(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】複合炭素材およびその製造方法、電極作製用スラリー、電極塗膜並びにリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
C01B 32/21 20170101AFI20231212BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231212BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20231212BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C01B32/21
H01M4/36 C
H01M4/587
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2020030894
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】出村 隆充
(72)【発明者】
【氏名】金高 祐仁
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/217407(WO,A1)
【文献】特開2010-218758(JP,A)
【文献】特表2018-535915(JP,A)
【文献】INADA Miki et al.,Advanced Powder Technology ,2017年,28,p.884-889
【文献】TITIRICI Maria-Magdalena et al.,Green Chem.,2008年,10,p.1204-1212
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/00-4/62
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイト粒子をコアとするコアシェル構造を有し、前記コアを被覆するシェル層がカーボンスフィアを含み、前記カーボンスフィアは表面にフェノール性ヒドロキシル基を有する、複合炭素材。
【請求項2】
前記フェノール性ヒドロキシル基の量が、0.001mmol/g以上0.05mmol/g以下である、請求項1記載の複合炭素材。
【請求項3】
前記
複合炭素材のBET比表面積は1m
2/g以上60m
2/g以下であり、前記シェル層の厚さは20nm以上100nm以下である、請求項1または2に記載の複合炭素材。
【請求項4】
請求項1記載の複合炭素材の製造方法であって、
グラファイト粒子と糖類を含む水溶液を
100℃以上400℃以下の温度で加熱して水熱処理する工程
と、
水熱処理後の前記水溶液から回収した固形分を、非加熱または400℃以下の温度で加熱処理する工程を含む複合炭素材の製造方法。
【請求項5】
前記糖類は、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトースおよびマルトースからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の複合炭素材と、親水性バインダーと、水とを含み、顔料容積濃度が、50体積%以上80体積%以下である、電極作製用スラリー。
【請求項7】
請求項1記載の複合炭素材と、親水性バインダーとを含む、電極塗膜。
【請求項8】
請求項7記載の電極塗膜を含む負極を有する、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合炭素材およびその製造方法、電極作製用スラリー、電極塗膜並びにリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電子機器等の普及に伴い、その電源として重要なデバイスとなっている。そして、近年のスマートフォンやウェアラブル機器の普及により、リチウムイオン二次電池には、高い安全性と高寿命に加え、高容量および高エネルギー密度が求められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、黒鉛系の炭素材料が知られており、高容量化の観点から、様々な検討がなされている。例えば、特許文献1,2には、核材に黒鉛系炭素粉末を用い、核材の表面に付着させた有機化合物を熱処理することで、核材の表面をアモルファスカーボン等の表面処理部で覆った負極活物質を用いることが記載されている。また、特許文献3には、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な炭素材の表面に炭素質物を含有する複合炭素材であって、30個の複合炭素材の顕微ラマンR値の平均値が0.1以上0.85以下で標準偏差を0.1以下である、表面にリチウムイオンが挿入脱離し易い低結晶性の炭素質物を均一に含有する負極活物質を用いることが記載されている。また、特許文献4には、大粒径化した黒鉛質粒子の表面の少なくとも一部が炭素質物質で被覆された、変形しやすい複層構造炭素材を負極材料に用いることで、負極材料の材料破壊を抑制して、初期不可逆容量を低減できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-139170号公報
【文献】特開2018-139169号公報
【文献】特開2016-186912号公報
【文献】特開2013-201125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン二次電池の負極は、集電体と、集電体上に形成された負極活物質層とから構成されている。一般的に、負極活物質層は、負極活物質とバインダーと溶媒を含む電極スラリーを集電体上に塗布することにより形成されている。溶媒については、有機溶媒を用いると、電極スラリーの調製や電極シートの作製のための設備を防爆仕様としなくてはならず設備コストが増加するという問題や、有機溶媒の廃棄コストが大きいという問題があるため、水が用いられるようになっている。また、溶媒に水を用いる場合、水に溶解し易い親水性バインダーが用いられている。
【0006】
一方、特許文献1,2では、表面処理部に水素や酸素が残留しないような温度で有機化合物を熱処理して、有機化合物を炭化しており、負極活物質の表面には有機化合物に由来する官能基は存在していない。そのため、電極スラリーを作製する場合、親水性バインダーとの親和性が少ないため、混錬時に分散安定性の悪い不均一なスラリーができ易い。その結果、電極スラリー中の負極活物質の粒子同士が凝集した状態で集電体に塗布されるため、負極活物質層の密度を向上させることが困難である。
【0007】
