(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】硫化物系固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20231212BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01B13/00 Z
(21)【出願番号】P 2020008108
(22)【出願日】2020-01-22
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100131990
【氏名又は名称】大野 玲恵
(74)【代理人】
【識別番号】100209037
【氏名又は名称】猪狩 俊博
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 貴史
【審査官】山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/044517(WO,A1)
【文献】特開2018-080095(JP,A)
【文献】国際公開第2019/239949(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/173939(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒中に少なくとも、リチウム元素、リン元素、および硫黄元素を含み、かつ、ケイ素元素、ゲルマニウム元素、およびスズ元素からなる群から選択される少なくとも1つの金属元素を含む均一溶液またはスラリー溶液を調製する溶液化工程と、
前記均一溶液またはスラリー溶液から有機溶媒を除去して前駆体を得る乾燥工程と、
前記前駆体を、硫黄蒸気の存在下で加熱して固体電解質を製造する加熱処理工程と、
を含み、
前記硫黄蒸気が、単体硫黄をその融点以上の温度で加熱することで発生させたものであ
り、
前記溶液化工程が、Li
2
SおよびSiS
2
を含む第1の原料からLi-Si-S均一溶液を調製する工程と、
Li
2
SおよびP
2
S
5
を含む第2の原料から、Li-P-Sスラリー溶液を調製する工程と、
前記Li-Si-S均一溶液、前記Li-P-Sスラリー溶液、並びに塩化リチウム、臭化リチウム、およびヨウ化リチウムからなる群から選択される少なくとも1つのハロゲン化リチウムを混合してLi-Si-P-S-Xスラリー溶液(Xは前記ハロゲンである)を調製する工程と、
を含む、硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項2】
有機溶媒中に少なくとも、リチウム元素、リン元素、および硫黄元素を含み、かつ、ケイ素元素、ゲルマニウム元素、およびスズ元素からなる群から選択される少なくとも1つの金属元素を含む均一溶液またはスラリー溶液を調製する溶液化工程と、
前記均一溶液またはスラリー溶液から有機溶媒を除去して前駆体を得る乾燥工程と、
前記前駆体を、硫黄蒸気の存在下で加熱して固体電解質を製造する加熱処理工程と、
を含み、
前記硫黄蒸気が、単体硫黄をその融点以上の温度で加熱することで発生させたものであり、
前記加熱処理工程が、硫黄の飽和蒸気圧下で行われる
、硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項3】
有機溶媒中に少なくとも、リチウム元素、リン元素、および硫黄元素を含み、かつ、ケイ素元素、ゲルマニウム元素、およびスズ元素からなる群から選択される少なくとも1つの金属元素を含む均一溶液またはスラリー溶液を調製する溶液化工程と、
前記均一溶液またはスラリー溶液から有機溶媒を除去して前駆体を得る乾燥工程と、
前記前駆体を、硫黄蒸気の存在下で加熱して固体電解質を製造する加熱処理工程と、
を含み、
前記硫黄蒸気が、単体硫黄をその融点以上の温度で加熱することで発生させたものであり、
前記加熱処理工程が、硫黄還流下で行われる
、硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項4】
有機溶媒中に少なくとも、リチウム元素、リン元素、および硫黄元素を含み、かつ、ケイ素元素、ゲルマニウム元素、およびスズ元素からなる群から選択される少なくとも1つの金属元素を含む均一溶液またはスラリー溶液を調製する溶液化工程と、
前記均一溶液またはスラリー溶液から有機溶媒を除去して前駆体を得る乾燥工程と、
前記前駆体を、硫黄蒸気の存在下で加熱して固体電解質を製造する加熱処理工程と、
を含み、
前記硫黄蒸気が、単体硫黄をその融点以上の温度で加熱することで発生させたものであり、
前記単体硫黄は、前記前駆体とは別の箇所に配置される、硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記均一溶液またはスラリー溶液が、Li
2
S、P
2
S
5
、およびSiS
2
を含む原料から調製される、請求項2~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記硫化物系固体電解質が、LGPS系固体電解質である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記金属元素が、ケイ素元素を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記加熱処理工程の加熱温度が、250~550℃である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物系固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯情報端末、携帯電子機器などの用途において、リチウムイオン二次電池が広く用いられている。リチウムイオン二次電池に使用される電解質は、通常、電解液として可燃性の有機溶媒を使用する。このため、リチウムイオン二次電池は、有機溶媒が漏れないように強固な外装を有し、また、万が一、電解液が漏れ出したときのリスクに備えた機能を有することが通常であり、機器の構造に対する制約がある。
【0003】
また、近年、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、飛行機等の移動体や定置型蓄電システム等にまでリチウムイオン二次電池の用途が拡大しており、大容量のリチウムイオン二次電池が求められている。大容量のリチウムイオン二次電池には、より高い安全性が求められている。
【0004】
このような状況のもと、可燃性の有機溶媒を使用せず、高い安全性を実現できる固体電解質を用いたリチウムイオン二次電池が注目されている。
【0005】
