(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】ピロメテンホウ素錯体、それを用いた発光素子、表示装置、照明装置、色変換組成物、色変換フィルム、色変換基板、光源ユニット、およびディスプレイ
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20231212BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20231212BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20231212BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20231212BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20231212BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20231212BHJP
H05B 33/12 20060101ALI20231212BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20231212BHJP
【FI】
C07F5/02 D CSP
C09K11/06 660
C09K11/06 690
G02B5/20
G09F9/00 313
G09F9/30 365
H01L33/50
H05B33/12 E
H05B33/14 B
(21)【出願番号】P 2019546409
(86)(22)【出願日】2019-08-22
(86)【国際出願番号】 JP2019032895
(87)【国際公開番号】W WO2020045242
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2018158224
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市橋 泰宜
(72)【発明者】
【氏名】田中 大作
(72)【発明者】
【氏名】岡野 翼
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-134275(JP,A)
【文献】国際公開第2018/101129(WO,A1)
【文献】特開2016-006033(JP,A)
【文献】MUELLER,B.J. et al.,Sodium-Selective Fluoroionophore-Based Optodes for Seawater Salinity Measurement,Analytical Chemistry(Washington, DC, United States),2017年,Vol.89, No.13,p.7195-7202
【文献】JIANG XD et al.,Synthesis and photophysical properties of long wavelength absorbing BODIPY/aza-BODIPY bearing a five-membered ring,Tetrahedron Letters,2018年01月03日,Vol.59, No.6,p.546-549,ISSN: 0040-4039
【文献】KOWADA T. et al.,Highly fluorescent BODIPY dyes modulated with spirofluorene moieties,Organic Letters,2010年,Vol.12, No.2,p.296-299,ISSN: 1523-7060
【文献】LUPO K. M. et al.,Probing Heterogeneity and Bonding at Silica Surfaces through Single-Molecule Investigation of Base-Mediated Linkage Failure,Langmuir,2016年,Vol.32, No.36,p.9171-9179,ISSN: 0743-7463
【文献】HINTON D. A. et al.,Mapping Forbidden Emission to Structure in Self-Assembled Organic Nanoparticles,Journal of the American Chemical Society,2018年10月29日,Vol.140, No.46,p.15827-15841,ISSN: 0002-7863
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/02
C09K 11/06
G02B 5/20
G09F 9/00
G09F 9/30
H01L 33/50
H05B 33/12
H10K 50/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(3A)~(3D)のいずれかで表されるピロメテンホウ素錯体。
【化1】
(一般式(3A)~(3D)中、Xは、C-R
7である。R
1、R
3~R
6は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、アシル基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基の中から選択され、R
4、R
5およびR
6は隣接基との間の環構造ではない。R
1、R
3~R
6の少なくとも1つが、置換もしくは無置換のアリール基、または、置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。R
7は、置換のフェニル基である。R
8およびR
9は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、またはシアノ基の中から選ばれる。R
101およびR
102は置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。Arは置換もしくは無置換のベンゼン環である。また、R
101とR
102とが
スピロフルオレン環を形成していても良い。)
【請求項2】
下記一般式(4A)~(4D)のいずれかで表されるピロメテンホウ素錯体。
【化2】
(一般式(4A)~(4D)中、Xは、C-R
7である。R
1、R
3、R
4、R
6は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、アシル基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基の中から選択され
る。R
7は、アリール基である。R
8およびR
9は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、またはシアノ基の中から選ばれる。R
101およびR
102は、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基であるか、R
101とR
102とが
スピロフルオレン環を形成している。Arは置換もしくは無置換のベンゼン環である。)
(B)前記一般式(4C)の環構造である場合、R
7は以下の(i)~(ii)のいずれかから選ばれる;
(i)置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基から選ばれる基をパラ位に有するフェニル基;
(ii)少なくとも1つのアルコキシ基をオルト位もしくはメタ位に有するフェニル基。
【請求項3】
R
7が、置換のフェニル基である、請求項2に記載のピロメテンホウ素錯体。
【請求項4】
R
7が置換のフェニル基であって、当該置換のフェニル基が、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基およびハロゲンからなる群より選ばれる1つをオルト位もしくはメタ位に有するフェニル基であるか、または、フェニル基、アルキル基およびアルコキシ基からなる群より選ばれる基をオルト位およびメタ位にそれぞれ独立に有し、かつそれらの基が環構造を形成してなるフェニル基である、請求項2に記載のピロメテンホウ素錯体。
【請求項5】
R
8もしくはR
9のいずれか一つはフッ素原子である、請求項1~4のいずれかに記載のピロメテンホウ素錯体。
【請求項6】
R
8もしくはR
9のいずれか一つはシアノ基である、請求項1~5のいずれかに記載のピロメテンホウ素錯体。
【請求項7】
励起光を用いることにより、ピーク波長が580nm以上750nm以下の領域に観測される発光を呈する、請求項1または2に記載のピロメテンホウ素錯体。
【請求項8】
陽極と陰極の間に有機層が存在し、電気エネルギーにより発光する発光素子であって、前記有機層に請求項1~7のいずれかに記載のピロメテンホウ素錯体を含有する発光素子。
【請求項9】
前記有機層が発光層を有し、前記発光層に請求項1~7のいずれかに記載のピロメテンホウ素錯体を含有する請求項8に記載の発光素子。
【請求項10】
前記発光層がホスト材料とドーパント材料を有し、前記ドーパント材料が請求項1~7のいずれかに記載のピロメテンホウ素錯体である請求項9に記載の発光素子。
【請求項11】
前記ホスト材料がアントラセン誘導体またはナフタセン誘導体である請求項10に記載の発光素子。
【請求項12】
前記発光素子が、トップエミッション型有機電界発光素子である請求項8~11のいずれかに記載の発光素子。
【請求項13】
前記有機層が、さらに熱活性化遅延蛍光材料を含有する請求項8~12のいずれかに記載の発光素子。
【請求項14】
請求項8~13のいずれかに記載の発光素子を含む表示装置。
【請求項15】
請求項8~13のいずれかに記載の発光素子を含む照明装置。
【請求項16】
入射光を、その入射光よりも長波長の光に変換する色変換組成物であって、請求項1~7のいずれかに記載のピロメテンホウ素錯体およびバインダー樹脂を含むことを特徴とする色変換組成物。
【請求項17】
請求項16に記載の色変換組成物、またはその硬化物からなる色変換層を含む、色変換フィルム。
【請求項18】
透明基板上に、複数の色変換層を備える色変換基板であって、前記色変換層が、請求項16に記載の色変換組成物、またはその硬化物からなる層である、色変換基板。
【請求項19】
光源と、請求項17に記載の色変換フィルムまたは請求項18に記載の色変換基板とを含む、光源ユニット。
【請求項20】
前記光源が、430nm以上500nm以下の範囲に極大発光を有する発光ダイオードもしくは有機電界発光素子である、請求項19に記載の光源ユニット。
【請求項21】
請求項17に記載の色変換フィルムまたは請求項18に記載の色変換基板を含む、ディスプレイ。
【請求項22】
請求項1
7に記載の色変換フィルムまたは請求項
18に記載の色変換基板を含む、照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロメテンホウ素錯体、それを用いた発光素子、表示装置、照明装置、色変換組成物、色変換フィルム、色変換基板、光源ユニット、およびディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜発光素子は、薄型で、低駆動電圧下で高輝度の発光が得られるという特徴を有する。また、蛍光発光材料や燐光発光材料などの発光材料を適切に選ぶことにより、多色発光が可能である。
有機薄膜発光素子を使用した液晶ディスプレイの課題として、色再現性の向上が挙げられる。色再現性の向上には、光源ユニットの青、緑、赤の各発光スペクトルの半値幅を狭くし、青、緑、赤各色の色純度を高めることが有効である。これを解決する手段として、無機半導体微粒子による量子ドットを色変換組成物の成分として用いる技術が提案されている。この量子ドットを用いる技術は、確かに緑、赤色の発光スペクトルの半値幅が狭く、色再現性は向上するが、反面、量子ドットは熱、空気中の水分や酸素に弱く、耐久性が十分でなかった。
【0003】
また、量子ドットの代わりに有機物の発光材料を色変換組成物の成分として用いる技術も提案されている。有機発光材料を色変換組成物の成分として用いる技術の例としては、ピロメテン誘導体を用いたものが開示されている。
【0004】
一方、多色発光の中でも赤色発光は、有用なる発光色として研究が進められている。従来、ビス(ジイソプロピルフェニル)ペリレンなどのペリレン系、ペリノン系、ポルフィリン系、Eu錯体などが赤色発光材料として知られている。
発光材料、特にドーパント材料として、高輝度発光を示す化合物のピロメテン化合物が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、ピロメテン骨格に縮環構造を導入した化合物も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-12676号公報
【文献】特開2002-134275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術に用いられる発光材料には、発光効率が低く消費電力が高いものや、化合物の耐久性が低く素子寿命の短いものが多かった。特に赤色においては、発光効率が高く、高色純度の両方を満たす発光材料は得られていない。本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、発光効率が高く、色純度に優れた赤色発光材料として使用可能なピロメテンホウ素錯体、発光素子、表示装置、照明装置、色変換組成物、色変換フィルム、色変換基板、光源ユニット、およびディスプレイを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記一般式(1)で表され、以下の(A)および(B)の少なくとも一方を満たすピロメテンホウ素錯体である。
【0008】
【化1】
一般式(1)中、Xは、C-R
7またはNである。R
1~R
7は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、アシル基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基の中から選択され、当該選択された基は隣接基との間で環構造を形成してもよい。
R
8およびR
9は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、またはシアノ基の中から選ばれる。
但し、R
1とR
2、R
2とR
3、R
4とR
5、およびR
5とR
6の四組のうち少なくとも一組は、下記一般式(2A)~(2D)のいずれかの環構造である。
【0009】
【化2】
一般式(2A)~(2D)中、R
101、R
102およびR
201~R
204は一般式(1)におけるR
1~R
7と同義である。Arは置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、または置換もしくは無置換の芳香族複素環である。また、R
101とR
102とが環を形成していても良い。*はピロメテン骨格との連結部を示す。
【0010】
(A)R1とR2、およびR2とR3の二組のうち一組は、前記一般式(2A)~(2D)のいずれかの環構造であり、R4、R5およびR6は隣接基との間の環構造ではない。但し、R2とR3が前記一般式(2D)の環構造である場合であって、かつ、R7がアリール基である場合、そのアリール基としては、置換のフェニル基、または二以上の環が縮環した構造を有するアリール基、二以上の環が縮環した構造を有するヘテロアリール基から選ばれる。
【0011】
(B)R1とR2、およびR2とR3の二組のうち一組は、前記一般式(2A)~(2D)のいずれかの環構造であり、R4とR5、およびR5とR6の二組のうち一組は、前記一般式(2A)~(2D)のいずれかの環構造である。但し、R2とR3、およびR5とR6がいずれも前記一般式(2D)の環構造である場合であって、かつ、R7がアリール基である場合、そのアリール基としては、以下の(i)~(iii)のいずれかから選ばれる;
