IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-モータ制御装置 図1
  • 特許-モータ制御装置 図2
  • 特許-モータ制御装置 図3
  • 特許-モータ制御装置 図4
  • 特許-モータ制御装置 図5
  • 特許-モータ制御装置 図6
  • 特許-モータ制御装置 図7
  • 特許-モータ制御装置 図8
  • 特許-モータ制御装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/024 20160101AFI20231212BHJP
   H02P 29/028 20160101ALI20231212BHJP
   H02P 25/022 20160101ALI20231212BHJP
   F16H 61/32 20060101ALN20231212BHJP
   F16H 63/34 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
H02P29/024
H02P29/028
H02P25/022
F16H61/32
F16H63/34
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020008475
(22)【出願日】2020-01-22
(65)【公開番号】P2021118560
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】坂口 浩二
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-071726(JP,A)
【文献】特開2014-192950(JP,A)
【文献】特開2012-005286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H61/26-61/36
63/00-63/38
H02P4/00
21/00-25/03
25/04
25/08-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ巻線(11)を有するモータ(10)の駆動を制御するモータ制御装置であって、
スイッチング素子(411~413)を有するドライバ回路(41)と、
前記モータの回転角を検出する回転角センサ(13)から検出値を取得し、モータ回転角を演算する角度演算部(51)、前記モータ回転角に基づき、前記モータの駆動を制御する駆動制御部(53)、および、前記モータの駆動中に前記モータ回転角の異常が検出された場合、通電状態を保持した状態にて通電系統の異常診断を行う異常診断部(58)を有する制御部(50)と、
を備え、
前記通電系統の異常は、前記スイッチング素子のオープン故障による導通不能異常であって、
前記異常診断部は、前記モータの駆動中に前記モータ回転角の異常が検出された場合、前記モータ回転角を用いない制御に移行する前に、異常検出時の通電状態を保持した状態にて、検出された前記モータ回転角の異常が、前記回転角センサの異常によるものか、前記スイッチング素子のオープン故障による導通不能異常であるかを、前記モータ巻線の端子電圧に基づいて判別するモータ制御装置。
【請求項2】
前記駆動制御部は、前記モータ回転角の異常が前記回転角センサの異常によるものである場合、前記モータ回転角を用いない制御に切り替えて前記モータの駆動を継続する請求項に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記駆動制御部は、前記モータ回転角の異常が前記通電系統の異常によるものである場合、前記モータへの通電をオフにする請求項またはに記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記異常診断部は、前記モータ回転角の異常が検出された場合、通電を指令している相である通電指令相の前記端子電圧が正常時と異なる場合、前記モータ回転角の異常が前記通電系統の異常によるものであって、前記通電指令相を故障相と特定する請求項またはに記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記駆動制御部は、前記故障相を用いず、前記故障相以外の相である正常相を用いて前記モータを駆動する制御に切り替えて前記モータの駆動を継続する請求項に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクチュエータの駆動を制御することでシフトレンジを切り替えるシフトレンジ切替装置が知られている。