固体電解質の代表例として、硫化物系固体電解質および酸化物系固体電解質が知られている。このうち、硫化物系固体電解質は、酸化物系固体電解質に比べて、導電率が高いことや、電極活物質および固体電解質の間での界面抵抗を軽減した固体-固体界面を形成しやすいこと、等の理由から特に注目されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、硫化物系固体電解質として、M1元素(Li、Na、K、Mg、Ca、Znからなる群から選択される少なくとも1種)、M2元素(P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti,Zr、V、Nbからなる群から選択される少なくとも1種)、およびS元素を含有し、所定の結晶構造を有する硫化物系固体電解質材料に係る発明が記載されている。特許文献1において、前記硫化物系固体電解質材料の製造方法の1つは、M1元素、M2元素、およびS元素を含有する原料組成物を用いたメカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、前記非晶質化したイオン伝導性材料(前駆体)を加熱することで所定の硫化物系固体電解質材料を得る加熱工程とを含むことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載される硫化物系固体電解質は、優れたイオン伝導性を有する。しかしながら、その製造方法において、非晶質化したイオン伝導性材料はメカニカルミリングにより調製される。このため、メカニカルミリングのための特殊な装置が必要となることもあり、より工業的に適した硫化物系固体電解質の製造方法が求められている。
【0009】
また、前記イオン伝導性材料を加熱して硫化物系固体電解質を製造する際には、硫黄(S)の揮発による欠損を防止するために真空封入している。このため、硫化物系固体電解質を工業的に製造することが難しい。また、真空状態では硫化物系固体電解質の製造過程で硫黄が抜けやすくなり、依然として目的とする化学組成に対して硫黄が不足した硫化物系固体電解質となり、所望のイオン伝導度が得られない場合があった。
【0010】
その結果、高いイオン伝導度を有する硫化物系固体電解質を工業的に製造することが難しいという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、メカニカルミリングに変えて、前駆体を溶媒中で合成する方法(液相法)を採用し、かつ、液相法により得られた前駆体を単体硫黄の蒸気存在下で加熱処理をすることで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
【0013】
[1]有機溶媒中に少なくとも、リチウム元素、リン元素、および硫黄元素を含み、かつ、ケイ素元素、ゲルマニウム元素、およびスズ元素からなる群から選択される少なくとも1つの金属元素を含む均一溶液またはスラリー溶液を調製する溶液化工程と、
前記均一溶液またはスラリー溶液から有機溶媒を除去して前駆体を得る乾燥工程と、
前記前駆体を、硫黄蒸気の存在下で加熱して固体電解質を製造する加熱処理工程と、
を含み、
前記硫黄蒸気が、単体硫黄をその融点以上の温度で加熱することで発生させたものである、硫化物系固体電解質の製造方法。
[2]前記硫化物系固体電解質が、LGPS系固体電解質である、上記[1]に記載の製造方法。
[3]前記金属元素が、ケイ素元素を含む、上記[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記均一溶液またはスラリー溶液が、Li2S、P2S5、およびSiS2を含む原料から調製される、上記[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記溶液化工程が、Li2SおよびSiS2を含む第1の原料からLi-Si-S均一溶液を調製する工程と、
Li2SおよびP2S5を含む第2の原料から、Li-P-Sスラリー溶液を調製する工程と、
前記Li-Si-S均一溶液、前記Li-P-Sスラリー溶液、並びに塩化リチウム、臭化リチウム、およびヨウ化リチウムからなる群から選択される少なくとも1つのハロゲン化リチウムを混合してLi-Si-P-S-Xスラリー溶液(Xは前記ハロゲンである)を調製する工程と、
を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記加熱処理工程が、硫黄の飽和蒸気圧下で行われる、上記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記加熱処理工程の加熱温度が、250~550℃である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]前記加熱処理工程が、硫黄還流下で行われる、上記[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高いイオン伝導度を有する硫化物系固体電解質を工業的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る加熱処理工程を行う加熱容器の概略図である。
【
図2】LGPS系固体電解質の結晶構造を示す概略図である。
【
図3】実施例1~3および比較例1で得られたLGPS系固体電解質のX線回折測定の結果を示すグラフである。
【
図4】実施例1~3および比較例1で得られたLGPS系固体電解質のラマン分光測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができる。
【0017】
本発明は、有機溶媒中に少なくとも、リチウム元素、リン元素、および硫黄元素を含み、かつ、ケイ素元素、ゲルマニウム元素、およびスズ元素からなる群から選択される少なくとも1つの金属元素を含む均一溶液またはスラリー溶液を調製する溶液化工程と、前記均一溶液またはスラリー溶液から有機溶媒を除去して前駆体を得る乾燥工程と、前記前駆体を、硫黄蒸気の存在下で加熱して固体電解質を製造する加熱処理工程と、を含み、前記硫黄蒸気が、単体硫黄をその融点以上の温度で加熱することで発生させたものである、硫化物系固体電解質の製造方法に関する。
【0018】
上記方法によって製造された硫化物系固体電解質は、リチウム元素、リン元素、および硫黄元素を含み、かつ、ケイ素元素、ゲルマニウム元素、およびスズ元素からなる群から選択される少なくとも1つの金属元素を含む。このような硫化物系固体電解質としては、ガラスセラミック、アルジロダイト、Thio-LISICON、LGPSなどが挙げられる。このうち、硫化物系固体電解質はイオン伝導度の観点からLGPS系固体電解質が好ましい。
【0019】
なお、本明細書において、「LGPS系固体電解質」とは、LGPS型相の結晶構造を有する固体電解質である。
【0020】
LGPS系固体電解質の結晶構造を
図2に示す。
図2は、LGPS系固体電解質の結晶構造を示す概略図である。LGPS系固体電解質は、リチウム元素および硫黄元素から構成される八面体Oと、リン元素、ゲルマニウム元素、および硫黄元素から構成される四面体T1と、リン元素および硫黄元素から構成される四面体T2(PS
4
