(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】モータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/03 20060101AFI20231212BHJP
H02K 1/2791 20220101ALI20231212BHJP
【FI】
H02K15/03 Z
H02K1/2791
(21)【出願番号】P 2020023395
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 祐史
(72)【発明者】
【氏名】大塚 光
(72)【発明者】
【氏名】深澤 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】河田 真治
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-207948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/03
H02K 1/2791
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料を用いて環状に形成されたステータコア(32)と、導電性の巻線を用いて形成されていると共に前記ステータコアに支持されかつ前記ステータコアの径方向外側の面又は径方向内側の面に沿って周方向に並んで配置された導線部(34A)を有するコイル(34)と、を備えたステータ(22)と、
前記導線部と径方向に対向して配置されたマグネット(30)を有し、前記コイルに通電されることで回転するロータ(20)と、
を備えたモータの製造方法であって、
前記マグネットにおける前記導線部と対向する面における表面磁束密度を回転電機角0°から360°の範囲で測定した波形についてFFT解析を行い、5次の波形に対する位相と7次の波形に対する位相とが逆位相となる結果が得られるように、前記マグネット内の磁束を設定
し、
前記表面磁束密度が、
回転電機角が30°から60°の範囲においては30°から60°へ向かうにつれて変化しない又は増加するように、
回転電機角が60°から90°の範囲においては30°から60°の範囲に対してより増加するように、
回転電機角が90°から120°の範囲においては90°から120°へ向かうにつれて減少するように、
回転電機角が120°から150°の範囲においては120°から150°へ向かうにつれて変化しない又は90°から120°の範囲に対して緩やかに減少するように、
回転電機角が210°から240°の範囲においては210°から240°へ向かうにつれて変化しない又は減少するように、
回転電機角が240°から270°の範囲においては210°から240°の範囲に対してより減少するように、
回転電機角が270°から300°の範囲においては270°から300°へ向かうにつれて増加するように、
回転電機角が300°から330°の範囲においては300°から330°へ向かうにつれて変化しない又は270°から300°の範囲に対して緩やかに増加するように、
前記マグネット内の磁束を設定するモータの製造方法。
【請求項2】
磁性材料を用いて環状に形成されたステータコア(32)と、導電性の巻線を用いて形成されていると共に前記ステータコアに支持されかつ前記ステータコアの径方向外側の面又は径方向内側の面に沿って周方向に並んで配置された導線部(34A)を有するコイル(34)と、を備えたステータ(22)と、
前記導線部と径方向に対向して配置されたマグネット(30)を有し、前記コイルに通電されることで回転するロータ(20)と、
を備えたモータの製造方法であって、
前記マグネットにおける前記導線部と対向する面における表面磁束密度を回転電機角0°から360°の範囲で測定した波形についてFFT解析を行い、5次の波形に対する位相と7次の波形に対する位相とが逆位相となる結果が得られるように、前記マグネット内の磁束を設定し、
前記ロータが、周方向に並んで配列された複数の前記マグネットを含むように構成し、
周方向に隣り合う一対の磁極中心(P)の間の周方向の中央において、一対の前記マグネットが周方向に離間するように設定し
たモータの製造方法。
【請求項3】