例えば特許文献1では、シフトレンジ切替実施前のイニシャルチェックにて、断線診断を実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-71726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、スイッチング素子のオフ故障等、通電しないとわからない故障を、モータを駆動する必要がないタイミングにて実施している。そのため、一時的な故障から復帰した場合には診断することができない。本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、適切に異常を検出可能なモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のモータ制御装置は、モータ巻線(11)を有するモータ(10)の駆動を制御するものであって、スイッチング素子(411~413)を有するドライバ回路(41)と、制御部(50)と、を備える。制御部は、角度演算部(51)、駆動制御部(53)、および、異常診断部(58)を有する。角度演算部は、モータの回転角を検出する回転角センサ(13)から検出値を取得し、モータ回転角を演算する。駆動制御部は、モータ回転角に基づき、モータの駆動を制御する。異常診断部は、モータの駆動中にモータ回転角の異常が検出された場合、通電状態を保持した状態にて通電系統の異常診断を行う。通電系統の異常は、スイッチング素子のオープン故障による導通不能異常である。
異常診断部は、モータの駆動中にモータ回転角の異常が検出された場合、モータ回転角を用いない制御に移行する前に、異常検出時の通電状態を保持した状態にて、検出されたモータ回転角の異常が、回転角センサの異常によるものか、スイッチング素子のオープン故障による導通不能異常であるかを、モータ巻線の端子電圧に基づいて判別する。
【0006】
これにより、モータ駆動中に生じたモータ回転角の異常が、回転角センサの異常によるものなのか、通電系統の異常によるものなのかを、適切に切り分けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態によるシフトバイワイヤシステムを示す斜視図である。
図2】第1実施形態によるシフトバイワイヤシステムを示す概略構成図である。
図3】第1実施形態によるECUを説明する回路図である。
図4】第1実施形態による異常検出処理を説明するフローチャートである。
図5】第1実施形態による駆動モード選択処理を説明するフローチャートである。
図6】第1実施形態によるモータ駆動制御を説明するタイムチャートである。
図7】第1実施形態によるモータ駆動制御を説明するタイムチャートである。
図8】第2実施形態による駆動モード選択処理を説明するフローチャートである。
図9】第2実施形態によるモータ駆動制御を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
以下、モータ制御装置を図面に基づいて説明する。以下、複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。第1実施形態によるモータ制御装置を図1図7に示す。図1および図2に示すように、シフトバイワイヤシステム1は、モータ10、シフトレンジ切替機構20、パーキングロック機構30、および、モータ制御装置としてのECU40等を備える。
【0009】
モータ10は、図示しない車両に搭載されるバッテリから電力が供給されることで回転し、シフトレンジ切替機構20の駆動源として機能する。本実施形態のモータ10は、スイッチトリラクタンスモータであって、図示しないステータに巻回されるモータ巻線11を有する。モータ巻線11は、U相巻線111、V相巻線112およびW相巻線113を有し、結線部115で結線される(図3参照)。
【0010】
図2に示すように、回転角センサであるエンコーダ13は、モータ10の図示しないロータの回転位置を検出する。エンコーダ13は、例えば磁気式のロータリーエンコーダであって、ロータと一体に回転する磁石と、磁気検出用のホールIC等により構成される。エンコーダ13は、ロータの回転に同期して、所定の角度ごとにパルス信号であるエンコーダ信号を出力する。
【0011】
減速機14は、モータ10のモータ軸と出力軸15との間に設けられ、モータ10の回転を減速して出力軸15に出力する。これにより、モータ10の回転がシフトレンジ切替機構20に伝達される。出力軸15には、出力軸15の角度を検出する出力軸センサ16が設けられる。出力軸センサ16は、例えばポテンショメータである。
