(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20231212BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20231212BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231212BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20231212BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20231212BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20231212BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B32B27/32 Z
B32B27/30 B
B32B27/00 L
B32B27/00 M
B65D65/40 D
C08L23/00
C08L25/04
C08L53/02
(21)【出願番号】P 2020020726
(22)【出願日】2020-02-10
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】日比野 美智子
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-119199(JP,A)
【文献】特開平11-235793(JP,A)
【文献】特開2000-052505(JP,A)
【文献】特開2000-026679(JP,A)
【文献】特開2021-063215(JP,A)
【文献】特開2016-194030(JP,A)
【文献】特開2019-156484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00
C08L 25/04
C08L 53/02
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーラント層と熱可塑性樹脂組成物より形成されたイージーピール層と基材とを積層した積層体において、
該熱可塑性樹脂組成物が、下記(A)~(C)成分を含む熱可塑性樹脂組成物であって、(A)~(C)成分の合計100質量%に対し、(A)成分を51~76質量%、(B)成分を20~45質量%、(C)成分を0を超えて
4.5質量%
以下含有することを特徴とする
積層体。
(A)成分:ポリオレフィン
(B)成分:ポリスチレン
、ゴム変性ポリスチレンのうちの1種又は2種以上
(C)成分:ビニル芳香族化合物に由来する少なくとも1個の重合体ブロックPと、共役ジエンに由来する少なくとも1個の重合体ブロックQとを有するブロック共重合体、並びに該ブロック共重合体を水素添加してなるブロック共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1つのブロック共重合体よりなり、該ブロック共重合体に含まれるジブロック共重合体の合計割合が20質量%以上であるスチレン系熱可塑性エラストマー
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂組成物が、前記(C)成分を0を超えて3質量%未満含有することを特徴とする請求項1に記載の
積層体。
【請求項3】
前記シーラント層がポリエチレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂組成物を含む請求項
1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれかに記載の積層体を用いた易開封性包装物用蓋材。
【請求項5】
請求項
4に記載の易開封性包装物用蓋材と容器とを有する易開封性包装物。
【請求項6】
請求項
4に記載の易開封性包装物用蓋材と、少なくとも表層がポリエチレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂組成物よりなる容器とを有する易開封性包装物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易開封性包装物用蓋材のシーラント層に好適な熱可塑性樹脂組成物、この熱可塑性樹脂組成物を用いたフィルム、積層体、易開封性包装物用蓋材及び易開封性包装物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種食品、飲料の包装物の包装容器として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、熱可塑性ポリエステル等の熱可塑性樹脂が広く用いられている。このような包装物の包装手法として、包装容器本体に被包装物を入れ、包装容器本体の開口部(蓋材取付部)にシーラント層を有する蓋材を当接してヒートシールにより密封する方法が広く採用されている。このような形態の包装物は、被包装物を取り出す際に蓋材を引き剥がす必要があることから、容器から被包装物の漏洩等がないことに加えて、被包装物を取り出す際には、容器本体から蓋材を容易に剥離できることが必要とされる。
【0003】
蓋材に用いられるイージーピールの方式には、主として界面剥離方式と層間剥離方式と凝集剥離方式の3つの方式がある。
【0004】
界面剥離方式は、一般的に被着体に対して粘接着によってシール状態を保つ方式である。この方式は、雰囲気温度によるシール性能変動が大きく、かつ被着体との熱融着によるシール状態を保っていないため、衝撃を加えられた際にパンク(内容物が漏えい)する欠点がある。
【0005】
層間剥離方式は、シーラント層を含む積層体と被着体とを熱融着で強固なシール状態を保つ方式である。
例えば、シーラント層と保持層と基材とから構成される蓋材に層間剥離方式を適用する場合、シーラント層を被着体となる容器の蓋材取付部と同種の樹脂で形成することで熱融着による強固なシール状態を可能とし、保持層をシーラント層と異種の樹脂で形成することで、シーラント層と保持層との層間で剥がれ易くなり、易開封性を持たせることができる。
しかし、層間剥離方式を適用した場合、開封時にシーラントの一部が容器本体側に残ってしまったり、開封時の膜残りが起きたりする問題がある。このような問題がない点において次に説明する凝集剥離方式が有利である。
【0006】