(i)置換もしくは無置換の炭素数2以上のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数2以上のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアリールエーテル基、置換もしくは無置換のアリールチオエーテル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基、置換もしくは無置換のシリル基、置換もしくは無置換のホスフィンオキシド基、フッ素原子、および塩素原子の中から選ばれる基または原子をパラ位に有するフェニル基;
(ii)少なくとも1つの置換基をオルト位もしくはメタ位に有するフェニル基;
(iii)二以上の環が縮環した構造を有するアリール基。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、発光効率が高く、高色純度の赤色発光を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る色変換フィルムの第一例を示す模式断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る色変換フィルムの第二例を示す模式断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る色変換フィルムの第三例を示す模式断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る色変換フィルムの第四例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るピロメテンホウ素錯体、それを用いた発光素子、表示装置、照明装置、色変換組成物、色変換フィルム、色変換基板、光源ユニット、およびディスプレイの好適な実施の形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0015】
本発明に係るピロメテンホウ素錯体は、一般式(1)で表され、以下の(A)および(B)の少なくとも一方を満たす化合物である。その詳細を以下に説明する。
【化3】
一般式(1)中、Xは、C-R
7またはNである。R
1~R
7は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、アシル基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基の中から選択され、当該選択された基は隣接基との間で環構造を形成してもよい。
【0016】
R8およびR9は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、またはシアノ基の中から選ばれる。
但し、R1とR2、R2とR3、R4とR5、およびR5とR6の四組のうち少なくとも一組は、下記一般式(2A)~(2D)のいずれかの環構造である。
【0017】
【化4】
一般式(2A)~(2D)中、R
101、R
102およびR
201~R
204は一般式(1)におけるR
1~R
7と同義である。Arは置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、または置換もしくは無置換の芳香族複素環である。また、R
101とR
102とが環を形成していても良い。*はピロメテン骨格との連結部を示す。
【0018】
また、本発明に係るピロメテンホウ素錯体は、以下の(A)および(B)の少なくとも一方を満たす。
(A)R1とR2、およびR2とR3の二組のうち一組は、前記一般式(2A)~(2D)のいずれかの環構造であり、R4、R5およびR6は隣接基との間の環構造ではない。但し、R2とR3が前記一般式(2D)の環構造である場合であって、かつ、R7がアリール基である場合、そのアリール基としては、置換のフェニル基、または二以上の環が縮環した構造を有するアリール基、二以上の環が縮環した構造を有するヘテロアリール基を含むから選ばれる。
【0019】
(B)R1とR2、およびR2とR3の二組のうち一組は、前記一般式(2A)~(2D)のいずれかの環構造であり、R4とR5、およびR5とR6の二組のうち一組は、前記一般式(2A)~(2D)のいずれかの環構造である。但し、R2とR3、およびR5とR6がいずれも前記一般式(2D)の環構造である場合であって、かつ、R7がアリール基である場合、そのアリール基としては、以下の(i)~(iii)のいずれかから選ばれる;
(i)置換もしくは無置換の炭素数2以上のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数2以上のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアリールエーテル基、置換もしくは無置換のアリールチオエーテル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基、置換もしくは無置換のシリル基、置換もしくは無置換のホスフィンオキシド基、フッ素原子、および塩素原子の中から選ばれる基または原子をパラ位に有するフェニル基;
(ii)少なくとも1つの置換基をオルト位もしくはメタ位に有するフェニル基;
(iii)二以上の環が縮環した構造を有するアリール基。
【0020】
上記説明から分かるとおり、本発明においては、ピロメテン骨格の一部に縮環構造を有し、環構造が広がっているものも含めて「ピロメテン」と称する。
また、上記の全ての基において、水素は重水素であってもよい。以下に説明する化合物またはその部分構造においても同様である。
【0021】
以下の説明において、例えば炭素数6~40の置換もしくは無置換のアリール基とは、アリール基に置換した置換基に含まれる炭素数も含めて6~40であり、炭素数を規定している他の置換基もこれと同様である。
また、上記の全ての基において、置換される場合における置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基が好ましく、さらには、各置換基の説明において好ましいとする具体的な置換基が好ましい。また、これらの置換基は、さらに上述の置換基により置換されていてもよい。
【0022】
「置換もしくは無置換の」という場合における「無置換」とは、水素原子または重水素原子が置換したことを意味する。
以下に説明する化合物またはその部分構造において、「置換もしくは無置換の」という場合についても、上記と同様である。
【0023】
上記一般式(1)および一般式(2A)~(2D)において、アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。また、アルキル基の炭素数は特に限定されないが、入手の容易性やコストの点から、好ましくは1以上20以下、より好ましくは1以上8以下の範囲である。
【0024】
シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。シクロアルキル基部分の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、3以上20以下の範囲である。
【0025】
複素環基とは、例えば、ピラン環、ピペリジン環、環状アミドなどの炭素以外の原子を環内に有する脂肪族環を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。複素環基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0026】
アルケニル基とは、例えば、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基などの二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルケニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0027】
シクロアルケニル基とは、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などの二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。
【0028】
アルキニル基とは、例えば、エチニル基などの三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルキニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0029】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのエーテル結合を介して脂肪族炭化水素基が結合した官能基を示し、この脂肪族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0030】
アルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アルキルチオ基の炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アルキルチオ基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0031】
アリールエーテル基とは、例えば、フェノキシ基など、エーテル結合を介した芳香族炭化水素基が結合した官能基を示し、芳香族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アリールエーテル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0032】
アリールチオエーテル基とは、アリールエーテル基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アリールエーテル基における芳香族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アリールエーテル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0033】
アリール基とは、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、ヘリセニル基などの芳香族炭化水素基を示す。
中でも、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基が好ましい。アリール基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アリール基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは6以上40以下、より好ましくは6以上30以下の範囲である。
【0034】
R1~R9が置換もしくは無置換のアリール基の場合、アリール基としてはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基が好ましく、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基がより好ましい。さらに好ましくは、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基であり、フェニル基が特に好ましい。
【0035】
それぞれの置換基がさらにアリール基で置換される場合、アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基が好ましく、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基がより好ましい。特に好ましくは、フェニル基である。
【0036】
また、置換のフェニル基においては、そのフェニル基中の隣接する2つの炭素原子上に各々置換基がある場合、それらの置換基同士で環構造を形成していてもよい。その結果としてできた基は、その構造に応じて、「置換のフェニル基」、「二以上の環が縮環した構造を有するアリール基」、「二以上の環が縮環した構造を有するヘテロアリール基」のいずれか1つ以上に該当しうる。
【0037】
ヘテロアリール基とは、例えば、ピリジル基、フラニル基、チオフェニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ピラジニル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、ナフチリジニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、カルボリニル基、インドロカルバゾリル基、ベンゾフロカルバゾリル基、ベンゾチエノカルバゾリル基、ジヒドロインデノカルバゾリル基、ベンゾキノリニル基、アクリジニル基、ジベンゾアクリジニル基、ベンゾイミダゾリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、フェナントロリニル基などの、炭素以外の原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基を示す。ただし、ナフチリジニル基とは、1,5-ナフチリジニル基、1,6-ナフチリジニル基、1,7-ナフチリジニル基、1,8-ナフチリジニル基、2,6-ナフチリジニル基、2,7-ナフチリジニル基のいずれかを示す。ヘテロアリール基は置換基を有していても有していなくてもよい。ヘテロアリール基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上40以下、より好ましくは2以上30以下の範囲である。
【0038】
R1~R9が置換もしくは無置換のヘテロアリール基の場合、ヘテロアリール基としてはピリジル基、フラニル基、チオフェニル基、キノリニル基、ピリミジル基、トリアジニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、フェナントロリニル基が好ましく、ピリジル基、フラニル基、チオフェニル基、キノリニル基がより好ましい。さらに好ましくは、ピリジル基、キノリニル基であり、特に好ましくは、ピリジル基である。
【0039】
それぞれの置換基がさらにヘテロアリール基で置換される場合、ヘテロアリール基としては、ピリジル基、フラニル基、チオフェニル基、キノリニル基、ピリミジル基、トリアジニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、フェナントロリニル基が好ましく、ピリジル基、フラニル基、チオフェニル基、キノリニル基がより好ましい。特に好ましくは、ピリジル基である。
【0040】
ハロゲンとは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選ばれる原子を示す。
カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。
【0041】
エステル基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などがエステル結合を介して結合した官能基を示し、この置換基はさらに置換されていてもよい。エステル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。より具体的には、メトキシカルボニル基などのメチルエステル基、エトキシカルボニル基などのエチルエステル基、プロポキシカルボニル基などのプロピルエステル基、ブトキシカルボニル基などのブチルエステル基、イソプロポキシメトキシカルボニル基などのイソプロピルエステル基、ヘキシロキシカルボニル基などのヘキシルエステル基、フェノキシカルボニル基などのフェニルエステル基などが挙げられる。
【0042】
アミド基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などがアミド結合を介して結合した官能基を示し、この置換基はさらに置換されていてもよい。アミド基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。より具体的には、メチルアミド基、エチルアミド基、プロピルアミド基、ブチルアミド基、イソプロピルアミド基、ヘキシルアミド基、フェニルアミド基などが挙げられる。
【0043】