【0012】
図1に示すように、シフトレンジ切替機構20は、ディテントプレート21、ディテントスプリング25、および、ディテントローラ26等を有し、減速機14から出力された回転駆動力を、マニュアルバルブ28、および、パーキングロック機構30へ伝達する。
【0013】
ディテントプレート21は、出力軸15に固定され、モータ10により駆動される。ディテントプレート21には、出力軸15と平行に突出するピン24が設けられる。ピン24は、マニュアルバルブ28と接続される。ディテントプレート21がモータ10によって駆動されることで、マニュアルバルブ28は軸方向に往復移動する。すなわち、シフトレンジ切替機構20は、モータ10の回転運動を直線運動に変換してマニュアルバルブ28に伝達する。マニュアルバルブ28は、バルブボディ29に設けられる。マニュアルバルブ28が軸方向に往復移動することで、図示しない油圧クラッチへの油圧供給路が切り替えられ、油圧クラッチの係合状態が切り替わることでシフトレンジが変更される。
【0014】
ディテントプレート21のディテントスプリング25側には、P(パーキング)、R(リバース)、N(ニュートラル)、D(ドライブ)の各レンジに対応する4つの谷部22が形成される。
【0015】
ディテントスプリング25は、弾性変形可能な板状部材であり、先端にディテントローラ26が設けられる。ディテントスプリング25は、ディテントローラ26をディテントプレート21の回動中心側に付勢する。ディテントプレート21に所定以上の回転力が加わると、ディテントスプリング25が弾性変形し、ディテントローラ26が谷部22間を移動する。ディテントローラ26が谷部22のいずれかに嵌まり込むことで、ディテントプレート21の揺動が規制され、マニュアルバルブ28の軸方向位置、および、パーキングロック機構30の状態が決定され、自動変速機5のシフトレンジが固定される。
【0016】
パーキングロック機構30は、パーキングロッド31、円錐体32、パーキングロックポール33、軸部34、および、パーキングギア35を有する。パーキングロッド31は、略L字形状に形成され、一端311側がディテントプレート21に固定される。パーキングロッド31の他端312側には、円錐体32が設けられる。円錐体32は、他端312側にいくほど縮径するように形成される。
【0017】
パーキングロックポール33は、円錐体32の円錐面と当接し、軸部34を中心に揺動可能に設けられる。パーキングロックポール33のパーキングギア35側には、パーキングギア35と噛み合い可能な凸部331が設けられる。ディテントプレート21の回転により円錐体32がP方向に移動すると、パーキングロックポール33が押し上げられ、凸部331とパーキングギア35とが噛み合う。一方、円錐体32がNotP方向に移動すると、凸部331とパーキングギア35との噛み合いが解除される。
【0018】
パーキングギア35は、図示しない車軸に設けられ、パーキングロックポール33の凸部331と噛み合い可能に設けられる。パーキングギア35と凸部331とが噛み合うと、車軸の回転が規制される。シフトレンジがPレンジ以外のレンジであるNotPレンジのとき、パーキングギア35はパーキングロックポール33によりロックされず、車軸の回転は、パーキングロック機構30により妨げられない。また、シフトレンジがPレンジのとき、パーキングギア35はパーキングロックポール33によってロックされ、車軸の回転が規制される。
【0019】
図2および図3に示すように、ECU40は、ドライバ回路41、電圧検出部43、電流検出部45、および、制御部50等を備える。図2では、電圧検出部43および電流検出部45の記載を省略した。図3に示すように、ドライバ回路41は、3つのスイッチング素子411~413を有し、巻線111~113の通電を切り替える。本実施形態のスイッチング素子411~413は、MOSFETであって、各相の巻線111~113とグランドとの間に設けられる。
【0020】
モータ巻線11の巻線111~113は、結線部115で結線される。結線部115には、電源ラインを経由して、バッテリから電力が供給される。電源ラインには、リレー部46(図2参照)が設けられ、リレー部46がオンされているときに結線部115に電力が供給される。
【0021】
電圧検出部43は、U相端子電圧検出部431、V相端子電圧検出部432およびW相端子電圧検出部433を有する。U相端子電圧検出部431はU相端子電圧Vuを検出し、V相端子電圧検出部432はV相端子電圧Vvを検出し、W相端子電圧検出部433はW相端子電圧Vwを検出する。電流検出部45は、モータ巻線11に通電される電流を検出する。本実施形態の電流検出部45はシャント抵抗である。