凝集剥離方式はシーラント層を含む積層体と被着体とが部分的に熱融着するようにする方式であり、剥離時にはシーラント層を構成する樹脂の界面でシーラント層自体を凝集破壊しながら剥離していく。
例えば、シーラント層と保持層と基材とから構成される蓋材に凝集剥離方式を適用する場合、シーラント層を構成する樹脂組成物は、少なくとも被着体と同種の樹脂と、保持層又は基材と同種の樹脂、の2種の樹脂のポリマーブレンドで形成されている。これによりヒートシール時に、シーラント層は、部分的に被着体と熱融着し、剥離時にはポリマーブレンドした樹脂の界面でシーラント層自体を凝集破壊しながら剥離していく。従って、シーラント層にシール性と剥離性の両方の機能を持たせ易開封性(イージーピール性)を実現している。
【0007】
特許文献1には、蓋材のシーラント層に用いられる熱可塑性樹脂組成物として、ポリオレフィンと、ポリスチレン系樹脂と、特定のスチレン系熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物を用いることで、紙にポリオレフィンをコーティングした基材からなる容器またはシートに対して、ヒートシール強度が十分に高く、易開封性、剥離外観等に優れ、安価かつ簡便にシーラント層を形成できることが記載されている。この特許文献1の実施例では、ポリオレフィンとポリスチレン系樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーの合計100質量部に対して、スチレン系熱可塑性エラストマーを5質量部又は10質量部含有させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的に、イージーピール性を有する層(イージーピール層)は蓋材を構成する積層体や積層フィルムにおいて被着体および内容物と直接接触する最下層のシーラント層に用いられる。
一方で、イージーピール層とは別に最下層のシーラント層を設け、このシーラント層の上にイージーピール層を設ける試みもなされている。より衛生性が求められる用途、例えば、内容物が乳製品の場合には、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)の定めへの対応として、内容物と直接接触可能な樹脂としてより衛生性の高いLDPE等を最下層のシーラント層に設け、その上にイージーピール層を設ける場合がある。このような構成とすることでイージーピール層が内容物と直接接触する機会を最小限に抑えることが可能となる。
【0010】
しかしながら、従来の樹脂組成物は、積層体や積層フィルムの最下層のシーラント層となるイージーピール層に用いる場合には十分使用可能であっても、最下層のシーラント層の上層に積層するイージーピール層に用いると実用に堪えないことがわかった。例えば、特許文献1に記載の熱可塑性樹脂組成物より形成されたイージーピール層を、ポリエチレン系樹脂を含むシーラント層の上に積層し、更にこのイージーピール層の上に基材としてポリエチレン系樹脂を含む層を積層して、シーラント層/イージーピール層/基材の積層体や積層フィルムを作成し、ポリエチレン系樹脂を表層に有する被着体に対するシール強度を測定したところ、後掲の比較例1に示すように強度が不足し、実用に堪えなかった。
【0011】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、その課題は、優れたシール強度を与える熱可塑性樹脂組成物、この熱可塑性樹脂組成物を用いたフィルム、積層体、易開封性包装物用蓋材と易開封性包装物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ポリオレフィンと、ポリスチレン系樹脂と、特定のスチレン系熱可塑性エラストマーとを特定の割合で含む熱可塑性樹脂組成物が、優れたシール強度を与えることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0013】
[1] 下記(A)~(C)成分を含む熱可塑性樹脂組成物であって、(A)~(C)成分の合計100質量%に対し、(A)成分を51~76質量%、(B)成分を20~45質量%、(C)成分を0を超えて5質量%未満含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(A)成分:ポリオレフィン
(B)成分:ポリスチレン系樹脂
(C)成分:ビニル芳香族化合物に由来する少なくとも1個の重合体ブロックPと、共役ジエンに由来する少なくとも1個の重合体ブロックQとを有するブロック共重合体、並びに該ブロック共重合体を水素添加してなるブロック共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1つのブロック共重合体よりなり、該ブロック共重合体に含まれるジブロック共重合体の合計割合が20質量%以上であるスチレン系熱可塑性エラストマー
【0014】
[2] 前記(C)成分を0を超えて3質量%未満含有することを特徴とする[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
[3] [1]又は[2]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物より形成されたイージーピール層を含むフィルム。
【0016】
[4] シーラント層と[1]又は[2]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物より形成されたイージーピール層と基材とを積層した積層体。
【0017】
[5] 前記シーラント層がポリエチレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂組成物を含む[4]に記載の積層体。
【0018】
[6] [4]又は[5]に記載の積層体を用いた易開封性包装物用蓋材。
【0019】
[7] [6]に記載の易開封性包装物用蓋材と容器とを有する易開封性包装物。
【0020】
[8] [6]に記載の易開封性包装物用蓋材と、少なくとも表層がポリエチレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂組成物よりなる容器とを有する易開封性包装物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、別途設けたシーラント層上にイージーピール層を設ける場合であっても、優れたシール強度を与える熱可塑性樹脂組成物、この熱可塑性組成物を用いた易剥離性多層フィルム、易開封性包装物用蓋材と易開封性包装物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、以下において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0023】