磁性材料を用いて環状に形成されたステータコア(32)と、導電性の巻線を用いて形成されていると共に前記ステータコアに支持されかつ前記ステータコアの径方向外側の面又は径方向内側の面に沿って周方向に並んで配置された導線部(34A)を有するコイル(34)と、を備えたステータ(22)と、
前記導線部と径方向に対向して配置されたマグネット(30)を有し、前記コイルに通電されることで回転するロータ(20)と、
を備えたモータの製造方法であって、
前記マグネットにおける前記導線部と対向する面における表面磁束密度を回転電機角0°から360°の範囲で測定した波形についてFFT解析を行い、5次の波形に対する位相と7次の波形に対する位相とが逆位相となる結果が得られるように、前記マグネット内の磁束を設定し、
前記ロータが、周方向に並んで配列された複数の前記マグネットを含むように構成し、
周方向に隣り合う一対の磁極中心において、一対の前記マグネットが周方向に離間するように設定し
たモータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ステータへ通電がなされることでロータが回転するモータ(回転電機)が開示されている。この文献に記載されたモータでは、ロータの内周部にリング形状のマグネット(永久磁石)が設けられている。そして、このマグネットの径方向かつ中心方向に設定された集束軸に沿った方向へ集束するように、磁化容易軸が傾斜して配向されている。これにより、モータのトルクを大きくすること等が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載された構成は、モータのトルクを大きくするという観点では有用な構成ではある。しかしながら、ステータコアの径方向外側の面又は径方向内側の面に沿って導線部が並んで配置された構成(ティースレスの構成)のモータに上記特許文献1に記載されたマグネットの構成を適用すると、トルクリップルを低減するという観点で改善が望まれる場合がある。
【0005】
本開示は上記事実を考慮し、トルクリップルを抑制することができるティースレス構造のモータの製造方法を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するモータの製造方法は、磁性材料を用いて環状に形成されたステータコア(32)と、導電性の巻線を用いて形成されていると共に前記ステータコアに支持されかつ前記ステータコアの径方向外側の面又は径方向内側の面に沿って周方向に並んで配置された導線部(34A)を有するコイル(34)と、を備えたステータ(22)と、
前記導線部と径方向に対向して配置されたマグネット(30)を有し、前記コイルに通電されることで回転するロータ(20)と、を備えたモータの製造方法であって、前記マグネットにおける前記導線部と対向する面における表面磁束密度を回転電機角0°から360°の範囲で測定した波形についてFFT解析を行い、5次の波形に対する位相と7次の波形に対する位相とが逆位相となる結果が得られるように、前記マグネット内の磁束を設定する。
【0007】
この様に構成することで、トルクリップルを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】モータを軸方向に沿って切断した断面を示す断面図である。
【
図2】
図1に示された2-2線に沿って切断したモータの断面を示す断面図である。
【
図3】
図1に示されたモータのロータの一部を模式的に示す図であり、マグネット1極対分を示している。
【
図4】
図3に示されたマグネットの径方向内側の面における表面磁束密度を回転電機角0°から360°の範囲で測定した波形を示すグラフである。
【
図5】
図4に示された波形についてFFT解析を行った結果を示すグラフである。
【
図6】
図3に示されたモータの巻線鎖交磁束密度を回転電機角0°から360°の範囲で測定した波形を示すグラフである。
【
図7】
図6に示された波形についてFFT解析を行った結果を示すグラフである。
【
図8】第1比較例に係るモータのマグネットの表面磁束密度の波形を示す
図4に対応するグラフである。
【
図9】
図8に示された波形についてFFT解析を行った結果を示すグラフである。
【
図10】第1比較例に係るモータの巻線鎖交磁束密度の波形を示す
図6に対応するグラフである。
【
図11】
図10に示された波形についてFFT解析を行った結果を示すグラフである。