【0022】
制御部50は、マイコン等を主体として構成され、内部にはいずれも図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。制御部50における各処理は、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。
【0023】
制御部50は、角度演算部51、目標角度設定部52、駆動制御部53、電圧取得部56、電流取得部57、および、異常診断部58等を有する。角度演算部51は、エンコーダ13から出力されるエンコーダ信号の各相のパルスエッジをカウントし、エンコーダカウント値θenを演算する。エンコーダカウント値θenは、モータ10の回転位置に応じた値であって、「モータ角度」に対応する。
【0024】
目標角度設定部52は、モータ10を停止させる目標位置である目標カウント値θcmdを設定する。シフトレンジを切り替えるとき、目標カウント値θcmdは、ディテントローラ26が目標シフトレンジに応じた谷部22に嵌まり合うように設定される。
【0025】
駆動制御部53は、エンコーダカウント値θenが目標カウント値θcmdとなるように、モータ10の駆動を制御する。詳細には、駆動制御部53は、各相指令を生成してドライバ回路41に出力することで、スイッチング素子411~413のオンオフ作動を制御する。
【0026】
電圧取得部56は、電圧検出部43から端子電圧Vu、Vv、Vwを取得する。電流取得部57は、電流検出部45のドライバ回路41側の電圧を、モータ電流Imに係る検出値として取得する。
【0027】
本実施形態では、スイッチング素子411~413が巻線111~113のグランド側に設けられているので、U相端子電圧Vuは、スイッチング素子411がオフのとき、バッテリ電圧Vb、スイッチング素子411がオンのとき、グランド電位Vgとなる。V相、W相も同様、端子電圧Vv、Vwは、スイッチング素子412、413がオフのとき、バッテリ電圧Vb、オンのとき、グランド電位Vgとなる。以下、グランド電位Vgが0であるものとする。
【0028】
異常診断部58は、シフトバイワイヤシステム1の異常を診断する。シフトバイワイヤシステム1の異常には、エンコーダ13の異常であるエンコーダ異常、および、通電系統の異常が含まれる。本実施形態では、通電系統の異常として、スイッチング素子411~413のオープン故障による導通不能異常について説明する。なお、導通不能異常には、スイッチング素子411~413そのものの異常等に限らず、信号異常や、各相の巻線111~113のバッテリショート等も含まれるものとする。以下、U相の異常判定を中心に説明する。
【0029】
ところで、導通不能異常のように、通電しないとわからない異常について、モータ10を駆動する必要がない場合に異常検出を行う場合、リアルタイムでの異常検出ができないため、一時的に正常復帰した場合等を誤判定する虞がある。また、シフトレンジの切替中にエンコーダカウント値θenが停滞した場合、エンコーダ13の異常なのか導通不能異常なのかの判別ができないと、シフトレンジの切替が可能であるか否かの判定ができない。
【0030】
そこで本実施形態では、シフトレンジ切替中にエンコーダカウント値θenの停滞が発生した場合、エンコーダ異常か導通不能異常かの判定を行う。具体的には、エンコーダカウント値θenが停滞したときの通電指示相がU相の場合、U相端子電圧Vuが0であれば、通電系統は正常であって、エンコーダ異常と判定する。この場合、通電系統は正常であるので、エンコーダカウント値θenを用いず、所定時間ごとに通電相を切り替えるオープン駆動により、モータ10を駆動し、レンジ切り替えを継続する。
【0031】
また、エンコーダカウント値θenが停滞したときの通電相がU相の場合、U相端子電圧Vuがバッテリ電圧Vbであれば、U相の導通不能異常と判定し、モータ10への通電をオフにする。モータ10への通電をオフにすることで、ディテントローラ26は、負荷トルクにより最も近い谷部22へ落とし込まれる。以下、故障相がU相、正常相がV相およびW相である場合を例に説明する。
【0032】
本実施形態の異常検出処理を図4のフローチャートに基づいて説明する。この処理は、駆動モードがフィードバックモードのときに、異常診断部58にて所定の周期(例えば1[ms])で実行される。以下、ステップS501の「ステップ」を省略し、単に記号「S」と記す。他のステップも同様である。
【0033】