また、本発明において、樹脂のメルトフローレート(MFR)、密度、硬度は、以下のようにして測定された値である。
【0024】
<MFR>
(A)成分のうち、ポリエチレン系樹脂のMFRはJIS K7210に従い、温度190℃、荷重2.16kg、10分の条件で測定される。ポリプロピレン系樹脂のMFRは、JIS K7210またはASTM D1238に従い、温度230℃、荷重2.16kg、10分の条件で測定される。
(B)成分のMFRはISO 1133に従い、温度200℃、荷重5kg、10分の条件で測定される。
(C)成分のMFRはISO 1133に従い、温度200℃、荷重5kg、又は温度230℃、荷重2.16kg、10分の条件で測定される。
【0025】
<密度>
(A)成分の密度はJIS K7112に従い、水中置換法で測定される。
(B)成分、(C)成分の密度はISO 1183に従い測定される。
【0026】
<硬度>
(C)成分の硬度ショアAは、ISO 7619により測定される。
【0027】
〔熱可塑性樹脂組成物〕
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、下記(A)~(C)成分を含む熱可塑性樹脂組成物であって、(A)~(C)成分の合計100質量%に対し、(A)成分を51~76質量%、(B)成分を20~45質量%、(C)成分を0を超えて5質量%未満含有することを特徴とする。
(A)成分:ポリオレフィン
(B)成分:ポリスチレン系樹脂
(C)成分:ビニル芳香族化合物に由来する少なくとも1個の重合体ブロックPと、共役ジエンに由来する少なくとも1個の重合体ブロックQとを有するブロック共重合体、並びに該ブロック共重合体を水素添加してなるブロック共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1つのブロック共重合体よりなり、該ブロック共重合体に含まれるジブロック共重合体の合計割合が20質量%以上であるスチレン系熱可塑性エラストマー
【0028】
[(A)成分]
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれる(A)成分はポリオレフィンである。
【0029】
(A)成分として用いることのできるポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~20程度のオレフィンの単独重合体又は共重合体、或いはこれらのオレフィンと共重合性ビニル単量体、例えば酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、無水マレイン酸等の有機酸又はその無水物との共重合体が挙げられる。なお、オレフィンと共重合性ビニル単量体との共重合体において、オレフィン単位の含有率は50質量%以上である。また、ここで、共重合体とはランダム、ブロック及びグラフト共重合体を包含する。
【0030】
(A)成分として用いることのできるポリオレフィンとしては、より具体的には、高圧法、中圧法又は低圧法により製造されたポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・プロピレンブロック共重合体、プロピレン・1-ブテンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体、プロピレンと炭素数5~12のα-オレフィンと場合により更にエチレン又は1-ブテンとからなる共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体が挙げられる。これらのうち、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体(エチレン単位の含有率が50質量%以上であるもの)が好ましく、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂がより好ましい。なお、「ポリプロピレン」は構成単位としてプロピレン単位を50質量%より多く含有するものを意味し、また、「ポリエチレン」は構成単位としてエチレン単位を50質量%より多く含有するものを意味する。
【0031】
(A)成分として好適なポリエチレン系樹脂は、MFR(190℃、荷重2.16kg)が通常0.05~100g/10分、好ましくは1~50g/10分で、密度0.850~0.950g/cm3のエチレン単独重合体又はエチレン・α-オレフィン共重合体である。エチレン・α-オレフィン共重合体を構成するα-オレフィンは、通常炭素数3~20の環状分子を含まないα-オレフィン、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-オクタデセンであり、それぞれ単独或いは2種以上の混合物からなる。また、エチレン・α-オレフィン共重合体は共重合成分としてビニルエステル(酢酸ビニル等)、不飽和カルボン酸又はそのエステル(アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル等)等を使用したものでもよい。
【0032】
ポリエチレン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、低結晶性エチレン・1-ブテンランダム共重合体(EBM)、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
【0033】
これらのうち、(A)成分のポリエチレン系樹脂としては、低密度ポリエチレンが好ましい。特に、高圧法低密度ポリエチレンは、成形加工性の安定性や剥離強度の安定性を高めると共に、剥離外観を良好なものとするために有効である。なお、低密度ポリエチレンとしては、密度が0.860~0.930g/cm3のものが好ましく、0.880~0.930g/cm3のものがより好ましく、0.910g/cm3以上0.930g/cm3未満のものが更に好ましい。
【0034】
(A)成分として用いることのできるポリプロピレンとしては、成形性の観点から、MFR(230℃、荷重2.16kg)が1.0~60g/10分であることが好ましく、2.0~40g/10分であることがより好ましい。
【0035】