【
図12】第2比較例に係るモータのマグネットの表面磁束密度の波形を示す
図4に対応するグラフである。
【
図13】
図12に示された波形についてFFT解析を行った結果を示すグラフである。
【
図14】第2比較例に係るモータの巻線鎖交磁束密度の波形を示す
図6に対応するグラフである。
【
図15】
図14に示された波形についてFFT解析を行った結果を示すグラフである。
【
図16】ロータハウジングの一部を磁路として用いている例を示す
図3に対応する模式図である。
【
図17】磁路を形成する磁性体をマグネットの間に設けた例を示す
図3に対応する模式図である。
【
図18】磁極中心においてマグネットを離間させた例を示す
図3に対応する模式図である。
【
図19】他の形態の導線部の配列を示す
図2に対応する断面図である。
【
図20】他の形態の導線部の配列を示す
図2に対応する断面図である。
【
図21】他の形態の導線部の配列を示す
図2に対応する断面図である。
【
図22】インナロータ型のモータを示す
図2に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1~
図3を用いて実施形態に係るモータについて説明する。
【0010】
図1及び
図2に示されるように、本実施形態のモータ10は、車両用空調装置の一部を構成するファンを回転させるために用いられるアウタロータ型のモータ(ブラシレスモータ)である。このモータ10は、回転軸12を回転させるモータ本体14と、モータ本体14への通電を制御することにより回転軸12の回転を制御する図示しない制御部と、モータ本体14及び制御部を支持するセンタピース18と、を備えている。なお、図中に適宜示す矢印Z方向、矢印R方向及び矢印C方向は、回転軸12の回転軸方向一方側、回転径方向外側及び回転周方向一方側をそれぞれ示すものとする。また以下、単に軸方向、径方向、周方向を示す場合は、特に断りのない限り、回転軸12の回転軸方向、回転径方向、回転周方向を示すものとする。
【0011】
モータ本体14は、回転軸12と、ロータ20と、ステータ22と、を主要な要素として構成されている。
【0012】
図1に示されるように、回転軸12は、円柱状の鋼材を用いて形成されている。この回転軸12は、センタピース18に固定された一対のベアリング26によって回転自在に支持されている。
【0013】
ロータ20は、軸方向他方側が開放された有底円筒状に形成されたロータハウジング28にマグネット30が固定されることによって構成されている。ロータハウジング28は、円板状に形成された底壁28Aと、底壁28Aの径方向外側の端から軸方向他方側へ屈曲して延びる円筒状の周壁28Bと、を備えている。底壁28Aの中心部には、回転軸12が挿入される挿入部28Cが設けられている。回転軸12が挿入部28Cに圧入されることで、ロータハウジング28と回転軸12とが一体回転可能に結合されている。
【0014】
マグネット30は、ロータハウジング28の周壁28Bの径方向内側の面に接着剤等を介して固定されている。また、マグネット30は、当該マグネット30の軸方向の中心とステータコア32の径方向外側の部分32Aの軸方向の中心とが一致した状態で、ステータ22と径方向に対向して配置されている。
【0015】
図1及び
図2に示されるように、ステータ22は、環状に形成されたステータコア32と、ステータコア32の径方向外側の部分32Aに固定されたコイルとしての環状のコイル体34と、を含んで構成されている。
【0016】
ステータコア32は、磁性材料である鉄や鋼の板材を用いて所定の形状に形成された複数のコアシート36が軸方向に積層されて一体化されること等によって形成されている。ここで、複数のコアシート36は、一例としてその一部が互いに凹凸嵌合されることにより一体化されている。
【0017】
図1に示されるように、ステータコア32の径方向外側の部分32Aの軸方向への厚み寸法は、ステータコア32の径方向の中心部32Bの軸方向への厚み寸法よりも厚くなっている。これにより、ステータコア32の径方向外側の部分32Aとステータコア32の径方向の中心部32Bとの境目における軸方向一方側及び軸方向他方側には、それぞれ軸方向に高さの差を有する段差が形成されている。なお、この段差が形成されていない構成としてもよい。
【0018】