アミノ基とは、置換もしくは無置換のアミノ基である。置換する場合の置換基としては、例えば、アリール基、ヘテロアリール基、直鎖アルキル基、分岐アルキル基が挙げられる。アリール基、ヘテロアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、キノリニル基が好ましい。これら置換基はさらに置換されてもよい。炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上50以下、より好ましくは6以上40以下、特に好ましくは6以上30以下の範囲である。
【0044】
シリル基とは、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、プロピルジメチルシリル基、ビニルジメチルシリル基などのアルキルシリル基や、フェニルジメチルシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基、トリナフチルシリル基などのアリールシリル基を示す。ケイ素上の置換基はさらに置換されてもよい。シリル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上30以下の範囲である。
【0045】
シロキサニル基とは、例えばトリメチルシロキサニル基などのエーテル結合を介したケイ素化合物基を示す。ケイ素上の置換基はさらに置換されてもよい。
ボリル基とは、置換もしくは無置換のボリル基である。置換する場合の置換基としては、例えば、アリール基、ヘテロアリール基、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、アリールエーテル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基が挙げられ、中でもアリール基、アリールエーテル基が好ましい。
【0046】
ホスフィンオキシド基とは、-P(=O)R10R11で表される基である。R10R11はR1~R7と同義である。
アシル基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などがカルボニル結合を介して結合した官能基を示し、この置換基はさらに置換されていてもよい。アシル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。より具体的には、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基、アクリリル基などが挙げられる。
【0047】
スルホニル基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などが-S(=O)2-結合を介して結合した官能基を示し、この置換基はさらに置換されていてもよい。
【0048】
一般式(1)で表される化合物は、ピロメテンホウ素錯体骨格を有する。ピロメテンホウ素錯体骨格は、強固で平面性の高い骨格であるため、高い蛍光量子収率を示す。また、発光スペクトルのピーク半値幅が小さいため、効率的な発光と高い色純度を達成することができる。
【0049】
本発明に係るピロメテンホウ素錯体を発光素子等に用いると、半値幅の小さい、シャープな発光を得ることができる。一般的に、ピロメテンホウ素錯体を用いて緑よりも長波長領域の光で発光させる場合、二重結合をもつ基をピロメテンホウ素錯体骨格に直接結合させることにより、共役を拡張させ、発光を長波長化する。しかし、二重結合が単に結合しているだけでは、励起状態において複数の安定な構造へ変化する(以下、構造緩和)ため、様々なエネルギー状態からの発光を伴い失活する。この場合、発光スペクトルはブロードになり、半値幅が大きくなり、色純度が低下する。つまり、ピロメテンホウ素錯体を用いて長波長化するのは分子設計上の工夫が必要となる。
【0050】
本発明に係るピロメテンホウ素錯体は、一般式(1)で表される化合物であって、ピロメテンホウ素錯体骨格に上記一般式(2A)~(2D)のいずれかの環構造を有している。
一般式(2A)~(2D)は二重結合を有しており、二重結合は必ず炭素原子でピロメテンホウ素錯体骨格に化学結合にて固定されている。これによって、励起状態での過度な構造緩和を抑制することができるため、一般式(1)で表される化合物の発光スペクトルがシャープになる。これを発光材料に用いた場合、色純度の良い発光を得ることができる。
【0051】
また、本発明に係るピロメテンホウ素錯体は、前述の(A)および(B)の少なくとも一方を満たす。
(A)R1とR2、およびR2とR3の二組のうち一組が、一般式(2A)~(2D)のいずれかの環構造であり、R4、R5およびR6が隣接基との間の環構造ではないことにより、一般式(1)で表される化合物が励起されて発光する過程において、程よい構造緩和が起きるため、ストークスシフトをある程度保ったまま、シャープな発光が得られる。ストークスシフトとは吸収極大波長と蛍光極大波長の差のことである。なお、ストークスシフトが小さい場合、自らの蛍光を吸収する自己吸収という現象が生じるため、本来あるべき短波長側の蛍光が消失してしまう。この場合、実用的な濃度で発光材料を用いると、結果的にブロードな発光になってしまう。
【0052】
また、R2とR3が一般式(2D)の環構造である場合であって、かつ、R7がアリール基である場合、そのアリール基としては、置換のフェニル基、または二以上の環が縮環した構造を有するアリール基から選ばれる。R7がアリール基である場合、アリール基とピロメテンホウ素錯体骨格で共役が拡張するが、R7が無置換のフェニル基である場合、フェニル基が回転し、構造緩和が起きやすくなり、発光スペクトルがブロードになる。一方で、R7が置換のフェニル基、または二以上の環が縮環した構造を有するアリール基である場合、R7の分子量が大きくなり、回転が抑制され、構造緩和が抑制されるため、シャープな発光が得られる。
【0053】
(B)R1とR2、およびR2とR3の二組のうち一組が、一般式(2A)~(2D)のいずれかの環構造であり、R4とR5、およびR5とR6の二組のうち一組が、一般式(2A)~(2D)のいずれかの環構造であることにより、ピロメテンホウ素錯体骨格と二重結合が強固に固定されるため、一般式(1)で表される化合物の励起状態のコンフォメーションが限定され、極めてシャープな発光を得ることができる。
【0054】
また、R2とR3の組が一般式(2D)の環構造であり、R5とR6の組が、一般式(2D)の環構造であって、かつ、R7がアリール基である場合、そのアリール基としては、前述の(i)~(iii)のいずれかから選ばれる。R7がアリール基である場合、アリール基とピロメテンホウ素錯体骨格で共役が拡張するが、R7が無置換のフェニル基である場合、フェニル基が回転し、構造緩和が起きやすくなり、発光スペクトルがブロードになる。一方で、置換のフェニル基、または二以上の環が縮環した構造を有するアリール基である場合、R7の分子量が大きくなり、回転が抑制され、構造緩和が抑制されるため、シャープな発光が得られる。
【0055】
また、(B)の場合、(A)に比べて、ピロメテンホウ素錯体骨格の構造緩和が抑制されているため、R7のアリール基の影響が大きい。置換のフェニル基の中でも、置換基をオルト位もしくはメタ位に有するフェニル基、または二以上の環が縮環した構造を有するアリール基であれば、置換箇所がピロメテンホウ素錯体骨格とR7の結合軸に対して外側に張り出すため、フェニル基の回転が抑制されやすく、シャープな発光を得られる。一方で、パラ位に置換基を有するフェニル基の場合は、パラ位の置換基がピロメテンホウ素錯体骨格とR7の結合軸上に存在するため、フェニル基の回転を抑制しやすい置換基をうまく選択する必要がある。よって、R7がアリール基である場合、そのアリール基としては、前述の(i)~(iii)のいずれかから選ばれることで、構造緩和が抑制され、シャープな発光を得ることができる。
【0056】
(i)の場合の好ましい例としては、4-エチルフェニル基、4-n-プロピルフェニル基、4-イソプロピルフェニル基、4-n-ブチルフェニル基、4-t-ブチルフェニル基、4-エトキシフェニル基、2,4-ジエトキシフェニル基、2,4,6-トリエトキシフェニル基、ビフェニル-4-イル基等が挙げられる。
【0057】
(ii)の場合の好ましいフェニル基としては、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基置換もしくは無置換のアリールエーテル基、置換もしくは無置換のアリールチオエーテル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基、置換もしくは無置換のシリル基、置換もしくは無置換のホスフィンオキシド基、およびハロゲンの中から選ばれる基または原子をオルト位もしくはメタ位に有するフェニル基が好ましい。また、さらなる嵩高さを付与して、発光効率を向上させる点では、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基をオルト位もしくはメタ位に有するフェニル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、メトキシ基をオルト位もしくはメタ位に有するフェニル基がより好ましい。分散性の観点からは、tert-ブチル基、メトキシ基をオルト位もしくはメタ位に有するフェニル基が特に好ましく、分子同士の凝集による消光を防ぐ。
【0058】
(ii)の場合の好ましい具体例としては、2-トリル基、3-トリル基、2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、2,4-キシリル基、3,5-キシリル基、2,6-キシリル基、2,4-ジメトキシフェニル基、3,5-ジメトキシフェニル基、2,6-ジメトキシフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基(メシチル基)、2,4,6-トリメトキシフェニル基、ビフェニル-3-イル基、1,3-ジフェニル-5-フェニル基等が挙げられる。
【0059】
(iii)の場合の好ましいアリール基としては、ナフチル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ピレニル基である。また合成の容易さ、原料入手の容易さという観点から、ナフチル基が好ましく用いられる。
(iii)の場合の好ましい具体例としては、1-ナフチル基、2-ナフチル基、9-アントラセニル基、1-ピレニル基等が挙げられる。
【0060】
以上のとおり、一般式(1)で表され、(A)または(B)の少なくとも一方を満たすピロメテンホウ素錯体は、高い蛍光量子収率を示し、かつ、発光スペクトルのピーク半値幅が小さいため、高効率な高色純度発光を達成することができる。
【0061】
本発明のピロメテンホウ素錯体の発光スペクトルの発光ピークの半値幅は、溶液では、好ましくは45nm以下であり、さらに好ましくは40nm以下である。また、発光素子に用いた場合には、50nm以下が好ましく、45nm以下がさらに好ましい。
【0062】
さらに、一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、適切な置換基を適切な位置に導入することで、発光効率・色純度・熱的安定性・光安定性・分散性などのさまざまな特性・物性を調整することができる。
【0063】
例えば、一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、下記一般式(3A)~(3D)のいずれかで表される化合物であることが好ましい。
【化5】
一般式(3A)~(3D)中、Xは、C-R
7またはNである。R
101およびR
102は一般式(1)におけるR
1~R
7と同義である。Arは置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、または置換もしくは無置換の芳香族複素環である。また、R
101とR
102とが環を形成していても良い。
【0064】
R1とR2、およびR2とR3の二組のうち一組により構成される環構造中の二重結合部分が置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、または置換もしくは無置換の芳香族複素環であることで、共役を効率的に拡張することができるため、より長波長で高色純度の発光が可能となる。
【0065】
また例えば、一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、下記一般式(4A)~(4D)のいずれかで表される化合物であることが好ましい。
【化6】
一般式(4A)~(4D)中、Xは、C-R
7またはNである。R
101およびR
102は一般式(1)におけるR
1~R
7と同義である。Arは置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、または置換もしくは無置換の芳香族複素環である。また、R
101とR
102とが環を形成していても良い。
【0066】
R1とR2、およびR2とR3の二組のうち一組、ならびにR4とR5、およびR5とR6の二組のうち一組により構成される環構造中の二重結合部分が置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、または置換もしくは無置換の芳香族複素環であり、且つ、ピロメテン骨格の両側とも縮環することで、共役を効率的により拡張することができるため、より長波長で高色純度の発光が可能となる。また、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、または置換もしくは無置換の芳香族複素環が含まれることにより、単純な二重結合よりも熱的および電気的安定性が向上する。
【0067】
さらに、一般式(3A)~(3D)、および(4A)~(4D)において、Arが置換もしくは無置換のベンゼン環、置換もしくは無置換のナフタレン環、置換もしくは無置換のフェナントレン環、置換もしくは無置換のピリジン環、置換もしくは無置換のピリミジン環、置換もしくは無置換のピラジン環であることが好ましい。さらに、Arが置換もしくは無置換のベンゼン環であると、熱的および電気的安定性が向上するため好ましい。
【0068】
また、本発明に係るピロメテンホウ素錯体は、R1~R6の少なくとも1つが、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基であることが好ましい。一般式(1)で表される化合物が、より良い熱的安定性および光安定性を示すからである。特に、R1~R6の中でも、R1、R3、R4およびR6が当該基であることが好ましい。R1、R3、R4およびR6はピロメテンホウ素錯体骨格のπ電子の寄与が大きく、電子的な影響が大きい。そのため、これらの位置は共役が最も拡張しやすい置換位置である。結果として、一般式(1)で表される化合物の熱的および電気的安定性がいっそう向上する。
【0069】
本発明に係るピロメテンホウ素錯体は、R1~R6の少なくとも1つが、置換もしくは無置換のアリール基、または、置換もしくは無置換のヘテロアリール基であることが好ましい。一般式(1)で表される化合物が、より長波長に、発光をすることができるからである。R1~R6の少なくとも1つが、置換もしくは無置換のアリール基であることがよりいっそう好ましい。一般式(1)で表される化合物の熱的および電気的安定性がいっそう向上するからである。
【0070】
一般式(1)で表される化合物において、R1、R3、R4およびR6の少なくとも1つが置換もしくは無置換のアルキル基である場合、色純度の優れた発光を得られる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基といった炭素数1~6のアルキル基が好ましく、さらに熱的安定性に優れることから、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が好ましい。さらに濃度消光を防ぎ発光量子収率を向上させるという観点では、立体的にかさ高いtert-ブチル基がより好ましい。また合成の容易さ、原料入手の容易さという観点から、メチル基も好ましく用いられる。
【0071】
