制御部70のスリップ量取得部71は、各後輪3aのスリップ量及び各前輪3bのスリップ量を取得することができる。スリップ量取得部71は、各車輪3a,3bの車輪速度センサ14a,14bにより検出される車輪速度の検出値、走行速度取得部15により取得される走行速度の取得値V等に基づいて、その車輪3a,3bのスリップ量を算出する。しかしながら、スリップ量取得部は、これに限定されない。
【0057】
車輪ロック防止制御において、液圧ユニット30は、スリップ量取得部71により取得される4つの車輪3a,3bにおけるスリップ量の取得値Kのうち少なくとも1つが第1又は第2スリップ量閾値Ks1,Ks2以上であるときに、各車輪3a,3bのロックを防止するように、各ドラムブレーキ20に付加されるブレーキ液圧を調節する。車輪ロック防止制御において、液圧ユニット30は、スリップ量取得部71により取得される4つの車輪3a,3bにおけるスリップ量の取得値Kのうち少なくとも1つが第1又は第2スリップ量閾値Ks1,Ks2以上であるときに、各車輪3a,3bのロックを防止するように、各ドラムブレーキ20に付加されるブレーキ液圧、及び/又は各ディスクブレーキ90に付加されるブレーキ液圧を調節することもできる。しかしながら、車輪ロック防止制御においては、スリップ量の代わりに、スリップ率を用いることもできる。
【0058】
さらに、車輪ロック防止制御は、シュー22の温度の検出値Tが所定の温度閾値Ts以上であり、かつスリップ量の取得値Kが第1スリップ量閾値Ks1以上であるときに、ブレーキ液圧を初期値P0から第2アシスト設定値Pa2に増加させるブレーキアシスト制御、又はブレーキ液圧を初期値P0から第2AEB設定値Pe2に増加させるAEB制御と同時に実行することができる。車輪ロック防止制御は、ABS(Anti-lock Braking System)の制御、又はEBD(Electronic Brake force Distribution)の制御とすることができる。
【0059】
車輪ロック防止制御がABSの制御である場合において、例えば、第1及び第2スリップ量閾値Ks1,Ks2は、
図4に示すようなマップを用いて設定することができる。
図4において、横軸Vは走行速度の取得値V(km/h)を示し、かつ縦軸Ksはスリップ量閾値Ksを示す。さらに、
図4において、破線L1は、走行速度の取得値Vと、第1スリップ量閾値Ks1との関係を示す。
図4において、実線L2は、走行速度の取得値Vと、第2スリップ量閾値Ks2との関係を示す。
【0060】
図4の破線L1によって示すように、減少前における走行速度の取得値が増加するに従って減少前における第1スリップ量閾値Ks1が増加する。走行速度の取得値Vと第1スリップ量閾値Ks1との関係は、比例関係とすることができる。
図4の実線L2によって示すように、減少後における走行速度の取得値Vが増加するに従って第2スリップ量閾値Ks2もまた増加する。走行速度の取得値Vと第2スリップ量閾値Ks2との関係は、比例関係とすることができる。
【0061】
さらに、走行速度の取得値Vがいずれであっても、第1及び第2スリップ量閾値Ks1,Ks2間の差は一定とすることができる。しかしながら、車輪ロック防止制御がABSの制御である場合において、走行速度の取得値及び第1及び第2スリップ量閾値の関係と、第1及び第2スリップ量閾値間の差とは、これらに限定されない。
【0062】
車輪ロック防止制御がEBDの制御である場合においては、例えば、第1及び第2スリップ量閾値Ks1,Ks2は、
図5に示すようなマップを用いて設定することができる。
図5において、横軸Vは走行速度の取得値V(km/h)を示し、かつ縦軸Ksはスリップ量閾値Ksを示す。さらに、
図5の破線M1は、走行速度の取得値Vと、第1スリップ量閾値Ks1との関係を示す。
図5の実線L2は、走行速度の取得値Vと、第2スリップ量閾値Ks2との関係を示す。
【0063】
図5の破線M1によって示すように、走行速度の取得値Vが低速度領域にある場合、走行速度の取得値Vが増加するに従って第1スリップ量閾値Ks1が減少し、かつ走行速度の取得値Vが低速度領域を超えた場合、第1スリップ量閾値Ks1が実質的に一定に維持される。