(A)成分のポリオレフィンは市販品として入手することができる。市販品としては、日本ポリエチレン社製「ノバテック(登録商標)」シリーズ、東ソー社製「ペトロセン(登録商標)」シリーズ、日本ポリプロピレン社製「ノバテックPP(登録商標)」、「WINTEC(登録商標)」、Exxon mobile社製「Vistamaxx(登録商標)」シリーズ等から該当するものを適宜選択して用いることができる。
【0036】
これら(A)成分は、1種のみを用いてもよく、共重合成分組成や物性の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、(A)成分の含有率は、(A)成分と後述の(B)成分及び(C)成分との合計100質量%に対して、51~76質量%である。(A)成分は主として融着機能を有し、(A)成分の含有率を上記範囲とすることで、十分なヒートシール強度と易開封性を両立できる。以上の観点から、(A)成分の含有率は、(A)成分と後述の(B)成分及び(C)成分との合計100質量%に対して、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上であり、また、好ましくは70質量%以下である。
【0038】
[(B)成分]
(B)成分のポリスチレン系樹脂とは、下記一般式(I)で示される構造単位を樹脂中に少なくとも50質量%以上含有する樹脂(ただし、後述の(C)成分のスチレン系熱可塑性エラストマーを除く。)であり、ポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン等のうちの1種又は2種以上を好ましく用いることができる。
【0039】
【0040】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Zはハロゲン原子又はメチル基を表し、pは0~3の整数である。)
【0041】
(B)成分のポリスチレン系樹脂のMFR(200℃、荷重5kg)は、成形加工性の観点から0.1~50g/10分であることが好ましく、1~30g/10分であることがより好ましい。
【0042】
また、(B)成分のポリスチレン系樹脂の密度は、(A)成分との相溶性の観点から、0.93~1.10g/cm3であることが好ましく、0.95~1.07g/cm3であることがより好ましい。
【0043】
(B)成分のポリスチレン系樹脂は市販品として入手することができる。ポリスチレン系樹脂の市販品としては、PSジャパン社製「PSJ-ポリスチレン GPPS」シリーズ、「PSJ-ポリスチレン HIPS」シリーズ等が挙げられる。
【0044】
これら(B)成分は、1種のみを用いてもよく、共重合成分組成や物性の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、(B)成分の含有率は、前述の(A)成分と(B)成分及び後述の(C)成分との合計100質量%に対して20~45質量%である。(B)成分は主として凝集剥離性(易開封性)を担う凝集剥離成分であり、(B)成分の含有率を上記範囲とすることで、十分なヒートシール強度と易開封性を両立できる。以上の観点から、(B)成分の含有率は、前述の(A)成分と(B)成分及び後述の(C)成分との合計100質量%に対して、好ましくは25質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下である。
【0046】
[(C)成分]
(C)成分のスチレン系熱可塑性エラストマーは、ビニル芳香族化合物に由来する少なくとも1個の重合体ブロックPと、共役ジエンに由来する少なくとも1個の重合体ブロックQとを有するブロック共重合体、並びに該ブロック共重合体を水素添加してなるブロック共重合体(水添ブロック共重合体)よりなる群から選ばれる少なくとも1つのブロック共重合体よりなり、該ブロック共重合体に含まれるジブロック共重合体の合計割合が20質量%以上であるものである。なお、ここで、ジブロック共重合体は水素添加されたジブロック共重合体を包含するものである。
【0047】
(C)成分の重合体ブロックPは、ビニル芳香族化合物を主体とする単量体の重合体ブロックであり、一方、重合体ブロックQは、共役ジエンを主体とする単量体の重合体ブロックである。ここで「主体とする」とは、50モル%以上であることを意味する。
【0048】
重合体ブロックPを構成する単量体のビニル芳香族化合物は限定されないが、スチレン、α-メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン誘導体が好ましい。これらの中でも、スチレンを主体とすることがより好ましい。なお、当該重合体ブロックPには、ビニル芳香族化合物以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
【0049】
重合体ブロックQを構成する単量体は、ブタジエン単独、イソプレン単独、ブタジエン及びイソプレンのいずれかが好ましい。なお、重合体ブロックQには、ブタジエン及びイソプレン以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
【0050】
また、重合体ブロックQは、重合後に有する二重結合を水素添加した水素添加誘導体、即ち水添ブロック共重合体であってもよい。重合体ブロックQの水素添加率は限定されないが、50~100質量%が好ましく、80~100質量%が好ましい。重合体ブロックQを上記範囲で水素添加することにより、熱安定性が向上する傾向にある。なお、重合体ブロックPが、原料としてジエン成分を用いた場合についても同様である。水素添加率は、13C-NMRにより測定することができる。
【0051】
(C)成分のスチレン系熱可塑性エラストマーはスチレン含有率が8~45質量%であることが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有率が上記下限以上であるとフィルムのハンドリング性が良好となる傾向があり、上記上限以下であると、(A)成分との相溶性が良好となる傾向がある。スチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有率は、より好ましくは10~40質量%である。(C)成分における「スチレン含有率」とはスチレン単位の含有率のみならず、スチレン単位の芳香環に水素原子以外の原子又は原子団が置換した構成単位の含有率も含む意味で用いられる。スチレン含有率は13C-NMRにより測定することができる。
【0052】