本発明に係るピロメテンホウ素錯体は、XがC-R7であり、R7が、置換もしくは無置換のアリール基、または、置換もしくは無置換のヘテロアリール基であると、電気的安定性が向上するため好ましい。具体的には、置換のフェニル基、置換もしくは無置換のビフェニル基、置換もしくは無置換のターフェニル基、置換もしくは無置換のナフチル基が好ましく、置換もしくは無置換のフェニル基、置換もしくは無置換のビフェニル基、置換もしくは無置換のターフェニル基、置換もしくは無置換のジベンソフラニル基、置換もしくは無置換のジベンゾチオフェニル基であることがより好ましく、置換のフェニル基であることがさらに好ましい。
【0072】
また、さらなる嵩高さを付与して、発光効率を向上させる点では、R7が置換される場合における置換基としては、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基であることが好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、メトキシ基がより好ましい。分散性の観点からは、tert-ブチル基、メトキシ基が特に好ましく、分子同士の凝集による消光を防ぐ。
【0073】
また、電子に対する安定性を向上し、耐久性を向上する点では、R7が置換される場合における置換基としては、電子求引基であることが好ましい。好ましい電子求引基としては、フッ素、含フッ素アルキル基、置換もしくは無置換のアシル基、置換もしくは無置換のエステル基、置換もしくは無置換のアミド基、置換もしくは無置換のスルホニル基、ニトロ基、シリル基、シアノ基または芳香族複素環基等が挙げられる。
【0074】
XがC-R7であり、R7が置換のフェニル基であって、当該置換のフェニル基が、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基およびハロゲンからなる群より選ばれる1つをオルト位もしくはメタ位に有するフェニル基であるか、フェニル基をパラ位に有するフェニル基であるか、または、フェニル基、アルキル基およびアルコキシ基からなる群より選ばれる基をオルト位およびメタ位にそれぞれ独立に有し、かつそれらの基が環構造を形成してなるフェニル基であることが好ましい。分子同士の重なりを抑制し、蛍光量子収率がより向上するからである。その効果をさらに大きくする観点から、XがC-R7であり、R7が置換のフェニル基であって、当該置換のフェニル基が、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基およびハロゲンからなる群より選ばれる1つをオルト位もしくはメタ位に有するフェニル基であるか、または、フェニル基、アルキル基およびアルコキシ基からなる群より選ばれる基をオルト位およびメタ位にそれぞれ独立に有し、かつそれらの基が環構造を形成してなるフェニル基であることが、さらに好ましい。
【0075】
式(2A)~(2D)において、R101およびR102は、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基であることが好ましい。一般式(1)で表される化合物が、より良い熱的安定性および光安定性を示すからである。特に、R101およびR102が置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基であると、それらの基はピロメテンホウ素錯体骨格への電子的影響が小さく、蛍光量子収率が高くなるため好ましい。好ましい置換基の具体例としては、アルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基が挙げられ、アリール基としては、フェニル基が挙げられる。合成の容易さの観点、および分散性の観点からは、メチル基、フェニル基が特に好ましく、これらの基であれば分子同士の凝集による消光が抑制される。
【0076】
また、R101とR102とが環を形成していても良い。R101とR102とが環を形成することで、構造緩和が抑制され、シャープな発光を得られる。また、分子全体の熱的な振動が抑制されるため、熱的安定性が向上する。R101とR102とが環を形成している場合の好ましい例としては、これらがスピロフルオレン環を形成している場合が挙げられる。具体的には、R101とR102がともにベンゼン環であって、それらが環を形成している構造である。R101とR102がともにベンゼン環であることで電気的安定性が向上し、さらにスピロ構造をとることで蒸着安定性が向上する。
【0077】
R8およびR9は、いずれか一つはアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、フッ素原子、含フッ素アルキル基、含フッ素ヘテロアリール基、含フッ素アリール基、含フッ素アルコキシ基、含フッ素アリールオキシ基またはシアノ基であることが好ましく、励起状態が安定でより高い蛍光量子収率が得られることから、フッ素原子、含フッ素アルキル基、含フッ素アルコキシ基または含フッ素アリール基であることが好ましく、特に合成の容易さから、フッ素であることがさらに好ましい。
【0078】
さらに、R8およびR9がいずれもフッ素原子であることが好ましい。励起状態が安定でより高い蛍光量子収率が得られることに加え、熱的安定性がより高いからである。
【0079】
また、R8もしくはR9のいずれか一つはシアノ基であることが好ましい。シアノ基は強い電子求引性を有するため、ピロメテンホウ素錯体骨格のホウ素上の置換基としてシアノ基を導入することで、ピロメテンホウ素錯体骨格の電子密度を下げることができる。これにより、一般式(1)で表される化合物の電子に対する安定性がより向上し、耐久性をより向上させることができる。
【0080】
さらに、R8およびR9がいずれもシアノ基であることが好ましい。ホウ素上に二つのシアノ基を導入することで、ピロメテンホウ素錯体骨格の電子密度をさらに下げることができる。これにより、一般式(1)で表される化合物の電子に対する安定性がさらに向上し、耐久性を大幅に向上させることができる。
【0081】
本発明のピロメテンホウ素錯体の一例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【化7】
【0082】
【0083】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、J. Org. Chem., vol.64, No.21, pp.7813-7819 (1999)、Angew. Chem., Int. Ed. Engl., vol.36, pp.1333-1335 (1997)、Org. Lett., vol.12, pp.296 (2010)などに記載されている方法を参考に製造することができる。例えば、下記一般式(5)で表される化合物と一般式(6)で表される化合物をオキシ塩化リン存在下、1,2-ジクロロエタン中で加熱した後、下記一般式(7)で表される化合物をトリエチルアミン存在下、1,2-ジクロロエタン中で反応させる方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。ここで、R1~R9は前記と同義である。Jはハロゲンを表す。
【0084】
【0085】
さらに、アリール基やヘテロアリール基の導入の際は、ハロゲン化誘導体とボロン酸あるいはボロン酸エステル化誘導体とのカップリング反応を用いて炭素-炭素結合を生成する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。同様に、アミノ基やカルバゾリル基の導入の際にも、例えば、パラジウムなどの金属触媒下でのハロゲン化誘導体とアミンあるいはカルバゾール誘導体とのカップリング反応を用いて炭素-窒素結合を生成する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0086】
本発明に係るピロメテンホウ素錯体は、励起光を用いることによりピーク波長が580nm以上750nm以下の領域に観測される発光を呈することが好ましい。以後、ピーク波長が580nm以上750nm以下の領域に観測される発光を「赤色の発光」という。
【0087】
本発明に係るピロメテンホウ素錯体は、波長430nm以上580nm以下の範囲の励起光を用いることにより赤色の発光を呈することが好ましい。本発明に係るピロメテンホウ素錯体を発光素子のドーパント材料として用いた場合、ホスト材料からの発光を吸収することで本発明に係るピロメテンホウ素錯体が赤く発光する。一般的なホスト材料は波長430nm以上580nm以下の範囲に発光をもつため、この励起光で赤色の発光を示すことができれば、発光素子の高効率化に寄与する。
【0088】
本発明に係るピロメテンホウ素錯体は、高発光効率と高色純度を両立できることから、電子デバイスにおいて、電子デバイス材料として用いることが好ましく、特に、発光素子、光電変換素子において、発光素子材料や光電変換素子材料として用いられることが好ましい。
【0089】
(光電変換素子材料)
光電変換素子材料とは、光電変換素子のいずれかの層に使用される材料を表し、後述するように、正孔取出し層、光電変換層および電子取出し層から選ばれた層に使用される材料である。本発明のピロメテンホウ素錯体を、光電変換素子のいずれかの層に使用することにより、高い変換効率を得られる。
【0090】
(光電変換素子)
光電変換素子は、アノードとカソード、およびそれらの間に介在する有機層を有し、有機層において光エネルギーが電気的信号に変換される。有機層は少なくとも光電変換層を有していることが好ましく、さらに光電変換層はp型材料とn型材料を含むことがより好ましい。p型材料は、電子供与性(ドナー性)の材料であり、HOMOのエネルギー準位が浅く、正孔を輸送しやすい。n型材料は、電子吸引性(アクセプター性)の材料であり、LUMOのエネルギー準位が深く、電子を輸送しやすい。p型材料とn型材料は積層されていてもよいし、混合されていてもよい。
【0091】
有機層は、光電変換層のみからなる構成の他に、1)正孔取出し層/光電変換層、2)光電変換層/電子取出し層、3)正孔取出し層/光電変換層/電子取出し層などの積層構成が挙げられる。電子取出し層とは、光電変換層からカソードへの電子の取出しが容易に行われるように設けられる層であり、通常、光電変換層とカソードとの間に設けられる。正孔取出し層とは、光電変換層からアノードへの正孔の取出しが容易に行われるように設けられる層であり、通常、アノードと光電変換層との間に設けられる。また、上記各層は、それぞれ単一層、複数層のいずれでもよい。
【0092】
本発明のピロメテンホウ素錯体は、上記の光電変換素子において、いずれの層に用いられてもよいが、高い電子親和性および薄膜安定性を有しており、且つ、可視光領域に強い吸収を有しているため、光電変換層に用いることが好ましい。特に、優れた電子輸送能を有していることから、光電変換層のn型材料に用いることが好ましい。また、本発明のピロメテンホウ素錯体は、特に高い電子親和性を有することから、電子取り出し層にも好適に用いることができる。これにより、光電変換層から陰極への電子取出し効率が高められるため、変換効率を向上させることが可能となる。
光電変換素子は、光センサーに用いることができる。また、本実施形態における光電変換素子は、太陽電池に用いることもできる。
【0093】
(発光素子材料)
本発明のピロメテンホウ素錯体は、発光素子材料として好ましく用いられる。ここで本発明における発光素子材料とは、発光素子のいずれかの層に使用される材料を表し、後述するように、正孔注入層、正孔輸送層、発光層および/または電子輸送層に使用される材料であるほか、電極の保護膜(キャップ層)に使用される材料も含む。本発明のピロメテンホウ素錯体を、発光素子のいずれかの層に使用することにより、高い発光効率が得られ、かつ高色純度の発光素子が得られる。
【0094】
(発光素子)
次に、本発明の発光素子の実施の形態について詳細に説明する。有機薄膜発光素子は、陽極と陰極、およびそれら陽極と陰極との間に介在する有機層を有し、該有機層が電気エネルギーにより発光する。
このような発光素子における陽極と陰極の間の層構成は、発光層のみからなる構成の他に、1)発光層/電子輸送層、2)正孔輸送層/発光層、3)正孔輸送層/発光層/電子輸送層、4)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層、5)正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層、6)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層、7)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層といった積層構成が挙げられる。
【0095】
さらに、上記の積層構成を、中間層を介して複数積層したタンデム型であってもよい。中間層は、一般的に、中間電極、中間導電層、電荷発生層、電子引抜層、接続層、中間絶縁層とも呼ばれ、公知の材料構成を用いることができる。タンデム型の具体例は、例えば8)正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷発生層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層、9)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/電荷発生層/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層といった、陽極と陰極の間に中間層として電荷発生層を含む積層構成が挙げられる。中間層を構成する材料としては、具体的にはピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体が好ましく用いられる。
【0096】
また、上記各層は、それぞれ単一層、複数層のいずれでもよく、ドーピングされていてもよい。さらに上記各層は、陽極、発光層を含む一以上の有機層、陰極を含み、さらに光学干渉効果に起因して発光効率を向上させるためのキャッピング材料を用いた層を含む素子構成も挙げられる。
【0097】
本発明のピロメテンホウ素錯体は、上記の素子構成において、いずれの層に用いられてもよいが、高い蛍光量子収率および薄膜安定性を有しているため、発光素子の発光層に用いることが好ましい。特に、優れた蛍光量子収率を有していることから、発光層のドーパント材料として用いることが好ましい。
【0098】
本発明の発光素子において、陽極と陰極は素子の発光のために十分な電流を供給するための役割を有するものであり、光を取り出すために少なくとも一方は透明または半透明であることが望ましい。通常、基板上に形成される陽極を透明電極とする。
【0099】
また、上記発光素子は、トップエミッション型の有機電界発光素子であることが好ましい。トップエミッション型の有機電界発光素子の場合、例えば、陽極を、反射電極層と透明電極層との積層構造とし、反射電極層上の透明電極層の膜厚を変える方法が挙げられる。陽極の上に有機層を適宜積層した後、陰極に、半透明電極として、例えば薄膜にした半透明の銀等を用いることで、有機電界発光素子にマイクロキャビティ構造を導入することができる。このように有機電界発光素子にマイクロキャビティ構造を導入すると、有機層から発光され、陰極を通して射出された光のスペクトルは、有機電界発光素子がマイクロキャビティ構造を有していない場合よりも急峻になり、また、正面への射出強度が大きく増大する。これをディスプレイに用いた場合、色域向上と、輝度向上に寄与する。
【0100】
(基板)
発光素子の機械的強度を保つために、発光素子を基板上に形成することが好ましい。基板としては、ソーダガラスや無アルカリガラスなどのガラス基板が好適に用いられる。ガラス基板の厚みは、機械的強度を保つのに十分な厚みがあればよいので、0.5mm以上あれば十分である。ガラスの材質については、ガラスからの溶出イオンが少ない方がよいので無アルカリガラスの方が好ましい。また、SiO2などのバリアコートを施したソーダライムガラスも市販されており、これを使用することもできる。また、基板上に形成される第一電極が安定に機能するのであれば、基板はガラスである必要はなく、例えば、プラスチック基板であってもよい。
【0101】
(陽極)
