(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20231212BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01L21/78 L
H01L21/28 301B
H01L21/28 301S
(21)【出願番号】P 2020020924
(22)【出願日】2020-02-10
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸川 勤博
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 行彦
【審査官】井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-166926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の製造方法であって、
シリコンを含有する半導体ウェハの下面を覆う金属層を形成する工程と、
前記金属層の表面に光を照射することによって、前記半導体ウェハと前記金属層の界面にシリサイド層を形成する工程と、
前記半導体ウェハを上側からダイシングする工程、
を備え、
前記シリサイド層を形成する前記工程では、前記半導体ウェハの前記下面において、前記ダイシングによって切削されるダイシング領域内の温度が、前記ダイシング領域外の温度よりも高くなるように
前記ダイシング領域内と前記ダイシング領域外とに前記光を照射する
ことにより、前記ダイシング領域内と前記ダイシング領域外とに前記シリサイド層を形成し、前記ダイシング領域内の前記半導体ウェハの前記下面に臨む範囲に前記ダイシング領域外の半導体領域よりも強度が低い歪み層を形成する、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体装置の製造方法が開示されている。この製造方法では、半導体ウェハの上面から、ダイシングによって切削されるダイシング領域内に不純物を注入する。これにより、ダイシング領域内には、半導体ウェハの内部に半導体ウェハの上面に露出するダメージ層(すなわち、他の半導体領域よりも硬度が低い領域)を形成する。その後、半導体ウェハの上面側からダイシング領域に沿ってダイシングすることによって、半導体ウェハを複数の半導体装置に分割する。この製造方法では、半導体ウェハの上面に露出するダメージ層に沿ってダイシングを行うため、ダイシングブレードが半導体ウェハ内に入り込み易く、チッピングが生じることを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の製造方法では、半導体ウェハの上面におけるチッピングを抑制する効果はあるものの、半導体ウェハの下面において生じ得るチッピングについては考慮されていない。特許文献1の製造方法では、半導体ウェハをダイシングする過程で、半導体ウェハが切断される直前に半導体ウェハに対して大きな応力が加わり、半導体ウェハの下面においてチッピングが生じる場合がある。本明細書では、半導体ウェハの下面近傍にチッピングが生じることを抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する半導体装置の製造方法は、シリコンを含有する半導体ウェハの下面を覆う金属層を形成する工程と、前記金属層の表面に光を照射することによって、前記半導体ウェハと前記金属層の界面にシリサイド層を形成する工程と、前記半導体ウェハを上側からダイシングする工程を備える。前記シリサイド層を形成する前記工程では、前記半導体ウェハの前記下面において、前記ダイシングによって切削されるダイシング領域内の温度が、前記ダイシング領域外の温度よりも高くなるように前記光を照射する。
【0006】
半導体装置の製造工程では、半導体ウェハと金属層の間のコンタクト抵抗を低減するために、半導体ウェハと金属層の界面にシリサイド層を形成する場合がある。シリサイド層は、例えば、半導体ウェハの表面に形成された金属層に光を照射して熱処理を行うことにより形成される。上記の製造方法では、シリサイド層を形成する工程で、半導体ウェハの下面において、ダイシング領域内の温度が、ダイシング領域外の温度よりも高くなるように光が照射される。すなわち、ダイシング領域内では、半導体ウェハの下面近傍が高温となり、半導体ウェハの下面近傍においてその内部に歪みが生じる。その後、半導体ウェハを上側からダイシングする。このように、この製造方法では、ダイシング領域内において半導体ウェハの下面側に歪みが形成されるので、半導体ウェハの上面側からダイシングを行う際に、半導体ウェハの下面近傍に応力が加わり難く、チッピングが生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】半導体ウェハ12を上面12aから平面視した図。