また、ステータコア32の径方向の中心部32Bには、センタピース18に形成されたステータコア支持部18Aが挿入される支持孔32Dが形成されている。そして、センタピース18に形成されたステータコア支持部18Aがステータコア32の支持孔32Dに挿入されることで、ステータコア32(ステータ22)のセンタピース18に対する周方向への位置決めがなされる。また、ステータコア32(ステータ22)は、ステータコア支持部18Aに圧入等により固定されている。
【0019】
コイル体34は、巻線としての複数の導線40がステータコア32の径方向外側の部分32Aを覆う形状に湾曲及び屈曲されること等により形成されている。なお、本実施形態では、一例として、U相、V相、W相をそれぞれ構成する3本の導線40を所謂波巻することでコイル体34が形成されている。また、3本の導線40は、図示しない制御部に接続されている。これにより、コイル体34(3本の導線40)への通電が制御部によって制御されるようになっている。
【0020】
ここで、U相、V相、W相をそれぞれ構成する3本の導線40においてステータコア32の径方向外側の部分32Aにおける径方向外側の面32A0に沿って配置される部分を導線部34Aと呼ぶ。
図2に示されるように、導線部34Aは、軸方向にのびる導線40の一部が周方向に配列される(本実施形態では7列で配列される)ことにより構成されており、U相の導線部34A、V相の導線部34A及びW相の導線部34Aは、周方向に沿ってこの順で配列されている。また、U相の導線部34A、V相の導線部34A及びW相の導線部34Aは、周方向に隙間なく配列されている。これにより、各々の導線部34Aの間にステータコア32の一部等の導線間部材が設けられていない構成となっている。このような構造を「ティースレス構造」と呼ぶ。
【0021】
図1に示されるように、U相、V相、W相をそれぞれ構成する3本の導線40においてステータコア32の径方向外側の部分32Aにおける軸方向一方側の面32A1に沿って配置される部分を第1コイルエンド34Bと呼ぶ。さらに、U相、V相、W相をそれぞれ構成する3本の導線40においてステータコア32の径方向外側の部分32Aにおける軸方向他方側の面32A2に沿って配置される部分を第2コイルエンド34Cと呼ぶ。
【0022】
ところで、モータ10のトルクを大きくするという観点では、マグネット30とコイル体34との相互作用による巻線鎖交磁束密度を大きくすることが重要である。また、ティースレス構造のモータ10では、当該モータ10のインダクタンスを所望のインダクタンスとすることと巻線鎖交磁束の歪を低減することとの互いに背反する要求を満足させつつ、トルクリップルを低減できることが望ましい。さらに、トルクリップルを抑制するという観点では、上記巻線鎖交磁束密度の波形(回転電機角0°から360°の範囲で測定した波形)を正弦波に沿う波形とすることが重要である。以下、本実施形態のティースレス構造のモータ10に対応したトルクリップルを抑制するためのロータ20の構成について説明する。
【0023】
図2及び
図3に示されるように、本実施形態のロータ20では、磁極中心Pにおいて径方向内側がN極とされた一対のマグネット30Nと、磁極中心Pにおいて径方向内側がS極とされた一対のマグネット30Sと、を備えている。一対のマグネット30N、30Sは、径方向を厚み方向として周方向に延在する板状に形成されている。磁極中心Pにおいて径方向内側がN極とされた一対のマグネット30Nは、磁極中心Pにおいて互いに周方向に当接している。また、磁極中心Pにおいて径方向内側がS極とされた一対のマグネット30Sは、磁極中心Pにおいて互いに周方向に当接している。さらに、磁極中心Pにおいて径方向内側がN極とされた一対のマグネット30Nと、磁極中心Pにおいて径方向内側がS極とされた一対のマグネット30Sと、は周方向に間隔をあけて配列されている。なお、本実施形態のマグネット30は、一例として残留磁束密度Brが1.0T以上であり、保磁力bHcが400kA/m以上となっている。
【0024】
ここで、
図3に示されるように、磁極中心Pにおいて径方向内側がN極とされた一対のマグネット30Nは、磁極中心P側の端部30N1と磁極中心Pとは反対側の端部30N2とで磁化容易軸が異なる方向に向いている。具体的には、一対のマグネット30Nでは、磁極中心Pとは反対側の端部30N2から磁極中心P側の端部30N1へ向かうにつれて径方向外側から内側へ円弧状の線を描くような磁力線となるように磁化容易軸が設定されている。