(C)成分のスチレン系熱可塑性エラストマーにおける前記の重合体ブロックP及び重合体ブロックQを有する共重合体の化学構造は、直鎖状、分岐状、放射状等の何れであってもよいが、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体であることが好ましい。
【0053】
更に、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体は、水素添加誘導体(水添ブロック共重合体)であることが好ましい。下記式(1)又は(2)で表される共重合体が水添ブロック共重合体であると、本発明の熱可塑性樹脂組成物の接着性が良好となる傾向にある。
P-(Q-P)m (1)
(P-Q)n (2)
(式中Pは重合体ブロックPを、Qは重合体ブロックQをそれぞれ表し、mは1~5の整数を表し、nは1~5の整数を表す。)
【0054】
式(1)又は(2)においてm及びnは、ゴム的高分子体としての秩序-無秩序転移温度を下げる点では大きい方がよいが、製造のしやすさ及びコストの点では小さい方がよい。
【0055】
本発明で用いる(C)成分のスチレン系熱可塑性エラストマーは、上記式(1),(2)で表されるブロック共重合体のうち、下記式(2A)で表される重合体ブロックPと重合体ブロックQとを各々1個ずつ有するジブロック体或いはその水素添加物(水添ジブロック体)を20質量%以上含むことを特徴とする。
P-Q (2A)
【0056】
スチレン系熱可塑性エラストマーのブロック共重合体及び/又は水添ブロック共重合体中のジブロック体及び/又は水添ジブロック体の含有率が20質量%以上であることにより、上述の(A)成分のポリオレフィンと(B)成分のポリスチレン系樹脂との相溶化効果が良好であり、易剥離強度がヒートシール温度に依存せず、安定的に得ることができる。この観点から、スチレン系熱可塑性エラストマーを構成するブロック共重合体及び/又は水添ブロック共重合体中のジブロック体及び/又は水添ジブロック体の割合は、23質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。ジブロック体及び/又は水添ジブロック体の割合の上限は100質量%である。
【0057】
なお、スチレン系熱可塑性エラストマーのブロック共重合体及び/又は水添ブロック共重合体(以下、まとめて「(水添)ブロック共重合体」と記す。)中のジブロック体及び/又は水添ジブロック体以外の(水添)ブロック共重合体としては、ゴム弾性に優れることから、式(2)で表される(水添)ブロック共重合体よりも式(1)で表される(水添)ブロック共重合体の方が好ましく、mが3以下である式(1)で表される(水添)ブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(1)で表される(水添)ブロック共重合体が更に好ましい。
【0058】
(C)成分のスチレン系熱可塑性エラストマーの数平均分子量は限定されないが、通常250,000以下、好ましくは230,000以下、より好ましくは210,000以下、更に好ましくは200,000以下であり、通常20,000以上、好ましくは40,000以上、より好ましくは50,000以上である。スチレン系熱可塑性エラストマーの数平均分子量が上記範囲であると、成形性が良好となる傾向にある。なお、(C)成分のスチレン系熱可塑性エラストマーの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと略記する場合がある)により以下の測定条件で測定したポリスチレン換算の値である。
機器:東ソー株式会社HLC-8220
カラム:東ソー株式会社TSKgel SuperHM-M (6.0mmI.D×150cm×2)
検出器:示差屈折率検出器(RI/内蔵)
溶媒:CHCl3特級
温度:40℃
流速:0.3mL/分
注入量:20μL
濃度:20μL
濃度:0.1質量%
較正試料:単分散ポリスチレン
較正法 :ポリスチレン換算
【0059】
(C)成分のMFR(200℃、荷重5kg、又は230℃、荷重2.16kg)は限定されないが、好ましくは0.01~100g/10分、より好ましくは0.03~90g/10分であり、更に好ましくは0.05~80g/10分である。(C)成分のMFRが上記範囲であると、成形性が良好となる傾向にある。
【0060】
また、(C)成分の密度は、フィルムのブロッキング性の観点から好ましくは0.86~0.94g/cm3であり、より好ましくは0.87~0.93g/cm3であり、更に好ましくは0.88~0.92g/cm3である。
【0061】
更に(C)成分の硬度は特に制限されないが、硬度ショアA(ISO 7619)で、好ましくは20以上であり、より好ましくは25以上であり、更に好ましくは30以上であり、特に好ましくは35以上であり、一方、好ましくは95以下であり、より好ましくは90以下であり、更に好ましくは85以下である。(C)成分の硬度が上記範囲であると、柔軟性が良好となる傾向にある。
【0062】
(C)成分のスチレン系熱可塑性エラストマーの製造方法は、上述の構造と物性が得られればどのような方法でもよく、特に限定されない。(C)成分のスチレン系熱可塑性エラストマーは、例えば、リチウム触媒等を用いて不活性溶媒中でブロック重合を行うことによって製造することができる。この際、ジブロック体を上記の割合で製造するには、トリブロック体及びジブロック体をそれぞれ上述の触媒等を用いて重合し、その後、ドライブレンドまたは溶融混練を行い、適宜必要な割合でブレンドを行えばよい。また、ブロック共重合体の水素添加(水添)は、不活性溶媒中で水添触媒の存在下で行う等の公知の方法を採用することができる。
【0063】
(C)成分のスチレン系熱可塑性エラストマーは、市販品を用いることも可能である。市販品としては例えば、クレイトンポリマー社製「KRATON」シリーズ、旭化成ケミカルズ社製「タフテック(登録商標)」シリーズから該当するものを適宜選択して用いることができる。
【0064】
これら(C)成分は、1種のみを用いてもよく、共重合成分組成や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、(C)成分の含有率は、前述の(A)成分及び(B)成分と(C)成分との合計100質量%に対して0を超えて5質量%未満である。(C)成分は、良好な剥離外観を担う成分であり、(C)成分の含有率を上記範囲とすることで、剥離外観を良好に保つことができる。特に(C)成分を(A)~(C)成分の合計100質量%に対して5質量%未満とすることで、本発明の熱可塑性樹脂組成物よりなるイージーピール層をポリエチレン系樹脂等よりなるシーラント層の上に積層して用いる場合に、十分なシール強度を得ることができる。