S501では、異常診断部58は、エンコーダ13が停滞しているか否か判断する。ここでは、エンコーダカウント値θenが、判定時間または判定回数変わらなかった場合、エンコーダ13が停滞していると判定する。エンコーダ13が停滞していないと判断された場合(S501:NO)、S502以降の処理をスキップする。エンコーダ13が停滞していると判断された場合(S501:YES)、S502へ移行する。
【0034】
S502では、異常診断部58は、通電指示相の端子電圧V#が電圧判定閾値Vth以上か否か判定する。通電指示相がU相であれば、端子電圧V#はU相端子電圧Vuであるといった具合に、「#」は通電指示相を意味するものとする。S501と同様、通電指示相の端子電圧V#が電圧判定閾値Vth以上の状態が判定時間または判定回数に亘って継続した場合、肯定判断する。判定時間や判定回数は、S501と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
電圧判定閾値Vthは、グランド電位Vgとバッテリ電圧Vbとの間の値であって、導通不能異常とエンコーダ異常との切り分けが可能な任意の値に設定される。通電指示相の端子電圧V#が電圧判定閾値Vth以上であると判断された場合(S502:YES)、S503へ移行し、通電指示相の導通不能異常を確定する。通電指示相の端子電圧V#が電圧判定閾値Vth未満であると判断された場合(S502:NO)、S504へ移行し、エンコーダ異常を確定する。
【0036】
本実施形態の駆動モード選択処理を図5のフローチャートに基づいて説明する。この処理は、イグニッションスイッチ等である車両の始動スイッチがオンされているときに、制御部50にて所定の周期(例えば1[ms])にて実行される。本実施形態のフェイルモードには、通電をオフにする「フェイル(通電オフ)モード」、オープン駆動によりモータ10を駆動する「フェイル(オープン)モード」、および、モータ10を停止させる「フェイル(停止)モード」が含まれる。
【0037】
S101では、制御部50は、現在の駆動モードを判定する。駆動モードがスタンバイモードの場合、S102へ移行し、フィードバックモードの場合、S104へ移行し、停止モードの場合、S110へ移行し、フェイル(オープン)モードの場合、S112へ移行し、フェイル(停止)モードの場合、S114へ移行する。また、フェイル(通電オフ)モードの場合、S102以降の処理をスキップする。
【0038】
駆動モードがスタンバイモードである場合に移行するS102では、制御部50は、目標シフトレンジが変更されたか否か判断する。目標シフトレンジが変更されていないと判断された場合(S102:NO)、スタンバイモードを継続する。目標シフトレンジが変更されたと判断された場合(S102:YES)、S103へ移行し、駆動モードをフィードバックモードに切り替える。フィードバックモードでは、エンコーダカウント値θenが目標カウント値θcmdとなるようにモータ10の駆動をフィードバック制御する。図中等適宜、フィードバックを「F/B」と記載する。
【0039】
駆動モードがフィードバックモードである場合に移行するS104では、制御部50は、エンコーダ異常が確定しているか否か判断する。エンコーダ異常が確定していると判断された場合(S104:YES)、S105へ移行し、駆動モードをフェイル(オープン)モードに切り替える。エンコーダ異常が確定していないと判断された場合(S104:NO)、S106へ移行する。
【0040】
S106では、制御部50は、通電指示相の導通不能異常が確定しているか否か判断する。通電指示相の導通不能異常が確定していると判断された場合(S106:YES)、S107へ移行し、駆動モードをフェイル(通電オフ)とし、モータ10への通電をオフにする。通電指示相の導通不能異常が確定していないと判断された場合(S106:NO)、S108へ移行する。
【0041】
S108では、制御部50は、モータ10が目標角度に到達したか否か判断する。ここでは、エンコーダカウント値θenが目標カウント値θcmdを含む所定範囲内(例えば±2カウント)となった場合、モータ10が目標角度に到達したと判定する。モータ10が目標角度に到達していないと判断された場合(S108:NO)、フィードバックモードを継続する。モータ10が目標角度に到達したと判断された場合(S108:YES)、S109へ移行し、駆動モードを停止モードに切り替える。停止モードでは、エンコーダカウント値θenに応じた2相への固定相通電により、モータ10を停止させる。
【0042】