【0025】
また、磁極中心Pにおいて径方向内側がS極とされた一対のマグネット30Sでは、磁極中心P側の端部30S1から磁極中心Pとは反対側の端部30S2へ向かうにつれて径方向内側から外側へ円弧状の線を描くような磁力線となるように磁化容易軸が設定されている。
【0026】
なお、一対のマグネット30N、30Sにおける径方向内側の面において磁力線と周方向とのなす角度を極集中配向角度θ1と呼ぶ。また、一対のマグネット30N、30Sにおける径方向外側の面において磁力線と周方向とのなす角度を極間配向角度θ2と呼ぶ。
【0027】
図4には、1極対のマグネット30(一対のN極のマグネット30N及び一対のS極のマグネット30S)の径方向内側の面における表面磁束密度を回転電機角0°から360°の範囲で測定した波形が示されている。
【0028】
この図に示されるように、回転電機角が0°から180°の範囲では、すなわち、磁極中心Pにおいて径方向内側がN極とされた一対のマグネット30Nと対応する範囲においては、0°から90°へ向かうにつれて表面磁束密度が増加し、90°から180°へ向かうにつれて表面磁束密度が減少する。
【0029】
詳述すると、本実施形態では、回転電機角が0°から30°の範囲においては、0°から30°へ向かうにつれて表面磁束密度が増加する。また、回転電機角が30°から60°の範囲においては30°から60°へ向かうにつれて表面磁束密度がほぼ変化しない。さらに、回転電機角が60°から90°の範囲においては30°から60°の範囲に対して急激に表面磁束密度が増加する。
【0030】
回転電機角が90°から120°の範囲においては90°から120°へ向かうにつれて表面磁束密度が減少する。また、回転電機角が120°から150°の範囲においては120°から150°へ向かうにつれて表面磁束密度がほぼ変化しない。さらに、回転電機角が150°から180°の範囲においては120°から150°の範囲に対して急激に表面磁束密度が増加する。
【0031】
回転電機角が180°から360°の範囲では、すなわち、磁極中心Pにおいて径方向内側がS極とされた一対のマグネット30Sと対応する範囲においては、180°から270°へ向かうにつれて表面磁束密度が減少し、270°から360°へ向かうにつれて表面磁束密度が増加する。
【0032】
詳述すると、本実施形態では、回転電機角が180°から210°の範囲においては、180°から210°へ向かうにつれて表面磁束密度が減少する。また、回転電機角が210°から240°の範囲においては210°から240°へ向かうにつれて表面磁束密度がほぼ変化しない。さらに、回転電機角が240°から270°の範囲においては210°から240°の範囲に対して急激に表面磁束密度が減少する。
【0033】
回転電機角が270°から300°の範囲においては270°から300°へ向かうにつれて表面磁束密度が増加する。また、回転電機角が300°から330°の範囲においては300°から330°へ向かうにつれて表面磁束密度が変化しない。さらに、回転電機角が330°から360°の範囲においては300°から330°の範囲に対して急激に表面磁束密度が増加する。
【0034】
図5には、
図4に示された表面磁束密度の波形についてFFT解析を行った結果のグラフが示されている。この図に示された1次、5次及び7次の磁束成分に着目して比較したものを以下の表1に示す。
【0035】
【0036】
表1に示されるように、表面磁束密度の5次の波形に対する位相は8.65°であり、7次の波形に対する位相は190.5°である。そして、5次の波形に対する位相と7次の波形に対する位相とが逆位相となるようにすると共に、5次の波形に対する磁束成分と7次の波形に対する磁束成分との差分を小さくすることで、6次の誘起電圧歪を小さくすることが可能となり、トルクリップルを低減できることが実験及び解析により得られた。
【0037】
なお、「表面磁束密度の5次の波形に対する位相と7次の波形に対する位相とが逆位相となる」とは、「表面磁束密度の5次の波形に対する位相から7次の波形に対する位相を引いた値の絶対値が、90°を超え270°未満の値となること」と対応する。そして、表面磁束密度の5次の波形に対する位相から7次の波形に対する位相を引いた値の絶対値が180°に近い値となっているほど、トルクリップルを効果的に低減できることが実験及び解析によりわかっている。本実施形態では、5次の波形に対する位相から7次の波形に対する位相を引いた値の絶対値が181.8°となっている。