陽極に用いる材料は、正孔を有機層に効率よく注入できる材料、かつ光を取り出すために透明または半透明であれば、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)などの導電性金属酸化物、あるいは、金、銀、クロムなどの金属、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマーなど特に限定されるものでないが、ITOガラスやネサガラスを用いることが特に望ましい。これらの電極材料は、単独で用いてもよいが、複数の材料を積層または混合して用いてもよい。透明電極の抵抗は素子の発光に十分な電流が供給できればよいので限定されないが、素子の消費電力の観点からは低抵抗であることが望ましい。例えば300Ω/□以下のITO基板であれば素子電極として機能するが、現在では10Ω/□程度の基板の供給も可能になっていることから、20Ω/□以下の低抵抗の基板を使用することが特に望ましい。ITOの厚みは抵抗値に合わせて任意に選ぶ事ができるが、通常45~300nmの間で用いられることが多い。
【0102】
(陰極)
陰極に用いる材料は、電子を効率よく発光層に注入できる物質であれば特に限定されない。一般的には白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウム、インジウムなどの金属、またはこれらの金属とリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの低仕事関数金属との合金や多層積層などが好ましい。中でも、主成分としてはアルミニウム、銀、マグネシウムが電気抵抗値や製膜しやすさ、膜の安定性、発光効率などの面から好ましい。特にマグネシウムと銀で構成されると、本発明における電子輸送層および電子注入層への電子注入が容易になり、低電圧駆動が可能になるため好ましい。
【0103】
(保護膜層)
陰極保護のために、陰極上に保護膜層(キャップ層)を積層することが好ましい。保護膜層を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウムおよびインジウムなどの金属、これら金属を用いた合金、シリカ、チタニアおよび窒化ケイ素などの無機物、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、炭化水素系高分子化合物などの有機高分子化合物などが挙げられる。また、本発明のピロメテンホウ素錯体も、この保護膜層として利用できる。ただし、発光素子が、陰極側から光を取り出す素子構造(トップエミッション構造)である場合は、保護膜層に用いられる材料は、可視光領域で光透過性のある材料から選択される。
【0104】
(正孔注入層)
正孔注入層は陽極と正孔輸送層の間に挿入される層である。正孔注入層は1層であっても複数の層が積層されていてもどちらでもよい。正孔輸送層と陽極の間に正孔注入層が存在すると、より低電圧駆動し、耐久寿命も向上するだけでなく、さらに素子のキャリアバランスが向上して発光効率も向上するため好ましい。
正孔注入層に用いられる材料は特に限定されないが、例えば、4,4’-ビス(N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ)ビフェニル(TPD)、4,4’-ビス(N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ)ビフェニル(NPD)、4,4’-ビス(N,N-ビス(4-ビフェニリル)アミノ)ビフェニル(TBDB),ビス(N,N’-ジフェニル-4-アミノフェニル)-N,N-ジフェニル-4,4’ -ジアミノ-1,1’-ビフェニル(TPD232)といったベンジジン誘導体、4,4’,4”-トリス(3-メチルフェニル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)、4,4’,4”-トリス(1-ナフチル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミン(1-TNATA)などのスターバーストアリールアミンと呼ばれる材料群、ビス(N-アリールカルバゾール)またはビス(N-アルキルカルバゾール)などのビスカルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、ベンゾフラン誘導体、チオフェン誘導体、オキサジアゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体などの複素環化合物、ポリマー系では前記単量体を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリビニルカルバゾールおよびポリシランなどが用いられる。また、一般式(1)で表される化合物を用いることもできる。中でも一般式(1)で表される化合物より浅いHOMO準位を有し、陽極から正孔輸送層へ円滑に正孔を注入輸送するという観点からベンジジン誘導体、スターバーストアリールアミン系材料群がより好ましく用いられる。
【0105】
これらの材料は単独で用いてもよいし、2種以上の材料を混合して用いてもよい。また、複数の材料を積層して正孔注入層としてもよい。さらにこの正孔注入層が、アクセプター性化合物単独で構成されているか、または上記のような正孔注入材料にアクセプター性化合物をドープして用いると、上述した効果がより顕著に得られるのでより好ましい。アクセプター性化合物とは、単層膜として用いる場合は接している正孔輸送層と、ドープして用いる場合は正孔注入層を構成する材料と電荷移動錯体を形成する材料である。このような材料を用いると正孔注入層の導電性が向上し、より素子の駆動電圧低下に寄与し、発光効率の向上、耐久寿命向上といった効果が得られる。
【0106】
アクセプター性化合物の例としては、塩化鉄(III)、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、塩化アンチモンのような金属塩化物、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化ルテニウムのような金属酸化物、トリス(4-ブロモフェニル)アミニウムヘキサクロロアンチモネート(TBPAH)のような電荷移動錯体が挙げられる。また分子内にニトロ基、シアノ基、ハロゲンまたはトリフルオロメチル基を有する有機化合物や、キノン系化合物、酸無水物系化合物、フラーレンなども好適に用いられる。これらの化合物の具体的な例としては、ヘキサシアノブタジエン、ヘキサシアノベンゼン、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン(F4-TCNQ)、ラジアレーン誘導体、p-フルオラニル、p-クロラニル、p-ブロマニル、p-ベンゾキノン、2,6-ジクロロベンゾキノン、2,5-ジクロロベンゾキノン、テトラメチルベンゾキノン、1,2,4,5-テトラシアノベンゼン、o-ジシアノベンゼン、p-ジシアノベンゼン、1,4-ジシアノテトラフルオロベンゼン、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノベンゾキノン、p-ジニトロベンゼン、m-ジニトロベンゼン、o-ジニトロベンゼン、p-シアノニトロベンゼン、m-シアノニトロベンゼン、o-シアノニトロベンゼン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロナフトキノン、1-ニトロナフタレン、2-ニトロナフタレン、1,3-ジニトロナフタレン、1,5-ジニトロナフタレン、9-シアノアントラセン、9-ニトロアントラセン、9,10-アントラキノン、1,3,6,8-テトラニトロカルバゾール、2,4,7-トリニトロ-9-フルオレノン、2,3,5,6-テトラシアノピリジン、マレイン酸無水物、フタル酸無水物、C60、およびC70などが挙げられる。
【0107】
これらの中でも、金属酸化物やシアノ基含有化合物が取り扱いやすく、蒸着もしやすいことから、容易に上述した効果が得られるので好ましい。正孔注入層がアクセプター性化合物単独で構成される場合、または正孔注入層にアクセプター性化合物がドープされている場合のいずれの場合も、正孔注入層は1層であってもよいし、複数の層が積層されて構成されていてもよい。
【0108】
(正孔輸送層)
正孔輸送層は、陽極から注入された正孔を発光層まで輸送する層である。正孔輸送層は単層であっても複数の層が積層されて構成されていてもどちらでもよい。
正孔輸送層は、正孔輸送材料の一種または二種以上を積層または混合する方法、もしくは、正孔輸送材料と高分子結着剤の混合物を用いる方法により形成される。また、正孔輸送材料は、電界を与えられた電極間において陽極からの正孔を効率良く輸送することが必要で、正孔注入効率が高く、注入された正孔を効率良く輸送することが好ましい。そのためには適切なイオン化ポテンシャルを持ち、しかも正孔移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時および使用時に発生しにくい物質であることが要求される。
【0109】
このような条件を満たす物質として、特に限定されるものではないが、例えば、4,4’-ビス(N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ)ビフェニル(TPD)、4,4’-ビス(N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ)ビフェニル(NPD)、4,4’-ビス(N,N-ビス(4-ビフェニリル)アミノ)ビフェニル(TBDB),ビス(N,N’-ジフェニル-4-アミノフェニル)-N,N-ジフェニル-4,4’-ジアミノ-1,1’-ビフェニル(TPD232)といったベンジジン誘導体、4,4’,4”-トリス(3-メチルフェニル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)、4,4’,4”-トリス(1-ナフチル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミン(1-TNATA)などのスターバーストアリールアミンと呼ばれる材料群、ビス(N-アリールカルバゾール)またはビス(N-アルキルカルバゾール)などのビスカルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、ベンゾフラン誘導体、チオフェン誘導体、オキサジアゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体などの複素環化合物、ポリマー系では前記単量体を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリビニルカルバゾールおよびポリシランなどが挙げられる。
【0110】
(発光層)
発光層は、単一層、複数層のどちらでもよく、それぞれ発光材料(ホスト材料、ドーパント材料)により形成され、これはホスト材料とドーパント材料との混合物であっても、ホスト材料単独であっても、2種類のホスト材料と1種類のドーパント材料との混合物であっても、いずれでもよい。すなわち、本発明の発光素子では、各発光層において、ホスト材料もしくはドーパント材料のみが発光してもよいし、ホスト材料とドーパント材料がともに発光してもよい。電気エネルギーを効率よく利用し、高色純度の発光を得るという観点からは、発光層はホスト材料とドーパント材料の混合からなることが好ましい。また、ホスト材料とドーパント材料は、それぞれ一種類であっても、複数の組み合わせであっても、いずれでもよい。ドーパント材料はホスト材料の全体に含まれていても、部分的に含まれていても、いずれでもよい。ドーパント材料は積層されていても、分散されていても、いずれでもよい。ドーパント材料は発光色の制御ができる。ドーパント材料の量は、多すぎると濃度消光現象が起きるため、ホスト材料に対して30質量%以下で用いることが好ましく、さらに好ましくは20質量%以下である。ドーピング方法は、ホスト材料との共蒸着法によって形成することができるが、ホスト材料と予め混合してから同時に蒸着してもよい。
【0111】
発光材料は、以前から発光体として知られていたアントラセンやピレンなどの縮合環誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウムを始めとする金属キレート化オキシノイド化合物、ビススチリルアントラセン誘導体やジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、インデン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリマー系では、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、そして、ポリチオフェン誘導体などが使用できるが特に限定されるものではない。
【0112】
本発明のピロメテンホウ素錯体も、蛍光量子収率が高く、さらに電気化学的安定性に優れているため、発光材料として用いることができる。本発明のピロメテンホウ素錯体は、ホスト材料として用いてもよいが、強い電子親和性を持っていることから、ドーパント材料として用いると発光層に注入された過剰の電子をトラップする効果があるため、正孔輸送層が電子のアタックにより劣化するのを防ぐことができるので特に好ましい。
【0113】
発光材料に含有されるホスト材料は、化合物一種のみに限る必要はなく、本発明のピロメテンホウ素錯体を複数混合して用いたり、その他のホスト材料の一種類以上を混合して用いたりしてもよい。また、積層して用いてもよい。ホスト材料としては、特に限定されないが、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、トリフェニレン、ペリレン、フルオランテン、フルオレン、インデンなどの縮合アリール環を有する化合物やその誘導体、N,N’-ジナフチル-N,N’-ジフェニル-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミンなどの芳香族アミン誘導体、トリス(8-キノリナート)アルミニウム(III)をはじめとする金属キレート化オキシノイド化合物、ジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、インデン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ピロロピロール誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、トリアジン誘導体、ポリマー系では、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体などが使用できるが特に限定されるものではない。中でも、発光層が三重項発光(りん光発光)を行う際に用いられるホストとしては、金属キレート化オキシノイド化合物、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、トリアジン誘導体、トリフェニレン誘導体などが好適に用いられる。特に好ましくはアントラセン誘導体またはナフタセン誘導体である。
【0114】