また、特許文献3、4では、炭素質物の作製に関し、混合法(炭素核材の表面に炭素質物前駆体である有機化合物を均一に被覆されるように混合し、非酸化性雰囲気下で加熱する)や、気相法(炭素核材表面に、炭素質物前駆体である気相コート原料化合物を不活性ガス雰囲気下において均一に蒸着させる化学堆積法(CVD法))を提案している。しかし、混合法では水素や酸素が残留しないような温度で炭素質物を作製しており、炭素質物の表面には有機化合物に由来する官能基は存在していない。また、気相法で作製した炭素質物には官能基は存在していない。そのため、特許文献1,2の場合と同様に、電極スラリーを作製する場合、親水性バインダーとの親和性が少ないため、混錬時に分散安定性の悪い不均一なスラリーができ易い。その結果、電極スラリー中の負極活物質の粒子同士が凝集した状態で集電体に塗布されるため、負極活物質層の密度を向上させることが困難である。また、混合法による作製は、コールタールピッチ、コールタール、石炭液化油および石油系重質油が好適とされているが、先行技術にある混合法では、炭素質前駆体を一様に溶解する際、および作製した複合炭素材を用いて電極スラリーを作製するためには有機溶媒を用いざるを得ないため、上記のように、防爆仕様としなくてはならず設備コストが増加するという問題や、廃棄コストの問題がある。
【0008】
以上のように、特許文献1~4の方法では、電極スラリー中の負極活物質の粒子同士が凝集した状態で集電体に塗布されるため、負極活物質層の密度を向上させることが困難である。そのため、高エネルギー密度化が困難であるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、リチウムイオン二次電池の高容量化および高エネルギー密度化を可能とする、複合炭素材およびその製造方法、電極作製用スラリー、電極塗膜並びにリチウムイオン二次電池を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様に係る複合炭素材は、グラファイト粒子をコアとするコアシェル構造を有し、前記コアを被覆するシェル層がカーボンスフィアを含み、前記カーボンスフィアは表面にフェノール性ヒドロキシル基を有することを特徴とする。
【0011】
また、上記の一態様に係る複合炭素材は、例えば、グラファイト粒子と糖類を含む水溶液を水熱処理して、前記グラファイト粒子の表面をカーボンスフィアで被覆する工程を含む複合炭素材の製造方法により製造することができる。
【0012】
また、本発明の別の態様に係る電極作製用スラリーは、上記の一態様に係る複合炭素材と、バインダーと、水系溶媒とを含み、顔料容積濃度が60~80体積%であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の別の態様に係る電極塗膜は、上記の一態様に係る複合炭素材と、バインダーとを含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の別の態様に係るリチウムイオン二次電池は、上記の態様に係る電極塗膜を含む負極を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の複合炭素材を負極活物質に用いることで、負極活物質層の密度を向上させることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の高容量化および高エネルギー密度化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の複合炭素材の断面構造の一例を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【
図2A】実施例1~3および比較例1~3の水分散液の状態を示す写真であり、超音波照射直後の写真である。
【
図2B】実施例1~3および比較例1~3の水分散液の状態を示す写真であり、超音波照射してから1分経過後の写真である。
【
図2C】実施例1~3および比較例1~3の水分散液の状態を示す写真であり、超音波照射してから2分経過後の写真である。
【
図2D】実施例1~3および比較例1~3の水分散液の状態を示す写真であり、超音波照射してから5分経過後の写真である。
【
図2E】実施例1~3および比較例1~3の水分散液の状態を示す写真であり、超音波照射してから10分経過後の写真である。
【
図2F】実施例1~3および比較例1~3の水分散液の状態を示す写真であり、超音波照射してから20分経過後の写真である。
【
図3A】実施例6の電極作製用スラリーの状態を示す写真である。
【
図3B】比較例17の電極作製用スラリーの状態を示す写真である。
【
図4A】実施例4~9および比較例4、5、15の塗膜の状態を示す写真である。
【
図4B】実施例10~12および比較例6~14の塗膜の状態を示す写真である。
【
図4C】比較例16~18の塗膜の状態を示す写真である。
【
図5】実施例13~15と比較例19における、電流密度と充電容量の関係を示すグラフである。
【
図6】実施例13~15と比較例19における、電流密度と放電容量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面等を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
実施の形態1
本実施の形態は複合炭素材に関するものである。本実施の形態に係る複合炭素材は、グラファイト粒子をコアとするコアシェル構造を有し、前記コアを被覆するシェル層がカーボンスフィアを含み、前記カーボンスフィアは表面にフェノール性ヒドロキシル基を有することを特徴とするものである。本実施の形態に係る複合炭素材は、リチウムイオン二次電池の負極活物質として好適に用いることができる。
【0019】
複合炭素材は、コアシェル構造を有し、シェル層がカーボンスフィアを含み、カーボンスフィアは表面にフェノール性ヒドロキシル基を有している。そのため、水に容易に分散し、親水性バインダーとも親和性を有している。そのため、高い顔料体積濃度(Pigment Volume Concentration、以下、PVCと略す)でも、複合炭素材の粒子同士の凝集が抑制された、分散安定性に優れたスラリーを水を用いて作製することが可能となる。それにより、このスラリーを用いることで、より高密度の塗膜を作製することが可能となる。
【0020】
本発明においてコアシェル構造とは、コアを構成するグラファイト粒子の表面のうち、シェル層により被覆されている部分の面積の割合が、少なくとも50%であるものという。また、シェル層は、コアを被覆していればよく、断面視で層状構造でも粒子状構造でもよい。
【0021】
複合炭素材のコアを構成するグラファイト粒子には、天然グラファイトや人造グラファイトを用いることができるが、より高容量である天然グラファイトが好ましい。天然グラファイトとしては、鱗片状グラファイト、塊状グラファイト、および土状グラファイトを挙げることができる。グラファイト粒子の大きさは、平均粒径で1μm~50μm、好ましくは5μm~25μmである。ここで、グラファイト粒子の平均粒径とは、例えば、レーザー光散乱粒度分布測定装置を用いて測定して得られるメジアン径(d50)を用いることができる。