このように(C)成分を少なく配合することにより、本発明の熱可塑性樹脂組成物よりなるイージーピール層をポリエチレン系樹脂等よりなるシーラント層の上に積層して用いる場合に、十分なシール強度を得ることができる理由の詳細は明らかではないが、本発明の熱可塑性樹脂組成物の材料強度の向上によると推測される。
以上の観点から、(C)成分の含有率は、前述の(A)成分及び(B)成分と(C)成分との合計100質量%に対して、好ましくは4.5質量%以下、より好ましくは3質量%未満、更に好ましくは2.5質量%以下であり、また、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。
【0066】
[その他の成分]
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、上記の各成分に加え、本発明の効果を著しく損なわない範囲で各種目的に応じ他の任意の添加剤や樹脂等(以下、これらを「その他の成分」と称す。)を配合することができる。その他の成分は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0067】
添加剤としては、一般的にポリオレフィンに用いられる補助添加成分、具体的には、プロセス油、中和剤、加工助剤、可塑剤、結晶核剤、衝撃改良剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、帯電防止剤、滑剤、充填材、相溶化剤、耐熱安定剤、耐候安定剤(酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等)、防曇剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、抗菌剤、カーボンブラック、着色剤(顔料、染料等)が挙げられる。
【0068】
このうち、難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤に大別されるが、非ハロゲン系難燃剤が好ましく、具体的には、金属水酸化物、リン系難燃剤、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)難燃剤及び無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)難燃剤が挙げられる。
【0069】
耐熱安定剤及び酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物が挙げられる。
【0070】
充填材は、有機充填材と無機充填材に大別される。有機充填材としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等が挙げられる。また、無機充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。
【0071】
これらの添加剤を用いる場合、その含有量は限定されないが、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常5質量部以下、好ましくは2質量部以下であることが望ましい。
【0072】
その他の成分として用いる樹脂としては、具体的には、ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、及びポリメチルメタクリレート系樹脂等のアクリル/メタクリル系樹脂を挙げることができる。
【0073】
本発明の熱可塑性樹脂組成物がこれらのその他の樹脂を含有する場合、その含有量は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対して30質量部以下であることが好ましい。
【0074】
[製造方法]
(A)成分、(B)成分及び(C)成分と、必要に応じて添加されるその他の成分を用いて、本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造するための方法は、溶融法、溶液法、懸濁分散法等があり、特に限定されない。実用的には溶融混練法が好ましい。
【0075】
溶融混練のための具体的な方法としては、粉状又は粒状の(A)~(C)成分、並びに必要に応じて添加されるその他の成分を、所定の配合割合にて、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等を用いて均一に混合した後、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、単軸又は二軸等の多軸混練押出機等の通常の混練機を用いて混練する方法が例示できる。
【0076】
各成分の溶融混練の温度は、通常100~300℃の範囲、好ましくは120~280℃の範囲、より好ましくは150~250℃の範囲である。更に、各成分の混練順序及び方法は、特に限定されるものではなく、(A)~(C)成分と必要に応じて用いられるその他の成分とを一括して混練する方法でもよく、(A)~(C)成分と必要に応じて用いられるその他の成分の一部を予め混練しておき、その後残りの成分を混練する方法でもよい。
【0077】
[フィルム成形]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、押出ラミネート成形、Tダイ成形、空冷インフレーション成形等の各種のフィルム成形法によって容易にイージーピール層を含むフィルムとして製膜することができる。
【0078】
本発明の熱可塑性樹脂組成物により形成されたイージーピール層の厚さは、通常2~100μmで、5~30μmであることが好ましい。イージーピール層の厚さが上記範囲であることが、十分なヒートシール強度を得る観点、凝集剥離性を得る観点、易開封性包装物の易開封性包装物用蓋材への適用において、蓋材の厚さを適切な範囲とする観点等から好ましい。
【0079】
〔積層体・易開封性包装物用蓋材・易開封性包装物〕