発光材料に含有されるドーパント材料は、特に限定されないが、一般式(1)で表される化合物以外に、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、フルオランテン、トリフェニレン、ペリレン、フルオレン、インデンなどのアリール環を有する化合物やその誘導体(例えば2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-9,10-ジフェニルアントラセンや5,6,11,12-テトラフェニルナフタセンなど)、フラン、ピロール、チオフェン、シロール、9-シラフルオレン、9,9’-スピロビシラフルオレン、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、インドール、ジベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、イミダゾピリジン、フェナントロリン、ピラジン、ナフチリジン、キノキサリン、ピロロピリジン、チオキサンテンなどのヘテロアリール環を有する化合物やその誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、4,4’-ビス(2-(4-ジフェニルアミノフェニル)エテニル)ビフェニル、4,4’-ビス(N-(スチルベン-4-イル)-N-フェニルアミノ)スチルベンなどのアミノスチリル誘導体、芳香族アセチレン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、スチルベン誘導体、アルダジン誘導体、ピロメテン誘導体、ジケトピロロ[3,4-c]ピロール誘導体、2,3,5,6-1H,4H-テトラヒドロ-9-(2’-ベンゾチアゾリル)キノリジノ[9,9a,1-gh]クマリンなどのクマリン誘導体、イミダゾール、チアゾール、チアジアゾール、カルバゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾールなどのアゾール誘導体およびその金属錯体およびN,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(3-メチルフェニル)-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミンに代表される芳香族アミン誘導体などが挙げられる。その中でも、ジアミン骨格を含むドーパントや、フルオランテン骨格を含むドーパントを用いることで、高効率発光が得られやすいことから、好ましい。ジアミン骨格を含むドーパントは正孔トラップ性が高く、フルオランテン骨格を含むドーパントは電子トラップ性が高い。
【0115】
また、発光層が三重項発光(りん光発光)を行う際に用いられるドーパントとしては、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、オスミウム(Os)、及びレニウム(Re)からなる群から選択される少なくとも一つの金属を含む金属錯体化合物であることが好ましい。配位子は、フェニルピリジン骨格またはフェニルキノリン骨格またはカルベン骨格などの含窒素芳香族複素環を有することが好ましい。しかしながら、これらに限定されるものではなく、要求される発光色、素子性能、ホスト化合物との関係から適切な錯体が選ばれる。具体的には、トリス(2-フェニルピリジル)イリジウム錯体、トリス{2-(2-チオフェニル)ピリジル}イリジウム錯体、トリス{2-(2-ベンゾチオフェニル)ピリジル}イリジウム錯体、トリス(2-フェニルベンゾチアゾール)イリジウム錯体、トリス(2-フェニルベンゾオキサゾール)イリジウム錯体、トリスベンゾキノリンイリジウム錯体、ビス(2-フェニルピリジル)(アセチルアセトナート)イリジウム錯体、ビス{2-(2-チオフェニル)ピリジル}イリジウム錯体、ビス{2-(2-ベンゾチオフェニル)ピリジル}(アセチルアセトナート)イリジウム錯体、ビス(2-フェニルベンゾチアゾール)(アセチルアセトナート)イリジウム錯体、ビス(2-フェニルベンゾオキサゾール)(アセチルアセトナート)イリジウム錯体、ビスベンゾキノリン(アセチルアセトナート)イリジウム錯体、ビス{2-(2,4-ジフルオロフェニル)ピリジル}(アセチルアセトナート)イリジウム錯体、テトラエチルポルフィリン白金錯体、{トリス(セノイルトリフルオロアセトン)モノ(1,10-フェナントロリン)}ユーロピウム錯体、{トリス(セノイルトリフルオロアセトン)モノ(4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)}ユーロピウム錯体、{トリス(1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオン)モノ(1,10-フェナントロリン)}ユーロピウム錯体、トリスアセチルアセトンテルビウム錯体などが挙げられる。また、特開2009-130141号に記載されているリン光ドーパントも好適に用いられる。これらに限定されるものではないが、高効率発光が得られやすいことから、イリジウム錯体または白金錯体が好ましく用いられる。
【0116】
ドーパント材料として用いられる上記三重項発光材料は、発光層中に各々一種類のみが含まれていてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。三重項発光材料を二種以上用いる際には、ドーパント材料の総質量がホスト材料に対して30質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0117】
また、発光層には上記ホスト材料および三重項発光材料の他に、発光層内のキャリアバランスを調整するためや発光層の層構造を安定化させるための第3成分を更に含んでいてもよい。但し、第3成分としては、ホスト材料およびドーパント材料との間で相互作用を起こさないような材料を選択する。
【0118】
三重項発光系における好ましいホストおよびドーパントとしては、特に限定されるものではないが、具体的には以下のような例が挙げられる。
【化10】
【0119】
【0120】
本発明の発光素子は、発光層に熱活性化遅延蛍光材料を含有することが好ましい。熱活性化遅延蛍光材料は、一般的に、TADF材料(Thermally Activated Delayed fluorescence)とも呼ばれ、一重項励起状態のエネルギー準位と三重項励起状態エネルギー準位のエネルギーギャップを小さくすることで、三重項励起状態から一重項励起状態への逆項間交差を促進し、一重項励起子生成確率を向上させた材料である。発光層が熱活性化遅延蛍光材料を含有すると、さらに高効率発光が可能となり、ディスプレイの低消費電力化に寄与する。熱活性化遅延蛍光材料は、単一の材料で熱活性化遅延蛍光を示す材料であってもいいし、複数の材料で熱活性化遅延蛍光を示す材料であってよい。
【0121】
用いられる熱活性化遅延蛍光材料は、単一でも複数の材料でもよく、公知の材料を用いることができる。具体的には、例えば、ベンゾニトリル誘導体、トリアジン誘導体、ジスルホキシド誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ジヒドロフェナジン誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体などが挙げられる。
【0122】
(電子輸送層)
本発明において、電子輸送層とは、陰極から電子が注入され、さらに電子を輸送する層である。電子輸送層には、電子注入効率が高く、注入された電子を効率良く輸送することが望まれる。そのため電子輸送層は、電子親和力が大きく、しかも電子移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時および使用時に発生しにくい物質であることが要求される。特に膜厚を厚く積層する場合には、低分子量の化合物は結晶化するなどして膜質が劣化しやすいため、安定な膜質を保つ分子量400以上の化合物が好ましい。しかしながら、正孔と電子の輸送バランスを考えた場合に、電子輸送層が陽極からの正孔が再結合せずに陰極側へ流れるのを効率よく阻止できる役割を主に果たすならば、電子輸送能力がそれ程高くない材料で構成されていても、発光効率を向上させる効果は電子輸送能力が高い材料で構成されている場合と同等となる。したがって、本発明における電子輸送層には、正孔の移動を効率よく阻止できる正孔阻止層も同義のものとして含まれ、正孔阻止層および電子輸送層は単独でも複数の材料が積層されて構成されていてもよい。
【0123】
電子輸送層に用いられる電子輸送材料としては、ナフタレン、アントラセンなどの縮合多環芳香族誘導体、4,4’-ビス(ジフェニルエテニル)ビフェニルに代表されるスチリル系芳香環誘導体、アントラキノンやジフェノキノンなどのキノン誘導体、リンオキサイド誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム(III)などのキノリノール錯体、ベンゾキノリノール錯体、ヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体およびフラボノール金属錯体などの各種金属錯体が挙げられるが、駆動電圧を低減し、高効率発光が得られることから、炭素、水素、窒素、酸素、ケイ素、リンの中から選ばれる元素で構成され、電子受容性窒素を含むヘテロアリール環構造を有する化合物を用いることが好ましい。
【0124】
ここで言う電子受容性窒素とは、隣接原子との間に多重結合を形成している窒素原子を表す。窒素原子が高い電子陰性度を有することから、該多重結合は電子受容的な性質を有する。それゆえ、電子受容性窒素を含む芳香族複素環は、高い電子親和性を有する。電子受容性窒素を有する電子輸送材料は、高い電子親和力を有する陰極からの電子を受け取りやすくし、より低電圧駆動が可能となる。また、発光層への電子の供給が多くなり、再結合確率が高くなるので発光効率が向上する。
【0125】
電子受容性窒素を含むヘテロアリール環としては、例えば、トリアジン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、キノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、ナフチリジン環、ピリミドピリミジン環、ベンゾキノリン環、フェナントロリン環、イミダゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンズイミダゾール環、フェナンスロイミダゾール環などが挙げられる。
【0126】
これらのヘテロアリール環構造を有する化合物としては、例えば、ピリジン誘導体、トリアジン誘導体、キナゾリン誘導体、ピリミジン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、ビピリジンやターピリジンなどのオリゴピリジン誘導体、キノキサリン誘導体およびナフチリジン誘導体などが好ましい化合物として挙げられる。中でも、トリス(N-フェニルベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼンなどのイミダゾール誘導体、1,3-ビス[(4-tert-ブチルフェニル)1,3,4-オキサジアゾリル]フェニレンなどのオキサジアゾール誘導体、N-ナフチル-2,5-ジフェニル-1,3,4-トリアゾールなどのトリアゾール誘導体、バソクプロインや1,3-ビス(1,10-フェナントロリン-9-イル)ベンゼンなどのフェナントロリン誘導体、2,2’-ビス(ベンゾ[h]キノリン-2-イル)-9,9’-スピロビフルオレンなどのベンゾキノリン誘導体、2,5-ビス(6’-(2’,2”-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロールなどのビピリジン誘導体、1,3-ビス(4’-(2,2’:6’2”-ターピリジニル))ベンゼンなどのターピリジン誘導体、ビス(1-ナフチル)-4-(1,8-ナフチリジン-2-イル)フェニルホスフィンオキサイドなどのナフチリジン誘導体が、電子輸送能の観点から好ましく用いられる。
【0127】
また、これらの誘導体が、縮合多環芳香族骨格を有していると、ガラス転移温度が向上すると共に、電子移動度も大きくなり発光素子の低電圧化の効果が大きいのでより好ましい。さらに、素子耐久寿命が向上し、合成のし易さ、原料入手が容易であることを考慮すると、縮合多環芳香族骨格はフルオランテン骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格またはフェナントロリン骨格であることがより好ましく、フルオランテン骨格またはフェナントロリン骨格であることが特に好ましい。
フルオランテン骨格を有する化合物は、フルオランテン骨格の深いLUMOエネルギーを高めるために、フルオランテン骨格とアミノ基を有する化合物がより好ましい。
【0128】
フェナントロリン骨格を有する化合物は、電荷を分散し、電子の授受を速くするために、分子中にフェナントロリン骨格を複数有していると、より好ましい。
電子受容性窒素を含むヘテロアリール環構造を有する化合物は深いHOMO準位を有しているため、正孔阻止層としても好ましく用いられる。本発明の実施の形態に係る発光素子は、発光層と前記陰極との間に正孔阻止層が存在し、正孔阻止層が、トリアジン誘導体、キナゾリン誘導体またはピリミジン誘導体を含有することが特に好ましい。
【0129】
好ましい電子輸送材料としては、特に限定されるものではないが、具体的には以下のような例が挙げられる。
【化12】
【0130】
上記電子輸送材料は単独でも用いられるが、上記電子輸送材料の2種以上を混合して用いたり、その他の電子輸送材料の一種以上を上記の電子輸送材料に混合して用いたりしても構わない。また、ドナー性化合物を含有してもよい。ここで、ドナー性化合物とは電子注入障壁の改善により、陰極または電子注入層からの電子輸送層への電子注入を容易にし、さらに電子輸送層の電気伝導性を向上させる化合物である。
【0131】
ドナー性化合物の好ましい例としては、アルカリ金属、アルカリ金属を含有する無機塩、アルカリ金属と有機物との錯体、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属を含有する無機塩またはアルカリ土類金属と有機物との錯体などが挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属の好ましい種類としては、低仕事関数で電子輸送能向上の効果が大きいリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムといったアルカリ金属や、マグネシウム、カルシウム、セリウム、バリウムといったアルカリ土類金属が挙げられる。
【0132】
また、真空中での蒸着が容易で取り扱いに優れることから、金属単体よりも無機塩、あるいは有機物との錯体の状態であることが好ましい。さらに、大気中での取扱を容易にし、添加濃度の制御のし易さの点で、有機物との錯体の状態にあることがより好ましい。無機塩の例としては、LiO、Li2O等の酸化物、窒化物、LiF、NaF、KF等のフッ化物、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3等の炭酸塩などが挙げられる。また、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の好ましい例としては、大きな低電圧駆動効果が得られるという観点ではリチウム、セシウムが挙げられる。また、有機物との錯体における有機物の好ましい例としては、キノリノール、ベンゾキノリノール、ピリジルフェノール、フラボノール、ヒドロキシイミダゾピリジン、ヒドロキシベンズアゾール、ヒドロキシトリアゾールなどが挙げられる。中でも、より発光素子の低電圧化の効果が大きいという観点ではアルカリ金属と有機物との錯体が好ましく、さらに合成のしやすさ、熱安定性という観点からリチウムと有機物との錯体がより好ましく、比較的安価で入手できるリチウムキノリノール(Liq)が特に好ましい。
【0133】
電子輸送層のイオン化ポテンシャルは、特に限定されないが、好ましくは5.6eV以上8.0eV以下であり、より好ましくは5.6eV以上7.0eV以下である。
発光素子を構成する上記各層の形成方法は、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、コーティング法など特に限定されないが、通常は、素子特性の点から抵抗加熱蒸着または電子ビーム蒸着が好ましい。
【0134】
本発明の発光素子において、有機層の厚みは、発光物質の抵抗値にもよるので限定することはできないが、1~1000nmであることが好ましい。発光層、電子輸送層、正孔輸送層の膜厚はそれぞれ、好ましくは1nm以上200nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上100nm以下である。
【0135】
本発明の発光素子は、電気エネルギーを光に変換できる機能を有する。ここで電気エネルギーとしては主に直流電流が使用されるが、パルス電流や交流電流を用いることも可能である。電流値および電圧値は特に制限はないが、素子の消費電力や寿命を考慮すると、できるだけ低いエネルギーで最大の輝度が得られるよう選ばれるべきである。
【0136】
本発明の発光素子は、例えば、マトリクスおよび/またはセグメント方式で表示するディスプレイ等の表示装置として好適に用いられる。