3-アニオン)とを有し、四面体T1および八面体Oは稜を共有し、四面体T2および八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有しうる。稜共有したLiS
4四面体がこの骨格内に一次元的に連なって存在しており、高いイオン導電性に寄与している。
【0021】
上記結晶構造を有するLGPS系固体電解質は、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=17.38±0.50°、20.18°±0.50°、20.44°±0.50°、23.56±0.50°、26.96°±0.50°、29.07±0.50°、29.58°±0.50°および31.71±0.50°の位置にピークを有する。
【0022】
また、上記結晶構造を有するLGPS系固体電解質は、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIAとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIBとした場合に、IB/IAの値が0.50未満であることが好ましく、0.40未満であることがより好ましい。なお、液相法を採用することで、メカニカルミリングを行うことなく、イオン伝導性が高いLGPS結晶のピークに係るIAの回折強度を大きくすることができる。
【0023】
LGPS系固体電解質は、上記LGPS系固体電解質に対して、各種イオンを置換または挿入したものであってもよい。
【0024】
例えば、ハロゲン元素を添加し、イオンの伝導路が一次元的に連なったLGPS系固体電解質が、三次元的に広がるようにしてもよい。
【0025】
また、ゲルマニウム元素をケイ素元素およびスズ元素で置換してもよい。これにより、LGPS系固体電解質は、中心元素としてリチウム元素、八面体の頂点に6個の硫黄元素を有する八面体Oと、中心元素としてスズ元素を有し、四面体の頂点に4個の硫黄元素を有する四面体T1と、中心元素としてケイ素元素を有し、四面体の頂点に4個の硫黄元素を有する四面体T2と、中心元素としてリン元素を有し、四面体の頂点に4個の硫黄元素を有する四面体T3とを有し、四面体T1、四面体T2、および四面体T3、並びに八面体Oは稜を共有し、四面体T3および八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有しうる。
【0026】
上記結晶構造を有するLGPS系固体電解質は、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、かつ、2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有しないか、または2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有し、かつ、2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIAとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIBとした場合のIB/IAの値が0.50未満となることが好ましい。
【0027】
さらに、酸素元素を含有する化合物、例えば、二酸化ゲルマニウム(GeO2)を原料として用いて、酸素元素を導入してもよい。これにより、LGPS系固体電解質は、リチウム元素および硫黄元素から構成される八面体Oと、ゲルマニウム元素および硫黄元素から構成される四面体T1とを有し、リン元素および硫黄元素から構成される四面体T2と、四面体T1および八面体Oは稜を共有し、四面体T2および八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有する。この際、八面体O、四面体T1および四面体T2の少なくとも1つは、硫黄元素の一部が酸素元素に置換される。O元素の導入により、Liイオンが通過する結晶中のトンネルのサイズがより伝導しやすいサイズに変化し、イオン伝導度が高くなりうる。
【0028】
上記結晶構造を有するLGPS系固体電解質は、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、かつ、2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有しないか、または2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有し、かつ、2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIAとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIBとした場合のIB/IAの値が0.50未満となることが好ましい。
【0029】
また、上記結晶構造を有するLGPS系固体電解質は、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIAとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIBとした場合に、IB/IAの値が0.50未満であることが好ましく、0.40未満であることがより好ましい。
【0030】
上述のLGPS系固体電解質のうち、金属元素として、ケイ素元素、スズ元素を含むことが好ましく、ケイ素元素を含むことがより好ましい。これにより、LGPS系固体電解質を安価に製造することができる。
【0031】
また、一実施形態において、上述のLGPS系固体電解質のうち、経済性とイオン伝導度の観点からケイ素元素を含むことが好ましく、イオン伝導度の観点からケイ素元素および塩素元素を含むことがより好ましい。
【0032】
LGPS系固体電解質の具体的な組成としては、Li10GeP2S12、Li10SnP2S12、Li10.35Ge1.35P1.65S12、Li10.35Si1.35P1.65S12、Li9.81Sn0.81P2.19S12、Li10(Si0.5Ge0.5)P2S12、Li10(Ge0.5Sn0.5)P2S12、Li10(Si0.5Sn0.5)P2S12、Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3、Li10GeP2S11.7O0.3、Li9.42Si1.02P2.1S9.96O2.04、Li10.35[Sn0.27Si1.08]P1.65S12(Li3.45[Sn0.09Si0.36]P0.55S4)等が挙げられる。
【0033】
前駆体の合成方法として、固相法や液相法が知られているが、工業的に大量合成が容易である液相合成が好ましい。
【0034】
液相法によるLGPS系固体電解質の前駆体は、例えば、国際公開第2019/044517号に記載の方法に準じて製造することができる。具体的には、前記液相法は、LGPS系固体電解質の原料を有機溶媒に溶解させ、均一溶液またはスラリー溶液を調製する溶液化工程、溶液化工程で得られた液を乾燥する乾燥工程を含む。液相法の特徴は、原料の一部あるいは全部を有機溶剤中で反応・溶解させることよって、組成の均一化および非晶質化を行う点にある。