本発明の熱可塑性樹脂組成物により形成されたイージーピール層を含むフィルムは、易開封性包装物用蓋材のイージーピール層として有用である。また、この易開封性包装物用蓋材は、本発明の熱可塑性樹脂組成物よりなるイージーピール層を含むフィルムを、シーラント層および基材と積層一体化して積層体とすることにより、易開封性包装物の易開封性包装物用蓋材として好適に使用することができる。この場合、イージーピール層の厚さは、通常2~100μmで、5~30μmであることが好ましい。イージーピール層の厚さが上記下限以上であれば、十分なヒートシール強度を得ることができ、凝集剥離性にも優れたものとなる。イージーピール層の厚さが上記上限以下であれば、各種の易開封性包装物の易開封性包装物用蓋材への適用において、蓋材の厚さが厚くなりすぎず、好ましい。
【0080】
シーラント層としては例えばポリエチレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物(ポリエチレン系樹脂組成物)を用いることができ、その厚さは通常2~60μmで、5~30μmであることが好ましい。また、イージーピール層を含むフィルムと基材との間に保持層としてポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂層を介在させることもできる。保持層の厚さは、通常5~500μmで、10~100μmであることが好ましい。
【0081】
シーラント層の形成に用いられるポリエチレン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、低結晶性エチレン・1-ブテンランダム共重合体(EBM)、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
【0082】
シーラント層とイージーピール層とを積層する方法としては、本発明の熱可塑性樹脂組成物をインフレーション法、Tダイ法、共押出ラミネート成形等により成形する際に、ポリエチレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂組成物を積層して成形する方法が挙げられる。
【0083】
易開封性包装物用蓋材の基材としては、アルミ箔、紙、延伸ナイロンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂フィルムを用いることができる。ポリエステル系樹脂フィルムの具体例としては延伸ポリエステルフィルム、シリカ蒸着延伸ポリエステルフィルム、アルミ蒸着延伸ポリエステルフィルムが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂フィルムの具体例としてはポリエチレンフィルム、延伸ポリプロピレンフィルムが挙げられる。その他バリア性フィルム等、一般に軟包装材の基材として使用されるものであれば適用可能であり、内容物や用途によって、適宜最適な基材を選定して用いることができる。
【0084】
このような基材に本発明の熱可塑性樹脂組成物よりなるイージーピール層を含むフィルムを積層一体化して積層体を得る方法としては、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系等の接着剤により接着する方法が挙げられる。また、基材フィルムと本発明の熱可塑性樹脂組成物よりなるイージーピール層とを共押出ラミネート成形により一体成形してもよい。
【0085】
また、イージーピール層を含むフィルムと基材との間に保持層を介在させた蓋材を製造するには、本発明の熱可塑性樹脂組成物をインフレーション法、Tダイ法等のフィルム成形法により製造する際に、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂よりなる保持層と積層して成形したり、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂との共押出ラミネート成形で保持層とイージーピール層とを積層成形した後、更に基材を貼り合せる方法や、アルミ箔、紙、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂等の各種熱可塑性樹脂からなる基材層にイージーピール層と保持層を押出ラミネート成形することによってラミネートフィルムを形成することにより製造する方法が挙げられる。
【0086】
従って、シーラント層/イージーピール層/保持層/基材の積層体(積層フィルム又は積層シート)よりなる易開封性包装物用蓋材を製造するには、
(1) シーラント層を形成するポリエチレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂組成物と、本発明の熱可塑性樹脂組成物と、保持層を形成するポリオレフィン系樹脂とをインフレーション法、Tダイ法、共押出ラミネート成形等により3層積層構造に成形した後、更に基材と貼り合わせる方法
(2) 基材層上に、保持層、イージーピール層及びシーラント層をこの順で押出ラミネート成形する方法
を採用することができる。
【0087】
得られたシーラント層/イージーピール層/基材、或いは、シーラント層/イージーピール層/保持層/基材の積層体(積層フィルム又は積層シート)よりなる易開封性包装物用蓋材は、各種包装物の容器の開口部に配置し、開口部のフランジ部に沿って加熱加圧してヒートシールすることにより容器の密封に用いることができる。
【0088】
この際のヒートシール条件としては、本発明の熱可塑性樹脂組成物の主成分となる(A)成分の融解ピーク温度に応じて、(A)成分の融点ないし融点より20℃程度高い温度、例えば100~200℃程度で、圧力0.1~0.3MPa、ヒートシール時間1~10秒程度とすることが好ましい。
【0089】
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いた易開封性包装物用蓋材を適用する易開封性包装物を構成する容器の構成材料としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、これらのブレンド材等が挙げられ、これらの中でも容器は、少なくともその表層がポリエチレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂組成物で構成されていることが好ましい。ここで、容器の表層とは、易開封性包装物用蓋材と当接されてヒートシールされる面を含む層である。
【0090】
本発明の熱可塑性樹脂組成物により形成されたイージーピール層を有する易開封性包装物用蓋材、及びこの易開封性包装物用蓋材を有する易開封性包装物は、蓋材の易開封性が要求されるいずれの用途にも好適に用いることができるが、飲食料品用包装物において特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0091】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0092】