【0038】
また、「表面磁束密度の5次の波形に対する磁束成分と7次の波形に対する磁束成分との差分を小さくする」とは、「表面磁束密度の5次の波形に対する磁束成分から7次の波形に対する磁束成分を引いた値の絶対値が、1次の波形に対する磁束成分に対して10%以下にする」と対応する。そして、本実施形態では、表面磁束密度の5次の波形に対する磁束成分から7次の波形に対する磁束成分を引いた値の絶対値が、1次の波形に対する磁束成分に対して8.5%となっている。
【0039】
なお、本実施形態では、極集中配向角度θ1及び極間配向角度θ2を主要なパラメータとしてマグネット30の磁束等を設定することで、表面磁束密度の5次の波形に対する位相から7次の波形に対する位相を引いた値の絶対値が180°に近づくように、かつ5次の波形に対する磁束成分から7次の波形に対する磁束成分を引いた値の絶対値が1次の波形に対する磁束成分に対して10%以下となるようにした。
【0040】
(本実施形態の作用並びに効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0041】
図1及び
図2に示されるように、本実施形態のモータ10では、ステータ22のコイル体34への通電が制御部によって制御されると、コイル体34が磁束(磁界)を発する。これにより、ロータ20が回転軸12と共に回転する。
【0042】
ここで、本実施形態では、表面磁束密度の5次の波形に対する位相から7次の波形に対する位相を引いた値の絶対値が180°に近づくように、かつ5次の波形に対する磁束成分から7次の波形に対する磁束成分を引いた値の絶対値が1次の波形に対する磁束成分に対して10%以下となるようにマグネット30の磁束を設定している。これにより、
図6に示されるように、巻線鎖交磁束密度の波形(回転電機角0°から360°の範囲で測定した波形)を正弦波に近づけることができる。これにより、モータ10のトルクリップルを低減することができる。また、上記のような設定とすることにより、制御部によるコイル体34への通電の制御性を確保することができる。
【0043】
図7には、
図6に示された巻線鎖交磁束密度の波形についてFFT解析を行った結果のグラフが示されている。この図に示された1次、5次及び7次の磁束成分に着目して比較したものを以下の表2に示す。
【0044】
【0045】
この表によれば、トルクリップルの大きさに起因する(6次の誘起電圧歪に起因する)と考えられる巻線鎖交磁束密度の5次及び7次の磁束成分の値を1次の磁束成分の値に対して十分に小さく(上記の例では5%未満)できている。これは、巻線鎖交磁束密度の5次及び7次の磁束成分が互いに打ち消し合うことで、6次の誘起電圧歪を小さくできているものと考えられる。
【0046】
(第1比較例)
図8には、第1比較例に係るモータの表面磁束密度を示す
図4に対応するグラフが示されている。この例では、回転電機角が0°から180°の範囲では、すなわち、磁極中心Pにおいて径方向内側がN極とされた一対のマグネット30Nと対応する範囲においては、0°から90°へ向かうにつれて、表面磁束密度が、増加、減少、増加の順で変化するようになっている。また、90°から180°へ向かうにつれて、表面磁束密度が、減少、増加、減少の順で変化するようになっている。
【0047】
また、回転電機角が180°から360°の範囲では、すなわち、磁極中心Pにおいて径方向内側がS極とされた一対のマグネット30Sと対応する範囲においては、180°から270°へ向かうにつれて、表面磁束密度が、減少、増加、減少の順で変化するようになっている。また、270°から360°へ向かうにつれて、表面磁束密度が、増加、減少、増加の順で変化するようになっている。
【0048】
図9には、
図8に示された表面磁束密度の波形についてFFT解析を行った結果のグラフが示されている。この図に示された1次、5次及び7次の磁束成分に着目して比較したものを以下の表3に示す。
【0049】
【0050】