図5の実線M2によって示すように、走行速度の取得値Vが低速度領域にある場合、走行速度の取得値Vが増加するに従って第2スリップ量閾値Ks2が減少し、かつ走行速度の取得値Vが低速度領域を超えた場合、第2スリップ量閾値Ks2が実質的に一定に維持される。
【0064】
さらに、走行速度の取得値Vがいずれであっても、第1及び第2スリップ量閾値Ks1,Ks2間の差は一定とすることができる。しかしながら、車輪ロック防止制御がEBDの制御である場合において、走行速度の取得値及び第1及び第2スリップ量閾値の関係と、第1及び第2スリップ量閾値間の差とは、これらに限定されない。
【0065】
「ブレーキ制御システムの制御方法の一例」
図6を参照して、本実施形態に係るブレーキ制御システム10の制御方法の一例について説明する。TTCを算出する(ステップS1)。シュー22の温度を取得する(ステップS2)。TTCの算出値Cに基づいて車両1の障害物への衝突が予測されたか否かを判定する(ステップS3)。
【0066】
車両1の障害物への衝突が予測されなかった場合(NO)、ブレーキペダル2の踏込量の検出値Fが踏込量閾値Fs以上であるか否かを判定する(ステップS4)。踏込量の検出値Fが踏込量閾値Fs未満である場合(NO)、ステップS1に戻る。踏込量の検出値Fが踏込量閾値Fs以上である場合(YES)、ブレーキペダル2の踏込力上昇率の算出値Rが上昇率閾値Rs以上であるか否かを判定する(ステップS5)。踏込力上昇率の算出値Rが上昇率閾値Rs未満である場合(NO)、ステップS1に戻る。踏込力上昇率の算出値Rが上昇率閾値Rs以上である場合(YES)、シュー22の温度の取得値Tが温度閾値Ts以上であるか否かを判定する(ステップS6)。
【0067】
シュー22の温度の取得値Tが温度閾値Ts未満である場合(NO)、ブレーキ液圧を初期値P0から第1アシスト設定値Pa1に増加させるようにブレーキアシスト制御を実行する(ステップS7)。シュー22の温度の取得値Tが温度閾値Ts以上である場合(YES)、ブレーキ液圧を初期値P0から第2アシスト設定値Pa2に増加させるようにブレーキアシスト制御を実行する(ステップS8)。この場合、車輪ロック防止制御に用いられる第1スリップ量閾値Ks1を第2スリップ量閾値Ks2に変更する(ステップS9)。
【0068】
上記ステップS3において、車両1の障害物への衝突が予測された場合(NO)、シュー22の温度の取得値Tが温度閾値Ts以上であるか否かを判定する(ステップS10)。シュー22の温度の取得値Tが温度閾値Ts未満である場合(NO)、ブレーキ液圧を初期値P0から第1AEB設定値Pe1に増加させるようにAEB制御を実行する(ステップS11)。シュー22の温度の取得値Tが温度閾値Ts以上である場合(YES)、ブレーキ液圧を初期値P0から第2AEB設定値Pe2に増加させるようにAEB制御を実行する(ステップS12)。この場合、車輪ロック防止制御に用いられる第1スリップ量閾値Ks1を第2スリップ量閾値Ks2に変更する(ステップS9)。
【0069】
以上、本実施形態に係るブレーキ制御システム(10)は、車両(1)の制動のために互いに対して押し付け可能に構成されるドラム(21)及びシュー(22)を有するドラムブレーキ(20)と、前記ドラム(21)及び前記シュー(22)を相対的に移動させるように前記ドラムブレーキ(20)に付加されるブレーキ液圧を調節可能とするように構成される液圧ユニット(30)と、前記シュー(22)の温度を取得可能に構成されるシュー温度取得部(40)とを備え、前記液圧ユニット(30)は、前記車両(1)に設けられるブレーキペダル(2)の踏込力の上昇率が所定の上昇率閾値(Rs)以上であり、かつ前記ブレーキペダル(2)の踏込量が所定の踏込量閾値(Fs)以上であるときに、前記ブレーキ液圧を、前記ドラムブレーキ(20)に付加されている初期値(P0)から、前記車両(1)の制動をアシストするために設定された第1アシスト設定値(Pa1)に増加させるように調節するブレーキアシスト制御を実行可能に構成される、ブレーキ制御システム(10)であって、前記ドラムブレーキ(20)が、前記ドラム(21)及び前記シュー(22)間の所望のクリアランスを維持するために前記ドラム(21)及び前記シュー(22)の相対位置を調節可能とするように構成されたアジャスタ(23)を有し、前記液圧ユニット(30)は、前記シュー温度取得部(40)によって取得される前記シュー(22)の温度の取得値(T)が所定の温度閾値(Ts)以上であるときに、前記第1アシスト設定値(Pa1)を第2アシスト設定値(Pa2)に変更するように構成されており、前記第2アシスト設定値(Pa2)は、前記初期値(P0)よりも大きく、かつ前記第1アシスト設定値(Pa1)よりも小さくなっている。