[原料]
以下の実施例及び比較例で用いた原料は、次の通りである。
【0093】
<(A)成分:ポリオレフィン>
A-1:低密度ポリエチレン(密度(JIS K7112):0.919g/cm3、MFR(190℃、2.16kg(JIS K7210)):8.5g/10分)
A-2:低密度ポリエチレン(密度(JIS K7112):0.923g/cm3、MFR(190℃、2.16kg(JIS K7210)):4g/10分)
【0094】
<(B)成分:ポリスチレン系樹脂>
B-1:PSジャパン社製 耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)「HT478」(密度(ISO 1183):1.04g/cm3、MFR(200℃、5kg(ISO 1133)):3.0g/10分)
【0095】
<(C)成分:スチレン系熱可塑性エラストマー>
C-1:クレイトンポリマー社製 スチレン系熱可塑性エラストマー(スチレン・ブタジエン・スチレン水添ブロック共重合体)「KRATON G1657MS」(スチレン含有率:13質量%、密度(ISO 1183):0.91/cm3、MFR(200℃、5kg(ISO 1133)):8g/10分、硬度ショアA(ISO 7619):47、ジブロック体及び/又は水添ジブロック体含有率:30質量%、数平均分子量:1.09×105、水素添加率:90質量%以上)
C-2:クレイトンポリマー社製 スチレン系熱可塑性エラストマー(スチレン・ブタジエン・スチレン水添ブロック共重合体)「KRATON G1726MS」(スチレン含有率:30質量%、密度(ISO 1183):0.91/cm3、MFR(200℃、5kg(ISO 1133)):65g/10分、硬度ショアA(ISO 7619):70、ジブロック体及び/又は水添ジブロック体含有率:70質量%、数平均分子量:1.45×105、水素添加率:90質量%以上)
C-3:旭化成ケミカルズ社製 スチレン系熱可塑性エラストマー(スチレン・ブタジエン・スチレン水添ブロック共重合体)「タフテック(登録商標)H1221」(スチレン含有率:12質量%、密度(ISO 1183):0.89g/cm3、MFR(230℃、2.16kg(ISO 1133)):4.5g/10分、硬度ショアA(ISO 7619):42、ジブロック体及び/又は水添ジブロック体含有率:88質量%、水素添加率:90質量%以上)
【0096】
[実施例1~9、比較例1]
[積層フィルムの作製]
易開封性(イージーピール性)を確認するために、各原料成分を表-1に示す配合割合で二軸押出機を用い、160~200℃で混練し、三層シート成形機を用い、シーラント層としてポリエチレン系樹脂(日本ポリエチレン社製 LDPE「ノバテック(登録商標) LC607」)と、保持層としてポリエチレン系樹脂(日本ポリエチレン社製 LLDPE「ノバテック(登録商標)SF8402」)を成形温度200~220℃でそれぞれ共押出を行うことで、厚さ30μm(シーラント層:5μm/イージーピール層:10μm/保持層:15μm)の積層フィルムを作製した。
【0097】
[評価用フィルムの作製]
評価用フィルムの作製に用いたPETフィルムとしては、東洋紡社製「東洋紡ポリエステルフィルム」(厚さ25μm)を用い、接着剤としては、東洋モートン社製二液硬化型ポリウレタン系接着剤の主剤「TM329」と硬化剤「CAT-8B」を酢酸エチルで希釈したものを用いた。
PETフィルムの一方の面にコーター(テスター産業製)を用いて接着剤を塗布し、溶剤を蒸発させた後、この接着剤塗布面に作製した積層フィルムの保持層面を張り合わせ、40℃のオーブン中にて1昼夜乾燥させて、評価用フィルムとした。
【0098】
[ヒートシール強度の評価]
評価用フィルム及び下記被着体を70mm×100mmの大きさに切り出し、被着体の上に評価用フィルムを、評価用フィルムのシーラント層と被着体とが合わさるように置いた。
なお、各評価用フィルムとしては、
I:樹脂の流れ方向(MD方向)に長さ100mm、その直角方向(TD方向)に長さ70mmとして切出したサンプル
と
II:樹脂の流れ方向(MD方向)に長さ70mm、その直角方向(TD方向)に長さ100mmとして切出したサンプル
とを準備した。
ここで、「樹脂の流れ方向」とは、上記の三層シート成形機のダイスから溶融樹脂を共押出して、積層フィルムを作製する際のフィルムの押出成形方向をさす。
次いで、ヒートシーラー((有)佐川製作所製)を用いて以下の条件でヒートシールを行って、評価用フィルムの長さ方向の中央部分を10mmの幅にヒートシールした。
圧力:0.2MPa
時間:1.0秒
シールバー:10mm
温度:140℃、160℃、180℃、又は200℃
被着体:厚み0.3mmのポリエチレンシート
その後、評価用フィルムの被着体にヒートシールされていない部分を被着体に対して離反方向に引っ張って引き剥がすことによりヒートシール強度を測定し、結果を表-1に示した。Iのサンプルでは剥離方向がTD方向となり、IIのサンプルでは剥離方向がMD方向となる。ヒートシール強度は、Iのサンプルについて160℃でヒートシールしたときの測定値とした。このヒートシール強度は5~20N/15mm程度であることが易開封性とシール強度との両立の面で好ましい。
【0099】
[剥離外観]
ヒートシール強度測定の際に、剥離外観を目視にて観察し、下記の基準で評価した。結果を表-1に示す。
◎:剥離した際に、膜引きがなく、剥離外観が良好である。
〇:剥離した際に、若干の膜引きがあるが、剥離外観が良好である。
△:剥離した際に、膜引きが発生し、良好な剥離外観が得られない。
【0100】
【0101】
[評価結果]
表-1に示すように、ジブロック体(及び/又は水添ジブロック体)含有率が20質量%以上のスチレン系熱可塑性エラストマーである(C)成分を、(A)~(C)成分の合計100質量%に対して5質量%未満含有する本発明の熱可塑性樹脂組成物に該当する実施例1~9では、この熱可塑性樹脂組成物よりなるイージーピール層を最下層のシーラント層の上層に積層し、更にその上に基材を設けた積層フィルムとした場合に、十分に高いヒートシール強度を得ることができ、また、TD方向、MD方向の両方の剥離外観に優れることがわかる。一方、(C)成分を、(A)~(C)成分の合計100質量%に対して5質量%含有し、前掲の特許文献1に該当する比較例1では、実用的な剥離強度は得られない。