表3に示されるように、表面磁束密度の5次の波形に対する位相は7.21°であり、7次の波形に対する位相は6.94°である。そして、この比較例では、表面磁束密度の5次の波形に対する位相と7次の波形に対する位相とが同位相となっている。なお、「表面磁束密度の5次の波形に対する位相と7次の波形に対する位相とが同位相となっている」とは、「表面磁束密度の5次の波形に対する位相から7次の波形に対する位相を引いた値の絶対値が、90°を超え270°未満の範囲とは異なる値となること」対応する。
【0051】
そして、以上説明した第1比較例に係るモータでは、
図10に示されるように、巻線鎖交磁束密度の波形(回転電機角0°から360°の範囲で測定した波形)が、前述の本実施形態の波形(
図6参照)と比べて正弦波から乖離した波形となっている。この波形及びこの波形をFFT解析した結果のグラフを示す
図11、並びに、
図11に示された1次、5次及び7次の磁束成分に着目して比較した以下の表4からもわかるように、トルクリップルの大きさに起因する(6次の誘起電圧歪に起因する)と考えられる巻線鎖交磁束密度の5次及び7次の磁束成分の値を1次の磁束成分の値に対して小さくことが難しく、第1比較例に係るモータでは、トルクリップルを効果的に抑制することが難しい。
【0052】
【0053】
(第2比較例)
図12には、第2比較例に係るモータの表面磁束密度を示す
図4に対応するグラフが示されている。この例では、回転電機角が0°から180°の範囲では、すなわち、磁極中心Pにおいて径方向内側がN極とされた一対のマグネット30Nと対応する範囲においては、0°から90°へ向かうにつれて、表面磁束密度が、増加した後に減少するようになっている。また、90°から180°へ向かうにつれて、表面磁束密度が、増加した後に減少するようになっている。
【0054】
また、回転電機角が180°から360°の範囲では、すなわち、磁極中心Pにおいて径方向内側がS極とされた一対のマグネット30Sと対応する範囲においては、180°から270°へ向かうにつれて、表面磁束密度が、減少した後に増加するようになっている。また、270°から360°へ向かうにつれて、表面磁束密度が、減少した後に増加するようになっている。
【0055】
図13には、
図12に示された表面磁束密度の波形についてFFT解析を行った結果のグラフが示されている。この図に示された1次、5次及び7次の磁束成分に着目して比較したものを以下の表5に示す。
【0056】
【0057】
表3に示されるように、表面磁束密度の5次の波形に対する位相は-3.66°であり、7次の波形に対する位相は5.2°である。そして、この比較例では、表面磁束密度の5次の波形に対する位相と7次の波形に対する位相とが同位相となっている。
【0058】
そして、以上説明した第2比較例に係るモータでは、
図14に示されるように、巻線鎖交磁束密度の波形(回転電機角0°から360°の範囲で測定した波形)が、前述の本実施形態の波形(
図6参照)と比べて正弦波から乖離した波形となっている。この波形及びこの波形をFFT解析した結果のグラフを示す
図15、並びに、
図15に示された1次、5次及び7次の磁束成分に着目して比較した以下の表6からもわかるように、トルクリップルの大きさに起因する(6次の誘起電圧歪に起因する)と考えられる巻線鎖交磁束密度の5次及び7次の磁束成分の値を1次の磁束成分の値に対して小さくことが難しく、第2比較例に係るモータでは、トルクリップルを効果的に抑制することが難しい。
【0059】
【0060】
以上の第1比較例に係るモータ及び第2比較例に係るモータの結果からもわかるように、
図1~
図3に示された本実施形態のモータ10のように構成することで、トルクリップルを効果的に低減できることがわかる。
【0061】
なお、本実施形態では、
図4に示されるように、表面磁束密度が、回転電機角の30°から60°の範囲、120°から150°の範囲、210°から240°の範囲、300°から330°の範囲においてほぼ変化しないように構成した例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、表面磁束密度が、回転電機角が30°から60°の範囲においては30°から60°へ向かうにつれて増加するように、回転電機角が120°から150°の範囲においては120°から150°へ向かうにつれて90°から120°の範囲に対して緩やかに減少するように、回転電機角が210°から240°の範囲においては210°から240°へ向かうにつれて減少するように、回転電機角が300°から330°の範囲においては300°から330°へ向かうにつれて270°から300°の範囲に対して緩やかに増加するように設定してもよい。