【0070】
このようなブレーキ制御システム(10)においては、アジャスタ(23)を有するドラムブレーキ(20)に対して高いブレーキ液圧を付加するように実行されるブレーキアシスト制御にて、シュー(22)の温度の取得値(T)が所定の温度閾値(Ts)以上であるときには、初期値(P0)から、アジャスタ(23)の不適切なクリアランス調節を防ぐように通常時の第1アシスト設定値(Pa1)よりも小さく設定された第2アシスト設定値(Pa2)に増加させることができる。そのため、ブレーキアシスト制御において、所望のクリアランスがもたらされているにも関わらず、アジャスタ(23)が、ドラム(21)及びシュー(22)を互いに接近させるようにドラム(21)及びシュー(22)の相対位置を変更する不適切な調節が行われるように高温下でドラム(21)が熱膨張した状態で必要以上に高いブレーキ液圧がドラムブレーキ(20)に付加される状況を、回避することができる。
【0071】
特に、ブレーキアシスト制御において、高温下でドラム(21)が熱膨張した状態で、ドラムブレーキ(20)の全制動時及び全制動に近い制動時にてドラムブレーキ(20)に付加される高いブレーキ液圧は、アジャスタ(23)の不適切な調節を生じさせ易いが、これに対して、本実施形態に係るブレーキ制御システム(10)においては、このような高いブレーキ液圧がドラムブレーキ(20)に付加されることを制限できる。その結果、アジャスタ(23)の不適切なクリアランス調節を防ぐことができる。言い換えれば、アジャスタ(23)によるドラム(21)及びシュー(22)間のクリアランスの調節を適切に行うことができる。ひいては、ドラムブレーキ(20)の引きずりの発生を防ぐことができる。
【0072】
なお、液圧ユニット(30)は、ブレーキペダル(2)の踏込力の上昇率が所定の上昇率閾値(Rs)未満であり、かつブレーキペダル(2)の踏込量が所定の踏込量閾値(Fs)以上であるときに、ブレーキアシスト制御のようなブレーキ液圧の制限を行わないようにすることができる。緊急ブレーキ時においては、通常、踏込力の上昇率が所定の上昇率閾値(Rs)以上となり、このような緊急ブレーキ時にはブレーキアシスト制御を実行することが有効となるが、緊急ブレーキ時において、踏込力の上昇率が所定の上昇率閾値(Rs)未満となるように、ドラムブレーキ(20)に付加されるブレーキ液圧の全制動値(Pf)に向けてブレーキペダル(2)の踏込量を徐々に増加させることは、ほとんど無いと考えられるためである。この場合、ブレーキ液圧が不必要に制限されることを防止できる。
【0073】
本実施形態に係るブレーキ制御システム(10)は、前記車両(1)の障害物への衝突までに掛かる衝突予測時間(TTC)を算出可能に構成される衝突予測時間算出部(TTC算出部)(61)を備え、前記液圧ユニット(30)は、前記衝突が予測されたときに、前記ブレーキ液圧を、前記衝突の被害を軽減するために、前記衝突予測時間算出部(61)によって算出された前記衝突予測時間(TTC)の算出値(C)に応じて設定される第1AEB設定値(Pe1)に増加させるように調節する衝突被害軽減ブレーキ制御を実行可能に構成され、前記液圧ユニット(30)は、前記シュー(22)の温度の取得値(T)が前記所定の温度閾値(Ts)以上であるときに、前記第1AEB設定値(Pe1)を第2AEB設定値(Pe2)に変更するように構成されており、前記第2AEB設定値(Pe2)は、前記第1AEB設定値(Pe1)よりも小さくなっている。
【0074】