【0035】
以下、LGPS系固体電解質の製造方法を説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されない。
【0036】
<溶液化工程>
溶液化工程は、有機溶媒中に少なくとも、リチウム元素、リン元素、および硫黄元素を含み、かつ、ケイ素元素、ゲルマニウム元素、およびスズ元素からなる群から選択される少なくとも1つの金属元素を含む均一溶液またはスラリー溶液を調製する工程である。この際、前記均一溶液またはスラリー溶液は、他の元素をさらに含んでいてもよい。なお、本明細書において、「均一溶液」とは、溶液中に不溶解の固形物がない溶液を意味する。また、「スラリー溶液」とは、溶液中に不溶解の固形物を含む溶液を意味する。
【0037】
前記他の元素としては、特に制限されないが、ハロゲン元素(フッ素元素、塩素元素、臭素元素、ヨウ素元素)、酸素元素等が挙げられる。これらの他の元素は単独で含まれていても、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0038】
(均一溶液およびスラリー溶液)
有機溶媒としては、原料や中間生成物と反応しない有機溶媒であれば、特に制限はない。例えば、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒、ニトリル系溶媒などが挙げられる。具体的には、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトニトリルなどが挙げられる。特に好ましくはアセトニトリルである。原料組成物が劣化することを防止するために、有機溶媒中の酸素と水を除去しておくことが好ましく、特に水分については、100ppm以下が好ましく、より好ましくは50ppm以下である。上述の有機溶媒は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
他の元素としては、特に制限されないが、塩素元素、臭素元素、およびヨウ素元素からなる群から選択されるハロゲン元素、酸素元素等が挙げられる。これらのうち、イオン伝導度の観点からは、ハロゲン元素であることが好ましく、塩素元素であることがより好ましい。固溶領域の拡大のためには、酸素元素が含まれていてもよい。なお、他の元素は単独で含まれていても、2種以上を組み合わせて含まれていてもよい。
【0040】
前記均一溶液およびスラリー溶液は、各元素源となる原料を組み合わせて調製される。前記原料としては、特に制限されないが、リチウム源となる原料、リン源となる原料、硫黄源となる原料、ケイ素源となる原料、ゲルマニウム源となる原料、スズ源となる原料、塩素源となる原料、臭素源となる原料、ヨウ素源となる原料、酸素源となる原料等が挙げられる。
【0041】
リチウム源となる原料としては、特に制限されないが、硫化リチウム(Li2S)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、ヨウ化リチウム(LiI)等が挙げられる。
【0042】
リン源となる原料としては、単体リン(P)、三硫化二リン(P2S3)、五硫化二リン(P2S5)、五塩化リン(PCl5)、三臭化リン(PBr3)、五臭化リン(PBr5)等が挙げられる。
【0043】
硫黄源となる原料としては、単体硫黄、硫化リチウム(Li2S)、硫化リン(P2S5)、硫化ケイ素(SiS2)、硫化ゲルマニウム(GeS2)、硫化スズ(SnS)、三硫化二リン(P2S3)、五硫化二リン(P2S5)、硫化アルミニウム(Al2S3)、三硫化二ホウ素(B2S3)等が挙げられる。
【0044】
ケイ素源となる原料としては、硫化ケイ素(SiS2)、ケイ素(Si)、二酸化ケイ素(SiO2)等が挙げられる。
【0045】
ゲルマニウム源となる原料としては、硫化ゲルマニウム(GeS2)、ゲルマニウム(Ge)、二酸化ゲルマニウム(GeO2)等が挙げられる。
【0046】
スズ源となる原料としては、硫化スズ(SnS)、酸化スズ(II)(SnO)、酸化スズ(IV)(SnO2)、酸化スズ(VI)(SnO3)、スズ(Sn)等が挙げられる。
【0047】
塩素源となる原料としては、塩化リチウム(LiCl)、五塩化リン(PCl5)等が挙げられる。
【0048】
臭素源となる原料としては、臭化リチウム(LiBr)、三臭化リン(PBr3)、五臭化リン(PBr5)等が挙げられる。
【0049】
ヨウ素源となる原料としては、ヨウ化リチウム(LiI)等が挙げられる。
【0050】
酸素源となる原料としては、酸化リチウム(LiO2)、五酸化リン(P2O5)、二酸化ケイ素(SiO2)、二酸化ゲルマニウム(GeO2)、酸化スズ(II)(SnO)、酸化スズ(IV)(SnO2)、酸化スズ(IV)(SnO3)等が挙げられる。
【0051】
これらの原料は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの原料組成を変更することで、所望とする硫化物系固体電解質と製造することができる。
【0052】
上述の通り、溶液化工程は、上述の原料を適宜組み合わせることで均一溶液またはスラリー溶液を調製する。
【0053】
一実施形態によれば、溶液化工程は、Li2SおよびSiS2を含む第1の原料からLi-Si-S均一溶液を調製する工程と、Li2SおよびP2S5を含む第2の原料から、Li-P-Sスラリー溶液を調製する工程と、前記Li-Si-S均一溶液、前記Li-P-Sスラリー溶液、並びに塩化リチウム、臭化リチウム、およびヨウ化リチウムからなる群から選択される少なくとも1つのハロゲン化リチウムを混合してLi-Si-P-S-Xスラリー溶液(Xは前記ハロゲンである)を調製する工程と、を含むことが好ましい。
【0054】
前記LGPS系固体電解質前駆体を製造する場合において、原料となるLi2SおよびSiS2のモル比は、特に限定されるものではないが、例えば、SiS2の使用量1molに対して、Li2Sの使用量が1.5~5molの範囲であることが好ましい。また、原料となるP2S5およびSiS2のモル比は、特に限定されるものではないが、例えば、SiS2の使用量1molに対して、P2S5の使用量が0.3~1molの範囲内であることが好ましい。この組成であれば、LGPS結晶が出来やすいことから好ましい。
【0055】
以下、上述の実施形態に係るSiおよびハロゲンを含むLGPS系固体電解質を製造する場合を例にして、溶液化工程の各工程について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0056】
(Li-Si-S均一溶液を調製する工程)
Li-Si-S均一溶液は、Li2SおよびSiS2を含む第1の原料から調製される。
【0057】