【0062】
また、
図3に示されるように、本実施形態のモータ10では、磁極中心Pにおいて径方向内側がN極とされた一対のマグネット30Nと、磁極中心Pにおいて径方向内側がS極とされた一対のマグネット30Sと、が周方向に間隔をあけて配列されている。すなわち、本実施形態のモータ10では、周方向に隣り合う一対の磁極中心P(周方向に隣り合うN極の磁極中心P及びS極の磁極中心P)の間の周方向の中央において、マグネット30Nとマグネット30Sとが周方向に離間している。この構成は、
図16に示されるように、ロータハウジング28の一部(周壁28B)を磁路として用いることができることを前提とした構成である。例えば、ロータハウジング28の一部(周壁28B)を磁路として用いることができない構成においては、
図17に示されるように、磁極中心Pにおいて径方向内側がN極とされた一対のマグネット30Nと、磁極中心Pにおいて径方向内側がS極とされた一対のマグネット30Sと、の間に隙間埋め用の磁石や磁性鋼板等の磁性体50を設ければよい。或いは、磁極中心Pにおいて径方向内側がN極とされた一対のマグネット30Nと、磁極中心Pにおいて径方向内側がS極とされた一対のマグネット30Sと、を周方向に当接させた構成とすればよい。なお、ロータハウジング28の一部(周壁28B)の寸法公差とマグネット30の寸法公差を考慮すると、マグネット30間に隙間を設けた構成のほうが良い。
【0063】
また、
図3に示されるように、本実施形態のモータ10では、磁極中心Pにおいて径方向内側がN極とされた一対のマグネット30Nを磁極中心Pにおいて互いに周方向に当接させると共に、磁極中心Pにおいて径方向内側がS極とされた一対のマグネット30Sを磁極中心Pにおいて互いに周方向に当接させた例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図18に示されるように、磁極中心Pにおいて径方向内側がN極とされた一対のマグネット30Nを磁極中心Pにおいて互いに周方向に離間させると共に、磁極中心Pにおいて径方向内側がS極とされた一対のマグネット30Sを磁極中心Pにおいて互いに周方向に離間させた構成としてもよい。この場合、極集中配向角度θ1を
図3に示された例よりも大きく設定することで、磁極中心における磁束密度が低下することを抑制することができる。その結果、この構成が適用されたモータの高トルク化が妨げられることを抑制することができる。なお、
図18に示された例では、N極のマグネット30NとS極のマグネット30Sとを周方向に当接させている。
【0064】
また、
図2に示されるように、本実施形態のモータ10では、導線部34Aを径方向に1層とした構成について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図19に示されるように、導線部34Aを径方向に2層等の複層にした構成としてもよい。
【0065】
また、
図20に示されるように、周方向に隣り合う導線部34A間に隙間が設けられた構成としてもよい。さらに、
図21に示されるように、U相の導線部34A、V相の導線部34A及びW相の導線部34Aの周方向への配列順序を
図2とは異なる順序に配列してもよい。
【0066】
なお、
図1~
図7及び
図16~
図21の構成は、アウタロータ型のモータだけではなく
図22に示されたインナロータ型のモータ52にも適用できる。なお、インナロータ型のモータ52において前述のモータ10と対応する部材及び部分には、前述のモータ10と対応する部材及び部分と同じ符号を付している。
【0067】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上記に限定されるものでなく、その主旨を逸脱しない範囲内において上記以外にも種々変形して実施することが可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0068】
10 モータ、20 ロータ、30 マグネット、32 ステータコア、34 コイル体(コイル)、34A 導線部、40 導線(巻線)、52 モータ、P 磁極中心