駆動モードが停止モードである場合に移行するS110では、制御部50は、固定相通電が完了したか否か判断する。ここでは、固定相通電を行っている時間が所定時間以上となった場合、固定相通電が完了したと判断する。固定相通電を継続する所定時間は、モータ10を停止させるのに要する時間に応じて設定される。固定相通電が完了していないと判断された場合(S110:NO)、停止モードを継続する。固定相通電が完了したと判断された場合(S110:YES)、S111へ移行し、駆動モードをスタンバイモードに切り替える。
【0043】
駆動モードがフェイル(オープン)モードである場合に移行するS112では、制御部50は、モータ10が目標角度に到達したか否か判断する。フェイル(オープン)モードでは、エンコーダカウント値θenを用いることができないため、通電相の切替数をカウントして判定する。モータ10が目標角度に到達していないと判断された場合(S112:NO)、フェイル(オープン)モードを継続する。モータ10が目標角度に到達したと判断された場合(S112:YES)、S113へ移行し、駆動モードをフェイル(停止)モードに切り替える。フェイル(停止)モードでは、2相への固定相通電によりモータ10を停止させる。
【0044】
駆動モードがフェイル(停止)モードである場合に移行するS114では、制御部50は、S110と同様、固定相通電が完了したか否か判断する。固定相通電が完了していないと判断された場合(S114:NO)、フェイル(停止)モードを継続する。固定相通電が完了したと判断された場合(S114:YES)、S115へ移行し、駆動モードをフェイル(通電オフ)に切り替え、モータ10への通電をオフにする。
【0045】
本実施形態のモータ駆動制御を図6および図7のタイムチャートに基づいて説明する。図6および図7では、上段から、駆動モード、モータ角度、各相の通電指示、各相の端子電圧、エンコーダ異常状態、導通不能異常状態を示す。モータ角度には、対応するシフトレンジを括弧書きにて記載した。後述の図9も同様である。
【0046】
エンコーダ異常が生じた場合を図6に基づいて説明する。図6に示すように、時刻x10では、目標シフトレンジがPレンジからRレンジに切り替わると、駆動モードがスタンバイモードからフィードバックモードに切り替わる。また、ディテントローラ26がRレンジに対応する谷部22に嵌まり合うように目標カウント値θcmdが設定され、エンコーダカウント値θenが目標カウント値θcmdとなるように、フィードバック制御によりモータ10が駆動される。詳細には、エンコーダカウント値θenに応じて通電指示を切り替えることで、通電相を切り替える。本実施形態では、正常時、通電指示がオンの相の端子電圧が0、オフの相の端子電圧がバッテリ電圧Vbとなる。
【0047】
時刻x11にてエンコーダカウント値θenが停滞している。このときの通電指示相はU相であって、U相端子電圧Vuが0、モータ電流Im≠0であり、モータ巻線11には電流が流れている。すなわち通電系統には異常が生じていないので、エンコーダカウント値θenの停滞から判定時間Xaが経過した時刻x12にて、エンコーダ異常を確定させる。ここでは、エンコーダ13の停滞判定と通電状態の判定とを同時に判定しているが、例えば、第1の判定時間にてエンコーダ停滞を判定し、その後、第2の判定時間にて通電状態を判定するようにしてもよい。
【0048】
時刻x12にてエンコーダ異常が確定すると、駆動モードをフェイル(オープン)モードとし、オープン駆動によりモータ10を駆動し、レンジ切り替えを継続する。時刻x13にて、通電相の切替回数に基づき、モータ10が目標角度に到達したと判定されると、駆動モードをフェイル(停止)モードに切り替え、固定相通電によりモータ10を停止させる。図6の例では、U相とV相に通電する。固定相通電が完了した時刻x14では、駆動モードをフェイル(通電オフ)モードとし、モータ10への通電を停止する。
【0049】
U相に導通不能異常が生じた場合を図7に基づいて説明する。図7中の時刻x20から時刻x21までの処理は、図6中の時刻x10から時刻x11までの処理と同様である。時刻x21にて、エンコーダカウント値θenが停滞しており、通電指示相がU相であるが、U相端子電圧Vuがバッテリ電圧Vb、モータ電流Im=0であり、モータ巻線11には電流が流れていない。すなわち、U相巻線111に通電できない導通不能異常が生じていることを検出可能である。
【0050】
時刻x21から判定時間Xaが経過した時刻x22では、導通不能異常を確定させ、駆動モードをフェイル(通電オフ)モードに切り替える。モータ10への通電を停止すると、負荷トルクによりモータ10が逆回転し、時刻x23にて、ディテントローラ26がPレンジに対応する谷部22に戻される。
【0051】