Li-Si-S均一溶液の調製方法は特に制限されないが、通常、第1の原料を有機溶媒中で混合し、得られる溶液に含まれる固形物を除去することで調製される。
【0058】
第1の原料を混合すると、通常、Li2SおよびSiS2等が反応して、リチウム元素、ケイ素元素、および硫黄元素が溶解した溶液が得られる。
【0059】
第1の原料の混合は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスの雰囲気下で行うことがより好ましい。第1の原料の混合を不活性ガス雰囲気で行うことで、SiS2の劣化、分解等の発生を防止または抑制することができる。
【0060】
第1の原料の混合温度は、特に制限されない。前記反応は、室温(25℃)下においても反応が緩やかに進行するが、反応速度を上げるために加熱することもできる。加熱する場合には、有機溶媒の沸点以下で行うことで十分であり、使用する有機溶媒によって異なるものの、通常は120℃未満である。オートクレーブ等を用いて加圧状態で行うことも可能である。混合温度を120℃未満とすることで、副反応の進行を防止または抑制できることから好ましい。
【0061】
第1の原料の混合時間は、有機溶媒の種類や原料の粒子径、濃度によって異なるものの、0.1~240時間であることが好ましく、1~200時間であることがより好ましい。
【0062】
第1の原料を混合して得られる溶液に固形物が含まれる場合は、固形物を除去することで、Li-Si-S均一溶液を得ることができる。
【0063】
固形物の除去方法としては、特に制限されないが、ろ過、遠心分離等が挙げられる。
【0064】
フィルターによるろ過を行う場合、フィルターの孔径は、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることが特に好ましい。
【0065】
得られるLi-Si-S均一溶液中に含有される各元素の含有量(モル)は、誘導結合プラズマ(ICP)分析により測定された値が採用される。Li-Si-S均一溶液のリチウム元素(Li)、ケイ素元素(Si)、および硫黄元素(S)の合計濃度は、Li-Si-S均一溶液の質量に対して、0.5~20質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましく、2~10質量%であることがさらに好ましい。前記合計濃度が0.5質量%以上であると、反応効率を上げることができ、有機溶媒の使用量を減らすことができることから好ましい。一方、前記合計濃度が20質量%以下であると、固体の析出を防止または抑制することができ、均一溶液の形態を維持できることから好ましい。
【0066】
なお、前記Li2SおよびSiS2の使用比率(モル比)並びに前記リチウム元素(Li)、ケイ素元素(Si)、および硫黄元素(S)の合計濃度から、Li-Si-S均一溶液および除去された固形物の組成等を把握することができる。
【0067】
得られた均一溶液はLi/Si=0.6~2.0のモル比であることが好ましく、Li/Si=0.7~1.6であることがより好ましく、Li/Si=0.8~1.4であることがさらに好ましい。なお、均一溶液中の各元素の含有量(モル)はICPによって測定される。
【0068】
(Li-P-Sスラリー溶液を調製する工程)
Li-P-Sスラリー溶液は、Li2SおよびP2S5を含む第2の原料から調製される。
【0069】
第2の原料は、他の原料をさらに含んでいてもよい。第2の原料に含まれうる他の原料とは、Li2SおよびP2S5以外の上述の原料である。
【0070】
Li-P-Sスラリー溶液の調製方法は特に制限されないが、通常、P2S5およびLi2Sを有機溶媒中で混合することで調製される。
【0071】
第2の原料中のLi2SおよびP2S5の使用比率(モル比)は、Li2S/P2S5=1.0~25であることが好ましく、2.0~20であることがより好ましく、2.5~15であることがさらに好ましい。
【0072】
この際、Li2Sは、一度に全量を添加してもよいし、2以上に分けて添加してもよい。
【0073】
第2の原料の混合は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスの雰囲気下で行うことがより好ましい。第2の原料の混合を不活性ガス雰囲気で行うことで、第2の原料の劣化、分解等の発生を防止または抑制することができる。
【0074】
第2の原料の混合温度は、室温下においても反応が進行するが、反応速度を上げるために加熱することもできる。加熱する場合には、有機溶媒の沸点以下で行うことで十分であり、使用する有機溶媒によって異なるものの、通常は120℃未満である。オートクレーブ等を用いて加圧状態で行うことも可能である。混合温度を120℃未満とすることで、副反応の進行を防止または抑制できることから好ましい。
【0075】
第2の原料の混合時間は、特に制限されないが、0.1~24時間であることが好ましく、0.5~12時間であることがより好ましい。
【0076】
(Li-Si-P-S-Xスラリー溶液を調製する工程)
Li-Si-P-S-X(Xは前記ハロゲンを示す)スラリー溶液を調製する工程は、Li-Si-S均一溶液、Li-P-Sスラリー溶液、およびハロゲン化リチウムを混合して調製される。
【0077】
Li-Si-S均一溶液、Li-P-Sスラリー溶液、およびハロゲン化リチウムの混合順序は特に制限されない。
【0078】
前記ハロゲン化リチウムは、塩化リチウム、臭化リチウム、およびヨウ化リチウムからなる群から選択される少なくとも1つである。これらのうち、塩化リチウムを用いることが好ましい。
【0079】
ハロゲン化リチウムの使用量については、混合するLi-P-Sスラリー溶液に含まれるP2S51molに対して、LiCl/P2S5が0.01~2であることが好ましく、0.05~1.5であることがより好ましく、0.1~1であることがさらに好ましい。
【0080】
溶液化工程において、適宜単体硫黄を添加してもよい。単体硫黄の添加方法としては、特に制限されないが、Li-Si-S均一溶液を調整する際に添加する方法、Li-P-Sスラリー溶液を調整する際に添加する方法、LiーSiーP-S-Xスラリー溶液を調整する際に添加する方法等が挙げられる。例えば、単体硫黄をLi-Si-S均一溶液を調整する際に添加する場合には、Li2SおよびSiS2とともに単体硫黄が添加されることが好ましい。
【0081】
単体硫黄の投入量は、加熱処理工程等で用いる焼成炉の大きさや形状、雰囲気ガスの流量、前駆体の粒径などが影響するため、一概には規定できないが、上記固体電解質原料に対して、1~100質量%であることが好ましく、2~10質量%であることがより好ましい。単体硫黄の投入量が、上記固体電解質原料に対して、1.0~100質量%であれば、不純物が少なく安定した性能を示すLGPS系固体電解質を製造することができる。
【0082】