そのため、AEB制御において、高温下でドラム(21)が熱膨張した状態で必要以上に高いブレーキ液圧がドラムブレーキ(20)に付加され、これによって、アジャスタ(23)の不適切なクリアランス調節が行われる状況を、回避することができる。特に、AEB制御において、ドラムブレーキ(20)の全制動時及び全制動に近い制動時におけるブレーキ液圧よりも小さなブレーキ液圧を、余裕をもって付加すればよい状況下では、ブレーキ液圧を、アジャスタ(23)の不適切なクリアランス調節を防ぐように通常時の第1AEB設定値(Pe1)よりも小さく設定された第2AEB設定値(Pe2)に増加させることができる。そのため、車両(1)を確実に停止させることを可能としながら、アジャスタ(23)の不適切なクリアランス調節を防ぐことができる。言い換えれば、AEB制御においても、アジャスタ(23)によるドラム(21)及びシュー(22)間のクリアランスの調節を適切に行うことができる。
【0075】
なお、第1AEB設定値(Pe1)がブレーキ液圧の全制動値(Pf)に対して約90%以上である場合にのみ、第1AEB設定値(Pe1)から第2AEB設定値(Pe2)に変更すれば、特に、シュー(22)の温度が高くなり易い状況下において、アジャスタ(23)の不適切なクリアランス調節を防ぐことができる。
【0076】
本実施形態に係るブレーキ制御システム(10)は、前記車両(1)の車輪(3a,3b)のスリップ量を取得可能に構成されるスリップ量取得部(71)を備え、前記液圧ユニット(30)は、前記スリップ量取得部(71)により取得されるスリップ量の取得値(K)が所定の第1スリップ量閾値(Ks1)以上であるときに、前記車輪(3a,3b)のロックを防止するように前記ブレーキ液圧を調節する車輪ロック防止制御を実行可能に構成され、前記液圧ユニット(30)は、前記シュー(22)の温度の取得値(T)が前記所定の温度閾値(Ts)以上であるときに、前記第1スリップ量閾値(Ks1)を第2スリップ量閾値(Ks2)に変更するように構成されており、前記第2スリップ量閾値(Ks2)は前記第1スリップ量閾値(Ks1)よりも小さくなっている。
【0077】
そのため、車輪ロック防止制御において、高温下でドラム(21)が熱膨張した状態で必要以上に高いブレーキ液圧がドラムブレーキ(20)に付加され、これによって、アジャスタ(23)の不適切なクリアランス調節が行われる状況を、回避することができる。特に、車輪ロック防止制御において、必要以上に高いブレーキ液圧がドラムブレーキ(20)に付加される状況を回避するように、ドラムブレーキ(20)に付加されるブレーキ液圧を調節できる。本実施形態に係るブレーキ制御システム(10)においては、高温下でドラム(21)が熱膨張するような状況下で、このような車輪ロック防止制御を実行する条件が、第1スリップ量閾値(Ks1)から第2スリップ量閾値(Ks2)への変更によって緩くなるので、アジャスタ(23)の不適切なクリアランス調節を防ぐことができる。
【0078】
また、高温下でドラム(21)が熱膨張するような状況下でブレーキが掛かり難い場合には、車輪ロック防止制御を実行することが望まれる一方で、車輪のスリップ量は増加し難くなる。このような場合であっても、本実施形態に係るブレーキ制御システム(10)においては、第1スリップ量閾値(Ks1)から第2スリップ量閾値(Ks2)への変更によって、車輪ロック防止制御を確実に実行することができる。さらに、車輪ロック防止制御と、この車輪ロック防止制御以外の制御との切換を、シュー(22)の温度の取得値(T)が所定の温度閾値(Ts)以上である特殊な条件以外の一般的な条件下では、通常どおり行うことができるので、ほとんどの場合において、通常どおりの切換によって通常どおりのブレーキ性能を十分に得ることができる。
【0079】
ここまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、その技術的思想に基づいて変形及び変更可能である。
【符号の説明】
【0080】
1…車両、2…ブレーキペダル、3a…後輪(車輪)、3b…前輪(車輪)
10…ブレーキ制御システム、20…ドラムブレーキ、21…ドラム、22…シュー、23…アジャスタ、30…液圧ユニット、40…シュー温度取得部、61…衝突予測時間算出部(TTC算出部)、71…スリップ量取得部
Rs…ブレーキペダルの上昇率閾値、Fs…ブレーキペダルの踏込量閾値
P0…ブレーキ液圧の初期値(ブレーキ液圧の初期検出値)、Pa1…ブレーキ液圧の第1アシスト設定値、Pa2…ブレーキ液圧の第2アシスト設定値、Pb1…ブレーキ液圧の第1AEB設定値、Pb2…ブレーキ液圧の第2AEB設定値
T…シューの温度の取得値、Ts…シューの温度閾値
Ks1…第1スリップ量閾値、Ks2…第2スリップ量閾値