【0022】
複合炭素材は、シェル層がカーボンスフィアを含んでいる。ここで、カーボンスフィアとは、糖類やバイオマスを水熱処理して得られる微小球状炭素粒子であり、ナノメーターオーダーの直径を有している。製造方法については、例えば、Advanced Powder Technology 28(2017)884-889に記載されている。
【0023】
本発明で用いるカーボンスフィアは表面にフェノール性ヒドロキシル基を有している。炭素材料の表面に存在する可能性がある酸性官能基としては、カルボキシル基(強酸性官能基)とフェノール性ヒドロキシル基(弱酸性官能基)が知られている。フェノール性ヒドロキシル基量は、Boehm(ボエム)滴定法を用いて求めることができる。具体的には、全酸性官能基量(全酸量ともいい、強酸性官能基であるカルボキシル基と弱酸性官能基であるフェノール性ヒドロキシル基の合計量である)を水酸化ナトリウム添加した条件下での塩酸溶液の消費量から測定し、カルボキシル基量を炭酸水素ナトリウム添加条件下での塩酸の消費量から測定する。そして、全酸量からカルボキシル基量を差し引くことで、フェノール性ヒドロキシル基量を算出することができる。本発明では、カーボンスフィアがその表面にフェノール性ヒドロキシル基を有しているので、電極スラリー作製時に用いる親水性バインダーの親水性基(例えば、カルボニル基やヒドロキシル基)と親和性が大きいため、複合炭素材の粒子同士の凝集が抑制され、複合炭素材の粒子がより均一に分散した電極スラリーを作製することが可能となる。
【0024】
なお、本発明において、カーボンスフィアが表面にフェノール性ヒドロキシル基を有しているとは、複合炭素材の単位重量(g)当たりに、ベーム滴定法の検出限界量以上のフェノール性ヒドロキシル基が存在することをいい、その検出限界量とは、概ね0.001mmol/gである。好ましくは、フェノール性ヒドロキシル基量は、複合炭素材の単位重量(g)当たり、0.001mmol/g以上0.05mmol/g以下、より好ましくは、0.01mmol/g以上0.05mmol/g以下である。
【0025】
また、カーボンスフィアの平均粒径は、5nm以上500nm以下、好ましくは10nm以上200nm以下である。5nmより小さいと、あるいは500nmより大きくても、グラファイト粒子の表面全面を被覆することが困難になるからである。なお、カーボンスフィアの平均粒径は、透過型電子顕微鏡(以下、TEMと略す)を用い、複数のカーボンスフィアの粒径を測定して、算出することができる。
【0026】
また、シェル層の厚さは、20nm以上100nm以下、好ましくは、30nm以上60nm以下である。20nmより薄いと、シェル層の均一さが損なわれ、100nmより厚いと、電子伝導性が低下するからである。なお、シェル層の厚さは、TEM観察によって測定した値から求めることができる。
【0027】
また、複合炭素材のBET比表面積は、1m2/g以上60m2/g以下、好ましくは、1m2/g以上50m2/g以下である。1m2/gより小さいと、電解液との接触面積が少なく十分な充電容量を確保できなくなり、60m2/gより大きいと、電解液との副反応が大きくなり、初期充電容量が低下し易くなるからである。なお、BET比表面積はBET法を用いて測定することができる。
【0028】
実施の形態2
本実施の形態は、実施の形態1に係る複合炭素材の製造方法に関するものである。本実施の形態に係る複合炭素材の製造方法は、グラファイト粒子と糖類を含む水溶液を水熱処理して、グラファイト粒子の表面をカーボンスフィアで被覆する工程を含んでいる。糖類は、水熱処理により分解・炭化されてカーボンスフィアを形成し、生成したカーボンスフィアがグラファイト粒子の表面を被覆することで、複合炭素材を形成することができる。
【0029】
水熱処理は、グラファイト粒子と糖類を含む水溶液(以下、反応液ともいう)をオートクレーブ等の密閉容器内で、100℃以上400℃以下の温度で加熱することにより行うことができる。温度は、好ましくは100℃以上300℃以下、より好ましくは100℃以上160℃以下である。また、密閉容器内の圧力は、特に限定されないが、好ましくは3MPa以下である。また、加熱時間は、1時間以上10時間以下、好ましくは2時間以上5時間以下である。
【0030】
また、反応液は、純水にグラファイト粒子と糖類を同時に添加して調製してもよいが、糖類を含む水溶液にグラファイト粒子を添加することが好ましい。グラファイト粒子が、糖類を含む水溶液に接触することで、グラファイト粒子の表面がカーボンスフィアで被覆されやすくなるからである。
【0031】
水熱処理した反応液は、ロ別等の固液分離操作を行うことにより、固形分と水溶液に分離することができる。分離した固形分は、水および必要に応じて、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン等の親水性溶媒を用いて洗浄後、乾燥させることで、複合炭素材を得ることができる。
【0032】
乾燥させた複合炭素材は、必要に応じて、非酸化雰囲気下で加熱処理を行ってもよい。加熱処理の温度は、400℃以下である。400℃を超えると、カーボンスフィアの表面のフェノール性ヒドロキシル基量が、大きく減少するので好ましくない。
【0033】
反応液に用いる糖類は、カーボンスフィアとなる炭素前駆体である。糖類としては、グルコース、フルクトース等の単糖類と、スクロース、ラクトース、マルトース等の二糖類を挙げることができる。好ましくは、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトースおよびマルトースからなる群から選択される少なくとも1種の糖類であり、より好ましくはグルコースおよび/またはフルクトース、さらに好ましくはグルコースである。
【0034】
反応液に含まれるグラファイト粒子と糖類との比率(糖類/グラファイト粒子)は、用いる糖類の種類に応じて、グラファイト粒子の表面全面にシェル層が形成されるように、選択することができる。例えば、糖類にグルコースを用いた場合、反応液に含まれるグルコースとグラファイト粒子との比率(グルコース/グラファイト粒子)は、重量比で、0.2以上1.4以下、好ましくは0.4以上1.0以下である。その比率が0.2より小さいと、グラファイト粒子の表面にシェル層が形成されにくくなり、その比率が1.4より大きくなると、シェル層が厚くなり過ぎて、塗膜の密度を高くするのが困難となるからである。
【0035】
実施の形態3
本実施の形態は、電極作製用スラリーに関するものである。本実施の形態に係る電極作製用スラリーは、含有する複合炭素材が、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いることができるグラファイト粒子を含んでおり、リチウムイオン二次電池の負極の作製に用いる電極作製用スラリーに用いることができる。
【0036】