マトリクス方式とは、表示のための画素が格子状やモザイク状など二次元的に配置され、画素の集合で文字や画像を表示する。画素の形状やサイズは用途によって決まる。例えば、パソコン、モニター、テレビの画像および文字表示には、通常一辺が300μm以下の四角形の画素が用いられ、また、表示パネルのような大型ディスプレイの場合は、一辺がmmオーダーの画素を用いることになる。モノクロ表示の場合は、同じ色の画素を配列すればよいが、カラー表示の場合には、赤、緑、青の画素を並べて表示させる。この場合、典型的にはデルタタイプとストライプタイプがある。そして、このマトリクスの駆動方法は、線順次駆動方法やアクティブマトリクスのどちらでもよい。線順次駆動はその構造が簡単であるが、動作特性を考慮した場合、アクティブマトリクスの方が優れる場合があるので、これも用途によって使い分けることが必要である。
【0137】
本発明におけるセグメント方式とは、予め決められた情報を表示するようにパターンを形成し、このパターンの配置によって決められた領域を発光させる方式である。例えば、デジタル時計や温度計における時刻や温度表示、オーディオ機器や電磁調理器などの動作状態表示および自動車のパネル表示などが挙げられる。そして、前記マトリクス表示とセグメント表示は同じパネルの中に共存していてもよい。
【0138】
本発明の発光素子は、各種機器等のバックライトとしても好ましく用いられる。バックライトは、主に自発光しないディスプレイ等の表示装置の視認性を向上させる目的に使用され、液晶ディスプレイ、時計、オーディオ装置、自動車パネル、表示板および標識などの表示装置に使用される。特に、液晶ディスプレイ、中でも薄型化が検討されているパソコン用途のバックライトに本発明の発光素子は好ましく用いられ、従来のものより薄型で軽量なバックライトを提供できる。
【0139】
本発明の実施の形態に係る発光素子は、各種照明装置としても好ましく用いられる。本発明の実施の形態に係る発光素子は、高い発光効率と高色純度との両立が可能であり、さらに、薄型化や軽量化が可能であることから、低消費電力と鮮やかな発光色、高いデザイン性を合わせ持った照明装置が実現できる。
【0140】
(色変換組成物)
本発明の実施形態に係る色変換組成物について詳細に説明する。本発明の実施形態に係る色変換組成物は、光源等の発光体からの入射光を、その入射光よりも長波長の光に変換するものであって、上述した本発明に係るピロメテンホウ素錯体およびバインダー樹脂を含むことが好ましい。
本発明の実施形態に係る色変換組成物は、本発明に係るピロメテンホウ素錯体以外に、必要に応じてその他の化合物を適宜含有することができる。例えば、励起光から本発明に係るピロメテンホウ素錯体へのエネルギー移動効率を更に高めるために、ルブレンなどのアシストドーパントを含有してもよい。また、本発明に係るピロメテンホウ素錯体の発光色以外の発光色を加味したい場合は、所望の有機発光材料、例えば、クマリン誘導体やローダミン誘導体等の有機発光材料を添加することができる。その他、有機発光材料以外でも、無機蛍光体、蛍光顔料、蛍光染料、量子ドット等の公知の発光材料を組み合わせて添加することも可能である。
【0141】
以下に、本発明のピロメテンホウ素錯体以外の有機発光材料の一例を示すが、本発明は、特にこれらに限定されるものではない。
【化13】
【0142】
本発明において、色変換組成物は、励起光を用いることにより、ピーク波長が500nm以上580nm未満の領域に観測される発光を呈することが好ましい。また、色変換組成物は、励起光を用いることにより、ピーク波長が580nm以上750nm以下の領域に観測される発光を呈することが好ましい。
【0143】
すなわち、本発明の実施形態に係る色変換組成物は、以下の発光材料(a)と発光材料(b)とを含有することが好ましい。発光材料(a)は、励起光を用いることによってピーク波長が500nm以上580nm未満の領域に観測される発光を呈する発光材料である。発光材料(b)は、励起光もしくは発光材料(a)からの発光の少なくとも一方によって励起されることにより、ピーク波長が580nm以上750nm以下の領域に観測される発光を呈する発光材料である。これらの発光材料(a)および発光材料(b)のうちの少なくとも一つは、本発明のピロメテンホウ素錯体であることが好ましい。また、上記の励起光として、波長430nm以上500nm以下の範囲の励起光を用いることがより好ましい。
【0144】
波長430nm以上500nm以下の範囲の励起光の一部は、本発明の実施形態に係る色変換フィルムを一部透過するため、発光ピークが鋭い青色LEDを使用した場合、青、緑、赤の各色において鋭い形状の発光スペクトルを示し、色純度の良い白色光を得ることができる。その結果、特にディスプレイにおいては、色彩が一層鮮やかな、より大きな色域を効率的に作ることができる。また、照明用途においては、現在主流となっている青色LEDと黄色蛍光体とを組み合わせた白色LEDに比べ、特に緑色領域および赤色領域の発光特性が改善されるため、演色性が向上した好ましい白色光源を得ることができる。
【0145】
発光材料(a)および発光材料(b)としては、それぞれ公知のものを利用できるが、ピロメテン誘導体は、高い発光量子収率を与え、色純度の高い発光を示すことから、特に好適な化合物である。ピロメテン誘導体の中でも、本発明のピロメテンホウ素錯体は、耐久性が大幅に向上するため、好ましい。
【0146】
また、発光材料(a)および発光材料(b)は、双方とも本発明のピロメテンホウ素錯体である場合、高効率発光および高色純度と、高い耐久性とを両立させることが可能となるため、好ましい。
【0147】
本発明の実施形態に係る色変換組成物における一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体の含有量は、ピロメテンホウ素錯体のモル吸光係数、発光量子収率および励起波長における吸収強度、ならびに作製するフィルムの厚みや透過率にもよるが、通常はバインダー樹脂の100質量部に対して、1.0×10-4質量部~30質量部である。この化合物の含有量は、バインダー樹脂の100質量部に対して、1.0×10-3質量部~10質量部であることがさらに好ましく、1.0×10-2質量部~5質量部であることが特に好ましい。
【0148】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂は、連続相を形成するものであり、成型加工性、透明性、耐熱性等に優れる材料であればよい。バインダー樹脂の例としては、例えば、アクリル酸系、メタクリル酸系、ポリケイ皮酸ビニル系、環ゴム系等の反応性ビニル基を有する光硬化型レジスト材料、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂(シリコーンゴム、シリコーンゲル等のオルガノポリシロキサン硬化物(架橋物)を含む)、ウレア樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、脂肪族エステル樹脂、芳香族エステル樹脂、脂肪族ポリオレフィン樹脂、芳香族ポリオレフィン樹脂等の公知のものが挙げられる。また、バインダー樹脂としては、これらの共重合樹脂を用いても構わない。これらの樹脂を適宜設計することで、本発明の実施形態に係る色変換組成物および色変換フィルムに有用なバインダー樹脂が得られる。これらの樹脂の中でも、フィルム化のプロセスが容易であることから、熱可塑性樹脂がさらに好ましい。熱可塑性樹脂の中でも、透明性、耐熱性等の観点から、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂、オレフィン樹脂またはこれらの混合物を好適に用いることができる。また、耐久性の観点から特に好ましい熱可塑性樹脂は、アクリル樹脂、エステル樹脂、シクロオレフィン樹脂である。
【0149】
(その他の成分)
本発明の実施形態に係る色変換組成物は、上述した本発明のポリメテンホウ素錯体およびバインダー樹脂以外に、光安定化剤、酸化防止剤、加工および熱安定化剤、紫外線吸収剤等の耐光性安定化剤、シリコーン微粒子およびシランカップリング剤等、その他の成分を含有してもよい。
【0150】
(溶剤)
本発明の実施形態に係る色変換組成物は、溶剤を含んでいてもよい。溶剤は、流動状態の樹脂の粘度を調整でき、発光物質の発光および耐久性に過度な影響を与えないものであれば、特に限定されない。このような溶媒として、例えば、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ヘキサン、アセトン、テルピネオール、テキサノール、メチルセルソルブ、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。これらの溶剤を2種類以上混合して使用することも可能である。これらの溶剤の中で特にトルエンは、本発明のポリメテンホウ素錯体の劣化に影響を与えず、乾燥後の残存溶媒が少ない点で好適に用いられる。
【0151】
(色変換組成物の製造方法)
以下に、本発明の実施形態に係る色変換組成物の製造方法の一例を説明する。この製造方法では、本発明のポリメテンホウ素錯体、バインダー樹脂、溶剤等を所定量混合する。上記の成分を所定の組成になるよう混合した後、ホモジナイザー、自公転型攪拌機、3本ローラー、ボールミル、遊星式ボールミル、ビーズミル等の撹拌・混練機で均質に混合分散することで、色変換組成物が得られる。混合分散後、もしくは混合分散の過程で、真空もしくは減圧条件下で脱泡することも好ましく行われる。また、ある特定の成分を事前に混合することや、エージング等の処理をしても構わない。エバポレーターによって溶剤を除去して所望の固形分濃度にすることも可能である。
【0152】
(色変換フィルムの作製方法)
本発明の実施の形態に係る色変換フィルムは、上述の色変換組成物、またはその硬化物からなる色変換層を含むものである。本発明において、色変換フィルムは、色変換組成物、またはそれを硬化した硬化物からなる色変換層を含んでいれば、その構成に限定はない。色変換組成物の硬化物は、色変換組成物を硬化することによって得られる色変換層(色変換組成物の硬化物からなる色変換層)として色変換フィルムに含まれることが好ましい。色変換フィルムの代表的な構造例として、例えば、以下の四つが挙げられる。
【0153】
図1は、本発明の実施形態に係る色変換フィルムの第一例を示す模式断面図である。
図1に示すように、この第一例の色変換フィルム1Aは、色変換層11によって構成される単層のフィルムである。色変換層11は、上述した色変換組成物の硬化物からなる層である。
【0154】
図2は、本発明の実施形態に係る色変換フィルムの第二例を示す模式断面図である。
図2に示すように、この第二例の色変換フィルム1Bは、基材層10と色変換層11との積層体である。この色変換フィルム1Bの構造例では、色変換層11が、基材層10の上に積層されている。
【0155】
図3は、本発明の実施形態に係る色変換フィルムの第三例を示す模式断面図である。
図3に示すように、この第三例の色変換フィルム1Cは、複数の基材層10と、色変換層11との積層体である。この色変換フィルム1Cの構造例では、色変換層11が、複数の基材層10によって挟まれている。
【0156】
図4は、本発明の実施形態に係る色変換フィルムの第四例を示す模式断面図である。
図4に示すように、この第四例の色変換フィルム1Dは、複数の基材層10と、色変換層11と、複数のバリアフィルム12との積層体である。この色変換フィルム1Dの構造例では、色変換層11が、複数のバリアフィルム12によって挟まれ、さらに、これら色変換層11と複数のバリアフィルム12との積層体が、複数の基材層10によって挟まれている。すなわち、色変換フィルム1Dは、色変換層11の酸素、水分や熱による劣化を防ぐために、
図4に示すようにバリアフィルム12を有していてもよい。
【0157】
(基材層)
基材層(例えば
図2~4に示す基材層10)としては、特に制限無く公知の金属、フィルム、ガラス、セラミック、紙等を使用することができる。これらの中でも、色変換フィルムの作製のし易さや色変換フィルムの成形のし易さから、ガラスや樹脂フィルムが好ましく用いられる。また、フィルム状の基材層を取り扱う際に破断等の恐れがないように、強度が高いフィルムが好ましい。それらの要求特性や経済性の面で樹脂フィルムが好ましく、これらの中でも、経済性、取り扱い性の面でPET、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリプロピレンからなる群より選ばれるプラスチックフィルムが好ましい。また、色変換フィルムを乾燥させる場合や色変換フィルムを押し出し機により200℃以上の高温で圧着成形する場合は、耐熱性の面でポリイミドフィルムが好ましい。フィルムの剥離のし易さから、基材層は、予め表面が離型処理されていてもよい。
基材層の厚さは、特に制限はないが、下限としては25μm以上が好ましく、38μm以上がより好ましい。また、上限としては5000μm以下が好ましく、3000μm以下がより好ましい。
【0158】
(色変換層)
つぎに、本発明の実施形態に係る色変換フィルムの色変換層の製造方法の一例を説明する。この色変換層の製造方法では、上述した方法で作製した色変換組成物を、基材層やバリアフィルム等の下地上に塗布し、乾燥させる。このようにして、色変換層(例えば
図1~4に示す色変換層11)が形成される。塗布は、公知の方法で行うことができるが、色変換層の膜厚均一性を得るためには、スリットダイコーターで塗布することが好ましい。
【0159】
色変換層の乾燥は、熱風乾燥機や赤外線乾燥機等の一般的な加熱装置を用いて行うことができる。色変換フィルムの加熱には、熱風乾燥機や赤外線乾燥機等の一般的な加熱装置が用いられる。この場合、加熱条件は、通常、40℃~250℃で1分~5時間、好ましくは60℃~200℃で2分~4時間である。また、ステップキュア等の段階的に加熱硬化することも可能である。
【0160】
色変換層を作製した後、必要に応じて基材層を変更することも可能である。この場合、簡易的な方法としては、例えば、ホットプレートを用いて貼り替えを行なう方法や、真空ラミネーターやドライフィルムラミネーターを用いた方法等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0161】
色変換層の厚みは、特に制限はないが、10μm~1000μmであることが好ましい。色変換層の厚みが10μmより小さいと、色変換フィルムの強靭性が小さくなるという問題がある。色変換層の厚みが1000μmを超えると、クラックが生じやすくなり、色変換フィルム成形が難しい。色変換層の厚みとして、より好ましくは、30μm~100μmである。
【0162】
一方で、色変換フィルムの耐熱性を高めるという観点からは、色変換フィルムの膜厚は、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。
本発明における色変換フィルムの膜厚は、JIS K7130(1999)プラスチック-フィルム及びシート-厚さ測定方法における機械的走査による厚さの測定方法A法に基づいて測定される膜厚(平均膜厚)のことをいう。
【0163】
(バリアフィルム)
バリアフィルム(例えば
図4に示すバリアフィルム12)は、色変換層に対してガスバリア性を向上する場合等において適宜用いられる。このバリアフィルムとしては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム等の無機酸化物や、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化窒化ケイ素等の無機窒化物、またはこれらの混合物、またはこれらに他の元素を添加した金属酸化物薄膜や金属窒化物薄膜、あるいはポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、酢酸ビニルのケン化物等のポリビニルアルコール系樹脂等の各種樹脂から成る膜を挙げることができる。また、水分に対してバリア機能を有するバリアフィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデンと塩化ビニルとの共重合物、塩化ビニリデンとアクリロニトリルとの共重合物、フッ素系樹脂、酢酸ビニルのケン化物等のポリビニルアルコール系樹脂等の各種樹脂から成る膜を挙げることができる。
【0164】
バリアフィルムは、