【
図2】実施例1の製造工程における半導体ウェハ12の断面図。
【
図3】実施例1の製造工程における半導体ウェハ12の断面図。
【
図4】実施例1の製造工程における半導体ウェハ12の断面図。
【
図5】実施例1の製造工程における半導体ウェハ12の断面図。
【
図6】実施例1の製造工程における半導体ウェハ12の断面図。
【
図7】実施例1の製造工程における半導体ウェハ12の
図6に直交する方向から見た断面図。
【
図8】実施例2の製造工程における半導体ウェハ12の断面図。
【
図9】実施例2の製造工程における半導体ウェハ12の断面図。
【
図10】実施例2の製造工程における半導体ウェハ12の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(実施例1)
図面を参照して、実施例1の製造方法について説明する。なお、以下では、実施例1の特徴である工程のみを説明する。したがって、実際の製造方法には、必要に応じて以下の説明に含まれない1又は複数の工程が含まれ得る。後述する実施例2においても同様である。
【0009】
まず、
図1に示す半導体ウェハ12を準備する。半導体ウェハ12は、SiC(炭化シリコン)によって構成されている。ただし、半導体ウェハ12は、シリコンを含有する他の半導体材料によって構成されていてもよい。半導体ウェハ12には、複数の半導体素子10が一体的に形成されている。各半導体素子10は、MOSFET、IGBT等のパワー半導体素子である。各半導体素子10は、半導体ウェハ12に縦横に規則的に配列されている。
図1に示す破線16は、後にダイシングすべき領域(以下、ダイシング領域16という。)を示している。
【0010】
次に、
図2に示すように、半導体ウェハ12の下面12bを覆うように金属層20を形成する。金属層20は、例えば、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、Mo(モリブデン)等により構成されている。
【0011】
次に、
図3に示すように、下面12b側から半導体ウェハ12に光を照射してシリサイド層22を形成する。本実施例では、レーザアニールによってシリサイド層22を形成する。すなわち、半導体ウェハ12の下面12bに形成された金属層20の表面にレーザを照射する。これにより、金属層20と半導体ウェハ12の界面において、金属層20と半導体ウェハ12を反応させる。すると、当該界面においてシリサイド化反応が進行する。金属層20全体をシリサイド化させ、シリサイド層22を形成する。また、この工程は、半導体ウェハ12の下面12bにおいて、ダイシング領域16内の温度がダイシング領域16外の温度よりも高くなるように実施される。例えば、ダイシング領域16内において金属層20の表面に照射するレーザの照射エネルギーを、ダイシング領域16外において金属層20の表面に照射するレーザの照射エネルギーよりも高く設定する。また例えば、ダイシング領域16内において金属層20の表面に照射するレーザの回数(すなわち、レーザスポットが通過する回数)を、ダイシング領域16外において金属層20の表面に照射するレーザの回数よりも多くする。
図3の矢印100は、照射する光のエネルギーの大きさを示している。すなわち、この工程では、ダイシング領域16内において金属層20の表面に印加するエネルギーを、ダイシング領域16外において金属層20の表面に印加するエネルギーよりも高くする。このように、ダイシング領域16内の半導体ウェハ12の下面12bの温度を局所的に高温にして、ダイシング領域16内で、半導体ウェハ12の下面12b近傍に、半導体ウェハ12の下面12bに臨む歪み層24を形成する。歪み層24は、他の半導体領域と比較して強度が低い。なお、ダイシング領域16内の全域にわたって半導体ウェハ12の下面12b近傍に歪み層24を形成してもよいし、ダイシング領域16内の一部において半導体ウェハ12の下面12b近傍に歪み層24を形成してもよい。また、歪み層24の厚みは、レーザの照射エネルギーや金属層20の厚みを調節することにより、適宜調整することができる。
【0012】
次に、
図4に示すように、シリサイド層22の表面に、TiとNiとAu(金)を積層した電極層26を形成する。シリサイド層22と電極層26により、下面電極28が構成される。
【0013】
次に、