電極作製用スラリーは、実施の形態1の複合炭素材と、親水性バインダーと、水系溶媒とを含み、顔料容積濃度が50体積%以上80体積%以下である。ここで、顔料容積濃度(以下、PVCと略す)(体積%)は、以下の式で定義される。
PVC={(複合炭素材の体積)/(複合炭素材の体積+バインダーの体積)}×100
【0037】
PVCは、50体積%以上80体積%以下、好ましくは60体積%以上80体積%以下である。PVCが50体積%より小さいと、十分な塗膜密度を得ることができず、またPVCが80体積%より大きいと、塗膜の厚さを均一に維持するのが困難になるからである。
【0038】
親水性バインダーとしては、メチルセルロースやカルボキシメチルセルロース(以下、CMCと略す)等の水溶性セルロース誘導体や、ポリエチレンオキシド等のポリエーテル類や、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の1種または2種以上の混合物を挙げることができるが、CMCが好ましい。
【0039】
電極作製用スラリーは、複合炭素材のシェル層にカーボンスフィアを含み、カーボンスフィアが表面にフェノール性ヒドロキシル基を有しているので、水に容易に分散し、かつ親水性バインダーの官能基とも親和性を有しているので、80体積%という高いPVCでも、分散安定性に優れている。本発明の電極作製用スラリーは、塗工性に優れており、表面が平滑で、厚さが均一な塗膜を作製することができる。これにより、複合炭素材の粒子が密に充填され、より高密度の電極塗膜を作製することが可能となる。
【0040】
実施の形態4
本実施の形態は、電極塗膜に関するものである。本実施の形態に係る電極塗膜は、実施の形態3の電極作製用スラリーを用いて作製することができ、リチウムイオン二次電池の負極に用いることができる。
【0041】
電極塗膜は、負極用集電体上に作製することができる。負極集電体には、銅箔や、ステンレス箔やニッケル箔を用いることができるが、銅箔を用いることが好ましい。銅箔としては、圧延銅箔や電解銅箔を用いることができる。
【0042】
電極塗膜の厚さは、特に限定されず、適宜設定することができるが、負極の高密度化の観点から、1μm以上200μm以下、好ましくは5μm以上100μm以下である。
【0043】
電極塗膜は、複合炭素材粒子が密に充填されることで、高い塗膜密度と、表面粗さが小さい平滑な表面を有している。塗膜密度は、1.50g/cm3以上であり、好ましくは1.60g/cm3以上である。塗膜密度は、後述するように、塗膜の重量と体積から求めることができる。また、表面粗さは、11μm以下、好ましくは10μm以下である。なお、表面粗さは、後述するように、形状測定レーザーマイクロスコープを用いて測定することができる。
【0044】
本実施の形態に係る電極塗膜は、複合炭素材の粒子が密に充填されており、かつ複合炭素材がグラファイト粒子を含んでいるので、リチウムイオン二次電池の負極に用いた場合、より高密度で高容量の負極を提供することができる。
【0045】
実施の形態5
本実施の形態は、リチウムイオン二次電池に関するものである。本実施の形態に係るリチウムイオン二次電池は、負極が実施の形態4の電極塗膜を含むものである。
【0046】
本実施の形態に係るリチウムイオン二次電池は、実施の形態4の電極塗膜を含む負極を用いる以外は、従来公知のリチウムイオン二次電池の構成を用いることができる。例えば、正極と負極とをセパレータを介して積層した電池体を電池容器内に入れ、電解液を注入した後で、電池容器を密閉した構成を有する。以下、各構成要素について説明するが、負極については、実施の形態1~4で説明したので、その説明を省略する。
【0047】
正極は、正極活物質層と正極集電体とから構成される。正極活物質層は、正極活物質とバインダーと溶媒を含む電極形成用スラリーを用いて作製することができる。正極活物質としては、リチウム含有化合物を用いることができる。リチウム含有化合物の種類は、特に限定されないが、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物およびリチウム遷移金属リン酸化合物を挙げることができる。リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムと1種類または2種類以上の遷移金属元素とを構成元素として含む酸化物の総称である。リチウム遷移金属リン酸化合物は、リチウムと1種類または2種類以上の遷移金属元素とを構成元素として含むリン酸化合物の総称である。遷移金属元素の種類は、特に限定されないが、例えば、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)および鉄(Fe)を挙げることができる。リチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、LixM1O2およびLiyM2O4のそれぞれで表される化合物などである。リチウム遷移金属リン酸化合物は、例えば、LizM3PO4で表される化合物などである。ただし、M1、M2およびM3のそれぞれは、1種類または2種類以上の遷移金属元素である。x、yおよびzのそれぞれの値は、任意である。具体的には、リチウム遷移金属複合酸化物としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiVO2、LiCrO2、LiMn2O4、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、およびLiNi0.5Mn1.5O4等を挙げることができる。また、リチウム遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO4、LiCoPO4およびLiMnPO4等を挙げることができる。正極集電体には、アルミニウム箔やステンレス箔やニッケル箔等を用いることができる。
【0048】
セパレータは、正極と負極との短絡防止と、電解液保持のために用いられる、多孔性または微多孔性の絶縁性部材である。セパレータとしては、ポリオレフィン系の多孔性樹脂膜や、ガラスファイバーの不織布を用いることができる。
【0049】
電解液には、非水電解液を用いる。非水電解液の溶媒としては、少なくともカーボネートを含むものが好ましい。カーボネートとしては、環状カーボネート類および/または鎖状カーボネート類であってもよい。特に制限されるわけではないが、環状カーボネート類としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)およびビニレンカーボネート(VC)から成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。鎖状カーボネート類としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジプロピルカーボネート(DPC)から成る群から選択される少なくも1種を挙げることができる。また、非水電解液として環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組合せを用いてもよく、例えばエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物を用いることができる。また、非水電解液の支持塩としては、非水電解液に用いられる公知のリチウム塩を1種または複数組み合わせて用いることができる。リチウム塩としては、ハロゲン化物、過ハロゲン酸塩、無機フッ化物等を挙げることができるが、無機フッ化物が好ましい。無機フッ化物としては、例えば、LiPF6やLiBF4を挙げることができる。