本実施形態では、エンコーダ停滞が発生した場合、その通電状態を保持し、通電指示相の端子電圧に基づき、エンコーダ異常か導通不能異常かをリアルタイムに切り分けている。これにより、エンコーダ異常であればオープン駆動、導通不能異常であれば通電オフ、といった具合に、発生した異常に応じた適切な処置を行うことができる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態のECU40は、モータ巻線11を有するモータ10の駆動を制御するものであって、角度演算部51と、駆動制御部53と、異常診断部58と、を備える。角度演算部51は、モータ10の回転角を検出するエンコーダ13から検出値を取得し、エンコーダカウント値θenを演算する。駆動制御部53は、エンコーダカウント値θenに基づき、モータ10の駆動を制御する。異常診断部58は、モータ10の駆動中にエンコーダカウント値θenの異常が検出された場合、通電状態を保持した状態にて、通電系統の異常診断を行う。
【0053】
これにより、モータ駆動中に生じたエンコーダカウント値θenの異常が、エンコーダ13の異常なのか、通電系統の異常なのかを、適切に切り分けることができる。また、異常状態に応じ、その後の制御を適切に行うことができる。例えばシフトバイワイヤシステム1に適用した場合、レンジ切替完了後に異常判定を行う場合と比較し、速やかに異常診断を行うことができる。
【0054】
異常診断部58は、検出されたエンコーダカウント値θenの異常が、エンコーダ13の異常によるものか、通電系統の異常によるものかを、モータ巻線11の端子電圧Vu、Vv、Vwに基づいて判別する。これにより、発生している異常を適切に判別することができる。
【0055】
駆動制御部53は、エンコーダカウント値θenの異常がエンコーダ13の異常によるものである場合、エンコーダカウント値θenを用いない制御に切り替えてモータ10の駆動を継続する。これにより、通電系統に正常であれば、エンコーダカウント値θenを用いずにモータ10の駆動を継続することができる。また、シフトバイワイヤシステム1において、適切にレンジ切り替えを行うことができる。
【0056】
駆動制御部53は、エンコーダカウント値θenの異常が通電系統の異常によるものである場合、モータ10への通電をオフにする。これにより、速やかにモータ10の駆動を中止することができる。また、シフトバイワイヤシステム1において、負荷トルクにより、異常発生前のレンジに戻すことができる。
【0057】
異常診断部58は、エンコーダカウント値θenの異常が検出された場合、通電を指令している相である通電指令相の端子電圧が正常時と異なる場合、エンコーダカウント値θenの異常が通電系統の異常によるものであって、通電指令相を故障相と特定する。これにより、異常箇所を適切に特定することができる。
【0058】
(第2実施形態)
第2実施形態を図8および図9に示す。本実施形態では、導通不能異常が確定した場合、残りの2相を用いた2相駆動により、モータ10を駆動し、シフトレンジを切り替える
。本実施形態のフェイルモードには、上記実施形態の各モードに加え、フェイル(2相駆動)モードが含まれる。
【0059】
本実施形態の駆動モード選択処理を図8のフローチャートに基づいて説明する。S201では、制御部50は、駆動モードを判定する。駆動モードがスタンバイモードの場合、S201へ移行し、フィードバックモードの場合、S204へ移行し、停止モードの場合、S210へ移行し、フェイル(オープン)モードおよびフェイル(2相駆動)モードの場合、S212へ移行し、フェイル停止モードの場合、S214へ移行する。また、フェイル(通電オフ)モードの場合、S202以降の処理をスキップする。
【0060】
S202~S206の処理は、図5中のS102~S106の処理と同様である。S206にて、導通不能異常が確定していると判断された場合(S206:YES)、S207へ移行し、駆動モードをフェイル(2相駆動)に切り替える。例えばU相に導通不能異常が生じている場合、正常であるV相およびW相の2相を用いたフィードバック制御により、モータ10を駆動し、シフトレンジを切り替える。
【0061】
S208~S211の処理は、図5中のS108~S111の処理と同様である。駆動モードがフェイル(オープン)またはフェイル(2相駆動)モードである場合に移行するS212では、制御部50は、モータ10が目標角度に到達したか否かを判断する。2相駆動の場合、エンコーダ13は正常であるので、S108と同様、エンコーダカウント値θenに基づいて判定可能である。モータ10が目標角度に到達していないと判断された場合(S212:NO)、現在の駆動モードを継続し、目標角度に到達したと判断された場合(S212:YES)、S213へ移行する。