以上、溶液化工程の一実施形態として、Li-Si-S均一溶液、Li-P-Sスラリー溶液、およびハロゲン化リチウム粉末を混合してLi-Si-P-S-Xスラリー溶液を調製する形態について説明した。しかしながら、溶液化工程は、本実施形態に限定されずLi-Si-S均一溶液Li-P-S均一溶液、Li2S、およびハロゲン化リチウムを混合する形態や、Li-P-S均一溶液、Li2S、SiS2、およびハロゲン化リチウムを混合する形態などでも構わない。
【0083】
なお、溶液化工程においてLi-P-S均一溶液を調製する場合、Li2SおよびP2S5をLi2S/P2S5=0.7~1.5のモル比となるように有機溶媒中で混合して反応させることによって生成させることが好ましく、より好ましくはLi2S/P2S5=0.75~1.4であり、特に好ましくはLi2S/P2S5=0.8~1.35である。Li2S/P2S5=0.7~1.5のモル比の範囲であると、室温においてLi2SおよびP2S5を溶液化することができる。Li2S/P2S5が上記モル比の範囲であると、室温においてLi2SおよびP2S5を好適に溶液化することができることから好ましい。Li2SおよびP2S5を混合して得られる溶液には、未反応のLi2SやP2S5が含まれてもよいし、Li2SやP2S5から混入した不純物が含まれていてもよい。不純物は溶媒中にほとんど溶解せず、不溶解の固形物となる。このため、得られた溶液に対し濾過や遠心分離を行い、不溶解の固形物を除去して溶液を分離することによって、高純度なLi-P-Sの均一溶液を得ることができる。
【0084】
<乾燥工程>
乾燥工程は、上述の溶液化工程で得られた均一溶液またはスラリー溶液から有機溶媒を除去して前駆体を得る工程である。以下、上記溶液化工程の一実施形態においては、乾燥工程は、Li-Si-P-S-Xスラリー溶液から有機溶媒を除去して前駆体を得る工程となる。
【0085】
乾燥工程は、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気で行うことが好ましく、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスの雰囲気下で行うことがより好ましい。
【0086】
乾燥温度は、60~250℃であることが好ましく、100~250℃であることがより好ましい。乾燥温度が60℃以上であると、後述する加熱処理工程において前駆体中の残存する有機溶媒の炭化による影響を抑制または防止できることから好ましい。一方、乾燥温度が250℃以下であると、前駆体の変質を抑制又は防止できることから好ましい。
【0087】
乾燥時間は、0.5~24時間であることが好ましく、1~8時間であることがより好ましい。
【0088】
<加熱処理工程>
加熱処理工程は、乾燥工程で得られた前駆体を、硫黄蒸気の存在下で加熱して固体電解質を製造する工程である。この際、前記硫黄蒸気は、単体硫黄をその融点以上の温度で加熱することで発生させたものである。
【0089】
前駆体を加熱することで結晶化して硫化物系固体電解質を得ることができる。しかしながら、加熱処理工程中に、前駆体から硫黄が揮発することがあった。また、前駆体内部やガス雰囲気中に含まれうる水分や酸素が、前駆体中の硫黄と反応し、硫黄を分解して二酸化硫黄や硫化水素に変換されることがあった。その結果、得られる硫化物系固体電解質は、所望とする化学組成に対して、硫黄元素が不足することがあった。その結果、得られる硫化物系固体電解質は、例えば、一定したイオン伝導度が得られない、むしろイオン伝導度が低下するという問題が生じることがある。
【0090】
これに対し、本形態では、加熱処理工程を硫黄蒸気の存在下で行う。その結果、前駆体から硫黄の揮発が抑制される。また、前駆体内部やガス雰囲気中に含まれうる水分や酸素は、硫黄蒸気と反応しやすくなるため、前駆体中の硫黄の揮発が抑制される。その結果、所望の化学組成を有する硫化物系固体電解質を製造することができ、当該硫化物系固体電解質は、一定したイオン伝導度、高いイオン伝導度を有する。
【0091】
加熱処理は、不活性ガス雰囲気で行うことが好ましく、不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどが挙げられ、アルゴンが特に好ましい。不活性ガス中の酸素および水分の濃度は低いことが好ましく、どちらも1000ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましく、10ppm以下が特に好ましい。
【0092】
加熱処理の温度は、所望とする硫化物系固体電解質の組成等によっても異なるが、250~700℃であることが好ましく、300~650℃であることがより好ましく、300~550℃であることがさらに好ましく、350~550℃であることが特に好ましく、400~550℃であることが最も好ましい。加熱処理の温度が250℃以上であると、単体硫黄の融点(115℃)を上回る温度となり硫黄蒸気が好適に発生する、好適に前駆体が結晶化される等の観点からも好ましい。一方、加熱処理の温度が700℃以下であると、硫化物系固体電解質の変質を防止または抑制できることから好ましい。
【0093】
加熱処理の時間は、加熱温度との関係で若干変化するものの、通常は0.1~24時間の範囲で十分に結晶化することができる。
【0094】
一実施形態において、加熱処理は、硫黄の飽和蒸気圧下で行われることが好ましい。硫黄の飽和蒸気圧下で加熱処理を行うことで、硫黄蒸気が十分に加熱処理の系内に提供される。その結果、前駆体からの硫黄の揮発を抑制できる。
【0095】
硫黄蒸気の導入方法は特に制限されず、別途単体硫黄を加熱して硫黄蒸気を調製し、これを前駆体の加熱処理の系内に導入してもよいし、前駆体の加熱処理の系内で単体硫黄を加熱して硫黄蒸気を発生させてもよい。
【0096】
前駆体の加熱処理の系内で単体硫黄から硫黄蒸気を発生させる場合、単体硫黄は、前駆体と同じ箇所に配置してもよいし、前駆体と別の箇所に配置してもよいが、前駆体と別の箇所に配置することが好ましい。また、単体硫黄の加熱の熱源は、前駆体の加熱の熱源と同じであってもよいし、異なっていてもよいが、熱効率の観点から同じであることが好ましい。
【0097】
一実施形態において、単体硫黄を前駆体とは別の箇所に配置し、前駆体と単体硫黄を同一熱源で加熱することで、前駆体の加熱処理の系内で硫黄蒸気を発生させることが好ましい。
図1は、前記実施形態に係る加熱処理工程を行う加熱容器の概略図である。
図1の加熱容器1は、ガラス内筒2とガラス外筒3とを有する。ガラス内筒2には前駆体4を配置し、ガラス外筒3には単体硫黄5を配置する。なお、加熱容器1は、栓(図示せず)によって密封されており、分岐管を通じてアルゴンガスの導入と排出が行われている。また、ガラス内筒2内部の温度を測定するため、熱電対6が備えられている。
【0098】