【0050】
本実施の形態に係るリチウムイオン二次電池によれば、実施の形態1の複合炭素材を負極活物質に用いることで、負極活物質層の密度を向上させることができる。また、実施の形態1の複合炭素材は高容量のグラファイト粒子を含んでいる。これにより、高容量化と高エネルギー密度化が可能なリチウムイオン二次電池を提供することが可能となる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を用いて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施例1
(複合炭素材の作製)
以下の工程で複合炭素材を作製した。
(工程1)
D-グルコース(富士フィルム和光純薬社製、以下、グルコースという)を純水にマグネテックスターラー(C-MAG HS7 digital 、IKA)で撹拌することで溶解させて、濃度1Mのグルコース水溶液100mLを作製した。
【0053】
(工程2)
グラファイト粉(富士フィルム和光純薬社製、平均粒径15μm)をグルコース水溶液に添加し,グラファイト分散液を作製した。超音波洗浄機(AS482、アズワン社製)を用いてグラファイト分散液を超音波分散後,オートクレーブユニット(東洋高圧社製)を用いて、最高温度を200℃、温度保持時間を5時間に設定し、グルコース水溶液に対して撹拌羽を用いて300rpmで撹拌しながら密閉下で水熱反応を行なった。
【0054】
(工程3)
オートクレーブユニットを冷却後、ユニット内のスラリーをディスポカップに移した。その後、スラリーをろ別して、固形分と水溶液を分離した。ここで、純水50mLで6回、ろ液が透明になるまで固形分の洗浄を行い、次いで、エタノール50mL(富士フィルム・和光純薬社製)で6回、ろ液が透明になるまで固形分の洗浄を行った。ろ紙上の固形分を回収し、定温乾燥器(DV400、ヤマト科学社製)を用いて50℃で3時間、大気下で乾燥して、複合炭素材Aを得た。
【0055】
(BET比表面積の測定)
多検体BET比表面積評価装置(MR-6、マイクロトラック・ベル社製)を用いて、複合炭素材のBET比表面積を測定した。BET比表面積の測定はBET1点法、温度300℃で行った。
【0056】
(フェノール性ヒドロキシル基量の測定)
ベーム(Boehm)滴定法を用いて、以下の手順で複合炭素材のフェノール性ヒドロキシル基量の測定を行った。ここで、ベーム滴定法は、炭素材料の表面の酸性官能基の分析方法であり、全酸性官能基量(全酸量ともいい、強酸性官能基であるカルボキシル基と弱酸性官能基であるフェノール性ヒドロキシル基の合計量である)を水酸化ナトリウム添加した条件下での塩酸溶液の消費量から測定し、カルボキシル基量を炭酸水素ナトリウム添加条件下での塩酸の消費量から測定する。そして、全酸量からカルボキシル基量を差し引くことで、フェノール性ヒドロキシル基量を算出することができる。
【0057】
複合炭素材A 0.1gをアイボーイP広口瓶(100mL,アズワン社製)に添加した。次いで、メスシリンダーで秤量された0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を50mL添加した。別の複合炭素材A 0.1gをアイボーイ広口瓶に添加し、これには0.1mol/Lの炭酸水素ナトリウムを50mL添加した。蓋を閉めた後、ホットスターラーREXIM(RSH-6DN,アズワン)を用い室温で48時間撹拌した。撹拌子(直径30mm)の回転数は300rpmとした。このとき,複合炭素材を添加していない水酸化ナトリウムと炭酸水素ナトリウムもそれぞれ50mL秤量し、48時間静置した。
【0058】
その後、漏斗の上に16山に折った円形定量ろ紙(5A、直径110mm、アドバンテック社製)を敷き、ろ過した。シリンジフィルタ(HP045A、孔径0.45μm、アドバンテック社製)をテルモシリンジ(R)ロック基(50mL、SS-50LZ、テルモ社製)に接続し、回収したろ液を添加した。次いで,シリンジを押出すことにより、複合炭素材から分離されたろ液を回収した。
【0059】
ろ液に対して電位差自動測定装置(COM-2500、平沼産業製)を用いて、不活性雰囲気下、塩酸による逆中和滴定を行った。全酸量は水酸化ナトリウム添加した条件下での塩酸の消費量から算出し、カルボキシル基量は炭酸水素ナトリウム添加条件下での塩酸の消費量から算出した。フェノール性ヒドロキシル基量は全酸量からカルボキシル基量を差し引くことで求めた。結果を表1に示す。
【0060】
(透過電子顕微鏡(TEM)観察)
複合炭素材に対して、視野内を識別するため白金、クロムのスパッタを施した後、集束イオンビーム(Focused ion beam、以下、FIBと略す)加工し、FE-TEM/EDX多機能電子顕微鏡(JEM-F200、日本電子/サーモフィッシャー エネルギー分散型X線分析装置、Noran system 7、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いてTEM観察を行った。結果を、
図1に示す。
【0061】
(分散安定性評価)
複合炭素材0.2gをそれぞれビオラモねじバイアル(目盛線付き、15mL、アズワン社製)に添加し、その後,10mLの純水を添加した。超音波洗浄器(VS-100III、アズワン社製)を用いて、28Hz、50Hz、および100Hzで10分間、超音波照射を行なった。その後、一定時間経過後の複合炭素材の分散状態を目視観察した。結果を、
図2A~2Fに示す。
【0062】
実施例2
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aを、アルミナ匣に入れ、200℃で1時間、不活性雰囲気下で熱処理して複合炭素材Bを得た。この、複合炭素材Bを実施例1の場合と同様の測定に供した。
【0063】
実施例3
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aを、アルミナ匣に入れ、400℃で1時間、不活性雰囲気下で熱処理し複合炭素材Cを得た。この複合炭素材Cを、実施例1の場合と同様の測定に供した。
【0064】
比較例1
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aを、アルミナ匣に入れ、600℃で1時間、不活性雰囲気下で熱処理して複合炭素材Dを得た。この、複合炭素材Dを実施例1の場合と同様の測定に供した。