図5に示すように、半導体ウェハ12の上面12a側から、ダイシングブレード30によってダイシング領域16に沿って半導体ウェハ12をダイシングする。ダイシング領域16内には、半導体ウェハ12の下面12b近傍に歪み層24が形成されている。このため、この工程では、ダイシング領域16に沿って半導体ウェハ12をダイシングすると、半導体ウェハ12の下面12b側では歪み層24が切削される。以上の工程により、
図6に示すように、半導体ウェハ12が、複数の半導体装置2に分割される。
【0014】
図7に示すように半導体ウェハ12を切断するときには、ダイシングブレード30の近傍の部分Aで半導体ウェハ12の厚みが薄くなる。一般的には、厚みが薄い部分Aにおいて、振動やブレによってチッピングやクラックが生じ易い。しかしながら、本実施例の製造方法では、半導体ウェハ12をダイシングする前に、半導体ウェハ12の下面12b近傍に歪み層24を形成する。この歪み層24は、他の半導体領域よりも強度が低くなっている。このため、ダイシングブレード30が歪み層24に進入し易く、ダイシングブレード30近傍の部分Aに応力が加わり難い。したがって、半導体ウェハ12の下面12b側の部分Aでチッピングやクラックが生じ難い。すなわち、この製造方法によれば、半導体ウェハ12の下面12b近傍でチッピングやクラックが生じることを抑制することができる。したがって、この製造方法では、高い信頼性を確保することができる。なお、歪み層24は、ダイシング領域16内に形成されるため、ダイシングにより除去される。したがって、個片化された半導体装置2には、歪み層24が残存しない。
【0015】
(実施例2)
次に、実施例2の製造方法について説明する。実施例2の製造方法では、実施例1の
図2に示す工程の後、
図8以降に示す工程を実施する。
【0016】
図8に示すように、ダイシング領域16内の金属層20の表面を切削する。これにより、金属層20の表面に溝32を形成する。すなわち、この工程では、溝32を形成することにより、ダイシング領域16内の金属層20の厚みを、ダイシング領域16外の金属層20の厚みよりも薄くする。
【0017】
次に、
図9に示すように、半導体ウェハ12の下面12b側から光を照射してシリサイド層22を形成する。本実施例では、実施例1と異なり、ランプアニールによってシリサイド層22を形成する。すなわち、矢印102に示すように、半導体ウェハ12の下面12bに形成された金属層20の表面の略全域に対して一様なエネルギーを有する光を一度に照射する。これにより、金属層20全体をシリサイド化させ、シリサイド層22を形成する。本実施例では、上述したように、ダイシング領域16内の金属層20に溝32が形成されているため、ダイシング領域16内の金属層20の厚みが、ダイシング領域16外の金属層20の厚みよりも薄い。このため、ダイシング領域16内では、半導体ウェハ12の下面12bに印加される実効的なエネルギーが、ダイシング領域16外よりも高くなる。このため、半導体ウェハ12の下面12bにおいて、ダイシング領域16内の温度がダイシング領域16外の温度よりも高くなる。その結果、実施例1と同様に、ダイシング領域16内では、半導体ウェハ12の下面12b近傍に、半導体ウェハ12の下面12bに臨む歪み層24が形成される。歪み層24の厚みは、ランプのエネルギーや溝32の深さを調節することにより、適宜調整することができる。
【0018】
その後、
図10に示すように、実施例1と同様の電極層26を積層して下面電極28を形成する。本実施例では、ダイシング領域16内の金属層20に溝32が形成されているので、ダイシング領域16内では、電極層26の表面に窪み34が形成される。次いで、実施例1と同様に、半導体ウェハ12の上面12a側から、ダイシングブレードによってダイシング領域16に沿って半導体ウェハ12をダイシングする。以上の工程により、半導体ウェハ12が複数の半導体装置に分割される。
【0019】
実施例2においても、実施例1と同様に、半導体ウェハ12の下面12b近傍に歪み層24を形成する。このため、実施例1と同様に、半導体ウェハ12の下面12b近傍に応力が加わり難い。したがって、半導体ウェハ12の下面12b近傍でチッピングやクラックが生じることを抑制することができる。また、歪み層24、溝32及び窪み34は、ダイシング領域16内に形成されるため、ダイシングにより除去される。したがって、個片化された半導体装置2には、歪み層24、溝32及び窪み34が残存しない。
【0020】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0021】
2:半導体装置
10:半導体素子
12:半導体ウェハ
12a:上面
12b:下面
16:ダイシング領域
20:金属層
22:シリサイド層
24:歪み層
26:電極層
28:下面電極
30:ダイシングブレード
32:溝