ここで、管状炉7を用いて、加熱容器1のガラス内筒2全体を加熱すると、前駆体4の加熱処理が行われる。この際、ガラス外筒3の単体硫黄4も同時に加熱されるため、硫黄蒸気が発生し、加熱処理は硫黄蒸気存在下で行われることとなる。なお、管状炉7に覆われていない、ガラス外筒3の上部は直接加熱されておらず加熱容器1の底部よりも温度が低いから、硫黄蒸気は一部液化または固化して、ガラス内筒2内および/またはガラス外筒3内に還流する。単体硫黄4の使用量が一定以上であると、加熱処理を硫黄蒸気の還流状態で行うことができる。また、加熱処理により硫化物系固体電解質の結晶化が終わった後、さらに加熱処理を行うことで、ガラス外筒3の上部に固化したり、硫黄蒸気として放出されたりすることにより、硫化物系固体電解質への単体硫黄のコンタミネーションを抑制することもできる。
【0099】
このように、前駆体の加熱処理の系内で単体硫黄から硫黄蒸気を発生させる場合、単体硫黄を前駆体とは別の箇所に配置することで、硫化物系固体電解質への硫黄のコンタミネーションを抑制することができる。
【0100】
また、加熱処理は、単体硫黄の硫黄還流下で行われることが好ましい。加熱処理を単体硫黄の硫黄還流下で行うことで、前駆体中の硫黄の揮発を抑制し、所望の化学組成を有する硫化物系固体電解質を製造することができる。その結果、当該硫化物系固体電解質は、一定したイオン伝導度、高いイオン伝導度を有する。
【0101】
単体硫黄の使用量は、加熱処理条件や加熱容器によって異なるものの、前駆体の全質量に対して、10~500質量%であることが好ましく、50~450質量%がより好ましく、100~400質量%であることがさらに好ましく、150~350質量%が特に好ましく、150~250質量%が最も好ましい。単体硫黄の使用量が10質量%以上であると、硫黄の蒸気を十分量発生できることから好ましい。一方、単体硫黄の使用量が500質量%以下であると、硫化物系固体電解質への硫黄のコンタミネーションが防止でき、経済的にも好ましい。
【0102】
上述のように、メカニカルミリングに変えて液相法を採用し、かつ、液相法により得られた前駆体を単体硫黄の蒸気存在下で加熱処理をすることで高いイオン伝導度を有する硫化物系固体電解質を工業的に製造することができる。
【0103】
<全固体電池の製造方法>
本発明の一形態によれば、全固体電池の製造方法が提供される。なお、「全固体電池」とは、電解質として固体電解質を用いた電池を意味する。全固体電池は、通常、正極層、固体電解質層、および負極層を含む。
【0104】
前記全固体電池の製造方法は、より詳細には、正極層、固体電解質層、および負極層を有する全固体電池の製造方法に関する。この際、前記正極層、固体電解質層、および負極層の少なくとも1つが、上記方法によって製造された硫化物系固体電解質を用いて形成される。
【0105】
前記固体電解質層は、上記方法によって製造された硫化物系固体電解質を用いて形成されることが好ましい。この際、前記固体電解質層は、前記硫化物系固体電解質単独で構成されてもよいし、他の固体電解質を併用して含んでいてもよい。前記他の固体電解質としては、酸化物系固体電解質、錯体水素化物固体電解質等が挙げられる。
【0106】
また、正極層および/または負極層が、上記方法によって製造された硫化物系固体電解質を用いて形成されてもよい。正極層、負極層に前記硫化物系固体電解質が含まれる場合、公知のリチウムイオン二次電池用正極活物質または負極活物質を組み合わせて正極層、負極層が形成される。この際、正極層または負極層に含まれる前記硫化物系固体電解質の量比は、特に制限されない。なお、正極層、負極層は、公知の集電体、導電助剤、バインダー等を含んでいてもよい。
【0107】
全固体電池は、上述した正極層、固体電解質層、および負極層を成形して積層することによって作製されるが、各層の成形方法および積層方法については、特に制限されない。
【0108】
例えば、固体電解質および/または電極活物質を溶媒に分散させてスラリー状としたものをドクターブレードまたはスピンコート等により塗布し、それを圧延することにより製膜する方法;真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法等を用いて製膜および積層を行う気相法;ホットプレスまたは温度をかけないコールドプレスによって粉末を成形し、それを積層していく加圧成形法等がある。
【0109】
上記方法によって製造された硫化物系固体電解質は比較的柔らかいことから、加圧成形法によって各層を成形および積層して全固体電池を作製することが特に好ましい。加圧成形法としては、加温して行うホットプレスと加温しないコールドプレスとがあるが、コールドプレスでも十分に成形することができる。
【0110】
なお、本発明の一形態によれば、上記方法によって製造された硫化物系固体電解質を加熱成形してなる成形体もまた提供される。前記成形体は、全固体電池として好適に用いることができる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0112】
[製造例]
液相法により、リチウム元素、リン元素、硫黄元素、ケイ素元素および塩素元素を含むLGPS系固体電解質前駆体を製造した。
【0113】
(Li-Si-S均一溶液を調製する工程)
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、Li2S:SiS2=0.5:1のモル比となるように、4.08gのLi2S(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.8%)および16.18gのSiS2(Hanghzou Ocean Chemical社製、純度99%)をガラス容器に投入した。さらに2.41gの単体硫黄(高純度化学社製、純度99.99%)をガラス容器に加えた。次に、630gのアセトニトリル(和光純薬工業社製、超脱水グレード)を加え、室温(25℃)下で172時間混合した。混合物は徐々に溶解したが、この段階では原料中の不純物が残存していた。得られた溶液をメンブレンフィルター(PTFE、孔径1.0μm)を用いて濾過することで、濾液(Li-Si-S均一溶液)を調製した。
【0114】
なお、Li-Si-S均一溶液のICP分析を行った結果、Li/Si(モル比)は49.7/50.3であった。また、(Li2S+SiS2)の濃度は3.17wt%であった。
【0115】
(Li-P-Sスラリー溶液を調製する工程)
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、8.52gのLi2S(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.8%)および13.74gのP2S5(シグマ・アルドリッチ社製、純度99%)をガラス容器に加えた。次に、220gのアセトニトリル(和光純薬工業社製、超脱水グレード)を加え、室温(25℃)で3時間混合した。その後、6.71gのLi2S(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.8%)を加えて6時間混合し、Li-P-Sスラリー溶液を調製した。
【0116】
(Li-Si-P-S-Clスラリー溶液を調製する工程)