【0065】
比較例2
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aを、アルミナ匣に入れ、800℃で1時間、不活性雰囲気下で熱処理して複合炭素材Eを得た。この複合炭素材Eを実施例1の場合と同様の測定に供した。
【0066】
比較例3
実施例1の複合炭素材Aに代えて、グラファイト粉(富士フィルム和光純薬社製、平均粒径15μm)を実施例1の場合と同様の測定に供した。
【0067】
実施例4
(スラリーの調製)
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aを用い、PVCが60体積%となるように、複合炭素材A 0.95g、純水0.63g、およびカルボキシメチルセルロース(CMC)(ナカライテスク社製)を1重量%含むバインダー水溶液1.58gを軟膏壺に添加した。ここで、PVC(体積%)は、以下の式で算出した。
PVC={(複合炭素材の体積)/(複合炭素材の体積+バインダーの体積)}×100
【0068】
次に、スパチュラで手撹拌後,あわとり練太郎-TH-02(ARE-310、シンキー社製)を用いてさらに撹拌と脱泡を行ってスラリーを得た。撹拌は2000rpmで、1分30秒間行った。脱泡は2200rpmで30秒間行った。
【0069】
(電極塗膜の作製)
作製したスラリーを、自動塗工機(PI-1210、テスター産業社製)を用いて銅箔(30μm、ニラコ社製)に塗工した。エキネンF1(日本アルコール販売社製)で研磨ガラス板を拭浄し、銅箔を密着させた。その後、ベーカーアプリケーター(YBA-4型 0~250μm、Yoshimitsu社製)の前にスパチュラを用いてスラリーを銅箔上に垂らし、送り速度1でストローク運転を行った。ベーカーアプリケーターのギャップは目盛7とした。作製した塗膜シートをデジタルホットスターラー(コーニング社製、PC-420D)を用いて120℃で乾燥させた。
【0070】
次に、乾燥後の塗膜シートをプラスチック基材に沿うように、はさみ(フィットカットカーブ プレミアムチタン、SC-175STN、プラス社製)でカットした。その後、ペットフィルムの離型面で塗膜シートを挟み、プラスチック基材の上に置いた。真空パック後に冷間静水等方圧プレス機(以下,CIPと略す)(神戸製鋼所社製)を用いて、400MPaでプレスした。昇圧までに要する時間は2分、保持時間は1分、抜圧に要する時間は2分とした。
【0071】
次に、超精密打抜きハンドパンチ(φ 12.00mm、野上技研社製)を用いて乾燥後の塗膜シートから打抜いて電極塗膜を得た(以下、特に断らない限り、塗膜シートから所定の大きさに打ち抜かれたものを電極塗膜という)。
【0072】
(塗工性評価)
得られた塗膜の性状を目視観察し、以下の基準で塗工性を評価した。
塗膜の膜厚が均一である :〇
塗工ムラ(擦れや濃淡)が一部にある :△
塗工できない(塗布できない部分がある) :×
【0073】
(電極塗膜の密度の測定)
スタンダード天秤(CPA225D、ザルトリウス社製)を用いて、打抜いた電極塗膜の重量を測定した。次に、その電極塗膜の厚みを厚み測定器(ミツトヨ社製)を用いて測定した。スラリーを塗工していない銅箔を上述した方法で打抜き、その重量と厚みを差し引くことで、塗膜のみの重量と厚みを求めた。この厚みと面積(φ 12.00mmであるため、約1.13cm2)から体積を計算し、重量を体積で除すことで電極塗膜の密度を求めた。
【0074】
(電極塗膜の表面粗さの測定)
形状測定レーザーマイクロスコープ(VK-8710、キーエンス社製)を用いて、電極塗膜の外観観察と表面粗さ(Ra:算術平均粗さ)の測定を行った。対物レンズ倍率は×10(モニタ上倍率×200)である。測定範囲は電極塗膜の中央部とし,存在している範囲すべてを指定した。
【0075】
実施例5
PVCを70体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液1.02g、純水0.92g)とした以外は、実施例4と同様の方法を用いてスラリーを調製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0076】
実施例6
PVCを80体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液0.59g、純水1.13g)とした以外は、実施例4と同様の方法を用いてスラリーを調製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0077】
実施例7
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aに代えて実施例2で作製した複合炭素材Bを用いた以外は実施例4と同様の方法を用いてスラリーを作製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0078】
実施例8
PVCを70体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液1.02g、純水0.92g)とした以外は、実施例7と同様の方法を用いてスラリーを調製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0079】
実施例9
PVCを80体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液0.59g、純水1.13g)とした以外は、実施例7と同様の方法を用いてスラリーを調製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0080】
実施例10
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aに代えて実施例3で作製した複合炭素材Cを用いた以外は実施例4と同様の方法を用いてスラリーを作製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0081】
実施例11
PVCを70体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液1.02g、純水0.92g)とした以外は、実施例10と同様の方法を用いてスラリーを調製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0082】
実施例12
PVCを80体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液0.59g、純水1.13g)とした以外は、実施例10と同様の方法を用いてスラリーを調製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0083】
比較例4