【0062】
S213では、制御部50は、駆動モードをフェイル(停止)モードに切り替え、2相への固定相通電により、モータ10を停止させる。フェイル(停止)モード移行前の駆動モードがフェイル(2相駆動)モードの場合、正常な2相での固定相通電とする。駆動モードがフェイル(オープン)モードの場合、S212およびS213の処理は、S112およびS113の処理と同様である。S214およびS215の処理は、S114およびS115の処理と同様である。
【0063】
U相に導通不能異常が生じた場合のモータ制御処理を図9のタイムチャートに基づいて説明する。時刻x30~時刻x32の処理は、図7中の時刻x20~時刻x22の処理と同様である。時刻x32にて、U相の導通不能異常が確定すると、駆動モードをフェイル(2相駆動)モードに切り替え、V相およびW相を用いた2相駆動によりモータ10を駆動する。
【0064】
時刻x33にて、エンコーダカウント値θenが目標カウント値θcmdに到達すると、駆動モードをフェイル(停止)モードに切り替え、V相およびW相の2相への通電を継続する固定相通電によりモータ10を停止させる。時刻x34の処理は、図6中の時刻x14の処理と同様である。
【0065】
本実施形態では、駆動制御部53は、特定された故障相を用いず、故障相以外の相である正常相を用いてモータ10を駆動する制御に切り替えてモータ10の駆動を継続する。これにより、通電系統に異常が生じた場合であっても、モータ10の駆動を適切に継続することができる。また、シフトバイワイヤシステム1において、適切にレンジ切り替えを行うことができる。また、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0066】
実施形態において、ECU40が「モータ制御装置」、エンコーダ13が「回転角センサ」、エンコーダカウント値θenが「モータ回転角」に対応する。
【0067】
(他の実施形態)
上記実施形態では、ドライバ回路のスイッチング素子は、各相の巻線とグランドとの間に設けられる。他の実施形態では、スイッチング素子を各相の巻線の高電位側に設けてもよいし、高電位側およびグランド側の両方に設けてもよい。また、スイッチング素子の配置箇所に応じ、電圧判定閾値Vthや大小関係等は適宜変更可能である。
【0068】
上記実施形態では、回転角センサとしてエンコーダを用いる。他の実施形態では、回転角センサは、ロータの回転位置を検出可能なものであればよく、例えばレゾルバ等のリニアセンサであってもよい。上記実施形態では、出力軸センサとしてポテンショメータを例示した。他の実施形態では、出力軸センサとして、ポテンショメータ以外のものを用いてもよいし、出力軸センサを省略してもよい。
【0069】
上記実施形態では、モータは、スイッチトリラクタンスモータである。他の実施形態では、モータは、スイッチトリラクタンスモータ以外のもの、例えばDCブラシレスモータ等であってもよい。上記実施形態では、ディテントプレートには4つの谷部が設けられる。他の実施形態では、谷部の数は4つに限らず、いくつであってもよい。例えば、ディテントプレートの谷部を2つとし、PレンジとNotPレンジとを切り替えるものとしてもよい。また、シフトレンジ切替機構やパーキングロック機構等は、上記実施形態と異なっていてもよい。また、上記実施形態では、モータ制御装置はシフトレンジ切替システムに適用される。他の実施形態では、モータ制御装置をシフトレンジ切替システム以外の車載システム、または、車載以外のモータ駆動システムに適用してもよい。
【0070】
上記実施形態では、モータ軸と出力軸との間に減速機が設けられる。減速機の詳細について、上記実施形態では言及していないが、例えば、サイクロイド歯車、遊星歯車、モータ軸と略同軸の減速機構から駆動軸へトルクを伝達する平歯歯車を用いたものや、これらを組み合わせて用いたもの等、どのような構成であってもよい。また、他の実施形態では、モータ軸と出力軸との間の減速機を省略してもよいし、減速機以外の機構を設けてもよい。
【0071】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0072】
10・・・モータ
13・・・エンコーダ(回転角センサ)
40・・・ECU(モータ制御装置)
50・・・制御部
51・・・角度演算部
53・・・駆動制御部
58・・・異常診断部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9