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、511.83gのLi-Si-S均一溶液および248.97gのLi-P-Sスラリー溶液を混合し、次いで、1.03gのLiCl(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.99%)を混合した。得られた混合液を室温(25℃)で12時間撹拌することでLi-Si-P-S-Clスラリー溶液を調製した。
【0117】
なお、系内に加えた全ての固体電解質原料の仕込み組成がLi10.05Si1.48P1.55S11.7Cl0.3となり、且つ、単体硫黄の投入量が、固体電解質原料に対して4.38質量%となるように調整した。
【0118】
(乾燥工程)
調製したLi-Si-P-S-Clスラリー溶液を、真空下、溶液を撹拌しながら180℃で4時間乾燥させることで、溶媒を除去し、室温まで冷却することで、仕込み組成がLi10.05Si1.48P1.55S11.7Cl0.3であるLGPS系固体電解質前駆体を調製した。なお、溶媒除去はスラリー溶液を撹拌しながら行った。
【0119】
[実施例1]
製造例で得た前駆体を用いて
図1に示す加熱容器1を用いて加熱処理工程を行った。
【0120】
より詳細には、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、ガラス内筒2に0.5gの前駆体3を、ガラス外筒3に1.0gの単体硫黄5(前駆体の全質量に対して200質量%、高純度化学社製、純度99.99%)をそれぞれ加えた。
【0121】
加熱容器1にアルゴン(G3グレード)50mL/minを流通させながら、2.5時間かけて475℃まで昇温し、その後4時間475℃で焼成することで、LGPS系固体電解質を製造した。この際、加熱処理は、管状炉7を用いて行い、加熱容器1の内筒全体が加熱されるように行った。
【0122】
なお、単体硫黄の融点は115℃であり、沸点は445℃であるため、添加した単体硫黄は、加熱処理時、加熱容器内で硫黄蒸気として存在したと考えられる。さらに、ガラス外筒の上部は室温付近の温度であり、硫黄蒸気が冷却されるため、硫黄による還流状態となっている。一部の単体硫黄は、加熱容器外に放出されるものの、加熱処理終了後に室温まで降温した際、ガラス外筒の内側に単体硫黄が残存していた。このため、加熱処理は、硫黄還流下で行われたものと考えられる。
【0123】
得られたLGPS系固体電解質について、以下の方法でX線回折測定を行った。すなわち、Ar雰囲気下、室温(25℃)にてX線回折装置「X’Pert3Powder」(CuKα:λ=1.5405Å、PANalytical社製)を用いてX線回折を測定した。その結果、2θ=17.25°、20.01°、20.22°、23.39°、26.76°、28.81°、29.41°、31.44°にピークが観測され、得られた硫化物系固体電解質がLGPS結晶であることを確認した。なお、
図3には得られたLGPS系固体電解質のX線回折測定の結果を示すグラフを示す。
【0124】
[実施例2]
ガラス製反応管の内筒と外筒に加えるSを、1.5g(前駆体の全質量に対して300質量%)とした以外は、実施例1と同様の条件で加熱処理を行った。
【0125】
実施例1と同様の方法でX線回折測定を行った。その結果、2θ=17.30°、20.06°、20.27°、23.45°、26.80°、28.86°、29.46°、31.49°にピークが観測され、得られた硫化物系固体電解質がLGPS結晶であることを確認した。なお、
図3には得られたLGPS系固体電解質のX線回折測定の結果を示すグラフを示す。
【0126】
[実施例3]
ガラス製反応管の内筒と外筒に加えるSを、2.0g(前駆体の全質量に対して400質量%)とした以外は、実施例1と同様の条件で加熱処理を行った。
【0127】
実施例1と同様の方法でX線回折測定を行った。その結果、2θ=17.23°、19.99°、20.19°、23.37°、26.74°、28.80°、29.39°、31.43°にピークが観測され、得られた硫化物系固体電解質がLGPS結晶であることを確認した。なお、
図3には得られたLGPS系固体電解質のX線回折測定の結果を示すグラフを示す。
【0128】
[比較例1]
加熱処理工程において、加熱容器1のガラス内筒2とガラス外筒3との間に単体硫黄を加えなかったことを除いては、実施例1と同様の方法でLGPS系硫化物系固体電解質を製造した。
【0129】
なお、実施例1と同様の方法でX線回折測定を行ったところ、2θ=17.22°、19.98°、20.17°、23.38°、26.72°、28.79°、29.39°、31.41°にピークが観測され、得られた硫化物系固体電解質がLGPS結晶であることを確認した。なお、
図3には得られたLGPS系固体電解質のX線回折測定の結果を示すグラフを示す。
【0130】
<ラマン分光測定>
(1)試料調製
上部に石英ガラス(Φ60mm、厚さ1mm)を光学窓として有する密閉容器を用いて測定試料の作製を行った。アルゴン雰囲気下のグローブボックスにて、試料を石英ガラスに接する状態とし、容器を密閉してグローブボックス外に取り出し、ラマン分光測定を行った。
【0131】
(2)測定条件
レーザーラマン分光光度計NRS-5100(日本分光株式会社製)を使用し、励起波長532.15nm、露光時間20秒にて測定を行った。
【0132】
図4は実施例1~3および比較例1で得られたLGPS系固体電解質のラマン分光測定の結果を示すグラフである。
図4のラマン回折の結果に示したとおり、ラマン分光測定では、少なくとも270±10cm
-1および420±10cm
-1においてピークが得られており、PS
4
3-に相当するピークが得られた。
【0133】
そして、単体硫黄は220cm-1付近にピークが検出されるが、実施例1~3および比較例1にはいずれもピークが観測されていないことから、得られた焼成体には、単体硫黄の残存がほとんどないことを確認した。
【0134】
<リチウムイオン伝導度測定>
実施例1~3および比較例1で製造したLGPS系固体電解質のイオン伝導度を評価した。
【0135】
具体的には、LGPS系固体電解質を一軸成型(480MPa)に供し、厚さ約1mm、直径10mmのディスクを得た。次に、四端子法による交流インピーダンス測定(Solartron社製「Sl1260IMPEDANCE/GAIN-PHASEANALYZER」)を室温(25℃)にて行い、リチウムイオン伝導度を算出した。
【0136】
得られた結果を下記表1に示す。
【0137】
【0138】
表1に結果から、実施例1~3で製造したLGPS系固体電解質のイオン伝導度が高いことが分かる。また、液相法を採用することでLGPS系固体電解質を工業的に製造することができる。
【符号の説明】
【0139】
1 加熱容器
2 ガラス内筒
3 ガラス外筒
4 前駆体
5 単体硫黄
6 熱電対
7 管状炉