PVCを90体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液0.26g、純水1.29g)とした以外は、実施例4と同様の方法を用いてスラリーを調製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0084】
比較例5
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aに代えて実施例2で作製した複合炭素材Bを用い、PVCを90体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液0.26g、純水1.29g)とした以外は実施例4と同様の方法を用いてスラリーを作製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0085】
比較例6
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aに代えて実施例2で作製した複合炭素材Cを用い、PVCを90体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液0.26g、純水1.29g)とした以外は実施例4と同様の方法を用いてスラリーを作製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0086】
比較例7
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aに代えて比較例1で作製した複合炭素材Dを用いた以外は実施例4と同様の方法を用いてスラリーを作製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0087】
比較例8
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aに代えて比較例1で作製した複合炭素材Dを用い、PVCを70体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液1.02g、純水0.92g)とした以外は実施例4と同様の方法を用いてスラリーを作製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0088】
比較例9
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aに代えて比較例1で作製した複合炭素材Dを用い、PVCを80体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液0.59g、純水1.13g)とした以外は実施例4と同様の方法を用いてスラリーを作製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0089】
比較例10
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aに代えて比較例1で作製した複合炭素材Dを用い、PVCを90体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液0.26g、純水1.29g)とした以外は実施例4と同様の方法を用いてスラリーを作製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0090】
比較例11
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aに代えて比較例2で作製した複合炭素材Eを用いた以外は実施例4と同様の方法を用いてスラリーを作製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0091】
比較例12
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aに代えて比較例2で作製した複合炭素材Eを用い、PVCを70体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液1.02g、純水0.92g)とした以外は実施例4と同様の方法を用いてスラリーを作製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0092】
比較例13
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aに代えて比較例2で作製した複合炭素材Eを用い、PVCを80体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液0.59g、純水1.13g)とした以外は実施例4と同様の方法を用いてスラリーを作製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0093】
比較例14
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aに代えて比較例2で作製した複合炭素材Eを用い、PVCを90体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液0.26g、純水1.29g)とした以外は実施例4と同様の方法を用いてスラリーを作製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0094】
比較例15
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aに代えて比較例3のグラファイトを用いた以外は実施例4と同様の方法を用いてスラリーを作製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0095】
比較例16
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aに代えて比較例3のグラファイトを用い、PVCを70体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液1.02g、純水0.92g)とした以外は実施例4と同様の方法を用いてスラリーを作製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0096】
比較例17
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aに代えて比較例3のグラファイトを用い、PVCを80体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液0.59g、純水1.13g)とした以外は実施例4と同様の方法を用いてスラリーを作製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。
【0097】
比較例18