図4に例示したバリアフィルム12のように色変換層11の両面に設けられてもよいし、色変換層11の片面だけに設けられてもよい。また、色変換フィルムの要求される機能に応じて、反射防止機能、防眩機能、反射防止防眩機能、ハードコート機能(耐摩擦機能)、帯電防止機能、防汚機能、電磁波シールド機能、赤外線カット機能、紫外線カット機能、偏光機能、調色機能を有した補助層をさらに設けてもよい。
【0165】
(色変換基板)
本発明の実施の形態に係る色変換基板は、少なくとも上述した本発明のピロメテンホウ素錯体を含む色変換層を備える構成である。色変換基板は、透明基板上に、複数の色変換層を備えるものである。色変換層は、本発明の実施の形態に係る色変換組成物、またはその硬化物からなる層である。色変換層は、赤色変換層と緑色変換層とを含むことが好ましい。赤色変換層は少なくとも青色光を吸収して赤色光を発する蛍光体材料によって形成されている。緑色変換層は少なくとも青色光を吸収して緑色光を発する蛍光体材料によって形成されている。また、隔壁が形成されていてもよく、色変換層は、隔壁と隔壁の間(凹部)に配置されていることが好ましい。透明基板側から励起光を入射させ、透明基板と反対の側から視認してもよいし、色変換層側から励起光を入射させ、透明基板側から視認してもよい。色変換層の量子収率は、ピーク波長が440以上460nm以下の青色光を色変換基板に照射したとき、通常は0.5以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上である。
【0166】
(励起光)
励起光の種類は、本発明のピロメテンホウ素錯体等の発光物質が吸収可能な波長領域に発光を示すものであれば、いずれの励起光でも用いることができる。例えば、熱陰極管や冷陰極管、無機エレクトロルミネッセンス(EL)等の蛍光性光源、有機EL素子光源、LED光源、白熱光源、あるいは太陽光等、いずれの励起光でも原理的には利用可能である。特に、LED光源からの光が好適な励起光である。ディスプレイや照明用途では、青色光の色純度を高められる点で、430nm以上500nm以下の波長範囲の励起光を持つ青色LED光源からの光が、さらに好適な励起光である。
励起光は、1種類の発光ピークを持つものでもよく、2種類以上の発光ピークを持つものでもよいが、色純度を高めるためには、1種類の発光ピークを持つものが好ましい。また、発光ピークの種類の異なる複数の励起光源を任意に組み合わせて使用することも可能である。
【0167】
(光源ユニット)
本発明の実施形態に係る光源ユニットは、少なくとも光源および上述の色変換フィルムまたは色変換基板を備える構成である。光源と色変換フィルムまたは色変換基板との配置方法については特に限定されず、光源と色変換フィルムまたは色変換基板とを密着させた構成を取ってもよいし、光源と色変換フィルムまたは色変換基板とを離したリモートフォスファー形式を取ってもよい。また、光源ユニットは、色純度を高める目的で、さらにカラーフィルターを備える構成を取ってもよい。
前述の通り、430nm以上500nm以下の波長範囲の励起光は、比較的小さい励起エネルギーのものであり、本発明のピロメテンホウ素錯体等の発光物質の分解を防止できる。したがって、光源ユニットに用いる光源は、波長430nm以上500nm以下の範囲に極大発光を有する発光ダイオードであることが好ましい。さらに、この光源は、波長440nm以上470nm以下の範囲に極大発光を有することが好ましい。
【0168】
(ディスプレイ、照明装置)
本発明の実施形態に係るディスプレイは、上述した色変換フィルムまたは色変換基板を備える。例えば、液晶ディスプレイ等のディスプレイには、バックライトユニットとして、上述した光源、色変換フィルム、および色変換基板等を有する光源ユニットが用いられる。また、本発明の実施形態に係る照明装置は、上述した色変換フィルムまたは色変換基板を備える。例えば、この照明装置は、光源ユニットとしての青色LED光源と、この青色LED光源からの青色光をこれよりも長波長の光に変換する色変換フィルムまたは色変換基板とを組み合わせて、白色光を発光するように構成される。
【実施例】
【0169】
以下、実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0170】
合成例1
化合物RD-A1の合成方法
2,4-ビス(4-t-ブチルフェニル)ピロール2.00gと、2-メトキシベンゾイルクロリド1.08gと、o-キシレン30mlとの混合溶液を、窒素気流下、6時間加熱環流攪拌した。室温に冷却後、メタノールを添加し、析出した固体をろ過し、真空乾燥して、2-(2-メトキシベンゾイル)-3,5-ビス(4-t-ブチルフェニル)ピロール2.53gを得た。
次に、2-(2-メトキシベンゾイル)-3,5-ビス(4-t-ブチルフェニル)ピロール2.53gと、スピロフルオレンインデノピロール0.98gと、メタンスルホン酸無水物1.12gと、脱気したトルエン32mlとの混合溶液を、窒素気流下、125℃で7時間加熱した。室温に冷却後、水32mlを注入し、トルエン32mlで抽出した。有機層を水20mlで2回洗浄し、有機層に硫酸マグネシウムを添加し、ろ過した。ろ液をエバポレーターを用いて溶媒を除去し、残留物であるピロメテン体を得た。
【0171】
次に、得られたピロメテン体とトルエン32mlとの混合溶液に、窒素気流下、ジイソプロピルエチルアミン1.64mlと、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体2.42mlとを加え、80℃で1時間攪拌した。続いて水32mlを注入し、ジクロロメタン32mlで抽出した。有機層を水20mlで2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレーターを用いて溶媒を除去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、真空乾燥して、赤紫色粉末1.55gを得た。得られた粉末の1H-NMR分析結果は次の通りであり、上記で得られた赤紫色粉末が化合物RD-A1であることが確認された。なお、スピロフルオレンインデノピロールはOrg. Lett., vol.12, pp.296 (2010)などに記載されている既知の方法を参考に合成した。
【0172】
化合物RD-A1: 1H-NMR (CDCl3(d=ppm)) δ 1.21(s,9H),1.43(s,9H),3.39(s,3H),5.97(s,1H),6.13(d,1H),6.51(s,1H),6.56(d,1H),6.63(t,1H),6.79(d,2H),6.88-6.96(m,5H),7.04(dd,1H),7.09-7.19(m,3H),7.29-7.40(m,3H),7.56(d,2H)、7.75(t,2H)、8.02(d,2H)、8.30(d,1H)。
なお、化合物RD-A1は、油拡散ポンプを用いて1×10-3Paの圧力下、約260℃で昇華精製を行ってから発光素子材料として使用した。
さらに化合物RD-A1は以下のような光物理特性を示した。
吸収スペクトル(溶媒:トルエン):λmax610nm
蛍光スペクトル(溶媒:トルエン):λmax632nm、半値幅37nm。
【0173】
【0174】
化合物RD-B1の合成方法
2-メトキシベンズアルデヒド99mgと、ジメチルインデノピロール272mgと、ジクロロメタン15mlとの混合溶液を、窒素気流下、室温で撹拌し、トリフルオロ酢酸2滴を加え、室温で1時間撹拌した。そこに2,3-ジクロロ-5,6-ジアミノ-p-ベンゾキノン(DDQ)247mgを加え、さらに、N,N-ジイソプロピルエチルアミン517μlと、三フッ化ほう素ジエチルエーテル錯体364μlとを加えて、室温で8時間攪拌した。その後、水を添加し、ジクロロメタン50mlで抽出した。有機層を水30mlで2回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターを用いて溶媒を除去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、真空乾燥して、赤紫色粉末0.18gを得た。得られた粉末の 1H-NMR分析結果は次の通りであり、上記で得られた赤紫色粉末が化合物RD-B1であることが確認された。なお、ジメチルインデノピロールはOrg. Lett., vol.12, pp.296 (2010)などに記載されている既知の方法を参考に合成した。
【0175】
化合物RD-B1: 1H-NMR (CDCl3(d=ppm)) δ 1.44(d,12H),3.77(s,3H),6.34(s,2H),6.98-7.10(m,2H),7.35-7.44(m,7H),7.48(t,1H)、8.28(d,2H)。
さらに化合物RD-B1は以下のような光物理特性を示した。
吸収スペクトル(溶媒:トルエン):λmax633nm
蛍光スペクトル(溶媒:トルエン):λmax642nm、半値幅24nm。
【0176】
【0177】
<発光素子>
下記の実施例および比較例における化合物は以下に示す化合物である。
【化16】
【0178】
【0179】
【0180】
実施例1-1
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を “セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を素子を作製する直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT-CN6を5nm、正孔輸送層として、HT-1を50nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料としてH-1を、ドーパント材料として、一般式(1)で表される化合物RD-A1をドープ濃度が0.5質量%になるようにして20nmの厚さに蒸着した。さらに電子輸送層としてET-1を、ドナー性材料として2E-1を用い、ET-1と2E-1の蒸着速度比が1:1になるようにして35nmの厚さに積層した。次に、電子注入層として2E-1を0.5nm蒸着した後、マグネシウムと銀を1000nm共蒸着して陰極とし、5×5mm角の素子を作製した。この発光素子の1000cd/m2時の特性は、発光ピーク波長615nm、半値幅40nm、外部量子効率5.2%であった。なお、HAT-CN6、HT-1、H-1、ET-1、2E-1は下記に示す化合物である。
【0181】
【0182】
実施例1-2~1-15、比較例1-1~1-4
ドーパント材料として表1に記載した化合物を用いた以外は実施例1-1と同様にして発光素子を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0183】
【0184】
表1を参照して分かるように、実施例1-1~1-15はいずれも半値幅が狭く、高効率な発光を得ることができた。一方で、比較例1-1は外部量子効率が高いものの、半値幅が広かった。また、比較例1-2~1-4は半値幅が狭いものの、外部量子効率が低かった。
【0185】
実施例1-16
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を “セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を、素子を作製する直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT-CN6を10nm、正孔輸送層として、HT-1を180nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料H-2と、一般式(1)で表される化合物RD-A1と、TADF材料である化合物H-3とを、質量比で80:0.5:20になるようにして、40nmの厚さに蒸着した。さらに電子輸送層として、電子輸送材料に化合物ET-1を、ドナー性材料として2E-1を用い、化合物ET-1と2E-1の蒸着速度比が1:1になるようにして35nmの厚さに積層した。次に、電子注入層として2E-1を0.5nm蒸着した後、マグネシウムと銀を15nm共蒸着して陰極とし、5×5mm角のトップエミッション素子を作製した。この発光素子は、発光ピーク波長625nm、半値幅40nmの高色純度発光を示した。また、この発光素子を、輝度1000cd/m2で発光させた時の外部量子効率は18.2%であった。なお、H-2、H-3下記に示す化合物である。
【0186】
【0187】
実施例1-17、比較例1-5~1-7
ドーパント材料として表2に記載した化合物を用いた以外は実施例1-16と同様にして発光素子を作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0188】
【表2】
表2を参照して分かるように、実施例および比較例は、発光層にTADF材料を用いているため、外部量子効率が大幅に向上している。この中でも、実施例1-16、1-17はいずれも半値幅が狭く、高効率な発光を得ることができた。一方で、比較例1-5は外部量子効率が高いものの、半値幅が広かった。また、比較例1-6、1-7は半値幅が狭いものの、外部量子効率が低かった。
【0189】
(ディスプレイにおける色変換フィルムの評価)
以下の実施例および比較例では、各色変換フィルム、青色LED素子(発光ピーク波長:445nm)および導光板を備えたバックライトユニットに対し、導光板の一面に色変換フィルムを積層し且つ色変換フィルム上にプリズムシートを積層した後、電流を流して、この青色LED素子を点灯させ、分光放射輝度計(CS-1000、コニカミノルタ社製)を用いてピーク波長、半値幅を測定した。また、蛍光量子収率は、絶対PL量子収率測定装置(Quantaurus-QY、浜松ホトニクス社製)を用い、各色変換フィルムを波長450nmで励起させた際の発光量子収率を測定した。
【0190】
実施例2-1
本発明の実施例2-1は、上述した化合物RD-A1を発光材料(色変換材料)として用いた場合の実施例である。この実施例2-1では、バインダー樹脂としてアクリル樹脂を用い、このアクリル樹脂の100質量部に対して、発光材料として化合物RD-A1を0.05質量部、溶剤としてトルエンを400質量部、混合した。その後、これらの混合物を、遊星式撹拌・脱泡装置“マゼルスターKK-400”(クラボウ社製)を用いて300rpmで20分間撹拌・脱泡し、これにより、色変換組成物を得た。
同様に、バインダー樹脂としてポリエステル樹脂を用い、このポリエステル樹脂の100質量部に対して、溶剤としてトルエンを300質量部、混合した。その後、この溶液を、遊星式撹拌・脱泡装置“マゼルスターKK-400”(クラボウ社製)を用いて300rpmで20分間撹拌・脱泡し、これにより、接着剤組成物を得た。
【0191】
つぎに、上述したように得られた色変換組成物を、スリットダイコーターを用いて第一の基材層である“ルミラー”U48(東レ社製、厚さ50μm)上に塗布し、100℃で20分加熱、乾燥して、平均膜厚16μmの(A)層を形成した。
同様に、上述したように得られた接着剤組成物を、スリットダイコーターを用いて第二の基材層である光拡散フィルム“ケミカルマット”125PW(きもと社製、厚さ138μm)のPET基材層側に塗布し、100℃で20分加熱、乾燥して、平均膜厚10μmの(B)層を形成した。
【0192】
つぎに、これら二つの(A)層および(B)層を、(A)層の色変換層と(B)層の接着層とが直接積層されるように加温ラミネートすることで、「第一の基材層/色変換層/接着層/第二の基材層/光拡散層」という積層構成の色変換フィルムを作製した。
この色変換フィルムを用いて青色LED素子からの光(青色光)を色変換させたところ、赤色光の発光領域のみを抜粋すると、ピーク波長620nm、ピーク波長における発光スペクトルの半値幅41nmの高色純度赤色発光が得られた。また、後述の比較例2-1における蛍光量子収率を1.00としたとき、本実施例の色変換フィルムの蛍光量子収率は、1.36であった。
【0193】
実施例2-2および比較例2-1~2-4
本発明の実施例2-2および比較例2-1~2-4では、発光材料として表3に記載した化合物(化合物RD-B1、R-A1、R-A2、R-B1、R-B2)を適宜用いた以外は、実施例2-1と同様にして、色変換フィルムを作製して評価し、評価結果を表3に示す。
【0194】
【符号の説明】
【0195】
1A,1B,1C,1D 色変換フィルム
10 基材層
11 色変換層
12 バリアフィルム