実施例1の方法で作製した複合炭素材Aに代えて比較例3のグラファイトを用い、PVCを90体積%(複合炭素材0.95g、CMC水溶液0.26g、純水1.29g)とした以外は実施例4と同様の方法を用いてスラリーを作製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様の方法を用いて電極塗膜を作製した。なお、打抜き時に欠損部が生じたため、電極塗膜密度は測定できなかった。
【0098】
実施例13
(二次電池の作製)
実施例4で作製した電極塗膜を評価電極とし、集電体上にリチウムを貼布したものを対極とした、負極特性評価用の二次電池(ハーフセル)を、以下の手順で作製した。
【0099】
実施例4で作製した電極塗膜を電解液に含浸し、電極塗膜の空隙に電解液を染み込ませた。電解液としては,モル濃度が1MのLiPF6を含有した、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶液を使用した。なお、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合比率は体積パーセントでエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3:7とした。
【0100】
次に、電解液を含浸させたガラスファイバーからなる厚さ0.44mmのセパレータを評価基極上に積層し、さらに対極をセパレータ上に積層して、電池体を作製した。
【0101】
次に、対極の集電体上に金属製ばねを載置すると共に、周縁にガスケットを配置した状態で、正極ケースと負極ケースを有するステンレス製の電池容器の中に、電池体を収納した。負極ケースを正極ケースに接合し、かしめ機によって外装封止し、直径20mm、厚さ3.2mmのコイン型の二次電池を作製した。
【0102】
(充放電特性の評価)
作製した二次電池に対して、25℃の恒温槽内で、充電を0.2C、1C、2C、5C、10C(1Cは1時間で充電または放電が終了するまでの電流量)で行った。放電は0.2Cで行い、充電レート特性(電流密度と充電容量との関係)を求めた。加えて、充電を0.2Cで行った後、放電を0.2C、1C、5C、10Cとして放電させ、放電レート特性(電流密度と放電容量との関係)を求めた。
【0103】
実施例14
実施例6で作製した電極塗膜を評価電極として用いた以外は、実施例13と同様の方法で二次電池を作製し、その評価を行った。
【0104】
実施例15
実施例12で作製した電極塗膜を評価電極として用いた以外は、実施例13と同様の方法で二次電池を作製し、その評価を行った。
【0105】
比較例19
比較例15で作製した電極塗膜を評価電極として用いた以外は、実施例13と同様の方法で二次電池を作製し、その評価を行った。
【0106】
(結果)
図1は、実施例1で作製した複合炭素材Aの構造の一例を示す、断面TEM写真である。グラファイトからなるコアの表面のシェル層が形成されていることが確認できる。このシェル層はカーボンスフィアにより構成されている。
【0107】
次に、表1に、複合炭素材のBET比表面積とフェノール性ヒドロキシル基量を示す。BET比表面積は、熱処理温度が400℃までは、熱処理温度が高くなると増加する傾向を示した。また、フェノール性ヒドロキシル基量は熱処理温度が高くなると減少する傾向を示し、熱処理温度が600℃以上の比較例1と比較例2では検出できなかった。また、比較例3のグラファイトもフェノール性ヒドロキシル基量は検出できなかった。
【0108】
【0109】
図2A~
図2Fは、複合炭素材の水分散液の状態を示す写真であり、
図2Aは、超音波処理直後、
図2B、
図2C、
図2D、
図2E、
図2Fは、それぞれ、超音波処理後、1分、2分、5分、10分、20分経過後の状態を示している。実施例1~3および比較例1~3の炭素材は、いずれも水には濡れる。しかし、比較例3のグラファイトは、1分経過後に沈降した。比較例2の複合炭素材も1分経過後にわずかに沈降した。また、比較例1の複合炭素材も5分経過後にわずかに沈降した。これに対し、実施例1~3の複合炭素材は、20分経過後でも、比較例1~5に比し、高い分散状態を維持していた。
【0110】
図3Aと
図3Bは、それぞれ、実施例6のスラリーと比較例17のスラリーの状態を示す写真である。80体積%という値は、一般的にはPVCとしては非常に高い値であり液状化することは困難であるが、実施例6の場合、PVCを80体積%としても極めて塗工性に優れたスラリーを作製することができた。これに対し、比較例17では複合炭素材に代えてグラファイトを用いており、写真から明らかなように凝集物が生成しており、塗工は困難であった。この凝集物はスパチュラによる手撹拌で解砕できるものの、それを継続しない限り、すぐさま相分離が生じた。
【0111】
次に、塗膜シートの写真を、
図4A~
図4Cに示す。実施例4~12では塗膜の上から下まで極めて均一にスラリーが塗工されており、優れた塗工性を有していた。一方、比較例4~6、比較例10、14~18では、特に擦れが顕著であり、スラリーが銅箔上に塗られておらず、銅箔が露出している部分が多く見られ、塗工性は不良であった。
【0112】
次に、表2に、電極塗膜の表面粗さと電極塗膜密度を示す。実施例4~12では、表面粗さは、8~10μmの範囲であり、比較例4~18に比し低い値であり、非常に平滑な塗膜が得られた。一方、電極塗膜密度については、実施例4~12では向上しており、複合炭素材の粒子が密に充填されていることがわかる。なお、比較例18は電極塗膜端部の割れや欠けが顕著であり、塗膜の欠損なくφ12.00mmに打ち抜くことが困難であり、電極塗膜密度は測定できなかった。以上のことから、本発明の電極作製用スラリーは塗工性に優れており、かつ高密度の電極塗膜を作製できることがわかった。
【0113】
【0114】
次に、実施例13~15と比較例19に関し、
図5に充電レート特性を示し、
図6に放電レート特性を示す。実施例13~15では、比較例19に比し、高い充電容量と高い放電容量が得られた。例えば、電流密度0.06A/gで、実施例13の充電容量として227mAh/cm
3が得られ、これは同じ電流密度での比較例19の充電容量16mAh/cm
3の約14倍という高い値である。このように、本発明の複合炭素材を負極活物質として用いることで、グラファイト単独の場合に比べて、高い充電容量と高い放電容量が得られることがわかった。なお、
図5、6中、実施例13(1)および実施例13(2)の記載は、実施例13で作製した2個の二次電池のそれぞれについて、充電レート特性と放電レート特性を測定したことを示す。実施例14、15および比較例19についても同様である。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の複合炭素材を負極活物質として用いることで、リチウムイオン二次電池の高容量化と高エネルギー密度化が可能なリチウムイオン二次電池を提供することができる。